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特表2023-551241放射線で活性化された四価白金錯体及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】放射線で活性化された四価白金錯体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/00 20060101AFI20231130BHJP
   C07F 9/50 20060101ALI20231130BHJP
   C07F 9/6574 20060101ALI20231130BHJP
   C07F 9/6584 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20231130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20231130BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
C07F15/00 F CSP
C07F9/50
C07F9/6574 Z
C07F9/6584
A61K41/00
A61P35/00
A61K38/06
A61K31/513
A61K47/54
A61K39/395 Y
A61K31/282
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531681
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 CN2021132884
(87)【国際公開番号】W WO2022111540
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】202011337782.X
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 志博
(72)【発明者】
【氏名】郭 子建
(72)【発明者】
【氏名】傅 群峰
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C206
4H050
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF63
4C084AA02
4C084AA11
4C084BA15
4C084NA03
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA26
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC43
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA03
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB26
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA03
4C206NA13
4C206NA14
4C206ZB26
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
(57)【要約】
本開示は、一般式(I)の錯体を提供する。ここで、Mは、四価白金であり、Lは、出現毎にそれぞれ独立して、中性配位子又は陰イオン配位子であり、xは、1~5の整数であり、Pは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子Dに変換できることにより医薬、蛍光検出又は機能性材料などの機能を実現する四価白金イオンの配位子である前駆体配位子である。
--M--P (I)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の金属錯体である。
―M―P (I)
(ここで、Mは、四価白金であり、Lは、出現毎にそれぞれ独立して、中性配位子又は陰イオン配位子であり、xは、1~5の整数であり、Pは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子Dに変換できる四価白金イオンの配位子である前駆体配位子である。)
【請求項2】
前記機能性分子Dは、薬物分子、蛍光分子、機能性材料分子から選択される、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
前記機能性分子Dは、抗癌剤分子である、請求項2に記載の金属錯体。
【請求項4】
少なくとも1つのLは、腫瘍細胞を標的とする基を有する、請求項3に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記腫瘍細胞を標的とする基を有するLは、糖輸送体標的基、グルタミン受容体標的基、リン酸エステル受容体標的基、上皮成長因子受容体標的基、インテグリン標的基、エネルギー代謝酵素標的基、ミトコンドリア標的基、血清アルブミン標的基、炎症因子標的基、DNA標的基、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)標的基、P53遺伝子活性化剤基、チューブリン阻害剤基、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤基又はインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤基を含む、請求項4に記載の金属錯体。
【請求項6】
前記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、アドリアマイシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、タクソール、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリンから選択される、請求項2~5のいずれか一項に記載の金属錯体。
【請求項7】
前記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF又は5-フルオロウラシルである、請求項6に記載の金属錯体。
【請求項8】
少なくとも1種の配位子Lは、NH、エチレンジアミン、F、Cl、シュウ酸塩、マロン酸塩、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、2-アミノプロパン、アミノシクロヘキサン、1,1-シクロブタンジカルボン酸、グリコール酸塩、乳酸塩、アミノシクロヘキサン、2-イソプロピル-4,5-ジ(アミノメチル)-1,3-ジオキサシクロペンタン、5-トリフェニルホスフィン-ペンタン酸塩、コハク酸塩、N-ギ酸塩ペンチル-ブチレンスクシンイミド、ポルフィリン、酢酸塩、プロピオン酸塩から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項9】
1つの配位子Lは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子に変換できる軸配位子であり、該機能性分子は、機能性分子Dと同じであっても異なってもよい、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項10】
Pは、軸配位子である、請求項1~9のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項11】
Pは、O-C(=O)-X-Yである、請求項1~10のいずれか1項に記載の金属錯体。
(式中、Xは、-NH-、-NR-、-O-又は-S-であり、Rは、任意に置換されるC1-10アルキル基であり、HXYは、機能性分子Dを構成し、或いは、
Xは、-CH-、-CRH-又は-CR-であり、Rは、出現毎にそれぞれ独立して、任意に置換されるC1-10アルキル基であるか又は2つのRは、それらに結合した炭素原子と共に5員又は6員環を形成し、HOOCXYは、機能性分子Dを構成する。)
【請求項12】
一般式(I)の金属錯体は、放射線で照射された後に錯体から軸配位子を放出して二価白金錯体を得ることができる、請求項1~11のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項13】
前記二価白金錯体は、抗癌作用を有する、請求項12に記載の金属錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線化学の分野に関し、具体的には、放射線で活性化された四価白金錯体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、人々の健康を脅かす第2のキラーである。現在、臨床では、癌の治療は、化学療法を主とし、白金系薬物は、効果的で広域な抗癌活性を有し、臨床的に重要な第一線の化学療法薬物となり、肺癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮頸癌、食道癌、胃癌、大腸癌及び頭頸部腫瘍などの一般的な悪性腫瘍の治療に広く使用されている。第一世代の白金系抗癌剤としては、シスプラチンが代表となり、第二世代の白金系抗癌剤としては、カルボプラチン、ネダプラチン、シクロプラチンが代表となり、第三世代の白金系抗癌剤としては、オキサリプラチン及びロバプラチンが代表となる。これらの白金系抗癌剤は、主に二価白金の錯体である。四価白金化合物自体は、癌細胞を死滅させる能力が低く、生理的条件下で還元して二価白金を放出することにより抗癌活性を発揮することができ、従来の二価白金系薬物が広域で効果的に抗癌するという利点を残すと共に、四価白金と二価白金との配位構造が異なるため、独特な他の利点をもたらす。四価白金は、dsp六配位構造を有し、安定性が二価白金より高いため、血液での安定性が高い。四価白金錯体の軸方向に2つの追加の配位子を有し、白金系薬物の設計により多くの選択肢を提供する。四価白金は、横配位子に対して構造修飾を行うだけでなく、軸配位子に対して構造修飾を行うことができ、例えば、軸配位子に対して、脂肪滴チューニング基、酵素標的基、DNA標的基、血清アルブミン標的基などの機能性基を導入することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
現在、白金系化合物を多く研究しており、白金系薬物の毒性・副作用が高く、吸収率が低く、標的性が低く、薬剤耐性がひどいなどの欠陥が出ている。したがって、依然として新規な白金系化合物を開発する必要がある。しかしながら、現在、放射線応答分子を四価白金系化合物の配位子に導入することが報告されていない。
【0004】
また、放射線で四価白金系化合物の配位子から機能性分子を放出させて医薬、蛍光検出及び機能性材料などの機能を実現することも報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、一般式(I)の金属錯体を提供する。
―M―P (I)
ここで、Mは、四価白金であり、Lは、出現毎にそれぞれ独立して、中性配位子又は陰イオン配位子であり、xは、1~5の整数であり、Pは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子Dに変換できる四価白金イオンの配位子である前駆体配位子である。
【0006】
いくつかの実施形態では、前記機能性分子Dは、薬物分子、蛍光分子、機能性材料分子から選択される。いくつかの好ましい実施形態では、前記機能性分子Dは、抗癌剤分子である。いくつかのより好ましい実施形態では、前記機能性分子Dは、抗癌剤分子であり、そして少なくとも1つのLは、腫瘍細胞を標的とする基を有する。例えば、前記腫瘍細胞を標的とする基を有するLは、糖輸送体標的基、グルタミン受容体標的基、リン酸エステル受容体標的基、上皮成長因子受容体標的基、インテグリン標的基、エネルギー代謝酵素標的基、ミトコンドリア標的基、血清アルブミン標的基、炎症因子標的基、DNA標的基、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)標的基、P53遺伝子活性化剤基、チューブリン阻害剤基、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤基又はインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤基を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、前記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、アドリアマイシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、タクソール、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリンから選択される。いくつかの好ましい実施形態では、前記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF又は5-フルオロウラシルである。
【0008】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の配位子Lは、NH、エチレンジアミン、F、Cl、シュウ酸塩、マロン酸塩、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、2-アミノプロパン、アミノシクロヘキサン、1,1-シクロブタンジカルボン酸、グリコール酸塩、乳酸塩、アミノシクロヘキサン、2-イソプロピル-4,5-ジ(アミノメチル)-1,3-ジオキサシクロペンタン、5-トリフェニルホスフィン-ペンタン酸塩、コハク酸塩、N-ギ酸塩ペンチル-ブチレンスクシンイミド、ポルフィリン、酢酸塩、プロピオン酸塩から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態では、1つの配位子Lは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子に変換できる軸配位子であり、該機能性分子は、機能性分子Dと同じであっても異なってもよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、Pは、軸配位子である。
【0011】
いくつかの実施形態では、Pは、O-C(=O)-X-Yである。
式中、Xは、-NH-、-NR-、-O-又は-S-であり、Rは、任意に置換されるC1-10アルキル基であり、HXYは、機能性分子Dを構成し、或いは、
Xは、-CH-、-CRH-又は-CR-であり、Rは、出現毎にそれぞれ独立して、任意に置換されるC1-10アルキル基であるか又は2つのRは、それらに結合した炭素原子と共に5員又は6員環を形成し、HOOCXYは、機能性分子Dを構成する。
【0012】
本開示の別の態様は、医薬、検出又は機能性材料などの分野における上記一般式(I)の金属錯体の適用も提供し、一般式(I)の金属錯体は、放射線で照射された後に配位子から機能性分子を放出して医薬、蛍光検出又は機能性材料などの機能を実現する。
【0013】
本開示の実施例の技術手段をより明確に説明するために、以下、実施例に係る図面を簡単に説明する。明らかに、以下に説明される図面は、本開示のいくつかの実施例に関するものに過ぎず、本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】10μMの四価白金錯体19-31が60GyのX線で照射された後の配位子放出割合を示す。
図2】体内で安定した四価白金化合物32、33及び34をスクリーニングする反応スキーム、蛍光変化図、UPLC変化図を示す。
図3】オキサリプラチンを親とする四価白金化合物35の生体内での活性化実験の結果を示す。
図4】白金をリンカーとする放射線応答抗体薬物複合体の活性化実験の結果を示す。
図5】放射線により、Pt(IV)錯体がFDAによって承認されたPt(II)薬物を広域で効果的に放出することを駆動することを示す。
図6】放射線療法により薬物放出を駆動できるADCの構築及び特徴付けを示す。
図7】OxaliPt(IV)-ADCの薬物動態プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施例の目的、技術手段及び利点をより明確にするために、以下、本開示の実施例に係る図面を参照しながら、本開示の実施例の技術手段を明確かつ完全に説明する。明らかに、説明される実施例は、本開示の実施例の一部であり、全ての実施例ではない。説明される本開示の実施例に基づいて、当業者が創造的な労働をしない前提で取得する他の全ての実施例は、いずれも本発明の保護範囲に属するものである。
【0016】
本発明は、本発明の基本的な属性から逸脱することなく、他の具体的な形態で実施することができる。なお、矛盾しない限り、本発明のいずれか1つ及び全ての実施形態は、いずれか1つの他の実施形態又は複数の他の実施形態における技術的特徴と組み合わせて別の実施形態を得ることができることが理解されたい。本発明は、このような組み合わせから得られる別の実施形態を含む。
【0017】
本開示において言及される全ての刊行物及び特許は、これらの全ての内容を引用することにより本開示に組み込まれる。引用によって組み込まれた任意の刊行物及び特許に使用される用途又は用語は、本開示において使用される用途又は用語と矛盾すれば、本開示の用途及び用語を基準とする。
【0018】
本明細書において使用される節の表題は、ただ文章を組み立てる目的で使用され、上記主題を制限するものとして解釈されるべきではない。
【0019】
別途に規定しない限り、本明細書に使用される全ての技術用語及び科学用語は、保護を求める主題の属する分野における一般的な意味を有する。ある用語が複数の定義を有する場合、本明細書における定義を基準とする。
【0020】
別途に説明しない限り、任意のタイプの範囲(例えば、配位子の数)を開示するか又はその保護を求める場合、該範囲によってカバーされる任意の部分範囲を含む、カバーする理由がある各可能な数値を単独で開示するか又はその保護を求めることを意図する。例えば、本明細書において、配位子Lの数値範囲、例えば1~5が該範囲内の整数を示す場合、1~5は、1、2、3、4、5を含むだけでなく、1~4及び1~3の範囲を含むことを理解すべきである。
【0021】
本開示の明細書は、化学結合の法則及び原理と一致するものであると解釈されるべきである。場合によっては、所定の位置で置換基を適応させるために水素原子を除去することがある。
【0022】
本開示において使用される「含む」、「含有」又は「包含」などの類似の単語は、該単語の前に出現する要素が該単語の後に列挙された要素及びその同等物をカバーし、記載されていない要素を排除するものではないことを意図する。本明細書において使用される用語「含有」又は「含む(包含)」は、オープンタイプ、セミクローズドタイプ及びクローズタイプであってもよい。換言すれば、前述した用語は、「実質的に…からなる」こと又は「からなる」ことも含む。
【0023】
本明細書において使用される用語「部分」、「構造部分」、「化学部分」、「基」、「化学基」は、分子における特定の断片又は官能基を指す。化学部分は、通常、分子に挿入又は付加された化学的実体であると考えられる。
【0024】
本開示において使用される単数形(例えば、「1種」)は、別途に規定しない限り、複数の形態を含んでもよいことを理解されたい。
【0025】
別途に明記しない限り、本開示では、分析化学、有機合成化学及び配位化学の標準名称並びに標準実験室ステップ及び技術が用いられる。別途に説明しない限り、本開示では、質量分析、元素分析という従来の方法が用いられ、各ステップ及び条件については、本分野における一般的な操作ステップ及び条件を参照することができる。
【0026】
本開示において使用される試薬及び原料は、市販されているか又は一般的な化学合成方法により製造される。
【0027】
本明細書において用語「任意」を使用してある状況を説明する場合、この状況が発生しても発生しなくてもよいことを意味する。例えば、ある環と任意に縮合することは、ある環と縮合するか又はある環と縮合しないことを意味する。例えば、本明細書において使用される用語「任意に置換される」とは、非置換であるか又は非置換である類似体が有する目的・性能を損なわない少なくとも1つの非水素置換基を有することを意味する。
【0028】
本開示において、特別な説明がない限り、上記「置換」の数は、1つ又は複数であってもよく、複数である場合、2つ、3つ又は4つであってもよい。そして、上記「置換」の数が複数である場合、上記「置換」は、同じであっても異なってもよい。
【0029】
本開示において、「置換」の位置について、特別な説明がない限り、位置は、任意である。
【0030】
本明細書において使用される用語「軸配位子」とは、四価白金のdsp六配位構造における2つの軸配位子を意味し、この2つの軸配位子は、錯体が放射線照射により還元された後に錯体から脱離する。
【0031】
本明細書において使用される用語「横配位子」とは、四価白金のdsp六配位構造における4つの横配位子を意味し、この4つの横配位子は、錯体が放射線照射により還元された後に、依然として二価白金イオンと配位してもよく、錯体から脱離してもよい。
【0032】
本明細書において使用される用語「中性配位子」又は「陰イオン配位子」とは、白金に配位可能な配位子を意味し、該配位子は、全体として電荷を帯びていないか又は負電荷を帯びているが、その一部は、陽イオン、例えばトリフェニルホスフィン又はアンモニウム基を有してもよい。
【0033】
本明細書において使用される用語「C-C10アルキル基」とは、1~10個の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐状のアルカン鎖を意味する。例えば、C-Cアルキル基の代表的な実例としては、メチル基(C)、エチル基(C)、n-プロピル基(C)、イソプロピル基(C)、n-ブチル基(C)、t-ブチル基(C)、s-ブチル基(C)、イソブチル基(C)、n-ペンチル基(C)、3-ペンタン基(C)、ネオペンチル基(C)、3-メチル-2-ブタン基(C)、t-ペンチル基(C)、n-ヘキシル基(C)などを含むが、これらに限定されない。用語「低級アルキル基」とは、1~4個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキル基を意味する。「置換されたアルキル基」とは、任意の使用可能な結合点で1つ以上の置換基、好ましくは1~4つの置換基で置換されたアルキル基を意味する。用語「ハロアルキル基」とは、1つ以上のハロゲン置換基を有するアルキル基を意味し、-CHBr、-CHI、-CHCl、-CHF、-CHF及び-CFのような基を含むが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書において使用される用語「アルキレン基」とは、以上の「アルキル基」について記載されているようであるが、2つの結合点を有する二価炭化水素基を意味する。例えば、メチレン基は-CH-基であり、エチレン基は-CH-CH-基である。
【0035】
本明細書において使用される用語「アルコキシ基」及び「アルキルチオ基」とは、それぞれ酸素結合(-O-)又はスルフィド結合(-S-)を介して結合した上述したようなアルキル基を意味する。用語「置換されたアルコキシ基」及び「置換されたアルキルチオ基」は、それぞれ酸素結合又はスルフィド結合を介して結合した置換されたアルキル基を意味する。「低級アルコキシ基」は、Rが低級アルキル基(1~4個の炭素原子を含有するアルキル基)である基ORである。
【0036】
本明細書において使用される用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、ヨウ素又は臭素を意味する。
【0037】
本開示の放射線源は、放射性核種の崩壊によって生成されたα、β、γ線であってもよい。外部放射線源によって生成されたX線、γ線、高エネルギー電子、プロトン、重イオン、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)によって生成されたα粒子及び他の可能な外部源放射線又は内部源放射線は、本開示に適用されてもよい。
【0038】
放射線療法に使用される高エネルギー線は、高い時間空間分解能及び高い組織透過能力を有すると共に、高度な臨床関連性を有する。放射線療法に使用される高エネルギー線により生体内で前駆体分子を活性化し、化学反応させることは、基礎研究の価値及び臨床応用の価値を有する。
【0039】
高エネルギー線によって活性化された化学反応は、放射線により水を分解して大量の活性物質を生成し、これらの活性物質が更に目標基質と反応することに関する。水の放射線分解の生成物のうち、収率が最も高い化合物は、ヒドロキシラジカル及び水和電子である。
【0040】
生体内が一般に還元性環境にあり、グルタチオン、ビタミンCなどの大量の物質がヒドロキシラジカルをクエンチングすると共に、水和電子の収率を向上させる。このように、水和電子を利用して化学反応を行うことは、生体化学における大きな突破である。
【0041】
高エネルギー線(例えば、X線及びγ線)は、外部刺激として用いられ、前駆体配位子を有する錯体を化学反応させ、機能性分子を放出させることができる。放射線の透過能力が高く、放射線の時間空間分解能が高いため、放射線治療装置によって前駆体配位子を非常に効果的に活性化することができる。例えば、X線の照射は、前駆体配位子を活性化する外部トリガーとして、放射線により引き起こされる化学反応を空間的及び時間的に制御することができるため、このような前駆体配位子がその活性化形態に変換される面積、時間及び投与量を正確に制御することができる。
【0042】
分子の放射化学変化は、全ての放射化学的効果を研究する物質ベースである。放射化学的効果は、主に、電離放射線が目標分子の直接的な化学変化を引き起こす直接効果と、放射線が環境分子に堆積した後に目標分子の間接的な化学作用を引き起こす間接効果という2種類がある。直接効果と間接効果は同時に存在するが、間接効果は生体内に主導的地位を占める。組織中に70~80%が水であるため、主に水の放射線分解により様々な活性物質を生成し(スキーム1a)、収率が最も高いのは、ヒドロキシラジカル(・OH)と水和電子(eaq )である。水の放射線分解は、10-4秒間内で完了するため、放射線によって誘導された反応が瞬間的に起こることが多いので、高い制御可能性を有する。・OHによって誘導された分解化学反応及び関連する蛍光プローブが生体イメージングに成功裏に適用されたが、還元性腫瘍微小環境による・OHに対する迅速なクエンチングは、・OHの生体内での発展を阻害する。放射線から生成されたeaq の収量、即ち水の放射線分解のもう1つの主な生成物の還元性環境における収率が増加する。そこで、ここでは、本発明者らは、局部に対して正確に放射線療法を実施してeaq を生成して化学せん断反応を媒介する実現可能性を研究し(スキーム1b)、放射線を化学ツールとして、高い腫瘍選択性で目標分子を放出する(スキーム1c)。
【化1】
スキーム1a
【化2】
スキーム1b(Mは、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pd、Agなどである)
【化3】
スキーム1c
【0043】
スキーム1、放射線によって誘導された金属複合体の腫瘍における制御放出である。a、電離放射線による水の放射線分解である。水和電子のG値は、2.63である(G値は、システムにおいて100eVのエネルギーを吸収することにより形成された分子数である)。b、放射線により生成された水和電子は、金属イオンと金属錯体を還元することができる。c、Pt(IV)錯体は、放射線により還元され、Pt(II)抗癌剤及び活性軸配位子(例えば、蛍光プローブ又は抗癌剤)を放出することができる。
【0044】
反応過程を究明するために、まず、oxaliPt(IV)-(Suc)(80mM、DO)の溶液を脱酸した後に、40kGyのγ線(60Co源、200Gy/min、200min、図5のa)で照射し、UPLC-MSで放射線照射後の溶液を検出し、1つの新しいピークのみが観察され、その保持時間(図5のb)及び質量分析シグナル(図5のc)は、いずれもオキサリプラチン標準試料と一致する。生成物を核磁気共鳴(NMR)で分析した。195Pt-NMRで示されるように、Pt(IV)複合体1615ppmのピークは、放射線照射後にほぼ消失し(図5のdの上部)、-1988ppmに新しい単一ピーク(図5dの中間)が現れ、Pt(II)複合体の化学シフト範囲内にあり、かつオキサリプラチンの化学シフトと合致する(図5のdの下部)。上記実験は、いずれも、軸配位子の放出が、加水分解によるものではなく、Pt(IV)の放射線還元によるものであることを証明する。
【0045】
本戦略の普遍性を究明するために、本発明者らは、更に別の世界的な範囲に使用される白金系薬物であるカルボプラチンとシスプラチンについて同様の研究を行った。核磁気共鳴の特徴付けによれば、cisPt(IV)-(Suc)及びcarboPt(IV)-(Suc)は、DOにおいてγ線で照射された後、対応するPt(II)薬物を放出することを発見した(図5のe、f)。白金系薬物の化学療法における幅広い応用に鑑み、本作業で提案された放射線でPt(IV)のプロドラッグの還元を駆動した後にPt(II)の放出を制御する戦略は、放射線療法により駆動された正確な化学療法の実現において非常に望まれている。
【0046】
図5は、放射線により、Pt(IV)錯体がFDAによって承認されたPt(II)薬物を広域で効果的に放出することを駆動することを例示している。a、放射線駆動によりPt(IV)錯体からPt(II)薬物を放出する模式図である。b、oxaliPt(IV)-(Suc)、oxaliPt(IV)-(Suc)+放射線、オキサリプラチン及びoxaliPt(IV)-(OH)のUPLCクロマトグラムであり、オキサリプラチン及びoxaliPt(IV)-(OH)を参照とする。oxaliPt(IV)-(Suc)2の放射線駆動により放出された主な生成物は、オキサリプラチンと同じ保持時間を有する。検出器の波長を254nmに設定した。c、oxaliPt(IV)-(Suc)の放射線駆動により放出された生成物のMSは、放出された生成物がオキサリプラチンであることを示している。d~f、核磁気共鳴(NMR)により、Pt(IV)錯体から放出されたPt(II)薬物を研究した。d、oxaliPt(IV)-(Suc)(1615ppm、上部)、放射線照射生成物(-1988ppm、中間)及び外部標準(下部)の195Pt-NMRスペクトルである。e、cisPt(IV)-(Suc)(1082ppm、上部)、放射線照射生成物(-2150ppm、中間)及び外部標準(下部)の195Pt-NMRスペクトルである。f、carboPt(IV)-(Suc)(1883ppm、上部)、放射線照射生成物(1707ppm、中間)及び外部標準(下部)の195Pt-NMRスペクトルである。195Pt-NMRスペクトルは、FDAによって承認されたPt(II)薬物の放射線駆動による放出が有効であり、Pt(IV)錯体に広く適用されていることを示している。
【0047】
本開示は、一般式(I)の金属錯体を提供する。
―M―P (I)
ここで、Mは、四価白金であり、Lは、出現毎にそれぞれ独立して、中性配位子又は陰イオン配位子であり、xは、1~5の整数であり、Pは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子Dに変換できる四価白金イオンの配位子である前駆体配位子である。
【0048】
Lは、四価白金錯体における軸配位子及び/又は横配位子であってもよい。配位子Lは、四価白金又は二価白金と配位可能な配位子である。1つの好ましい実施形態では、上記配位子Lは、四価白金又は二価白金に配位して安定な錯体を形成することができる配位子である。1つのより好ましい実施形態では、横配位子である配位子Lは、放射線で照射された後にも白金イオンと形成した安定な錯体を保持する。
【0049】
xの選択により、全てのL及びPは、合計6配位の要件を満たす。xが2~5である場合、錯体におけるx個のLは、同じであっても異なってもよい。いくつかの実施形態では、L及びPは、いずれも1つの配位を有する配位子であり、xは5である。いくつかの実施形態では、Lは、1つの配位を有する配位子であり、Pは、2つの配位を有する配位子であり、xは、4である。
【0050】
いくつかの実施形態では、上記機能性分子Dは、薬物分子、蛍光分子又は機能性材料分子を含むが、これらに限定されない。本開示の四価白金イオン錯体は、少なくとも1つの軸配位子が放射線で照射された後に錯体から脱離して機能性分子を形成することに特別である。1つの実施形態では、2つの軸配位子は、放射線で照射された後に錯体から脱離する。
【0051】
いくつかの実施形態では、上記機能性分子Dは、抗癌剤分子である。いくつかの好ましい実施形態では、上記機能性分子Dは、抗癌剤分子であり、そして少なくとも1つのLは、腫瘍細胞を標的とする基を有する。例えば、上記腫瘍細胞を標的とする基を有するLは、糖輸送体標的基、グルタミン受容体標的基、リン酸エステル受容体標的基、上皮成長因子受容体標的基、インテグリン標的基、エネルギー代謝酵素標的基、ミトコンドリア標的基、血清アルブミン標的基、炎症因子標的基、DNA標的基、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)標的基、P53遺伝子活性化剤基、チューブリン阻害剤基、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤基又はインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤基を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、上記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、アドリアマイシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、タクソール、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリンから選択される。いくつかの好ましい実施形態では、上記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF又は5-フルオロウラシルである。
【0053】
いくつかの実施形態では、少なくとも1種の配位子Lは、NH、エチレンジアミン、F、Cl、シュウ酸塩、マロン酸塩、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、2-アミノプロパン、アミノシクロヘキサン、1,1-シクロブタンジカルボン酸、グリコール酸塩、乳酸塩、アミノシクロヘキサン、2-イソプロピル-4,5-ジ(アミノメチル)-1,3-ジオキサシクロペンタン、5-トリフェニルホスフィン-ペンタン酸塩、コハク酸塩、N-ギ酸塩ペンチル-ブチレンスクシンイミド、ポルフィリン、酢酸塩、プロピオン酸塩から選択される。
【0054】
いくつかの実施形態では、1つの配位子Lは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子に変換できる軸配位子であり、該機能性分子は、機能性分子Dと同じであっても異なってもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、Pは、軸配位子である。
【0056】
いくつかの実施形態では、Pは、O-C(=O)-X-Yである。
式中、Xは、-NH-、-NR-、-O-又は-S-であり、Rは、任意に置換されるC1-10アルキル基であり、HXYは、機能性分子Dを構成し、或いは、
Xは、-CH-、-CRH-又は-CR-であり、Rは、出現毎にそれぞれ独立して、任意に置換されるC1-10アルキル基であるか又は2つのRは、それらに結合した炭素原子と共に5員又は6員環を形成し、HOOCXYは、機能性分子Dを構成する。
【0057】
1つの実施形態では、任意に置換されたC1-10アルキル基は、C1-10アルキル基又は1つ以上の置換基で置換されたC1-10アルキル基であり、上記置換基は、ハロゲン、-R、-NR、-CN、-NO、-N、-OR、-SR、-NHCOR、-O-COR、-CH=CR、-C(=O)-R、-C(=O)-OR、-C(=O)-Cl、-C(=O)-NH、-C(=O)-NH-R及び-C(=O)-NRを含むが、これらに限定されず、R及びRは、独立して、H、C-Cアルキル基、C-Cハロアルキル基、C-Cアルケニル基、C-C10シクロアルキル基、C-C20アリール基又は5~20個の環原子を有するヘテロアリール基であり、上記置換基について記述されたアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基及びヘテロアリール基は、1つ以上のハロゲン、ヒドロキシ基、メルカプト基、-NH、-CN、-NO、-N、-NHCOH、-O-C(=O)H、-C(=O)H、-C(=O)-OH、-C(=O)-Cl、-C(=O)-NH、-C(=O)-NH-CH、-C(=O)-CH、-C(=O)-OCH、C-Cアルキル基、C-Cアルコキシ基、C-Cハロアルキル基、C-Cアルケニル基、C-C10シクロアルキル基、C-C20アリール基、又は5~20個の環原子を有するヘテロアリールで任意に置換される。
【0058】
本開示の別の態様は、医薬、検出又は機能性材料などの分野における上記一般式(I)の金属錯体の適用も提供し、一般式(I)の金属錯体は、放射線で照射された後に配位子から機能性分子を放出して医薬、蛍光検出又は機能性材料などの機能を実現する。
【0059】
いくつかの実施形態では、本開示の四価白金錯体は、二価白金薬物の前駆体として、放射線照射によって生成された水和電子を還元して二価白金生成物を得て、該二価白金生成物が抗癌活性などの薬物活性を有する一方、四価白金錯体における1つ又は2つの軸配位子分子は、放射線照射によって化学反応して1種又は2種の機能性分子を放出し、この機能性分子は、二価白金生成物と相乗的に薬物活性を発揮することにより、四価白金錯体の有効投与量を低下させることができるため、薬物の毒性・副作用を減少させる。
【0060】
いくつかの実施形態では、本開示の四価白金錯体は、軸配位子又は横配位子に標的基を導入することにより、白金化合物の標的性を向上させることができる。例えば、四価白金錯体の軸配位子又は横配位子に糖輸送体標的基、グルタミン受容体標的基、リン酸エステル受容体標的基、上皮成長因子受容体標的基、インテグリン標的基、エネルギー代謝酵素標的基、ミトコンドリア標的基、血清アルブミン標的基、炎症因子標的基、DNA標的基、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)標的基、P53遺伝子活性化剤基、チューブリン阻害剤基、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤基、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤基などの基を導入することにより標的性を向上させることができ、具体的には、『化学進展』2018年30(6)期の第831~846ページを参照し、該文献の全ての内容は、本開示の一部として本文に組み込まれる。
【0061】
1つの実施形態では、四価白金の横配位子又は軸配位子に抗体分子又はポリペプチドを導入する。配位子に抗体分子又はポリペプチドを導入することについては、例えば、Green Chem.、2020、22、2203~2212を参照することができる。
【0062】
1つの実施形態では、四価白金錯体の軸配位子又は横配位子にハーセプチンを導入する。1つの好ましい実施形態では、四価白金錯体の軸配位子にハーセプチンを導入する。
【0063】
1つの実施形態では、標的の役割を果たす配位子は、マレイミド基を含んでもよく、マレイミド基は、抗体又はポリペプチドのメルカプト基に結合する。
【0064】
1つの実施形態では、標的の役割を果たす配位子は、スクシンイミド基を含んでもよく、スクシンイミド基は、抗体又はポリペプチドのアミノ基に結合する。
【0065】
1つの実施形態では、標的の役割を果たす配位子は、標的作用を有するポリペプチド分子、例えば、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、アルギニン(R)-グリシン(G)アスパラギン酸(D)トリペプチド、ケモカインレセプター(CXCR4)などであってもよい。
【0066】
1つの実施形態では、標的の役割を果たす配位子は、横配位子又は軸配位子である。1つの好ましい実施形態では、標的の役割を果たす配位子は、軸配位子である。
【0067】
いくつかの実施形態では、一般式(I)の金属錯体は、以下に示される四価白金錯体である。
【化4】
ここで、H-OC(O)-X-Y又はH-X-Yは、機能性分子である。
【0068】
軸配位子Lは、同様に脱離性基であり、以下の3種類に分けられる。1、機能しない末端封止剤であり、例えば、酢酸などの治療又は標的作用を果たさない分子である。2、標的の役割を果たす分子であり、抗体又はポリペプチドのメルカプト基と結合する、マレイミドを含む分子であってもよく、抗体又はポリペプチドのアミノ基と結合する、スクシンイミドを含む分子であってもよく、例えば、PSMA、RGD、CXCR4などに直接的に結合する、標的の作用を有するポリペプチド分子であってもよい。3、治療の役割を果たす分子であり、もう1つの軸配位子と同じであるか又はもう1つの配位子とは異なり、協調して作用する2つの薬物である。
【0069】
1つの実施形態では、錯体における配位子Pは、以下に示される反応により得られる。
【化5】
【0070】
ヒドロキシル化された四価白金と等当量の活性エステルとをジメチルスルホキシド中に常温、例えば室温で、例えば24時間撹拌して、目標生成物を得ることができ、溶媒を凍結乾燥させ、更に有機溶媒、例えばエチルエーテル、エタノールで固体を洗浄して、精製して目標製品を得ることができる。活性エステルは、商業的に入手可能であってもよく、一般的な有機化学合成法により製造されてもよい。例えば、以下の方法で活性エステルを製造することができる。
【化6】
ここで、Xは、NH、NR、O又はSである。
【0071】
Y-XHをジクロロメタンに溶解させ、等当量のジブチルジイミドカーボネートを加え、更に等当量のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を加え、12時間反応させ、シリカゲルカラムにより精製して、活性エステルを得ることができる。
【化7】
ここで、Xは、CH、CRH又はCRである。
【0072】
カルボン酸Y-X-COOHをジクロロメタンに溶解させ、2当量のジイソプロピルエチルアミンを加え、等当量の縮合剤1-エチル-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI)を加え、更にN-ヒドロキシコハク酸イミドを加え、12時間反応させ、シリカゲルカラムにより精製して、活性エステルを得ることができる。
【0073】
1つの実施形態では、本開示では、第一級アミン又は第二級アミンを含む薬物を機能性分子として使用する。1つの好ましい実施形態では、本開示では、第一級アミン又は第二級アミンを含む抗癌剤を機能性分子として使用する。第一級アミン又は第二級アミンを含む薬物は、例えば、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、アドリアマイシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル及びそれらの誘導体を含む。第一級アミン又は第二級アミンを含む薬物は、天然にアミノ基を含まない薬物のアミノ誘導体を更に含む。換言すれば、本来アミノ基を含まない薬物が化学修飾によりアミノ基を持ち、更に第一級アミン又は第二級アミンにより活性エステルを製造した後、ヒドロキシル化された四価白金と反応させて、O(O)C-X-Y配位子が配位した四価白金を得ることができる。
【0074】
1つの好ましい実施形態では、上記機能性分子は、モノメチルアウリスタチンEである。
【0075】
1つの実施形態では、本開示では、ヒドロキシ基を含む薬物を機能性分子として使用する。1つの好ましい実施形態では、本開示は、ヒドロキシル基を含む抗癌剤を機能性分子として使用する。ヒドロキシ基を含む機能性分子は、例えば、タクソール、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビンなどを含む。ヒドロキシ基を含む機能性分子は、天然にヒドロキシ基を含まない薬物のヒドロキシ誘導体を更に含む。換言すれば、本来ヒドロキシ基を含まない薬物が化学修飾によりヒドロキシ基を持ち、更にヒドロキシ基により活性エステルを製造した後、ヒドロキシル化された四価白金と反応させて、O(O)C-X-Y配位子が配位した四価白金を得ることができる。
【0076】
1つの実施形態では、本開示では、メルカプト基を含む薬物を機能性分子として使用する。1つの好ましい実施形態では、本開示は、メルカプト基を含む抗癌剤を機能性分子として使用する。メルカプト基を含む機能性分子は、例えば、6-メルカプトプリンなどを含む。メルカプト基を含む機能性分子は、天然にメルカプト基を含まない薬物のメルカプト誘導体を更に含む。換言すれば、本来メルカプト基を含まない薬物が化学修飾によりメルカプト基を持ち、更にメルカプト基により活性エステルを製造した後、ヒドロキシル化された四価白金と反応させて、O(O)C-X-Y配位子が配位した四価白金を得ることができる。
【0077】
薬物分子と類似し、他の機能性分子から活性エステルを製造した後、ヒドロキシル化された四価白金と反応させて、O(O)C-X-Y配位子が配位した四価白金を得ることもできる。
【0078】
(実施例)
実施例の出発原料は、市販で入手可能であり、及び/又は有機合成分野の当業者に周知の様々な方法で製造できる。有機合成分野の当業者は、下記合成方法から反応条件(溶媒、反応雰囲気、反応温度、実験の持続時間及び後処理を含む)を適宜選択する。有機合成分野の当業者としては、分子の各部に存在する官能基が提案された試薬及び反応と適合するはずであることを理解するであろう。NMRは、Bruker AVANCE 400 MHz分光計で記録された。高分解能質量スペクトルは、Bruker Fourier Transform Ion Cyclotron共振質量分析計で測定された。使用された液体クロマトグラフィー-質量分析計は、Waters e2695メーターであり、Waters 2995 PDA及びWaters Acquity QDA質量分析計が装備された。
【0079】
金属イオン価数の変化は電子の移動に関与し、大量の金属イオン及び金属錯体に対して高エネルギー線駆動による化学反応の研究を行った。
【0080】
以下の金属塩及び金属錯体をスクリーニングした。
【化8】
【0081】
実験操作ステップは、以下のとおりである。化合物を超純水に溶解させて100μMの金属化合物溶液を調製し、そして窒素ガスを15分間送り込むことにより溶液中の酸素を除去した。脱酸された金属溶液を放射線治療器(RAD・SOURCE、型番RS 2000-225、照射パラメータ4Gy/min)のX線で0~1000Gyの線量で照射した。最後に残りの原料の量を測定し、反応物がなくなった時の濃度を計算し、放射線収率(放射線収率=反応物がなくなった時の濃度/放射線の線量)を計算した。
【0082】
表1、放射線照射下での金属化合物の還元による収率
【表1】
【0083】
上記結果をまとめると、水溶液中に2つ以上の安定な価数を有する化合物がいずれも還元されることが分かった。そして、実験では、金属錯体に対して、金属イオンの還元に伴い、通常、錯体の構造が変化し、更に配位子化合物を放出することが分かった。
【0084】
分子合成経路は以下のとおりである。
分子1~17は、いずれも商業的に入手可能な化合物である。
分子19~28は、以下の合成経路を通用する。
【化9】
【化10】
【0085】
商業的に入手可能な二価白金(1mmol)と3mLの過酸化水素とを3時間反応させ、濾過して、ジヒドロキシル化された四価白金を得ることができる。四価白金とトリフェニルホスフィンの活性エステル(2.2mmol)とを反応させて、目標化合物を得ることができる。
【0086】
化合物19 質量分析検出:511.62(2つの正電荷を帯びている)
【0087】
化合物20 質量分析検出:547.66(2つの正電荷を帯びている)
【0088】
化合物21 質量分析検出:560.67(2つの正電荷を帯びている)
【0089】
化合物22 質量分析検出:513.65(2つの正電荷を帯びている)
【0090】
化合物23 質量分析検出:560.69(2つの正電荷を帯びている)
【0091】
化合物24 質量分析検出:597.69(2つの正電荷を帯びている)
【0092】
化合物25 質量分析検出:551.65(2つの正電荷を帯びている)
【0093】
化合物26 質量分析検出:553.67(2つの正電荷を帯びている)
【0094】
化合物27 質量分析検出:553.16(2つの正電荷を帯びている)
【0095】
化合物28 質量分析検出:511.62(2つの正電荷を帯びている)
【0096】
分子29~31は、以下の合成経路を通用する。
ヒドロキシル化された四価白金と等当量の活性エステルとを反応させた後、2当量の無水コハク酸を加えて、目標製品29~31を得ることができる。
【化11】
【0097】
化合物29 質量分析検出:675.06(1つの負電荷を帯びている)
【0098】
化合物30 質量分析検出:747.16(1つの負電荷を帯びている)
【0099】
化合物31 質量分析検出:773.17(1つの負電荷を帯びている)
【0100】
分子32~34は、以下の合成経路を通用する。
【化12】
【化13】
【0101】
ヒドロキシル化された四価白金と等当量の活性カルバミン酸とを反応させた後、2当量の無水コハク酸を加えて、目標製品32~34を得ることができる。
【0102】
化合物32 質量分析検出:633.01(1つの負電荷を帯びている)
【0103】
化合物33 質量分析検出:705.10(1つの負電荷を帯びている)
【0104】
化合物34 質量分析検出:731.11(1つの負電荷を帯びている)
【0105】
分子35の合成ステップについて
【化14】
【化15】
【0106】
オキサリプラチンを酸化して得られた四価白金と等当量の活性エステルとを反応させた後、等当量の活性カルバミン酸と反応させて、製品35を得ることができる。
【0107】
分子35 質量分析検出:1047.35(1つの正電荷を帯びている)
【0108】
分子36~38の合成について
【化16】
【0109】
商業的に入手可能なオキサリプラチン(10mmol)と30mLの過酸化水素とを3時間反応させ、濾過して、ジヒドロキシル化された四価白金を得ることができる。
【0110】
四価白金とマレイミドの活性エステル(12mmol)とを10mLのDMF中に12時間反応させて化合物37を得ることができ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、DCM:MeOH=9:1で溶出剤として精製して分離させた。
【0111】
化合物37をDMFに溶解させ、ジスクシンイミジルカルボナート(24mmol)を加え、6時間反応させて、化合物38を得ることができ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、DCM:MeOH=20:1で溶出剤として精製して分離させた。
【0112】
化合物38をDMFに溶解させ、MMAE(10mmol)を加え、24時間反応させて、化合物36を得ることができ、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、DCM:MeOH=20:1で溶出剤として精製して分離させた。
【0113】
分子37 質量分析検出:625.14(1つの水素陽イオンピークが増加した)
【0114】
分子38 質量分析検出:766.15(1つの水素陽イオンピークが増加した)
【0115】
分子36 質量分析検出:1368.62(1つの水素陽イオンピークが増加した)
【0116】
本発明者らは、白金系錯体を研究し、該放射線活性化手段の生体内での実現可能性を決定する。まず四価白金錯体を高エネルギー線で照射することにより、白金薬にとって、該反応が広域性を有することを証明し、その結果は、図1に示すとおりである。
【0117】
実験操作ステップは、以下のとおりである。四価白金錯体を超純水に溶解させて10μMの溶液を調製し、そして窒素ガスを送り込むことにより溶液中の酸素を除去した。脱酸された四価白金錯体溶液を放射線治療器(RAD・SOURCE、型番RS 2000-225、照射パラメータ4Gy/min)のX線で0~60Gyの線量で照射した。超高速液体クロマトグラフィーにより、新たに生成された軸配位子ピークのピーク面積を検出し、純粋な配位子の高速液体クロマトグラフィーにおけるピーク面積-濃度図の標準曲線により、放射線照射中の軸配位子の放出量を決定した。
【0118】
10μMの四価白金錯体19~31を60GyのX線で照射した後の配位子放出割合(反応後の軸配位子の実際放出量/軸配位子の理論的な完全放出量)の実験結果は、図1に示すとおりである。分子19~分子31に対して放射線活性化検出を行ったところ、高エネルギー線で四価白金金属錯体を還元し、かつ軸配位子を放出することは、汎用性を有すると決定した。
【0119】
この放射線で活性化された化学反応を生体内に適用しようとすると、解決しなければならない問題は、該錯体が体内の還元性環境において安定することである。FDAによって承認された白金薬としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンの3種類があり、これら3種類の白金薬を親とする四価白金前駆体のうち、体内で特に腫瘍内の還元環境において安定する四価白金薬があるか否か?また、この方式では、カルボキシル配位子のみを放出することができるか否か?アミノ基を含有する薬物が多く存在するため、化合物32、33及び34に対して安定性スクリーニングを行った。結果は、図2に示すとおりである。
【0120】
実験ステップは以下のとおりである。化合物32、33、34をそれぞれ純水に溶解させて10μMの溶液を調製し、そして窒素ガスを送り込むことにより溶液中の酸素を除去した。脱酸された四価白金錯体溶液を放射線治療器(RAD・SOURCE、型番RS 2000-225、照射パラメータ4Gy/min)のX線で0~60Gyの線量で照射した。超高速液体クロマトグラフィーにより軸配位子の放出量を検出した。これにより、高エネルギー線に対する化合物の応答結果を得た。
【0121】
32、33、34をそれぞれ純水に溶解させて10μMの溶液を調製し、そして溶液中の酸素を除去し、更に内因性還元物質であるビタミンCを加え、ビタミンCの濃度を2mMとし、インキュベート時間を合計24hとし、異なる時間帯の軸配位子の放出量を検出した。これにより、還元環境に対する化合物の安定性を決定した。
【0122】
オキサリプラチンを親とする四価白金錯体から10μMの溶液を調製し、そして溶液中の酸素を除去し、更に異なる濃度の様々なタイプの内因性還元物質(システイン、グルタチオン、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を加えた。これにより、細胞環境又は生体環境における内因性還元物質に対する化合物の安定性を決定した。
【0123】
図2は、体内で安定した四価白金化合物32、33及び34をスクリーニングした実験結果である。図2中に、(A)は、研究に使用された3つの白金系化合物の構造を示しており、(B)、(G)、(I)は、これら3つの四価白金系化合物の反応スキームであり、(C)は、分子34をVcと共にインキュベートした後の蛍光変化図であり、分子34がVcの存在下で比較的に安定し、還元反応が生じていないことがわかり、(D)は、分子34を放射線で照射した後の蛍光変化図であり、相対蛍光強度が放射線照射線量と線形関係にあることがわかり、(E)は、分子34をVcと共にインキュベートした後のUPLC変化図であり、分子34をVcと共にインキュベートした後に新たなクマリンピークが現れないことが分かり、(F)は、分子34を放射線で照射した後のUPLC変化図であり、放射線照射過程において、放射線照射量の増大に伴って軸配位子であるクマリンが徐々に放出され、(H)は、分子32をVcと共にインキュベートした後の蛍光変化図であり、(J)は、分子33をVcと共にインキュベートした後の蛍光変化図である。
【0124】
オキサリプラチンを親分子とする化合物が安定性を有すると共に、試験管内で高エネルギー線によって活性化されることを決定した後、該活性化方式の生体における実現可能性を研究した。活性化された後に配位子を放出して近赤外蛍光を発することができ、生体レベルで非破壊で軸配位子の放出を決定するために用いることができるように分子35を設計した。実験結果は、図3に示すとおりである。
【0125】
実験ステップは、以下のとおりである。
【0126】
試験管実験の場合、分子35を純水に溶解させて10μMの溶液を調製し、そして溶液中の酸素を除去した。脱酸された四価白金錯体溶液を放射線治療器(RAD・SOURCE、型番RS 2000-225、照射パラメータ4Gy/min)のX線で0~60Gyの線量で照射した。その後に、小動物用イメージャで溶液の蛍光シグナルの変化を検出した。
【0127】
細胞実験の場合、分子35をHBSS緩衝液に溶解させて10μMの溶液を調製し、そして溶液中の酸素を除去した。その後に、緩衝液を細胞と共にインキュベートした後、放射線治療器のX線で0~16Gyの線量で照射した。共焦点顕微鏡で細胞の蛍光シグナルを検出した。
【0128】
生体実験の場合、分子35をDMSOに溶解させて20mMの母液を調製し、マウスの腫瘍領域に1%DMSOを含む20μLのリン酸塩緩衝溶液(pH=7.4)を注射し、分子35の濃度を200μMとし、腫瘍を局所的にX線で照射し、線量をそれぞれ0、4、12Gyとし、その後、小動物用イメージャでその腫瘍領域の蛍光シグナルを検出した。
【0129】
図3は、オキサリプラチンを親とする四価白金の生体内での活性化実験を示す。図3中に、(A)は、分子35の構造及び活性化概略図であり、(B)は、分子35が試験管内で軸配位子を放出する概略図であり、(C)は、分子35が細胞環境で活性化された共焦点画像であり、(D)は、分子35がマウスの腫瘍モデルにおいて活性化された小動物イメージング画像である。
【0130】
実験結果によれば、分子35が試験管、細胞及びマウスモデルのいずれにおいても生体内で高エネルギー線によって還元されて放出されたことを示しており、該放出戦略が概念的に証明されている。
【0131】
放射線療法手段によって化学療法薬を活性化することは、プレシジョンメディシンの目標に適合し、抗体薬物複合体を利用してこの目標を達成することができる。親であるオキサリプラチンをリンカーとして前駆体薬物化合物36を製造し、前駆体薬物化合物36を抗体Herceptinに結合させて抗体薬物複合体を製造し、抗体薬物複合体に対してマウス治療実験を行って研究し、結果は、図4に示すとおりである。
【化17】
【0132】
実験ステップは、以下のとおりである。
抗体薬物複合体(ADC)の製造について、1.5mLの遠心分離管に200μLのリン酸緩衝塩溶液を加え、更に50mg/mLのHerceptin溶液を100μL加えた後、1mMのTECPを75μL加えて1.5h反応させてジスルフィド結合を切断した。更に反応液に10mMの化合物36のDMSO溶液を35μL加え、1h反応させた。限外濾過遠心分離により、反応していない小分子を除去し、抗体薬物複合体を得た。
【0133】
抗体薬物複合体の体外放出実験について、製造された抗体薬物複合体を50nMに希釈し、0~16GyのX線で照射し(RAD・SOURCE、型番RS 2000-225、照射パラメータ4Gy/min)、質量分析により機能性分子MMAEの質量分析シグナルの強度を検出し、更に外部標準曲線であるMMAE濃度-質量分析シグナル強度曲線によりMMAEの放出量を決定した。
【0134】
細胞毒性実験について、異なる濃度の抗体薬物複合体を細胞と共にインキュベートし、異なる線量のX線で照射することにより、異なる条件での抗体薬物複合体の癌細胞に対する半数阻害濃度を決定した。
【0135】
動物治療実験について、マウスを4つの群に分け、第1群の場合、PBS溶液のみを注射し、第2群の場合、PBSを注射した後にX線で照射し、第3群の場合、白金抗体薬物複合体のみを注射し、第4群の場合、抗体薬物複合体を注射した後にX線で照射した。腫瘍の体積を測定した。
【0136】
図4は、白金をリンカーとする放射線応答抗体薬物複合体を示す。図4中に、(A)は、抗体薬物複合体(ADC)が活性化されてMMAEを放出する概略図であり、(B)は、抗体薬物複合体(50nM)の試験管内での放出実験を示しており、(C)は、抗体薬物複合体の細胞毒性実験を示しており、(D)は、マウス体重変化曲線であり、(E)は、マウス腫瘍成長曲線であり、(F)は、24日目の腫瘍画像であり、(G)は、24日目の腫瘍質量図である。
【0137】
該治療方法は、腫瘍の成長を顕著に阻害することができ、極めて高い臨床的応用価値を有する。
【0138】
本開示の実施例は、四価白金錯体を放射線で照射して機能性分子を放出させるという戦略の実現可能性を原理的に説明した。更に、本開示の実施例は、機能性分子MMAEをモデルとして、四価白金錯体を放射線で照射して薬物分子を放出させるという戦略の実現可能性を説明した。本開示の実施例は、錯体から放出された機能性分子の濃度と線量とが良好な線形関係を有することを更に説明した。
【0139】
プロドラッグは、不活性物質であり、酵素又はその他の化学物質の作用により体内で活性薬物に変換される。このような方法は、製薬業に広く適用されており、所望の位置で十分な高濃度の薬物を放出することが求められている。抗体薬物複合体(ADC)は、完璧な例であり、腫瘍選択性があるため、応用において非常に見込みがあるが、通常、薬物の放出が制御されにくいため、その応用が阻害される。実際には、典型的なADC(例えば、TDM-1)は、受容体の媒介による細胞エンドサイトーシスにより薬物の放出を実現する必要があり、異質性腫瘍に対する治療効果が思い通りにならない。治療効果を向上させ、副作用を減少させるために、科学者らは、多くの薬物放出戦略を開発した。臨床研究において、ADCのリンカーは、しばしば分解不可能であるか、又は内因性刺激、例えば酸性条件、リソソームプロテアーゼ及びGSHなどで分解を開始する必要がある。外因性刺激(例えば化学的小分子)の媒介による放出戦略に対する臨床研究がほとんどなく、これは、主に、臨床試験における化学的小分子による副作用が評価されにくいためである。したがって、本発明者らは、腫瘍における薬物の放出効率を向上させるために、放射線駆動によるせん断化学をADC担持薬物の放出に適用することができるか否かを研究することを試みた。まず、oxaliPt(IV)-OHカルバミン酸リンカーを用いて、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)とモノクローナル抗HER2抗体トラスツズマブ(一般的に使用されるADC系)を結合させた(図6a)。OxialPt(IV)-カルバミン酸リンカーは、X線で生成されたeaq に対して選択的応答を有し、さらに脱炭酸されて軸配位子を放出して、高毒性の遊離MMAEを得た(図6a)。
【0140】
既存の方法に従い、2.2当量のTEPでトラスツズマブをフリーメルカプト基に還元し、oxaliPt(IV)複合体を還元せず、そのまま反応系に10当量のMMAEを加えた。粗生成物をPD-10カラムで精製した。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、トラスツズマブ-oxaliPt(IV)-MMAE(oxaliPt(IV)-ADC)共役体に1つのメインピークがあることを示し(図6b)、MALDI-TOF-MS分析によれば、各抗体のメインピークは、4つのペイロード(図6c)を含有し、これは、体内で腫瘍に対して選択的に薬物を投与する最適な薬物-抗体割合(DAR)である。
【0141】
放射線駆動による放出がADCの薬物放出を実現するか否かをテストするために、本発明者らは、HER2を中レベルで発現するヒト胃癌細胞系であるBGC823細胞を選択し、oxaliPt(IV)-ADC+X線の細胞生存能力を検出した(図6d)。酸素欠損条件下では、oxaliPt(IV)-ADCのみでBGC823細胞を処理し、酸素正常条件下では、oxaliPt(IV)-ADC及びoxaliPt(IV)-ADC+8GyのX線のみで処理した。96時間培養した後、CCK8で検出したところ、oxaliPt(IV)-ADC+8GyのX線で処理された群の細胞生存能力が明らかに低下し、そのIC50が2.60±1.60nMであることを示している。これに対して、oxaliPt(IV)-ADCの場合、IC50は、85.90±24.16nMである。したがって、放射線+oxaliPt(IV)-ADCの場合のBGC823細胞系における細胞毒性は、oxaliPt(IV)-ADCの場合の33倍である。酸素欠損条件下では、oxaliPt(IV)-ADCの場合、観察可能な細胞毒性を示しておらず、oxaliPt(IV)-ADCの場合の体外安定性がよいことを示している。
【0142】
図6は、放射線療法により薬物放出を駆動できるADCの構築及び特徴付けを示しており、aは、トラスツズマブ-Pt(IV)-MMAE薬物複合体(oxaliPt(IV)-ADC)の構造、及びX線で薬物MMAEの放出を駆動する概略図である。bは、HIC-HPLCにより測定したoxaliPt(IV)-ADCの純度を示している。b、MALDI-TOF分析によれば、oxaliPt(IV)-ADCの薬物-抗体比率が約4であることを示している。cは、MMAE、oxaliPt(IV)-ADC、oxaliPt(IV)-ADC+8GyのX線で処理されたBGC823細胞の細胞生存率を示している。
【0143】
陽電子放出断層撮影-コンピュータ断層撮影(PET-CT)を用いてBGC823担癌マウスの体内のoxaliPt(IV)-ADC薬物動態を研究する場合、まず89Zr-Zr(oxalate)でoxaliPt(IV)-ADCを標識した。複数の時点のPET-CT撮影(図7のa)に示すように、89Zr-oxaliPt(IV)-ADCが良好な血液循環を示しており、投与6時間後に腫瘍の摂取が開始し、時間とともに徐々に増加し、36時間で平衡する(10%ID/g、図7のb)。投与48時間後、腫瘍における放射性取り込み量は、血液より明らかに高く、血液における薬物の含有量は低下し続ける一方、腫瘍における薬物の取り込み量は増加し続ける(図7のb)。薬物の薬物動態学の研究は、ADCのマウス体内での動的分布を知ることに役立つと共に、腫瘍照射の正確な時間を決定して、最適な放射線療法と化学療法の時点を取得することに役立つ。図7のdに示すように、BGC823腫瘍マウスは、ランダムに、対照群、分解不可能なADC(NC-ADC)で処理された群、oxaliPt(IV)-ADCで処理された群、NC-ADC+X線で処理された群及びoxaliPt(IV)-ADC+X線で処理された群という4つの群に分けられた。0日目に全てのマウスの体内に5mg/kgのADCを注射した。治療群に対して、直前の体内バイオ分布状況に基づいて、ADCを注射した後の2日目に8GyのX線を照射した。その後、マウスを解剖し、同種異系腫瘍を収集し、MMAEの腫瘍内の濃度をLC-QTOF-MSで分析した。結果は、治療群のMMAE薬物放出量が、oxaliPt(IV)-ADCを単独で使用した群より少なくとも3倍高く、NC-ADCの場合、X線の有無にかかわらず放出されたMMAEに違いがないことを示しており、MMAEの放出は、X線によるPt(IV)の還元に依存し、放射線駆動による化学せん断反応により薬物を放出し、腫瘍治療を実現することが実現可能であることを示している。
【0144】
図7は、OxialPt(IV)-ADCに対する薬物動態研究を示しており、aは、[89Zr]oxaliPt(IV)-ADCを静脈注射した後、BGC823担癌マウスに対してPET-CTを行った画像である。cは、[89Zr]oxaliPt(IV)-ADCが血液、肝臓及び腫瘍において存在する時間-活性曲線(TAC)である。dは、マウスを単独でoxaliPt(IV)-ADC(5mg/kg)又はNC-ADC(5mg/kg)+X線(8Gy)で処理した後、腫瘍におけるMMAE濃度を検出した。
【0145】
以上の記載は、本発明の例示的な実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではなく、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲により決定される。
【0146】
本願は、2020年11月25日に提出された中国特許出願第202011337782.X号の優先権を主張し、上記中国特許出願に開示された内容は、参照により本願の一部に組み込まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-07-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)の金属錯体である。
―M―P (I)
(ここで、Mは、四価白金であり、Lは、出現毎にそれぞれ独立して、中性配位子又は陰イオン配位子であり、xは、1~5の整数であり、Pは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子Dに変換できる四価白金イオンの配位子である前駆体配位子である。)
【請求項2】
前記機能性分子Dは、薬物分子、蛍光分子、機能性材料分子から選択される、請求項1に記載の金属錯体。
【請求項3】
前記機能性分子Dは、抗癌剤分子である、請求項2に記載の金属錯体。
【請求項4】
少なくとも1つのLは、腫瘍細胞を標的とする基を有する、請求項3に記載の金属錯体。
【請求項5】
前記腫瘍細胞を標的とする基を有するLは、糖輸送体標的基、グルタミン受容体標的基、リン酸エステル受容体標的基、上皮成長因子受容体標的基、インテグリン標的基、エネルギー代謝酵素標的基、ミトコンドリア標的基、血清アルブミン標的基、炎症因子標的基、DNA標的基、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)標的基、P53遺伝子活性化剤基、チューブリン阻害剤基、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤基又はインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ阻害剤基を含む、請求項4に記載の金属錯体。
【請求項6】
前記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF、イブルチニブ、アカラブルチニブ、ザヌブルチニブ、アドリアマイシン、マイトマイシン-C、マイトマイシン-A、ダウノルビシン、アミノプテリン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、9-アミノカンプトテシン、N8-アセチルスペルミジン、1-(2-クロロエチル)-1,2-ジメタンスルホニルヒドラジド、雲南マイシン、ゲムシタビン、シタラビン、ドラスタチン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、タクソール、ドセタキセル(Docetaxel)、ゲムシタビン、シタラビン、6-メルカプトプリンから選択される、請求項に記載の金属錯体。
【請求項7】
前記機能性分子Dは、モノメチルアウリスタチンE、モノメチルアウリスタチンF又は5-フルオロウラシルである、請求項6に記載の金属錯体。
【請求項8】
少なくとも1種の配位子Lは、NH、エチレンジアミン、F、Cl、シュウ酸塩、マロン酸塩、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、2-アミノプロパン、アミノシクロヘキサン、1,1-シクロブタンジカルボン酸、グリコール酸塩、乳酸塩、アミノシクロヘキサン、2-イソプロピル-4,5-ジ(アミノメチル)-1,3-ジオキサシクロペンタン、5-トリフェニルホスフィン-ペンタン酸塩、コハク酸塩、N-ギ酸塩ペンチル-ブチレンスクシンイミド、ポルフィリン、酢酸塩、プロピオン酸塩から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項9】
1つの配位子Lは、放射線で照射された後に錯体から放出されて機能性分子に変換できる軸配位子であり、該機能性分子は、機能性分子Dと同じであっても異なってもよい、請求項1~のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項10】
Pは、軸配位子である、請求項1~のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項11】
Pは、O-C(=O)-X-Yである、請求項1~のいずれか1項に記載の金属錯体。
(式中、Xは、-NH-、-NR-、-O-又は-S-であり、Rは、任意に置換されるC1-10アルキル基であり、HXYは、機能性分子Dを構成し、或いは、
Xは、-CH-、-CRH-又は-CR-であり、Rは、出現毎にそれぞれ独立して、任意に置換されるC1-10アルキル基であるか又は2つのRは、それらに結合した炭素原子と共に5員又は6員環を形成し、HOOCXYは、機能性分子Dを構成する。)
【請求項12】
一般式(I)の金属錯体は、放射線で照射された後に錯体から軸配位子を放出して二価白金錯体を得ることができる、請求項1~のいずれか1項に記載の金属錯体。
【請求項13】
前記二価白金錯体は、抗癌作用を有する、請求項12に記載の金属錯体。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか1項に記載の金属錯体を含む、薬物組成物。
【請求項15】
請求項8に記載の金属錯体を含む、薬物組成物。
【請求項16】
請求項9に記載の金属錯体を含む、薬物組成物。
【請求項17】
請求項10に記載の金属錯体を含む、薬物組成物。
【請求項18】
請求項11に記載の金属錯体を含む、薬物組成物。
【国際調査報告】