(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】発熱性(pyrogenicity)および炎症性ポテンシャル評価のための単球活性化試験(MAT)における幹細胞由来単球の適用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20231129BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20231129BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/0786
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532536
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2021083371
(87)【国際公開番号】W WO2022112558
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195668
【氏名又は名称】メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファー
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Hochschule Hannover
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ラハマン,ニコ
(72)【発明者】
【氏名】モリッツ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シュプライツァー,インゴ
(72)【発明者】
【氏名】アブディン,シファー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ17
4B063QQ70
4B063QS33
4B063QS35
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BB19
4B065BC01
4B065BD39
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、パイロジェン、例えばエンドトキシン/LPS、非エンドトキシンパイロジェン(NEP)、プロセス関連不純物、または内因性パイロジェンの試験分野に関する。これは、例えば医薬組成物の品質試験および安全性試験と、非常に関連性がある。本発明は以下を含む少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する組成物を試験する方法を提供する: (i) in vitroで多能性幹細胞由来ヒト単球集団またはマクロファージ集団、例えば多能性幹細胞由来のヒトCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60- 単球集団またはヒトCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60-/CD163+ マクロファージ集団と該組成物とをインキュベートすること、(ii)少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する集団中の単球の反応を決定すること、好ましくは単球により発現する炎症性サイトカインの量を決定すること。本発明はまた、少なくとも1種類のパイロジェンの存在について組成物を試験するためのこのような単球集団の使用、基本的には、単球活性化試験(MAT)のための多能性幹細胞由来単球の使用、およびこのアッセイに好適であるキットの使用を提供する。このような幹細胞由来単球の使用は、例えばドナー細胞の変動性により発生する困難を克服し、再現可能で長期間安定である試験システムを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のパイロジェンの存在について組成物を試験する方法であって、
(i) 多能性幹細胞由来のヒトCD45
+/CD11b
+/CD14
+/CD34
-/TRA1-60
-単球集団と前記組成物とをインキュベートすること、および
(ii) 少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する集団中の前記単球の反応を決定すること、好ましくは前記単球により発現する炎症性サイトカインの量を決定すること、
を含み、
好ましくは、前記組成物は、(I) 血漿由来医薬組成物、ワクチン、および注射または移植用の他の組成物を含む群から選択される医薬組成物、または(II) 医療機器をリンスして得られる組成物、またはその医療機器を含む組成物、または(III) 診断キットの標準物質である、
方法。
【請求項2】
少なくとも1種類のパイロジェンの存在について組成物を試験するための多能性幹細胞由来のCD45
+/CD11b
+/CD14
+/CD34
-/TRA1-60
-単球を含むヒト単球集団の使用であって、前記試験は請求項1に記載の方法の実施を含み、前記試験は場合により、前記組成物の品質管理および/または安全管理のための試験であり、
好ましくは、前記組成物は、(I) 血漿由来医薬組成物、ワクチン、および注射または移植用の他の組成物を含む群から選択される医薬組成物、または(II) 医療機器の洗浄から得られる組成物、またはその医療機器を含む組成物、または(III) 診断キットの標準物質である、
使用。
【請求項3】
前記単球集団が複数の対象由来である、請求項1の方法、または請求項2の使用。
【請求項4】
多能性幹細胞由来の複数のヒトCD45
+/CD11b
+/CD14
+/CD34
-/TRA1-60
-単球集団を別々に該組成物とインキュベートし、ステップ(ii)によって反応を別々に決定する、請求項1の方法、または請求項2の使用。
【請求項5】
前記単球集団または複数の単球集団が、少なくとも1人の健常対象由来、好ましくは複数の健常対象由来である、請求項1または3から4のいずれかの方法、または請求項2から4のいずれかの使用。
【請求項6】
前記単球集団または複数の単球集団が、全対象が年齢、性別、民族性を含む群から選択される少なくとも1つの共通の特性を共有し、および/または、各対象がアレルギー、自己免疫疾患、感染症、遺伝性疾患およびがんを含む群から選択される状態を有する、複数の対象由来である、請求項1または3から5のいずれかの方法、または請求項2から5のいずれかの使用。
【請求項7】
前記少なくとも1種類のパイロジェンが、
・LPS
・フラジェリン、ペプチドグリカン、リポタンパク質、リポタイコ酸、FSL1、MALP2、ウイルスパイロジェン、酵母パイロジェンおよび真菌パイロジェンを含む群から選択される非エンドトキシンパイロジェン(NEP)
・製品関連不純物
・プロセス関連不純物または発熱性化学物質
・ダメージ関連分子パターン(DAMP)、または
・それらの組み合わせ
である、請求項1または3から6のいずれかの方法、または請求項2から6のいずれかの使用。
【請求項8】
前記パイロジェンが、医薬組成物の低いまたはとても高いチャージなど、その炎症性または抗炎症性効力について試験すべき医薬組成物である、請求項1または3から7のいずれかの方法、または請求項2から7のいずれかの使用。
【請求項9】
前記単球集団が、ミエロイド細胞、好ましくは単球を生産する方法から取得可能である、請求項1または3から8のいずれかの方法、または請求項2から8のいずれかの使用であって、該方法が、
a) ミエロイド細胞形成複合体を生産するために十分な期間、IL-3および場合によりM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で胚様体を培養すること;
b) ミエロイド細胞、好ましくは単球を生産するために十分な期間、IL-3および好ましくはM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下でミエロイド細胞形成複合体を培養すること; および
c) 該ミエロイド細胞、好ましくは単球を単離すること、
d) および場合により、該ミエロイド細胞を凍結すること、ならびに該ミエロイド細胞を解凍および洗浄すること、
のステップを含み、
単離した細胞が、ステップa)および/またはb)でM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養しなかったものである場合、単離後、その細胞を単球を得るためにM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養する、
方法または使用。
【請求項10】
ミエロイド細胞を生産する方法により前記単球集団を取得することをさらに含む、請求項1または3から9のいずれかの方法、または請求項2から9のいずれかの使用であって、該方法が
a) ミエロイド細胞形成複合体を生産するために十分な期間、IL-3および場合によりM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で胚様体を培養すること;
b) ミエロイド細胞、好ましくは単球を生産するために十分な期間、IL-3および好ましくはM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下でミエロイド細胞形成複合体を培養すること; および
c) 該ミエロイド細胞、好ましくは単球を単離すること、
d) および場合により、該ミエロイド細胞を凍結すること、ならびに該ミエロイド細胞を解凍および洗浄すること、
のステップを含んでおり、
単離した細胞が、ステップa)および/またはb)でM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養しなかったものである場合、単離後、その細胞を単球を得るためにM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養する、
方法または使用。
【請求項11】
前記方法が、ステップ(i)の前に前記単球集団を凍結および洗浄することをさらに含み、ここで、単球は場合により、ステップ(i)のインキュベーションのため、細胞数をバイアルあたり1*10
4から5*10
4個に調整される、
請求項1または3から10のいずれかの方法、または請求項2から10のいずれかの使用。
【請求項12】
前記単球がCD163
+マクロファージである、請求項1または3から11のいずれかの方法、または請求項2から11のいずれかの使用。
【請求項13】
前記ヒト単球集団で、DKK1、SEPP1、PITX2、COL3A1、KRT19、A_33_P3221980、CALD1、CYR61、H19、DDIT4L、FRZB、TMEM98、NNMT、NPNT、LUM、DCN、LYVE1、MGP、IGFBP3およびNUAK1よりなる群から選択される少なくとも9個の遺伝子の発現がPBMC由来の単球と比べて少なくとも20倍増加している、請求項1または3から12のいずれかの方法、または請求項2から12のいずれかの使用。
【請求項14】
少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する前記単球の反応の決定が、
i) ヒト単球により発現するIL-1β、IL-6、IL-8およびTNF-α、MCP-1、IL-10またはPGE2などのプロスタグランジンまたはHMGB1などの高移動度群タンパク質を含む群から選択される炎症性サイトカインの量を
a) インキュベーション後の培養上清での抗体ベースの試験により、好ましくはELISAを用いた試験により、
b) 定量PCRにより、
決定すること、
ii) 前記ヒト単球によって発現される表面活性化マーカーの発現を、例えばFACSにより、決定すること、
好ましくは、ia、
を含む、請求項1または3から13のいずれかの方法、または請求項2から13のいずれかの使用。
【請求項15】
前記単球が、少なくとも1種類のパイロジェンにより誘導可能な調節因子に動作可能に連結しているレポーター遺伝子を含み、
前記調節因子が、IL-6プロモーター、TNF-αプロモーター、IL-1βプロモーター、IL-8プロモーターおよびNFκBにより誘導可能な調節因子を含む群から選択され、
少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する前記単球の前記反応の決定が該レポーター遺伝子の活性を決定することを含む、
請求項1または3から14のいずれかの方法、または請求項2から14のいずれかの使用。
【請求項16】
前記単球が、
a) 野生型のヒト単球には存在しない少なくとも1種類のさらなるパイロジェン受容体を発現するように、および/または
b) 野生型のヒト単球に存在する少なくとも1種類のパイロジェン受容体を発現しないように、
遺伝子操作を受けている、請求項1または3から15のいずれかの方法、または請求項2から15のいずれかの使用。
【請求項17】
請求項1または3から16のいずれかの方法を使用して少なくとも1種類のパイロジェンの存在について組成物を試験するに好適なキットであって
(A)各単球集団が1人の対象に由来する、多能性幹細胞由来の複数のヒト単球集団を別々に含み、または
(B)複数の対象の多能性幹細胞由来のヒト単球集団のプールを含み、
好ましくは(A)を含み、
全対象が年齢、性別、民族性を含む群から選択される少なくとも1つの共通の特性を共有し、および/または、各対象がアレルギー、自己免疫疾患、感染症、遺伝性疾患およびがんを含む群から選択される状態を有する、および
場合により、炎症性サイトカインに対する抗体および該サイトカインの発現検出を可能にするPCRプライマーを含む群から選択される炎症性サイトカインの検出試薬、および
場合により、標準パイロジェン、
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロジェン、例えばエンドトキシン/LPS、非エンドトキシンパイロジェン(NEP)、プロセス関連不純物、または内因性パイロジェンの試験分野に関する。これは、例えば医薬組成物の品質試験および安全性試験と大いに関連する。本発明は以下を含む、少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する、組成物を試験する方法を提供する:(i) in vitroの多能性幹細胞由来ヒト単球集団またはマクロファージ集団、例えば多能性幹細胞由来のヒトCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60- 単球集団およびヒトCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60-/CD163+ マクロファージ集団と当該組成物とをインキュベートすること、(ii) 少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する集団中の単球の反応を決定すること、好ましくは単球により発現する炎症性サイトカインの量を決定すること。本発明はまた、少なくとも1種類のパイロジェンに対する組成物の試験のためのこのような単球集団の使用も提供し、本質的には、単球活性化試験(MAT)のための多能性幹細胞由来単球の使用、およびこのアッセイに好適であるキットを提供する。このような幹細胞由来単球の使用は、例えばドナー細胞の変動性により発生する困難を克服し、再現性があり長期間安定である試験システムを可能にする。
【0002】
パイロジェン検出は、医薬産業、研究室、およびヘルスケア施設にはとても重要なものである。非経口製剤に対する有害反応は、19世紀後半にはすでに記録されている。そのような発熱を誘導する物質はパイロジェンと呼ばれている。発熱誘導能と無菌性は区別されることが判明したが、例えば、グラム陰性細菌の細胞壁構成成分であるリポ多糖(LPS)またはエンドトキシンは、細菌が死んでもパイロジェンとしての機能があることも判明した。その安定性のため、エンドトキシンは熱やろ過などの古典的な殺菌手順では除去することが非常に困難な場合もある。このことで、その生産プロセス全体の制御が必要となる。
【0003】
HortとPenfoldは1912年に初めてパイロジェン試験を設計したが、その試験はウサギへの注射とそのウサギの体温上昇の分析に基づくものであった。このパイロジェン試験は1942年出版のthe United States Pharmacopoeia (USP)第12版に収録された。このパイロジェン試験は、ある場合には今日でもまだ使用されているが、高価で時間がかかり、動物使用の問題がある(Vipond et al., 2016. ALTEX)。
【0004】
最初の最も成功した代替試験は、カブトガニの血液由来のアメーバ細胞ライセートに基づく細菌エンドトキシン試験(bacterial endotoxin test (BET))で、カブトガニアメーバ細胞ライセート(LAL)アッセイであるが、これは1970年代に商業利用可能となり、ウサギパイロジェンテストに代わり広く使用されることになった。しかし、LPSエンドトキシンだけを検出するものであり、他のパイロジェン物質は見逃してしまう。また、ある条件(準最適pH条件、または適切でない陽イオン濃度)では、偽陰性を出しうる。炭水化物クロマトグラフィ複合体由来のグルカンでも擬陽性を出しうる。
【0005】
1988年、Pooleらは単球からのサイトカイン放出を利用した、医薬におけるパイロジェンコンタミネーションのアッセイを提唱した(Poole et al. 1988. Dev Biol Stand 69:121-123)。2010年1月以降、単球活性化試験は欧州薬局方(章2.6.30)においてパイロジェン検出の公定法として記載され、2016年の改訂以降、可能な限り、製品個別のバリデーションの後に、ウサギ試験から単球活性化試験(MAT)への切り替えが推奨されることとなった(EP 2.6.8, Rev. July 2016) (MerckMillipore, 2017 White Paper: Monocyte Activation Test (MAT), MerckKGaA, Darmstadt)。MATは広く受け入れられているが、いくつかの不利な点も残っている。初代細胞の使用は、時間と労力を要すのみならず、試験間での大きな変動も現れる。単球が時間とともに変化するように、同じ供給源の使用でさえ、時間とともに異なる結果へとつながる。これを克服するために、様々な対象由来のマクロファージプールが時に使用されるが、実際の安定性はこの手段では得られない。
【0006】
MATへの単球細胞株の使用も、1988年Pooleらによりすでに提案された。細胞株を利用した場合、同じ細胞を使用したアッセイでの変動は低いものの、まだ最適ではない。さらに、利用可能な単球細胞株が限れられることで、単球またはマクロファージの遺伝的背景が狭い範囲となり、さらにこれらはすべて悪性細胞である。このことが、その方法がすべての状況において代表的利用になりえない帰結である。
【0007】
従来技術の現状に鑑み、本発明者らは、少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対して、例えば医薬組成物である組成物を試験するための有利な方法および好適な細胞集団を提供するという課題に対処した。上記で述べたいくつかの、またはすべての課題は、本発明により、特に請求項の保護対象により解決される。有利に、少なくとも数十年安定なパイロジェン試験システムを提供する。
【0008】
つまり、本発明は、以下を含む、少なくとも1種類のパイロジェンの存在について組成物を試験する方法を提供する、
(i) 多能性幹細胞由来のヒトCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60-単球集団と前記組成物をインキュベートすること、および
(ii) 少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する集団中の前記単球の反応を決定すること、好ましくは前記単球により発現する炎症性サイトカインの量を決定すること。
【0009】
したがって、本発明は、少なくとも1種類のパイロジェンの存在について組成物を試験するための、多能性幹細胞由来のCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60-単球を含むヒト単球集団の使用、特に本発明の方法を用いての使用も含む。好ましくは、少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する当該試験は、当該組成物の品質管理および/または安全管理のためである。品質管理は、組成物が標準規格に従うものか、例えば組成物が所望の効力または活性を、特に所望の発熱性(pyrogenic)または炎症促進性の効力または活性を持つか試験することを意味する。所望の発熱性または炎症促進性の効力は、そのような活性の不存在でありうるが、製品によっては、以下でさらに説明するように、特定の発熱性または炎症促進性の効力が望まれる場合もある。組成物はまた、特定の抗炎症性効力も試験される場合もある。
【0010】
本発明の方法は、特に、組成物の特性決定に関心がある場合、例えばまだ特徴づけられていない製品または組成物の発熱性プロファイルを提供するために、特徴付けにも使用できる。例えば、どのパイロジェンが発熱性反応の原因であるかを、例えば以下に記載するような、特定のToll様受容体の阻害薬または遺伝子改変細胞を用いて試験できる。
【0011】
本発明のアッセイは、品質管理、毒性試験、医薬組成物のチャージ放出(release of charges)、診断、および研究、例えば前臨床研究に関して有利に使用されうる。
【0012】
様々な分化ステージの単球を、本発明の方法に使用しうる。その単球はCD163-単球でもCD163+単球でもよい。
【0013】
発明者らは驚くべきことに、多能性幹細胞由来の単球またはマクロファージの使用がデータの良好な再現性につながることを発見した。試験間の変動は非常に低い。さらに有利なことに、試験が多能性幹細胞由来単球またはマクロファージ、例えばiPSC-マクロファージを用いて実施された場合、より高いダイナミックレンジで、すなわちパイロジェンをより低濃度および高濃度で検出可能なことがわかった。
【0014】
少なくとも1種類のパイロジェンは、以下であってもよい。
・LPS(リポ多糖、すなわちグラム陰性細菌の外部細胞壁の主な構成物)。LPSはエンドトキシンとも呼ばれる;
・非エンドトキシンパイロジェン(NEP)。NEPは典型的には、MAMP(微生物関連分子パターン)またはPAMP(病原体関連分子パターン)である。NEPの例はフラジェリン、ペプチドグリカン、リポタンパク質、リポタイコ酸、FSL1(線維芽細胞刺激リポペプチド1、TLR2/TLR6ヘテロダイマーを活性化する合成ジアクリルリポタンパク質)、MALP2(マクロファージ活性化リポペプチド-2、TLR2/6アゴニストでもある)、ウイルスパイロジェン(例えば、インフルエンザなどのミクソウイルス由来のウイルス構成物)、酵母パイロジェンおよび真菌パイロジェン(例えば、莢膜多糖類)である;
・製品関連不純物。典型的には、宿主細胞タンパク質、宿主細胞DNAまたはバイオバーデン(すなわち微生物コンタミネーションの残渣)のことである;
・プロセス関連不純物または発熱性化学物質。組成物中に含まれうる発熱性化学物質の例は、ポリアデニル酸、ポリウリジル酸、ポリイノシン酸、およびポリリボシチジル酸、または酸化的リン酸化の脱共役剤(ピクリル酸(トリニトロフェノール)、ジニトロフェノール、または4,6-ジニトロ-オルト-クレゾール)、N-フェニル-β-ナフチルアミン、アルド-α-ナフチルアミン、ニッケル塩などの金属、または体温調節中枢撹乱物質(LSD、コカイン、モルヒネ)(Borton et al., 2018, ALTEX)である。さらに、粒子などの発熱性のプロセス関連不純物、例えばナノ粒子(1nm以上1μm未満)などのファゴサイトーシスされるに十分小さい粒子が含まれうる。例えば、ゴム粒子、マイクロプラスチック粒子、有機塵またはエラストマー中の金属分子が発熱性のプロセス関連不純物になりうる。薬物担体として用いられる粒子、例えばナノ粒子は、大量のエンドトキシンとも結合しうるため、発熱性作用を持ちうる;
・ダメージ関連分子パターン(DAMP、危険関連分子パターンともいう)。病原体関連分子パターン(PAMP)とは対照的に、DAMPは非感染性炎症応答を開始し継続させうる宿主の生体分子である。例えば、DAMPは損傷または死細胞から放出され、パターン認識受容体(PRR)と相互作用することにより自然免疫機構を活性化する。多くのDAMPが所定の細胞内機能を有する核タンパク質または細胞質タンパク質であり、組織が損傷し細胞外へと放出された場合、還元性環境から酸化性環境へと移動するため、機能が変性する。それらDAMPに加え、ECM(細胞外マトリクス)、ミトコンドリア、顆粒、ER(小胞体)、および細胞膜などの様々な供給源由来の他のDAMPがある。DAMPの例には以下がある:ビグリカン、デコリン、バーシカン、LMWヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、フィブロネクチン、またはそのEDAドメイン、テネイシン、尿酸、S100タンパク質、ATP、F-アクチン、シクロフィリンA、Aβ、ヒストン、HMGB1、HMGN1、IL-1α、IL-33、SAP130、DNA(例えばCpGヌクレオチド)、RNA、mtDNA、TFAM、ホルミルペプチド、mROS、カルレティキュリン、ディフェンシン、カテリシジン(LL37)、EDN(好酸球由来ニューロトキシン)、グラニュライシン、シンデカン、およびグリピカン、熱ショックタンパク質(HSP60、HSP70またはgp96などのHSP)(ウィキペディア); または
・それらの組み合わせ
【0015】
少なくとも1種類のパイロジェンが、内因性パイロジェン、例えばサイトカイン、ケモカイン、または外因性パイロジェンまたはDAMPとの接触による反応として体内で産生される他のメッセンジャー、例えばIL-1、IL-6、IL-12、TNF-αまたはMCP1であってもよい。このようなサイトカインまたはメッセンジャーは、ヒトのものであってもよいが、動物由来のサイトカインまたはメッセンジャーも交差反応性があり、ヒトに発熱を起こしうる。
【0016】
典型的には、パイロジェンに対する試験をする組成物は、
(I) 血漿由来医薬組成物、ワクチン、および注射または移植用の他の組成物を含む群から選択される医薬組成物(例えば、典型的には望ましくない、発熱性活性を有しているか確認する目的で試験される(場合により新規の)活性物質またはリード化合物またはその派生物を含む)、または
(II) 医療機器をリンスして得られる組成物、またはその医療機器を含む組成物、または
(III) 診断キットの標準物質である。
【0017】
多くの医薬組成物、特に、注射を意図しているものである場合では、パイロジェンは望ましいものではなく、またはパイロジェン濃度は特定の基準以下でなければならない。つまり、品質管理および/または安全管理の目的のため、パイロジェンの最終的な含有量を試験しなければならない。パイロジェンは、例えばその組成物が組換えタンパク質または他の細菌産物を含む場合は、生産プロセスの残渣としての細菌コンタミネーションのために、または真核細胞での産生によるコンタミネーションとしてのDAMPのために、そのような組成物内に存在することがある。医薬組成物、例えば血漿由来医薬組成物は、時折さらに、例えば白血球除去または他の血液分離技術に由来しうる、プロセス関連不純物、または、例えば組換えタンパク質を産生する宿主細胞由来の、製品関連不純物のコンタミネーションを受ける。
【0018】
移植用の組成物は、例えば医薬組成物の遅延放出形態であってもよい。治療組成物は、例えば疾患または状態を予防する、またはその影響を減少させるための治療組成物(例えばワクチン)や診断組成物であってもよい。
【0019】
同様に、医療機器はパイロジェンの可能性を試験する必要があり、医療機器を(例えば水またはバッファで)リンスして得られた組成物をパイロジェンの存在について試験する(例えば、欧州薬局方3.3.4人血用のプラスチック容器; リンス液のパイロジェン試験、または同等の試験に基づく)。あるいは、MATは材料媒介性の発熱性(pyrogenicity)を直接分析できるように、試験する医療機器とともに直接インキュベートする(または同義的に、医療機器を含む組成物とともにインキュベートする)ことも許容できる。その場合、試験組成物は、少なくとも定められた時間、例えば単球集団と共にインキュベートする間、医療機器を含む。
【0020】
ほとんどの状況で、パイロジェンは望ましくなく、すなわち本発明の方法は、当該組成物の、またはその組成物が医療機器の洗浄由来の場合は当該機器の、品質管理または毒性管理のために実施される。したがって、パイロジェンの含有量が高過ぎる、例えば既定の基準よりも高い場合は、組成物または医療機器は医薬的には使用されない。
【0021】
診断キット用の基準試料は、例えば標準パイロジェン、例えば上述のエンドトキシンまたはNEPでもよい。
【0022】
ワクチンは典型的には少なくとも1種類のパイロジェンとして作用するアジュバントを含んでおり、つまりアジュバントは免疫系の活性化とワクチンに含まれる抗原に対する応答の刺激を支援する。発熱性作用はワクチンに意図されうるものである。しかし、毒性または準最適応答を避けるため、当該発熱性応答の量、および最適にはその質は管理されるべきで、それは本発明の方法を用いて有利に実施できる。同様に、本発明の方法は、本質的に発熱性作用を持つ医薬組成物、もしくは活性薬、またはそのアジュバント、例えば本明細書で開示される発熱性サイトカインもしくはメッセンジャー、またはアジュバントの試験に使用してもよい。
【0023】
そのため、少なくとも1種類のパイロジェンが、炎症性または抗炎症性効力の試験を要する医薬組成物であってもよい。つまり、医薬組成物生産における、効力が低い、またはとても強いチャージまたは中間体が特定され、必要に応じて、除去、希釈、濃縮またはさらに純化されてもよい。
【0024】
医薬組成物がパイロジェンとして作用する場合、炎症性効力を有している。発熱性作用が既知である標準組成物の発熱性の影響を阻害または減少させる場合は、抗炎症性効力を有する。抗炎症性効力を有する活性薬の例は、本明細書で開示されるあらゆる炎症促進性サイトカインに対する抗体、例えば、抗TNF-a、抗IFNα、抗IL-1α、抗IL-8、抗MCP1などの抗体、またはToll様受容体、例えばTLR-2、TLR-6またはTLR-9をブロックする抗体である。
【0025】
ステップ(i)では、試験する組成物は、無希釈であってもよく、大量のパイロジェンが含まれている場合でも検出のために調整すればよい。検出可能であるパイロジェン濃度の範囲に関する例は、
図1にて提供される。
【0026】
組成物は単球集団と接触し、このとき単球はステップ(i)のインキュベーションにおいて、例えばバイアルあたり約1*104から約5*104個の細胞数で存在している。インキュベーションは、例えば約1時間から3日間の間実施してもよいし、例えば少なくとも4時間から1日、または好ましくは6-12時間または一晩の間実施してもよい。そのインキュベーションは典型的には細胞培養条件下、すなわち37℃、5% CO2の条件でなされる。平底プレートを典型的には使用する。インキュベーションの培養上清は、さらなる分析の前に冷凍できる。
【0027】
MAT試験は、使用する細胞集団を除き、例えばUS 2010/0203551 A1に、CarlinおよびViitanen (2003. Pharmeuropa 15, 3:418-423)、Nakagawaら(2002. Clinical and Diagnostic Laboratory Immunol. 9, 3:588-597)、またはYamamotoら(2003. Jpn. J. Infect. Dis., 56. 93-100)に記載されるように実施可能である。特定のパイロジェンを検出するために、適切なプラスチック材料を好ましくは使用する。
【0028】
単球集団の起源
場合により、本発明で利用する単球集団は少なくとも1人の健康な対象由来のものである。あるいは、アレルギー、自己免疫疾患、感染症、遺伝性疾患、およびがんを含む群から選択される状態を持つ少なくとも1人の対象から利用することもできる。対象は、特定の年齢であってもよく、例えば、単球集団は0-2歳、2-10歳、10-20歳、20-30歳、30-40歳、40-50歳、50-60歳、60-70歳、70-80歳、80-90歳または90歳以上の年齢の対象由来でもよく、または特定の民族性、特定の性別、すなわち男性または女性、であってもよい。
【0029】
本発明の方法の強みの1つは、複数の対象由来、つまり複数の多能性幹細胞由来の単球集団を試験に対し容易に適用できることである。単球またはマクロファージの細胞株では、これらは典型的には異なる培養条件を必要とするため、おそらく適用できない。複数の対象由来の単球集団の使用には、複数の遺伝的背景および/または状態を考慮に入れることができるという利点がある。パイロジェンに対する反応は、遺伝的背景、性別、年齢、および/または状態、例えばパイロジェンと接触する対象の疾患、または幹細胞の由来に依ることがある。
【0030】
さらに、複数の対象由来の単球集団を使用する場合、様々な幹細胞由来の単球を使用する別々の試験間における変動はより低くなりうる。その結果はまた、組成物に対する様々な対象の反応をよりよく反映しうるという点でもより意義深い。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、単球集団はこのように複数の対象由来である。したがって、様々な対象から得た複数の多能性幹細胞由来ということである。プーリングはあらゆるステップにおいて実施できる、例えば幹細胞をプールしてもよく、ミエロイド細胞形成複合体をプールしてもよく、または単球に分化した後の集団をプールしてもよい。その複数とは、少なくとも2人、少なくとも3人、少なくとも5人、少なくとも10人、少なくとも20人、少なくとも25人、少なくとも50人、少なくとも100人、少なくとも200人の異なる対象を含みうる。好ましくは、単球集団は少なくとも4人、例えば4-10人の対象、6-8人の対象由来である。この実施形態は、扱いが容易であり、方法が労力節約的であるという利点を持つ。試験は、本質的には単球集団が1人の対象のみに由来するかのように実施できる。そのため、例えば品質管理などの日常的な適用例では、有利に使用されうる。
【0032】
代替実施形態では、多能性幹細胞由来の複数のヒトCD45+/CD11b+/CD14+/CD34-/TRA1-60-単球集団を、試験する当該組成物とともに別々にインキュベートし、その反応を本発明の方法のステップ(ii)に従い別々に決定する。当該複数の集団は複数の対象由来である。結果は平均値および/または中央値を出して分析してもよい。その複数とは、様々な対象由来の、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個の異なる単球集団を含みうる。好ましくは、複数の4-10個、例えば、6-8個の単球集団を使用する。異なる対象の結果は別々分析することも一緒に分析することもでき、この実施形態はより詳細なデータ分析も可能である。結果を例えば平均値または中央値の形で一緒に分析する場合、統計データも利用可能で、例えば、組成物で処置されうる対象のうち、特定の方法で、例えば発熱または強く潜在的に危険な炎症反応を伴って、特定の組成物と反応しうる割合の予測を可能にしうる。さらに結果を別々に分析する場合、追加のデータも利用可能で、例外的な結果の理由または相関を分析できる可能性もある。この実施形態は、したがって、組成物に対する望ましくない発熱性反応が既に認められている場合、または研究目的の場合、特に好適でありうる。
【0033】
いずれの実施形態でも、単球集団または複数の単球集団は、複数の健常対象由来でありうる。
【0034】
単球集団または複数の単球集団は、全対象が、年齢(例えば、0-2歳、2-10歳、10-20歳、20-30歳、30-40歳、40-50歳、50-60歳、60-70歳、70-80歳、80-90歳または90歳以上)、性別(男性または女性)、民族性(白人、アジア系、アフリカ系、アフリカンアメリカンなど)を含む群から選択される少なくとも1つの共通の特性を共有し、および/または、各対象が例えばアレルギー、自己免疫疾患、感染症、遺伝性疾患、およびがんなどの状態を有する、複数の対象由来であってもよい。共通の特性は、免疫反応、特に自然免疫反応、例えばアレルギー、自己免疫または敗血症発症に対する感受性に影響を与える可能性がある変異または特異的アレルであってもよい。共通の特性は共通のMHCアレルの場合がある。2以上の特性、例えば2、3、4、5、6、または7個の特性が共有されてもよい。
【0035】
場合により、少なくとも1つの特性を共有する対象の幹細胞由来の単球に基づいて取得した結果が、当該特性を持たない対象の幹細胞由来単球と比較される。つまり、当該特性がパイロジェンに対する単球の反応に影響を与える場合、試験することがある。
【0036】
場合により、対象はさらなる特性を共有する。あるいは、対象は、分析する対象の特性に起因する差異の可能性を高めるために、さらなる特性に関して異なるように、選択してもよい。
【0037】
対象は、医薬組成物または医薬品を必要とする特定の疾患または状態に関連しうる少なくとも1つの特性を共有するように選択することもできる。つまり、その分析は、関係する対象または患者の群にとって、よりいっそう適切な結果を導くことになる。
【0038】
単球の調製
本発明で使用する単球は、あらゆる手段、例えば既知技術で、多能性幹細胞から調製されうる。
【0039】
例えば、単球は、胚性幹細胞由来であってもよい。あるいは、人工多能性幹細胞(iPSC)由来であってもよい。
【0040】
多能性幹細胞から、単球、および場合によりCD163+マクロファージを生産する方法には、以下の実施例2に記載されるような接着培養または既知技術が用いられる(例えば、Lachmann et al., 2014 Am J Crit Care Respir Med、Lachmann et al. 2015 Stem Cell Reports、Ackermann et al., 2017 Transfus Med Hematother、Neehus et al., 2018 Stem Cell Reports)。
【0041】
1つの好ましい実施形態では、単球集団は懸濁培養により多能性幹細胞から取得可能である。これは、大量の細胞を簡便な方法で生産可能であるという利点を有する。
【0042】
例えば、単球集団は、ミエロイド細胞、好ましくは単球の生産方法から取得可能であり、当該方法は以下のステップを含む:
a) ミエロイド細胞形成複合体を生産するために十分な期間、IL-3および場合によりM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で胚様体を培養すること;
b) ミエロイド細胞、好ましくは単球を生産するために十分な期間、IL-3および好ましくはM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下でミエロイド細胞形成複合体を培養すること; および
c) 当該ミエロイド細胞、好ましくは単球を単離すること、
d) および場合により、当該ミエロイド細胞を凍結すること、ならびに該ミエロイド細胞を解凍および洗浄すること、
ここで、単離した細胞が、ステップa)および/またはb)でM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養しなかったものである場合、単離後、その細胞を単球を得るためにM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養する。
【0043】
マクロファージを使用する場合、利用するマクロファージ集団は、ミエロイド細胞、マクロファージの生産方法から取得可能であり、以下のステップを含む:
a) ミエロイド細胞形成複合体を生産するために十分な期間、IL-3および場合によりM-CSFの存在下で胚様体を培養すること;
b) ミエロイド細胞を生産するために十分な期間、IL-3および場合によりM-CSFの存在下でミエロイド細胞形成複合体を培養すること; および
c) マクロファージを単離すること。
ステップa)は、好ましくは懸濁培養で実施する。接着培養で実施してもよい。ステップb)は、好ましくは懸濁培養で実施する。好ましくは、ステップa)およびステップb)の両方を懸濁培養で実施する。
【0044】
当該方法は、連続生産を可能にし、好ましくは、ミエロイド細胞の連続生産のために使用される。好ましい方法は、WO 2018/202881 A1で開示されており、参照により本明細書に完全に援用される。
【0045】
好ましくは、本発明の胚様体は、胚様体を産生するのに十分な期間にわたり、iPSCなどの多能性幹細胞を懸濁培養下または接着培養下で培養することを含む方法によって取得される。フィーダー細胞の使用は避けてもよい。これは、サイトカイン、例えばSCF、BMP4、VEGF、またはCHIR99021[(6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(TOCRIS)]およびBIO[(2’Z,3’E)-6-ブロモインジルビン-3’-オキシム)(TOCRIS)]などのWNT経路調整剤を含む小分子を添加することによって補償され得る。好ましくは、培養条件は、ROCK阻害剤の使用を含むが、bFGFの添加は必要とされない。
【0046】
好ましい一実施形態において、懸濁培養は、懸濁培養を可能にするバイオリアクター、例えばエルレンマイヤーフラスコ、スピナーフラスコ、撹拌タンクバイオリアクター、ウェーブバイオリアクター、および回転壁バイオリアクターなどにおいて、優先的には撹拌タンクバイオリアクターにおいて、最も好ましくは計装型(instrumented)撹拌タンクバイオリアクター、すなわち、pH、pO2、温度、および撹拌速度などのプロセスパラメータをモニタリングし制御するための技術を備えたバイオリアクターにおいて実行される。そのようなシステムは、スケーラブルである。すなわち、培養条件を著しく変更することなく、培養物の容量を変更することができる。例えば、以下に記載するように、DASbox Miniバイオリアクターシステム(Eppendorf)が使用され得る。
【0047】
接着培養では、あらゆる組織培養フラスコ、ディッシュ、またはウェルを使用してもよい。
【0048】
EBからのMCFCの生成には、典型的に、約4~8日かかる。MCFCからの第1のミエロイド細胞の生成は、MCFCの形成後に開始し、その後、連続生成が観察される。典型的には、MCFCの生成から約3~16日後に採取が開始する。EBからのMCFCの産生およびミエロイド細胞の産生にかかる好適な合計時間[すなわち、ステップa)およびステップb)の合計時間]は、少なくとも約7日間、例えば、7~20日間である。本発明者らは、7~14日目以降、経時的に増加する収量を示す、撹拌バイオリアクターシステムからのマクロファージの少なくとも週1回の採取が可能であることを示すことができた。250mLのバイオリアクター(120mLの培養容量)において、約2~3×107マクロファージ/週の安定な産生が、早ければ3週目には可能であり、これは、少なくとも5週間にわたって経時的に維持され得る。当然ながら、培養の時間および条件は、所望の細胞の表現型に応じて異なってよい。例えば、連続的または短い間隔での採取は、成熟度の低い細胞の産生をもたらし得る。採取された細胞は、次いで、後述するように、適宜更なる成熟に供され得る。
【0049】
IL-3などのサイトカインの存在下での培養は、当該サイトカインの持続的な存在を必要としない。例えば、一定期間にわたってIL-3の非存在下で細胞を培養することが可能であるが、MCFCによるミエロイド細胞の分化、特に産生は、IL-3の存在を必要とする。IL-3の好適な量は、例えば、10~100ng/mL、好ましくは20~30ng/mL(最も好ましくは、約25ng/ml)のIL-3である。
【0050】
成熟型のマクロファージ生産において、M-CSF(例えば、40-60ng/mL、好ましくは約50ng/mLのM-CSFである好適な濃度で)を本発明の方法の少なくともステップb)、場合によりステップa)にも添加してもよい。
【0051】
本発明の方法の一実施形態において、IL-3に対する更なるサイトカインは、ステップa)またはステップb)のいずれにおいても添加されず、産生されるミエロイド細胞は、更なる分化ができる未熟ミエロイド細胞である。当該事例において、当該方法は、マクロファージが取得されるまで、M-CSF(好適な濃度、例えば、40~100ng/mL、好ましくは約50ng/mLのM-CSF)の存在下で当該未熟細胞を培養することをさらに含む。
【0052】
GMPに準拠する培地では、懸濁培養に先行する単一iPSCの単層としての培養のための、5~200ng/mL、好ましくは50ng/mlのbFGFを含有する、ROCK阻害剤が補充されたE8培地(Stem Cell Technologies)、懸濁培養のための、ROCK阻害剤が補充されたE850またはE6培地(Stem Cell Technologies)、および、血球分化のための、適切なサイトカイン、例えば、50ng/mlのhVEGF、50ng/mlのhBMP4、および20ng/mlのhSCFが補充された[この後には(例えば、中胚葉のプライミングの4日目において)、25ng/mlのIL-3の添加が続き得る]X-VIVO15培地を使用し、良好な結果が見られている。プライミングされた凝集物の、例えばマクロファージ産生のための後続の血球分化は、25ng/mlのIL-3および50ng/mlのM-CSFが補充された3mlのX-VIVO15に培地を変えることによって遂行され得る。
【0053】
産生されたミエロイド細胞を単離することは、産生されたミエロイド細胞、好ましくはマクロファージを、少なくとも50%、または好ましくは、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の純度まで精製することを含む。単球またはマクロファージを産生する場合、特に、IL-3およびM-CSFの存在下での培養を用いる場合、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-の発現プロファイルによって特徴付けられるミエロイド前駆体細胞の純度は、好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であり得る。産生される細胞のうち少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、または70~90%は、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-CD14+/CD163+マクロファージである。一実施形態において、産生される細胞のうち少なくとも95%は、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-であり、産生される細胞のうち70~90%は、CD45+CD11b+CD34-TRA-1-60-CD14+/CD163+である。他の細胞のほとんどは(すなわち50%以上)、マクロファージのミエロイド前駆体である。単離が連続的である場合、または採取がより短い間隔において実施される場合、前駆体の割合はより高くてもよい。
【0054】
本方法は、CD45+CD11b+CD14+CD34-TRA1-60-単球またはCD45+CD11b+CD14+CD163+CD34-TRA1-60-マクロファージを含む細胞集団を提供し、好ましくは、当該細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも70%が、本発明の方法によって取得可能である。
【0055】
多能性および自然免疫応答の活性化に関連する遺伝子の発現の分析により、iPSCのマクロファージ様細胞への効率的な分化が確認された。重要なことに、マクロファージ機能に関連する遺伝子、例えばtoll様受容体(TLR)1および4、CD14、またはNF-κBシグナル伝達経路の構成要素[遺伝子オントロジー(GO)自然免疫の活性化:0002218]は、iPSCと対比して、iPSC-MACおよびPBMC-MACにおいて有意に上方調節された。接着および機能の分析(例えば、ラテックスビーズおよび細菌の食作用性取り込み)の後の形態学的分析により、産生された細胞が単球またはマクロファージであることが確認される。
【0056】
WO 2018/202881 A1の懸濁培養法から取得可能なマクロファージは、典型的に、PBMCから取得されるマクロファージよりも有意に高いCD14およびC163の表面発現量(FACSにより判定される)、ならびに有意に低いHLAの表面発現量を有する。実施例において産生されたマクロファージは、IL-6、IL-8、またはTNF-αなどの炎症促進性サイトカインを産生できることが示された。したがって、それらは、抗炎症性マクロファージよりも炎症促進性マクロファージであると考えることができる。好適なサイトカイン、例えばIL-13、IL-10、IL-4の添加により、表現型を抗炎症性マクロファージに再指向することができる。加えて、他の物質、例えばコルチコステロイドを使用して、抗炎症性表現型を誘導してもよい。典型的には、炎症促進性サイトカインまたは抗炎症性サイトカインを、本発明の試験を実施する前に添加しない。
【0057】
本発明者らは、上記またはWO 2018/202881 A1に記載されるような懸濁培養から取得可能な、本発明のCD45+CD11b+CD14+CD163+CD34-TRA1-60-マクロファージが、従来技術の方法にしたがって単離されたマクロファージと比較して独特の発現プロファイルを有することを見出した。好ましくは、これらのマクロファージにおいて、DKK1、SEPP1、PITX2、COL3A1、KRT19、A_33_P3221980、CALD1、CYR61、H19、DDIT4L、FRZB、TMEM98、NNMT、NPNT、LUM、DCN、LYVE1、MGP、IGFBP3、およびNUAK1からなる群から選択される少なくとも10種の遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも20倍、好ましくは、少なくとも50倍、少なくとも200倍、少なくとも400倍、または少なくとも1000倍上方調節されている。DKK1、SEPP1、PITX2、COL3A1、KRT19、A_33_P3221980、CALD1、CYR61、H19、DDIT4L、FRZB、TMEM98、NNMT、NPNT、LUM、DCN、LYVE1、MGP、IGFBP3、およびNUAK1からなる群から選択される少なくとも12種の遺伝子、好ましくは少なくとも15種の遺伝子、またはすべての遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも100倍、好ましくは、少なくとも200倍、少なくとも400倍、または少なくとも500倍上方調節されていてもよい。CYR61、DDIT4L、KRT19、DCN、LUM、COL3A1の発現は、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して、少なくとも200倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍上方調節されていてもよい。
【0058】
更に、これらのマクロファージにおいて、ANPEP、CDA、CRTAM、ENST00000390237、FBP1、GBP1、GNLY、HLA_DQA1、HLA_DQA2、HLA_DQB1、HLA_DQB2、HLA_DRA、HLA_DRB1、HLA_DRB3、HLA_DRB4、HLA_DRB5、IL15、LY75、S1PR4、TNFAIP6からなる群から選択される少なくとも10種の遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも20倍、好ましくは、少なくとも200倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍下方調節されていてもよい。当該群から選択される少なくとも10種、少なくとも12種、またはすべての遺伝子の発現が、当該マクロファージにおいて、PBMCから誘導されるマクロファージと比較して少なくとも100倍、好ましくは、少なくとも200倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、または少なくとも1000倍下方調節されていてもよい。
【0059】
典型的な発現プロファイルは、WO 2018/202881 A1において、例えば、表1において開示される。この比較は、比較される細胞型のうちの1つにおいて事実上発現されない遺伝子に関して、特に高い差をもたらすことが認められる。その場合、遺伝子の発現における非常に小さな差ですら、比較発現率における高い差をもたらし得る。理論に束縛されることを意図するものではないが、懸濁培養におけるせん断応力が、産生されるミエロイド細胞における遺伝子の異なる発現をもたらすと考えられる。
【0060】
1つの実施形態では、本発明の方法はさらに、単球集団の取得を含む。単球集団はミエロイド細胞を生産する方法により取得可能であり、当該方法は以下のステップを含む:
a) ミエロイド細胞形成複合体を生産するために十分な期間、IL-3および場合によりM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で胚様体を培養すること;
b) ミエロイド細胞、好ましくは単球を生産するために十分な期間、IL-3および好ましくはM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下でミエロイド細胞形成複合体を培養すること; および
c) 当該ミエロイド細胞、好ましくは単球を単離すること、
d) および場合により、当該ミエロイド細胞を凍結すること、ならびに当該ミエロイド細胞を解凍および洗浄すること、
ここで単離した細胞が、ステップa)および/またはb)でM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養しなかったものである場合、単離後、その細胞を単球を得るためにM-CSFおよび/またはGM-CSFの存在下で培養する。ステップa)は、好ましくは懸濁培養で実施する。接着培養で実施してもよい。ステップb)は、好ましくは懸濁培養で実施する。好ましくは、ステップa)およびステップb)の両方を懸濁培養で実施する。
【0061】
単球細胞集団(接着培養または懸濁培養、または混合形式のいずれかで調製)は、例えば、当技術分野において公知の方法にしたがって、凍結され得る。それらは使用前に解凍される。例えば、1つまたは複数の培養物の異なるバッチから、1つまたは複数の時点において単離された集団を、より高い細胞数が必要な場合に組み合わせることができ、および/または様々な対象からの多能性幹細胞由来の集団をプールしてもよい。
【0062】
単球集団を凍結した場合、本発明の方法はさらに、ステップ(i)の前に単球集団を解凍および洗浄することを含み、単球は場合により、ステップ(i)のインキュベーションのため、細胞数をバイアルあたり約1*104から約5*104個に調整される。
【0063】
単球の反応決定
本発明の方法は、(ii)少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する集団中の単球の反応を決定することを含む。少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する単球の反応の決定とは、例えば以下を含んでもよい:
i) ヒト単球により発現するIL-1β、IL-6、IL-8およびTNF-α、MCP-1、IL-10、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IFN-λ(IFN-λ1、IFN-λ2、IFN-λ3)またはPGE2などのプロスタグランジンまたはHMGB1などの高移動度群タンパク質(HMGP)またはネオプテリンを含む群から選択される炎症性サイトカインの量の決定をすること、または
ii) ヒト単球によって発現される表面活性化マーカーの発現の決定をすること。
【0064】
炎症性サイトカインまたはプロスタグランジンまたはHMGPの量は以下で決定してもよい
a)インキュベーション後の培養上清における抗体ベースの試験により、好ましくはELISAを用いた試験により、
b) 定量PCRにより。
【0065】
炎症性サイトカイン、プロスタグランジン、またはHMGPの量の検出には、放射標識イムノアッセイ、化学発光アッセイなどの酵素イムノアッセイ、比色イムノアッセイ、および免疫蛍光技術を含む群からのアッセイなどの、免疫拡散技術、免疫電気泳動技術、光散乱イムノアッセイ、凝集技術、標識イムノアッセイを含む群から選択される方法の使用を含みうる。その方法は、FACSベース、例えば少なくとも1種類のサイトカインの細胞内FACS、またはELISPOTアッセイでもよい。当業者は従来技術にも記述されているこれらの方法に詳しく、例えばZane, H.D. (2001): Immunology - Theoretical & Practical Concepts in Laboratory Medicine, W. B. Saunders Companyの特に14章に記述されている。
【0066】
好ましくは、本発明の方法は単球によって発現される炎症性サイトカインの量を決定することを含む。例えば日常的な目的のために、容易に標準化および自動化できる有利な試験フォーマットが、サンドイッチELISAなどのELISAである。そのアッセイはマルチプレックスアッセイであってもよく、例えばLuminex(登録商標)マルチプレックスアッセイである。日常的な試験、例えば品質管理のためには、単一のサイトカイン用ELISAが典型的には十分であり、例えばIL-1β、IL-6、IL-8、ならびにTNF-α、またはMCP-1用である。IL-6は、例えば、容易に決定可能で、従来のマクロファージ活性化試験でしばしば決定されるサイトカインである。
【0067】
あるいは、ii)ヒト単球で発現する表面活性化マーカーを例えばFACSにより決定できる。分析しうる表面活性化マーカーは、例えばCD80、CD86、CD11c、MHCII、CD38、CD282および/またはCD64を含む。
【0068】
利用する単球集団を遺伝子改変できるというのが本発明の利点の1つであり、例えば少なくとも1種類のパイロジェンに対する細胞応答の、より容易な、および/またはより差別化された分析を可能にする。
【0069】
つまり、1つの実施形態では、単球は、少なくとも1種類のパイロジェンにより誘導可能な調節因子に動作可能に連結しているレポーター遺伝子を含む。調節因子はプロモーターまたはエンハンサーが該当しうる。調節因子は例えば、IL-6プロモーター、TNF-αプロモーター、IL-1βプロモーター、IL-8プロモーター、IFN-αプロモーター、IFN-βプロモーター、およびIFN-γプロモーター、IFN-λプロモーター(例えば、IFN-λ1、IFN-λ2、IFN-λ3)、MCP-1プロモーター、IL-10プロモーター、高移動度群タンパク質(HMGP)プロモーター、例えばHMGB1プロモーターまたはネオプテリンプロモーター、または別の炎症促進性サイトカインプロモーター、またはNFκB誘導性調節因子であってもよく、ここで少なくとも1種類のパイロジェンの存在に対する単球の反応の決定には、当該レポーター遺伝子の活性を決定することを含む。
【0070】
レポーター遺伝子は、例えば比色測定で検出可能であってもよい。例えば、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、またはGFP、EGFP、YFP、CFP、dsRed、eqFP611、Dronpa、TagRFP、KFP、EosFP/IrisFP、Dendra、Katuschka red、RedStar、mTurquiose、またはmCherryなどの蛍光タンパク質であってもよい。
【0071】
あるいは、または追加で、単球は以下の遺伝子操作をされてもよい
a) 野生型のヒト単球には存在しない少なくとも1種類の追加のパイロジェン受容体を発現する、および/または
b) 野生型のヒト単球に存在する少なくとも1種類のパイロジェン受容体を発現しない。
【0072】
そのような遺伝子改変、特にノックアウト(例えば、CRISPR/Cas技術により)、または下方調節(例えば、siRNAにより)が、本発明の試験のおいて異なるパイロジェン間の差異に対応できるかもしれない。例えば、TLR5ノックアウトで細胞はフラジェリンに応答しなくなり、フラジェリン以外のパイロジェンのみを検出可能になる。TLR4ノックアウトで細胞はLPSに応答しなくなり、LPS以外のパイロジェンのみを検出可能になる。あるいは、阻害物質、または誘導されるサイトカインまたはメッセンジャーの異なるプロファイルに基づき、異なるパイロジェンの区別が可能になるかもしれない。
【0073】
本発明のキット
本発明は、本発明の方法を用いた少なくとも1種類のパイロジェンが存在する組成物の試験に好適なキットも提供する。このようなキットは、
(A)各単球集団が1人の対象に由来する、多能性幹細胞由来の複数のヒト単球集団を別々に含み、または
(B) 複数の対象の多能性幹細胞由来のヒト単球集団のプールを含み、
好ましくは(A)を含み、
全対象が、年齢、性別、民族性を含む群から選択される少なくとも1つの共通の特性を共有し、および/または、各対象がアレルギー、自己免疫疾患、感染症、遺伝性疾患およびがんを含む群から選択される状態を有する(共有する特性は好ましくはMHCではない)。上記で説明したように、複数の対象由来の単球の使用は有利である。
【0074】
キットは場合により、炎症性サイトカインに対する抗体および当該サイトカインの発現検出を可能にするPCRプライマーを含む群から選択される炎症性サイトカインの検出試薬をさらに含んでもよい。キットは、代替的にまたは追加で、標準パイロジェンを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】ヒトiPSCからの単球/マクロファージ生産およびLPS刺激(A) 懸濁培養でのhCD34iPSCclone16 (女性)またはhGMPDU8 (男性)からのiMonoMac(人工多能性幹細胞由来の単球またはマクロファージ)の連続生産スキーム、およびその後のMATアッセイでの使用。(B) iMonoMac (hCD34iPSCclone16)のLPS(1μg/ml)刺激後のIL-6および他のサイトカインの放出。
【0076】
【
図2】本発明(実施例2の方法に従う)に従い、iPSC (hCD34iPSCclone16 (女性)またはhGMPDU8 (男性))から調製した単球を使用したMAT (実施例3に従い実施)の比較。(A) iMonoMac (hCD34iPSCclone16)のLPSおよびNEP刺激後のIL-6放出。5x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(B) iMonoMac (hCD34iPSCclone16)のLPSおよびNEP刺激後のIL-6放出。1x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(C) iMonoMac (hCD34iPSCclone16)のLPSおよびNEP刺激後のIL-6放出(上清ELISA 1:5)。5x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(D) iMonoMac (hCD34iPSCclone16)のLPSおよびNEP刺激後のIL-6放出(上清ELISA 1:5)。1x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(E) iMonoMac (hGMPDU8)のLPSおよびNEP刺激後のTNFa放出。1x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(F) iMonoMac (hGMPDU8)のLPSおよびNEP刺激後のTNFa放出。5x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(G) iMonoMac (hGMPDU8)の+/- LPSおよびNEP刺激後のTNFα放出。1x10^4cells/wellまたは5x10^4cells/wellのいずれかを使用。(H) iMonoMac (hGMPDU8)のLPSおよびNEP刺激後のIL-6放出。1x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(I) iMonoMac (hGMPDU8)のLPSおよびNEP刺激後のIL-6放出。5x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)。(J) iMonoMac (hGMPDU8)の+/- LPSおよびNEP刺激後のIL-6放出。1x10^4cells/wellまたは5x10^4cells/well (96ウェルプレートで6日間、マクロファージへ分化)のいずれかを使用。
【0077】
【
図3】従来の単一ドナー凍結血液(2人のドナー)を用いたMAT (実施例3と類似の実施だが、ここでは235μLの培地、10μLの凍結血液(接着系マクロファージの代わりに)と15μLのサンプル; 最終液量260μL)。細胞をLPS添加(400pg LPS/mLから6.25pg LPS/mL; 各濃度で5回測定)で一晩培養し、上清のサイトカイン(IL-6)を検出。
【0078】
【
図4】実施例2の方法に従いiPSC(hCD34iPSCclone16 (女性))から調製したiMonoMac、および健常ドナープールの末梢血から調製したMDM単球、およびMM6に関するMAT(実施例3に従い実施)の比較。(A) 1x10^4cells/wellで播種した単球のLPS刺激後のIL-6放出。(B) 1x10^4cells/wellで播種した単球のNEP: MALP-2刺激後のIL-6放出。(C) 1x10^4cells/wellで播種した単球のNEP: フラジェリン(Flg)刺激後のIL-6放出。(D) 1x10^4cells/wellで播種した単球のNEP: 熱で殺滅させた黄色ブドウ球菌(heat killed staphylococcus aureous (HKSA))刺激後のIL-6放出。(E) 1x10^4cells/wellで播種した単球のNEP: 熱で殺滅させたカンジダ・アルビカンス (HKCA, 10
9cells/mL)刺激後のIL-6放出。nd = 不検出。(F) 1x10^4cells/wellで播種した単球のNEP: ポリスチレンナノ粒子刺激後のIL-6放出。サイトカイン放出を刺激24時間後に検出。
【0079】
【
図5】健常ドナーMDMの末梢血プールから調製した単球由来のマクロファージと比較した、iPSC (hCD34iPSCclone16 (女性))から調製したiMonoMacの表現特性。(A) 典型的なマクロファージマーカーの表面マーカー発現 (CD45、CD14、CD163、CD16)。(B) 選択したTLR (TLR2、TLR4、TLR5)およびデクチン-1のパターン認識受容体の発現。(C) 共通するマクロファージ表面マーカーのΔMFI値 (ΔMFI = MFI CD163 - MFI アイソタイプ)定量棒グラフ。(D) 選択したパターン認識受容体のΔMFI値の定量棒グラフ。
【0080】
【
図6】iMonoMac、MDM、およびMM6の機能活性の比較。(A) PE標識大腸菌バイオ粒子の有無におけるiMonoMac、MDM、およびMM6の37℃および4℃での6hインキュベーション。(B) INFγ(25ng/μL)添加で刺激したHLA-DRマーカーのMFIの定量棒グラフ。(C) LPS(100pg/mL)添加でiMonoMacおよびMDMを2h、4h、6h、24h刺激。
【0081】
実施例
実施例1: GMPに準拠する懸濁iPSC培養および血球分化
単一iPSCの生成:
マウスフィーダー細胞上で培養したiPSCから直接、単一iPSCを誘導した。マウスフィーダー細胞上で培養したiPSCを、37℃における細胞培養インキュベーターにおいて最大5分間にわたり、Accutase[細胞解離試薬、StemPro(商標)Thermo Scientific]と共にインキュベートした。Accutase反応を、PBSまたはDMEM/F12培地(Thermofisher Scientific)のいずれかで希釈することによって停止させた。再懸濁した細胞のピペットによる吸引および吐出により、凝集塊の解離を促し、単一iPSCを得た(3回以下および非常に低速)。細胞を計数し、規定の基質(次のステップを参照されたい)における単層培養に供した。代替的に、単一iPSCは、以前に説明されているように細胞を処置し、基質をコーティングしたディッシュ[例えばGelTrex(Thermofisher Scientific)、Matrigel(Corning Fisher Scientific)、またはラミニン(例えばCellAdhere Laminin-521、Stem Cell Technologies)]において培養したiPSCから誘導してもよい。
【0082】
単層の細胞の分割:
6ウェル組織培養プレート[例えばNUNCプレート(Thermofisher Scientific)]を、少なくとも1時間にわたり、基質[例えば、GelTrex(Thermofisher Scientific)、Matrigel(Corning Fisher Scientific)、またはラミニン(例えばCellAdhere Laminin-521、Stem Cell Technologies)]でコーティングした。単一iPSCを、更に拡大するため、予めコーティングされたプレートにおいて、ROCK阻害剤(10μM)が補充されたE8100またはE850培地(Stem Cell Technologies)中に播種した。生成された最大2×105個の単一iPSCを、6ウェルプレートの各ウェルにおいて単層として培養した。培地を2日目に変え、3日目または4日目に継代培養した。播種の翌日は培地を交換しなかった。これらの培養物を少なくとも10継代にわたって維持した。
【0083】
凝集物の形成:
基質上で単一細胞として2継代より多く培養した5×105個の単一iPSCを、凝集物の形成のために、懸濁培養にて、オービタルシェーカー(70rpm)上のGreiner CELLSTARマルチウェル培養プレート(Sigma Aldrich)において、3mLのROCK阻害剤(10μM)が補充されたE850またはE6培地(Stem Cell Technologies)に播種した。凝集物の形成が24時間以内に開始した。培地を2日目に交換し、2~2.5mlの培地に変えた。3日目の凝集物を分化のために移したか、あるいは懸濁下で単一細胞として継代培養した。
【0084】
血球分化:
中胚葉のプライミングにより、血球分化の誘導を開始させた。
【0085】
中胚葉のプライミングは、50ng/mlのhVEGF、50ng/mlのhBMP4、および20ng/mlのhSCFが補充された3mlのX-VIVO15に、3日間にわたって約100個の凝集物を移すことによって開始させ、これには、後に(中胚葉のプライミングの4日目において)25ng/mlのIL3の添加を続けた。プライミングされた凝集物の後続の血球分化を、25ng/mlのIL-3および50ng/mlのM-CSFが補充された3mlのX-VIVO15に培地を変えることによって遂行した。中胚葉のプライミング、およびその後の血球分化を、85rpmのオービタルシェーカーにおいて行なった。
【0086】
実施例2: 接着培養でのヒト多能性幹細胞由来マクロファージの生産
あるいは、単球またはマクロファージは接着培養で分化できる。
【0087】
iPSCコロニーをコラゲナーゼVでフラグメントへと分散し、10ng/mL bFGFおよび10mM Rock阻害剤(Y-27632; Tocris)添加ESC培地で5日間、オービタルシェーカー(100rpm)上にて6ウェル懸濁培養用プレート内で培養し、EB形成を誘導した。
【0088】
手作業でEBを組織培養6ウェルプレートまたはバイオリアクターに移し、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies)、2mM L-グルタミン(Life Technologies)、0.2%β-メルカプトエタノール (Life Technologies)、25ng/mLヒトIL-3 (hIL-3)および50ng/mLヒトM-CSF (hM-CSF, Peprotech)添加の分化培地I (X-Vivo15; Lonza)で培養した後、MCFCを7日以内に接着系EBから生成した。
【0089】
10日から15日以降、MCFCから生成した単球/マクロファージを1週間に一度上清から回収し、70μMメッシュでろ過した。
【0090】
さらなる成熟のために、単球/マクロファージを96ウェルプレートに播種し(1x10^4または5x104/well)、分化培地II(10%ウシ血清、2mM L-グルタミン、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、および50ng/mL hMCSF添加のRPMI1640培地、6日間)で培養した。
【0091】
実施例3: 単球活性化試験
MATアッセイへのヒトiPSC-マクロファージの使用
・例えば96ウェルプレート(平底)を使用。
・標準LPSの準備: 室温で1回分を解凍し、5分間十分にボルテックスした。7段階希釈のチューブ(ホウケイ酸ガラス!)をラベルした: VV-I (= 1. 希釈前) / VV-II (2. 希釈前) / 200 / 100 / 50 / 25 / 0 (すべてpg/mL) (LPSストック濃度 2000IU/ml)。
・希釈系列にアプライ。
・1週間前に播種したマクロファージ培養から上清を除去して破棄。
・ブランク用に、260μL RPMI培地 + 1% PS + 10% FCSをウェルごとにアプライ。
・ネガティブコントロール用に、240μLの培地をアプライし、20μL NaCl溶液を添加。
・LPS標準用に、240μLの培地をアプライし、20μLの各LPS溶液/濃度を添加。
・LPS無しのサンプルとして、240μLの培地をアプライし、2つの異なるサイズ(0.1μmおよび1μm)のポリスチレンナノ粒子を加えて、20μLのポジティブパイロジェン(例えば、S. typhimurium 由来フラジェリン[FLA-ST](ストック濃度 500μg/ml、ワーキング濃度 200ng/mL)または、マクロファージ活性化リポペプチド-2 [MALP-2] ストック濃度 100μg/mL、ワーキング濃度 1μg/mL))、または熱で殺滅させた黄色ブドウ球菌(heat killed staphylococcus aureous (HKSA)) (ワーキング濃度 10
6-10
8cells/mL)または、熱で殺滅させたカンジダ・アルビカンス(heat killed candida albicans (ワーキング濃度 10
8cells/mL))を添加。
・LPS有りサンプルとして、220μLの培地をアプライし、20μLのポジティブパイロジェンと20μLのLPS (50pg/mL希釈)を添加。
記: 1ウェルあたり合計260μL、4段階の濃度レベルが、ここで存在している。
・液体が混ざらないように、適切なフタでプレートをカバーし(何もこぼれないように注意!)、37℃、約5% CO2および約95%湿度で一晩インキュベート。
・22時間後(ここからはパイロジェンフリーで作業をする必要はない)、プレートをインキュベーターから回収。
・上清を除去し、ELISAでの使用まで-20℃で冷凍。
【0092】
プレート準備
1. 捕捉抗体を、担体タンパク質なしのPBSでワーキング濃度に希釈した。すみやかに、1ウェルあたり100μLの希釈した捕捉抗体で96ウェルプレートをコートした。プレートをシールし、室温で一晩インキュベートした。
2. 各ウェルの液を吸い取り、洗浄バッファで洗浄した。このプロセスを2回繰り返し、全部で3回洗浄した。洗瓶、マニホールドディスペンサー、オートウォッシャーを使用し、各ウェルを洗浄バッファ(400μL)で満たし洗浄した。良い結果を得るために各ステップで液を完全に除去することが必要。最後の洗浄後、吸引またはプレートを裏返し清潔なペーパータオルに打ち付けることにより、残った洗浄バッファをすべて除去した。
3. 300μLの希釈試薬を各ウェルに加えてプレートをブロッキングした。最小でも1時間、室温でインキュベートした。
4. ステップ2で実施したように、吸引/洗浄を繰り返した。プレートのサンプル添加準備が整った。
【0093】
アッセイ手順
1. 希釈試薬または適切な希釈液で調製したサンプル(そのまま、または1:5)または標準を各ウェルあたり100μL加えた。接着テープでカバーし、室温で2時間(IL-6用)または4℃で一晩(TNFa用)インキュベートした。
2. プレート準備ステップ2の吸引/洗浄を繰り返した。
3. 各ウェルに、希釈試薬で希釈した検出抗体を100μL加えた。新しい接着テープでカバーし、室温で2時間インキュベートした。
4. プレート準備ステップ2の吸引/洗浄を繰り返した。
5. 各ウェルに、ストレプトアビジン-HRPのワーキング液を100μL加えた。プレートをカバーし、室温で20分インキュベートした。直接光へのプレート設置は避けた。
6. ステップ2の吸引/洗浄を繰り返した。
7. 各ウェルに、基質液を100μL加えた。室温で20分インキュベートした。直接光へのプレート設置は避けた。
8. 各ウェルに、50μLの停止液を加えた。混合されるよう、静かにタップした。
9. 450nmに設定したマイクロプレートリーダーで、すみやかに各ウェルの吸光度を決定した。
【0094】
単球またはマクロファージを、例えばhCD34iPSCclone16 (女性) またはhGMPDU8 (男性)の多能性幹細胞から、例えば実施例2に記載したように接着培養で調製し、続いて実施例3に記載したようにMATアッセイで使用した。人工多能性幹細胞(iPSC)由来のマクロファージを本明細書ではiMonoMacと呼ぶことにしている。炎症性サイトカインの放出をELISAで決定した。様々なサイトカイン刺激後のIL-6放出を
図2に示している。
図2から3はアッセイ間の変動が低いこと、および優れたダイナミックレンジを示している。
【0095】
iPSCから調製した単球は、ポール・エールリッヒ研究所の凍結血液から標準法に従い調製した従来の単球よりも、低LPS濃度(25、12.5、6pg)および100pg LPS/ml未満の範囲の両方を満たし、より高い感度を持つことを示した。ダイナミックレンジおよび感度の改良は、使用に対しより多くの選択へとつながる。さらに、細胞の特性が安定しているため、例えば100pg/mL超の範囲で感度がない場合、すべてのチャージで試験する必要はない。
【0096】
iPSCから調製した単球は、(TLR2、TLR5、TLR6、TLR4、デクチン-1)などの様々な病原体認識受容体アゴニストをカバーする広範囲の非エンドトキシン性パイロジェン(NEP)に対して高い感度と再現性を示した。iPSC hCD34iPSCclone16 (女性)由来の単球の様々なエンドトキシンおよび非エンドトキシンに対する感度は、末梢血由来単球およびMM6などのMATで使用される他の細胞標準の感度それぞれよりも一貫して高かった。iPSCから調製した単球は、ポリスチレンナノ粒子を使った
図4Fに示す実験で証明されるように、プロセス関連パイロジェンに関してより感度が高いことも示した。
【0097】
iPSCから調製した単球は、類似する炎症性マーカー、病原体認識受容体の発現、ならびに抗原提示および食作用ポテンシャルに反映される機能性について、末梢血から調製した単球に相当する免疫表現型プロファイルを示した。未成熟造血性細胞株であるMM6と比べて、iPSC由来単球は、より機能的で、より成熟しており、炎症性の性質であった。
【0098】
他の細胞標準と比べて、iPSC由来単球の広範囲のパイロジェン検出、優位な感度、再現性およびパイロジェンとのより短いインキュベーション時間での高い反応性、ならびに低い細胞密度は、MATに使用する利点である。
【国際調査報告】