(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】肝障害の治療に使用するための阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231129BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231129BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231129BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231129BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231129BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20231129BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231129BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231129BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20231129BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231129BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/16
A61P43/00 105
A61P3/06
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K39/395 N
C12Q1/02
C12Q1/68
G01N33/53 D
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528035
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021081596
(87)【国際公開番号】W WO2022101449
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハイケンヴェルダー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】リー,シン
(72)【発明者】
【氏名】ラマドリ,ピアルイージ
(72)【発明者】
【氏名】ハラー,ディルク
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR41
4C084AA17
4C084AA20
4C084NA14
4C084ZA75
4C084ZB26
4C084ZC01
4C084ZC20
4C084ZC33
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085EE03
(57)【要約】
本発明は、小胞体(ER)ストレスのシグナル伝達が、脂肪肝、肝硬変、および肝細胞がん(HCC)などの肝疾患の病態形成に関与しているとの知見に基づく。本発明は、ERストレスのシグナル伝達に関与する、肝疾患治療のための新規ターゲットを特定するものであり、したがって、医療用の化合物および組成物、治療薬を特定するためのスクリーニングアプローチ、ならびに疾患の鑑別または特定の肝疾患患者群の層別化のための診断アプローチに関連するものである。本発明はまた、この化合物もしくは組成物と組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の使用、および/または小胞体(ER)ストレスのシグナル伝達が誘導する肝がんの治療における免疫チェックポイント阻害剤の使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の肝疾患の治療または予防に使用するための小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤であって、前記阻害剤を対象に投与し、それによって対象の細胞における小胞体(ER)ストレスシグナル伝達を減少させ、または阻害することを含む、阻害剤。
【請求項2】
前記阻害剤が、活性化転写因子6α(ATF6)の阻害剤であって、ATF6または核ATF6(nATF6)の発現、安定性、オルガネラ移行(たとえば、ゴルジ体から小胞体への移行)、活性化、および/または機能を、阻害または低減するATF6の阻害剤である、請求項1に記載の使用のための阻害剤。
【請求項3】
前記阻害剤が、ATF6の核内濃度を低下させ、たとえば、細胞内での核へのATF6の移行、好ましくはゴルジ体にあるATF6の核への移行を減少させる、請求項1または2に記載の使用のための阻害剤。
【請求項4】
肝疾患が、脂肪肝;肝細胞の過剰増殖(肝がん);炎症促進性もしくは免疫抑制性ケモカインの発現;制御性T細胞(TREG)などの免疫抑制細胞、単球などの炎症促進性免疫細胞、および骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の存在;のいずれか一つまたはそれらの組み合わせと関連している、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項5】
肝疾患が、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変または肝細胞がん(HCC)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項6】
プロテアーゼ阻害剤のような、膜結合ATF6のタンパク質分解切断の阻害剤、たとえばサイト2プロテアーゼ(S2P)の阻害剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項7】
治療が、肝疾患の進行、たとえばNAFLD/NASHの肝硬変への進行の、抑制、停止、または逆行であり、好ましくはNASHの肝細胞がん(HCC)への進行の抑制、停止、または逆行である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項8】
治療が、肝硬変および/またはHCCを発症するリスクのあるNASH患者におけるHCCの予防である、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項9】
治療が、糖尿病患者、肥満患者、またはメタボリックシンドロームもしくは別の代謝性疾患を有する患者などの、NASHを発症するリスクのある患者において実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項10】
治療が、治療上有効な量の免疫チェックポイント阻害剤を対象に投与することをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための阻害剤。
【請求項11】
免疫チェックポイント阻害剤がPD1/PDL1の阻害剤である、請求項10に記載の使用のための阻害剤。
【請求項12】
対象の肝がんの治療に使用するための免疫チェックポイント阻害剤であって、前記対象が、健康な肝臓と比較してATF6発現の増加した、好ましくは核ATF6レベルの増加した、肝臓および/または肝腫瘍を有するという特徴を有する、免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項13】
治療が、請求項1~11のいずれか1項に記載の小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤の投与をさらに含む、請求項12に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項14】
免疫チェックポイント阻害剤がPD1/PDL1の阻害剤である、請求項11または12に記載の使用のための免疫チェックポイント阻害剤。
【請求項15】
対象の肝疾患の治療に使用するための医薬組成物であって、請求項1~14のいずれか1項に記載された阻害剤、および製薬上許容される担体および/または賦形剤を含み、前記治療は、対象に医薬組成物を投与することを含む、医薬組成物。
【請求項16】
対象が肝疾患を有するか、または肝疾患を発症するリスクがあるかどうかを判定するための方法であって、前記方法が:
(a)前記対象の生体試料において、適当なバイオマーカーを検出するステップであって、前記試料中の適当なバイオマーカーの検出は、肝疾患の発症に関連する表現型を示すか、または表現型を発現するリスクを示し;かつ、
前記適当なバイオマーカーは、
- ATF6、具体的には、ATF6、好ましくは核ATF6の存在(もしくは量)または発現および/または活性;
- ERストレスまたはERストレスシグナル伝達
からなる一群から選択される、
ステップを含む、
方法。
【請求項17】
生体試料が、対象の細胞もしくは組織、またはそのような細胞もしくは組織の抽出物を含み、具体的には、そのような細胞は、(通常は、典型的には、もしくは場合によっては)肝疾患に関与する細胞(たとえば、肝細胞、またはHCC細胞などの腫瘍細胞)、または肝疾患の疑いのある特定の対象の細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
対象の肝疾患の治療に適した化合物を、特定および/または特徴付けするための方法であって、前記方法が、
(i)肝細胞を提供するステップ、
(ii)肝細胞においてERストレスまたはERストレスシグナル伝達を誘導するステップ、
(iii)(ii)の細胞を候補化合物と接触させるステップ、
を含み、
ここで、対照と比較して、細胞におけるERストレスまたはERストレスシグナル伝達が減少していることは、前記化合物が肝疾患の治療に適していることを示すものである、
方法。
【請求項19】
対象の肝疾患の治療に適した化合物を、特定および/または特徴付けするための方法であって、前記方法が、
(a)ATF6を発現する第1の細胞と候補化合物を接触させるステップ;および
(b)(i)第1の細胞における、ATF6、特にタンパク質分解的切断を受けたATF6、および/または核ATF6の、タンパク質またはmRNAの発現、活性、機能および/または安定性;ならびに
(ii)第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答、
を測定するステップ
を含み、
ここで:
(i)候補化合物と接触させた前記第1の細胞において、前記候補化合物と接触させていない前記第1の細胞と比較して、ATF6の発現、活性、機能および/または安定性が低下すること;ならびに
(ii)候補化合物と接触させた第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答を、候補化合物と接触させていない第1の細胞のERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答と比較すること;
は、その候補化合物が、肝疾患の治療に適した化合物であることを示すものである、
方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の方法に使用するためのキットであって、前記キットが、ERストレスもしくはERストレスシグナル伝達を低減するか、またはATF6の発現、活性、機能および/または安定性を低減すると思われる、選抜された化合物を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、小胞体(ER)ストレスのシグナル伝達が、脂肪肝、肝硬変、および肝細胞がん(HCC)などの肝疾患の病態形成に関与しているとの知見に基づく。本発明は、ERストレスのシグナル伝達に関与する、肝疾患治療のための新規ターゲットを特定するものであり、したがって、医療用の化合物および組成物、治療薬を特定するためのスクリーニングアプローチ、ならびに疾患の鑑別または特定の肝疾患患者群の層別化のための診断アプローチに関連するものである。本発明はまた、この化合物もしくは組成物と組み合わせた免疫チェックポイント阻害剤の使用、および/または小胞体(ER)ストレスのシグナル伝達が誘導する肝がんの治療における免疫チェックポイント阻害剤の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
説明
ライフスタイルや食生活の変化により、肥満、過体重、およびメタボリックシンドロームの発生率は劇的に増加している。過体重や肥満は、西側先進国だけの問題ではない。同時に、発展途上国の小児や成人もまた、同様の強い影響を受けている(Anstee et al.、2019)。WHOの最新の報告書では、今後20年間で肥満疾患の数が2倍から3倍になると予測されている(Stewart and Wild, 2014)。
【0003】
身体のもっとも重要な代謝器官である肝臓は、長期間にわたる高カロリー摂取、肥満、座りっぱなしのライフスタイル、そしてその結果生じる病態によって深刻な影響を受ける。世界でもっともよく見られる肝疾患である非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、過体重/肥満およびメタボリックシンドロームの臨床的発現である。NAFLDは、数十年続くこともある慢性疾患である。NAFLDは、肝臓の顕著な大滴性脂肪化および代謝の悪化を特徴とするが、必ずしも明らかな臨床症状を伴うわけではない。現在、9000万人のアメリカ人および4000万人のヨーロッパ人がNAFLDに罹患している(Ringelhan et al., 2018;Anstee et al., 2019)。肥満とがん発症との密接な関係はよく知られている(Calle and Kaaks, 2004)。実際、多数のNAFLD患者が、線維症および肝細胞がん(HCC)に罹患しやするする脂肪性肝疾患の病的形態である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(Anstee et al.、2019)、または肝機能障害を発症する。
【0004】
肝細胞がんは(HCC)、もっとも一般的な原発性肝がんであって、全症例の80~90%を占め、診断後5年間の平均生存率は約20%である。肝内胆管がん(iCC)および肝外胆管がんは肝がんの6~15%を占め、5年生存率はさらに低く約5%である。HCC/iCCに先行して、さまざまな病因(ウイルス性および非ウイルス性など)による慢性肝炎があると、免疫抑制的、腫瘍形成促進的な環境となり、免疫系が効率的な抗腫瘍反応を開始することができないようになる。
【0005】
NAFLDおよびNASHに罹患している人の数は、米国および欧州で着実に増加している(Loomba et al., 2013;Ringelhan et al., 2018;Anstee et al., 2019)。そのため、肝機能障害およびHCCの発症率増加の原因である肥満、脂肪症および脂肪肝炎は、西側諸国において注目の主要原因である(White et al.、2012)。
【0006】
これまで、先進工業国において、肝機能障害および肝細胞がん(HCC)の発症につながる病因としてもっとも一般的なものは、慢性ウイルス感染症(たとえば、B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス)であった。しかしながら、NAFLDの患者数は日ごとに増加しており、そのためNAFLDは、先進国および発展途上国において、もっとも一般的な肝疾患となっている。その結果、HCCは、米国において患者の増加率が最大のがんであり、欧州でもすでに同様の傾向がみられる(Anstee et al.、2019)。その一方で、NASHの治療に有効な治療薬はなく、末期のNASHに起因するHCCに対する治療の選択肢は限られている(Villanueva et al., 2014;Ringelhan et al., 2018;Anstee et al., 2019)。これは主として、最近までこの慢性炎症性/代謝性肝疾患を誘発するもっとも重要なメカニズムが理解されていなかったことに起因する。結論として、副作用を引き起こさない特異的な治療法が緊急に必要とされている。
【0007】
慢性の壊死性炎症および肝炎は、肝がんの主要なドライバー(発がんや悪性化を推進するもの)である[1,2]。真核細胞の小胞体(ER)は、タンパク質フォールディング、および分泌経路における細胞内タンパク質輸送、ならびにカルシウムの貯蔵および放出を担っている。ERタンパク質フォールディングは、環境因子、生理的因子および病理学的因子によって妨げられ、ERストレスを生じることがある[3]。一群の、高度に保存された小胞体ストレス応答(unfolded protein response(UPR))のシグナル伝達経路は、生産的なERタンパク質のフォールディング環境に寄与している。UPRの活性化、およびERストレス解消の失敗は、がんの一因となりうる[4,5]。慢性肝炎が肝炎患者のがん発症の主要な危険因子であることはよく知られている[1];しかしながら、肝細胞の恒常性に対する特定のUPRプログラムの寄与、ひいては炎症および腫瘍形成への関与は、依然として不明である。UPRシグナル伝達物質であり、ER膜貫通タンパク質であるATF6は、ER容量を高め、タンパク質フォールディングを増加させ、ミスフォールドされたタンパク質を除去するための分解を高める転写プログラムを誘発する。マウスにおけるATF6の欠失は、ATF6βもしくはERコシャペロンp58IPKの欠失と組み合わせない限り、胚発生および生後発育に必ずしも必要でないことが証明された[6]。それにもかかわらず、ATF6の欠乏は分泌経路に障害を生じさせ、急性および慢性のERストレスへの適応を損なう[6]。驚くべきことに、急性ストレス実験では、ATF6の活性化が細胞の生存を可能にするために不可欠であることがin vitroおよびin vivoで示されている[7]。
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、UPRストレスが、未だ解明されていないメカニズムによって、どのように恒常性に影響を与え、組織の微小環境を調節し、脂肪性肝疾患およびがんに関与しうるのかは、依然としてはっきりしないままである。本発明者らはこれまでに、(たとえば、HSP60を介した)ミトコンドリア経路およびUPRストレス経路の活性化が、肝内胆管がん(iCC)の新形成をもたらすことを明らかにした[4]。
【0009】
したがって、本発明の目的は、NASH、NAFLDおよびHCCなどの肝疾患の予防、治療および診断のための新規アプローチ、ならびにこのような疾患への対処に有用な将来の治療薬を特定するためのアプローチを提供することである。
【0010】
発明の簡単な説明
一般に、簡単な説明として、本発明の主な態様は、以下のように説明することができる。
【0011】
第1の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療または予防に使用するための小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤に関するものであって、この阻害剤を対象に投与し、それによって対象の細胞における小胞体(ER)ストレスシグナル伝達を減少させ、または阻害することを含む。
【0012】
第2の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療に使用するための医薬組成物に関するが、これは、先行クレームのいずれか1つに記載の阻害剤、および製薬上許容される担体および/または賦形剤を含み、治療は、対象にこの医薬組成物を投与することを含む。
【0013】
第3の態様において、本発明は、対象が肝疾患を有するかどうか、または肝疾患を発症する危険性があるかどうかを判定するための方法に関するものであって、その方法は、前記対象から得られた生体試料において、適当なバイオマーカーを検出するステップを含むが、
ここで、この試料中の適当なバイオマーカーの検出は、肝疾患の発症と関連する表現型、またはその表現型を発現するリスクを示すものであり;かつ
ここで、この適当なバイオマーカーは、
- ATF6、より詳細には、ATF6の、好ましくは核ATF6の存在(もしくは量)、またはその発現および/もしくは活性;
- ERストレスまたはERストレスシグナル伝達;
からなる一群から選択されるものである。
【0014】
第4の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療に適した化合物を特定する、および/または特徴付けるための方法に関するものであって、その方法は、
- 肝細胞を提供するステップ、
- 肝細胞のERストレスまたはERストレスシグナル伝達を誘導するステップ、
- 候補化合物と(ii)の細胞を接触させるステップ、
を含むが、
ここで、その細胞においてERストレスまたはERストレスシグナル伝達が対照と比較して減少すれば、その化合物は肝疾患の治療に適していることが示される。
【0015】
第5の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療に適した化合物を特定する、および/または特徴付けるための方法に関するものであって、その方法は、
(a)ATF6を発現する第1の細胞および候補化合物を接触させるステップ;ならびに
(b)(i)第1の細胞における、ATF6の、特に、タンパク質分解で切断されたATF6および/または核ATF6のタンパク質またはmRNAの発現、活性、機能および/または安定性;および
(ii)第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、またはERストレス応答、
を測定するステップ、
を含むが、ここで
(i)候補化合物と接触させた前記第1の細胞において、前記候補化合物と接触させていない前記第1の細胞と比較して、ATF6の発現、活性、機能および/または安定性が低下していること;および
(ii)候補化合物と接触させた第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、またはERストレス応答を、候補化合物を接触させていない第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、またはERストレス応答と比較すること;
は、候補化合物が肝疾患の治療に適した化合物であることを示す。
【0016】
第6の態様において、本発明は、第4または第5の態様のスクリーニングのための方法に使用するための、キット、またはキットの使用に関するものであって、このキットは、ERストレスもしくはERストレスシグナル伝達を減少させるか、またはATF6の発現、活性、機能および/または安定性を低下させると考えられる化合物の選択を含む。
【0017】
発明の詳細な説明
以下に本発明の要素を説明する。こうした要素は、特定の実施形態とともに記載されているが、追加の実施形態を作成するために任意の方法および任意の数で組み合わせることができると理解されるべきである。さまざまに記載された例、および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載された実施形態にのみ限定すると解釈されるべきでない。この説明は、明示的に記載された1つ以上の実施形態を組み合わせた、または明示的に記載された1つ以上の実施形態を、任意の数の開示された要素、および/または好ましい要素と組み合わせた、実施形態を、確認し包含するものと理解されるべきである。さらに、本出願に記載されたすべての要素のいかなる順列および組み合わせも、文脈からそうでないと示されない限り、本出願の説明によって開示されたとみなされるべきである。
【0018】
本明細書で使用される「本発明の」、「本発明に従って」、「本発明によれば」などの用語は、本明細書に記載され、および/または、本明細書で請求される、本発明のすべての態様および実施形態を指すことを意図するものである。
【0019】
本明細書で使用される場合、「~を含む(comprising)」という用語は、「~を含める(including)」および「~からなる(consist of)」の両者を包含するものと解釈されるべきであり、両方の意味が明確に意図されるので、本発明の実施形態は個別に開示される。本明細書で使用される場合、「および/または」は、2つの指定された特徴または構成要素のそれぞれについて、他方の有無にかかわらず具体的に開示するものとして解釈されるべきである。たとえば、「Aおよび/またはB」は、それぞれが本明細書で個別に規定されているのと同様に、(i)A、(ii)B、および(iii)AおよびBのそれぞれの具体的な開示とみなされるものとする。本発明に関連して「約(about)」および「およそ(approximately)」という用語は、当業者が、当該特徴の技術的効果を依然として保証するとみなしうる精度に幅があることを示すものである。この用語は、典型的には、指示された数値から±20%、±15%、±10%、およびたとえば±5%の逸脱を示す。当業者には理解されるように、所定の技術的効果に対する数値に関する具体的なそのような逸脱は、その技術的効果の性質によって決まってくるものである。たとえば、自然界に関する、または生物学的な技術的効果は、一般に、人工的または工学的な技術的効果のものよりも大きな逸脱を有しうる。当業者には当然のことながら、所定の技術的効果に対する数値に関する具体的なそのような逸脱は、その技術的効果の性質によって決まってくるものである。たとえば、自然界に関する、または生物学的な技術的効果は、一般に、人工的または工学的な技術的効果のものよりも大きな逸脱を有しうる。不定冠詞または定冠詞、たとえば"a"、"an"、もしくは"the"、が単数名詞を指すときに使用される場合、これは、他に何か具体的な記載のない限り、その名詞の複数を含む。
【0020】
当然のことながら、本発明の教示を特定の問題または環境に適用すること、および本発明の変形または追加の特徴(さらに他の態様および実施形態など)をそれに含めることは、本明細書に含まれる教示に照らして当業者の能力の範囲内である。
【0021】
文脈上別段の指示のない限り、上記の特徴の説明および定義は、本発明の特定の態様または実施形態に限定されず、記載されるすべての態様および実施形態に同様に適用される。
【0022】
第1の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療または予防に使用するための小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤に関するものであって、その阻害剤を対象に投与し、それによって対象の細胞における小胞体(ER)ストレスシグナル伝達を減少させ、または阻害することを含む。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、ERストレスシグナル伝達の阻害剤は、好ましくは、ATF6または核ATF6(nATF6)の発現、安定性、オルガネラ移行(たとえば、ゴルジ体から小胞体への)活性化、および/または機能を、阻害または低減する活性化転写因子6α(ATF6)の阻害剤である。
【0024】
本発明の文脈において、驚くべきことに、ERストレスシグナル伝達、具体的にはATF6を介したシグナル伝達が、in vivoでの肝細胞がん(HCC)の発症と関連していることが明らかになった。さらに、実施例は、ATF6機能とHCC発症との間の相互の因果関係を示し、HCCの予防および治療のいずれのためにもATF6阻害を使用することが支持された。
【0025】
小胞体(「ER」)は、タンパク質フォールディングの促進、および合成されたタンパク質の輸送など、多くの機能を担っている。「小胞体ストレス」(「ERストレス」)とは、タンパク質合成に対する要求と、それを満たすためのERのフォールディング能力との間の不均衡を意味する。ER内腔にアンフォールド(折りたたみ不全)タンパク質またはミスフォールド(異常折りたたみ)タンパク質が蓄積することに反応して、小胞体ストレス応答(unfolded protein response)(UPR)が活性化する。UPRは、タンパク質の翻訳を停止させ、タンパク質フォールディングに関与する分子シャペロンの生産を増加させるシグナル伝達経路を活性化することによって、細胞の正常な機能を回復することを目的とする。こうした目的が一定期間内に達成されない場合、または混乱が長期化した場合、UPRはプログラムされた細胞死(アポトーシス)を開始することを目的とする。
【0026】
本明細書において、「小胞体ストレス応答(Unfolded Protein Response)」(UPR)または「小胞体ストレス応答経路(Unfolded Protein Response Pathway)」という用語は、ERにおけるアンフォールドタンパク質の蓄積に対する適応反応を指し、シャペロンおよびフォールディング触媒およびタンパク質分解複合体をコードする遺伝子の転写活性化、ならびにアンフォールドタンパク質がさらに蓄積するのを制限する翻訳減衰を含む。表面タンパク質および分泌タンパク質はいずれも小胞体(ER)で合成されるが、輸送される前にフォールドしてアセンブルする必要がある。ERおよび核は細胞の別々のコンパートメントに位置しているため、アンフォールドタンパク質のシグナルはERの内腔で感知され、ER膜を超えて核内の転写装置で受信される必要がある。小胞体ストレス応答(UPR)が細胞のためにこの機能を果たしている。UPRの活性化は、DTTのような還元剤による細胞の処理、ツニカマイシンのようなコアグリコシル化の阻害剤、またはERのカルシウム貯蔵量を枯渇させるCaイオノフォアによって引き起こされうるものである。哺乳類では、UPRシグナルカスケードには、3種類のER膜貫通タンパク質、すなわちプロテインキナーゼおよび部位特異的エンドリボヌクレアーゼIRE-1、真核生物翻訳開始因子2キナーゼPERK/PEK、および転写活性化因子ATF6が関与する。UPRがER内のアンフォールドタンパク質の存在に適応できない場合、アポトーシス反応が開始され、JNKタンパク質キナーゼならびにカスパーゼ7、12、および3が活性化する。ERの内腔からの最も近接したシグナルは、IRE-1と呼ばれる膜貫通型エンドリボヌクレアーゼおよびキナーゼが受け取る。ERストレスの後、IRE-1は、XBP-1 mRNAのスプライシングを開始し、そのスプライシングバージョンがUPRを活性化させる。
【0027】
「活性化転写因子6」または「ATF6」という用語は、一般に、肝細胞に見出される細胞内タンパク質を指すものとする。ATF6タンパク質は「サイクリック AMP依存性転写因子ATF-6α」としても知られており、そのタンパク質をコードする遺伝子はATF6(斜体)と記される。このタンパク質は、転写因子型(プロセシングされたサイクリックAMP依存性転写因子ATF-6α)の前駆体として生じ、これはER膜に埋め込まれている。ERストレスによってこの形のプロセシングが促進され、転写因子型が放出されて、核内に移行し、そこで小胞体ストレス応答(UPR)に関与する遺伝子の転写を活性化する。ATF6のタンパク質は、アミノ酸配列として配列番号1に示されており、UniProtデータベースにおいて、アクセッションP18850(https://www.uniprot.org/uniprot/P18850;UniProtデータベースバージョン2020年11月12日)で確認することができる。
【0028】
さらに、本発明の文脈において「ATF6」という用語は、ヒトATF6のバリアントまたは断片を指す場合がある。そのようなバリアントまたは断片は、ヒトATF6のオルソログ、ホモログまたはパラログであってもよい。あるいは、そのようなバリアントまたは断片は、ヒトATF6の細胞外ドメインの配列、配列番号1、好ましくはヒトATF6の全長タンパク質またはそのプロセシングされたバリアントの配列と、少なくとも50、60、70、80、85、90、95、96、97、98、99、または100%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質である。ATF6の断片は、好ましくは、タンパク質分解切断されたATF6(核ATF6)のアミノ酸配列を含むタンパク質であり、このような可溶性型は、膜貫通ドメインまたは膜関連ドメインを欠いている。
【0029】
また別の第1の態様において、本発明は、腫瘍が核ATF6の活性増加という性質を有するか、または核ATF6によって誘導されることを特徴とする、がんの治療に使用するための免疫チェックポイント阻害剤にも関連するものである。さらに、本発明は、別法として、および第1の態様の好ましい実施形態として、本明細書に記載の肝腫瘍の治療に使用するための組み合わせを提供するが、この組み合わせは、免疫チェックポイント阻害剤およびATF6(好ましくは核ATF6)阻害剤の併用投与または連続投与を含む。
【0030】
本発明の文脈において、「免疫チェックポイント阻害剤」という用語は、具体的には、免疫細胞および/またはがん細胞によって作られる、がん細胞が免疫系によって認識されないようにするタンパク質をブロックすることによって、がん細胞に対する免疫系の攻撃を促進する薬剤を指すものとする。免疫チェックポイント阻害剤という用語が使用される場合、当然のことながら、類似/関連タンパク質、たとえば共刺激分子、を標的とする薬剤も含まれる。免疫チェックポイントを標的とする抗がん剤治療は、免疫チェックポイント療法としても知られている。免疫チェックポイント阻害剤の標的候補は、たとえば、Topalian, et al., Cancer Cell 27: 450-461 (2015)に見出すことができるが、これに限定されない。
【0031】
ある実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質または共刺激タンパク質に結合する抗体である。ある実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質および/または共刺激タンパク質および/または共抑制タンパク質の結合を阻害する分子である。ある実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントタンパク質を標的とする。ある実施形態において、免疫チェックポイントタンパク質は、プログラム死タンパク質1(PD-1、CD279としても知られている)、またはそのリガンドであるプログラム死リガンド1(PD-Ll、B7-H1、CD274としても知られている)およびプログラム死リガンド2(PD-L2、B7-DCおよびCD273としても知られている)である。PD-1は、活性化されたT細胞、B細胞、および骨髄系細胞の表面に発現しており、PD-Llと結合するとT細胞が体内の他の細胞を攻撃するのを抑制する。PD-LlおよびPD-L2は、一般に、樹状細胞もしくはマクロファージの表面に発現している。PD-Llは、頭頸部、肺、胃、大腸、膵臓、乳房、腎臓、膀胱、卵巣、子宮頸部などのさまざまな臓器に発生するがん、ならびにメラノーマ、膠芽腫、多発性骨髄腫、リンパ腫、および各種白血病などの、多くの腫瘍に発現している。PD-1阻害剤には、Merck U.S.が開発し、転移性メラノーマの治療で承認されたペムブロリズマブ(Keytruda)、Bristol-Myers Squibb U.S.が開発し、転移性メラノーマおよび扁平上皮NSCL(非小細胞肺)がんの治療について米国で承認されているニボルマブ(Opdivo)、MEDI0680(AMP-514)およびpidilizumabがあるが、これに限定されない。いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、ペムブロリズマブではない。いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、ニボルマブではない。PD-Ll阻害剤には、BMS-936559、MEDI4736、MSB0010718C、およびアテゾリズマブがあるが、それに限定されない。アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標))は、スイスのRoche(Genentech U.S.)が開発し、もっとも一般的なタイプの膀胱がん、すなわち尿路上皮がんの治療薬として承認されている。アテゾリズマブは、PD-1経路を標的とするヒト化モノクローナル抗体であり、それによってシグナル伝達される免疫チェックポイント阻害をブロックする。PD-1経路とは、本明細書において、PD-1およびPD-L1/PD-L2の相互作用に基づくT細胞免疫応答の阻害のシグナル伝達をいう。さまざまな他のタイプのがん、たとえば非扁平上皮NSCLC(非小細胞肺がん)、腎細胞がん、および膀胱がんなどを治療するために、他の抗PD-Ll抗体(たとえば、avelumab、durvalumab)を用いた治療も研究開発中である。
【0032】
したがって、好ましい実施形態において、本発明は、対象の肝がんの治療に使用するための免疫チェックポイント阻害剤にも関係するが、この対象は、健康な肝臓と比較してATF6発現が増加し、好ましくは核ATF6レベルの増加した、肝臓および/または肝腫瘍を有するという特徴を有する。すでに記載したように、治療は、本明細書の別の箇所に記載された小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤の投与をさらに含むことができる。
【0033】
好ましくは、本発明のこのような態様は、健康な肝臓におけるATF6のレベル、または好ましくは核ATF6レベルと比較して、ATF6発現が増加し、好ましくは核ATF6レベルの増加した肝臓または肝腫瘍を有するという特徴を有する対象において有用である。
【0034】
上記の態様の一実施形態において、ERストレスシグナル伝達の阻害剤である化合物、またはATF6/nATF6の阻害剤である化合物は、ATF6または核ATF6、または(上記のような)そのバリアントの発現、機能、活性および/または安定性を阻害するものである。そのようなATF6または核ATF6またはそのバリアントの発現、機能、活性および/または安定性の阻害剤は、核移行のような(特にERストレスシグナル伝達と関連した)ATF6もしくはnATF6の細胞生物学的もしくは生化学的機能、またはnATF6がゲノムと結合し、UFPの特定の遺伝子の転写調節に関与することを阻害する化合物を指す。
【0035】
本発明の阻害剤のさらに他の一例は、プロテアーゼ阻害剤のような、膜結合ATF6のタンパク質分解切断の阻害剤、たとえばサイト2プロテアーゼ(S2P)の阻害剤である。そのようなS2P阻害剤またはATF6阻害剤は、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチドミメティック、抗体または抗体様分子(イントラボディ(細胞内抗体)など);DNAもしくはRNAなどの核酸、たとえばアンチセンスDNAもしくはRNA、リボザイム、RNAもしくはDNAアプタマー、siRNA、shRNAなど(これにはペプチド核酸(PNA)のような、そのバリアントもしくは誘導体を含める);CRISPR/CAS9構築物および/またはガイドRNA/DNA(gRNA/gDNA)および/またはtracrRNAなどの、標的遺伝子編集のための遺伝子構築物;ヘテロ二官能性化合物(PROTACもしくはHyT分子など);多糖もしくはオリゴ糖などの炭水化物(これにはそのバリアントもしくは誘導体を含める);脂肪酸などの脂質(これにはそのバリアントもしくは誘導体を含める);または小分子リガンドもしくは細胞透過性小分子などであるがそれに限定されない有機小分子、から選択される。
【0036】
本開示に含まれるのは、特に、ERストレスシグナル伝達に対する阻害活性、より詳細には、ATF6の発現、機能または安定性に対する阻害活性を発揮することが知られている任意の低分子化合物である。そのような化合物は、たとえば、WO/2019/118785、WO/2019/236710、WO/2019/195810およびWO/2020/176428として公開された上記国際特許出願のいずれかにすでに記載されている。上記の特許公報に開示されたすべての化合物は、参照により本開示に含まれるものとする。
【0037】
ある特定の実施形態において、ATF6阻害剤は核酸である。
【0038】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は、全体を通して区別することなく使用され、DNA分子(たとえば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(たとえば、mRNA)、ヌクレオチドアナログ(たとえば、ペプチド核酸および天然に存在しないヌクレオチドアナログ)を用いて作成されたDNAもしくはRNAのアナログ、およびそれらのハイブリッドを含む。核酸分子は一本鎖または二本鎖とすることができる。
【0039】
ATF6阻害剤がCRISPR/Cas9構築物および/またはガイドRNA/DNA(gRNA/gDNA)および/またはtracrRNAである場合、CRISPR/Cas9による遺伝子編集アプローチの設計に関する基本ルールは当業者に知られており、たとえばWiles MV et al(Mamm Genome 2015,26:501)またはSavic N and Schwank G(TRIS 2016,168:15)に概説されている。
【0040】
特定の実施形態において、ATF6阻害剤は、たとえば、本明細書において以下に詳述するように、siRNAまたはshRNA分子を含めたアンチセンスヌクレオチド分子などの抑制性核酸分子とすることができる。
【0041】
そのような実施形態についてより詳細には、抑制性核酸(siRNAまたはshRNAなど)は、(i)ATF6;または(ii)ATF6の発現、量、機能および/または安定性を調節し、たとえばそれによってATF6の発現、量、機能、活性および/または安定性をモジュレートする遺伝子:をコードするか、またはその発現、量、機能、活性または安定性を制御する、核酸(mRNAなど)に結合(たとえば、特異的に結合)することが可能である。
【0042】
核酸であるATF6の阻害剤は、たとえば、アンチセンスヌクレオチド分子、RNA、DNAもしくはPNA分子、またはアプタマー分子とすることができる。アンチセンスヌクレオチド分子は、アンチセンスヌクレオチド配列を含むことにより、細胞内で(たとえば配列相補性に基づいて)標的核酸分子に結合し、ATF6の発現(転写および/または翻訳)レベルをモジュレートすることができるが、ATF6の発現、機能および/または安定性を調節する別の遺伝子の発現をモジュレートすることもある。同様に、触媒性リボザイムなどのRNA分子は、ATF6遺伝子に結合してその発現を変化させることができるが、ATF6のキナーゼ分子、相互作用タンパク質、ATF6の転写因子またはリプレッサータンパク質などの、ATF6の発現、機能および/または安定性を調節する他の遺伝子に結合して、その発現を変化させることもできる。アプタマーは、分子標的に結合することができる3次元構造を形成する能力を付与する配列を有する核酸分子である。
【0043】
核酸であるATF6の阻害剤は、たとえば、さらに、RNA干渉に使用するための二本鎖RNA分子とすることができる。RNA干渉(RNAi)は、転写後のRNA分解またはサイレンシング(翻訳を止めること)による、配列特異的な遺伝子サイレンシングのプロセスである。RNAiは、サイレンシングされるべき標的遺伝子と配列が相同である二本鎖RNA(dsRNA)を使用することで開始される。RNAiに適した二本鎖RNA(dsRNA)は、19個のRNA塩基対をなす標的化されるべき遺伝子に対応する約21個の連続したヌクレオチドのセンスおよびアンチセンス鎖を含み、各3´末端に2ヌクレオチドのオーバーハングを残す(Elbashir et al., Nature 411:494-498 (2001); Bass, Nature 411:428-429 (2001); Zamore, Nat. Struct. Biol. 8:746-750 (2001))。約25~30ヌクレオチドのdsRNAも、RNAiに良好に使用されてきた(Karabinos et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:7863-7868 (2001))。dsRNAは、in vitroで合成され、当技術分野で既知の方法により細胞に導入することができる。
【0044】
上記のように、RNAi分子(siRNAなど)である本発明のモジュレーターは、ATF6のmRNAに結合してその発現を直接的に阻害し、またはそれに拮抗することができる。しかしながら、RNAi分子(siRNAなど)である本発明のモジュレーターは、それ自体がATF6の発現(または機能もしくは安定性)を調節する別の遺伝子のmRNAに結合してその発現を阻害し、またはそれに拮抗することもある。
【0045】
ATF6 mRNAを標的とする(またはATF6の発現、機能および/または安定性を調節する遺伝子のmRNAを標的とする)ための、本発明のアンチセンス分子の配列同一性は、本明細書に開示するように、ATF6タンパク質をコードする配列の領域に対して、好ましさが増すにつれて、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、および100%の同一性である。好ましくは、標的遺伝子と調節性アンチセンス分子との間の配列同一性を有する領域は、調節性アンチセンス分子の位置および長さに対応する標的遺伝子の領域である。たとえば、調節性siRNAまたはshRNA分子に対応する長さ約19~21bpの領域にわたる、そのような配列の同一性である。配列同一性を決定するための手段および方法は、当技術分野で知られている。好ましくは、当技術分野で知られているように、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラムを、1つ以上のATF6 RNAに関する配列同一性を決定するために使用する。一方、本発明のsiRNAおよびshRNAのような好ましいアンチセンス分子は、好ましくは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイトおよび従来のRNA合成装置を用いて化学的に合成される。RNA合成試薬の供給業者としては、Proligo(Hamburg,Germany)、Dharmacon Research(Lafayette,CO,USA)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部、Rockford,IL(USA))、Glen Research(Sterling,VA,USA)、ChemGenes(Ashland,MA,USA)、およびCruachem(Glasgow,UK)が挙げられる。
【0046】
アンチセンス分子、siRNA、およびshRNAが、in vivoで遺伝子を強力に、しかし可逆的に発現停止させる能力によって、これらの分子は、本明細書において下記に説明されることになる本発明の医薬組成物に使用するために特に好適なものとなる。ヒトにsiRNAを投与する方法は、De Fougerolles et al., Current Opinion in Pharmacology, 2008, 8:280-285に記載されている。そのような方法は、shRNAのような他の低分子RNA分子を投与するためにも適している。したがって、そのような医薬組成物は、生理食塩水として、リポソームベースおよびポリマーベースのナノ粒子アプローチを介して、コンジュゲートまたは複合体形成医薬組成物として、またはウイルス送達システムを介して、直接調剤して投与することができる。直接投与は、組織への注射、鼻腔内および気管内投与を含む。リポソームベースおよびポリマーベースのナノ粒子アプローチは、陽イオン性脂質Genzyme Lipid (GL) 67、陽イオン性リポソーム、キトサンナノ粒子、および陽イオン性細胞透過性ペプチド(CPP)を含む。コンジュゲートまたは複合体形成医薬組成物は、PEI複合体化アンチセンス分子、siRNA、shRNAまたはmiRNAを含む。さらに、ウイルス送達システムは、インフルエンザウイルスエンベロープおよびビロソームを含む。
【0047】
アンチセンス分子、siRNA、shRNAは、ロックド核酸(LNA)のような修飾ヌクレオチドを含むことができる。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2'酸素と4'炭素をつなぐ余分なブリッジで修飾されている。このブリッジは、リボースを3'-endo(North)コンフォメーションに「ロック(固定)」するが、これはA型二本鎖によく見られるものである。LNAヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドのDNAまたはRNA残基といつでも混合することができる。このようなオリゴマーは化学的に合成され、市販されている。ロックされたリボースコンフォメーションは、塩基をきちんと並べて、骨格をあらかじめ構成することを促す。これにより、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性(溶融温度)が著しく向上する。siRNAの特に好ましい例は、GapmeR(LNA(商標名)GapmeRs(Exiqon))である。GapmeRは、ATF6 mRNA(またはATF6の発現、機能、および/または安定性を調節する遺伝子のmRNA)を高効率で阻害するために用いられる強力なアンチセンスオリゴヌクレオチドである。GapmeRは、LNAブロックに挟まれた中央のDNAモノマーストレッチを含む。GapmeRは、好ましくは14-16ヌクレオチド長であり、場合によっては完全にホスホロチオエート化されている。DNAギャップは、標的RNAのRNAse Hによる分解を活性化し、核内の転写物を直接標的化するのにも適している。
【0048】
本明細書で使用される「対象」は、すべての哺乳動物を含み、ヒトを含むがそれに限定されず、カニクイザルのような非ヒト霊長類も含んでいる。また、イヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウサギ、ブタおよびげっ歯類(マウスおよびラットなど)も含まれる。当然のことながら、本発明の特に好ましい対象は、障害、疾患または病態に罹患している(または罹患する危険性のある)ヒトなどのヒト対象、たとえばヒト患者である。
【0049】
本明細書で使用される「治療」は、疾患、障害または病態を治療することと同義であり、これには、疾患、障害または病態の症状を軽減すること、疾患、障害または病態の進行を抑制すること、疾患、障害または病態の軽減を生じさせること、および/または疾患、障害または病態の治癒を含む。
【0050】
本発明における「治療」という用語は、疾患(または障害または病態)に対する治療、たとえば治療的処置、ならびに予防的または抑制的処置を含むことを意味する。したがって、たとえば、疾患の発症前にATF6阻害剤を有効に投与することで、疾患の治療がもたらされる。「治療」はまた、疾患(またはその症状)を改善または根絶するために、疾患の発症後にATF6阻害剤を投与することを包含する。発症後、臨床症状の後に、ATF6阻害剤を投与することは、臨床症状を軽減し、おそらく疾患を改善する可能性があり、これも疾患の治療となる。「治療を必要とする」者には、疾患、障害または病態をすでに有する対象(ヒト対象など)、ならびに疾患、障害または病態に罹りやすい、または罹患が疑われる対象(疾患、障害または病態が予防されるべき対象など)が含まれる。
【0051】
本発明の化合物、またはその製薬上許容される塩は、本明細書に記載される1つ以上の治療薬の、投与と同時に、投与前に、または投与後に、投与することも可能である。したがって、本発明は、治療効率を高めるために、異なる2つ以上のATF6阻害剤を対象に併用して投与する、併用治療を含む。このような併用療法には、本発明の化合物および以下に示す1つ以上の追加薬剤を含む、単一の医薬品剤形の投与、ならびに本発明の化合物および追加薬剤のそれぞれを、それ自体別々の医薬用剤形で投与することを含めることができる。たとえば、本発明の化合物および化学療法薬であるが、この薬剤はATF6の阻害剤である。さらに、一部の特定の実施形態において、本発明の併用治療は、タキソール(パクリタキセル)、タキソテール、エトポシド、シスプラチン、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどの他の抗癌剤の使用を含んでいてもよく、タブレットまたはカプセルなどの単一の経口投与組成物として一緒に患者に投与されるか、または各薬剤が、別々の経口投与剤形として、または静脈注射を介して投与されうる。別々の投与剤形が使用される場合、本発明の化合物および1つ以上の追加の薬剤は、基本的に同時に(at the same time)、すなわち同時並行で(concurrently)、または別々に時間をずらして、すなわち順次、投与することが可能であって、併用療法はこれらすべてのレジメンを含むと理解される。
【0052】
本明細書で使用される「非アルコール性脂肪性肝疾患」または「NAFLD」という用語は、肝細胞における脂肪の蓄積を共通点とする疾患群を指すが、NAFLDは、単なる脂肪肝(脂肪症)から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変(肝臓の不可逆的な、進行した瘢痕化)に至るまでさまざまである。「NAFLD」という用語には、あらゆる進行段階もしくは進行度の疾患が含まれる。
【0053】
本明細書で使用される「非アルコール性脂肪肝炎」もしくは「NASH」という用語は、飲酒量とは関連性のない、肝臓の炎症性浸潤および脂肪浸潤を特徴とする慢性肝疾患の重要な形態に関する。
【0054】
本発明の文脈において「NAFLDまたはNASHに関連する障害または病態」という用語は、NAFLDまたはNASHによって病理学的に直接、冒され、または影響を受けている、任意の障害または病態とする。好ましくは、この用語は、NAFLDまたはNASHから発症する障害または病態を含み、そのような障害または病態が、進行中の、たとえば未治療の、NAFLDまたはNASHによって引き起こされることを意味する。好ましい例は、肝硬変または肝細胞がん(HCC)である。
【0055】
本明細書で使用される「肝細胞がん」もしくは「HCC」という用語は、悪性肝細胞腫とも称されるもっとも一般的なタイプの肝がんを指す。HCCは多くの異なる原因を有する可能性があるが、本発明のいくつかの好ましい実施形態では、肝疾患の根本原因は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)である。NAFLDは、西側先進国でもっとも一般的な肝疾患である。メタボリックシンドロームが肝臓に発現したものであると考えられる。したがって、NAFLDは、過体重もしくは肥満である人、および/または、糖尿病、高コレステロールもしくは高トリグリセリドを有する人に発症しやすい傾向がある。ほとんどの人にとって、NAFLDは何ら徴候および症状を引き起こさず、合併症をもたらすこともない。しかし、一部のNAFLD患者では、肝臓に蓄積した脂肪が肝臓に炎症および瘢痕化を引き起こすことがあり、その結果、線維症および肝硬変に至ると考えられている。こうしたNAFLDのより重篤な形態は、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と呼ばれることがある。注目すべきは、メタボリックシンドロームおよび2型糖尿病がHCCの独立した危険因子であることが実証されていることであって、このような危険因子を抱える患者は、本発明に従って治療を受けることが好ましいが、それは、本発明の治療がむしろ、本発明の化合物および方法を用いた、NAFLD/NASHおよび/またはHCCの発症を予防し、または発症の可能性を低下させるための予防的治療も含んでいるためである。
【0056】
本発明でいう治療とは、たとえば、疾患の危険因子を有する患者において、疾患の発症の可能性を低減するための予防的な治療を含む。しかしながら、好ましくは、本発明の治療は、NASHおよび/もしくはHCC、またはその症状もしくは合併症の、軽減または進行抑制である。NASHを発症する危険性がある対象は、たとえば、好ましくは、糖尿病患者、肥満患者、またはメタボリックシンドロームもしくは別の代謝性障害を有する患者である。
【0057】
いくつかの実施形態において好ましいのは、本発明の治療が、NAFLD/NASHの肝硬変への進行の抑制、停止、または逆行であることであり、好ましくはNASHの肝細胞がん(HCC)への進行の抑制、停止、または逆行であることである。治療は、肝硬変および/またはHCCを発症するリスクのあるNASH患者におけるHCCの予防であることが、さらに好ましい。
【0058】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、治療を受ける対象は、アルコール性肝障害、薬物性肝障害、慢性活動性肝炎、脂肪肝および肝細胞アポトーシスからなる一群から選択される疾患を有しておらず、好ましくは、その場合、患者は炎症性脂肪肝を有する。
【0059】
第1の態様の好ましい実施形態において、細胞は、肝疾患に関連する細胞であり、好ましくは、肝細胞である。
【0060】
本明細書に記載された阻害剤はいずれも、好ましくは、ATF6の核内濃度を低下させ、たとえば、細胞内での核へのATF6の移行、好ましくはゴルジ体にあるATF6の核への移行を減少させる。こうした移行は、本発明に関しては、ATF6の1つの主要な機能である。
【0061】
本開示によれば、肝疾患は、以下の:脂肪肝;肝細胞の過剰増殖(肝がん);炎症促進性または免疫抑制性ケモカインの発現;制御性T細胞(TREG)などの免疫抑制細胞、単球などの炎症促進性免疫細胞、および骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の存在、のいずれか一つまたはそれらの組み合わせと関連している。
【0062】
また、肝疾患を有しない対象に本発明の阻害剤を投与した場合、その阻害剤がその対象において肝疾患の発症リスクを低下させるといった、本明細書に開示された疾患の予防的治療も、本発明に包含されるものとする。さらに、本発明の治療は、糖尿病患者、肥満患者、またはメタボリックシンドロームもしくは別の代謝性疾患を有する患者などの、NASHを発症するリスクのある患者において、実施することができる。
【0063】
第2の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療に使用するための医薬組成物に関するが、これは、先行する請求項のいずれか1つに記載された阻害剤、および製薬上許容される担体および/または賦形剤を含むものであって、この場合、治療は、対象に医薬組成物を投与することを含む。
【0064】
本発明の医薬組成物およびその投与経路は、S2P活性を阻害またはダウンレギュレートする1つ以上の阻害剤(および/または追加の薬剤)の有効量を、製薬上許容される担体に溶解または分散して対象に投与することを含む。
【0065】
「医薬」または「製薬上許容される」という表現は、たとえば、ヒトなどの動物に必要に応じて投与されたときに、有害反応、アレルギー反応、またはその他の不都合な反応を生じさせない分子実体および組成物を指す。少なくとも1つのATF6阻害剤または追加の活性成分を含有する医薬組成物の調製は、本開示、およびRemington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990、を踏まえて当業者に公知となるが、これは参照により本明細書に組み入れられる。さらに、動物(たとえば、ヒト)投与の場合、当然のことながら、調製物は、FDA Office of Biological Standardsによって要求される、無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たさなければならない。
【0066】
本明細書で使用される「製薬上許容される担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、界面活性剤、抗酸化剤、防腐剤(たとえば 抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩類、保存剤、薬物、薬物安定化剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤、着色剤、そのような材料、およびそれらの組み合わせが含まれるが、それらは当業者に知られているとおりである(たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp.1289-1329を参照のこと、これは参照により本明細書に組み入れられる)。任意の従来の担体は、活性成分と不適合である場合を除いて、治療用組成物または医薬組成物におけるその使用が企図される。
【0067】
本発明の医薬組成物は、それが、固体、液体もしくはエアロゾルのいずれの形態で投与されるか、また、注射などの投与経路のために無菌である必要があるか、によって、異なるタイプの担体を含むことができる。本発明の医薬組成物は、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、脳内、関節腔内、前立腺内、胸膜腔内、気管内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、膀胱内、粘膜、心膜内、臍帯内、眼内、経口、外用、局所、吸入(たとえば、エアロゾル吸入)、注射、注入、連続注入、標的細胞を直接浸す局所灌流、カテーテルで、洗浄により、クリームで、脂質組成物(たとえば、リポソーム)として、または当業者に知られている他の方法もしくは前記の任意の組み合わせにより、投与することができる(たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990を参照のこと、これは参照により本明細書に組み入れられる)。
【0068】
対象に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、体重、疾患の重症度、治療すべき疾患の種類、先行または現行の治療的介入、患者の特発症などの、物理的および生理学的要因によって、ならびに投与経路に基づいて、決定することができる。投与回数および投与期間はそれぞれに異なっていてもよい。投与担当医師は、いずれにしても、組成物中の1つ以上の活性成分の濃度および適当な用量、ならびに個々の対象に対する投与期間の長さを決定することができる。
【0069】
特定の実施形態において、医薬組成物は、たとえば、少なくとも約0.1%の活性化合物を含んでいてもよい。他の実施形態において、活性化合物は、単位量の重量の約2%から約75%の間、または約25%から約60%の間、たとえば、そこから派生する任意の範囲の割合を構成していてもよい。他の非限定的な例では、用量はまた、投与1回あたり約1μg/kg体重、約5μg/kg体重、約10μg/kg体重、約50μg/kg体重、約100μg/kg体重、約200μg/kg体重、約350μg/kg体重、約500μg/kg体重、約1 mg/kg体重、約5 mg/kg体重、約10 mg/kg体重、約50 mg/kg体重、約100.mg/kg体重、約200 mg/kg体重、約350 mg/kg体重、約500 mg/kg体重から約1000 mg/kg体重、またはそれ以上、およびそこから派生する任意の範囲の量を含んでいてもよい。本明細書に記載された数値から導き出される範囲の非限定的な例として、上記の数値に基づいて、約5 mg/kg体重~約100 mg/kg体重、約5μg/kg体重~約500 mg/kg体重などの範囲の量を投与することができる。
【0070】
いかなる場合においても、組成物は、1つ以上の成分の酸化を遅らせるために、さまざまな抗酸化剤を含むことができる。さらに、微生物の作用の防止をもたらすことができるのは、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤などの防腐剤であり、これにはパラベン(たとえば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはそれらの組み合わせが含まれるがそれに限定されない。
【0071】
本発明の1つ以上のATF6阻害剤は、遊離塩基、中性または塩の形で、組成物に配合することができる。製薬上許容される塩としては、酸付加塩、たとえば、タンパク質性組成物の遊離アミノ基と形成される塩、または、たとえば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸もしくはマンデル酸などの有機酸で形成される塩が挙げられる。遊離カルボキシル基と形成される塩はまた、たとえばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは水酸化第二鉄などの無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカインなどの有機塩基から誘導されうる。
【0072】
組成物が液状である実施形態では、担体は、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(たとえば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)およびこれらの組み合わせを含むがそれに限定されない、溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は、たとえば、レシチンのようなコーティング剤の使用によって;たとえば液体ポリオールもしくは脂質といった担体中での分散により、必要な粒子径を維持することによって;たとえばヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用によって;またはそうした方法の組み合わせによって、維持することができる。多くの場合、等張剤、たとえば、糖類、塩化ナトリウムまたはそれらの組み合わせ、などを含むことが好ましいと思われる。
【0073】
本発明の特定の態様において、ATF6阻害剤は、経口摂取のような経路による投与のために調製される。こうした実施形態において、固形組成物は、たとえば、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(たとえば、硬または軟ゼラチンカプセル剤)、徐放性製剤、バッカル組成物、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤、またはこれらの組み合わせを含むことができる。経口組成物は、飲食物の食品とともに直接取り込むことができる。経口投与のための好ましい担体は、不活性な希釈剤、吸収可能な食用に適した担体、またはそれらの組み合わせを含む。本発明の他の態様において、経口組成物は、シロップ剤またはエリキシル剤として調製することができる。シロップ剤またはエリキシル剤は、たとえば、少なくとも1つの活性物質、甘味剤、防腐剤、香味剤、着色剤、防腐剤、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0074】
特定の好ましい実施形態において、経口組成物は、1つ以上の結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、香味剤、およびそれらの組合せを含むことができる。特定の実施形態において、組成物は、以下のうち1つまたは複数を含むことができる:結合剤、たとえばトラガント、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチン、もしくはそれらの組み合わせなど;賦形剤、たとえばリン酸水素カルシウム、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、もしくはそれらの組み合わせなど;崩壊剤、たとえばコーンスターチ、バレイショデンプン、アルギン酸もしくはそれらの組み合わせなど;滑沢剤、たとえばステアリン酸マグネシウムなど;甘味剤、たとえばスクロース、乳糖、サッカリンもしくはそれらの組み合わせなど;香味剤、たとえばペパーミント、ウィンターグリーン油、サクランボ香味料、オレンジ香味料など;または前記の組み合わせ。投与単位形態がカプセルである場合、上記のタイプの材料に加えて、液体担体のような担体を含むことができる。他のさまざまな材料が、コーティング剤として、またはそのほかに投与単位の物理的形態を変更するために、含まれていてもよい。たとえば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、セラック、糖、またはその両方でコーティングされていてもよい。
【0075】
その他の投与方法に適した製剤としてはさらに坐剤がある。坐剤は、直腸、膣または尿道に挿入するための、さまざまな重量および形状を有する固形の剤形であり、通常は薬物が添加されている。挿入後、坐剤は、柔らかくなって、溶融するか、または腔内の液体に溶解する。一般に、坐剤の場合、従来の担体は、たとえば、ポリアルキレングリコール、トリグリセリドまたはそれらの組合せを含みうる。特定の実施形態において、坐剤は、たとえば、約0.5%~約10%、好ましくは約1%~約2%の範囲の活性成分を含む混合物から形成することができる。
【0076】
無菌注射剤は、適当な溶媒中に必要な量の活性化合物を、必要に応じて、上記に列挙したさまざまな他の成分とともに混ぜ入れた後に濾過滅菌することにより調製される。一般に、分散系は、基本の分散媒および/または他の成分を含有する無菌のビヒクルに、滅菌されたさまざまな活性成分を混ぜ入れることによって調製される。無菌注射剤の溶液、懸濁液または乳濁液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、あらかじめ無菌濾過された液体媒体から活性成分および任意の望ましい追加成分の粉末をもたらす真空乾燥または凍結乾燥技術である。液体媒体は、必要に応じて適切に緩衝化され、液体希釈剤は、注射前に十分な生理食塩水またはブドウ糖により、まず等張とされるべきである。直接注射用の高濃度組成物の調製も検討されており、溶媒としてDMSOを使用することは、きわめて迅速な浸透をもたらし、高濃度の活性物質を小領域に送達すると考えられる。
【0077】
組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定であり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用を防ぐように保存されなければならない。当然のことながら、エンドトキシン汚染は、たとえば、0.5 ng/mgタンパク質未満の安全なレベルで最小限に保たれるべきである。
【0078】
特定の実施形態において、本明細書に開示される発明は、本明細書に記載されるATF6の阻害剤と、免疫チェックポイント阻害剤、具体的にはPD1/PDL1阻害剤との併用にも関する。
【0079】
特定の実施形態において、注射用組成物の持続的吸収は、たとえば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチンまたはそれらの組み合わせなどといった、吸収を遅延させる薬剤を組成物に使用することによってもたらされうる。
【0080】
第3の態様において、本発明は、対象が肝疾患を有するか、または肝疾患を発症するリスクがあるかどうかを判定するための方法に関するが、その方法は、
- 前記対象の生体試料において、適当なバイオマーカーを検出するステップを含み、
ここで、この試料中の適当なバイオマーカーの検出は、肝疾患の発症に関連する表現型を示すか、または表現型を発現するリスクを示し;かつ、
この適当なバイオマーカーは、
- ATF6、より詳細には、ATF6、好ましくは核ATF6の存在(もしくは量)または発現および/または活性;
- ERストレスまたはERストレスシグナル伝達
からなる一群から選択されるものである。
【0081】
本発明に関連して、生体試料は、対象の細胞もしくは組織、またはそのような細胞もしくは組織の抽出物を含むことができるが、具体的には、そのような細胞は、(通常、典型的には)肝疾患に関与する細胞(たとえば、肝細胞、またはHCC細胞などの腫瘍細胞)である(または特定の対象の場合には、肝疾患に関与する疑いがある細胞である)。
【0082】
これらの検出、判定および/または診断方法のいくつかの実施形態において、生体試料は、対象の組織試料、たとえば、対象から得らえた肝腫瘍またはがんの試料などである。上記のように、こうした組織試料は、腫瘍もしくはがんの生検試料、たとえば針生検試料など、または腫瘍生検切片もしくはそのアーカイブ試料とすることができる。このような組織試料は、たとえば腫瘍またはがんに由来する、生細胞、死細胞または固定細胞を含みうるが、このような細胞は、測定すべき適当なバイオマーカーを(たとえば、異常に、または局在して)発現しているとされる場合がある。
【0083】
好ましくは、肝疾患は、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変または肝細胞がん(HCC)である。
【0084】
このような検出、判定および/または診断方法は、in vitro(たとえば、ex vivo)法として実施可能であり、たとえば、本発明のキット(またはその構成部分)を使用して実行することができる。in vitro法は、不死化細胞株(動物もしくはヒトの体外で複製、培養または無期限に維持される細胞株など)を使用し、それに関与し、またはそれに基づいて実施されることがあるが、あるいは、動物もしくはヒトの体から直接もしくは新たに得られた、in vitroで使用する細胞(初代細胞など)を使用し、それに関与し、またはそれに基づいて実施されることが可能である(たとえば、いわゆる「ex vivo」法として行われる)。
【0085】
第4の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療に適した化合物を、特定および/または特徴付けするための方法に関するが、その方法は、
(i)肝細胞を提供するステップ、
(ii)肝細胞においてERストレスまたはERストレスシグナル伝達を誘導するステップ、
(iii)(ii)の細胞を候補化合物と接触させるステップ、
を含むものであって、
ここで、対照と比較して、細胞におけるERストレスまたはERストレスシグナル伝達が減少していることは、その化合物が肝疾患の治療に適していることを示す。
【0086】
第5の態様において、本発明は、対象の肝疾患の治療に適した化合物を、特定および/または特徴付けするための方法に関するが、その方法は、
(a)ATF6を発現する第1の細胞と候補化合物を接触させるステップ;および
(b)(i)第1の細胞における、ATF6、特にタンパク質分解的切断を受けたATF6および/または核ATF6のタンパク質またはmRNAの発現、活性、機能および/または安定性;ならびに
(ii)第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答、
を測定するステップを含み、
ここで
(i)候補化合物と接触させた前記第1の細胞において、前記候補化合物と接触させていない前記第1の細胞と比較して、ATF6の発現、活性、機能および/または安定性が低下すること;ならびに
(ii)候補化合物と接触させた第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答を、候補化合物と接触させていない第1の細胞のERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答と比較すること;
は、その候補化合物が、肝疾患の治療に適した化合物であることを示す。
【0087】
前記の態様のスクリーニング方法に使用される候補化合物は、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質、ペプチドミメティック、抗体もしくは抗体様分子(イントラボディ(細胞内抗体)など);DNAもしくはRNAなどの核酸、たとえばアンチセンスDNAもしくはRNA、リボザイム、RNAもしくはDNAアプタマー、siRNA、shRNAなど(ペプチド核酸(PNA)などの、そのバリアントもしくは誘導体を含む);CRISPR/Cas9構築物、および/またはガイドRNA/DNA(gRNA/gDNA)、および/またはtracrRNAなどの標的遺伝子編集用の遺伝子構築物;多糖もしくはオリゴ糖などの炭水化物(そのバリアントもしくは誘導体を含む);脂肪酸などの脂質(そのバリアントもしくは誘導体を含む);または、低分子リガンドもしくは細胞透過性小分子などであるがこれに限らない有機小分子、から選択される化合物とすることができる。
【0088】
このような候補化合物の好ましい例は、具体的には、ERストレスシグナル伝達に対する阻害活性、より詳細にはATF6の発現、機能または安定性に対する阻害活性を発揮することが知られている任意の低分子化合物である。そうした化合物は以前に、たとえば、WO/2019/118785、WO/2019/236710、WO/2019/195810およびWO/2020/176428として公開された国際特許出願のいずれかに記載された。前記の特許公報に開示されたすべての化合物は、参照により本開示に含まれるものとする。
【0089】
上記のような本発明のスクリーニング態様の特定の実施形態において、第1の細胞または無細胞系におけるATF6の(たとえばタンパク質もしくはmRNAの)活性は、直接(たとえば、ATF6タンパク質の抗体検出によって、またはATF6 mRNAのPCRによって)測定することができるが、第1の細胞または第1の無細胞系、特に第1の細胞の細胞質における、細胞質ATF6またはタンパク質分解切断されたATF6、好ましくは核ATF6の存在または量を測定することによって、決定してもよい。たとえば、このような第一の細胞の細胞質ATF6の減少および核ATF6の増加は、こうした細胞におけるATF6の活性を示すことになる。
【0090】
第6の態様において、本発明は、第4または第5の態様のスクリーニングのための方法に使用するためのキット、またはキットの使用に関するが、そのキットは、ERストレスもしくはERストレスシグナル伝達を低減するか、またはATF6の発現、活性、機能および/または安定性を低減すると思われる、選抜された化合物を含む。
【0091】
本明細書に引用されるすべての文献、特許および出版物は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
図面および配列の簡単な説明
図面の説明
【
図1】
図1は、ヒト肝がんにおけるATF6、nATF6発現、およびNK細胞表現型を示す。(A) 2名のHCC患者におけるATF6の発現および局在/活性化に関する代表的な免疫組織染色および定量。スケールバー: 100μm 。(B)異なるnATF6表現型の分布を裏付ける異なるHCC組織マイクロアレイ(TMA)の解析(1つのコホートはそれぞれの番号で示される)。スケールバー:25μm。 (C)選択されたHCC患者のウェスタンブロット分析であって、これは、腫瘍組織(T)ではnATF6が優勢であるが、非腫瘍組織ではnATF6がないか、あってもわずかであることが確認された:統計データ:*: p<0.05、****: p<0.0001。
【
図2】
図2は、Alb-Cre nATF6マウスが肝がん発症リスクの上昇を示すことを明らかにする。(A)Rosa26-nATF6-HA座位を記載したノックイン構築物、およびAlb-Cre nATF6 ORFのストップカセット情報のCre切断による後者の活性化。(B)8ヶ月齢での腫瘍形成を示すAlb-Cre nATF6マウスおよび対照マウスの肝臓の肉眼検査。(C)腫瘍非罹患の肝臓組織におけるウェスタンブロット分析は、ERストレス/UPRマーカーの誘導を示す。(D) Alb-Cre nATF6マウスおよび対照マウスの腫瘍非罹患組織における陽性肝細胞の血清学的検査(ALT、AST)、および免疫組織化学的デンシトメトリー分析。(E) PET-MRIにより、Alb-Cre nATF6マウスでは肝がんが確認されるが、対照マウスでは確認されない(全身および肝臓の断面)。(F) Alb-Cre nATF6マウスおよび対照マウスの12ヶ月齢における腫瘍発生率。
【
図3】
図3は、nATF6+/p, AlbCre+マウスにおける脂質代謝の変化を示す。(上図)トランスジェニックマウスおよびWtマウスの脂肪滴の脂質分析(スーダンレッド)。(下図)肝細胞代謝遺伝子のリアルタイムPCRから、肝細胞の脂質代謝が停止し、その結果、脂肪滴が蓄積していることがわかる。
【
図4】
図4は、HCCとして認定されたAlb-Cre nATF6マウスの腫瘍を示す。(左の画像)さまざまなヒトHCCサブタイプに存在するいくつかのマーカーによる、Alb-Cre nATF6マウスの代表的な腫瘍小結節の肉眼的分析。GP73(糖タンパク質73)、GS(グルタミン合成酵素)は、たとえばウイルス誘発性ヒトHCCに見出すことができるマーカーである。HA:(インフルエンザウイルス赤血球凝集素タグ)は、導入遺伝子の発現を確認する。H&E:ヘマトキシリン/エオシンは、細胞型、核形態、細胞形態、タンパク質沈着を識別する。β-Cat:β-カテニン。AFP:肝細胞の再生、増殖のためのαフェトプロテイン。A6:二方向性分化能を有する前駆細胞のマーカー。Ki67:増殖マーカー。γH2AX:DNA損傷およびDNA損傷応答のマーカー。Coll IV:コラーゲンIV、その発現はHCCでは通常失われる。Cl. Casp.3:アポトーシスマーカー。CK19:胆管細胞のマーカー。スケールバー;350μm。(右の画像)1つの腫瘍小結節の腫瘍辺縁における腫瘍領域を示す挿入図。スケールバー:350μm。
【
図5】
図5は、nATF6によって引き起こされる免疫学的変化を示す。(A)Alb-Cre陰性マウスとAlb-Cre nATF6マウスの、肝臓のサイトカイン/ケモカインアレイは、nATF6 Alb-Cre陽性マウスの肝臓において複数の免疫調節性サイトカイン/ケモカインのアップレギュレーションを示す。(B)nATF6がどのように免疫制御遺伝子を調節し、それによってHCCのTMEを免疫抑制性表現型に導くかについての推定される作用機序(番号1および2はサイトカイン/ケモカインの細胞起源を示す)。
【
図6-1】
図6は、Alb-Cre nATF6マウスの肝臓において、免疫抑制性Treg、炎症性単球およびMDSCが増加することを示す。(A)6ヶ月齢または8ヶ月齢のnATF6 Alb-Cre陰性マウス(塗りつぶし三角形)とnATF6 Alb-Cre陽性マウス(塗りつぶし菱形)の肝臓におけるさまざまな免疫細胞サブセットのフローサイトメトリーに基づく定量。(B)6ヶ月齢または8ヶ月齢のAlb-Cre nATF6マウス(右側バー)と対照マウス(左側バー)の肝臓におけるCD3+ T細胞およびF480+マクロファージのIHCに基づく定量(下パネルは定量を、上パネルは染色を示す)。統計データ: *: p<0.05、**: p<0.01。
【
図7-1】
図7は、8週齢のAlb-Cre ATF6トランスジェニックマウスの肝臓ホモジネートの、1H NMR-メタボローム解析による代謝解析を示す。(A)アミノ酸代謝の解析は、ベタインおよびグルタチオンの変化を明らかにする。(B)グルコース代謝の変化(Cで拡大して示す)。相対的変化を倍数変化で表示した。表示された分析結果はすべて、統計的に有意である(p<0.05)。
【
図8-1】
図8は、ATF6の肝細胞特異的阻害が有効であり、NASHによる肝障害を軽減し、肝がんの発生を阻害することを示す。(A)肝臓組織においてATF6を肝細胞特異的に欠失したマウスを特定するための、尾組織から単離されたゲノムDNAのPCR。番号123-129は個々のマウスを表す。d/d:d=欠失。最初のATF6loxP/loxPマウス樹立系統由来の対照。WT:インタークロス系統(Alb-Cre)由来のATF6野生型。+/d:樹立系統(ATF6loxP/loxP)由来のATF6の1つのアレル、野生型マウス(C57BL/6J)由来の1つのアレル。w/f:インタークロスマウス(Alb-Cre)由来のATF6に対するloxP導入/wtアレル。(B)対照および肝細胞特異的ノックアウトの肝臓におけるATF6発現の免疫組織化学的検査。WTまたは肝細胞特異的欠失マウスの肝臓では、非実質細胞にわずかなATF6発現が見られるのみである。(C)NASHの慢性モデルにおける肝障害の軽減。WD:西洋食。(D)腫瘍のある肝臓および腫瘍のない肝臓の肉眼検査。肝腫瘍小結節を矢印で示す。(E):WTまたは肝細胞特異的欠失マウスにおける腫瘍発生率。統計データ:**:p<0.01、***: p<0.001。
【
図9-1】
図9は、免疫チェックポイント阻害が、マウスにおいてATF6活性化により生じる腫瘍組織量を減らすことを示す。AおよびB:9ヶ月齢の標記マウス群から得られた代表的な肝臓の画像。C:nATF6
tg/wtPDCD1
+/+マウスとnATF6
tg/wtPDCD1
-/-マウスとの間の腫瘍サイズの比較であるが、雄マウス(左パネル)および雌マウス(右パネル)は分けられている。D:nATF6
tg/wtPDCD1
+/+マウスとnATF6
tg/wtPDCD1
-/-マウスとの間の、肝臓あたりの腫瘍数の比較であるが、雄マウス(左パネル)および雌マウス(右パネル)は分けられている。E:nATF6
tg/wtPDCD1
+/+マウスとnATF6
tg/wtPDCD1
-/-マウスとの間の、体重に対する肝臓の割合を比較するものであるが、雄マウス(左パネル)および雌マウス(右パネル)は分けられている。すべてのデータは平均値±SEMで示した;雄群において、nATF6
tg/wtPDCD1
+/+マウスではn=5、nATF6
tg/wtPDCD1
-/-マウスではn=3である。雌群において、nATF6
tg/wtPDCD1
+/+マウスではn=9、nATF6
tg/wtPDCD1
-/-マウスではn=5である。すべてのデータは、対応のないT検定で分析した。p値は、*、*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001として表される。
【発明を実施するための形態】
【0093】
以下に配列を示す。
配列番号1は、ヒトATF6のアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0094】
次に、本発明の特定の態様および実施形態を、実施例によって、本明細書に記載された説明、図および表を参考に説明する。本発明の方法、使用および他の態様に関するそのような実施例は、ただ代表的であるだけであって、本発明の範囲をそのような代表例にのみ限定すると受け取られるべきではない。
【0095】
以下に実施例を示す。
【0096】
実施例1:ATF6発現および慢性ERストレスは肝がんを促進する
ヒトの慢性肝炎(たとえば、ウイルス性および非ウイルス性)および肝がんにおけるATF6発現に関する初期の研究により、2つの重要な知見が明らかになった:第一に、ATF6の切断、およびそれに続くATF6の核への移行(nATF6)によるERストレス経路の活性化は、慢性炎症組織、ならびにHCC、CCC、および混合型HCC/CCC患者の腫瘍組織で見られるが、健康な肝臓組織にはほとんど見られない。HCCの腫瘍組織におけるnATF6の発現および活性化パターンは不均一であり、それは、活性化され切断されたnATF6に基づく患者/腫瘍の治療層別化の可能性を示唆する(
図1)。本発明者らは、発症前マウスモデルおよびヒト肝癌のいずれにおいても、ERストレス/nATF6系が、脂肪性肝疾患につながる免疫系の変化、NASHおよび免疫回避、免疫抑制の一因となる可能性があると仮定した。
【0097】
特に、マウスモデルにおいて、アルブミン産生肝細胞におけるnATF6の肝細胞特異的発現(nATF6-HA Alb-Creマウス、さらにAlb-Cre nATF6と表記)は、肝障害の進行(たとえば、ALT、AST、切断されたカスパーゼ3)、脂肪性肝疾患(脂肪滴)、肝細胞の過剰増殖(Ki67)、およびERストレスの徴候をもたらし、その結果として肝がん発症リスクの猛烈な上昇を引き起こす(
図2A-Fおよび
図3)。肝がん小結節は、不均一な外観、ならびに異なる大きさおよび数を示し(
図2B)、肝腫瘍は大部分が、nATF6を有する肝細胞で構成された(>95%;
図4;インフルエンザウイルスヘマグルチニンタグ染色で明らかになった)。特に、Alb-Cre nATF6マウスで観察されたERストレスは、対照と比較して、肝臓において複数の免疫制御ケモカインおよびサイトカインを誘発し、炎症促進性または免疫抑制性であるとされた(
図4)。これらの知見は、ATF6の発現および慢性的なERストレスが、免疫抑制性、炎症促進性の腫瘍微小環境(TME)により肝がんを進ませることを示し、肝がんにおけるプロトオンコジーンnATF6と免疫逃避との間の機能的関連性という着想を裏付けた(
図5Bに示す)。
【0098】
実施例2:Alb-Cre nATF6マウスはHCCモデルとしての適している
その後Alb-Cre nATF6マウスの腫瘍が真のHCCまたはiCCとして認められるかどうかを検討したが、そのために、本発明者らは、10ヶ月齢においてAlb-Cre nATF6マウスで認められるが対照マウス(C57Bl/6J)には見られない腫瘍の詳細な組織学的解析を実施した。特に、本発明者らは、これらの腫瘍をヒトHCCと比較して、マウス腫瘍がヒトHCCに見られる特徴と類似していることを実際に明示し、Alb-Cre nATF6マウスが肝がんの有益な発症前マウスモデルであることを確認した。Alb-Cre nATF6マウスでは、まれにHCC/iCC混合型腫瘍が観察され、肝内転移を示す大小多数の腫瘍小結節も観察された。また、腫瘍小結節の外側/近傍に強い細胆管反応が観察されたが、これは、慢性的な組織損傷(たとえば、ERストレスを介するもの)を示すものであり、HCC/iCC混合型腫瘍の出現の考えうる原因を示している(
図4)。
【0099】
実施例3:核ATF6はHCCにおいて免疫抑制的環境を生じさせる
注目すべきは、肝障害の昂進、ならびに肝細胞増殖およびDNA損傷の増加(
図4)に加えて、Alb-Cre nATF6肝組織(腫瘍非罹患)の肝免疫ランドスケープに著しい変化が観察されたことである。これは、生後3か月齢を超えるとすでに、ケモカインおよびサイトカインの発現の変化によって、タンパク質レベルでもっともよく特徴付けられた(
図5A)。もっとも顕著な変化は、肝内骨髄系細胞集団に影響を及ぼすケモカイン(たとえば、CCL5、CCL2など-骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)のホーミングに影響する)、接着分子V-CAMおよびI-CAM、ならびに免疫抑制に関与する分子(たとえば、リポカリン;ステロイド誘発免疫抑制に関与する;IGFBP1)であった。
【0100】
これらのデータおよび以下に示すデータによれば、nATF6の機能は、肝臓の微小環境を免疫抑制状態に向けて総合的に調整している。したがって、慢性的なnATF6の発現は、有効な抗腫瘍免疫応答がないために、腫瘍形成を容易にし、肝臓の炎症性の環境のみならず代謝環境も変化させる(
図7を参照のこと)。そのため、nATF6の機能を治療的または遺伝的に抑制することで、より効果的な抗腫瘍免疫応答を高めることができる可能性がある。さらに、異なる免疫治療処置と組み合わせて、後者を増強することができる可能性さえあり、こうした治療には、抗PD1関連免疫療法があるが、最近FDAで承認されたアテゾリズマブ(抗PDL1)とベバシズマブ(抗VEGF)の併用療法(
図5B)も含まれる。
【0101】
図5に示されたデータは、Alb-Cre nATF6マウスおよび対照マウスの肝内免疫細胞のフローサイトメトリー解析によって、さらに実証された。また、本発明者らは、Alb-Cre nATF6マウスに関連して、肝内免疫細胞の局所分布に関する知見を得るために、T細胞、骨髄系細胞、および他の細胞型の組織学的解析を行った。6ヶ月齢または8ヶ月齢のnATF6 Alb-Cre陰性マウスとAlb-Cre nATF6マウスの肝臓における免疫細胞浸潤の特徴から、CD8
+PD1
+ T細胞、免疫抑制性制御T細胞(Treg)、NKおよびNKT細胞、ならびにMDSCの増加が明らかとなった(
図5A)。免疫組織化学的検査で示されるように、総CD3
+細胞およびマクロファージ(F4/80
+)の増加傾向も見られた(
図6B)。
【0102】
上記の結果から、慢性肝炎および肝がん患者の肝細胞において、増加した、慢性的にnATF6の発現がみられ、そうした患者のうちの数人では腫瘍内に高度に認められることがわかる。nATF6の発現は、ERストレス、DNA損傷の上昇をもたらし、肝臓のサイトカインプロファイルの重大な変化を引き起こす。後者は、免疫細胞浸潤の質を変化させ、Alb-Cre nATF6マウスでは免疫寛容原性免疫細胞の肝内蓄積が増加し、最終的に肝がんに至る。異常な、慢性的なnATF6の発現、および肝臓の免疫細胞浸潤の変化は、発症前マウスモデルおよびヒト肝がんにおけるHCC(肝細胞癌)の発症に関連している。
【0103】
実施例4:慢性的に持続する核ATF6は代謝障害を引き起こす
代謝の変化は、免疫抑制環境をサポートする重要な特徴である。そこで、Alb-Cre nATF6肝細胞におけるnATF6の慢性的な活性化が、免疫抑制的で発がん促進性の環境を支える代謝障害を引き起こすかどうかを検討した。したがって、本発明者らは、Alb-Cre ATF6トランスジェニックマウスおよび対照マウスの肝臓組織について、経時的解析で、ハイスループット解析として、マウス肝臓極性代謝物の1H NMR-メタボロミクス解析を行った。初期のデータが明確に示すように、Alb-Cre ATF6トランスジェニックマウスの肝臓では、アミノ酸代謝もグルコース代謝も、生後早い時点(3ヶ月齢)ですでに大きく変化していた。驚くべきことに、この時点では、肝組織に大きな肉眼的変化は見られなかったが、このことは、これらの変化がnATF6の発現に直接関連していることを示唆する(
図7)。特に、最初の解析は、ベタインおよびグルタチオンの急激な変化を示すが、それは、MDSC活性に影響を与えてCD8+ T細胞の機能を効果的に抑制することが知られている
[15]。さらに、グルコース代謝の強い変化が観察されたが、これは、適応免疫および自然免疫細胞の挙動も変化させる増殖促進環境を裏付けるものである。
【0104】
実施例5:ATF6の阻害はin vivoで腫瘍形成を抑制する
しかしながら、肝細胞のATF6機能を治療により阻害する、または遺伝的に阻害することが、(i)肝がんにおいて免疫抑制作用のブロックに結びつくこと、および(ii)したがって免疫抑制的な腫瘍微小環境(TME)に介入する戦略の基礎として使用できること、を裏付けるために、本発明者らは、肝細胞において特異的にATF6をノックアウトすることに取り組んだ(Alb-Cre-ATF6
loxP/loxP)。そのために、発症前の自然発症マウスモデル
[16]において(NASH食;WD:西洋食により)肝がんを誘発し、肝細胞のATF6を抑制することで腫瘍形成を抑制できるかどうかを経時的に検証した。注目すべきは、肝細胞に特異的なATF6の欠失が、mRNAレベルでは90%を上回る効果を生じ、タンパク質レベルでも非常に有効であったことを示すデータである(
図8)。この欠失は、Alb-Cre- ATF6
loxP/loxPマウスにおいて、肝障害の減少、およびNASH誘発肝がん発症の抑制をもたらした(規定食9ヶ月後50%): Alb-Cre- ATF6
loxP/loxPマウスが4/8に腫瘍を発症しているのに対し、0/8 Alb-Cre- ATF6
loxP/loxPがHCCを発症した。
【0105】
このことは、nATF6に関連した肝障害およびがんの形成が、さまざまなメカニズム(たとえば、NK、NKT細胞の変化、代謝の再プログラミング、MDSCの誘引)を通じて免疫抑制を引き起こす肝臓の腫瘍微小環境(TME)の直接的および間接的変化と関連していることを示している。
【0106】
実施例6:免疫チェックポイント阻害はマウスにおいてATF6活性化によって誘導される腫瘍組織量を軽減する
実施例2のAlb-Cre nATF6マウスは、肝がんの有用な発症前マウスモデルである。したがって、本発明者らは、nATF6誘導肝腫瘍に対する免疫チェックポイント療法の効果を検証した。結果は、Alb-Cre nATF6マウスをPD1遺伝子ノックアウトと組み合わせた
図9に示す。興味深いことに、
図9は、PD1/PDL1阻害バックグラウンドにおいて、腫瘍のサイズ、数、および肝重量が有意に減少したことを示し、そのことは、nATF6誘導肝腫瘍において治療または予防のために免疫チェックポイント阻害剤を使用し、ATF6/nATF6の阻害剤とPD1/PDL1阻害剤などの免疫チェックポイント阻害剤とを組み合わせることもできれば、肝がんの治療に役立つことを示している。
【0107】
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の肝疾患の治療または予防に使用するための小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤
を含む医薬組成物であって、前記阻害剤
は、対象に投与さ
れ、それによって対象の細胞における小胞体(ER)ストレスシグナル伝達を減少させ、または阻害する
、医薬組成物。
【請求項2】
前記阻害剤が、活性化転写因子6α(ATF6)の阻害剤であって、ATF6または核ATF6(nATF6)の発現、安定性、オルガネラ移行(たとえば、ゴルジ体から小胞体への移行)、活性化、および/または機能を、阻害または低減するATF6の阻害剤である、請求項1に記載の
医薬組成物。
【請求項3】
前記阻害剤が、ATF6の核内濃度を低下させ、たとえば、細胞内での核へのATF6の移行、好ましくはゴルジ体にあるATF6の核への移行を減少させる、請求項1または2に記載の
医薬組成物。
【請求項4】
肝疾患が、脂肪肝;肝細胞の過剰増殖(肝がん);炎症促進性もしくは免疫抑制性ケモカインの発現;制御性T細胞(TREG)などの免疫抑制細胞、単球などの炎症促進性免疫細胞、および骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の存在;のいずれか一つまたはそれらの組み合わせと関連している、請求項1~3のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項5】
肝疾患が、脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変または肝細胞がん(HCC)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項6】
プロテアーゼ阻害剤のような、膜結合ATF6のタンパク質分解切断の阻害剤、たとえばサイト2プロテアーゼ(S2P)の阻害剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項7】
治療が、肝疾患の進行、たとえばNAFLD/NASHの肝硬変への進行の、抑制、停止、または逆行であり、好ましくはNASHの肝細胞がん(HCC)への進行の抑制、停止、または逆行である、請求項1~6のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項8】
治療が、肝硬変および/またはHCCを発症するリスクのあるNASH患者におけるHCCの予防である、請求項1~7のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項9】
治療が、糖尿病患者、肥満患者、またはメタボリックシンドロームもしくは別の代謝性疾患を有する患者などの、NASHを発症するリスクのある患者において実施される、請求項1~8のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項10】
治療が、治療上有効な量の免疫チェックポイント阻害剤を対象に投与することをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の
医薬組成物。
【請求項11】
免疫チェックポイント阻害剤がPD1/PDL1の阻害剤である、請求項10に記載の
医薬組成物。
【請求項12】
対象の肝がんの治療に使用するための免疫チェックポイント阻害剤
を含む医薬組成物であって、前記対象が、健康な肝臓と比較してATF6発現の増加した、好ましくは核ATF6レベルの増加した、肝臓および/または肝腫瘍を有するという特徴を有する、
医薬組成物。
【請求項13】
治療が、請求項1~11のいずれか1項に記載の小胞体(ER)ストレスシグナル伝達の阻害剤の投与をさらに含む、請求項12に記載の
医薬組成物。
【請求項14】
免疫チェックポイント阻害剤がPD1/PDL1の阻害剤である、請求項11または12に記載の
医薬組成物。
【請求項15】
対象の肝疾患の治療に使用するための医薬組成物であって、請求項1~14のいずれか1項に記載された阻害剤、および製薬上許容される担体および/または賦形剤を含み、前記治療は、対象に医薬組成物を投与することを含む、医薬組成物。
【請求項16】
対象が肝疾患を有するか、または肝疾患を発症するリスクがあるかどうかを判定するための方法であって、前記方法が:
(a)前記対象の生体試料において、適当なバイオマーカーを検出するステップであって、前記試料中の適当なバイオマーカーの検出は、肝疾患の発症に関連する表現型を示すか、または表現型を発現するリスクを示し;かつ、
前記適当なバイオマーカーは、
- ATF6、具体的には、ATF6、好ましくは核ATF6の存在(もしくは量)または発現および/または活性;
- ERストレスまたはERストレスシグナル伝達
からなる一群から選択される、
ステップを含む、
方法。
【請求項17】
生体試料が、対象の細胞もしくは組織、またはそのような細胞もしくは組織の抽出物を含み、具体的には、そのような細胞は、(通常は、典型的には、もしくは場合によっては)肝疾患に関与する細胞(たとえば、肝細胞、またはHCC細胞などの腫瘍細胞)、または肝疾患の疑いのある特定の対象の細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
対象の肝疾患の治療に適した化合物を、特定および/または特徴付けするための方法であって、前記方法が、
(i)肝細胞を提供するステップ、
(ii)肝細胞においてERストレスまたはERストレスシグナル伝達を誘導するステップ、
(iii)(ii)の細胞を候補化合物と接触させるステップ、
を含み、
ここで、対照と比較して、細胞におけるERストレスまたはERストレスシグナル伝達が減少していることは、前記化合物が肝疾患の治療に適していることを示すものである、
方法。
【請求項19】
対象の肝疾患の治療に適した化合物を、特定および/または特徴付けするための方法であって、前記方法が、
(a)ATF6を発現する第1の細胞と候補化合物を接触させるステップ;および
(b)(i)第1の細胞における、ATF6、特にタンパク質分解的切断を受けたATF6、および/または核ATF6の、タンパク質またはmRNAの発現、活性、機能および/または安定性;ならびに
(ii)第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答、
を測定するステップ
を含み、
ここで:
(i)候補化合物と接触させた前記第1の細胞において、前記候補化合物と接触させていない前記第1の細胞と比較して、ATF6の発現、活性、機能および/または安定性が低下すること;ならびに
(ii)候補化合物と接触させた第1の細胞におけるERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答を、候補化合物と接触させていない第1の細胞のERストレスシグナル伝達、もしくはERストレス応答と比較すること;
は、その候補化合物が、肝疾患の治療に適した化合物であることを示すものである、
方法。
【請求項20】
請求項18または19に記載の方法に使用するためのキットであって、前記キットが、ERストレスもしくはERストレスシグナル伝達を低減するか、またはATF6の発現、活性、機能および/または安定性を低減すると思われる、選抜された化合物を含む、キット。
【国際調査報告】