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特表2023-551268注入が可能な動物軟骨由来注射剤組成物の製造方法及びその利用
<図1>
  • 特表-注入が可能な動物軟骨由来注射剤組成物の製造方法及びその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】注入が可能な動物軟骨由来注射剤組成物の製造方法及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20231130BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231130BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20231130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
A61K35/32
A61P19/02
A61K35/545
A61P43/00 121
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532334
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 KR2021017617
(87)【国際公開番号】W WO2022114845
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0163201
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516244707
【氏名又は名称】カンステム バイオテック カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KANGSTEM BIOTECH CO., LTD
【住所又は居所原語表記】17F,512,Teheran-ro,Gangnam-gu,Seoul,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】カン、キュン スン
(72)【発明者】
【氏名】イ、スンヒ
(72)【発明者】
【氏名】アン、ジョン チャン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミジン
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB46
4C087CA04
4C087MA02
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA96
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明は、注入が可能な動物軟骨由来注射剤組成物の製造方法、前記方法で製造した注射剤組成物及びその利用に関する。
本発明による注射剤は、関節腔内に注射可能な剤形のコラーゲン含有生体材料を含み外科的切開なしに適用部位に直接注射することにより組織修復を図って軟骨組織再生を誘導できる。また、前記注射剤に含まれた動物軟骨由来細胞外基質が関節軟骨組織を保護する役割だけでなく、関節内幹細胞を軟骨細胞に分化するように誘導することにより損傷した関節組織を再生できる環境で刺激して骨関節炎を治療することができるところ、関節炎治療剤として適用され得る。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)動物軟骨由来無細胞細胞外基質(cartilage acellular marix;CAM)を含む組成物を30℃超及び55℃未満の温度で攪拌して水溶化する段階;及び
b)前記a)の水溶液を遠心分離し、溶液を収集して注射剤組成物を製造する段階;を含む、骨関節炎の予防または治療用注射剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記a)段階は24時間未満で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動物軟骨由来CAMは滅菌されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、製造された注射剤組成物を滅菌する段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記動物は、豚である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法で製造された骨関節炎の予防または治療用注射剤組成物。
【請求項7】
前記注射剤組成物は、組成物全重量に対してコラーゲンを120μg/mg以上の濃度で含有する、請求項6に記載の注射剤組成物。
【請求項8】
前記注射剤組成物は、幹細胞の軟骨細胞への分化を誘導する、請求項6に記載の注射剤組成物。
【請求項9】
前記注射剤組成物は、組織修復及び軟骨組織再生効果がある、請求項6に記載の注射剤組成物。
【請求項10】
前記注射剤組成物は、幹細胞と混合投与される、請求項6に記載の注射剤組成物。
【請求項11】
前記混合投与される幹細胞は、1.0×10ce11s~1.0×10cellsである、請求項10に記載の注射剤組成物。
【請求項12】
請求項6に記載の注射剤組成物を個体の関節腔内に投与する段階を含む、骨関節炎の予防または治療方法。
【請求項13】
前記注射剤組成物は、幹細胞と混合投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合投与される幹細胞は、1.0×10cells~1.0×10cellsである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入が可能な動物軟骨由来注射剤組成物の製造方法、前記方法で製造した注射剤組成物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の損傷した軟骨を治療するための方法としては、軟骨辺縁切除術(Debridement)、骨髄誘導再生術(Bone marrow stimulating technique)、自家軟骨移植術(Osteochondral autograft)、そして自家軟骨細胞移植術などがある。このような方法は、主に軟骨損傷が相当進行された状態で進行される侵襲的な方法であり、軟骨損傷の初期に適用可能な治療法としては、関節腔内にヒアルロン酸製品を注入する方法が主に用いられている。大部分の侵襲的な治療方法は、手術のための切除、骨膜の採取、使用の複雑性、高価な治療費用、骨髄を刺激する過程で誘導された成体幹細胞の漏水、そして止血問題による非正常な線維化軟骨の生成などの問題がある。併せて、ヒアルロン酸製品の注入方法の場合は、潤滑作用を通じた痛みを緩和する単純役割のみを果たす(Frizziero L, et al., Clinical and Experimental Rheumatology, 01 Jul 1998, 16(4):441-449)。
【0003】
従って、前記のような問題を改善するために、最小の侵襲施術が可能でありながら、単純な潤滑作用以上の治療効能がある治療剤の開発が切実に必要である。
【0004】
一方、細胞外基質(extracellular matrix; ECM)は、組織から細胞を除外した残りの部分であり、細胞と細胞の間隙を埋めて物理的に組織を支持する役割をすることにより、生体組織本来の構造を維持できる環境を造成する生体高分子の集合体である。特に、軟骨組織の細胞外基質中の主要成分であるコラーゲンは、軟骨で組織構成とともに細胞の成長及び分化のための微細環境を造成する主要成分として知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Frizziero L, et al., Clinical and Experimental Rheumatology, 01 Jul 1998, 16(4):441-449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、損傷した軟骨を治療するために鋭意努力した結果、注射可能な剤形の動物軟骨由来コラーゲン及び細胞外基質含有生体材料を外科的切開なしに適用部位に直接注射することにより組織修復を図って軟骨組織再生を誘導できる動物軟骨由来注射剤を開発することにより本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの目的は、骨関節炎の予防または治療用注射剤組成物の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、前記方法で製造された骨関節炎の予防または治療用注射剤組成物を提供することにある。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、前記方法で製造された注射剤組成物を個体の関節腔内に投与する段階を含む、骨関節炎の予防または治療方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明による注射剤は、関節腔内に注射可能な剤形のコラーゲン含有生体材料であり、外科的切開なしに注射針で適用部位に直接注入することにより組織修復を図って軟骨組織再生を誘導できる。また、前記注射剤に含まれた動物軟骨由来細胞外基質が関節軟骨組織を保護する役割だけでなく、関節内幹細胞を軟骨細胞に分化するように誘導することにより損傷した関節組織を再生できる環境で刺激して骨関節炎を治療することができるところ、関節炎治療剤として適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】注射可能原材料及び水溶化条件を確認した図である。
図2】3種類の水溶化温度の条件(4℃、25℃、37℃)で6時間製造したCAM溶液の写真である。
図3】注射可能滅菌条件を確認した図である。
図4】本発明による注射可能な豚軟骨由来注射剤(CAM溶液)の製造方法を示した模式図である。
図5】注射可能な豚軟骨由来注射剤の滅菌前後のタンパク質含量をSDS-pageで確認した図である。
図6】水溶化工程条件によるコラーゲン含量を確認した結果である。
図7】水溶化工程条件による軟骨分化能を示した結果である。
図8】ラット前十字靱帯切断術で誘導された骨関節炎モデルで臍帯血由来の間葉系幹細胞を8週間投与した場合(幹細胞投与群)、幹細胞と図5の工程で製造されたCAM溶液をともに8週間投与した場合(幹細胞+CAM溶液投与群)の軟骨組織再生能を確認した結果である。Scale bar=100μm。
【発明を実施するための形態】
【0012】
これを具体的に説明すると、次の通りである。一方、本発明で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用され得る。即ち、本発明で開示された多様な要素の全ての組合わせが本発明の範疇に属する。また、下記具体的な記述により本発明の範疇が制限されるとは見られない。
【0013】
前記目的を達成するための本発明の1つの様態は、骨関節炎の予防または治療用注射剤組成物の製造方法を提供する。
【0014】
具体的には、前記方法は
a)動物軟骨由来無細胞細胞外基質(cartilage acellular marix;CAM)を含む組成物を30℃超55℃未満の温度で攪拌して水溶化する段階;及び
【0015】
b)前記a)の水溶液を遠心分離し、溶液を収集して注射剤組成物を製造する段階;を含み得るが、これに制限されない。
【0016】
本発明においてa)段階はCAMを含む組成物を30℃超及び55℃未満の温度で攪拌して水溶化する段階であってもよい。
【0017】
本発明において、用語「無細胞細胞外基質(cartilage acellular marix;CAM)」は、本発明の注射剤組成物の原料として使用され得る。これは、公知となった工程のように動物から軟骨を分離し、酵素または物理化学的方法を通じて脱細胞化することにより製造したり、または商業的に入手可能なものを用いることができる。一例として、エイテムズ(ATEMS)社の製品を用いることができる。しかし、これに制限されない。
【0018】
前記CAMは、粉末、スポンジなど多様な形態であってもよく、これに特に制限されるものではない。
【0019】
また、前記CAMを得ることができる動物は、軟骨組織を有する動物であれば、特に制限されないが、具体的に豚であってもよい。
【0020】
本発明において、前記CAMは滅菌されたものであってもよい。
【0021】
前記滅菌方法は、当業界でよく知られている方法で行われてもよく、例えば、乾熱滅菌、湿熱滅菌、EO(Ethylene oxide)ガス滅菌、プラズマ滅菌、濾過滅菌、X-ray、電子線あるいはガンマ線などの放射線照射滅菌方法であってもよい。具体的には、本発明では電子線(E-beam)またはガンマ線滅菌方法で滅菌することであってもよく、より具体的には、電子線滅菌方法で滅菌する場合には、約15~25kGyのE-beamを照射して滅菌することであってもよく、前記約15~25kGyのE-beamはVDmax15 E-beamであってもよい。また、ガンマ線滅菌方法で滅菌する場合には、約25~40kGyのガンマ線を照射して滅菌することであってもよく、前記約25~40kGyのガンマ線はVDmax25ガンマ線であってもよい。しかし、これに制限されるものではない。
【0022】
本発明の一具現例において、25~40kGyを示すVDmax25のガンマ線を照射して滅菌されたCAMは特定温度条件及び特定時間の条件で水溶化する場合、注射が容易な剤形を示し、滅菌されていない場合には、水溶化されずに注射可能ではないことを確認した(図1及び図2)。
【0023】
本発明において、用語「約(about)」は、特定数字値の前に提示されてもよい。本出願で用いられる用語「約」は、用語に続く正確な数字だけでなく、同等又は類似の範囲の数値を全て含む。その数字が提示された文脈を考慮し、言及された具体的な数字と類似であるか、ほぼその数字であるかを決定できる。一例として、用語「約」は、数字値の-10%~+10%の範囲を指すことができる。他の例として、用語「約」は、与えられた数字値の-5%~+5%の範囲を指すことができる。しかし、これに制限されない。
【0024】
本発明において、「水溶化」とは、注射不可能な剤形を注射可能な剤形に変更するために、水に溶ける形態に製造する工程を意味する。前記水溶化は、特定の温度及び時間の条件で攪拌して行われてもよい。
【0025】
前記攪拌方法は、当業界で公知となった方法であれば、制限なく用いることができ、例えば、攪拌インキュベーターを使用して攪拌できるが、これに制限されない。
【0026】
本発明において、a)段階の温度条件は約30℃超及び55℃未満、約33℃~41℃、具体的には約37℃前後であってもよい。
【0027】
前述した条件より低い温度条件では、製造された溶液の粘度が高くなって注射可能な剤形が生成されないことがあり、高い温度の条件では製造された溶液内コラーゲン含量が顕著に減少し、幹細胞の軟骨細胞への分化が誘導されず、骨関節炎の予防または治療効果が減少し得る。
【0028】
本発明において、a)段階の水溶化は約24時間未満、約20時間未満、具体的には約6~18時間で行われるものであってもよい。
【0029】
前述した条件より短時間で行われる場合、水溶化が行われず、製造された溶液の粘度が高くなって注射可能な剤形が生成されないことがあり、前記時間を超える場合、注射剤内有効成分であるコラーゲン含量が顕著に減少し、これにより注射剤組成物の骨関節炎改善効果が減少し得る。
【0030】
本発明の一具現例において、多様な温度(37℃、55℃)及び時間(6時間、24時間)の条件で水溶化された注射剤組成物内コラーゲン含量を確認した結果、6時間及び24時間水溶化条件で水溶化温度37℃(37℃及び6時間の条件で138.3μg/mg、37℃及び24時間の条件で117.7μg/mg)に比べて55℃(55℃及び6時間の条件で87.3μg/mg、55℃及び24時間の条件で61.8μg/mg)で低く測定され、水溶化時間が24時間以上、水溶化温度が55℃未満の場合、コラーゲン含量が低くなることを確認した(図6)。
【0031】
本発明において、b)段階は、a)の水溶液を遠心分離し、溶液を収集して注射剤組成物を製造する段階であってもよい。
【0032】
前記遠心分離は、約100~500gで1~10分間行われることであってもよく、具体的には、約300gで5分間行われることであってもよいが、これに制限されない。
【0033】
前記製造された本発明の注射剤組成物は、CAM溶液またはCAM-溶液と混用され得る。
【0034】
本発明の方法は、前記b)段階以後に製造された本発明の注射剤組成物を凍結させる段階をさらに含むことができる。このような凍結段階を通じて保管及び取扱が容易になり得る。
【0035】
前記凍結方法は、当業界において公知となった方法であれば、制限なく用いることができる。
【0036】
本発明の方法は、前記b)段階以後に製造された本発明の注射剤組成物を滅菌する段階をさらに含んでもよい。
【0037】
前記滅菌方法は、前述した通りであり、前記段階では約15~25kGyのE-beamを照射して滅菌するものであってもよいが、これに制限されるものではない。前記滅菌方法により、本発明の注射剤組成物内の有効成分であるコラーゲンの消失または破壊なしに不純物のみが除去され得る。
【0038】
本発明の一具現例において、33℃及び35℃の水溶化温度の条件で本発明の注射剤組成物が製造される場合、15~25kGyを示すVDmax15のE-beamを用いた滅菌前後の溶液がいずれも注射可能であることを確認した。
【0039】
本発明の他の一具現例において、滅菌前後の本発明の注射剤組成物内のタンパク質をSDS-pageで確認した結果、滅菌されていない状態の注射剤組成物は、約130kDa前後に該当するコラーゲンタイプ2アルファ体であるタンパク質を主に含有することを確認することができ、Vmax15のE-beamを用いた滅菌工程後に微少な減少はあるが、主含有タンパク質には変わりがないことを確認した(図5)。
【0040】
本発明のもう1つの様態は、本発明の方法で製造された骨関節炎の予防または治療用動物軟骨由来注射剤組成物を提供する。
【0041】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0042】
本発明の注射剤組成物は、組成物の全重量に対してコラーゲンを約120μg/mg以上の濃度で含有するものであってもよいが、これに制限されない。
【0043】
本発明の注射剤組成物は、幹細胞の軟骨細胞への分化を誘導するものであってもよい。
【0044】
本発明の注射剤組成物は、組織修復及び軟骨組織再生効果があるものであってもよい。
【0045】
本発明の一具現例において、多様な温度(37℃、55℃)及び時間(6時間、24時間)の条件で水溶化された注射剤組成物を臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化培地に添加して2週間軟骨細胞分化を誘導した結果、分化培地に37℃及び6時間の水溶化工程で製造された注射剤組成物の添加時に幹細胞から軟骨細胞への分化が誘導されたが、37℃及び24時間、55℃及び6時間、そして55℃及び24時間の条件で水溶化された注射剤組成物は、分化培地に添加時に軟骨細胞への分化が誘導されていないことを確認した(図7)。
【0046】
本発明の注射剤組成物は、幹細胞と混合投与されるものであってもよい。
【0047】
前記混合投与は、疾病の予防、治療、症状の軽減または緩和のために本発明の薬学組成物と幹細胞を同時にまたは時間差をおいて、独立的または非独立的に投与することを意味する。前記混合投与は、併用投与と混用され得る。
【0048】
本発明において、用語「幹細胞」は、多様な組織に分化できる能力を有する細胞、即ち、未分化細胞である。前記幹細胞は、多能性幹細胞、成体幹細胞、誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells)、胚性幹細胞または成体幹細胞であってもよい。
【0049】
前記幹細胞は、ヒトまたは動物由来であってもよく、臍帯、臍帯血、軟骨、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜または胎盤に由来したものであってもよいが、これに制限されない。
【0050】
本発明の幹細胞は、具体的に成体幹細胞であってもよい。成体幹細胞は、必要な時に特定の組織の細胞に分化する未分化状態の細胞であり、骨髄や脳細胞など、既に成長した身体組織から抽出され得る。前記成体幹細胞は、間葉系幹細胞、間葉幹細胞及び多分化能幹細胞で構成された群から選択されるいずれか1つ以上の幹細胞であってもよいが、これに制限されない。
【0051】
本発明の幹細胞は、より具体的には、間葉系幹細胞であってもよく、より一層具体的には、臍帯血に由来した間葉系幹細胞であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0052】
前記混合投与される幹細胞は、約1.0×10cells~1.0×10cellsであってもよく、具体的には、約2.5×10cells~1.0×10cells、約1.0×10cells~1.0×10cells、または約1.0×10cells~5.0×10cellsであってもよく、より具体的には約2.5×10cellsであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0053】
前記のように、本発明の注射剤組成物が幹細胞と混合投与される場合、投与される混合組成物の全重量に対して注射剤組成物は約1~5重量%で含有されるものであってもよく、具体的には約1.5~3重量%、より具体的には約2重量%で含有されてもよいが、これに制限されない。
【0054】
本発明の一具現例において、ラット前十字靭帯切断術で誘導された骨関節炎モデルの関節腔内に臍帯血由来の間葉系幹細胞(hUCB-MSC)2.5×10cells/群を8週間投与した場合(幹細胞投与群)、hUCB-MSC(2.5×10cells/群)と本発明の注射剤組成物であるCAM溶液(2重量%、1mg/群)をともに8週間投与した場合(幹細胞+CAM溶液投与群)の軟骨組織再生能を確認した結果、臍帯血由来の間葉系幹細胞を単独で処理した幹細胞投与群に比べて幹細胞を本発明の注射剤組成物と混合投与した群で軟骨組織再生能が顕著に優れたことを確認した(図8)。
【0055】
本発明の注射剤組成物は、薬学組成物であってもよい。
【0056】
本発明の薬学組成物は、骨関節炎の「予防(prevention)」及び/又は「治療(treatment)」の用途を有する。予防的用途において、本発明の薬学組成物は、本発明に記述された疾患または症状を有していたり発病の危険があると疑われる個体に投与され得る。治療的用途において、本発明の薬学組成物は、本発明に記述された疾患を既に患っている患者のような個体に本発明に記述された疾病または症状を治療したり、少なくとも部分的に停止させるために十分な量で投与される。このような使用に効果的な量は、疾患または症状の深刻度及び経過、以前の治療、個体の健康状態と薬物に対する反応性及び医師または獣医師の判断にかかっている。
【0057】
本発明の薬学組成物は、通常、用いる適切な担体、賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。この時、前記薬学組成物に含まれる有効成分である本発明の注射剤組成物の含量は、特にこれに制限されないが、薬学組成物の全重量に対して約1~5重量%、具体的には約1.5~3重量%で含有されてもよい。
【0058】
前記薬学組成物は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、油剤、凍結乾燥剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれか1つの剤形を有することができ、非経口または経口の様々な剤形であってもよい。製剤化する場合には、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製される。経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、1つ以上の化合物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調製される。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクなどのような潤滑剤も用いられる。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく用いられる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられる。
【0059】
本発明において、本発明の薬学組成物は、非経口投与のための滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤に製剤化されてもよく、具体的には、注射剤に製剤化されてもよい。
【0060】
本発明の注射剤組成物は、個体に薬学的に有効な量で投与できる。
【0061】
本発明において用語「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な恩恵/リスクの比率で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量の水準は、個体の種類及び重症度、年齢、性別、疾病の種類、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、同時用いられる薬物を含む要素及びその他医学分野によく知られている要素により決定され得る。
【0062】
本発明の注射剤組成物は、個別治療剤として投与したり、他の治療剤と混合して投与されてもよく、従来の治療剤とは段階的または同時に投与されてもよく、単一または多重投与されてもよい。前記要素をいずれも考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要であり、当業者により容易に決定することができる。本発明の注射剤組成物の好ましい投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物の形態、投与経路及び期間によって異なり、投与は、1日に1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
【0063】
本発明において、本発明の注射剤組成物は、幹細胞と混合投与されてもよく、これについては、前述した通りである。
【0064】
本発明の注射剤組成物は、骨関節炎の予防または治療を目的とする個体であれば、特に限定されずに投与可能である。投与の方式は、当業界の通常の方法であれば、制限なく含む。前記注射剤組成物は、関節腔内(例えば、軟骨内)、皮下、腹腔内、肺内及び鼻腔内に投与されてもよく、局部的治療のために、必要であれば、病変、即ち、関節腔内(例えば、軟骨内)の投与を含む適した方法により投与されてもよい。一例として、関節腔内の注射により投与(注入)されてもよいが、これに制限されるものではない。
【0065】
本発明の注射剤組成物は、一般に、約1~5重量%の濃度、具体的には、約1.5~3重量%の濃度で投与されるものであってもよいが、これに制限されない。
【0066】
本発明のもう1つの様態は、本発明の注射剤組成物を個体の関節腔内に投与する段階を含む、骨関節炎の予防または治療方法を提供する。
【0067】
ここで用いられる用語は、前述した通りである。
【0068】
本発明において、用語「個体」とは、骨関節炎が発生したり、発生し得る可能性があるあらゆる動物を意味し、本発明の注射剤組成物を骨関節炎の疑いのある個体に投与することにより、個体を効率よく治療できる。前記個体は、特に制限されず、例えば、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどの動物、鳥類などであってもよいが、これらに限定されない。
【0069】
本発明において用語「投与」とは、任意の適切な方法で骨関節炎の疑いのある個体に本発明の注射剤組成物を導入することを意味し、投与経路は、目的の組織に到達できる限り、非経口の多様な経路を通じて投与され得る。本発明の注射剤組成物は、薬学的に有効な量で投与でき、前記薬学的に有効な量は、前述した通りである。
【0070】
また、本発明において、本発明の注射剤組成物は、幹細胞と混合投与されてもよく、これについては、前述した通りである。
【0071】
以下、本発明を実施例を通じて、より詳細に説明する。しかし、これら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例により制限されるものではなく、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者にとって明白なことである。
【0072】
実施例1.注射可能原材料及び水溶化条件の確認
注射可能な形態のCAM溶液製造工程を確保するために、3種類の原材料(滅菌CAM-WS粉末、滅菌されていないCAM-WSスポンジ、滅菌CAM-WSスポンジ)(エイテムズ(ATEMS)、韓国)を3種類の水溶化温度の条件(4℃、25℃、37℃)、そして3種類の水溶化時間の条件(3時間、6時間、18時間)で攪拌インキュベーターで溶出した後、300gで5分間遠心分離してCAM溶液を製造し、各溶液の注射可否を分析した。前記において滅菌は25~40kGyを示すVDmax25のガンマ線を照射して行った。
【0073】
その結果、図1及び3種類の水溶化温度の条件(4℃、25℃、37℃)で6時間製造したCAM溶液を示した図2でのように、滅菌されていないCAM-WSスポンジの原材料では注射可能なCAM溶液を製造できず、滅菌CAM-WS粉末及び滅菌CAM-WSスポンジ原材料で製造する場合、37℃の水溶化温度の条件で注射可能な形態のCAM溶液が製造されることを確認した。
【0074】
実施例2.注射可能滅菌条件の確認
滅菌後にも注射可能な形態のCAM溶液の製造工程を確保するために、滅菌CAM-WSスポンジを用いて3種類の水溶化温度の条件(30℃、33℃、35℃)、そして2種類の水溶化時間の条件(6時間溶出、18時間溶出)でCAM溶液を製造し、15~25kGyを示すVDmax15のE-beamを照射して滅菌した後、注射可否を分析した。
【0075】
その結果、図3で見られるように、30℃でCAM溶液が製造される場合、滅菌前後いずれも注射の困難を確認し、33℃及び35℃でCAM溶液が製造される場合、滅菌前後いずれも注射可能であることを確認した。
【0076】
これを通じて、30℃を超える温度条件で水溶化する段階を含んでCAM溶液を製造する場合、製造されたCAM溶液が滅菌に対する安定性を有することを確認した。
【0077】
前記実施例2の結果から滅菌後にも注射可能な形態のCAM溶液の製造工程を確保し、前記製造工程の代表例を図4に示した。
【0078】
実施例3.注射可能工程での滅菌前後のコラーゲン含量の確認
図4の工程で製造された滅菌前後のCAM溶液内のタンパク質をSDS-pageで確認した。
【0079】
その結果、図5で見られるように、滅菌されていない状態のCAM溶液は約130kDa前後に該当するコラーゲンタイプ2アルファ体であるタンパク質を主に含有することを確認することができ、VDmax15のE-beam滅菌工程後に微少な減少はあるが、主含有タンパク質には変わりがないことを確認した。
【0080】
これを通じて、注射可能な剤形でCAM溶液を製造する工程として水溶化最適温度は30℃超及び55℃未満、最適時間は24時間未満と選定した。
【0081】
実施例4.水溶化工程条件によるコラーゲン含量の確認
水溶化工程条件によるコラーゲン含量の差を確認するために、滅菌CAM-WSスポンジを2種類の水溶化温度の条件(37℃、55℃)、そして2種類の水溶化時間の条件(6時間、24時間)で攪拌インキュベーターで溶出した後、300gで5分間遠心分離してCAM溶液を製造し、各溶液のコラーゲン含量を確認した。
【0082】
その結果、図6で見られるように、6時間及び24時間の水溶化条件で水溶化温度37℃(37℃及び6時間の条件で138.3μg/mg、37℃及び24時間の条件で117.7μg/mg)に比べて55℃(55℃及び6時間の条件で87.3μg/mg、55℃及び24時間の条件で61.8μg/mg)で低く測定され、水溶化時間が24時間以上、水溶化温度が55℃以上の場合、コラーゲン含量が低くなることを確認した。
【0083】
実施例5.水溶化工程条件による軟骨分化能の比較
前記実施例4と同一の水溶化条件で製造されたCAM溶液を臍帯血由来の間葉系幹細胞の分化培地に添加して2週間軟骨細胞分化を誘導した後、細胞をSafranin-O染色を通じて観察した。
【0084】
その結果、図7で見られるように、分化培地に37℃及び6時間の水溶化工程で製造されたCAM溶液添加時に幹細胞から軟骨細胞への分化が誘導された。一方、37℃及び24時間、55℃及び6時間、そして55℃及び24時間の条件で水溶化されたCAM溶液は、分化培地に添加時に軟骨細胞への分化が誘導されなかった。
【0085】
前記結果から分かるように、前述の実施例で導き出した工程を通じて製造された注射剤が軟骨分化効能を有するところ、骨関節炎治療剤として用いるのに適することを確認した。
【0086】
実施例6.軟骨再生能増進効果
前記実施例4と同様の水溶化条件で製造されたCAM溶液の軟骨再生能増進効果を確認するために、ラット前十字靭帯切断術で誘導された骨関節炎モデルを製作した。
【0087】
具体的には、純化期間中に検疫上異常がないと判定されたラット65匹を対象にketamine 20mg/kg(Yuhan Corp., Seoul, Korea)とxylazine 3mg/kg(Rompun; Bayer Korea Corp., Seoul, Korea)を混合して腹腔注射して麻酔した。各個体の右側膝関節及び脛骨近位部の毛を除毛機を用いて除毛し、betadineで消毒した後、膝関節内側部位で脛骨結節部位(medial parapatellar approach)を中心に縦に約1cmを切開した。切開された部位の下に関節包を露出させて切開し、膝蓋骨を外側方向に位置させた後、膝を曲げて前十字靭帯と半月板を術野に露出させた。Micro-scissorを用いて前十字靭帯の中間実質部位を完全に切開し、前方引き出しテスト(positive anterior drawer’s test)を通じて靭帯による脛骨支持が緩んでいることを確認した。その後、吸収性縫合糸4-0 Monosyn(R)(B. Braun Surgical SA, Rubi, Spain)を用いて関節包と皮下組織をそれぞれ連続封合し、皮膚は非吸収性縫合糸4-0 Nylon(Blue nylon, Ailee Co., Ltd., South Korea)を用いて単純結節封合した。前記手術後に感染防止のために、手術部位を3~4日間betadineで消毒し、セファゾリン(セファゾール(R)(株)イーグルベット、Korea)を1日1回ずつ3日間100mg/kgの用量で筋肉注射した。全ての実験動物は、手術部位に別途のbandageの処理なしに8週間飼育ケージ内で自由に活動するようにした。
【0088】
前記のように製作したラット前十字靭帯切断術で誘導された骨関節炎モデルの関節腔内に臍帯血由来の間葉系幹細胞(hUCB-MSC)2.5x10cells/群を8週間投与した場合(幹細胞投与群)、hUCB-MSC(2.5x10cells/群)と図4の工程で製造されたCAM溶液(2重量%、1mg/群)をともに8週間投与した場合(幹細胞+CAM溶液投与群)の軟骨組織再生能を確認した。投与8週目に軟骨組織をSafranin-O染色を通じて観察した。
【0089】
その結果、図8で見られるように、hUCB-MSCを単独で処理した幹細胞投与群に比べてhUCB-MSCをCAM溶液と混合投与した群で軟骨組織再生能が顕著に優れていることを確認した。
【0090】
前記実施例の結果から、本発明による注射剤は、豚軟骨由来細胞外基質及びコラーゲンを含有して関節軟骨組織を保護する役割だけでなく、関節内幹細胞を軟骨細胞に分化するように誘導し、損傷した関節組織を再生できる環境で刺激して骨関節炎を改善することができるところ、関節炎治療剤として適用され得る。
【0091】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】