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特表2023-551349半導体式マイクロ波による滅菌および低温殺菌
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】半導体式マイクロ波による滅菌および低温殺菌
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/01 20060101AFI20231201BHJP
   H05B 6/64 20060101ALI20231201BHJP
   H05B 6/70 20060101ALI20231201BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20231201BHJP
   A23L 3/02 20060101ALI20231201BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20231201BHJP
   A23L 19/12 20160101ALN20231201BHJP
【FI】
A23L3/01
H05B6/64 G
H05B6/70 E
A23L5/10 C
A23L3/02
G06Q50/02
A23L19/12 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022570445
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(85)【翻訳文提出日】2022-12-21
(86)【国際出願番号】 US2021033298
(87)【国際公開番号】W WO2021236867
(87)【国際公開日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】63/027,782
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510239406
【氏名又は名称】ワシントン ステイト ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】タン ジュミン
(72)【発明者】
【氏名】ヤンス フランクリン ローリング
(72)【発明者】
【氏名】タン ゾンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ ファン
【テーマコード(参考)】
3K090
4B016
4B021
4B035
5L049
【Fターム(参考)】
3K090AA01
3K090AA20
3K090AB05
3K090BA03
3K090BB01
3K090CA02
4B016LC06
4B016LE04
4B016LG06
4B016LK01
4B016LK08
4B016LK09
4B016LK10
4B016LP05
4B016LP10
4B021LA01
4B021LP06
4B021LT01
4B021LT02
4B021LT06
4B021LW02
4B021MC01
4B035LC05
4B035LE11
4B035LP12
4B035LP16
4B035LP43
4B035LP44
4B035LT01
5L049CC01
(57)【要約】
【解決手段】 半導体式マイクロ波(MW)発生装置を用いた、産業用MW支援の加熱滅菌および低温殺菌の方法および装置。1つまたは複数のフェーズドアレイ発生装置は、補助的な温度制御と静水圧とを提供する処理液を用いて搬送用キャリアで搬送される包装食品または包装液体を加熱する。半導体式MW発生装置の出力信号は、コンピュータ制御されて、位相と出力比との調整により加熱キャビティ内の干渉パターンを調整すると共に加熱エネルギーの焦点を移動させることを可能にする。
【選択図】 図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装食品の物品を滅菌または低温殺菌する方法であって、
前記物品を浸漬液の中を搬送する工程であって、浸漬される前記物品は前記浸漬液への熱伝導、または前記浸漬液からの熱伝導を受ける、搬送する工程と、
前記物品が前記浸漬液の中を搬送される間に、1つまたは複数の半導体式(SS)マイクロ波(MW)発生装置からのMWエネルギーを前記物品に加える工程と、
前記物品の内部で所望の加熱均一性を実現するために、1つまたは複数の前記SS MW発生装置のうちの少なくとも1つからの前記MWエネルギーの振幅と、周波数と、位相と、のうちの1つまたは複数を変更することにより、1つまたは複数の前記SS MW発生装置を制御する工程と、
を含み、
前記加える工程と前記制御する工程とは、前記物品の滅菌または低温殺菌を実現するために充分な温度まで前記浸漬液に浸漬される前記物品を加熱する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記制御する工程は、1つまたは複数の前記SS MW発生装置のうちの少なくとも1つからの前記MWエネルギーの前記振幅と、前記周波数と、前記位相と、のうちの1つまたは複数を調整する工程、および/または動的にシフトする工程、
を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
1つまたは複数の前記SS MW発生装置は、
前記MWエネルギーを前記物品の反対側から加える、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の対、
を備える、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記SS MW発生装置の前記対を制御する工程は、
第1モードを介して、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の前記対から出力される前記MWエネルギーの相対的振幅と相対的位相シフトとのうちの1つまたは複数を変更することにより、前記SS MW発生装置の前記対の間でMWエネルギー強度が最大の面を設定する工程、
を含む、
請求項3記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の前記SS MW発生装置は、
複数の送信要素のフェーズドアレイとして構成される1つまたは複数の前記SS MW発生装置、
を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記フェーズドアレイとして構成される1つまたは複数の前記SS MW発生装置を制御する工程は、
第1モードを介して、前記フェーズドアレイのそれぞれからの前記MWエネルギーのメインローブの方向を設定する工程と、
第2モードを介して、前記物品が前記浸漬液の中を搬送される方向に沿って、および/または前記搬送される方向を横断して、前記MWエネルギーの前記メインローブを掃引する工程と、のうちの1つまたは複数、
を含む、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記物品の滅菌または低温殺菌を実現するために充分な時間、前記物品を保持温度に維持する工程、
を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項8】
1つまたは複数の所望のゾーン温度を維持するように、1つまたは複数のゾーン内の前記浸漬液を制御する工程、
を含む、
請求項1記載の方法。
【請求項9】
1つまたは複数の前記ゾーンは、
前記浸漬液が保持温度に維持される保持ゾーン、
を含む、
請求項8記載の方法。
【請求項10】
1つまたは複数の前記ゾーンは、
前記浸漬液が前記保持温度より低い冷却ゾーン温度に維持される冷却ゾーン、
を含む、
請求項9記載の方法。
【請求項11】
水分を有する物品の滅菌または低温殺菌のための加工システムであって、
浸漬液を用いて前記物品を予熱温度まで予熱するように構成される予熱部と、
前記予熱部に結合される加熱部と、
1つまたは複数の半導体式(SS)マイクロ波(MW)発生装置に結合されるコンピュータ制御部と、
を有してなり、
前記加熱部は、
1つまたは複数の前記SS MW発生装置に結合される加熱室、
を含み、
前記加熱部は、前記予熱部から前記物品を受け入れて、前記物品が前記浸漬液の中を搬送されて前記浸漬液の静水圧を受ける間に、1つまたは複数の前記SS MW発生装置からのMWエネルギーを前記物品に加えるように構成されて、
前記浸漬液の前記静水圧は、前記MWエネルギーが加えられる間に前記物品の前記水分が前記物品を破裂させることを防ぎ、
前記コンピュータ制御部は、1つまたは複数の前記SS MW発生装置のうちの少なくとも1つからの前記MWエネルギーの振幅と、周波数と、位相と、のうちの1つまたは複数を変更するように構成される、
ことを特徴とする加工システム。
【請求項12】
前記コンピュータ制御部は、1つまたは複数の前記SS MW発生装置のうちの少なくとも1つからの前記MWエネルギーの前記振幅と、前記周波数と、前記位相と、のうちの1つまたは複数を調整する、および/または動的にシフトするように構成される、
請求項11記載の加工システム。
【請求項13】
少なくとも1つの前記SS MW発生装置は、
前記MWエネルギーを前記物品の反対側から加える、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の対、
を含み、
前記コンピュータ制御部は、第1モードを介して、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の前記対から出力される前記MWエネルギーの相対的振幅と相対的位相シフトとのうちの1つまたは複数を変更することにより、前記SS MW発生装置の前記対の間でMWエネルギー強度が最大の面を設定するように構成される、
請求項11記載の加工システム。
【請求項14】
1つまたは複数の前記SS MW発生装置は、
複数の送信要素のフェーズドアレイとして構成される1つまたは複数の前記SS MW発生装置、
を含む、
請求項11記載の加工システム。
【請求項15】
前記コンピュータ制御部は、第1モードを介して、前記フェーズドアレイのそれぞれからの前記MWエネルギーのメインローブの方向を設定して、第2モードを介して、前記物品が前記浸漬液の中を搬送される方向に沿って、および/または前記搬送される方向を横断して、前記MWエネルギーの前記メインローブを掃引するように構成される、
請求項14記載の加工システム。
【請求項16】
水分を有する物品を滅菌または低温殺菌する装置であって、
キャリア筐体と、
1つまたは複数のマイクロ波(MW)アセンブリと、
コンピュータ制御部と、
を有してなり、
前記キャリア筐体は、
第1端部と第2端部との間と、上部と底部との間と、第1側面と第2側面との間と、に延伸する水路と、
前記キャリア筐体の前記上部と、前記底部と、前記第1側面と、前記第2側面と、のうちの1つまたは複数に1つまたは複数の窓と、
浸漬液が前記キャリア筐体の前記水路を循環できるように構成される注入口と、
前記浸漬液が前記キャリア筐体の前記水路を循環できるように構成される排出口と、
を備えて、
前記窓は、MWエネルギーを透過して、
1つまたは複数の前記MWアセンブリは、
前記キャリア筐体の1つまたは複数の前記窓に結合されて、
1つまたは複数の半導体式(SS)MW発生装置を備えて、
前記物品が前記浸漬液の中を搬送されて前記浸漬液の静水圧を受ける間に、前記MWエネルギーを前記物品へ加えるように構成されて、
前記浸漬液の前記静水圧は、前記MWエネルギーが加えられる間に前記物品の前記水分が前記物品を破裂させることを防ぎ、
前記コンピュータ制御部は、
1つまたは複数の前記SS MW発生装置に結合されて、
1つまたは複数の前記SS MW発生装置のうちの少なくとも1つからの前記MWエネルギーの振幅と、周波数と、位相と、のうちの1つまたは複数を変更するように構成される、
ことを特徴とする装置。
【請求項17】
前記コンピュータ制御部は、1つまたは複数の前記SS MW発生装置のうちの少なくとも1つからの前記MWエネルギーの前記振幅と、前記周波数と、前記位相と、のうちの1つまたは複数を調整する、および/または動的にシフトするように構成される、
請求項16記載の装置。
【請求項18】
少なくとも1つの前記SS MW発生装置は、
前記MWエネルギーを前記物品の反対側から加える、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の対、
を含み、
前記コンピュータ制御部は、第1モードを介して、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の前記対から出力される前記MWエネルギーの相対的振幅と相対的位相シフトとのうちの1つまたは複数を変更することにより、前記SS MW発生装置の前記対の間でMWエネルギー強度が最大の面を設定するように構成される、
請求項16記載の装置。
【請求項19】
1つまたは複数の前記SS MW発生装置は、
複数の送信要素のフェーズドアレイとして構成される1つまたは複数の前記SS MW発生装置、
を含む、
請求項16記載の装置。
【請求項20】
前記コンピュータ制御部は、第1モードを介して、前記フェーズドアレイのそれぞれからの前記MWエネルギーのメインローブの方向を設定して、第2モードを介して、前記物品が前記浸漬液の中を搬送される方向に沿って、および/または前記搬送される方向を横断して、前記MWエネルギーの前記メインローブを掃引するように構成される、
請求項19記載の装置。
【請求項21】
包装食品の1つまたは複数の物品を滅菌または低温殺菌する方法であって、
2つ以上の半導体式(SS)マイクロ波(MW)発生装置からのMWエネルギーを用いて、前記物品の滅菌または低温殺菌を実現するために充分な温度まで1つまたは複数の前記物品を加熱する工程と、
1つまたは複数の前記物品の内部で所望の加熱均一性を実現するために、2つ以上の前記SS MW発生装置間で相対的振幅と、相対的周波数と、相対的位相と、のうちの1つまたは複数を変更する工程と、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項22】
前記変更する工程は、1つまたは複数の前記物品が加熱される間に1つまたは複数の前記物品における温度および/または加熱パターンを能動的に監視するように構成される1つまたは複数のセンサからのフィードバックに基づく、
請求項21記載の方法。
【請求項23】
2つ以上の前記SS MW発生装置は、
前記MWエネルギーを前記物品の反対側から加える、少なくとも1つの前記SS MW発生装置の対、
を含み、
前記変更する工程は、
少なくとも1つの前記SS MW発生装置の前記対から出力される前記MWエネルギーの前記相対的振幅と相対的位相シフトとのうちの1つまたは複数を変更することにより、前記SS MW発生装置の前記対の間でMWエネルギー強度が最大の面を設定する工程、
を含む、
請求項21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援研究に関する声明
本発明は、国立食品農業研究所(National Institute of Food and Agriculture)を通じて米国農務省により授与された認可番号2016-68003-24840の下で政府の支援を得てなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、連続フロー式包装食品加工に関して、具体的には半導体式(SS:solid-state)マイクロ波(MW:Microwave)発生装置(generator)を用いたMW支援加熱滅菌および低温殺菌に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロ波(MW)は、300MHzから300GHzの周波数の電磁波である。1900年代中頃に、MW加熱は、食品加工に導入された。工業規模のMW支援加熱滅菌・低温殺菌システムは、レトルト加工などの別の加熱方式に対して、短い処理時間に起因する改善された風味、食感、栄養を含む、いくつかの利益を提供する。複数の利点にも関わらず、不均一な加熱は、あらゆる大きさのMWシステムにおいて継続的な課題であり、加熱室内でMW干渉パターンに対して食品を移動させる、MW加熱を補充する、過熱されやすい端部を遮蔽する、導波管アセンブリ内にスプリッタを組み込んでエネルギーを多くの方向へ向ける、多数の発生装置とMWホーンとを用いて様々な側から食品を加熱する、を含む様々な方式を用いて対処されてきた。
【0004】
食品用途の産業用MW加熱システムは、充分なMW加熱エネルギーを発生させるためにこれまでマグネトロンに依存してきた。典型的なマグネトロンは、陰極と、陽極と、静磁場用の磁石と、出力アンテナと、から成る。マグネトロンは、経時的に性能が劣化する傾向のある、限られた寿命を有する消費可能な単一の周波数成分を生成する。マグネトロンにより生成されたMWの周波数(f)は、次の式で規定される:
【数1】
ここで、Lは陽極キャビティの等価インダクタンスであり、Cは陽極キャビティの等価静電容量である。LとCとは、キャビティの物理的寸法により求められる。そのため、MW周波数は、マグネトロン内の陽極キャビティの寸法により完全に求められる。寸法がより大きいほど、マグネトロンはより大きなLとCとを有して、より低い周波数のMWが取得され得る。したがって、915MHz用のマグネトロンは、2450MHz用のマグネトロンよりもはるかに大きい。915MHzで動作するマグネトロンは100kWまで利用可能であるが、2450MHzで動作するマグネトロンは典型的には約1kWで設計される。出力信号特性を調整する能力は限られており、MWエネルギーを多くの方向から加熱室へ加えるための設計は導波管の形状により決定される。固定導波管の設計は、マグネトロンの差異に対して校正して、MW干渉の節を最適化するように容易に微調整され得ない。可変形状の導波管、例えば、伸縮する「トロンボーン式」スライド機構を有する導波管は、望ましくない機械的複雑さをもたらす。
【0005】
半導体式(SS)MW発生装置は、より長寿命で、より容易に調整可能な出力波形を有する代替のMW源を提供する。マグネトロンは重く、振動の影響を受けやすくて、高電圧で動作するため、SS発生装置は小型システムまたは携帯式システムにおいて特に魅力的である。SS発生装置は、たいてい台所用レンジに匹敵する出力を提供するように、1kW以下のオーダに縮小されてきた。そのような発生装置は、通常、従来の半導体製造プロセスを用いて製造された低出力の送信要素のフェーズドアレイであり、台所用途を越えて拡大することは、既存の工具と電子部品の温度感度とにより、ある程度制限されてきた。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において、包装済み食品と水分を有する他の物品との工業的な低温殺菌または滅菌のためのSS MW発生装置が組み込まれた、誘電体と浸漬液内での表面加熱とを組み合わせた、低温殺菌または滅菌のための装置および方法が提示される。
【0007】
例示の実施形態において、搬送用キャリアは、加工プロセス全体にわたって多数の密封された食品パッケージを確実に保持して、MWの浸透に加えて、急激な浸水および排水を可能にするように構成される。搬送用キャリアは、予熱ゾーン内で還流される温度制御された水に搬送用キャリアを浸漬するトレイ供給アセンブリで始まる加工装置に投入されて搬送される。次いで、搬送用キャリアは、例えば、柔軟なフラップを用いてゾーン間での水の混合を制限する入口を通過して加熱ゾーンへ搬送される。
【0008】
搬送用キャリアは、加圧容器内で水の静水圧または超過圧力を受ける加熱ゾーンを引き続き通過して、所望の(例えば、所定の、特定の)加熱パターンおよび/または食品へのMW浸透の均一性を提供するために位相と、振幅と、周波数とが変調される、上部と底部との同期されたSS MWフェーズドアレイ発生装置から供電される多数の加熱キャビティを通過する。水は、結合されたMW加熱ゾーン・保持ゾーン内で還流されて温度制御される。このゾーンは、滅菌または低温殺菌の目的と、加工された製品およびその一部分の加熱特性と、に対して適切な時間にわたって温度を安定化および維持するように設計される。次いで、搬送用キャリアは、保持ゾーンと後続の冷却ゾーンとの間での液体の混合を抑制する第2入口を通過する。
【0009】
水は、食品が所望の後処理温度に達するような大きさおよび時間に設定された冷却ゾーン内で還流されて温度制御される。次いで、搬送用キャリアは冷却ゾーンを通って搬送されて、荷降アセンブリにより水の外へ引き上げられて、水は搬送用キャリアから自由に排水されて冷却ゾーンに戻る。
【0010】
一部の例示の実施形態において、SS MW発生装置は、コンピュータ制御されて、様々な食品に対する所望の処理を考慮するための2つの主要な機能を可能とする。先ず、組み合わせられた一対の上部および底部の発生装置が、均一加熱とMW干渉の節の最適化とが確実になされるように制御される。この機能は、対向するアレイ間での出力比および/または位相差を調整することにより実現される。この機能により、MW加熱強度が最大となる水平面が効果的にシフトされる。このシフトは、必要であれば動的に行われ得る。次いで、フェーズドアレイは、食品が搬送される経路に対して、経路を横方向に横断して、および経路に沿って、エネルギーの誘導および掃引を可能にする。これは、各アレイ内の個々の送信要素間の位相差を変更することにより実現されて、ビームの固定角への誘導、または動的な掃引のいずれかを可能にする。
【0011】
システム構成要素は様々な材料と構成とを含み得るが、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ホウ素(BN)などの広バンドギャップの半導体により、SS MW発生装置は標準的なシリコン素子よりも高電圧および高温で動作できる。前述の同期機能とビームフォーミング機能とに加えて、周波数シフトは、共振キャビティ内での不均一な加熱の一因となる建設的干渉パターンと相殺的干渉パターンとに対抗することを助ける。マグネトロンベースの設計は単一モードのキャビティ内の定在波の影響を受けるが、SS MW発生装置は、固定された中心周波数モードおよび帯域内での機敏な周波数シフトを可能とする。周波数シフトにより、定在波の持続性と影響との両方を低減する。
【0012】
本明細書で開示される例示の実施形態は、2016年2月4日に公開された、本発明者が以前手掛けた米国特許出願公開第2016/0029685(A1)号明細書に記載されたものを改良しており、同出願の内容のすべては参照により本明細書に援用される。
【0013】
半導体式(SS)MW源を本明細書の実施形態に組み込むことは、マグネトロンベースのシステムに対して、より長い寿命を伴うより高い信頼性と、より小さな大きさおよびより低い動作電圧と、故障の際のより容易な交換と、ピーク周波数のより高い安定性および正確性と、効果的な位相制御と、を含む多くの利益をもたらす。
【0014】
マグネトロンは、比較的短い寿命を有して、家庭用電子レンジでは平均で約500時間、商業用および産業用の連続運転での使用では1年である。マグネトロンの電力出力とピーク周波数とは、温度と使用年数とにより変化する。定期的な出力の校正とマグネトロンの交換とが必要であり、これは生産工程における休止時間につながる。その一方で、SS発生装置は、安定した性能で少なくとも15年間動作できる。SS発生装置の電力出力は、はるかに安定しており、定期的な校正とMW電源の交換との必要性を取り除く。
【0015】
マグネトロンの駆動電圧は、非常に高くなり得る(4kVから20kV)。より低い周波数(例えば、915MHz)のマグネトロンとマグネトロンベースの発生装置とは、場所を取る。対照的に、SS電力増幅器はより低い電圧(50V以下)で動作して、発生システムは、はるかに小さな大きさと重量とを有する。SS電力増幅器は、より静かな動作音であり、維持するための費用がより少ない。より小さな発生装置に対する必要な工場空間は、より小さい。
【0016】
多数のSS発生装置は、産業用システムにおいてMW出力を正確に供給するために使用され得る。動作中、各発生装置は独立して制御され得て、および/または多数の発生装置は共に同期され得る。また、高電力SS発生装置は、いくつかのより小さな電力モジュールを組み合わせて構築され得る。電源異常の場合に、モジュールまたはSS発生装置を保管されている予備の装置と交換することは、予備の装置がマグネトロンベースの高出力915MHzの発生装置と比べてはるかに安価で必要な保管空間も小さいため、数分を要するに過ぎない。この違いにより、設備維持費用が大幅に削減されて、食品工場の製造ラインの休止時間が短縮される。
【0017】
マグネトロンのピーク周波数は、マグネトロンの経年劣化および電力設定、出力インピーダンスおよび負荷に依存する電力反射、温度により誘発される形状の膨張などの多くの要因に影響される。SS電力増幅器は優秀なスペクトル安定性を有して、ピーク周波数は出力設定や経年劣化に影響されない。
【0018】
マグネトロンは、位相の制御や調整を行う機能を有さない無制御の発振器である。対照的に、複数のSS発生装置の位相は、同期され得て、独立して制御され得る。多数のSS MW電源が照射装置(applicator)のキャビティに供給される場合、異なる位相で制御されるマイクロ波が時間的、または空間的に変位され得て、これにより、電界の均一性が改善され得て、食品のより均一な加熱がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】例示のSS MW発生装置ユニットのブロック図を示す。
図1B】SS MW発生装置のNPN型増幅トランジスタを示す。
図1C】SS MW発生装置のNPN型増幅トランジスタ用の基本回路構成を示す。
図2A】食品製造ラインの一セクションの加熱室に結合された一対のSS MW発生装置を示して、SS MW発生装置は左から右へ搬送される食品パッケージの上部および下部へエネルギーを供給するように配置される。
図2B】製造ラインを環状に取り囲む4つの発生装置を示して、食品パッケージは図(紙面)の中へと搬送される。
図2C】湾曲アレイを有する6つの発生装置の環を示す。
図2D】4対のSS MW発生装置を有する食品製造ラインのセクションの例を示す。
図3A】食品パッケージを収容する例示の搬送用キャリアの側面図を示す。
図3B】搬送用キャリア上の天板および底板の上面図を示す。
図4】トレイ供給装置と、水槽予熱器と、MW加熱ゾーンと、保持ゾーンと、冷却ゾーンと、トレイ荷降スタックと、を備える加熱アセンブリの例を示す。
図5】SS MW発生装置のフェーズドアレイの構成の例を示す。
図6A】フェーズドアレイのビームフォーミングを示して、例示のアレイの側面図を示す。
図6B】固有焦点を有する湾曲したフェーズドアレイを示す。
図7A】加工ラインに沿ったビームフォーミングの最大容積を示す。
図7B】加工ライン中心線から横方向へのビームフォーミングを示す。
図7C】加工ライン中心線からオフセットされた単一のMWアレイの配置を示す。
図8A】加工ライン沿いおよび加工ラインを横断して掃引され得るMWアレイに接近する食品搬送用キャリアがある加工ラインの一セクションの上面図を示す。
図8B】順次走査(progressive scan)の例を示す。
図9A】不均一な加熱特性の層状の内容物を有する食品パッケージに対する優先的加熱および掃引の方式を示す。
図9B】横方向で別々のセクションに不均一な加熱特性の層状の内容物を有する食品パッケージに対する優先的加熱および掃引の方式を示す。
図10】MW出力校正/テストシステムを示す。
図11A図2Aに示されるMW加熱キャビティの深さに沿った方向の電界強度のシミュレーション結果である。異なるパターンの定在波が、上部ポートと底部ポートとから加熱キャビティに供給される、3つの位相差を有するMWにより形成される。キャビティの上部(右)と底部(左)とからのMWが供給された場合において、図11Aに赤で示される熱い層は、図11Bに図示される定在波のピークである。
図11B図11Aと同じ情報の異なる図であるが、読み取りを容易にするために、グラフは垂直方向から水平方向へと回転されている。
図12】加熱パターンの検出のための例示のコンピュータビジョン方式の主なステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「滅菌」は、概して、毒素を作り出し得る、および/または周囲温度で保管された場合に製品を腐敗させ得る、すべての種類の菌類、細菌、ウイルス、胞子体、または食品に存在する他の微生物を除去する、または取り除く工程を指す。概して、本開示の目的での「滅菌」は、米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)により規制される食用の食品の文脈で理解されるため、「商業的無菌状態」(Commercial sterility)を指す。「商業的無菌状態」は、FDAにより次のように規定される(21 CFR 113):熱処理された食品の「商業的無菌状態」とは、(i)(a)正常な非冷蔵状態で保管および配送される食品中の再生可能な微生物と、(b)公衆衛生上意義のある生存している微生物(胞子を含む)と、が食品に含まれない状態とする加熱により、または、(ii)正常な非冷蔵状態で保管および配送される食品中の再生可能な微生物が食品に含まれない状態とする水分活性の制御および加熱により、実現される状態を意味する。また、「商業的無菌状態」は、FDAにより次のように規定される(21 CFR 113):無菌処理および食品の包装で使用される設備および容器の「商業的無菌状態」とは、公衆衛生上意義のある生存している微生物と、正常な非冷蔵状態で保管および配送される食品中の健康上重要ではない再生可能な微生物と、が設備および容器に含まれない状態とする加熱、化学的滅菌剤、または他の適切な処置により実現される状態を意味する。本明細書で開示される例示の実施形態は、商業的滅菌が実現可能である、または実現されるように構成される。
【0021】
また、本明細書で使用される用語「低温殺菌」(pasteurization)は、概して、微生物が完全にではないが、部分的に除去される、または取り除かれる、部分的な滅菌工程を指す。用語「物品」(item)は、概して、滅菌または低温殺菌され得る、任意の適切な品物を指す。物品の例としては、これらに限定されないが、食品、医薬品、消費者製品、および/または他の適切な品物が挙げられる。また、食料品には、食べ物の異なる部分を保持可能な成形されたトレイなどの層状の異種食品を収容するパッケージ、または別々のキャビティ内の異種食品を収容するパッケージが含まれる。説明の都合上、「食品パッケージ」(food package)は、例示の実施形態を説明するために本明細書で頻繁に使用されるが、そのような記述は任意の物品に対して適用可能であると理解されたい。用語「食品」(food product)は、概して、人間または動物が消費するために適した任意の食料品を指す。食品の例としては、これらに限定されないが、包装食品と、缶詰食品と、乳製品と、ビールと、シロップと、水と、ワインと、ジュースとが挙げられる。
【0022】
食品を熱風や、温水、蒸気で加熱することで滅菌または低温殺菌することにより、味や食感、色、匂いを損なう、または他の悪影響がもたらされ得る。加熱工程中に、所望の内部温度を実現するために、食品の表面または外側の一部が過剰加熱され得る。そのような過剰加熱は、食品に前述の悪影響を引き起こし得る要因の一つである。開示される技術のいくつかの実施形態において、物品(例えば、食品)を滅菌する、または低温殺菌するために、浸漬液(例えば、テンパー水(tempered water))に浸漬された物品を加熱するためにMWが利用される。以下でより詳細に説明されるように、開示される技術のいくつかの実施形態は、従来技術よりも少ない処理時間を必要として、効率的で費用対効果の高い方法で滅菌または低温殺菌を実現するために、再現可能で概して均一な温度プロファイルを物品内に作り出し得る。
【0023】
電気通信業界に関与することを避けるため、限られた数の周波数帯が米国連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)により産業、科学、および医療(ISM:industrial, scientific, and medical)用途に割り当てられている。それらの周波数のうちの2つは、一般的には加熱用途に使用される。2450±50MHz(空気中の波長は、0.122m)は家庭用電子レンジや産業用システムで使用されて、915±13MHz(空気中の波長は、0.327m)は主に産業用加熱システムで使用される。食品加工に適切なMW周波数を選択する際に重要な検討事項の一つは、食品におけるMWエネルギーの浸透深さである。浸透深さ(dp、m)は、MW出力強度が初期強度の36.8%へ減衰する深さとして規定される。浸透深さは、加熱均一性に影響する、MW加熱で食品の厚さを選択する際の重要な要因である。浸透深さは、次の式で算出され得る。
【数2】
ここで、cは自由空間における光の速度(3×10m/s)であり、fはMWの周波数(Hz)であり、ε´およびε´´は食品材料の比誘電率および損失係数である。食品と水とにおけるMW出力の浸透深さは、表1に示されるように、低い周波数でより大きい。例えば、サケの切り身と調理済みのマカロニ麺とでの915MHzでの浸透深さは、2450MHzでの浸透深さの1.7倍から2.5倍であり、水道水と逆浸透(RO:reverse osmosis)水とでの915MHzでの浸透深さは、2450MHzでの浸透深さの、それぞれ2.3倍、4.8倍である。
表1 食品および水におけるMW出力の異なる周波数での浸透深さ(d、mm)
【表1】
【0024】
周波数の選択における別の重要な検討事項は、加熱パターン/コールドスポットの予測可能性である。加工食品の微生物に関する安全性を確保するために、コールドスポットが食品パッケージ内の予測可能な場所に留まるように、産業用のMW滅菌または低温殺菌システムが食品パッケージを安定した加熱パターンで加熱することが重要である。概して、単一モードの加熱キャビティのみがこの要件を満たし得る。単一モードのキャビティの大きさは、MWの波長に比例する。具体的には、915MHzのMW用の単一モードのキャビティは、2450MHzのMW用のキャビティの大きさの約3倍である。2450MHzの単一モードのキャビティが一回の食事用の大きさのパッケージを収容する食品を加熱するには小さすぎるため、2450MHzのすべての家庭用レンジと産業用加熱装置とは、仕様によりマルチモードのキャビティである。915MHzの単一モードのキャビティは、MW滅菌または低温殺菌用の食品パッケージを収容するために充分な大きさである。
【0025】
SS MW発生装置
図1Aは例示のSS MW電力発生装置100を示して、このSS MW発生装置は、小信号発生部101と、AC/DC変換部102と、高電力増幅部103と、ヒートシンク104と、交流電源105と、を備える。発生装置100内に含まれる、あるいは動作状態で発生装置100に取り付けられるものは、システム制御部106である。例示の制御部106は、アナログでもデジタルでもよい。例示の制御部106は、1つもしくは複数のプロセッサ、1つもしくは複数のマイクロプロセッサ、および/または1つもしくは複数のコンピュータでもよい。高電力増幅部103は、MW小信号発生部101からの小さなMW信号を高出力のMWエネルギーへと変換して、マグネトロンの必要性を排除する。食品パッケージが所望の温度に達する総加熱時間は、SS MW加熱システムでは改善された加熱均一性のため、マグネトロンベースのMWシステムと比べて30%超削減される。削減された加熱時間は、より良い製品品質につながる。
【0026】
図1Bは例示の高電力増幅部103を示して、図1Cは基本回路構成の同じ高電力増幅部103を示す。この例において、高電力増幅部103は、2つの接合部で接合された3つの半導体構成要素から成る。3つの半導体構成要素は、n型半導体層131と別のn型半導体層133との間に挟まれているp型半導体層132である。n型半導体層131とp型半導体層132とは、第1接合部を形成する。p型半導体層132とn型半導体層133とは、第2接合部を形成する。n型半導体層131と、p型半導体層132と、n型半導体層133とは、一体となってNPN型トランジスタを形成する。小さなMW入力がベースBへ加えられている間に、小さな電圧とベースを流れる小さな電流とが増幅されて大きなMW出力が生成される。SS発生装置は、効率的にMWを発生するために、(例えば、10kWまでの)様々な出力レベルに到達するように複数の増幅トランジスタから生成される多数の基本電力モジュール(例えば、それぞれが200Wから500W)を組み合わせ得る。
【0027】
増幅トランジスタの容量と信頼性とは、その構築に用いられる半導体材料により決定される。トランジスタに用いられる半導体材料は、シリコン(Si)と、炭化ケイ素(SiC)と、シリコンゲルマニウム(SiGe)と、横方向拡散金属酸化膜半導体(LDMOS:laterally diffused metal-oxide-semiconductor)と、ガリウムヒ素(GaAs)と、のうちの1つまたは複数を含み得る。一部の実施形態において、好ましい材料は、窒化ガリウム(GaN)である。概して、GaNベースのトランジスタは、GaAsベースのトランジスタまたはSiベースのトランジスタの出力の何倍も高い出力を提供できる。概して、GaNベースのトランジスタは、Siベースのトランジスタと比べて、より高い熱伝導率と、より高いスイッチング速度(100V/nsに達する)と、より高い電力変換効率と、を有する。また、GaNトランジスタは、より高い温度においてより高い電流密度で動作できる。
【0028】
一部のGaNトランジスタは、商業的に供給され得て、例示の実施形態での使用のために適合され得る。RFHIC社は、2450MHz用で最大20kW、および915MHzで最大30kWの通信用途のGaNベースの発生装置を開発して、製造している。また、Crescend Technologies社(イリノイ州シャンバーグ)、Wattsine Electronic Technology社(中国成都市)、およびMKS Instruments社(アメリカ合衆国マサチューセッツ州アンドーバー)も同様の製品を販売している。しかしながら、これらの市販されているGaNトランジスタのいずれも、食品加工用途で直接使用するように特別に設計されていない。また、それらの製品では、さらに照射装置用キャビティが追加で必要となる。その結果、本明細書の例示の実施形態を実現するために、さらなる変更および構成が必要となる。
【0029】
対のSS MW発生装置およびMWキャビティ
SS MW発生装置のアレイは、食品加工ラインに沿った様々な場所に個別に配置され得るが、均一で急速な加熱を実現することを助ける一つの方法は、食品パッケージを上部と底部とから同時に加熱することである。一部の例示の実施形態において、少なくとも一対の対向するSS MW発生装置が基本加熱ユニットを表す。これにより、同じ長さの加工ライン内での単一の発生装置のMWエネルギーが効果的に倍増されて、総加熱時間が少なくなる。また、対での配置は、MW源に面する側でより大きなエネルギーが吸収される効果を平衡させる。対での配置に対する代替策としては、対になっていない発生装置の両方、および3つ以上の発生装置のセットを製造ラインの軸線から放射状に配置して、環状の発生装置を形成することが挙げられる。また、非対称な加熱を必要とする用途などでは、複数の単一の発生装置は、加工ライン沿いで加工ラインの真上、または真下を中心とした位置からオフセットされた様々な角度に配置され得る。例えば、一部の包装された食べ物は、パッケージの2つ以上の区画において組み合わされた異なる加熱特性の食品を含む。
【0030】
図2Aは、食品を反対側から加熱するように配置された、MW発生装置の対の例を(側部断面で)示す。上部のSS MW発生装置201は、MWエネルギーを下方へ、液体が充填された加工ライン207の一セクション上にあるキャビティ202へと伝送する。底部のSS MW発生装置203は、MWエネルギーを上方へ、同じセクション下にあるキャビティ204へと伝送する。食品パッケージ205は、搬送用キャリア206に収容されて、このMW加熱ゾーンを通過して加工ライン沿いに搬送される。図2Bは、4つのSS MW発生装置208と、結合されたMWキャビティ209と、の(搬送方向沿いの断面視)環状配置の例を示す。図2Cは、湾曲したMWキャビティ211を備える湾曲アレイ発生装置210を有する環の例を示す。
【0031】
図2Aにおいて、所望の性能に応じて、キャビティ202とキャビティ204とは、特定のピーク周波数用の単一モードのキャビティとして構成可能である。加熱キャビティ内のMWエネルギーは、より低いエネルギーの「コールドスポット」を引き起こす節では相殺的干渉であり、より高いエネルギーの「ホットスポット」を引き起こす腹では建設的干渉である干渉パターンの影響を受ける。干渉パターンを移動させてその悪影響を最小化するために、SS MW発生装置は、経時的に干渉パターンを最適化する、または変化させるようにコンピュータ制御の対象となる。あるいは、加熱室の共振は周波数シフトおよび/またはビームフォーミングが好ましい用途ではそれほど重要ではなく、循環水の中の搬送用キャリアは低い反射率を有して、食品と浸漬液とによるエネルギー吸収により反射したエネルギーは迅速に減衰すると予想される。
【0032】
効率と作業者の安全性とのために、MWキャビティを形成する材料は、物品が浸漬されて搬送される水路へMWエネルギーが伝達される場合を除いて、効果的なファラデー箱および/またはファラデーケージとして機能するように選択される。主要な構造物は耐久性のために金属板でもよいが、同じ目的を果たすために多くの別の材料に金網または金属箔が含まれてもよい。同様に、外部に取り付けられた赤外線撮像装置により目視検査および/または監視を可能にするために金網を有する透過性の窓が配置されてもよい。また、透過性の窓は、滅菌または低温殺菌するために、浸漬液と物品とを含有する筐体にキャビティが接合する場所に取り付けられる。
【0033】
図2Dは食品製造ライン251のセクションの例を示して、4対のMW発生装置252(対252のそれぞれは、図2Aに図示される基本の対201/203に相当する)は、食品パッケージが搬送される延伸されたMW加熱ゾーンを提供する。MW発生装置の部分アセンブリの個数は、特定の用途で必要とされる累積加熱エネルギーと、入手可能な発生装置アレイの大きさと、所望の処理時間と、製造ラインのスループットと、に部分的に基づいて決定され得る。
【0034】
本明細書のいくつかの図は、食品加工業界と電子エレクトロニクス産業とにおいて既知であり理解されるであろうSS MW発生装置用のコネクタやコンピュータ制御部などの補助部品、搬送用キャリアの搬送モード、浸漬液の循環システムを示していない。食品加工ラインの水平部分には、パドルベルトおよび/またはジェット水流などのいくつかの種類の搬送が使用され得る。
【0035】
搬送用キャリア
図3Aは、食品パッケージ205を収容する例示の搬送用キャリア206の側部断面を提供する。搬送用キャリアは、天板301と底板302とを備える細長い箱である。図3Bは、MWエネルギーを減衰して食品パッケージの端部を遮蔽しながら食品をMWエネルギーに曝露するように設計される格子を有する天板301と底板302との例の上面図を示す。
【0036】
搬送用キャリアは、要求に基づく大きさを有し得て、また要求に基づく様々な材料で構築され得る。一部の用途では、金属フレームは、耐用年数の観点で耐久性と入手しやすさとを提供して、そうでなければ過熱しやすい部分(例えば、パッケージの端部)の遮蔽を提供する。あるいは、より多くのMWエネルギーが搬送用キャリアを通って伝達されて食品パッケージと浸漬液とに吸収されるように、硬いプラスチックや繊維複合材料が選択されてもよい。遮蔽材料が選択される場合、天板と底板との格子パターンは、キャリアの内容物の部分がMWエネルギーに曝露されるように選択される。
【0037】
搬送用キャリアは、折り畳み式の箱として、または固定された(例えば、溶接された)側部と底部とを有する箱として構成されてもよい。搬送用キャリアは、加工設備を通って搬送される間に食品パッケージを所定の位置に保持するための部分的な仕切り板を含んでもよい。天板は、食品パッケージを投入および荷降できるように、完全に取り外し可能(例えば、スライド機構)、係止可能(例えば、トグルラッチ)、および/または(例えば、ヒンジを用いて)開放可能でもよい。
【0038】
多数の温度制御ゾーンを有する連続フロー式システム
図4は、食品パッケージ(または他の物品)を収容する搬送用キャリアが左から右へ搬送される、例示の加熱アセンブリの側面図を示す。先ず、トレイ供給装置401は、搬送用キャリアを下げて、搬送用キャリアを温度制御された循環液の中へ浸漬させる。次いで、搬送用キャリアは、複数の温度ゾーン間での混合を抑制する第1入口403を横切る前に予熱ゾーン402の中を進む。MW加熱ゾーン404(図2Dに図示されるセクションに相当する)は、保持ゾーン405に接続する。第2入口406は、冷却ゾーン407と荷降スタック408とに通じる。この構成は、食品が一つの扉を用いて投入されて取り除かれる台所様式の電子レンジと比べて、産業用の文脈で効率をもたらす。
【0039】
赤外線、無線周波数(RF:radio frequency)、または他のセンサ409を用いたフィードバック制御は、連続フロー式システムを用いて物品が能動的に移動される場合であっても、実際のMW出力を所望の結果に向かわせるために、含まれてもよい。例示の目的のため、2つのセンサ409は図4で加熱ゾーン404内に示されるが、センサ409は様々な実施形態においてより少ない個数またはより多い個数で、そしてシステムの複数のゾーンのうちのいずれにも配置されてもよい。センサ409は、例えば、物品の中の温度や加熱パターンを監視して、制御部(例えば、図1Aの制御部106)にフィードバックを提供してもよい。次いで、制御部は、特定のSS MW発生装置のモードまたはモードの設定を調整して、温度および/または加熱パターンを変化させる。
【0040】
繰り返しとなるが、一部の図は、食品加工業界で既知であり理解される補助部品や設計上の代替案を示していない。屈曲させることで製造現場の設計上の大きさの制約に対応できて、ローラや、回転式コンベヤ、湾曲したコンベヤが使用され得る。他のゾーンにおける浸漬液の水位に対して加熱ゾーンを下げることにより、より大きな静水圧を実現するために傾斜が加えられ得て、搬送用キャリアはパドルベルトやチェーンコンベヤにより傾斜を上下に搬送できる。同様に、傾斜は、投入スタックおよび荷降スタック内のトレイ供給アセンブリを置き換え得る。投入および荷降は、手作業でもよく、または大きな工場の中で統合されてもよい。例えば、別々の機械が食品を調理および包装して、搬送用キャリアを直接トレイ供給装置401に供給するために使用されてもよい。同様に、荷降スタック408は、自動箱詰用設備と倉庫保管用設備とに通じてもよい。
【0041】
システム全体は連続フローであり、パッケージは加工ラインの最初で差し込まれて加工後に取り出されるが、搬送用構成要素は、搬送用キャリアが工程を通して一時的な期間にわたって定置することを可能にするように構成可能である。例えば、使用者は、特定のゾーンの大きさを縮小しながらもそのゾーン内での浸漬液への曝露時間を延長してもよい。同様に、パッケージに多数のSS MW発生装置の対の間を通過させて総加熱エネルギーを向上させるのではなく、搬送用キャリアは、一つの対での曝露中に移動を一時停止する、またはSS MW発生装置の同じ対または複数の対に対して前後(または左右)に何度も移動されてもよい。結果として得られる延長された曝露と、以下でさらに論じられる誘導モードおよび掃引モードを組み合わせることにより、総エネルギーが向上されるとともに、パッケージが確実により均一に加熱(または、所望の場合は優先的加熱)される。
【0042】
蒸気や電気抵抗コイルなどの様々な循環と、制御と、加熱と、熱交換との方法は、浸漬液に対して使用可能である。MW加熱ゾーン404内では、MW発生装置は、食品とともに浸漬液(しばしば、逆浸透装置により生成された低イオン伝導率の水)を部分的に加熱し得る。また、搬送用キャリアが差し込まれて保持ゾーン405内に入る前に、SS MW発生装置または他の種類の加熱要素は、浸漬液を予熱する、または予熱を助けるために使用されてもよい。前述のとおり、入口403と入口406とは、複数のゾーン間での混合を抑制するように選択されて、構成される。入口403と入口406とは、ゴムフラップ、扉、または他のバッフル機構を含んでもよく、または、搬送用キャリアを(例えば、傾斜により)上下させて、まったく別の浸漬液の容器に出し入れすることにより置き換えられてもよい。
【0043】
浸漬液は、MWエネルギーが加えられている間に、物品の水分が物品を破裂させるのを制限する、または防ぐ静水圧を与える。水は多くの用途で選択される浸漬液であり、パッケージは加工後に簡易な送風機を用いて乾燥される。
【0044】
動作モード
固定された周波数と固定された位相角とで使用される場合でも、SS MW発生装置は、マグネトロンと比較して、より低い動作電圧でのより長い負荷期間にわたる、より安定した出力に関して利益を提供する。固定された出力モードに加えて、プログラム可能なコンピュータ制御部は、各SS MW発生装置の周波数と、位相と、振幅と、を監視して選択するように構成可能であり、各キャビティ内のMWエネルギーと、一部のMWエネルギーが浸漬液および食料品を通って進むと予想され得る対向するキャビティ間のMWエネルギーと、を調整することを可能にする。この調整には、発生装置の対または環状の発生装置のアレイを同期させるための相対的位相および相対的振幅を調整することと、単一アレイ内の複数の送信要素間の位相差を調整することとが含まれる。異なる動作モードは、同じ加工ラインを流れる食品間の差異を考慮することを助け、様々な製品に対処するさらなる柔軟性をシステムに与える。また、例示の制御部により実行されるソフトウェアは、すでに前述のとおり実際のMW出力を所望の結果へ向かわせるために、赤外線、RF、または他のセンサを用いたフィードバック制御を組み込んでもよい。
【0045】
例えば、図2AのようにMW加熱ゾーンの上下に対向するSS MW発生装置の対を組み込んだ実施形態において、加熱強度が最大となる水平面は、発生装置の対の相対的位相および/または相対的振幅(出力比)を変更することにより、垂直方向で上下に設定可能であり、調整可能である。SS MW発生装置の対の間の相対的位相差について論じる目的で、SS MW発生装置のアレイ内のすべての要素は、以下でさらに説明されるように、送信機アレイに対して垂直な予想されるローブ以外にビームフォーミングと集束効果とがないように、互いに同相でもよい。
【0046】
同相(0°の位相差)で送信する発生装置の対は、上部と底部との発生装置の中間の中心面に腹(建設的干渉パターンの最大強度)を作り出す。腹は、位相差が加えられるにつれて中心面から離れる。180°の位相差では、中心面に節(相殺的干渉パターンの最大値)が形成される。したがって、食品パッケージの厚さ全体での加熱均一性は、発生装置の対の間で-180°から+180°の位相制御を用いて調整され得る。位相差を動的に調整して食品パッケージの深さにわたって掃引を行うことは、同種の食品においてより良い加熱均一性を実現することを助け得る。
【0047】
同じキャリアまたは同じ浸漬液の水路内の異なる厚さの食品パッケージは、中心面に対して異なる垂直方向のオフセットを有し得る。発生装置の対の間の相対的位相差および/または出力比を調整して、「熱いゾーン」を加熱キャビティの中心面の方向へ、または加熱キャビティの中心面から離れるように移動させることにより、同じ加熱システムを用いた異なる製造工程に対する柔軟性が提供される。この能力、または設備への寸法的な変更なしでは、浸漬液の水路内のより薄いパッケージは、干渉パターンによっては上部または下部で過熱されて、一方で反対側では不十分に加工されたままとなりやすい。
【0048】
MWパターンを誘導する、または動的にシフトさせることは、加熱均一性を改善するために、また、食品パッケージ内の複数の層またはセクションにある(異なる誘電特性の)様々な食品成分を有する食品パッケージの中で優先的加熱を提供するために使用可能な手法である。異なる誘電特性(主に塩分に関連する)の食品は、MWエネルギーを吸収する異なる能力を有する。食品内の加熱速度は、その比熱容量に逆比例して、その誘電損率に比例する。また、エネルギーの吸収は、浸透深さにも関連して、浸漬液を通って食品パッケージ内への伝達に関する検討事項である。表2は、異なる温度での異なるMW周波数に対する水道水と脱イオン水との誘電特性を比較しており、脱イオン水では吸収がより少なく、より伝達されることを示す。表に示される特性には、比誘電率ε´、損失係数ε´´、および浸透深さdが含まれる。
表2 異なる温度での水道水と脱イオン水とのMWエネルギーの誘電特性および浸透深さの比較
【表2】
【0049】
サケの切り身や調理済みのパスタなどの例示の食品は、より低いdを有して、水よりもはるかに多くのエネルギーを吸収する。より高い塩分を含む食べ物の構成要素は、より高い損失係数を有するため、より低い塩分を含む部分により多くのエネルギーを誘導することがしばしば好ましい。異なる誘電特性を有する2層(例えば、低塩分のサケの切り身の上に塩気の強いソース、または米の上にソース)の食品を収容する食品パッケージが加熱キャビティ内で加熱キャビティの上部ポートと底部ポートとの両方から供給される(位相差がない)同じMWエネルギーで加熱される場合、食品の上層と底層との温度は、同じMW電界強度に曝露された際には異なる上昇のしかたをする。食品パッケージ内での均一加熱、またはより大きな加熱を必要とする上層または底層で優先的加熱を実現するために、2つの発生装置間の位相差と出力比とは、「マイクロ波高電界強度ゾーン」をシフトさせて、食品パッケージ内でよりゆっくり加熱する層、またはより大きな加熱を必要とする層により合うように調整可能である。物品のどの層がより大きな加熱を必要とするかの判断は、問題の物品の分析に基づいた加熱工程より前に、および/または物品内部の加熱パターンのフィードバックを提供するセンサを用いた加熱工程の間に行われ得る。
【0050】
「マイクロ波高電界強度ゾーン」のシフトは、発生装置の対からの出力間の出力比と位相差との調整により実現可能である。この出力比ストラテジは、上層と底層とに異なる誘電特性と比熱容量とを有する様々な食品成分を収容する食品パッケージの内部での均一加熱を改善するため、または、食品パッケージ内の上層または底層への優先的加熱のために特に有益であり得る。
【0051】
発生装置の対の間の差動出力と位相シフトとに関連するモードを越えると、SS MW発生装置は、一部の実施形態において、送信要素のフェーズドアレイから形成される。これらのフェーズドアレイは、エネルギーローブの誘導および集束が可能である。図2Aの対の構成では、フェーズドアレイが上部SS MW発生装置201と底部SS MW発生装置203との両方において好ましく、各アレイは加工ライン沿いに、および加工ラインを横方向に横断してエネルギーを独立して誘導できる。
【0052】
図5は、表面に対して垂直な主要な伝達経路を有する2つの別のSS MWフェーズドアレイと、送信要素511の直交配列501と、送信要素522の六角形のパターン502と、を示す。アレイ形状に関わらず、個々の要素は、直交する成分ベクトルで記述可能であり、誘導効果を制御可能である。
【0053】
図6Aは、例示のアレイ601の側面図を用いてビームフォーミングを示して、個々の送信要素611から発せられるMW波のピークを弧602により示す。アレイの複数の送信要素間で位相シフトが加えられない場合、メインのエネルギーローブは、アレイ表面に対して垂直に放射される。アレイの連続する送信要素間での線形の位相シフトは、ビームまたはローブの角度604だけ垂直方向からオフセットされた波方向603を効果的に形成する。デジタル制御部(例えば、図1Aの制御部106)は、不変のビーム角を維持する、またはビームを掃引するために位相シフトを動的に変更することに使用可能である。非線形の位相シフトは、ビームではなく焦点を生成することに使用可能である。
【0054】
図6Bは、単一の焦点が望ましい場合のより簡易な解決策、すなわち固有焦点606を有する送信要素615の湾曲アレイ605を示す。湾曲アレイ内の位相シフト要素は、焦点をアレイ表面に向けて、またはアレイ表面から離れるように押し得る。湾曲面フェーズドアレイは様々な用途で使用可能であり、焦点が明確な場合、例えば、食品が加熱部の中をパイプを通して送られる場合、または各辺の長さがほぼ等しい断面を有する搬送用キャリアで搬送される場合によく適している。これは、円筒形容器に食品を梱包することが望ましい用途に適している。
【0055】
図7Aは、食品加工ラインの一セクションの上部上の単一のMWアレイ700とキャビティ710との側面図を示して、食品パッケージ205は左から右へ搬送される。MWエネルギー701は、ビーム角702に方向付けられて、または加工ラインに沿ってある角度範囲703で掃引される。図7Aは、エネルギー変位のx成分を示すとみなされ得る。
【0056】
図7Bは加工ラインの断面を提供して、食品パッケージ105は表面に対して垂直な方向(紙面へ入る方向)へ進む。MWエネルギー704はビーム角705に方向付けられて、または加工ラインを横断して横方向にある角度範囲706で掃引される。図7Bは、エネルギー変位のy成分を示すとみなされ得る。
【0057】
図7Cは、加工ラインの中心線からオフセット角708を有する単一のMWアレイ707の配置を示す。オフセットは、配線や目視検査などの他の検討事項が最重要である場合の設計の柔軟性を提供して、2つ以上のMW発生装置の対が存在する用途で使用されてもよい。加熱均一性は、通常、食品加工システムにおいて主要な目標であるが、一部の食品は(例えば、米とソースとに別々の区画がある)、非対称加熱エネルギーが必要となるように包装され得る。SS MWフェーズドアレイは、MWエネルギーを誘導および掃引することにより、操作者が一つの製造工程では均一性を、次の製造工程では対称性を選択することを可能にするが、発生装置を図7Cのようにオフセットさせることは、非対称加熱エネルギーを実現する簡易な方法を提供する。この優先的加熱は、構成要素が単一の包装区画の中で、または包装された食べ物の別々の区画の中で横方向に分離されることを除いて、層状の食品に対して前述のものと同等である。
【0058】
図8Aは加工ラインの一セクションの上面図を示して、食品搬送用キャリア206が左から右に搬送されて、MWアレイアセンブリ801に接近して、MWアレイアセンブリ801の下を通過し始めている。送信要素は食品パッケージの進行方向に沿って、および進行方向を横断するように配列されるため、例示の円形掃引パターン802は、加工ラインに沿った向きのx成分と、加工ラインを横断するy成分と、の両方を組み合わせている。
【0059】
図8Bは、簡易な順次走査パターンを示す。掃引パターンは、掃引速度に対して制御可能であり、搬送用キャリアの動きと位置とに合わせられ得る。同様に、搬送速度は、搬送用キャリアのMWエネルギーへの曝露と、各温度制御ゾーン内での浸漬液の伝導的な加熱・冷却と、を増加または減少させるように変更可能である。また、前述のとおり、様々な持続時間に設定可能な延長された時間にわたってエネルギーをパッケージ全体へ集中させる、または掃引できるように、搬送用キャリアは、搬送方式全体において一時停止する、または一時的に逆進され得る。
【0060】
図9A図9Bとは、2つの食品パッケージを側面図で示して、例示の加熱オプションと加熱モードとを示す。図9Aは層状の食品を示して、塩気の強い製品901が塩気のより低い製品902の上に重ねられている。すなわち、層901の塩気は、層902の塩気よりも強い。上部SS MW発生装置と底部SS MW発生装置との対の間の中心面が線903で図示されて、「熱いゾーン」である加熱面904は、異なる中心面を有する食品パッケージを考慮するとともに、より時間のかかる加熱特性を有する製品により多くのエネルギーを供給するために、この中心面からオフセットされる。発生装置アレイの対の間の位相差および/または出力比を維持している間、エネルギーローブ905は、パッケージの横方向に横断して掃引され得る。あるいは、水平加熱面は、累積エネルギーがバイアスまたはオフセットされた面に集中されている限り、上下に掃引され得る。
【0061】
図9Bは、別々の包装区画に入れられ得る、横方向に異種である製品に対する優先的加熱を示す。図9Aと同様に、製品902の塩気は、製品901の塩気よりも低い。この場合、フェーズドアレイがエネルギーローブ907をより時間のかかる誘電加熱特性を有する製品に向けて誘導する間に、加熱面906は上下に掃引され得る。また、アレイのローブは、オフセット角の周りで動的に掃引され得る。
【0062】
台所用の電子レンジは、典型的には2GHzから3GHzの帯域のMWを使用するが、産業用食品加工用途で使用される一部の例示の実施形態において、より長い波長のエネルギーにより、食品および浸漬液の水路の中へ熱が深く浸透するため、915MHzが好ましい。より長い波長は、操作者がより低い容量の浸漬液の水路内のより薄く包装された部分を処理したいと望む用途、または優先的表面加熱が望ましい用途などでは、必ずしも最適ではない。それらの場合では、より高い周波数のMW発生装置がエネルギー吸収を確実にする上でより効果的であり得る。柔軟性を提供するために、一部の産業用システムは、低い周波数帯に設定可能ないくつかのSS MW発生装置と、高い周波数帯の他の発生装置と、を用いて構築されてもよい。本明細書の実施形態は、一般的な中心周波数の単一のSS MW発生装置および多数のSS MW発生装置と、加工ラインに沿って異なる場所で様々な周波数帯を利用するように構成される多数の発生装置と、を含む。
【0063】
既知の加熱プロファイル(例えば、特定の調製ゼラチン)を有する校正用パッケージは、組み込まれた計器、リアルタイムの表面撮像(例えば、赤外線)、または後処理測定(例えば、プローブ、赤外線)を用いて、校正目的で加工されてもよい。
【0064】
本明細書の記述は、多くの詳細を含むが、それらが本開示の範囲を制限すると解釈されるべきではなく、一部の例示の実施形態の実例を提供しているに過ぎないと解釈されるべきである。そのため、本開示の範囲は、当業者には明らかであり得る他の実施形態も網羅する。
【0065】
本開示にかかるSS MW発生装置と制御システムとは、商業的滅菌や低温殺菌以外の用途でも使用され得る。例えば、例示の実施形態は、解凍、焼き戻し、乾燥、焼き上げなどの他の産業用のMW加熱の目的、ならびにアメリカ合衆国および世界中の外食産業や家庭用MW加熱/調理目的のために構成されるSS MW発生装置を含み得る。
【0066】
以下の請求の範囲において、単数形の要素への言及は、明示的に記載されない限りは「1つであり、ただ1つ」を意味することを意図しておらず、むしろ「1つまたは複数」を意味することを意図するものである。開示される実施形態の、当業者には既知である要素のすべての構造的、化学的、および機能的な均等物は、明示的に参照により本願に援用されて、本願の請求の範囲により網羅されることを意図するものである。さらに、本開示の要素と、構成要素と、方法工程とは、請求の範囲に明示的に記載されているかどうかに関わらず、いずれも一般大衆へ捧げることを意図するものではない。請求項の構成要素は、その要素が「~のための手段」(means for ...)という語句を用いて明示的に記載されていない限りは、「ミーンズプラスファンクション」要素として解釈されるべきではない。請求項の構成要素は、その要素が「~のためのステップ」(step for ...)という語句を用いて明示的に記載されていない限りは、「ステッププラスファンクション」要素として解釈されるべきではない。
【0067】
本明細書の記述において、暗黙的または明示的に理解される、またはそうではないと記載されている場合を除いて、単数形で現れる単語はその複数形のものを網羅して、複数形で現れる単語はその単数形のものを網羅する。さらに、所与の構成要素または実施形態に対して、その構成要素に対して列挙された取り得る候補または代替手段は、暗黙的または明示的に理解される、またはそうではないと記載されている場合を除いて、概して単独で、または互いに組み合わせて用いられ得る。また、図は必ずしも縮尺どおりに描かれておらず、一部の要素は単に明確化のために描かれ得る。また、参照番号は、様々な図において対応する、または類似する要素を示すために繰り返し使われ得る。さらに、そのような候補または代替手段の一覧は、単に例示に過ぎず、暗黙的または明示的に理解される、またはそうではないと記載されている場合を除いて、制限するものではない。さらに、そうではないと示されていない限り、本明細書と請求の範囲とで使用される、原料、構成物質、反応条件などの量を表現する数は、用語「およそ」により修飾されるものと理解されるべきである。
【0068】
したがって、そうではないと示されていない限り、本明細書と添付の請求の範囲とに記載される数値パラメータは、本明細書で提示される主題により達成しようとしている所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低でも、各数値パラメータは、請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、少なくとも報告された有効数字の桁を考慮して、通常の丸め手法(rounding techniques)を適用して解釈されるべきである。本明細書で提示される主題の広範な範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるが、具体的な例で記載されている数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、任意の数値は、本質的に、それぞれのテストの測定値に見られる標準偏差に起因するある程度の誤差を必然的に含む。
【0069】
滅菌または低温殺菌用の加工システムと、構成要素と、構成の様々な実施形態と、関連する操作方法とが本明細書に記載されている。上記の説明には、システムと、構成要素と、操作とのある程度の詳細が、開示される技術の特定の実施形態の完全な理解を提供するために含まれる。当業者は、本技術がさらなる実施形態を有し得ることも理解するであろう。本技術は、本明細書に記載される実施形態の詳細のいくつかを用いなくとも実践可能である。
【実施例
【0070】
実施例1
この例は、915MHzのSS MW発生装置の校正と、エネルギー効率と、出力と、周波数および位相制御の安定性と、を含む性能を分析する方法を示す。
【0071】
915MHzの単一モードのMW加熱キャビティに供給される3kWから6kWの総出力は、高出力よりも比較的均一な加熱に適していることが経験により示されている。少ない電力増幅部/モジュールを有する低出力のSS発生装置は、高出力の発生装置よりも高い効率を有して、より小さい大きさを有する。そのため、6kWのSS発生システムがこの例では選択される。SS発生装置の供給業者であるRFHIC社は、SS915MHz発生システムの適切な供給元である。RFHIC社から入手された6kWのSS915MHz発生システム(2つの3kW発生装置ヘッドと制御ボックスとから成る)は、出力校正と、エネルギー効率の測定と、出力安定性と、出力比制御性と、周波数および位相制御の安定性と、の調査のために図10のMW出力校正装置を用いてテストされた。MW出力校正/テスト装置1000は、水負荷1005(ニューハンプシャー州ナシュア Ferrite MW Technologies)と、貯水槽1001と、水負荷1005内を通水させるプログレッシブキャビティポンプ1002と、水負荷の注入口と排出口との近くで水温を測定するための2つのRTD温度センサと、を備える。図10は、水注入口1003と、水排出口1004と、反射されたMW出力のセンサ1006と、順方向MW出力センサ1007と、を示す。また、図10は、方向性結合器1008と、導波管1009と、MW発生装置ヘッド1010と、を含む。2つの発生装置ヘッドは、同時に2つのMW出力校正/テスト装置を用いてテストされる。校正において、水負荷は、2つの発生装置ヘッドの出力(kWでP)が水負荷の排出口と注入口とで測定された水温(ToutとTin)の差分と、水負荷を通過する水の流量(kg/sでQ)と、に基づいて、次の式を用いて熱量測定法で求められるように、2つのMW発生装置ヘッドのそれぞれからのMWエネルギーの99%超を熱エネルギーに変換する。
P=CpQ(Tout-Tin
ここで、Cpは、水の比熱(例えば、4.18kJ/(kg・K))である。出力容量の全域(例えば、0kWから3kW)にわたる異なる設定レベルに対応する測定された出力は、MW発生装置ヘッドと、発生装置ヘッドと水負荷との間の導波管に設置された方向性結合器(MW出力測定装置)と、を校正するために使用される。ピークMW周波数は、TM-2650スペクトル分析器とAN-301アンテナ(カリフォルニア州ヨーバリンダ B&K Precision)とを用いて測定される。2つのMW出力ヘッドの位相は、RFケーブルを介して方向性結合器に接続されるMSO-X4154Aオシロスコープ(カリフォルニア州サンタローザ キーサイト・テクノロジー)を用いて求められる。
【0072】
発生システムに供給される電力は、Fluke 1735 三相電力ロガー(アメリカ合衆国ワシントン州エベレット フルーク)により測定される。発生システムの効率は、Fluke出力ロガーにより測定される入力商用電力と、水負荷により測定される2つの発生装置ヘッドのMW出力電力と、に基づいて、次の式を用いて求められる。
発生システム効率=(MW出力電力/入力商用電力)×100%
【0073】
発生システムに供給される商用電力、ならびに、2つのSS発生装置ヘッドの選択された条件(例えば、出力設定は1kW、2kW、および3kW、周波数設定は902MHz、915MHz、および928MHz、位相差設定は0°、90°、および180°)のそれぞれでのMW出力と、ピーク周波数と、位相差とは、SS発生システムのMW出力電力と、ピーク周波数と、位相制御と、総エネルギー効率と、の安定性を求めるために、5カ月間1カ月に2回、4時間超にわたって継続的に測定される。さらに、2つの発生装置ヘッドの出力電力は、出力比の制御性を調査するために、異なる出力比設定(例えば、3kWの最大出力で1:1、1:1.5、および1:2)で測定される。
【0074】
前述の構成からの出力と、周波数と、位相とのテストデータは、915MHz SS発生装置の安定性と、信頼性と、エネルギー効率と、を求めるために使用可能である。
【0075】
実施例2
この例は、SS MW発生装置により作動する1つのMW加熱照射装置/キャビティを有する、単一モードの915MHz MW加熱テスト装置を開発する方法を示す。
【0076】
(2つの3kW発生装置ヘッドを有する)6kWのSS915MHz MW発生システムにより作動する単一モードの照射装置は、SS MW発生装置の独自の特徴(前述のとおり)により高められた性能を調査するために構築された。MW加熱照射装置は、1)単一モードの加熱キャビティと、2)上部と底部とから加熱キャビティに接続された2つの角状の導波管と、から成り、加熱キャビティと角状導波管との間にMW透過性ポリエーテルイミド(polyetherimide)(ウルテム)板(窓)が設置される。実施例1において、校正後、SS発生装置ヘッドのうちの1つは角状導波管の上部に取り付けられて、他方の発生装置ヘッドは角状導波管の底部に取り付けられる。結果として得られる構成は、図2Aに対応する。2つの発生装置ヘッドは、合わせて最大で6kWのMW出力を提供する。
【0077】
制御システムは、総出力と、上部発生装置ヘッドおよび底部発生装置ヘッド間の相対的出力比と、位相差およびピーク周波数と、を制御する。実験では、食品用キャリア上の食品パッケージ(トレイまたは袋)は、MWエネルギーと循環する温水とを併用して加熱される。食品用キャリアは、食品の加熱均一性を改善するように設計された、選択された金属の網のカバーを利用する。水は、水道水からイオンのほとんどを除去した逆浸透(RO)システムから供給される。RO水の温度は、熱を加える、または除去する外部熱交換器を有する循環システムにより精密に制御される。915MHzでは、MW出力のRO水への浸透深さは(表1に示されるように)大きく、食品の低温殺菌および滅菌で使用される高温下ではMWエネルギーはRO水によりほとんど吸収されないが、循環水は食品パッケージの端部の熱を除去して加熱均一性を改善する。産業用の規模のROシステムは、安価である。ROシステムは、商用供給業者から容易に入手可能であり、産業用低温殺菌・滅菌システムへ容易に追加され得る。
【0078】
SS915MHz発生装置ヘッドは、位相を同期させて、照射装置キャビティに接続されるMW出力ポート間の位相差を制御するために装備される。各発生装置ヘッドは、設備を動作させて、選択された様々な実験的な出力位相tと周波数とに対するデータを収集する遠隔制御・監視能力を有する。
【0079】
2つのSS MW発生装置ヘッドを有する、上記の開発された単一モードの915MHzキャビティは、加熱ゾーン404が図4に示される4つのSS MW発生装置ヘッドの対ではなく、ただ1つの対を含むことを除いて、図4に示される構成と一致するシステムに直接追加される。この装置は、予熱(投入)部と、MW加熱部と、保持部と、冷却(荷降)部と、を備える。予熱部と、加熱・保持部と、冷却部と、における水温は、水循環ループのそれぞれにある熱交換器により制御される。テストにおいて、キャリア内の多数の食品パッケージは、特定の平衡温度(例えば、40℃)に加熱される予熱部に投入される。食品パッケージは、食品パッケージ内のコールドスポットが低温殺菌温度(例えば、90℃)に達するように多数のキャビティを用いた加熱を再現するために、キャリアがキャビティの中央に定置される、加熱キャビティを通って移動される、または図4の加熱ゾーン404の一方の側の場所間で前後に掃引される、のいずれかが行われるMW加熱キャビティに移動される。次いで、食品パッケージは、冷却部407に移動される前に所定の時間にわたって保持部(ゾーン405)に移動される。
【0080】
SS MW出力制御への性能テストは、すべての出力パラメータ(出力レベル、周波数、および位相)が機能的に確実に制御および監視され得るように行われる。ピーク周波数は、TM-2650スペクトル分析器と、AN-301アンテナ(カリフォルニア州ヨーバリンダ B&K Precision)と、により測定される。2つのMW出力ヘッドの位相は、RFケーブルを介して方向性結合器に接続されるMSO-X4154Aオシロスコープ(カリフォルニア州サンタローザ キーサイト・テクノロジー)を用いて求められる。MW出力は、校正された方向性結合器により測定される、または、図10のMW出力校正/テストシステムを用いて求められる。
【0081】
実施例2は、加熱均一性と可変の加熱速度とのためにMW出力パラメータ(出力、位相、および周波数)が制御可能で調整可能な2つの同期されるSS MW発生装置ヘッドにより作動する、機能的な915MHz単一モードMW加熱照射装置(加熱キャビティ)をもたらす。
【0082】
実施例3
この例は、2つの同期されるSS発生装置ヘッドからの出力を結合して用いる915MHzのMW加熱の性能を分析する方法を示す。特に、この例では、少なくとも2つのSS発生装置ヘッド間の位相制御について論じる。
【0083】
先ず、単一モードの915MHzのMW加熱照射装置におけるMW加熱に対する2つのMW発生装置ヘッド間の位相差(または位相シフト)の影響は、コンピューターシミュレーションを用いて調査される。MW加熱照射装置のポート(上部および底部)に供給される複数のMW源間の異なる位相シフト(0°、90°、および180°の位相差)に対するシミュレーション結果が図11A図11Bとに示される。位相差は、加熱キャビティの上部ポートに供給されるMWの位相から底部ポートに供給されるMWの位相を引いたものとして定義される。腹(最大強度)と節(最小強度)とは、(食品パッケージが位置する)MW加熱キャビティの中心面上でそれぞれ0°の位相差と180°の位相差とに対して観察された。90°の位相差(上部ポートへの出力の位相が底部ポートへの出力の位相よりも90度大きい)では、節も腹も中間の場所には形成されない。シミュレーション結果は、MW加熱キャビティの中心面での電界強度が、適切な位相差調整により最大(腹)と最小(節)との間で可変できることを示唆する。また、食品パッケージの厚さ全体にわたる加熱均一性は、キャビティの上部ポートと底部ポートとからMWを発射する2つのMW発生装置ヘッド間の位相の制御を用いて調整され得る。これらの結果は、2つのSS発生装置ヘッドを有する915MHzのMW加熱照射装置を用いて実験的に得られ得る。しかしながら、マグネトロンベースのMW発生装置は、同等の位相制御能力を欠いている。
【0084】
加熱ゾーン404がただ1つのSS MW発生装置ヘッドの対を含むことを除いて、図4のシステムを用いることで、2つのSS MW発生装置ヘッドからの出力の相対的MW位相(―180°から180°の差異)をテストできる。以下は、3つの例示の設定とテストとである。実験データは、SS MW発生装置の独自の特徴を用いて高められた加熱性能を示す。食品パッケージ内での加熱パターンと、加熱均一性と、加熱速度とは、SS出力パラメータ(位相および周波数の制御、出力レベル、出力比(実施例4))を制御して最適化することにより改善される。
【0085】
実施例3A。位相差を動的に調整して熱いゾーンと冷たいゾーンとを掃引して、加熱キャビティ内の食品パッケージの深さ全体にわたって同種の食品における加熱均一性を良くする。選択された塩分濃度(例えば、0.1%、0.5%、1.0%、1.5%)でトレイおよび袋に包装されたモデル食品(例えば、マッシュポテトのジェル)が単一モードの915MHz加熱キャビティ内でテストされる。1.5%は塩気の非常に強い食品の塩分濃度を表して、0.1%は塩気の弱い食品の塩分濃度を表す。予熱後、金属キャリア上の食品パッケージは(加熱ゾーン404がただ1つのSS MW発生装置ヘッドの対を含むことを除いて)、図4に示されるMW加熱キャビティに移動されて、そこで選択された時間(例えば、3分または4分)にわたって保持される、選択された速度で加熱キャビティを通って継続的に移動される、または多数のキャビティによる加熱を再現するために領域404の一方の側の場所間で前後に掃引される。2つの発生装置ヘッドからの同じ出力(例えば、3kWおよび3kW)はキャビティの上部ポートと底部ポートとから供給されて、位相差は-180°から180°の範囲で繰り返し変化するように制御される。加熱後、食品パッケージは、冷却と荷降とのために冷却部に移動される。化学マーカーベースのコンピュータビジョン方式(以下で説明される)は、加熱パターンと加熱均一性とを評価するために使用される。食品パッケージ内のコールドスポット/ホットスポットでの温度が無線式小型温度センサ(バージニア州レストン TMI-USA)により測定される。また、比較のために、位相差のない(0°の位相差)テストが行われてもよい。
【0086】
前述のテストにおいて、モデル食品(マッシュポテトのジェル)は、ジェランガム1%と、ジャガイモのフレーク3%と、フルクトース2%と、L-リシン1%と、塩化カルシウム0.15%と、二酸化チタン液0.4%と、塩0-1.5%と、DI水と、を含むいくつかの原料から生成される。ジェランガムと塩化カルシウムとはモデル食品サンプルを凝固させるのに使用されて、二酸化チタン液は明るい色を加えて、フルクトースとL-リシンとは化学マーカーの前駆体である。低温殺菌温度(例えば、70℃から90℃)での熱処理の間、化学マーカーM2は、モデル食品サンプル内で削減された砂糖(フルクトース)とアミノ酸(L-リシン)との間のメイラード褐変反応で形成される。モデル食品における褐色への変化は、コンピュータビジョン方式(図12に示される)を用いて検出される。モデル食品サンプル内の平面と垂直面との両方における色変化が反映された加熱パターンが得られる。0から255のカラースケール(明度の範囲)が加熱パターンの画像で明度を規定するために使用される。青色は値0を有して、赤色は値255を有して、緑色または黄色は0から255の色を有する。色分布は、食品パッケージ内の加熱均一性を示す。明度の標準偏差と、ホットスポットおよびコールドスポット間の明度の差分とは、加熱均一性の指標として使用されて、明度の偏差と明度の差分とが小さいほど、加熱はより均一である。食品パッケージ内の深さ方向の加熱均一性は、2つの発生装置ヘッドの出力電力間の位相差を動的に変更することにより、大きく改善され得る。結果として得られる産業用システムにおける利点は、削減される加熱時間と、高められるスループットと、改善される食品品質とである。
【0087】
実施例3B。(2つのMW発生装置ヘッド間の)位相差を調整して、加熱キャビティの中心面に必ずしも位置されていない食品パッケージの中間層に「熱いゾーン」を合わせる。異なる厚さ(例えば、16mm、20mm、24mm、30mm)を有するモデル食品サンプルと様々な選択された位相差(例えば、0°、±30°、±60°、…、±150°、±180°)とは、加熱ゾーン404がただ1つのSS MW発生装置ヘッドの対を含むことを除いて、図4に示されるシステムを用いてテストされる。16mmは標準的な7オンス(207ml)のトレイまたは8オンス(237ml)の袋に充填されたモデル食品サンプルの厚さであり、30mmは標準的な10.5オンス(311ml)のトレイに充填されたサンプルの最大厚さである。同じキャリア上に置かれた異なる厚さを有するサンプルは、キャビティの中心面に対して異なる垂直方向のオフセットを有するため、加熱パターンを位相制御を用いて調整することが望ましい。例えば、図11A図11Bとに示されるように、90°の位相差は、「熱いゾーン」をキャビティの中心面下で下方へと移動させるであろう。負の90°の位相シフトは、「熱いゾーン」をキャビティの中心面上で上方へと移動させるであろう。テストにおける正または負の位相差の選択は、サンプルの厚さにより求められる(キャビティ内の)食品サンプルの相対的位置により決まる。すべてのテストは、同一の食品パッケージキャリアと、2つの発生装置ヘッドからキャビティの上部ポートと底部ポートとに供給される同じMW出力(例えば、3kWと3kW)と、を用いて行われる。サンプルのMW加工と、温度測定と、加熱パターンの分析とは、実施例3Aで説明されたものと同様に行われる。テスト結果は、中間層での加熱速度に関して、異なる厚さのパッケージ内の食品のMW加熱に位相差がどのように影響するかを示す。この例の手順から、キャリアまたはキャリアの輸送位置の物理的な変更の必要なく、広範囲の厚さのパッケージ内の食品を商用システムにより加工できるように、位相制御ストラテジは、産業用の実装のために開発され得る。
【0088】
実施例3C。位相差を調整して、食品パッケージ内の上層および底層上の(異なる誘電特性の)様々な食品成分を有する食品パッケージ内での均一加熱を改善する。異なる誘電特性を有する食品において、MWエネルギーを吸収する能力は、異なる。異なる誘電特性を有する2層(例えば、塩気の弱いサケの切り身の上に塩気の非常に強いソース、または米の上にソース)の食品を収容する食品パッケージが加熱キャビティ内でキャビティの上部ポートと底部ポートとの両方から(位相差がない)供給される同じMW出力で加熱される場合、食品の上層と底層との温度は、異なる上昇のしかたをする。食品パッケージ内での均一加熱を実現するために、2つの出力間の位相差は、食品パッケージ内のより時間のかかる加熱層に「熱いゾーン」を合わせるように、調整され得る。異なる塩分(例えば、0.5%および0.1%で小さな差異、1%および0.1%で中程度の差異、1.5%および0.1%で大きな差異)を有するモデル食品の2つの層(上層および底層、300g、厚さ24mm)で充填された10.5オンス(311ml)のトレイは、様々な位相差を用いた、加熱キャビティの上部ポートと底部ポートとの両方から供給される選択されたMW出力(例えば、2つの発生装置ヘッドのそれぞれから3kW)でのテストに使用される。0.1%から1.5%の範囲の塩分は、塩気の弱い食品から塩気の非常に強い食品までのたいていの食品の塩分濃度を網羅する。食品内の加熱速度は、その誘電損率の値に比例して、その比熱容量に逆比例する。高い塩分の構成要素は、より高い損失係数を有するため、「熱いゾーン」をより低い塩分濃度と高い比熱を有する層内に置くように、適切な位相シフトが選択される。加熱テストの手順は、実施例3Aで使用されたものと同じである。食品パッケージ内の加熱パターンと、加熱均一性と、温度とは、実施例3Aで記載されたものと同様の方法で測定される。また、加熱速度のテストは、包装済みのサケ/アルフレイドウ(Alfredo)ソース、または米/ソースおよび肉などの選択された実際の食品に対して異なる位相シフトで行われる。モデル食品と食品成分との誘電特性は、プローブを有するモデル4291B インピーダンス分析器/マテリアル分析器(カリフォルニア州サンタクララ ヒューレットパッカード社)を用いて求められる。食品の比熱容量は、KD2-PRO熱特性分析器(ワシントン州プルマン メーター社)を用いて求められる。この例のテスト結果は、異なる塩分(もしくは誘電特性)または比熱容量を有する2層の食品が収容された食品パッケージのMW加熱用の2つの発生装置ヘッド間の最適化された位相差を提示する。この結果は、加熱均一性を改善して上層と底層とに異なる食品成分を有する食品パッケージ内で優先的加熱を行うためにどのように位相差が使用され得るかのより良い理解を提供する。
【0089】
実施例4
この例は、2つの同期されるSS発生装置ヘッドからの出力を結合して用いる915MHzのMW加熱の性能のさらなる分析を示す。特に、この例では、少なくとも2つのSS発生装置ヘッド間の出力比制御について論じる。
【0090】
前述の位相差により制御される「熱いゾーン」のシフトと同様に、「熱いゾーン」のシフトは、2つ(またはそれ以上)の発生装置ヘッドからの電力出力の比率を調整することでも実現され得る。このストラテジは、上層と底層とに異なる誘電特性と異なる比熱容量とを有する食品成分が収容されたパッケージの内部での均一加熱を改善するために、または、食品パッケージ内の上層または底層への優先的加熱のために特に有益であり得る。実施例3Cで記載されたテストと同様に、同じパッケージ内の異なる塩分(例えば、0.5%および0.1%で小さな差異、1%および0.1%で中程度の差異、1.5%および0.1%で大きな差異)を含む2層のモデル食品と、包装済みのサケ/アルフレイドウソース、または米/ソースおよび肉などの選択された実際の食品とは、塩分の各ペアに対して、2つの発生装置ヘッド間で位相差なしで、加熱キャビティの上部ポートと底部ポートとに供給される出力の様々な出力比(例えば、3kWの最大出力で1:1、1:1.5、および1:2)でテストされる。適切な出力比は、サンプルの両方の層で確実に均一温度が上昇するように選択される。テスト結果は、異なる塩分(誘電特性)または比熱容量を有する2層の食品を収容する食品パッケージのMW加熱のための最適化された出力比を提示する。テスト結果は、出力比の調整が、上層と底層とに異なる食品成分を有する食品パッケージ内での加熱均一性を改善するために、または、食品の上層または底層への優先的加熱を行うために、より多くの加熱を必要とするいずれかのためのまた別の効果的なストラテジであることを示す。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A-3B】
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図12
【国際調査報告】