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特表2023-551251脳卒中を治療するための金クラスター、組成物、および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】脳卒中を治療するための金クラスター、組成物、および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20231130BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231130BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20231130BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A61K33/242
A61P9/10
A61K47/20
A61K47/42
A61K47/54
A61K47/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531705
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 CN2021112729
(87)【国際公開番号】W WO2022110911
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/132280
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519000526
【氏名又は名称】深▲セン▼深見医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROFOUND VIEW PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 3311, Building 9A,District II,Shenzhen Bay Eco-Technology Park, No. 3609, Baishi Road, High-tech Zone Community, Yuehai Street, Nanshan District, Shenzhen, Guangdong 518000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】スゥン、タオレイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076CC01
4C076DD55
4C076DD60
4C076EE41
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
【要約】
本発明は、リガンド結合金クラスターおよび前記リガンド結合金クラスターを含む組成物の脳卒中の治療および脳卒中を治療するための医薬の製造における使用、及び脳卒中の治療方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記リガンド結合金クラスターが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドとを含み、
前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項2】
請求項1記載の脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記金コアの直径が、0.5~3nmである、リガンド結合金クラスター。
【請求項3】
請求項1記載の脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである、リガンド結合金クラスター。
【請求項4】
請求項1記載の脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、リガンド結合金クラスター。
【請求項5】
請求項4記載の前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項6】
請求項4記載の前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項7】
請求項4記載の前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項8】
請求項4記載の前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項9】
請求項4記載の前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項10】
請求項4記載の前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターであって、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項11】
対象の脳卒中を治療するための医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)、前記リガンド結合金クラスターが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドとを含み、
前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項12】
請求項11記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記金コアの直径が、0.5~3nmである、リガンド結合金クラスター。
【請求項13】
請求項11記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである、リガンド結合金クラスター。
【請求項14】
請求項11記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、リガンド結合金クラスター。
【請求項15】
請求項14記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項16】
請求項14記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項17】
請求項14記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-(D)L-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項18】
請求項14記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項19】
請求項14記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【請求項20】
請求項14記載の医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)であって、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる、リガンド結合金クラスター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患治療の技術分野に関し、特にリガンド結合金クラスター(AuCs)、前記リガンド結合AuCsを含む組成物、前記リガンド結合AuCsの脳卒中の治療のための医薬の製造における使用、および前記リガンド結合AuCsおよび組成物を利用して脳卒中を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管が血栓で詰まったり、破れたりすると、脳卒中は発症する。脳卒中には、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)の三つのタイプがある。
【0003】
出血性脳卒中は、血管が破れて、脳への血流が妨げられることで起こる。一般的な症状としては、突然の脱力感、体のどこかの麻痺、発話障害、嘔吐、歩行困難、昏睡、意識消失、首こり、めまいなどがある。特効薬はまだ存在しない。
【0004】
虚血性脳卒中は、脳虚血(brain ischemia)や脳の虚血(cerebral ischemia)とも呼ばれ、ヒトに最も多く見られる病気の一つであり、死亡や身体障害の主な原因となっている。虚血性脳卒中は、脳卒中全体の87%程度を占めている。虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する動脈に血栓やプラークなどの塊が生じることで発症し、その塊が首や頭蓋骨に現れ、脳への血流や酸素が減少し、脳細胞の損傷や死滅を引き起こす。血液の循環が速やかに回復しない場合、永久的な脳損傷になる可能性がある。
【0005】
虚血性脳卒中の具体的な症状は、影響を受けた脳の部位によって異なる。ほとんどの虚血性脳卒中に共通する症状としては、視力障害、手足の脱力や麻痺、浮動性めまい(dizziness)や回転性めまい(vertigo)、混乱、協調性の喪失、顔面の片側の垂れ下がりなどがある。症状が出現したら、できるだけ早く治療を受けることが重要で、そうすることで、永続的な障害が残る可能性を低くすることができる。
【0006】
虚血性脳卒中の治療法は、非常に限られている。虚血性脳卒中の主な臨床的治療薬は、血栓を分解する組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)であるが、このtPAを脳卒中の発症から4時間半以内に静脈内投与しなければ、効果がない。しかし、tPAは出血を引き起こすため、出血性脳卒中、脳内出血、最近の大手術や頭部外傷の既往歴のある患者の場合は、tPAによる治療を受けることができない。長期的な治療法としては、血栓の進展を防ぐためにアスピリンや抗凝固剤を使用することが挙げられる。
【0007】
Amaniらは、25nmのコロイド状金ナノ粒子の表面にOX26-PEGを結合させたOX26@GNPsが壊死した脳組織を著しく増加させ、裸のGNPとPEG化したGNPは壊死した体積に影響を及ぼさなかったことから、OX26@GNPは脳卒中の治療に適さないことを示していることを開示している。
【0008】
Zhengらは、OGD/R損傷ラットモデルにおいて、20nmのAu-NPsが細胞生存率を高め、神経細胞のアポトーシスと酸化ストレスを緩和し、ミトコンドリア呼吸を改善することを明らかにしている。しかし、Zhengらは、5nmのAuNPsは逆の効果を示し、脳卒中の治療には適さないことも実証している。
【0009】
TIAは、一時的な血栓によって引き起こされるものである。一般的な症状としては、体の片側の脱力感やしびれ、麻痺、言葉が不明瞭になること、目が見えなくなること、めまいなどがある。特効薬はまだ存在しない。
【0010】
脳卒中の治療は、脳虚血または脳出血に起因して脳神経細胞が損傷または死亡することによる患者の神経機能不全または死亡を回避または軽減するために、タイムリーに行う必要がある。出血性脳卒中およびTIAを治療するための特異的な治療薬は存在せず、虚血性脳卒中を治療するためのtPAなどの主要な薬物は、出血を引き起こす。よって、患者が出血性脳卒中ではなく虚血性脳卒中であると断定的に診断された場合のみ、虚血性脳卒中の治療のための薬物を使用することが決定される。しかしながら、この断定的診断のプロセスは、虚血性脳卒中をタイムリーに治療するための貴重な時間を費やしている。
【0011】
脳卒中を治療するための効果的な方法および薬物、特に、出血性脳卒中および虚血性脳卒中の両方に治療効果のある薬物が求められている。出血性脳卒中および虚血性脳卒中の原因が根本的に異なるため、文献中のすべての薬物開発は、いずれも出血性脳卒中又は虚血性脳卒中のうちのどちらかを対象としている。よって、出血性脳卒中や虚血性脳卒中を問わず、脳卒中の患者を治療することができる薬物を開発することは、想像を絶する挑戦であり、業界ではタブーとされることができる。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、対象の脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスター、リガンド結合金クラスターで対象の脳卒中を治療する方法、および対象の脳卒中を治療するための医薬の製造のためのリガンド結合金クラスターの使用を提供する。
【0013】
特定の実施形態では、リガンド結合金クラスターが、対象の脳卒中を治療するために用いられ、前記リガンド結合金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含み;前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmである。
【0015】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである。
【0016】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0017】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0018】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0019】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0020】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0021】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる。
【0022】
前記脳卒中を治療するためのリガンド結合金クラスターの特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる。
【0023】
特定の実施形態では、リガンド結合金クラスター(AuC)が、前記対象の脳卒中を治療するための医薬の製造のために用いられ、前記リガンド結合金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含み;前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる。
【0024】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmである。
【0025】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである。
【0026】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0027】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0028】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0029】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-(D)L-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0030】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0031】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる。
【0032】
前記医薬の製造のためのリガンド結合金クラスター(AuC)の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる。
【0033】
本発明の目的および利点は、添付の図面に関連するその好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
次に、本発明による好ましい実施形態を、同様の参照番号が同様の要素を示す図を参照して説明する。
【0035】
図1】様々な粒子サイズのリガンドL-NIBC修飾金ナノ粒子(L-NIBC-AuNP)の紫外線可視(UV)スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)画像および粒子サイズ分布図を示す。図1Aが、3.6nm L-NIBC-AuNPのUVスペクトルを示す。図1Bが、3.6nm L-NIBC-AuNPのTEM画像を示す。図1Cが、3.6nm L-NIBC-AuNPの粒子サイズ分布図を示す。図1Dが、6.0nm L-NIBC-AuNPのUVスペクトルを示す。図1Eが、6.0nm L-NIBC-AuNPのTEM画像を示す。図1Fが、6.0nm L-NIBC-AuNPの粒子サイズ分布図を示す。図1Gが、10.1nm L-NIBC-AuNPのUVスペクトルを示す。図1Hが、10.1nm L-NIBC-AuNPのTEM画像を示す。図1Iが、10.1nm L-NIBC-AuNPの粒子サイズ分布図を示す。図1Jが、18.2nm L-NIBC-AuNPのUVスペクトルを示す。図1Kが、18.2nm L-NIBC-AuNPのTEM画像を示す。図1Lが、18.2nm L-NIBC-AuNPの粒子サイズ分布図を示す。
【0036】
図2】様々な粒子サイズのリガンドL-NIBC結合金クラスター(L-NIBC-AuC)の紫外線可視(UV)スペクトル、TEM画像および粒子サイズ分布図を示す。図2Aが、1.1nm L-NIBC-AuCのUVスペクトルを示す。図2Bが、1.1nm L-NIBC-AuCのTEM画像を示す。図2Cが、1.1nm L-NIBC-AuCの粒子サイズ分布図を示す。図2Dが、1.8nm L-NIBC-AuCのUVスペクトルを示す。図2Eが、1.8nm L-NIBC-AuCのTEM画像を示す。図2Fが、1.8nm L-NIBC-AuCの粒子サイズ分布図を示す。図2Gが、2.6nm L-NIBC-AuCのUVスペクトルを示す。図2Hが、2.6nm L-NIBC-AuCのTEM画像を示す。図2Iが、2.6nm L-NIBC-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0037】
図3】1.1nm、1.8nmおよび2.6nmのL-NIBC-AuCの赤外線スペクトルを示す。
【0038】
図4】リガンドCR結合金クラスター(CR-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図4Aが、CR-AuCのUVスペクトルを示す。図4Bが、CR-AuCの赤外線スペクトルを示す。図4Cが、CR-AuCのTEM画像を示す。図4Dが、CR-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0039】
図5】リガンドRC結合金クラスター(RC-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図5Aが、RC-AuCのUVスペクトルを示す。図5Bが、RC-AuCの赤外線スペクトルを示す。図5Cが、RC-AuCのTEM画像を示す。図5Dが、RC-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0040】
図6】リガンド1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(即ち、Cap)結合金クラスター(Cap-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図6Aが、Cap-AuCのUVスペクトルを示す。図6Bが、Cap-AuCの赤外線スペクトルを示す。図6Cが、Cap-AuCのTEM画像を示す。図6Dが、Cap-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0041】
図7】リガンドGSH結合金クラスター(GSH-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図7Aが、GSH-AuCのUVスペクトルを示す。図7Bが、GSH-AuCの赤外線スペクトルを示す。図7Cが、GSH-AuCのTEM画像を示す。図7Dが、GSH-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0042】
図8】リガンドD-NIBC結合金クラスター(D-NIBC-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図8Aが、D-NIBC-AuCのUVスペクトルを示す。図8Bが、D-NIBC-AuCの赤外線スペクトルを示す。図8Cが、D-NIBC-AuCのTEM画像を示す。図8Dが、D-NIBC-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0043】
図9】リガンドL-システイン結合金クラスター(L-Cys-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図9Aが、L-Cys-AuCのUVスペクトルを示す。図9Bが、L-Cys-AuCの赤外線スペクトルを示す。図9Cが、L-Cys-AuCのTEM画像を示す。図9Dが、L-Cys-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0044】
図10】リガンド2-アミノエタンチオール結合金クラスター(CSH-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図10Aが、CSH-AuCのUVスペクトルを示す。図10Bが、CSH-AuCの赤外線スペクトルを示す。図10Cが、CSH-AuCのTEM画像を示す。図10Dが、CSH-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0045】
図11】リガンド3-メルカプトプロピオン酸結合金クラスター(MPA-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図11Aが、MPA-AuCのUVスペクトルを示す。図11Bが、MPA-AuCの赤外線スペクトルを示す。図11Cが、MPA-AuCのTEM画像を示す。図11Dが、MPA-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0046】
図12】リガンド4-メルカプト安息香酸結合金クラスター(p-MBA-AuC)のUV、赤外線、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図12Aが、p-MBA-AuCのUVスペクトルを示す。図12Bが、p-MBA-AuCの赤外線スペクトルを示す。図12Cが、p-MBA-AuCのTEM画像を示す。図12Dが、p-MBA-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0047】
図13】リガンド4-システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)結合金クラスター(CDEVD-AuC)のUV、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図13Aが、CDEVD-AuCのUVスペクトルを示す。図13Bが、CDEVD-AuCのTEM画像を示す。図13Cが、CDEVD-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0048】
図14】リガンド4-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)結合金クラスター(DEVDC-AuC)のUV、TEM、および粒子サイズ分布図を示す。図14Aが、DEVDC-AuCのUVスペクトルを示す。図14Bが、DEVDC-AuCのTEM画像を示す。図14Cが、DEVDC-AuCの粒子サイズ分布図を示す。
【0049】
図15】各群のラットの神経学的行動スコアを示す(各時点のヒストグラムにおいて、左から右へ順に、偽手術群(ブランク)、モデル対照群、A1低用量群、A1高用量群、A2低用量群、A2高用量群、A3低用量群、A3高用量群、A4低用量群、A4高用量群、B1低用量群、B1高用量群、B2低用量群 およびB2高用量群)。
【0050】
図16】各群のラットの脳梗塞面積の割合を示す(ヒストグラムにおいて、左から右へ順に、偽手術群(ブランク)、モデル対照群、A1低用量群、A1高用量群、A2低用量群、A2高用量群、A3低用量群、A3高用量群、A4低用量群、A4高用量群、B1低用量群、B1高用量群、B2低用量群 およびB2高用量群)。
【0051】
図17】金クラスター薬物と金ナノ粒子投与後のMCAOラットの脳組織の例示的TTC染色画像である。図17Aが、偽手術群の例示的TTC染色画像を示す。図17Bが、モデル対照群の例示的TTC染色画像を示す。図17Cが、A1低用量群の例示的TTC染色画像を示す。図17Dが、A1高用量群の例示的TTC染色画像を示す。図17Eが、B1低用量群の例示的TTC染色画像を示す。図17Fが、B1高用量群の例示的TTC染色画像を示す。
【0052】
図18】モデリング化完了後の異なる時点でのmNSS神経機能スコアの結果を示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群;BL:薬物B低用量投与群;BH:薬物B高用量投与群。図18Aが、モデリング後12時間のmNSS神経機能スコアを示す。図18Bが、モデリング後1日目のmNSS神経機能スコアを示す。図18Cが、モデリング後2日目のmNSS神経機能スコアを示す。図18Dが、モデリング後4日目のmNSS神経機能スコアを示す。図18Eが、モデリング後7日目のmNSS神経機能スコアを示す。***:IVH群と比較して、P<0.001。
【0053】
図19】エバンスブルー染色による血液脳関門(BBB)の透過性測定において、全群のラット脳組織ホモジネートの上清におけるエバンスブルー含有量を示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群。*:IVH群ラットと比較して、P<0.05;**:IVH群ラットと比較して、P<0.01;***:IVH群ラットと比較して、P<0.001。
【0054】
図20】乾湿重量法により測定されたラット脳組織の含水量を示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群。*:IVH群ラットと比較して、P<0.05;**:IVH群ラットと比較して、P<0.01;***:IVH群ラットと比較して、P<0.001。
【0055】
図21】異なる群における脳組織の例示的H&E染色画像を示す。図21A:NC群。図21B:SHAM群。図21C:IVH群。図21D:AL群。図21E:AH群。
【0056】
図22】ラット脳組織のiNOS免疫蛍光染色の例示的画像を示す。図22A:NC群。図22B:SHAM群。図22C:IVH群。図22D:AL群。図22E:AH群。
【0057】
図23】WB試験において、各群のラットの脳組織におけるMMP9タンパク質発現を示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群。図23Aが、MMP9タンパク質バンドが6並列サンプルにおいて検出されたことを示す。図23Bが、MMP9タンパク質の相対タンパク質発現(GAPDHを参照とする)を示す。IVH群と比較して、*、P<0.05。
【0058】
図24】各群のラットの脳組織におけるMDAレベルを示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群。***:IVH群と比較して、P<0.001;**:IVH群と比較して、P<0.01。
【0059】
図25】各群のラットの脳組織におけるSODレベルを示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群。***:IVH群と比較して、P<0.001。
【0060】
図26】脳組織の超薄切片の透過型電子顕微鏡検査の結果を示す。図26A:NC群。図26B:SHAM群。図26C:IVH群。図26D:AL群。図26E:AH群。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明は、以下の本発明の特定の実施形態に対する詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0062】
本出願全体において、刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、本発明が属する技術の現状をより十分に説明するために、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0063】
本明細書で使用される「投与」とは、経口(「po」)投与、座薬としての投与、局所接触、静脈内(「iv」)、腹腔内(「ip」)、筋肉内(「im」)、病変内、海馬内、脳室内、鼻腔内または皮下(「sc」)投与、または対象へのミニ浸透圧ポンプや侵食性インプラントのような徐放デバイスの埋め込みを意味する。投与は、非経口および経粘膜(例えば、経口、鼻腔、膣、直腸、または経皮)を含む任意の経路によるものである。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、および頭蓋内などの投与が含まれる。他の送達形態としては、リポソーム製剤の使用、静脈内注入、経皮パッチなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
用語「全身投与」および「全身的投与」とは、化合物又は組成物が循環系を介して、医薬作用の標的部位を含む体内の部位に送達されるように、哺乳動物に化合物又は組成物を投与する方法を意味する。全身投与には、経口、鼻腔内、直腸および非経口投与(すなわち、筋肉内、静脈内、動脈内、経皮および皮下などの消化管経由以外の投与)が含まれるが、これらに限定されない。ただし、本明細書において、全身投与は、髄腔内注射および頭蓋内投与などの循環系経由以外の手段による脳領域への直接投与を含まない。
【0065】
本明細書で使用される用語「治療する」および「治療」とは、その用語が適用される疾患もしくは状態、またはそのような疾患もしくは状態の1つもしくは複数の症状のいずれかの発症を遅らせること、進行を遅らせることもしくは逆転させること、または緩和もしくは予防することを意味する。
【0066】
用語「患者」、「対象」又は「個体」とは、互換的に、哺乳動物、例えば、ヒト又は霊長類(例えば、マカク、チンパンジー、ポンゴ)、家畜(例えば、ネコ、イヌ)、農業用哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ)、実験用哺乳動物またはげっ歯類(例えば、ラット、ネズミ、ラグモルファ、ハムスター、モルモット)などが挙げられる。
【0067】
金クラスター(AuCs)は、金原子と金ナノ粒子の間にある特殊な形態の金である。AuCsは、サイズが3nm未満であり、数個から数百個の金原子で構成されているため、金ナノ粒子の面心立方積層構造が崩壊する。その結果、AuCsは、金ナノ粒子の連続又は準連続エネルギー準位とは異なり、違うHOMO-LUMOギャップを持つ分子のような離散化した電子構造を示す。これにより、従来の金ナノ粒子が持つ表面プラズモン共鳴効果と、uv-visスペクトルでの対応するプラズモン共鳴吸収帯(520±20nm)が消失する。
【0068】
本発明は、リガンド結合AuCを提供する。
【0069】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCは、リガンドと、金コアとを含み、前記リガンドが前記金コアに結合している。前記リガンドと金コアとの結合とは、リガンドが、共有結合、水素結合、静電気力、疎水性力(hydrophobic force)、ファンデルワールス力等を介して金コアと溶液中で安定している複合体を形成することを意味する。特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmの範囲にある。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0070】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCの前記リガンドが、チオール含有化合物またはオリゴペプチドである。特定の実施形態では、前記リガンドが、Au-S結合を介して金コアに結合してリガンド結合AuCを形成する。
【0071】
特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、またはシステイン誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン誘導体が、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、またはN-アセチル-D-システイン(D-NAC)である。
【0072】
特定の実施形態では、前記リガンドが、システイン含有オリゴペプチドとその誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有ジペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、またはL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有トリペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、またはL-グルタチオン(GSH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有テトラペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)またはグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドが、システイン含有ペンタペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)、またはアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)である。
【0073】
特定の実施形態では、前記リガンドが、チオール含有化合物である。特定の実施形態では、チオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、または4-メルカプト安息香酸(p-MBA)である。
【0074】
本発明は、脳卒中の治療のための医薬組成物であって、前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、前記対象が、ヒトである。特定の実施形態では、前記対象が、犬のようなペット動物である。
【0075】
特定の実施形態では、前記医薬組成物が、上述のリガンド結合AuCと、薬理学的に許容される賦形剤とを含む。特定の実施形態では、前記賦形剤が、リン酸緩衝液、または生理食塩水である。
【0076】
本発明は、脳卒中の治療のための医薬の製造における上述のリガンド結合AuCsの使用であって、前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、使用を提供する。
【0077】
本発明は、脳卒中を有する対象を治療するための上述のリガンド結合AuCsの使用、または上述のリガンド結合AuCsを使用して脳卒中を有する対象を治療する方法であって、前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、使用または方法を提供する。特定の実施形態では、前記治療方法は、前記対象に薬理学的有効な量のリガンド結合AuCsを投与することを含む。前記薬理学的有効な量は、通常の体内研究により決定することができる。特定の実施形態では、リガンド結合AuCsの前記薬理学的有効な量は、少なくとも0.001mg/kg/日、0.005mg/kg/日、0.01mg/kg/日、0.05mg/kg/日、0.1mg/kg/日、0.5mg/kg/日、1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日、4mg/kg/日、5mg/kg/日、6mg/kg/日、7mg/kg/日、8mg/kg/日、9mg/kg/日、10mg/kg/日、15mg/kg/日、20mg/kg/日、30mg/kg/日、40mg/kg/日、50mg/kg/日、60mg/kg/日、70mg/kg/日、80mg/kg/日、または100mg/kg/日の用量である。
【0078】
以下の実施例は、本発明の原理を説明することのみを目的として提供されている。それらは、決して本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0079】
実施例
【0080】
実施例1. リガンド結合AuCsの製造
【0081】
1.1 HAuClをメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、又は酢酸エチルにを溶解して、HAuCl濃度0.01~0.03Mの溶液Aが得られた。
【0082】
1.2 リガンドを溶媒にを溶解して、リガンド濃度0.01~0.18Mの溶液Bが得られた。前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、及び、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、及びN-アセチル-D-システイン(D-NAC)等のその他のシステイン誘導体;システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体(L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-システイン-L(D)-ヒスチジン(CH)、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-グルタチオン(GSH)、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)及びグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸 ペンタペプチド(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システインペンタペプチド(DEVDC)等の、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド及びその他のシステイン含有ペプチドを含むが、これらに限定されない);及び1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)のうちの一つ又は複数等のその他のチオール含有化合物を含むが、これらに限定されない。前記溶媒は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、酢酸ブチル、t-ブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール及び酢酸プロピルのうちの一つ又は複数であった。
【0083】
1.3 HAuClとリガンドとのモル比が1:(0.01~100)となるように、溶液Aと溶液Bを混合して、氷浴において0.1~48時間撹拌し、0.025~0.8M NaBHの水、エタノール又はメタノール溶液を加えて、氷水浴において引き続き撹拌し、そして0.1~12時間反応させた。NaBHとリガンドとのモル比は、1:(0.01~100)であった。
【0084】
1.4 反応終了した後、MWCOが3K~30Kの限外ろ過チューブを使用して、8000~17500r/分の勾配で反応溶液を10~100分間遠心することにより、異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を得た。異なるMWCOの限外ろ過チューブのろ過メンブレンの開きは、直接的に、前記メンブレンを通過できるリガンド結合AuCsのサイズを決定した。当該ステップは、任意に省略されてもよい。
【0085】
1.5 ステップ(1.4)で得られた異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を水に溶解し、透析バッグに投入し、そして水において室温で1~7日間透析した。
【0086】
1.6 透析後、リガンド結合AuCsを12~24時間凍結乾燥して、粉末状又は凝集状物質であるリガンド結合AuCsを得た。
【0087】
測定からわかるように、前記方法により得られた粉末状又は凝集状物質の粒子サイズは、3nm未満であった(全体的に、0.5~2.6nmにわたって分布した)。520nmで明らかな吸収ピークがなかった。得られた粉末又は凝集体がリガンド結合AuCsであったことが特定された。
【0088】
実施例2. 異なるリガンドが結合されたAuCsの製造及び同定
【0089】
2.1 L-NIBC結合AuCs、即ち、L-NIBC-AuCsの製造
【0090】
リガンドであるL-NIBCを例とし、L-NIBCが結合したAuCsの製造及び確認について以下で詳細に説明する。
【0091】
2.1.1 1.00gのHAuClを量り、そして100mLのメタノールに溶解して、0.03Mの溶液Aを得た。
【0092】
2.1.2 0.57gのL-NIBCを量り、そして100mLの氷酢酸(酢酸)に溶解して、0.03Mの溶液Bを得た。
【0093】
2.1.3 1mLの溶液Aを量り、0.5mL、1mL、2mL、3mL、4mL、又は5mLの溶液Bとそれぞれ混合し(すなわち、HAuClとL-NIBCとのモル比が、それぞれ、1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5であった。)、氷浴において撹拌しながら2時間反応させ、溶液が明るい黄色から無色になると、速やかに1mLの新たに製造された0.03M(11.3mgのNaBHを量り、そして10mLのエタノールに溶解することにより製造された。)のNaBHエタノール溶液を加えて、溶液が濃褐色になった後、引き続き30分間反応し、そして10mLのアセトンを加えて反応を停止させた。
【0094】
2.1.4 反応後、反応溶液に対して勾配遠心を行い、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs粉末を得た。具体的な方法は以下のとおりである。即ち、反応完了後、反応溶液を30KのMWCO及び50mLの体積を有する限外ろ過チューブに転移し、10000r/分で20分間遠心し、そして内チューブ中の保持液(retentate)を超純水に溶解して、約2.6nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び10KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、13,000r/分で30分間遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.8nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び3KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、17,500r/分で40分間遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.1nmの粒子サイズを有する粉末を得た。
【0095】
2.1.5 勾配遠心により得られた3つの異なる粒子サイズでの粉末を沈殿させ、それぞれ溶媒を除去し、粗生成物をNでブロー乾燥させて、5mLの超純水に溶解し、透析バッグ(MWCOが3KDa)に入れ、透析バッグを2Lの超純水に入れ、一日おきに水を交換し、7日間透析し、凍結乾燥し、将来の使用のために保持した。
【0096】
2.2 L-NIBC-AuCsの同定
【0097】
上記で得られた粉末(L-NIBC-AuCs)に対して同定実験は行われた。同時に、リガンドであるL-NIBCにより修飾した金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)は、対照として使用された。前記リガンドがL-NIBCである金ナノ粒子の製造方法は、参考文献(W.Yan、L.Xu、C.Xu、W.Ma、H.Kuang、L.Wang及びN.A.Kotov、Journal of American Chemical Society 2012、134、15114;X.Yuan、B.Zhang、Z.Luo、Q.Yao、D.T.Leong、N.Yan及びJ.Xie、Angewandte Chemie International Edition 2014、53、4623)に参照する。
【0098】
2.2.1 透過型電子顕微鏡(TEM)によるモーフォロジーの観察
【0099】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に2mg/Lになるまで溶解してサンプルとし、そして懸滴法により試験サンプルを製造した。より具体的に、5μLのサンプルを超薄型カーボンフィルムに滴下し、水滴がなくなるまで自然蒸発させ、そしてJEM-2100F STEM/EDS電界放出形高分解能TEMによりサンプルのモーフォロジーを観察した。
【0100】
L-NIBC-AuNPsの4つのTEM画像は、図1図1B図1E図1H、及び図1Kに示され、L-NIBC-AuCsの3つのTEM画像は、図2図2B図2E、及び図2Hに示される。
【0101】
図2中の画像で示されるように、L-NIBC-AuCsサンプルは、均一な粒子サイズ及び良好な分散性を有し、かつ、L-NIBC-AuCsの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ1.1nm、1.8nm及び2.6nmであり、図2図2C図2F及び図2I中の結果とよく一致した。これに対して、L-NIBC-AuNPsサンプルは、より大きい粒子サイズを有した。それらの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ3.6nm、6.0nm、10.1nm及び18.2nmであり、図1図1C図1F図1I及び図1L中の結果とよく一致した。
【0102】
2.2.2 紫外線(UV)-可視光(vis)吸収スペクトル
【0103】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に濃度が10mg・L-1になるまで溶解し、室温でUV-vis吸収スペクトルが測定された。走査範囲が190~1100nmであり、サンプルセルが光路長1cmの標準石英キュベットであり、参照セルが超純水により充填された。
【0104】
異なるサイズを有する4つのL-NIBC-AuNPsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図1図1A図1D図1G及び図1Jに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図1図1C図1F図1I及び図1Lに示され、異なるサイズを有する3つのL-NIBC-AuCsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図2図2A図2D及び図2Gに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図2図2C図2F及び図2Iに示される。
【0105】
図1で示されるように、表面プラズモン作用により、L-NIBC-AuNPsは、約520nmで吸収ピークを有した。吸収ピークの位置は、粒子サイズに関連した。粒子サイズが3.6nmである場合、UV吸収ピークが516nmで現れ;粒子サイズが6.0nmである場合、UV吸収ピークが517nmで現れ、粒子サイズが10.1nmである場合、UV吸収ピークが520nmで現れ、粒子サイズが18.2nmである場合、吸収ピークが523nmで現れた。4つのサンプルは、いずれも560nm以上で吸収ピークを有しなかった。
【0106】
図2で示されるように、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsサンプルのUV吸収スペクトルでは、520nmでの表面プラズモン作用による吸収ピークがなくなり、560nm以上で2つの明らかな吸収ピークが現れ、吸収ピークの位置がAuCsの粒子サイズによって僅かな相違があった。これは、AuCsが、面心立方構造の崩壊により分子のような特性を示し、AuCsの状態密度の不連続性、エネルギー準位の分裂、プラズモン共鳴効果の消失、及び長波方向の新しい吸収ピークに繋がったためである。上記で得られた異なる粒子サイズでの3つの粉末サンプルは、いずれもリガンド結合AuCsであったと結論付けることができる。
【0107】
2.2.3 フーリエ変換赤外線分光法
【0108】
赤外線スペクトルは、Bruker製のVERTEX80Vフーリエ変換赤外線分光計を利用して固体粉末高真空全反射モードで測定された。走査範囲は、4000~400 cm-1であり、走査回数が64であった。L-NIBC-AuCsサンプルを例とし、試験サンプルは、異なる3つの粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs乾燥粉末であり、対照サンプルは、純粋なL-NIBC粉末であった。結果は、図3に示した。
【0109】
図3は、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。純粋なL-NIBC(下部の曲線)と比較すると、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsのSH伸縮振動は、全て、2500~2600cm-1で完全に消失したが、L-NIBCの他の特徴的なピークは、依然として残っていて、L-NIBC分子がAu-S結合を介してAuCの表面に成功に固定されていたことが証明された。この図は、リガンド結合AuCsの赤外スペクトルがそのサイズとは無関係であることも示した。
【0110】
溶液Bの溶媒、HAuCl4とリガンドとの仕込み比、反応時間及び添加されたNaBH4の量をわずかに調整した以外、上記方法と同様な方法で、その他のリガンドが結合したAuCsを製造した。例えば、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)又はN-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)がリガンドとして使用される場合、溶媒として酢酸が選択され、ジペプチドCR、ジペプチドRC又は1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンがリガンドとして使用される場合、溶媒として水が選択されることなど、その他のステップについても同じようにするため、更なる詳細はここで省略する。
【0111】
本発明は、前述の方法により、一連のリガンド結合AuCsを製造して得た。リガンドと製造プロセスのパラメーターを表1に示す。
【0112】
表1.本発明において異なるリガンドにより結合されたAuCsの製造パラメーター
【0113】
表1に挙げられたサンプルは、前記方法により確認された。11つの異なるリガンド結合AuCsの特性を図4(CR-AuCs)、図5(RC-AuCs)、図6(Cap-AuCs)(Capは1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンである)、図7(GSH-AuCs)、図8(D-NIBC-AuCs)、図9(L-Cys-AuCs)、図10(CSH-AuCs)、図11(MPA-AuCs)、図12(p-MBA-AuCs)、図13(CDEVD-AuCs)、および図13(DEVDC-AuCs)に示す。図4A図12Aは、UVスペクトルを示す。図4B図12Bは、赤外線スペクトルを示す。図4C図12Cは、TEM画像を示す。図4D図12Dは、粒子サイズ分布を示す。図13Aおよび図14Aは、UVスペクトルを示す。図13Bおよび図14Bは、TEM画像を示す。図13Cおよび図14Cは、粒子サイズ分布を示す。
【0114】
その結果、表1から得られた異なるリガンドが結合したAuCsの直径は、いずれも、3nm未満であることがわかった。紫外線スペクトルは、520±20nmでのピークの消失、及び他の位置での吸収ピークの出現も示した。この吸収ピークの位置は、リガンド、粒子サイズ、及び構造によって異なった。特定の状況で、特殊な吸収ピークが形成されないが、主な原因は、粒子径や構造の異なるAuCsの混合物が形成されたこと、または、ある特殊なAuCsにより吸収ピークの位置が紫外線可視スペクトルの範囲外に移動されたことである。一方、フーリエ変換赤外スペクトルは、リガンドチオール赤外線吸収ピーク(図4B図8Bの点線の間)の消失も示したが、他の赤外特性ピークはいずれも保持されていることから、全てのリガンド分子がAuCの表面に成功に固定されており、本発明が表1に記載されたリガンドの結合したAuCsを取得することに成功したことを示した。
【0115】
実施例3. 虚血性脳卒中動物モデル実験
【0116】
3.1 試験サンプル
【0117】
金クラスター:
【0118】
A1:リガンドL-NIBC結合金クラスター(L-NIBC-AuCs)、粒子サイズ分布0.5~3.0nm;
【0119】
A2:リガンドL-システイン結合金クラスター(L-Cys-AuCs)、粒子サイズ分布0.5~3.0nm;
【0120】
A3:リガンドN-アセチル-L-システイン結合金クラスター(L-NAC-AuCs)、粒子サイズ分布0.5~3.0nm;および
【0121】
A4:リガンドDEVDC結合金クラスター(DEVDC-AuCs)、粒子サイズ分布0.5~3.0nm。
【0122】
金ナノ粒子:
【0123】
B1:L-NIBC結合金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)、粒子サイズ分布6.1±1.5nm;および
【0124】
B2:L-NAC結合金ナノ粒子(L-NAC-AuNPs)、粒子サイズ分布9.0±2.4nm。
【0125】
すべての試験サンプルは、上記の方法に従って調製されたがわずかな変更を加えた。それらの品質は上記の方法を使用して特徴づけられた。
【0126】
3.2 実験プロトコル
【0127】
3.2.1 ラット中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルの作製と被験物質の投与
【0128】
Shanghai Shrek Experimental Animal Co.,LtdからSPFグレードの雄のSprague Dawley(SD)系ラット(220~260g)を購入した。すべてのラットに対して、実験前に7日間の環境馴化を行った。ラットを無作為に、偽手術群、モデル対照群、金クラスター薬物A1、A2、A3、A4の低用量群(2mg/kgラット体重)および高用量群(10mg/kgラット体重)、金ナノ粒子B1、B2の低用量群(2mg/kgラット体重)および高用量群(10mg/kgラット体重)を含む14群(n=10)に分けた。実験当日、ラットは10%クロラールハイドレート(350mg/kg体重)で麻酔をかけた。正中切開により、右総頸動脈、内頸動脈、外頸動脈を露出させた。MCA領域の血液供給が遮断されるまで、縫合糸を内頸動脈(ICA)に18mm±0.5mm、外頸動脈(ECA)から挿入し、脳梗塞を発症させた。1.5時間後、再灌流のために縫合糸をECA入口まで引き抜いた。手術前と塞栓後の基本脳血流(CBF)をフローメーターで測定した。CBFが持続的に低下した動物(rCBF≧70%)を中大脳動脈閉塞(MCAO)成功モデルとした。再灌流後、0時間、24時間、48時間、72時間にそれぞれ薬物または溶媒(通常の生理食塩水)をラットに腹腔内注射した。0時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後に神経学的行動スコアを評価した。実験は、手術後96時間で終了した。安楽死後、脳の採取とTTC染色を行った。脳切片の画像を撮影し、脳梗塞面積の割合を算出した。
【0129】
3.2.2 神経行動学的スコア
【0130】
0点:正常なラットと差がない。1点:右前足の伸展がまっすぐでなく、頭は反対側へ向かう。2点:オープンスペースで不連続な円を歩く。3点:オープンスペースで連続した円を歩く。4点:無意識に歩き、片側に倒れる。5点:死亡。
【0131】
3.2.3 梗塞領域(TTC染色)
【0132】
ラットは炭酸ガス吸入により安楽死させた。脳を採取し、脳トラフに入れて、冠状切片(2mm)にした。染色は2%TTCを用い、室温で暗所にて行った。写真撮影後、ImageJで梗塞面積を解析した。梗塞面積の割合(%)=(対側半球面積-(同側半球面積-梗塞面積))/対側半球面積×100%とした。
【0133】
3.2.4 統計解析
【0134】
統計解析は、Graph Pad Prism Software 7.0(CA,US)により行った。データは平均値±標準誤差で表し、統計解析はDunnett検定により行った。P<0.05は、統計的に有意であることを示す。
【0135】
3.3 結果
【0136】
3.3.1 脳虚血領域における脳血流量
【0137】
ラット脳血流量が70%以上減少(脳血流量減少、rCBF≧70%)することは、MACOモデルの作製に成功したことを示す。偽手術群を除いだ各群でrCBFは70%以上、平均約80%であり、MCAOモデルの作製に成功したことを示す。
【0138】
3.3.2 各薬物のラット神経行動への影響
【0139】
図15は、各群のラットの神経学的行動スコアを示す(各時点のヒストグラムにおいて、左から右へ順に、偽手術群(ブランク)、モデル対照群、A1低用量群、A1高用量群、A2低用量群、A2高用量群、A3低用量群、A3高用量群、A4低用量群、A4高用量群、B1低用量群、B1高用量群、B2低用量群 およびB2高用量群)。偽手術群のラットは神経学的行動が正常であり、行動スコアは0であった。モデル対照群のラットは、手術後0時間、24時間、48時間、72時間、96時間に重度の行動機能障害を示した(偽手術群と比較、P<0.001、#)。モデル対照群と比較して、A1、A2、A3、A4低用量群および高用量群の神経学的行動スコアは、手術後24時間において有意な改善が見られなかった。術後48時間で、A1、A2、A3、A4低用量群および高用量群の神経学的行動スコアは低下し始めたが、統計的な差はなかった(モデル対照群との比較、P>0.05)。術後72時間では、4つの薬物の神経学的行動スコアがさらに低下し、中でもA1低用量群、A1高用量群、A2高用量群には有意差が認められた(モデル対照群と比較、P<0.05、*)。また、術後96時間では、4つの薬物の低用量群、高用量群のいずれにも有意差が認められた(モデル対照群と比較、P<0.05、*)。これらの結果から、4種類の金クラスター薬物はいずれも虚血性脳卒中によって引き起こされる神経行動障害を有意に改善することができ、その効果はある程度用量依存的であることが示唆された。
【0140】
モデル対照群と比較して、金ナノ粒子B1およびB2の低用量群および高用量群は、術後24時間、48時間、72時間および96時間において、MACOモデルラットの神経行動スコアを有意に改善することが認められなかったことから、金ナノ粒子は虚血性脳卒中による行動障害を有意に改善することができないことが示された。
【0141】
3.3.3 MACOモデルラットの脳梗塞部位に対する各薬物の影響
【0142】
図16は、各群のラットの脳梗塞面積の割合を示す(ヒストグラムにおいて、左から右へ順に、偽手術群(ブランク)、モデル対照群、A1低用量群、A1高用量群、A2低用量群、A2高用量群、A3低用量群、A3高用量群、A4低用量群、A4高用量群、B1低用量群、B1高用量群、B2低用量群 およびB2高用量群)。偽手術群では、脳組織は正常で梗塞は発生せず、梗塞面積は0%であった。モデル対照群では、梗塞面積は44.7%±4.5%(P<0.001、###)であった。モデル対照群と比較して、A1、A2、A3、A4低用量群および高用量群の脳梗塞面積の割合は明らかに減少したが、低用量群では有意差はなく、高用量群で有意差が認められた(モデル対照群と比較、P<0.05、*)。A1を例にとると、低用量群の梗塞面積は44.7±4.5%から36.0±4.0%に減少し(モデル対照群と比較、P>0.05)、高用量群の梗塞面積は27.8±3.4%に減少(モデル対照群と比較、P<0.05、*)した。
【0143】
図17は、金クラスター薬物と金ナノ粒子投与後のMCAOラットの脳組織の例示的TTC染色画像である。図17において、図17A:偽手術群;図17B:モデル対照群;図17C:A1低用量群;図17D:A1高用量群;図17E:B1低用量群;図17F:B1高用量群。図17からわかるように、偽手術群のラットには脳梗塞がなかったが、モデル対照群には大きな脳梗塞(右側の白い部分)があった。A1剤の低用量投与により脳梗塞の面積は減少し(右側の白い部分が減少)、A1剤の高用量投与により脳梗塞の面積は大幅に減少し(右側の白い部分が大幅に減少)、B1剤の低用量及び高用量投与は脳梗塞の面積に影響を与えなかった(右側の白い部分が減少しなかった)。A2、A3、A4はA1と同様の梗塞面積の減少効果を示し、B2はB1と同様で梗塞面積の減少効果はなかった。
【0144】
他のリガンド結合AuCsも虚血性脳卒中治療において同様の効果を示すが、その効果は一定程度に異なる。これらについては、ここでは詳しく説明しない。
【0145】
実施例4.出血性脳卒中動物モデル実験
【0146】
4.1 材料および方法
【0147】
4.1.1 被験薬物
【0148】
薬物A:L-NIBC修飾金ナノクラスター(L-NIBC-AuCs)、金コアの直径0.5~3.0nm;
【0149】
薬物B:L-Cys修飾金ナノクラスター(L-Cys-AuCs)、金コアの直径0.5~3.0nm。
【0150】
4.1.2 動物および群分け
【0151】
140匹のSD系雌ラット(8週齢、190~220g)をSPFで7日間適応的に飼育した後、7つの群に無作為に分けた。
【0152】
(1)正常対照(NC)群、20匹ラット、平均体重214.0±5.1g;
【0153】
(2)偽手術(SHAM)群、20匹ラット、平均体重213.5±6.5g;
【0154】
(3)モデル対照(IVH)群、20匹ラット、平均体重214.7±6.1g;
【0155】
(4)薬物Aの低用量(4mg/kg体重)投与(AL)群、20匹ラット、平均体重212.5±7.3g;
【0156】
(5)薬物Aの高用量(10mg/kg体重)投与(AH)群、20匹ラット、平均体重212.1±6.8g;
【0157】
(6)薬物Bの低用量(4mg/kg体重)投与(BL)群、20匹ラット、平均体重213.2±6.3g;および
【0158】
(7)薬物Bの高用量(10mg/kg体重)投与(BH)群、20匹ラット、平均体重211.2±7.1g。
【0159】
群同士の間では、体重に有意な差異はなかった。
【0160】
4.1.3 モデリング、薬物投与、および試験プロトコル
【0161】
ラットの心室内出血(IVH)モデルの作製
【0162】
IVH群および各薬物投与群のラットを、2%のバルビツール(50mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔した。麻酔後、頭部の皮膚を消毒し、ラットを伏臥位のステレオロケータ上に固定した。ステレオロケータを調整することによって、ラットの切歯を切歯フックに固定し、前方および後方の泉門は同じ高さになるようにした。その後、ラットの頭が動かないように、イヤーロッドを調整し、固定した。ラットの頭部の皮膚と毛皮を消毒した後、ラット頭部の中央で皮膚を切開し、3%の過酸化水素で骨膜を剥離し、前方および後方の泉門と冠状縫合を露出させた。硬膜及び脳組織を損傷させることなく、大泉門の0.2mm後方、正中線の3mm横に、歯科用ドリルで直径約1mmの小孔を開けた。次いで、ラットの尾を40℃の温水で洗浄した。充血後、ラットの尾をエタノールで消毒し、1mlのシリンジで50μlの非抗凝固性動脈血を採取した。血液の入ったシリンジをステレオロケータに固定した。マイクロシリンジを孔を通して6mmの深さまで挿入し、自己動脈血を2回注入した。10μlの動脈血を均等に注入して、血の注入を2分間停止させ、再び40μlの動脈血を均等にゆっくりと注入し、針を4分間留まらせ、針を約2.0mm引き抜き、再び針を4分間停止させ、その後、注射器を完全にゆっくりと引き抜いた。切開を縫合した後、滅菌綿球をで圧迫し止血した。ラットを毎日チェックし、創傷治癒と感染の可能性を観察した。
【0163】
ラットの挙動は、ラットが目覚めた後に観察された。mNSS神経機能スコアを用いてラットのモデリングを評価した。手術後、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目の毎日腹腔内注射により薬物を投与し、投与量はAL群が4mg/kg体重、AH群が10mg/kg体重とした。NC群およびSHAM群のラットには、対応する時点で同量の生理食塩水を腹腔内に注射した。すべてのラットは、腹腔内注射後12時間、24時間、3日目、5日目、7日目にmNSSスコアで評価された。
【0164】
4.1.4 エバンスブルー染色による血液脳関門の透過性の測定
【0165】
処理されたラットは、エバンスブルー染色(0.5%)で静脈注射し、ラットの眼および皮膚が青くなった。0.5~1時間後、ラットを犠牲にして脳組織を取り出した。脳組織を1.5mlの遠沈管に入れ、1mlのPBSを添加し、組織ホモジナイザーで脳組織を迅速にホモジナイズし、遠心分離した。上清を取り出し、同じ量のトリクロロ酢酸を添加し、4℃でインキュベートした。15分間遠心分離した。上清を取り出し、分光光度計で620nmの吸光度値(OD値)を測定した。同時に、既知の異なる勾配を有する標準エバンスブルーのOD値を測定し、標準曲線を描いた。標準曲線に従って、被験サンプルのエバンスブルー含有量を算出した。
【0166】
4.1.5 脳含水量の測定
【0167】
乾湿重量法が採用された。虚血再灌流から24時間後、ラットに過剰な麻酔をかけた。断頭後、脳を取り出して、嗅球、小脳、低脳幹を摘出し、左右の大脳半球を分離し、直ちに重量を測定し、湿重量を記録した。次いで、脳組織を110℃の電気オーブンで24時間乾燥させ、乾燥した脳組織を速やかに秤量して乾燥重量を記録した。算出された脳含水率(%)=(湿重量-乾燥重量)/湿重量×100%とした。
【0168】
4.1.6 H&E染色
【0169】
脳組織を取り出し、包埋箱(embedding boxes)に入れた。脱水、透明化、ワックス浸漬、包埋、スライス、ベーキングの各工程を順次行った後、H&E染色を行った。オーブンからスライスを取り出し、キシレンで2回、各回15分間処理した後、それぞれ100%、95%、80%、70%エタノールで5分間処理し、超純水で2回、各回5分間処理して脱ろう工程を完了した。ヘマトキシリン染料で5分間染色後、超純水で3回洗浄し、水道水で10分間洗浄し、細胞核が青色に変化した後、0.5%のエオシン染料で5分間染色し、水道水で5回洗浄し、60℃のオーブンで乾燥させ、最後に中性樹脂で封止した。光学顕微鏡を用いて200倍の視野で観察し、画像を収集した。
【0170】
4.1.7 免疫蛍光(IF)染色
【0171】
ラットの脳組織を取り出し、包埋箱に入れた。脱水、透明化、ワックス浸漬、包埋、スライス、ベーキングの各工程を順次実施した。スライスをオーブンから取り出して脱ろうした。その後、抗原修復、洗浄、透過、iNOS一次抗体処理、ヤギ抗ウサギ二次抗体処理、およびDAPI染色の工程を実施した。最終工程は乾燥し、封止した。蛍光顕微鏡を用いて、200倍の視野の下で観察し画像を収集した。
【0172】
4.1.8 ウェスタンブロット(WB)
【0173】
まず、タンパク質サンプルを調製した。冷凍された組織を冷蔵庫から取り出し、適量の組織を秤量し、1:9の比に従ってプロテアーゼ阻害剤を含む溶解緩衝液を添加し、全ての組織片が破壊されるまで4℃で振盪した。サンプルを氷に20分間静置した後、12000rpm、4℃で20分間遠心分離し、上清を回収した。BCAタンパク質濃度アッセイキットを用いて、各サンプルのタンパク質濃度を測定した。濃度測定の結果に応じてタンパク質濃度を調整することにより、異なる群間のタンパク質濃度の整合性を確保した。95℃で5分間煮沸した後、サンプルを投入し、残りのサンプルを-80℃で保存した。
【0174】
そして、以下の工程に従ってWBを行った。
【0175】
電気泳動ゲルの調製:洗浄および乾燥ガラス板を洗浄および乾燥した後、ゲル製造器上に固定し、その後、分離ゲルを調製し、分離ゲルをガラス板の間隙に適切な高さまで注入し、ゲルが完全に重合されるまで分離ゲルを無水エタノールで被覆した。無水エタノールを注ぎ、二重の蒸留水で緩やかに洗浄した後、フィルター紙で吸引して乾燥させた。次いで、濃縮ゲルを適切な高さに添加し、櫛を挿入した。濃縮ゲルを完全に重合させた後、櫛を取り出した。
【0176】
電気泳動:処理されたサンプルを合計40μgの量で装填した。電気泳動は、濃縮ゲル用80V、分離ゲル用120V、定電圧電源で行い、標的タンパク質の位置は、染色前マーカーと標的タンパク質の分子量の相対位置に応じて決定した。標的タンパク質が分離ゲルの下1/3の最良の分解能位置にあった場合、電気泳動分離は停止された。
【0177】
膜転写:カットPVDF膜をメタノール中に10秒間浸漬した後、新しい膜転写溶液に入れて使用する。ゲルを取り出し、マーカーにしたがって標的ストリップを切断し、蒸留水でリンスし、同じサイズのPVDFフィルムおよび濾紙をPAGEゲルで切断し、PVDFフィルムおよび濾紙を電解移送バッファに浸漬した。黒色版-繊維マット-フィルター紙-ゲル-PVDF膜-フィルター紙-繊維マット-白色板の順に、これらを順次挟持して膜転写装置に入れ、黒色板側を黒負極に接続した。電解移送タンクに膜移送バッファを充填し、膜移送を開始した。この工程を4℃で行い、条件を200mA、90分間(0.45μm膜)または200mA、60分間(0.25μm膜)とした。
【0178】
ブロッキング:膜をTBSTで3回洗浄した後、ミルクを含むTBSTブロッキング溶液で室温、振とう台上で2時間ブロッキングした。
【0179】
一次抗体:対応する一次抗体を3%BSAを含むTBSTで希釈し、PVDF膜を一次抗体培養液に浸漬し、4℃で一晩インキュベートした。MMP9は1:1000、iNOSは1:2000で希釈し、インキュベーション後、PVDF膜をTBSTで各10分間、3回洗浄し、過剰な一次抗体を除去した。
【0180】
二次抗体:HRP標識された二次抗体(1:5000)をブロッキング溶液で希釈し、PVDF膜を二次抗体培養液に浸漬し、室温で1時間インキュベートし、インキュベーション後、PVDF膜をTBSTで各10分間、3回洗浄し、過剰な二次抗体を除去した。
【0181】
露光:ECLキットから安定なペルオキシダーゼ溶液を1:1の割合で混合して加工液を調製し、適量の加工液をPVDFフィルム上に滴下し、自動化学発光画像解析システムで露光した。
【0182】
露光後、TBSTを用いてPVDF膜を各5分間、3回洗浄し、適量の膜再生溶液を加えて、PVDF膜を膜再生溶液に浸漬し、室温で20分間振とう台上に溶出することにより、膜の再生を行った。溶出後、TBSTを用いてPVDF膜を各5分間、3回完全に洗浄し、過剰な膜再生溶液を除去した。
【0183】
第2のブロッキング、内部コントロールインキュベーション、二次抗体結合および曝露のための特定のプロセスは、上記の実験プロセスと同じであり、ここで、β-チューブリンおよびGAPDHの両方は、1:5000の比で希釈された。
【0184】
露光の結果をImage Jソフトウェアにより解析した。
【0185】
4.1.9 脂質過酸化アッセイ
【0186】
サンプルの調製:PBSを組織(w/v:1:9)に添加し、完全にホモジナイズし、氷上で10分間インキュベートし、4000rpmで10分間遠心分離し、アッセイ用の上清を取り出した。
【0187】
マロンジアルデヒド(MDA)キットをアッセイに使用した。ブランクチューブ、標準チューブ、測定チューブおよび対照チューブを、説明書に従って準備した。532nmにおける吸光度(OD)値を検出した。上清中のMDAの含有量は、MDA含有量(nmol/ml)=(測定OD値-対照OD値)/(標準OD値-ブランクOD値)×標準濃度(10nmol/ml)として算出した。
【0188】
4.1.10 スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)指標のアッセイ
【0189】
サンプルの調製:PBSを組織(w/v:1:9)に添加し、完全にホモジナイズし、氷上で10分間インキュベートし、4000rpmで10分間遠心分離し、アッセイ用の上清を取り出した。
【0190】
SODキットを、説明書に従ってアッセイに使用した。以下の式に従って算出した:SOD阻害率(%)=((対照ウェルのOD値-対照ブランクウェルのOD値)-(測定ウェルのOD値-測定ブランクウェルのOD値))/(対照ウェルのOD値-対照ブランクウェルのOD値)×100%;SOD活性(U/mgprot)=SOD阻害率÷50%×反応系の希釈倍率÷サンプルのタンパク質濃度(mgprot/ml)。
【0191】
4.1.11 電子顕微鏡検査
【0192】
組織ブロックを約1立方ミリメートルとした。固定、脱水、包埋および硬化後、組織ブロックを、厚さ70nmのスライスに超薄スライサーでスライスした。次いで、2%ウリル酢酸鉛-クエン酸鉛を用いてスライスを二重染色した。透過型電子顕微鏡を用いて写真を観察し、撮影した。
【0193】
4.2 結果
【0194】
図18が、モデリング化完了後の異なる時点でのmNSS神経機能スコアの結果を示す。ここで、NC:正常対照群;SHAM:偽手術群;IVH:モデル対照群;AL:薬物A低用量投与群;AH:薬物A高用量投与群;BL:薬物B低用量投与群;BH:薬物B高用量投与群。
【0195】
図18Aに示されるように、結果として、モデリング後12時間、神経機能の平均mNSSスコア:正常対照(NC)群(0.0±0.0)、偽手術(SHAM)群(0.0±0.0)、モデル対照(IVH)群(14.7±1.2)、薬物A投与低用量(AL)群(14.7±1.0)、薬物A投与高用量(AH)群(14.4±1.1)および薬物B投与低用量(BL)群(14.7±1.3)、薬物B投与高用量(BH)群(14.7±1.1)。IVH群と比較して、NC群およびSHAM群において有意な差異が存在したが(P<0.001、***)、IVH群と比較して、その他の群において有意な差異が存在しなかった。
【0196】
図18Bに示されるように、結果として、モデリング後1日目、神経機能の平均mNSSスコア:NC群(0.0±0.0)、SHAM群(0.0±0.0)、IVH群(14.3±1.3)、AL群(14.6±1.1)、AH群(14.3±1.0)、BL群(14.9±0.9)、BH群(14.3±1.0)。IVH群と比較して、NC群およびSHAM群およびIVH群において有意な差異が存在したが(P<0.001、***)、IVH群と比較して、その他の群において有意な差異が存在しなかった。
【0197】
図18Cに示されるように、結果として、モデリング後2日目、神経機能の平均mNSSスコア:NC群(0.0±0.0)、SHAM群(0.0±0.0)、IVH群(11.0±0.9)、AL群(8.6±1.5)、AH群(7.7±1.7)、BL群(9.9±1.8)、BH群(10.2±1.9)。IVH群と比較して、NC群、SHAM群、AL群およびAH群において有意な差異が存在した(P<0.001、**)。しかしながら、IVH群と比較して、BLおよびBH群が、それらのmNSSスコアがIVH群よりも低いものの、有意な差異が存在しなかった。
【0198】
図18Dに示されるように、結果として、モデリング後4日目、神経機能の平均mNSSスコア:NC群(0.0±0.0)、SHAM群(0.0±0.0)、IVH群(8.0±1.5)、AL群(6.0±1.8)、AH群(6.1±1.7)、BL群(7.2±1.8)、BH群(7.0±1.8)。IVH群と比較して、BLおよびBH群が、有意な差異が存在しなかったが、すべてのその他の群が、有意な差異が存在した(P<0.001、**)。
【0199】
図18Eに示されるように、結果として、モデリング後7日目、神経機能の平均mNSSスコア:NC群(0.0±0.0)、SHAM群(0.0±0.0)、IVH群(5.4±1.7)、AL群(2.9±0.9)、AH群(2.8±1.0)、BL群(4.5±1.8)、BH群(4.1±1.6)。IVH群と比較して、BLおよびBH群が、有意な差異が存在しなかったが、すべてのその他の群が、有意な差異が存在した(P<0.001、**)。
【0200】
結果として、異なる用量の薬物Aが、モデリング後2日目からIVHラットのmNSS神経機能スコアを有意に改善することができ、薬物AがIVHラットの治療において優れた効果を有したことを示す。しかしながら、薬物Bは、2日目から、mNSSスコアがIVH群のmNSSスコアよりも低かったが、有意差(P>0.05)がなく、IVHモデルラットの治療において、薬物Bが有効でなかったことを示した。
【0201】
IVHモデルラットに対する薬物Aの治療効果をさらに研究するために、複数の視点から研究を行った。
【0202】
図19は、血液脳関門(BBB)の透過性を測定するためのエバンスブルー染色の結果を示す。エバンスブルー染色後、IVH群におけるエバンスブルーの含有量は、NC及びSHAM群よりも有意に高かった(P<0.001、***)ことが分かる。低用量投与(AL)群および高用量投与(AH)群のラットの脳組織におけるエバンスブルーの含有量は、IVH群よりも有意に低かった(P<0.05、*;P<0.01,**)。結果として、IVHモデリングがラットにおける血液脳関門の透過性を有意に増加させたことを示し、薬物Aの低用量および高用量投与の両方がIVHモデリングによって引き起こされる血液脳関門の増加した透過性を有意に改善することができたことを示す。
【0203】
IVHモデリングによって引き起こされる脳浮腫は、頭蓋内圧、脳のヘルニアおよび動物の死の増加の重要な原因である。乾湿重量法を用いてラット脳組織の含水量を検出することにより、ラット脳浮腫の状況を評価することができる。図20は、乾湿重量法により測定されたラット脳組織中の含水量の結果を示す。分析により、NC群およびSHAM群における脳組織の含水量は、IVHモデルラットに比べて有意に低く(P<0.001、***)、薬物A低用量投与(AL)群および高用量投与(AH)群における脳組織の含水率は、IVH群よりも有意に低かった(P<0.05、*;P<0.01,**)ことが分かる。結果として、薬物A低用量および高用量投与の両方がIVHモデリングによって引き起こされる脳浮腫を有意に改善することができ、動物の予後を改善したことを示す。
【0204】
図21は、H&E染色の例示的な画像を示す。結果として、NC群における血管および細胞の周囲にいくつかの間隙(図21A)、SHAM群におけるわずかな損傷(図21B)、およびIVH群における血管および細胞の周囲の間隙を、細胞変性および液胞で明らかに拡大し、重度の脳損傷を示す(図21C)。薬物Aの低用量(AL)投与(図21D)および高用量(AH)投与(図21E)は、IVHモデルラットの脳損傷を有意に低減することができる。
【0205】
傷害誘導一酸化窒素合成酵素(iNOS)は、脳損傷後に発現される。図22は、ラット脳組織におけるiNOS免疫蛍光染色の例示的な画像を示す。IVH群におけるiNOSの正の発現(図22C)は、相対的に高いことが分かる。NC群(図22A)、SHAM群(図22B)、AL群(図22D)およびAH群(図22E)を含む他の群におけるiNOSの発現は、IVH群に比べて異なる度合いで減少した。これはIVHモデリング後のラット脳組織におけるiNOSの発現が増加し、薬物Aの低用量投与及び高用量投与がいずれもiNOSの発現を低減し、脳損傷に対して保護効果を発揮したことを示す。
【0206】
ゼラチナーゼB(MMP9)は、正常脳組織における発現がないか又は低発現である。しかしながら、IVHモデリングによる脳損傷の後、MMP9は、血液脳関門を破壊することによって、血管新生脳浮腫および他の脳損傷のプロセスにおいて重要な役割を果たす。図23は、各群のラットの脳組織におけるMMP9タンパク質の発現を示す。図23Aは、WB試験から得られた6並列サンプルのMMP9タンパク質バンドを示す。図23Bは、MMP9(GAPDHを群準とする)の相対タンパク質発現を示す。NC群、SHAM群、AL群、AH群の脳組織におけるMMP9の相対発現は、IVH群よりも有意に低い(P<0.05、*)ことが分かる。これらの結果から、低用量および高用量の薬剤Aが、モデルラットの脳損傷によって誘導されたMMP9タンパク質の発現増加を有意に抑制できることを示しており、薬剤Aが脳損傷に対して保護作用を有することを示している。
【0207】
マロンジアルデヒド(MDA)は、フリーラジカルと細胞膜の不飽和脂肪酸との間の過酸化反応の最終産物である。それは脂質酸化損傷の重要なバイオマーカーである。MDAは、組織過酸化損傷の程度を間接的に反映することができる。そのレベルは、脳卒中の病因における臨床症状の重症度に密接に関連しており、脳卒中の診断、治療および予後において重要な臨床的意義を有する。図24は、各群のラットの脳組織におけるMDAの発現を示す。NC、SHAM、AL、AH群におけるMDA発現はIVH群のMDA発現よりも有意に低く、IVHモデリングに起因する脳損傷が脳内のMDA発現の有意な増加を引き起こしたが(IVH群と比較して、NC群およびSHAM群において、P<0.001)、低、高用量の薬物A投与では、脳損傷に関連するMDA発現(IVH群と比較して、それぞれ、P<0.01、**および0.001、***)を有意に減少させたことができる。
【0208】
スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)は、体内の最も有効なフリーラジカル捕捉酵素である。体内で生成されたSODは、体内のフリーラジカルの状況を反映させることができる。出血性脳卒中脳組織におけるSODの発現および活性は、通常の脳組織に比べて有意に低いことが示されている。図25は、各群におけるラットの脳組織におけるSODの発現レベルを示す。結果は、NC、SHAM、AL及びAH群のSODの発現レベルがIVH群の発現レベルよりも有意に高いことを示し、IVHモデリングに起因する脳損傷は、脳内のSOD発現の有意な減少に起因する脳損傷(IVH群と比較して、NC群およびSHAM群の両方:P<0.001、***)であり、一方、薬物Aの低用量及び高用量の投与は、脳内のSOD発現を有意に増加させることができる(IVH群と比較して、P<0.001、***)。
【0209】
図26が、脳組織の超薄切片の透過型電子顕微鏡検査の結果を示す。
【0210】
図26Aに示されるように、NC群では、グリア細胞の形態が、正常またはわずかに不規則であり;核(N)が、不規則に楕円形であり;細胞質中のミトコンドリア(M)が、短い丸形または短い棒状であり、構造的に完全であり、わずかに内側隆起があり;および小胞体(ER)がわずかに膨張していた。
【0211】
図26Bに示されるように、SHAM群では、グリア細胞の形態が、わずかに不規則であり;核(N)が、楕円形であり;細胞質中のミトコンドリア(M)が、内側隆起を持つダンベル形であり;および小胞体(ER)が、わずかに膨張していた。
【0212】
に示されるように図26C、IVH群では、グリア細胞の形態が、不規則であり;(N)が、不規則であり;細胞質中のミトコンドリア(M)が、丸形であり、および明らかに膨潤していて;小胞体(ER)が、明らかに膨張していて;およびオートファジー体(AP)が視認され;IVH モデリングが脳組織の細胞の重大な損傷をもたらすことを示した。
【0213】
図26Dに示されるように、Al群では、グリア細胞の形態が、わずかに不規則であり;核(N)が、楕円形であり;細胞質中のミトコンドリア(M)が、丸形または楕円形であり、わずかに膨潤していて、一部の破断した内部隆起があり;小胞体(ER)が、わずかに膨張していて、および少量のリポフスチン(L)が見られ;低用量の薬物A投与IVHモデリングによって引き起こされた脳組織の細胞損傷を改善または修復することができたことを示す。
【0214】
図26Eに示されるように、AH群では、グリア細胞の形態が、基本的に規則またはわずかに不規則であり;核(N)が、楕円形であり;細胞質中のミトコンドリア(M)が、明確な内側隆起および完全な構造を有する楕円形または長棒状であり、小胞体(ER)はわずかに膨張し、少量のリポフスチン(L)がいくつかの部分で見られた。高用量の薬物A投与により、IVHモデリングに起因する脳組織の細胞損傷を改善または修復することができ、NC群とAH群との間の脳組織細胞の差異が少ないことを示す。
【0215】
上記の結果から、L-NIBCをリガンドとする金クラスターは、出血性脳卒中の治療に対して予期せぬ治療効果を有し、出血性脳卒中の治療薬の開発にも使用することができることが実証された。
【0216】
特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、実施形態は例示であり、本発明の範囲はこれに限定されないことが理解される。本発明の代替の実施形態は、本発明が関連する当業者には明らかになる。このような代替実施形態は、本発明の範囲内に包含されると考えられる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、上記の説明によって支持される。

[参考文献]
Amani H,Mostafavi E,Mahmoud Reza Alebouyeh MR,Arzaghi H,Akbarzadeh A Pazoki-Toroudi H,Webster TJ. Would Colloidal Gold Nanocarriers Present An Effective Diagnosis Or Treatment For Ischemic Stroke?Int J Nanomedicine.2019 Oct 7;14:8013-8031.

Zheng Y,Wu Y,Liu Y,Guo Z,Bai T,Zhou P,Wu J,Yang Q,Liu Z,Lu X.Intrinsic Effects of Gold Nanoparticles on Oxygen-Glucose Deprivation/Reperfusion Injury in Rat Cortical Neurons.Neurochem Res.2019 Jul;44(7):1549-1566.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
【手続補正書】
【提出日】2023-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の脳卒中を治療するための医薬組成物であって、リガンド結合金クラスターを含み、前記リガンド結合金クラスターが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドとを含み、
前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項2】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記金コアの直径が、0.5~3nmである、医薬組成物
【請求項3】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである、医薬組成物
【請求項4】
請求項1記載の医薬組成物であって、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、医薬組成物
【請求項5】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項6】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項7】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項8】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項9】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【請求項10】
請求項4記載の医薬組成物であって、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる、医薬組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳疾患治療の技術分野に関し、特にリガンド結合金クラスター(AuCs)、前記リガンド結合AuCsを含む組成物、前記リガンド結合AuCsの脳卒中の治療のための医薬の製造における使用、および前記リガンド結合AuCsおよび組成物を利用して脳卒中を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管が血栓で詰まったり、破れたりすると、脳卒中は発症する。脳卒中には、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)の三つのタイプがある。
【0003】
出血性脳卒中は、血管が破れて、脳への血流が妨げられることで起こる。一般的な症状としては、突然の脱力感、体のどこかの麻痺、発話障害、嘔吐、歩行困難、昏睡、意識消失、首こり、めまいなどがある。特効薬はまだ存在しない。
【0004】
虚血性脳卒中は、脳虚血(brain ischemia)や脳の虚血(cerebral ischemia)とも呼ばれ、ヒトに最も多く見られる病気の一つであり、死亡や身体障害の主な原因となっている。虚血性脳卒中は、脳卒中全体の87%程度を占めている。虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する動脈に血栓やプラークなどの塊が生じることで発症し、その塊が首や頭蓋骨に現れ、脳への血流や酸素が減少し、脳細胞の損傷や死滅を引き起こす。血液の循環が速やかに回復しない場合、永久的な脳損傷になる可能性がある。
【0005】
虚血性脳卒中の具体的な症状は、影響を受けた脳の部位によって異なる。ほとんどの虚血性脳卒中に共通する症状としては、視力障害、手足の脱力や麻痺、浮動性めまい(dizziness)や回転性めまい(vertigo)、混乱、協調性の喪失、顔面の片側の垂れ下がりなどがある。症状が出現したら、できるだけ早く治療を受けることが重要で、そうすることで、永続的な障害が残る可能性を低くすることができる。
【0006】
虚血性脳卒中の治療法は、非常に限られている。虚血性脳卒中の主な臨床的治療薬は、血栓を分解する組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)であるが、このtPAを脳卒中の発症から4時間半以内に静脈内投与しなければ、効果がない。しかし、tPAは出血を引き起こすため、出血性脳卒中、脳内出血、最近の大手術や頭部外傷の既往歴のある患者の場合は、tPAによる治療を受けることができない。長期的な治療法としては、血栓の進展を防ぐためにアスピリンや抗凝固剤を使用することが挙げられる。
【0007】
Amaniらは、25nmのコロイド状金ナノ粒子の表面にOX26-PEGを結合させたOX26@GNPsが壊死した脳組織を著しく増加させ、裸のGNPとPEG化したGNPは壊死した体積に影響を及ぼさなかったことから、OX26@GNPは脳卒中の治療に適さないことを示していることを開示している。
【0008】
Zhengらは、OGD/R損傷ラットモデルにおいて、20nmのAu-NPsが細胞生存率を高め、神経細胞のアポトーシスと酸化ストレスを緩和し、ミトコンドリア呼吸を改善することを明らかにしている。しかし、Zhengらは、5nmのAuNPsは逆の効果を示し、脳卒中の治療には適さないことも実証している。
【0009】
TIAは、一時的な血栓によって引き起こされるものである。一般的な症状としては、体の片側の脱力感やしびれ、麻痺、言葉が不明瞭になること、目が見えなくなること、めまいなどがある。特効薬はまだ存在しない。
【0010】
脳卒中の治療は、脳虚血または脳出血に起因して脳神経細胞が損傷または死亡することによる患者の神経機能不全または死亡を回避または軽減するために、タイムリーに行う必要がある。出血性脳卒中およびTIAを治療するための特異的な治療薬は存在せず、虚血性脳卒中を治療するためのtPAなどの主要な薬物は、出血を引き起こす。よって、患者が出血性脳卒中ではなく虚血性脳卒中であると断定的に診断された場合のみ、虚血性脳卒中の治療のための薬物を使用することが決定される。しかしながら、この断定的診断のプロセスは、虚血性脳卒中をタイムリーに治療するための貴重な時間を費やしている。
【0011】
脳卒中を治療するための効果的な方法および薬物、特に、出血性脳卒中および虚血性脳卒中の両方に治療効果のある薬物が求められている。出血性脳卒中および虚血性脳卒中の原因が根本的に異なるため、文献中のすべての薬物開発は、いずれも出血性脳卒中又は虚血性脳卒中のうちのどちらかを対象としている。よって、出血性脳卒中や虚血性脳卒中を問わず、脳卒中の患者を治療することができる薬物を開発することは、想像を絶する挑戦であり、業界ではタブーとされることができる。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、リガンド結合金クラスターを含む、対象の脳卒中を治療するための医薬組成物を提供する。
【0013】
特定の実施形態では、リガンド結合金クラスターを含む、対象の脳卒中を治療するための医薬組成物が提供され、前記リガンド結合金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含み、前記脳卒中が、出血性脳卒中、虚血性脳卒中、および一過性虚血発作(TIA)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~3nmである。
【0015】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径が、0.5~2.6nmである。
【0016】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記リガンドが、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0017】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体が、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体が、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0018】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ジペプチドであり、前記システイン含有ジペプチドが、L(D)-システイン-L(D)-アルギニンジペプチド(CR)、L(D)-アルギニン-L(D)-システインジペプチド(RC)、L(D)-ヒスチジン-L(D)-システインジペプチド(HC)、およびL(D)-システイン-L(D)-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0019】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有トリペプチドであり、前記システイン含有トリペプチドが、グリシン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(GCR)、L(D)-プロリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニントリペプチド(PCR)、L(D)-リシン-L(D)-システイン-L(D)-プロリントリペプチド(KCP)、およびL(D)-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0020】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有テトラペプチドであり、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L(D)-セリン-L(D)-システイン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L(D)-システイン-L(D)-セリン-L(D)-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0021】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体が、システイン含有ペンタペプチドであり、前記システイン含有ペンタペプチドが、システイン-アスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸(CDEVD)およびアスパラギン酸-グルタミン酸-バリン-アスパラギン酸-システイン(DEVDC)からなる群より選ばれる。
【0022】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物が、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L(D)-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、ドデシルメルカプタン、2-アミノエタンチオール(CSH)、3-メルカプトプロピオン酸(MPA)、および4-メルカプト安息香酸(p-MBA)からなる群より選ばれる。
【国際調査報告】