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特表2023-551031摩耗および摩擦低減のための窒化モリブデン系多層コーティング
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  • 特表-摩耗および摩擦低減のための窒化モリブデン系多層コーティング 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】摩耗および摩擦低減のための窒化モリブデン系多層コーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20231129BHJP
【FI】
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532560
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2021083598
(87)【国際公開番号】W WO2022112605
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】63/119,187
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュテルツィーク,ティメア
(72)【発明者】
【氏名】ギース,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ユルゲン
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA11
4K029BA58
4K029BB07
4K029BC02
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC39
(57)【要約】
Mo-N系コーティング構造の製造方法であって、コーティングされるべき基板(1)を提供することと、硬質材料層(6)を基板(1)上に適用することとを含み、硬質材料層(6)は、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(4)と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(5)とを含み、硬質材料層(6)は、低温閉磁場不平衡反応性マグネトロンスパッタリングコーティングプロセスによって適用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo-N系コーティング構造の製造方法であって、
-コーティングされるべき基板(1)を提供することと、
-硬質材料層(6)を前記基板(1)上に適用することとを含み、前記硬質材料層(6)は、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(4)と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(5)とを含み、
-前記硬質材料層(6)は、低温閉磁場不平衡反応性マグネトロンスパッタリングコーティングプロセスによって適用される、Mo-N系コーティング構造の製造方法。
【請求項2】
まず、前記六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(4)を適用した後、前記六方晶構造を有するMo-Nの層(4)上に前記立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(5)を適用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
接着層(2)が前記基板(1)上に適用され、前記接着層(2)は好ましくは前記基板(1)と前記硬質材料層(6)との間に適用され、前記接着層(2)は特に前記基板(1)上に直接適用される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
支持層(3)が前記基板(1)上に適用され、前記支持層(3)は好ましくは前記基板(1)と前記硬質材料層(6)との間に適用され、前記支持層(3)は特に前記接着層(2)上に直接適用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
好適な作業パラメータを得るために、ターゲット被毒が実行される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
250℃より低い、好ましくは220℃より低い、特に180℃より低いプロセス温度がコーティングプロセス中に使用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記硬質材料層(6)は、六方晶構造を有するMo-Nの1つの層(4)と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの1つの層(5)とを含む二重層(6')として適用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コーティング構造を適用するために、少なくとも2つのスパッタカソードが使用され、好ましくは少なくとも4つのカソードが使用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記基板(1)は、コーティングプロセス中に三回回転ツーリングシステム上に取り付けられる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基板(1)は、コーティングプロセスの前に、100~150℃、好ましくは110~140℃、特に130℃の温度に加熱される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記基板(1)はコーティングプロセスの前に清掃され、前記清掃は好ましくはエッチング、特にアルゴンプラズマを用いたエッチングを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記コーティングは保護ガス雰囲気中で行われ、好ましくはアルゴンが保護ガスとして使用され、アルゴンは約1~3・10-3mbarの圧力で使用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
-120V(m.f.)~-180V(m.f.)のバイアス電圧、好ましくは-150V(m.f.)のバイアス電圧が使用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(4)および前記立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(5)は、異なるコーティング条件、特に異なる窒素圧力で適用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(4)は、2.3~5.0・10-3mbarの窒素圧力で適用され、前記立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの層(5)は、0.5~0.9・10-3mbarの窒素圧力で適用される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
好ましくは先行する請求項に記載の方法によって生成可能である、Mo-N系コーティング構造であって、
-基板(1)と、
-前記基板(1)上に適用される硬質材料層(6)とを備え、前記硬質材料層(6)は、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(4)と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層(5)とを含む、Mo-N系コーティング構造。
【請求項17】
前記硬質材料層(6)は、六方晶構造を有するMo-Nの1つの層(4)と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの1つの層(5)とからなる二重層(6')として形成され、前記二重層(6')の厚みは、好ましくは400nm未満であり、より好ましくは300nm未満、特に180nm未満である、請求項16に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項18】
前記硬質材料層(6)は、2つより多い層を含む多層(8)として形成され、前記硬質材料層(6)は、好ましくは交互する構造を含み、六方晶構造を有するMo-Nの1つの層(4)と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの1つの層(5)とを含む、請求項16または17に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項19】
前記Mo-N系コーティング構造は接着層(2)を含み、前記接着層(2)は、好ましくは、前記基板(1)と前記硬質材料層(6)との間に、特に前記基板(1)上に直接配置される、請求項16~18のいずれか1項に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項20】
前記Mo-N系コーティング構造は支持層(3)を含み、前記支持層(3)は、好ましくは前記基板(1)と前記硬質材料層(6)との間に、特に前記接着層(2)上に直接配置される、請求項16~19のいずれか1項に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項21】
前記六方晶構造を有するMo-Nの層(4)の厚みと前記立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの層(5)の厚みとの和は200nm未満、好ましくは150nm未満である、請求項18に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項22】
前記基板(1)は、硬化鋼、好ましくは17Cr3/1.7016鋼から作製される、請求項16~21のいずれか1項に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項23】
前記接着層(2)および/または前記支持層(3)は、金属、好ましくはMoまたはCrを含み、特にCrNまたはMoNからなる、請求項16~22のいずれか1項に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項24】
前記硬質材料層(6)は、DIN EN ISO14577-4に従って測定して、>32.00+/-2.00GPa、好ましくは>34.00+/-2.00GPaの押し込み硬度を示す、請求項16~23のいずれか1項に記載のMo-N系コーティング構造。
【請求項25】
前記硬質材料層(6)は、6.00m-1-1・10-15未満、好ましくは4.00m-1-1・10-15未満のカロ摩耗を示す、請求項16~24のいずれか1項に記載のMo-N系コーティング構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化モリブデン系多層コーティングを製造するための方法、および好ましくはそのような方法によって製造される、窒化モリブデン系多層コーティングを含むデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
窒化モリブデン(Mo-N)コーティングは、それらの耐摩耗性および摩擦低減特性のため、減摩用途において興味深い。特に興味深いのは、自動車用途である。六方晶構造を有する窒化モリブデン(δ-MoN)は、摩耗および摩擦低減ならびに耐酸化性に関してその優れた特性のため、特に魅力的である。
【0003】
現状技術
立方晶構造を有する窒化モリブデンは、ZhuらがSurface and Coating Technology 223 (2013) 184-189に報告しているように、劣っていると考えられるが、これまでの研究や発明の大半は、立方晶構造を有する窒化モリブデンに関する。とはいえ、アークPVDとも呼ばれる陰極アーク蒸発によって製造される六方晶窒化モリブデン系コーティングが、他の箇所に詳細に記載されている(WO2016188632A1、EP3074550B1)。上記の刊行物における最も重要な教示は、アークPVDの使用が、六方晶構造を有する窒化モリブデンの堆積に必要とされるターゲットから来る金属イオンの高いイオン化および高い平均(運動)エネルギーを可能にすることである。この技術は、自動車および部品の分野で典型的に適用される基板に対応するように意図された相対的に低いプロセス温度での立方晶Mo-Nの実現を可能にする。しかしながら、アークPVDの周知の欠点は、コーティングにおけるマクロ粒子、いわゆる「小滴」の不可避的な形成である。マクロ粒子を除去するためのコーティングの後処理は、この場合、カウンタボディ摩耗を低く保つために必須である。
【0004】
他方、反応性マグネトロンスパッタリングは、不利なマクロ粒子の形成を伴わずに魅力的な堆積速度を有するコーティングプロセスである。残念ながら、イオン化は低く、基板上に堆積される粒子のエネルギーは相対的に低い。これは、典型的には、コーティング硬度の低下をもたらし、考慮される用途にとってコーティングの魅力を低減する。閉磁場不平衡マグネトロンスパッタリングの実施は、大きなイオン電流を基板に移送する可能性を提供する。不平衡マグネトロンスパッタリングの主な特徴の1つは、極のうちの1つにおいて、より強い磁場を生成することであり、その結果、磁力線をターゲットからさらに遠ざかるように延在させる。これは、基板上への六方晶窒化モリブデンコーティングの形成を容易にする追加のイオンの生成を可能にする。加えて、相対的に低い相同温度での充分に高密度のコーティング構造の形成も、このようにして得ることができる。
【0005】
これまで、220℃未満の温度で、したがって反応性マグネトロンスパッタリングによって製造されたMo-Nの混晶構造中に六方晶構造を有するかまたは少なくとも六方晶相を有する窒化モリブデンコーティングに関する刊行物はほんのわずかである(Hones et al. Journal of Physics D: Applied Physics, 36(8) (2003) 1023-1029; Pappacena et al. Wear 62-70 (2013) 278-279)。しかしながら、それらは、多くの場合、1種類のMo-Nのみを教示することによって制限され、および/またはMo-NコーティングはW-NまたはCr-N等の他の種類のコーティングと組み合わせられる。
【0006】
反応性マグネトロンスパッタリング中の典型的な現象は、そのタイプとは無関係に、Kubart et al. Thin Solid Films 515 (2006) 421-424によって記載されるような、いわゆるターゲット被毒(target poisoning)である。とりわけ、その影響は、コーティングチャンバ内に導入される反応性ガスの量に依存する。被毒過程中の目標電圧の推移は、所望の遷移金属窒化物の生成について好適な作業パラメータに関する貴重なヒントを与える。本発明は、ターゲット被毒現象を利用して、六方晶(δ-MoN)および/または立方晶(γ-MoN)構造を有する窒化モリブデンの堆積を可能にする好適な作業パラメータを識別する。
【0007】
さらに、現代の材料設計における今日の一般的な方法の1つは、例えば、異なる組成または結晶構造のナノ構造化された相に埋め込まれる1つの相の小さなナノ粒子を含むナノコンポジットコーティングの生成である。そのような設計は、堆積されたコーティングの特性、例えばそれらの保護効果を著しく改善することができる。そのような設計の利点は、Pogrebnjak et al. Materials & Design 153 (2018) 47-59によって示されるように、アークPVDプロセスを介して窒化クロムと組み合わせた立方晶(γ-MoN)窒化モリブデンに対して効率的であることが証明されている。しかしながら、本発明は、異なる結晶構造を有する材料を単にナノコンポジットに互いを埋め込むことによってではなく、低温閉磁場不平衡反応性マグネトロンスパッタリングコーティングプロセスを使用して多層構造を生成することによって、組み合わせ、個々の層の厚みが制御され、それらの層は異なる堆積パラメータを通して組み合わせられる。これは、製造されたコーティングの相乗的保護効果を達成するための有効なツールであることが証明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の目的
本発明の目的は、従来技術に関連する1つ以上の困難を軽減または克服することである。特に、本発明の目的は、改善された低減された摩耗および摩擦特性を示すコーティング構造ならびにコーティング構造を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の詳細な説明
これらの問題を克服するために、Mo-N系コーティング構造の製造方法およびコーティング構造、好ましくはそのような方法によって製造されるコーティング構造が発明された。
【0010】
したがって、本発明の第1の局面では、Mo-N系コーティング構造を製造するための方法であって、コーティングされるべき基板を提供することと、基板上に硬質材料層を適用することとを含み、硬質材料層は、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層とを含む方法が開示され、硬質材料層は、低温閉磁場不平衡反応性マグネトロンスパッタリングコーティングプロセスによって適用される。
【0011】
本発明の文脈において、六方晶構造を有する層とは、特に、90%超、好ましくは95%超、最も好ましくは98%の六方晶構造の割合を有する層を意味する。したがって、本発明の文脈において、立方晶構造を有する層は、特に90%超、好ましくは95%超、最も好ましくは98%の立方晶構造の割合を有する層を意味すると理解することができる。混合された立方晶および六方晶構造を有する層とは、本発明の文脈において、特に少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%の立方晶構造の割合を有する層を理解することができる。本発明の文脈において、低温閉磁場不平衡反応性マグネトロンスパッタリングコーティングプロセスは、特に、250℃未満の温度、好ましくは200℃未満の温度でのプロセスとして理解することができる。
【0012】
第1の局面の別の例では、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層は、立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層を六方晶構造を有するMo-Nの層の上に適用する前に、適用してもよい。
【0013】
基板に対する硬質層のより良好な接着性に関して、接着層が基板上に適用されてもよく、接着層は好ましくは基板と硬質材料層との間に適用されてもよく、接着層は特に基板上に直接適用されてもよい。
【0014】
同様に、基板に対する硬質層のより良好な接着性に関して、支持層が基板上に適用されてもよく、支持層は好ましくは基板と硬質材料層との間に適用されてもよく、支持層は特に接着層上に直接適用されてもよい。
【0015】
好適なコーティングパラメータの容易な決定に関し、好適な作業パラメータを得るために、ターゲット被毒が行われてもよい。
【0016】
好適なコーティング温度に関しては、250℃未満、好ましくは220℃未満、特に180℃未満のプロセス温度を製造中に使用してもよい。このような温度は、温度感受性基板の効果的なコーティングも可能にするという利点を有する。
【0017】
第1の局面の別の例では、硬質材料層は、六方晶構造を有するMo-Nの1つの層と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの1つの層とを含む、二重層として適用されてもよい。
【0018】
第1の局面の別の例では、少なくとも2つのスパッタカソードが使用されてもよく、好ましくは、コーティング構造を適用するために少なくとも4つのカソードが使用されてもよい。
【0019】
異なるように形成された基板の完全なコーティングを単純かつ柔軟な態様で可能にするために、コーティングプロセス中に基板を三回回転ツーリングシステムに取り付けてもよい。
【0020】
純粋かつ清浄なコーティング製品の製造のために、基板は、コーティングプロセスの前に、100~150℃、好ましくは110~140℃、特に130℃の温度に加熱されてもよい。
【0021】
同様に、純粋かつ清浄なコーティング製品の製造に関して、基板はコーティングプロセスの前に清掃されてもよく、清掃は、好ましくはエッチング、特にアルゴンプラズマを用いたエッチングを含んでもよい。
【0022】
第1の局面の別の例では、コーティングは、保護ガス雰囲気中で実施してもよく、好ましくはアルゴンを保護ガスとして使用してもよく、アルゴンを約1~3・10-3mbarの圧力で使用してもよい。
【0023】
第1の局面の別の例では、-120V(m.f.)~-180V(m.f.)のバイアス電圧、好ましくは-150V(m.f.)のバイアス電圧を使用してもよい。
【0024】
第1の局面の別の例では、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層および立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層は、異なるコーティング条件、特に異なる窒素圧力で適用されてもよい。
【0025】
好適なコーティングパラメータの、目標とされる設定に関して、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層は、2.3~5.0・10-3mbarの窒素圧力で適用されてもよく、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの層は、0.5~0.9・10-3mbarの窒素圧力で適用されてもよい。そのようなコーティングパラメータは、改善された、低減された摩耗および摩擦特性を有するコーティングを製造する目的に有利であることが証明されている。
【0026】
本発明の第2の局面では、基板と、基板上に適用される硬質材料層とを含み、硬質材料層は、六方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの少なくとも1つの層とを含む、好ましくは前述の方法によって製造可能な、Mo-N系コーティング構造が開示される。第2の局面の別の例では、硬質材料層は、六方晶構造を有するMo-Nの1つの層と立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの1つの層とを含む、二重層として形成することができ、二重層の厚みは、好ましくは400nm未満、より好ましくは300nm未満、特に180nm未満であってもよい。
【0027】
第2の局面の別の例では、硬質材料層は、2つを超える層を含む多層として形成されてもよく、硬質材料層は、好ましくは、六方晶構造を有するMo-Nの1つの層と、立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの1つの層とを含む、交互構造を含んでもよい。
【0028】
本発明の好ましい実施形態によれば、硬質材料層は、上述のような多層として形成され、最大200nm、好ましくは200nm未満の二層周期を有してもよい。これは、六方晶構造を有するMo-Nの層の厚みと立方晶構造または混合された六方晶/立方晶構造を有するMo-Nの層の厚みとの合計が200nm未満、好ましくは150nm未満であってもよいことを意味する。
【0029】
基板に対する硬質層のより良好な接着性に関して、Mo-N系コーティング構造は、接着層を含んでもよく、接着層は、好ましくは、基板と硬質材料層との間に、特に基板上に直接位置してもよい。
【0030】
同様に、基板に対する硬質層のより良好な接着性の観点から、Mo-N系コーティング構造は、支持層を含んでもよく、支持層は、好ましくは、基板と硬質材料層との間に、特に接着層上に直接位置してもよい。
【0031】
好適な基板に関して、基板は、硬化鋼、好ましくは17Cr3/1.7016鋼から作製されてもよい。
【0032】
接着層および/または支持層のための有利な材料選択に関して、接着層および/または支持層は、金属、好ましくはMoまたはCrを含んでもよく、特に接着層および/または支持層は、CrNもしくはMoNもしくはTiNまたは支持層として好適であり得る他の金属窒化物から作製されてもよい。
【0033】
第2の局面の別の例では、硬質材料層は、DIN EN ISO14577-4に従って測定して、>32.00+/-2.00GPaの押し込み硬度、好ましくは>34.00+/-2.00GPaの押し込み硬度を示してもよい。
【0034】
第2の局面の別の例では、硬質材料層は、6.00m-1-1・10-15未満、好ましくは4.00m-1-1・10-15未満の削摩的摩耗(calowear摩耗試験機によって測定)を示してもよい。
【0035】
高荷重(それぞれ200Nおよび400N)および温度(T=150℃)下での減摩挙動を、往復摩耗試験において、ボール・オン・コンポーネント構成(0W20オイル(Fuchs 0W20 EVO)、20Hz周波数、4.6mmストローク長、直径10mmの100Crボールのカウンタボディ)で評価した。
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて図面を用いてより詳細に説明する。
発明の詳細な説明
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】二重層構造を示す、本発明によるMo-N系コーティング構造を示す。
図2】多層構造を示す、本発明によるMo-N系コーティング構造を示す。
図3】3時間後のサンプル上の摩耗痕上における、本発明によるMo-N系コーティング構造の表面を示す(200N試験)。
図4】3時間後のサンプル上の摩耗痕上における、本発明によるMo-N系コーティング構造の表面を示す(400N試験)。
図5】3時間後のサンプル上の摩耗痕上における、本発明によるMo-N系コーティング構造の表面を示す(400N試験)。
【発明を実施するための形態】
【0038】
六方晶窒化モリブデン系の単層および多層コーティング系は、少なくとも2つのスパッタカソード、好ましくは4つのスパッタカソードを含むPVDコーティング機を使用して実施され、4つのスパッタカソードのうちの2つは金属Moターゲットを備える。多層コーティング系を図1に概略的に示す。
【0039】
いくつかの発明例において:
-コーティングは、三回回転ツーリングシステムに取り付けられる17Cr3/1.7016タイプの表面硬化鋼製の円筒形鋼基板1上に堆積される。硬化鋼17Cr3/1.7016は、本発明に従って使用することができる基板の限定として理解されるべきではなく、一例としてのみ理解されるべきである。また、他の基板材料、例えば17Cr3/1.7016と同様の他の硬化鋼材料も、本発明の文脈において好適な基板材料温度感受性材料とみなすことができる。しかしながら、本発明の文脈において使用され得る基板材料は、硬化鋼材料に限定されない。
【0040】
-コーティングの前に、基板は、100℃~150℃、好ましくは110℃~140℃、特に130℃の温度まで加熱され、純粋なArプラズマを用いてエッチングされ、Arイオンは、電子エミッタによって支持されたプラズマビームから抽出される。
【0041】
-例えば、接着層および単相窒化モリブデン層または単相窒化モリブデン層のみなどの六方晶窒化モリブデン系コーティング系の堆積は、2つの金属Moターゲットからの閉磁場不平衡マグネトロンスパッタリングによって行われる。
【0042】
-本発明のコーティング系は、いくつかの例において、以下を含む:
-接着層2:鋼基板などの基板1上への以下の多層系の接着を確実にするために(但し、接着層は任意である)、接着層2は、純粋なAr雰囲気中で2.0・10-3mbarの圧力範囲で一定の目標電力で堆積される。バイアス電圧は-150V(m.f.)に設定される。接着層2の材料は、金属、例えばモリブデン(Mo)またはクロム(Cr)であり得るが、最も好ましくはCrまたは窒化物、例えばCrNまたはMoNである。
【0043】
-任意選択で、支持層3、例えばCrNもしくはMoN、またはTiN、または他の好適な遷移金属窒化物を、接着層2の上に作製することができる。
【0044】
-六方晶窒化モリブデン層4:プロセスウィンドウは、約10kWの目標電力および2.0・10-3mbarのアルゴンベース圧力で規定される。2.3・10-3~5.0・10-3mbarの好ましい窒素分圧、より好ましくは2.8・10-3~4.5・10-3mbarの窒素分圧もまた、マグネトロンスパッタリングの低エネルギー領域における六方晶窒化モリブデンの形成を可能にする。最も好ましくは、本発明は、4.0・10-3mbarの窒素分圧で六方晶構造を有する窒化モリブデンの形成を可能にする。
【0045】
-立方晶窒化モリブデン層5:先のMo-N層4と同じ基本条件下で、窒素分圧を0.5・10-3mbar~0.9・10-3mbar、好ましくは0.6・10-3mbar~0.8・10-3mbarとすることにより、立方晶構造を有する単相窒化モリブデンを形成することができる。最も好ましくは、本発明は、0.7・10-3mbarの窒素分圧で立方晶構造を有する窒化モリブデンの形成を可能にする。
【0046】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、六方晶窒化モリブデン系多層コーティング系の堆積は、少なくとも2つの金属Moターゲットからの閉磁場不平衡マグネトロンスパッタリングによって行われる。コーティング系を図2に示す。コーティング系は、三回回転ツーリングシステムに取り付けられる表面硬化鋼17Cr3製の円筒形鋼基板1上に堆積される。
【0047】
コーティングの前に、基板1は、100℃~150℃、好ましくは110℃~140℃、特に130℃の温度まで加熱され、純粋なArプラズマを使用してエッチングされ、Arイオンは、電子エミッタによって支持されたプラズマビームから抽出される。
【0048】
例えば、接着層2および六方晶単相/立方晶混合5または単相窒化モリブデン層4の交互コーティングなどの窒化モリブデン多層系コーティング系の堆積は、2つの金属Moターゲットからの閉磁場不平衡マグネトロンスパッタリングによって行われる。
【0049】
本発明によるコーティング系は、以下を含む:
-接着層2:鋼基板などの基板1への以下の多層系の接着を確実にするために、接着剤層2は、純粋なAr雰囲気中で2.0・10-3mbarの圧力範囲で一定の目標電力で堆積される。バイアス電圧は-150V(m.f.)に設定される。接着層の材料は、金属、例えばモリブデン(Mo)またはクロム(Cr)であり得るが、最も好ましくはCrまたは窒化物、例えばCrNまたはMoNまたはTiNまたは他の好適な接着層材料である。
【0050】
-任意選択で、支持層3、例えばCrNまたはMoNまたはTiNまたは他の好適な遷移層材料を接着層2の上に作製することができる。
【0051】
-窒化モリブデン多層8:窒化モリブデン層は、少なくとも単相六方晶層4と、単相立方晶窒化モリブデン層5および/または混合相六方晶/立方晶窒化モリブデン層5とを含んで、交互に堆積される。層4、5は、多層系8に組み合わされる。多層コーティング系8は、可変数の少なくとも1つ以上の二重層6'を含み、各二重層6'は、六方晶構造を有する少なくとも1つのMo-N層4と、立方晶単相または立方晶/六方晶混相結晶構造、すなわち六方晶Mo-N+立方晶Mo-Nまたは六方晶Mo-N+混合された六方晶/立方晶Mo-Nを有する少なくとも1つの層MoN層5とを含む。全ての二重層6'は、10kWの一定の目標電力および約-150V(m.f.)に設定されたパルス電源で基板に印加されるバイアス電圧で堆積される。二層の堆積時間は、少なくとも1つの二重層6'の厚みが好ましくは<400nm、好ましくは<200nmであるように調整される。最も好ましくは、本発明は、少なくとも1つの二重層の総厚みが180nm未満である場合に、改善された保護特性を有する多層コーティング系の堆積を可能にする。
【0052】
六方晶MoN系多層コーティング系8の総コーティング厚みは、堆積される二重層6'の数を調整することによって調整することができる。
【0053】
単層、単相六方晶および立方晶MoNコーティングは、それぞれ、29.00±2.00GPaおよび31.00±2.00GPaの高い押し込み硬度を示す。交互する六方晶および立方晶/混晶構造を有する、本明細書で報告されるMoN系多層系8は、35.00±2.00GPaの押し込み硬度を有する。
【0054】
単層、単相六方晶および立方晶MoNコーティングは、それぞれ7.00±1.00m-1-110-15および10.00±1.00m-1-110-15の典型的なカロ摩耗(calo-wear)を示す。驚くべきことに、交互する六方晶および立方晶/混晶構造を有する、本明細書で報告されるMoN系多層系8は、4.00m-1-110-15未満のカロ摩耗を有する。
【0055】
追加の表面改質を伴わないコーティングされた構成部品、例えば直径26mmのピストンピンを、高荷重(それぞれ200Nおよび400N)および温度(T=150℃)下で、0W20オイル(Fuchs 0W20 EVO)を往復摩耗試験でボール・オン・コンポーネント構成(20Hz周波数、4.6mmストローク長、直径100Crボール10mm)において適用して、試験した。試験後摩耗瘢痕、体積損失および構成部品表面膜分析を用いて、本明細書で報告されるコーティング系の恩恵を判断した。単層、単相六方晶窒化モリブデンコーティングされた構成要素は、200N試験後にすでに摩耗痕において小さなコーティング層間剥離を示した。これは、コーティングに起因する一般に公知の相対的に高い圧縮応力に起因し得る。図3は、3時間後のサンプル上の摩耗痕上におけるコーティングの層間剥離を示す。
【0056】
これらの小さな局所的層間剥離の程度は、400N試験後、増加される。ここで計算されたカウンタボディ摩耗体積は5.30・10-3mmである。これは、3時間であるが400N試験後のサンプル上の摩耗痕を示す図4に示されている。
【0057】
他方で、例えば130nmの二重層厚みを有する本発明によるMo-N系多層系は、試験した荷重クラスのいずれにおいても層間剥離を示さない。減摩対:コーティングされた構成要素対100Crボールは、400Nの荷重および0W20市販エンジンオイル(Fuchs 0W20 EVO)を適用して、0.05[-]をはるかに下回る安定した摩擦係数をもたらす。計算されたカウンタボディ摩耗体積は2.00・10-3mm未満である。これは、400N荷重下で3時間後のサンプルの摩耗痕上に層間剥離がないことを示す図5によって示される。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】