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▶ ユーシービー バイオファルマ エスピーアールエルの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-06
(54)【発明の名称】製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20231129BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231129BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231129BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231129BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20231129BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231129BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231129BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231129BHJP
【FI】
A61K9/70
A61K47/34
A61K47/10
A61K47/26
A61K47/40
A61K47/36
A61K47/18
A61K39/395 D
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533354
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2021083401
(87)【国際公開番号】W WO2022117512
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】2018889.2
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルケット、サラ
(72)【発明者】
【氏名】ゴール、ジョナサン エリューテル モーリス
(72)【発明者】
【氏名】カルリエ、エメリック
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076BB32
4C076CC26
4C076DD38Q
4C076DD51Q
4C076DD67Q
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE26
4C076EE30Q
4C076EE39Q
4C076FF15
4C076FF61
4C076FF63
4C085AA13
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG10
(57)【要約】
本発明は、治療薬としてタンパク質を含む医薬組成物の分野に関する。より詳細には、ホットメルト押出で製造された抗体含有フィラメント、これらのフィラメントから作製された埋め込み型薬物送達デバイス、並びにそのようなフィラメント及びデバイスを製造する方法に関する。ホットメルト押出で製造された抗体含有5フィラメント及び本発明によるフィラメントから得られたデバイスは、一定期間にわたる抗体の送達を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋め込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであって、前記フィラメントが、少なくとも1つのポリマー材料と、可塑剤と、有効成分とを含み、前記有効成分が抗体である、フィラメント。
【請求項2】
前記フィラメントが、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含む、請求項1に記載のフィラメント。
【請求項3】
前記少なくとも1つのポリマー材料が、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、又はそれらの組み合わせである、請求項1又は2に記載のフィラメント。
【請求項4】
前記少なくとも1つのポリマー材料が、約50~75%(w/w)の範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項5】
前記可塑剤がポリエチレングリコールである、請求項1~4のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項6】
前記可塑剤が約2~20%(w/w)の範囲にある、請求項1~5のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項7】
前記少なくとも1つの安定剤が、スクロース又はトレハロース等の二糖、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の環状オリゴ糖、イヌリン等の多糖、ソルビトール等のポリオール、又はL-アルギニン、L-ロイシン、L-フェニルアラニン若しくはL-プロリン等のアミノ酸、又はそれらの任意の組み合わせであり、前記安定剤が、約5~15%(w/w)の範囲内の量である、請求項2~6のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項8】
前記有効成分が前記ポリマーマトリックス中に均一に分散される、請求項1~7のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項9】
前記有効成分の担持率が、15~35%(w/w)の範囲にある、請求項1~8のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項10】
抗体:安定剤の比が1:1~5:1(w/w)である、請求項2~9のいずれか一項に記載のフィラメント。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のフィラメントから作製された1つ以上の層を含むか又はそれからなる、埋め込み型薬物送達デバイス。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のフィラメントを3D印刷することによって得られる、3D印刷埋め込み型薬物送達デバイス。
【請求項13】
前記デバイスが、100μm~400μmの層厚を使用して印刷される、請求項11又は12のいずれか一項に記載の埋め込み型薬物送達デバイス。
【請求項14】
前記デバイスが少なくとも1つの内部中空空洞を含む、請求項11~13のいずれか一項に記載の埋め込み型薬物送達デバイス。
【請求項15】
前記デバイスが完全に固体の物体である、請求項11~13のいずれか一項に記載の埋め込み型薬物送達デバイス。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載のフィラメントの製造方法であって、
a.前記有効成分を含む液体製剤を調製する工程であって、前記液体製剤が、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含んでもよい、工程、
b.工程aの前記液体製剤を凍結乾燥又は噴霧乾燥して、乾燥微粒子を得る工程、
c.可塑剤及び少なくとも1つのポリマー材料と共に、工程bの前記乾燥微粒子を均一に分散させる工程、
d.ホットメルト押出(HME)によって工程cの前記分散液を押し出して、フィラメントを得る工程、
を含む、方法。
【請求項17】
請求項11~15のいずれか一項に記載の埋め込み型薬物送達デバイスを製造する方法であって、
a.ガラス転移温度より高い温度を使用して3Dプリンタのプリントヘッドにフィラメントを装填する工程、
b.前記ポリマーマトリックスの前記ガラス転移温度より低い温度で構築プラットフォームを加熱する工程、
c.ノズルを通して前記加熱されたフィラメントを堆積させて、少なくとも第1の層から最終上層までデバイスを構築する工程、
を含む、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療薬としてタンパク質を含む医薬組成物の分野に関する。より詳細には、ホットメルト押出で製造された抗体含有フィラメント、これらのフィラメントから作製された埋め込み型薬物送達デバイス、並びにそのようなフィラメント及びデバイスを製造する方法に関する。ホットメルト押出で製造された抗体含有フィラメント及び本発明によるフィラメントから得られたデバイスは、一定期間にわたる抗体の送達を可能にする。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト押出(HME)は、薬物が担持された印刷可能なフィラメントを製造するために製薬分野において広く記載され、実施されている(Goyanes et al.,2015;Tiwari et al.,2016)。HMEは、均一な薬物担持フィラメントを得るためにダイを通して押し出されるポリマー材料の溶融に基づく。HMEは、容易にスケールアップされ得る遊離溶媒プロセスである。しかしながら、この技術は、比較的高い温度の使用に基づいている。このような温度は、通常、可塑剤を添加することによって低下させることができ、ポリマーのガラス転移温度の低下を可能にする。押出温度を低下させる別の代替法は、低分子量を特徴とする熱可塑性ポリマーの使用であり得る(Fredenberg et al.,2011)。HMEは、経時的な担持された有効成分の制御放出を特徴とするタンパク質ベースの製剤を開発するために既に研究されていた(Cosse et al.,2016;Duque et al.,2018;Ghalanbor et al.,2010)。
【0003】
HMEは、溶融物堆積法(FDM(商標))等の3D印刷(3DP)プロセスと組み合わせて使用することができる。FDMプロセスは、現在、製薬分野の統合部分である(Jamroz et al,2018;Azad et al.,2020)。この技術は、熱を使用して熱可塑性ポリマーフィラメントを溶融して層ごとに物体を構築する押出ベースの3DP法である。3DPの使用は、デジタル設計(Norman et al.,2017)から始まる任意の種類の形状の製造を可能にする。主な欠点は、FDMで使用するために利用可能な医薬品グレードのポリマーが依然としてないことであるが、ポリ(乳酸)(PLA)及びポリビニルアルコール(PVA)は、薬物担持印刷可能フィラメントを製造するために熱可塑性ポリマーとして一般的に使用される(Jamroz et al.,2018)。
【0004】
ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)は、注入可能/埋め込み可能な持続放出DDSを作製するために通常使用される周知の医薬品グレードのポリマー材料である。PLGAは、低温で押し出すことができ、HMEプロセス及びFDMプロセスの両方のための良好な候補となる。タンパク質担持PLGAインプラントは、オボアルブミン(Duque et al.,2018)、ウシ血清アルブミン(Cosse et al.,2016)及びリゾチーム(Ghalanbor et al.,2010)等の高分子を使用して既に記載されている。主要な課題は、依然として、押出中のタンパク質の安定化である。
【0005】
タンパク質の固体状態は、より高い安定性を促進し、HMEプロセスを使用してポリマーマトリックスへのその添加を容易にするためにより有利であり得ることが示された(Cosse et al.,2016;Mensink et al.,2017)。しかしながら、タンパク質担持インプラントを製造するためのモデル(すなわち、OVA、BSA、リゾチーム)として通常使用されるタンパク質化合物は、例えば免疫グロブリンと比較して低分子量を特徴とする。
【0006】
したがって、抗体の活性を維持しながら(すなわち、それらの生物学的活性に劇的に影響を与えることなく)、抗体の安定性を改善し(例えば、フィラメントの製造中及びその後の埋め込み型薬物送達デバイスの製造中の抗体分解を制限する)、持続放出特性を有する、大きなタンパク質、より詳細には抗体を含む更なるフィラメント及び埋め込み型薬物送達デバイスが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様では、本発明は、埋め込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであって、当該フィラメントが、少なくとも1つのポリマー材料と、可塑剤と、有効成分とを含み、又はそれらからなり、当該有効成分が抗体である、フィラメントを提供する。フィラメントは、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得る。
【0008】
第2の態様では、本発明は、少なくとも1つのポリマー材料、可塑剤及び有効成分を含むか又はそれらからなるフィラメントから作製された1つ以上の層を含むか又はそれらからなる埋め込み型薬物送達デバイスに関し、当該有効成分は抗体である。フィラメントは、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得る。
【0009】
第3の態様では、本発明は、少なくとも1つのポリマー材料、可塑剤、及び有効成分を含む、又はそれらからなるフィラメントを3D印刷することによって得られる3D印刷された埋め込み型薬物送達デバイスであって、当該有効成分が抗体である、3D印刷された埋め込み型薬物送達デバイスである。フィラメントは、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得る。
【0010】
第4の態様では、本発明は、埋め込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントを製造する方法であって、
a.有効成分を含むか又はそれからなる液体製剤を調製する工程であって、当該液体製剤が、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得、当該有効成分が抗体である、工程、
b.工程aの液体製剤を凍結乾燥又は噴霧乾燥して乾燥微粒子を得る工程、
c.工程bの乾燥微粒子を、可塑剤及び少なくとも1つのポリマー材料と共に均一に分散させる工程、
d.工程cの分散液をホットメルト押出(HME)によって押出成形してフィラメントを得る工程、を含む方法を提供する。
【0011】
第5の態様では、本発明は、埋め込み型薬物送達デバイスを製造する方法であって、
a.ガラス転移温度より高い温度を使用して3Dプリンタのプリントヘッドに本明細書に記載のフィラメントを装填する工程、
b.前記ポリマーマトリックスの前記ガラス転移温度より低い温度で構築プラットフォームを加熱する工程、
c.ノズルを通して前記加熱されたフィラメントを堆積させて、少なくとも第1の層から最終上層までデバイスを構築する工程、を含む、方法に関する。
【0012】
定義
「乾燥微粒子」という用語(その複数形の乾燥微粒子)は、非常に小さいサイズ(典型的には約20μm以下のサイズ)の乾燥「粒子」を指す(あるいは「微粒子」又は「ミクロスフェア」と呼ばれる)。好ましくは、乾燥微粒子は、乾燥粒子の約10重量%未満、通常は5重量%未満、更には3重量%未満の水を含有する。乾燥微粒子は、典型的には、水溶液又は水性エマルジョンを噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥することにより得ることができる。あるいは、乾燥粉末という用語を使用することができる。
【0013】
「凍結乾燥(freeze-drying)」としても知られる「凍結真空乾燥(lyophilization)」という用語は、少なくとも3つの主な工程:1)凍結乾燥させる生成物の温度を凝固点未満に低下させる工程(典型的には-40℃~-80℃の間;凍結工程)、2)高圧真空を適用する工程(典型的には30~300mTorr;第1乾燥工程)、及び3)温度を上昇させる工程(典型的には20℃~40℃の間;第2乾燥工程)を含む、乾燥微粒子を得るためのプロセスを指す。
【0014】
「噴霧乾燥」という用語は、乾燥微粒子を得るためのプロセスであって、1)液体供給物を微細な液滴に霧化する工程、及び2)高温乾燥ガスによって溶媒又は水を蒸発させる工程との少なくとも2つの主要な工程を含む方法を指す。
【0015】
「徐放性」(本明細書では「持続放出」とも呼ばれる)という用語は、数日、数週間、数ヶ月又は数年にわたる有効成分の送達を指す。タンパク質担持ポリマー微粒子の典型的な徐放プロファイルは三相性であり、(i)初期バースト放出(すなわち、初期の大量の有効成分の放出)、(ii)遅滞期(すなわち、非常に少量又は全く生成物が放出されない段階)及び(iii)放出期(すなわち、放出速度が安定している段階)からなる(Diwan et al.,2001 and White et al.,2013)。好ましくは有効成分の総量の約40%以下の初期バースト放出が許容されると考えられる。30%以下の初期バースト放出は「制限バースト放出」と呼ばれる。抗体分子の放出はまた、可能な限り完全であるべきであり(すなわち、封入された抗体の100%に可能な限り近い総放出)、好ましくは少なくとも60%超であるべきである。そのような徐放性組成物の利点の1つは、組成物が患者にあまり頻繁に投与されないことである。
【0016】
本明細書で使用される場合、「安定性」という用語は、本発明によるフィラメント及び薬物送達デバイス中の有効成分(本明細書では抗体)の物理的、化学的、及び配座安定性を指す(生物学的効力の維持を含む)。抗体の不安定性は、例えば高次ポリマーを形成するための抗体の化学的分解又は凝集、脱グリコシル化、グリコシル化の改変、酸化、又は製剤化された抗体の生物学的活性を低下させる任意の他の構造的改変によって引き起こされ得る。「安定な」という用語は、有効成分(本明細書では抗体)が製造中及び保管時にその物理的、化学的及び/又は生物学的特性を本質的に保持するフィラメント又は薬物送達デバイスを指す。製剤中の抗体安定性を測定するために、様々な分析方法が十分に当業者の知識の範囲内である(例のセクションも参照)。様々なパラメータを測定して、(初期データと比較して)フィラメント又は3DPデバイスの安定性を決定することができ、例えば(限定されないが):1)抗体のモノマー形態の約15%以下の変化、又は2)15%以下の高分子量種(HMW又はHMWS;本明細書では凝集体とも呼ばれる)。
【0017】
本明細書で使用される場合、「緩衝液」又は「緩衝剤」という用語は、医薬用途の製剤において安全であることが知られており、製剤のpHを前記製剤にとって望ましいpH範囲に維持又は制御する効果を有する化合物の溶液を指す。中程度の酸性pHで中程度の塩基性pHにpHを制御するための許容され得る緩衝液としては、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、アルギニン、ヒスチジン緩衝液、TRIS(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3,-プロパンジオール)、及び任意のその薬理学的に許容され得る塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書で使用される場合、「界面活性剤」という用語は、特に疎水性の油性物質の水溶性を増加させるか、そうでなければ異なる疎水性を有する2つの物質の混和性を増加させるために使用することができる可溶性化合物を指す。界面活性剤は、特に薬物の吸収又は標的組織へのその送達を改変するために、製剤に一般的に使用される。周知の界面活性剤には、ポリソルベート(ポリオキシエチレン誘導体;Tween)並びにポロキサマー(すなわち、Pluronics(登録商標)としても知られている、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドに基づくコポリマー)が含まれる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「安定化剤」又は「安定剤」という用語は、生理学的に許容され、製剤に適切な安定性/張性を付与する化合物である。凍結乾燥(凍結真空乾燥)プロセス又は噴霧乾燥プロセスの間、安定剤は保護剤としても有効である。グリセリン等の化合物は、このような目的のために一般的に使用される。他の適切な安定化剤としては、アミノ酸又はタンパク質(例えばグリシン又はアルブミン)、塩(例えば塩化ナトリウム)、及び糖(例えば、デキストロース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びラクトース)、並びに本開示の枠内に記載されているものが含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
「ポリマー材料」という用語は、ホットメルト押出(HME)及び3D印刷中に高温を支持することができるポリマー要素を指す。したがって、本発明による好ましいポリマー材料は、熱可塑性ポリマー又は耐熱性ポリマーである。3D印刷に一般的に使用されるこのような熱可塑性ポリマーの例は、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、エチレン酢酸ビニル(EVA)である。好ましくは、それらは、患者にとってより簡便にするために生分解性又は生体排除性(bioeliminable)である。他の耐熱性ポリマー材料は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、オイドラギット誘導体(E、RS、RL、EPO)、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(Soluplus(登録商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。適切なポリマー材料も本明細書に記載される。
【0021】
「可塑剤」という用語は、例えばその可塑性を高めるために、又はその粘度を低下させるために、熱可塑性ポリマーと組み合わせることができる化合物を指す。それはまた、当該ポリマーのガラス転移温度(Tg)を低下させるのに役立ち得る。製薬産業で使用することができるそのような可塑剤の例は、例えば生物系可塑剤、例えばクエン酸アルキル(例えば、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、トリエチルシトレート(TEC))、トリアセチン(TA)、リシノール酸メチル、エポキシ化植物油又は更にポリエチレングリコール(PEG)(その分子量に応じて、PEGは、ポリマーマトリックス又は可塑剤のいずれかとして作用することができる)、ヒマシ油、ビタミンE TPGS(D-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシネート)、脂肪酸エステル(ステアリン酸ブチル、モノステアリン酸グリセロール、ステアリルアルコール)、加圧二酸化炭素、界面活性剤(ポリソルベート80)(例えば、Crowley 2007を参照)である。好適な可塑剤も本明細書に記載されている。
【0022】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、当技術分野で公知の組換え技術によって生成されるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び組換え抗体を含むが、これらに限定されない。「抗体」は、任意の種、特に哺乳動物種の抗体;例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgDを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、及びIgGA1、IgGA2を含むこの基本構造の二量体として産生される抗体、又はIgM等の五量体及びその改変変異体;非ヒト霊長類抗体、例えば、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル由来;げっ歯類抗体、例えばマウス又はラット由来;ウサギ、ヤギ又はウマの抗体;ラクダ科動物抗体(例えば、Nanobodies(商標)等のラクダ又はラマ由来)及びその誘導体;ニワトリ抗体等の鳥類の抗体;又はサメ抗体等の魚種の抗体を含む。「抗体」という用語はまた、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体を指す。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル等の旧世界ザル)及びヒト定常領域配列に由来する可変ドメイン抗原結合配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性及び活性を有する、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ又は非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域[又は相補性決定領域(CDR)]からの残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、ヒト(レシピエント)抗体のCDR外の残基;すなわち、フレームワーク領域(FR)において、対応する非ヒト残基によって更に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの改変は、抗体特性を更に改良するために行われる。ヒト化は、ヒトにおける非ヒト抗体の免疫原性を低下させ、したがって、ヒト疾患の治療への抗体の適用を容易にする。ヒト化抗体及びそれらを生成するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野で周知である。「抗体」という用語はまた、ヒト化の代替として生成することができるヒト抗体を指す。例えば、免疫化すると、内因性マウス抗体の産生の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を産生することが可能である。in vitroでヒト抗体/抗体フラグメントを得るための他の方法は、ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイ技術等のディスプレイ技術に基づいており、少なくとも部分的に人工的に又はドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから生成される組換えDNAライブラリーが使用される。ヒト抗体を作製するためのファージ及びリボソームディスプレイ技術は、当技術分野で周知である。ヒト抗体はまた、目的の抗原でex vivo免疫され、続いて融合されてハイブリドーマを生成し、次いでこれを最適なヒト抗体についてスクリーニングすることができる単離されたヒトB細胞から生成され得る。「抗体」という用語は、グリコシル化抗体と非グリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全長抗体を指すだけでなく、抗体フラグメント、より詳細には抗原結合フラグメントも指す。抗体のフラグメントは、当該分野で公知の少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ以上の抗原(複数可)に結合する。本発明による抗体フラグメントの例としては、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv及びBis-scFvフラグメントが挙げられる。当該フラグメントはまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、例えばsdAb、VL、VH、VHH又はラクダ科抗体(例えば、Nanobody(商標)等のラクダ又はラマ由来)及びVNARフラグメントであり得る。本発明による抗原結合フラグメントはまた、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含むことができ、各scFv又はdsscFvは同じ又は異なる標的(例えば、治療標的に結合する1つのscFv又はdsscFvと、例えばアルブミンに結合することによって半減期を延長する1つのscFv又はdsscFv)に結合する。そのような抗体フラグメントの例は、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも呼ばれる)、又はFab-(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)とも呼ばれ、例えば国際公開第2015/197772号を参照)である。上で定義した抗体フラグメントは、当技術分野で公知である。
【0023】
特に明記しない限り、値パーセント(%)は、重量パーセント(代替的にwt%又は%w/wと呼ばれる)を指す。
【0024】
発明の詳細な説明
ホットメルト押出(HME)及び/又は溶融物堆積法(FDM)技術の利点に基づいて、本発明者らは、その後、FDM技術を使用する3D印刷等を介して埋め込み可能デバイスを得るために使用することができる抗体担持フィラメントを開発した。本発明は、抗体を含むフィラメントを製造することが可能であり、当該フィラメントが高い抗体担持率(15%以上)を有するという驚くべき発見に基づいている。次いで、フィラメントを使用して埋め込み型薬物送達デバイス(例えば、成形又は3D印刷によって得られる)を得ることができ、そこから抗体を経時的に制御的に放出した。さらに、抗体は適時に放出されただけでなく、依然としてその標的に結合することができた。使用される熱可塑性ポリマーの種類を慎重に選択し、HME又はHMEとFDMの両方の製造パラメータを最適化して、最初にフィラメントを得、次いで、担持された抗体の安定性及び親和性を維持することができる埋め込み型薬物送達デバイスを得る必要があった。
【0025】
本発明の主な目的は、埋め込み型薬物送達デバイスを調製するためのフィラメントであって、当該フィラメントが、少なくとも1つのポリマー材料と、可塑剤と、有効成分とを含み、又はそれらからなり、当該有効成分が抗体である、フィラメントである。フィラメントは、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得る。そのような場合、及び一例として、本発明によるフィラメントは、全体として、少なくとも1つのポリマー材料、可塑剤、抗体及び少なくとも1つの安定剤を含むか、又はそれらからなり得る。更なる例として、本発明によるフィラメントは、少なくとも1つのポリマー材料、可塑剤、抗体、少なくとも1つの安定剤及び緩衝剤を含むか又はそれらからなり得る。フィラメントを、任意の所望の形状の埋め込み型薬物送達デバイスを得るために、3Dプリンタで成形又は使用することができる。
【0026】
本発明は更に、少なくとも1つのポリマー材料、可塑剤、及び有効成分を含む、又はそれらからなるフィラメントから作製された1つ以上の層(複数可)を含む、又はそれらからなる埋め込み型薬物送達デバイスを提供し、当該有効成分は抗体であり、当該フィラメントは少なくとも1つの安定剤、緩衝剤、及び/又は界面活性剤を更に含み得る。
【0027】
本発明の更なる目的は、少なくとも1つのポリマー材料、可塑剤、及び有効成分を含む、又はそれらからなるフィラメントを3D印刷することによって得られる3D印刷された埋め込み型薬物送達デバイスであって、当該有効成分が抗体である、3D印刷された埋め込み型薬物送達デバイスである。当該フィラメントは、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含むことができる。
【0028】
ポリマー材料に添加してフィラメントを形成し、次いで埋め込み型薬物送達デバイスを形成する前に、有効成分を噴霧乾燥又は凍結乾燥する必要がある。そうするために、当該製剤が有効成分を含むか又はそれからなり、当該有効成分が抗体である予備液体製剤が調製される。当該液体製剤は、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得る。次いで、液体製剤を標準的な方法に従って噴霧乾燥又は凍結乾燥して乾燥微粒子を得る。乾燥微粒子の形態になると、有効成分を少なくとも1つのポリマーマトリックス及び可塑剤に均一に分散させる。それらは、抗体担持固体分散体等の有効成分担持固体分散体を形成する。
【0029】
したがって、本明細書では、本発明によるフィラメントを製造する方法であって、
a.有効成分を含むか又はそれからなる液体製剤を調製する工程であって、当該液体製剤が、少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含み得、当該有効成分が抗体である、工程、
b.工程aの液体製剤を凍結乾燥又は噴霧乾燥して、乾燥微粒子を得る工程、
c.可塑剤及び少なくとも1つのポリマー材料と共に、工程bの乾燥微粒子を均一に分散させる工程(本明細書では有効成分担持固体分散体とも呼ばれる)、
d.工程cの分散液をホットメルト押出(HME)によって押出成形してフィラメントを得る工程、
を含む方法を提供する。
【0030】
本発明によるフィラメントを、埋め込み型薬物送達デバイスを製造するために使用することができる。当該デバイスを、所望の長さに切断し、ペレット化し、成形し、又は3D印刷することができる。3Dプリンタを使用する利点は、従来のプロセスを使用しては不可能な新規かつカスタマイズされた埋め込み型薬物送達デバイスの設計及び製造を可能にすることである。3DP技術のおかげで、デバイスの構造、形状、又は構成をカスタマイズし、場合によって患者に適合させることができる。3Dプリンタを使用する別の利点は、オンデマンドでデバイスを提供することである。
【0031】
3D印刷は、積層造形(ALM)と呼ばれる技術の一部である。ALMは、液体固化又は固体材料押出に基づくことができる。液体固化技術は、例えば、ドロップオンパウダー堆積(DoP、又はバインダ噴射)、ドロップオンドロップ堆積(DOD)を含むのに対して、固体材料押出技術は、圧力支援マイクロシリンジ(PAM)堆積、又は更に溶融物堆積法(FDM(登録商標))技術としても知られる溶融フィラメント製造(FFF)を含む。DoP又はDoDシステムでは、3次元物体が形成されるまで2次元層が繰り返し印刷される。例えば、本明細書中に開示されるような剤形のインクジェット印刷又はポリジェット印刷は、付加製造を使用することができる。PAM技術は、シリンジベースのプリントヘッドを介した軟質材料(半固体又は粘性)の堆積を含む。シリンジには通常、材料が装填され、次いで空気圧、プランジャ又はスクリューを使用して押し出される。FDM技術は、加熱されたノズル先端を通るギヤシステムによって駆動される熱可塑性ポリマーの押出に基づく。プリントヘッドは、ピンチローラ機構と、液化装置ブロックと、ノズルと、x-y方向を管理するガントリシステムとから構成される。フィラメントは供給され、液化装置内で溶融し、固体を軟化状態にする。フィラメントの固体部分は、ノズル先端部を通して溶融物を押し出すためのプランジャとして使用される(Sadia et al.,2016)。熱可塑性溶融物の層が堆積されると、構築プラットフォームが下げられ、プロセスが繰り返されて、層ごとに構造を構築する。
【0032】
また、埋め込み型薬物送達デバイス、特に3D印刷された埋め込み型薬物送達デバイスを製造する方法も本発明により包含され、本方法は、
a.ガラス転移温度より高い温度を使用して、本明細書に記載のフィラメントを3Dプリンタのプリントヘッドに装填する工程、
b.ポリマーマトリックスのガラス転移温度より低い温度で構築プラットフォームを加熱する工程、
c.ノズルを通して加熱されたフィラメントを堆積させて、少なくとも第1の層から最終上層までデバイスを構築する工程、を含む。
【0033】
本発明との関連で、全体として、有効成分は抗体である。当該抗体は、上記の定義のセクションで定義される任意の抗体であり得る。抗体は、好ましくは、乾燥前に、予備液体製剤中に、50mg/mL又は約50mg/mL~300mg/mL又は約300mg/mL、好ましくは65mg/mL又は約65mg/mL~250mg/mL又は約250mg/mL、更に好ましくは80mg/mL又は約80mg/mL~200mg/mL又は約200mg/mL、例えば80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195又は200mg/mLの濃度で存在する。あるいは、抗体は、乾燥前に、予備液体製剤中に、約5~約30%w/v又は好ましくは約6.5~約25%w/v、又は更に好ましくは約8~約20%、例えば8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5若しくは20%w/vの濃度で存在する。フィラメント中、したがって最終的な埋め込み型薬物送達デバイス中の抗体担持率は、好ましくは約15~40%(w/w)の量、又は約15~35%(w/w)、例えば15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34又は35%(w/w)の量である。
【0034】
少なくとも1つの安定剤が本発明との関連で全体として使用される場合、それは好ましくは二糖(スクロース又はトレハロース等)、環状オリゴ糖(ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等)、多糖(イヌリン等)、ポリオール(ソルビトール等)、又はアミノ酸(例えば、L-アルギニン、L-ロイシン、L-フェニルアラニン又はL-プロリン)、又はそれらの任意の組み合わせである。2つ以上の安定剤が使用される場合、安定剤の組み合わせは、例えば(限定されないが)1つのアミノ酸と1つの二糖、又はアミノ酸とポリオールであり得る。一例として、2つの安定剤の組み合わせを使用することができ、一方の安定剤はスクロース又はトレハロースのいずれかであり、他方の安定剤はL-アルギニン、L-ロイシン、L-フェニルアラニン又はL-プロリンである。少なくとも1つの安定剤は、好ましくは、乾燥前に、予備液体製剤中に、約10mg/mL~約100mg/mL、好ましくは約20mg/mL~約75mg/mL、更に好ましくは約30mg/mL~約50mg/mL、例えば30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49及び50mg/mLの濃度で存在する。あるいは、安定剤は、乾燥前に、予備液体製剤中に、約1~約10%w/v、又は好ましくは約2~約7.5%w/v、又は更に好ましくは約3~約5%、例えば3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5.0%w/vの濃度で存在する。
【0035】
本発明によれば、その全体において、少なくとも1つの安定剤が存在する場合、フィラメント及び埋め込み型薬物送達デバイスにおける抗体:安定剤(複数可)の比(w/w)(代替的に参照される比(w/w)抗体:少なくとも1つの安定剤)は、好ましくは約1:1~約5:1(重量/重量、すなわちw/w)、より好ましくは約1.2:1~約4:1、更により好ましくは約1.25:1~3:1、例えば1.25:1、1.5:1、1.75:1、2.0:1、2.25:1及び2.5:1(w/w)である。
【0036】
本発明によれば、その全体において、緩衝剤が存在する場合、当該緩衝剤は、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、アルギニン、トリサミノメタン(TRIS)及びヒスチジンを含むか、又はこれらからなる群から選択することができる(ただし、これらに限定されない)。当該緩衝剤は、乾燥前に、約5mM~約100mM、更に好ましくは約10mM~約50mM、例えば約10、15、20、25、30、35、40、45又は50mMの量で予備液体製剤中に存在することが好ましい。
【0037】
本開示全体と関連して、界面活性剤も存在し得る。当該界面活性剤は、例えば(限定されないが)ポリソルベート20(PS20)又はポリソルベート80(PS80)であり得る。存在する場合、界面活性剤は、好ましくは予備液体製剤中、すなわち乾燥工程の前に添加される。当該界面活性剤は、乾燥前の予備液体製剤中に、好ましくは、約0.01~約5mg/mL、より好ましくは約0.01~約1mg/mL、より詳細には約0.1~約0.6mg/mL、例えば0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55又は0.6mg/mLの量で存在する。あるいは、ポリソルベート界面活性剤は、好ましくは、乾燥前の予備液体製剤中に、100mL当たりの重量%(%w/v)で表される量で存在する。そのような場合、本発明による製剤に全体として含まれるポリソルベート界面活性剤は、0.001~0.5%w/v、好ましくは0.01~0.1%w/v、更に好ましくは0.01~0.06%w/v、例えば0.01、0.015、0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.045、0.05、0.055又は0.06%w/vの量で存在することができる。
【0038】
本発明との関連で、特にフィラメント又は最終的な埋め込み型薬物送達デバイスに言及する場合、任意の少なくとも1つの安定剤、緩衝剤及び界面活性剤は、賦形剤の総称として再分類される。存在する場合、賦形剤は、好ましくはフィラメント中、したがって最終的な埋め込み型薬物送達デバイス中に、約3~約20%w/w又は約w/wの総量で、好ましくは約5~15%w/w、例えば約5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5又は15重量%の総量で存在する。
【0039】
本発明との関連で、全体として、少なくとも1つのポリマー材料は、好ましくは、生分解性、生体適合性及び/又は生体排除性熱可塑性のポリマーであり、例えば、ポリウレタン(TPU)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリトリメチレンカーボネート、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)又はそれらの組み合わせ、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(L-ラクチド-co-カプロラクトン-co-グリコリド)(PLGA-PCL)であるが、これらに限定されない。ポリマー材料は、約200Da~約50kDa、好ましくは約500Da~約40kDa、更に好ましくは約1kDa~約20kDa、例えば約1、2、5、10、15又は20kDaの制御されたサイズを有することができる。あるいは、所与のサイズ(±)を有する代わりに、ポリマー材料は、異なるサイズ、例えば5kDa~20kDa又は7kDa~17kDaのポリマーの混合物であり得る。例えば、いくつかの市販のポリマーは、7~17kDaの範囲のポリマーの混合物を有するResomer(登録商標)RG502等の異なるサイズのポリマーの混合物である。好ましくは、当該ポリマー材料は、フィラメント中、したがって最終的な埋め込み型薬物送達デバイス中に、約50~75%(w/w)の量、又は約55~70%(w/w)、例えば55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69又は70%の量で存在する。
【0040】
本発明との関連で、全体として、可塑剤は、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)又はPEG化合物、例えば限定されないが、マレイミドモノメトキシPEG、活性化PEGポリプロピレングリコール、メトキシポリ(エチレングリコール)ポリマーである。本発明によるPEG化合物はまた、以下のタイプの荷電ポリマー又は中性ポリマーであり得る:デキストラン、コロミン酸、又は他の炭水化物系ポリマー、アミノ酸のポリマー、並びにビオチン及び他の親和性試薬誘導体。本発明との関連で、PEG又はPEG化合物は、直鎖状又は分岐状であり得る。本発明との関連で、PEG又はPEG化合物は、約200Da~約50kDa、好ましくは約500Da~約40kDa、更に好ましくは約1kDa~約20kDa、例えば約1、2、5、10、15又は20kDaのサイズを有することができる。好ましくは、当該可塑剤は、フィラメント中、したがって最終的な埋め込み型薬物送達デバイス中に、約2~20%(w/w)の量、又は好ましくは約5~15%(w/w)、例えば5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15%(w/w)の量で存在する。
【0041】
いずれの場合も、フィラメントの全ての成分の割合の合計は、したがって最終的な埋め込み型薬物送達デバイスでは、100%に達することが理解される。
【0042】
本開示全体との関連で、埋め込み型薬物送達デバイスは、約50μm~約500μm、好ましくは約100μm~約400μm、例えば100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375又は400μmの層厚を使用して印刷される。埋め込み型薬物送達デバイスは、0(中空物体)~100%(完全な固体物体)の充填物を用いて設計することができる。一実施形態では、埋め込み型薬物送達デバイスは、少なくとも1つの内部中空空洞を含む。別の実施形態では、植込み型薬物送達デバイスは完全に固体の物体である。
【0043】
更なる実施形態では、本発明は、本発明による埋め込み型薬物送達デバイスを製造する方法であって、該方法は、
i.本明細書に記載のフィラメントを適切な長さで切断すること、
ii.適切な形態としての送達デバイスまで、本明細書に記載のフィラメントを成形すること、
iii.適切な形態としての送達デバイスまで、本明細書に記載のフィラメントをペレット化すること、又は
iv.本明細書に記載のフィラメントを粉砕して、適切な粒度分布を有する粉末を得ること、を含む。必要に応じて、この粉末を将来コーティングして、その濡れ性を改変し、有効成分の放出速度をより良好に制御することができる。得られた粉末は、圧縮されてもよく、又はカプセル等の古典的な薬物製剤に導入されてもよい。
【0044】
本発明による非限定的な例示的フィラメントは、約15.5%w/wの抗体(例えば、全長モノクローナル抗体又はFabフラグメントを含む分子)と、約7.5%w/wの賦形剤と、約69.5%w/wのポリマー材料(RG502等)と、約7.5%w/wの可塑剤(PEG等)とを含み、賦形剤は、ヒスチジン(初期液体製剤中で緩衝剤として使用される)及び安定剤としての1つの二糖(スクロース又はトレハロースのいずれか)を含むか、又はそれらからなる。本発明による別の非限定的な例示的フィラメントは、約15.5%w/wの抗体(例えば、全長モノクローナル抗体又はFabフラグメントを含む分子)と、約7.5%w/wの賦形剤と、約69.5%w/wのポリマー材料(RG502)と、約7.5%w/wの可塑剤(PEG)とを含み、賦形剤は、ヒスチジン(初期液体製剤中で緩衝液として使用される)、安定剤としての1つの二糖(スクロース又はトレハロースのいずれか)、及び1つのアミノ酸(L-ロイシン)を含むか、又はそれらからなる。
【0045】
好ましくは、本発明のフィラメント又はデバイスは、治療される対象への埋め込み後数週間にわたって、製剤化及び/又は包装時に抗体生物学的活性の少なくとも60%を保持する。活性は、以下のセクション「例」に記載されるように、又は任意の他の標準的な技術によって、好ましくは予備実験中に測定され得る。
【0046】
本発明はまた、上記のフィラメント又は埋め込み型薬物送達デバイスのいずれかを含む容器を含む、薬学的使用又は獣医学的使用のための製造品を提供する。使用説明書を提供する包装材料も記載される。
【0047】
本発明のフィラメント又は埋め込み型薬物送達デバイスは、使用前に少なくとも約12ヶ月~約24ヶ月間保管することができる。好ましい保管条件下では、最初の使用の前に、製剤を約2~18℃、例えば18℃、15℃又は2~8℃の温度で明るい光から離して(好ましくは暗所で)保持する。当業者は、ポリマーのTgに応じて、保管温度が18℃より高くてもよく、例えば最大25℃(例えば、20℃、22℃又は25℃)であってもよいことを理解するであろう。
【0048】
本発明は、医薬用途又は獣医学用途に適した単回使用用のフィラメント及び埋め込み型薬物送達デバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】予備液体組成物(BE)及び噴霧乾燥(SD)組成物からフィラメント及び3DPデバイスを得るプロセスを示す図である。
図2】緩衝液交換(BE)、噴霧乾燥(SD)及びホットメルト押出(HME)の後のスクロース(SUC)、トレハロース(TRE)、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリン(HP-β-CD)、ソルビトール(SOR)及びイヌリン(INU)を含有するmAb1製剤(mAb:安定剤比2.0:1)のHMWSレベルの比較。
図3】緩衝液交換(BE)、噴霧乾燥(SD)、ホットメルト押出(HME)及び3D印刷(3DP)の後のスクロース(SUC)、トレハロース(TRE)、スクロース-ロイシン会合(SUC-LEU)及びトレハロース-ロイシン会合(TRE-LEU)を含有するmAb1製剤(mAb:安定剤比2.0:1)のHMWSレベルの比較。
図4】(a)TRE-LEU(3DP_7;実線)で安定化されたmAb1を含有する3DPデバイスの溶解プロファイル及び溶解時間にわたる周囲培地のin vitro pH値変動を溶解チャートで示した(破線)。(b)3DPデバイスに含まれるPLGAの37℃の溶解媒体中での10週間にわたる分解。
図5】in vitro溶解試験中に3DP_7から放出されたmAb1のモノマー、HMWS及びLMWSレベル(%)の比較。mAb1参照を、97.4±0.4%(モノマー)、2.6±0.4%(HMWS)及びLMWSなしで特性評価した。
図6】溶解の24時間後、5週間後、10週間後及び15週間後に3DP_7から放出されたmAb1の結合能の比較。
図7】TRE-LEU会合で安定化されたmAb1を含有する3DPデバイスのin vitro放出プロファイル(3DP_42(10%充填物)、3DP_43(50%充填物)、3DP_44(100%充填物))。デバイスを0.3mmの層厚で印刷した。
図8】SD、HME及び3DP後のSUC、SUC-LEU、TRE及びTRE-LEUを含有するfAb2製剤(Fab:安定剤比2.0:1)のHMWSレベルの比較。fAb2参照は、モノマー含有量及びHMWSレベルがそれぞれ99.6±0.2%及び0.4±0.2%であることを特徴とした。
図9】SUC(3DP_F1)、SUC-LEU(3DP_F2)、TRE(3DP_F3)及びTRE-LEU製剤(3DP_F4)で安定化されたfAb2を含有する3DP DDSの溶解プロファイル。
図10】3DP_F1、3DP_F2、3DP_F3及び3DP_F4から放出されたfAb2のモノマー含有量(a)及びHMWSレベル(b)の経時的な比較(8週間)。
図11】溶解の24時間後に3DP_F1、3DP_F2、3DP_F3及び3DP_F4から放出されたfAb2の結合能。
【0050】

略語:
HMWS=高分子量種;LMWS=低分子量種;SD=噴霧乾燥(spray-drying)又は噴霧乾燥(spray-dried);ホットメルト押出 3DP=3次元印刷又は3次元印刷;BE:緩衝液交換;DDS:薬物送達システム;DDD:薬物送達デバイス;DSC:示差走査熱量測定;FDM:溶融物堆積法;HME:ホットメルト押出;LEU:L-ロイシン;Mw:分子量;mAb:完全長モノクローナル抗体;fAb:抗体のFabフラグメント;PBS:リン酸緩衝液;ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC);SEC=サイズ排除クロマトグラフィー;PEG:ポリエチレングリコール;PLGA:ポリ(ラクチド-co-グリコリド)酸;rpm:毎分回転数;SUC:スクロース;Tg:ガラス転移温度;TGA:熱重量分析;Tm:溶融温度;TRE:トレハロース;%(w/w):重量パーセント;Stab:安定剤;HP-β-CD:ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン;SOR:ソルビトール;INU:イヌリン。
【0051】
1.材料
mAb1はIgG4であり、約150kDaの分子量(MW)及び約6.0~6.3のpIを有する。
fAb2は、抗体のFab部分である。fAb2は、約50kDaのMW及び約9.3~9.6のpIを有する。
【0052】
2.方法
2.1.噴霧乾燥
0.7mmノズルを備えた実験室規模のSpray-Dryer B-290(Buhi Labertechnik)を使用して、抗体含有溶液を噴霧乾燥させた。設定は標準的な手順に基づき、全ての製剤について一定に保った。噴霧乾燥させる溶液を、要求に応じて他の賦形剤と共に、pH5.6の15 mMヒスチジン緩衝液中で予備調製した。mAb1及びfAb2溶液の組成、濃度及びmAb:安定剤比の概要を表1及び8に示す。全ての粉末をポリプロピレン容器に密封し、真空下のデシケーター内で保管した。
【0053】
2.2.ホットメルト押出
印刷可能なフィラメントは、Turbula(登録商標)ミキサー(Willy A.Bachofen AG)を使用して予め一緒にブレンドした、原料PLGA、PEG 2kDa及びmAb1又はfAb2含有噴霧乾燥(SD)粉末の物理的混合物から調製した。混合物を、モジュール式スクリュー(L/D比40:1)及び直径1.6mmの丸ダイを装備した11mm二軸スクリュー押出機(Process-11、Thermo Fischer Scientific)に手動で供給した。バレルを、8つの熱電対によって制御された温度勾配を用いて加熱した。水循環器を使用して供給ゾーンを室温に維持した。3つの第1セグメントを、それぞれ20、40及び80℃に設定した。第4から第6の熱電対の中間セグメントを90℃に設定した。ダイの直前に位置する最後の熱電対を85℃に設定し、ダイ自体を75℃に設定した。全ての実験について、スクリュー速度を、供給中は40rpm、フィラメントを手動で巻き取るときは60rpmに設定した。これらのパラメータを一定に保った(表1を参照)。
【0054】
2.3.抗体担持デバイスの3D印刷
デバイスの設計は、3Dコンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアThinkerCAD(商標)(AutoDesk(登録商標)Inc.)を使用して描かれ、スライスするためのソフトウェアにエクスポートされた。デバイスの寸法は、体積178.43mmに対して20×5×2mm(長さ、幅、高さ)であった。0.5mm MK2-250熱間押出機を装備したHyrel 3Dシステム30Mプリンタ(GA)を使用して、mAb1及びfAb2担持デバイスを印刷した。構築プラットフォームの温度を制御する必要はなかった。印刷温度を105±2℃に設定した。印刷速度は、1層目は1mm/s、その他は10mm/sとした。デバイスの層厚を0.1mm及び0.3mmに設定して、担持されたmAb1の潜在的な分解、並びにその放出プロファイルに対するその影響を評価した。デバイスの印刷は、以下の例において特に明記しない限り、100%(v/v)の充填物を用いて行った。
【0055】
2.4.分析方法
示差走査熱量測定(DSC):冷却システムを備えた熱流束型DSC Q2000(TA機器)を使用して、標準的な方法に従って、DSCによって、SD粉末、フィラメント、3DP DDSの熱分析を行った。
【0056】
熱重量分析(TGA):標準的な方法に従って、0.1μgの感度の天秤を備えたQ500 TGA(TA機器)でTGAを行った。データ収集及び分析を、TA Instruments(登録商標)Trios 4.5.0ソフトウェアを使用して行った。
【0057】
クロロホルム中のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によるポリエステルの分子量分析:ポリエステルの数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び多分散性指数(Mw/Mn)を、標準法に従ってSECによって測定した。同じ実験条件を用いて確立されたポリスチレン標準検量線を参照して、相対分子量(数及び重量平均)及び多分散性指数を計算した。NMR分析について上に詳述したように、分子量及び多分散性に関する平均及び標準偏差(STD)を計算した。
【0058】
抗体安定性評価:mAb1モノマーの定量、並びにHMWS及びLMWS含有量の両方の評価をサイズ排除高速液体クロマトグラフィーによって行った。この分析を、溶解試験又は印刷可能なフィラメント及び3DPデバイスからの抽出後のいずれかから得られた試料に対して行った。これらの定量を、標準的なプロトコルに従って、UV検出器(Agilent Technologies)を備えたAgilent 1200シリーズLCシステムで行った。移動相は、pH7.0の0.2M PBS溶液であった。mAb1の検量線は、20~2000μg/mLの範囲であった。mAb1の安定性を、モノマー損失の割合を使用して評価し、これは、HMEプロセス及び3DPプロセスの両方の前後のモノマーの割合の差に対応した。モノマー、HMWS及びLMWSレベル(%)を、緩衝液交換後に得られたmAb1溶液からなる基準と比較した。同様の方法をfAb2安定性評価に使用した。
【0059】
ポリマーマトリックスからの抗体抽出:印刷可能なフィラメント及び3D印刷デバイスの両方に溶融カプセル化されたmAb1の安定性を評価するため、およそ10mgの試料を0.2μmのBio-Inert遠心分離デバイス(Pall)を備えたNanosep(登録商標)に入れ、0.5mLのジクロロメタンに溶解した。Thermomixer confort(登録商標)チューブミキサー(Eppendorf AGを使用して、Nanosep(登録商標)デバイスを室温にて2時間600rpmで撹拌して、PLGAを溶解した。試料を12000rpmで10分間遠心分離し、培地を取り出した。次いで、ジクロロメタン0.5mLを再び添加した。試料を5分間撹拌し、前述のように遠心分離した。この工程を2回繰り返した。ジクロロメタンを除去し、mAbの沈殿物を含むNanosep(登録商標)デバイスを真空下に1時間置いて潜在的な残留溶媒を除去した。次いで、0.02%w/wのポリソルベート80(PS80)を含有する0.5mLのPBS(0.2M、pH7.0)をチューブに添加してmAb1を可溶化した後、600rpmで2時間撹拌した。次いで、Nanosep(登録商標)デバイスを12000rpm(Arrighi et al.,2019から適応)で10分間遠心分離した。mAb1安定性をSECによって評価した(上記の通り)。同様の方法をfAb2抽出に使用した。
【0060】
溶融カプセル化後の抗体担持率:PLGAマトリックス中のカプセル化mAb1の量を、標準的な方法によるビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイによる比色検出を用いて決定した。Pierce(商標)マイクロプレート手順を実施して、溶融カプセル化mAb1の量を決定した。標準及び試料の両方の定量を、室温でSpectraMax M5マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で562nmで行った。全体として、mAb1担持率を以下のように決定した:
mAb担持率(%)=(溶融カプセル化mAbの量)/(3DPデバイスの量)×100。
【0061】
同様の方法をfAb2の担持に使用した。
【0062】
溶解試験:3DP DDSからの担持されたmAb1/fAb2の放出プロファイルを評価するために、in vitro溶解試験を行った。3DPデバイス(約200mg)を、5mLのPBS(0.2M、pH7.0、37℃)を充填した5mLのEppendorf(登録商標)チューブに入れ、Thermomixer confort(登録商標)チューブミキサー(Eppendorf AG)((Marquette et al.,2014)から適応)を使用して600rpmで撹拌した。所定の時間に、5mLの培地を取り出し、収集し、0.45μmのPVDF Acrodisc(登録商標)シリンジフィルター(Pall)で濾過した。同様の体積を新鮮な緩衝液(5mL)で置き換えた。濾過した溶液を、280nmのUV検出器を備えたSEC分析を用いて測定し、pHについて分析した。
【0063】
溶解中のPLGA分解:薬物放出中のPLGAのポリマー分子量(Mw)の減少を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して行った。プロトコルは溶解試験に使用したものと同様であった。Mwをポリスチレン標準を用いて計算した。
【0064】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA試験):標準的な方法に従って、ELISA試験を使用してmAb1/fAb2の結合能を評価した。
【0065】
データ分析:特に明記しない限り、全ての実験を3連で実施した。統計分析には、Prism 8ソフトウェア(GraphPadソフトウェア)を使用した。結果を平均±標準偏差として表す。統計的有意性を、ANOVA及びTurkey又はDunnettの事後検定(Prismソフトウェアによって推奨される)を使用して、p値<0.05で決定した。
【0066】
例1-mAb1を担持した印刷可能なフィラメント及び3DP DDSの調製
mAb1溶液を異なる安定剤と共に製剤化した(表1を参照)。これらの液体溶液を噴霧乾燥して、mAb1担持粉末を製造した。実際、mAb1を固体状態で使用して、その安定性を高め、更なる処理の間の取り扱いを容易にした。次いで、mAb1担持粉末、ポリマー材料としてのResomer(登録商標)RG502(Evonik Industries)及び可塑剤としてのPEGの混合物を、HMEを使用して押し出し、印刷に適したフィラメントを製造した。これらの印刷可能なフィラメントを使用して、3DPプリンタに供給してデバイス(あるいは、本明細書では薬物送達デバイス又は埋め込み型薬物送達デバイスと呼ばれる)を印刷した。各製造工程後にmAb1完全性を評価することによって最適な製剤を同定した(SD、HME、3DP)。最後に、in vitro評価(溶解試験及び結合能)を行った。
【0067】
例2-mAb1を有する原材料及び印刷可能なフィラメントに関する予備的研究
全ての原材料の熱特性(それらの分解温度を含む)を、それぞれTGA及びDSC分析を使用して評価した。
【0068】
原料RG502の分解温度は約175℃であった。原料PEG及びmAb1を担持した押出フィラメントでは、200℃下で明らかな重量減少は観察されなかった。RG502及びPEG原材料に残留水分は観察されなかった。これらの結果は、全ての原材料が安定しているように見え、HME及び3DPの両方の温度に従って処理され得ることを確認した(それぞれ90℃及び105℃)。実際、TGAを使用して質量損失のみを特性評価し、SEC及び結合能等の他の方法をmAb1安定性について述べることが必要であった。
【0069】
SD mAb1粉末のTGAサーモグラムは、100℃の温度に達したときにわずかな重量減少(約4%w/w)を示した。このような減少は、SD mAb1粉末中の残留水分含有量(約3.4±0.8%)に起因し得る。2回目の重量減少は、全てのSD mAb1担持粉末において150℃超で観察された。したがって、mAb1担持粉末は、HME及び3DPの両方の間にmAb1の安定性を確保することができた。
【0070】
次いで、DSC分析を行って、熱可塑性ポリマーRG502のTに対するPEG及びmAb1担持SD粉末の添加の影響を評価した。実際、この研究の目的は、mAb1担持3DP DDSを開発することであり、Tは、異なるプロセス(HME、3DP)の温度の低下及び結果としての生物治療薬の潜在的な分解を可能にするために可能な限り低くなければならない。
【0071】
表1.評価したmAb1製剤の組成:緩衝液交換後及び噴霧乾燥(SD)前の液体組成物(%w/vで表される)、噴霧乾燥粉末の固体組成物(%w/wで表される)、ホットメルト押出(HME)バッチを使用して製造された印刷可能なフィラメント(%w/wで表される)、及び0.1mm及び0.3mmの層厚を有する関連する3D印刷(3DP)バッチ。mAb1は初期液体組成物中で8%w/vであった。
【表1】
【0072】
RG502のTは38.0±0.7℃であることが見出され、これは文献に既に記載されているデータと一致していた(Pignatello et al.,2009)。PEGは、52℃での鋭い吸熱ピークを特徴とした。RG502のTは、PEG及びSD粉末をHME中に添加した場合、21.8±0.4℃に低下した(データは示さず)。PEGの鋭い融解ピークの喪失に加えて、Tのこのような低下は、mAb1担持SD粉末及びPEGが溶融ポリマーマトリックス中に適切に分散していることを実証した(Zhang et al.,2017)。
【0073】
例3-噴霧乾燥プロセス後の製剤スクリーニング及びmAb1安定性
全ての製造工程中に抗体の完全性を維持するために安定剤を選択した。予想される主な有害因子は、HME及び3DPの両方の間に使用された比較的高い温度であった。残念ながら、安定剤の選択は普遍的ではなく、各生物治療薬に適合させる必要があり、プロセスに関連するストレス因子に関して適合させる必要がある(Le Basle et al.,2020;Wang et al.,2007)。SUC、TRE、HP-β-CD、SOR及びINUは、抗体を含む製剤に一般的に使用されている(Baek et al.,2017;Bowen et al.,2013;Gidwani and Vyas,2015;Kanojia et al.,2016;Maury et al.,2005)。担持されたmAb1の安定性に対する安定剤の添加の効果を、3つの異なるmAb:安定剤比(w/w)(1.5:1、2.0:1及び2.5:1)を用いて調べた(表1の製剤を参照)。SDプロセス中のmAb1の安定性を高めるため、mAb:安定剤比(w/w)2.0:1が以前に記載された(Bowen et al.,2013)。SD中だけでなく、より具体的にはHME及び3DP(高い熱応力をもたらす2つの工程)中の、本発明者ら自身のmAb1の安定性に対するそれらの影響を評価するために、より高い比及びより低い比も調査した。
【0074】
評価される異なる液体組成物を、緩衝液交換によって得た。mAb1参照(緩衝液交換前)と様々な液体組成物(バッファ交換後、BE)との間に不安定性は観察されなかった。HMWSのパーセンテージは、mAb1参照から観察されたもの(2.6±0.4%)と非常に類似していた(表2)。SD後、安定剤の性質(p値>0.05)にかかわらず、1.5:1及び2.0:1のmAb:安定剤比のいずれについてもHMWSの有意な形成はなかった(図2)。対照的に、2.5:1の比を使用した場合、HMWSの割合は、安定剤の性質にかかわらず、SUC及びTREを除いて増加した(p値>0.05)(表2)。LMWSレベルも評価し、原料mAb1溶液で断片化は観察されなかった。mAb:安定剤比にかかわらず、BE及びSD後に同様の観察を行った(表2)。1.5:1及び2.0:1の比が同様の結果を示したため、安定剤に対してより高い割合のmAb1を可能にする比2.0:1を更なる調査のために選択した。
【0075】
表2.緩衝液交換(BE)、噴霧乾燥(SD)及びホットメルト押出(HME)後のmAb1製剤(mAb:安定剤比:1.5:1;2.0:1及び2.5:1;製剤については表1を参照)のHMWS及びLMWSレベルの比較。HMWS及びLMWSは全て%で表される。
【表2】
【0076】
例4-mAb1担持印刷可能フィラメントの押出
フィラメントを得るために、mAb1担持SD粉末をPLGA及びPEGと混合し、押し出して(HME)、印刷可能なフィラメントを作製した(表1の製剤を参照)。フィラメントは、FDM 3Dプリンタに供給するために推奨されるように、1.70mm~1.75mmの直径で首尾よく調製された(Melocchi et al.,2015)。mAb1担持率を15%(w/w)で選択した。
【0077】
表2及び図2に示すように、HMWSの割合は、安定剤の性質にかかわらず、比較的高い温度の使用のために増加した(p値<0.0001)。HP-β-CD、SOR及びINUをそれぞれ製剤(mAb:安定剤比2.0:1)に添加した場合、HMWSの割合は6.4±0.2%、11.2±0.5%及び4.9±0.1%に達した(図2を参照)。対照的に、SUC及びTREは、90℃で行われたHMEプロセス中にmAb1を安定化するのに最も適しているようであった。実際、HMWSの割合は、それぞれ3.3±0.3%及び3.8±0.5%にしか増加しなかった(図2)。HMEプロセス後の両二糖について有意差は強調されなかった(p値>0.05)。
【0078】
LMWSの割合もHME後に評価した(表2を参照)。HP-β-CD及びSORを安定剤として使用した場合、わずかな断片化が見られたことが観察された。対照的に、SUC、TRE及びINUではLMWSは観察されなかった。
【0079】
全体として、HP-β-CD、SOR及びINUは、SUC及びTREと比較して、HME中のmAb1安定性を維持する効果が低かった。HMWS及びLMWSレベルの評価に基づいて、安定剤としてTRE及びSUCを使用してHME中にmAb1の完全性を確保した。
【0080】
例2及び3は、SUC及びTREが、製造の連続工程(SD及びHMEの後)にわたって製剤を安定化するための最も適切な安定剤であるように思われることを示した。
【0081】
最後に、印刷プロセスの前に、印刷可能なフィラメントについてmAb1担持率を評価した。これは、全てのフィラメントの実際の担持率が非常に低い標準偏差で目標とする担持率(15%w/w)と同様であることを示した(表3)。これらの結果は、製造プロセスが、均一な分散を有する均一な印刷可能なフィラメントを製造するのに適しており、再現可能であることを示した。
【0082】
表3.BCAアッセイによって得られた印刷可能なフィラメント及び3DPデバイスにおけるmAb1担持率。
【表3】
【0083】
例5-mAb1埋め込み型送達デバイスの3D印刷
スライスソフトウェアを使用して、埋め込み可能な形状を有する埋め込み可能3DPデバイスのモデルを設計した。印刷プロセスを、20℃の室内で行った。実際、フィラメントの物理的状態は、そのTが約22℃であったことが前述されたように、室温に起因して迅速に改変され得る。したがって、20℃では、フィラメントの剛性が保持されているため、フィラメントを印刷することができた。しかしながら、フィラメントの取り扱いは伝導による熱伝達を誘発した。この現象は、フィラメントがプリントヘッドに装填された場合により大きかった。実際、それらは、供給ギヤに沿って移動するには柔らかすぎた。印刷中の伝導による熱伝達を制限するために、「フレキシブル高温流」モジュール式印刷ヘッドMKE-250を使用して3DPを実行しなければならなかった。
【0084】
デバイス分解能を巨視的に評価し、充填物を100%に設定した場合、完全に固体のデバイスが期待された。即時の視覚化は、デバイスの上部に欠陥及び物質の欠如を示した(データは示さず)。印刷工程は、構築プラットフォームへの接着と連続層間の接着の両方が促進される温度である105℃で実行された。印刷速度は、DDSの解像度を向上させるために、第1の層では1mm/s、後続の層では10mm/sを選択した。0.1mm及び0.3mmの層厚を有する3D印刷を評価した。
【0085】
3DPデバイスでmAb1の抽出を実施して、HMWSとLMWSの両方の割合を評価した。HMWSの割合は、層の高さ及び二糖の性質にかかわらず、3DP後に増加した(図3)。しかしながら、これは、0.1mmの層厚が使用された場合に有意に高かった(p値<0.0001及びp値<0.0004)。例えば、HMWSの割合は、SUC及びTREがそれぞれ使用された場合、HME後の3.3±0.1%(製剤HME_16)及び3.8±0.1%(製剤HME_18)から、0.3mmの層厚を有する3DP後の4.7±0.3%(製剤3DP_2)及び4.8±0.1%(製剤3DP_5)、又は0.1mmの層厚を有する3DP後の6.14±0.1%(製剤3DP_1)及び6.2±0.1%(製剤3DP_4)に増加した。これは、3DP中に使用された比較的高い温度に起因した。これは、プリンタのノズルと印刷デバイス(Carlier et al.,2019)との間の接触領域の拡大をもたらした構築プラットフォームのより遅い移動によって説明され得る。
【0086】
SUC又はTREの添加にもかかわらず、3D印刷後にHMWSの(許容可能であるが)有意な増加が現れたことが実証された。したがって、LEU(Minne et al.,2008)等の疎水性アミノ酸の添加は、担持されたmAb1の安定性を高めることができると仮定された。安定剤SUC-LEU又はTRE-LEUの組み合わせを含む予備液体製剤から出発して、0.3mmの層厚を使用して3DPデバイスを印刷した(表1を参照)。
【0087】
HMWSレベルを各プロセス(SDから3DPまで、開始値はBEのものである)後に評価した(図3を参照)。3DP後、これらのレベルは、3DP_3及び3DP_6についてそれぞれ4.4±0.2%及び3.6±0.1%であった。これらのレベルを、SUC及びTREを単独で使用した場合に得られたレベルと比較した。SUC及びTREへのLEUの添加がHMWSの産生を制限できることが実証された。HMWSの減少は、TRE-LEUの会合により有意であった(p値<0.0001)。増加率をプロセス全体にわたる比(3DPとSDとの間)として比較した。TREにLEUを添加した後、HMWSの割合は、TREを単独で製剤化した場合の50%に対して約18%増加した。より高いHMWSレベル(SUC-LEU:33%対SUC:66%増加)でLEUをSUCに添加した場合、同じ傾向が観察された。
【0088】
3DP後にLMWSレベルも調査した。SUC又はTREへのLEUの添加にかかわらず、LMWSのわずかな増加(約0.05±0.04%)が実証された(データは示さず)。
【0089】
最後に、薬物担持率を3DP DDSで評価し、BCAの結果は、15%(w/w)目標担持率に近い実際の担持率を示した(表4を参照)。これらの結果から、HME後に発現したポリマーマトリックス中のmAb1の均一な分散が確認される。
【0090】
表4.BCAアッセイによって得られた印刷可能なフィラメント及び3DPデバイスにおけるmAb1担持率。
【表4】
【0091】
したがって、本発明者らの驚くべき発見は、1)mAb1が担持されたSDから出発してHMEによって印刷可能なフィラメントを押し出すこと、及び2)当該フィラメントを用いてFDMによって3DPデバイスを作製することが可能であったことであった。主にHME及び3DP後に観察されたHMWSの増加は、90℃(HME中)及び105℃(3DP中)で起こる熱劣化に直接関連していた。TRE-LEU及びより少ない程度のSUC-LEUを含有し、HMWSの産生を最小限に抑え、mAb1安定性を促進することができる最も有望な製剤を更に調査した。
【0092】
例6-mAb1を含有する3D印刷デバイスでの溶解試験
PLGAベースの薬物送達システム(DDS;例えば、微粒子及びインプラント)が三相性の放出プロファイルを特徴とすることが以前に実証及び記載された。限られた潜相が発生した放出プロファイルを促進することは、より興味深い可能性がある。実際、潜在相は、ポリマーマトリックス中でのその保持及び培地取り込みのためにmAb1分解をもたらし得る。さらに、「0次速度論」に向かう傾向があり得る線形放出プロファイルは、溶解媒体中のmAb1の一定の薬物放出及び安定した放出濃度を可能にするはずである。
【0093】
図4aに示されるように、3D印刷デバイスからのmAb1の放出は、24時間以内に2.0±0.3%の低いバースト効果を特徴とした。持続放出は、最初の週以内に徐放期(潜伏期)から始まって経時的に起こった。1週目~4週目は、実際に10.6±1.9%までの低い抗体放出を示した。これは、培地がPLGAマトリックスに浸透するのに苦労したためであり、最初の週の間は低いことが知られている。次いで、mAb1の放出割合の増加がその後の週に観察された。累積放出は加速し、5週間後の17.3±2.8%から12週間後の57.8±2.5%に増加した。最後に、低放出相が15週間後に59.7±2.3%に達することが観察された。mAb1の放出は、デバイスの細孔を介したmAb1の拡散を可能にする水分取り込みに依存していた。
【0094】
ポリマーRG502の分解を、溶出試験中に3D印刷デバイスで評価した(図4b)。ポリマーマトリックスを通る媒体の拡散は、加水分解を誘発し、DDSの侵食を促進するために必要である。PLGA誘導体であるResomer(登録商標)RG502は、17867±577g/molの初期Mwで特徴付けられた。RG502水和は、溶解試験の最初の週の間に起こった。ポリマーの分解がわずかに観察され、周囲の媒体のpH値は一定のままであった(図4a)。次いで、分解は3週間後にその初期質量の約20%(14367±462g/mol)の損失(オリゴマー中のRG502のデバイスへの加水分解切断による損失)で増加した。侵食は、周囲の培地の減少したpH値に従って3週間後に開始した(図4a)。最初の週の間、主に分解が起こったが、侵食の開始が引き起こされ、pH低下と共に加速された。したがって、自己触媒作用は侵食を加速し、PLGA分解及びmAb1放出の両方を増加させた。例えば、その初期質量の64%(5373±1217g/mol)の損失が溶解の7週間後に観察された(図4b)。興味深いことに、pH値は6.3±0.1%に低下し、これは最も高い侵食率を示した。この主な分解後、更なる分解は報告されず、ポリマーのMwは約6000g/molで安定したままであった(図4b)。さらに、侵食速度は7週後に低下した。この記述は、次の週のpH値が15週間後に6.7±0.1%(第8週)から7.0±0.1%(図4a)に増加することによって実証された。このようなプロファイルは、予想と一致した(Cosse et al.,2016;Ghalanbor et al.,2013)。
【0095】
mAb1の放出を15週間にわたって評価した。オリゴマーの生成及び溶解媒体へのそれらの拡散のために、pH値はわずかに酸性のままであった。10週間後、PLGAの更なる分解もmAb1の更なる放出も観察されなかった。溶解媒体中に10週間後に生成した試料はクロロホルムに不溶性のままであったため、PLGA及びmAb1は経時的に不溶性凝集体を形成する可能性がある。
【0096】
放出中のmAb1の安定性を研究するために、HMWS及びLMWSレベル並びにモノマー含有量を溶出試験で評価した(図5)。モノマーの割合の減少は、HMWS種又はLMWS種のいずれかの増加に関連することが示された。6週目(25.4±3.6%)と8週目(25.9±3.1%)との間で最も高いHMWSレベルが観察された。この増加は、前述の最高侵食速度及び7週目の6.3±0.1へのpHの低下と相関していた。興味深いことに、溶解の最初の9週間の間にLMWSのわずかな増加が観察された(<0.7%)。LMWSレベルは、10週間後に17.0±5.7%に増加した。このレベルは、14週間後に15.4±5.2%の値で高いままであった。断片化は、溶解試験の遅延段階で示された。これは、マトリックスの主な侵食後に発生したPLGAベースのデバイスのコアの水和に起因する可能性がある。したがって、pHの低下は、コアからmAb1を抽出する複雑さと相まって、主な侵食プロセス中よりも有害であるように見えた。モノマー含有量は、24時間後に96.5±0.3%にあり(バースト効果)、次いで6及び12週間後にそれぞれ74.1±3.6%及び64.6±3.3%に減少した。
【0097】
ELISAアッセイを実施して、デバイスから溶解培地へのmAb1の拡散後のmAb1の結合能を評価した(図6を参照)。mAb1の結合能は、24時間後に69.0±1.5%であることが分かった。結合能のわずかな減少が5週間後に実証された(66.2±3.8%)。10及び15週間後、結合能は、それぞれ43.8±6.8%及び38.8±7.9%に劇的に減少した。低いHMWSレベル及び観察された高いモノマー含有量(96.5±0.3%)を考慮して、24時間後の値は予想よりも低かったが(図5)、その結果は、熱ストレスにもかかわらず、mAb1は依然としてその標的に結合することができ、したがって依然として活性である可能性が高く、数週間連続放出が得られ得ることを示し、非常に有望である。
【0098】
例7-mAb1担持3DPデバイスの安定性研究。
製剤を開発する際に考慮すべき重要な側面である経時安定性について、5±3℃及び25±2℃で6ヶ月間の保管温度(T0、T1、T2、T3及びT6ヶ月)の影響を評価した。3DPデバイスを、TRE-LEUの組み合わせで安定化されたmAb1を使用して作製した。
【0099】
ポリマーマトリックスの物理的状態:3DPデバイスのDSC分析を異なる時点で比較した(表5を参照)。前述のように、PLGAを11%(w/w)のPEGを使用して可塑化し、フィラメントのTg(印刷前)は21.8±0.4℃であった。参照試料(T0)のTgは、20.7±0.3℃でこの値に近かった。両方の保管温度(すなわち、5℃及び25℃)に従って、3ヶ月にわたってTgの上昇は観察されなかった。しかしながら、25℃で6ヶ月後に29.7±0.3℃(T6)へのTgの上昇が観察された。安定性試験中のデバイスのTgは5℃で一定のままであった。さらに、25℃で2ヶ月間(T2)、3ヶ月間(T3)及び6ヶ月間(T6)保管した試料では、小さな融解ピークが観察された。Tmは、45.2±1.4℃(T2);45.9±0.8℃(T3)及び46.7±0.4℃(T6)で観察された融解ピークは、ポリマーマトリックスのTgより高い温度(すなわち25℃)で移動することができたPEGに起因する可能性がある。これらの融解ピークの融解エンタルピーを記録し、1.7±0.9J/g(T2)から7.4±0.6J/g(T6)への増加を数ヶ月にわたって示した。融解エンタルピーの増加は、おそらくは、25℃でPLGA鎖移動度を有する相分離を示した。2及び3ヶ月後、融解エンタルピーは低いままであり、可塑化効果は有効であった。25℃で6ヶ月後のTgの増加は、PLGAとPEGとの間の相分離と一致する融解エンタルピーのより高い値と関連していた。正味の(neat)PEGの融解エンタルピーは、約193.4J/gで記録された(データは示さず)。したがって、少量のPEGのみが6ヶ月にわたってPLGAブレンドから分離する傾向があった。ポリマーのエージング研究中に同様の観察が観察された。保管温度及び湿度の上昇により、PEGが経時的に結晶化することができることが報告された。PEGの結晶化は、デバイスの剛性を高め、それらの機械的特性及び放出特性を改変し得る。
【0100】
表5.Tg(℃)、Tm(℃)、融解エンタルピー(J/g)、Mw(kDa)等の特性を有する時点(T0、T1、T2、T3、T6)を使用して同定された安定性試験を実施するために印刷された3DPデバイス。
【表5】
【0101】
PLGAの分解を、GPC測定を使用して評価した。T0のMwは17.02±0.38kDaで記録され、これは受け取った原料PLGAと一致した(Mw:17.05±0.45kDa)。3ヶ月の保管にわたって分解は起こらなかった。これらの結果は、5℃及び25℃で3ヶ月間保管した場合のデバイスの安定性を実証した。しかしながら、6ヶ月後に得られた結果は、1.5ヶ月間冷蔵庫に保管され、相対湿度に起因してポリマーのMwに影響を及ぼし得る。
【0102】
保存時間にわたるデバイスの目視評価:5℃及び25℃で保管した3DPデバイス(図示せず)に対して目視評価を行った。5℃で6ヶ月間保管したデバイスでは差は観察されなかった。デバイスを25℃に保ったとき、粘着性の試験片が観察された。デバイスはガラスバイアルの底部に接着したが、材料の損失は回収工程中に観察されなかった。この観察は、T1からT6まで25℃で保管した全てのデバイスで行った。25℃でのデバイスT6の断面は、鎖の可動性のために高い多孔質ネットワークを示した。デバイス多孔度の増加は、溶解研究中にmAb1のより速い放出を有すると予想された。
【0103】
薬物含有量及びデバイスからの抽出:標的担持率は15%(w/w)であった。表6に示されるように、各デバイスにおけるmAb1担持率は、実験的に得られた値と一致していた。
【0104】
表6.T0(参照)からT6(6ヶ月)までの時点によるmAb1担持率(%)、モノマー含有量(%)並びにHMWS及びLMWSレベルの両方(%)の比較。
【表6】
【0105】
mAb1の安定性も各時点で評価した(表6)。モノマー含有量は、5℃で6ヶ月にわたって安定したままであった。しかしながら、25℃で6ヶ月後にモノマー率のわずかな低下が観察された。この減少は、試料のHMWS(5.1±0.2%)及びLMWS(0.08±0.01%)レベルの両方の増加に関連していた。
【0106】
デバイスの充填物の関数としての放出パターンを調査するために、印刷されたデバイス(3DP_39~3DP_44;表7)に対して溶解研究を行った(図7)。全てのデバイスからのバースト放出は、製剤にかかわらず制限された。例えば、3DP_42のバースト放出は、24時間後に6.1±0.5%に達した。以前に観察されたように、三相性プロファイルが全てのデバイスで観察された。これらの結果は、mAb1担持3DPデバイス(図4a)で示された以前の結果と一致していた。最後に、デバイス3DP_43及び3DP-44による63.2±4.7%及び62.3±5.1%の最大累積放出が6週間後に実証された。観察され得るように、デバイスの充填物は、抗体の累積放出にわずかしか影響しない。
【0107】
表7-HMEバッチ出発材料及び充填密度が10、50又は100%(v/v)であり、層厚が0.3mmである印刷された関連3DPバッチ(n=3)。
【表7】
【0108】
例8-fAb2を含有するフィラメント及び3DPデバイス。
例1~7からの知見に基づいて、LEUの添加の有無にかかわらず、安定剤としてのTRE及びSUCをFab抗体フラグメントであるfAb2について調べた。
【0109】
同様のアプローチを、最後に緩衝液交換(BE)、噴霧乾燥(SD)、ホットメルト押出(HME)及び3D印刷(3DP)等の連続的な加工方法を用いてfAb2に適用した。fAb2の製剤を、4つの異なる製剤を比較し、いずれが熱応力に対してFabを安定化させることができるか(表8)、並びに0.1mm及び0.3mmの層厚を有する関連する3D印刷(3DP)バッチを見出すために、LEUを含む又は含まないTRE又はSUCで作製した。fAb2は、初期液体組成物では8%w/v、SD粉末では66.7%w/w、フィラメント/3DPデバイスでは15.3%w/wであった。
【0110】
抽出されたfAb2の特徴:原料fAb2材料は、99.6±0.2%の高いモノマー含有量及び0.4±0.2%の低いHMWSレベルを特徴とした。HME及び3DP後のPLGAマトリックスから抽出されたfAb2を、SD粉末から抽出されたfAb2と比較した(図8)。配合されたFabのHMWSレベルは、高温プロセス中にわずかに増加した(例えば、HME及び3DP)。例えば、TRE-LEUを含有する製剤のHMWSレベルは、3DP後に0.6±0.3%(SD)から1.0±0.1%に発展した。全ての結果によれば、それらのいずれもFab-SD粉末と有意に異ならなかった(p値>0.05)。
【0111】
溶解試験:経時的なFabの放出パターン及び安定性の両方を調査するために、全ての印刷されたデバイス(DDS;3DP-F1~3DP_F4)に対して溶解試験を行った(図9)。全てのデバイスからのバースト放出は、製剤にかかわらず制限された。例えば、3DP_F4のバースト放出は、24時間後に2.4±0.2%に達した。以前に観察されたように、三相性プロファイルが全てのデバイスで観察された。この観察は、主にデバイスのモノリシック状態及び水の浸透の困難さに依存していた。その結果、5週目と6週目との間でより速い放出が観察された。これらの結果は、mAb1担持3DPデバイス(図4a及び7)で示された以前の結果と一致していた。最後に、デバイス3DP_F4による79.3±1.7%の最大累積放出が8週間後に実証された。
【0112】
経時的なfAb2の安定性研究:溶解試験中、モノマー含有量及びHMWSレベルの両方を8週間にわたって調査した(図10)。8週間後にモノマー含有量のわずかな減少が観察された。実際、モノマー含有量は、3DP_F4(図10a)で99.3±0.1%から97.6±1.0%に変化した。溶解媒体2週間後、サーモグラム上のモノマーピークの変形が観察された(データは示さず)。肩部がモノマーピークに現れ、数週間にわたって増加したが、製剤にかかわらず、8週間後に断片化は報告されなかった(データは示さず)。クロマトグラムでのこの発生は、Fabの完全性を損なったPLGAマトリックス中の酸性の微環境pHに関連し得る。溶解時間にわたってHMWSレベルの増加が実証された(図10b)。溶解週間にわたるfAb2の凝集は、mAb1で生成された以前の結果と比較して限られているようであった。例えば、8週間の溶解後の3DP_F4の値は1.9±0.1%であった。8週間の溶解時間によると、fAb2の断片化は示されなかった。FAb2は、同様の条件を適用した場合、より安定であるようであった。実際、数週間にわたるfAb2の凝集は、高温プロセス後及び溶解試験中に非常に低かった。
【0113】
結合能研究:fAb2の結合能を評価して、fAb2が依然としてその標的に結合することができることを確認した。ELISA試験は、fAb2の結合能が、製剤にかかわらず、24時間の放出後に保存されることを実証した。例えば、3DP_F4の結合能は99.5±6.4%であった(図11)。これらの結果は、全ての製剤がFabを連続的に乾燥させ、印刷可能なフィラメントを製造し、Fabの分解が制限された3DPデバイスを印刷するように適合されたことを示唆した。
【0114】
結論:LEUを含む/含まないSUC又はTREを含有する4つの異なる製剤を使用して、fAb2を連続的に乾燥させ、押し出し、3D印刷した。3DP DDSは、少なくとも8週間にわたってFabの持続放出を可能にした。HMWSレベルは非常に低く、最大値は1.9±0.1%(3DP_F4)であった。安定剤としてTRE(+/-LEU)を含む製剤を用いて得られた結果は、総放出に関してわずかに優れていたが、SUC(+/-LEU)も非常に有望であった。
【0115】
総合的な結論
本明細書に提示される結果は、驚くべきことに、本明細書においてモノクローナル抗体(mAb1)及びFabフラグメント(fAb2)で示されるように、HMEだけでなくHMEとFDM 3D印刷との会合も、抗体が依然としてその標的に結合することができる(したがって、依然として活性である可能性が高い)抗体担持フィラメント及び抗体担持埋め込み型デバイスを製造するのに適していることを初めて示した。PLGAマトリックス中の抗体の均一な固体分散体は、印刷可能なフィラメント及び3DPデバイスの両方で達成された。熱分解に対して抗体を安定化するために、様々な安定剤を調査した。最も有望なもの(トレハロース及びスクロース)は、異なるmAb:安定剤比を使用してSD、HME及び3DP工程中にmAbの完全性を促進した。ロイシン等の少量のアミノ酸を使用して製剤を更に最適化すると、潜在的な熱分解に対する抗体の安定性が改善された。さらに、溶解プロファイルは、特に抗体フラグメントを用いて、バースト効果が制限された興味深い持続放出プロファイルを実証した。最後に、押出(90℃)及び印刷(105℃)の比較的高い温度にもかかわらず、抗体の結合能が少なくとも約5週間にわたって残存することが実証された。
【0116】
表8.SDバッチ(%w/V)、SD粉末の固体組成(%w/w)及び噴霧乾燥プロセスの収率(%)、について評価されたfAb2製剤の理論組成、100%(v/v)の充填密度及び0.3mmの層厚(n=3)で印刷された、プロセスの収率(%)及び関連する3DPバッチを伴うHMEバッチを使用して製造された印刷可能なフィラメント(%w/w)Excip.=賦形剤
【表8】
【0117】
参考文献
【数1】


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】