(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の治療のためのマルチターゲット治療薬としてのナフタレン誘導体の医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/195 20060101AFI20231130BHJP
A61K 31/27 20060101ALI20231130BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231130BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231130BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231130BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231130BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231130BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231130BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20231130BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231130BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20231130BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231130BHJP
【FI】
A61K31/195
A61K31/27
A61P25/28
A61P43/00 111
A61K9/20
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/14
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531700
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 CU2021050012
(87)【国際公開番号】W WO2022111742
(87)【国際公開日】2022-06-02
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521195180
【氏名又は名称】セントロ デ ネウロシエンシアス デ キューバ、セネウロ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス - タンティー、クリスレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】サブロン カラザナ、マルキザ
(72)【発明者】
【氏名】メネンデス ソト デル ヴァレ、ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ベンコモ マルティネス、アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】リヴェラ マレロ、スキティル
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア プポ、ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス メサ、レオノーラ
(72)【発明者】
【氏名】レオン チャヴィアーノ、サミラ
(72)【発明者】
【氏名】アギラ コルドヴァ、アドリアナ
(72)【発明者】
【氏名】カストロ - パロミノ アンテラ、カスレーン
(72)【発明者】
【氏名】ペントン、ロル、ジゼル
(72)【発明者】
【氏名】オターニョ タマヨ、ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ペレラ、ラファエラ
(72)【発明者】
【氏名】セルヴァンテス ラノス、マイエル
(72)【発明者】
【氏名】ディアス ガルシア、オレステス デ イエスズ
(72)【発明者】
【氏名】ドレステ ブラウン、ミリアム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA95
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
4C076BB25
4C076CC01
4C076DD28A
4C076DD29A
4C076DD38A
4C076DD38X
4C076DD41A
4C076DD43A
4C076DD45A
4C076DD49R
4C076DD51R
4C076DD59R
4C076DD67A
4C076EE09A
4C076EE16A
4C076EE23A
4C076EE23X
4C076EE27A
4C076EE32A
4C076EE36A
4C076EE38A
4C076EE41A
4C076EE42A
4C076EE53A
4C076EE54A
4C076FF70
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA13
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA55
4C206MA72
4C206MA79
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA16
4C206ZC20
(57)【要約】
本発明は、医薬化学に関し、具体的にはアルツハイマー病(AD)において影響を受けるコリン作動性、グルタミン酸作動性及びミトコンドリア系に対してマルチターゲット作用を示す化合物の医薬組成物であって、その一般式(I)がIであるものに関する、
【化1】
(I)
ここで、置換基R
1及びR
2は、本明細書及び特許請求の範囲に記載されている。これらの化合物の製剤は、経口、舌下、非経口、経皮、鼻腔内投与により有効性と耐性を高める。これらの化合物は、単独で、単剤療法として、現在ADに使用されている多剤療法に代わって使用することができる。AD治療の活性成分として、ヒトに投与するための、これらの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物、プロドラッグの製剤は、バイオアベイラビリティ、活性成分の滞留時間、適切な排泄を高め、効果、バイオセーフティ、治療への順守及び耐性を向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病の治療のためのマルチターゲット標的治療薬として作用する化合物の医薬組成物であって、化合物が式Iの化合物の群から選択されることを特徴とする医薬組成物。
【化1】
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R
4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は薬学上許容できる上記の基の塩、
R
4:スクシンイミジル基
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H、‐アルキル、
用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の直鎖又は分枝脂肪族鎖であることを特徴とし、好ましくはメチル又はエチルである、用語「アルキレニル」は、直鎖又は分枝アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)、又はプロピレニル(‐CH
2CH
2CH
2‐)を指す、
ここで、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含有する、
ここで、これらの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝産物、プロドラッグは、生きている哺乳動物の脳の血液脳関門を通過する。
【請求項2】
組成物が、脳内コリン作動性細胞と相互作用し、アセチルコリンエステラーゼの病的活性を阻害し、アセチルコリンの生理学的レベルを回復させることを特徴とする、請求項1記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項3】
組成物が、脳内グルタミン酸作動性細胞と相互作用し、NMDA受容体及びカイニン酸受容体の病的活性化を抑制し、グルタミン酸作動性系の生理学的機能を回復させることを特徴とする、請求項1記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項4】
組成物が、脳ミトコンドリアと相互作用し、ミトコンドリア膜電位の散逸を抑制し、膨潤を防止して反応性酸素種の生理学的レベルを維持することを特徴とする、請求項1記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項5】
組成物が、経口、局所、全身、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内及び鼻腔内、又はそれらの組み合わせで投与されることを特徴とする、請求項1記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項6】
錠剤の形態の医薬組成物の経口製剤が、活性成分の1mg~100mgを含有することを特徴とする、請求項1及び5に記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物の錠剤が、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC))、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CCNa)、セルロース誘導体、Eudragit RS PO及びポリビニルピロリドン、又はそれらの組み合わせの群から選択される、ポリマーマトリックスを含有することを特徴とする、請求項1及び6記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物の錠剤のマトリックスが5%w/w~80%w/w、好ましくは10%w/w~70%w/wの割合であることを特徴とする、請求項7に記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項9】
医薬組成物の鼻腔用製剤が、1用量当たり活性成分の0.1mg~25mgを含有することを特徴とする、請求項1及び5に記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項10】
医薬組成物の鼻腔用製剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリアクリル酸(カルボール)誘導体、又はそれらの組み合わせの群から選択した、生体接着性賦形剤を0.05~6%の割合で含有することを特徴とする、請求項1及び9のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項11】
該医薬組成物の鼻腔用製剤が10~60mPasの粘度を有することを特徴とする、請求項1及び10に記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項12】
医薬組成物の鼻腔用製剤が、0.09~1.8%の濃度のPEG;0.08~1%の濃度のトコフェロール;0.007~0.47%の濃度の塩化ベンザルコニウム、0.003~0.19%の濃度のEDTA二ナトリウム、及び0.005~0.04%の濃度のプロピルパラベン、又はそれらの組み合わせの群から選択される抗菌性防腐剤;及び3.5~5.5%の濃度のグリセロール、0.17~0.38%の濃度のTween 80、又はそれらの組み合わせの群から選択される保湿剤を含有することを特徴とする、請求項1、9、10及び11のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項13】
医薬組成物の鼻腔用製剤が5.5~6.5、好ましくは6.3のpHを有することを特徴とする、請求項1及び12記載のマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項14】
アルツハイマー病の単剤治療のための方法であって、該方法は以下を含むことを特徴とする上記方法:
a)式Iのマルチターゲット作用を有する化合物の医薬組成物を投与する、
【化2】
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R
4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は薬学的に許容できる上記の基の塩、
R
4:スクシンイミジル基;
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H、‐アルキル、
用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の直鎖又は分枝脂肪族鎖、好ましくはメチル又はエチルであることを特徴とし、用語「アルキレニル」は、直鎖又は分枝アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)、又はプロピレニル(‐CH
2CH
2CH
2‐)を指す、
ここで、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含有する、
ここで、医薬組成物は、経口、局所、全身、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内及び鼻腔内の経路、又はそれらの組み合わせによって投与される、
b)ステップa)の化合物の医薬組成物が、生きている哺乳動物の脳の血液脳関門を通過する、
c)脳内コリン作動性細胞をステップb)の医薬組成物の化合物と接触させ、アセチルコリンエステラーゼの病的活性を阻害してアセチルコリンの生理学的レベルを回復させる、
d)脳内グルタミン酸作動性細胞をステップb)の医薬組成物の化合物と接触させ、NMDA受容体及びカイニン酸受容体の病的活性化を阻害して、グルタミン酸作動性系の生理学的機能を回復させる、及び
e)脳ミトコンドリアをステップb)の医薬組成物の化合物と接触させ、ミトコンドリア膜電位の散逸を抑制し、膨潤を防止して反応性酸素種の生理学的レベルを維持する。
【請求項15】
錠剤の形態の経口医薬組成物が、1mg~100mgの活性成分を含有することを特徴とする、請求項14のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項16】
錠剤がポリマーマトリックスを含有し、このマトリックスは、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CCNa)、セルロース誘導体、Eudragit RS PO、ポリビニルピロリドン又はその組み合わせの群から選択されることを特徴とする、請求項14及び15記載のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項17】
錠剤のマトリックスが5%w/w~80%w/w、好ましくは10%w/w~70%w/wの割合であることを特徴とする、請求項14及び16のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項18】
錠剤が、澱粉、乳糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、及び他の糖類、タルク、コロイド状二酸化ケイ素、カーボナート、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、二酸化チタン、ポビドン、ゼラチン、乳タンパク質、シトラート、タートラート、アルギナート、デキストラン、シリコーンエラストマー、ポリソルベート、アミロペクチン、パラベン、動植物油、プロピレングリコール、滅菌水、一価又は多価アルコール、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、又はそれらの組合せの群から選択される賦形剤を使用することを特徴とする、請求項14及び15に記載のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項19】
鼻腔用医薬組成物が0.1mg~25mgの活性成分を含有することを特徴とする、請求項14のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項20】
鼻腔用製剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリアクリル酸(カルボール)誘導体、又はそれらの組み合わせの群から選択される、生体接着性賦形剤を0.05~6%の割合で含有することを特徴とする、請求項14及び19のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項21】
鼻腔用製剤が10~60mPasの粘度を有することを特徴とする、請求項14及び20のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項22】
鼻腔用製剤が、PEG;トコフェロール;塩化ベンザルコニウム、EDTA二ナトリウム、メチルパラベン及びプロピルパラベン、又はそれらの組み合わせの群から選択される抗菌防腐剤:並びにグリセロール及びTween80又はそれらの組み合わせの群から選択される保湿剤を含有することを特徴とする、請求項14及び19のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項23】
鼻腔用製剤は、6~7.5、好ましくは6.3のpHを有することを特徴とする、請求項1及び22のアルツハイマー病の単剤治療のための方法。
【請求項24】
アルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物であって、該化合物が式Iを有する化合物の群から選択されることを特徴とする、医薬組成物
【化3】
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は薬学上許容できる上記の基の塩、
R
4:スクシンイミジル基;
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H、‐アルキル。
用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の直鎖又は分枝脂肪族鎖であることを特徴とし、好ましくはメチル又はエチルである、用語「アルキレニル」は、直鎖又は分枝アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)、又はプロピレニル(‐CH
2CH
2CH
2)を指す、
ここで、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤を含有する、
ここで、これらの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝産物、プロドラッグは、生きている哺乳動物の脳の血液脳関門を通過する。
【請求項25】
組成物が、脳内コリン作動性細胞と相互作用し、アセチルコリンエステラーゼの病的活性を阻害し、アセチルコリンの生理学的効果のレベルを回復させることを特徴とする、請求項24のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項26】
組成物が、脳内グルタミン酸作動性細胞と相互作用し、NMDA受容体及びカイニン酸受容体の病的活性化を抑制し、グルタミン酸作動性系の生理学的機能を回復させることを特徴とする、請求項24のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項27】
組成物が、脳ミトコンドリアと相互作用し、ミトコンドリア膜電位の散逸を抑制し、膨潤を防止して反応性酸素種の生理学的レベルを維持することを特徴とする、請求項24記載のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項28】
組成物が、経口、局所、全身、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、鼻腔内又はそれらの組み合わせで投与されることを特徴とする、請求項24記載のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項29】
錠剤の形態の経口医薬組成物が、活性成分の1mg~100mgを含有することを特徴とする、請求項24及び28に記載のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項30】
医薬組成物、錠剤が、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CCNa)、セルロース誘導体、Eudragit RS PO及びポリビニルピロリドン、又はそれらの組み合わせの群から選択される、ポリマーマトリックスを含有することを特徴とする、請求項24及び29のアルツハイマー病の治療で使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項31】
医薬組成物錠剤のマトリックスが5%w/pa80%w/w、好ましくは10%w/w~70%w/wの割合であることを特徴とする、請求項30記載のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項32】
鼻腔用医薬組成物が、1用量あたり0.1mg~25mgの活性成分を含有することを特徴とする、請求項24及び28のアルツハイマー病の治療において使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項33】
鼻腔用製剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリアクリル酸の誘導体(カルボール)、又はそれらの組み合わせの群から選択される、生体接着性賦形剤を0.05~6%の割合で含有することを特徴とする、請求項24及び32のアルツハイマー病の治療で使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項34】
鼻腔用製剤が10~60mPasの粘度を有することを特徴とする、請求項24及び33記載のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項35】
鼻腔用製剤が、0.09~1.8%の濃度のPEG;0.08~1%の濃度のトコフェロール;0.007~0.47%の濃度の塩化ベンザルコニウム、0.003~0.19%の濃度のEDTA二ナトリウム、0.005~0.04%の濃度のプロピルパラベン、又はそれらの組み合わせの群から選択される抗菌防腐剤、及び3.5~5.5%の濃度のグリセロール、及び0.17~0.38%の濃度のTween 80、又はそれらの組み合わせの群から選択される保湿剤を含有することを特徴とする、請求項24、32及び34のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【請求項36】
鼻腔用製剤が5.5~6.5、好ましくは6.3のpHを有することを特徴とする、請求項24及び35のアルツハイマー病の治療に使用するためのマルチターゲット治療薬として作用する化合物の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬化学に関連し、アルツハイマー病(AD)の影響を受けるコリン作動性、グルタミン酸作動性、及びミトコンドリア系の異なるメカニズムに対してマルチターゲット作用を示す式Iの化合物の医薬組成物に関する。これらの化合物の製剤は、経口、舌下、非経口、経皮、及び鼻腔内投与により、有効性と耐性を高める。
【0002】
本発明は、式Iの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物、及びヒトに投与するためのプロドラッグを、ADの治療のための活性物質又は原理として考慮した有効な製剤を提供することに特に有用である。
【背景技術】
【0003】
世界人口の平均余命の延長に伴い、主として老人性認知症に関連した神経変性疾患が増加している。特に、アルツハイマー病(AD)は、60歳以上の人口における発症率が高い(50%~60%)。この病気は、健忘症エピソード、見当識障害、実行・認知機能障害、幻覚、抑うつ、激越の発生を特徴とする進行性の認知症を引き起こす。
【0004】
現在、この複雑な病因を持つ疾患を生み出す正確なメカニズムは、まだ議論中である。実験的証拠によれば、アミロイドカスケードの仮説とタウ蛋白質のリン酸化の仮説が、その起源において基本的な役割を果たすとされている(Hardy JA,et al.in Science, 1992;256:184-5;Haas C.et al.in Cold Spring Herb Perspect Med.2012;2:a006270;Mucke L et al.in Cold Spring Harb Perspect Med.2012;2:a006338)。しかし、ミトコンドリア活性の変化、神経炎症仮説、代謝の役割に関する仮説(コレステロールやインスリンに関連する)、樹状突起仮説など、科学的知見によって支持される別の代替仮説も存在する。(Castello MA et al.Aging Res Rev.2013;12:282‐8;Castello MA et al.Aging Res Rev.2014;13:10‐2;Drachman DA.in Alzheimers Dement 2014;10:372‐80;Ferreira ST et al.Alzheimers Dement 2014;10(1 Suppl):S76‐83;De Felice FG,et al.in Diabetes 2014;63:2262‐72;De Felice FG in J Clin Invest.2013;123:531‐9;Cochran JN et al.in Brain Res Bull.2014;103:18‐28)。
【0005】
一般に、ADの神経病理は、炎症性免疫反応として現れ、脳内で自然免疫系と適応免疫系の両方が活性化し、β‐アミロイドペプチド(βA)とタウタンパク質の凝集を伴う神経化学カスケードを引き起こす。アミロイド線維やプラークの存在は、補体の活性化、ミクログリア、サイトカイン(ケモカイン)の放出、そして最後に拡散性の神経毒性を順次発生させることが示唆されている(Reitz C.in International Journal of Alzheimer’s Disease.2012 Jan;2012:369808;Rodrigue K.in Neuropsychol Rev.2009 December;19(4):436‐450.Doi:10.1007/s11065‐009‐9118‐x;Bateman,RJ et al.In Alzheimer’s disease.N.Engl.J Med.367,795‐804,2012;Karran,E.,et al.in Nat.Rev.Drug Discov.10,698‐712,2011)。一方、Soyon HongらはScience(2016,doi:10.1126/science.aad8373)で、無症候性ADの初期段階には、βAプラークの沈着前に補体とミクログリア、特にC1qタンパク質の増加を介した早期のシナプス消失があることを記載している。また、C1qの過剰発現には、βAペプチドの初期凝集状態への関与が重要であることが知られている。脳における免疫反応としての慢性炎症は、多くの変性疾患において進行性の神経細胞死に重要な役割を担っている。そのため、常在するミクログリア細胞に付着した浸潤マクロファージや単球を含む食細胞系は、腫瘍壊死因子α(TNFα)、インターロイキン1(IL1)などのサイトカインや、ADに関与する反応性酸素種(EROS)、窒素(ENSO)を過剰量産生する。与えられた刺激に対するこの一連の反応は、局在するグリア細胞によって維持される攻撃の悪循環を引き起こし、それが貪食攻撃を誘発し、ニューロンを不可逆的に損傷させる(Malm TM,in Neurotherapeutics 2015,12:81‐93;ElAli A.et al.in Brain,Behavior,and Immunity,2015,doi:10.1016/j.bbi.2015.07.021;Michaud J.‐P.et al.in Neuron,85,4,450‐2,2015)。
【0006】
ミトコンドリア機能障害は、ADの病態生理における初期イベントとして記述されており、AD患者やトランスジェニックマウスにおいてβA沈着や記憶障害の前に現れる(Maurer,I.,et al.in Neurobiol.Aging 2000,21,455‐462;Caspersen,C.et al.in FASEB J.2005,19,2040‐2041;Mosconi,L et al.in Ann.NY Acad.Sci.2008,1147,180‐195)。AD発症時には、βAオリゴマーがミトコンドリアに蓄積し、エネルギー代謝の障害、酸化ストレス(OE)の増加、及びアポトーシスを引き起こす(Lustbader,et al.in Science 2004,304,448‐0452;Caspersen,C.et al.in FASEB J.2005,19,2040‐2041;Manczak,et al.in Hum.Mol.Genet.2006,15,1437‐1449)。AD患者やトランスジェニックマウスで行われた研究では、トリカルボン酸サイクルの酵素やシトクロムcオキシダーゼの活性が常に低下していることが記載されている(Yates,et al.in J.Neurochem 1990,55,1624‐1630;Maurer,I.et al.in Neurobiol Aging 2000,21,455‐462;Caspersen,C.et al.in FASEB J.2005,19,2040‐2041;Leuner,et al.in Mol.Neurobiol.2012,46,186‐193)。同様のことが、トランスジェニックマウスの脳から単離されたミトコンドリアや、ADの生理学の重要な要素であるEOの増加も見出されているβAオリゴマーに曝露された単離ミトコンドリアについても述べられている(Casley,et al,in Neurobiol.Dis.2002a.10,258‐267;Aleardi,AM,et al.,in J.Bioenerg.Biomembr.2005,37,207‐225;Caspersen,C.et al.in FASEB J.2005,19,2040‐2041;Clementi,ME et al.in FEBS Lett.2005,579,2913‐2918;Leuner,et al.in Mol.Neurobiol.2012,46,186‐193;Smith,MA,et al.in Nature 1996,382,120‐121;Leuner,et al.in Mol.Neurobiol.2012,46,186‐193)。
【0007】
ミトコンドリア機能障害の可能なメカニズムは、ミトコンドリア透過性遷移孔(mPTP)の開口と関連しており、これはCa2+及びEO過負荷によって引き起こされ(Kroemer,G.and Reed,JC in Nat.Med.2000,6,513‐519)、mPTP形成に寄与するプロアポトーシスタンパク質Baxなど、プロアポトーシス因子の放出を誘導する(Jurgensmeier,JM,et al.in Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1998,95,4997‐5002;March,I.,et al.in Science 1998,281,2027‐2031;Narita,M.,et al.in Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1998,95,14681‐14686)。その結果、アポトーシスを促進するシトクロムcは、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子(APAf‐1)と結合し、「アポトソーム」と呼ばれる複合体を形成して放出される(Liu,X.,et al.in Cell 1996,86,147‐157;Yang,J.,et al.in Science 1997,275,1129‐1132)。
【0008】
さらに、βAに伴うミトコンドリア生体エネルギー機能障害は、グルタミン酸作動性興奮毒性を促進し、その結果、細胞死を引き起こすことが知られている。細胞のエネルギー貯蔵量を減らすことにより、細胞質膜電位が影響を受け、N‐メチル‐D‐アスパルタート(NMDA)受容体のMg2+遮断がなくなる。これにより、内因性グルタミン酸による持続的な活性化が可能になり、細胞内へのCa2+イオンの進入が増加し、神経細胞に興奮毒性が生じ、ADに特徴的な記憶障害に関連する事象が発生すると推測される(Zadori D.in Journal of Alzheimer’s Disease,2018,62,523‐547)。この仮説を支持するのは、グルタミン酸拮抗薬がミトコンドリア毒素誘発性神経細胞死を減少させるという実証された事実である。これらの及び他の後続の証拠は、電子輸送チェーン及び/又はグルタミン酸受容体の活性化に関連する細胞内経路によって生成されたROSが、ニューロンの変性の原因である可能性を示唆している(Villegas S.in Medicina Clinica,2015,145,2,76‐83)。
【0009】
ADは神経病理学的に複雑であることから、それが多因子疾患であることを示しているが、治療の観点からは、これまでそのようにアプローチされてこなかった。
【0010】
規制当局から承認されている薬剤は4つしかない。これらは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(AChEI)とN‐メチル‐D‐アスパラギン酸受容体拮抗剤(NMDAr)の2つのグループに属する(Chiang K et al.in Annu Rev Pharmacol Toxicol.2014;54:381‐405;Francis PT et al.in Trends Pharmacol Sci.2005;26:104‐11;Huang Y.et al.In Cell.2012;148:1204‐22.)
【0011】
AChEIとは、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンのことである。これらの作用機序は、シナプス間隙のアセチルコリンエステラーゼを阻害することによりコリン作動性伝達を増加させ、したがって、AD患者の認知能力を高めることができる。AChEIは、錠剤、カプセル、溶液などの即時放出型、経口投与用の放出制御型などを含む様々な製剤で提供されている(Villegas S.in Medicina Clinica,2015,145,2,76‐83)。しかしながら、これらのAChEIは、これらの薬剤が安全性と耐性のために最大用量で投与された場合であっても、一部の患者に対して中程度の臨床的利益しか提供しない。さらに、これらの化合物は、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、及び体重減少を含む副作用を引き起こす(Physicians Desk Reference 2008、Thomson PDR et al.in Clinical Geriatrics:Volume 2011,19,1;Ali T.et al.in PLOS ONE,2015,7,1‐10;Tsoi KKF in JAMDA,1‐7,2015,doi:10.1016/j.jamda.2015.08.007)。
【0012】
一方、NMDArは、神経細胞のシナプス可塑性や記憶に必須な成分として働く神経伝達物質であるグルタミン酸のイオン性受容体である。これらの受容体の拮抗薬であるメマンチンは、中等度から重度のADに示される神経保護効果により臨床で使用されている(National Institute for Clinical Excellence.Technology appraisal guidance 217 Donepezil,galantamine,rivastigmine and memantine for the treatment of Alzheimer’s disease www.nice.org.uk/guidance/TA217;O’Brien JT,et al.in J Psychopharmacol Oxf Engl.2011;25:997‐1019;Francis PT et al.in Trends Pharmacol Sci.2005;26:104‐11;Huang Y et al.In Cell.2012;148:1204‐22)。メマンチンの副作用を軽減するために、放出制御製剤が開発され、2つの時間段階で薬物を放出することができ(US5,382,601)、及び/又は1日1回の投与が可能になった(US2006/0051416)。しかし、この治療法も病気の進行を止めるものではなく、ある段階での有益な効果しかなく、患者によってその効果は大きく異なる。
【0013】
現在、この疾患に対する有効な治療法はなく、この複雑な病因の他のターゲットを見つけることを目的とした、以下のような他の治療戦略の開発が正当化されている:
‐ ACh受容体拮抗薬(Home‐ClinicalTrials.gov [accessed March 21,2016].入手先:http://www.cli‐nicaltrials.gov/.Zawieja P,et al.in Geriatr Gerontol.Int.2012;12:365‐71 Frolich L,et al.in J Alzheimers Dis.2011;24:363‐74。
‐ βA凝集抑制剤(Aisen PS,et al.In Arch Med Sci.2011;7:102‐11.Caltagirone C,et al.In Alzheimers Dis.2010;20:509‐16.Salloway S,et al in Neurology.2011;77:1253‐62.Home‐ClinicalTrials.gov [accessed March 21,2016].入手先:http://www.cli‐nicaltrials.gov/)
‐ プロテアーゼ阻害剤/活性化剤(Yan R,et al ...in Lancet Neurol.2014;13:319‐29.Vellas B,et al.in Curr Alzheimer Res.2011;8:203‐12.Xia W,and co.in J Alzheimers Dis.2012;31:685‐96.)
‐ スタチンなどの脂質低下薬(Home‐ClinicalTrials.gov [accessed March 21,2016].入手先:http://www.cli‐nicaltrials.gov/.Wong WB.et al.in Pharmacoepidemiol Drug Saf.2013;22:345‐58;Frolich L,et al.in J Alzheimers Dis.2011;24:363‐74.)
‐ 能動免疫療法(Panza F.et al.in Expert Rev Clin Immunol.2014;10:405‐19;Ryan R.JM et al.in J Alzheimers Dis.2009;17:243;Winblad B.et al.in Lancet Neurol.2012;11:597‐604;Schneeberger A.et al.in N Engl J Med.2014;370:322‐33.)
‐ 受動免疫療法(Home‐ClinicalTrials.gov [accessed March 21,2016]入手先:http://www.cli‐nicaltrials.gov/.Panza F.et al.in Expert Rev Clin Immunol.2014;10:405‐19;Salloway S.et al.in N Engl J Med.2014;370:322‐33;Doody RS.et al.N.Engl J Med.2014;370:311‐21;Ostrowitzki S.et al.in Arch Neurol.2012;69:198‐207)。
【0014】
これらの治療戦略は、いずれもヒトでの使用が承認されておらず、現在までにその有効性が証明されておらず、その大部分は否定的又は矛盾した結果を示してすらいる。これらの治療戦略の開発において、AD患者の脳代謝に影響を与える異なるターゲットと積極的に相互作用できる化合物を開発するというコンセプトはなかった。
【0015】
Carrazanaら(WO2010118706A4)は、血液脳関門(BBB)を通過してアミロイド斑に付着し、これらの構造を可視化するためのSPECT、PET、MRI技術を通じて診断薬として使用する、新しい中性、親油性、低分子量の化合物の合成を宣言する。この発明では、これらの化合物がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療薬として使用できることが記載されている。一方、これらの著者らは、WO2014131374A1において、これらの化合物は、可溶性オリゴマー、プレフィブリル構造、プロトフィブリル及びアミロイド生成繊維、並びにアミロイドプラークの阻害、減少、再フォールド、及び分解することができるため、この疾患の治療薬として使用することを述べている。しかし、これらの特許は、これらの化合物の抗コリン作用、抗酸化作用、抗グルタミン酸作用及び抗炎症作用を宣言しておらず、またADの治療において今まで存在した困難を克服する新規な単剤療法の開発を可能にするマルチターゲット標的治療薬としての発見及び着想についても宣言していない。また、ADの治療のための活性物質又は原理として、式Iの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物、ヒトへの投与のためのプロドラッグの投与のための有効な製剤を宣言するものでもない。
【0016】
現在、放出制御型製剤の開発は、バイオ医薬品の分野で非常に精密な仕様を持つポリマー材料の使用と実質的に関連している。このため、1回の投与で薬物濃度を治療域に維持し、一定時間で連続的に放出することができる(Rodriguez,IC;Cerezo,A.;Salem,in II Bioadhesive delivery systems.Ars Pharmaceutica,2000,41,1,115‐128;Vintiloiu,A.,Leroux,JC in Organogels and their use in drug delivery.Journal of Controlled Release,2008,125,179‐192)。マトリックス系では、活性成分は懸濁液又は溶液としてポリマー内に均一に分布し、その放出動態はマトリックスの構造と使用材料の化学的性質に依存する(Frenkel,J.,in Rubber Chemistry and Technology,1940,13,264‐274;Tanaka et al.Encyclopedia of Polymer Science,1986,2nd ed.6,514;Fyfe,CA,Blazer,AI,in Journal of Controlled Release,1998,52,221‐225)。マトリックス錠剤を製剤化するために使用される遅延又は修飾作用賦形剤は、不溶性又は不活性ポリマーマトリックス、脂質又は水不溶性マトリックス、又は親水性マトリックスであり得る。
【0017】
親水性マトリックスは、活性成分を親水性ポリマーと混合することによって得られ、ポリマーマトリックスを生じさせる。セルロースエーテルは、生物学的に適合性が高く、毒性がないため、放出制御系の開発に広く使用されている親水性ポリマーである。最もよく知られているのは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、微結晶セルロース多糖類とその誘導体、ポリエチレングリシンオキシド、ポリエチレングリコールキトサン、ポリ(ビニルアルコール)、キサンタンガム、無水マレイン酸コポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)、デンプン及びデンプン系ポリマー、マルトデキストリン、ポリ(2‐エチル‐2‐オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ヒドロゲルポリウレタン、架橋ポリアクリル酸及びこれらの誘導体である。これらのマトリックスが使用される製剤において、他の適切な賦形剤とともに、錠剤、又は硬質ゼラチンカプセルを調製することが可能である(Dabbagh,MA,et al.In International.Journal of Pharmaceutics,1996,140,85‐95)
【0018】
近年、鼻の上皮の透過性が高いため、分子量の大きい薬物の投与が可能であり、薬物の吸収速度が速く、血漿濃度プロファイルが静脈注射とほぼ同じになることもあることから、脳への薬物送達のための鼻腔内ルートの探索に多くの関心が集まっている(Michael IU,et al.in J Pharm Pharmacol 2001;53:3‐22)。この経路のその他の利点は、薬物吸収のための大きな表面積、患者による治療に対するより良い順守、治療血中濃度の迅速な取得、攻撃的な条件を提示しないこと、最初の肝経路の影響を回避することである。
【0019】
文献には、鼻粘膜から脳への薬物の取り込みは、主に3つの異なる経路を経て行われると記載されている(Illum L.in Eur J Pharm Sci 2000;11:1‐18;Frey WH II.in Drug Deliv Tech 2002;2:46‐49.Vyas TK,et al.in Curr Drug Deliv 2005;2(2):164‐175)。一つは全身経路で、全身循環により薬剤が吸収され、その後BBBを通過して脳に到達する。他の2つの直接経路は、嗅覚経路と三叉神経経路で、これにより薬物は鼻腔から脳脊髄液(CSF)と脳組織へ部分的に移動する(Thorne RG,et al.in Neuroscience 2004;127:481‐496)。CNSへの薬物送達を実現するためには、薬物が鼻腔粘膜を効率的かつ迅速に透過する必要がある。したがって、剤形の設計は、鼻腔内投与後の薬物動態とバイオアベイラビリティに重要な役割を果たす。吸収される場所での薬物の保持と親密な接触は、製剤において考慮すべき2つの重要な要素である。製剤の粘度が高くなると、鼻腔内での製剤の滞留時間が長くなり、その結果、吸収される確率が高くなることが知られている(Pires,A,et al.In J Pharm.Pharmaceut Sci.2009;12(3):288‐311)。一方、鼻腔粘膜や粘液層には多種多様な酵素が含まれており、酵素分解を防ぐために、プロテアーゼやペプチダーゼ阻害剤を使用するなどのいくつかの手法が試みられている(Pires,A,et al.in J Pharm.Pharmaceut Sci.2009;12(3):288‐311)。また、上皮バリアに可逆的な変化をもたらし、脂質膜を修飾してこのバリアの透過性を高め、その流動性を高める、あるいは細胞間隙を開いて、副細胞輸送を増大させる吸収促進剤がある。これらの化合物は組織損傷の増大に関連してはいるが、キトサン、シクロデキストリン、リン脂質誘導体などの一部の化合物は、粘膜の改質による悪影響を上回る吸収率とバイオアベイラビリティの向上を示す(Pires,A.et al.in J Pharm.Pharmaceut Sci.2009;12(3):288‐311;Casettari,L.and Illum,L.in J.Control.Release 2014,190,189‐200)。
【0020】
粘膜付着性化合物は、粘膜層への医薬製剤の結合を可能にし、粘膜と薬剤の接触時間を増加させ、吸収を有利にする。これらには、アガロース、キトサン、ゼラチン、カラギーナン、ペクチン、セルロース誘導体、ポリアクリラート、PEG、メタクリラート、アクリル酸、PVAアミノデキストラン、キトサン‐EDTA、PAC、アルギナート、カルボキシメチルセルロース及びそのナトリウム形態(CMC及びNa‐CMC)、ヒドロキシエチル化デンプン、ポリビニルピロリドン(PVP)、チオール化したポリマー、ポリアクリル酸、が挙げられる(Mansuri,S. et al.『React.Funct.Polym.100(2016)151‐172)。
【0021】
鼻腔内ルートは、低分子量(1000Da未満)の薬物の輸送に使用することができる(Behl CR,et al.in Adv Drug Del Rev 1998;29(1):89‐116)。様々な特許が、これらの低分子をCNSに送達するための異なるアプローチを宣言している。
【0022】
Quay,S.C.et al.(US20030225031A1(2003)及びUS20060003989A1(2006))は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ドネペジル、タクリン、リバスチグミン、ガランタミンなど)による認知症、AD、学習障害、ニコチン離脱症候群の治療のための医薬組成物を請求する。この組成物は、薬物の鼻腔内投与のための液剤、ゲル剤又は粉末と、鼻腔内投与による薬物のCSFへの経粘膜吸収のための透過性向上剤を含む。
【0023】
Went G.T.らは、US20050245617A1(2005)において、N‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬(メマンチン)、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬又はGADPH(セレギリン)阻害薬;及び医薬的に許容される担体の医薬組成物を請求し、その組成物は、パーキンソン病、多発性硬化症及びADなどのCNS関連疾患の治療のために、経口、局所経上皮、皮下、静脈内、鼻腔内又は吸入投与のための持続放出剤形として投与される。US20060252788A1(2006)では、これらの著者らは、メマンチンとドネペジルを組み合わせた組成物を発表しており、US20060189694A1(2006)では、アミノアダマンチンの誘導体(メマンチン、リマンタジン、アマンタジン)と、脱炭酸酵素阻害剤(Levodopa、Carbidopa)又はカテコール‐O‐メチルトランスフェラーゼ阻害剤(talcapone、entacapone)とを、担体と一緒に様々な神経変性疾患の治療のために徐放性剤形で使用する組成物を明らかにしている。
【0024】
Cummings,C.J.らはUS20070037800A1(2007)において、クロトリマゾール及びその誘導体を用いて、ハンチントン病やADなどの神経疾患を治療する鼻腔内法を宣言している。一方、CN1621039(2005)のTao,T.らは、老人性認知症の予防と治療、青少年の記憶と学習能力の改善のために鼻腔内投与されるHuperzine‐A及びその誘導体又は塩の体内に吸収利用され得る製剤を開示している。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、医薬化学に関連し、アルツハイマー病(AD)で影響を受けるコリン作動性、グルタミン酸作動性、ミトコンドリア系に対してマルチターゲット標的作用を示す式Iの化合物の医薬組成物に関するものである。これらの化合物の製剤は、その経口、舌下、非経口、経皮、鼻腔内投与により、有効性と耐性を高めるものである。
【化1】
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R
4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は薬学的に許容できる上記の基の塩;
R
4:スクシンイミジル基;
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H、‐アルキル。
用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の直鎖又は分枝脂肪族鎖であることを特徴とし、好ましくはメチル又はエチルである。用語「アルキレニル」は、直鎖又は分岐アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)、又はプロピレニル(‐CH
2CH
2CH
2‐)のことを指す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
具体的には、配合された式Iの化合物は、ADの症状を改善するために複数の活性成分の組み合わせを使用する、今日使用されているマルチ療法の代わりとして、単独で使用することができる。式Iの化合物は、個々に抗コリン作用、抗酸化作用、抗グルタミン酸作用、抗炎症作用を呈するので、ADの単剤療法に有効な活性成分である。さらに、それらはアミロイド原性ペプチドの凝集及びプラーク形成を阻害することができる(WO2010118706A4において)。これにより、患者は、ADに罹患している被験者の脳に存在する臨床症状及び生物学的変化を有意に改善する、単剤療法を受けることができる。
【0027】
ヒトへの投与のための、式Iの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物、プロドラッグを、ADの治療のための活性物質又は成分として提示した製剤は、経口、舌下、非経口、経皮及び鼻腔内投与を通じて、有効性、生物学的安全性、治療の順守及び耐性を高める、バイオアベイラビリティ、活性成分の滞在時間、及び適切な排泄性を高めることができる。
【0028】
式Iの化合物は、キューバ特許第2009‐57号、PCT‐CU2010‐000001に記載されているように、簡便に調製することができる。
【0029】
本発明において、式Iの化合物は、予期せずして、ミト保護特性を示す。
図2(非限定的な実施例1から)は、電子伝達鎖(CTE)のタンパク質複合体を通る電子の流れに関連する、ミトコンドリア膜電位(Δψ)の散逸に対する化合物1の効果を示す。エチレン‐ビス(オキシエチレンニトリル)四酢酸(EGTA)で処理したミトコンドリアは、この実験の対照群であるため、ミトコンドリア電位の散逸が最も少ないことが分かる。この場合、EGTAは反応液中のCa
2+汚染物質のキレーターとして機能するため、ミトコンドリアは最良の状態で、その電位を最大限に保持する。EGTA+3‐クロロフェニルドラゾンカルボニルシアニド(CCCP)対照は、CCCPが酸化的リン酸化アンカプラーとして作用してΔψを散逸させるため、ミトコンドリア損傷が起こる群である。化合物1は、0.1μmol/Lから100μmol/Lの濃度範囲で、対照群(EGTA)と同様の電位散逸値を示している。これらの結果によると、化合物1は、試験した用量範囲において、電位の散逸に対する感受性を低下させることがわかった。
【0030】
図3は、50μmol/LのCa
2+と2mmol/Lの無機リン酸(Pi)によって誘導されたミトコンドリアの膨潤を、540nmの吸光度の低下から分光測光法で評価した結果である。この場合、対照群(Ca
2+存在下)では、最大膨潤度の指標として、最大吸光度値を示すことが確認された。一方、EGTA(Ca
2+のキレーター)で処理したサンプルは、損傷していない対照であるため、低い吸光度値を示した(p<0.001)。CCCPで処理した群も低い吸光度値(p<0.001)を示したが、これはアンカップリング時にCa
2+イオンの侵入を阻止し、ミトコンドリアの膨潤を防ぐためである。同様の濃度の化合物1は、Ca
2+により誘発された膨潤の効果を逆転させるので、ミトコンドリアの完全性と機能性の保護剤として考えることができる。これらの効果は、観察されたミトコンドリア膜電位の散逸に対する効果に対応するものである。
【0031】
また、ミトコンドリア膜電位(Δψ)の保持状態に直結する過酸化水素(H
2O
2)の生成に対する化合物1の効果も評価した。基礎状態では、EGTAで処理した対照群で裏付けられるように、ミトコンドリアは多量の活性種を生成する。CCCPによる処理を行った場合、同様の挙動が観察されたが(
図4、非限定的実施例1より)、この場合、活性種の生成は、CCCPを誘導するアンカップリングに関連し、ミトコンドリアATPaseによるATP生成には関連しない、つまりミトコンドリアの機能性の最適状態に関連すると推論された。化合物1による処理は、試験した用量範囲においてH
2O
2産生から保護する。
【0032】
以上のことから、本化合物は、ミトコンドリアが膜電位の散逸の影響を受けにくく、膨潤や反応性酸素種の発生を抑えるため、ミトコンドリア機能の保護剤として作用することが示唆された。
【0033】
インシリコ研究に基づき、式Iの化合物は、ドネペジルと同様に、酵素AChEと相互作用する。これらの相互作用は、アミノ酸のTrp84、Trp279及びPhe330とともに疎水性である。同様に、これらの化合物は、アセチルコリンとの反応に関与するキャビティのすべてのセリン残基と、リガンド/酵素結合に安定性を与える3つの水素結合を形成することによって相互作用し、これは化合物が酵素活性をブロックする可能性を示唆している。スコポラミン誘発健忘症(ESC)モデルは、認知症及び老化に関連する認知障害を誘発するために最も広く用いられているモデルの1つである(Bajo R,et al.in Scientific reports 2015,5:9748;Gilles C and Ertle S.in Dialogues Clin.Neurosci.2000,2(3):247‐255;Haider S et al.in Brain Res.Bull.2016,127(Supplement C):234‐247)。この競合性のある非選択的ムスカリン性コリン作動性受容体拮抗薬の使用は、コリン作動性神経伝達を遮断し、認知症を誘発する有効な方法である。また、ESCは酵素アセチルコリンエステラーゼAChEの活性の上昇を誘導し、受容体の遮断とともにコリン作動性神経伝達の欠損に寄与する。このモデルは、ドネペジルなどの酵素活性のそれらの阻害剤のin vivo試験で使用されている(Shin CY,et al.in Biomolecules & Therapeutics 2018,26(3):274‐281)。これらの効果とともに、EO誘導、神経炎症、ミトコンドリア機能障害、cAMPのリン酸化低下、NFDB(脳由来神経刺激因子)の負の制御といった他のメカニズム、及びグリア酸性線維性タンパク質(GFAD)が観察される(Haider et al,in Brain Research Bulletin 2016,127,234‐247;Jung et al.,in Biol.Pharm.Bull.2009,32(2),242‐246;Konar et al.,in PLOS ONE,2011,6,11,e27265;Lee et al.,in Scientific reports,2015,5,9651.;Wong‐Guerra et al.,in Neurol Res.2017;39(7),649‐659)。これらはすべてこのモデルで観察される認知機能障害に貢献する。
【0034】
急性ESCモデルの行動評価は、短期空間記憶を評価するY迷路の「空間バージョン」(McGaugh JL,in Science,153(1966)1351)を用いて行い、動物が迷路内の新しい空間を自発的に認識する能力に基づくものである。このプロトコルで評価される記憶は、海馬の機能を含む(Csiszar A.,et al.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.(2013),305 H1120‐1130;Olton DS and Paras BC,in Neuropsychologia,17(1979)669‐682.)。
【0035】
図5(非限定例2)は、ESCモデルで評価した化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)のY迷路における行動試験の結果を示す。この実験では、対照群動物が新規アームへの選好性を持つことが観察され、それは2つのファミリーアームで費やした時間の有意な減少によって証明された(p<0.001)。この優先的な行動プロファイルは、トレーニングの30分前にESCを投与しても再現されなかった。この場合、新規アームで費やした時間は減少し、他の2つのアームに関して統計的に有意な差は観察されなかった。一方、化合物3を投与した群(投与量0.1mg/kg~10mg/kg)では、ESCによる健忘が有意に逆転した(p<0.001)。このように、動物は対照群に類似した優先的な行動プロファイルを示し、見慣れたアームに比べ、新しいアームでの永続性が有意に増加することを特徴とした。この試験では、試験の30分前に投与したドネペジル(陽性対照;用量:1mg/kg、ip)も、ESCによって誘発された欠損を逆転させ、これは他の著者及びこの薬剤の抗コリン作用と一致する(Lee JS,et al.in Scientific reports 2015,5:9651;Riedel G,et al.in Behav.Brain Res.2009,204(1):217‐225)。このように、トレーニングの30分前に0.1~10mg/kgの範囲で単回投与した化合物3は、驚くべきことにESCの投与によって引き起こされる健忘作用を防ぐことが示された。異なる実験群の新規アームにおける滞留時間を比較した(
図6、非限定的実施例2)。このように、対照群とESCの時間を比較すると、後者の群では明らかに減少しており(対照:133.8±9.3秒;ESC:98.8±4.2秒)、これは統計的に有意だった(p<0.001)。化合物3を投与した群の動物の行動は、投与した濃度に依存した。1mg/kgの用量までは、探索時間の漸増が見られ、ESC群と有意差があった(p<0.01)。より高用量では、このパラメータの減少が観察された。ドネペジル投与群の場合、予想通り、滞留時間はESC群より有意に長かった。まとめると、この実験では、1mg/kgの3の用量が最大の効果を持つ用量として振る舞った。
【0036】
長期記憶の研究のために(McGaugh JL,in Science,153(1966)1351)「水迷路」が開発されている(モリスの水迷路、MWM;Morris R,in Journal of Neuroscience Methods 1984,11(1):47‐6)。この行動モデルは、海馬依存的な空間ナビゲーションと参照記憶の測定法として有効であることが示されている。そのために、2日間のMWMプロトコルが報告されており、これは、可視プラットフォームによる最初の一連のトレーニング試験に基づき、24時間後に、ただし隠されたプラットフォームによる記憶試験が行われる(Gulinello M.,M.Gertner et al.in Behav.Brain Res.,196(2009)220‐227)。このプロトコルは、高齢(15~18ヶ月)のトリプルトランスジェニック(3xTG)マウスで検証されている。評価基準は、見えるプラットフォームでのトレーニングの最後の試験と、隠されたプラットフォームでの最初の試験(24時間後)の脱出潜時(脱出までの時間)の差及び/又は比率である。このように、正確な空間戦略を身につけた動物は、隠されたプラットフォーム領域に向かって速やかに移動するため、長期記憶能力が失われることなく保たれていることがわかる。一方、隠されたプラットフォームを見つけるのに時間がかかる動物は、長期的な空間記憶に失敗し、脱出潜時が長くなる。
【0037】
図7(非限定的実施例2)は、MWMを用いた急性ESCモデルにおける化合物3の行動評価結果である。この結果から、ESCを投与したマウスは長期空間記憶障害を有するが、化合物3を投与したマウスは長期空間記憶障害を有しないことがわかる。また、算術差、及び可視プラットフォームによる訓練の最後の試験の待ち時間と、隠されたプラットフォームによる最初の試験の待ち時間の比から、化合物3を投与した群は、ESCを投与した群と大きく異なることがわかる。このように、本実験の結果は、短期空間記憶に関するこれまでの経験で得られた結果を裏付けるものである。
【0038】
これらの動物において、AChE活性(μmol/L/分/mgタンパク質)を、脳ホモジネートの可溶性画分のサンプルにおいて、生体外で測定した(
図8、非限定的実施例3)。その結果、ESC投与群では、対照群と比較して、AChE活性が有意に上昇(p<0.001)していた。しかし、AChE活性は、驚くべきことに、ESC投与群と比較して、3で処理した群では有意に減少し(p<0.05)、ドネゼピルで処理したものでは予想通り(p<0.01)だった。
【0039】
慢性ESCモデルは、最近、AD治療のための新薬の実験的評価における別の選択肢として浮上してきた(Klinkenberg I and Blokland A,in Neurosci Biobehav Rev 2010,34(8):1307‐1350)。げっ歯類では、ESCを1日1回投与の割合で10日間連続投与(i.p.)することにより認知機能障害を誘導する。このモデルでは、急性期に発現するいくつかの特徴が維持される一方、ADとより密接に関連する他の特徴が現れる。すなわち、アセチルコリンエステラーゼの活性/発現の上昇、合成酵素であるコリノアセチルトランスフェラーゼの活性/発現の低下、シナプス前末端レベルでのコリンの活性消費の欠損といったコリン作動性系の変性が起こる(Haider,S.et al.in Brain research bulletin,2016,127,234‐247)。また、アミロイド前駆体タンパク質(AβPP)の発現が増加し、凝集体βAや過リン酸化タウが存在する(Bihaqi SW,et al.in Indian J.Pharmacol.2012,44(5):593‐598;Ramandeep K,et al.in Int J Prev Med Res.2015.Vol.1,No.2,pp.45‐64)。
【0040】
図9(非限定的実施例4)は、化合物3の慢性ESCモデル(1.5mg/kg 1日投与、2週間)における長期記憶行動評価の結果を示す。化合物3は、ESC投与の3日前から、次の2週間のESC投与中に投与した。MWMの結果、ESCを投与したマウスの記憶障害が確認された。一方、化合物3(1及び10mg/kg)を投与した群では、ESC群と比較して、隠されたプラットフォームを用いた試験(T7)と可視プラットフォームを用いた最後の試験(T6)の最初の脱出潜時の比が有意に減少した。この結果は、1mg/kgの用量が最大効果量として振る舞うことを示している。要するに、この結果から、本モデルでは、コリン作動性系の変性が誘導され、MWMの長期空間記憶の悪化が証明されたが、化合物3を使用することにより、この変性が防止されることが示された。
【0041】
グルタミン酸受容体を介した興奮毒性は、ADやパーキンソン病(PD)を含む多くの神経異常の病態生理の根底にあることが認識されている。グルタミン酸は、正常な生理状態では、神経発達、伝達、シナプス可塑性において中心的な役割を担っている。また、この神経伝達物質は記憶や学習過程に関与している。低酸素‐虚血のような急性細胞障害事象や、アルツハイマー病やパーキンソン病のような慢性神経変性疾患では、様々な病毒に反応して脳組織内のグルタミン酸濃度が上昇し、この現象は特に細胞内Ca
2+濃度の上昇により神経細胞死を誘発する。式Iの化合物は、驚くべきことに、in vitro試験において、実施例5及び
図10に非限定的に示すように、グルタミン酸誘発性興奮毒性損傷に対して神経保護効果を有することが判明した。ここで、SH細胞‐SY5Yを化合物3(1.8~60μmol/L)で24時間前処理し、その後、同濃度の3及び60mmol/Lのグルタミン酸と共インキュベートした(24時間)。化合物3は、7.5及び15μmol/Lの濃度で神経細胞死を有意に減少させた(p<0.05)。これらの結果は、神経保護がミトコンドリア代謝を異なる方法で調節しうることを示唆している。
【0042】
興奮性細胞死は、グルタミン酸作動性系の他の受容体にも影響される。そのため、強力なグルタミン酸アゴニストであるカイニン酸(KA)やα‐アミノ‐3‐ヒドロキシ‐5‐メチル‐4‐イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)の投与により、実験的に障害を誘発することができる(Wang Q,et al.in Mol Neurobiol.2005,31:3‐16)。KAをげっ歯類に投与すると、発作の再発、行動の変化、それに伴う神経細胞(特に海馬のCA1及びCA3領域)の変性が起こることが知られている(Wang Q,et al.In Mol Neurobiol.2005,31:3‐16)。KAによる神経細胞死は、ミクログリアやアストロサイトの活性化の上昇を伴い、炎症性サイトカインの発生を増加させる(Chen,Z.et al.In J.Neurobiol.,2005,62(2),207‐218)。また、KA受容体の活性化は、ミトコンドリア膜の脱分極を生じさせ、その結果、細胞内のCa2+濃度を変化させる(Brorson,JR et al.J.Neurosci.,1994,14(1),187‐197)。そのため、ミトコンドリア機能に障害が引き起こされ(Wang,Q.et al.in Mol.Neurobiol.,2005,31(1‐3),3‐16)、ROSやENOSの発生が増加し、OEやニトロソ化ストレス(NE)が発生し、その有害な神経細胞作用により細胞死を誘発する(Ueda,Y.et al.in Exp.Brain Res.2002,147(2),219‐226)。
【0043】
我々の経験では、KA対照群の動物では、KA注射後10~20分以内で、無動、口や顔の動き、硬直した姿勢が観察され、場合によっては中程度の強直性間代発作が発生した。その後20~60分で、うなずき、反復運動、浮き沈みが観察され、その後、浮き沈みが続き、最終的にはより重度の強直間代性発作が生じた。しかし、化合物3(投与量:5及び50mg/kg)で処理したものでは、これらの効果は、驚くべきことに、より少ない頻度と強度で現れた(
図11、非限定的実施例6)。
図11は、3(5及び50mg/kg)で処置した群の総スコア(0~120分)の有意な減少を示し、その効果は50mg/kg用量でより大きかった。
【0044】
式Iの化合物はこれまで製剤化されていないので、本発明の医薬組成物は、これらの化合物の物理化学的特性及び特異な方法で、組成物中の成分の重量比を考慮した、独自のものである。したがって、提示された製剤は、抗コリン作用、抗酸化作用、抗グルタミン酸作用及び抗炎症作用を有するこれらのマルチターゲット治療薬の特性を保証するものである。これらの製剤は、活性成分の有効血漿中濃度の経時的な持続投与を可能にし、これまでに記載されていない有効性を保証し、経口、舌下、非経口、経皮、鼻腔内投与による付着性と耐性を高めることができる。
【0045】
本発明の、ヒトに投与するための式Iの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物、プロドラッグの医薬製剤は、適当な賦形剤を含み、固体、半固体、ゼラチン質又は液体形態、例えば錠剤、カプセル、懸濁液、エマルジョン、非経口溶液、経皮パッチ、点鼻液、粘膜粘着剤などであることができる。典型的には、製剤は、ビヒクル又は製剤の成分とともに、0.1~99%、好ましくは1~80%の活性化合物を含有するであろう。賦形剤は、液体、固体又は半固体の補助物質、有機及び無機性質の化合物で、天然又は合成起源で、生理学的に許容され、活性成分の製剤化に一般的に使用されるものである。
【0046】
本発明で選択される医薬形態は錠剤であり、これは少なくとも1日に1回投与され、式Iの化合物、又はその医薬的に許容される塩の群から選択される治療活性成分、及び固体、半固体、ゼラチン質又は液体ポリマーマトリックスの医薬的に許容される担体を含有する。本発明の剤形は、前記剤形が水溶液にさらされたときに、治療上活性な薬剤の放出を2~24時間の間で持続させる。前記製剤の投与後、活性成分の溶解率は6時間から18時間の間に80%超であり、薬剤の有効血漿レベルは24時間維持される。活性成分は、製剤あたり約1~100mgの量で存在する。
【0047】
本発明において、特にポリマーとして使用する錠剤:ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CCNa)、セルロース誘導体、Eudragit RS PO、ポリビニルピロリドン又はその組み合わせ。24時間修正放出製剤では、ポリマーは5%w/wから80%w/w、好ましくは10%から70%w/wの範囲の量で存在する。12時間修正放出製剤では、ポリマーは好ましくは5%w/wから50%w/wの量で存在する。製剤は、文献に記載されている従来の方法で調製される。
【0048】
図12、13及び14は、活性成分の錠剤を得るための、本発明の限定とみなされるべきではない3つの錠剤製剤化(実施例7、8及び9)の制御放出プロフィールを示す:(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)、6‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}ヘキサン酸)(2)及びメチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)。これらの製剤は、活性成分10mgと、結合剤としてのデンプン、崩壊剤としての微結晶セルロース、希釈剤としてのラクトース、滑沢剤としての二酸化ケイ素、潤滑剤としてのステアリン酸マグネシウムなどの添加物を異なる割合で含み、それをポリマーマトリックス:HMPC、HPC及びEudragit RS POとして使用した。
図12、13及び14は、3つの製剤において、媒体のpHに依存する2つの放出相が存在することを示す。このように、錠剤(HMPC、HPC、EudragitRS PO)を非酵素酸媒体に60分間曝露した後、マトリックスからの活性成分の放出は顕著ではなく、1%未満の活性成分の放出にとどまった。一方、3つの製剤の錠剤をpH7.5の緩衝液にさらすと、活性成分の放出過程が徐々に増加し、24時間以内に96%超のほぼ完全な媒体への放出が得られた。この放出は、非限定的に例示された3つの活性成分について起こる。
【0049】
本発明の非限定的な性質で示された3つの製剤のこれらの放出プロファイルは、pHが変化すると溶解曲線の傾きが増加することを明確に示し、これは活性成分の時間外持続放出があることを意味する。この放出パターンをヒトに応用すると、放出は2段階で行われ、血中の活性成分の濃度は徐々に、そして適度に上昇するため、望ましくない副作用を減らすことができる。これは特に、胃では活性成分含量の1%程度しか放出されないため、胃の副作用の可能性を回避するのに有効である。さらに、一般的に長い投与間隔での確実な徐放は、患者における薬理効果を向上させ、治療の順守と耐性を高める。
【0050】
要約すると、本発明の式I化合物の錠剤製剤は、最適な放出プロファイルを有する。それは、錠剤が生理学的に適合する成分を組み込んで簡単かつ経済的な方法で製造できるように、アクセス可能なポリマーマトリックスを使用し、これは、悪性の副作用を生じることなく、投与を容易にする二相の徐放性組成物を提供する。
【0051】
本発明で開発された経皮システムは、以下の連続した層で構成されている:a)親油性の保護外層;b)式Iの活性成分を含有する層:ゲル、懸濁液、エマルジョンなどの形態;ここで化合物はマトリックス(アクリルであってもよい)に組み込まれ、その有効な貯蔵を保証する;c)活性成分を放出する二面性制御膜;d)放出モジュール:活性成分のリザーバーと薬物放出制御系を含み、一般にポリマー材料(カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチルセルロース、ゼラチン、メチルセルロース、デンプンなど;合成エラストマー:ポリブタジエン、ポリイソプレン、ネオプレン、ポリシロキサンなど;合成ポリマー:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン(PVP)などから作成される。e)低アレルギー性粘着層:パッチを圧力で固定することができ、アクリルポリマー、低アレルギー性シリコーン、樹脂、鉱物油、ポリイソブチレンなどを含有する。f)内部保護フィルム:システムを皮膚に適用する前に除去される。この外用パッチのコーティングにより、悪性の副作用なく、皮膚から血流にのって薬剤が連続的に穏やかに放出される。パッチは、その大きさと投与量キャパシティによって2種類に分けられる。1つは、面積5cm2、活性成分の用量5mg、1日4mgの化合物を放出するタイプ。もう1つは、面積とキャパシティが2倍になったものである。治療は、小さい方のパッチを1日1回使用することから始まり、耐性が良好で最低4週間経過した後、大きい方のパッチ(10cm2、10mg/24h)を適用する。
【0052】
本発明の式Iの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物、ヒトへの投与のためのプロドラッグの鼻腔用製剤は、溶媒、生体接着剤、防腐剤、抗酸化剤、界面活性剤/湿潤剤としての機能を有する異なる成分を使用する。非限定的な生体接着性賦形剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、これらはすべて0.5~7%の濃度で、ポリアクリル酸の誘導体(カルボール)は0.01~1.5%である。PEGは活性成分の溶媒として使用される。生体接着性ポリマーは、鼻腔内の滞留時間を長くする目的で、非限定的に、10~60mPasの粘度を有する。抗菌防腐賦形剤として、0.005~0.5%の塩化ベンザルコニウム、又は0.002~0.2%の濃度のEDTA二ナトリウムと0.005~0.05%のプロピルパラベンと組み合わせたものが好ましく使用される。pHは、リン酸塩又はクエン酸塩緩衝液の等張溶液を用いて6~7.5の間で調整される。等張化剤としては、特に、塩化ナトリウム、マンニトール、ソルビトール、グルコースなどを挙げることができる。使用される好ましい抗酸化剤は、0.05から2%のトコフェロールである。湿潤剤としては、3~6%のグリセロール)及び0.1~0.4%のTween80が使用され、浸透性を高めることができる。すべてのケースで使用された溶媒は、注射用水である。
【0053】
鼻腔内投与は、中枢神経系(CNS)に治療薬を送達する方法と考えられている。薬物の放出は、嗅覚経路と神経三叉路という、薬物が受容体や軸索輸送系に結合する必要のない細胞外経路に沿って数分以内に起こる(Thorne,RG et al.in Neuroscience.2002,127,481‐496)
【0054】
図15は、ESCの急性投与により誘発される健忘症に対する化合物3鼻腔内製剤投与の効果について、行動評価(Y迷路試験)を行った結果である。見てわかるように、対照群との間に差はなく、使用した製剤がY迷路試験における動物の成績に影響を与えないことがわかる。予想通り、ESCを投与した動物の新規アームにおけるスキャン時間は、両対照群と比較して有意な減少(p<0.001)が観察された。しかし、化合物3を投与した群の動物は、対照群(生理食塩水及びビヒクル)と同様の値を示しており、3がESCによる健忘を防止することが示された。
図16は、物体識別試験(ODT)における結果を示す。新規物体の識別指数(DI)は、対照群と化合物3投与群との間に有意差は認められなかったが、一方、ESC投与群では、DIの大幅な低下が認められた(p<0.001)。
【0055】
本実験の結果、ESCの急性投与は、Y迷路モデルとODTの両方で認知機能障害を誘発し、他の著者が観察したものと類似していることがわかった(de Bruin N,et al.,J Neurodegener Dis.2015;2015:242505.Doi:10.1155/2015/242505)。これとともに、化合物3の鼻腔内投与は、両モデルにおいて認知機能障害を予防し、これは、経口投与されたこの化合物の急性及び慢性ESCモデルにおけるこれまでの結果と一致する。3の鼻腔内投与により、経口投与よりも低用量でESCの健忘作用を予防することが可能となる。
【0056】
以下の実施例及び図は、本発明を限定するものとしていかなる意味でも解釈されるべきではなく、ヒトへの投与のための、式Iの化合物、その塩、水和物、エナンチオマー、異性体、代謝物及びプロドラッグの医薬製剤のコリン作動性、グルタミン酸作動性及びミトコンドリア系の異なるメカニズムに対するマルチターゲット標的作用が説明される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図の内容についての説明
【
図1】本発明の非限定的な実施例のために選択された式Iの化合物のいくつかの構造と物理化学的特性。
【
図2】式Iの化合物(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)のラット肝臓から分離したミトコンドリアの膜電位に対する影響。
【
図3】式Iの化合物(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)のラット肝臓から分離したミトコンドリアの膨潤に対する影響。
*** p<0.001 スチューデントt検定による対照に対する比較、p<0.05を統計的に有意な差とみなした。
【
図4】ラット肝臓から分離したミトコンドリアにおける反応性酸素種の生成に対する式Iの化合物(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1))の影響。
*** p<0.001 スチューデントt検定によるEGTA群との比較、p<0.05を統計的に有意な差とみなした。
【
図5】スコポラミン急性投与による記憶喪失モデル(ESC)における化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用。対照、ESC、及び3を単回投与した処理群(0.1、1、10、及び20mg/kg、i.p.)の獲得セッション後のY迷路における短期空間記憶。
* p<0.05,
** p<0.01,
*** p<0.001。一元配置分散分析後、テューキ―の事後検定(Turkey's post‐hoc test)を実施。
【
図6】スコポラミン急性投与による記憶喪失モデル(ESC)における化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用。対照群、ESC群、及び0.1、1、10、及び20mg/kgの用量で3を投与した群の訓練セッション後、新規アームに永続的に滞在した時間。
* p<0.05,対照群に対する比較
【数1】
ESCに対する比較。一元配置分散分析後、テューキ―の事後検定を実施。
【
図7】スコポラミン急性投与による記憶喪失モデル(ESC)における化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節効果。上段:各実験群の2日間プロトコルにおけるMWMの成績。下段:長期空間記憶、可視プラットフォームによる最後の試行の脱出潜時(D1T4)、可視プラットフォームによる最初の試行の脱出潜時(D2T1)。
** p<0.01,
*** p<0.001、ESC群との比較。
【数2】
対照群に対する比較。一元配置分散分析、テューキーの事後検定。
【
図8】スコポラミンの急性投与による記憶喪失モデル(ESC)における化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル}アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用。対照群、ESC投与群、メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)及びドネゼピルの急性ESCモデルの動物脳ホモジネートの可溶性画分における抗コリンエステラーゼ活性。バーは平均値±SEMに対応し、n=10動物/群。
*** p<0.001、対照群に対する比較。
【数3】
【数4】
ESC群に対する比較。p<0.05は、統計的に有意な差とみなされた。使用した統計検定:一元配置分散分析、テューキ―の事後検定。
【
図9】スコポラミンの慢性使用による記憶喪失モデルにおける化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用。
*** p<0.001、対照群に対する比較。
【数5】
【数6】
ESC群に対する比較。一元配置分散分析、テューキーの事後検定。
【
図10】細胞株SH‐SY5Yにおける、グルタミン酸(グルタマート、glutamate)によって誘発される興奮毒性障害に対する化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の神経保護作用。SH‐SY5Y細胞を異なる濃度の化合物3(1.8~60μmol/L)で24時間処理し、その後、培地を再び化合物とグルタマート60mmol/Lを含有する新しい培地に置き換えた。対照:未処理細胞(NT)及びグルタマート(Glut)。生存率はMTT試験により決定した。メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマートは、濃度(7.5及び15μmol/L)でグルタマートによって生じる細胞死を有意に減少した。各バーは平均値±SEMを表し、n=3。p<0.05は統計的に有意な差とみなされた。
【
図11】カイニン酸のicv投与により誘発された発作に対する化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の神経保護効果(異なる群の動物の最終スコア(0~120分)で表される)。バーは平均値±SEMを表し、1群あたりn=7である。
* p<0.05;
** p<=.001。対照群に対する比較。一元配置分散分析、テューキーの事後検定。p<0.05の値は、統計的に有意な差とみなした。
【
図12】化合物:(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)及びメチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の錠剤の製剤1の、酵素なしで、pH1.2、pH7.5及びpH1.2から7.5まで変動させた、18時間にわたる放出プロファイル。
【
図13】化合物:6‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}ヘキサン酸)(2)及びメチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の錠剤の製剤2の、酵素なしで、pH1.2、pH7.5、及びpH1.2から7.5まで変動させた、18時間にわたる放出プロファイル。
【
図14】化合物:メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の錠剤の製剤3の、酵素なしで、pH1.2、pH7.5、及びpH1.2から7.5まで変動させた、18時間にわたる放出プロファイル。
【
図15】Y迷路試験におけるスコポラミン(1.5mg/kg、ip)の急性投与により誘発される健忘症に対する化合物3の単回鼻腔内投与(7.2mg/kg)の効果。バーは、新規アームで費やされた時間の平均値±SEMを表す、n=10匹/群。
*** p<0.001;生理食塩水対照群及びビヒクル対照との比較。
【数7】
ESC群に対する比較。単純ANOVA検定後、テューキーの多重比較検定。
【
図16】物体識別試験におけるスコポラミン(1.5mg/kg.、i.p.)の急性投与により誘発される健忘症に対する化合物3の鼻腔内経路による単回投与(74μg/kg)の効果。バーは識別指数の平均値±SEMを表し、n=10匹/群である。
*** p<0.001;生理食塩水対照群及びビヒクル対照との比較。
【数8】
スコポラミン群に対する比較。単純ANOVA検定後、テューキーの多重比較検定。
【実施例】
【0058】
以下に、式Iの化合物のうち3つについて実施例を示すが、これはいかなる意味でも本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0059】
実施例1.式1化合物(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1))のラット肝臓から単離したミトコンドリアの膜電位、膨潤、反応性酸素種の産生に及ぼす効果の評価。
ラットミトコンドリアの単離:雄のWistarラットの肝臓から、古典的な方法である差動遠心分離によりミトコンドリアを分離した(Mirandola SR,et al.,in J Neurosci Res 2010;88:630‐39)。
【0060】
インキュベーションの手順:125mmol/Lスクロース、65mmol/L KCl、10mmol/LのHEPES‐KOH、pH7.4を含有する標準インキュベーション培地で、30℃にて5mmol/Lコハク酸カリウム(プラス2.5μmol/L ロテノン)でミトコンドリアを活性化した。
【0061】
ミトコンドリアアッセイ
ミトコンドリア膜電位及びROSは、蛍光プローブとして、それぞれ、サフラニン(10μmol/L)(Zanotti A.,and Azzone GF in Archives of Biochemistry and Biophysics 1980,201(1),255‐265)及びAmplex Red(Molecular Probes,OR,Eugene)を用い、ホースラディッシュペルオキシターゼ(1 IU/mL)の存在下(Votyakova and Reynolds,in J Neurochem.2001,79(2),266‐77)で分光測光法により測定した。測定は、日立蛍光分光光度計、モデルF‐4500(東京、日本)において、λexc 495/λem 586nm(サフラニン)及びλexc 563/λem 587nm(Amplex Red)で行った。これらの実験は、0.1mmol/LのEGTAの存在下で行い、評価化合物はN‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)で、濃度範囲は0.1~100μmol/Lであった。ミトコンドリアの膨潤は、日立分光光度計、モデルU‐2910(日本)を用いて、540nmにおける吸光度の減少から分光光度的に推定した。
【0062】
データ解析:すべての場合において、データの正規分布と分散の均質性は、それぞれKolmogorov Smirnov検定とLevene検定を使用して評価した。ミトコンドリア機能変数の比較は、スチューデントのt検定によって実施した。有意水準は0.05とし、データ解析にはStatistica 8.0プログラム(StatSoft Ink)を使用した。結果のグラフ表示は、GraphPad Prism 5.0プログラム(GraphPad Software,California,USA)を用いて行った。
【0063】
実施例2.スコポラミンの急性使用により誘発される記憶喪失モデルにおける化合物メチル(2‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用の評価。
動物
National Center for the Laboratory Animals Production(国立実験動物生産センター、CENPALAB、キューバ)から供給された若い雄のOF‐1マウス(20~25g)を使用した。実験前に動物を、7日間、実験室の条件(制御された温度25±2℃、相対湿度60±10%、明暗サイクル12時間)に適応させた。この期間中及び実験中は、水とCENPALAB製のげっ歯類用標準飼料を自由に摂取させた。すべての手順は、実験動物の使用とケアに関する欧州委員会のガイドラインに従って実施され、研究動物ケア委員会の承認を得た。一貫したデータを得るために必要な最小限の動物数及び観察期間を使用した。
【0064】
実験の設計
適応期間終了時、動物を体重に応じて、1群12匹の5つの実験群にランダムに振り分けた。認知欠損の誘発にはスコポラミン臭化水素酸塩水和物(ESC、Sigma Aldrich)を用い、これを生理食塩水に溶解し、試験の30分前に1.5mg/kgの用量で腹腔内(ip)投与した(Miranda HF et al.in.J.Biomed.Sci.,2014 21(1):62‐62)。使用した化合物3の用量は、0.1、1、10及び20mg/kg体重であった。この化合物は、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いて製剤化した。投与スキームは、以下のように設計した:
【0065】
群1(認知機能が正常なネガティブ対照)。30分間隔で2回投与し、それぞれビヒクル(5%CMC)を経口投与、生理食塩水をi.p.投与とした。
群2(認知機能障害を有するポジティブ対照)。30分間隔で2回投与し、1回目はビヒクル(5%CMC)、2回目はESC 1mg/kgを投与した。
群3、4、5及び6(0.1、1、10及び20mg/kgの3で処理した)。30分間隔で2回投与し、1回目は各群に対応した用量の3を、2回目はESC 1mg/kgを投与した。行動評価は、この2回目の投与から30分後に実施した。
【0066】
行動試験
Y迷路
短期空間記憶の試験は、迷路の周囲に迷路外トラックを設置したY迷路行動パラダイム(長さ40cm×幅9cm×高さ16cm)を用いて、新規空間選好の試験を通じて行われた。試験は、2時間の間隔を置いた2つの試行で構成された。最初のトレーニング試験(獲得)では、マウスは迷路の中央に置かれ、ランダムに選択されたアームの1つの端に向いていた。置かれた後、一方のアームを閉じた状態で10分間迷路を探索させた(新規アーム)。この試験が終わると、マウスは元のケージに戻され、2回目の試験(回復試験)では、5分間、迷路の3つのアームを自由に探索することができた。各アームでの総滞在時間(探索)をビデオ録画から測定・分析した。アームの入り口は、当該アームに動物の4本の脚が入ることとして定義した。学習した課題の回復試験中の各アームでの滞留時間(秒)を統計解析に使用した。迷路は、走行の合間に70%エタノールで洗浄した。すべてのマウスは、試験の1日前までにホームケージで行動試験室に搬送された。実験は午前8時から午後12時30分の間に実施した。
【0067】
モリス水迷路(MWM)。
体験は、1日目のトレーニングと2日目の試験の2日間行われた。すべてのマウスは、試験の少なくとも1日前までにホームケージで行動試験室に運ばれ、実験は午前8時から午後12時30分の間に実施された。動物は1日目(D1)に、水温24±2℃の直径120cm、深さ51cmのプールで、各四分円の壁と室内の外部標識に高コントラストの視覚信号を配置し、一連の可視プラットフォーム試験において基準に従って訓練された。訓練段階は、可視プラットフォームによる4回の試験(V1‐V4)からなり、最後の試験は、慣れ後のその基本的な脱出潜時とされた。これをD1V4(1日目,試験可視プラットフォーム4)とした。動物の訓練は、各マウスが同じ試験間隔、すなわち各試験の間に30±10分となるように時間をずらして行い、ランダムに選んだ迷路の異なる位置から毎回開始した。プラットフォームを視認できるようにするため、水槽の底面に対してコントラストの高い物体で識別した。1分以内に脱出できなかった動物は、手動でプラットフォームに誘導し、5~10秒間その上に留まらせた後、撤去した。その後、乾燥させ、低体温を避けるために白熱灯で照らされたそれぞれのケージに入れた。最後の可視プラットフォーム試験(D2)から24時間後、動物は隠されたプラットフォームによる一連の3つの試験(T1‐T3)で評価された。試験は30分ごとに行われ、各試験の時間は最大1分であった。すべての試験において、プラットフォームは同じ場所に置かれたままであった。
【0068】
統計解析。
すべてのデータは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)で表される。モリス水迷路のデータは、2つの方法で分析した。可視プラットフォーム訓練段階における脱出潜時は、2因子ANOVA(処理×試行)を用いて分析した。長期記憶の試験では、可視プラットフォームによる訓練段階の最後の脱出潜時値(D1V4)と、24時間後に行われた隠されたプラットフォームによる試験の最初の値(D2T1)を使用した。長期記憶容量に異常のないマウスは、最初の試験ではすぐに隠されたプラットフォームに到達するはずである。D2T1‐D1V4の差とD2T1/D1V4の比率でスコアリングシステムを作成した。成功した対象のD2T1‐D1V4スコアは0に近く、D2T1/D1V4スコアは1以下であるべきである。数値が高いほど24時間後の脱出潜時が長く、動物の空間性能の欠損を意味する。この比較は、一元配置分散分析、その後のテューキーの事後検定を用いて行われた。Y迷路のデータの分析も、上記の同じテストを使って行った。p<0.05を統計的に有意な差とみなした。統計解析は、GraphPadPrism version 5(GraphPad Software,Inc.,San Diego,USA)を用いて実施した。
【0069】
実施例3.全脳ホモジネート中のAChE活性による、スコポラミンの急性使用で誘発される記憶喪失モデルにおける化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用の評価。
マウスの脳におけるAChE活性は、脳ホモジネート上清中の酵素活性を決定するために適応されたEllmanらの比色アッセイ(Ellman GL,et al.In Biochem Pharmacol.,1961;7:88‐95)に従って決定した。簡単に手順は以下の通りであった;行動実験の終わりに、マウスを麻酔し、首を切って素早く脳を取り出し、氷冷したプレート上に置いた。それらを秤量し、160mmol/Lスクロースを含有する冷たい10mmol/L Tris‐HCl緩衝液、pH7.2中でホモジナイズ(1/10、w/v)した。ホモジネートを10,000XG、4℃で10分間遠心分離し、得られた透明な上清を酵素源とし、これを分取(各群n=10)して-20℃で保存した。アッセイは、96穴マイクロタイタープレートを用いてエルマン試薬(DTNB 10mmol/L)、50μLホモジネート及び10μLヨウ化アセチルコリン(AChI、20mmol/L)(最終量200μL)により行った。5‐チオ‐2‐ニトロ安息香酸ジアニオンの黄色加水分解物(モル消衰係数:13 700mol/L-1cm-1)の吸光度を412nmで、1分間隔で20分かけて測定した。AChE活性は3連で行い、タンパク質1mgあたり1分間に加水分解されたAchIのnmolで表した。タンパク質濃度は、修正Lowry法(Markwell MAK et al.In Anal.Biochem.1978,87(1):206‐210)で決定した。
【0070】
統計解析。
すべてのデータは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)で表される。コリンエステラーゼ活性値の比較は、一元配置分散分析、次いでテューキーの事後検定により行った。統計解析は、GraphPadPrism version 5(GraphPad Software,Inc.,San Diego,USA)を用いて実施した。
【0071】
実施例4.スコポラミンの慢性使用により誘発される記憶喪失モデルにおける化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の抗コリン性調節作用の評価。
動物:
国立実験動物生産センター(CENPALAB、キューバ)から供給された雄のC57BL/6マウス(20~25g)を使用した。実験中、動物はCENPALABから供給された水と標準食を自由摂取した。すべての手順は、実験動物の使用とケアに関する欧州委員会のガイドラインに従って実施され、研究動物ケア委員会の承認を得た。一貫したデータを得るために必要な最小限の動物数及び観察期間を使用した。
【0072】
実験の設計
適応期間終了時、動物を12匹ずつ5つの実験群に体重に応じてランダムに振り分けた。認知欠損の誘発には、ESC(Sigma Aldrich)を用い、これを生理食塩水に溶解し、1.5mg/kgの用量で毎日腹腔内(ip)に2週間、午前中に投与した(Park JH,et al.In J Mol Neurosci.2016;59(4):579‐589)。化合物3を懸濁液として、0.5%可溶性デンプン(Merck Millipore)で調製し、1日量0.1、1、10mg/kg体重(0.01mL/kg)で胃内カニューレにより経口投与した。実験群は以下の通りである:
【0073】
群1(認知機能が正常なネガティブ対照)。ビヒクル:デンプン0.5%(経口)及び生理食塩水(i.p.)を2週間毎日投与した。
群2(認知機能障害を有するポジティブ対照)。ESC 1.5mg/kgを2週間連日投与し、ビヒクル(デンプン0.5%)を経口投与した。
群3、4、5 化合物3の投与は、ESCの投与開始の4日前に開始した。各群の動物に、それぞれ0.1、1及び10mg/kgの用量で3を経口投与した。ESCの毎日の投与(1.5mg/kg)を2週間行った。この治療が終了した時点で、行動評価を開始した。
【0074】
モリス水迷路(MWM):実施例2と同様に、2日間のMWM試験により、長期空間記憶を測定した。この場合、直径1.35mの水槽を用いたので、訓練期間中に6回(D1V1~D1V6)、24時間後に3回(D2T1~D2T3)の試験を実施した。このようにして、長期空間記憶は脱出潜時値D2T1/D1V6の商で決定された。
【0075】
統計的な分析。
長期記憶データの解析のために、GraphPadPrismバージョン5プログラム(GraphPad Software,Inc.、San Diego,USA)を用いて、非限定的な実施例2のものと同様の統計的手順を実施した。
【0076】
実施例5.細胞株SH‐SY5Yにおける、グルタミン酸によって誘発される興奮毒性損傷に対する化合物メチル(2‐ {[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の神経保護作用。
化合物3は、100mmol/Lの濃度でDMSOに溶解し、その後、分注して-20℃で保存した。RPMI 1640(1X)+GlutaMax培地(Gibco Laboratorios Life Technologies,Inc.;Rockville,MD,USA)は、HEPES緩衝液(25mmol/L)及びL‐グルタミン(2mmol/L)を含み、10%ウシ胎仔血清(FBS)、1%ピルビン酸ナトリウム(100mmol/L)、1%抗生物質混合物 ペニシリン(10,000U/mL)‐トレプトマイシン(10mg/mL)、1%ゲンタマイシン(10mg/mL)、トリプシン‐EDTA(0.25%)及びリン酸緩衝生理食塩水(1X DPBSが補充された)。3‐(4,5‐ジメチルl‐2‐チアゾイル)‐2,5‐ジフェニルテトラゾール(MTT)ブロミド,ジメチルスルホキシド(DMSO)及びグルタミン酸はSigma Chemical Co.(St.Louis,MO,USA)のものであった。
【0077】
細胞培養:SH‐SY5Yヒト神経芽腫細胞(ATCC CRL‐2266)を、HEPES緩衝液(25mmol/L)及びL‐グルタミン(2mmol/L)を含有するRPMI1640培養液に、あらかじめ熱により不活性化した10%ウシ胎仔血清(FBS)、1mmol/L ピルビン酸ナトリウム、ベンジルペニシリン抗生物質混合物(100U/mL)及びストレプトマイシン(100μg/mL)を入れてT75cm2フラスコで培養した。さらに、ゲンタマイシン(100μg/mL)を添加し、その後、完全培地(CM)とした。培養物は、5%CO2、95%空気、温度37℃の湿度の高い雰囲気でインキュベートした。培地は2日ごとに交換し、細胞は5日ごとにトリプシン処理により4~5×106細胞/75cm2フラスコの密度で継代培養し、実験作業及び/又は後の使用のための新世代の細胞の継代培養のために使用した。
【0078】
メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)細胞毒性:SH‐SY5Yヒト神経芽細胞腫細胞をRPMI1640(CM)で培養し、CO2 5%、空気95%の雰囲気下で37℃でインキュベートした。80~90%の間のコンフルエンスに達したとき、0.25%トリプシンEDTA混合液(1mL/25cm2)で2~3分間トリプシン処理し、細胞を剥離させる。その後、この懸濁液を同体積のMCで中和する。その後、112XGで8分間遠心分離し、上清をデカンテーションで除去し、沈殿物を1mLの完全培地に再懸濁し、血球計数装置で計数した。
【0079】
細胞密度がわかった時点で、96ウェル培養プレート(各ウェル200μL)に80×104細胞/ウェルの濃度で播種し、24時間インキュベーション後、各ウェルで100μLの上清を除去し、続いて加えた。CMで調製した化合物3を異なる濃度(0.93、1.87、3.75、7.5、15、30、60、100μmol/L)で100μLを添加し、37℃、5%CO2、95%空気の条件で再度24時間インキュベートした。インキュベーション時間経過後、MTTアッセイにより細胞生存率を測定した。
【0080】
グルタミン酸誘導性神経細胞死に対するメチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチウムカルバマートの神経保護作用:化合物3の神経保護効果を評価するために、細胞株SH‐SY5Yを80~90%の間のコンフルエンスに達するまで培養し、細胞をトリプシン処理し、続いて血球計数器で計数した。細胞密度がわかったら、96ウェル培養プレート(各ウェル200μL)に80×104細胞/ウェルの濃度で播種した。その後、37℃、5%CO2の湿潤環境で24時間インキュベーションした後、各ウェルに100μLの上清を排除し、完全培地で調製した化合物3を異なる濃度(0.93;1.87;3.75;7.5;15;30;60μmol/L)で100μL加え、再度37℃、5%CO2、95%空気の条件で24時間インキュベーションした。インキュベーション時間が経過したら、各ウェルに100μLの上清を排除し、前日と同じ濃度で100μLの新鮮な化合物3混合物と完全培地中の60mmol/Lの新鮮なグルタミン酸を加え、CO2 5%、空気95%、37℃の条件下で再び24時間インキュベートした。インキュベーション時間後、MTTアッセイにより細胞の生存率を測定した。
【0081】
細胞生存率。MTTアッセイ:細胞生存率は、生存細胞でのみ活性を持つミトコンドリアデヒドロゲナーゼによるMTT(3‐(4,5‐ジメチル‐2‐チアゾリル)‐2,5‐ジフェニル‐2Hテトラゾリウムブロミド)の酵素的変換から得られるホルマザンブルー生成物を通じて測定した。アッセイは96ウェルプレートで行われ、細胞はストレッサーとしてグルタミン酸、化合物3、又はその両方に異なる時間及び濃度でさらされた。異なる処理に供した後、MTT(MCで5mg/mLに調製した新鮮なもの)を加え、50μL/ウェルを加え、37℃で5%CO2、95%空気の雰囲気中で4時間インキュベートした。その後、各ウェルにイソブチルアルコール(SDS10%、2‐ブタノール50%、0.25μL HCl 2mmol/L)を100μL加えてホルマザン結晶を可溶化し、30分前に各ウェルの光学濃度をClariostar分光光度計(BMG Labtech)で570nmで測定した。OD値の補正は690nmで行った。各実験について3回の複製を実施した。結果は、グルタミン酸で処理しない細胞群について得られた光学密度に対する各実験変法の光学密度の割合として表した。
【0082】
実施例6 カイニン酸のicv投与によって誘発される発作に対する化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の神経保護作用。
実験動物及び群
国立実験動物生産センター(CENPALAB、キューバ)から供給された若い雄のOF‐1マウス(20~25g)を使用した。実験を実施する前の動物の適応及び維持の条件は、非限定的な実施例2で展開したものと同様であった。マウスを、以下の5つの実験群(7匹群)に分けた:対照群(PBS 2μL、icv)、発作対照群(KA 2μL、icv)及び1、5、50mg/kg(0.01mL/kg)及びKA 2μL、icvの用量で化合物3を胃カニュレーションにより経口投与した3群。化合物3は、5%カルボキシメチルセルロース(CMC)ビヒクル中の懸濁液として調製した。対照群における3及びビヒクルの投与は、KAのicv注射の1時間前に実施された。すべての動物に、PBS中で調製したKA(Sigma Aldrich)を0.5mg/mLの濃度で投与した。
【0083】
KA icv投与。
KAのicv投与のために、マウスは685.71mg/kgの抱水クロラールでi.p.麻酔をかけ、デュアルマニピュレータに乗せた。定位固定フレームと頭蓋骨を露出させた。側脳室の脳定位座標は、前頂と腹側硬膜を基準として、前後方向-0.8mmol/L、外側±1.0mmol/L、背腹方向-3.0mmol/Lと正確に測定し、歯棒を0mmol/Lとした。定位固定装置のアームに取り付けた自動マイクロパーフォレーションにより、頭蓋骨に穿頭孔を開けた。この孔から10μLの28ゲージHamilton(登録商標)シリンジを入れ、定位固定装置の別のアームに取り付け、シリンジのピストンを右側脳室内に手動で下ろし、3分間内容物を空にした。
【0084】
行動観察
発作のスコアリングは、以下の測定基準を用いて、Racineスケール(R.J.Racine,in Clin.Neurophysiol.1972,32 281‐294)に従って行われた:(1)無動、口と顔の動き、(2)前肢の伸展及び/又は尾の伸展、硬直姿勢、(3)反復運動、頭の揺れ、(4)急停止と転倒、(5)連続した急停止と転倒、(6)重度の強直間代発作、(7)死。各動物は独立した2人の観察者によって観察され、行動は2時間にわたって定量化された。この時間間隔での各動物の累積スコアの合計を統計解析に使用した。
【0085】
統計解析
すべてのデータは平均値±平均値の標準誤差(SEM)で表され、一元配置分散分析に続いてテューキ―の事後検定を用いて分析された。群間比較には、KAのicv投与が行われた2時間後に、各実験群の累積スコアの平均を用いた。p<0.05を統計的に有意な差とみなした。統計解析は、GraphPadPrism version 5(GraphPad Software,Inc.,San Diego,USA)を用いて実施した。
【0086】
実施例7.活性成分N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)及びメチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)のヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)での錠剤の製造のための処方1。
すべての成分は、処方で必要とされる量に従って秤量された。活性成分及びポリマーマトリックスを40号篩メッシュで篩い分け、その後、30rpmで5分間混合した。その後、15分ごとに、残りの成分を50rpmの速度で、均質な混合物が得られるまで添加した。次に、この混合物を高速回転機で、平型、斜め型、溝なしダイを用いて圧縮する。
【0087】
得られた錠剤は、滑らかで均一であり、重量変動は1%未満であり、適切な硬度(4.51±0.37kgf)であり、耐摩耗性が良好で、適切な崩壊時間が得られ、活性成分の含有量は90~110%であることがわかった。
【0088】
試験対象の親水性マトリックスからの活性成分の放出プロファイルの統計処理は、Origin 5.0 ソフトウェアを用い、信頼水準95%で実施した。
1錠あたりの製造処方1
【表1】
【0089】
実施例8.活性成分N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)及びメチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)のヒドロキシプロピルセルロース(HPC)との錠剤の製造のための処方2。
すべての成分は、処方で必要とされる量に従って秤量された。活性成分とポリマーマトリックスを40号ふるいメッシュでふるい分け、その後、30rpmで5分間混合した。その後、15分ごとに、残りの成分を50rpmの速度で、均質な混合物が得られるまで添加した。次に、この混合物を高速回転機で平型、斜め型及び溝なしダイを使用して圧縮する。
【0090】
得られた錠剤は滑らかで均一であり、重量変動は1%未満であり、適切な硬度(4.51±0.37kgf)であり、良好な耐摩耗性、適切な崩壊時間であり、活性成分の含有量は90~110%の間に認められる。
【0091】
親水性マトリックスからの活性成分の放出プロファイルの統計処理は、Origin 5.0ソフトウェアを用いて、信頼水準95%で実施した。
1錠あたりの製造処方2
【表2】
【0092】
実施例9:活性成分メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)のEUDRAGITと乳糖との錠剤の製造のための処方3。
すべての成分は、処方で必要とされる量に従って秤量された。活性成分とポリマーマトリックスを20号ふるいメッシュでふるい分け、その後、30rpmで5分間混合した。その後、15分ごとに、残りの成分を50rpmの速度で、均質な混合物が得られるまで添加した。次に、この混合物を高速回転機で平型、斜め型及び溝なしダイを使用して圧縮する。
【0093】
得られた錠剤は滑らかで均一であり、重量変動は1%未満であり、適切な硬度(5.01±0.68kgf)であり、良好な耐摩耗性、適切な崩壊時間であり、活性成分の含有量は90~110%であった
【0094】
親水性マトリックスからの活性成分の放出プロファイルの統計処理は、Origin 5.0ソフトウェアを用いて、信頼水準95%で実施した。
1錠あたりの製造処方3
【表3】
【0095】
実施例10:メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の鼻腔用製剤
溶液A:化合物3をPEG400、トコフェロール、及びグリセロールに可溶化する。
溶液B:40%の水に攪拌と加熱(80℃)で完全に溶解するまでHPMCを再懸濁する。
溶液C:60%の水に、塩化ベンザルコニウム、NaH2PO4、Na2HPO4、NaCl、EDTA、及びTween 80を溶解する。pHが6.3に維持されることが確認されている。
【0096】
次に、溶液BとCを合わせ、均質な溶液が得られるまで攪拌する。次に、溶液Aをこの溶液にゆっくりと加え、攪拌し、最後に0.2μmol/Lの膜で濾過する。
【表4】
【0097】
実施例11:1(N‐[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]‐β‐アラニン(1)の鼻腔用製剤
溶液A:化合物3をPEG400、トコフェロール、及びグリセロールに可溶化させる。
溶液B:40%の水に攪拌と加熱(80℃)により完全に溶解するまでHPMCを再懸濁する。
溶液C:60%の水に、塩化ベンザルコニウム、NaH2PO4、Na2HPO4、NaCl、EDTA、及びTween 80を溶解する。pHが6.3に維持されることが確認されている。
【0098】
次に、溶液BとCを合わせ、均質な溶液が得られるまで攪拌する。次に、溶液Aをこの溶液にゆっくりと加え、攪拌し、最後に0.2μmol/Lの膜で濾過する。
【表5】
【0099】
実施例12.製剤1、2、及び3の溶解プロファイルの試験。
溶出試験は、キューバ規格(CECMED:Validation of Analytical Methods.Regulation No.41.Havana:CECMED;2007)及び米国薬局方(USP 36,Rockville:Mack Printing,New York 2013,p 3220‐ 3221)に示されるものを考慮した。
【0100】
製剤(実施例7、8及び9)の各バッチの20錠の重量を確認した。それらのすべては、初期製剤に関連する誤差なく、選択されたマトリックスの薬物放出プロファイルが決定された、許容される錠剤の重量値の範囲内である。
【0101】
放出プロファイルを決定するための手段:
媒体1.‐酵素を含まない模擬胃液 pH 1.2±0.05
2gのNaCl(分析用ニート)を秤量し、1000mLフラスコ中の7mLのHClに溶解する。フラスコは蒸留水で満杯にする。この溶液のpHは1.2である。
【0102】
媒体2.‐酵素を含まない模擬腸液 pH 7.5±0.1
一塩基性リン酸カリウム 6.8gを秤量し、1000mLのメスフラスコに移した。その後、水250mLを加え、固体を溶解し、0.2N NaOH溶液190mLと二重蒸留水400mLを加えた。最後に二重蒸留水で1000mLとした。溶液のpHは、0.2N NaOHでpH7.5±0.1に調整した。
【0103】
手順
各錠剤を溶解装置(Distek,Evolution 6100 モデル)に入れ、600mの溶出溶媒‐1を入れ、37°÷0.5℃で、30rpmで60分間攪拌した。試験開始5分、15分、30分、60分後に試験溶媒の一部を直ちに0.45μmol/Lのフィルターで濾過した。
【0104】
その後、溶解装置から溶出溶媒‐1を排出し、それを温度37℃±0.5℃で溶出溶媒‐2の600mLと交換し、30rpmでさらに8時間攪拌した。
【0105】
サンプルは5分から1080分まで実施し、指示された時間でサンプルは直ちに0.45μmol/Lのフィルターで濾過した。
【0106】
各溶出溶媒中の試料溶液の吸光度値は、決定した最大吸光度長で求めた。製剤化された化合物を定量するため、0.025~0.150mg/mLの濃度範囲で、紫外可視分光光度法検量線(λmax)を行い、調整ブランク(溶出溶媒)を使用した。
【0107】
得られたデータの分析によると、使用した方法論は、分析方法論に求められる直線性(R>0.999)、精度(再現性、繰り返し性)及び正確さのパラメータに準拠しており、本試験で用いた濃度範囲及び実験条件において、正確かつ精密な結果を得ることができる。
【0108】
実施例13.スコポラミンの慢性使用で誘発される記憶喪失モデルにおける、化合物メチル(2‐{[4‐(1‐ナフチルアミノ)‐4‐オキソブタノイル]アミノ}エチル)ジチオカルバマート(3)の鼻腔内投与(例10による製剤)の抗コリン性調節効果の評価。
動物
国立実験動物生産センター(CENPALAB、キューバ)から供給された雄のC57BL/6マウス(20~25g)を使用した。実験を実施する前の動物の適応及び維持の条件は、非限定的な実施例4で展開したものと同様であった。
【0109】
実験の設定。
適応期間の終了時に、動物を10匹ずつの4つの実験群に体重に従ってランダムに分配した:2つの健康な対照群では、一方は鼻腔経路を介してビヒクルを投与し(G1)、他方は生理食塩水をipを介して投与した(G2);病気の対照群では、鼻腔生理食塩水を投与し、その後、生理食塩水に溶解したESCを投与した(1.5mg/kg、ip)(G3)、及び治療群では非限定的実施例10の製剤に従って調製した化合物3を投与し、15分後にESCを投与する(1.5mg/kg、ip)(G4)。この実験は、2つの行動モデル(隠されたアームモダリティのY迷路と物体識別モデル)における化合物3の鼻腔用製剤の効果を試験するために、記載した同じ条件下で2つの実験シリーズで実施された。このようにして、合計60匹の動物が使用された。
【0110】
鼻腔内投与については、先に述べた方法論に従った(Hanson,L.R.,et al.inJ.Vis.Exp.2013(74),e4440,doi:10.3791/4440)。簡単に説明すると、マウスの頭部を頸部を伸ばした仰臥位で保持し、その後、利き手で、自動ピペットに6μLの薬剤又はビヒクルを装填した。ピペットの先端を左鼻孔に近づけ、約3μLのピペット内容物を排出した。2~3秒後、同じ鼻の穴で同じ操作を繰り返した。この操作の終了時、動物を仰臥位に保ち、同じ操作を今度は右の鼻孔で繰り返した。終了後、マウスをケージに入れ、2分後に両鼻孔に再度塗布した。このシステムにより、動物は3回固定され、総量30μLが適用され、これは化合物3の用量7.2mg/kg体重に相当する。最後の投与終了から15分後、各動物にESC又はそのビヒクル(生理食塩水)を1.5mg/kgずつi.p.投与し、30分後に行動実験を実施した。
【0111】
行動試験
Y迷路
短期空間記憶の試験は、海馬に依存する空間記憶の認識を評価するために、チームの周りに迷路外トラックを有するY迷路行動パラダイム(長さ40cm×幅9cm×高さ16cm)を用いて、新規空間選好の試験を通じて実施された。この試験は、非限定的な実施例2で説明したのと同じプロトコルに沿って展開された。実験は、8時から12時30分amの間に実施された。
【0112】
物体識別
物体認識試験(ORT)は、CNS疾患のげっ歯類モデルにおける学習及び記憶の様々な側面、特に認識記憶を調べるために一般的に用いられる行動試験である。使用したプロトコルは3段階からなり、第1慣らし段階(1日目)、第2慣らし段階(2日目)、そして最後に試験段階(3日目)である。すべての段階は5分続き、3日間連続して実施された。第1段階では、動物をプレキシガラスの箱(25cm×25cm×25cm)内に入れた。動物の行動はビデオカメラで記録された。この第1日目は、環境に慣れるために、実験30分前に動物を試験室に連れてきた。その後、マウスは5分間、物がない状態で箱の中を自由に探索させた。2日目には、2つの同じ物体を箱の中の対向する2つの位置に、最も近い角から同じ距離で同時に置くというトレーニング試験を各マウスに実施した。この段階では、マウスは同一の物体を5分間探索させた後、ホームケージに戻された。試験段階(3日目)では、この段階の前に、2つの馴染みのある物体のうち1つを新しい物体と交換し、動物を同じ箱に戻した。この試験で使用された物体はすべて、形と色は異なるが大きさは同じであった。これらは箱の床に固定され、動かないようになっている。嗅覚信号の存在を避けるため、各試験の後は必ず箱全体と対象物を70%アルコールで洗浄した。新しい物体と相対する物体を識別する能力は、物体を探索するのに必要な時間を通して観察された。物体探索時間は、動物が物体から2cmの距離に鼻を向けたり、匂いを嗅いだり、蹴ったりした時間と定義した。物体の上に座ったり立ったりすることは探索と認めなかった。スキャン時間は、スマートビデオソフトウェアを用いて手動で解析した。識別指数(ID)は以下のように算出した。
ID=新規物体探索時間/新規物体探索時間+馴染みのある物体探索時間。
【0113】
統計解析
すべてのデータは平均値±平均値の標準誤差(SEM)で表され、一元配置分散分析に続いてテューキーの事後検定を用いて分析された。p<0.05を統計的に有意な差とみなした。統計解析は、GraphPadPrism version 5(GraphPad Software,Inc.,San Diego,USA)を用いて実施した。
【手続補正書】
【提出日】2022-05-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、放出制御型経口医薬組成物:
a.式Iのマルチターゲット化合物、
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R
4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は前述の基の薬学的に許容できる塩、
R
4:スクシンイミジル基;
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H、‐アルキル。
用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の直鎖又は分枝脂肪族鎖であることを特徴とし、好ましくはメチル又はエチルである、用語「アルキレニル」は、直鎖又は分枝アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)又はプロピレニル(‐CH
2CH
2CH
2‐)を指す、
b.式Iの活性成分の放出制御に実質的に寄与するポリマーマトリックス、
前記組成物は、その使用環境において2時間から24時間まで活性成分の放出を維持し;6時間から18時間の間に80%の溶解率を有し、24時間で90%超の溶解率を有する。
【請求項2】
錠剤が、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CCNa)、セルロース誘導体、Eudragit RS PO及びポリビニルピロリドン、又はその組み合わせの群から選択される、5%w/w~80%w/w、好ましくは10%w/w~70%w/wの割合であるポリマーマトリックス中に、1mg~100mgの活性成分を含むことを特徴とする、請求項1に記載の放出制御経口医薬組成物。
【請求項3】
以下を含む鼻腔用医薬組成物:
a.式Iのマルチターゲット化合物、
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R
4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は前述の基の薬学的に許容できる塩、
R
4:スクシンイミジル基;
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H、‐アルキル、
用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の、直鎖又は分枝脂肪族鎖であることを特徴とし、好ましくはメチル又はエチルである、用語「アルキレニル」は、直鎖又は分枝アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)又はプロピルレニル(‐CH
2CH
2CH
2‐)を指す。
b.式Iの活性成分の鼻腔内での滞留時間を増加させることに実質的に寄与する生体接着性ポリマー、
前記医薬形態は、神経経路への薬物の効果的なアクセスを保証する。
【請求項4】
用量あたり0.1mg~25mgの活性成分を、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリアクリル酸の誘導体(カルボール)、又はそれらの組み合わせの群から選択される、10~60mPasの粘度を有する、0.05~6%の割合の賦形剤に配合されて含有することを特徴とする、請求項3に記載の鼻腔用医薬組成物。
【請求項5】
0.09~1.8%の濃度のPEG;0.05~0.7%の濃度のCMC、0.08~1%の濃度のトコフェロール;0.007~0.47%の濃度の塩化ベンザルコニウム、0.003~0.19%の濃度のEDTA二ナトリウム、及び0.005~0.04%の濃度のプロピルパラベン、又はそれらの組み合わせの群から選択される抗菌防腐剤;及び3.5~5.5%の濃度のグリセロール及び0.17~0.38%の濃度のTween 80、又はそれらの組み合わせの群から選択される保湿剤を、リン酸緩衝液で調整した、5.5~6.5のpH、好ましくは6.3のpHで含有することを特徴とする、請求項4記載の鼻腔用医薬組成物。
【請求項6】
0.09~1.8%の濃度のPEG;0.05~0.7%の濃度のCMC、0.08~1%の濃度のトコフェロール;0.007~0.47%の濃度の塩化ベンザルコニウム、0.003~0.19%の濃度のEDTA二ナトリウム、及び0.005~0.04%の濃度のプロピルパラベン、又はそれらの組み合わせの群から選択される抗菌防腐剤;及び3.5~5.5%の濃度のグリセロール及び0.17~0.38%の濃度のTween 80、又はそれらの組み合わせの群から選択される保湿剤を、リン酸緩衝液で調整した、5.5~6.5のpH、好ましくは6.3のpHで含有することを特徴とする、請求項4記載の鼻腔用医薬組成物。
【請求項7】
ADに存在するコリン作動性、グルタミン酸作動性系の障害、ミトコンドリア及び炎症性レドックス系の不均衡に使用するためのマルチターゲット化合物の医薬組成物であって、前記化合物が、式Iを有する化合物の群から選択されることを特徴とする医薬組成物
ここで
R
1:‐アルキレニル‐C(O)NH‐アルキレニル‐R
3、‐アルキレニル‐C(O)O‐R
4;
R
3:‐COOH、‐OH、‐SH、‐NH
2、‐NH‐アルキル‐、‐NH‐アルキレニル‐NH
2、‐NH‐アルキレニル‐NH‐C(O)‐アルキレニル‐S‐R
5、‐NH‐ジチオカルバマートアルキル、‐N‐アルキルジチオカルバマートアルカリ土類金属塩;又は前述の基の薬学的に許容できる塩、
R
4:スクシンイミジル基;
R
5:‐H、‐C(O)‐アルキル、‐C(O)‐C
6H
5;及び
R
2:‐H,‐アルキル、用語「アルキル」は、飽和炭素原子及び水素原子の、直鎖又は分枝脂肪族鎖であることを特徴とし、好ましくはメチル又はエチルである、用語「アルキレニル」は、直鎖又は分枝アルキル基の二価の類似体、好ましくはメチレニル(‐CH
2‐)、エチレニル(‐CH
2CH
2‐)又はプロピレニル(‐CH
2CH
2CH
2‐)を指す、ここで前記医薬組成物は薬学的に許容できる賦形剤を含有する。
【請求項8】
錠剤が、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CCNa)、セルロース誘導体、Eudragit RS PO及びポリビニルピロリドン、又はその組み合わせの群から選択される、5%w/w~80%w/w、好ましくは10%w/w~70%w/wの割合であるポリマーマトリックス中に、1mg~100mgの活性成分を含有することを特徴とする、請求項7のADに存在するコリン作動性、グルタミン酸作動性系の障害、ミトコンドリア及び炎症性レドックス系の不均衡に使用するためのマルチターゲット化合物の医薬組成物。
【請求項9】
前記鼻腔用医薬組成物は、用量あたり0.1mg~25mgの活性成分を、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリアクリル酸の誘導体(カルボール)、又はそれらの組み合わせの群から選択される、10~60mPasの粘度を有する、0.05~6%の割合の賦形剤に配合されて含有することを特徴とする、請求項7に記載のADに存在するコリン作動性、グルタミン酸作動性系の障害、ミトコンドリア及び炎症性レドックス系の不均衡に使用するためのマルチターゲット化合物の医薬組成物。
【請求項10】
0.09~1.8%の濃度のPEG;0.05~0.7%の濃度のCMC、0.08~1%の濃度のトコフェロール;0.007~0.47%の濃度の塩化ベンザルコニウム、0.003~0.19%の濃度のEDTA二ナトリウム、及び0.005~0.04%の濃度のプロピルパラベン、又はそれらの組み合わせの群から選択される抗菌防腐剤;及び3.5~5.5%の濃度のグリセロール、0.17~0.38%の濃度のTween 80、又はそれらの組み合わせの群から選択される保湿剤を、リン酸緩衝液で調整した、5.5~6.5のpH、好ましくは6.3のpHで含有することを特徴とする、請求項7のADに存在するコリン作動性、グルタミン酸作動性系の障害、ミトコンドリア及び炎症性レドックス系の不均衡に使用するためのマルチターゲット化合物の医薬組成物。
【国際調査報告】