(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】時間次元を有する光学的セキュリティ特徴を用いて製品をマーキングする方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/378 20140101AFI20231130BHJP
【FI】
B42D25/378
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529046
(86)(22)【出願日】2021-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2021082595
(87)【国際公開番号】W WO2022112209
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】102020131382.9
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595014653
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツール フエルデルング デア アンゲヴァンテン フォルシュング エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】ヨッフム トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ニーハウス ヤン
【テーマコード(参考)】
2C005
【Fターム(参考)】
2C005HA04
2C005HB15
2C005JB11
(57)【要約】
本発明は、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムにおける情報を記憶するため、並びに文書セキュリティのための、2種以上のインク配合物を使用して製品をマーキングする方法であって、これらのインク配合物はそれぞれが光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつ異なる蛍光寿命によって区別される1種以上のフォトルミネッセンス色素を含有する方法に基づく。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を標識する方法であって、
2種以上のインク配合物を提供する工程であって、前記インク配合物はそれぞれが光子励起下で380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の放射線を放出する1種以上のフォトルミネッセンス色素、好ましくは1種のフォトルミネッセンス色素を含有し、前記インク配合物は、前記フォトルミネッセンス色素の異なるフォトルミネッセンス寿命によって異なる工程と、
製品を識別するための多次元コードを生成する工程であって、少なくとも1つの次元、好ましくは2つの次元が空間次元であり、1つの次元が、前記フォトルミネッセンス色素の前記フォトルミネッセンス寿命に基づいた時間次元である工程と、
前記インク配合物を前記製品の表面の少なくとも1つの領域に前記多次元コードの形態で印刷する工程と、
前記インク配合物で印刷された前記製品に光子を照射する工程と、
380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の照射された前記製品によって放出される放射線、及び1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたるこの放射線の時間的経過を検出する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記多次元コードは、3次元、4次元又は5次元のコードである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多次元コードは、さらなる次元として、前記フォトルミネッセンス色素の発光スペクトルにわたる色コードを含む請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記多次元コードは、さらなる次元として、前記色素の吸収色にわたる色コードを含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記インク配合物は、前記製品の表面上に並べて別々に印刷され、任意選択で互いの上に印刷され、前記多次元コードが生成される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記インク配合物中の前記フォトルミネッセンス色素の前記フォトルミネッセンス寿命は、1ナノ秒~1分の範囲、好ましくは1ナノ秒~1秒の範囲、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒の範囲、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の範囲で異なる請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記多次元コードは、1つ又は複数のパターン、例えば領域、縞模様、線、幾何学的図形、例えば円、三角形、矩形、多角形等、英数字、又はこれらの組み合わせを含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記多次元コードを少なくとも1つのデータベースに記憶する工程、
前記多次元コードを前記データベースから検索する工程、及び
前記コードを検出されたコードと照合して、前記製品を検証又は認証する工程
をさらに含む請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記インク配合物は、例えば束、外側包装、パレットから選択される、前記製品を含む包装群の表面の少なくとも1つの領域に前記多次元コードの形態でさらに印刷される請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記インク配合物は、前記多次元コードの形態で製品表示(タグ)、バーコードカード及びバーコードラベルに印刷される請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記多次元コードは一意多次元コードであり、好ましくは、前記一意多次元コードを生成するために、前記製品の少なくとも1つの参照量が、一意キーを使用して暗号化される請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記インク配合物は、デジタル印刷を使用して前記製品の表面の少なくとも1つの領域に印刷される請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記インク配合物で印刷された前記製品は、励起のために紫外光、可視光又はNIR光で照射される請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
放出された前記放射線の2つ以上の画像及び/又はスペクトルが、検出期間中の所定の時間に測定される請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記フォトルミネッセンス色素は、有機色素及び/又は無機色素から選択される蛍光色素、好ましくは半導体無機ナノ結晶、最も好ましくはペロブスカイト、I-VI半導体、II-VI半導体、III-V半導体、IV-VI半導体、I-III-VI半導体、カーボンドット及びこれらの混合物からなる群から選択される半導体無機ナノ結晶を含む請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記フォトルミネッセンス色素は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、マンガン、ケイ素及び希土類金属のドープされた酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、セレン化物、ハロゲン化物、ケイ酸塩及びアルミン酸塩、並びにこれらの混合物、好ましくはカルシウム、ストロンチウム、バリウム及び亜鉛のドープされた硫化物及びアルミン酸塩、特に好ましくはビスマスでドープされた硫化カルシウム/ストロンチウム、銅でドープされた硫化亜鉛、ユウロピウムでドープされたアルミン酸ストロンチウムから選択される燐光色素を含む請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記フォトルミネッセンス色素は、反ストークス色素を含む請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記インク配合物中の前記フォトルミネッセンス色素の割合は、互いに独立して、それぞれのインク配合物の総重量の0.01~70.0重量%、好ましくは0.05~40.0重量%、最も好ましくは0.09~30.0重量%である請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
放出された前記放射線は、個々の時間依存的フォトルミネッセンススペクトルを与え、前記時間依存的フォトルミネッセンススペクトルは分光計を用いて検出される請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつフォトルミネッセンス寿命が異なる2種以上のフォトルミネッセンス色素を含む多次元コードの形態の、製品の少なくとも1つの表面領域にある光学的時間依存性セキュリティ特徴。
【請求項21】
製品監視及び/又は文書セキュリティのためのサイバーフィジカルシステム(CPS)としての請求項20に記載の光学的時間依存性セキュリティ特徴の使用。
【請求項22】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の製品に印刷された多次元コードを含む光学的時間依存性セキュリティ特徴を含むシリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステム。
【請求項23】
シリアル化システム及び/若しくはトラック・アンド・トレースシステムにおける、並びに/又は文書セキュリティのための光学的時間依存性セキュリティ特徴としての、請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の製品に印刷された多次元コードの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記憶、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステム、並びに文書セキュリティのために2種以上のインク配合物を使用して製品をマーキングする方法であって、これらのインク配合物はそれぞれが光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつフォトルミネッセンス寿命が異なる1種以上のフォトルミネッセンス色素を含有する方法に基づく。
【背景技術】
【0002】
製品偽造は、数千億米ドルの世界的な経済的損失を引き起こす。ヨーロッパ単独では、製品偽造は、800億ユーロを超える経済的損失を引き起こす。偽造品の範囲は膨大である。化粧品、時計、タバコ及び医療製品はますます偽造されている。製薬産業及びタバコ産業は、EUの要求(2011/62/EU及び2014/40 EU)により、それらの製品を監視するために、2019年にシリアル化システムを導入した。このプロセスでは、各製品パッケージは、特別な一意コードを備え、これは中央データベースに記憶される。いくつかの問題のあるシナリオがプロセスにおいて生じる。
・データベースをハッキングする。第三者によるハッキングから完全に保護できるITシステムはないことに留意することが重要である。ハッカーは、自身のコードを中央データベースに保存/追加するか、又は他の会社の一意コードと合致させることができる。従って、どの製品が偽造品でありどの製品が原品であるかを検証することはもはや不可能である。
・コードを第三者に渡す。一意コードは、人員によって第三者に渡すことができる。次いで、その第三者は、そのコードを偽造製品に印刷することができ、その結果、その偽造製品は、データベースに従って「真正」と見なされる。
・コードを別のパッケージに転送する。コードが原品のパッケージングから複製パッケージングに移され、原品のパッケージングが廃棄されると、偽造調製物を真正品として販売することができる。この不正行為は、データベースシステムが、手元の製品が偽造品ではないことを確認するため、追跡することが困難である。このリスクシナリオは、例えば、盗まれた製品/医薬品の再パッケージングにおいて、及びインターネット上の製品又は密輸品における違法な取引の場合に考えられるであろう。
【0003】
これら3つの重要な点のために、「サイバーフィジカルシステム(CPS)」、すなわちデジタル特徴と物理的特徴との組み合わせを開発/設計することが非常に重要である。
【0004】
CPSは、インダストリー4.0(Industrie 4.0)及びロジスティクス4.0(Logistik 4.0)(サプライチェーンセキュリティ)における適用のためにも必要とされる。インダストリー4.0では、あらゆる作業プロセスがデジタル化され、ネットワーク化されるはずである。機械は、それぞれの将来の仕事(Arbeiten von Morgen)を引き継ぐことになる。これは、高レベルのセキュリティが保証できてはじめて可能である。機械は、機械を信頼できなければならない。これは、作業工程の各最終製品(サブ製品、ツール、プロセス等を含む)に(トラック・アンド・トレース式に)識別情報を装備することによって達成される。しかしながら、識別情報には違いがある。識別情報には3つのタイプがある。
・識別情報(ID):例えば:QRコード(登録商標)
・固有の識別情報:例えば:シリアル番号を有するQRコード(登録商標)
・セキュリティ識別情報:例えば、第2の因子を有するQRコード(登録商標)
【0005】
製品の偽造防止に関して、近年、2つの主要な競合ソリューション、すなわち、とりわけ光学ベースでのトラック・アンド・トレース(追跡)及び認証ソリューションが研究されている。
トラック・アンド・トレースプログラム(米国特許第9,027,147号明細書、米国特許第8,898,007号明細書、米国特許出願公開第2009/0096871号明細書、米国特許第8,700,501号明細書)は、製造及びサプライチェーンにおけるすべてのプロセス工程の明確なトラッキング及びトレースを保証するために使用される。それらは、製品及び文書の位置及び経路を隙間なく文書化することができるので、製造業者のための包括的な制御オプション及び消費者のための透明性も可能にする。情報ストアがこの目的のために必要とされる。情報メモリに応じて、1次元バーコード(バードット)、2次元バーコード(QRコード(登録商標))、3次元バーコード(着色バーコード 欧州特許第2100277B1号明細書)及び4次元バーコード(着色バーコード+時間成分 米国特許出願公開第2013/0161395A1号明細書)が区別される。現在確立されている4Dバーコードでは、着色パターンが時間的に変化している。しかしながら、このタイプは、時間的変化がメモリユニットを有するディスプレイを必要とするため、印刷可能ではない。それゆえ、それは製品包装に使用されない。
認証ソリューションのために、偽造防止と設計の相互作用は基本的なものである。ある場合には、高度に装飾的で革新的な認証ソリューションが、消費者を改ざんから保護するために使用される。これらは、ヒトの眼に可視である認証ソリューション及び不可視である認証ソリューションの両方を含む。ホログラム及び虹色光沢材料も認証ソリューションのジャンルに属する。さらには、3つの異なるタイプの認証ソリューションがある:可視認証ソリューション(公然、明示的)、不可視認証ソリューション(非公然、秘密)及び科学捜査的認証ソリューション。可視セキュリティラベルは、例えばホログラムである。不可視セキュリティラベルは、例えば、秘密インクであり、科学捜査的セキュリティラベルは、複雑な検出装置(例えば、顕微鏡)を必要とするマーカーシステムである。現在の技術水準によれば、この技術では情報を保存することは不可能である。これは、トラック・アンド・トレースソリューションと比較して決定的な欠点である。
米国特許第9,382,432B1号明細書、国際公開第2013/188927A1号パンフレット及び米国特許第6,692,031B1号明細書は、異なる蛍光寿命を有する異なる量子ドットを含む一種の秘密インクに基づく不可視認証ソリューションを記述する。異なる蛍光継続時間は、経時的に秘密インクの蛍光スペクトルを変化させ、そのインクに時間次元を与える。
現在、両方の技術がCPSを形成するために組み合わされることは稀である。独国特許出願公開第102019216003.4号明細書は、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムにおいて、光子励起下で750~1800nmの範囲の放射線を放出する半導体無機ナノ結晶を含有するインク配合物を使用して製品をマーキングする方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第9,027,147号明細書
【特許文献2】米国特許第8,898,007号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0096871号明細書
【特許文献4】米国特許第8,700,501号明細書
【特許文献5】欧州特許第2100277B1号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2013/0161395A1号明細書
【特許文献7】米国特許第9,382,432B1号明細書
【特許文献8】国際公開第2013/188927A1号パンフレット
【特許文献9】米国特許第6,692,031B1号明細書
【特許文献10】独国特許出願公開第102019216003号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、時間次元も含む多次元コードの物理的セキュリティ特徴にデータが記憶される革新的な印刷可能なCPSモデルを説明する。従って、このラベル付けされた製品は偽造に対してより抵抗性がある。というのは、偽造者は製品上に連続する物理的セキュリティ特徴及び/又はマーカーシステムを印刷しなければならないからである。本発明に係る方法は、インダストリー4.0及びロジスティクス4.0又は文書セキュリティにおけるCPSとしての用途を見出すことができるセキュリティ識別情報を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、製品を標識する方法であって、
2種以上のインク配合物を提供する工程であって、これらのインク配合物はそれぞれが光子励起下で380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の放射線を放出する1種以上のフォトルミネッセンス色素、好ましくは1種のフォトルミネッセンス色素を含有し、上記インク配合物は、フォトルミネッセンス色素の異なるフォトルミネッセンス寿命によって異なる工程と、
製品を識別するための多次元コードを生成する工程であって、少なくとも1つの次元、好ましくは2つの次元が空間次元であり、1つの次元が、上記フォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命に基づいた時間次元である工程と、
上記インク配合物を上記製品の表面の少なくとも1つの領域に上記多次元コードの形態で印刷する工程と、
上記インク配合物で印刷された上記製品に光子を照射する工程と、
380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の照射された上記製品によって放出される放射線、及び上記照射の開始後1ナノ秒(ns)~1分(min)、好ましくは1ナノ秒~1秒(s)、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒(ms)、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒(μs)の期間にわたる上記フォトルミネッセンス寿命の時間的経過を検出する工程と
を含む方法に関する。
【0009】
本発明は、光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつフォトルミネッセンス寿命が異なる2種以上のフォトルミネッセンス色素を含む多次元コードの形態の、製品の少なくとも1つの表面領域にある光学的時間依存性セキュリティ特徴にも関する。
【0010】
さらに、本発明は、製品監視のためのサイバーフィジカルシステム(CPS)としての、本明細書に記載される光学的時間依存性セキュリティ特徴の使用に関する。
【0011】
さらに、本発明は、文書セキュリティのためのサイバーフィジカルシステム(CPS)としての、本明細書に記載される光学的時間依存性セキュリティ特徴の使用に関する。
【0012】
加えて、本発明は、本明細書に記載される、製品に印刷された多次元コードを含む光学的時間依存性セキュリティ特徴を含むシリアル化(Serialisierung)システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムに関する。
【0013】
さらには、本発明は、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムにおける光学的時間依存性セキュリティ特徴としての、本明細書に記載される、製品に印刷された多次元コードの使用に関する。
【0014】
最後に、本発明は、文書セキュリティのための光学的時間依存性セキュリティ特徴としての、本明細書に記載される、製品に印刷された多次元コードの使用に関する。
【0015】
定義
本発明において使用される用語「製品」は、マーキングを受ける程度までの製品自体、その包装、製品表示(タグ)、バーコードカード及びバーコードラベル、並びに製造プロセス及び/又は輸送中に製品を通常マーキングするために用いられる任意の他の手段を含む。製品は、生産品及びその中間段階物、商業品、及び文書を含む。いくつかの例を以下に列挙する:ブランド製品、消費者製品、医薬製品、健康製品、栄養製品、構成要素(コンポーネント、部品)、ハードウェア構成要素、電子部品、コンピュータチップ、書籍、マニュアル。
【0016】
本発明において使用される用語「文書」は、天然セルロース系基材、人工ポリマー系基材、及びこれらの混合物を含み、その例として、紙幣、身分証明書、パスポート、出生証明書、チケット、入場券、及び他のチケットを含むが、これらに限定されない。いくつかの他の例を以下に列挙する:小切手、債券、バンクカード、クレジットカード、チェックカード(銀行発行のクレジットカード)、通貨、マネーカード、身分証明項目、識別項目、アクセス項目、許可項目、身分証明書、運転免許証、個人用項目、パスポート、文書、紙文書、セキュリティ文書、スタンプ、個人用文書、証明書、株券、債務証書、契約書、保険証券、遺言書、駐車券(駐車違反切符)、交通券、イベントへの入場券。
【0017】
本発明の意味での用語「インク配合物」は、任意の溶媒及びこれらの組み合わせ、並びに印刷可能な液体の製造に適した典型的な添加剤を含む。
【0018】
フォトルミネッセンスは、より高エネルギーの光子、通常は紫外であるが可視範囲にあることもある光子による先立つ励起の後の光子の放出を指す。励起は、電子をより高いエネルギー状態に促す。電子がより低いエネルギー状態に戻るとき、このエネルギーは光子の形態で再び放出される。発光性物質では、2種類の励起が大まかに区別される。蛍光では、電子は、より高い一重項状態からより低いエネルギー状態に戻るが、燐光では、励起された電子は、スピン選択律によって禁制された遷移を通して、上昇した三重項状態に進み、次いで、そこから、電子はスピン選択律によって禁制された遷移を通して、より低いエネルギー状態に戻る。
【0019】
フォトルミネッセンス寿命という用語には、蛍光寿命及び燐光寿命が含まれる。
本発明で使用される用語「蛍光寿命」は、分子が光子を放出し、従ってより低いエネルギー状態に戻るまでに、分子が蛍光中に励起一重項状態に留まる平均時間を示す。
本発明で使用される用語「燐光寿命」は、光子を放出して基底状態に戻るまでに、燐光中に分子が励起三重項状態に留まる平均時間を示す。
【0020】
本発明の意味での用語「多次元コード」は、少なくとも空間次元(すなわちx方向)、フォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンスの色次元、及び使用されるフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命の測定に基づく時間次元を含む。他の可能な次元は、別の空間次元(すなわち、y方向)、多色コードとしての基材上の色素の固有の色による及び色次元を含む。
【0021】
本発明において使用される用語「印刷」は、固体基材上又はその中への顔料(色素)の堆積を含む。典型例としては、デジタル印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、スタンプ印刷、ロールツーロール(Rolle zu Rolle)、非接触印刷、レーザ印刷、及び他のプロセスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明において用いられる用語「照射」は、フォトルミネッセンス発光シグナルの励起及びフォトルミネッセンス寿命を含む。種々の励起源が、発光シグナルに役立ち得る。いくつかの例としては、LED、ヘリウム/キセノンランプ、レーザダイオードが挙げられる。
フォトルミネッセンス寿命については、通常、励起のパルスは、顔料のフォトルミネッセンス寿命よりも時間的に短い。この目的のために、レーザダイオードが容易に採用される。
【0023】
本発明の意味での用語「検出」は、一方では、フォトルミネッセンス顔料の発光シグナルの検出を含む。シリコン及びゲルマニウムで作られた検出器は、この目的に適している。他方では、用語「検出」は、それぞれの顔料のフォトルミネッセンス減衰時間の空間的及び時間的検出をも含む。これは、時間シーケンスを分解することができる特別なセンサ及び検出器を必要とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明に係る製品をマーキングする方法の可能な実施形態の概要を示す。
【
図2】
図2は、x方向及びy方向の2つの空間次元、異なる色によって表される蛍光色素の蛍光による色次元、並びにパルス励起後の3つの「赤色」蛍光色素の異なる蛍光寿命による時間次元を有する4次元コードの例を示す。減衰時間は、ナノ秒単位の経時的なカウントとして示されている。
【
図3】
図3は、x方向及びy方向の2つの空間次元、異なる色によって表されるフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンスによる色次元、並びに光子の照射の開始後0ナノ秒(左)、25ナノ秒(中央)及び100ナノ秒(右)の期間における検出画像としての異なる蛍光寿命による時間次元を有する4次元コードのシミュレートされた例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、製品を標識する方法であって、
2種以上のインク配合物を提供する工程であって、これらのインク配合物はそれぞれが光子励起下で380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の放射線を放出する1種以上のフォトルミネッセンス色素、好ましくは1種のフォトルミネッセンス色素を含有し、上記インク配合物は、フォトルミネッセンス色素の異なるフォトルミネッセンス寿命によって異なる工程と、
製品を識別するための多次元コードを生成する工程であって、少なくとも1つの次元、好ましくは2つの次元が空間次元であり、1つの次元が、上記フォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命に基づいた時間次元である工程と、
上記インク配合物を上記製品の表面の少なくとも1つの領域に上記多次元コードの形態で印刷する工程と、
上記インク配合物で印刷された上記製品に光子を照射する工程と、
380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の照射された上記製品によって放出される放射線、及び上記照射の開始後1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたる上記フォトルミネッセンス寿命の時間的経過を検出する工程と
を含む方法に関する。
【0026】
2種以上のインク配合物が最初に提供され、それらはそれぞれが、光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつ1ナノ秒~1分のフォトルミネッセンス寿命を有する1種以上のフォトルミネッセンス色素、好ましくは1種のフォトルミネッセンス色素を含む。
インク配合物の数は、一般に限定されず、実用面、経済面、及びセキュリティ(安全性)の考慮のみを受ける。一般に、インク配合物の数が多いほど、複雑性が高くなり、従って印刷される一意(ユニーク、固有の)多次元コードの情報内容が高くなる。インク配合物の数は、確かに、使用されるプリンタによって処理されることが可能なインク配合物の最大数によって、及び価格制限によって、上限が定められる。典型的には、2~30のインク配合物、好ましくは2~25のインク配合物、より好ましくは2~20のインク配合物、最も好ましくは3~15のインク配合物が、本発明に係る方法において使用される。
【0027】
上記インク配合物は、好ましくは、固体基材上又はその中へ顔料を堆積させるのに適した市販のインク配合物である。典型的な例としては、デジタル印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷、転写印刷、スタンプ印刷、ロールツーロール、非接触印刷、レーザ印刷、及び他のプロセスが挙げられるが、これらに限定されない。その場合、1種以上のフォトルミネッセンス色素がこれらの市販のインク配合物に添加されてもよい。
【0028】
別の実施形態では、インク配合物は、フォトルミネッセンス色素以外の色顔料を含有しない。この実施形態では、インク配合物で印刷された多次元コードは、フォトルミネッセンス色素の濃度のために人間の目には見えない。従って、多次元コードは、直ちに明らかではないが、インク配合物で印刷された製品に光子を照射した後でのみ、380~3000nmの範囲の照射された製品によって放出される放射線の検出を介して検出し読み取ることができる。
次の実施形態では、インク配合物は、フォトルミネッセンス色素以外のいかなる色顔料も含有しない。この実施形態では、インク配合物で印刷された多次元コードは、高濃度のインク配合物(フォトルミネッセンス色素の固有の色)により、人間の目に見える。それゆえ、多次元コードは直ちに可視である。インク配合物で印刷された製品に光子を照射した後、380~3000nmの範囲の放出放射線を検出し、読み取ることができる。
【0029】
第4の実施形態では、多次元コードが、市販のインク配合物を使用して、製品の少なくとも1つの表面に最初に印刷される。次いで、第2の工程において、フォトルミネッセンス色素を含有するインク配合物が、既に存在する多次元コード上に液滴状及び/又は他のパターン、例えば、領域、縞模様、線、幾何学的図形、例えば、円、三角形、矩形、多角形等、英数字、若しくはこれらの組み合わせの形態でスポット印刷される。この実施形態では、インク配合物は、好ましくは、フォトルミネッセンス色素以外の顔料を含有せず、そのため、液滴状及び/又はさらなる多次元コードが人間の目に見えない。
【0030】
第5の実施形態では、多次元コードが、市販のインク配合物を使用して、製品の少なくとも1つの表面に最初に印刷される。次いで、第2の工程において、フォトルミネッセンス色素を含有するインク配合物が、追加の多次元コードの形態でスポット塗布される。この実施形態では、インク配合物は、好ましくは、フォトルミネッセンス色素以外の顔料を含有せず、そのため、液滴状及び/又はさらなる多次元コードが人間の目に見えない。
【0031】
第6の実施形態では、上述の実施形態の1つに従って、追加の一意コードが、例えば、高い印刷頻度及びインク滴の偏向に起因して印刷プロセス中に生成される。
【0032】
第7の実施形態では、上述の実施形態の1つに従って、多次元コードが、製品の少なくとも1つの表面に後で接着される少なくとも1つのラベルに印刷される。
【0033】
第8の実施形態では、上述の実施形態の1つによる一意多次元コードが、製品表示(タグ)、バーコードカード、及び/又はバーコードラベルに印刷される。
【0034】
第9の実施形態では、一意多次元コードが、上述の実施形態の1つに従って文書に印刷される。
【0035】
各インク配合物は、1種以上、例えば、2種、3種、4種、5種又はそれ以上のフォトルミネッセンス色素を含有する。好ましくは、各インク配合物は、1種のフォトルミネッセンス色素を含有する。
【0036】
使用されるフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命は、典型的には、1ナノ秒~1分の範囲、好ましくは1ナノ秒~1秒の範囲、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒の範囲、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の範囲にある。
【0037】
インク配合物に使用される様々なフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命は、典型的には、1ナノ秒~1分の範囲、好ましくは1ナノ秒~1秒の範囲、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒の範囲、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の範囲で異なる。
フォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命は、例えば発光スペクトルの減衰図で特定することができる。
【0038】
フォトルミネッセンス色素は、蛍光色素、燐光色素及びこれらの混合物から選択することができる。
蛍光色素は、光子励起後に蛍光放射線を放出する色素であり、燐光色素は、光子励起後に燐光放射線を放出する色素である。
【0039】
燐光色素の選択は、概して、光子励起下で380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の放射線を放出することにおいてのみ限定される。
【0040】
この特許で使用される燐光色素は、光子励起下で「ストークスシフト」及び「反ストークスシフト」の両方を示すことができる。さらには、発光材料は、蛍光挙動及び燐光挙動の両方を示すことができる。使用される発光材料は、有機及び無機の結晶/分子であることができる。
【0041】
蛍光色素は、典型的には、有機蛍光色素及び無機蛍光色素又はこれらの混合物から選択される。
【0042】
有機色素は、タンパク質及びペプチド、有機小分子、合成オリゴマー及び合成ポリマー、並びに多成分系のクラスから選択することができる。
ポリマー及びペプチドの典型的な例は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)又は赤色蛍光タンパク質(RFP)である。
【0043】
非タンパク質性有機蛍光色素は、通常、キサンテン誘導体、シアニン誘導体、スクアライン誘導体、スクアラインロタキサン誘導体、ナフタレン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、オキサジン誘導体、アクリジン誘導体、アリールメチン誘導体、テトラピロール誘導体及びジピロメタン誘導体のクラスに属する。有機蛍光色素は、通常、青色から(380nmから)赤色まで(3000nmまで)のすべての発光スペクトル色で市販されている。
800nmからの発光スペクトル色を有する好適な有機色素は、例えば、欧州特許出願公開第0933407号明細書、米国特許第5,282,894号明細書、米国特許第5,665,151号明細書、国際公開第1998/018871号パンフレット、国際公開第2003/038003号パンフレット、米国特許第10,119,071号明細書及び米国特許第5,542,971号明細書に記載されている。
【0044】
好適な無機色素は、好ましくは半導体無機ナノ結晶である。
半導体無機ナノ結晶は、好ましくは、ペロブスカイト、I-VI半導体、II-VI半導体、III-V半導体、IV-VI半導体、I-III-VI半導体、カーボンドット、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0045】
好適な半導体無機ナノ結晶の例としては、AgS、AgSe、AgTe、CdS、CdSe、CdTe、PbS、PbSe、PbTe、SnTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、InP、InAs、Cu2S、In2S3、InSb、GaP、GaAs、GaN、InN、InGaN、ZnSSe、ZnSeTe、ZnSTe、CdSSe、CdSeTe、HgSSe、HgSeTe、HgSTe、ZnCdS、ZnCdSe、ZnCdTe、ZnHgS、ZnHgSe、ZnHgTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、ZnCdSSe、ZnHgSSe、ZnCdSeTe、ZnHgSeTe、CdHgSSe、CdHgSeTe、CdSeCdS、CuInS2、CuInSe2、CuInGaSe2、CuInZnS2、CuZnSnSe2、CuIn(S,Se)2、CuInZn(S,Se)2、AgIn(S,Se)2が挙げられる。
他の好適な例は、限定されないが、一般式ABX3又はA4BX6を有するペロブスカイト材料であり、式中、Xは、Cl、Br、I、O及び/又はこれらの混合物から選択されてもよく、Aは、Cs、CH3NH3、CH(NH2)2、Ca、Sr、Bi、La、Ba、Mg及び/又はこれらの混合物から選択されてもよく、Bは、Pb、Sn、Sr、Ge、Mg、Ca、Bi、Ti、Mn、Fe及び/又はその混合物から選択されてもよい。
さらには、II-VI、III-V、IV-VI、I-VI、I-III-VI半導体又はこれらの混合物の半導体無機ナノ結晶構造のコア/シェル及び/又はコア/マルチシェル、並びにペロブスカイト材料のコア/シェル及び/又はコア/マルチシェルは、他の好適な例である。
【0046】
加えて、半導体無機ナノ結晶の結晶格子は、限定するものではないが、Cu+、Mg2+、Co2+、Ni2+、Fe2+、Mn2+等の1種以上の金属イオンで、及び/又はイッテルビウム、プラセオジム若しくはネオジム等の1種以上の希土類金属でドープされてもよい。
【0047】
半導体無機ナノ結晶は、少なくとも1つの次元、好ましくはすべての次元において、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは2nm~50nm、最も好ましくは3nm~15nmの平均粒子サイズ(粒径)を有する。
平均粒子サイズは、様々な方法によってさらに増加/修飾することができる。典型例としては、シリカシェル、酸化チタンシェル、ハロゲンシェル、並びに安定性増強、マスキング、生体適合性、水溶性、及び/又はコーティングのための他の方法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明にとって興味深い半導体無機ナノ結晶の特性は、それらの励起スペクトル及び発光スペクトルが、とりわけそれらの粒子サイズに依存することである。
【0049】
さらには、「反ストークスシフト」材料も、本発明の意味で使用することができる。これらの蛍光体は、通常、スカンジウム及びイットリウムの元素並びにランタニド又はアクチニド群の元素でドープされる。これらの蛍光体の化学組成は、ホスト格子、ドナーイオン及びアクセプタイオンから構成される。化学組成は、それらのスペクトル特性に影響を及ぼす。
【0050】
本発明の趣旨において、燐光材料も使用することができる。燐光材料は、通常、ドーパントが混入した結晶である。
【0051】
燐光色素は通常、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、マンガン、ケイ素及び希土類金属のドープされた酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、セレン化物、ハロゲン化物、ケイ酸塩及びアルミン酸塩、並びにこれらの混合物から選択される。他を排除するものではないが、たいていは、周期表の2族典型元素の金属及び亜鉛の硫化物並びに周期表の2族典型元素の金属のアルミン酸塩が使用される。ドーパントは、例えば、金属又は金属塩を表すことができる。燐光色素の適切な例は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及び亜鉛のドープされた硫化物及びアルミン酸塩、例えばビスマスでドープされた硫化カルシウム/ストロンチウム、銅でドープされた硫化亜鉛、及びユーロピウムでドープされたアルミン酸ストロンチウムである。
【0052】
本発明に係る方法において使用される「ストークスシフト」挙動を有するフォトルミネッセンス色素は、好ましくは、より高いエネルギーの光子の光吸収によって電子的に励起されたエネルギー状態にされ、その後、蛍光又は燐光の形態で光を放出することによってより低いエネルギー状態に再び到達するフォトルミネッセンス物質である。
本発明に係る方法において使用される「反ストークスシフト」挙動を有するフォトルミネッセンス色素は、好ましくは、2つの低エネルギー光子の光吸収によってより高いエネルギーを有する光量子を放出するフォトルミネッセンス物質である。通常、「反ストークスシフト」挙動を生成するための2つのプロセスがある。一方では、顔料は、2つの低エネルギー光子がより高いエネルギーの光量子を放出することができるように、高い光量子束(通常はレーザ)によって照射される。
他方では、顔料は光量子束によって照射され、準安定な中間状態(Ueberstandzustand)が生成される。光子を再び吸収することによって、より高いエネルギーの光量子を放出することができる。
【0053】
「ストークスシフト」挙動を有するフォトルミネッセンス色素は、UV光、青色光又は白色光等の可視光、及び発光シグナルよりも高いエネルギーの近赤外線によって優先的に励起される。
「反ストークスシフト」挙動を有するフォトルミネッセンス色素は、近赤外(NIR)放射線、とりわけ750~1600nmの波長の放射線によって優先的に励起される。
【0054】
光子励起下で、フォトルミネッセンス色素は、380~3000nm、より好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の波長を有する放射線を放出する。
【0055】
インク配合物中のフォトルミネッセンス色素の割合は、互いに独立して、いずれの場合も、インク配合物の総重量の好ましくは0.01~70.0重量%、より好ましくは0.05~40.0重量%、最も好ましくは0.09~30.0重量%である。デジタル印刷及びインクジェット印刷の場合、0.01~30.0重量%の範囲が好ましい。
【0056】
インク配合物は、以下の特性のうちの少なくとも1つ以上、好ましくはすべてを共有するフォトルミネッセンス色素を含有してもよい:発光波長、発光分布、発光極大。
別の実施形態では、インク配合物は、発光波長、発光分布、及び発光極大の異なる値を有するフォトルミネッセンス色素の混合物を含有してもよい。
【0057】
さらには、インク配合物は、市販のインクの色顔料を含有することができる。市販のインク配合物を使用することができ、フォトルミネッセンス色素をそれらに添加することができる。
【0058】
インク配合物から放出される放射線は、フォトルミネッセンス色素の種類、量、粒子サイズ、固有の色、とりわけフォトルミネッセンス寿命に依存する個々のフォトルミネッセンススペクトルをもたらすことができる。
この場合、個々のフォトルミネッセンススペクトルを分光計で検出することができる。次いで、検出された個々のフォトルミネッセンススペクトルを、データベースに記憶された参照スペクトルと比較することができる。個々のフォトルミネッセンススペクトルは、異なるフォトルミネッセンス寿命を有するフォトルミネッセンス色素の使用に起因する時間成分を含み、これは、照射の開始後、好ましくは1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたって、個々のフォトルミネッセンススペクトルを経時的に変化させる。これらの変化は、様々な方法を用いてマッピング及び比較することができる。第1に、それぞれのフォトルミネッセンススペクトルの測定は、固定時間で、照射の開始後1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたって行うことができ、次いで、それぞれのフォトルミネッセンススペクトルは、データベースに記憶された同じ時間からの対応する参照スペクトルと比較される。あるいは、個々の蛍光スペクトルの「フィルム」は、照射の開始後10ナノ秒~1秒、好ましくは20ナノ秒~100ミリ秒、より好ましくは50ナノ秒~10ミリ秒、最も好ましくは75ナノ秒~1ミリ秒の期間にわたって記録し、データベースに記憶された参照フィルムと比較することができる。
【0059】
この個々の時間依存的蛍光スペクトルは、製品の製造者によって個々に集められたいくつかの異なるインク配合物のためのさらなるセキュリティ特徴として使用することができる。
【0060】
インク配合物はそれぞれ、好ましくは14未満、より好ましくは1~10、さらにより好ましくは1~8、最も好ましくは2~4のオーネゾルゲ数の逆数を有する。
【0061】
さらなる工程において、製品を識別するための多次元コードが生成され、この多次元コードでは、少なくとも1つの次元、好ましくは2つの次元が空間次元であり、1つの次元が、フォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命に基づいた時間次元である。
【0062】
多次元コードに適した次元は、空間次元、例えばx方向及び/又はy方向、色次元、例えば多色コードとしての基材上の色素の固有の色並びに/又は空間内及び基材上に放出されるフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス、並びにフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命にわたる時間次元である。
【0063】
多次元コードは、3次元、4次元、5次元とすることができる。
3次元コードの例は以下の通りである。
・フォトルミネッセンス色素を含有するバーコードであって、フォトルミネッセンス色素が異なるフォトルミネッセンス寿命も有するバーコード(1つの空間次元、1つの色次元、1つの時間次元)。
4次元コードの例は以下の通りである。
・フォトルミネッセンス色素を含有する多色バーコードであって、フォトルミネッセンス色素が異なるフォトルミネッセンス寿命も有する多色バーコード(1つの空間次元、2つの色次元、1つの時間次元)。
・フォトルミネッセンス色素を含有するQRコード(登録商標)であって、フォトルミネッセンス色素が異なるフォトルミネッセンス寿命も有するQRコード(登録商標)(2つの空間次元、1つの色次元、1つの時間次元)。
5次元コードの例は以下の通りである。
・フォトルミネッセンス色素を含む多色QRコード(登録商標)であって、フォトルミネッセンス色素が異なるフォトルミネッセンス寿命も有する多色QRコード(登録商標)(2つの空間次元、2つの色次元、1つの時間次元)。
【0064】
多次元コードは、1つ以上のパターン、例えば、領域、縞模様、線、幾何学的図形、例えば円、三角形、矩形、多角形等、英数字、又はこれらの組み合わせも含んでもよい。
【0065】
多次元コードは、一意多次元コードであってもよい。
この目的のために、製品の好ましくは少なくとも1つの参照量、好ましくはいくつかの参照量を、一意キー(einzigartige Schluessel)を用いて最初にコード化することができる。
ここで考えられる参照変数は、例えば、シリアル番号、ロット番号、化学製品の場合のCAS番号、製造場所、製造時間、配送場所、製造者、供給者、顧客等の製品の種類及び性質に関する参照変数である。
一意キーは、製造者に提供されるか又は製造者によって作成されるアルゴリズムであることができる。
製品、好ましくは製品の個々の包装ユニットに一意的なコードが暗号化によって生成される。
【0066】
インク配合物は、多次元コードの形態で製品の表面の少なくとも1つの領域に印刷される。
【0067】
一意多次元コードの生成時には、製品の各包装ユニットは、好ましくは、それ自体の一意多次元コードで印刷される。
【0068】
特別な実施形態では、追加の一意多次元コードが、個々の印刷パターンによって印刷プロセス中に生成され、これは、例えば高い印刷頻度及びインク滴の偏向による、個々の印刷パターンの不備によって引き起こされる。この場合、個々の印刷パターンの不備を再現できないため、実際に一意的なコードが印刷プロセスごとに生成される。
【0069】
「インク配合物を製品の表面の少なくとも1つの領域にこの多次元コードの形態で印刷する」工程は、ここでは、製品の具体性が可能にする限りインク配合物を製品の表面の少なくとも1つの領域に直接印刷すること、並びにインク配合物を少なくとも1つのラベル上にこの多次元コードの形態で印刷すること、及び製品の表面に少なくとも1つの印刷ラベルを貼り付ける/ラベル付けすることの両方を含む。
製品の形状及び/又は具体性が直接のラベル付けを可能にしない場合、「インク配合物を製品の表面の少なくとも1つの領域にこの多次元コードの形態で印刷する」工程は、インク配合物を製品の包装の表面の少なくとも1つの領域に直接印刷すること、又は製品の表面に少なくとも1つの印刷ラベルを貼り付ける/ラベル付けすることも含んでもよい。
多次元コードは、文書に印刷されてもよい。
【0070】
この目的のために、通常の印刷方法が、インク配合物の種類に応じて適用可能である。好ましくは、インク配合物は、デジタル印刷、スクリーン印刷、転写印刷、ロールツーロール印刷法、「非接触」印刷法、又はレーザ印刷を使用して、製品又は文書の表面の少なくとも1つの表面に印刷される。
【0071】
製品の種類に応じて、多次元コードは、製品又は文書の表面上に直接、製品の包装上、並びにラベル、標識、バーコードカード及び/又はバーコードラベルに印刷することができる。
【0072】
多次元コードに加えて、インク配合物は、製品の表面の少なくとも1つの表面上に、他のパターン及び一意コード、例えば領域、縞模様、線、円、三角形、矩形、多角形等の幾何学的図形、英数字、又はこれらの組み合わせでも印刷されてもよい。印刷されたパターンは、ここでは、純粋な時間依存的認証特徴として機能してもよいし、又は安全性(セキュリティ)及び使用説明又は製造業者情報等の情報を含んでもよい。
【0073】
好ましくは、インク配合物は並べて印刷され、多次元コードの時間依存的パターンを提供する異なるフォトルミネッセンス色素組成物のドットの層が形成される。
いくつかの実施形態では、インク配合物は、並べて印刷され、任意選択で互いの上に印刷され、多次元コードの時間依存的パターンを提供する異なるフォトルミネッセンス色素組成物のドットの1つ及び/又は複数の層が形成される。
【0074】
さらなる工程では、インク配合物で印刷された製品は、光子で照射される。
光子照射は、インク配合物中のフォトルミネッセンス色素を励起エネルギー状態に入らせる(励起)。
【0075】
好ましくは、インク配合物で印刷された製品は、青色光若しくは白色光等の紫外可視光、又はNIR光、好ましくは紫外線青色光若しくは白色光で照射される。
例えば、ブラックライトランプ、ハロゲンランプ、又はLEDランプ、好ましくは青色又は白色のLEDランプが光源として機能する。加えて、照射に適した光源は、スマートフォン又はタブレット等の端末デバイスのLEDフラッシュ等のLEDフラッシュである。
【0076】
照射後、照射された製品、好ましくはインク配合物中のフォトルミネッセンス色素は、380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の放射線を放出する。これは、さらなる工程において、照射の開始後1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたって検出される。
【0077】
通常、照射時間はフォトルミネッセンス色素のフォトルミネッセンス寿命よりも短い。
【0078】
照射は、パルス光子照射又は連続光子照射のいずれかであることができる。
パルス光子照射は、通常、数ミリ秒までの短いフォトルミネッセンス寿命を有するフォトルミネッセンス色素を使用する場合、好ましくは蛍光色素を使用する場合に行われる。
連続光子照射は、通常、数ミリ秒から始まるより長いフォトルミネッセンス寿命を有するフォトルミネッセンス色素を使用する場合、好ましくは燐光色素を使用する場合に行われる。
【0079】
放出された放射線は、この目的に適した任意の検出装置で検出することができる。
【0080】
時間次元では、多次元コードの個々のフォトルミネッセンススペクトルは、照射の開始後、1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたって観察され、この期間にわたる変化が記録される。これらの変化は、使用されるフォトルミネッセンス色素の異なるフォトルミネッセンス寿命に起因し、これは、あるフォトルミネッセンス色素から放出される放射線が、別のフォトルミネッセンス色素からの放射線よりも早く減衰し、多次元コードのパターンの経時変化をもたらすことを確実にする。
これらの変化は、例えば、放出された放射線の2つ以上のスペクトルを検出期間中の固定時間に記録することによって、点ごとに記録及び照合することができる。
スペクトルに加えて、又はスペクトルの代わりに、放出された放射線の画像(Aufnahme)も、それぞれの固定時間に取得することができ、次いで、これらの画像の変化を照合することができる。
代替として、これらの変化は、例えば、検出期間中に放出された放射線の動画を作成することによって、連続的に記録されることができる。
多次元コードのパターンの様々なパラメータ及びそれらの変化、例えば、x及びy方向におけるパターン、色、フォトルミネッセンス、又はそれらの寿命の変化を記録することができる。
次いで、これらのパラメータは、少なくとも1つのデータベースに記憶され、そこから検索されてもよい。次いで、測定されたパラメータを、データベースに記憶されたパラメータと照合することができる。
従って、多次元コードのパターンは、光学的時間依存的認証特徴として使用することができる。
【0081】
従って、本発明に係る方法は、以下のさらなる工程:
・多次元コードを少なくとも1つのデータベースに記憶する工程、
・上記多次元コードを上記データベースから検索する工程、及び
・このコードを検出されたコードと照合して、製品を検証又は認証する工程
を含んでもよい。
当該方法はさらに、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムにおいて使用することができる。
【0082】
シリアル化では、構造化データが逐次表現形式にマッピングされる。シリアル化は、主に分散型ソフトウェアシステムにおいてネットワーク上でオブジェクトを転送するために使用される。
【0083】
シリアル化システムにおいて使用するために、以下の追加の工程、
・一意多次元コードを少なくとも1つのデータベースに記憶する工程、
・上記一意多次元コードを上記データベースから検索する工程、及び
・このコードを検出されたコードと照合して、製品を検証する工程
が好ましい。
【0084】
より高度なシリアル化システムでは、製品の1つ又は複数の参照量を、一意キーを使用して記録及び/又はコード化することができる。一意多次元コードが、対応するシリアル化及び/又はトラック・アンド・トレースコンピュータプログラムを介して生成され、それが製品に印刷される。加えて、このコードは、データベース、好ましくは中央データベースに記憶される。このあと、このコードは、いつでもデータベースからスキャンして読み取ることができる。従って、シリアル化及び/又はトラック・アンド・トレースコンピュータプログラムを使用して、製品のコード化された参照量を読み出すことができる。
【0085】
トラック・アンド・トレースシステムで使用するために、インク配合物は、例えば束、外側包装、パレットから選択される、製品を含む包装群の表面の少なくとも1つの領域に一意コードの形態でさらに印刷されることがさらに好ましい。
これにより、個々の製品の製造及び輸送経路中に製品の完全な追跡が可能になる。
【0086】
従って、当該方法は、トラック・アンド・トレース技術と光学的セキュリティ特徴との組み合わせを表す。従って、商品のトレーサビリティプロセスと認証プロセスとは統合される。
【0087】
さらには、当該方法は、紙幣、IDカード、パスポート、出生証明書、チケット、入場券及び他のチケット等の文書、又は本明細書に記載される他の文書を保護するために使用することができる。
【0088】
図1は、トラック・アンド・トレースシステムにおける本発明に係る方法の可能な実施形態の概要を示す。
この図において、第1の工程において、製品の参照変数、例えば、製造の場所及び期間、製品の原材料、剤形等が特定される。
次いで、これらの参照変数は、様々な蛍光色素の異なる蛍光寿命を使用してプロパティ(特性)マトリクスにリンクされて、製品に一意的な多次元コードが作成される。このコードは、それぞれ、異なる蛍光色素の異なる蛍光寿命にリンクされた時間次元を有する2次元、3次元、又は4次元のコード、例えばバーコード、QRコード(登録商標)、又は着色バーコードであることができる。このコードは、プロパティマトリクスのために使用される蛍光色素とともに本明細書に開示されるインク配合物を使用して、製品の表面に印刷される。製品に応じて、コードは、製品の表面に直接又は製品の包装に印刷されてもよい。
【0089】
プロパティマトリクスからの情報は、例えばトラック・アンド・トレースコンピュータプログラムを介して中央データベースに記憶される。
ここで、製品は、例えば新しい製造段階又は販売に渡すことができる。
新しい環境では、製品はここで識別のためにスキャンされ、コードが読み取られる。
本明細書で明らかにされたインク配合物を使用して印刷されたコードは、ここで、トラック・アンド・トレース識別子として使用することができる。
コードは、トラック・アンド・トレースコンピュータプログラムに転送される。このプロセスでは、コードはデータベースから読み取られる。このようにして、マーキングされた製品の参照量が保存される。
【0090】
本明細書に開示されるインク配合物を用いたコード及びすべての他の可能なマーキングは、(
図1に示されるような)光学認証マーキングとしても使用することもできる。
この目的のために、製品の表面は、光、好ましくは白色光又は青色光に曝露される。これにより、インク配合物中のフォトルミネッセンス物質、好ましくは蛍光色素は、上述のように励起され、次いで400~1800nmの範囲のフォトルミネッセンス放射線(可視及びNIR放射線)を放出する。この放射線は、ヒトの目には部分的に(約800nmまで)しか知覚することができない。代わりに、可視及びNIRのフォトルミネッセンス放射線を検出することができる電子デバイスが、検出のために必要とされる。例えば、分光計又はNIRカメラが適切であろう。
励起及び検出は、励起及び検出後に、照射の開始後1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたって固定時間で行われるいくつかの測定、又はこの期間にわたって撮影されるコードの動画が端末デバイスの画面に現れるように制御することができる。従って、この写真は、光学的時間依存的認証特徴として機能し、製品の時間依存的認証を可能にする。
【0091】
従って、シリアル化又はトラック・アンド・トレースシステムで使用される場合、本発明に係る方法は、人間の目には部分的に見えない(750~3000nm)時間依存的光学セキュリティ特徴によってこのシステムを拡張する。
本発明に係る方法は時間次元を通してセキュリティを高める。というのも、個々の時間依存的フォトルミネッセンススペクトルが可視及びNIRの範囲で放射され、これは分光計を用いて検出されることが可能であるからである。加えて、本発明に係る方法は、時間依存的パターンの追加の使用可能な次元に起因して、コードの複雑さ及び記憶容量を増加させる。このため、この個々の時間依存フォトルミネッセンススペクトルは、追加の認証特徴として使用することができる。この時間依存的認証特徴を通じて、セキュリティ特徴、例えば時間依存的な第2因子を有するQRコード(登録商標)は、インダストリー4.0及びロジスティクス4.0におけるセキュア・アイデティティ(Sichere Identitaet)(サプライチェーンセキュリティ)レベルのCPSとして使用することができる。
RFIDチップ又はホログラム等の他の認証特徴と比較して、本発明に係る方法は、明らかなコスト上の利点も有する。
【0092】
本発明は、光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつ異なる蛍光寿命によって区別される2種以上の蛍光色素を含む多次元コードの形態の、製品の表面の少なくとも1つの領域にある光学的時間依存性セキュリティ特徴にも関する。
【0093】
さらには、本発明は、光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつフォトルミネッセンス寿命が異なるフォトルミネッセンス色素を含む多次元コードの形態の、製品の表面の少なくとも1つの領域にある光学的時間依存性セキュリティ特徴に関する。
これに関して、光学的時間依存性セキュリティ特徴は、好ましくは、本発明に係る方法を使用して、製品の表面の少なくとも1つの領域に印刷される。
【0094】
さらに、本発明は、製品監視のためのサイバーフィジカルシステム(CPS)としての、本明細書に記載される光学的時間依存性セキュリティ特徴の使用に関する。
【0095】
さらには、本発明は、文書セキュリティのためのサイバーフィジカルシステム(CPS)としての、本明細書に記載される光学的時間依存性セキュリティ特徴の使用に関する。
【0096】
本発明はさらに、本明細書に記載される、製品に印刷された多次元コードを含む光学的時間依存性セキュリティ特徴を含むシリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムに関する。
【0097】
加えて、本発明は、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムにおける光学的時間依存性セキュリティ特徴としての、本明細書に記載される、製品に印刷された多次元コードの使用に関する。
【0098】
加えて、本発明は、文書セキュリティのための光学的時間依存性セキュリティ特徴としての、本明細書に記載される、製品に印刷された多次元コードの使用に関する。
【0099】
これに関して、本発明に係る方法は時間次元を通してセキュリティを高める。というのも、個々の時間依存的フォトルミネッセンススペクトルが可視及びNIRの範囲で放射され、これは分光計を使用して検出されることが可能であるからである。加えて、本発明に係る方法は、時間依存的パターンの追加の使用可能な次元に起因して、コードの複雑さ及び記憶容量を増加させる。
【0100】
これに関して、本明細書に記載されるインク配合物は、光子によって励起されると380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつ異なるフォトルミネッセンス寿命によって区別されるフォトルミネッセンス色素を含み、この本明細書に記載されるインク配合物を使用して、上記一意多次元コードが製品若しくは製品パッケージング又は文書に印刷される。
【0101】
本明細書に記載されるコード、インク配合物、及びフォトルミネッセンス色素の特徴は、本発明に係る光学的時間依存性セキュリティ特徴、シリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステム、並びに使用にも適用可能である。
同様に、本明細書に記載されるシリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステムの特徴は適用可能である。
【0102】
図2は、印刷された4次元コードの一例を示す。このコードは、並べて印刷した異なるインク配合物の5×5の正方形の正方形からなる。印刷された正方形におけるグレーの5つの異なる濃淡は、5つの異なる蛍光色を有するインク配合物を示す。濃い灰色で示される1つの蛍光色を有する強調された異なる正方形では、異なる蛍光色素を有するインク配合物も使用され、この異なる蛍光色素は異なる蛍光寿命を有する。これらは、ナノ秒単位の経時的なカウントとして減衰図に示されている。
左側の減衰スペクトルでは、621nmでの発光極大及び40ナノ秒の蛍光寿命を有するCdSeCdSの半導体ナノ粒子が使用された。
【0103】
中央の減衰スペクトルでは、623nmでの発光極大及び89ナノ秒の蛍光寿命を有するCdSeCdSの半導体ナノ粒子が使用された。
右の減衰スペクトルでは、625nmでの発光極大及び157ナノ秒の蛍光寿命を有するCdSeCdSの半導体ナノ粒子が使用された。
【0104】
従って、このコードは、x方向及びy方向の2つの空間次元、蛍光色素の5つの異なる蛍光色にわたる色次元、及び蛍光色素の異なる蛍光寿命にわたる時間次元を含む。
【0105】
図3は、4次元コードの時間変化の一例を示す。ここでも、コードは、異なるインク配合物による並べて印刷された5×5の正方形の正方形からなる。印刷された正方形の5つの異なる色は、5つの異なる蛍光色を有するインク配合物を示す。時間次元は、照射の開始後の異なる時間に撮影された画像から明らかにされる。
照射開始直後(0ナノ秒)、25個の印刷された正方形すべての色が見える(左)。
照射の開始から25ナノ秒後、異なる正方形は異なる減衰挙動を示す。いくつかの正方形はほとんど変化しない蛍光を発するが、他の正方形は知覚可能な減衰を示し、5つの正方形の蛍光は測定可能な範囲で既に消滅しており、これは黒色の正方形(中央)によって象徴される。蛍光放射線の異なる減衰挙動は、蛍光色素の異なる蛍光寿命を示し、黒色の正方形は非常に短い蛍光寿命を示し、減弱された正方形は中程度の蛍光寿命を示し、変わらない正方形は蛍光色素のより長い蛍光寿命を示す。
【0106】
照射の開始から100ナノ秒後には、蛍光寿命が最も長い蛍光色素の5つの正方形のみが蛍光を発する。これらはニコニコマーク(スマイリー)を表現する。従って、認証特徴として使用することができる異なる画像及び記号が減衰時間に応じて可視となるように、コード内に異なる蛍光寿命を伴う蛍光色素を配置することによって、別の単純な認証特徴がコードの時間的次元を介して導入されることが可能になる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品を標識する方法であって、
2種以上のインク配合物を提供する工程であって、前記インク配合物はそれぞれが光子励起下で380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の放射線を放出する1種以上のフォトルミネッセンス色素、好ましくは1種のフォトルミネッセンス色素を含有し、前記インク配合物は、前記フォトルミネッセンス色素の異なるフォトルミネッセンス寿命によって異なる工程と、
製品を識別するための多次元コードを生成する工程であって、少なくとも1つの次元、好ましくは2つの次元が空間次元であり、1つの次元が、前記フォトルミネッセンス色素の前記フォトルミネッセンス寿命に基づいた時間次元である工程と、
前記インク配合物を前記製品の表面の少なくとも1つの領域に前記多次元コードの形態で印刷する工程と、
前記インク配合物で印刷された前記製品に光子を照射する工程と、
380~3000nm、好ましくは450~1800nm、最も好ましくは750nm~1100nmの範囲の照射された前記製品によって放出される放射線、及び1ナノ秒~1分、好ましくは1ナノ秒~1秒、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の期間にわたるこの放射線の時間的経過を検出する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記多次元コードは、3次元、4次元又は5次元のコードである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多次元コードは、さらなる次元として、前記フォトルミネッセンス色素の発光スペクトルにわたる色コードを含む請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記多次元コードは、さらなる次元として、前記色素の吸収色にわたる色コードを含む請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記インク配合物は、前記製品の表面上に並べて別々に印刷され、任意選択で互いの上に印刷され、前記多次元コードが生成される請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記インク配合物中の前記フォトルミネッセンス色素の前記フォトルミネッセンス寿命は、1ナノ秒~1分の範囲、好ましくは1ナノ秒~1秒の範囲、より好ましくは1ナノ秒~1ミリ秒の範囲、最も好ましくは5ナノ秒~100マイクロ秒の範囲で異なる請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記多次元コードは、1つ又は複数のパターン、例えば領域、縞模様、線、幾何学的図形、例えば円、三角形、矩形、多角形等、英数字、又はこれらの組み合わせを含む請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記多次元コードを少なくとも1つのデータベースに記憶する工程、
前記多次元コードを前記データベースから検索する工程、及び
前記コードを検出されたコードと照合して、前記製品を検証又は認証する工程
をさらに含む請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記インク配合物は、例えば束、外側包装、パレットから選択される、前記製品を含む包装群の表面の少なくとも1つの領域に前記多次元コードの形態でさらに印刷される請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記インク配合物は、前記多次元コードの形態で製品表示(タグ)、バーコードカード及びバーコードラベルに印刷される請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記多次元コードは一意多次元コードであり、好ましくは、前記一意多次元コードを生成するために、前記製品の少なくとも1つの参照量が、一意キーを使用して暗号化される請求項
1に記載の方法。
【請求項12】
前記インク配合物は、デジタル印刷を使用して前記製品の表面の少なくとも1つの領域に印刷される請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記インク配合物で印刷された前記製品は、励起のために紫外光、可視光又はNIR光で照射される請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
放出された前記放射線の2つ以上の画像及び/又はスペクトルが、検出期間中の所定の時間に測定される請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記フォトルミネッセンス色素は、有機色素及び/又は無機色素から選択される蛍光色素、好ましくは半導体無機ナノ結晶、最も好ましくはペロブスカイト、I-VI半導体、II-VI半導体、III-V半導体、IV-VI半導体、I-III-VI半導体、カーボンドット及びこれらの混合物からなる群から選択される半導体無機ナノ結晶を含む請求項
1に記載の方法。
【請求項16】
前記フォトルミネッセンス色素は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、マンガン、ケイ素及び希土類金属のドープされた酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、セレン化物、ハロゲン化物、ケイ酸塩及びアルミン酸塩、並びにこれらの混合物、好ましくはカルシウム、ストロンチウム、バリウム及び亜鉛のドープされた硫化物及びアルミン酸塩、特に好ましくはビスマスでドープされた硫化カルシウム/ストロンチウム、銅でドープされた硫化亜鉛、ユウロピウムでドープされたアルミン酸ストロンチウムから選択される燐光色素を含む請求項
1に記載の方法。
【請求項17】
前記フォトルミネッセンス色素は、反ストークス色素を含む請求項
1に記載の方法。
【請求項18】
前記インク配合物中の前記フォトルミネッセンス色素の割合は、互いに独立して、それぞれのインク配合物の総重量の0.01~70.0重量%、好ましくは0.05~40.0重量%、最も好ましくは0.09~30.0重量%である請求項
1に記載の方法。
【請求項19】
放出された前記放射線は、個々の時間依存的フォトルミネッセンススペクトルを与え、前記時間依存的フォトルミネッセンススペクトルは分光計を用いて検出される請求項
1に記載の方法。
【請求項20】
光子励起下で380~3000nmの範囲の放射線を放出しかつフォトルミネッセンス寿命が異なる2種以上のフォトルミネッセンス色素を含む多次元コードの形態の、製品の少なくとも1つの表面領域にある光学的時間依存性セキュリティ特徴。
【請求項21】
製品監視及び/又は文書セキュリティのためのサイバーフィジカルシステム(CPS)としての請求項20に記載の光学的時間依存性セキュリティ特徴の使用。
【請求項22】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の製品に印刷された多次元コードを含む光学的時間依存性セキュリティ特徴を含むシリアル化システム及び/又はトラック・アンド・トレースシステム。
【請求項23】
シリアル化システム及び/若しくはトラック・アンド・トレースシステムにおける、並びに/又は文書セキュリティのための光学的時間依存性セキュリティ特徴としての、請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の製品に印刷された多次元コードの使用。
【国際調査報告】