(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】眼用インジェクターの潤滑性コーティングを形成できるポリマー
(51)【国際特許分類】
A61L 29/08 20060101AFI20231129BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20231129BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20231129BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61L29/08 100
A61L31/10
A61L31/14
A61L29/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532523
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 FR2021052148
(87)【国際公開番号】W WO2022112730
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506386907
【氏名又は名称】ポリメーレクスペール エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】マルク ドラトカニ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC06
4C081AC09
4C081BB05
4C081CA232
4C081EA06
4C081EA15
(57)【要約】
本発明は、眼内インプラントを注入するための装置の少なくとも一部の内面に潤滑性コーティングを形成することができる、モル質量及び親水性/疎水性バランスが調整された、ポリマーに関する。本発明はまた、眼内インプラントを注入するための装置の1つ又は複数の部分の内面をコーティングするためのポリマーの使用、前記表面をコーティングするための方法、及び内面がポリマーでコーティングされている、少なくとも1つの部分を含む眼内インプラントを注入するための装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
の、潤滑性コーティングを形成することができるポリマーの使用であって、式中、
-Aが、-(CH
2-CH
2-O)-基を表し、
-Rが、以下の基
【化2】
の中から選択され、
-Bが、以下
【化3】
に定義されるエーテル基又はエステル基を表し、
-nが、10~500、好ましくは20~300の間に含まれる整数であり、
-mが、1~50、好ましくは1~20の間に含まれる整数であり、
-sが、4~18、好ましくは4~10の間に含まれる整数であり、
-xが、前記ポリマーの数平均モル質量が50,000g/mol~1,000,000g/mol、好ましくは50,000g/mol~500,000g/molの間に含まれるように選択される整数であり、
眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分に潤滑性コーティングを形成するための、
使用。
【請求項2】
式(I)において、xが、前記ポリマーの数平均モル質量が50,000g/mol~1,000,000g/mol、好ましくは100,000g/mol~1,000,000g/mol、特に50,000g/mol~500,000g/mol、特に110,000g/mol~500,000g/molの間に含まれるように選択される整数である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
式(I)の前記ポリマーが、ジイソシアネートの存在下で、ジヒドロキシ-テレケリックポリエチレンオキシド型の親水性ジオールを、ポリ(ε-カプロラクトン)又はデカンジオールの中から選択される疎水性ジオールと反応させることによって得られる、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
式(I)の前記ポリマーが、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートの中から選択されるジイソシアネートの存在下で、ジヒドロキシ-テレケリックポリエチレンオキシド型の親水性ジオールを、疎水性ジオールと反応させることによって得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
眼内インプラント注入装置の1つ又は複数の部分の内面をコーティングするための、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記部分が、眼用インジェクターの先端部及び/又はカートリッジである、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
ジイソシアネートの存在下、ジヒドロキシ-テレケリックポリエチレンオキシド型の親水性ジオールと、疎水性ジオールHO-B-OH(Bは、請求項1で定義されたとおりである)との反応を含み、前記ジヒドロキシ-テレケリックポリエチレンオキシドと前記疎水性ジオールとの間の質量比が、99/1から70/30までの間に含まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の式(I)のポリマーを得るための方法。
【請求項8】
眼内インプラント注入装置の1つ又は複数の部分の内面をコーティングするための方法であって、
-コーティングされる前記眼内インプラント注入装置の部分、特に先端部及び/又はカートリッジの前記内面を、強酸化処理に供する工程と、
-請求項1~4のいずれか一項に記載の、又は請求項7の方法に従って得られる、式(I)のポリマーの溶液を付着させる工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
前記内面の前記強酸化処理が、コロナ処理、酸素プラズマ処理又は空気処理である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式(I)の前記ポリマーが、0.5質量%~3質量%の範囲の濃度で、前記ポリマーの溶媒に可溶化される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
コーティングされる前記インジェクターの前記部分が、前記ポリマー溶液で満たされ、その後、余剰分の排除後に乾燥される、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記眼内インプラント注入装置の表面上の堆積物の全ての痕跡を除去するために、コーティングされる前記眼内インプラント注入装置の前記部分を特異的に処理する前段階を更に含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
式(I)
【化4】
の、潤滑性コーティングを形成することができるポリマーであって、式中、
-Aが、-(CH
2-CH
2-O)-基を表し、
-Rが、以下の基
【化5】
の中から選択され、
-Bが、以下
【化6】
に定義されるエーテル基又はエステル基を表し、
-nが、10~500、好ましくは20~300の間に含まれる整数であり、
-mが、1~50、好ましくは1~20の間に含まれる整数であり、
-sが、4~18、好ましくは4~10の間に含まれる整数であり、
-xが、前記ポリマーの数平均モル質量が100,000g/molより大きく1,000,000g/molまで、特に100,000g/molより大きく500,000g/molまで、特に110,000g/molより大きく500,000g/molまでに含まれるように選択される整数であり、
前記ポリマーが、40℃~60℃の融点を有する、
ポリマー。
【請求項14】
眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分に潤滑性コーティングを形成するための、請求項13に記載の式(I)のポリマーの使用。
【請求項15】
眼内インプラント注入装置の1つ又は複数の部分の前記内面をコーティングするための、請求項13又は14に記載の使用。
【請求項16】
前記部分が、眼用インジェクターの先端部及び/又はカートリッジである、請求項13~15のいずれか一項に記載の使用。
【請求項17】
眼内インプラント注入装置の1つ又は複数の部分の内面をコーティングするための方法であって、
-コーティングされる前記眼内インプラント注入装置の部分、特に先端部及び/又はカートリッジの前記内面を、強酸化処理に供する工程と、
-請求項13に記載される、式(I)のポリマーの溶液を付着させる工程と、
を含む、方法。
【請求項18】
前記内面の前記強酸化処理が、コロナ処理、酸素プラズマ処理又は空気処理である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
式(I)の前記ポリマーが、0.5質量%~3質量%の範囲の濃度で、前記ポリマーの溶媒に可溶化される、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
内面が、請求項1~4又は13のいずれか一項に記載の式(I)のポリマーでコーティングされている、眼内インプラント注入装置の部分。
【請求項21】
内面が、請求項1~4又は13のいずれか一項に記載の式(I)のポリマーでコーティングされている、少なくとも1つの部分を含む、眼内インプラント注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内インプラント注入装置、特に先端部及び/又はカートリッジの少なくとも1つの部分をコーティングし、微小切開による注入を可能にすることを目的とした潤滑性コーティングの開発に関する。このコーティングの主な特性は、折り畳まれたインプラントが、剥離することなく、かつ眼内に巻き込まれることなく、先端部及び/又はカートリッジに沿って滑ることができるようにすることである。
【背景技術】
【0002】
白内障に罹患した目の水晶体の交換は、眼内インプラントによって確保される。超音波水晶体乳化吸引術を用いた手術では、小切開で天然の水晶体を破壊して除去することが可能である。インプラントは、超音波水晶体乳化吸引術のための微小切開創から注射器を使用して挿入することができる、柔軟で折り畳み可能な材料で開発されている。
【0003】
注入システムは、注入端部(先端部)に近づくにつれて直径が小さくなる円錐形の先端部が取り付けられた、内部で注入ピストンがスライドする筒状の本体から構成される。
【0004】
術者は、ピストンを押し、その端部がインプラントを押し、インプラントはどんどんインジェクターの先端部に押し込まれ、最後は完全に折り畳まれてインジェクターから出てくる。このため、3mm未満の切開創から直径6mm超のインプラントを注入することが可能である。そして、移植の際にインプラントに非常に大きい応力がかかる。注入力を制限し、インプラントが損傷することなく先端部から出るようにするには、先端部の形状と支持体の性質を最適化し、他方で「潤滑剤」を使用することが必要である。
【0005】
以下の説明では、「眼内インプラント注入装置」、「注入システム」又は「眼用インジェクター」という用語は、互換的に使用される。
【0006】
例えば、特許出願EP1173115、EP2344073又はWO/2007 054644及びWO/2007 021412には、異なる幾何学的設計を有する注入システムが記載されている。多くの市販のインジェクターは、特許に記載された異なる形状及び/又は機械的な発明を備える。例えば、Carl Zeiss Meditec社から市販されているSkyjet(商標)型の(先端部とインジェクション本体を連結した)一体型インジェクター、又は先端部が、取り外し可能であって、即座に折り畳まれてカニューレに通して注入されるインプラントを設置する注入室からなる、Medicel AG社のAccujet(商標)、Navijet(商標)又はViscojet(商標)インジェクター、又は先端部が取り外し可能であり、インプラントを事前に折らずに先端部に滑り込ませる、Alcon laboratories社のMonarch(商標)型のインジェクターが言及される。
【0007】
先端部の構成材料の機械的特性はまた、注入性に影響を与える。実際に、先端部の製造に使用される熱可塑性材料は、良好な剛性を示しながら、インプラントに付与される応力を支えるために、ある程度の変形を許容すべきである。さらに、使用される熱可塑性材料は、高い速度で注入することができるべきである。好ましくは、これらの材料は、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン又はポリエステルのファミリーの中から、より特にポリプロピレン及びポリアミドのファミリーの中から選択される。
【0008】
しかしながら、先端部及び/又はカートリッジの材質の選択、並びに形状の最適化だけでは、微小切開によるインプラントの注入を満足に行うことはできない。先端部及び/又はカートリッジ内でインプラントを滑らせることができる潤滑剤を使用することが不可欠である。あるいは、先端部及びカートリッジを連結して1つの単一部品を形成することができる。この代替案は、「先端部及び/又はカートリッジ」又は「先端部/カートリッジ」という表現で包含される。
【0009】
滑ることを可能にする2つの異なる方法が、文献に記載されている。最初のものは、熱可塑性材料に配合することで一体化する移行剤(「ブルーミング剤」)の使用に関する。これは、ポリプロピレン又はポリアミドと配合される、グリセロールモノステアレート(GMS)型の低モル質量の界面活性有機分子からなる。注入直後は、熱可塑性支持体中に均一に分布し、数日から数週間後に支持体表面へ移行する。この移行現象は、高分子鎖と比較して可動性のある界面活性剤の分子サイズが小さいことが関係している。例えば、特許US6733507には、移行現象(「ブルーミング」)によって表面に移行する潤滑剤を含むポリプロピレンカートリッジが記載されている。
【0010】
この方法には、2つの大きな欠点がある。
【0011】
1つ目は、注入されたインプラントに白い痕跡が残ることである。これは、先端部の表面に結合しておらず、注入時に持ち去られる、移行剤によるものである。実際に、使用される移行剤は、水溶性ではなく、インプラントが注入された後、何度もすすいだ後に、移行剤の除去が可能になる。
【0012】
2つ目の欠点は、支持体の表面への移行剤の移行現象に関する。この移行は、注入カートリッジの表面に十分な量の潤滑剤が溜まるまで、実施条件(部品の注入)、保管温度、後処理、滅菌条件等によって、数日、数週間続くこともある。したがって、潤滑の質は、注射器の製造から施術者が使用するまでの待ち時間に依存することになる。この期間が短すぎると、潤滑が十分に確保されず、長すぎると、注射中にインプラントが白い斑点(移行剤の存在)で覆われる。この欠点を克服するために、WO2005/018505出願では、移行現象を促進し、繰り返し注入できる準安定状態(支持体表面の十分な量の潤滑剤)を得るために、部品を熱処理することを提案している。特許US7348038に記載されている別の方法では、移行剤とカートリッジの物理的結合を確実にするために、プラズマ処理を行うことが提案されている。
【0013】
潤滑の非繰り返し性と注入中のインプラント上の白っぽい斑点の存在は、移行剤を使用することの主な欠点を表す。
【0014】
インジェクターの先端部/カートリッジ内でインプラントを滑らせることができる第2の方法は、先端内部に親水性コーティングを準備することである。潤滑の原理は、粘性のある製品(ヒアルロン酸又はヒドロキシプロピルメチルセルロース溶液)の添加によって親水性コーティングを膨潤させ、界面に形成される水の膜の上を滑らせることにある。
【0015】
例えば、特許出願又は特許JP5690838、JP3254752、US5716364、EP1949871、WO96/22062、WO2007/030009、WO2010/118080、US7687097、US7348038、WO2010/059655には、インプラントとカートリッジとの間の摩擦を低減又は排除することを可能にするコーティングを作る可能性について記載されている。
【0016】
親水性コーティングは、先端部及び/又はカートリッジの表面に、共有化学結合又は物理的結合のいずれかで結合される。
【0017】
支持体に物理的相互作用で結合されたコーティングに関しては、例えば、特許出願又は特許JP5690838、JP3254752、EP1949871、US5716364、WO2010/059655、WO2010/118080又はUS7348038に開示されているように、プラズマ又はコロナ又は他の光化学方法による表面の活性化が系統的に推奨される。表面が活性化されると、溶液中のポリマーが堆積され、その後、溶媒が蒸発される。親水性ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン及びこれらのコポリマー、並びに、時にはこれらのポリマーの幾つかのものの混合物の中から選択される。
【0018】
しかしながら、コーティングの構成ポリマーが支持体から剥がれたり、粘性のある製品に可溶化されたりして、インプラントによって眼内に運ばれることがある。インプラントの配置後、施術者が眼を十分に洗浄しない場合、コーティングの残留物が最終的に炎症を引き起こす可能性がある。
【0019】
出願FR2986532は、少なくとも1種の構成ポリマーと、少なくとも1種の部分的に混和性又は相溶性のある機能性コポリマーとの混合物を含む準安定ポリマー組成物を記載しており、構成ポリマーは、高いモル質量を有し、80℃以上のガラス転移温度(Tg)又は融点(Tf)を有する熱可塑性ポリマーであり、85%~99.5%の間に含まれる質量割合で混合物中に存在し、構成ポリマーと部分的に混和又は相溶する機能性コポリマーは、より低いモル質量と、40℃以上のガラス転移温度(Tg)又は融点(Tf)と、を有する。
【0020】
この混合物により、材料のコーティングを必要とせず、表面に滑りやすい特性を有する生体医療機器の製造用材料を開発することを可能にする。この原理は、構成ポリマー内での機能性コポリマーの移行に基づくものであり、構成ポリマーの表面に移行できる低モル質量の機能性コポリマーの使用を必要とする。
【0021】
16ページ8~15行目に示されているように、出願FR2986532で求められている目的は、本「コーティング」方法とは全く異なるものである(16ページ8~15行目):
「本発明は、本「コーティング」方法(「コーティング」)とは全く異なる。後者は、装置の表面又はその要素の一部にポリマー膜を堆積させることからなり、表面の活性化、溶液中のポリマーの除去、及び溶媒の蒸発を含む幾つかの操作を実行する必要がある。本発明で提案する方法は、製造工程におけるこれらの工程を全て回避することを可能にし、注射による実施という唯一の工程に、本方法を簡略化することにつながる。」
【0022】
したがって、出願FR2986532は、眼内インプラント注入装置用の潤滑性コーティングの開発に関するものではない。
【0023】
さらに、カートリッジ及び/又は先端部に共有結合されたコーティングが、特に特許出願又は特許US7687097及びWO96/22062に記載されている。推奨される方法は、プラズマで前処理した、又は前処理しないカートリッジを、反応性機能、例えばアクリレート基を有する前駆体に浸し、ラジカル経路(熱又は紫外線照射)により前駆体の重合を開始し、その一部の鎖を、カートリッジの表面で生成したラジカルと反応させることにある。
【0024】
US6238799、US6866936又はWO96/23602などの他の特許出願や特許には、医療機器用の支持体に親水性ポリマー、すなわちハイドロゲルの共有結合グラフトについて記載されている。本原理は、ポリウレタンと別の親水性ポリマーの組み合わせからなる相互侵入ネットワークの開発に基づく。
【0025】
しかしながら、眼用インジェクターの先端部及び/又はカートリッジの表面上へのコーティングの共有結合グラフトは、本方法への関心を限られたものにする、長くて高価な操作である。
【0026】
したがって、先端部及び/又はインジェクターカートリッジの表面に化学グラフトを必要とせず、インプラントの注入時に剥離しない、潤滑性コーティングを開発することが求められている。
【発明の概要】
【0027】
第1の態様によれば、本発明は、式(I)
【化1】
の、潤滑性コーティングを形成することができるポリマーの使用に関するものであり、式中、
-Aは、-(CH
2-CH
2-O)-基を表し、
-Rは、以下の基
【化2】
の中から選択され、
-Bは、以下
【化3】
に定義されるエーテル基又はエステル基を表し、
-nは、10~500、好ましくは20~300の間に含まれる整数であり、
-mは、1~50、好ましくは1~20の間に含まれる整数であり、
-sは、4~18、好ましくは4~10の間に含まれる整数であり、
-xは、ポリマーの数平均モル質量が20,000g/mol~1,000,000g/molの間に含まれるように選択される整数であり、眼内インプラント注入装置の少なくとも一部をコーティングする。
【0028】
特に、本発明は、眼内インプラント注入装置の1つ又は複数の部分の内面をコーティングして、そこに滑りやすい特性を付与することを可能にするための前記ポリマーの使用、並びに前記表面をコーティングして、ポリマーの良好な接着を可能にするための方法に関する。
【0029】
本発明はまた、新規製品として、式(I)のポリマー
【化4】
であって、式中、
-A、R及びBは、本明細書で定義されたとおりであり、
-n、m及びsは、本明細書で定義されたとおりであり、
-xは、前記ポリマーの数平均モル質量が100,000g/molより大きく、1,000,000g/molまでとなるように選択される整数であり、
前記ポリマーは、40℃~60℃の融点を有する、ポリマー、
並びに、眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分をコーティングするための、特に前記注入装置の1つ又は複数の部分の内面をコーティングするための、当該ポリマーの使用、
に関する。
【0030】
本発明の別の対象は、内面が本明細書で定義されたポリマーでコーティングされている、眼内インプラント注入装置の部分、並びに内面が前記ポリマーでコーティングされている少なくとも1つの部分を含む、眼内インプラント注入装置である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、粘性製品によって膨潤し、潤滑剤の役割を果たすのに十分な親水性である一方、患者の眼内で前記コーティングが意図せずに可溶化し、分散することを避けるのに十分な疎水性であり、したがって術後の問題を避ける、眼内インプラント注入装置用の潤滑性コーティングを提供することを目的とする。
【0032】
本発明は、眼用インジェクターの先端表面にフィルムを形成するために、モル質量と親水性-疎水性バランスが完璧に調整されたポリマーに基づく眼用インジェクター用コーティングを開発することにあり、このフィルムは、一方では滑りやすく、他方では完全に防水であるという特異性を有する。この耐水性により、眼球へのポリマーの引き込みが防止される。
【0033】
したがって、本発明によれば、前記ポリマーは、その使用中に水への溶解を防止するのに十分な高モル質量を有するべきである。
【0034】
本発明によるコーティングの「滑りやすい」特性は、例えば、前記組成物から注入/成形によって完全に製造された一体型の眼用インジェクター、又は装填カートリッジ及び先端部のみが前記組成物から製造された2つの部分からなるインジェクター、を使用して測定することができる。インジェクターのカートリッジに装填されたインプラントを排出するのに必要なインジェクターのピストンの背分力は、出口直径が3mm未満、例えば2mmである先端部を通して測定される。この測定は、0.5kN感度の力センサーを備えたインストロン3367型ダイナモメーターを用いて、4mm/sの速度で、室温で圧縮することにより実施することができる。滑りやすい特性は、5~10Nの間に含まれる力値で顕著である。10N超15N未満の力値で中程度、15N超の力値で低程度となる。
【0035】
したがって、本発明によるコーティングの堆積は、施術者が20N以下の力を適用することによって、患者の眼に30D以下の視度を有するインプラントを損傷なく注入する際に、眼用インジェクターに「滑りやすい」特性を付与するものと考えられている。
【0036】
本発明はまた、コーティングを実施するための方法に関する。本発明による方法は、インジェクターの先端部及び/又はカートリッジの表面への前記ポリマーの良好な接着を可能にし、前記コーティングが、患者の眼球への注射中に、インプラントによって剥がされて運ばれるのを回避する。
【0037】
本発明によれば、前記コーティングは、注射器の先端部及び/又はカートリッジの表面上に堆積される。その付着は、先端部及び/又はインジェクターのカートリッジの構成材料と非常に良好な化学的適合性を有する、前記ポリマーの疎水性ブロックによって本質的に確保される。インジェクターの先端部及び/又はカートリッジの表面と殆ど又は全く相互作用しない前記ポリマーの親水性ブロックは、所望の滑りやすい特性を得ることを可能にする。
【0038】
本発明の目的の一つは、インジェクターの先端部及び/又はカートリッジの表面と十分に強い相互作用を有する疎水性ブロック(ポリマー鎖間の相互侵入はない)と、眼内インプラントの注入に十分な滑りやすい特性を得るための親水性ブロックと、を有するポリマーを開発することである。
【0039】
有利には、本発明による潤滑性コーティングは、以下の特性:
-親水性-疎水性バランス及び調整されたモル質量と、
-フィルム形成特性と、
-ポリプロピレン又はポリアミドからなる支持体との良好な親和性と、
を有する。
【0040】
本発明の第1の態様によれば、本発明によるコーティングの構成ポリマーは、ポリウレタンのファミリーの中から選択することができる。このポリマーの種類の親水性-疎水性バランスの調整は、選択されたポリオール及びジイソシアネートの性質及び比率の選択によって得ることができる。
【0041】
好ましくは、本発明によるポリマーは、主たる親水性部分、好ましくは少なくとも70質量%の親水性モノマー単位、特に80~95質量%の親水性モノマー単位を含む。
【0042】
ポリウレタンはまた、良好なフィルム形成特性を有し、その上、多くの用途でワニスとして使用されている。最後に、ポリウレタンは極性を持ち、水素結合を形成することができるため、多くの支持体と高い親和性を持つことができる。
【0043】
したがって、第1の態様によれば、本発明は、式(I)のポリマー
【化5】
の使用に関するものであり、式中、
-Aは、-(CH
2-CH
2-O)-基を表し、
-Rは、以下の基
【化6】
の中から選択され、
-Bは、以下
【化7】
に定義されるエーテル基又はエステル基を表し、
-nは、10~500、好ましくは20~300の間に含まれる整数であり、
-mは、1~50、好ましくは1~20の間に含まれる整数であり、
-sは、4~18、好ましくは4~10の間に含まれる整数であり、
-xは、ポリマーの数平均モル質量が20,000g/mol~1,000,000g/molの間に含まれるように選択される整数であり、眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分に潤滑性コーティングを形成する。
【0044】
有利には、眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分、特に先端部及び/又はカートリッジの内面が、前記ポリマーでコーティングされる。
【0045】
好ましい態様によれば、xは、前記ポリマーの数平均モル質量が50,000g/mol~1,000,000g/mol、好ましくは100,000g/mol~1,000,000g/mol、特に50,000g/mol~500,000g/mol、特に100,000g/mol超、特に110,000g/mol~500,000g/molの間に含まれるように選択される整数である。
【0046】
本発明によれば、式(I)のポリマーは、ジイソシアネートの存在下で、ジヒドロキシ-テレケリックポリエチレンオキシド型の親水性ジオールをHO-B-OH型の疎水性ジオール(Bは、本明細書で定義されたとおりである)と反応させることにより、適切な親水性-疎水性バランスを有するように得ることができる。
【0047】
例えば、前記ジイソシアネートは、以下の化合物
【化8】
の中から選択することができる。
【0048】
適切な親水性-疎水性バランスを得るための重要なパラメーターは、ジヒドロキシ-テレケリックポリエチレンオキシド酸と疎水性ジオールとの間の質量比である。好ましくは、この比は、99/1~70/30、より特に97/3~80/20の間に含まれる。
【0049】
有利な態様によれば、前記ポリマーは、40℃~60℃、好ましくは約50℃の融点を有する。
【0050】
本発明はまた、新製品として、式(I)
【化9】
の潤滑性コーティングを形成することができるポリマーに関するものであり、式中、
-Aは、-(CH
2-CH
2-O)-基を表し、
-Rは、以下の基
【化10】
の中から選択され、
-Bは、以下
【化11】
に定義されるエーテル基又はエステル基を表し、
-nは、10~500、好ましくは20~300の間に含まれる整数であり、
-mは、1~50、好ましくは1~20の間に含まれる整数であり、
-sは、4~18、好ましくは4~10の間に含まれる整数であり、
-xは、前記ポリマーの数平均モル質量が100,000g/molより大きく1,000,000g/molまで、特に100,000g/molより大きく500,000g/molまで、特に110,000g/molより大きく500,000g/molまでに含まれるように選択される整数であり、
前記ポリマーは、40℃~60℃、好ましくは約50℃の融点を有する。
【0051】
本発明によれば、本明細書に記載したような、コーティングの構成ポリマーの有利な態様は、フィルムを形成する能力である。実際に、コーティングの滑りやすい特性は、滑らかで均質なフィルムが形成されることにも関係している。数平均モル質量が20,000g/mol超、特に50,000g/mol超、特に100,000g/mol超のポリマーは、より均質なフィルムをもたらすことが判明している。実装ポリマーのモル質量の選択は、水への溶解に対する耐性も条件とする。モル質量が大きいほど、水への溶解に対する抵抗は大きくなる。好ましくは、本発明による実施ポリマーは、50,000g/mol超、1,000,000g/mol未満、特に50,000g/mol~500,000g/molの間に含まれ、さらに好ましくは100,000g/mol超の数平均モル質量を有する。
【0052】
本発明のその後の態様によれば、眼用インジェクターの先端部及び/又はカートリッジの構成材料上にポリマー膜を堆積させる方法は、コーティングが剥がれ、患者の眼に巻き込まれることを避けるために重要である。好ましくは、眼用インジェクターの先端部及び/又はカートリッジへのコーティングの良好な接着を確保するために、後者の特定の処理を進める。第一段階として、先端部及び/又はカートリッジの表面におけるグリースや粒子などの付着物の全ての痕跡を、例えばアルコールによる洗浄の後に純水ですすぐなどの洗浄によって除去する。その後、材料の表面は、支持体の表面張力を増加させるために、強酸化を可能にする処理に供される。このように、先端部及び/又はカートリッジは、コロナ、酸素プラズマ、又は空気で処理される。先端部及び/又はカートリッジの表面に酸化によって生じた機能が存在するおかげで、コーティングとの水素型結合を容易に作ることができる。実際に、コーティングにウレタン結合が系統的に存在することにより(それを含むコーティングに対してエステル結合によって補助される)、コロナ処理、又はアルゴン、酸素若しくは空気によるプラズマ処理された支持体に対して、特に水素結合のおかげで非常に良好な接着が保証される。
【0053】
本明細書に記載したような、本発明による式(I)のポリマーを実施するコーティングは、好ましくは溶媒ルートによって実施される。ポリマーは、ポリマーの溶媒、好ましくは水とエタノールからなる混合物中で、0.5質量%~3質量%の範囲の濃度で可溶化される。先端部及び/又はカートリッジは、この溶液で満たされる。数秒後、例えば約3秒後、余剰分は排除され、その後、先端部及び/又はカートリッジの表面に堆積したポリマーは、乾燥される。このようにして堆積されたフィルムは、滑らかで均質なものである。
【0054】
本発明の様々な態様に従ってコーティングされた先端部/カートリッジを用いて実施された注入試験では、コーティングの剥離や可溶化なしに、小径(<3mm)を含むインプラントの容易な注入が可能であった。コーティングを形成するポリマーの痕跡は、HPLC分析によって、インプラントの表面にも、インプラントが注入された媒体中にも見出されなかった。
【0055】
本発明の上述の一般的及び特定の態様は、式(I)のポリマー、眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分に潤滑性コーティングを形成するためのそれらの使用、及びそれらを得るための方法、並びにそれらを実施する眼内インプラント注入装置の少なくとも1つの部分の内面をコーティングする方法、及び内面が前記ポリマーでコーティングされた少なくとも1つの部分を含む装置に対して無関心に適用される。
【実施例】
【0056】
実施例1:ジオール部分がポリエチレンオキシドとポリ(ε-カプロラクトン)から構成されるポリウレタンの調製
数平均モル質量が6,000g/molであるジヒドロキシ-テレケリックPOE 400g(6.67×10-2mol)と、モル質量=1,250g/molのジヒドロキシ-テレケリックポリ(ε-カプロラクトン)100g(8×10-2mol)を、真空下、100℃で2時間乾燥し、CaCl2であらかじめ乾燥させたブタノン1.45Lに可溶化させた。当該溶液を、38.43gの4,4’-メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート(14.67×10-2mol)の導入時に85℃まで加熱する。イソシアネート導入終了から5分後に、ビスマス系触媒0.5gを添加する。
【0057】
反応は、19時間後に1mLのエタノールを添加して終了させる。溶液を室温まで冷却し、次に1.5Lのアセトンで希釈し、次に8Lのヘプタンで沈殿させる。
【0058】
得られたポリマー(PS換算)の数平均モル質量は、250,000g/molである。
【0059】
実施例2:ジオール部分がポリエチレンオキシドとデカンジオールから構成されるポリウレタンの調製
数平均モル質量が6,000g/molであるジヒドロキシ-テレケリックPOE 400g(6.67×10-2mol)と、モル質量=174g/molのデカンジオール10g(5.74×10-2mol)を、真空下、100℃で2時間乾燥し、CaCl2で予め乾燥した2-ブタノン1.45Lに可溶化させた。当該溶液を、20gのトルエンジイソシアネート(11.5×10-2mol)の導入時に85℃まで加熱する。イソシアネート導入終了から5分後に、ビスマス系触媒0.5gを添加する。
【0060】
反応は、19時間後に1mLのエタノールを添加して終了させる。溶液を室温まで冷却し、次に1.5Lのアセトンで希釈し、次に8Lのヘプタンで沈殿させる。
【0061】
得られたポリマー(PS換算)の数平均モル質量は、85,000g/molである。
【0062】
実施例3:ジオール部分がポリエチレンオキシドとプロピレンポリオキシドから構成されるポリウレタンの調製
数平均モル質量が6,000g/molであるジヒドロキシ-テレケリックPOE 400g(6.67×10-2mol)と、モル質量=1,000g/molのジヒドロキシ-テレケリックプロピレンポリオキシド100g(10×10-2mol)を真空下、100℃で2時間乾燥し、CaCl2で予め乾燥した2-ブタノン1.45Lに可溶化させた。当該溶液を、37.05gのトルエンジイソシアネート(16.67×10-2mol)の導入時に85℃まで加熱する。イソシアネート導入終了から5分後に、ビスマス系触媒0.5gを添加する。
【0063】
反応は、19時間後に1mLのエタノールを添加して終了させる。溶液を室温まで冷却し、次に1.5Lのアセトンで希釈し、次に8Lのヘプタンで沈殿させる。
【0064】
得られたポリマー(PS換算)の数平均モル質量は、63,000g/molである。
【0065】
実施例4:本発明によるコーティングの適用前の先端部及びカートリッジの処理
先端部/カートリッジは、エタノールで2回洗浄し、次いで純水で2回すすぐ。その後、圧縮空気で乾燥させる。
【0066】
プラズマに使用する装置は、PlasmaNet MWGOである。使用したガスは、0.4mbarの圧力の空気である。ガスの使用時間は、20秒で、プラズマ処理は、3,000Wの電力で195秒持続する。
【0067】
先端部/カートリッジの表面張力は、プラズマ処理後にテストインクを使用して測定し、その効果を確認する。実際に、サイクルの終了時に、先端部/カートリッジのサンプルが収集され、ACOTEST 56mN/mインクが支持体の表面に堆積される。インクが完全に広がれば、プラズマ処理が確認される。
【0068】
実施例5:本発明によるコーティングの適用
実施例1のポリマーを、70%水30%アルコール混合物に1%で、室温で24時間可溶化させる。その後、溶液を0.2μmフィルターで濾過する。当該溶液は、適用の準備が整う。
【0069】
先端部/カートリッジは、本明細書で調製した溶液で満たされる。約3秒間の接触後、余剰分を真空下で排気する。その後、堆積物を40℃で24時間乾燥させる。形成されたフィルムは、滑らかで均質である。
【0070】
実施例6:
異なるポリマーから作られたコーティングで実施された注入試験は、本明細書中の表1に報告されている。
【0071】
測定は、0.5kN感度の力センサーを備えたインストロン3367型ダイナモメーターを用いて、4mm/sの速度、室温で圧縮することにより実施した。
【表1】
【0072】
その結果、堆積されたコーティングにより、インジェクターに滑りやすい特性が付与され、直径2mmの先端部から少なくとも直径6mmの眼内インプラントを注入することが可能となることが分かる。
【0073】
実施例7:
(実施例5のプロトコルに従って処理された)直径2mmの先端部を有するインジェクターを使用して、32℃の純水浴中で28ディオプターの50親水性インプラントを注入した。
【0074】
インプラントを含む水浴は、ロータベーターを使用して濃縮され、その後凍結乾燥された。残留物は、HPLC(水/アセトニトリル)により分析された。分析された製品中には、実施例1のコーティングの痕跡は発見されなかった。
【国際調査報告】