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特表2023-551135構成可能なヒドロゲル材料、及び生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料を構成するための方法
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  • 特表-構成可能なヒドロゲル材料、及び生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料を構成するための方法 図1
  • 特表-構成可能なヒドロゲル材料、及び生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料を構成するための方法 図2A
  • 特表-構成可能なヒドロゲル材料、及び生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料を構成するための方法 図2B
  • 特表-構成可能なヒドロゲル材料、及び生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料を構成するための方法 図2C
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】構成可能なヒドロゲル材料、及び生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料を構成するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/00 20060101AFI20231130BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231130BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231130BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231130BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231130BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C08G81/00
A61P37/02
A61P35/00
A61P3/10
A61P25/00
A61P1/04
A61P11/06
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/02
A61P19/08
A61K9/06
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/42
A61K45/00
C12N5/10
C08F220/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528579
(86)(22)【出願日】2021-11-11
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 DE2021100903
(87)【国際公開番号】W WO2022111756
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020131536.8
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】500525405
【氏名又は名称】ライプニッツ-インスティチュート フュア ポリマーフォルシュング ドレスデン エーファウ
【氏名又は名称原語表記】Leibniz-Institut fuer Polymerforschung Dresden e.V.
【住所又は居所原語表記】Hohe Strasse 6,D-01069 Dresden,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】アッタラーフ,パッサント
(72)【発明者】
【氏名】フロイデンベルク,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルナー,カルステン
(72)【発明者】
【氏名】シーデル,アナ
(72)【発明者】
【氏名】デニソン,ニコラス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4J031
4J100
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA60
4C076AA09
4C076BB31
4C076BB32
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC19
4C076CC27
4C076EE06A
4C076EE08A
4C076EE13A
4C076EE16A
4C076EE23A
4C076EE26A
4C076EE41A
4C076EE43
4C084AA17
4C084MA63
4C084MA67
4C084NA03
4C084NA05
4C084ZA01
4C084ZA59
4C084ZA68
4C084ZA89
4C084ZA96
4C084ZB07
4C084ZB15
4C084ZB26
4C084ZC35
4J031AA04
4J031AA19
4J031AA53
4J031AB01
4J031AC11
4J031AD01
4J031AF03
4J031AF09
4J100AJ02P
4J100AM21Q
4J100AM21R
4J100BA56R
4J100BC43R
4J100BC66H
4J100BC66Q
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA31
4J100HC63
4J100JA51
(57)【要約】
本発明は、ヒドロゲル材料への生物活性物質の隔離及び/又はヒドロゲル材料からの生物活性物質の放出のための構成可能なヒドロゲル材料に関する。本発明は更に、生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料の構成を決定し利用可能にする方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成可能なヒドロゲル材料であって、前記ヒドロゲル材料への物質の隔離及び生体液中の前記物質の枯渇、及び/又は前記ヒドロゲル材料から前記生体液への物質の放出及び前記ヒドロゲル材料中の前記物質の枯渇のための構成可能なヒドロゲル材料であり、前記ヒドロゲル材料は、求核基を有し、生理的条件下にてアニオン性で荷電された少なくとも3つのユニットに基づき、非荷電ユニットは、前記求核基と反応することができる少なくとも2つの求電子基を有し、前記荷電ユニットと前記非荷電ユニットは架橋されて、前記求核基と前記求電子基の反応によって得られることができる、ポリマーネットワークを形成し、前記ヒドロゲル材料の組成は、前記アニオン性ユニットを規定するパラメーターP0、P1、P2、P3の群から選択された3つのパラメーターを使用して構成可能であり、パラメーターP0は、生理的条件下で膨潤した前記ヒドロゲル材料のユニット体積当たり全てのアニオン性基が30%イオン化すると仮定して、イオン化されたアニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP1は、生理的条件下で膨潤した前記ヒドロゲル材料のユニット体積当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP2は、繰り返しユニット当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数を前記繰り返しユニットのモル質量で割ることから計算される値に対応し、パラメーターP3は、前記アニオン性荷電ユニットの両親媒性を説明するための値に対応する、構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項2】
構成可能なヒドロゲル材料であって、前記ヒドロゲル材料への物質の隔離及び生体液中の前記物質の枯渇、及び/又は前記ヒドロゲル材料から前記生体液への物質の放出及び前記ヒドロゲル材料中の前記物質の枯渇のための構成可能なヒドロゲル材料であり、前記ヒドロゲル材料は、ポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)の形態の荷電ユニット、並びにアミノ基又はチオール基を含むポリマーの、又は少なくとも2つのアミノ基又はチオール基を有する架橋剤分子の形態の非荷電ユニットに基づき、前記荷電ユニットと前記非荷電ユニットは架橋されて、ポリマーネットワークを形成し、これは、前記ポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又は前記ポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はEDC/スルホ-NHSを有する前記ポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)のカルボキシル基の活性化、並びにそれぞれの場合においてアミドを形成する、アミノ基を含む前記ポリマー若しくは前記少なくとも2つのアミノ基を有する前記架橋剤分子への直接架橋、又はアミノ基及びマイケル型付加が可能な基をそれぞれ含む二官能性架橋剤分子による活性化されたカルボキシル基の官能基化のいずれか、並びにそれぞれの場合においてマイケル型付加を介する、チオール基を含む前記ポリマーとの、又は前記少なくとも2つのチオール基を有する前記架橋剤分子との引き続く架橋によって得られることができ、前記ヒドロゲル材料の組成は、パラメーターP0、P1、P2、P3の群から選択された、荷電基保持ユニットを規定する3つのパラメーターに基づいて構成可能であり、パラメーターP0は、生理的条件下で膨潤した前記ヒドロゲル材料のユニット体積当たり全てのアニオン性基が30%イオン化すると仮定して、イオン化されたアニオン性基の数から計算された値に対応し、
パラメーターP1は、生理的条件下で膨潤した前記ヒドロゲル材料のユニット体積当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数から計算された値に対応し、
パラメーターP2は、繰り返しユニット当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数を前記繰り返しユニットのモル質量で割ることから計算される値に対応し、
パラメーターP3は、前記アニオン性荷電ユニットの両親媒性を説明するための値に対応する、構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項3】
マイケル型付加が可能な前記基は、マレイミド基、ビニルスルホン基、又はアクリレート基から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項4】
非荷電単位として、アミン基及びチオール基を含む前記ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)及び/又はポリアリールアミド(PAM)の部類から選択され、アミン基又はチオール基を含む前記架橋剤分子は、非ポリマーの二官能性架橋剤分子であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項5】
選択される前記荷電ユニットは、9:1から1:9の範囲内のアクリル酸の4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸に対する変動モル比、及び5000~100000g/モルの範囲内のモル質量を有するポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)、及び/又は荷電ユニットとして、9:1から1:9の範囲内のアクリル酸のアクリルアミドエタンスルホン酸に対する変動モル比、及び5000~100000g/モルの範囲内のモル質量を有するポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)、及び/又は荷電ユニットとして、9:1から1:9の範囲内のアクリル酸のアクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェートに対する変動モル比、及び5000~100000g/モルの範囲内のモル質量を有するポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項6】
利用される前記非荷電ユニットは、ペプチド配列中の反応性アミノ酸としてリシン又はシステインを含む、酵素的に切断可能な共役ペプチドを有するポリマーであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項7】
前記酵素的に切断可能なペプチドは、ヒト又は細菌のプロテアーゼ、特にMMP、カテプシン、エラスターゼ、オーレオリシン及び/又は血液凝固酵素によって切断可能であることを特徴とする、請求項6に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項8】
前記荷電ユニットポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンハイドロジェンスルフェート)に、又はヒドロゲルネットワークへの共有結合を形成するマイケル型付加が可能な基を有するそれらの誘導体に、アミノ基又はカルボキシル基及び/又は細胞指示ペプチドを有する生物活性分子及び/又は接着防止分子は、前記配列においてリシン又はシステインを介して結合されることを特徴とする、請求項2~7のいずれか一項に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項9】
前記生物活性分子は、抗菌物質、例えば、抗生物質又は防腐剤、又は医薬品有効成分であることを特徴とする、請求項8に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項10】
前記接着防止分子は、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリ(2-オキサゾリン)(POX)であることを特徴とする、請求項8又は9に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項11】
前記細胞指示ペプチドは、細胞外マトリックスの構造タンパク質及び機能タンパク質、例えば、コラーゲン、ラミニン、テネイシン、フィブロネクチン及びビトロネクチンに由来するペプチドであることを特徴とする、請求項8~10のいずれか一項に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項12】
前記生物活性分子及び/又は接着防止分子及び/又は細胞指示ペプチドは、酵素的に切断可能なペプチド配列を介して前記ヒドロゲルネットワークに共有結合されることを特徴とする、請求項8~11のいずれか一項に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項13】
前記ヒドロゲル材料は、0.2kPa~22kPaの貯蔵弾性率を有することを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の構成可能なヒドロゲル材料。
【請求項14】
ポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)の形態の荷電ユニットと、ポリマーの形態の非荷電ユニットとの間の物理的相互作用に基づく構成可能な物理的に架橋されたヒドロゲル材料であって、強く正に荷電したペプチド配列は、前記ポリマーに共役されており、前記ヒドロゲル材料の組成は、パラメーターP0、P1、P2、P3の群から選択された、荷電基保持ユニットを規定する3つのパラメーターに基づいて構成可能であり、パラメーターP0は、生理的条件下で膨潤した前記ヒドロゲル材料のユニット体積当たり全てのアニオン性基が30%イオン化すると仮定して、イオン化されたアニオン性基の数から計算された値に対応し、
パラメーターP1は、生理的条件下で膨潤した前記ヒドロゲル材料のユニット体積当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数から計算された値に対応し、
パラメーターP2は、繰り返しユニット当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数を前記繰り返しユニットのモル質量で割ることから計算される値に対応し、
パラメーターP3は、前記アニオン性基の周囲の分子構造の両親媒性を説明するための値に対応する、構成可能な物理的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項15】
前記強く正に荷電したペプチド配列は、リシン又はアルギニンの少なくとも10回の繰り返し、又はリシン及びアラニン又はアルギニン及びアラニンを有するジペプチドモチーフの少なくとも5回の繰り返しを含むことを特徴とする、請求項14に記載の構成可能な物理的に架橋されたヒドロゲル材料。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載のヒドロゲル材料を使用する、ヒドロゲル材料への生物活性物質の隔離及び生体液中の前記物質の枯渇、及び/又は前記ヒドロゲル材料から前記生体液への物質の放出及び前記ヒドロゲル材料中の前記物質の枯渇のための前記ヒドロゲル材料のための構成を決定及び提供する方法であって、
-物質は、物質の正味電荷と水が接触可能な前記物質の表面積の比から計算されるPP値に従って少なくとも2つのカテゴリーに分類され、
-各カテゴリーにおいて、規定のヒドロゲル構成のパラメーターの少なくとも2つの異なる値について、物質摂取値は、前記ヒドロゲル材料への前記カテゴリーに割り当てられた試験物質の物質摂取のパーセントから、それぞれの場合に実験的に確認され、及び/又は物質放出値は、前記ヒドロゲル材料から前記生体液への前記試験物質の物質放出のパーセントから、それぞれの場合に実験的に確認され、並びに少なくとも2つの実験的に確認された物質摂取値及び/又は少なくとも2つの実験的に確認された物質放出値は、それぞれ、カテゴリー固有の関数を形成するために使用され、これに基づいて、規定のパラメーターを用いて更に規定されたヒドロゲル構成の更なる物質摂取値及び/又は物質放出値が決定され、前記生体液中のカテゴリーに割り当てることができる任意の物質の濃度は、前記実験的に確認された物質摂取値及び前記決定された物質放出値、及び/又は前記実験的に確認された物質放出値及び前記計算された物質放出値から形成されるカテゴリー固有の回帰関数は、少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.7の決定係数Rを有する、前記パラメーターの規定の値を用いて前記ヒドロゲル材料の適切なヒドロゲル構成を選択することによって影響を受ける方法。
【請求項17】
前記規定のヒドロゲル構成は、パラメーターP0、P2、P3又はP1、P2、P3を用いて形成されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
それらのPP値を使用して物質を4つのカテゴリーA、B、C、及びDに分類し、カテゴリーAに割り当てられる物質は、PP値が940を超え、カテゴリーBに割り当てられる物質は、PP値が940から128の範囲内にあり、カテゴリーCに割り当てられる物質は、PP値が128から-128の範囲内にあり、カテゴリーDに割り当てられる物質は、PP値が-128未満であることを特徴とする、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記物質摂取値及び/又は物質放出値は、
0~80マイクロモル/mlの範囲内の値をパラメーターP0として、
0~150マイクロモル/mlの範囲内の値をパラメーターP1として、
0~10ミリモル/(g/モル)の範囲内の値をパラメーターP2として、及び
-7×10から7×10-2の範囲内の値をパラメーターP3として規定することによって、実験的に決定されることを特徴とする、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
理論的に確認された物質摂取値及び/又は物質放出値に対する前記カテゴリー固有の回帰関数は、ヒドロゲル構成の少なくとも1つのパラメーターP0、P1、P2又はP3の値の範囲を確認するために使用されることを特徴とする、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ヒドロゲル構成P0P1P2及び/又はヒドロゲル構成P1P2P3の前記パラメーターの値は、得られるヒドロゲルにおいて、1つのカテゴリーの少なくとも1つの物質が前記ヒドロゲル材料中で結合されている、又は初期濃度の50%までのみ前記ヒドロゲル材料から放出されるように選択されることを特徴とする、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
免疫障害、癌、糖尿病、神経変性障害、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ又は皮膚創傷、及び骨再生の場合の、血管新生の制御のための生体内での因子管理における、請求項1~16のいずれか一項に記載のヒドロゲル材料の使用。
【請求項23】
微生物又は真核生物起源の細胞溶解物からのタンパク質の制御された精製における、請求項1~16のいずれか一項に記載のヒドロゲル材料の使用。
【請求項24】
生体外細胞培養、並びに人工多能性幹細胞(iPS)及びiPSのカテゴリーに当てはまらない他の幹細胞及び前駆細胞、患者から得られた初代細胞、固定された細胞株、並びに、心臓組織、筋肉組織、腎臓組織、肝臓組織、及び神経組織の器官培養における、請求項1~16のいずれか一項に記載のヒドロゲル材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロゲル材料への生物活性物質の隔離及び/又はヒドロゲル材料からの生物活性物質の放出のための構成可能な(configurable)ヒドロゲル材料に関する。本発明は更に、生物活性物質の隔離及び/又は放出のためのヒドロゲル材料のための構成を確認及び提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの用途に対するその生体適合性と組織のような機械的特性のため、ヒドロゲルは、医学とバイオテクノロジーの両方にて多方面で使用されており、物質摂取システム又は物質放出システムとしても使用されている。ヒドロゲルは、規定上、高度に水和され、共有結合又は物理的に架橋されたポリマーである。剛性、含水量、及び構造再構成性などの様々な生物学的に関連するシグナルの制御、並びに共有結合した細胞接着タンパク質又はペプチドの提示(presentation)と同様に、ヒドロゲルは、非共有結合相互作用を介して生物活性物質を可逆的に結合することを可能にし、従って、物質を結合し、生体液又は生体組織から、例えば、それらをヒドロゲル内に隔離する又はヒドロゲルから環境に物質を放出することができる。このような生物活性物質は、タンパク質系のシグナル伝達分子、例えば、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、神経伝達物質、成長因子又は酵素であり得、これらは、1つ以上の生物学的機能を果たすとともに、電荷相互作用及び/又は更なる相互作用、例えば、疎水性相互作用又は水素結合のために、親和性を与えるヒドロゲルの成分に可逆的に結合できる。加えて、同様にサイトカイン、ケモカイン、ホルモン、神経伝達物質、又は成長因子の上記の細胞指示シグナル伝達特性を担い、更なる生物学的効果を引き起こすことができ、ヒドロゲルによって可逆的に結合及び放出される、非タンパク質系の生理活性化学物質、有効成分又は小分子も知られている。加えて、生物活性物質は、医薬品有効成分であり得る。前述の生物活性物質は全て、重要な特徴として、70kDa以上の分子量を有し、従って、それらの分子サイズのために、電荷に依存して本発明のヒドロゲルネットワークのメッシュに浸透することができ、従って、そこから隔離される又は放出されることができる。このような生物活性物質は、便宜上、以下物質と称される。従来技術、例えば、国際公開第2018/162009A2号は、物質の隔離又は放出の制御、及び従って物質に対するその親和性が、ヒドロゲルネットワークの全体的及び局所的な電荷密度を介して説明されるヒドロゲルシステムを開示している。公知の解決策の欠点は、特定の生物活性物質の結合又は放出に対するヒドロゲルネットワークの特異性が低く、結果、そのような物質の制御された放出又は結合を所望の度合いまで達成できないことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
物質特異的な方法でヒドロゲルネットワークの組成を適応又は構成することは可能であるが、既存の又は考えられる物質構造の数とそれに関連して必要な実験試行の数を考慮すると、物質特異的なヒドロゲルの開発は、容認できないレベルの経済支出と関連する。従って、必要とされるのは、生体液又は生体組織からの物質の分化した摂取及び/又は生体液又は生体組織への物質の分化した放出のための特定の物理化学的特性を有するヒドロゲルを提供する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明の目的は、特定の生物活性物質における所望の親和性に関して構成されることができる構成可能なヒドロゲル材料を提案することである。また、本発明の目的は、特定の生物活性物質の隔離及び/又は放出に適したヒドロゲル材料の構成の容易な確認を可能にする方法を提供することである。
【0005】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する構成可能なヒドロゲル材料及び請求項16に記載の方法によって達成される。本発明の展開(development)は、それぞれの従属請求項に特定されている。
【0006】
本発明は、求核基を有し、生理的条件下にてアニオン性で荷電された少なくとも3つのユニット(unit)に基づく第1のヒドロゲル材料を包含し、好ましくは硫酸基、スルホン酸基、リン酸基又はカルボキシル基を有するユニット、求核基と反応することができる少なくとも2つの求電子基を有する非荷電ユニットを包含し、この場合、荷電ユニットと非荷電ユニットは架橋されて、求核基と求電子基の反応によって得られることができる、ポリマーネットワークが形成される。ヒドロゲル材料の組成は、アニオン性ユニットを規定するパラメーターP0、P1、P2、P3の群から選択された3つのパラメーターを使用して構成可能であり、この場合、パラメーターP0は、生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のユニット体積当たり全てのアニオン性基が30%イオン化すると仮定して、イオン化されたアニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP1は、生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のユニット体積当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP2は、繰り返しユニット当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数を繰り返しユニットのモル質量で割ることから計算される値に対応し、パラメーターP3は、アニオン性ユニットの両親媒性を説明するための値に対応する。
【0007】
アニオン性荷電ユニットと非荷電ユニットから形成されるポリマーネットワークは、アニオン性荷電ポリマーネットワークである。アニオン性荷電ユニットポリマーネットワークは、アニオン性荷電ユニットを規定するパラメーターを使用して構成できる。
【0008】
加えて、本発明は、ポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)の形態の荷電ユニット、並びにアミノ基又はチオール基を含むポリマーの、又は少なくとも2つのアミノ基又はチオール基を有する架橋剤分子の形態の非荷電ユニットに基づく第2のヒドロゲル材料を包含し、この場合、荷電ユニットと非荷電ユニットが、架橋して、ポリマーネットワークを形成し、これは、ポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はEDC/スルホ-NHSを有するポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)のカルボキシル基の活性化、並びにそれぞれの場合においてアミドを形成する、アミノ基を含むポリマー若しくは少なくとも2つのアミノ基を有する架橋剤分子への直接架橋、又はアミノ基及びマイケル型付加が可能な基をそれぞれ含む二官能性架橋剤分子による活性化されたカルボキシル基の官能基化のいずれか、並びに、それぞれの場合においてマイケル型付加を介する、チオール基を含むポリマーとの、又は少なくとも2つのチオール基を有する架橋剤分子との引き続く架橋によって得られることができる。ヒドロゲル材料の組成は、パラメーターP0、P1、P2、P3の群から選択される、荷電基保持ユニットを規定する3つのパラメーターに基づいて構成可能である。パラメーターP0は、生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のユニット体積当たり全てのアニオン性基が30%イオン化すると仮定して、イオン化されたアニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP1は、生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のユニット体積当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP2は、繰り返しユニット当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数を繰り返しユニットのモル質量で割ることから計算される値に対応し、パラメーターP3は、アニオン性基の周囲の分子構造の両親媒性を説明するための値に対応する。
【0009】
本発明の文脈において、生体液又は組織は、生物活性物質が放出される、又は生物活性物質が隔離される生物学的に関連する区分の同義語であると理解される。
【0010】
本発明の文脈における生物活性物質は、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、神経伝達物質又は成長因子のシグナル伝達特性を有し、更なる生物学的効果を引き起こす、タンパク質系及び非タンパク質系の生物活性物質、活性成分及び小分子を意味すると理解される。生物活性物質は、特に医薬品有効成分であり得る。上記の全ての生物活性物質において、重要な特徴は、分子量が70kDa以下であることである。
【0011】
本発明の構成可能なヒドロゲル材料は、ヒドロゲル材料への物質の隔離及び生体液又は組織中の物質の枯渇、及び/又はヒドロゲル材料から生体液又は組織への物質の放出及びヒドロゲル材料中の物質の枯渇を目的とする。
【0012】
アニオン性ユニットは、複数のアニオン性基及び少なくとも3つの求核性基を有するポリマー又はオリゴマーのヒドロゲルユニットを意味すると理解される。
【0013】
パラメーターP0~P3は、より具体的には次の仕様と形成方法によって規定される:
パラメーターP0:P0の値は、マイクロモル/mlの単位で報告することができ、生理的条件下(0.154ミリモル/lNaCl、pH7.4に緩衝)で膨潤したヒドロゲルの体積に基づいてアニオン性基の総数の30%に対応する。この計算は、例えば、生理的溶液中で膨潤したヒドロゲルユニットのポリマー濃度から計算することができる。
【0014】
パラメーターP1:P1の値は、マイクロモル/mlの単位で報告することができ、
生理的条件下(0.154ミリモル/lNaCl、pH7.4に緩衝)で膨潤したヒドロゲル体積に基づいて2.5未満のpKaを有する強アニオン性基の数に対応する。
【0015】
パラメーターP2:P2の値は、ミリモル/(g/モル)の単位で報告することができ、アニオン性荷電ユニット当たり2.5未満のpKaを有する強アニオン性基の数を、アニオン性ユニットのそれぞれの分子量で割ったものに対応する。
【0016】
パラメーターP3:パラメーターP3は、アニオン性ユニットの両親媒性を表し、アニオン性ユニットのオクタノール/水分配係数(logP値)を、水溶媒が接触可能な(accessible to)アニオン性ユニットの表面積で割ることにより計算される。これは、ChemDraw19.0及びChemAxon MarvinSketch 19.21ソフトウェアを利用して次の通り行うことができる:ChemDraw19.0ソフトウェアを使用して、22個の炭素原子のポリマー骨格の長さを有する各アニオン性ユニット、又は糖系の構造体の場合は、合計2つの二糖ユニットを有する各アニオン性ユニットが、完全な化学構造体として表される。続いて、ChemAxon MarvinSketch 19.21ソフトウェアアプリケーションを使用して、ChemDraw 19.0で表される構造式をインポートし、溶媒半径1.4Åで水溶媒が接触可能な表面積を計算することにより、オクタノール/水分配係数(logP値)が計算される。10-3×[1/A又はA-2]のユニットを得るために、得られた値に1000の係数を掛ける。本発明の第2のヒドロゲル材料において、マイケル型付加が可能な基は、マレイミド基、ビニルスルホン基、又はアクリレート基から選択することができる。
【0017】
加えて、本発明の第2のヒドロゲル材料の場合、非荷電単位として、アミン基及びチオール基を含むポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)(POX)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)及び/又はポリアリールアミド(PAM)の部類から選択され、アミン基又はチオール基を含む架橋剤分子は、非ポリマーの(nonpolymeric)二官能性架橋剤分子である場合があり得る。
【0018】
本発明の第1のヒドロゲル材料及び本発明の第2のヒドロゲル材料については、選択される荷電ユニットは、9:1から1:9の範囲内のアクリル酸の4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸に対する変動モル比、及び5000~100000g/モルの範囲内のモル質量を有するポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)、及び/又は荷電ユニットとして、9:1から1:9の範囲内のアクリル酸のアクリルアミドエタンスルホン酸に対する変動モル比、及び5000~100000g/モルの範囲内のモル質量を有するポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)、及び/又は、荷電ユニットとして、9:1から1:9の範囲内のアクリル酸のアクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェートに対する変動モル比、及び5000~100000g/モルの範囲内のモル質量を有するポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)である場合があり得る。
【0019】
ポリマーネットワーク形成に利用される非荷電ユニットは、ペプチド配列中の反応性アミノ酸としてリシン又はシステインを含む、酵素的に切断可能な共役ペプチドを有するポリマーであり得る。これに関連して、酵素的に切断可能なペプチドは、ヒト又は細菌のプロテアーゼ、特にMMP、カテプシン、エラスターゼ、オーレオリシン及び/又は血液凝固酵素によって切断可能である場合も更にあり得る。
【0020】
本発明の第2のヒドロゲルの開発では、荷電ユニットポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)に、又はヒドロゲルネットワークへの共有結合を形成するマイケル型付加が可能な基を有するその誘導体に、アミノ基又はカルボキシル基を有する生物活性分子及び/又は接着防止分子及び/又は細胞指示ペプチド(cell-instructive peptide)を、配列においてリシン又はシステインを介して結合させることができる。この開発において、生物活性分子は、抗菌物質、例えば、抗生物質又は防腐剤、又は医薬品有効成分であり得る。加えて、接着防止分子は、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリ(2-オキサゾリン)(POX)であり得る。
【0021】
本発明の第2のヒドロゲルの上記の開発に関連して、細胞指示ペプチドが、細胞外マトリックスの構造タンパク質及び機能タンパク質に、例えば、コラーゲン、ラミニン、テネイシン、フィブロネクチン及びビトロネクチンに由来するペプチドである場合も更にあり得る。生物活性分子及び/又は接着防止分子及び/又は細胞指示ペプチドは、酵素的に切断可能なペプチド配列を介してヒドロゲルネットワークに共有結合することができる。本発明の両方のヒドロゲル材料は、好ましくは0.2kPa~22kPaの貯蔵弾性率を有し得る。
【0022】
本発明は、ポリ(アクリル酸-コ-4-アクリルアミドメチルベンゼンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンスルホン酸)及び/又はポリ(アクリル酸-コ-アクリルアミドエタンヒドロゲンスルフェート)の形態の荷電ユニット、並びにポリマーの形態の非荷電ユニットの間の物理的相互作用に基づく構成可能な物理的に架橋されたヒドロゲル材料を更に包含し、強く正に荷電したペプチド配列がポリマーに共役されており、この場合、ヒドロゲル材料の組成は、パラメーターP0、P1、P2、P3の群から選択される、荷電基保持ユニットを規定する3つのパラメーターによって構成可能である。パラメーターP0は、生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のユニット体積当たり全てのアニオン性基が30%イオン化すると仮定して、イオン化されたアニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP1は、生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のユニット体積当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数から計算された値に対応し、パラメーターP2は、繰り返しユニット当たり2.5未満の固有pKを有する強アニオン性基の数を繰り返しユニットのモル質量で割ることから計算される値に対応し、パラメーターP3は、アニオン性基の周囲の分子構造の両親媒性を説明するための値に対応する。
【0023】
物理的に架橋されたヒドロゲル材料では、強く正に荷電したペプチド配列が、リシン又はアルギニンの少なくとも10回の繰り返し、又はリシン及びアラニン又はアルギニン及びアラニンを有するジペプチドモチーフの少なくとも5回の繰り返しを含む場合があり得る。
【0024】
本発明は更に、本発明のヒドロゲル材料の1つを使用する、ヒドロゲル材料への生物活性物質の隔離及び生体液中の生物活性物質の枯渇、及び/又はヒドロゲル材料から生体液への生物活性物質の放出及びヒドロゲル材料中の生物活性物質の枯渇のためのヒドロゲル材料のための構成を決定及び提供する方法に関する。
【0025】
この方法では、物質は、物質の正味電荷と水が接触可能な物質の表面積の比から計算されるPP値に従って少なくとも2つのカテゴリーに分類され、各カテゴリーにおいて、規定のヒドロゲル構成のパラメーターの少なくとも2つの異なる値について、物質摂取値は、ヒドロゲル材料へのカテゴリーに割り当てられた試験物質の物質摂取のパーセントから、それぞれの場合に実験的に確認され、及び/又は物質放出値は、ヒドロゲル材料から生体液への試験物質の物質放出のパーセントから、それぞれの場合に実験的に確認される。少なくとも2つの実験的に確認された物質摂取値及び/又は少なくとも2つの実験的に確認された物質放出値は、それぞれ、カテゴリー固有の関数を形成するために使用され、これに基づいて、規定のパラメーターを用いて更に規定されたヒドロゲル構成の更なる物質摂取値及び/又は物質放出値が決定され、生体液中のカテゴリーに割り当てることができる任意の物質の濃度は、実験的に確認された物質摂取値及び決定された物質放出値、及び/又は実験的に確認された物質放出値及び計算された物質放出値から形成されるカテゴリー固有の回帰関数は、少なくとも0.6、好ましくは少なくとも0.7の決定係数Rを有するパラメーターの規定の値を用いてヒドロゲル材料の適切なヒドロゲル構成を選択することによって影響を受ける。
【0026】
本発明の方法により、物質放出値又は物質摂取値を実験的に決定する必要はなく、規定の物質摂取値又は規定の物質放出値におけるそのPP値に従ってカテゴリーに割り当てられることができる任意の物質の規定のパラメーター値を使用して、パラメーターP0、P1、P2、P3に従って適切なヒドロゲル構成を指定することができる。従って、本発明のヒドロゲル材料を使用すると、用途固有のヒドロゲル構成を確認し、確認された構成に従ってそれらを用途に提供することが可能である。
【0027】
生物活性物質のPP値の計算/決定は、物質の正味電荷を水溶媒が接触可能な物質の表面積で割った値から計算される。
【0028】
タンパク質系の物質の場合、全てのタンパク質構造は、Protein Data Bank(PDB、http://www.rcsb.org/)で入手できる。選択したタンパク質構造の正味電荷は、pH7の標準設定でDelphi Web Server(http://compbio.clemson.edu/sapp/delphi_webserver/)を使用して計算される。水溶媒が接触可能なタンパク質の表面積は、1.4Åの水の溶媒半径を使用して、PyMolソフトウェア(www.pymol.org)によって計算される。次いで、ユニット10-6×[1/A又はA-2]を得るために、正味電荷を水溶媒が接触可能なタンパク質表面積で割り、1000000の係数を掛けることにより、PPが計算される。非タンパク質系の物質の場合、過剰なアニオン性又はカチオン性基に対応する化学構造から導出される正味電荷と、ChemDraw 19.0及びChemAxon MarvinSketch 19.21ソフトウェアを利用してパラメーターP3を形成する方法と同様に導出された水溶媒が接触可能な分子表面積が計算される。ユニット10-6×[1/A又はA-2]を得るために、得られた値に1000000の係数を掛ける。
【0029】
本発明の文脈における物質摂取値は、物質を含む溶液からの生体液からヒドロゲル材料に取り込まれる物質の割合のパーセントを表す。物質放出値は、生体液に放出されるヒドロゲル材料内に結合した物質の割合を表す。規定の物質摂取値範囲及び規定の物質放出値範囲は、それぞれ、固定される最小物質摂取値及び固定される最大物質摂取値、又は固定される最小パーセント物質放出値及び固定される最大パーセント物質放出値を有する値の範囲を規定する。
【0030】
本発明は、物質の正味電荷と水が接触可能な表面積との比(PP値)を介して、本発明に従って計算される特定の物質特性に基づいて、物質を分類できるという驚くべき発見に基づいており、この場合、カテゴリー内の物質には、生体液中の物質の濃度に影響を与えるための、規定のパーセントの物質摂取値又は規定のパーセントの物質放出値に関して適切な様々なヒドロゲル構成を割り当てることができる。正しいヒドロゲル構成の割り当ては、カテゴリー内の各物質に適用されるため、それぞれの場合に試験物質に対して適切なヒドロゲル構成が決定される場合に十分である。従って、本発明の方法により、カテゴリー内の任意の物質について、問題の物質について特定の試験を行う必要がなく、規定のパーセントの物質摂取値又はパーセントの物質放出値について少なくとも1つのヒドロゲル構成を指定することが可能である。
【0031】
P0、P2、P3ヒドロゲル構成として、パラメーターP0、P2、P3を用いて、又はP1、P2、P3ヒドロゲル構成として、P1、P2、P3を用いて、規定のヒドロゲル構成を形成することが可能であることが好ましい。
【0032】
本発明の方法の一実行変形実施形態では、物質は、そのPP値を使用して4つのカテゴリーA、B、C、及びDに分類されることができ、この場合、カテゴリーAに割り当てられた物質は、>940のPP値を有し、カテゴリーBに割り当てられた物質は、940~128の範囲内のPP値を有し、カテゴリーCに割り当てられた物質は、128~-128の範囲内のPP値を有し、カテゴリーDに割り当てられた物質は、<-128のPP値を有する。
【0033】
物質摂取値を実験的に決定するために、及び/又は物質放出値を実験的に決定するために、0~50マイクロモル/mlの範囲内の値をパラメーターP0として、0~100マイクロモル/mlの範囲内の値をパラメーターP1として、0~10ミリモル/(g/モル)の範囲内の値をパラメーターP2として、-7から7A-2の範囲内の値をパラメーターP3として規定することができる。
【0034】
使用される試験物質は、例えば、エオタキシン、IP10、SDF1、MCP1、SGF2、ランテス、bNGF、IL-4、IL8、PGGFb、GRO-A、IL6、IL10、TNFα、IFNg、VEGF1 65MP、IL1b、GMCSF、IGFのタンパク質であり得る。
【0035】
本発明の方法では、実験的に確認されていない、即ち割り当てられた物質摂取値及び/又は物質放出値のカテゴリー固有の回帰関数を使用して、ヒドロゲル構成の少なくとも1つのパラメーターP0、P1、P2又はP3における値の範囲を確認する場合があり得る。パラメーターの値は、数学的モデルを使用して確認される。
【0036】
ヒドロゲル構成P0P1P2及び/又はヒドロゲル構成P1P2P3のパラメーターの値は、得られるヒドロゲルにおいて、1つのカテゴリーの少なくとも1つの物質がヒドロゲル材料中に結合される、又は初期濃度の50%までのみヒドロゲル材料から放出されるように選択される場合も更にあり得る。
【0037】
本発明のヒドロゲル材料は、免疫障害、癌、糖尿病、神経変性障害、クローン病、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症、喘息、関節リウマチ又は皮膚創傷、及び骨再生の場合の、血管新生の制御のための生体内での因子管理での使用を意図している。
【0038】
加えて、本発明のヒドロゲル材料は、微生物又は真核生物起源の細胞溶解物からのタンパク質の制御された精製に使用できる。
【0039】
生体外細胞培養、並びに人工多能性幹細胞(iPS)及びiPSのカテゴリーに当てはまらない他の幹細胞及び前駆細胞、患者から得られた初代細胞、固定された細胞株、並びに、心臓組織、筋肉組織、腎臓組織、肝臓組織、及び神経組織の器官培養における本発明のヒドロゲル材料の使用は、この場合、それぞれの細胞/器官が、ヒドロゲルに重合される、又はヒドロゲルの表面で培養される。
【0040】
細胞は、本発明のヒドロゲル材料において固定化されることができる。
【0041】
本発明の構成の更なる詳細、特徴及び利点は、対応する図面及び表を参照して、以下の実施例の説明から明らかになるであろう。図は、以下を示す:
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】ヒドロゲルの形成に使用されるアニオン性ユニットの化学構造、左側:様々なラジカルを有するポリアクリレート(PAA)の誘導体:R:マレイミド基及びR’=アミノメチルベンゼン-1-スルホン酸(AMBS、GB1及びGB2)又はアミノエタンスルホン酸(AES、GB3及びGB4)又は2-アミノエチルヒドロゲンスルフェート(AEHS、GB5及びGB6)、中央:Rラジカルを有するスチレンスルホネート-マレイン酸コポリマー:マレイミド基(GB7及びGB8)、右側:ヘパリン(GB9)、
図2A】本発明の方法を説明するための図、
図2B】本発明の方法を説明するための図、
図2C】本発明の方法を説明するための図、
【0043】
表1-1~1-2:
使用されたヒドロゲルユニット:表の列は左から右へ:(1)化学名、(2)略語、(3)モル質量、(4)1分子当たりのマレイミド基の数、(5)1分子当たりのアニオン性基の数、(6)1分子当たりのpKa<2.5の強アニオン性基の数、(7)ヒドロゲルユニットのパラメーターP2及び(8)ヒドロゲルユニットのパラメーターP3、
【表1-1】
【表1-2】
【0044】
表2:DMTMMによる硫酸化(スルホン化)アミンを用いたポリアクリル酸ナトリウムの硫酸化(スルホン化)におけるバッチサイズ、列(1)アニオン性荷電ユニットの名称、(2)反応物の名称:それぞれのポリマーとカルボン酸基のモル量、モル量、溶媒としてのミリポア水の体積、及び固形分に基づいて、使用される当量(eq)に関して、
【表2】
【0045】
表3:アニオン性荷電ユニットGB1とGB2、GB3とGB4、GB5とGB6、及びGB9の1H NMRスペクトル(重水中で500.13MHz)のシグナルと、それらが基づくプロトンの対応する化学シフト及び帰属、
【表3】
【0046】
表4:アニオン性荷電ユニットGB1~GB9のマレイミド化の合成条件、GB*は、それぞれの非マレイミド化アニオン性荷電ユニットを示す、
【表4】
【0047】
表5-1~5-5:
タイプ1~76のヒドロゲル材料の形成方法、及び生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料の得られる物理化学的特性、(列1):ヒドロゲル材料タイプの名称:1~76、(列2~4):ポリマーネットワーク形成のためのヒドロゲルユニット(GB1、2、3、4、5、6、7、8又は9、UGB1、UGB2、UGB3)の濃度、(列5及び6):生理的条件下でのヒドロゲル材料の膨潤の場合の相対膨潤度及び標準偏差、(列7及び8):生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料の貯蔵弾性率と標準偏差、(列10):生理的条件下で膨潤した後のアニオン性荷電ユニットの濃度、(列11):生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のパラメーターP0、(列12):生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のパラメーターP1、
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【0048】
表6-1~6-3:
生物活性物質の隔離:上の4行:(1)それぞれのヒドロゲル材料と接触させた溶液200μl中に使用される生物活性物質(ここではタンパク質)のモル量、(2)Protein Data Bank(PDB)からのファイル、3)生物活性物質の名称、(4)カテゴリーA~D、(5)生物活性物質のパラメーターPP、(6~25)ヒドロゲル材料による生物活性物質の得られる隔離、下18行:アニオン性ヒドロゲル材料の名称(ヒドロゲル材料タイプ28~52)とパラメーターP0、P1、P2、及びP3を使用したアニオン性ヒドロゲル材料の説明、及び物質摂取値(%)、平均±標準偏差、n=6、
【表6-1】
【表6-2】
【表6-3】
【0049】
表7:隔離値の線形回帰分析、(1)式の数、(2)考慮されるヒドロゲルのパラメーター、(3)考慮されるPP値(物質)、(4)物質放出値に関する関数の決定係数R
【表7】
【0050】
表8-1~8-2:
タイプ53~62のヒドロゲル材料からの生物活性物質としてのVEGF165の累積放出量(平均±標準偏差、n=6)、上段:ヒドロゲル材料タイプ、行2~5:パラメーターP0、P1、P2、P3、行7~12:3、24、48、96、168、及び240時間での物質放出値(%)、
【表8-1】
【表8-2】
【0051】
表9:IL-8を含まないUGB1/UGB3ネガティブコントロールヒドロゲル材料に移行した細胞の数に応じて様々なアニオン性荷電ユニットを有するインキュベートされたIL-8溶液に対するヒト全血からの免疫細胞の移動及び血液顆粒球の反応
(平均±標準偏差、n=5)、
【表9】
【0052】
表10:HUVECの細胞培養、行1:ヒドロゲルの種類、行2~4:パラメーターP0~P3、行6:所望の細胞形態としての管状構造の表面(平均±標準偏差、n=5)、並びに
【表10】
【0053】
表11:HK-2細胞の細胞培養、行1:ヒドロゲルの種類、行2~4:パラメーターP0~P3、行6:丸い回転楕円体(%)、行7:尖った回転楕円体(%)、行8:管状構造(%)(平均±標準偏差、n=5)。
【表11】
【発明を実施するための形態】
【0054】
アニオン性荷電ヒドロゲルユニットは、以下ではGBと略記され、異なるアニオン性荷電ユニットは、更に番号によって識別される。ヒドロゲル材料の非荷電ユニットは、UGBと略記され、様々な非荷電ユニットは、番号で識別される。簡易にするために及びスペースの都合上、表ではヒドロゲル材料はヒドロゲルと称される。ヒドロゲル材料のタイプは、表ではヒドロゲルのタイプと称される。
【0055】
図1は、ヒドロゲル材料の形成に使用されるアニオン性ユニットの化学構造を示している。左側に示されているのは、様々なラジカルを有するポリアクリレート(PAA)の誘導体である:R:マレイミド基、及びR’=アミノメチルベンゼン-1-スルホン酸(AMBS、GB1及びGB2)又はアミノエタンスルホン酸(AES、GB3及びGB4)又は2-アミノエチルヒドロゲンスルフェート(AEHS、GB5及びGB6)。中央に示されているのは、Rラジカル:マレイミド基を有するスチレンスルホネート-マレイン酸コポリマー(GB7及びGB8)である。右側に示されているのは、ヘパリン(GB9)である。ヒドロゲル材料の生成に使用されるアニオン性ユニットは、ポリアクリレート(PAA、図1を参照)、GB1~GB6、スチレンスルホネート-マレイン酸コポリマーGB7及びGB8、又はヘパリン(GB9)に基づく硫酸化又はスルホン化ポリマーである。
【0056】
表1-1~1-2は、本発明のヒドロゲル材料を生成するためのヒドロゲルユニットの例を示す。表1-1から1-2の列1から8は、左から右に以下を示す:列1:ヒドロゲルユニットの化学名、列2:本明細書で使用される略語、列3:モル質量、列4:分子当たりのマレイミド基の数、列5:分子当たりのアニオン性基の数、列6:分子当たりのpKa<2.5を有する強アニオン性基の数、列7:パラメーターP2、及び列8:ヒドロゲルユニットのパラメーターP3。
【0057】
アニオン性荷電ユニットGB1~GB6の合成
PAAに基づくアニオン性荷電ヒドロゲルユニット(GB1~GB6)は、Thompson,K.et al.J.Polym.Sci.Part A Polym.Chem.44,126-136(2006)のプロトコールにより、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)を介したアミド形成によって合成される。3つの異なる硫酸化(スルホン化)アミン、4-アミノメチルベンゼン-1-スルホン酸(AMBS、GB1及びGB2の形成用)、アミノエタンスルホン酸(AES、GB3及びGB4の形成用)、及び2-アミノエチルヒドロゲンスルフェート(AEHS、GB5及びGB6の形成用)は、ポリマー主鎖に沿った荷電基の局所的な電荷分布を変動させるために、カルボキシル基の数に基づいてそれぞれ10%又は50%の量でPAA*に共役される。GB3~GB6のアミンは、非常に類似した分子構造を有するが、GB5とGB6の場合の末端硫酸基とは対照的に、GB3とGB4の場合の末端スルホン酸基が唯一の違いである。4-アミノメチルベンゼン-1-スルホン酸の場合のスルホン酸基は、フェニル基に結合しており、これにより、アニオン性ユニットGB1及びGB2の疎水性が増加する(パラメーターP3、表1-1~1-2を参照)。
【0058】
合成のために、ポリアクリル酸ナトリウム(15kDa、水中で34.7重量%、Sigma-Aldrich、Germany)を凍結乾燥し、官能化のために、800mgの初期仕込みをミリポア水に溶解した(表2)。続いて、最初に、デシケーター内で解凍したDMTMM(TCI Chemicals、Japan)、次いで、アミン、4-アミノメチルベンゼン-1-スルホン酸(AMBS、Sigma-Aldrich)、アミノエタンスルホン酸(AES、Sigma-Aldrich、Germany)又は2-アミノエチルヒドロゲンスルフェート(AEHS、Sigma-Aldrich、Germany)を乾燥状態で添加し、それぞれの場合において、指定された量で容器をすすぐ。反応混合物を室温(RT)で一晩撹拌する。部分的に沈殿した固体をミリポア水で溶解し、溶液を、2kDaのサイズ排除(MWCO)の透析膜(ZelluTrans、Roth、Germany)にて、媒体を2回交換して1M NaCl溶液(NaCl、Fluka、Germany)に対して6時間透析し、次いで3回交換してミリポア水に対して18時間透析し、次いで凍結乾燥する。官能化の度合いを決定するために、精製した生成物を重水中で1H NMRにより分析し(BrukerのDRX500、500.13MHzで、溶媒シグナルは化学シフトの基準として機能する)、この場合、エチルプロトンは、ポリマーE及びHの内部基準とみなされ、環プロトンは、Bの内部基準とみなされる(表3を参照)。ポリマー主鎖内の3つのプロトンに対する比を使用して、官能化の度合いを計算できる。
【0059】
表2は、DMTMMによる硫酸化(スルホン化)アミンを用いたポリアクリル酸ナトリウムの硫酸化(スルホン化)のバッチサイズを示しており、列1は、アニオン性荷電ユニットの名称、列2は、反応物の名称であり、使用される当量(eq)に関しては、それぞれのポリマーとカルボン酸基のモル量、モル量、溶媒としてのミリポア水の体積、及び固形分に基づいている。
【0060】
硫酸化(スルホン化)反応の変換を分析するために、各ポリマーのプロトン核スピン共鳴分光分析(1H NMR)を行った(表3を参照)。硫酸化(スルホン化)共役体の1H NMRスペクトルは、GB3*/GB4*では2.9ppm~3.70ppmの特徴的なシグナルを示し、GB5*/GB6*では3.25ppm~4.15ppmのシグナルを示し、これは、エチル連結基の4つのプロトンに対応し、GB1*/GB2*の計算には、フェニルプロトンに基づく7.00~8.00ppmのシグナルを使用した。0.80~2.90ppmでのPAA主鎖の3つのプロトンのシグナル領域に関連する特徴的なシグナルの統合により、様々な硫酸化(スルホン化)アミンによるPAAの官能基化の度合いを決定することができた。
【0061】
表3は、アニオン性荷電ユニットGB1とGB2、GB3とGB4、GB5とGB6、及びGB9の1H NMRスペクトル(重水中で500.13MHz)のシグナルを、対応する化学シフト及びそれらに基づくプロトンの帰属とともに示している。
【0062】
アニオン性荷電ユニットGB1~GB9のマレイミド化
チオール官能化4アームポリエチレングリコール(UGB2、starPEG-SH)を使用した例でのネットワーク形成を可能にするために、それぞれのアニオン性荷電ユニット(GB1~GB9)は、1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(EDC/スルホNHS)を介して、1-エチル-3-(ジメチルアミノプロピル)-で活性化されたカルボキシル基にN-2-アミノエチルマレイミドトリフルオロ酢酸塩(マレイミド)と結合させられ、GB1~GB6の場合は約12.5個のマレイミド基、GB7及びGB8当たり9個、及びGB9当たり7個を得る(表1-1~1-2、列:マレイミド基の数を参照)。
【0063】
この目的のために、300mgのポリマーを適切な量の溶媒に溶解し、次いでスルホ-NHS(Sigma-Aldrich、Germany)を加え、次いで溶液中のEDC(Iris Biotech、Germany)を加え、混合物を氷浴にて、20分間(GB7では10分間)撹拌した後、溶解したN-(2-アミノエチル)マレイミドトリフルオロ酢酸(マレイミド、Sigma-Aldrich、Germany)をゆっくり滴下する。それぞれの場合に使用される溶媒は、氷冷したミリポア水である。反応混合物を氷浴中で更に10分間撹拌し、撹拌を室温で一晩継続する。この溶液を、2kDaのMWCO透析膜にて、媒体を2回交換して1M NaCl溶液に対して6時間透析し、次いで媒体を3回交換してミリポア水に対して18時間透析し、次いで凍結乾燥する。使用した反応混合物に関する更なる情報は、表4に見られることができる。マレイミド基の数は、重水中で1H NMRによって決定され、結果は、ポリマー主鎖のプロトン数の硫酸化(スルホン化)ポリマーのマレイミドプロトン数に対する比として、及びアセチルプロトン数のヘパリンのマレイミドプロトン数に対する比として表される(表3を参照)。官能化の度合いは、それぞれの場合において1H NMRによって決定される(表3を参照)。GB7及びGB8についてのみ、マレイミド共役の度合いがペプチド滴定法によって評価される(Atallah et al.,2018 doi:10.1016/j.biomaterials.2018.07.056を参照)。マレイミド共役は、異なるモル当量のシステイン含有ペプチドと反応し、サイズ排除クロマトグラフィーによって分析される。
【0064】
表4は、アニオン性荷電ユニットGB1~GB9のマレイミド化の合成条件を示し、この場合、GB*は、それぞれの非マレイミド化アニオン性荷電ユニットを示す。
【0065】
タイプ1~76のヒドロゲル材料の形成と架橋
本発明のヒドロゲル材料を形成するために、UGB1とともに、それぞれのマレイミド官能化されたアニオン性荷電ユニットGB1、GB2、GB3、GB4、GB5、GB6、GB7、GB8又はGB9、又はGB1、GB2、GB3、GB4、GB5、GB6、GB7、GB8、又はGB9の混合物が、マイケル型付加反応を介してチオール基とマレイミド基とを混合及び反応させることによって、チオール官能化UGB2(4アームポリエチレングリコール、チオール末端)で又はチオール官能化UGB3(4アームポリエチレングリコール、酵素的に切断可能なシステインを含むペプチド配列で末端化)で架橋される。UGB1とUGB2から形成された非荷電の基準ヒドロゲルは、タイプ52のヒドロゲル材料である。ヒドロゲルユニットの水溶液からそれぞれのヒドロゲル材料を形成するために利用されるヒドロゲルユニットの濃度は、表5-1から5-5に見られることができる。反応と共有結合ネットワークの形成は、数秒から最大1分以内に進行する。形成方法は、生理的条件(0.154ミリモルのNaCl、リン酸緩衝液でpH7.4に緩衝)下で膨潤させると、パラメーターP0及びP1の全範囲の異なるパラメーター値が得られ、同時にまた、それぞれのアニオン性荷電ユニットによって規定されるパラメーターP2及びP3の異なる変数値が得られるように選択された(パラメーターP2及びP3の値に関しては、表5-1~5-5、ヒドロゲルタイプ1~76、及び表1-1~1-2を参照)。加えて、膨潤したヒドロゲル材料の物理的特性、ヒドロゲル材料の相対膨潤度、及びヒドロゲル材料の貯蔵弾性率が、レオメトリーによって検査される。ヒドロゲル形成におけるアニオン性荷電ユニットの相対膨潤度及び濃度は、膨潤後のアニオン性荷電ユニットの濃度を確認するために使用され、これは、パラメーターの規定に従ってヒドロゲル材料のパラメーターP0及びP1を計算するために使用される。ヒドロゲル材料の剛性及び膨潤の物理化学的特性、及びパラメーターP0、P1、P2、及びP3の値は、広範囲にわたって変動させることができるため、生物活性物質の所望の隔離特性又は摂取特性及び/又は放出特性に合わせて段階的に変化させることができる(表5-1~5-5及び表1-1~1-2を参照)。
【0066】
報告されているヒドロゲル材料の貯蔵弾性率は、ゴム弾性モデル(Rubinstein et al.、2003 ISBN:9780198520597)に従って、次の式に従う6.5~23nmのメッシュサイズを与える:
【数1】

(式中、G’は貯蔵弾性率(Pa)、NAはアボガドロ定数、Rは普遍気体定数、Tは温度(ケルビン)である)。ここで論じている70kDa未満の分子サイズを有する生物活性物質は、これらのメッシュサイズを考慮すると、本発明のヒドロゲル材料の浸透に関して立体的な制限を受けるべきではない。
【0067】
ヒドロゲル材料の形成のために、ヒドロゲルユニット及び荷電ユニット及び非荷電ユニットを、リン酸緩衝生理食塩水(0.154ミリモルのNaCl、リン酸緩衝液でpH7.4に緩衝)中に表5-1から5-5に指定された濃度で溶解し、次いでピペッティング(pipetting)により激しく混合する。ヒドロゲル材料は数秒から最大1分以内に形成される。
【0068】
ヒドロゲルの物理的特性を決定するために、丸い9mmのカバースリップに疎水性コーティングが施される。コーティングにおいて、カバースリップをSigmacote(登録商標)溶液(Sigma-Aldrich、Germany)に2秒間浸漬し、濾紙上で乾燥させ、ミリポア水で濯ぎ、再度乾燥させた。アニオン性荷電ユニットと非荷電ユニットを含む溶液を、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解し、GB溶液とUGB溶液のそれぞれ33.5μlを混合し、カバースリップにピペットで移し、高さ約1mmのゲルを形成するために、更にカバースリップで覆う。1時間後、カバースリップを取り外し、リン酸緩衝生理食塩水中で(更にPBS中で)一晩膨潤させる。貯蔵弾性率を決定するためのレオロジー検討(Ares LN2、TA Instruments、United Kingdom)は、室温で平行プレート間測定配列(parallel plate-plate measuring arrangement)を使用し、周波数を1から100ラジアン/秒に増加させ(わずかな変形あり(2%)、膨潤ヒドロゲルの8mmの打ち抜き試料を使用して実施した。三重の判定が行われ、それぞれの場合において周波数範囲全体にわたって貯蔵弾性率の平均が求められる。損失弾性率は、それぞれの場合で数桁小さくなる(データは示されず)。相対的な体積の膨潤を決定するために、膨潤したゲルディスクをレーザースキャナー(Fujifilm FLA-5100)を利用して画像化し、直径を決定する。次の式
【数2】

を使用して相対膨潤度を決定し(表3を参照)、この場合、d0は、膨潤していないゲルディスクの初期直径に対応し、dは、PBS中で24時間膨潤させた後の直径に対応する。
【0069】
表5-1から5-5は、タイプ1から76のヒドロゲル材料の形成方法、及び生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料の得られる物理化学的特性を示している、列1:ヒドロゲル材料のタイプの名称:1~76、列2~4:ポリマーネットワーク形成における反応混合物中のヒドロゲルユニットの濃度(GB1、2、3、4、5、6、7、8又は9、UGB1、UGB2、UGB3)、列5及び6:生理的条件下でのヒドロゲル材料の膨潤の場合の相対膨潤度及び標準偏差、列7及び8:生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料の貯蔵弾性率及び標準偏差、列10:生理的条件下で膨潤した後のアニオン性荷電ユニットの濃度、列11:生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のパラメーターP0、列12:生理的条件下で膨潤したヒドロゲル材料のパラメーターP1。
【0070】
マルチプレックスイムノアッセイによるタイプ28~52のアニオン性荷電ヒドロゲルにおける生物活性物質の隔離の特性評価
生物活性物質の規定の混合物、即ち、異なる荷電特性を有する生物医学的に重要なタンパク質系のシグナル伝達分子の混合物は、タイプ28~51の一連の異なるアニオン性荷電ヒドロゲル材料と、タイプ52の非荷電基準ゲルを用いた対応する結合の検討で使用される(表5-1~5-5を参照)。組換えタンパク質(複数のProcartaPlex Simplex protein standards,cat.no.:EPX01A-xxxx-901 Thermo Fisher Scientific,USAで再構成された)を、0.44~12.25ng/mlの範囲内の生物学的関連性の様々な濃度で1%BSA及び0.1%Proclin(Sigma-Aldrich、Germany)を含むPBSに溶解する。10μlの各ゲルタイプ(n=3)を250μlのタンパク質混合物を用いて24時間インキュベートし、次いで、Bioplex 200(Biorad,USA)を使用して、ProcartaPlex Simplex Multiplex kits(ThermoFischer,USA)を用いて、上清中のサイトカイン濃度を分析する。対照実験として、ヒドロゲル材料を含まない溶液が使用され、ヒドロゲル材料によって隔離された、即ち取り込まれたタンパク質のパーセントを決定するために、インキュベーション後、検出されたタンパク質の量が、ヒドロゲル材料を含む溶液中のタンパク質の量と比較される。隔離検討の結果を、表6-1~6-3に示す。
【0071】
表6-1~6-3は、生物活性物質の隔離を示している:上の4行:(1)それぞれのヒドロゲル材料と接触させた溶液200μl中の使用された生物活性物質(ここではタンパク質)のモル量、(2)Protein Data Bank(PDB)からのファイル、(3)生物活性物質の名称、(4)カテゴリーA~D、(5)生物活性物質のパラメーターPP、(6~25)ヒドロゲル材料による生物活性物質の得られた隔離、下の18行:アニオン性ヒドロゲル材料の名称(ヒドロゲル材料タイプ28~52)及びパラメーターP0、P1、P2、及びP3を使用したアニオン性ヒドロゲル材料の記載、並びに物質摂取値(%単位、平均±標準偏差、n=6)。
【0072】
表6-1~6-3の結果を使用して、そのPP値に応じて物質を4つのカテゴリーA、B、C、及びDに分類し、この場合、カテゴリーAに割り当てられる物質は、PP値が940を超え、カテゴリーBに割り当てられる物質は、PP値が940から128の範囲内にあり、カテゴリーCに割り当てられる物質は、PP値が128から-128の範囲内にあり、カテゴリーDに割り当てられる物質は、PP値が-128未満である。
【0073】
続いて、統計解析ソフトウェアJMP(SAS Institute)によって、物質摂取のそれぞれのパーセント(y値として)と、ヒドロゲルのパラメーターP0又はP1及びP2及びP3と物質のPPの値の間の線形回帰分析を最小二乗法によって実行する。
【0074】
線形回帰分析の目的は、次の式1に示されるように、物質摂取におけるP0又はP1及びP2及びP3の影響を数学関数で記述することである:
【数3】

y=物質摂取、
α=軸切片、
C=係数。
【0075】
実験的隔離試験の結果(例えば、全ての物質、又は1つのカテゴリーA又はB又はC又はDの物質のみ)は、それぞれの物質摂取値(%)と、P0又はP1、P2、P3、及びPPの対応するパラメーター値(表6-1~6-3を参照)からなる値の対として回帰分析に導入され、式1で上記に示されるように数学的相関(関数)が形成される。軸切片の数値(定数として)とパラメーター項の係数は、関数式に基づいて確認された物質摂取値と、値の対でインポートされた実験結果を繰り返し比較することによって確認される(表6-1から6-3)。予測値と測定値の差は、残差と称される。最小二乗法の使用は、繰り返し法において、関数式に基づいて確認された物質摂取値と実験的に決定された物質摂取値とを比較し、実験的物質摂取値と関数によって計算された物質摂取値との差を二乗し、これらの二乗差の和を最小化することにおいて、軸切片及び係数の値を決定する。
【0076】
図2Aは、最小二乗法がJMPソフトウェアでどのように表示及び評価されるかを示している。測定された値(y軸)は、関数によって予測された値(x軸)に対してプロットされる。各点は、モデルが基づく詳細な実験の1つを表しており、理想的には全ての点が、赤い線(y=x)上にある必要がある。各点が赤い線から離れるほど、この特定の実験点の残存量が高くなる。Rsq(R)は、モデルの品質を評価するために使用される。モデルが正確であればあるほど、残差は低くなり、決定係数は高くなる、Rsq値(0~1)。
【0077】
合計10回の回帰分析が実行され、表7に示されている選択されたパラメーター及び物質に従って、それに示されている決定係数Rが得られる。
【0078】
関数の重み付けには、対応するパラメーターP0又はP1並びにP2及びP3、及びPPがある。各関数について、個々のパラメーターの線形寄与及び又パラメーター間の二次効果が考慮される。示されている式では、有意な寄与のみが考慮される(p<0.01)。
【0079】
式2は、例として、カテゴリーAの物質摂取に対するP0、P2、及びP3の顕著な寄与を示している。これにより確認された関数は、物質摂取とパラメーターの間の相関関係を説明しており、従って規定のパラメーター値P0又はP1、P2、P3、及びPPに応じた新しい物質摂取値の予測にも利用できる。特定の生物活性物質、及びそれに対応して離散値PPを考慮すると、任意の物質隔離値又は物質摂取値について、特定のアニオン性荷電ヒドロゲル材料の構成における異なるパラメーターの組み合わせP0又はP1及びP2及びP3を導出することも可能である。従って、全体として、あらゆる隔離特性を予測し、材料の特性の新しい組み合わせを開発及び予測することが可能である。
【0080】
式2:カテゴリーAの物質のP0、P2、及びP3:
【数4】
【0081】
これらの予測は、JMP(登録商標)ソフトウェアを使用して以下の通り可能である:式(ここでは式2の例で示される)について、X軸上の変数として1つのパラメーターのみを考慮し、他のパラメーターにおいて一定値が固定された4つの場合が示される(図2B参照)。従って、1つのパラメーターに応じて、他の3つのパラメーターの所定の値を使用して、最小から最大までの全ての物質摂取値を確認することが可能である。例えば、値P0については、左側の図2Bを参照されたい。
【0082】
加えて、2つの変数パラメーターの相互の依存性を考慮することもできる。これは、図2Cに示されるように、それに対応して2つのパラメーターに応じた物質摂取値の2次元図である。一定の物質摂取値の線(等値線と称される)が得られ、領域には2つの一定のパラメーターが含まれる。3つのパラメーターの場合、2つの可変パラメーターの積み重ねられた領域から形成される立方体(いずれの場合も、立方体の軸に沿った1つの可変パラメーターと1つの定数パラメーター)が結果である。離散PPを有する物質の場合、結果は、それに対応して可変パラメーターP0又はP1並びにP2及びP3を有する立方体である。
【0083】
式1:カテゴリーAの物質のP0、P2、及びP3:
【数5】
【0084】
式2:カテゴリーBの物質のP0、P2及びP3:
【数6】
【0085】
式3:カテゴリーCの物質のP0、P2及びP3:
【数7】
【0086】
式4:カテゴリーDの物質のP0、P2及びP3:
【数8】
【0087】
式5:カテゴリーA~Dの物質のP0、P2及びP3:
【数9】
【0088】
式6:カテゴリーAの物質のP1、P2及びP3:
【数10】
【0089】
式7:カテゴリーBの物質のP1、P2及びP3:
【数11】
【0090】
式8:カテゴリーCの物質のP1、P2及びP3:
【数12】
【0091】
式9:カテゴリーDの物質のP1、P2及びP3:
【数13】
【0092】
式10:カテゴリーA~Dの物質のP1、P2及びP3:
【数14】
【0093】
ヒドロゲルからの成長因子VEGF165の放出
ヒドロゲル材料は、表5-1~5-5に規定されている混合物に従って生成される。10μlの前駆体溶液を混合し、同時にチューブ内でタンパク質結合が低い100ngの組換えヒトVEGF165(38.2kDa、Peprotech、Germany)と架橋させた。ヒドロゲル材料を室温で、0.1%BSA及び0.05%ProClin300とともに無血清のダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco Life Technologies、US)300μl中に置き、3、6、24、96、168及び240時間後、培地を除去、収集し、-80℃で保存し、新しい培地と交換する。放出されたタンパク質VEGFの量は、製造業者のプロトコールに従って、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA、DuoSet kit,R&D Systems,USA)によって除去時間ごとに定量される。
【0094】
それぞれのヒドロゲル材料からの成長因子VEGF165の長期放出に対するアニオン性荷電ヒドロゲル材料のパラメーターP0、P1、P2、及びP3の影響を、240時間(10日間)の期間にわたって分析した(表7を参照)。
【0095】
結合実験で使用されたヒドロゲル材料と同様に、VEGF165は、同様の機械的特性(2~4kPaの範囲内の貯蔵弾性率)を有するヒドロゲル材料から放出されたため、メッシュサイズは、自由なタンパク質輸送を可能にするのに十分な大きさであった。選択されたヒドロゲル材料の特性は、35~63マイクロモル/mlの範囲内のパラメーターP0で表される、比較的高い濃度のアニオン性荷電基(ユニットではない)と、非常に可変性の積分硫酸濃度(P1)、局所硫酸(スルホネート)密度(P2)、及びアニオン性ユニットの両親媒性(P3)を有するように設計された。全てのヒドロゲル材料は、最初の24時間以内にVEGF165の初期の急速な放出を示し、その後240時間にわたって実質的に一定で段階的な直線的な放出プロファイルが続いた。PEG/PEGヒドロゲル材料は、アニオン性荷電ユニットがないため、10日間の検討の終わりに55%の放出という最も高いVEGF165放出を示した。
【0096】
表8-1~8-2は、タイプ53~62のヒドロゲル材料からの生物活性物質としてのVEGF165の累積放出を示している(平均±標準偏差、n=6)、上段:ヒドロゲル材料のタイプ、行2~5:パラメーターP0、P1、P2、P3、行7~12:3、24、48、96、168、及び240時間での物質放出値(%)。
【0097】
アニオン性ヒドロゲル材料の最も高いVEGF165放出は、GB2-UGB3タイプ54で32.8%のタンパク質放出で達成され、続いてGB4-UGB3タイプ56 E50で240時間後に26.9%の放出が達成された(表7を参照)。この結果は、結合とは逆に、低いパラメーターP2(特定の電荷相互作用に重要な局所電荷密度)と低いパラメーターP3(従って親水性アニオン性ユニット)がVEGF165の放出を促進することを示している。
【0098】
物質IL-8の段階的隔離に応じた免疫細胞の移動
前駆体溶液の1:1混合物(表5-1~5-5、GB2-UGB3 63~UGB1-UGB3 66を参照)を24ウェルプレートの底面にピペットで移し、テフロンフィルムで平らにしてウェルの底を覆う薄いゲル層を生成する。ヒドロゲル層をクリーンベンチ下で20分間UV照射して滅菌し、滅菌した1%BSAで1時間インキュベートし、次いでPBSで洗浄する。次いで、ヒドロゲルを850μlのIL-8溶液(0.1%BSAを含むRPMI 1640培地(Gibco,Life Technologies,USA)中0、10又は100ng/mlIL-8)中で24時間インキュベートする。健康なヒト被験者から新鮮な全血を採取し、血液をヒルジン(Refludan 1μM(Celgene Munich、Germany)で抗凝固処理する。次いで、200μlの血液を、基部においてヒドロゲル層及びIL-8溶液を含む懸濁されたトランズウェルインサート(8μm、PET、Merck Millipore)に導入し、37℃で2時間インキュベートする。移動した細胞をウェルから取り出し、RPMIで洗浄する。フローサイトメトリーでは、細胞を、室温、暗所でPE標識された抗ヒトCD15抗体(BioLegend、USA)で30分間染色する。各ヒドロゲル条件について、CD15+移動顆粒球の量を、RPMIにてインキュベートされたPEGヒドロゲルに対して標準化する(-veコントロール)。
【0099】
多層プロセスによって生じる過剰な炎症の治療戦略は、ケモカインなどのエフェクター分子を破壊することである。炎症中に、ケモカインは、病原体及び損傷を認識して制御するために、免疫細胞を選択的に補充して活性化する。しかしながら、ケモカインの過剰発現は、免疫細胞の制御不能な流入につながる可能性があり、これにより更に多くのケモカインを含む更なる炎症メディエーターの生成が促進され、最終的には長期にわたる又は慢性的な炎症につながる。インターロイキン8(IL-8)は、感染部位での免疫細胞の補充を担い、免疫細胞の経内皮移動に関与し、多くの炎症疾患に関与し(Gerard et al.,2001,doi:10.1038/84209)、慢性的な傷に関与している(Kroeze et al.,2012 doi:10.1111/j.1524-475X.2012.00789.x)。
【0100】
アニオン性荷電ヒドロゲル材料によるパラメーター依存性のケモカインの隔離の生物学的に適切な使用を評価するために、IL-8の化学誘引機能を、生体液としてヒト全血を使用する現実的な遊出アッセイで検査し、この場合、顆粒球と称される特定の免疫細胞は、炎症時に走化性によりIL-8の活性化に反応することが知られている(REF)。UGB2及びGB2又はGB7(タイプ63及び64)の薄いヒドロゲルフィルムにてプレインキュベートされた培地にIL-8を添加すると、IL-8の隔離に対するこれらのヒドロゲルの有効性が示され、これは、顆粒球の遊出が最小限に抑えられることで実証された(表8-1~8-2を参照)。生物学的に適切な2つの濃度のIL-8(10及び100ng/ml)で、これらのヒドロゲルは、UGB1/UGB3ポジティブコントロールのヒドロゲル(タイプ66)と比較して、顆粒球移動活性の有意な阻害を示した(有意値p<0.0001)、表8-1~8-2を参照されたい。実際、これら2つのヒドロゲル材料の場合、移動する顆粒球の数は、IL-8に曝露されていないUGB1/UGB2ヒドロゲル(ネガティブコントロール)の場合と同じくらい少なく、これは、高いIL-8濃度範囲にわたって、ヒドロゲル内でIL-8を消去及び保持する比類のない能力を示唆している。
【0101】
対照的に、GB9ヒドロゲル材料は、10ng/mlで顆粒球の移動をわずかに減少させるだけであり(ただし有意ではない)、100ng/mlでは移動の阻害は示されなかった。更に、アニオン性荷電ユニットに基づく他のヒドロゲル材料はいずれも、顆粒球の移動特性に有意な影響を示さなかった。立体的に接触可能なヒドロゲルネットワーク内のケモカイン消去成分GB7及びGB2は、優れたIL-8結合と顆粒球抑制作用を示したが、その理由は、ネットワーク内のアニオン性荷電密度(全体的にはP1、局所的にはP2)が高いからというだけではなく、また、静電的な相互作用だけでなく、疎水的な相互作用によってタンパク質の相互作用を安定させることができるからであり、IL-8とその受容体(IL-8r1)との相互作用と同様である(Clubb et al.,1994 doi:10.1016/0014-5793(94)80123-1)。これらの結果は、回帰分析からの予測値と一致している。
【0102】
表8-1~8-2は、IL-8を含まないUGB1/UGB3ネガティブコントロールヒドロゲル材料に移動した細胞数に対する、ヒト全血からの免疫細胞の移動、及び様々なアニオン性荷電ユニットとインキュベートされたIL-8溶液に対する血液顆粒球の反応を示している(平均±標準偏差、n=5)。
【0103】
細胞培養:HUVEC形態形成
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、以前に記載されているように(Weis et al.、1991 doi:10.1016/0049-3848(91)90245-r)、単離され、5%CO2、37℃で湿らせたインキュベーター内で、フィブロネクチンで被覆された75cm培養フラスコにて、サプリメントミックス(supplement mix)(Promocell、Germany)と1%ペンストレプトマイシン溶液(pen-strep)(Sigma-Aldrich、Germany)を含む内皮細胞増殖培地(ECGM、Promocell、Germany)において培養される。80%のコンフルエントに達した後、細胞を0.5%トリプシン-EDTA溶液(Sigma-Aldrich,Germany)で剥離し、回収し、1000rpmで遠心分離し、更に使用するまで適切な密度で再度播種する。全ての実験のために、通路2-6からの細胞が使用される。HUVEC細胞培養実験は、Limasale et al.2020(Limasale,et al.,2020doi:10.1002/adfm.202000068)に従って実行される。実験的評価のために、HUVECは、ヒドロゲルに埋め込まれる前に、製造業者のプロトコールに従って、細胞質トレーサーカルボキシフルオレセインジアセテート、スクシンイミジルエステル(CFDA-SE)(Vybrant(登録商標)CFDASE Cell Tracer Kit、Thermo Fischer Scientific、USA)で染色される。
【0104】
架橋剤分子UGB3及びマレイミド化荷電ユニットGB1~GB9を、HUVEC培地(表5-1~5-5、GB7-UGB3 67~UGB1-UGB3 69)に溶解し、次いで接着ペプチドCWGGRGDSP(cRGD、990g/モル)を2:1のモル比で荷電ユニットに添加した。その後、ポリマー-RGD混合物を最終濃度20μg/mlにてVEGF165(PeproTech、USA)で官能化し、同量のHUVEC懸濁液を添加した。この溶液とUGB3を体積比1:1で、20μlのヒドロゲル材料滴を8ウェルチャンバー(Ibidi、Germany)としての疎水性μスライドにピペットで移す。その場での(in situ)架橋後、ゲルを直ちに細胞培養培地に置き、3日目に共焦点DragonFly Spinning Disc顕微鏡(Andor、Oxford Instruments、United Kingdom)を用いて検査する。3Dにおける管状構造の形成の度合いを定量化するために、フィラメントトレーサーモジュールを使用してImarisソフトウェア(バージョン9.2.1、Bitplane AG、Switzerland)を用いて厚さ100μmのz層を分析した。閾値アルゴリズムを使用して、CFDA-SE細胞染色から管状構造の3D画像を作成する。これらの画像は、血管の総面積を計算するために使用される。
【0105】
HUVEC細胞培養実験の結果を表9に示す。アニオン性荷電ユニットを有さないヒドロゲル材料(UGB1~UGB3 69)は、最小限のセル拡張を示した。管状構造の総面積は、GB7(GB7-UGB3 67)及びGB9(GB9-UGB3 68)を有するヒドロゲルの場合の方が大きかった。正しいヒドロゲル材料パラメーターの選択の相乗効果により、HUVECの形態形成及び管の形成を刺激するためにVEGF165の制御された放出が可能になった。
【0106】
表10は、HUVECの細胞培養を示す、行1:ヒドロゲルのタイプ、行2~4:パラメーターP0~P3、行6:所望の細胞形態としての管状構造の表面(平均±標準偏差、n=5)。
【0107】
細胞培養:HK-2細管形成
HK-2(ヒト腎臓細胞-2)を用いた細胞培養実験は、Weber et al.,2017 doi:10.1016/j.actbio.2017.05.035に基づいて実行される。HK-2細胞(American Type Culture Collection、ATCC、#CRL-2190)は、10%ウシ胎児血清(FBS、Biochrom、Germany)及び1%ペンストレプトマイシン溶液(Sigma-Aldrich、Germany)を含むDMEM/F-12培地(Gibco、Life Technology、USA)において培養される。2D及び3D培養の培地は2日おきに交換する。継代11~20の細胞を使用し、3D培養物を3週間培養する。
【0108】
ヒドロゲル成分を、1%ペンストレプトマイシン溶液を含むPBSに溶解し、HK-2細胞(総体積の4分の1に懸濁)と総体積の4分の1に溶解したマレイミド化ポリマーを混合する(GB3-UGB3 70からUGB1-UGB3 76)。細胞濃度は、2.5×106細胞/mlであり、50000細胞/20μlのゲルに対応する。架橋剤分子UGB3を総量の半分に溶解し、2つの前駆体溶液に混合し、20μlのヒドロゲル液滴を、SigmaCote(登録商標)を備えた6mmガラスプレートにピペットで移す。
【0109】
免疫組織化学では、試料をまず4%パラホルムアルデヒドで20分間固定し、PBSで2回洗浄し、次いで免疫染色する。試料を、0.5%Triton X-100を含むPBS中で0.1%BSAで1時間ブロックし、一次抗体(マウス抗β-カテニン、1:100、BD Transduction Laboratories、USA)を用いて4℃で一晩インキュベートする。PBS/0.1%Triton X-100/0.1%BSAで3回洗浄した後、二次抗体(Alexa Fluor 488ヤギ抗マウス(goat anti-mouse)、1:200、Invitrogen、USA)を添加し、室温で1時間インキュベートする。アクチン及びロータステトラゴノボラスレクチン(LTL)染色の場合、二次抗体とのインキュベーション中に、Atto 550ファロイジン(1:50、Sigma-Aldrich、Germany)又はフルオレセイン標識LTL(1:500、Vector Laboratories、USA)が添加される。続いて、試料を洗浄し、色素DRAQ5(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いて20~30分間インキュベートする。蛍光画像は、共焦点DragonFly Spinning Disc顕微鏡で記録される。
【0110】
形成されたチューブ構造の数と長さを定量化するために、細胞を固定した後、各ヒドロゲルの単相4×EDFコントラスト画像が撮影される。記録された画像における全ての細胞集合体は、Image Jソフトウェアでカウントされる。コロニーは、丸い回転楕円体、尖った回転楕円体、又は管状構造体に分類される。長さと直径の比が5より大きい場合、それらは管状と称される。コロニーに複数の突起/管状突出物がある場合、各コロニーについて最長のものを評価し、残りは無視する。直径は細管に沿って異なるため、2~3つの領域を測定して平均する。形成された管状構造の数は、細管を形成するコロニーのパーセントとして決定される。全ての細管コロニーの絶対的な細管長は、Image Jソフトウェアで評価される。
【0111】
三次元生体外組織モデルにおけるアニオン性イオン化ユニットに基づくヒドロゲルの可能な応用を実証するために、HK-2細胞をヒト腎細管形成モデルとして3Dで培養した。HK-2細胞は、有利なマトリックス条件下で極性管を形成できるヒト腎近位細管細胞株である。我々はすでに、近位腎細管形成を刺激し、生体内でヒト細管と同等の方法で同じ形態及び構造を有する管状構造を形成する、堅牢で調整可能なマトリックスとしてのstarPEG-hepヒドロゲルについて報告している(Weber et al.,2017 doi:10.1016/j.actbio.2017.05.035)。
【0112】
腎細管形成のためのアニオン性荷電ユニットに基づいてヒドロゲル材料の特性を検査し最適化するために、3つのポリマーGB7、GB3、及びGB4が選択された。ヒドロゲル材料のマレイミド化ユニット内のポリマーの異なる濃度(2%、20%、及び100%)の影響も同様に試験した。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)と称される細胞分泌酵素によるマトリックスの細胞応答性再構築を可能にするために、様々なアニオン性荷電ユニットがUGB3で架橋された。分解性ヒドロゲル材料は、同様の剛性500Paを有するように調整された。すでに報告されているように(Weber et al.,2017 doi:10.1016/j.actbio.2017.05.035)、使用したポジティブコントロールは、GB9-UGB3ヒドロゲルであり、一方、UGB3ヒドロゲルを有する非硫酸化UGB1を、ネガティブコントロールとして使用した。コロニーを数え、細管形成の段階(丸い回転楕円体、付属物を備えた回転楕円体(「尖った回転楕円体」)又は管状構造)に従って分類することにより、細管形成の度合い及び平均管長に関して評価した。コロニーは、長さと直径の比が5:1以上である場合、管状構造として分類された。
【0113】
GB9ヒドロゲル材料は、平均13±7%の細管コロニーを示したが、UGB1~UGB3ヒドロゲルは、予想どおり細管形成を促進せず、細管コロニーは観察されなかった。GB9ヒドロゲルと同様の方法で、GB7(マレイミド化荷電ユニット2%を含む、GB7-UGB1-UGB3 74)及びGB3(100%を含む、GB3-UGB3 70)は、それぞれ、19±8%及び14±11%で管状コロニーを示した。興味深いことに、ヒドロゲル材料中のGB7濃度が2%よりも高いと、HK-2細胞のアポトーシスが引き起こされ、これは、GB7が、高濃度で、タンパク質を消去し従って重要な栄養素の細胞を奪う培地中の必須タンパク質に対して高い親和性を有することを示している。GB3の高度にスルホン化された類似体はGB4であり、そのヒドロゲル材料は、濃度100%(GB4-UGB3 72)及び20%(GB4-UGB1-UGB373)の両方で尿細管形成が低いだけであり(それぞれ、4±7%及び2±3%)、これは、腎細管形成を制御するためにマトリックスの電荷を一致させることがいかに重要であるかを示している。更に、一部の疾患では、生体内での近位細管の形態に類似した構造があり、HK-2細胞は、側底膜に沿ってβ-カテニンを発現する内腔を有する球状体を形成した。最も有望なマトリックス条件、GB9(GB9-UGB3 75)、GB7 2%(GB7-UGB1-UGB3 74)、及びGB3 100%(GB3-UGB3 70)ヒドロゲル材料では、平均管長は、それぞれ140μm、176μm及び173μmで同等であった。アニオン性でイオン化可能なヒドロゲル材料の管状構造は、頂端マーカーとして近位細管に特異的なロータステトラゴノロバスレクチン(LTL)と側底マーカーとしてβ-カテニンの両方に結合したため、ヒドロゲル中の管状構造体が、報告された3次元培養においても分化した表現型とその極性を維持したことが確認された。要約すると、アニオン性荷電ヒドロゲルは、ヘパリンに基づく十分に確立されたヒドロゲルモデルに匹敵する腎細管形成にとって有利なマトリックスを提供し、同様の形態及び構造を有する分極した細管構造を作成したと言うことができる。
【0114】
表11は、HK-2細胞の細胞培養から得られた結果を示している、行1:ヒドロゲル材料のタイプ、行2~4:パラメーターP0~P3、行6:丸い回転楕円体(%)、行7:尖った回転楕円体(%)、行8:管状構造(%)(平均±標準偏差、n=5)。
【0115】
統計分析
全ての統計は、GraphPad Prism 5(GraphPad Software Inc.)を使用して実行された。全ての値は、少なくとも3つの独立した試料の平均±標準偏差として報告される。記載されている場合、統計分析は、一要因分散分析(ANOVA)を使用して実行され、その後、信頼区間95%のTukey事後検定(Tukey post-hoc test)が行われた。
図1
図2A
図2B
図2C
【国際調査報告】