IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ショット アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

特表2023-550922少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法
<>
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図1
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図2
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図3
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図4
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図5
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図6
  • 特表-少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】少なくとも2つの導電性材料を含む導電性多孔質焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/14 20060101AFI20231129BHJP
   H05B 3/42 20060101ALI20231129BHJP
   A24F 40/44 20200101ALI20231129BHJP
【FI】
H05B3/14
H05B3/14 A
H05B3/42
A24F40/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530208
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2021082291
(87)【国際公開番号】W WO2022106612
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】102020130560.5
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ダン クォン ファン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス リント
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ベーアホアスト
【テーマコード(参考)】
3K092
4B162
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QA01
3K092QB02
3K092QB17
3K092QB18
3K092QB21
3K092QB24
3K092QB74
3K092QB76
4B162AA06
4B162AA22
4B162AB14
4B162AB28
4B162AC18
4B162AC27
(57)【要約】
本発明は、多孔質焼結体を含む気化体であって、焼結体は、少なくとも1つの第1の導電性材料と、少なくとも1つの第2の導電性材料と、少なくとも1つの誘電性材料とのコンポジットにより形成されている、気化体に関する。焼結体は、10~90%の範囲の開気孔率を有し、誘電性材料は、ガラス、結晶化可能なガラスおよび/またはガラスセラミックの群から選択される。第1の導電性材料は、第2の導電性材料よりも低い導電率を有する。コンポジット中の誘電性材料の割合は、5~70体積%であり、コンポジット中の第1の導電性材料の割合は、10~90体積%であり、第2の導電性材料の割合は、5~50体積%であり、焼結体は、0.1~10S/mの範囲の導電率を有する。本発明はさらに、焼結体の製造方法および気化体における多孔質焼結体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質焼結体を含む気化体であって、前記焼結体は、少なくとも1つの第1の導電性材料と、少なくとも1つの第2の導電性材料と、少なくとも1つの誘電性材料とのコンポジットにより形成されており、前記焼結体は、10~90%の範囲の開気孔率を有し、
前記誘電性材料は、ガラス、結晶化可能なガラス、ガラスセラミック、セラミック、プラスチックおよびそれらの組み合わせの群から選択され、前記第1の導電性材料は、前記第2の導電性材料よりも低い導電率を有し、
前記コンポジット中の誘電性材料の割合は、5~70体積%であり、前記コンポジット中の第1の導電性材料の割合は、10~90体積%であり、第2の導電性材料の割合は、5~50体積%であり、
前記焼結体は、0.1~10S/mの範囲の導電率を有する、気化体。
【請求項2】
以下の特徴:
- 前記第1の導電性材料の割合が、40~90体積%、特に好ましくは55~75体積%である、
- 前記コンポジット中の前記第2の導電性材料の割合が、5~50体積%、好ましくは15~30体積%である、
- 前記導電性材料の全割合が、30~95体積%、好ましくは40~90体積%である、
- 前記第1の導電性材料が、最大で30S/μm、好ましくは最大で20S/μm、特に好ましくは0.001~10S/μmの導電率を有する、
- 前記第2の導電性材料が、10S/μm超、好ましくは20S/μm超、特に好ましくは30S/μm超、非常に特に好ましくは最大で70S/μmの導電率を有する、
- 前記導電性材料のうちの少なくとも1つが、正の温度係数を有する抵抗を有する、
- 前記焼結体が、少なくとも-0.0001 1/Kおよび/または0.008 1/K未満の抵抗の温度係数を有する導電性材料を含む
のうち少なくとも1つを特徴とする、請求項1記載の気化体。
【請求項3】
前記気化体、好ましくは前記焼結体が、0.05~5オーム、好ましくは0.1~5オームの範囲の電気抵抗を有し、前記気化体が、1~12Vの範囲の電圧を有し、および/または1~500W、好ましくは1~300W、特に好ましくは1~150Wの加熱電力で運転される、請求項1または2記載の気化体。
【請求項4】
前記焼結体が、第1の導電性材料として、チタン、クロム、鋼、鉄、モリブデン、タングステン、マンガン、ニッケル、銅および/もしくはケイ素、それらの混合物もしくはそれらの合金、好ましくは特殊鋼、特に好ましくは不銹性特殊鋼を含み、かつ/または第2の導電性材料として、アルミニウム、銅、白金、金および/もしくは銀、それらの混合物もしくはそれらの合金を含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の気化体。
【請求項5】
前記焼結体が、導電性コーティングをさらに有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の気化体。
【請求項6】
以下の特徴:
- 前記焼結体中の前記第1および/または第2の導電性材料の粒子が、0.1μm~1000μmの範囲、有利には1~300μmの範囲、特に好ましくは1~150μmの範囲の粒径d50を有する、
- 前記第1および/または第2の導電性材料の前記粒子、好ましくは少なくとも前記第2の導電性材料の前記粒子が、小片状に形成されている、
- 前記第1および/または第2の導電性材料の前記粒子、好ましくは少なくとも前記第2の導電性材料の前記粒子が、最大厚さdmaxおよび最大長さlmaxを有し、ここで、dmax<lmax、特に好ましくは2dmax<lmax、非常に特に好ましくは7dmax<lmaxが成り立つ、
- 前記焼結体の開気孔が、1μm~5000μmの範囲、好ましくは50~800μm、特に好ましくは100~600μmの範囲の平均孔径を有する
のうち少なくとも1つを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の気化体。
【請求項7】
前記焼結体が、少なくとも1つの誘電性材料としてガラスを含むかまたはそれからなり、好ましくは、以下の特徴:
- アルカリ含有量が≦15重量%であり、特に好ましくはアルカリ含有量が≦6重量%であるガラス、
- 網目形成剤の割合が少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも70重量%であり、変態温度Tが300~900℃、好ましくは500~800℃の範囲である、
- (ISO 719に準拠して測定した場合に)クラス3の耐水性を示し、好ましくはクラス1または2の耐水性を示す
のうち少なくとも1つを有するガラスを含むかまたはそれからなる、請求項1から6までのいずれか1項記載の気化体。
【請求項8】
前記ガラスがホウケイ酸ガラスであり、好ましくは以下の成分
【表1】
を含むホウケイ酸ガラスである、請求項1から7までのいずれか1項記載の気化体。
【請求項9】
電子タバコ、医療用吸入器、フレグランスディスペンサー、室内加湿器の部材としての、殺菌のための、またはガスの加熱のための、請求項1から8までのいずれか1項記載の気化体の使用。
【請求項10】
気化体の製造方法、特に請求項1記載の気化体の製造方法であって、少なくとも以下:
a)第1の導電性材料、第2の導電性材料および誘電性材料を粉末状で提供するプロセスステップと、
b)前記ステップa)で提供された粉末を、少なくとも1つの気孔形成剤と混合するプロセスステップと、
c)前記ステップb)で提供された粉末混合物から、加圧、鋳込みまたは押出によって未焼結体を生成するプロセスステップと、
d)前記ステップc)で生成された未焼結体を焼結温度T焼結で焼結するプロセスステップと
を含む、方法。
【請求項11】
以下の特徴:
- 前記ステップa)で提供された前記誘電性材料が、ガラス、結晶化可能なガラスまたはガラスセラミックを含み、前記第1の導電性材料が、融点T溶融を有し、ここで、T溶融>T焼結が成り立ち、前記ステップa)で提供された粉末中の前記第1の導電性材料の割合が、10~90体積%であり、前記ステップa)で提供された粉末中の前記第2の導電性材料の割合が、5~50体積%であり、前記ステップa)で提供された粉末中の前記誘電性材料の割合が、5~70体積%である、
- 前記ステップa)で、気孔形成剤として、その分解温度T分解および/または気化温度T気化が前記誘電性材料の前記焼結温度T焼結を下回る材料を加え、前記ステップc)で得られた前記未焼結体を、ステップd)の前に温度Tに加熱し、前記温度Tが、前記気孔形成剤の前記分解温度および/または前記気化温度を上回り、Tが、前記焼結温度T焼結より低い、
- 前記ステップa)で、前記第1の導電性材料の割合が、10~90体積%、好ましくは55~75体積%であり、前記第2の導電性材料の割合が、5~50体積%であり、前記第1および第2の導電性材料の全含有量が、30~95体積%である、
- 前記ステップa)で、前記誘電性材料の割合が、5~70体積%である
のうち少なくとも1つを有する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記気孔形成剤が、分解温度T分解および/または気化温度T気化を有し、前記分解温度T分解および/または気化温度T気化は、前記焼結温度T焼結よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃、特に好ましくは少なくとも100℃低く、かつ/または前記誘電性材料の接合温度T接合よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃低く、かつ/または前記ステップb)で提供された混合物中の前記気孔形成剤の割合が、40~80体積%である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第1の導電性材料の溶融温度T融点が、前記誘電性材料の前記接合温度T接合よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃、特に好ましくは少なくとも100℃高い、請求項10から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記ステップd)の後のステップe)で、前記焼結体に後加工、好ましくは研削、穿孔、研磨、ミリングおよび/もしくは旋削加工を施し、かつ/または前記ステップd)の後のおよび/もしくは前記ステップe)の後のステップf)で、前記焼結体に電気的接触を、好ましくは導電性ペーストの施与または導体のはんだ付けにより施す、請求項10から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記ステップa)で、誘電性材料として、ガラス、好ましくはアルカリ含有量が<15重量%であるガラス、特に好ましくはホウケイ酸ガラスを提供し、第1の導電性材料として、チタン、鉄、クロム、タングステン、モリブデン、鋼、好ましくは特殊鋼、それらの合金および/もしくはケイ素を提供し、かつ/または第2の導電性材料として、アルミニウム、銅、銀、金、白金および/もしくはそれらの合金を提供する、請求項10から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記ステップa)で提供された前記導電性材料の粒子が、小片状に形成されており、最大厚さdmaxおよび最大長さlmaxを有し、ここで、dmax<lmax、特に好ましくは2dmax<lmaxが成り立ち、かつ/または前記ステップa)で提供された前記誘電性材料の粒子が、0.1~1000μm、好ましくは1~200μm、特に好ましくは1~10μmの範囲の平均粒径および/または1000μm未満、好ましくは200μm未満の粒径を有する、請求項10から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記焼結体に、前記プロセスステップd)の後のステップh)で、導電性コーティングを好ましくはゾルゲル法またはCVD法によって施与する、請求項10から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
多孔質焼結体、特に請求項1から11までのいずれか1項記載の気化体用の多孔質焼結体であって、前記焼結体は、少なくとも1つの第1の導電性材料と、少なくとも1つの第2の導電性材料と、少なくとも1つの誘電性材料とのコンポジットにより形成されており、前記焼結体は、10~90%の範囲の開気孔率を有し、前記誘電性材料は、ガラス、結晶化可能なガラスおよび/またはガラスセラミックの群から選択され、前記第1の導電性材料は、前記第2の導電性材料よりも低い導電率を有し、前記コンポジット中の誘電性材料の割合は、5~70体積%であり、前記コンポジット中の第1の導電性材料の割合は、10~90体積%であり、第2の導電性材料の割合は、5~50体積%であり、前記焼結体は、0.1~10S/mの範囲の導電率を有する、焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、導電性多孔質焼結体に関する。より具体的には、本発明は、気化可能な物質の貯蔵および制御放出用の、液体貯蔵体あるいは液体バッファと加熱ユニットとを備えた気化体ユニットに関する。気化体ユニットは、ここで特に、電子タバコ、薬剤投与装置、室内加湿器および/または加熱式蒸発器において使用することができる。蒸発器は、ここで、物質をガス、蒸気および/またはエアロゾルの形態で、気相に、例えば室内の空気に供給、放出および/または分配するための装置であってよい。物質としては、例えば、フレグランス物質や有効成分、特に昆虫忌避剤を使用することができる。
【0002】
電子タバコ(以下、Eシガレットともいう)または例えば電気パイプやシーシャなどの類似のデバイスは、タバコの代替品としてますます使用されている。典型的には、電子タバコは、マウスピースと、気化体ユニットと、気化体ユニットに作動可能に接続された電源とを備える。気化体ユニットは、加熱要素に接続された液体貯蔵体を備える。
【0003】
ある種の薬剤、特に呼吸器系および/または口腔粘膜および/または鼻粘膜の治療用の薬剤は、有利には、ガス状または気化した形態で、例えばエアロゾルとして投与される。本発明による気化体は、このような薬剤の貯蔵および放出に、特にこのような薬剤の投与装置において使用することができる。
【0004】
熱加熱式蒸発器は、雰囲気にフレグランス物質を付与するためにますます使用されている。これは、特にバー、ホテルのロビーおよび/または車両の内装、例えば自動車の内装、特に乗用車の内装であってよい。この場合に使用される気化体ユニットでも、液体貯蔵体が加熱要素に接続されている。液体貯蔵体には液体が入っており、この液体は、通常は例えばプロピレングリコールやグリセリンなどのキャリア液体であり、この中に、フレグランス物質およびアロマ物質などの添加物および/またはニコチンおよび/または薬剤が溶解され、かつ/または全般的に含まれている。キャリア液体は、液体貯蔵体の内面に吸着プロセスによって結合される。必要に応じて、液体貯蔵体に液体を供給するために別個の液体受器が設けられている。
【0005】
総じて、液体貯蔵体に貯蔵された液体が加熱要素の加熱により気化し、液体貯蔵体の接液面から脱離し、これを使用者が吸入することができる。この場合、200℃を超える温度に達することがある。
【0006】
そのため、液体貯蔵体あるいは液体バッファは、高い吸収性および高い吸着効果が求められると同時に、高温で迅速に液体を放出あるいは輸送する必要がある。
【0007】
先行技術から、液体貯蔵体または芯として使用するための様々な材料が知られている。例えば、液体貯蔵体または芯を、多孔質または繊維状の有機ポリマーによって形成することができる。対応する部材は、確かに非常に容易に製造できるが、この場合、例えば部材の空運転により、ポリマー材料が過度に高度に加熱されて分解する危険性がある。これは、液体貯蔵体あるいは芯、ひいては気化体ユニットの耐用年数に有害な影響を及ぼすだけでなく、気化させる流体、またはさらには液体貯蔵体の分解生成物が放出されて、これを使用者が吸い込む危険性もある。
【0008】
先行技術から、有機ポリマーから構成される多孔質液体貯蔵体を備えた電子タバコが知られている。したがって、ポリマー材料の温度安定性が低いため、加熱要素と液体貯蔵体との間の最小距離を維持する必要性がある。これは、気化体ユニット、ひいては電子タバコのコンパクトな設計を妨げるものである。最小距離を維持する代わりに、気化させる液体を毛管現象によって加熱コイルに導く芯を使用することができる。この芯は、通常、ガラス繊維で構成されている。これは確かに温度安定性が高いが、個々のガラス繊維が破損し易い。また、液体貯蔵体自体もガラス繊維から製造されている場合にも同様のことがいえる。したがって、使用者が緩んだまたは溶けた繊維の破片を吸い込むリスクがある。また、セルロース繊維、木綿または竹繊維で構成された芯を使用することもできる。これらは、確かにガラス繊維から構成される芯に比べて破損の危険性は低いが、温度安定性に劣る。
【0009】
そのため、液体貯蔵体が多孔質ガラスまたはセラミックからなる気化体ユニットも使用されている。これらの液体貯蔵体は温度安定性が高いため、気化体、ひいては電子タバコ全体をも、よりコンパクトな構造とすることができる。
【0010】
実際には、局所的な気化は、低圧と高温との組み合わせによって達成することができる。電子タバコの場合、低圧は、例えば消費時にタバコを吸う際の吸引力によって実現され、したがって、圧力は消費者によって調節される。液体貯蔵体における気化に必要な温度は、加熱ユニットによって生成される。この場合、迅速な気化を保証するために、通常は200℃超の温度が達成される。
【0011】
加熱電力は、通常、電池またはアキュムレータで動作する電熱コイルによって提供される。必要な加熱電力は、この場合、気化させる体積および加熱の効率に依存する。過度に高い温度による液体の分解を避けるため、加熱コイルから液体への熱輸送を、非接触の輻射によって行うことが望ましい。このため、加熱コイルを気化面にできるだけ近づけるが、触れないようにすることが好ましい。一方で、コイルが表面に触れると、液体はしばしば過熱され、分解される。
【0012】
しかし、非接触の輻射による熱輸送の場合にも、表面の過熱は起こり得る。過熱は通常、加熱コイルに対向する気化体の表面で局所的に発生する。このことは、運転中に大量の蒸気が必要とされ、気化体表面への液体輸送が十分に迅速でない場合に生じる。したがって、加熱要素からのエネルギー供給が気化に消費されず、表面が乾燥し、気化温度をはるかに超える温度にまで局所的に加熱されることがあり、かつ/または液体貯蔵体の温度安定性を超えてしまう。したがって、正確な温度調整および/または温度制御が不可欠である。しかし、この場合の欠点は、これにより得られる電子タバコの構造が複雑となる点にあり、これは、特に高い製造コストの形で現れる。さらに、場合によっては、温度制御によって、蒸気発生量、ひいては最大限可能な気化強度が低下する。
【0013】
欧州特許出願公開第2764783号明細書には、焼結材料から構成される多孔質液体貯蔵体を備えた気化体を備えた電子タバコが記載されている。加熱要素は、加熱コイルまたは導電性コーティングとして形成されていてよく、その際、コーティングは、液体貯蔵体の外面の一部にのみ堆積されている。したがって、この場合も気化が局所的に制限される。
【0014】
米国特許出願公開第2011/0226236号明細書には、液体貯蔵体と加熱要素とが材料結合によって互いに接続された吸入器が記載されている。液体貯蔵体および加熱要素は、この場合、平坦な複合材料を形成している。液体貯蔵体は、例えば開気孔焼結体から構成され、芯として機能し、気化させる液体を加熱要素に導く。加熱要素は、この場合、液体貯蔵体の表面のうちの1つに、例えばコーティングの形で施与されている。したがって、この場合にも気化は表面で局所的に行われるため、同様に過熱の危険性がある。
【0015】
この問題を回避するために、液体貯蔵体の表面だけでなく、その体積全体にわたって気化が行われる気化体ユニットが先行技術から知られている。蒸気は、表面で局所的に発生するだけでなく、液体貯蔵体の体積全体で発生する。したがって、液体貯蔵体内の蒸気圧はほぼ一定であり、液体貯蔵体の表面への液体の毛管輸送は依然として保証されている。したがって、毛管輸送によって気化速度が最小化されることはもはやない。対応する気化体には、導電性でかつ多孔質の材料が必要となる。電圧が印加されると、気化体の体積全体が加熱され、体積のいたるところで気化が起こる。
【0016】
対応する気化体は、米国特許出願公開第2014/0238424号明細書および米国特許出願公開第2014/0238423号明細書に記載されている。ここでは、液体貯蔵体と加熱要素とが、例えば金属または金属メッシュから構成される多孔質体の形態で1つの部材において組み合わされている。しかし、この場合には、記載された多孔質体において、電気抵抗に対する孔径の比を容易に調整できないことが欠点である。また、導電性コーティングを施与した後、その後の焼結によりコーティングの劣化が生じることがある。
【0017】
しかし、前述の先行技術に記載された材料は、調整可能な高い気孔率と良好な導電率との双方を有する複合体を焼結プロセスにより製造するのには適さないか、または限られた範囲でしか適さない。総じて、セラミックは、その気孔率が低くかつ表面が粗いために、連続的にコーティングすることも困難である。
【0018】
したがって、独国特許出願公開第102017123000号明細書には、その表面全体に導電性コーティングを有するガラスまたはガラスセラミックから構成される焼結体を備えた気化体。したがって、外面にのみ対応するコーティングを有する焼結体の場合とは対照的に、気化は外面だけでなく焼結体の内部でも行われる。対応する気化体を製造するために、まずガラスまたはガラスセラミックから構成される多孔質焼結体が製造され、その後のステップで、これに例えばITOコーティングの形態の比較的厚い導電性コーティングが施される。しかし、例えばITOのような導電性材料は材料の需要が高いため、製造プロセスが高コストになるという欠点がある。さらに、その後の厚いコーティングの施与により、焼結体の特性が不利に変化する場合がある。特に、焼結体の小さな孔がコーティングによって閉じられ、その結果、焼結体の活性表面が減少するおそれがある。
【0019】
焼結体の主成分としてガラスを使用する場合には、さらに、焼結体あるいはその前駆体の寸法安定性が低いという問題が製造中に発生することがある。使用されるガラスは確かに良好な接合特性を示すが、それに必要となる軟化温度が比較的低いため、高温での被加工物の寸法安定性が低くなる。特に、気化体や液体貯蔵体としての使用に必要な高い気孔率を有する焼結体を製造する場合には、これによって焼結プロセス中の被加工物の変形や収縮が生じかねない。未焼結体と焼結体との間の形状忠実性が低くなることに加え、このことは、焼結体の気孔率にも悪影響を及ぼすことがある。そのため、既知の方法では主に気孔形成剤が使用され、焼結工程が完了してからこの気孔形成剤を焼結体から除去することにより、焼結中の被加工物が安定化される。通常、使用される気孔形成剤は、高い温度安定性および高い融点を有する水溶性の塩である。しかし、この方法の欠点は、限られた種類の気孔形成剤しか利用できないことにある。さらに、気孔形成剤を洗い流すための追加のプロセスステップが必要である。
【0020】
発明の課題
したがって、本発明の課題は、電子タバコおよび/または薬剤投与装置および/またはフレグランス物質の熱加熱式蒸発器における気化体としての使用に特に適しており、上述のような欠点を有しない焼結体を提供することである。本発明のさらなる課題は、焼結体を備えた気化体を提供することである。したがって、本発明は、良好な加熱性、ならびに液体貯蔵体の電気抵抗および気孔率の容易な調整を提供しようとするものである。本発明のさらなる課題は、対応する導電性焼結体の製造方法を提供することである。さらに、本発明の課題は、気化体において焼結体を使用できるようにすることである。
【0021】
発明の簡単な説明
本発明の課題は、既に独立請求項の主題により解決される。本発明の有利な実施形態および発展形態は、従属請求項の主題である。
【0022】
本発明による焼結体は、気化体ユニットでの使用に特に適している。本発明による気化体は、導電性焼結体を含む。
【0023】
導電性焼結体は、少なくとも2つの導電性材料と少なくとも1つの誘電性材料とのコンポジットとして形成されている。焼結体は、この場合、少なくとも1つの第1の導電性材料と少なくとも1つの第2の導電性材料とを有し、第1の導電性材料は、第2の導電性材料よりも低い導電率を有する。好ましくは、第1の導電性材料の導電率は、30S/μm未満、特に最大で10S/μmである。さらに、第2の導電性材料は、有利には、10S/μm超、特に好ましくは30S/μm超の導電率を有する。総じて、ここで言及される導電率値は、室温での値を示す。
【0024】
特に、少なくとも1つの第1の導電性材料は、焼結体の骨格を形成する。この骨格は、焼結温度でも機械的に安定した状態を保つ、安定した要素を生成する役割を果たす。
【0025】
好ましい一実施形態によれば、使用される導電性材料、すなわち第1または第2の導電性材料のうち少なくとも一方は、正の温度係数を有する抵抗を有する。特に好ましくは、双方の導電性材料が、そのような正の温度係数を有する。これにより、焼結体の電気的加熱の制御が容易になり、室温からの迅速な加熱が促進される。
【0026】
キャリア液体は、例えばフレグランス物質およびアロマ物質ならびに/または適切な液体に溶解した有効成分および/もしくはニコチンを含む薬剤を含有することができ、このキャリア液体が吸着相互作用によって多孔質気化体に貯蔵される。電圧が印加されると、気化体の導電性によって高温が発生し、それによりキャリア液体が気化して、気化体の接液面から脱離し、蒸気を使用者が吸入することができる。
【0027】
焼結体は、焼結体の体積を基準として10~90%の範囲、有利には50~75%の範囲の開気孔率を有する。これにより、焼結体は、高い機械的安定性を有しつつ脱着のための大きな内部表面積を有し、気化させる液体あるいは気化させる媒体の良好な流れが可能となる。
【0028】
好ましくは、全細孔容積の少なくとも90%、特に少なくとも95%が開気孔として存在する。開気孔率は、この場合、DIN EN ISO 1183およびDIN 66133に準拠した測定方法によって求めることができる。焼結体は、有利には閉気孔をわずかな割合でしか含まない。その結果、焼結体は、デッドボリューム、すなわち、気化させる液体の吸収および放出に寄与しない体積をわずかにしか有しない。
【0029】
好ましくは、焼結体は、焼結体の体積全体の15%未満、またはさらには10%未満の閉気孔の割合を有する。閉気孔の割合を求めるために、開気孔率を上述のように求めることができる。
【0030】
全気孔率は、物体の密度から算出される。そして、閉気孔の割合は、全気孔率と開気孔率との差により得られる。本発明の一実施形態によれば、焼結体は、体積全体の5%未満の閉気孔の割合をも有し、これはプロセスに起因して発生し得る。
【0031】
誘電性材料として、焼結体は、ガラス、セラミック、ガラスセラミック、プラスチックまたはこれらの材料の組み合わせのうちの1つの材料を含む。
【0032】
誘電性材料および導電性材料は、ここで、焼結体の複合材料を形成する。誘電体あるいは誘電性材料とは、本開示の趣意において特に、存在する電荷担体が自由に移動できない、または少なくとも室温で自由に移動できない、導電性の低いまたは非導電性の物質を意味する。
【0033】
誘電性材料の割合は、少なくとも5体積%であり、本発明の一実施形態において、複合材料中の誘電性材料の割合が5~70体積%の範囲、好ましくは10~50体積%の範囲であることが提供される。複合材料中の導電性材料の全割合は、最大でも95体積%である。本発明の一実施形態によれば、複合材料中の導電性材料の割合は、合計で30~95体積%、有利には50~90体積%である。ここで、上記の割合は、焼結体の複合材料に対するものであり、すなわち、焼結体における細孔容積あるいは孔の体積割合は、ここでは考慮されない。
【0034】
一実施形態によれば、焼結体が少なくとも2つの異なる誘電性材料を含むことが提供される。特に、使用される誘電性材料は、室温で言及に値する導電性を示さない。
【0035】
本発明による焼結体において、各導電性材料は、誘電性材料によって相互に接続されている。第1の導電性材料の導電率は、有利には<30S/μmの範囲、有利には0.01~20S/μmの範囲、特に好ましくは1~10S/μmの範囲であり、第2の導電性材料の導電率は、有利には≧10S/μm、好ましくは>20S/μm、最も好ましくは>30S/μm、特に最大で70S/μmの範囲である。焼結体中の第1の導電性材料の割合は、ここでは第2の導電性材料の割合よりも大きい。これと、上述の第1および第2の導電性材料の異なる導電率とが組み合わさることにより、高い機械的強度を有しつつ、本発明による範囲に調整可能な導電率を有する焼結体が可能となる。したがって、第1の導電性材料により、特に、焼結体の高い機械的強度および形状忠実性が可能となる。第1の導電性材料の導電率は比較的低く、最大でも30S/μmであるため、第1の導電性材料の含有量は、導電率が高い材料の場合とは異なり、もはや焼結体の導電率に指数関数的な影響を与えず、ほぼ線形的な影響を与える。このため、焼結体の導電率を良好に調整することができる。したがって、焼結体の導電率をさほど高めることなく、第1の導電性材料の含有量が多い焼結体を実現することができる。特に第1の導電性材料の含有量が比較的多い実施形態において、良好な機械的強度に加えて、焼結体全体にわたって高い均一性を示す基本的な導電性も達成される。この点で、コンポジット中の第1の導電性材料の含有量が30~90体積%、好ましくは40~80体積%、特に好ましくは55~75体積%であることが特に有利であることが判明した。本発明のさらなる一実施形態によれば、コンポジット中の第1の導電性材料の含有量は、30~80体積%、好ましくは40~70体積%、特に好ましくは50~65体積%である。導電性材料の分類は、特にその導電率に基づいて行うことができる。
【0036】
特に、以下の分類が行われる:
【表1】
【0037】
クラスCおよびBの材料は、特に、少なくとも部分的に安価に市販されていることから、金属骨格の形成に好ましく使用することができ、焼結体の基本的な導電性の達成あるいは調整に使用することが可能である。
【0038】
焼結体の所望のまたは要求される導電率を達成、調整あるいは微調整するためには、クラスAの材料を好ましく使用することができる。
【0039】
少なくとも1つのクラスからの材料の構成は、好ましくは、第1の材料の導電率が少なくとも1つの第2の材料の導電率より小さいという規則に従って行われる。
【0040】
有利な実施形態において、クラスCおよび/またはBは、クラスAを伴って構成され、好ましくは、クラスCは、クラスAを伴って構成される。一実施形態によれば、焼結体は、第1の導電性材料としてクラスCおよび/またはクラスBの材料を含み、第2の導電性材料としてクラスAの材料を含む。また、クラスBとクラスCとの構成も考えられる。本実施形態において、焼結体は、第1の導電性材料としてクラスCの材料を含み、第2の導電性材料としてクラスBの材料を含む。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、焼結体は、第1の導電性材料として、チタン、クロム、鋼、マンガン、ニッケル、銅、ケイ素または対応する合金、例えば典型的な熱伝導合金、特にCuMnNi合金(例えば、Konstantan(登録商標))またはFeCrAl合金(例えば、Kanthal(登録商標))を含む。上記の材料の混合物や組み合わせも可能である。
【0042】
第1の導電性材料として、特殊鋼、特に不銹性および/または耐スケール性あるいは耐熱性特殊鋼、例えば1.4828型または1.4404型の特殊鋼を使用すると、特に有利であることが判明した。ここで、特殊鋼は、第1の導電性材料としての使用に有利な導電率に加えて耐非薬品性も備えている。さらに、特殊鋼は高温に強く、医療分野にも使用できる。また、製造コストが比較的低いというさらなる利点がある。
【0043】
焼結体の所望の導電率は、その基本的な導電性から出発して、第2の導電性材料の種類および焼結体中のその含有量によって調整される。本発明の一実施形態によれば、コンポジットは、5~50体積%、好ましくは10~30体積%、特に好ましくは15~25体積%の範囲の第2の導電性材料の含有量を有する。
【0044】
第2の導電性材料として、特にアルミニウム、銅、および貴金属、特に白金、金、銀、ならびにそれらの混合物および/またはそれらの合金が有利であることが判明した。また、上記の材料のうち少なくとも2つの混合物も可能である。貴金属は、導電率が高いことに加えて、高温でも誘電性材料の成分に対して不活性であるかまたは少なくとも十分に不活性であり、したがって特に、誘電性材料と反応する、および/または酸化物を形成する、あるいはその他の化学変化を生じる傾向がないかまたはほとんどない材料であるという利点をさらに提供する。したがって、不活性は、貴金属および/またはそれらの合金および/または混合物以外の導電性材料および/またはそれらの合金および/または混合物を選択するための重要な基準でもある。このことは、誘電性材料としてガラスが使用される実施形態において特に有利である。第2の導電性材料として、銀もしくは金またはこれらの金属のうちの少なくとも1つを含む合金を使用することが特に有利である。
【0045】
特に有利な一実施形態によれば、焼結体は、第1の導電性材料として特殊鋼(クラスC)を含み、第2の導電性材料として銀(クラスA)を含む。
【0046】
本発明の一発展形態において、焼結体中に存在する導電性材料のすべてが、第1および第2の導電性材料であることが提供される。言い換えれば、任意のコーティングを除けば、導電性材料は、少なくとも1つの第1の導電性材料および少なくとも1つの第2の導電性材料のみにより形成され、さらなる導電性相がより大きな範囲で存在することはない。特に、1つ以上のさらなる導電性相あるいは金属の割合は、3体積%未満である。好ましい一実施形態によれば、導電性粒子の材料は、正の温度係数を有する抵抗を有する。これにより、焼結体の電気的加熱の制御が容易になり、室温から開始する迅速な加熱が促進される。
【0047】
代替または追加の実施形態において、電気抵抗の温度係数がゼロに近く、特に0.00025K-1未満の絶対値である場合にも良好な制御性が与えられる。これは、例えば、Konstantan(登録商標)のようないくつかの銅-ニッケル合金の場合に該当する。Konstantanは、-0.000074K-1の温度係数を有する。同様に、温度係数が+0.00011K-1であるNiCr80も使用可能である。
【0048】
電気抵抗の温度係数が>-0.075 1/K、好ましくは≧-0.0001 1/K、特に好ましくは≧0.0001 1/Kである導電性材料、特に金属を使用すると特に有利であることが判明した。有利な一実施形態によれば、導電性材料は、この場合、<0.008 1/Kの電気抵抗の温度係数を有する。
【0049】
それぞれ使用される導電性粒子、特に第2の導電性材料の導電性粒子の含有量は、ここで、導電性粒子のそれぞれの材料、特にその導電率、および使用される粒子の形状に依存する。
【0050】
本発明の一実施形態において、2つの隣接する導電性粒子間の最大距離が30μm未満、またはさらには10μm未満であることが提供される。導電性粒子の距離がこうして小さいことによって、電子トンネル効果によって電流を流すことができる。本実施形態の一発展形態によれば、導電性粒子は、少なくとも部分的に互いに離隔している。この場合、導電性粒子は、誘電性材料および/または孔によって互いに絶縁される。隣接する導電性粒子間の平均距離が30μm未満、有利には10μm未満の範囲であることが特に有利であることが判明した。
【0051】
導電性材料は粒子状で存在し、第1および第2の導電性材料の粒子は、均質な混合物を形成する。ここで、導電性粒子は、誘電性材料によって一体化される。第2の導電性粒子は、ここで、焼結体中に均一に分布している。コンポジットにおける第2の導電性粒子の均一な分布によって、焼結体が体積全体にわたって0.1~10S/mの範囲の均一な導電率を有することが保証される。本発明の一実施形態によれば、焼結体の導電率は、10~10000S/mの範囲である。
【0052】
本発明による焼結体の導電率によって、電子タバコにおける対応する気化体の使用が可能となる。例えば、本発明の一発展形態によれば、焼結体は、0.05~5オーム、好ましくは0.1~5オームの範囲の電気抵抗を有する。本発展形態において、気化体は、1~12Vの範囲の電圧で、および/または少なくとも1~500ワット、特に1~300ワット、好ましくは1~150ワットの加熱電力で運転される。この場合、電流の印加により気化体の体積全体が加熱され、それにより気化体内に貯蔵された液体の脱離が開始される。
【0053】
これとは異なり、別の一発展形態による装置を、110V、220V/230V、またはさらには380Vの電圧で運転することもできる。この場合、最大で3000オームの電気抵抗および最大で1000W以上の電力が有利である。本発展形態の一実施形態によれば、装置は、医療分野用の吸入器である。
【0054】
気化体ユニットのそれぞれの用途に応じて、気化体ユニットは、より高い動作電圧、特に12V超~110Vの範囲の動作電圧、5オーム超の抵抗および/または80W超の加熱電力を有することができる。本発展形態の一実施形態によれば、装置は、医療分野用の吸入器である。本発展形態の気化体装置は、より大きな空間での気化に向けて、例えばスモークマシンとして形成されていてもよい。
【0055】
この場合、複合材料からなる焼結体の利用可能な表面全体が、気化面を形成する。本発明による焼結体の導電性により、焼結体の体積全体にわたって電流が流れる。したがって、気化させる液体は、焼結体の表面全体にわたって気化される。したがって、蒸気は、焼結体の外面において局所的に形成されるだけでなく、焼結体の内面においても形成される。
【0056】
局所加熱ユニット、例えば加熱コイルまたは導電性コーティングを気化体本体の外面上気化体とは異なり、本発明による気化体ではその体積全体が加熱されるため、焼結体の内部から局所加熱ユニットへの毛管輸送は不要であり、すなわち比較的長い距離にわたる毛管輸送は不要である。これにより、毛管作用が低すぎる場合の気化体の空運転が阻止され、ひいては局所的な過熱も阻止される。これは、気化体ユニットの耐用年数に対して有利な影響をもたらす。さらに、気化体が局所的に過熱されると、気化させる液体の分解プロセスが生じるおそれがある。このことは、一方では問題となり得る。なぜならば、例えば気化させる薬剤の有効成分の含有量が減少するためである。他方では、分解生成物が使用者によって吸引され、健康上のリスクを招くおそれがある。これに対して、本発明による気化体では、この危険性がかなり低い。
【0057】
焼結体中の誘電性材料の割合により、焼結体の機械的安定性および強度が良好となる。コンポジットの形態の焼結体、すなわち誘電性材料および導電性粒子が均一にまたは少なくとも十分に均一に分布している焼結体の使用により、後にコーティングされた焼結体とは異なり、焼結体の特性、例えば焼結体中の開気孔の孔径または割合への悪影響が生じないという利点がもたらされる。
【0058】
焼結体の導電率は、それぞれ使用される導電性材料の導電率および焼結体中のその含有量のみならず、導電性粒子の粒径および粒子の形態あるいは粒子の幾何学的形状によっても影響を受け得る。例えば、特に導電性粒子、特に第2の導電性材料の導電性粒子であって、丸い粒形、すなわち実質的に球形の粒子から逸脱した粒子を使用することが有利であることが判明している。したがって、一実施形態によれば、導電性粒子は、平坦な小片状の形態を有し、プレートレットとも称される。代替的または追加的に、コンポジットは、長い粒状のあるいは細長い幾何学的形状を有する導電性粒子を有する。特に、これらの粒子は針状の幾何学的形状を有する。これらの粒形の1つ以上の混合物も特に有利であることが判明している。例えば球状粒子とは異なり、小片状または細長い粒子は、充填度が比較的低くても焼結体内で導電性材料による連続的な骨格を形成することができるため、導電性材料の充填度が比較的低くても、対応する焼結体は本発明による範囲の導電率を示す。したがって、球状粒子よりも体積割合の小さい細長い導電性粒子の場合に、焼結体の必要な導電率を達成することができる。この体積割合を細長い粒子と比べても低減するためのさらなる方法は、しばしば同様にさらなるコスト削減をも伴って、小片状粒子によって達成することができる。
【0059】
さらに、平坦な、小片状のまたは細長い導電性粒子の使用は、特に焼結体中の導電性材料の充填度が比較的低い場合にも有利である。この場合、上記のような幾何学的形状を有する導電性粒子によって、充填度が低くても焼結体中に導電性材料のネットワークを形成することができるため、導電性を確保することができ、適切なサイズの焼結体に電圧あるいは電流を印加すると、例えば加熱要素としての使用や気化体での使用が可能となる。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、焼結体は、小片状または細長い幾何学的形状を有する導電性粒子を含む。本発明の一発展形態において、導電性粒子が、最大厚さdmaxおよび最大長さlmaxを有し、ここで、dmax<lmaxが成り立つことが提供される。2dmax<lmax、好ましくは3dmax≦lmax、特に好ましくは7dmax<lmaxが成り立つ導電性粒子が特に有利であることが判明している。
【0061】
本発明の一発展形態によれば、焼結体中の導電性粒子は、0.1μm~1000μmの範囲、有利には1~200μmの範囲、最も好ましくは1~50μmの範囲の平均粒径(d50)を有する。焼結体の一実施形態によれば、第1および第2の導電性粒子の粒径、特にd50値が異なることが提供される。この場合、有利には、大きいd50値と小さいd50値との比は、少なくとも2:1、有利には少なくとも5:1である。特別な実施形態において、この比を、より大きく、例えば少なくとも7:1、あるいはさらには少なくとも10:1に選択することもできる。とりわけ、焼結前の粒子の良好な混和性を保証するためには、このd50値の比をさほど大きくしないことがさらに有利である。したがって、さらに一発展形態によれば、この比は、最大でも500:1である。総じて、第1の導電性粒子および第2の導電性粒子の双方が、より大きな粒径あるいはd50値を有することができる。
【0062】
粒径の小さい導電性粒子、特に第2の導電性材料の導電性粒子を用いる場合、十分な導電性を得るためには、対応する焼結体中の導電性粒子の充填度を高めると有利である。よって、非常に小さな導電性粒子を使用することにより、導電性が低下する。導電性粒子、特に第1の導電性材料の導電性粒子が大きすぎると、今度は焼結体における電気抵抗が局所的な領域で大きく低下することがあり、その結果、焼結体が電気抵抗の点で不均一となる。これにより、今度は焼結体の局所的な過熱や不均一な気化を招くことがある。ここで、この効果は、対応する導電性粒子の導電率が大きいほど顕著である。さらに、非常に大きな導電性粒子およびそれに付随する焼結体の不均一な構造によって、その機械的強度に不利な影響を与えるおそれがある。
【0063】
本発明の一実施形態によれば、孔は、1μm~1000μmの範囲の平均孔径を有する。好ましくは、焼結体の開気孔の平均孔径は、50~800μmの範囲、特に好ましくは100~600μmの範囲である。ここで、対応するサイズの孔が有利であり、それというのも、こうした孔は、特に気化体の液体貯蔵体としての使用に際して十分に大きな毛管力を生じさせ、そのようにして気化させる液体の供給を保証するのに十分小さく、またこれと同時に、蒸気の迅速な放出を可能にするのに十分大きいためである。ここで、複数の孔径あるいは複数の孔径範囲、例えば大きな孔と小さな孔とを有する二峰性の孔径分布を焼結体中に有利に提供することも考えられる。さらに、焼結体の所与のあるいは要求される導電率での導電性粒子の割合は、気孔率が高い焼結体の場合よりも気孔率が低い焼結体の場合の方が低くなり得ることが判明している。したがって、材料組成および気孔率の適切な調整によって、上述したようなそれぞれの使用あるいはそれによる要求、例えば気化させる液体の輸送対気化性能を考慮することができる。有利には、焼結体中の誘電性材料は、少なくとも300℃、またはさらには少なくとも400℃の温度に対して熱的に安定である。同時に、誘電性材料は、第1の導電性材料の溶融温度を下回る、有利には焼結体中の第1および第2の導電性材料の溶融温度を下回る軟化温度Tを有する。
【0064】
本発明の一実施形態によれば、焼結体の誘電性材料は、ガラスを含む。ここで、一実施形態において、焼結体中のガラス含有量が少なくとも5体積%であることが提供される。しかし、さらなる一実施形態によれば、例えば他の、例えばセラミック粒子を結合するために、5体積%未満のわずかなガラス割合のみが提供されていてもよい。誘電性材料としてのガラスの使用は、焼結体の製造における加工性、ならびに温度安定性および機械的強度の点で有利である。ここで、アルカリを含まない、またはアルカリ含有量が比較的少ないガラスが特に有利であることが判明している。ここで、無アルカリガラスあるいはアルカリを含まないガラスとは、その組成にアルカリが意図的に添加されていないガラスであると理解される。一方、例えば不純物の形でガラスに導入されるわずかな割合のアルカリは排除されていない。ここで、アルカリ含有量が少ないこと、特にナトリウム含有量が少ないことは、いくつかの観点から有利である。例えば、アルカリ含有量が比較的少ないガラスは、高温でもアルカリ拡散性が低いため、気化体の加熱運転中であってもガラスの性質が変化しないか、またはほとんど変化しない。ガラスの低アルカリ拡散は、さらに、焼結体の気化体としての運転時にも有利であり、なぜならば、それによって、そのような流出の可能性のある成分が、焼結体の導電性材料および/もしくは任意に存在するコーティングとならびに/または気化させる液体と相互作用しないためである。後者は特に、任意にコーティングされた焼結体を医療用吸入器の気化体として使用する場合に重要である。ガラスのアルカリ割合は、最大でも15重量%、またはさらには最大でも6重量%が特に有利であることが判明している。
【0065】
本発明の有利な一実施形態によれば、気化体は、誘電性材料としてガラスを含む。ホウケイ酸ガラスであって、特に以下の成分を有するものが特に有利であることが判明している:
【表2】
【0066】
しかし、他のガラスを誘電性材料として使用することもできる。例えば、ホウケイ酸ガラスの他に、ビスマスガラスや亜鉛ガラスも適していることが判明している。これらのガラスや他の酸化物を有する同様のガラスは、必須成分として対応する酸化物成分、すなわち例えばBiまたはZnOを、例えば少なくとも50重量%、またはさらには最大で80重量%含むものと理解される。
【0067】
各誘電性材料、特にガラスの選択によって、誘電性成分の熱膨張挙動も影響を受け得る。ここで、気化体としての用途では、誘電性成分の熱膨張率が低いと、焼結体の温度変化耐久性に関してあるいは温度変化負荷時に有利である。これは、例えばコンポジットを電気タバコに使用した場合に、繰り返しの、しばしば非常に短い加熱サイクルによって起こり得る。
【0068】
導電性材料の場合と同様に、ガラスが不活性あるいは耐薬品性を示すことも重要であり、例えばこれは、特に熱処理による焼結体の製造プロセス時、例えば焼結工程時にもガラスと導電性材料とが反応する可能性あるいはそれを回避することに関連する。さらに、製造プロセス時に使用される助剤、例えば焼結助剤または気孔形成剤に対して誘電性材料が不活性であることが有利である。焼結体が、例えば気化体または気化体の構成要素として使用される場合には、気化させる物質、例えばプロピレングリコール、グリセリン、水および/もしくはこれらの混合物ならびに/またはそれらの中の添加物に対するガラスの高い耐薬品性または低い反応性が不可欠である。好ましくは、高い耐薬品性を示すガラス、特にクラス3の耐水性を示すガラス、特に好ましくはクラス1または2の耐水性を示すガラス(ISO 719に準拠して測定)が使用される。さらに、網目修飾剤の割合が低いおよび/または網目形成剤の割合が高いガラスが、その耐薬品性の点で有利であることが判明している。一実施形態によれば、ガラスは、少なくとも50重量%の網目形成剤の割合、有利には少なくとも70重量%の網目形成剤の割合を有する。網目形成剤とは、特に、ガラス中の酸素橋かけの形成に寄与するガラス成分、例えばSiO、BおよびAlであると理解される。
【0069】
あるいは、誘電性材料として、結晶化可能なガラスまたは部分的に結晶化したガラス、特にガラスセラミックを使用することもできるが、使用される第1の導電性材料の溶融温度を下回る加工が可能であることが条件である。したがって、通常は高い溶融温度を有する誘電性材料としてセラミックが使用される際に、特にこの温度が、使用される金属の溶融温度を上回る場合には、焼結促進物質、例えばガラス、好ましくは上述のガラスが添加され、その結果、まさにこのガラスの液相の形成下に、焼結体は液相焼結によって焼結されるかあるいは焼結可能となる。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、焼結体は、少なくとも2つの異なる誘電性材料の混合物を含む。
【0071】
ここで、誘電性成分の少なくとも1つがガラスである場合、特に有利であることが判明している。一実施形態によれば、ガラスの割合は、誘電性材料の少なくとも5体積%である。それぞれ使用される材料に応じて、本実施形態は特に、誘電性材料の総含有量が25体積%未満、またはさらには10体積%未満の焼結体の場合に有利となり得る。
【0072】
使用される導電性材料の溶融温度を下回る加工が可能であれば、代替的な誘電性成分は、ガラスセラミック、セラミックまたはプラスチックであってもよい。
【0073】
ここで、本開示の趣意におけるガラスセラミックとは、グリーンガラス、すなわち結晶化可能なガラスを、セラミック化が生じる適切な温度まで加熱することによる変態生成物であると理解される。ここで、ガラスセラミックは、ガラス質相と結晶子との双方を有する。
【0074】
誘電性材料がセラミックを含む実施形態において、セラミックの通常は高い焼結温度を考慮する必要がある。したがって、誘電性材料としてセラミックが使用される際に、特にセラミックの焼結温度が、使用される金属の溶融温度を上回る場合には、焼結促進物質が添加され、その結果、まさにこの焼結促進物質の液相の形成下に、焼結体は液相焼結によって焼結されるかあるいは焼結可能となる。焼結促進物質としては、特にガラス、特に上述したガラスが特に有利であることが判明している。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、焼結体は、少なくとも2つの異なる誘電性材料の混合物を含む。この場合、焼結体の誘電体部分は、それぞれ使用される誘電性材料を含むコンポジットを表す。特に、これはガラスとセラミックとのコンポジットであってよい。ガラスセラミックとは異なり、このコンポジットは複合材料である。
【0076】
一実施形態によれば、セラミックの割合は、誘電性材料の提供される体積割合に対して少なくとも50体積%、好ましくは少なくとも75体積%、最も好ましくは少なくとも90体積%である。
【0077】
本発明の一実施形態において、焼結体の誘電性材料全体におけるセラミックの割合が、少なくとも80体積%、好ましくは少なくとも90体積%、非常に特に好ましくは少なくとも95体積%であることがさらに提供される。誘電性材料が完全にまたは少なくともほぼ完全にセラミックである焼結体も、本発明から逸脱することなく可能である。
【0078】
しかし、全体として誘電性材料の割合がかなり低い焼結体において、誘電性材料全体の少なくとも50体積%、特に誘電性材料の少なくとも25体積%がガラスである場合に、焼結プロセス時の加工性および焼結体の機械的安定性に関して有利であり得る。このことは特に、誘電性材料の全割合が焼結体の25体積%未満、特に15体積%未満である焼結体の場合に有利である。
【0079】
焼結性の促進に加えて、実質的に溶融されたガラス分は、誘電性材料のセラミック分を有するそのような焼結体のコーティング性にもプラスに寄与する。この場合、粒度が大幅に異なることによる粉末の分離や偏析、または粉末の凝集が製造時に回避されるように、セラミックの粒度とガラスの粒度とを互いに適合させることが可能である。ここで、ガラスの粒度がセラミック分の粒度を上回らないように選択するのが有利であることが判明している。ガラス分およびセラミック分の粒度分布に関して二峰性または多峰性の分布も可能であり、場合によってはすべての材料の粒度を互いに適合させることができる。また、ガラスセラミックを含む焼結体の製造にガラスセラミックが使用される場合、ある体積割合のガラスを添加すること、あるいはある体積割合のガラスセラミックをガラスに置き換えることが、被加工物の焼結性に関して有利となり得る。
【0080】
さらなる一変形例では、例えば焼結体の加工あるいは製造に影響を与えるために、導電性材料と誘電性材料との混合物にさらなる材料を添加してよいことが提供される。ここで、これは、例えば、焼結条件の変更、例えば加工温度の調整、特に低下のためのいわゆる焼結助剤および/または焼結体の特性の変更を可能にするあるいはこれを調整可能にする材料であり得る。したがって、特に誘電性材料として高融点セラミックが使用される場合、焼結促進剤、例えばガラス、有利には上述のガラスを添加することにより、導電性材料が溶融しない温度で液相の形成下に焼結を行うことができる。さらに、助剤を添加することにより、熱伝導率を、熱絶縁性対加熱電力、加熱速度、または例えばEシガレットにおける周辺部品の昇温に関して調整することができ、また、焼結体の表面特性を、気化させる媒体の吸収、脱着および/または流れに関して調整することができる。
【0081】
さらに、対応する誘電性材料は、原則的に、十分な耐薬品性を示すとともに、水および気化させる液体の成分、例えばプロピレングリコールおよびグリセリンに対して、また金属に対しても耐久性を示すことが望ましい。プラスチックとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)またはポリアミド(PA)のような温度安定性を示すポリマーが適している。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、気化体は、機械的な電気的接触、導電性コネクタによる電気的接触、または材料結合性の導電性接続を有する。有利には、電気的接触は、はんだ付け接続によってなされる。
【0083】
本発明の一変形例では、焼結体がさらに導電性コーティングを有することが提供される。ここで、焼結体の表面全体に及ぶ導電性コーティングが特に有利であることが判明している。したがって、焼結体の内部の孔の表面によって形成される焼結体の表面も、導電性コーティングを備えている。このことは特に有利であり、なぜならば、被覆された焼結体も均一な導電性を示すためである。コーティング材料として、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)もしくは窒化チタン(TiN)またはそれらの組み合わせが適切であることが判明している。コーティングは、材料のうちの1つを他の膜成分と組み合わせて有することもできる。
【0084】
追加のコーティングを、コーティング方法に応じて焼結体に部分的にのみまたはある領域に施与することもでき、この追加のコーティングによって、焼結体の組成を変更することなく気化体の導電率を変更することができる。したがって、一実施形態によれば、焼結体の導電率をコーティングによって適合させるあるいは調整することができ、特に増加および/または均一化することができる。これは、例えば、導電性材料を比較的多く含む焼結体のコーティングによる特に導電率の高い気化体の製造に使用することができる。これにより、適切な膜厚でのコーティングの施与により、誘電性材料と導電性材料とのコンポジットとしての焼結体の所定の基本的な導電性に基づいて必要な導電率を調整することも可能となる。場合により生じる焼結体の導電率またはその基本的な導電性の変動も、そのようにして同様に容易に補正することができる。さらに、特に導電性コーティングの局所的および/または横方向の構造化により、例えば導電率を局所的に制限することにより、導電率が局所的に適合したコンポジットを実現することができる。焼結体上のコーティングを横方向に構造化することにより、異なる導電率を有するゾーンを得ることができる。例えば、焼結体を局所的な加熱ゾーンおよび/または貯蔵ゾーンに分割することができる。これにより、輸送ゾーンや輸送経路を狙いどおりに設定することもできる。
【0085】
さらに、例えば液体の吸収、輸送および放出あるいは気化を変更または調整するために、コーティングによって焼結体あるいは気化体の表面特性、例えば表面活性または表面エネルギーに影響を与えることもできる。また、焼結体をコーティングによっていわば不動態化することによって、すなわち例えば、特に運転時に空気または気化させる液体との反応による腐食、分解または経年変化から保護するために、焼結体の不活性をさらに改善することもできる。焼結体の熱機械的特性も、例えば機械的強度および/または熱伝導率と同様に適合、改善または調整することができる。この場合、コーティングは、これらの特性の1つ以上に対処することもできる。
【0086】
焼結体は、第1および第2の導電性材料の含有により既に導電性を示すため、導電性材料を含まない焼結体のコーティングと比較して、必要となる膜厚は比較的わずかに過ぎない。純粋に誘電性の材料から構成される焼結体と比較して、本発明による焼結体の場合、その基本的な導電性に応じて、同等の導電率を達成するのに必要なコーティング材料の量を例えば最大で90%削減することができる。
【0087】
有利には、導電性コーティングの平均膜厚は、10μm未満、またはさらには1μm未満であり、数ナノメートルあるいは数10nmにまで至る。この場合、必要なまたは可能な膜厚は、実質的にコーティングの種類および製造方法に。一実施形態によれば、コーティングは、ITOまたはTiNにより行われる。ここで、ITO製のコーティングは、数10S/m~数10S/mの範囲の導電率を有し、TiN製のコーティングは、数S/m~数10-S/mの範囲の導電率を有する。コーティングの膜厚がわずかであるため、第1には、コーティング材料がわずかのみで済む。同時に、小さな孔がコーティングによって閉じられるために気化体積として利用できなくなるリスクが著しく減少する。ここで、必要または十分な膜厚は、膜材料の導電率に依存する。同様に、達成すべきあるいは達成可能な膜厚は、コーティングの方法、例えば液相もしくは気相堆積法、または電気メッキによって決まる。このような方法により、焼結体に好ましくは密にかつ均一に膜が施与されることで、焼結体の必要とされるその導電率および運転時に必要とされるその加熱挙動が、例えば均一となるように、または体積内に局所的に限定されるように調整される。
【0088】
本発明による気化体は、特に、電子タバコ、医療用吸入器、フレグランスディスペンサーまたは室内加湿器の部材としての使用に適している。ここで、例えば、気化体は、液体または固体、例えばワックスまたは樹脂の間接的な気化に使用することもできる。したがって、本発明の一発展形態において、焼結体に空気あるいはガスを貫通させてこれを加熱することが提供される。本発展形態の可能な用途の1つとして、医療用吸入器が挙げられる。また、焼結体を輻射熱ヒーターとして使用することも可能である。
【0089】
本発明のさらなる一態様は、気化体の製造方法を提供することである。ここで、本発明による方法は、少なくとも以下のプロセスステップa)~e):
a)第1の導電性材料、第2の導電性材料および誘電性材料を粉末状で提供するプロセスステップと、
b)ステップa)で提供された粉末を、気孔形成剤と混合するプロセスステップと、
c)ステップb)で提供された粉末混合物から、加圧、鋳込みまたは押出によって未焼結体を生成するプロセスステップと、
d)ステップc)で提供された未焼結体を温度Tバーンアウトまで加熱するプロセスステップと、
e)ステップc)で生成された未焼結体を焼結温度T焼結で焼結するプロセスステップと
を含む。
【0090】
その際、特に誘電性材料としてのプラスチックの場合、ステップc)~e)を、必要に応じてステップb)も含めて、集成装置、例えば押出機または射出成形で、並行してあるいは同時にまたは順次行うことも可能である。このような方法は、原理的には他の誘電性材料にも適用可能であるが、煩雑で制御性が低いことが多い。焼結という用語は、ここでは、このような物体の固化につながるプロセスステップであるとも理解される。
【0091】
ステップa)で提供された材料全体中の導電性材料全体の割合は、ここでは最大で95体積%である。好ましい一実施形態によれば、導電性材料の割合は、30~90体積%の範囲、有利には40~80体積%の範囲である。誘電性材料として、ステップa)では、ガラス、結晶化可能なガラス、ガラスセラミック、セラミック、プラスチックまたはそれらの混合物が粉末状で提供される。本発明の一実施形態によれば、ステップa)で提供された材料中の誘電性材料の割合は、5~70体積%、好ましくは10~50体積%である。ここで、誘電性材料は、有利には導電性材料よりも低い軟化点あるいは融点を有する。好ましい一実施形態によれば、焼結体は、誘電性材料として、ガラス、結晶化可能なガラス、または少なくとも部分的に結晶化したガラスを含み、そのT接合接合温度は、第1の導電性材料の溶融温度T融点を下回り、有利には焼結体中のすべての導電性材料の溶融温度を下回る。ここで、接合温度T接合とは、ガラスの粘度が10~10dPasの範囲である温度範囲であると理解される。有利には、接合温度T接合は、第1の導電性材料および/または第2の導電性材料の溶融温度よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃低い。
【0092】
好ましい一実施形態によれば、誘電性材料の割合は、5~70体積%の範囲、有利には10~60体積%の範囲、特に好ましくは15~40体積%の範囲である。ステップa)では、誘電性材料として、ガラス、ガラスセラミック、セラミック、それらの混合物、またはプラスチックが粉末状で提供される。
【0093】
ステップb)では、ステップa)で提供された粉末が少なくとも1つの気孔形成剤と混合され、均一な混合物が生成される。ステップb)で提供された混合物中の気孔形成剤の割合は、好ましくは40~80体積%、好ましくは50~75体積%である。ステップb)で提供された混合物から、続くステップc)では未焼結体が製造される。これは、例えば、加圧プロセスもしくは押出プロセス、または鋳込みプロセスによって行うことができる。本発明の一実施形態において、ステップb)で提供された混合物からスラリーが製造され、その後、鋳込みが行われる。
【0094】
この場合、気孔形成剤は、分解温度T分解および/または気化温度T気化を有し、これは、ステップd)における焼結温度T焼結中のを下回りかつ/または誘電性材料の接合温度T接合を下回る。これにより、気孔形成剤は、ステップe)の焼結プロセスの前にステップd)で確実に燃え尽きる。これは有利であり、それというのも、焼結プロセス時にガス状物質が逃げず、したがって焼結体の膨脹が回避されるためである。一実施形態によれば、気孔形成剤は、分解温度T分解および/または気化温度T気化を有し、これは、焼結温度T焼結よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃、特に好ましくは少なくとも100℃低く、かつ/または誘電性材料の接合温度T接合よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃低い。
【0095】
一実施形態によれば、気孔形成剤として、例えば多糖類をベースとする有機材料が使用される。無機塩の使用も可能であるが、その分解温度および/または気化温度が誘電性ガラスの接合温度を下回ることが条件である。ステップe)では、未焼結体が焼結される。ここで、焼結温度は、少なくとも誘電性材料の軟化温度に相当するため、焼結プロセスにより誘電性材料が連続的なマトリックスを形成する。しかし同時に、焼結温度は導電性材料の溶融温度よりも低いため、導電性材料の粒子構造は少なくとも大部分が維持される。
【0096】
誘電性材料と第1の導電性材料との混合物または組み合わせであって、誘電性材料を、第1の導電性材料の融点より少なくとも10℃、またはさらには少なくとも100℃低い温度で軟化または加工できるものが特に有利であることが判明している。これにより、ステップe)では、焼結を、高い機械的強度を有する焼結体を可能にする温度で実施することができる。第1の導電性材料の融点T溶融は、ステップd)のバーンアウト温度Tバーンアウトを上回り、かつ誘電性材料の接合温度T接合をも上回っているため、未焼結体あるいは被加工物は、気孔形成剤を除去した後でも製造プロセス全体において高い寸法安定性を示す。特に、ステップe)では、第1の導電性材料の融点T溶融は、焼結温度T焼結を上回っている。このように、第1の導電性材料は、焼結体の基本的な導電性を提供することに加えて、製造プロセス時に形状安定剤の機能を果たすため、形状が安定した多孔質焼結体の製造が可能となる。温度安定性のある可溶性の気孔形成剤を用いる製造方法の場合とは異なり、本発明による方法では、ステップc)のバーンアウトによって、気孔形成剤を除去するための焼結工程後の洗浄プロセスを省くことができる。
【0097】
また、第1の導電性材料の融点が比較的高いことによって、焼結体中の導電性粒子の寸法安定性、ひいては焼結体の導電率も焼結プロセスによって損なわれないことが保証される。したがって、有利には第2の導電性材料の融点も、ステップe)における焼結温度T焼結を上回る。本発明の一実施形態によれば、ステップe)では、未焼結体の焼結は、350~1000℃の範囲の焼結温度で行われる。
【0098】
本発明による方法によって製造された焼結体は、高い機械的安定性を示すため、焼結体の後処理、例えば表面処理または成形のための後処理が可能である。本発明の一発展形態によれば、焼結体には、ステップe)の後のステップf)で研削、穿孔、研磨、ミリングおよび/または旋削加工が施される。
【0099】
さらに、焼結体の電気的接触を、ステップe)および/またはf)の下流の焼結体のステップg)で行うことができる。この場合、導電性ペーストの施与による接触が特に有利であることが判明している。
【0100】
一実施形態によれば、ステップa)で提供された誘電性材料は、少なくとも300℃、またはさらには少なくとも400℃の温度に対する熱安定性を示す。本発明の一発展形態において、ステップa)で誘電性材料としてガラスが提供されることが提供される。本発明の一実施形態において、ステップa)で提供されたガラスが、300℃を超える範囲、特に500~800℃の範囲の変態温度Tを有することが提供される。これにより、ステップd)では、導電性粒子の寸法安定性を保証する焼結温度で焼結することができる。しかし、同時に、ガラスの変態温度は、気化体の運転温度を大幅に上回る。
【0101】
本発明の一実施形態において、ステップa)で、アルカリ含有量が<15重量%もしくはさらには<6重量%のガラス、またはさらには無アルカリガラスが提供される。対応するガラスは、高い機械的強度、良好な耐薬品性および耐熱性を示し、高温でも導電性材料と反応しないか、ほとんど反応しない。有利には、ステップa)では誘電性材料としてホウケイ酸ガラスが提供される。
【0102】
ステップa)で提供された導電性粒子が、0.1~1000μmの範囲、有利には1~50μmの範囲の平均粒径(d50)を有すると特に有利であることが判明している。
【0103】
代替的または追加的に、ステップa)で提供された誘電性材料の粒子は、1~50μmの範囲の平均粒径(d50)を有する。特に、誘電性材料の平均粒径(d50)は、30μm未満である。誘電性材料の対応する粒径により、隣接する導電性粒子間の最大距離が30μm未満、またはさらには10μm未満である焼結体が得られる。これにより、導電性材料の含有量が少なくても、対応する焼結体において電流の流れが保証される。
【0104】
ステップb)では、誘電性材料の粉末の粒度と導電性材料の粉末の粒度とを互いに適合させて、粒度が大幅に異なることによる粉末の分離や偏析、または粉末の凝集を回避することによっても、特に均一な混合物を得ることができる。ステップb)における均一な混合物が、今度はコンポジットの均一性、ひいては導電率の均一性にも有利に影響を与える。さらに、1種以上の粉末の粒度が小さすぎることは、これらが粒度に関して互いに適合されている場合であっても、その加工時に不要な粉塵が発生するのを最小限に抑えるために、可能な限り回避しなければならない。
【0105】
第1の導電性材料として、ステップa)では、最大で30S/μmの導電率を有する材料、好ましくはチタン、クロム、鋼、マンガン、ケイ素または対応する合金が使用される。上記の材料の組合せも可能である。有利には、第2の導電性として、>20~70S/μmの範囲の導電率を有する材料、特に金粒子、銀粒子および/または白金粒子が提供される。ここで、特にこれらの貴金属は、高い導電率に加えて、高い耐薬品性および/または高い融点を有する。
【0106】
本発明の一発展形態によれば、ステップa)で提供された導電性材料の粒子、特に第2の導電性材料の粒子は、小片状の幾何学的形状、好ましくは最大厚さdmaxおよび最大長さlmaxを有し、ここでdmax<lmaxが成り立つものとする小片状の幾何学的形状を有する。対応する幾何学的形状は、特に、導電性材料の割合が少ない焼結体、すなわち、電子トンネル電流によって電流の流れが高度に実現される焼結体において使用するのに適している。ここで、特に、最大長さが最大幅の少なくとも2倍である小片状粒子が有利であることが判明している。好ましい一実施形態によれば、最大厚さと最大長さとの比は、1:2~1:7である。
【0107】
本発明の一発展形態において、ステップe)および/またはステップf)の後のステップh)で、導電性コーティング、特にコーティング、特に好ましくは酸化物系ITOもしくはAZOコーティング、または窒化物系コーティング、特にTiN含有コーティング、または金属コーティングが焼結体に施与されることが提供される。ここで、好ましい一実施形態において、ゾルゲル法またはCVD法によって焼結体の表面にコーティングが施与されることが提供される。同様に、特に焼結体が既に少なくとも1つの基本的な導電性を有するため、例えば金、銀または銅および/またはそれらの組み合わせの、例えば膜シーケンスとしての、電気メッキにより施与可能あるいは処理可能な膜材料も考慮することが考えられる。
【0108】
発明の詳細な説明
以下に、本発明を、実施例および図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0109】
図1】従来の気化体の概略図である。
図2】焼結体の外面に電気的接触部を有する焼結体の概略図である。
図3】本発明による気化体の一実施形態の概略図である。
図4】本発明による焼結体の一実施形態の断面の概略図である。
図5図4に示す断面の拡大部分を示す図である。
図6】一実施例のSEM画像である。
図7】焼結体上に追加の導電性コーティングを有するさらなる一実施例の概略図である。
【0110】
図1に、多孔質焼結体2を液体貯蔵体として備えた従来の気化体の一例を示す。多孔質焼結体2の毛管力により、気化させる液体1が多孔質焼結体2に吸収され、さらに焼結体2の全方向に輸送される。ここで、毛管力は、矢印4で表される。焼結体2の上部には、焼結体2の対応する部分2aが熱輻射によって加熱されるように、加熱コイル3が配置される。したがって、加熱コイル3は、焼結体2の外面に非常に接近させ、可能な限り外面に接触させないことが望ましい。しかし実際には、加熱線と外面との直接の接触は、しばしば避けられない。
【0111】
加熱領域2aでは、液体1の気化が行われる。これは矢印5で示されている。ここで、気化速度は、温度および周囲圧力に依存する。温度が高く、圧力が低いほど、加熱領域2aでは液体の気化が迅速に行われる。
【0112】
液体1の気化は、焼結体の加熱領域2aの外面で局所的にしか起こらないため、1~2秒以内の迅速な気化を達成するには、この局所領域の加熱を比較的高い加熱電力で行う必要がある。そのため、200℃を上回る高温を印加しなければならない。しかし、特に局所的に狭く限定された領域における高い加熱電力は、局所的な過熱を招き、したがって気化させる液体1および液体貯蔵体あるいは芯の材料の分解を招くおそれがある。
【0113】
さらに、加熱電力が高いと、気化が速すぎるということも生じ、その結果、毛管力によって気化のためのさらなる液体1を十分に迅速に提供することができなくなる。これも同様に、加熱領域2aにおける焼結体の外面の過熱を招く。したがって、ユニット、例えば電圧、電力および/または温度の設定、制御または調節ユニット(ここでは図示せず)を設置することができるが、これは電池の耐用年数を犠牲にしており、また気化の最大量に制限を与える。
【0114】
図1に示され、先行技術から知られている気化体の欠点は、このように、局所加熱方式とそれに伴う効果的でない熱輸送、複雑で高価な制御ユニット、気化させる液体および貯蔵体/芯材料の過熱および分解のリスクである。
【0115】
図2は、先行技術から知られている気化体ユニットを示し、このユニットでは、加熱要素30が焼結体20に直接配置されている。特に、加熱要素30は、焼結体20に固定的に接続されている。このような接続は、特に、加熱要素30をシート抵抗器として形成することによって達成することができる。この目的のために、導体の形態で構造化された導電性コーティングが、シート抵抗器の様式で焼結体20に施与される。加熱要素30として焼結体20に直接施与されたコーティングは、特に、良好な熱接触を実現するために有利であり、これにより迅速な加熱が可能となる。しかし、図2に示した気化体ユニットも局所的に限られた気化面しか有しないため、この場合にも表面の過熱のリスクがある。
【0116】
図3は、本発明による焼結体6を備えた気化体の構造を概略的に示している。図1および図2の多孔質焼結体2と同様に、この焼結体も、気化させる液体1に浸っている。毛管力(矢印4で表す)によって、気化させる液体が焼結体6の体積全体に輸送される。したがって、接点3a,3b間に電圧を印加すると、焼結体6は、接点3a,3b間の体積領域全体で大きな表面積で加熱される。したがって、図2に示す気化体とは異なり、液体1は、焼結体の外面のみならず、焼結体6の電気接点間の体積領域全体で形成される。したがって、焼結体6の外面あるいは加熱面または要素への毛管輸送は必要ではない。さらに、局所的な過熱のリスクが少ない。気化は、局所的に限定された加熱領域における加熱コイルによる場合に比べて、体積内ではるかに効率的に進行するため、気化は、はるかに低い温度および低い加熱電力で生じ得る。必要な電力が少なくなると、アキュムレータの1回の充電あたりの使用時間が長くなるか、あるいはより小型のアキュムレータまたは電池を使用できる点で有利である。
【0117】
図4は、本発明の実施例としての焼結体10の断面の概略図を示す。ここで、焼結体10は、複合材料11と、そこに分布する孔12a,12bとを有する。複合材料11は、0.1~10S/mの範囲の導電率を有する。焼結体10に電圧を印加すると、焼結体10の体積全体に電流が流れ、それによって加熱される。図5には、焼結体10の一部が拡大して示されている。複合材料11は、主成分として、第1の導電性材料13aと、第1の導電性材料13aの間または上に好ましくは均一に分布する第2の導電性材料の導電性粒子13bとを含む。ここで、導電性粒子13aおよび13bは、誘電性材料13cによって一体化される。図5に示す実施形態において、導電性粒子13aおよび13bは、小片状の幾何学的形状を有する。
【0118】
焼結体10の加熱は、上記のとおり電流の流れによって行うことができる。したがって、この目的のために、電源の形態の加熱ユニットが設けられていてもよい。しかし、特定の実施例に限定されるものではないが、総じて誘導加熱も可能である。したがって、一実施形態において、誘導場を発生させるように設定された誘導加熱ユニットが、この目的のために設けられている。誘導加熱のために、焼結体10は、誘導場のエネルギーを吸収し、それによって加熱されるように形成されている。総じて、焼結体が強磁性の導電性材料を含む場合には、誘導加熱を特に良好に実現することができる。有利には、この目的のために、強磁性特殊鋼が第1の導電性材料として提供される。このように選択された導電性材料によって、焼結プロセスを誘導加熱により実施することができるという可能性も拓かれる。マイクロ波または容量性技術による焼結プロセスでの加熱も考えられる。
【0119】
ここでは、ステップa)では、25体積%のガラスと、65体積%の1.4404型の特殊鋼(d50が50~150μm)と、10体積%の銀(d50が1~10μm)との混合物を提供することにより、約1S/mの導電率および約55体積%の気孔率を有する実施例1としての対応する焼結体6が得られる。ステップb)では、気孔形成剤、有利には有機気孔形成剤を添加し、その後、未焼結体を製造する。この未焼結体を、その後、通常の炉の雰囲気中での熱処理により、使用されるガラスの軟化温度にほぼ相当する温度に加熱し、焼結して焼結体6を形成する。
【0120】
第2の実施例において、焼結体は、55体積%の気孔率を有する。複合材料は、この場合、誘電性材料としての23体積%のホウケイ酸ガラス(FIOLAX(登録商標))と、第1の導電性材料としての60体積%の1.4404型の特殊鋼と、第2の導電性材料としての17体積%の銀とを含む。導電性材料の粒子は、この場合、20~60μmの範囲の平均粒度d50を有する。焼結体の導電率は、2000S/mである。
【0121】
導電率は、例えば、直径約5~10mm、高さ約5~10mmの試験片の抵抗測定と、抵抗値から導電率への換算とによって求められ、その際、測定チップを、対向直径に、さらなる補助手段(例えば、導電性ペーストまたは接点のはんだ付け)なしに手動で機械的に配置または施与する。
【0122】
別の一発展形態において、例えば実施例1および2による誘電性材料を、焼結体の誘電体部分がガラスとセラミックとの双方を含むように変更することが提供される。一実施例によれば、誘電性材料中のセラミックの割合は85体積%であり、誘電性材料中のガラスの割合は15体積%である。ここで、同様に1~10S/mの範囲の導電率も得ることができる。本発明者らは、使用される誘電性材料の種類は、確かに機械的特性に影響を与えるが、焼結体の導電率に与える影響は極めて小さいと想定している。このことは、誘電体部分が、ガラスセラミックと、ガラスおよびセラミックのうちの一方または双方の成分とを有する混合物を含む焼結体にも同様に該当する。この場合、ガラスセラミック分は、未焼結体の中に結晶化可能なガラスを含めることによっても形成することができ、このガラスは、このガラスのセラミック化に適した温度で焼結するとセラミック化し、その後、ガラスセラミックとして存在するようになる。このような温度を下回る温度では、結晶化可能なガラスは、ガラス状態のままである。
【0123】
図6は、さらなる一実施例としての本発明による焼結体の断面のSEM画像を示す。本実施例では、骨格形成金属として特殊鋼が使用されている。特殊鋼の粒子は、実質的に丸く、特に楕円形ないし球形である。これらの丸い粒子23の一部は、SEM画像において丸い薄灰色の要素として認めることができる。ガラスは、SEM画像において特殊鋼と同様のコントラストを有するため、本画像においてほとんど区別することができない。第2の導電性材料の焼結粒子24(ここでは銀粒子)は、非常に明るい領域として見える。孔は、本画像では黒色の領域として視認可能である。総じて、第1の導電性材料の平均粒度と第2の導電性材料の平均粒度とは異なることができる。好ましくは、図6の実施例でも視認可能であるように、第2の導電性材料(本実施例では銀粒子)の平均粒度は、第1の導電性材料(本実施例では特殊鋼粒子)の平均粒度よりも小さい。
【0124】
図7は、さらなる一実施例による開気孔を有するコーティングされた焼結体6の構造を、概略的な断面によって示す。コーティングされた焼結体1は、誘電性材料と、第1の導電性材料と、第2の導電性材料とから構成される多孔質複合材料11を有し、この多孔質複合材料11は、開気孔12a,12bを有する。開気孔12bの一部は、その孔表面で焼結体の外面を形成しており、一方で、孔12aの別の部分は、焼結体の内部を形成している。焼結体の表面全体は、例えばITOコーティングの形態の導電性コーティング9aを有する。焼結体に電圧が印加されると、電流が焼結体の体積全体を流れる。
【0125】
ここでは、0.1~100S/mの範囲の比較的低い導電率を有する焼結体を最初に製造することによって、実施例8としての適切にコーティングされた焼結体6を得ることができる。所望の、例えば100~600S/mの範囲のより高い導電率を得るために、焼結体に、その後、導電性コーティング、例えばITOまたはAZOを含むコーティングを施す。ここで、焼結体の基本的な導電性により、(導電性材料を有しない焼結体と比べて)必要なコーティング材料が50%少なくなる。さらに、コーティングプロセスにかかる時間も短縮される。コーティングプロセスに必要なプロセス時間を、最大で70%短縮することができる。
【符号の説明】
【0126】
1 キャリア液体
2 焼結体
2a 加熱ゾーン
3,30 加熱要素
3a,3b 接点
4 毛管力
5 蒸気
6 焼結体
8a,8b 孔
9,9a 導電性コーティング
10 導電性焼結体
11 複合材料
12a,12b 孔
13a 第1の導電性材料
13b 第2の導電性材料の導電性粒子
13c 誘電性材料
14 隣接する導電性粒子の距離
20 焼結体
22 気化体
23 丸い粒子
24 第2の導電性材料の粒子
31,32 接触部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-05-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
したがって、独国特許出願公開第102017123000号明細書には、その表面全体に導電性コーティングを有するガラスまたはガラスセラミックから構成される焼結体を備えた気化体が記載されている。したがって、外面にのみ対応するコーティングを有する焼結体の場合とは対照的に、気化は外面だけでなく焼結体の内部でも行われる。対応する気化体を製造するために、まずガラスまたはガラスセラミックから構成される多孔質焼結体が製造され、その後のステップで、これに例えばITOコーティングの形態の比較的厚い導電性コーティングが施される。しかし、例えばITOのような導電性材料は材料の需要が高いため、製造プロセスが高コストになるという欠点がある。さらに、その後の厚いコーティングの施与により、焼結体の特性が不利に変化する場合がある。特に、焼結体の小さな孔がコーティングによって閉じられ、その結果、焼結体の活性表面が減少するおそれがある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
第1の導電性材料として、特殊鋼、特に不銹性および/または耐スケール性あるいは耐熱性特殊鋼、例えば1.4828型または1.4404型の特殊鋼を使用すると、特に有利であることが判明した。ここで、特殊鋼は、第1の導電性材料としての使用に有利な導電率に加えて耐薬品性も備えている。さらに、特殊鋼は高温に強く、医療分野にも使用できる。また、製造コストが比較的低いというさらなる利点がある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
局所加熱ユニット、例えば加熱コイルまたは導電性コーティングを気化体本体の外面上に有する気化体とは異なり、本発明による気化体ではその体積全体が加熱されるため、焼結体の内部から局所加熱ユニットへの毛管輸送は不要であり、すなわち比較的長い距離にわたる毛管輸送は不要である。これにより、毛管作用が低すぎる場合の気化体の空運転が阻止され、ひいては局所的な過熱も阻止される。これは、気化体ユニットの耐用年数に対して有利な影響をもたらす。さらに、気化体が局所的に過熱されると、気化させる液体の分解プロセスが生じるおそれがある。このことは、一方では問題となり得る。なぜならば、例えば気化させる薬剤の有効成分の含有量が減少するためである。他方では、分解生成物が使用者によって吸引され、健康上のリスクを招くおそれがある。これに対して、本発明による気化体では、この危険性がかなり低い。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0087
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0087】
有利には、導電性コーティングの平均膜厚は、10μm未満、またはさらには1μm未満であり、数ナノメートルあるいは数10nmにまで至る。この場合、必要なまたは可能な膜厚は、実質的にコーティングの種類および製造方法に影響を受ける。一実施形態によれば、コーティングは、ITOまたはTiNにより行われる。ここで、ITO製のコーティングは、数10S/m~数10S/mの範囲の導電率を有し、TiN製のコーティングは、数S/m~数10-S/mの範囲の導電率を有する。コーティングの膜厚がわずかであるため、第1には、コーティング材料がわずかのみで済む。同時に、小さな孔がコーティングによって閉じられるために気化体積として利用できなくなるリスクが著しく減少する。ここで、必要または十分な膜厚は、膜材料の導電率に依存する。同様に、達成すべきあるいは達成可能な膜厚は、コーティングの方法、例えば液相もしくは気相堆積法、または電気メッキによって決まる。このような方法により、焼結体に好ましくは密にかつ均一に膜が施与されることで、焼結体の必要とされるその導電率および運転時に必要とされるその加熱挙動が、例えば均一となるように、または体積内に局所的に限定されるように調整される。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0094
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0094】
この場合、気孔形成剤は、分解温度T分解および/または気化温度T気化を有し、これは、ステップd)における焼結温度T 下回りかつ/または誘電性材料の接合温度T接合を下回る。これにより、気孔形成剤は、ステップe)の焼結プロセスの前にステップd)で確実に燃え尽きる。これは有利であり、それというのも、焼結プロセス時にガス状物質が逃げず、したがって焼結体の膨脹が回避されるためである。一実施形態によれば、気孔形成剤は、分解温度T分解および/または気化温度T気化を有し、これは、焼結温度T焼結よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃、特に好ましくは少なくとも100℃低く、かつ/または誘電性材料の接合温度T接合よりも少なくとも10℃、好ましくは少なくとも50℃低い。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
さらに、焼結体の電気的接触を、ステップe)および/またはf)の下流のステップg)で行うことができる。この場合、導電性ペーストの施与による接触が特に有利であることが判明している。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0105
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0105】
第1の導電性材料として、ステップa)では、最大で30S/μmの導電率を有する材料、好ましくはチタン、クロム、鋼、マンガン、ケイ素または対応する合金が使用される。上記の材料の組合せも可能である。有利には、第2の導電性材料として、>20~70S/μmの範囲の導電率を有する材料、特に金粒子、銀粒子および/または白金粒子が提供される。ここで、特にこれらの貴金属は、高い導電率に加えて、高い耐薬品性および/または高い融点を有する。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0124
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0124】
図7は、さらなる一実施例による開気孔を有するコーティングされた焼結体6の構造を、概略的な断面によって示す。コーティングされた焼結体は、誘電性材料と、第1の導電性材料と、第2の導電性材料とから構成される多孔質複合材料11を有し、この多孔質複合材料11は、開気孔12a,12bを有する。開気孔12bの一部は、その孔表面で焼結体の外面を形成しており、一方で、孔12aの別の部分は、焼結体の内部を形成している。焼結体の表面全体は、例えばITOコーティングの形態の導電性コーティング9aを有する。焼結体に電圧が印加されると、電流が焼結体の体積全体を流れる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項3
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項3】
前記気化体、好ましくは前記焼結体が、0.05~5オーム、好ましくは0.1~5オームの範囲の電気抵抗を有し、前記気化体が、1~12Vの範囲の電圧および/または1~500W、好ましくは1~300W、特に好ましくは1~150Wの加熱電力で運転される、請求項1または2記載の気化体。
【国際調査報告】