(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】アルミニウム合金と軽量部材の付加製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20231129BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20231129BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231129BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20231129BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20231129BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20231129BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231129BHJP
【FI】
C22C21/00 N
C22F1/04 A
B22F10/28
B22F10/64
B22F9/08 A
B22F9/04 C
C22C21/00 L
C22F1/00 603
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532548
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(85)【翻訳文提出日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2021083084
(87)【国際公開番号】W WO2022117441
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】102020131823.5
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503195311
【氏名又は名称】エアバス・ディフェンス・アンド・スペース・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】シムベック,ダービッド
(72)【発明者】
【氏名】パルム,フランク
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA01
4K017BB04
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB08
4K017BB09
4K017BB11
4K017BB12
4K017BB16
4K017DA09
4K017EA03
4K017FA14
4K017FA17
4K018AA15
4K018BA08
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA08
4K018KA01
(57)【要約】
本発明は、アルミニウム(Al)合金であって、0.1重量%~15重量%の割合のチタン(Ti)、0.1重量%~3.0重量%の割合のスカンジウム(Sc)、0.1重量%~3.0重量%の割合のジルコニウム(Zr)、0.1重量%~3.0重量%の割合のマンガン(Mn)、残部をなす、アルミニウム(Al)、及び、トータルで0.5重量%未満である不可避の不純物からなるものに関する。このアルミニウム(Al)合金は、航空機用の高強度、高延性の軽量部材を製造するための付加製造法に使用される。アルミニウム(Al)合金は、最初は粉末として製造され、製造プロセス中に再溶融されることにより、所望の特徴が達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1重量%~15重量%の割合のチタン(Ti)、
0.1重量%~3.0重量%の割合のスカンジウム(Sc)、
0.1重量%~3.0重量%の割合のジルコニウム(Zr)、
0.1重量%~10.0重量%の割合のマンガン(Mn)、
残部をなす、アルミニウム(Al)、及び、トータルで0.5重量%未満の不可避の不純物からなるアルミニウム(Al)合金であって、
任意選択的に、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、およびエルビウム(Er)からなる群から選択される少なくとも1つの第1の追加の合金元素を含み、個々の第1の追加の合金元素についての個々の割合は、2.0重量%を超えず、第1の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えないのであり、
任意選択的に、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、及びコバルト(Co)からなる群から選択される少なくとも1つの第2の追加の合金元素を含み、個々の第2の追加合金元素についての個々の割合は、3.0重量%を超えず、好ましくは2.0重量%を超えず、第2の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えないのであり、
任意選択的に、マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも1つの第3の追加の合金元素を含み、個々の第3の追加の合金元素についての個々の割合は2.0重量%より小さく、第3の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えないアルミニウム(Al)合金。
【請求項2】
Mnの割合が、0.1重量%~6重量%、好ましくは0.1重量%~4重量%または0.1重量%~2.5重量%、好ましくは0.1重量%~2.0重量%、より好ましくは1.0重量%~2.0重量%である、請求項1に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項3】
Tiの割合が0.5重量%~5.0重量%であり、Scの割合が0.2重量%~1.5重量%であり、Zrの割合が0.20重量%~0.70重量%である、請求項1または2に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項4】
Tiの割合が1.0重量%~5.0重量%、Scの割合が0.5重量%~1.0重量%、Zrの割合が0.2重量%~0.8重量%であることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項5】
Tiの割合が1.0重量%~5.0重量%であり、Scの割合が、0.6重量%~1.1重量%、好ましくは0.70重量%~0.80重量%または0.95重量%~1.05重量%であり、Zrの割合が、0.20重量%~0.50重量%、より好ましくは0.30重量%~0.40重量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項6】
Tiの割合が、2.0重量%まで、好ましくは1.0重量%~2.0重量%であり、アルミニウム(Al)合金が、専ら、Al及びMnと、Alよりも大きい蒸発エンタルピーを有する金属、またはAlよりも小さい蒸気圧を有する金属からなることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の合金。
【請求項7】
Tiの割合が、2.0重量%を超えて5.0重量%まで、好ましくは3.0重量%を超えて5.0重量%までであり、Mnの割合が0.1重量%~2.0重量%、好ましくは1.0重量%~2.0重量%であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項8】
専ら、Al及びMnと、Alよりも大きい蒸発エンタルピーを有する金属、またはAlよりも小さい蒸気圧を有する金属からなる、請求項1~7のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項9】
マグネシウム(Mg)および/またはカルシウム(Ca)および/またはニッケル(Ni)を含まない、請求項1~8のいずれかに記載のアルミニウム(Al)合金。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金から軽量部材前駆体を付加製造する方法であって、以下を含む方法。
a)金属をまとめて溶融させてアルミニウム合金の溶融物とする。
b)アルミニウム合金の溶融物を、強制的に冷却させるか、または、冷却されるようにする。この際、
b1)1,000K/sから10,000,000K/sの冷却速度、特に100,000 K/sから1,000,000K/sの冷却速度での急速固化プロセスにより、例えば、メルトスピニング、ガスまたは水中での粉末噴霧、ストリップキャスティングまたはスプレーフォーミングにより、場合によっては粉末状である、固化されたアルミニウム合金であって、固溶体中にスカンジウムが含まれているものを得る。または、
b2)冷却プロセスにより、固化したアルミニウム合金を得る。
c)ステップb1)またはb2)のアルミニウム合金を粉末に粉砕する。
【請求項11】
請求項1~9のいずれかに記載のアルミニウム合金から軽量部材前駆体を付加製造する方法であって、以下を含む方法。
d)請求項10のステップc)で得られた粉末から粉末床を製造する。
e)粉末床でのレーザー溶融プロセスにて、粉末を局所的にレーザーで溶融し、局所的に溶融した領域を強制的に冷却させるかまたは冷却するようにして、三次元の軽量部材の前駆体の付加製造を行うことで、スカンジウムを固溶体中に備える、アルミニウム合金からの軽量部材の前駆体を得る。
【請求項12】
請求項11に記載の方法で得られた軽量部材前駆体について、析出硬化により硬化する温度で熱処理することを特徴とする軽量部材の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の方法によって得られる軽量部材前駆体。
【請求項14】
請求項12に記載の方法によって得られる軽量部材。
【請求項15】
選択的レーザー溶融によって軽量部材前駆体を製造するための、または、選択的レーザー溶融によって軽量部材前駆体を製造してから、選択的レーザー溶融及びその後の析出硬化を行うことにより軽量部材を製造するための、請求項1~9のいずれかに記載のアルミニウム合金または請求項10に記載の方法によって得られる粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金、このアルミニウム合金の粉末を使用して軽量部材を付加製造(additive manufacturing)する方法、およびこの方法でもって製造される軽量部材に関する。
【0002】
アルミニウム合金は、航空機用の軽量部材を製造するための重要な材料である。航空機に、これらの軽量部材を組み込むことに結びついた航空機の総重量の減少は、燃料コストの削減を可能にする。この目的に使用されるアルミニウム合金は、飛行の安全性の観点から、高い引張強度、延性、靭性、及び耐食性も備えている必要がある。
【背景技術】
【0003】
航空機の製造に使用できるアルミニウム合金の例は、AA2024、AA7349、及びAA6061と呼ばれるものである。ベース金属に加えて、必須の合金パートナーとしてアルミニウム、マグネシウム、及び銅が含まれており、また、必須または任意のものとして、マンガン、ジルコニウム、クロム、鉄、シリコン、チタン、及び/または亜鉛も含まれる。
【0004】
重要なさらなる発展が、スカンジウム含有アルミニウム合金により示されており、この合金は、例えば、APWorks GmbHから製品名Scalmalloy(登録商標)で市販されて入手可能である。この合金は、上記の合金よりも高い強度、延性、及び耐食性を備えている。全ての遷移金属の中で、スカンジウムは、Al3Scの析出硬化による、強度の最大の増加を示す。スカンジウムのアルミニウムへの低い溶解度のため(約660℃で約0.3重量%(wt%))、Scalmalloy(登録商標)は、溶融物の、メルトスピニング(「melt spinning」)といった急速凝固(急速固化)、及び、これに続く、アルミニウムマトリックス中での二次的なAl3Sc-析出物の形成を伴う、析出硬化により製造される必要がある。
【0005】
Scalmalloy(登録商標)の詳細については、刊行物「Scalmalloy(登録商標)-ユニークな、高強度で腐食に影響されないAlMgScZr材料のコンセプト」(“ScalmalloyR - A unique high strength and corrosion insensitive AlMgScZr material concept” (A.J. Bosch, R. Senden, W. Entelmann, M. Knuewer, F. Palm, “Proceedings of the 11th Internacional Conference on Aluminum Alloys in: “Aluminum Alloys: Their physical and mechanical properties”, J. Hirsch, G. Gottstein, B. Skrotzki, Wiley-VCH))、及び、「急速固化処理により調製された過共晶AlSc及びAlMgScエンジニアリング材料の冶金学的特性」(“Metallurgical peculiarities in hyper-eutectic AlSc and AlMgSc engineering materials prepared by rapid solidification processing” (F. Palm, P. Vermeer, W. von Bestenbostel, D. Isheim, R. Schneider (上記引用文献中)))が参照される。
【0006】
未公開のドイツ特許出願10 2020 131 823.5の
図1による表1には、航空機用の軽量部材の製造に使用できる上記アルミニウム合金の化学組成が列挙されている。
【0007】
Scalmalloy(登録商標)のもう1つの利点は、軽量部材の付加製造に適していることである。ワイヤーアーク付加製造(アークワイヤー蒸着溶接)(WAAM=“Wire Arc Additive Manufacturing”)などのプロセスに加えて、レーザー粉末床溶融結合に特に適している。この付加製造プロセスは、以下にてL-PBFプロセスとも呼ばれる(L PBF=“Laser Powder Bed Fusion”)。このプロセスに使用できる合金の数は限られている。WO2018/144323によると、Scalmalloy(登録商標)、AlSi10Mg、TiAl6V4、CoCr、及びInconel 718の合金でもって、L-PBFプロセスにて信頼性の高い付加製造が可能であるが、現在使用されている5,500を超える合金の大部分は、L-PBFプロセスまたは3Dプリントに使用できない。
【0008】
未公開のドイツ特許出願第10 2020 131 823.5を参照し、その開示内容を参照により本明細書に組み込む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、レーザー粉末床溶融結合(L-PBFプロセス)などによる付加製造に適した、改良されたアルミニウム合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【0011】
本発明は、以下からなるアルミニウム(Al)合金を提供する:
0.1重量%~15重量%の割合のチタン(Ti)、
0.1重量%~3.0重量%の割合のスカンジウム(Sc)、
0.1重量%~3.0重量%の割合のジルコニウム(Zr)、
0.1重量%~3.0重量%の割合のマンガン(Mn)、
残部をなす、アルミニウム(Al)、及び、
トータルで0.5重量%未満の不可避の不純物。
【0012】
アルミニウム(Al)合金は、任意選択的に、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、およびエルビウム(Er)からなる群から選択される少なくとも1つの第1の追加の合金元素を含む。ここで、個々の第1の追加の合金元素についての個々の割合は、2.0重量%を超えず、第1の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えない。
【0013】
アルミニウム(Al)合金は、任意選択的に、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、シリコン(Si)、鉄(Fe)、及びコバルト(Co)からなる群から選択される少なくとも1つの第2の追加の合金元素を含む。ここで、個々の第2の追加合金元素についての個々の割合は、3.0重量%を超えず、好ましくは2.0重量%を超えず、第2の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えない。
【0014】
アルミニウム(Al)合金は、任意選択的に、マグネシウム(Mg)またはカルシウム(Ca)からなる群から選択される少なくとも1つの第3の追加の合金元素を含む。ここで、個々の第3の追加の合金元素についての個々の割合は2.0重量%より小さく、第3の追加合金元素のトータルの割合は3.0重量%を超えない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましくは、Mnは、0.1重量%~6重量%、好ましくは0.1重量%~4重量%、好ましくは0.1重量%~2.5重量%、好ましくは0.1重量%~2.0重量%、より好ましくは1.0重量%~2.0重量%の割合を有する。
【0016】
好ましくは、Tiは0.5重量%~5.0重量%の割合を有し、Scは0.2重量%~1.5重量%の割合を有し、Zrは0.20重量%~0.70重量%の割合を有する。
【0017】
好ましくは、Tiは1.0重量%~5.0重量%の割合を有し、Scは0.5重量%~1.0重量%の割合を有し、Zrは0.2重量%~0.8重量%の割合を有する。
【0018】
好ましくは、Tiは1.0重量%~5.0重量%の割合を有し、Scは0.6重量%~1.1重量%、好ましくは0.70重量%~0.80重量%または0.95重量%~1.05重量%の割合を有し、Zrの割合は0.20重量%~0.50重量%、より好ましくは0.30重量%~0.40重量%の割合を有する。
【0019】
好ましくは、Tiは2.0重量%まで、好ましくは1.0重量%~2.0重量%の割合を有し、アルミニウム(Al)合金は、次のような金属のみからなる。すなわち、専ら、Al及びMnと、Alよりも大きい蒸発エンタルピーを有する金属、または、Alよりも蒸気圧が小さい金属からなる。
【0020】
好ましくは、Tiは、2.0重量%を超えて5.0重量%まで、好ましくは3.0重量%を超えて5.0重量%までの割合を有し、Mnは、0.1重量%~2.0重量%、好ましくは1.0重量%~2.0重量%の割合を有する。
【0021】
好ましくは、アルミニウム(Al)合金は、次のような金属のみからなる。すなわち、専ら、Al及びMnと、Alよりも大きい蒸のみからなる。
【0022】
好ましくは、アルミニウム(Al)合金はマグネシウム(Mg)及び/またはカルシウム(Ca)および/またはニッケル(Ni)を含まない。
【0023】
本発明は、好ましいアルミニウム合金から軽量部材の前駆体を付加製造する方法を提供するのであり、この方法は、以下を含む。
a)金属をまとめて溶融させてアルミニウム合金の溶融物とする。
b)アルミニウム合金の溶融物を、強制的に冷却させるか、または、冷却されるように放置する。この際、
b1)1,000K/s(K/秒)から10,000,000K/sの冷却速度、特には100,000K/sから1,000,000K/sの冷却速度での急速固化プロセス(例えば、メルトスピニング、ガスまたは水中での粉末噴霧、ストリップキャスティング、またはスプレーフォーミング(spray forming, in-situ compaction))により、場合によっては粉末の形態である、固化されたアルミニウム合金であって、固溶体中にスカンジウムが含まれているものを得る。または、
b2)冷却プロセスにより、固化したアルミニウム合金を得る。
c)ステップb1)またはb2)のアルミニウム合金を粉末に粉砕する。
【0024】
ステップb)またはステップb1)において、冷却速度は、少なくとも1,800Kから500Kの温度範囲で維持されることが好ましい。
【0025】
本発明は、好ましいアルミニウム合金から軽量部材の前駆体を付加製造する方法であって、下記を含むものを提供する。
d)上記方法のステップc)で得られた粉末から粉末床を製造する。
e)粉末床でのレーザー溶融プロセスにて、粉末を局所的にレーザーで溶融し、局所的に溶融した領域を強制的に冷却させるかまたは冷却されるようにして、三次元の軽量部材の前駆体の付加製造を行うことで、スカンジウムを固溶体中に備える、アルミニウム合金からの軽量部材の前駆体を得る。
【0026】
本発明は、上記方法で得られた軽量部材前駆体を、析出硬化により硬化する温度で熱処理することを含む、軽量部材を製造するための方法を提供する。
【0027】
本発明は、好ましい方法によって得ることができる軽量部材前駆体を提供する。
【0028】
本発明は、好ましい方法によって得ることができる軽量部材を提供する。
【0029】
本発明は、選択的レーザー溶融によって軽量部材前駆体を製造するための、または選択的レーザー溶融およびその後の析出硬化を行うことによる軽量部品の製造のための、好ましいアルミニウム合金、または、好ましい方法によって得られる粉末を使用すること(粉末の使用)を提供する。
【0030】
ここに開示されるアイデアは、未公開のドイツ特許出願10 2020 131 823.5に記載されている、次の元素を含むアルミニウム合金についての、さらなる開発・発展である。
- 0.1~15.0重量%の含有量のTi、
- 0.1~3.0重量%の含有量でSc、
- 0.1~3.0重量%の含有量のZr、
- 残りの、Al、及び、避けられない不純物。
【0031】
プロセス境界条件への適応により、細かい結晶粒の微細構造を調整することができ、これにより優れた機械的特性が得られる。この材料を活用できる製品は、軽量の構造および設計(好ましくは航空機)の構造用途に適している。
【0032】
Al-Mg-Sc(Scalmalloy(登録商標))及びAl-Cr-Sc(Scancromal(登録商標))の合金設計戦略では、異なるアルミニウム合金について、既に研究がなされている。Al-Ti-Sc(Scantital(登録商標))の合金設計戦略は、以前に検討された両方の材料に基づいて構築されるプロセスである。
【0033】
Scalmalloy(登録商標)は、Mg含有量が高いために、付加製造プロセスの制御は必ずしも容易ではない。Scancromal(登録商標)は、比較的粗い微細構造を持っており、構造用途などの全ての用途に必ずしも適しているわけではない。チタンを添加すると、付加製造プロセス中に蒸発する、高い蒸気圧を有する合金元素が存在しないため、付加製造される部材が改善される。
【0034】
Tiの添加は、いくつかの利点と結びついている。L-PBFプロセスは、MgやZnなどの高い蒸気圧または低い蒸発エンタルピーを持つ金属が存在しないため、安定している。Tiは、核形成サイトとして機能するコヒーレントな一次AhX相(X=Ti、Zr、Sc)を析出させることにより、Tiを添加したときに発生する高度な組織過冷却と相まって、結晶粒を微細化することで強度を増大させる。その後の後熱処理中の二次相の析出硬化により強度が増加する。Tiを添加したAISc合金は、さらに優れた耐食性を示す。
【0035】
Tiは、ScやZrほどには、室温でのアルミニウム合金の強度を大きく増大させない。ほとんどのTiは、急速凝固中に固溶体に溶解したままになる。析出物の粗大化は、予想よりもゆっくりと起こる。耐クリープ性または疲労強度(「耐クリープ性」)が増大する。
【0036】
さらなる開発・発展として、強度をさらに向上させると同時に高い延性を可能にするために、アルミニウム合金にマンガン(Mn)が導入されている。Mgを省くことは、耐食性を高めうる。Scantital(登録商標)の最初の発展・展開と比較して、Mnが追加されたことで、強度レベルが増大した。Mnは延性に大きな影響を与える。
【0037】
本件アイデアは、AITiScMn合金に基づいている。このAITiScMn合金が、最終的には、レーザー粉末床融合(L-PBF)の付加製造と、このプロセスによって示される急速冷却とによって製造される。
【0038】
合金の重量パーセント(wt%)で表した、提案される公称組成の1つは、AITi(1-5)Sc0.75Zr0.35Mn(0-2)である。
【0039】
析出の化学的駆動力ΔFchは、Al3TiよりもAl3Zrの方が有意に大きい。析出中のAl3Tiの弾性ひずみエネルギーΔFel(「析出の弾性ひずみエネルギー;elastic strain energy for precipitation」)は、核形成を防ぎ、Al3Zrの弾性ひずみエネルギーの7倍である。急冷の場合、アルミニウムマトリックスに最大2重量%のTiを強制的に溶解させることができる。
【0040】
アルミニウム合金のL-PBFプロセス(または「選択的レーザー溶融」からのSLMプロセス)による軽量部材の付加製造におけるTiの利点は、低い蒸気圧、もしくは、高い蒸発エンタルピーである。Tiの蒸気圧は、ベース金属であるアルミニウムの蒸気圧よりも低い。Tiの蒸発エンタルピーは、ベース金属であるアルミニウムのそれよりも高い。その結果、プロセスの安定性が向上し、マグネシウムを含むアルミニウム合金と比較して、再溶融時に非常に平穏・安定な溶融プール(溶融池)が作成される。
【0041】
Tiは、凝固中における強い構造的過冷却を保証する。これにより、溶融物中の強力な一次核生成サイトが活性化され、結晶グレインが微細化される。きめ細かな微細構造は、ホール-ペッチ(Hall-Petch;強度の増加は、d-1/2に従って、グレインサイズに反比例する)に従ってアルミニウム合金の強度を増加させる。
【0042】
溶融状態にて、Zrは高温でも効果的な核生成サイトを提供する。Al3Zrは、約900℃で既に析出し、したがって、構造的な過冷却によって活性化されうるからである。これとは対照的に、Al3Scは、固相線温度の少し前になって初めて析出する。
【0043】
ステップb)にて溶融アルミニウム合金を冷却する際、るつぼに溶融物をキャストするときのように冷却速度が速すぎるのではない場合、合金元素Ti、Sc及びZrが、主として、大きな一次析出物中に存在するアルミニウムマトリックスが形成される。上記のアルミニウム合金が、1,000K/sから10,000,000K/sといった速度にて非常に急速に冷却される場合、固化したアルミニウム合金は、実質上、固溶体中に上記の合金元素を含む。一次相の析出は急冷により抑制される。溶融物の冷却が速ければ速いほど、一次析出物の含有量は低くなる。例えば、これに続く、約250~450℃の温度での析出固化の際、ナノスケールのコヒーレント(整合的)なAl3X相(X = Ti、Zr、Sc)が析出し、アルミニウム合金の強度が大幅に向上することが保証される。
【0044】
ステップe)にて、粉末がレーザービームで溶融した後に、合金元素が、実質上固溶体に固化する非常に急速な冷却が行われる。このプロセスステップには、全体として、所望の合金への再溶解が含まれる。
【0045】
次に、本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【0046】
A)アルミニウム合金の製造プロセス
<実施例1 粉末形態のアルミニウム合金の製造>
不活性のるつぼ中にて、0.75重量%のSc、0.35重量%のZr、1.0重量%のTi、1.0重量%のMn、及び、96.9重量%のAlが溶融される。溶融物は、さらなる処理の前にホモジナイズされうる。
【0047】
溶融物の第1のフラクションが、不活性のるつぼ中に注がれ、そこで冷却されて固化する。冷却の際に、一次的なAl3Sc、Al3Zr及びAl3Tiの相が析出する。得られた材料は、粉末床での選択的レーザー溶融に使用できる粉末に粉砕される。
【0048】
溶融物の第2のフラクションは、メルトスピニングプロセスにて、回転する水冷銅ローラーに注がれる。溶融物は1,000,000K/sの速度で冷却されて、ストリップ(帯状体)を形成する。溶融物は、非常に急速に冷却されるため、Al3Sc、Al3Zr、及びAl3Tiの形成は、完全に、または実質上抑制される。ストリップは短いフレークにカットされる。
【0049】
2つの冷却プロセスで得られた合金材料は粉末に粉砕され、粉末床での選択的レーザー溶融に使用できる。
【0050】
<実施例2 チタン含有量の異なる粉末形態のアルミニウム合金の製造>
上記の手順が繰り返される。但し、Tiの含有量を3.0重量%、5.0重量%、10.0重量%、及び15.0重量%に増加させ、それに応じてAlの含有量を減少させる。Sc及びZrの含有量は、変化させないままである。
【0051】
<実施例3 バナジウムを含有する粉末形態のアルミニウム合金の製造>
実施例1のプロセスが繰り返される。但し、2.0重量%のバナジウムが、さらに、るつぼに入れられ、Ti、Sc及びZrの含量は一定に保たれる。
【0052】
<実施例4 ニッケルを含有する粉末形態のアルミニウム合金の製造>
実施例1のプロセスが繰り返される。但し、1.2重量%のニッケルが、さらに、るつぼに入れられ、Ti、Sc及びZrの含量は一定に保たれる。
【0053】
<実施例5 クロムバナジウムを含有する粉末形態のアルミニウム合金の製造>
実施例1のプロセスが繰り返される。但し、1.0重量%のバナジウム、及び2.0重量%のクロムが、さらに、るつぼに入れられ、チタンの含有量が5重量%に増加させられる。Zrの含有量は変化させないままである。
【0054】
<実施例6 Mn含有量の異なるアルミニウム合金粉末の製造>
実施例1または2によるプロセスが繰り返される。但し、Mnの割合を0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、1.5重量%、2.0重量%、2.5重量%、4重量%、及び6重量%に変化させたのであり、これに応じてAlの割合が調整された。
【0055】
B)L-PBFプロセスにて軽量部材前駆体を製造するプロセス
いずれの場合も、上記の実施例1~6の一つからのアルミニウム合金粉末を、選択的レーザー溶融による付加製造のための設備中に配置して、粉末床を形成する。レーザービームは、デジタル情報に従って3次元の粉末床上を移動する。この際、粉末床は、段階的に高さが低くなり、新しい粉末層が被せられる。点状に溶融したアルミニウム合金の冷却は、次のとおりとなるように非常に迅速に行われる。すなわち、スカンジウム、ジルコニウム、及びチタンは、アルミニウム合金の他の組成に関係なく、また粉末が通常の冷却または急速冷却(例えば、1,000,000K/sの速度での冷却)のどちらで製造されたかに関係なく、固溶体をなすように、完全に、または実質上(substantially)、または主として(predominantly;過半が)、凍結(固化)される。スキャンプロセス(scanning process)が完了した後、アルミニウム合金の部材前駆体が粉末床から引き離される。
【0056】
C)軽量部材の製造方法
B)にて製造された部材前駆体は、250℃から450℃、好ましくは300℃から400℃、さらに好ましくは325℃から350℃の範囲内といった温度に加熱される。この際、種々のAl3X相(X=Ti、Zr、Sc、または個々の元素の、任意所望の非化学量論的混合物)の析出が生じる。Al3Tiも析出されるが、Al3Sc及びAl3Zrと比較すると、チタン成分における主たる部分または過半が固溶体のままである。
【0057】
要約すると、本発明は、アルミニウム(Al)合金であって、0.1重量%~15重量%の割合のチタン(Ti)、0.1重量%~3.0重量%の割合のスカンジウム(Sc)、0.1重量%~3.0重量%の割合のジルコニウム(Zr)、0.1重量%~3.0重量%の割合のマンガン(Mn)、残部をなす、アルミニウム(Al)、及び、トータルで0.5重量%未満である不可避の不純物からなるものに関する。このアルミニウム(Al)合金は、航空機用の高強度、高延性の軽量部材を製造するための付加製造法に使用される。アルミニウム(Al)合金は、最初は粉末として製造され、製造プロセス中に再溶融されることにより、所望の特徴が達成される。
【国際調査報告】