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特表2023-550901亜鉛触媒存在下におけるシランによる還元
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  • 特表-亜鉛触媒存在下におけるシランによる還元 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】亜鉛触媒存在下におけるシランによる還元
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/09 20060101AFI20231129BHJP
   C07C 33/22 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 35/06 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 35/21 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 35/23 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 35/18 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 33/12 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 33/14 20060101ALI20231129BHJP
   C07C 33/03 20060101ALI20231129BHJP
   C07F 3/06 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
C07C29/09 CSP
C07C33/22
C07C35/06
C07C35/21
C07C35/23
C07C35/18
C07C33/12
C07C33/14
C07C33/03
C07F3/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526927
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2021082257
(87)【国際公開番号】W WO2022112118
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】20020568.0
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009287
【氏名又は名称】フイルメニツヒ ソシエテ アノニム
【氏名又は名称原語表記】Firmenich SA
【住所又は居所原語表記】7,Rue de la Bergere,1242 Satigny,Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ジェルファニョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル パストーリ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H048AA01
4H048AB40
(57)【要約】
本発明は、有機合成の分野に関する。より具体的には、シランと亜鉛錯体の形態の少なくとも1種の触媒またはプレ触媒との存在下で、1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、対応する5つのアルコールジオールまたは多価アルコールへと選択的に還元するための方法に関する。式(I)または(II)の亜鉛錯体も本発明の一部である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、対応するアルコール、ジオール、または多価アルコールへと還元するための方法であって、
a)前記1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、シランおよび式
ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、Xはアニオンであり、Lはアミノアルコールまたはチオアルコールであり、全ての配位子Xは同じであるかまたは異なり、全ての配位子Lは同じであるかまたは異なり、L’は、式
【化1】
のものであり、ここで、mは0~1000の整数を表し、nは0~1000の整数を表し、Gは、1個もしくは2個の酸素原子および/または1個もしくは2個の窒素原子を含んでいてもよいC1~6炭化水素基を表し、Zは窒素原子または硫黄原子を表し、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはC1~3アルキル基であり、Zが硫黄原子のときoは0であり、また、Zが窒素原子のときoは1である]
の亜鉛錯体の形態の少なくとも1種の触媒またはプレ触媒と反応させること、ならびに
b)得られたシロキサンを塩基性試薬で加水分解して、アルコール、ジオール、または多価アルコールを形成すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記シランがポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記式(II)の亜鉛錯体が、PMHSと式(I)の亜鉛錯体との間の反応によってin situで形成される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
Xが、1~20個の炭素原子を有するカルボキシレート、β-ジケトネート、エノラート、アミド、シリルアミド、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアリール、アラルコキシ、アラルコイル、およびアルキルアリール、ならびにハライド、カーボネート、およびシアニドからなる群から選択されるアニオンである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
Xが、アセテート、プロピオネート、ブチレート、イソブチレート、バレレート、イソバレレート、ジエチルアセテート、ベンゾエート、2-エチルヘキサノエート、ナフテネート、およびステアレートからなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記配位子Lが、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノメタノール、ジエチルアミノメタノール、2-アミノブタノール、エフェドリン、プロリノール、バリノール、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1,3-ビス(ジメチルアミノ)-2-プロパノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、1-ジメチルアミノ-2-プロパノール、シンコニジン、キニーネ、およびキニジンからなる群から選択される、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記基質が、式(I)
【化2】
[式中、pは0または1であり、Rは、置換されていてもよい直鎖、分岐、または環状のC~C30の芳香族基、アルキル基、またはアルケニル基を表し、Rは、水素原子、または置換されていてもよい直鎖、分岐、もしくは環状のC~C30の芳香族基、アルキル基、またはアルケニル基を表すか、あるいは、
とRとは一緒に結合して、置換されていてもよいC~C20の飽和または不飽和の基を形成しており、
およびRの置換基は、1個、2個、または3個のハロゲン、OR、NR 、またはR基であり、Rは、水素原子、ハロゲン化C~C基、またはC~C10の環状、直鎖、もしくは分岐のアルキル基もしくはアルケニル基である]
の化合物である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記基質が、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、trans-ヘクス-2-エン-1-アール、ヘプタナール、オクタナール、デカナール、ドデカナール、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、プレナール、シトラール、レチナール、カンホレンアルデヒド、シンナムアルデヒド、ヘキシルシンナムアルデヒド、ホルミルピナン、ノパール、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、バニリン、サリチルアルデヒド、ヘキサン-2-オン、オクタン-2-オン、ノナン-4-オン、ドデカン-2-オン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、アセトフェノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロドデカノン、シクロヘクス-1-エン-3-オン、イソホロン、オキソホロン、カルボン、カンファー、β-イオノン、ゲラニルアセトン、3-メチル-シクロペンタ-1,5-ジオン、3,3-ジメチル-5-(2,2,3-トリメチル-シクロペント-3-エン-1-イル)-ペント-4-エン-2-オン、および2-ペンチルシクロペンテン-2-オンからなる群から選択される、直鎖または分岐の、脂肪族または環状の、飽和または不飽和のケトンまたはアルデヒドである、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記基質が、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、安息香酸、アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、cis-3-ヘキサン酸、ソルビン酸、サリチル酸、10-ウンデシレン酸、オレイン酸、およびリノール酸のアルキルまたはアリールエーテル、天然または合成起源の脂肪酸エステル、カプロラクトン、ブチロラクトン、ドデカラクトン、ジケテン、およびスクラレオリドからなる群から選択されるエステルまたはラクトンである、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記カルボニル基質が、4-メチル-6-(2,6,6-トリメチルシクロヘクス-1-エン-1-イル)ヘクス-3-エン酸、安息香酸、ブタン酸、ペンタン酸、およびC1~30のアルキル酸もしくはアリール酸からなる群から選択されるカルボン酸である、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記基質が動物性脂肪または植物性脂肪である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記基質が、式
【化3】
[式中、R、RおよびRは、同じであるかまたは異なる、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の、1~20個の炭素原子を含むことができる炭化水素基である]
の脂肪酸のトリグリセリドである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記油が、トリオレイン、ピーナッツ油、ヒマワリ油、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、グレープシード油、亜麻仁油、カカオバター、綿油、ヤシ油、ココナッツ油、パーム油、ホホバ油、パーム核油、マッコウクジラ油、および豚肉、牛肉、羊肉、または鶏肉の脂肪からなる群から選択される、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
前記加水分解のために使用される前記塩基性試薬が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、石灰、または炭酸ナトリウムである、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】

ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、Xはアニオンであり、Lはアミノアルコールまたはチオアルコールであり、全ての配位子Xは同じであるかまたは異なり、全ての配位子Lは同じであるかまたは異なり、L’は、式
【化4】
のものであり、式中、mは0~1000の整数を表し、nは0~1000の整数を表し、Gは、1個もしくは2個の酸素原子および/または1個もしくは2個の窒素原子を含んでいてもよいC1~6炭化水素基を表し、Zは窒素原子または硫黄原子を表し、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはC1~3アルキル基であり、Zが硫黄原子のときoは0であり、また、Zが窒素原子のときoは1である]
の亜鉛錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機合成の分野に関する。より具体的には、シランと亜鉛錯体の形態の少なくとも1種の触媒またはプレ触媒との存在下で、1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、対応するアルコールジオールまたは多価アルコールへと選択的に還元するための方法に関する。式(I)または(II)の亜鉛錯体も本発明の一部である。
【0002】
発明の背景
アルデヒド官能基、ケトン官能基、カルボン酸官能基、またはエステル官能基などのカルボニル官能基を、対応するアルコールに選択的に還元することは、有機化学における基本的な反応の1つであり、多くの化学プロセスで使用されている。一般に、このような変換を達成するために、主に2つのタイプのプロセスが知られている。このようなタイプのプロセスは、
a)シリルまたは金属水素化物塩(LiAlHなど)が使用されるヒドリドプロセス
b)分子状水素が使用される水素化プロセス
である。
【0003】
ヒドリドプロセスは、最も反応性の高いアルデヒドから反応性の低いカルボン酸まで還元できる最も汎用性の高いプロセスであるものの、選択性も低い。加えて、金属水素化物塩は、安全性の問題のため大スケール製造での実施がより困難であり、費用のかかる解決手段である。
【0004】
そのため、金属水素化物塩を用いずに、二重結合などの過剰な官能基の還元を抑制、回避さえしながらも、あらゆるタイプのカルボニル官能基を選択的に還元するプロセスを開発することが求められている。
【0005】
本発明は、シランと、式(I)または(II)の亜鉛錯体の形態の少なくとも1種の触媒またはプレ触媒とを使用することによって、上記問題に対する解決手段を提供する。シランと、Lが1または2である亜鉛錯体とを用いた対応するアルコールへのカルボニル化合物の選択的還元は、国際公開第99/50211号で報告されている。しかしながら、例示されている条件は酸を還元することはできない。
【0006】
発明の概要
驚くべきことに、今回、本発明の方法によって、二重結合の存在に対応しながらも、広範囲の基質を還元することができることが発見された。
【0007】
したがって、本発明の第1の目的は、
a)1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、シランおよび式
ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、Xはアニオンであり、Lはアミノアルコールまたはチオアルコールであり、全ての配位子Xは同じであるかまたは異なり、全ての配位子Lは同じであるかまたは異なり、L’は、式
【化1】
のものであり、式中、mは0~1000の整数を表し、nは0~1000の整数を表し、Gは、1個もしくは2個の酸素原子および/または1個もしくは2個の窒素原子を含んでいてもよいC1~6炭化水素基を表し、Zは窒素原子または硫黄原子を表し、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはC1~3アルキル基であり、Zが硫黄原子のときoは0であり、または、Zが窒素原子のときoは1である]
の亜鉛錯体の形態の少なくとも1種の触媒またはプレ触媒と反応させること、ならびに
b)得られたシロキサンを塩基性試薬で加水分解して、アルコール、ジオール、または多価アルコールを形成すること
を含む、1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質の、対応するアルコール、ジオール、または多価アルコールへの還元である。
【0008】
本発明の第2の目的は、式
ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、Xはアニオンであり、Lはアミノアルコールまたはチオアルコールであり、全ての配位子Xは同じであるかまたは異なり、全ての配位子Lは同じであるかまたは異なり、L’は、式
【化2】
のものであり、式中、mは0~1000の整数を表し、nは0~1000の整数を表し、Gは、1個もしくは2個の酸素原子および/または1個もしくは2個の窒素原子を含んでいてもよいC1~6炭化水素基を表し、Zは窒素原子または硫黄原子を表し、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはC1~3アルキル基であり、Zが硫黄原子のときoは0であり、または、Zが窒素原子のときoは1である]
の亜鉛錯体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】異なる触媒を使用した、時間の関数としての3a,6,6,9a-テトラメチルデカヒドロナフト[2,1-b]フラン-2(1H)-オンの1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5,5,8a-テトラメチルデカヒドロナフタレン-2-オールへの変換率(%)である。
【0010】
発明の説明
本発明は、反応性の低い酸または立体障害を有するケトンを還元するためにも有効な、シランと亜鉛触媒とを使用する新規な還元プロセスに関する。その一方で、本発明の方法は非常に選択的であり、基質に存在するC=CやC=Nなどのカルボニル官能基またはカルボキシル官能基以外の二重結合を還元しない。
【0011】
したがって、本発明の第1の目的は、1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、対応するアルコール、ジオール、または多価アルコールへと還元するための方法であって、
a)1つ以上のカルボニル官能基またはカルボキシル官能基を含むC~C70基質を、シランおよび式
ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、Xはアニオンであり、Lはアミノアルコールまたはチオアルコールであり、全ての配位子Xは同じであるかまたは異なり、全ての配位子Lは同じであるかまたは異なり、L’は、式
【化3】
のものであり、式中、mは0~1000の整数を表し、nは0~1000の整数を表し、Gは、1個もしくは2個の酸素原子および/または1個もしくは2個の窒素原子を含んでいてもよいC1~6炭化水素基を表し、Zは窒素原子または硫黄原子を表し、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはC1~3アルキル基であり、Zが硫黄原子のときoは0であり、または、Zが窒素原子のときoは1である]
の亜鉛錯体の形態の少なくとも1種の触媒またはプレ触媒と反応させること、ならびに
b)得られたシロキサンを塩基性試薬で加水分解して、アルコール、ジオール、または多価アルコールを形成すること
を含む、方法である。
【0012】
「…炭化水素基…」は、前記基が水素原子と炭素原子とからなり、脂肪族炭化水素、すなわち直鎖もしくは分岐の飽和炭化水素(例えばアルキル基)、直鎖もしくは分岐の不飽和炭化水素(例えばアルケニルまたはアルキニル基)、飽和環状炭化水素(例えばシクロアルキル)、または不飽和環状炭化水素(例えばシクロアルケニルまたはシクロアルキニル)の形態であることができ、あるいは芳香族炭化水素、すなわちアリール基の形態であることができ、あるいは1つのタイプのみへの具体的な限定が言及されていない限り、前記タイプの基の混合形態であることもでき、例えば特定の基は、直鎖アルキル、分岐アルケニル(例えば1つ以上の炭素-炭素二重結合を有する)、(ポリ)シクロアルキル、およびアリール部位を含み得ることが意図されていると理解される。同様に、本発明の全ての実施形態において、基が2つ以上のタイプのトポロジー(例えば直鎖、環状、または分岐)の形態であるおよび/または飽和もしくは不飽和(例えばアルキル、芳香族、またはアルケニル)であると言及されている場合、それは、上で説明した前記トポロジーまたは飽和もしくは不飽和のいずれかを有する部位を含み得る基も意味する。同様に、本発明の全ての実施形態において、基が飽和または不飽和の1つのタイプ(例えばアルキル)の形態であると言及されている場合、前記基が任意のタイプのトポロジー(例えば直鎖、環状、または分岐)であってよく、あるいは様々なトポロジーを持つ複数の部位を有してよいことが意図されている。
【0013】
「…を含んでいてもよい炭化水素基」という用語は、前記炭化水素基が、アルコール、ケトン、アルデヒド、エーテル、エステル、カルボン酸、アミン、アミド、カルバメート、またはニトリルを含んでいてもよいことを意味すると理解される。これらの基は、炭化水素基の水素原子を置換して前記炭化水素に横方向に結合することができ、あるいは炭化水素基の炭素原子を置換して(化学的に可能な場合)炭化水素鎖に挿入されることができる。例えば、-CH-CH-CHOH-CH-基は、アルコール基を含むC炭化水素基を表し(水素原子の置換)、同様に、-CH-CH-O-CH-CH-O-CH-CH-基は、2つのエーテル基を含むC炭化水素基を表す(炭素原子の置換/炭化水素鎖への挿入)。
【0014】
本発明の任意の実施形態によれば、水素化ホウ素または水素化アルミニウム、アルキルリチウムまたはアルキルアルミニウム、およびグリニャール化合物の群から選択される還元剤の使用は除外される。
【0015】
本発明の任意の実施形態によれば、シランは、アリールシラン、ジアリールシラン、トリアルキルシラン、ジアルキルシラン、またはトリアルコキシシランからなる群から選択され得る。シランの非限定的な例としては、フェニルシラン、ジフェニルシラン、ジメチルシラン、ジエチルシラン、トリメトキシシラン、およびトリエトキシシランを挙げることができる。特に、シランは、ポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)、フェニルシラン、またはジフェニルシランであってよい。さらにより具体的には、シランはポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)であってよい。
【0016】
本発明の任意の実施形態によれば、基質は、式(I)
【化4】
[式中、pは0または1であり、Rは、置換されていてもよい直鎖、分岐、または環状のC~C30の芳香族基、アルキル基、またはアルケニル基を表し、Rは、水素原子、または置換されていてもよい直鎖、分岐、もしくは環状のC~C30の芳香族基、アルキル基、またはアルケニル基を表すか、あるいは、
とRとは一緒に結合して、置換されていてもよいC~C20の飽和または不飽和の基を形成しており、
およびRの置換基は、1個、2個、または3個のハロゲン、OR、NR 、またはR基であり、Rは、水素原子、ハロゲン化C~C基、またはC~C10の環状、直鎖、もしくは分岐のアルキル基もしくはアルケニル基である]
の化合物であってよい。
【0017】
pが1である場合、基質(IV)の還元によって得られる対応するアルコール(すなわち(V-a)および(V-b))または対応するジオール(V’)は、式
【化5】
[式中、RおよびRは式(IV)の通りに定義される]
のものである。
【0018】
式(V)の化合物(すなわちV-aまたはV-b)は、RとRが一緒に結合していない場合に得られる一方で、式(V’)の化合物は、RとRが一緒に結合している場合に得られる。
【0019】
pが0である場合、基質(IV)の還元によって得られる対応するアルコールは、式
【化6】
[式中、RおよびRは式(I)の通りに定義される]
のものである。
【0020】
「直鎖、分岐、または環状のC~C30の芳香族基、アルキル基、またはアルケニル基」は、前記RまたはRが、例えば直鎖アルキル基の形態であることができ、あるいは1つのタイプのみへの具体的な限定が言及されていない限り、前記タイプの基の混合形態であることもでき、例えば特定のRは、直鎖アルキル、分岐アルケニル、(ポリ)環状アルキル、およびアリール部位を含み得ることが意図されていると理解される。同様に、本発明の以下の全ての実施形態において、基が2つ以上のタイプのトポロジー(例えば直鎖、環状、または分岐)の形態であるおよび/または不飽和(例えばアルキル、芳香族、またはアルケニル)の形態であると言及されている場合、それは、上で説明した前記トポロジーまたは不飽和のいずれかを有する部位を含み得る基も意味する。
【0021】
本発明のさらなる実施形態によれば、基質は、最終製品としてまたは中間体として医薬、農薬、または香料産業において有用なアルコールまたはジオールを提供することになるケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、またはラクトンである。特に好ましい基質は、最終製品としてまたは中間体として香料産業において有用なアルコールまたはジオールを提供することになるケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル、またはラクトンである。さらにより具体的に好ましい基質は、最終製品としてまたは中間体として香料産業において有用なアルコールまたはジオールを提供することになるカルボン酸、エステル、またはラクトンである。
【0022】
本発明の方法の具体的な実施形態をスキーム1に示す:
【化7】
【0023】
本発明の上記実施形態のいずれかによれば、pは0または1である。好ましくはpは1である。
【0024】
本発明の上記実施形態のいずれか1つによれば、基質は式(IV)のC~C30化合物であり、特に、式中のRおよびRが、同時にまたは独立して、置換されていてもよい直鎖C~C30アルキル基、置換されていてもよい分岐もしくは環状のC~C30アルキル基もしくはアルケニル基、または置換されていてもよいC~C30芳香族基を表しているもの、あるいはRとRが一緒に結合して、置換されていてもよいC~C20の飽和または不飽和の、直鎖または分岐の、単環式、二環式、または三環式の基を形成しているものを挙げることができる。
【0025】
本発明のさらなる実施形態によれば、基質は、式中のRおよびRが、同時にまたは独立して、置換されていてもよい直鎖、分岐、もしくは環状のC~C18芳香族基もしくはアルキル基、または置換されていてもよい環状C~C18アルケニル基を表している、あるいはRとRが一緒に結合して、置換されていてもよいC~C20の飽和または不飽和の、直鎖または分岐の、単環式、二環式、または三環式の基を形成している、式(IV)のC~C20化合物である。
【0026】
およびRの可能な置換基は、1個、2個、または3個のハロゲン、OR基、NR 基、またはR基であり、Rは、水素原子、ハロゲン化C~C基、またはC~C10の環状、直鎖、もしくは分岐のアルキル基もしくはアルケニル基であり、好ましくはC~Cの直鎖または分岐のアルキル基またはアルケニル基である。他の可能な置換基として、基COORを挙げることもでき、これは、当業者によく知られているように、使用されるシランのモル量に応じて、本発明の方法中に対応するアルコールに還元することもできる。
【0027】
アルデヒドおよびケトンの非限定的な例としては、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、trans-ヘクス-2-エン-1-アール、ヘプタナール、オクタナール、デカナール、ドデカナール、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、プレナール、シトラール、レチナール、カンホレンアルデヒド、シンナムアルデヒド、ヘキシルシンナムアルデヒド、ホルミルピナン、ノパール、ベンズアルデヒド、クミンアルデヒド、バニリン、サリチルアルデヒド、ヘキサン-2-オン、オクタン-2-オン、ノナン-4-オン、ドデカン-2-オン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、アセトフェノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロドデカノン、シクロヘクス-1-エン-3-オン、イソホロン、オキソホロン、カルボン、カンファー、β-イオノン、ゲラニルアセトン、3-メチル-シクロペンタ-1,5-ジオン、3,3-ジメチル-5-(2,2,3-トリメチル-シクロペント-3-エン-1-イル)-ペント-4-エン-2-オン、および2-ペンチルシクロペンテン-2-オンからなる群から選択される、直鎖または分岐の、脂肪族または環状の、飽和または不飽和のケトンまたはアルデヒドを挙げることができる。
【0028】
エステルまたはラクトンの非限定的な例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、安息香酸、アクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、cis-3-ヘキサン酸、ソルビン酸、サリチル酸、10-ウンデシレン酸、オレイン酸、およびリノール酸のアルキルまたはアリールエーテル、天然または合成起源の脂肪酸エステル、カプロラクトン、ブチロラクトン、ドデカラクトン、ジケテン、スクラレオリド、スピロラクトン、アリルエステル、ジアルキルジエステル、(無)置換安息香酸エステル、および不飽和エステル、例えばβ-γ不飽和エステルを挙げることができる。特に、基質は、スクラレオリド、C~C15スピロラクトン、および4-メチル-6-(2,6,6-トリメチル-1-シクロヘキセン-1-イル)-3-ヘキセン酸のC~Cアルキルエステルからなる群から選択することができる。また、1,4-ジカルボキシレート-シクロヘキサンのジアルキルエステル、C10アルカンジイル-ジカルボキシレートのジCアルキルエステル、Cアルキルシクロプロパンカルボキシレート、モノ-、ジ-、もしくはトリ-メトキシ安息香酸エステルも挙げることができる。
【0029】
カルボン酸の非限定的な例としては、4-メチル-6-(2,6,6-トリメチルシクロヘクス-1-エン-1-イル)ヘクス-3-エン酸、安息香酸、ブタン酸、ペンタン酸、C1~30アルキル酸、アリール酸を挙げることができる。
【0030】
本発明のさらなる実施形態によれば、基質は動物性または植物性の脂肪である。基質は、式
【化8】
[式中、R、RおよびRは、同じであるかまたは異なる直鎖または分岐の飽和または不飽和の、1~20個の炭素原子を含むことができる炭化水素基である]
の脂肪酸のトリグリセリドである。前記トリグリセリドは植物性油であってよい。植物性油の非限定的な例としては、トリオレイン、ピーナッツ油、ヒマワリ油、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、グレープシード油、亜麻仁油、カカオバター、綿油、ヤシ油、ココナッツ油、パーム油、ホホバ油、およびパーム核油からなる群から選択される油を挙げることができる。動物性脂肪の非限定的な例は、マッコウクジラ、豚肉、牛肉、羊肉、および鶏肉の脂肪からなる群から選択することができる。
【0031】
本発明の任意の実施形態によれば、Xは、1~20個の炭素原子を有するカルボキシレート、β-ジケトネート、エノラート、アミド、シリルアミド、アルキル、シクロアルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、アルコキシアルキル、アルコキシアリール、アラルコキシ、アラルコイル、およびアルキルアリール基、ならびにハライド、カーボネート、およびシアニドからなる群から選択されるアニオンであってよい。特に、Xは、アセテート、プロピオネート、ブチレート、イソブチレート、バレレート、イソバレレート、ジエチルアセテート(すなわち2-エチルブタノエート)、ベンゾエート、2-エチルヘキサノエート、ナフテネート、ステアレート、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド、tert-ブトキシド、tert-ペントキシド、8-ヒドロキシキノリネート、置換および無置換のアセチルアセトネート、トロポロネート、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびアリール基からなる群から選択され得る。
【0032】
本発明の特定の実施形態によれば、Xは、1~20個の炭素原子を有するカルボキシレート基であってよい。特に、Xは、RがC1~18アルキル基またはフェニル基を表し得るRCOO-基であってよい。適切なXは、アセテート、プロピオネート、ブチレート、イソブチレート、バレレート、イソバレレート、ジエチルアセテート(すなわち2-エチルブタノエート)、ベンゾエート、2-エチルヘキサノエート、ナフテネート、およびステアレートからなる群から選択され得る。さらにより具体的には、Xはジエチルアセテートであってよい。
【0033】
本発明の任意の実施形態によれば、Lは、1つ以上の一級、二級、または三級アミン官能基と、1つ以上の一級、二級、または三級アルコール官能基とを含むアミノアルコールであってよく、あるいはLは、1つ以上のチオール官能基と1つ以上の一級、二級、または三級アルコール官能基とを含むチオアルコールであってよい。特に、Lは、1つまたは2つの一級、二級、または三級アミン官能基と、1つ、2つ、または3つの一級または二級アルコール官能基とを含むアミノアルコールであってよく、あるいはLは、1つのチオール官能基と1つの一級アルコール官能基とを含むチオアルコールであってよい。非限定的な例である適切なアミノアルコールまたはチオアルコールは、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノメタノール、ジエチルアミノメタノール、2-アミノブタノール、エフェドリン、プロリノール、バリノール、2-(ジイソプロピルアミノ)エタノール、2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1,3-ビス(ジメチルアミノ)-2-プロパノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、1-ジメチルアミノ-2-プロパノール、2-(メチルチオ)エタノール、シンコニジン、キニーネ、およびキニジンからなる群から選択され得る。特に、Lは、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノールであってよい。特に、Lは、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールであってよい。さらにより具体的には、Lはジメチルアミノエタノールであってよい。
【0034】
本発明の任意の実施形態によれば、Gは、任意選択的に1つの酸素原子を含むC1~6炭化水素基を表す。特に、Gは、C1~6アルカンジイル基または(CH-Y-(CHq’基を表すことができ、qおよびq’は、互いに独立して1~4に含まれる整数であり、Yは、酸素原子であるか、またはNH基もしくはNCH基である。特に、Gは、直鎖C1~6アルカンジイル基、(CH-O-(CH基、または(CH-N(CH)-(CH基を表すことができる。特に、GはC1~3アルカンジイル基を表し得る。さらにより具体的には、Gはエタンジイル基またはプロパンジイル基であってよい。
【0035】
本発明の任意の実施形態によれば、Zは窒素原子であってよい。
【0036】
本発明の任意の実施形態によれば、oは1であってよい。
【0037】
本発明の任意の実施形態によれば、L’は式
【化9】
[式中、m、n、G、R、およびRは、上で定義したものと同じ意味を有する]
のものであってよい。
【0038】
本発明の任意の実施形態によれば、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはC1~3アルキル基であってよい。特に、RおよびRは、互いに独立して、水素原子またはメチル基またはエチル基であってよい。さらにより具体的には、RおよびRはメチル基であってよい。
【0039】
本発明の任意の実施形態によれば、mは0~500に含まれる整数であってよい。
【0040】
本発明の任意の実施形態によれば、nは0~500に含まれる整数であってよい。
【0041】
本発明の任意の実施形態によれば、式(II)の亜鉛錯体は、PMHSと式(I)の亜鉛錯体との間の反応によってin situで形成される。
【0042】
通常、式(I)および(II)の錯体は、J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 6158 - 6166などの文献に記載の一般的な方法に従うプロセスにおいて使用する前に調製および単離することができる。方法は実施例に記載されている。式(I)の錯体は、酸化亜鉛、ZnCl、Zn(OH)、Zn(SO、またはZnCOを、少なくとも2当量のカルボン酸および少なくとも3当量のアミノアルコールまたはチオアルコールと反応させることによって調製することができる。
【0043】
さらに、錯体は、使用の直前に、複数の方法によって、単離または精製を行わずに反応媒体中でin situで調製することができる。
【0044】
本発明の特定の実施形態によれば、亜鉛錯体は式(II)のものである。
【0045】
プロセスの必須パラメータである式(I)または(II)の亜鉛錯体は、広範囲の濃度で反応媒体に添加することができる。非限定的な例として、基質の量に対して0.1mol%から50mol%さらにはそれ以上の範囲を錯体濃度値として挙げることができる。好ましくは、錯体濃度は0.2mol%~30mol%に含まれる。好ましくは、錯体濃度は0.5mol%~20mol%に含まれる。好ましくは、錯体濃度は1mol%~10mol%に含まれる。さらにより好ましくは、錯体濃度は1.5mol%~5mol%に含まれる。言うまでもないことであるが、錯体の最適な濃度は、当業者が認識しているように、錯体の性質、基質の性質、プロセス中の温度、および望まれる反応時間に依存するであろう。
【0046】
シランは、広範囲の濃度で反応媒体に添加することができる。非限定的な例として、基質の量に対して1~10当量の範囲をシラン濃度値として挙げることができる。好ましくは、シランは1.1~5当量で含まれる。言うまでもないことであるが、シランの最適な濃度は、当業者が認識しているように、シランの性質、亜鉛錯体の性質、基質の性質、プロセス中の温度、および望まれる反応時間に依存するであろう。
【0047】
本発明の任意の実施形態によれば、加水分解に使用される塩基性試薬は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、石灰、または炭酸ナトリウムである。
【0048】
塩基性試薬は、広範囲の濃度で反応媒体に添加することができる。非限定的な例として、基質の量に対して1~10当量の範囲を塩基性試薬濃度値として挙げることができる。好ましくは、塩基性試薬の濃度は2~7当量に含まれる。さらにより好ましくは、塩基性試薬の濃度は2~4当量に含まれる。言うまでもないことであるが、塩基性試薬の最適な濃度は、当業者が認識しているように、亜鉛錯体の性質、基質の性質、プロセス中の温度、および望まれる反応時間に依存するであろう。
【0049】
還元反応は、溶媒の存在下または非存在下で行うことができる。実用上の理由で溶媒が必要とされるかまたは使用される場合、還元反応における任意の溶媒流を本発明の目的のために使用することができる。非限定的な例としては、ニトリル系溶媒、例えばアセトニトリル、芳香族系溶媒、例えばベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、メシチレン、またはキシレン、炭化水素系溶媒、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、またはシクロヘキサン、エーテル、例えばテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、MTBE、1,4-ジオキサン、またはジイソプロピルエーテル、硫黄系溶媒、例えばジメチルスルホキシド、窒素原子含有溶媒、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、シクロヘキシルアミン、ピリジン、またはそれらの混合物が挙げられる。溶媒の選択は錯体の性質の関数であり、当業者は、還元反応を最適化するために、それぞれの場合に最も都合のよい溶媒を選択することが十分に可能である。
【0050】
還元を行うことができる温度は、0℃~210℃、より好ましくは50℃~110℃の範囲に含まれる。当然、当業者は、出発物質および最終生成物の融点および沸点、ならびに反応または変換の望まれる時間の関数として、好ましい温度を選択することもできる。
【0051】
本発明の方法は、還元反応の影響を受けない、すなわちその官能基で異性化または還元が観察されない例えばオレフィン、アセチレン、ニトリル、またはニトロ基などのカルボニル基以外の不飽和官能基を含み得る様々な基質に適用可能である。
【0052】
本発明の触媒またはプレ触媒も新規である。したがって、本発明の最後の目的は、上で定義した一般式(I)または(II)の亜鉛錯体である。
【0053】
本発明の別の目的は、
a)上で定義したシラン、好ましくはPMHS、および
b)式
ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、X、L、およびL’は、上で定義したものと同じ意味を有する]
の亜鉛錯体
を含む還元系である。
【0054】
本発明のさらなる目的は、加水分解によるアルコールの回収の前に、シランによるカルボニル基質またはカルボキシル基質のポリシリルエーテルへの触媒的還元によって生成される反応生成物であって、
a)式
ZnX (I) または ZnXL’ (II)
[式中、X、L、およびL’は、上で定義したものと同じ意味を有する]
の亜鉛錯体と、
b)カルボニル基質またはカルボキシル基質とシランとの反応生成物と
からなる反応生成物である。
【実施例
【0055】
以降で、以下の実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。その中で、略語は当該技術分野における通常の意味を有し、温度は摂氏度(℃)で示される。NMRスペクトルは、500MHz(H)および125MHz(13C)で動作するBruker Avance III 500を使用して取得した。スペクトルは、テトラメチルシランの0.0ppmを内部標準とした。H NMRのシグナルシフトはδppmで表され、結合定数(J)は、Hzで表され、次の多重度:s、シングレット;d、ダブレット;t、トリプレット;q、カルテット;m、マルチプレット;b、ブロード(未分解のカップリングを示す)を有し、これらはBruker Topspinソフトウェアを使用して解釈した。13C NMRデータは、化学シフトδppmで表される。IRスペクトルは、Perkin Elmer UATR Spectrum Two IR分光計を使用して測定した。GCクロマトグラムは、Agilent J&W DB1カラム(10m×0.1mm×0.1μm)を備えたAgilent6580クロマトグラフを使用して取得した。
【0056】
[実施例1]
(式(II)の本発明の触媒の調製)
トルエン71mL中の酸化亜鉛6.1gの懸濁液に、ジエチル酢酸17.2gを添加した。反応混合物を還流し、水を共沸蒸留によって除去した。水が形成されなくなったときに、41mLのトルエンを蒸留によって除去し、反応混合物を60℃まで冷却し、20.0gのN,N-ジメチルアミノエタノールを1時間かけてゆっくりと添加し、反応混合物を30分間撹拌した。15.3gのPMHSを60℃で3時間かけて添加することで、78.2gの触媒溶液(4.5重量%のZn)を得た。
【0057】
【化10】
【0058】
[実施例2]
(式(II)の触媒を使用するアセトフェノンの還元)
実施例1で調製した亜鉛触媒溶液(4.5重量%のZn)2.42g(1.66mmol、0.02当量)を、トルエン20mL中のアセトフェノン10.0g(83.23mmol、1当量)に添加した。反応混合物を106℃で加熱し、5.95g(91.55mmol、1.1当量)のPMHSを3時間かけてゆっくりと添加した。得られた反応混合物を水酸化カリウム45の水溶液19mLに95℃でゆっくりと添加し、さらに1時間撹拌した。塩基性の水層を除去した後、有機層を水で洗浄した。溶媒を真空下で除去し、粗生成物をフラッシュ蒸留することで、98mol%の収率で9.97gのフェニルエタノールを得た。
【0059】
[実施例3]
(式(II)の触媒を使用する3a,6,6,9a-テトラメチルデカヒドロナフト[2,1-b]フラン-2(1H)-オンの還元)
実施例1で調製した亜鉛触媒溶液(4.5重量%のZn)1.16g(0.80mmol、0.02当量)を、トルエン20mL中の3a,6,6,9a-テトラメチルデカヒドロナフト[2,1-b]フラン-2(1H)-オン10g(40.0mmol、1当量)に添加した。反応混合物を106℃で加熱し、5.45g(83.9mmol、2.1当量)のPMHSを3時間かけてゆっくりと添加した。得られた反応混合物を水酸化カリウム45の水溶液17mLに95℃でゆっくりと添加し、さらに1時間撹拌した。塩基性の水層を除去した後、有機層を水で洗浄した。溶媒を真空下で除去し、粗生成物をフラッシュ蒸留することで、96mol%の収率で9.75gの1-(2-ヒドロキシエチル)-2,5,5,8a-テトラメチルデカヒドロナフタレン-2-オールを得た。
【0060】
[実施例4]
(式(II)の触媒を使用する様々な基質の還元)
a)ケトン/アルデヒドを還元するための基本手順
実施例1で調製した亜鉛触媒溶液(4.5重量%のZn)を、表1に示されている溶媒中で、表1に報告されているケトンまたはアルデヒド1当量に添加した。反応混合物を表1に示されている温度で加熱し、1.1~2当量のPMHSを表1に報告されている通りに3時間かけてゆっくりと添加した。得られた反応混合物を95℃で水酸化カリウム45の水溶液にゆっくりと添加し、さらに1時間撹拌した。塩基性の水層を除去した後、有機層を水で洗浄した。溶媒を真空下で除去し、粗生成物をフラッシュ蒸留することで、表に報告されている目的生成物を得た。
【0061】
b)エステル/ラクトン/酸を還元するための基本手順
実施例1で調製した亜鉛触媒溶液(4.5重量%のZn)を、表1に示されている溶媒中で、表1に報告されているエステル、ラクトン、または酸の1当量に添加した。反応混合物を表1に示されている温度で加熱し、2.1~5当量のPMHSを表1に報告されている通りに3時間かけてゆっくりと添加した。得られた反応混合物を95℃で水酸化カリウム45の水溶液にゆっくりと添加し、さらに1時間撹拌した。塩基性の水層を除去した後、有機層を水で洗浄した。溶媒を真空下で除去し、粗生成物をフラッシュ蒸留することで、表1に報告されている目的生成物を得た。
【0062】
【表1-1】
【表1-2】
【0063】
表1に示されているように、本発明の方法は、アルデヒドから酸への異なる基質の還元を可能にし、非常に選択的でありながらも、すなわち基質に存在する炭素-炭素二重結合の過剰な還元または異性化なしで、高収率で目的のアルコールを提供する。
【0064】
[実施例5]
(比較例 - 式(I)の触媒または比較の触媒を使用する3a,6,6,9a-テトラメチルデカヒドロナフト[2,1-b]フラン-2(1H)-オンの還元)
2.5mol%の式Zn(ジエチルアセテート)(ジメチルアミノエタノール)[式中、xは1である]の亜鉛触媒(比較例-国際公開第99/50211号で報告されている触媒)、2(比較例-国際公開第99/50211号で報告されている触媒)、3(本発明の式(I)の触媒)、または4(比較の触媒)を、トルエン20mL中の3a,6,6,9a-テトラメチルデカヒドロナフト[2,1-b]フラン-2(1H)-オン10g(40.0mmol、1当量)に添加した。反応混合物を108℃で加熱し、5.71g(88mmol、2.1当量)のPMHSを2時間かけてゆっくりと添加した。変換をGCで追跡し、図1に示した。
【0065】
図1に示されているように、本発明の触媒で最も高い変換率が得られた。加えて、本発明の触媒は、1時間後に最も高い変換率で最も活性が高かった。xが4である比較の触媒でも1時間後に同様の活性が観察された。しかしながら、この触媒では2時間後に最大の変換率が得られ、それ以上の増加はなかった。これは触媒の失活を示唆している。言い換えると、本発明の触媒は、非常に活性でありながらも、最も優れた変換率を得ることを可能にする。
【0066】
[実施例6]
(式(II)の触媒と様々なシランとを使用するアセトフェノンの還元)
還元は、表2に示される通りに異なるシラン(1.1当量)を使用して、実施例2で報告した通りに行った。
【0067】
【表2】
【0068】
[実施例7]
(様々な量の式(II)の触媒を使用するアセトフェノンの還元)
還元は、表3に示される通りに亜鉛触媒の量を変化させることによって、実施例2で報告した通りに行った。
【0069】
【表3】
【0070】
[実施例8]
(様々な溶媒中で式(II)の触媒を使用するアセトフェノンの還元)
還元は、表4に示されている異なる溶媒(2重量当量)中で、実施例2で報告した通りに行った。
【0071】
【表4】
【0072】
[実施例9]
(様々なL配位子を有する式(II)の触媒を使用するアセトフェノンの還元)
還元は、実施例1で報告した通りに調製した、表5に示されている様々なL配位子を有する式(II)の異なる亜鉛触媒を使用して、実施例2で報告した通りに行った。
【0073】
【表5】
図1
【国際調査報告】