(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】コーティング及び下塗り剤
(51)【国際特許分類】
C08J 7/046 20200101AFI20231201BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20231201BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20231201BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20231201BHJP
【FI】
C08J7/046 CER
C08J7/046 CEZ
C08F2/44 B
C09D4/00
C09D11/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023527336
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(85)【翻訳文提出日】2023-04-28
(86)【国際出願番号】 EP2021080048
(87)【国際公開番号】W WO2022090424
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523162225
【氏名又は名称】メルセネ コーティングス アクチボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハラルドソン、トミー
(72)【発明者】
【氏名】ミカエルソン、ヘンリック
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、ヨナス
(72)【発明者】
【氏名】カールボリ、カール フレドリク
【テーマコード(参考)】
4F006
4J011
4J038
4J039
【Fターム(参考)】
4F006AA12
4F006AA22
4F006AA31
4F006AA35
4F006AA36
4F006AB42
4F006AB43
4F006BA02
4F006EA03
4J011NA25
4J011PA09
4J011PA45
4J011QA03
4J011QA06
4J011QA08
4J011QA12
4J011QA20
4J011SA64
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA02
4J038FA031
4J038FA091
4J038FA111
4J038PA17
4J039AD21
4J039BE27
4J039EA05
4J039GA24
(57)【要約】
基材表面を、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物、又は第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2の混合物と接触させることによって、少なくとも1つの化学基を含む基材をコーティングする方法が提供される。次いで、形成された複合体の少なくとも一部を化学線に供することによって、光活性基と炭素-炭素二重結合との反応により共有結合を形成する反応が開始され、化学線の波長は光活性基によって吸収されるように適合される。本方法は、基材表面中の不純物の抑制に対してかなりの程度まで耐性である。基材及び追加された層全体の弾性率のより大きな均一性を達成することができる。更なるトップコートを追加すると、得られる表面は高い硬度を有し、耐擦傷性が向上する。トップシートを適用すると、耐摩耗性が向上する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材をコーティングする方法であって、
a)芳香環、硫黄、及び過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの化学基を含む基材であって、前記少なくとも1つの化学基の少なくとも一部が前記基材の表面にある、基材を提供することと、
b)前記基材表面の少なくとも一部を、
i)少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物であって、水素を引き抜くことができる化学基を含んでもよい、化合物と、
ii)第1のモノマーM
1及び第2のモノマーM
2を含む混合物であって、前記モノマーが重合反応を受けて、前記基材に共有結合したコポリマーを形成することができ、前記比r
1及びr
2の少なくとも一方が0.45より小さく、k
11及びk
22の一方が他方よりも少なくとも10倍大きく、但し、r
1=r
2=0の場合、k
11及びk
22に関する前記条件が適用されないことを除き、r
1=k
11/k
12及びr
2=k
22/k
21であり、
式中、k
11は、モノマーM
1を成長中のコポリマー鎖~M
1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k
12は、モノマーM
2を成長中のコポリマー鎖~M
1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k
21は、モノマーM
1を成長中のコポリマー鎖~M
2
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k
22は、モノマーM
2を成長中のコポリマー鎖~M
2
*に加える成長反応の成長速度定数である、混合物と
のうちの1つと、を接触させることと、
c)化学線を用いて反応を開始して、前記基材の表面における前記少なくとも1つの化学基と、i)前記化合物又はii)前記モノマーM
1及びM
2との反応によって共有結合を形成し、その結果、前記基材表面に共有結合した、i)ポリマー又はii)コポリマーが形成されることと、
d)前記基材表面にコーティング及びシートの少なくとも一方を塗布することと、
e)前記少なくとも1つのコーティングを硬化させることと、
の連続的な工程を含む、方法。
【請求項2】
工程c)の後に、共有結合を形成するために反応していない前記i)化合物又はii)前記混合物の少なくとも一部を除去する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、ポリオレフィン、芳香族基を含有するポリマー、エーテル基を含有するポリマー、及び硫黄を含有するポリマーから選択される群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリp-フェニレンオキシド(PPO)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリカルボナート(PC)からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材表面の少なくとも一部が、第1のモノマーM
1及び第2のモノマーM
2を含む混合物と接触し、前記第1のモノマーM
1及び前記第2のモノマーM
2が、以下の選択肢、
i)M
1はアクリラートであり、M
2はマレアートであり、
ii)M
1はアクリラートであり、M
2はビニルエーテルであり、
iii)M
1はメタクリラートであり、M
2はビニルエーテルであり、
iv)M
1はアクリラートであり、M
2はアリルエーテルであり、
v)M
1はメタクリラートであり、M
2はマレアートであり、
vi)M
1はメタクリラートであり、M
2はマレイミドであり、
vii)M
1はアクリラートであり、M
2はマレイミドであり、
viii)M
1はビニルエーテルであり、M
2はマレアートであり、
ix)M
1はスチレンであり、M
2はマレアートであること
の1つである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記表面が工程b)の前に、コロナ処理、プラズマ処理及び火炎処理からなる群から選択される少なくとも1つで処理される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物中の前記少なくとも1つの炭素-炭素二重結合に隣接する電子吸引基が存在する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物中の前記少なくとも1つの炭素-炭素二重結合の両側に電子吸引基が存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
i)前記化合物又はii)前記混合物が、前記基材表面と接触する前に少なくとも1つの溶媒に溶解される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
i)前記化合物又はii)前記混合物が、前記基材表面と接触する前に溶媒に溶解又は希釈されない、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記基材表面が、工程b)において少なくとも1つのチオール基を含む少なくとも1つの化合物と更に接触する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)が、0.05≦r≦20を満たす、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)が、0.2≦r≦5を満たす、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)が、0.3≦r≦0.9及び1.1≦r≦3のうちの一方を満たす、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
工程b)において、NorrishタイプII光開始剤を前記基材表面と接触させる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程b)における前記接触が、0.2μm~20μmの間隔の厚さを有する層の塗布によって行われる、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程b)で塗布されるi)前記化合物又はii)前記混合物が酸性混合物中に提供される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程b)で追加される全ての成分が単一の配合物で提供される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記配合物が酸性であり、前記化合物に加えてNorrishタイプII光開始剤を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
i)前記化合物又はii)前記混合物を含む塗布層の厚さ及び前記化学線の波長における前記塗布層の吸光度が、工程c)で前記反応が依然として開始されるように適合される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
照射がUV放射によって行われる、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程b)における前記表面が、あるパターンで前記化合物と接触する、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記照射がパターンで行われる、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記化合物が、工程b)においてインクジェットによって前記基材表面の少なくとも一部と接触している、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも工程c)が不活性雰囲気中で行われる、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1から25のいずれか一項に記載の方法に従ってコーティングされた基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、コーティング又は下塗り剤に関する。更なるコーティング、所望であればトップコートをコーティング上に塗布することができる。薄いコーティングは、基材表面を化合物又は混合物と接触させ、次いで、基材の表面の光反応性基、又は表面の光反応性化学基と反応する液体混合物中の反応性化学基を照射することによって共有結合を形成する反応を開始することによって作成される。
【背景技術】
【0002】
多くの工業プロセスでは、残留する反応性基を有する乾燥した薄膜を基材に付着させることが望ましい。この膜は、後の段階で、コーティング又は膜などの別の物体を第1の基材に接着するために使用される。
【0003】
ポリマー膜産業では、ローラを使用して膜の織物に張力をかけ、ローラが膜の両面に接触するため、液体、部分的に液体又は非常に粘着性の膜は、ローラの汚染を引き起こす危険性があり、塵埃及び他の望ましくない表面の欠陥を移動させる危険性が高い。他の場合には、一方の部位の表面を活性化し、他方の部位の活性化された表面をその間の輸送で使用することが望ましく、これは、活性化された基材の表面が乾燥している場合にはるかに容易になる。
【0004】
最新技術による多層UV硬化コーティング系において層間接着を保証にするための標準的な手法は、第1のラッカーを意図的に硬化不足にさせることである。次いで、次のラッカー層は、前の層の硬化不足の上部と反応し、これにより良好な接着が保証される。アクリラート系では、硬化不足は、典型的には酸素阻害を介して行われ、これはラッカーの上部に薄い、反応が少ない層を残す傾向がある。次の層が塗布されると、酸素は効果を有さなくなり、酸素阻害層は後続の層の底部と一緒に反応し、完全な層間接着がもたらされる。作成中に慎重に実行される場合、次の層への良好な結合を得るのに十分な量の残留する反応性基を有する接触膜に対する乾燥を有することが可能である。
【0005】
非常に薄いコーティング層では、大気中の酸素拡散が一般にはコーティングの上部1~3ミクロンに影響を及ぼすため、サブミクロン部分の酸素を抑制したままバルク重合が膜形成に進むことを制御することは非常に困難であるため、酸素抑制手法は実用的ではない。
【0006】
日本特許第5568311号は、ナノ粒子上の重合性基を介して基材に接着するナノ粒子を開示している。ナノ粒子は、モノマー混合物への添加剤の形態であってもよく、又はエマルジョン若しくは溶液であってもよく、化学線を使用して基材に付着される。そのように接着したナノ粒子は、そのまま、又は後続の層のための接着促進剤として使用することができる。
【0007】
米国特許第7,455,891号は、コロナ、プラズマ又は火炎活性化表面に薄い下塗り剤層を付着させる方法を開示している。下塗り剤は、溶液、エマルジョン、又は懸濁形態であり、化学線が電磁波を使用して下塗り剤を表面と反応させる前に乾燥させる。下塗り剤は、最終コーティングを形成することができ、又は最終表面を形成する第2のコーティングのベースとすることができる。
【0008】
日本特許第2006510774号は、溶融、懸濁、溶液又はエマルジョン形態の開始剤又は開始剤モノマーブレンドを含む下塗り剤を使用して、コロナ、低温プラズマ、火炎又は強く放射処理された有機又は無機表面に膜を接着する方法を開示している。本方法は、接着層を形成するための第1の加熱工程及び任意選択的に化学線を用いる工程を含む。更なるコーティングが塗布され、下塗り剤層と反応して最終物品を形成する。
【0009】
米国特許第6,733,847号は、コロナ、プラズマ又は火炎活性化表面に薄い下塗り剤層を付着させる方法を開示している。下塗り剤は、水素供与基及びエチレン性不飽和基を有するモノマーを含む。層は、水素供与基を介して表面に自発的に付着する。その後、エチレン性不飽和と反応することができるコーティング組成物と層を反応させて、最終的なコーティングされた物体を形成することができる。
【0010】
日本特許第2014063762号は、ポリマー樹脂表面のための化学線で硬化されたシリコーン水性分散下塗り剤配合物を開示している。
【0011】
米国特許第4,495,020号は、ポリエステルプラスチック物品を他の又は同じタイプのプラスチック物品に接着するのに適した表面を提供するためのイソシアナートを含有する下塗り剤組成物を開示している。
【0012】
米国特許第9,692,412号は、プラスチック及び透明無機基材用のコーティング配合物を開示しており、コーティング配合物は、ポリアクリラート、ジイソシアナート、ポリエーテルポリオール、並びに光重合性及びヒドロキシル基を含有する化合物を含有する。
【0013】
米国特許出願公開第2003/01502767号は、例えば無水マレイン酸と反応させたポリマーを含む下塗り剤組成物を開示している。
【0014】
欧州特許第0574352号は、ポリマー基材をプラズマ中に配置して基材上にフリーラジカルを形成すること、フリーラジカルを有する基材を酸素と接触させて基材の表面にヒドロペルオキシ基を形成すること、及び高分子基材の表面にエチレン性不飽和モノマー及び架橋剤をグラフト重合させることを含む、予め形成されたポリマー基材の表面特性を改質して、グラフト重合によって変更された特性を基材上に付与するためのプロセスを開示している。
【0015】
米国特許出願公開第2017/0290955号は、体内に埋め込むための医療機器を開示しており、この医療機器は、ポリマー基材、及びポリマー基材の表面上に形成されたポリ(ビニルピロリドン-alt-無水マレイン酸)の層を含み、ポリ(ビニルピロリドン-alt-無水マレイン酸)のポリマー鎖は、ポリマー基材と絡み合って潤滑性の親水性層を形成する。
【0016】
米国特許第6,582,754号は、(a)エチレン性不飽和二重結合を含む化合物を材料表面に共有結合させること、(b)表面上に反応性基又は架橋性基を含むモノマーを重合し、それにより、反応性基又は架橋性基を含む一次ポリマーコーティングを提供すること、(c)工程(b)で反応性基を含むモノマーの場合、一次コーティングの反応性基をエチレン性不飽和二重結合を含む更なる化合物と反応させ、親水性モノマー及び任意選択で架橋性基を有するコモノマーを工程(b)に従って得られた一次コーティング上にグラフト重合させること、並びに(d)工程(b)又は(c)で架橋性基が存在する場合、当該基の架橋を開始する工程を含む、材料表面をコーティングする方法を開示している。
【0017】
中国特許第104945983号及び中国特許第104945985号は、無水マレイン酸とポリマー鎖を形成する単官能性メタクリラートを開示している。第1の工程では、後続の工程でエポキシと反応するポリ無水物が形成される。したがって、無水物はポリ無水物と反応する。単官能メタクリラートを使用するため、架橋ネットワークは形成されない。導入部では、最初にペンダント無水物基を有するアクリル樹脂を合成し、次いで、これを変性エポキシ樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂に供し、優れた接着性、良好な硬度及び光沢を有する一成分型エポキシ変性アクリルコーティングの調製によって調製したことが開示されている。
【0018】
米国特許第2019/263072号は、硬化性表面処理層が硬化性複合基材上に塗布され、続いて共硬化される、複合基材を接合する方法を開示している。共硬化後、複合基材は完全に硬化するが、表面処理層は部分的に硬化したままである。表面処理層は、樹脂膜や、樹脂含浸布からなるピールプライであってもよい。ピールプライを使用する場合、ピールプライは共硬化後に剥離され、部分的に硬化した樹脂の薄膜が残る。表面処理層の表面を物理的に改質するために、プラズマなどの後続の乾式物理的表面処理が実行される。乾式物理的表面処理の後、複合基材は、共有結合構造を形成するために別の複合基材に接着結合される化学的に活性な結合可能表面を備える。
【0019】
米国特許第5,254,395号は、基材のための高度に耐摩耗性、耐薬品性、耐衝撃性の保護仕上げを形成するコーティング系を開示している。コーティング系は、異なる特性を有するが、互いに優れた接着性を有する2つのコーティングを使用することに基づいている。最外側又は表面コーティング層は、高度に架橋された硬質ポリマーであり、相溶性の軟質ポリマーの下にあるベースコーティング層に接着している。外側硬質ポリマーは、好ましくは、3つ以上の官能基の多官能性脂肪族アクリラートモノマーの少なくとも40重量%から誘導される高度に架橋されたアクリルコポリマーを含み、一方、下にあるより軟質のポリマーは、好ましくは、架橋された脂肪族ウレタンアクリラートコポリマー及び3つ以上の官能基の多官能性脂肪族アクリラートモノマーを含む。
【0020】
英国特許第2107723号は、化学線への曝露によって硬化可能な基材を処理するためのプロセスを開示しており、当該プロセスは、水、0.1~75重量%のアクリル酸及び0.01~5重量%の適切な界面活性剤を含む溶液を調製すること、当該溶液の層を当該基材上に堆積させること、及び処理された基材を化学線に曝露することを含む。
【0021】
米国特許第8,227,050号は、1つ又は複数のモノマー、1つ又は複数の多官能性オリゴマー、1つ又は複数の顔料、1つ又は複数の光開始剤、及び揮発性有機溶媒を含むUV硬化性コーティング組成物を開示している。
【0022】
国際公開第2012/042059号は、工程a)少なくとも2つのチオール基を含む化合物と少なくとも2つの炭素-炭素二重結合を含む化合物とを、非化学量論比で反応させて第1の中間体物品を得ることであって、当該第1の中間体物品が未反応チオール基及び未反応炭素-炭素二重結合から選択される少なくとも1つの未反応基を含むこと、及びb)当該第1の中間体物品を第2の物品と接触させることであって、当該第2の物品の表面が少なくとも部分的に反応性基を含む、接触させること、当該第1の中間体物品上の当該未反応基の少なくとも一部を当該第2の物品上の化学基と反応させて共有結合を得て、最終物品を形成することを含む、チオール-エンポリマーの物品の製造方法を開示している。
【0023】
国際公開第2019/185302号は、第二級アミンと炭素-炭素二重結合との間に形成された複合体が化学線によって開始され得ることが観察されたメラミン用の下塗り剤配合物を開示している。本発明は、十分な量の化学線が液体層を貫通して、基材とコーティングとの間に十分な量の共有結合を生成することができる場合、コーティングに有用である。
【0024】
第二級アミンを含む基材以外の基材にもコーティングを提供できることが望ましい。第二級アミンを含む熱硬化性基材に関して、弾性率は高く、例えばメラミンホルムアルデヒドでは、弾性率は約7GPaを超える。一方、国際公開第2019/185302号の追加された層は、かなり低い弾性率を有し、基材と塗布層との間の弾性率の差がより低い基材及び関連するコーティング技術を提供することが望ましい。
【0025】
先行技術による下塗り剤の場合、硬化は、下塗り剤が塗布されたときに十分な数の反応性基が残るように調整されなければならない。硬化条件に対する感受性がより低く、特に過度の硬化に対する感受性がより低い方法を提供することが望ましい。
【0026】
従来技術における問題は、基材中の特定の不純物、又は酸化防止剤などの意図的に添加された化合物が阻害剤として作用する可能性があり、その結果、膜を形成するための従来の光開始剤との反応が不可能又は少なくとも妨げられることである。
【0027】
後続のコーティングが塗布され硬化される前に取り扱いを簡単にするために、乾燥状態、すなわち指触乾燥状態に硬化することができる下塗り剤を提供することもまた、従来技術における問題である。
【発明の概要】
【0028】
本発明の目的は、従来技術における欠点の少なくともいくつかを取り除き、改善されたコーティング及び/又は下塗り剤を提供することである。
【0029】
第1の態様では、基材をコーティングする方法が提供され、本方法は、
a)芳香環、硫黄、及び過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの化学基を含む基材であって、少なくとも1つの化学基の少なくとも一部が基材の表面にある、基材を提供することと、
b)基材表面の少なくとも一部を、
i)少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物であって、水素を引き抜くことができる化学基を含んでもよい、化合物と、
ii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を含む混合物であって、モノマーが重合反応を受けて、基材に共有結合したコポリマーを形成することができ、比r1及びr2の少なくとも一方が0.45より小さく、k11及びk22の一方が他方よりも少なくとも10倍大きく、但し、r1=r2=0の場合、k11及びk22に関する条件が適用されないことを除き、r1=k11/k12及びr2=k22/k21であり、
式中、k11は、モノマーM1を成長中のコポリマー鎖~M1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k12は、モノマーM2を成長中のコポリマー鎖~M1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k21は、モノマーM1を成長中のコポリマー鎖~M2
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k22は、モノマーM2を成長中のコポリマー鎖~M2
*に加える成長反応の成長速度定数である、混合物とのうちの1つと、を接触させることと、
c)化学線を用いて反応を開始して、基材の表面における前記少なくとも1つの化学基と、i)化合物又はii)モノマーM1及びM2との反応によって共有結合を形成し、その結果、基材表面に共有結合した、i)ポリマー又はii)コポリマーが形成されることと、
d)基材表面にコーティング及びシートの少なくとも一方を塗布することと、
e)少なくとも1つのコーティングを硬化させることと
の連続的な工程を含む。
【0030】
第2の態様では、上述の方法に従ってコーティングされた基材が提供される。
【0031】
本発明は、様々な基材に対する改善された接着性が望まれる用途に非常に適している。
【0032】
更に、特にトップコーティングをコーティングに追加すると、得られる表面が高硬度となり、耐擦傷性が向上する。例えば熱可塑性シート又は膜を追加すると、耐摩耗性が向上する。
【0033】
本発明による基材の弾性率は、先行技術と比較して、塗布層の弾性率とより良好に一致する。例えば、本発明によるPP又はPETを含む基材は、3GPa未満の弾性率を有し、これは、アクリラートを含む追加された層の弾性率とより良好に一致する。したがって、本発明を使用することにより、弾性率が大きく異なる弱化層を回避することができる。
【0034】
更に、トップコート又は後続のコーティングを塗布して硬化させた後に、下塗り剤を粘着性又は湿潤性でない状態に硬化させることができるという利点がある。
【0035】
本発明による方法は、硬化条件に対する感受性が低く、特に非常に高線量の化学線に対する感受性が低い。本発明による反応方法は、初期組成物による工程c)の後の反応を停止させ、任意の残りの過剰基は、合理的な境界内での過硬化に本質的に反応せず、後の後続の工程において、第2の層との反応のための十分な量の残りの反応性基を確保する。
【0036】
本方法は、不活性条件下、例えば窒素雰囲気下での化学線硬化に適している。本方法は、酸素阻害が存在しないため、現在の下塗り剤配合物よりも上面の過硬化に対する感受性が低い。
【0037】
本発明による方法は、硬化後の過剰な反応性基の低い単独重合速度及びガラス状態のため、エージングに対する感受性が低く、拡散を妨げ、したがって単独重合を更に低下させる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明が開示され、詳細に記載される前に、本発明は、本明細書に開示される特定の化合物、構成、方法工程、基材、及び材料に限定されず、そのような化合物、構成、方法工程、基材、及び材料は、いくらか変化し得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0039】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0040】
他に何も定義されていない場合、本明細書で使用される任意の用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有することを意図している。
【0041】
本明細書で使用される場合、(メタ)アクリラートは、アクリラート及びメタクリラートの両方を包含する一般用語である。
【0042】
本明細書で使用される場合、光反応性基は、関連する条件下で本質的に化学的に不活性であり、化学線に曝露されると反応性になる化学基を意味する。典型的には、必ずしもそうとは限らないが、化学線は紫外線である。
【0043】
本明細書で使用される場合、水素引き抜きは、分子からの水素原子の除去である。したがって、水素を引き抜くことができる化学基は、水素原子を除去することができる化学基である。
【0044】
全てのパーセンテージ及び比は、別段の指示がない限り、明細書及び特許請求の範囲を通して重量によって計算される。例えば、比rは、重量ではなく化学基の数に基づいて計算される。
【0045】
第1の態様では、基材をコーティングする方法が提供され、本方法は、
a)芳香環、硫黄、及び過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの化学基を含む基材であって、少なくとも1つの化学基の少なくとも一部が基材の表面にある、基材を提供することと、
b)基材表面の少なくとも一部を、
i)少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物であって、水素を引き抜くことができる化学基を含んでもよい、化合物と、
ii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を含む混合物であって、モノマーが重合反応を受けて、基材に共有結合したコポリマーを形成することができ、比r1及びr2の少なくとも一方が0.45より小さく、k11及びk22の一方が他方よりも少なくとも10倍大きく、但し、r1=r2=0の場合、k11及びk22に関する条件が適用されないことを除き、r1=k11/k12及びr2=k22/k21であり、
式中、k11は、モノマーM1を成長中のコポリマー鎖~M1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k12は、モノマーM2を成長中のコポリマー鎖~M1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k21は、モノマーM1を成長中のコポリマー鎖~M2
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k22は、モノマーM2を成長中のコポリマー鎖~M2
*に加える成長反応の成長速度定数である、混合物とのうちの1つと、を接触させることと、
c)化学線を用いて反応を開始して、基材の表面における前記少なくとも1つの化学基と、i)化合物又はii)モノマーM1及びM2との反応によって共有結合を形成し、その結果、基材表面に共有結合した、i)ポリマー又はii)コポリマーが形成されることと、
d)基材表面にコーティング及びシートの少なくとも一方を塗布することと、
e)少なくとも1つのコーティングを硬化させることと
の連続的な工程を含む。
【0046】
2つの異なるモノマーM
1及びM
2を考察する。モノマーM
1及びM
2がポリマー鎖の一端にそれぞれ付加されているコポリマー鎖~M
1
*及び~M
2
*の成長を考慮すると、以下の反応が起こる。
【数1】
【0047】
次に、r1及びr2は、r1=k11/k12及びr2=k22/k21と定義され、ここで、k11、k12、k21、及びk22は、上記の成長反応の成長速度定数である。r1は、~M1
*とM1との反応性対~M1
*とM2との反応性として解釈される。r2は、~M2
*とM2との反応性対~M2
*とM1との反応性として解釈される。成長するポリマー鎖は、一端にM1及びM2のいずれかを有するコポリマーである。コポリマーの少なくとも一部は、基材表面に共有結合している。一実施形態では、表面に共有結合していないコポリマーは、反応後に洗い流される。比r、r1、r2は異なる比である。
【0048】
r1及びr2の少なくとも一方は、0.45より小さい。r1が0.45より小さいか、若しくはr2が0.45より小さいか、又はr1とr2の両方が0.45より小さい。一実施形態では、r1及びr2の少なくとも一方は、0.1より小さい。一実施形態では、r1及びr2の少なくとも一方は、0.05より小さい。一実施形態では、r1及びr2の一方は、0又は0に近い。一実施形態では、r1及びr2の両方は、0又は0に近い。この比は、一方の反応において単独重合が抑制されることを示している。
【0049】
速度定数k11、k22に関して、一方が他方よりも少なくとも10倍大きく、10×k11≦k22又は10×k22≦k11である。これにより、一方の反応では、他方の反応と比較して、単独重合速度がはるかに速いことが見出される。このパラメータの選択により、コーティングの重合を異なる工程で塗布及び硬化させることが可能になる。第1の硬化後、第2の硬化反応のために反応性基が残る。r1=r2=0の場合、単独重合のない交互コポリマーが存在し、k22及びk11に関する条件は適用されない。これは、r1≒r2≒0となるように、r1及びr2の両方がおおよそ0である場合にも当てはまる。この条件は、r1及びr2の両方が0.05未満であるときに満たされる。
【0050】
低いk22及びr1>r2を有する混合物の場合、M1が過剰であっても、M2は後に反応する残留する基となる。
【0051】
モノマーという用語は、モノマー及び重合性オリゴマーの両方が包含されるように、重合性単位として解釈されるべきである。これにより、重合したオリゴマーとの反応を行うことができる。
【0052】
一実施形態では、工程b)において、基材表面を、第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を含む混合物と接触させる。一実施形態では、第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、以下の選択肢、
i)アクリラート及びマレアート、
ii)アクリラート及びビニルエーテル、
iii)メタクリラート及びビニルエーテル、
iv)アクリラート及びアリルエーテル、
v)メタクリラート及びマレアート、
vi)メタクリラート及びマレイミド、
vii)アクリラート及びマレイミド
viii)ビニルエーテル及びマレアート、並びに
ix)スチレン及びマレアート
の1つである。
【0053】
第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、選択肢i)~ix)の1つから選択される。選択肢i)~ix)は、選択肢ごとに2つの異なる基を含み、第1及び第2のモノマーは、それぞれ1つずつになるように選択される。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、アクリラート及びマレアートである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、アクリラート及びビニルエーテルである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、メタクリラート及びビニルエーテルである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、アクリラート及びアリルエーテルである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、メタクリラート及びマレアートである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、メタクリラート及びマレイミドである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、アクリラート及びマレイミドである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、ビニルエーテル及びマレアートである。第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、一実施形態では、スチレン及びマレアートである。したがって、第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、上述の選択された対とすることができる。
【0054】
上記の対のモノマーは、重合反応を受けて、基材に共有結合したコポリマーを形成する能力に関する要件を満たす。上記のモノマー対はまた、比r1及びr2の少なくとも一方が0.45よりも小さく、更にk11及びk22の一方が他方よりも少なくとも10倍大きいという要件を満たす。したがって、モノマーの上記の対のリストは、モノマーの上記の一般的な要件を置き換えることができる。
【0055】
本方法は、d)コーティング及びシートの少なくとも一方を基材表面に塗布する工程を含む。液体コーティングを塗布することができ、次いで、好ましくは硬化させるか、又はシート若しくは膜を塗布することができる。したがって、液体コーティング、シート及び膜から選択されるものが、工程d)において適用される。
【0056】
本方法は、工程d)で適用された少なくとも1つのコーティング又はシートを硬化させる後続の工程e)を含む。このような工程e)は、工程d)の後に実施される。コーティングが最終コーティングである場合、トップコートと呼ばれることもある。特にトップコーティングをコーティングに追加すると、得られる表面が高硬度となり、耐擦傷性が向上する。最外層が塗布膜であると、耐摩耗性を向上させることができる。一実施形態では、工程c)の後に第2のコーティングが塗布される。この第2のコーティングは、更なるコーティングを塗布しない場合、トップコートと呼ぶことができる。トップコートを含む得られた完成コーティング基材の特性は、本方法を使用すると劇的に改善される。一実施形態では、少なくとも1つの更なるコーティングが工程c)の後に塗布される。したがって、コーティングは、一実施形態では下塗り剤として使用される。コーティングは、単一のコーティングとして、又は別のコーティング上のトップコートとして使用することもできる。
【0057】
一実施形態では、工程d)で適用される第2の層は、熱可塑性シートなどの物品である。追加されると、エンボス構造などの設計要素が可能になる。追加すると、耐摩耗性が大幅に向上する。
【0058】
一実施形態では、シートは、炭素-炭素二重結合を含む液体と接触して光から離れた表面に位置する光活性基の表面反応を開始することができる化学線に対して透明であるという利点を有する、ポリプロピレン及び/若しくはポリエチレン、又は他のポリマー材料を含む。したがって、適用されたシートは、化学線で硬化することによって表面に固定され、化学線は、適用されたシートを通って適用され、適用されたシートと基材表面との間の界面に到達する。
【0059】
別の実施形態では、PETを含む熱可塑性シートは、少なくとも1つの表面上の照射によって活性化され、シートの後、工程d)において、処理された基材と接触し、シートの照射された表面は、基材に対して下向きである。PETは通常、関連する波長に対して透過性ではないため、この手順が必要となる。
【0060】
一実施形態では、アクリラート系コーティングは、少なくとも1つの更なるコーティング、すなわち第2のコーティングとして塗布される。
【0061】
一実施形態では、本方法は、工程c)の後に、共有結合を形成するために反応していないi)化合物又はii)混合物の少なくとも一部を除去する工程を更に含む。過剰な分子並びに他の任意の添加剤は、洗浄又は他の適切な手段によって除去することができる。
【0062】
例えば、コロナ、プラズマ又は火炎表面活性化ポリオレフィン、芳香族基を含有するポリマー、エーテルを含有するポリマー及び硫黄を含有するポリマーを首尾よくコーティングすることができる。後続のトップコートの接着性が大幅に向上する。一実施形態では、基材は、ポリオレフィン、芳香族基を含有するポリマー、エーテル基を含有するポリマー、及び硫黄を含有するポリマーから選択される群から選択される少なくとも1つを含む。一実施形態では、表面は、工程b)の前に、コロナ処理、プラズマ処理及び火炎処理からなる群から選択される少なくとも1つで処理される。
【0063】
本発明で使用することができるいくつかの異なる基材がある。一実施形態では、基材は、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリp-フェニレンオキシド(PPO)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリカルボナート(PC)からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0064】
一実施形態では、化合物中の少なくとも1つの炭素-炭素二重結合に隣接する電子吸引基が存在する。一実施形態では、化合物中の少なくとも1つの炭素-炭素二重結合の両側に電子吸引基が存在する。少なくとも1つのチオール基を含む化合物が存在する場合、電子吸引基は、より速い反応を与えるという利点を有する。
【0065】
一実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、基材表面と接触する前に少なくとも1つの溶媒に溶解される。代替の実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、基材表面と接触する前に溶媒に溶解又は希釈されない。後者の実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、その物質だけで使用される。また、後者の実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2には、追加の添加剤を加えることができる。一実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2が溶媒に溶解又は希釈されていない場合、低粘度のi)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を選択する可能性があり、その結果、効率的な方法で適切な厚さでローラコーティングすることができる。
【0066】
一実施形態では、基材表面は、工程b)において少なくとも1つのチオール基を含む少なくとも1つの化合物と更に接触する。一実施形態では、工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)は、0.05≦r≦20を満たす。別の実施形態では、比rは、0.2≦r≦5を満たす。別の実施形態では、比rは、0.3≦r≦0.9及び1.1≦r≦3のうちの1つを満たし、したがって、後者の実施形態は、チオール基と炭素-炭素結合との間の非化学量論比を必要とする。チオールの添加は、工程c)の後に基材の表面が乾燥するように表面を乾燥させることができるという利点を有する。次いで、基材は取り扱いがより容易であり、工程d)において後に更なるコーティングを塗布することができる。(比rは、比r1及びr2とは異なる)。
【0067】
一実施形態では、工程b)で基材表面と接触させるi)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は純粋な物質であり、工程b)の代替実施形態では、基材表面は、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を含む配合物と接触させる。そのような配合物はまた、追加の化合物、添加剤、及び溶媒を含むことができる。
【0068】
一実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、工程b)において表面にインクジェットされる。一実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、工程b)においてインクジェットによって基材表面の少なくとも一部と接触される。これに加えて、又はこれに代えて、例えばローラコーティング、アニロックスロール、スプレー、及び浸漬などの他の既知の塗布方法を使用することができる。
【0069】
一実施形態では、第1のモノマーM1はアクリラートであり、r1は10未満である。この実施形態は、代わりに第2のモノマーM2がアクリラートである場合にも塗布される。これにより、アクリラートとの結合性が向上する。
【0070】
一実施形態では、r1及びr2の一方は、0.1を超える。これにより、膜の形成が促進される。
【0071】
一実施形態では、k11及びk22の一方は、3000l/(mol s)未満である。これにより、過硬化の傾向が低減される。このような混合物を過硬化させることは非常に困難である。成長定数は、回転セクタ法により測定される。
【0072】
一実施形態では、工程b)において、NorrishタイプII光開始剤を基材表面と接触させる。工程b)で基材表面と接触させる追加の物質、例えばNorrishタイプII光開始剤は、一実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2と共に添加される。別の実施形態では、それらは、i)化合物又はii)混合物を基材表面と接触させる前及び/又は後に別々に添加される。一実施形態では、光開始剤は工程b)の混合物中に存在する。一実施形態では、NorrishタイプII光開始剤は工程b)の混合物中に存在する。
【0073】
水素引き抜きに基づく光開始剤は、NorrishタイプII光開始剤とも呼ぶことができる。電気的に励起されたカルボニル化合物は、NorrishタイプII光開始剤と考えられる水素引き抜き剤である。NorrishタイプII光開始剤として適したカルボニル化合物としては、芳香族ケトン及びキノン、例えばベンゾフェノン、ケトスルホン、チオキサンテン、1,2-ジケトン、アントラキノン、フルオレノン、キサントン、アセトフェノン誘導体、ベンゾインエーテル、ベンジルケタール、フェニルグリオキシラート、モノ-及びビス-アシルホスフィンが挙げられる。一実施形態では、NorrishタイプII開始剤は、ベンゾフェノン、チオキサントン、1,2-ジケトン及びアントラキノンからなる群から選択される開始剤である。適切なNorrishタイプII開始剤は、CRIVELLO J.V.らによって、「Volume III:Photoinitiators for Free Radical Cationic&Anionic Photopolymerization」、第2版、BRADLEY G.編、英国ロンドンのJohn Wiley&Sons Ltd、1998、pp.287~294に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
一実施形態では、NorrishタイプII光開始剤は、工程b)において添加される配合物中に、基材表面と接触させられる感光性組成物の重量に基づいて、0.1~15重量%の量で存在する。
【0075】
一実施形態では、工程b)における接触は、0.2~20μmの間隔の厚さを有する層の塗布によって行われる。工程b)において、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2並びに他の成分を塗布するために、当業者に公知の塗布技術を使用することができる。
【0076】
一実施形態では、工程b)で添加される全ての成分は、単一の配合物で提供される。これにより、添加が簡単になる。次いで、全ての化合物及び追加の物質を1つの混合物に塗布する。
【0077】
一実施形態では、工程b)で塗布されるi)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2は、酸性混合物中に提供される。特定の用途では、酸性度は貯蔵寿命を改善する。一実施形態では、配合物は酸性であり、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2に加えて、NorrishタイプII光開始剤を含む。酸性配合物中のpHが低いと、NorrishタイプII光開始剤の貯蔵寿命が改善される。NorrishタイプII光開始剤と酸性pHとの組み合わせは、工程b)で添加される配合物の貯蔵寿命を改善するのに特に適している。
【0078】
一実施形態では、照射はUV放射によって行われる。多くの光反応性基は、適切なエネルギーでのUV照射によって反応性になる。
【0079】
一実施形態では、工程b)において表面を、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2とパターンで接触させる。これにより、基材表面の部分的な処理を所望のパターンにすることができる。したがって、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を所望のパターンで塗布することによってパターンを形成することが可能である。
【0080】
一実施形態では、照射はパターンで行われる。これにより、所望のパターンで基材表面の表面改質を行う追加の可能性が提供される。パターンでの照射は、マスクを塗布したり、レーザで照射したりするなど、公知の方法により行われる。したがって、感光性基が存在する表面の一部のみを照射することによって、基材上にパターンを形成する可能性がある。
【0081】
一実施形態では、i)化合物又はii)第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2を含む塗布層の厚さ、並びに化学線の波長での塗布層の吸光度は、反応が工程c)で依然として開始されるように適合される。説明を検討した後、当業者は、層が塗布されるときに十分な照射が基材表面に到達するように、塗布層の厚さ並びに塗布された配合物の吸光度を調整することができる。吸光度は、関連する波長の化学線を吸収する配合物中の成分の濃度を調整することによって調整される。ランベルト・ベールの法則は、この点に関して当業者を助けることができる。
【0082】
一実施形態では、少なくとも工程c)は不活性雰囲気中で行われる。別の実施形態では、工程b)及びc)は、不活性雰囲気中で行われる。別の実施形態では、工程b)、c)及びd)は、不活性雰囲気中で行われる。別の実施形態では、工程b)、c)、d)及びe)は、不活性雰囲気中で行われる。別の実施形態では、工程a)、b)、c)、d)及びe)は、不活性雰囲気中で行われる。一実施形態では、不活性雰囲気は、98重量%以上、好ましくは99重量%以上の不活性ガス、より好ましくは99.5重量%以上の不活性ガスを含む。或いは、不活性雰囲気は、95重量%以上の不活性ガスを含む。一実施形態では、不活性雰囲気は、2重量%以下の酸素、好ましくは1重量%以下の酸素、より好ましくは0.5重量%以下の酸素を含む。一実施形態では、不活性ガスは窒素を含む。不活性雰囲気を使用すると、本方法は、酸素阻害が存在しないため、上面の過硬化に対する感受性が低くなる。
【0083】
第2の態様では、上述の方法に従ってコーティングされた基材が提供される。
【0084】
基材は、表面でアクセス可能な過酸化物、及び/又は硫黄及び/又は芳香族基である分子を含む。少なくとも1つのC=C二重結合を含む化合物が基材に添加される。或いは、第1のモノマーM1及び第2のモノマーM2が基材に添加される。
【0085】
反応が基材表面の化学基の直接照射によって開始されることは非常に重要な特徴である。基材の表面の化学基は、化学線から直接エネルギーを吸収する。このような化学基は、光反応性基とも呼ぶことができる。過酸化物の場合、過酸化物は、表面に結合した過酸化物の分子構造に応じて、表面に結合したアルコキシラジカル及びフリーヒドロキシラジカル又はアルコキシラジカルに開裂する。
【0086】
置換フェニル基はUVで励起され、三重項又は一重項状態を形成する。励起状態は、多くの方法で炭素-炭素二重結合と反応することができる。
a)水素ドナーの存在下では、特定の最小エネルギーのUV放射で形成された置換フェニル環(PETの場合はテレフタラート)の三重項状態がフェニル環上にビラジカル構造を形成する。これらのラジカルは、炭素-炭素二重結合と共有結合を形成することができるか、又は、大気酸素の存在下でペルオキシラジカルを形成し、これは水素引き抜き時に過酸化物を形成し、これはUV光で切断すると炭素-炭素二重結合と反応して共有結合を形成することができるアルコキシラジカルを形成する。
b)場合によっては、ラジカルアニオンが形成され、これはアニオン付加反応によって電子不足炭素-炭素二重結合と反応することができる。
【0087】
光開始剤は必要とされないが、いくつかの実施形態では添加される。実際には、光開始剤の添加は、化学線を吸収する可能性があり、そのため反応を開始するために利用することができないため、ほとんどの場合適切ではない。光開始剤などのUV吸収化合物は、一般に微量しか許容されないはずである。様々な反応を開始するために通常使用される光開始剤の量は、一般に多すぎる。一実施形態では、光開始剤は添加されない。一実施形態では、光開始剤、又は化学線を吸収する別の化合物は全く存在しない。いくつかの条件下では、一定量の特定の光開始剤を許容することができ、使用することができる。そのような条件としては、以下が挙げられる。
a)基材の表面の化学基がエネルギーを吸収する波長は、光開始剤が光を吸収する波長と十分に異なる。
b)光開始剤を含む塗布層は、十分な量の放射がとにかく基材の表面の化学基に到達するように非常に薄く、及び/又は光開始剤を含む塗布層は、十分な量の放射がとにかく基材の表面の化学基に到達するように希釈される。
【0088】
上記の条件はまた、化学線の強度及び/又は線量の増加と組み合わせることもできる。
【0089】
従来技術による下塗り剤コーティングは、通常、10~30ミクロンの範囲の層で塗布され、最小量のUV線量で膜を形成するように設計される。層の底部に達する370nm未満のUV線量は常に非常に小さい。先行技術によるこのような膜の接着は、表面エネルギーマッチングによるか、又はコロナ処理後に存在するヒドロキシル基と下塗り剤中のイソシアナート基との間の二次自発反応によるかのいずれかである。
【0090】
化学基は基材表面に存在するため、塗布された溶液の層を通過して基材表面に化学線が到達することが必要である。比較可能な先行技術では、光開始剤又は他のUV遮断化合物が同様の系で利用され、これにより、化学線が表面に到達しないか又はほとんど到達しないため、この方法を使用することが不可能になるか、又はほとんどの系で観察することが不可能になる。本発明者らは、このことが以前にこの効果を観測しなかった理由であると考えている。
【0091】
反応の結果、共有結合が形成される。共有結合は、例えば、基材及び膜を水中で2時間沸騰させることによって膜を除去することができないことによって確認することができる。除去された膜は、共有結合の欠如を示す。水中で数時間(2時間)煮沸した後に依然として接着する膜は、共有結合の存在及び/又は分子絡み合い、すなわちIPN(相互侵入ネットワーク)様構造の存在のいずれかを示すことができる。したがって、除去された膜は、共有結合が存在しないことを保証する。しかしながら、水中で数時間煮沸した後に依然として接着する膜は、ポリマー鎖の共有結合又は代替的な絡み合いを示すことができる。したがって、膜が依然として接着している場合に共有結合が存在することを保証にするために、ポリマー鎖の絡み合い、すなわちIPN様構造を除外することが必要である。
【0092】
共有結合は、コーティングされた基材のクロスカットを取り、基材とコーティングとの間の界面を検査することによって、IPN様形態に由来する接着と区別することができる。主に共有結合接着の場合、基材の表面構造は本質的に無傷のままであるが、主にIPN様形態の場合、コーティングと基材との間に元の基材表面構造とは異なる遷移領域があり、これは分光測定(例えば、IR又はラマン顕微鏡法)、SEM、光学顕微鏡法又は同様の方法によって検出される。IPN様形態からの接着が除外された場合、共有結合が存在しなければならないと結論付けることができる。
【0093】
一般に、光開始剤又は他の吸収化合物のレベルは、基材の表面の化学基の反応が開始されないほど高くてはならない。したがって、一実施形態では、光開始剤は、基材の表面の開裂した化学基と炭素-炭素二重結合との反応によって共有結合を形成する反応の開始を妨げない量で存在する。
【0094】
一般に、二重結合の消費による膜形成は、炭素-炭素二重結合が消費され、又は進化するネットワークの高い粘度によって表面への拡散が妨げられる前に、炭素-炭素二重結合と光反応性基との間に不十分な量の化学線が共有結合を形成することができるように、速すぎてはならない。
【0095】
炭素-炭素二重結合の拡散は膜形成の後期まで急速であるため、ゲル化点の前に粘度が本質的に変化しないチオール-エンにおける遅延ゲル化は、必要に応じてこの効果を打ち消すのに適している。更に、有効波長での化学線がほとんど吸収されず、化学線の大部分が表面の光反応性基に到達するため、開始剤を含まないチオール-エンの開始能力が有利である。したがって、これらは、少なくとも1つのチオール基を含む化合物を添加する更なる利点である。
【0096】
化学線(典型的にはUV線)は、感光性基が位置する基材の表面に到達すべきである。これは、表面への照射によって達成することができる。一実施形態では、これは、関連する波長で透明である及び/又は非常に薄いという条件で、基材を通過する照射によって達成することができる。少なくとも1つのC=C二重結合を含む化合物を含む溶液は、化学線を過剰に吸収してはならない。そのような塗布された溶液の厚さと関連する波長における吸収との積は、十分な化学線が感光性基が存在する基材の表面に到達することができるように、高すぎてはならない。そのような溶液中の放射線のより高い吸収は、より薄い塗布された溶液である程度補償することができる。
【0097】
少なくとも有効量の化学線が表面の基に到達すべきであるという同様の原理は、工程d)で適用されたコーティング溶液及び/又はシートにも適用される。そのような実施形態では、光路は、熱可塑性シートの反対面に到達する前にコーティング溶液又はシートを通過する。先行技術による熱可塑性シートの場合、UV活性接着剤は、非常に迅速に反応して固体ポリマーを形成するように設計され、本質的に全ての炭素-炭素二重結合が、塗布された下塗り剤に面する熱可塑性シート表面上の光反応性基の化学線活性化による共有結合を観察するには短すぎる時間枠で消費される。これは、効果が以前に気付かれなかった理由を説明している。
【0098】
以下の表は、本発明で一緒に使用するのに適したモノマーM
1及びM
2の適切な対の例を示す。
【表1】
【0099】
r1及びr2の値は、Alfrey Price Q-eの式を使用して計算されており、ここで、r1=(Q1/Q2)exp[-e1(e1-e2)]及びr2=(Q2/Q1)exp[-e2(e2-e1)]である。モノマー対についての公開されたQ値及びe値は、実際の共重合が詳細に研究されていない場合、r1及びr2を推定するために使用することができる。k11及びk22は文献から得られる。
【0100】
k
22について、表中の「低」という用語は、k
11値よりもはるかに低い値、すなわち10倍超低い値を示す。r
1とr
2の両方が0に非常に近い場合、これは当てはまらない。0に非常に近いことは、0.05未満と解釈される。
【表2】
【0101】
マレアート及びフマラートは両方とも不飽和ポリエステル中に存在し、したがって本発明に包含されるが、速度定数は互いにわずかに異なる。
【0102】
上記でより詳細に説明したように、K11はM1単独重合の成長速度定数であり、k22はM2単独重合の成長速度定数である。
【0103】
本発明は、ここに示す特定の実施形態に限定されないことを理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されるので、実施形態は例示を目的として提供され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0104】
例1(Bo-PET)
Bo-PET(二軸延伸ポリエチレンテレフタラート)の薄膜を裁断して基材とした。ピースをIPA(イソプロピルアルコール)で拭き取った。純粋なヘキサンジオールジアクリラート(HDDA)又は光開始剤を含有するBona AB製の市販のUV硬化アクリラート系トップコート(UE1664)のいずれかの薄層を、下塗り剤としてPET膜上に約1μmの厚さの層(1g/sqm)で塗布した。下塗り剤層を有するPET膜を、コンベアベルト、並びにUVA、UVB、UVC及びUVVを照射する固定中圧水銀ランプを含む硬化装置に入れた。異なるUV線量を試験した。
【0105】
UV曝露直後の下塗り剤層の表面特性を、手袋をはめた指及びスパチュラを使用して試験して、下塗り剤層が硬化したか否かを決定した。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残す場合、表面は「湿潤」であると判定された。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残さなかった場合、表面は「乾燥」していると判定された。表面の一部が乾燥しており、他の部分が湿っているか、又は非常にかすかな痕跡が観察された場合、表面は「ほぼ乾燥」していると判定された。手袋をはめた指の接触に対して表面が粘着性である場合、表面は「粘着性」であると判定された。これらの結果は、以下の表の「表面特性」の下に示されている。
【0106】
続いて、Bona AB製のUV硬化アクリラート系トップコート(UE1664)のより厚い層を、下塗り剤層の上に22μmロッドアプリケータを使用して塗布し、同じ硬化装置内で1.4J/cm2(UVA)のUV線量を与え、層を完全に硬化させて乾燥させた。
【0107】
コーティング層の基材への接着性は、ISO2409に記載されているクロスカット試験に従って、標準テープ試験(「クロスハッチ試験」)を使用して試験した。手短に言えば、それぞれが約1mm2である領域25個、正方形パターンで、コーティングを貫通して基材に切断が行われる。テープをコーティング上に押し付け、素早く引き離した。得られた損傷は、テープによって除去されたコーティングの量を評価することによって評価され、CH=0が最良の接着性(コーティングの除去なし)であり、CH=5が最悪の接着性(全て又はほぼ全てのコーティングが除去される)である。
【0108】
参考として、厚さ22μmのUV硬化アクリラート系トップコートを塗布し、硬化させ、上記と同様に試験する前に、PET膜上に下塗り剤層を塗布しなかった。
【0109】
【0110】
上記の表の結果は、純粋なHDDA、又はUV光に曝露されたときに基材の表面を活性化するUV硬化アクリラートトップコートUE1664のいずれかの薄い下塗り剤層を使用することによって、接着が参照事例(#5)と比較して有意に改善されることを示している。しかしながら、薄いUE1664が乾燥するまで硬化されると、下塗り剤層と厚いトップコートとの間の層間接着が損なわれ、その結果、クロスハッチ試験が不合格となる。これは、いくつかの用途で必要とされる乾燥下塗り剤層を得ながら、その後に塗布されるコーティング層との層間接着を依然として維持することの困難さを実証している。
【0111】
例2(PET)
別の例は、上記と全く同じ手順に従うが、Nordbergs Tekniska ABから購入した2mm厚のPETシート(ポリエチレンテレフタラート)を基材として使用する。
【表4】
【0112】
トップコートの前のHDDAの薄い下塗り剤層では、クロスハッチによりPETシート上で優れた結果が得られた。表面なし。
【0113】
例3(BoPET、より厚いHDDA)
例1と同じ方法及び基材を使用する別の実験を行ったが、1μmの下塗り剤層を塗布する代わりに、厚さ約14μmのHDDAの層を塗布した。この場合、トップコートを塗布する前に、PET基材上の未硬化HDDAを拭き取った。
【表5】
【0114】
例4(boPET上の非化学量論的アクリラート)
例1と同じ方法及び基材を使用する別の実験を、70重量%HDDA(1,6-ヘキサンジオールジアクリラート)及び30重量%PETMA(ペンタエリスリトール-テトラメルカプトアセタート)の配合物(配合物「A」)又は69.75重量%HDDA、29.75重量%PETMA及びITXがNorrishタイプII光開始剤である0.5重量%ITX(配合物「B」)の配合物のいずれかを使用して下塗り剤として行った。これらの配合物は両方とも、チオール/アクリラート比が約0.5であり、したがって、チオール官能基に対するアクリラート官能基の非化学量論が約100%である。下塗り剤層は、先と同様に約1μmの厚さの層(1g/sqm)に塗布した。
【0115】
クロスハッチ試験を使用して、基材へのコーティングの接着を試験した。
【0116】
その後、試料の一部を沸騰水に2時間浸漬し、乾燥させ、クロスハッチ試験で再試験した。
【表6】
【0117】
上記の結果は、配合物A及びBの両方が、乾燥していてもクロスハッチ試験に合格する、すなわち層間接着が損なわれていないことを示している。更に、2時間の煮沸後であっても、試験した試料の接着性は影響を受けない。
【0118】
例5(PP)
2つの異なるタイプのポリプロピレン(PP)基材であるi)異なる色の未加工PPシート(「均質PP」)及びii)異なる色の充填PP膜(「充填PP」)を基材として使用し、全てコーティングされていなかった。
【0119】
基材をIPAで拭き取り、下塗り剤層(下塗り剤を含まない参照の場合はトップコート)を塗布する直前に、30cm2の大きな基材上で5~10mmの距離で30秒間電極を移動させながら、手持ち式の実験用コロナ処理装置(Electro-technic products社製、モデルBD-20)を使用してコロナ処理した。
【0120】
使用した下塗り剤配合物は、両方とも上記の例に記載されている「配合物A」及び「配合物B」、並びに3%のITXを有するSartomer製モノマーSR9020、NorrishタイプII光開始剤からなる配合物(配合物「C」と呼ばれる)であった。
【0121】
薄い下塗り剤層を、約1μmの厚さの層(1g/m2)で上記のように基材上に塗布した。次いで、例1に記載したのと同じ「Hg」水銀硬化装置中で基材及び下塗り剤を露光したが、一例では、代わりに下塗り剤層を365nm UV LED露光装置で露光した(365nmで3000mJ/cm2、30mW/cm2)。露光後、下塗り剤の表面特性を、例1に記載されるように手袋をはめた指及びスパチュラを使用して検査した。最後に、例1と同じトップコートを22μmロッドアプリケータで塗布し、1400mJ/cm2(UVA)の線量を使用してHg水銀硬化装置で硬化させた。
【0122】
参考として、例1のように厚さ22μmのUV硬化アクリラート系トップコートを塗布し硬化させる前に、コロナ処理基材上に下塗り剤層を塗布しなかった。
【0123】
例1に記載のクロスハッチ試験を用いて評価を行った。
【0124】
その後、試料の一部を沸騰水に2時間浸漬し、乾燥させ、クロスハッチ試験で再試験した。
【表7】
【0125】
充填PP(#26)の暗色基材では、22μmのUE1664のトップコート層は全く硬化しないことに留意されたい。
【0126】
例6(PE)
例4と全く同じ方法(IPAワイプ、コロナ処理、下塗り剤塗布、UV、トップコート塗布及びUV)を使用した別の実験では、Nordbergs Tekniska ABから購入した品質「PE1000 natur」の未加工ポリエチレン(PE)表面を使用した。
【表8】
【0127】
例7(非化学量論の変形)
基材として、前述のように充填PP(暗色)を使用した。
【0128】
下塗り剤層として、配合物A(HDDA及びPETMA)の変形からなる配合物を使用し、チオール基対アクリラート基の比として計算される様々な量の非化学量論を用いた。
【0129】
PP基材を最初にIPAで拭き取り、続いてコロナ処理した(例5に記載したものと全く同じ)。
【0130】
次いで、下塗り剤配合物を厚さ約1μmの層(1g/sqm)に直ちに塗布し、UVAで測定して2×700mJ/cm2の線量でUV水銀灯に曝露した(例1と同じ手順)。各700mJ/cm2(UVA)パスの直後に、例1に記載されているように、表面特性を決定するために、手袋をはめた指及びスパチュラで表面を試験した。その後、厚さ約22μm(22g/sqm)のUVアクリラートトップコートUE1664の層を、ロッドアプリケータを使用して塗布し、UVAで測定して1400mJ/cm2に曝露することによって硬化させた。
【0131】
最後に、例1に記載のクロスハッチ試験を使用してコーティングの接着性を試験した。
【表9】
【0132】
例8(二重結合)
この例では、以下の基材である充填PP(暗色)、BoPET及びPEを使用した(全て前述)。
【0133】
下塗り剤層として、モノマーDVE-3(トリエチレングリコールジビニルエーテル)又はTAOE(テトラ(アリルオキシ)エタン)を使用した。
【0134】
充填PP(暗色)基材を、例5に記載したものと全く同じようにコロナ処理した。BoPET及びPE基材はコロナ処理しなかった。
【0135】
下塗り剤層を約1μm(1g/sqm)の厚さに塗布し、前と同様にHg水銀ランプを使用してUV硬化した(UVAで測定して2×700mJ/cm2)。その後、厚さ約22μmのUVアクリラートUE1664の層を塗布し、UV硬化させた(UVAで測定して1400mJ/cm2)。
【0136】
最後に、上述のクロスハッチ試験を使用してコーティングの接着性を試験した。
【表10】
【0137】
例9
いくつかの異なる材料を基材として使用した。使用した材料は、透明なBo-PET(二軸延伸ポリエチレンテレフタラート)の薄膜である「BoPET膜」、Nordbergs Tekniska ABから購入した透明PET(ポリエチレンテレフタラート)の薄膜(厚さ0.1mm)である「PET膜」、Nordbergs Tekniska ABから購入した白色PET(ポリエチレンテレフタラート)の厚さ2mmのシートである「PET 2mm」、Direktlaminat ABから購入した不透明で光沢のある充填PPのシートである「充填PP」、Nordbergs Tekniska ABから購入したポリエチレン(PE)の薄膜(厚さ0.25mm)である「PE膜」、Nordbergs Tekniska ABから購入した未加工PE(ポリエチレン)の厚さ6mmのシートである「PE 6mm」(品質「PE1000 natur」)、Nordbergs Tekniska ABから購入した透明PMMA(ポリ(メチルメタクリラート))の厚さ2mmのシートである「PMMA 2mm」、及び硬化アクリラート表面である「アクリラート」であった。
【0138】
硬化した「アクリラート」表面は、Direktlaminat ABから購入した灰色メラミンボードを使用し、Mercene Labs製M1814の1μm厚の層を塗布し、中圧水銀灯で600mJ/cm2(UVA)でUV硬化し、Bona AB製UV硬化アクリラート系トップコート(UE1664)12μmを塗布し、中圧水銀灯で1400mJ/cm2(UVA)でUV硬化して、層を完全に硬化させ、乾燥させることによって調製した。
【0139】
上記材料を全て切断して基材とした。乾燥したティシュペーパーでピースをきれいに拭き取った。
【0140】
2つの異なる下塗り剤配合物であるAllnex Belgium SA/NV製49.4重量%エベクリル2221(六官能性芳香族ウレタンアクリラートオリゴマー)、49.4重量%Rapi-Cure DVE-3(トリエチレングリコールジビニルエーテル)、及びLambson Limited製1.6重量%Speedcure-2 ITX(チオキサントンファミリーのNorrishタイプII光開始剤、2-イソプロピルチオキサントン)を使用した「配合物X」、並びにPerstorp Specialty Chemicals ABから購入した48.8重量%トリメチロールプロパンジアリルエーテル90、48.8重量%エベクリル2221、及びLambson Limited製2.4重量%Speedcure-2 ITXを使用した「配合物Y」を調製した。
【0141】
PE又はPPから作成された全ての基材(すなわち、「充填PP」、「PE膜」、及び「PE 6mm」)を、下塗り剤層(下塗り剤を含まない参照の場合はトップコート)を塗布する直前に、30cm2の大きな基材上で5~10mmの距離で30秒間電極を移動させながら、手持ち式の実験用コロナ処理装置(Electro-technic products社製、モデルBD-20)を使用してコロナ処理した。
【0142】
「配合物X」又は「配合物Y」の薄層を、下塗り剤として基材上に約1μmの厚さの層(1g/sqm)で塗布した。下塗り剤層を有する基材を、コンベアベルト、並びにUVA、UVB、UVC及びUVVを照射する固定中圧水銀ランプを含む硬化装置に入れ、600mJ/cm2(UVA)の総線量に曝露した。
【0143】
UV曝露直後の下塗り剤層の表面特性を、手袋をはめた指及びスパチュラを使用して試験して、下塗り剤層が硬化したか否かを決定した。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残す場合、表面は「湿潤」であると判定された。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残さなかった場合、表面は「乾燥」していると判定された。表面の一部が乾燥しており、他の部分が湿っているか、又は非常にかすかな痕跡が観察された場合、表面は「ほぼ乾燥」していると判定された。これらの結果は、以下の表の「表面特性」に示されている。
【0144】
続いて、Bona AB製のUV硬化アクリラート系トップコート(UE1664)のより厚い層を、下塗り剤層の上に22μmロッドアプリケータを使用して塗布し、同じ硬化装置内で1.4J/cm2(UVA)のUV線量を与え、層を完全に硬化させて乾燥させた。
【0145】
コーティング層の基材への接着性は、ISO2409に記載されているクロスカット試験に従って、標準テープ試験(「クロスハッチ試験」)を使用して試験した。手短に言えば、それぞれが約1mm2である領域25個、正方形パターンで、コーティングを貫通して基材に切断が行われる。テープをコーティング上に押し付け、素早く引き離した。得られた損傷は、テープによって除去されたコーティングの量を評価することによって評価され、CH=0が最良の接着性(コーティングの除去なし)であり、CH=5が最悪の接着性(全て又はほぼ全てのコーティングが除去される)である。
【0146】
参考として、厚さ22μmのUV硬化アクリラート系トップコートを塗布し、硬化させ、上記と同様に試験する前に、基材上に下塗り剤層を塗布しなかった。
【0147】
【0148】
上記の表の結果は、様々なポリマー基材上の乾燥又はほぼ乾燥した膜を硬化させる可能性、並びに膜が基材及びその後のトップコートの両方に対する接着性を向上させることを示している。
【0149】
例10、異なるモノマー対
以下のモノマー及びオリゴマーであるAIPE(不飽和が、多官能性アルコールと共反応した無水マレイン酸に由来する不飽和ポリエステル、イタリアのSir Industriale)、スチレン(Sigma Aldrich)、Rapi-Cure DVE-3(トリエチレングリコールジビニルエーテル)「DVE3」、SR350D(トリメチロールプロパントリアクリラート、Arkema)、APE(ペンタエリスリトールアリルエーテル、Perstorp chemicals)、BMI1500(二官能性マレイミド、Caplinq)「BMI」、エベクリル2221(Allnex Belgium SA/NV製多官能性アクリラート)「Eb2221」、SR9020(三官能性アクリラート、Sartomer)、SR238(HDDA、ヘキサンジオールジアクリラート、Arkema)を使用した。これらのモノマー及びオリゴマーを使用して、以下の表に従って重量比で混合した10種類の異なるモノマー混合物を作成した。10個のモノマー混合物全てに、Lambson Limited製2.4重量%Speedcure-2 ITX(光開始剤)を添加し、10個の対応する配合物を作成した。
【表12】
【表13】
全てのパーセンテージは重量による。
【0150】
上記の配合物を厚さ50μmの三菱製PET膜上に厚さ1g/m2で塗布し、下の表に従って硬化させ、ここでNはランプ下のパス数を表し、パスあたり135mJ/cm2(UVA)であった。硬化状態の評価後、AD+(「ほぼ乾燥プラス」の略)は、先の例における乾燥の評価に関する説明に従って膜が完全に乾燥する直前の状態を示している。試料を、22ミクロンロッドを使用してUT7710(Bonaアクリラートトップコート)でコーティングした。先の例と同じ装置を使用してUVAで測定して1.2J/cm2(UVA)でトップコートを硬化させた。
【0151】
結果を以下の表に示す。表に「mJ」と記載されている全ての曝露は、「mJ/cm2(UVA)」を指す。
【表14】
【0152】
この例は、いくつかのモノマー対に対する本発明の適用性を示しており、これらは全て、UV曝露に関する非常に大きな処理ウィンドウ、及びPET箔への非常に良好な接着を特徴としている。光開始剤を有するアクリラートオリゴマー及びアクリラートモノマーからなる配合物8、9、及び10は、配合物をほぼ乾燥状態に硬化した際にトップコートと基材との間の接着性が不十分であり、製造プロセスにおいて乾燥膜が必要とされる際にトップコートへの層間接着に利用される反応性基の単独重合化率が高いことの弊害を示している。
【0153】
例11
例9に従って調製した厚さ50μmの東レ製PET膜上の硬化及び乾燥配合物X膜を、室温の暗所で5ヶ月間保存した。アクリラートトップコートを塗布し、例9に従って硬化させた。結果を以下の表に示す。
【表15】
【0154】
上記の例は、アクリラートトップコートに対する反応性が、室温での長期間の貯蔵期間後に無傷のままであることを示している。
【0155】
例12
下塗り剤に対するUV線量の効果(特に、次のコーティング層への接着に対するUV線量(高線量)の効果)を試験するために、いくつかの異なるUV線量を試験した。
【0156】
Nordbergs Tekniska ABから購入した白色PET(ポリエチレンテレフタラート)の厚さ2mmのシートである「PET 2mm」を小片に切断し、基材として使用した。乾燥したティシュペーパーでピースをきれいに拭き取った。
【0157】
使用した下塗り剤配合物は、Allnex Belgium SA/NV製の49.4重量%エベクリル2221、49.4重量%Rapi-Cure DVE-3、及びLambson Limited製の1.6重量%Speedcure-2 ITXを含有する「配合物X」であった。
【0158】
「配合物X」の薄層を、下塗り剤として基材上に約1μmの厚さの層(1g/sqm)で塗布した。下塗り剤層を有する基材を、コンベアベルト、並びにUVA、UVB、UVC及びUVVを照射する固定中圧水銀ランプを含む硬化装置に入れ、以下の表に示すように異なるUV線量に曝露した。
【0159】
UV曝露直後の下塗り剤層の表面特性を、手袋をはめた指及びスパチュラを使用して試験して、下塗り剤層が硬化したか否かを決定した。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残す場合、表面は「湿潤」であると判定された。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残さなかった場合、表面は「乾燥」していると判定された。表面の一部が乾燥しており、他の部分が湿っているか、又は非常にかすかな痕跡が観察された場合、表面は「ほぼ乾燥」していると判定された。これらの結果は、以下の表の「表面特性」の下に示されている。
【0160】
続いて、Bona AB製のUV硬化アクリラート系トップコート(UE1664)のより厚い層を、下塗り剤層の上に22μmロッドアプリケータを使用して塗布し、同じ硬化装置内で1.4J/cm2(UVA)のUV線量を与え、層を完全に硬化させて乾燥させた。
【0161】
コーティング層の基材への接着性は、ISO2409に記載されているクロスカット試験に従って、標準テープ試験(「クロスハッチ試験」)を使用して試験した。手短に言えば、それぞれが約1mm2である領域25個、正方形パターンで、コーティングを貫通して基材に切断が行われる。テープをコーティング上に押し付け、素早く引き離した。得られた損傷は、テープによって除去されたコーティングの量を評価することによって評価され、CH=0が最良の接着性(コーティングの除去なし)であり、CH=5が最悪の接着性(全て又はほぼ全てのコーティングが除去される)である。
【0162】
参考として、厚さ22μmのUV硬化アクリラート系トップコートを塗布し、硬化させ、上記と同様に試験する前に、基材上に下塗り剤層を塗布しなかった。
【0163】
【0164】
上記の表の結果は、下塗り剤が膜を形成することができ、膜形成である量を超えて大量の過剰なUVに耐えることができ、それでもトップコートへの良好な接着を提供することができることを示している。
【0165】
例13、いくつかの異なる基材
いくつかの異なる一般的なプラスチックを基材として使用し、Norbergs Tekniska ABから以下の
PPO(ポリフェニレンオキシド)品質「灰色がかっている青色6mm」、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマー)品質「白色2mm」、PVC-XT(押出ポリ塩化ビニル)品質「灰色1mm」、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)品質「白色2mm」、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)品質「自然カレンダー加工2mm」、PMMA(ポリメチルメタクリラート)「透明4mm」及びPC(ポリカルボナート)品質「透明1mm」を得た。
【0166】
PS(ポリスチレン)の試料を、VWRから得た150mmの大きなポリスチレン製ペトリ皿の蓋から切り出した。
【0167】
UT7710への良好な接着性を有する基材の上にUT7710(Bonaアクリラートトップコート)の厚さ12μmの層を塗布し、中圧水銀ランプから1.4mJ/cm2(UVA)の線量で硬化させることによって、アクリラート表面を調製した。
【0168】
使用前にリントフリー紙で基材を拭き取ったが、他の洗浄又は表面活性化は行わなかった。配合物Yを約1μmの厚さの層(1g/m2)で塗布した。
【0169】
コンオベアベルト、並びにUVA、UVB、UVC及びUVVを照射する固定中圧水銀ランプを含む装置を使用して、下塗り剤層が硬化された基材。下塗り剤層を有する基材を硬化装置に複数回通し、各パスで下塗り剤及び基材を135mJ/cm2(UVA)に曝露した。各パス(パス1~6)の後、下塗り剤の表面特性を、手袋をはめた指及びスパチュラを使用して上記の例と同様に評価した。
【0170】
以下の表では、「W」は「湿潤」を略し、「AD」は「ほぼ乾燥」を略し、「D」は「乾燥」を略し、「AD+」は「ほぼ乾燥プラス」を略し、すなわち「ほぼ乾燥」と「乾燥」のちょうど間の状態である。
【0171】
6回のパス又は810mJ/cm2(UVA)では、全ての試料が乾燥しているか、又はほぼ乾燥しており、UT7710(Bonaアクリラートトップコート)を22ミクロンロッドを使用して塗布し、1.4J/cm2(UVA)で硬化させ、クロスハッチを評価した。別の組の試料を二倍の線量(1620mJ/cm2 UVA)に供し、処理及びクロスハッチで試験した。参照として、以下の表で「下塗り剤なし」と呼ばれる、配合物Yの前処理なしで、基材をUT7710でコーティングした。二倍UV線量を用いた実験、及び下塗り剤(Y前処理)を用いない参照は、全く同じトップコートを有し、これを同じ方法で塗布した。
【0172】
結果を以下の表に示す。表に「mJ」と記載されている全ての曝露は、「mJ/cm2(UVA)」を指す。
【表17】
【0173】
この例は、研磨剤、溶媒又はコロナ前処理を必要とせずに、いくつかのプラスチックに良好な効果を示す。これは、ほとんどの基材タイプでの曝露過多に耐える能力を示す。乾燥の進行はまた、既にAD状態が多くの工業プロセスに適合するため、過度な曝露及び過小な曝露の両方に耐性がある非常に広い処理ウィンドウを示している。
【0174】
例14
下塗り剤に対するUV線量の効果(特に、基材及び次のコーティング層への接着に対するUV線量の効果)を試験するために、いくつかの異なるUV線量を試験した。
【0175】
Nordbergs Tekniska ABから購入した厚さ1mmの透明PC(ポリカルボナート)「PC」を小片に切断し、基材として使用した。乾燥したティシュペーパーでピースをきれいに拭き取った。
【0176】
使用した下塗り剤配合物は、Allnex Belgium SA/NV製の49.4重量%エベクリル2221、49.4重量%Rapi-Cure DVE-3、及びLambson Limited製の1.6重量%Speedcure-2 ITXを含有する「配合物X」であった。
【0177】
「配合物X」の薄層を、下塗り剤として基材上に約1μmの厚さの層(1g/sqm)で塗布した。下塗り剤層を有する基材を、コンベアベルト、並びにUVA、UVB、UVC及びUVVを照射する固定中圧水銀ランプを含む硬化装置に入れ、以下の表に示すように異なるUV線量に曝露した。
【0178】
UV曝露直後の下塗り剤層の表面特性を、手袋をはめた指及びスパチュラを使用して試験して、下塗り剤層が硬化したか否かを決定した。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残す場合、表面は「湿潤」であると判定された。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残さなかった場合、表面は「乾燥」していると判定された。表面の一部が乾燥しており、他の部分が湿っているか、又は非常にかすかな痕跡が観察された場合、表面は「ほぼ乾燥」していると判定された。これらの結果は、以下の表の「表面特性」の下に示されている。
【0179】
続いて、Bona AB製のUV硬化アクリラート系トップコート(UE1664)のより厚い層を、下塗り剤層の上に22μmロッドアプリケータを使用して塗布し、同じ硬化装置内で1.4J/cm2(UVA)のUV線量を与え、層を完全に硬化させて乾燥させた。
【0180】
コーティング層の基材への接着性は、ISO2409に記載されているクロスカット試験に従って、標準テープ試験(「クロスハッチ試験」)を使用して試験した。手短に言えば、それぞれが約1mm2である領域25個、正方形パターンで、コーティングを貫通して基材に切断が行われる。テープをコーティング上に押し付け、素早く引き離した。得られた損傷は、テープによって除去されたコーティングの量を評価することによって評価され、CH=0が最良の接着性(コーティングの除去なし)であり、CH=5が最悪の接着性(全て又はほぼ全てのコーティングが除去される)である。
【0181】
参考として、厚さ22μmのUV硬化アクリラート系トップコートを塗布し、硬化させ、上記と同様に試験する前に、基材上に下塗り剤層を塗布しなかった。
【0182】
【0183】
上記の表の結果は、下塗り剤が広範囲のUV線量にわたって良好に機能することを示している。
【0184】
例15
不活性条件下で下塗り剤の概念を試験するために、密閉箱Addixx Inert Box(ドイツ、ブディンゲンのAddixx SpecialitiesのモデルIB-K162504SR-UF石英窓)を使用した。Addixx Inert Boxは、その内容物のUV照射を可能にするための上蓋の石英窓と、大気ガスを不活性ガスでパージすることを可能にするための2つのバルブとを備えている。
【0185】
化学窒素(スウェーデンのLinde Industrigaser製の格別清浄な窒素ガス、5ppm未満のO2及び湿度)をAddixx Inert Boxに接続し、その下流に、酸素検出器(センサGGO381を備えたGreisinger GMH3692酸素検出器)を配置した別の密閉ボックスを配置した。
【0186】
Allnex Belgium SA/NV製の50重量%エベクリル2221及び50重量%Rapi-Cure DVE-3(トリエチレングリコールジビニルエーテル)を含有する下塗り剤配合物「配合物Z」を調製した。配合物Zの薄層を、厚さ50μmの東レ製PET膜上に厚さ約1μmの層(1g/sqm)で塗布した。下塗り剤層を有するPET膜をAddixx Inert Boxに入れ、これを酸素検出器の示度が0.5%未満(5000ppm未満)になるまで数分間窒素ガスでパージし、その後バルブを閉じた。次いで、プライミングされたPET膜を含む窒素充填Addixx Inert Boxを、コンベアベルト、並びにUVA、UVB、UVC及びUVVを照射する固定中圧水銀ランプを含む硬化装置に入れた。異なるUV線量を試験した。
【0187】
UV曝露直後の下塗り剤層の表面特性を、手袋をはめた指及びスパチュラを使用して試験して、下塗り剤層が硬化したか否かを決定した。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残す場合、表面は「湿潤」であると判定された。手袋をはめた指又はスパチュラが下塗り剤層に痕跡を残さなかった場合、表面は「乾燥」していると判定された。表面の一部が乾燥しており、他の部分が湿っているか、又は非常にかすかな痕跡が観察された場合、表面は「ほぼ乾燥」していると判定された。手袋をはめた指の接触に対して表面が粘着性である場合、表面は「粘着性」であると判定された。これらの結果は、以下の表の「表面特性」に示されている。
【0188】
続いて、Bona AB製のUV硬化アクリラート系トップコート(UT7710)のより厚い層を、下塗り剤層の上に22μmロッドアプリケータを使用して塗布し、同じ硬化装置内で、大気条件で1.4J/cm2(UVA)のUV線量を与え、層を完全に硬化させて乾燥させた。
【0189】
コーティング層の基材への接着性は、ISO2409に記載されているクロスカット試験に従って、標準テープ試験(「クロスハッチ試験」)を使用して試験した。手短に言えば、それぞれが約1mm2である領域25個、正方形パターンで、コーティングを貫通して基材に切断が行われる。テープをコーティング上に押し付け、素早く引き離した。得られた損傷は、テープによって除去されたコーティングの量を評価することによって評価され、CH=0が最良の接着性(コーティングの除去なし)であり、CH=5が最悪の接着性(全て又はほぼ全てのコーティングが除去される)である。
【0190】
参考として、厚さ22μmのUV硬化アクリラート系トップコートを塗布し、硬化させ、上記と同様に試験する前に、PET膜上に下塗り剤層を塗布しなかった。
【0191】
【0192】
上記の表の結果は、下塗り剤が不活性条件下で広範囲のUV線量にわたって良好に機能することを示している。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材をコーティングする方法であって、
a)芳香環、硫黄、及び過酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの化学基を含む基材であって、前記少なくとも1つの化学基の少なくとも一部が前記基材の表面にある、基材を提供することと、
b)前記基材表面の少なくとも一部を、
i)少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物であって、水素を引き抜くことができる化学基を含んでもよい、化合物と、
ii)第1のモノマーM
1及び第2のモノマーM
2を含む混合物であって、前記モノマーが重合反応を受けて、前記基材に共有結合したコポリマーを形成することができ、
比r
1
及びr
2
の少なくとも一方が0.45より小さく、k
11及びk
22の一方が他方よりも少なくとも10倍大きく、但し、r
1=r
2=0の場合、k
11及びk
22に関する前記条件が適用されないことを除き、r
1=k
11/k
12及びr
2=k
22/k
21であり、
式中、k
11は、モノマーM
1を成長中のコポリマー鎖~M
1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k
12は、モノマーM
2を成長中のコポリマー鎖~M
1
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k
21は、モノマーM
1を成長中のコポリマー鎖~M
2
*に加える成長反応の成長速度定数であり、
式中、k
22は、モノマーM
2を成長中のコポリマー鎖~M
2
*に加える成長反応の成長速度定数である、混合物とのうちの1つと、を接触させることと、
第1のモノマーM
1
及び前記第2のモノマーM
2
が、以下の選択肢、
i)M
1
はアクリラートであり、M
2
はマレアートであり、
ii)M
1
はアクリラートであり、M
2
はビニルエーテルであり、
iii)M
1
はメタクリラートであり、M
2
はビニルエーテルであり、
iv)M
1
はアクリラートであり、M
2
はアリルエーテルであり、
v)M
1
はメタクリラートであり、M
2
はマレアートであり、
vi)M
1
はメタクリラートであり、M
2
はマレイミドであり、
vii)M
1
はアクリラートであり、M
2
はマレイミドであり、
viii)M
1
はビニルエーテルであり、M
2
はマレアートであり、
ix)M
1
はスチレンであり、M
2
はマレアートであること
の1つであり、
c)化学線を用いて反応を開始して、前記基材の表面における前記少なくとも1つの化学基と、i)前記化合物又はii)前記モノマーM
1及びM
2との反応によって共有結合を形成し、その結果、前記基材表面に共有結合した、i)ポリマー又はii)コポリマーが形成されることと、
f)前記基材表面にコーティング及びシートの少なくとも一方を塗布することと、
g)前記少なくとも1つのコーティングを硬化させることと、
の連続的な工程を含む、方法。
【請求項2】
工程c)の後に、共有結合を形成するために反応していない前記i)化合物又はii)前記混合物の少なくとも一部を除去する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、ポリオレフィン、芳香族基を含有するポリマー、エーテル基を含有するポリマー、及び硫黄を含有するポリマーから選択される群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリメチルメタクリラート(PMMA)、ポリp-フェニレンオキシド(PPO)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、及びポリカルボナート(PC)からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記表面が工程b)の前に、コロナ処理、プラズマ処理及び火炎処理からなる群から選択される少なくとも1つで処理される、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物中の前記少なくとも1つの炭素-炭素二重結合に隣接する電子吸引基が存在する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物中の前記少なくとも1つの炭素-炭素二重結合の両側に電子吸引基が存在する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
i)前記化合物又はii)前記混合物が、前記基材表面と接触する前に少なくとも1つの溶媒に溶解される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
i)前記化合物又はii)前記混合物が、前記基材表面と接触する前に溶媒に溶解又は希釈されない、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材表面が、工程b)において少なくとも1つのチオール基を含む少なくとも1つの化合物と更に接触する、請求項1から
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)が、0.05≦r≦20を満たす、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)が、0.2≦r≦5を満たす、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
工程b)におけるチオール基の数と炭素-炭素二重結合の数との比(r)が、0.3≦r≦0.9及び1.1≦r≦3のうちの一方を満たす、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
工程b)において、NorrishタイプII光開始剤を前記基材表面と接触させる、請求項1から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程b)における前記接触が、0.2μm~20μmの間隔の厚さを有する層の塗布によって行われる、請求項1から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程b)で塗布されるi)前記化合物又はii)前記混合物が酸性混合物中に提供される、請求項1から
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程b)で追加される全ての成分が単一の配合物で提供される、請求項1から
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記配合物が酸性であり、前記化合物に加えてNorrishタイプII光開始剤を含む、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
i)前記化合物又はii)前記混合物を含む塗布層の厚さ及び前記化学線の波長における前記塗布層の吸光度が、工程c)で前記反応が依然として開始されるように適合される、請求項
17に記載の方法。
【請求項20】
照射がUV放射によって行われる、請求項1から
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程b)における前記表面が、あるパターンで前記化合物と接触する、請求項1から
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記照射がパターンで行われる、請求項1から
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記化合物が、工程b)においてインクジェットによって前記基材表面の少なくとも一部と接触している、請求項1から
22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも工程c)が不活性雰囲気中で行われる、請求項1から
23のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】