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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-07
(54)【発明の名称】工学的に作製された多細胞生物
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20231130BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532669
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-11
(86)【国際出願番号】 US2021061222
(87)【国際公開番号】W WO2022115790
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】63/119,517
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319009901
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】グムスカヤ ギゼム
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC60
(57)【要約】
工学的に作製された多細胞生物が開示される。また、組織の形成および治癒を調節する方法を含め、工学的に作製された多細胞生物を設計、調製、および利用するためのシステムおよび方法が、開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊毛細胞の、頂端部外側型(apical-out)の凝集塊
を含む、工学的に作製された多細胞生物であって、自己運動性である、該生物。
【請求項2】
前記繊毛細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の生物。
【請求項3】
前記繊毛細胞が上皮細胞である、請求項1に記載の生物。
【請求項4】
前記繊毛細胞が正常ヒト気管支上皮細胞である、請求項1に記載の生物。
【請求項5】
生物学的材料からなる、および/または、例えば足場としての、いかなる無機材料も含まない、請求項1に記載の生物。
【請求項6】
標的分子を検出するためのセンサーを含む、請求項1に記載の生物。
【請求項7】
前記生物の前記細胞が自己集合性である、請求項1に記載の生物。
【請求項8】
前記生物の前記細胞が、他の生物を形成するように細胞を動かしかつ集合させる、請求項1に記載の生物。
【請求項9】
約100~500ミクロンの有効径を有する、請求項1に記載の生物。
【請求項10】
前記繊毛細胞が正常ヒト気管支上皮細胞である、請求項1に記載の生物。
【請求項11】
前記繊毛細胞が、異種分子を発現するように工学的に作製されている、請求項1に記載の生物。
【請求項12】
異種分子が治療薬である、請求項11に記載の生物。
【請求項13】
異種分子が、標的基質を代謝する酵素である、請求項11に記載の生物。
【請求項14】
異種分子が、標的リガンドに対する受容体である、請求項11に記載の生物。
【請求項15】
細胞の凝集塊が、脱凝集を受けた後に再凝集する、請求項1に記載の生物。
【請求項16】
標的物体を動かすように構成されており、任意で、該標的物体を保持するための穴または空洞を含む、請求項1に記載の生物。
【請求項17】
標的物体を捕捉および/または輸送するための空洞を有するように構成されている、請求項1に記載の生物。
【請求項18】
集団的および/または協調的行動を示す、複数の、請求項1に記載の生物。
【請求項19】
集団的および/または協調的行動が、集団的および/または協調的な動きである、請求項18に記載の複数の生物。
【請求項20】
その必要がある対象に治療薬を送達するための方法であって、治療薬を発現するように請求項1に記載の生物を工学的に作製する工程、および該生物を該対象に投与する工程を含む、該方法。
【請求項21】
環境から標的基質を除去するための方法であって、標的基質を代謝する酵素を発現するように請求項1に記載の生物を工学的に作製する工程、および該生物を該環境に配置する工程を含む、該方法。
【請求項22】
サンプル中の標的リガンドを検出するための方法であって、標的リガンドに対する受容体を発現するように請求項1に記載の生物を工学的に作製する工程、および該生物を該サンプル中に配置する工程を含み、ここで、該受容体が該標的リガンドに結合した後に、該生物がシグナルを発生させる、方法。
【請求項23】
その必要がある対象において組織および/または器官の形成を調節するための方法であって、請求項1に記載の生物を該対象に投与する工程を含み、ここで、該生物が、該対象における組織および/または器官の形成を調節し、任意で、該生物が、該対象における組織および/または器官の一部を形成する、該方法。
【請求項24】
その必要がある対象において組織の裂傷の治癒を促進するための方法であって、請求項1に記載の生物の凝集塊を該裂傷に接種する工程を含む、該方法。
【請求項25】
前記繊毛細胞が前記対象から得られ、かつ/または前記繊毛細胞もしくは生物が前記対象に対して自家である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
組織の成長をインビトロで調節するための方法であって、請求項1に記載の生物の凝集塊と該組織とを接触させる工程を含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2020年11月30日に出願された米国仮出願第63/119,517号に対する35 U.S.C. §119(e)に基づく優先権の恩典を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明の分野は、工学的に作製された多細胞生物、ならびに、その工学的に作製された多細胞生物を設計、調製、および利用するためのシステムおよび方法に関する。工学的に作製された多細胞生物は、動くように、さらに他の物理的、計算的、および生物学的活動を行うように構成することができる。
【発明の概要】
【0003】
ここで、本発明者らは、直径100~500ミクロンのスフェロイドまたは楕円体の形をした多細胞生物ロボット(「バイオボット(biobot)」)である「アンスロボット(Anthrobot)」を紹介する。アンスロボットには、その表面を覆う「繊毛」と呼ばれる運動器官により水性環境で運動するための能力がもともと備わっている。アンスロボットは、ヒト肺上皮の前駆細胞などの、繊毛上皮の前駆細胞に由来し得る繊毛細胞である。適切な環境条件をアンスロボットに与えると、アンスロボットは運動性の生物マシンへと自己組織化する;この生物マシンは、ループ、直線、大きなアーチ、その環境内での特性(活発または不活性)に沿った追跡(tracking)、さらにはジグザグパターンなどの、様々な軌跡で、15~200ミクロン/秒の範囲の線速度で動くことができる。
【0004】
アンスロボットは、外部操作またはマイクロマネージメントを必要とせずに、自ら発達するため、その大多数を並行して成長させることができる。これにより、アンスロボットは簡便な大量生産に適するようになり、その生産がより拡張可能で経済的になるだけでなく、単一のアンスロボットでは達成できないタスクを集団で達成し得るアンスロボットの群れを容易に作製することも可能になる。
【0005】
さらに、アンスロボットには外因性ペイロードを積載することができる。そのため、アンスロボットは、人体などの様々な環境において多様なタスクのセットを実行できるよう、要求に応じてプログラミングすることが可能である。アンスロボットの基本細胞ストックは、胚または他の種とは対照的に、成人組織に由来するため、アンスロボットを患者ごとにパーソナライズすることができ、炎症を引き起こしたり免疫反応を誘発したりすることなく、人体内にアンスロボットを安全にインビボ配置することが可能になる。注射などの侵襲性の低い方法で体内に接種されると、様々な応用例が考えられ、例えば、限定するものではないが、アテローム性動脈硬化症の患者の動脈に蓄積したプラークを除去すること、嚢胞性線維症の患者の気道から過剰な粘液を強制的に排除すること、および高用量の関心対象の薬物を標的組織に局所送達することが考えられる。アンスロボットはまた、インビボおよびインビトロでの組織形成を調節するために(例えば、患者への移植前にアンスロボットにより組織の成長を調節または造形するために)使用することもできる。
【0006】
最後に、アンスロボットは、組織および器官の形成における細胞集合(cellular assembly)を研究するために利用することができる。細胞集合の研究から得られた情報は、再生医療を必要とする対象にそのような医療を施す際に活用することができる。特に、アンスロボットは、再生医療を必要とする対象における組織および器官の形成を調節するように工学的に作製され得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】繊毛細胞(すなわち、正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)などの運動性繊毛を有する任意の細胞、または運動性繊毛を発達させるように誘導することができる細胞)の、頂端部外側型(apical-out)の凝集塊を取得するための戦略および結果を示す。A. 繊毛細胞を体外に取り出し、細胞外マトリックス(ECM)を含む培地で2週間培養して、頂端部内側型(apical-in)の凝集塊を形成させる。その後、ECMを除去し、凝集塊をさらに培養して、表面に繊毛がある、頂端部外側型の凝集塊を形成させる。
図1B】繊毛細胞(すなわち、正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)などの運動性繊毛を有する任意の細胞、または運動性繊毛を発達させるように誘導することができる細胞)の、頂端部外側型の凝集塊を取得するための戦略および結果を示す。B. ECM除去後0日目では、凝集塊は動けなかった。
図1C】繊毛細胞(すなわち、正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)などの運動性繊毛を有する任意の細胞、または運動性繊毛を発達させるように誘導することができる細胞)の、頂端部外側型の凝集塊を取得するための戦略および結果を示す。C. ECMの非存在下で培養して1週間後、凝集塊は運動性を示す。
図1D】繊毛細胞(すなわち、正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)などの運動性繊毛を有する任意の細胞、または運動性繊毛を発達させるように誘導することができる細胞)の、頂端部外側型の凝集塊を取得するための戦略および結果を示す。D. 7日後に、頂端部内側型の凝集塊から、頂端部外側型の凝集塊への転換、または同様の細胞(運動性繊毛を有する細胞、または運動性繊毛を発達させるように誘導できる細胞)が、染色により示される。
図2A】スフェロイド表面への繊毛細胞の局在化は、極性反転イベント(polarity reversal event)によって引き起こされる可能性がある。A. ECM不含有の培地で培養した後の運動開始プロファイル。
図2B】スフェロイド表面への繊毛細胞の局在化は、極性反転イベントによって引き起こされる可能性がある。B. 染色は、7日間にわたる頂端部内側型の凝集塊から頂端部外側型の凝集塊への転換を示す。
図2C】スフェロイド表面への繊毛細胞の局在化は、極性反転イベントによって引き起こされる可能性がある。C. 表面に繊毛があることに基づいた凝集塊の特性評価。
図3A】アンスロボットは明確に区別される運動軌跡(movement trajectory)を有する。A. アンスロボット運動のデータ解析。
図3B】アンスロボットは明確に区別される運動軌跡を有する。B. 運動に基づくアンスロボットのクラス分け;クラス1:真っ直ぐに動くもの(straight mover);クラス2:ループを描くもの(looper;);クラス3:遷移クラス(transition class);およびクラス4:動いていないもの(idle)。
図3C】アンスロボットは明確に区別される運動軌跡を有する。C. 異なる運動指標ごとに各クラスを記述する箱ひげ図であり、クラス間の分極分布を示す。
図3D】アンスロボットは明確に区別される運動軌跡を有する。D. 二峰性分布を示す角速度の絶対値。
図3E】アンスロボットは明確に区別される運動軌跡を有する。E. 丸いアンスロボットが時計回りまたは反時計回りに動く可能性が同じくらいであることを示す、ループを描くものの方向性間の分布。
図3F】アンスロボットは明確に区別される運動軌跡を有する。F. マルコフ(Markov)モデルを使用した、明確に区別される状態の安定性および状態遷移の可能性の解析であり、46.79%~89.64%の範囲の安定性を示す。
図4】アンスロボットは外因性タンパク質を発現することができる。構成的に発現される赤色蛍光タンパク質(RFP)をコードするDNAベクターを、単一細胞の段階で組み込んだ。これらのRFPが組み込まれた細胞集団を、図1図2、および図3と同様に、本発明者らの通常のプロトコルに従って分化させた。単一細胞を多細胞アンスロボットへと成長および分化させて、完全に蛍光性のボットを得ることができた。さらに、アンスロボットの成長は単クローン性であるため、RFPが組み込まれた細胞の均一な分布が観察された。
図5】組織の裂傷を横断するアンスロボットを示したタイムラプス。
図6-1】図6.組織の裂傷を横断するアンスロボットを追跡したタイムラプスデータの解析。
図6-2】図6.組織の裂傷を横断するアンスロボットを追跡したタイムラプスデータの解析。
図6-3】図6.組織の裂傷を横断するアンスロボットを追跡したタイムラプスデータの解析。
図7】0日目の配置直後、ならびにその後の1日目および2日目における、傷のついた生きた組織上のアンスロボットの凝集塊(すなわち、「スーパーボット」)の配置。
図8】組織裂傷にスーパーボットを接種した後の天然組織の成長。
図9】スーパーボットは、スーパーボット接種部位での組織の両側の接合を「縫合(stitch)」の形で促進する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
以下の説明は、当業者が本開示の態様を作製および使用できるようにするために提示される。例示された態様に対する様々な修正が、当業者には容易に明らかとなろう;本明細書における一般的な原理は、本開示の態様から逸脱することなく、他の態様および用途に適用することができる。それゆえ、本開示の態様は、示された態様に限定されることを意図したものではなく、本明細書に開示された原理および特徴と一致する最も広い範囲を与えられるべきである。以下の詳細な説明は、図面を参照しながら読まれるべきである。図面は、必ずしも縮尺通りではないが、選択された態様を描写しており、本開示の態様の範囲を限定することを意図したものではない。当業者であれば、本明細書で提供される例は、多くの有用な代替手段を有しており、それらも本開示の態様の範囲内に入ることを認識するであろう。
【0009】
定義および用語
工学的に作製された多細胞生物、ならびに、その工学的に作製された多細胞生物を設計、調製、および利用するためのシステムおよび方法が開示される。本開示の主題は、下記の定義および用語を用いてさらに説明され得る。本明細書で使用する定義および用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、限定することを意図したものではない。
【0010】
本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかに他の指示がある場合を除き、複数形を含む。例えば、用語「1つの細胞(a cell)」は、「1つまたは複数の細胞(one or more cell)」を意味すると解釈されるべきである。本明細書で使用する用語「複数」は、「2つまたはそれ以上」を意味する。
【0011】
本明細書で使用する「約」、「およそ」、「実質的に」、および「有意に」は、当業者には理解されており、それらが使用される文脈に応じてある程度変化するだろう。用語が使用されている文脈を考慮しても当業者には明らかでない用語の使用がある場合、「約」および「およそ」は、特定の用語のプラスマイナス10%までを意味し、「実質的に」および「有意に」は、特定の用語のプラスマイナス10%を超えることを意味するものとする。
【0012】
本明細書で使用する用語「含む(include)」および「含む(including)」は、用語「含む(comprise)」および「含む(comprising)」と同じ意味を有する。用語「含む(comprise)」および「含む(comprising)」は、特許請求の範囲に記載された構成要素にさらに追加の構成要素を含めることを許可する「オープン」の移行語であると解釈すべきである。用語「なる(consist)」および「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲に記載された構成要素以外の追加の構成要素を含めることを許可しない「クローズド」の移行語であると解釈すべきである。用語「から本質的になる(consisting essentially of)」は、部分的にクローズドであり、クレームされた主題の本質を根本的に変えない追加の構成要素のみを含めることを許可すると解釈すべきである。
【0013】
用語「など(such as)」は、「例えば、~を含む」と解釈すべきである。さらに、「など」を含むがこれに限らない、あらゆる例示的な用語の使用は、単に本発明をより明らかにすることを意図しており、特に特許請求の範囲に記載されない限り、本発明の範囲に限定をもたらすものではない。
【0014】
さらに、「A、BおよびCの少なくとも1つ」などに類似する慣用句が使用されている場合、一般に、このような構成は、当業者がその慣用句を理解している意味での使用を意図している(例えば、「A、BおよびCの少なくとも1つを有するシステム」には、限定するものではないが、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBを一緒に、AとCを一緒に、BとCを一緒に、および/またはAとBとCを一緒に有するシステムが含まれる)。当業者にはさらに理解されるように、説明中であろうと図面中であろうと、2つまたはそれ以上の代替用語を提示する事実上いかなる離接語(disjunctive word)および/または離接句も、該用語の1つ、該用語のいずれか、または両方の用語を含む可能性を想定していると理解すべきである。例えば、「AまたはB」という語句は、「A」または「B」または「AおよびB」の可能性を含むと理解されよう。
【0015】
「まで(up to)」、「少なくとも(at least)」、「より大きい(greater than)」、「より小さい(less than)」などの全ての表現は、記載された数を含み、範囲および部分範囲にその後分割され得る範囲を指す。範囲には、個々のメンバーが含まれる。したがって、例えば、1~3個のメンバーを有するグループは、1、2、または3個のメンバーを有するグループを指す。同様に、6個のメンバーを有するグループは、1、2、3、4、または6個のメンバーを有するグループを指す、などである。
【0016】
法助動詞「し得る(may)」は、いくつかの記載された態様またはそこに含まれる特徴の中の1つまたは複数の選択肢の好ましい使用または選択を意味する。特定の態様またはそこに含まれる特徴に関して選択肢が何も開示されていない場合、法助動詞「し得る(may)」は、記載された態様またはそこに含まれる特徴の作製法または使用法および局面に関する肯定的行為、あるいは記載された態様またはそこに含まれる特徴に関して特定のスキルを使用する明確な決断を指す。この後者の文脈では、法助動詞「し得る(may)」は、助動詞「できる(can)」と同じ意味および含意を有する。
【0017】
工学的に作製された多細胞生物
開示されるものは、工学的に作製された多細胞生物である。また、工学的に作製された多細胞生物を設計、調製、および利用するためのシステムおよび方法も開示される。
【0018】
工学的に作製された多細胞生物は、典型的には、細胞の凝集塊を含む。細胞の凝集塊は、1つまたは複数の異なる細胞タイプを含み得る。いくつかの態様では、細胞の凝集塊は、繊毛上皮細胞などの上皮細胞を含むか、該上皮細胞から本質的になるか、または該上皮細胞からなる。適切な繊毛細胞には、肺の上皮性気管支組織の繊毛細胞が含まれるが、これらに限定されない。該生物は、繊毛細胞の、頂端部外側型の凝集塊を含むもの、該凝集塊から本質的になるもの、または該凝集塊からなるものであり得る。
【0019】
任意で、工学的に作製された多細胞生物は、以下の基準の少なくとも1つを満たし得る:(i)該生物は、約1000個未満の総細胞、または約900、700、600、500、400、300、200、もしくは100個未満の細胞を含む(あるいは該生物は、これらの値のいずれかによって境界される範囲内の多数の細胞(例えば、100~1000個の細胞)を含む);および(ii)該生物は、約2mm未満、または約1.5mm、1.0mm、0.9mm、0.8mm、0.7mm、0.6mm、0.5mm、0.4mm、0.3mm、0.2mm、もしくは0.1mm未満の有効径を有する(あるいは該生物は、これらの値のいずれかによって境界されるサイズ範囲(例えば、0.1~0.5mm)内の有効径を有する)。
【0020】
工学的に作製された多細胞生物は、好ましくは、自己運動性であり、該生物の繊毛が自己作動によって作動するときに動く。いくつかの態様では、該生物の繊毛は自己作動型であり得る。他の態様では、該生物の繊毛は外部刺激によって作動する;その外部刺激には、電気刺激、または繊毛が光感受性イオンチャネルを発現するように遺伝的に改変されている場合のオプトジェネティクスが含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
いくつかの態様では、工学的に作製された多細胞生物は、ある表面と接触しており、該生物の繊毛が作動すると、例えば直線的に動く。好ましくは、該生物は、該生物の繊毛が作動すると、少なくとも約1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50ミクロン/秒またはそれ以上の速度で動く。いくつかの態様では、該生物は自己運動性である。
【0022】
好ましくは、工学的に作製された多細胞生物は、生理学的に適切な環境に置かれた場合、少なくとも約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30日の寿命を有する。
【0023】
工学的に作製された多細胞生物は、互いに密着した複数の生細胞と見なすことができる細胞の凝集塊を含む。この細胞の凝集塊は3次元形状を形成している。
【0024】
開示された生物の細胞の凝集塊は、1つまたは複数の異なる細胞タイプを含むことができる。該凝集塊の細胞タイプは、所望する該凝集塊の形状および/または該凝集塊の機能に応じて変化し得る。適切な細胞タイプには、繊毛上皮細胞などの繊毛細胞が含まれるが、これらに限定されない。適切な繊毛細胞には、肺の上皮性気管支組織の繊毛細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
適切な細胞は、動物細胞を含み得る。適切な動物細胞は、ヒト細胞であり得る。
【0026】
細胞の凝集塊は、繊毛細胞を含むか、繊毛細胞から本質的になるか、または繊毛細胞からなるものであり得る。いくつかの態様では、細胞の凝集塊は、追加の非繊毛性の細胞タイプを含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0027】
いくつかの態様では、工学的に作製された多細胞生物は、非神経支配性および/または非軟骨性である。この多細胞生物は、人間の創意工夫と改造の指針なしに出現する自然発生の生物とは異なっているため、「工学的に作製された」と表現することができる。言い換えると、多細胞生物が、内因性の細胞間シグナル伝達および形態形成を利用し得るとしても、その多細胞生物は合成的で、非自然発生的である。
【0028】
工学的に作製された多細胞生物の細胞の凝集塊は、異種分子を発現するように工学的に作製された細胞を含むことができる。いくつかの態様では、該生物の細胞は、異種タンパク質を発現するように、または特定の所望の分子を分泌するように工学的に作製される。
【0029】
細胞の凝集塊が異種分子を発現するように工学的に作製された細胞を含む態様では、発現される適切な異種分子として、治療薬が挙げられる。他の適切な異種分子には、毒素などの標的基質を代謝する酵素が含まれ得る。他の適切な異種分子には、標的リガンド(例えば、該生物によって感知される標的リガンド)に対する受容体、または環境内の光、熱、および他の物性のセンサーが含まれ得る。
【0030】
好ましくは、工学的に作製された多細胞生物は自己修復性である。いくつかの態様では、細胞の凝集塊が脱凝集(例えば、細胞の凝集を破壊する物理的損傷)を受けた場合、該細胞は再凝集して細胞凝集塊を再形成するだろう。
【0031】
工学的に作製された多細胞生物は、タスクを実行するように構成することができる。いくつかの態様では、該生物は、標的物体を(例えば、標的物体を押すことによって)動かすように構成される。さらなる態様では、該生物は、複数の標的物体を(例えば、標的物体を押すことによって)動かし、かつ、動かした標的物体を集める(すなわち、標的物体を凝集させる)ように構成される。
【0032】
工学的に作製された多細胞生物は、空洞を有するように構成することができる。いくつかの態様では、工学的に作製された多細胞生物は、標的物体を捕捉および/または輸送するための空洞を有するように構成される。
【0033】
工学的に作製された多細胞生物は、多くの用途に利用することができる。いくつかの態様では、該生物は、その必要がある対象に治療薬を送達するための方法において利用され、この方法は、治療薬を発現するように該生物を工学的に作製する工程、および該生物を該対象に投与する工程を含む。
【0034】
他の態様では、工学的に作製された多細胞生物は、環境から標的基質(例えば、環境から毒素)を除去するための方法に利用される。この方法は、標的基質を代謝する酵素を発現するように該生物を工学的に作製する工程、および環境から標的基質を除去するために該生物を該環境に配置する工程を含み得る。
【0035】
他の態様では、工学的に作製された多細胞生物は、サンプル中の標的リガンドを検出するための方法に利用される。この方法は、標的リガンドに対する受容体を発現するように該生物を工学的に作製する工程、および該生物を該サンプル中に配置する工程を含み得、ここで、該生物は、該受容体が該標的リガンドに結合した後に、シグナルを発生させる。
【実施例
【0036】
以下の実施例は例示的であり、特許請求の範囲に係る主題の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0037】
実施例1.アンスロボット:ヒト由来の自己組織化生物ロボット
要約
生物学的構造および機能を制御することは、再生医療および合成生物学にとって重要なニーズである。オルガノイドは多くの細胞タイプから作られてきたが、それらはこれまで機能性を欠いていた。同様に、既存の「バイオボット」(本発明者らの以前のゼノボット(Xenobot)の発明を除く)は、そのほとんどが高度に工学的に作製された構造物であり、それらの細胞は、1種類の機能のみをもたらす正確な足場の上に播種され、かつ外部からの作動を必要とした。こうしたことが合わさって、この技術の使用可能性にはかなり限りがある。本発明者らのアンスロボットは、新規な合成生体マシンであって、1)遺伝子編集を必要としない(が、含むこともある)細胞から作られ、2)ヒトの細胞から作られるため、免疫拒絶反応なしに患者の体内での使用が可能であり、3)バイオエンジニアリングでは達成が困難な自己組織化を示し、かつ4)インテリジェントセンシング、細胞修復/監視(sentinel)、および薬物送達の分野で多くの用途を示唆する運動性の自己駆動型行動を示す。このような生物ロボットは、現在のところかなり大きな電気機械式ロボットに比べて、多くの利点を有する。
【0038】
序論
ここでは、直径100~500ミクロンのスフェロイドの形をした多細胞生物ロボット(バイオボット)であるアンスロボットを紹介する。アンスロボットには、繊毛と呼ばれる運動器官がその表面を覆っているため、水性環境で運動する能力がもともと備わっている。これらの多細胞バイオボットは、ヒト肺に由来する単一細胞として始まり、適切な環境条件が与えられると、3週間以内に自己組織化して運動性の生物マシンになる;この生物マシンは、ループ、直線、大きなアーチ、さらにはジグザグパターンなどの様々な軌跡で、5~50ミクロン/秒の線速度にて動くことができる。
【0039】
この10年間で、バイオボット(運動性の生物起源集合体の形で提供されることが多い)を開発することへの関心が急速に高まっている(1,2)。バイオボットの初期の例2Aは、ゲルまたは3Dプリントした足場などの、不活性な化学物質によって支持された生物学的細胞で構成されるハイブリッドデバイスである(3~7)。これらの生物学的細胞(多くの場合、筋細胞に由来する)の構成的または誘導可能な収縮を介して、構造体全体が空間的および時間的に移動することから、バイオボットと呼ばれている。
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これらの既存のハイブリッドバイオボットの主な欠点は、3Dプリンターまたは金型などの外部造形装置に依存することである。このような外部依存は欠点となる;これらのバイオボットの経済的な大量生産が本質的に制限されるという理由のためである。今年初めに紹介された、ゼノボットと呼ばれるより高度なバイオボットは、細胞を支える不活性足場から独立して、完全に細胞化された本体を特徴としていた(8)。これらのゼノボットは手で形作ることができ、自ら動くことが可能である。その結果、それらは経済的な大量生産を求める競争の一歩先を行っている;しかし、それでも1つ1つ製造する必要があるため、それらにはまだ限界がある。アンスロボットは、外部操作またはマイクロマネージメントを必要とせずに、自ら発達するため、その大多数を並行して成長させることができる。これにより、我々の方法には簡便な大量生産に特有の能力が付与され、それらの生産がより拡張可能で経済的になるだけでなく、単一のアンスロボットでは達成できないタスクを集団で達成できるアンスロボットの群れを簡単に作製することも可能になる。
【0041】
さらに、カエルの胚に由来するゼノボットとは異なり、アンスロボットは、成人組織に由来するため、患者ごとにパーソナライズすることができ、炎症を引き起こしたり免疫反応を誘発したりすることなく、これらのロボットを人体内に安全にインビボ配置することが可能になる。注射などの侵襲性の低い方法で体内に接種されると、様々な応用例が考えられ、例えば、限定するものではないが、アテローム性動脈硬化症の患者の動脈に蓄積したプラークを除去すること、嚢胞性線維症の患者の気道から過剰な粘液を強制的に排除すること、および高用量の関心対象の薬物を標的組織に局所送達することが考えられる。
【0042】
結果
ヒト気管支上皮細胞は、運動性のバイオボット、すなわちアンスロボットへと自己構築する。正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)には、気道オルガノイドを形成する能力があり、このオルガノイドはその内腔を覆う多繊毛細胞を頂端部内側配置で含む多細胞スフェロイドであることが文献で確立されている(9)。運動性の多細胞構造体を開発する目的で、本発明者らは、このような多繊毛細胞をスフェロイド表面(すなわち、皮質)に頂端部外側配置で局在させることによって、運動能力を備えた構造体が得られるのではないか、という仮説を立てた。頂端部内側型のオルガノイドを、密なマトリックス環境からより希薄な疎水性環境に移すと、それらの極性が切り替わり、頂端部外側配置に到達し得ることが文献に以前に示されているため(10)、本発明者らは同様のアプローチで実験を行った(図1A)。気道オルガノイドの状況下で同様の形態学的再組織化イベントの可能性を検証するために、まず、3次元マトリックス環境でNHBE細胞を培養することによって気道オルガノイドを形成させた。オルガノイドが成熟したら、周囲のマトリックスを溶解し、0日目にそのオルガノイドを低接着環境に移した。この時点で、気道オルガノイドは全く動けなかった(図1B)。しかし、この疎水性環境で培養してから1週間以内に、スフェロイドはその運動性の大幅な増加を示し始め(図1C)、本発明者らがアンスロボットと呼ぶ3次元の運動性構造体になった。
【0043】
アンスロボットの運動性は、皮質上に出現する繊毛細胞によってもたらされる。繊毛は運動器官として機能することが知られているため、この運動性の大幅な増加は、周囲のマトリックスの溶解後にスフェロイド皮質上に繊毛が出現したことに起因すると考えられた。この考えを検証するために、非運動性の0日目バイオボットと高度に運動性の10日目バイオボットの両方を固定し、繊毛マーカーであるアセチル化チューブリンなどの、いくつかの極性マーカーを用いて染色した(図1C)。この実験では、0日目ボットに比べて、10日目ボットの皮質上には著しく高レベルの繊毛が局在することが一貫して観察された。これらの観察に基づいて、本発明者らは、気道オルガノイドが、周囲のマトリックスから取り出されて、低接着環境に置かれると、大きな形態学的再組織化を受け、その結果、多繊毛細胞が皮質上に局在するようになる、と結論づけた。この再組織化により、気道オルガノイドは、外部からの入力または誘導を一切必要とせずに、長時間にわたって構成的に運動性を保つようになる。
【0044】
スフェロイド表面への繊毛細胞の局在化は、極性反転イベントによって引き起こされる可能性がある。繊毛がスフェロイド表面に局在するようになるこの形態学的再組織化イベントの時空間的動態をよりよく理解するために、まず、3週間の時間枠にわたって1日2回のペースで、運動性になったスフェロイドの数をカウントした。この実験は、10日目にピークを有する非線形の運動性開始プロファイルを示し(図2A)、マトリックスからの溶解後の最初の10日以内に形態が大きく変化したことを示唆している。この形態学的再組織化イベントの時空間的動態を調べるために、最初の10日以内の異なる時点でスフェロイドを固定した(図2B)。0日目には、予想通り、密着結合によって並んだ繊毛のある内腔と、皮質を覆っている未分化の基底細胞集団が観察された。3~7日目には、内腔空間を皮質に橋渡しする、スフェロイド表面上の陥入孔(invaginating hole)の形成が繰り返し観察された。さらに、この陥入部の周りには繊毛領域が一貫して観察され、内腔空間から皮質への多繊毛細胞の移動イベントの可能性を示している。結局のところ、両側の密度に差がある界面では、繊毛細胞は、気道、卵巣、および脳室の天然上皮組織に見られるように、より流動性の高い媒体に向かって分極化することが知られている。したがって、これに関連して、培養皿の低接着特性によって生じる周囲の低密度環境は、内腔の多繊毛細胞の球体表面への移動を促し、オルガノイドの部分的または全体的な極性切り替えを引き起こしている可能性がある。この仮説に合致して、8~10日目には、繊毛突出部がスフェロイド表面上に持続的に観察され、運動性を可能にした。今回の解析を通じて、多繊毛細胞の形成に先行することが知られている一次繊毛(primary cilium)の存在は検出されていない。したがって、本発明者らは、基底細胞集団が多繊毛細胞へとさらに分化するという証拠を何も持ち合わせていないが、これは、スフェロイド表面での繊毛の出現を説明する代替仮説となろう。この代替仮説は、免疫学的アッセイでは得ることのできないさらなる洞察を明らかにする可能性があるため、さらなる否定または実証のためにトランスクリプトーム解析で検証する必要がある。
【0045】
免疫学的アッセイの間に、本発明者らはまた、0日目の非運動性スフェロイドの皮質形態がほぼ均一であるのに、10日目の運動性ボットはそうでないことにも気付いた。運動性ボットの皮質構造、特にそれが繊毛の分布に関連しているときの皮質構造をさらに調べるため、11日目、18日目、および25日目の運動性ボットサンプルのプールを集め、上記のマーカーを用いた免疫学的研究を繰り返した。この実験の結果、運動性スフェロイドはいくつかの異なる形態をとることができることが観察された(図2C);これにより、スフェロイドが示す多様な運動軌跡の説明がつくかもしれない。
【0046】
アンスロボットは、明確な運動軌跡を有している。本発明者らは、観察中、アンスロボットがループ、アーチ、直線などの様々な異なる軌跡で動くことに気が付いた。これらのパターンをさらに解析するために、最初に、約200個のボットを4~8個のグループに分けて、グループあたり平均10時間のタイムラプス動画を集めた。その後、これらのグループを追跡して個々のボットの軌跡座標を取得し、これらをPCA解析によって4つの異なるクラスにさらにクラスター化した(図3Aおよび図3B)。各クラスは、異なった表現型の運動パターンを表している:真っ直ぐに動くもの;ループを描くもの;遷移クラス;および動いていないもの。図3Bは、異なる運動指標ごとに各クラスを記述する箱ひげ図を示し、クラス間の分極分布を示している。全てのボットの角速度を定量化すると、特殊なクラスの存在を示す別の明確な分布が出現する。角速度の絶対値は二峰性の分布を示し(図3C)、ループを描くものの明確なクラスの存在が示される。さらに、この解析は、角速度の兆候を考慮すると、ループを描くものの方向性の間に均一な分布があることを示した(図3D);これは、丸いアンスロボットが時計回りまたは反時計回りに動く可能性が同じくらいであることを意味している。最後に、本発明者らは、マルコフモデルを用いて、これらの異なる状態の安定性および状態遷移の可能性を解析した(図3E);これは、46.79%~89.64%の範囲の安定性を示した。この運動解析から、本発明者らは、アンスロボットには異なった運動軌跡があり、それらの間で切り替えの可能性があると結論づける。
【0047】
アンスロボットは、外因性ベクターを用いて工学的に作製することができる。アンスロボットは、多細胞性、運動性、およびスフェロイド形状の合理的一貫性など、多くの創発的な特徴をすでに備えている。プログラム可能な方法でその能力をさらに拡張するために、外因性ベクターを用いてそれらを工学的に作製する実験を行った。この目標に向けた第一歩として、構成的に発現される赤色蛍光タンパク質をコードするDNAベクターを単一細胞の段階で組み込んだ。その後、通常のプロトコルに従って、これらのRFPを組み込んだ細胞の集団を分化させた。単一細胞は、何の問題もなく、多細胞アンスロボットへと成長および分化することができ、完全に蛍光性のボットをもたらした。(図4参照)。さらに、アンスロボットの成長は単クローン性であるため、工学的に作製されたボットでは、RFPを組み込んだ細胞の均一な分布が観察された。このことは、これらのアンスロボットが、イオンチャネル、接着分子、受容体、酵素、平面極性タンパク質、シグナル伝達経路、合成タンパク質などの、外来DNAを発現できることを実証している。
【0048】
結論
本発明者らは、自己組織化して運動性を示す合成生体マシンを作製する方法を実証する。本発明者らは、組織の造形、有害細胞(rogue cell)の捕捉、化合物の送達など、人体内での様々な用途と、インビトロバイオエンジニアリングへの応用を想定している。最も重要なことは、これらのボットが実際の細胞の代謝能力、計算能力、および感覚能力を利用できるということである;つまり、それらは、リッチでインテリジェントな行動のために(合成生物学ツールキットからのトランスジーンを介して、ナノ材料と微小環境を介して、および電気・機械・光刺激を介して)プログラムされ得ることを意味している。
【0049】
参考文献
【0050】
実施例2.アンスロボットは、生きた組織を横断することができる
ヒト細胞(気管支上皮細胞)に由来するアンスロボットの主な利点の一つは、アンスロボットが患者自身の細胞で調製されて、その患者に接種して戻される場合(すなわち、アンスロボットが自家である場合)、それらは「自己」の一部として認識されるため、アンスロボットが免疫反応を引き起こすことはない、ということである。これにより、アンスロボットは、組織の外科的操作を必要とせずに、体内で特定のタスクを行うことが可能になるはずである。
【0051】
アンスロボットが、生きた組織内の狭い空間を横断できるという前提を検証するために、hiNSC由来の神経組織を調製し、体内の内部組織の裂傷の代わりとして、その他の点では無傷のこの組織に裂傷を作った。この狭い組織裂傷にアンスロボットを接種したところ、いくつかの高速ボットがこの裂傷を容易に横断することが観察された。(図5参照)。傷跡を横断するアンスロボットを追跡して、その進行方向(heading)と覆われた面積を算出することによって、この横断タイムラプスデータを解析すると、回転傾向および/または速度がより高いアンスロボットは、最終的に、より高い割合の裂傷界面を覆うことによって、裂傷をよりよく「探索」するようになることが判明した。(図6参照)。
【0052】
したがって、患者の体内の深部組織で生じることが多く、さもなければアクセスするのに外科的介入を必要とする、長く伸びた組織裂傷を横断する能力を、アンスロボットは有する、と本発明者らは結論づける。
【0053】
実施例3.アンスロボットは、生きた組織の裂傷の治癒を促進することができる
アンスロボットが、傷のついた生きた組織を横断できることを実証した後、次に、アンスロボットがこれらの内部傷跡の治癒を促進できるかどうかを調べることにした。アンスロボットが組織治癒を促進できるかどうかを判断するために、多数のアンスロボットを別々の小皿に閉じ込めて、それらのランダムな相互凝集を促進することによって、より大きな「スーパーボット(superbot)」を構築した。その後、これらのスーパーボットを、裂傷の幅全体を横切り、それゆえ損傷組織の両側を橋渡しするように、組織裂傷に沿った任意の部位に注意しながら配置した。図7は、0日目の配置直後と、その後の1日目と2日目における、傷のついた生きた組織上のスーパーボットを示す。
【0054】
共焦点顕微鏡を用いて、本発明者らは、スーパーボットを組織裂傷に接種してから次の72時間以内に、天然組織の実質的な成長が起こったことを観察した。(図8参照)。スーパーボットは、スーパーボット接種部位の組織の両側の接合を「縫合」の形で促進した。(図9参照)。
【0055】
したがって、より大きなアンスロボットの凝集塊は、生きた組織の治癒を助けることができ、生きた組織の治癒を、外科的介入を必要とせずに内部的に促進するために使用することができる。
【0056】
前述の説明において、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書に開示された本発明に対して様々な置換および修正を行うことができることは、当業者にはすぐに分かるであろう。本明細書に例示的に記載された発明は、適切には、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素または限定の非存在下にて実施され得る。採用した用語と表現は、限定の用語としてではなく、説明の用語として使用されており、このような用語と表現の使用において、図示および記載された特徴またはその一部のいかなる均等物も排除する意図はなく、様々な修正が本発明の範囲内で可能であることが認識される。かくして、本発明は、特定の態様および任意選択の特徴によって例示されているが、当業者であれば、本明細書に開示された概念の修正および/または変形を行うことができ、そのような修正および変形は、本発明の範囲内にあるとみなされることが理解されよう。
【0057】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈が明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行うことができる。本明細書で提供されるあらゆる例の使用は、単に本発明を明らかにすることを意図しており、特に特許請求の範囲に記載されない限り、本発明の範囲に限定をもたらすものではない。本明細書中のいかなる文言も、特許請求の範囲に記載されない要素を、本発明の実施に欠かせないものとして解釈されるべきではない。
【0058】
本明細書には、多数の特許および非特許文献が引用されている。それらの引用文献は、全体として参照により本明細書に組み入れられる。明細書における用語の定義と引用文献における該用語の定義との間に矛盾がある場合には、その用語は明細書における定義に基づいて解釈されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8
図9
【国際調査報告】