(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】ロングステータリニアモーターの形態の運搬機器
(51)【国際特許分類】
B60L 13/03 20060101AFI20231130BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20231130BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20231130BHJP
【FI】
B60L13/03 Z
H02P29/028
B65G54/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023532479
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2021083460
(87)【国際公開番号】W WO2022117524
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518184708
【氏名又は名称】ベーウントエル・インダストリアル・オートメイション・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー・フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ハウドゥム・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイスバッハー・ヨアヒム
【テーマコード(参考)】
3F021
5H113
5H501
【Fターム(参考)】
3F021BA02
5H113CC08
5H113CD02
5H113FF01
5H113GG12
5H113GG13
5H113GG21
5H113GG24
5H113HH08
5H113HH26
5H501AA30
5H501DD10
5H501EE03
5H501JJ04
5H501LL27
5H501LL39
5H501MM04
5H501MM05
5H501MM09
(57)【要約】
長固定子リニアモーターの形の運搬機器1の稼働開始を容易にするために、製品フローPを実現するための駆動コイルASの電気制御量の時間的な推移に基づき、運搬機器1の熱的な設計TA、電気的な設計EA及び機械的な設計MAの中の一つ以上が検査されて、稼働開始前に、製品フローPが熱的な設計TA、電気的な設計EA及び機械的な設計MAの中の一つ以上に基づき実現可能でない場合に、熱的な構成、電気的な構成及び機械的な構成の中の一つ以上から成る運搬機器構成TKが変更されると規定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子(2)に配置された多数の駆動コイル(AS)と、動作時に固定子(2)に沿って同時に動かされる多数の運搬ユニット(Tn)とを備えたロングステータリニアモーターの形態の運搬機器(1)の運転を開始する方法であって、
運搬ユニット(Tn)が製品を運ぶ役割を果たし、前記運搬機器(1)による所与の製品フローが、運搬ユニット(Tn)の動きに関する所与のルールに基づき、運搬機器(1)の動作中に、当該製品フローを実現するために固定子(2)に沿って運搬ユニット(Tn)が動く運動プロファイル(BP
|Tn)を作成することによって実現される方法において、
a)運搬機器(1)の所与の機械的な構成、運搬機器(1)の所与の熱的な構成及び運搬機器(1)の所与の電気的な構成の中の一つ以上によって、前記運搬機器(1)の初期の運搬機器構成(TK)を予め設定する工程と、
b)前記運搬機器により製品フローを実現するために、前記運搬ユニット(Tn)の動きの記述(BB
|Tn)を予め設定する工程であって、前記運搬ユニット(Tn)の動きの記述(BB
|Tn)が駆動コイル(AS)の電気制御量の時間的な推移を含むか、或いは前記運搬ユニット(Tn)の動きの記述(BB
|Tn)から、駆動コイル(AS)の電気制御量の時間的な推移が特定される、工程と、
c)運搬機器(1)の少なくとも一部の熱的な状態を特定して、運搬機器(1)の当該前記少なくとも一部の熱的な状態が目下の熱的な構成により実現可能であるのかを検査することと、運搬機器(1)の少なくとも一部の電気的な状態を特定して、運搬機器(1)の当該少なくとも一部の電気的な状態が目下の電気的な構成により実現可能であるのかを検査することと、運搬機器(1)の少なくとも一部の機械的な状態を特定して、運搬機器(1)の当該少なくとも一部の機械的な状態が目下の機械的な構成により実現可能であるのかを検査することとの中の一つ以上のために、検査ユニット(11)において駆動コイル(AS)の電気制御量の時間的な推移を使用する工程と、
d)熱的な状態、電気的な状態及び機械的な状態の中の何れかが、予め設定された運搬機器構成(TK)に基づき実現可能でない場合に、当該運搬機器構成(TK)において規定された機械的な構成、熱的な構成及び電気的な構成の中の少なくとも一つを変更する工程と、
e)最後に得られた運搬機器構成(TK)により運搬機器(1)の運転を実行する工程と、を特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
製品フロー(P)を実現するために運搬ユニット(Tn)の動きをシミュレートし、その際、前記動きを実現するために必要な駆動コイル(AS)の電気制御量を特定することによって、前記駆動コイル(AS)の電気制御量の時間的な推移が予め設定されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、
前記製品フロー(P)が目下の運搬機器構成(TK)により実現可能となるまで、少なくとも前記c)とd)の工程が繰り返されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記b)の工程も繰り返されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、
前記熱的な構成は、固定子(2)の冷却部(7)に関する基準を含み、
当該熱的な構成を検査するために、固定子(2)の少なくとも一部又は少なくとも一つの駆動コイル(AS)の加熱が、固定子(2)の前記一部又は前記少なくとも一つの駆動コイル(AS)の電気制御量の所与の時間的な推移に基づき特定されて、当該熱的な構成において規定された固定子(2)の冷却部(7)が、固定子(2)の前記一部又は前記少なくとも一つの駆動コイル(AS)の加熱を許容される加熱以内に維持するために十分であるのかが検査されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、
前記電気的な構成は、駆動コイル(AS)に電力を供給する電力供給源(EQi)に関する基準および/または駆動コイル(AS)の電気制御量を発生させるパワーエレクトロニクス回路(8)の構成を含み、
駆動コイル(AS)の電気制御量の所与の時間的な推移に基づき電気的な構成を検査するために、所要の供給電力が特定されて、前記電気的な構成において規定される電力供給源(EQi)が駆動コイル(AS)に電力を供給するのに十分であるのかが検査されるか、駆動コイル(AS)の電気制御量の所与の時間的な推移に基づき生じるパワーエレクトロニクス回路(8)の部品又はコンポーネントの電気量が特定されて、パワーエレクトロニクス回路(8)の電気的な構成によって当該電気量が実現可能であるのかが検査されるか、或いはその両方であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、
前記機械的な構成は、固定子(2)の幾何学的な形状に関する基準、運搬ユニット(Tn)の許容される運動パラメータの基準及び運搬ユニット(Tn)の力の基準の中の一つ以上を含み、
前記機械的な構成を検査するために、製品フロー(P)を実現するために運搬ユニット(Tn)が動いた時に当該運搬ユニット(Tn)に作用する力の合計が特定されて、この場合に運搬機器構成(TK)の力の基準に違反しているのかが検査されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定子に配置された多数の駆動コイルと、動作時に固定子に沿って同時に動かされる多数の運搬ユニットとを備えたロングステータリニアモーターの形態の運搬機器の運転を開始する方法に関し、運搬ユニットは、製品を運ぶ役割を果たし、運搬機器による所与の製品フローが、運搬ユニットの動きに関する所与のルールに基づき、この運搬機器の動作中に、製品フローを実現するために固定子に沿って運搬ユニットが動く運動プロファイルが作成されることによって実現される。
【背景技術】
【0002】
リニアモーターでは、一次部分(固定子)と、その一次部分に対して相対的に移動できるように配置された二次部分(電機子)とが配備されている。一次部分に駆動コイルが配置されて、二次部分に駆動磁石が配置されるか、或いはその逆に配置される。それらの駆動磁石は、永久磁石、電気コイル又は短絡巻線として実現される。それらの駆動コイルは、電磁界を発生させるためにコイル電圧の印加により電流を通流れる電気コイルである。駆動磁石と駆動コイルの(電)磁界が協力して動作することによって、一次部分に対して相対的に二次部分を動かす力が二次部分に作用する。リニアモーターは、例えば、同期機械又は非同期機械として実現することができる。リニアモーターの駆動コイルは、一つの移動方向に沿って、或いは移動面内に配置される。二次部分は、その一つの移動方向に沿って動かすか、或いは移動面内を二つの移動方向に自由に動かすことができる。ショートステータリニアモーターとロングステータリニアモーターの間を区別することもでき、ロングステータリニアモーターでは、二次部分が一次部分よりも短いか、或いは小さく、ショートステータリニアモーターでは、一次部分が二次部分よりも短いか、或いは小さい。
【0003】
本発明は、ロングステータリニアモーターに関し、このロングステータリニアモーターとは、(移動方向に動く)直線的なロングステータリニアモーターであるとも、(移動面内を動く、しばしば、平面モーターとも呼ばれる)平面的なロングステータリニアモーターであるとも明確に理解される。ロングステータリニアモーターでは、通常複数の二次部分が同時に互いに独立して一次部分に沿って(移動方向に、或いは移動面内を)動かされる。従って、ロングステータリニアモーターは、複数の運搬ユニット(二次部分)が運搬課題を実行するために同時に動かされる電磁式運搬システムにしばしば採用される。
【0004】
ロングステータリニアモーターは、従来技術により公知である。ロングステータリニアモーターでは、駆動コイルが支持構造に沿って移動方向に順番に、或いは移動面内に並べて配置される。支持構造に配置された駆動コイルは、ロングステータリニアモーターの移動パスにわたって延びる固定子を形成する。電機子には、励起磁界を発生する、永久磁石又は電磁石である駆動磁石が配置される。電機子は、運搬機器において、対象物を動かす運搬ユニットとして機能する。電機子の領域内の駆動コイルに電流を流すと、駆動磁石の励起磁界と協力して動作する電磁気的な駆動磁界が発生されて、電機子に対して駆動力が発生される。駆動コイルの電流の流れを制御することによって、動く駆動磁界を発生させることができ、それにより、電機子が、ロングステータリニアモーターの移動方向に、或いは移動面内を移動することが可能になる。その利点は、固定子に対して多数の電機子を互いに独立して動かせることである。それに関連して、固定子モジュールを用いてロングステータリニアモーターをモジュラー式に構築することも既に知られている。その場合、一つの固定子モジュールには、所定の数の駆動コイルが配置される。そして、個々の固定子モジュールは、所望の長さ及び/又は形状の固定子として組み立てられる。例えば、特許文献1は、そのようなモジュラー式に構築される直線的なロングステータリニアモーターを提示している。特許文献2は、固定子モジュールから成る平面モーターの形態のロングステータリニアモーターを提示している。
【0005】
コイル電圧の印加により駆動コイルに電流を流すことによって、固定子モジュールに熱も発生し、それによって、固定子モジュールの温度が上昇する可能性がある。従って、リニアモーターの固定子を冷却することも既に知られている。例えば、特許文献3又は4は、リニアモーターの固定子の冷却を提示しており、そこでは、固定子又は固定子に置かれた部品内に配管が配置されており、冷媒が、そこを通過する。それにより、冷媒が固定子から熱を吸収して、それを排出する。
【0006】
それに対して、長い長さに渡って延びる可能性がある、ロングステータリニアモーターの固定子の冷却は、構造的に負担がかかり、特に、運搬機器として使用された場合など固定子の長さが長い場合に、コストも上昇させる。
【0007】
特に、平面モーターでは、運搬ユニットが電磁力により固定子の上に浮遊した形態で保持され、このことは、駆動コイルに相応の電流を流すことによって行われるとの理由からも、通常は、平面モーターの固定子も冷却しなければならない。それにより、駆動コイルを用いて、運搬ユニットを動かす駆動力だけでなく、浮遊力も発生させなければならない。平面モーターの固定子を冷却する例を特許文献5から読み取ることができる。
【0008】
駆動コイルに電流を流すために、駆動コイルの所要の電気制御量、例えば、コイル電圧、コイル電流又は磁束を実現するパワーエレクトロニクス回路が配備される。そのパワーエレクトロニクス回路には、電気部品が取り付けられており、それらの部品は、例えば、その部品を流れる電流によって、動作時に負荷が加わる。しかし、許容される電流は、パワーエレクトロニクス回路の部品及び/又は電気的な構成によって制限される。
【0009】
固定子に沿った運搬ユニットの移動中に、その動き(時間に関する位置、速度、加速度、ジャーク(加速度の時間微分)、衝撃(加速度の時間微分の二倍))の運動力学のために、力とモーメントも運搬ユニットに作用する。それらの力は、運搬ユニットの荷重(運ぶべき対象物の重量と位置)によっても影響を受ける。運搬ユニットを動かす役割を果たす駆動力も、例えば、移動方向に沿って、それに対して交差する方向に、或いは移動面内又はそれに対して垂直の軌道に沿って作用する。平面モーターでは、駆動コイルを用いて、移動面の上に運搬ユニットを磁気的に浮遊させることができる、運搬ユニットに作用する浮遊力も発生される。特に、直線的なロングステータリニアモーターでは、運搬ユニットが移動中に運搬区間から飛び出すことを防止するために、運搬ユニットを機械的に案内することによって吸収しなければならない力とモーメントも運搬ユニットに作用する可能性がある。例えば、カーブでは、運搬区間からの運搬ユニットの持ち上げを引き起こす遠心力が運搬ユニットに作用する。運搬ユニットが移動面内を動く場合、荷重のために、例えば、運搬区間からの運搬ユニットの持ち上げを引き起こす縦揺れモーメントが作用する可能性がある。同様に、平面モーターでは、湾曲した移動面の領域で遠心力が作用する可能性がある。外部の力、例えば、運搬ユニットにより運ばれる製品を処理する処理ステーションにおけるプロセス力も運搬ユニットに作用する可能性がある。
【0010】
運搬区間に沿った運搬ユニットの案内は、例えば、運搬ユニット及び運搬区間に協力して作用する(ローラー、滑走面、ボールなどの)機械的なガイド部分によって、機械式に実施することができるが、例えば、ガイド構造の磁気的な部分と協力して動作する、運搬ユニットの駆動磁石により、磁気式に実施することもできる。そのような案内の組合せも考えられる。通常、直線的なロングステータリニアモーターの案内は機械式又は磁気式である。直線的なロングステータリニアモーターの運搬ユニットの案内が、例えば、特許文献6に提示されている。平面モーターでは、通常機械式ガイドが配備されないか、或いは部分的にしか配備されないのではなく、運搬ユニットが電磁気的な浮遊力に基づき案内される。平面的なロングステータリニアモーターの運搬ユニットの案内が、例えば、特許文献7に提示されている。
【0011】
何と言っても、動作時に、ロングステータリニアモーターの駆動コイルへの電力供給も保証しなければならない。電力供給は、ロングステータリニアモーターの場所的な拡がりが大きいために、並びに多くの駆動コイルが取り付けられているために、一般的に複数の電力供給源により行われ、各供給源は、複数の駆動コイルに電気エネルギーを供給する。電力供給のために、特に、運搬ユニットの一時的な動き(加速、減速)が問題であり、その理由は、そのために、一定速度の動きよりも大きな電力が必要であるからである。特に、(停止又は緊急停止後に)多数の運搬ユニットを同時に加速する場合、大きな電力が必要なことがある。平面モーターの場合、運搬ユニットの電磁気的な浮遊も大量の電気エネルギーを必要とする。駆動コイルにより実現される電磁気式転轍機の場合、駆動コイルにより、移動方向の力に加えて、それに対して交差する方向の力も発生させなければならないので、その電磁気的な転轍のためにも多くの電気エネルギーが必要である。
【0012】
何と言っても、運搬ユニットの損耗状態も必要なエネルギーに影響を及ぼす可能性がある。例えば、損耗により、運搬ユニットとガイド構造の間の摩擦が大きくなった場合、動かすためにより大きな力が、したがって動かすためにより多くの電気エネルギーが必要になる可能性がある。
【0013】
従って、ロングステータリニアモーターに関しては、その時々の用途とその時々のロングステータリニアモーターのための熱的な設計(冷却)、機械的な設計(作用する力とモーメント)、電気的な設計(駆動コイルの電気制御量を発生させるための駆動コイル、パワーエレクトロニクス回路への電力供給)によって、障害の無い動作を保証することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際特許公開第2015/042409号明細書
【特許文献2】米国特許登録第9,202,719号明細書
【特許文献3】米国特許登録第5,783,877号明細書
【特許文献4】米国特許登録第7,282,821号明細書
【特許文献5】ドイツ特許公開第102017131324号明細書
【特許文献6】欧州特許登録第3457560号明細書
【特許文献7】国際特許公開第2018/176137号明細書
【特許文献8】欧州特許登録第3109998号明細書
【特許文献9】欧州特許登録第3385110号明細書
【特許文献10】欧州特許登録第3376166号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のことから、本発明の課題は、ロングステータリニアモーターの形態の運搬機器の運転開始を容易にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、この課題は独立請求項1の特徴によって解決される。そのため、製品フローを実現するための駆動コイルの電気制御量の時間的な推移に基づき、運搬機器の熱的な設計、電気的な設計及び機械的な設計の中の一つ以上を検査して、運転開始前に、この熱的な設計、電気的な設計及び機械的な設計の中の一つ以上に基づき製品フローが実現可能でない場合には、熱的な構成、電気的な構成及び機械的な構成の中の一つ以上から成る運搬機器構成が変更される。運搬機器構成における運搬機器の熱的な構成、電気的な構成及び機械的な構成の中の一つ以上の検査によって、運搬機器の実際の運転開始前に早くも、この運搬機器構成により、所定の製品フローが全体的に実現可能であるのかを検査することができる。製品フローが実現できない場合、製品フローが実現できるまで、運搬機器構成を変更することができる。それにより、製品フローを実現する際に起こり得る問題を運転開始前に早くも検知して、運搬機器構成の変更によって取り除くことができ、その結果、運転開始後に、動作時の更なる問題を考えなくても済むか、或いは少なくとも幾つかの問題だけを考えれば良いこととなる。それにより、従来よりも明らかに簡単かつ効率的に運搬機器の運転を開始することができる。同様に、それにより運搬機器を設計することができる。
【0017】
機械的、電気的又は熱的な状態を特定して、運搬機器構成を変更する工程は、必要に応じて、目下の運搬機器構成により製品フローが実現できるまで繰り返すことができる。それにより、運転開始を非常に確実に実現することができ、運搬機器構成をコンフィギュレーションする際の変更の直接的には検知できない相互依存性も検知して、取り除くことができる。
【0018】
有利には、製品フローを実現する運搬ユニットの動きをシミュレートして、その際、動きを実現するために必要な駆動コイルの電気制御量を特定することによって、駆動コイルの電気制御量の時間的な推移が予め与えられる。この場合、この検査工程も繰り返すのが有利である。このシミュレーションによって、製品フローに関する様々な仮定と基準を考慮することができ、それによって、有利には、この検査を所定の特に問題となるケースにだけ限定することもできる。
【0019】
本発明の別の有利な実施形態と利点は、従属請求項と本発明の以下の記述から明らかになる。
【0020】
以下において、本発明の有利な実施例を模式的に、本発明を限定しない形で図示する
図1と2を参照して本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ロングステータリニアモーターの形態の運搬機器の実施例の模式図
【
図2】ロングステータリニアモーターから成る運搬機器の運転を開始させるフローチャート図
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1には、直線的なロングステータリニアモーターの形態の運搬機器1が図示されており、以下において、この運搬機器に基づき、汎用性を限定すること無く本発明を説明する。この運搬機器1は、通常複数の別個の固定子モジュールSm(m>1)から構成され(見易くするとの理由から、
図1には、全ての固定子モジュールが表示されていない)、これらが、ロングステータリニアモーターの固定子2として組み立てられている。これらの固定子モジュールSmは、そのために一つの、有利には、固定位置の(見易くするとの理由から図示されていない)支持構造上に配置することができる。この固定子2には、多数の駆動コイルASが配置されている。通常は、一つの固定子モジュールSmに複数の駆動コイルASが配置される(
図1には、見易くするとの理由から固定子モジュールSmの中の幾つかに対してのみ図示されている)。この固定子2は、一定数の運搬ユニットTn(n>1)に関する運搬機器1の起こり得る運搬パスを形成し、このパスに沿って、運搬ユニットTnを動かすことが可能である。この運搬パスは、異なる分岐Zk(k≧)を有することができ、これらの分岐は、又もや開いた形又は閉じた形で実現することができる。運搬パスの分岐Z1,Z2は、転轍機Wを介して互いに接続することができ、その結果、一つの運搬ユニットTnを分岐Z1から別の分岐Z2に切り換えて、そこを更に移動させることができる。この転轍機Wは、例えば、特許文献8に記載されている通り、機械式に実現するか、或いは電磁気式に実現することもできる。転轍機での電磁気式転轍は、(特許文献8の通り)駆動コイルAS及び/又は追加の転轍機コイルを用いて行うことができる。平面的なロングステータリニアモーターでは、運搬ユニットTnの運搬パスを移動面内に選定することができる。
【0023】
固定子モジュールSmは、異なる幾何学的な形状の運搬パスを実現できるようにするために、異なる幾何学的な形状で、例えば、直線的なモジュール又は湾曲したモジュールで実現することもできる。運搬パスの幾何学的な形状は制限されず、運搬パスは平面内に、或いは空間内に任意に存在することができる。
【0024】
同様に、運搬パスを部分的にロングステータリニアモーターとは別のコンベヤ機器から構成することも可能である。例えば、帰還のためには運動の精度に対する要件が全く存在しないので、運搬ユニットTnのための帰還区間を簡単なコンベヤベルトとして実現することができる。同様に、直線的なロングステータリニアモーターと平面的なロングステータリニアモーターを組み合わせることが可能である。例えば、処理ステーションの領域に、直線的なロングステータリニアモーターと互いに接続された平面的なロングステータリニアモーターを配備することができる。
【0025】
制御ユニット4による運搬ユニットTnの動きの制御と、それに関連する関与する駆動コイルASの駆動及び運搬パスに沿った運搬ユニットTnの位置検出も、例えば、特許文献9と10により十分に知られている。通常は、
図1に示されている通り、複数の制御ユニット4が配備されており、これらは、それぞれ一定数の駆動コイルASを制御し、(例えば、データ通信バスを介して)上位の設備制御ユニット5と接続されている。
【0026】
運搬ユニットTnの実現形態は、同じく任意であるとすることができ、運搬機器1において、異なる製品を運ぶ、或いは製品を異なる製造ラインに運ぶために、異なる運搬ユニットTnを、例えば、異なる大きさの運搬ユニットTn又は異なる製品収容部を備えた運搬ユニットTnを動かすこともできる。
【0027】
運搬パスに沿って、一定数の処理ステーション6を配備することもできる。処理ステーション6において、運搬ユニットTnにより運ばれる製品を処理することができる。基本的に任意の処理を規定することができ、これは、例えば、製品に対する或る製造工程又は組立工程、運搬ユニットTn上での製品の向きの変更、充填プロセス、製品の計測、製品の検査などであるとすることができる。処理ステーション6では、それに必要な処理機器6aが配備されている。そのために、運搬ユニットTnを処理ステーション6に停止させるか、或いは運搬ユニットTnの移動中に処理ステーション6で処理を実施することもできる。製品を処理のために運搬ユニットTnから取り去って、その後再び同じ又は別の運搬ユニットTnに戻すこともできる。処理ステーション6は、製品を持ち込むか、或いは製品を持ち出す役割も果たすことができる。製品は、持ち込む場合には、運搬ユニットTnに戻され、持ち出す場合には、運搬ユニットTnから取り出される。持ち出す場合、製品は、通常処理が完了しているか、計画通りの最終位置に到着したか、或いは不良品として取り除かれる。
【0028】
運搬ユニットTnを所望の通り動かすために、運搬ユニットTnの領域内の駆動コイルASに(例えば、コイル電圧に印加により)コイル電流を流すことによって、周知の手法で運搬ユニットTnの(
図1では、見易くするとの理由から図示されていない)駆動磁石と協力して動作する駆動磁界を発生させる。この駆動磁界は、運搬ユニットTnを移動方向に動かすために駆動コイルASの相応の制御によって更に動かされる。制御ユニット4は、そのために、例えば、ミリ秒の範囲内の運搬ユニットTnの動きを制御する時間ステップ毎に、運搬ユニットTnの動きに能動的に関与する駆動コイルASの所要の電気制御量、例えば、この能動的な駆動コイルASに印加すべきコイル電圧を特定する。
【0029】
駆動磁界と駆動磁石の協力した動作によって、駆動力が運搬ユニットTnに作用し、この力は、運搬ユニットTnにモーメントを加えるように作用させることもできる。例えば、運搬ユニットTnには、移動方向で見て両側に駆動磁石が配備され、固定子2には、両側に駆動コイルASが配備されている場合、これらの両側において、運搬ユニットTnにモーメントを引き起こす異なる駆動力を移動方向に発生させることもできる。この場合、駆動コイルASと駆動磁石を相応に配置することにより、全ての、或いは幾つかの空間方向に駆動力を発生させることができる。通常は、運搬ユニットTnを前方に動かすために、駆動力が移動方向に作用する。例えば、転轍機での電磁気式転轍のために、或いは作用する外部の力を均衡化するために、しばしば、移動方向に対して交差する方向にも駆動力を発生させる。また、平面的なロングステータリニアモーター1では、運搬ユニットTnを浮遊させるために、移動面に対して垂直に駆動力を発生させる。
【0030】
駆動力は、例えば、位置、速度、加速度、ジャークなどの所定の運動力学的な量により、運搬ユニットTnを動かす所定の運動プロファイルを運搬ユニットTnにおいて実現するために使用される。運動プロファイルは、そのような運動力学的な量の時間的な推移であるか、或いはそれと等価である固定子2に沿った運搬ユニットTnの位置に関する、そのような運動力学的な量の推移である。
【0031】
固定子2に沿った運搬ユニットTnの動きは、しばしば決定論的ではない、即ち、何時、どの運搬ユニットTnが、固定子2のどの位置に在るのか、或いは運搬ユニットTnが所定の時点又は所定の位置で如何なる速度、加速度を有するのかを事前に示すことはできない。これに関しては、様々な理由を挙げることができ、以下において、その中の幾つかを例示する。例えば、一つの転轍機Wに対して二つの運搬ユニットTnを同時に通過させようとする場合、転轍機Wでは、転轍機アービトレーションが必要であり、それによって、転轍機Wに対して、どの運搬ユニットTnを通過させるのかが決定される。実現可能な製品フローを向上させるために、同じ処理ステーション6を異なる分岐Zk又は固定子2の区間に配備することができる。如何なる製品を、そのため如何なる運搬ユニットTnを如何なる処理ステーション6に誘導するのかは、或る判断基準(例えば、処理ステーション6の前で待つ運搬ユニットTnの数)に基づき上位の制御部によって決定される。衝突監視により、順番に走行する運搬ユニットTnが互いに衝突しないことを保証できる。この場合、衝突を防止するために、順番に走行する運搬ユニットTnの中の一つの動きを所与の判断基準に基づき変えることができる。処理ステーション6が空くまで、製品をバッファに一時的に保管することができる。ランダムな品質管理を規定することもでき、その際、運搬ユニットTn上で動かされる任意の製品が製品フローから取り出されて、品質管理を受けさせられる。その後、再び製品フローに組み入れることができる。それ故、製品フローの実現に関与する運搬ユニットTnの運動プロファイルは、運搬ユニットTnの動きに関する所与のルールに基づき作成される。これらの所与のルールは、運搬ユニットTnの動きを、即ち、運搬ユニットTnを固定子2に沿って如何に動かすのかを制御する役割を果たす。
【0032】
そのため、ロングステータリニアモーターの形態の運搬機器1では、しばしば、例えば、上位の制御部で、例えば、設備制御ユニット5などで所望の製品フローが決定される。製品フローによって、例えば、開始位置(例えば、持ち込み箇所)から終了位置(例えば、持ち出し箇所)又は到着すべき転轍機までの、運搬ユニットTnが固定子2に沿って到達すべき所定の位置だけが予め設定される。開始位置と終了位置の間において、製品フローにおける所定の処理ステーション6で実行すべき或る処理工程を更に規定することもできる。運搬ユニットTnを動かすための所与のルールの枠組みにおいて、これらの位置の間で運搬ユニットTnを任意に動かすことができる。この場合、運搬ユニットTn上の製品は、製品フローを実現するために、例えば、設備制御ユニット5の管理の下で、固定子2に沿って動かされる。そのために、設備制御ユニット5は、例えば、ミリ秒の範囲内の所与の時間ステップにおいて、動かされる運搬ユニットTnの各々に対して、動かされる運搬ユニットTnの各々が、その時間ステップで取るべき目標運動量、例えば、目標位置又は目標速度を特定する。次に、制御ユニット4が、そのように特定された目標運動量から電気制御量、例えば、コイル電流、コイル電圧又は磁束を特定し、この制御量を用いて、目下の時間ステップにおいて目標運動量に制御するために、運搬ユニットTnの動きに関与する能動的な駆動コイルASに電流を流す。
【0033】
制御ユニット4と設備制御ユニット5は、マイクロプロセッサベースのハードウェアユニットとして実装することができ、その上で相応のソフトウェアが実行される。同様に、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレー(FPGA)又はストアードプログラム制御(SPS)としてなど、集積回路として実装することが可能である。一つのハードウェアユニットを配備するか、或いは運搬ユニットTnの動きの制御及び/又は駆動コイルASの駆動を複数のハードウェアユニットに分散させることもできる。
【0034】
製品フローは、一般的に異なる経路上において運搬ユニットTnの異なる運動プロファイルにより実現することができる。一つの運動プロファイルは、運搬ユニットTnの動きの運動力学を記述する、即ち、特に、時間に関する、例えば、運搬ユニットTnの動きを制御する時間ステップ毎の運動量、位置、速度及び/又は加速度を(場合によっては、これらの更なる時間微分も)記述する。速度又は加速度(或いはこれらの更なる時間微分)の場合、この運動力学は、固定子2における場所に依存して記述することもできる。例えば、複数の同じ処理ステーション6で一つの処理工程を実施することができ、先ずは運搬ユニットTn上で製品を動かしている間に、如何なる処理ステーション6を通過させるのかが決定される。或いは、複数の経路で固定子2における所定の位置に到達可能である場合、先ずは運搬ユニットTn上で製品を動かしている間に、如何なる経路を取るのかが決定される。この運動プロファイルは、衝突防止とそれ以外の上位の制御アルゴリズムによって影響を受ける可能性もある。
【0035】
しかし、時として、運搬機器1の運搬機器構成が運搬ユニットTnにより所望の製品フローを実現可能にするのに適していないことが運転開始後に初めて判明するので、運搬ユニットTnの動きの誤った決定論は、ロングステータリニアモーターの形態の運搬機器1の運転開始を著しく悪化させる。
【0036】
この運搬機器構成は、ロングステータリニアモーターの機械的な構成と、ロングステータリニアモーターの熱的な構成及びロングステータリニアモーターの電気的な構成の中の一つ以上を含む、即ち、如何なるコンポーネント及び如何なる制約により、運搬機器1を機械的な構成、熱的な構成及び電気的な構成の中の一つ以上において如何に構成するのかを含む。
【0037】
機械的な構成は、例えば、空間内の運搬機器1の幾何学的な形状を、具体的には、固定子2及び/又は運搬ユニットTnの幾何学的な形状を含むか、場合によっては、運搬ユニットTnの製品収容部の幾何学的な形状も含むか、運搬ユニットTnに作用する許容される力(これは、モーメントも含むことができる)及び/又は運搬ユニットTnの許容される運動パラメータの力の基準(これは、モーメントの基準も含むことができる)を含むか、或いはその両方を含む。熱的な構成は、例えば、固定子2又はその部分の冷却を含む。ロングステータリニアモーターの電気的な構成は、例えば、固定子2の駆動コイルASの電力供給及び/又は駆動コイルASに電力を供給するパワーエレクトロニクス回路の構成を含む。
【0038】
許容される運動パラメータは、例えば、最大限に許容される速度又は最大限に許容される加速度などの運搬ユニットTnの最大限に許容される運動量であるとすることができる。この場合、個々の運搬ユニットTn毎に、同じ形式の運搬ユニットTnに対して、或いは特定の運ぶべき製品に対して、少なくとも一つの許容される運動パラメータを予め設定することができる。運搬される重量及び/又は固定子2の幾何学的な形状に許容される運動パラメータを依存させることも可能である。例えば、より大きな重量を運ぶ場合、より低い許容される速度を予め設定することができる。カーブでは、運搬パスの直線的な区間よりも低い許容される速度を予め設定することができる。
【0039】
パワーエレクトロニクス回路の構成は、例えば、パワーエレクトロニクス回路の所定の構成部品又はコンポーネントの許容される電力値、例えば、所定の構成部品又はコンポーネントを通って流れる最大限に許容される電流を含むことができる。
【0040】
運搬ユニットTnを動かすための動く駆動磁界を発生させて、運動プロファイルを実現するために、コイル電圧の印加により、運搬ユニットTnの領域内の駆動コイルASにコイル電流を流す。この場合、駆動コイルASの損失電力により、固定子2又は固定子2の固定子モジュールSmを加熱する熱が発生する。固定子2の加熱は、特に、運動プロファイルに依存するが、単位時間当たりの運動サイクル数にも依存する。運動プロファイル、例えば、固定子2に沿った速度の時間的な推移又は位置の時間的な推移は、主に運搬機器1を用いて実現すべきである、実現すべき製品フローに依存する。運動プロファイルは、設備制御ユニット5によって作成されて、例えば、固定子2に沿った加速(減速との意味でも)、停止、始動、定速度フェーズ、速度勾配などを含むことができる。しかし、この加熱は、転轍機アービトレーション、衝突防止、順番に走行する運搬ユニットTnの間の間隔などの別の影響にも依存する、即ち、主に設備制御ユニット5による製品フローの実現形態にも依存する。単位時間当たりの運動サイクル数は、固定子2の所定の区間を通過する、単位時間当たりの運搬ユニットTnの数である。単位時間当たりの運動サイクルが増加するほど、より高い頻度で駆動コイルASに電流を流さなければならなくなる。従って、固定子2に沿った、例えば、固定子2の異なる固定子モジュールSm又は個々の駆動コイルASにおける熱の発生は、運搬機器1の動作時に非常に異なる可能性がある。
【0041】
例えば、大きな加速度、運搬される大きな重量のために、或いは転轍用の電磁気式転轍機の領域において、大きなコイル電流を必要とするが、非常に稀にしか固定子モジュールSmで実行されない運動プロファイルは、固定子モジュールSmが、例えば、支持構造への熱伝導又は周囲環境への熱放射により、発生した熱を能動的に排出するのに十分な時間を有するので、熱的な問題を殆ど引き起こさない。しかし、この運動プロファイルが固定子モジュールSmで頻繁に実行されると、場合によっては、それにより発生した熱を最早難なく能動的に排出できなくなる。比較的小さな電流を必要とする運動プロファイルも、運動プロファイル数が十分に大きくなると熱的な問題を引き起こす可能性がある。
【0042】
この場合、熱的な問題とは、特に、例えば、コイル巻線、絶縁被覆、駆動コイルASを取り囲む鋳造物、電子部品などの、固定子2又は固定子モジュールSmのコンポーネントが損傷するか、或いは完全に壊れしまう所与の最大温度の上回りを生じさせる、固定子2又は固定子モジュールSmの熱負荷であると理解されるが、個々の駆動コイルASの熱負荷であるとも理解される。
【0043】
従って、この運搬機器1では、しばしば、固定子2、例えば、所定の固定子モジュールSmの能動的な冷却部7が所定の箇所に配備されている(
図1)。能動的に冷却される固定子2の区間は、冷却区間KAとも呼ばれる。この冷却部7は、異なる形態で実現することができる。能動的な冷却部7は、例えば、(
図1の例の通り)熱を吸収して、固定子2から排出するために、固定子2の冷却区間KAを通して冷媒を循環させる冷却回路から成る。しかし、この冷却部は、換気扇又は熱電気モジュールを備えた冷却体の形態で実現することもできる。配備される能動的な冷却部7は、既知の冷却性能を有する。それに対して、受動的な冷却部では、冷却が、純粋に、より冷えた別の構成部品への自然に生じる熱伝導及び/又は周囲環境への熱放射によって行われる。
【0044】
それぞれ一つの冷却区間KAを冷却する複数の能動的な冷却部7を運搬パスに沿って配備することができる。一つの冷却部7,例えば、一つの冷却回路が、複数の固定子モジュールSmを、或いは一つの固定子モジュールSmの一部だけを能動的に冷却することもできる。一つの能動的な冷却部7の冷却回路は、(
図1の通り)複数の冷却区間KAを直列に導くことができるが、固定子2の複数の冷却区間KAを並列に冷却することもできる。
【0045】
駆動コイルASに電流を流すためのコイル電圧は、(
図1で幾つかの駆動コイルASに対して表示されている通り)パワーエレクトロニクス回路8によって発生される。従って、このパワーエレクトロニクス回路8は、各時点に所要の電力(電圧、電流)を提供できなければならない。このパワーエレクトロニクス回路8は、一般的に電流又は電圧を発生させる(例えば、半導体スイッチから成るハーフブリッジ回路又はフルブリッジ回路の形態の)整流器を有するが、駆動コイルASのグループ用のフィルター、電流平衡器などのそれ以外の電気コンポーネントも有する。特に、流れる電流に起因する、このパワーエレクトロニクス回路8の負荷は、当然のことながら、運搬ユニットTnの運動プロファイルにも大きく依存する。
【0046】
駆動コイルASに電流を流すための電気エネルギーは、一定数の電力供給源EQi(i≧1)から提供され(
図1)、各供給源EQiは、(固定子2の駆動コイルASの数に等しい)固定子2の供給区間VAiに電気エネルギーを供給する。例えば、各供給源EQiは、一定数の固定子モジュールSmに電気エネルギーを供給し、各固定子モジュールSmが、一定数の駆動コイルASを有する。一つの供給源EQiから供給される固定子モジュールSmは、
図1に図示されている通り、電気接続部3を介して互いに直列に接続することができる。一つの供給源EQiは、当然のことながら、既知である或る最大電力P
maxiしか提供することができない。固定子2の供給区間VAi上を同時に動かされる運搬ユニットTnが増加するほど、供給源EQiは、この供給区間VAiの駆動コイルASに電流を流すために、この供給区間VAiに、より大きな電力を提供しなければならない。同様に、運搬ユニットTnを加速させる動き又は負荷(運ばれる製品の重量)がより大きい運搬ユニットTnは、運搬ユニットTnの速度が一定である動きよりも大きな電力を必要とすると言える。同じことが、例えば、運搬ユニットTnの損耗のために、固定子2と運搬ユニットTnの間の摩擦が増大した場合に成り立ち、このことは、同様に、運搬ユニットTnを動かすために、より大きな電力を必要とする可能性がある。
【0047】
空間内の運搬パスの幾何学的な形状と、駆動力によって引き起こされる、運搬ユニットTnの動き(運動プロファイル)の運動力学とに起因して、運搬ユニットTnとその上で運ばれる製品の重量に起因して、並びに運搬ユニットTn上の製品の姿勢(重心)に起因して、駆動力の他に、外部の力(これはモーメントも含む)も運搬ユニットTnに作用する。例えば、カーブにおける遠心力が外部の力として見做されるが、時間的に変化する重力又はそれと同等の力も外部の力として見做される。外部の力として、処理ステーション6でのプロセス力、即ち、運搬ユニットTnにより動かされる製品を処理ステーション6で処理する際に発生する力も運搬ユニットTnに作用する可能性がある。運搬ユニットTnと(存在する場合に)運ばれる製品の重量及び運搬ユニットTn上の製品の姿勢は既知である。一方において、運搬ユニットTnの全体的な動きの間に、起こり得る駆動力により運動プロファイルが総じて実現可能であることを保証しなければならない。他方において、作用する外部の力のために、運搬ユニットTnが固定子2から望ましくない形で持ち上がらないか、それどころか固定子2から落下しないことも保証しなければならない。
【0048】
運搬機器1で動かされる全ての運搬ユニットTnの運動プロファイルは、一般的に事前に分かっているのではなく、製品フローを実現する運搬機器1の動作時に初めて得られることから、運搬機器1の運転開始時において、運搬機器構成が総じて所望の動作を可能にするのかを確実には推定できない。
【0049】
従って、(直線的又は平面的な)ロングステータリニアモーターの形態の運搬機器1の運転を開始するために、ロングステータリニアモーター1の機械的な設計、熱的な設計及び電気的な設計の中の一つ以上が検査される。
【0050】
そのために、先ずは所望の製品フローを所定のシミュレーション時間の間シミュレートすることができる。この場合、シミュレーション時間は、運搬機器1の負荷の出来る限り良好なイメージを得るのに十分な長さに選定すべきである。例えば、このシミュレーションは、所与の数の製品が製品フローとして通り抜けるまでの長さで実行することができる。用途と製品フローに応じて、数百、数千又はそれよりも多い、或いは少ない数の製品であるとすることができる。同様に、リアルタイム動作時における所定の時間期間、例えば、運搬機器1の一日のリアルタイム動作に等しいシミュレーション時間を選定することができる。このシミュレーションは、運搬機器1の所定の状態、例えば、緊急停止とそれに続く再始動や、所定の故障のケース、例えば、所定の分岐又は所定の処理ステーション6の故障だけを含むこともできる。当業者は、如何なる場合でも、その時々のシミュレーションケースに対して、好適なシミュレーション時間を決定することが可能である。
【0051】
製品フローのシミュレーションでは、リアルタイム動作などの同じ条件の下で起こり得る運搬パスに沿った運搬ユニットTnの動きがシミュレートされる。この場合、製品フローの二つのシミュレーションの際に、運搬ユニットTnの動きが上記の解説のために通常は同じでないことを補足しておきたい。このシミュレーションは、固定子2の既知の幾何学的な形状と運搬ユニットTnの得られた運動プロファイルに基づき行うことができ、リアルタイム動作などのシミュレーションでは、転轍機アービトレーション、衝突防止、(例えば、異なる経路で一つの位置に到達できる場合の)パス制御、処理ステーションの選定などの上位の制御が、製品フローの実現形態を生み出す。このシミュレーションでは、設備制御ユニット5は不変であるとともに、制御ユニット4も不変であるか、或いはシミュレーションによって置き換えることができる。シミュレーションでは、シミュレーションの時間ステップ毎に、運搬ユニットTnの運動力学的な状態(主に運搬パスにおける位置、速度、加速度など)が、シミュレーションの目下の(通常はミリ秒の範囲内の)時間ステップの終わりに特定される。この場合、制御の時間ステップ毎の運搬ユニットTnの動きに関与する駆動コイルASに関する電気制御量もシミュレートされる。
【0052】
このシミュレーションでは、主にリアルタイム動作時の措置などを進行させることができる。例えば、所与の製品フローを実現するために、シミュレーションの時間ステップ毎に、運搬ユニットTnの目標運動量が特定される。これらの目標運動量は、制御の各時点において、それぞれ関与する運搬ユニットTnの所望の運動力学的な状態(位置、速度、加速度など)を予め与える。シミュレートする運搬ユニットTnの数は、有利には、リアルタイム動作に関して規定される数に等しい。運搬ユニットTnの目標運動量は、時間ステップの終わりに制御によって出来る限り良好に設定されるべきである。これらの目標運動量から、制御ユニット4が、実装された制御に基づき、或いは制御ユニットのシミュレーションによって、駆動コイルASに電流を流すための電気制御量を特定して、これらの目標運動量を設定することができる。そのために実際量が必要である場合、ロングステータリニアモーターのモデルから実際量を取得することができる。このモデルは、例えば、制御の最後の時間ステップの電気制御量を用いて駆動コイルASに電流を流した場合に、運搬ユニットTnの生じた運動力学的な状態を特定することができる。詳しくは、これらの電気制御量に基づき、作用する駆動磁界が特定されて、その磁界から、作用する駆動力が特定され、その駆動力から、又もや運搬ユニットTnに作用する加速度と位置の変化が導き出される。そして、得られた位置が実際の位置に相当する。それに対して、運搬ユニットTnに作用する別の力、例えば、摩擦力、ガイド力、外部の力などを特定するために機械的なモデルも必要になる可能性がある。複数のモデルを同時に使用することは、既知のコ・シミュレーション方法によって実現できる。それから、制御の目下の時間ステップに関する実際量を得ることができる。制御ユニット4において動きを制御するための実際量として、単純にシミュレーションの先行する時間ステップの目標運動量を採用することもできる。それにより、所要の加速度及び駆動力と、それらのために必要な電気制御量とを特定することができる。次に、制御の時間ステップ毎に、有利には、目下の目標運動量と実際量の間の差が出来る限り小さくなるように、電気制御量を特定することができる。シミュレーションでは、そのために、有利には、運搬機器1のリアルタイム動作時と同じ制御規則が制御ユニット4において使用される。
【0053】
そのため、製品フローの実現に関与する運搬ユニットTnの動きは、各運搬ユニットTnに関する運動プロファイル(例えば、時間又は位置に関する速度)の形態で、或いは各運搬ユニットTnに関する、制御の時間ステップ毎の目標運動量の時間シーケンスの形態又は制御の時間ステップ毎のシミュレーション時間に渡る駆動コイルASの電気制御量の時間シーケンスの形態で同等に記述することができる。
【0054】
しかし、運搬ユニットTnの動きの記述は、既知であるか、或いは予め設定することもできる。例えば、運搬ユニットTnの動きの記述を事前に一度シミュレートしておき、ここで改めて、運搬機器1の運転開始を実行するために使用することができる。
【0055】
運搬機器1の運転開始のために、運搬ユニットTnの動きの記述に基づき、熱的な設計(例えば、冷却)、機械的な設計(例えば、作用する力とモーメント)及び電気的な設計(例えば、駆動コイルの電力供給及び/又はパワーエレクトロニクス回路の設計)の中の一つ以上が検査される。これは、運搬機器の少なくとも一部の熱的な状態、運搬機器の少なくとも一部の機械的な状態及び運搬機器の少なくとも一部の電気的な状態の中の一つ以上を特定して、この特定された熱的な状態が、運搬機器構成TKの熱的な構成によって実現可能であるのか、この検出された電気的な状態が、運搬機器構成TKの電気的な構成によって実現可能であるのか、この検出された機械的な状態が、運搬機器構成TKの機械的な構成によって実現可能であるのか、或いはそれらの一つ以上であるのかを管理することを意味する。この検査は、検査ユニット11において、運搬ユニットTnの動きの記述をベースとして、一般的には好適なソフトウェア及び/又は運搬機器1の異なる部分の存在するモデルに基づき行われる。
【0056】
熱的な設計を検査するために、固定子2の熱モデルを使用することができ、このモデルを用いて、運搬ユニットTnの動きに関与する駆動コイルASに関する電気制御量から、固定子2の加熱が特定されるか、或いは個々の駆動コイルASの加熱も特定される。この場合、固定子2の鉄心損失、速度に依存する損失又はラッチ力(所謂「コギング」)を克服するための損失も考慮することができる。この場合、少なくとも固定子2の一部、有利には、固定子2全体の加熱が、さもなければ一つの駆動コイルASだけの加熱が特定される。この熱モデルは、熱的な設計に関して固定子2に割り当てることができる、ロングステータリニアモーターの別の部分、例えば、パワーエレクトロニクス回路、制御ユニット4などの加熱も特定することができる。それにより、そのような部分の加熱も検査することができる。電気制御量から、(制御の時間ステップに一致させることができる)検査の時間ステップ毎に、各駆動コイルASに関して、損失電力を、そのため、固定子2に供給される熱を特定することができる。同様に、この熱モデルによって、検査の時間ステップ毎に、固定子2での熱排出を特定することができる。この熱排出は、周囲の部品への熱伝導、周囲環境への熱放射、周囲の空気による対流及び/又は(存在する場合に)能動的な冷却部7によって実施することができる。同様に、それにより、固定子2の別の部分への熱供給及び/又はその部分からの熱排出を特定することができる。そのことから、検査の時間ステップ毎に固定子2、その一部又は所定の駆動コイルASの温度を特定することができる。そのために、固定子2は、有利には、場所的に、例えば、駆動コイルASの幅に等しい、固定子区画に分割される。この検査のために、運搬機器構成において、熱的な構成の一部として、固定子2又は駆動コイルASの許容される最高温度を予め与えることができる。固定子2の異なる箇所に対して異なる最高温度を予め与えることもできる。例えば、転轍機Wにおいて許容される温度を転轍機の外よりも低くすることができる。固定子2又は駆動コイルASの特定された温度が許容される温度を上回る場合、熱的な設計の問題が確認される。この場合、一つの運搬区画の許容される温度が、その運搬区画の所定の駆動コイルASでは遵守されているが、許容される温度を上回ることが十分に起こり得る。当然のことながら、この判断のために、温度の代わりに、別の温度量、例えば、供給される全体的な熱量を用いることもできる。
【0057】
同様に、電気的な設計の検査のために、検査の時間ステップ毎に、駆動コイルASの各々に関する電気制御量から、運搬機器1の少なくとも一部の電気的な状態を特定することができる。電気的な状態としては、例えば、動作に必要な電力を特定することができる。それにより、検査の時間ステップ毎に、各供給区間VAiに関して、それに割り当てられた供給源EQiから提供可能な電力Pmaxiが運搬機器構成に関して十分であるのかを特定することができる。この場合、例えば、供給源EQiを供給区間VAiと接続する接続配線を介した電圧降下などの電気的な損失も考慮することができる。
【0058】
電気的な設計を検査する際に、検査の時間ステップ毎に、パワーエレクトロニクス回路の所定の電気量、例えば、(例えば、半導体スイッチなどの)所定の部品又は(例えば、電流平衡器などの)所定のコンポーネントを通って流れる電流を電気的な状態として特定することもできる。これは、パワーエレクトロニクス回路の好適な数学モデルによって行うことができる。それにより、運搬機器構成における(例えば、組み込まれた電気部品と回路の形態の)パワーエレクトロニクス回路の構成が、運搬ユニットTnの動きを実現するのに十分であるのかを検査することもできる。この数学モデルは、例えば、入力としての電気制御量を処理して、パワーエレクトロニクス回路の所定の箇所における、この場合に設定すべき対象である電気量を特定することができる。
【0059】
電気的な設計の検査は、例えば、制御ユニット4の所定の計算能力が、製品フローを実現する運搬機器1の動作に関して十分であるのかとの検査も含むことができる。
【0060】
機械的な設計の検査のために、各運搬ユニットTnの運動プロファイル、運搬パスの既知の幾何学的な形状、運搬ユニットTnと(存在する場合に)運ばれる製品の既知の重量及び運搬ユニットTnの既知の幾何学的な形状(ガイド機器、製品収容部などの幾何学的な形状)から、検査の時間ステップ毎に、動きにより引き起こされる、運搬ユニットTnに作用する運動力(これは、モーメントも含むことができる)を機械的な状態として特定することができる。これは、作用する摩擦力、プロセス力、ガイド力、保持力、引き合う力、遠心力などの外部の力も含むことができる。駆動磁界に基づき運搬ユニットTnに作用する駆動力は、電気制御量から特定するか、或いは実際量が分かっている場合には、運搬ユニットTnの加速度により間接的に決定することができる。同様に、運搬機器1の既知の構造から、運搬ユニットTnにおける駆動磁石と固定子2の部品の間に作用する引き合う力が分かる。例えば、それにより、例えば、所定の機械的なガイドに基づく、運搬ユニットTnにおける駆動磁石と固定子2の部品の間に作用する磁気的に引き合う力に基づき、或いは固定子に対して運搬ユニットTnを保持することとなる(例えば、直線的なロングステータリニアモーターの移動方向に対して交差する方向に)発生した駆動力に基づき作用する保持力によって、検査の各時間ステップにおいて運搬ユニットTnを運搬機器1に保持できるのかを検査することができる。固定子2と運搬ユニットTnにおけるガイド構造が既知であることから、これらによって、如何なる力を吸収できるのか(保持力)も分かる。起こり得る駆動力が、作用するプロセス力にも関わらず運搬ユニットTnの動きを保証するのに十分であるのかも検査することができる。
【0061】
そのため、機械的な設計を検査する場合、主に、運搬ユニットTnの所定の動きがここでは運搬ユニットTnに作用する全ての力(これはモーメントも含むことができる)に基づき実現可能であるのか、或いは運搬機器構成の機械的な構成の一部としての力の基準(これはモーメント基準も含む)に違反しているのかが検査される。力の基準は、例えば、空間内の所定の方向において許容される力であるとすることができ、これを上回ってはならない。
【0062】
シミュレーションによって、熱的な設計、機械的な設計又は電気的な設計における問題が確認された場合、運搬機器構成TKが変更される。その後、必要に応じて、問題が最早生じなくなるまで、検査を繰り返すことができる。このようにして、運搬機器1を確実に稼働させることができる。
【0063】
検査を繰り返すために、既に特定された運搬ユニットTnの動きの記述、例えば、先行する検査時と同じ記述を使用することができる。しかし、製品フローを新たにシミュレートして、それから運搬ユニットTnの動きの新しい記述を検査のために取得することもできる。
【0064】
運搬機器構成において、運搬機器1の固定子2又は運搬ユニットTnの幾何学的な形状を変更することができる。しかし、運搬機器1が、しばしば既に構築されているか、或いは計画されていることから、固定子2又は運搬ユニットTnの幾何学的な形状に対して何ら変更したくないことがしばしばある。しかし、得られる力に影響を与えるために、運搬ユニットTnの製品収容部の幾何学的な形状又は姿勢を変更することもできる。如何なる場合にも、運搬パスの所定の箇所に作用する力を変更する、例えば、低減するために、この幾何学的な形状を変更することによって、例えば、カーブの半径をより大きくするか、或いは運搬ユニットTnにおける製品の重心をずらすことによって、機械的な設計に影響を与えることができる。しかし、固定子2の幾何学的な形状は、熱的な設計にも影響を与える可能性があり、例えば、運搬区画の傾斜を小さくした場合、所要の駆動力が低下する可能性がある。
【0065】
運搬機器構成TKにおいて、冷却方式も変更することができる。例えば、冷却区画KAの冷却部7は、その冷却部7が十分でない場合に変更することができる。固定子2の所定の部分が熱的に問題であることが確認された場合、別の冷却区画KAを追加することもできる。しかし、シミュレーションによって、所定の冷却区画KAが無駄であり、この冷却区画KAの冷却部7を取り去るか、或いは縮小できることが判明する可能性がある。
【0066】
運搬機器構成TKにおいて、電力供給も変更することができる。例えば、より大きな供給源EQiを配備するか、供給区画VAiを縮小するか、或いは供給源EQiへの供給区画VAiの割り当てを変更することができる。例えば、固定子モジュールSmを一つの供給区画VAiから別の区画に移すことができる。しかし、シミュレーションによって、より少ない供給源EQiで足りることも確認できる。ケーブル配線の変更も実施することができる。
【0067】
例えば、想定されるパワーエレクトロニクス回路では運搬ユニットTnの運動を実現できないことが判明した場合、より大きな、或いはより大きな性能の電気部品を選定することによって、パワーエレクトロニクス回路の構成も変更することができる。同様に、制御ユニット4の計算能力を向上させるか、或いは制御のために、より少ない駆動コイルASを制御ユニット4に割り当てることができる。
【0068】
何と言っても、運搬機器構成において、運搬ユニットTnの運動パラメータも変更することができる。例えば、所定のカーブ半径のカーブにおいて許容される速度を下げるか、或いは運搬ユニットTnの許容される最高速度又は許容される加速度を下げることができる。運動パラメータの変更によって、特に、熱的な状態、電気的な状態又は機械的な状態に影響を与えることができる。例えば、許容される加速度を下げることは、電気制御量を低下させ、それにより、駆動コイルASにおける損失を小さくするとともに、加熱を低減し、それにより、所要電力を低減し、運搬ユニットTnに作用する力及びモーメントも小さくし、パワーエレクトロニクス回路における電流も少なくする。
【0069】
当然のことながら、運搬機器構成の上述した変更の中の複数を実施することもできる。
【0070】
運搬機器構成Tkを如何に変更するのかは、当業者に任せることができる。しかし、検査ソフトウェアが、確認された問題に基づき変更に関する勧告を行うか、或いは所定のアルゴリズム又はルールに基づき自発的に運搬機器構成の変更を実施すると規定することもできる。
【0071】
それ故、運搬機器1の運転開始は、
図2を参照して説明する通りに進行することができる。
【0072】
始めに、任意選択として、所与の製品フローPの実現に関与する運搬ユニットTnの動きの記述BB|Tnを特定することができる。そのために、製品フローPの実現に関与する運搬ユニットTnの運動プロファイルBB|Tnをシミュレーションによって特定することができる。同様に、製品フローPを実現するために、制御の時間ステップ毎に、ロングステータリニアモーター1の駆動コイルASの電気制御量SG|Anを特定することができる。これは、例えば、好適なシミュレーションソフトウェアを備えたコンピュータハードウェアなどの好適なシミュレーションユニット10上で実行することができる。そのために、例えば、運搬機器1の幾何学的な形状に関する、運搬機器構成TKの基準を使用することもできる。それに代わって、運搬ユニットTnの動きの記述BB|Tnが既知であるか、或いは予め与えることができる。
【0073】
ロングステータリニアモーターの駆動コイルASの電気制御量SG
|Anの(通常は制御の時間ステップに分割された)時間的推移の形態、目標運動量の(通常は制御の時間ステップに分割された)時間的推移の形態又は(通常は制御の時間ステップに分割された)運動プロファイルBP
|Tnの形態で存在することができる、運搬ユニットTnの動きの記述BB
|Tnを用いて、運搬機器1の機械的な設計MA、運搬機器1の電気的な設計EA及び運搬機器1の熱的な設計TAの中の一つ以上が上で説明した通り検査ユニット11で検査される。ここで、必要な場合には、検査ユニット11において、検査の時間ステップ毎に、製品フローPを実現するためのロングステータリニアモーターの駆動コイルASの電気制御量SG
|Anも、これが運搬ユニットTnの動きの記述BB
|Tnに含まれていない時に特定される。この検査のために、目下の運搬機器構成TKも用いられる。運搬機器1の機械的な設計MA、運搬機器1の電気的な設計EA及び運搬機器1の熱的な設計TAの中の一つ以上を検査するために、検査の時間ステップ毎に、運搬機器1の少なくとも一部に関して、この部分の機械的な状態、この部分の電気的な状態及び熱的な状態の中の一つ以上が特定されて、この機械的な状態、電気的な状態及び熱的な状態の中の一つ以上が、目下の運搬機器構成TKによって実現可能であるのかが検査される。この検査の際に、運搬機器1の動作時の問題が確認された場合、運搬機器構成TKが上で説明した通り変更されて(パス「y」)、この検査を必要に応じて繰り返すことができる。問題が確認できなった場合(パス「n」)(これは、論理和「AND」(
図2のシンボル「&」)により表されている)、目下の運搬機器構成Tkを用いて、運搬機器1を動作させて、製品フローを実現することができる。この検査は、検査ユニット11、例えば、好適な検査ソフトウェアを備えたコンピュータハードウェア上で行われ、その際、シミュレーションユニット10と検査ユニット11を一つのコンピュータユニットに統合することもできる。検査を繰り返す場合、運搬ユニットTnの動きの記述BB
|Tnを新たに特定するか、或いは新たに予め与えることもできる。
【国際調査報告】