(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】固形エポキシ又はフェノキシ樹脂のスプレードライ法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20231201BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231201BHJP
C08L 71/10 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CEZ
C08J3/12 CFC
C08L63/00 Z
C08L71/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023527677
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 US2021058147
(87)【国際公開番号】W WO2022098927
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509282365
【氏名又は名称】ハンツマン・アドバンスド・マテリアルズ・アメリカズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライルズ,ザック
(72)【発明者】
【氏名】ルサク,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】シュライバー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】トマシュ,セス
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA46
4F070AA52
4F070AB10
4F070AC12
4F070AC32
4F070AC36
4F070AC38
4F070AC39
4F070AC40
4F070AC43
4F070AC47
4F070AE28
4F070CB01
4F070CB04
4F070CB15
4F070DA34
4F070DC07
4F070DC12
4F070DC13
4J002CD011
4J002CD021
4J002CD031
4J002CD051
4J002CD061
4J002CD071
4J002CD131
4J002CH081
4J002GH00
4J002GJ01
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
高分子量固形エポキシ又はフェノキシ樹脂を、アルコール溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させる。得られる溶液を、閉サイクルスプレードライヤー中でスプレードライして、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂を形成させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の形成法であって、以下:
固形エポキシ樹脂及び固形フェノキシ樹脂からなる群より選択される固形熱可塑性樹脂を、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させて、スラリーを形成させることと、並びに
前記スラリーをスプレードライして、前記乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物を形成させることと、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記固形エポキシ樹脂は、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ビスフェノールAF系エポキシ樹脂、o-クレゾールnovolakエポキシ樹脂、フェノールnovolakエポキシ樹脂、改質フェノールエポキシ樹脂、ナフタレンエポキシ樹脂、トリフェノールメタンエポキシ樹脂、アルキル改質トリフェノールメタンエポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンエポキシ樹脂、グリシジルアミンエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂、水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、スチルベンエポキシ樹脂、トリスフェノール-メタントリグリシジルエーテル、イソシアネート改質ビスフェノールA系エポキシ樹脂、イソシアネート改質ビスフェノールF系エポキシ樹脂、イソシアネート改質ビスフェノールAF系エポキシ樹脂、イソシアネート改質ビスフェノールA novolakエポキシ樹脂、ビスフェノールF novolakエポキシ樹脂、ビスフェノールAF novolakエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固形フェノキシ樹脂は、以下の構造式を有し
【化1】
式中、nは、約8~約400の整数であり、及びXは、以下
【化2】
から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロトン性溶媒は、C
1-C
6-アルカノール、C
2-C
4-アルカンジオール、エーテルアルカノール、水、酢酸、ギ酸、及びそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記非プロトン性溶媒は、芳香族溶媒、アルカン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、及びそれらの混合物から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ブレンドは、前記プロトン性溶媒及び非プロトン性溶媒を、重量比(プロトン性溶媒:非プロトン性溶媒)約30:70(w/w)~約70:30(w/w)で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スラリーは、前記スラリーの合計重量に基づき、約5重量%~約10重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記固形フェノキシ樹脂は、二価フェノール化合物とエピクロロヒドリンの縮合反応により、又は二価フェノール化合物と二官能性エポキシ樹脂の重付加反応により、得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記固形フェノキシ樹脂は、反応溶媒の存在下で得られる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記反応溶媒は、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン.、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、又はトルエンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記スラリーは、閉サイクルスプレードライ装置中で、スプレードライされる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法で得られる乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物であって、エポキシ樹脂粒子及びフェノキシ樹脂粒子から選択される複数の粒子を含む、前記乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記複数の粒子は、平均粒径が約150μm以下である、請求項12に記載の乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
前記平均粒径は、約20μm以下である、請求項13に記載の乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
前記乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物は、残存水分量が約2%(w/w)以下である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
コーティング剤、又は接着剤又はプラスチック、又は複合材料、又は電子部品における、請求項12に記載の乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の使用。
【請求項17】
乾燥粉末状熱可塑性樹脂の形成法であって、以下:
固形フェノキシ樹脂から選択される固形熱可塑性樹脂を、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させて、スラリーを形成させることと、及び
前記スラリーをスプレードライして、前記乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物を形成させることと、を含み、
前記乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物は、平均粒径が約3μm~約25μmであり、及び残存水分量が約0.01%(w/w)~約1.5%(w/w)である複数のフェノキシ樹脂粒子を含み、並びに前記スプレードライすることは、閉サイクルスプレードライ装置で行われる、
前記方法。
【請求項18】
粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の形成法であって、以下:
平均分子量が少なくとも約1000ダルトンである固形エポキシ又はフェノキシ樹脂を用意することと、
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂を、アルコール溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させて、得られる溶液を形成させることと、並びに
前記得られる溶液を、閉サイクルスプレードライヤー中でスプレードライして、前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂を形成させることと、
を含み、
前記アルコール溶媒は、2個~6個の炭素原子を有し、前記ブレンドは、前記アルコール溶媒対前記極性非プロトン性溶媒の重量比が約30:70~約70:30であり、及び前記得られる溶液は、得られる溶液の合計重量に基づき、約1重量%~約10重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂を有する、
前記方法。
【請求項19】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均分子量が少なくとも約10,000ダルトンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均分子量が少なくとも約30,000ダルトンである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均分子量が少なくとも約50,000ダルトンである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記アルコール溶媒対前記非プロトン性溶媒の前記比は、約40:60~約60:40である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記アルコール溶媒対前記非プロトン性溶媒の前記比は、約50:50である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記アルコール溶媒は、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、及びヘキサノールからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記アルコール溶媒は、ブタノールである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記非プロトン性溶媒は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、及びテトラヒドロフランからなる群より選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記非プロトン性溶媒は、トルエンである、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
前記得られる溶液は、約5重量%~約10重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有する、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の合計重量に基づき、約5重量%以下の残存溶媒を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の合計重量に基づき、約1.5重量%以下の残存溶媒を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の合計重量に基づき、約0.5重量%以下の残存溶媒を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の合計重量に基づき、約0.3重量%以下の残存溶媒を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均粒径が約20μm以下である、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均粒径が約12μm以下である、請求項18に記載の方法。
【請求項35】
粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂であって、以下:
約5重量%以下の残存溶媒と、及び
固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は平均分子量が少なくとも約1000ダルトンである、少なくとも約95重量%の固形エポキシ又はフェノキシ樹脂と、
を含み、そして、
平均粒径が約20μm以下であり、並びに前記重量%は、前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の合計重量に基づくものである、
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項36】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、約1.5重量%以下の残存溶媒を含む、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項37】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、約0.5重量%以下の残存溶媒を含む、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項38】
前記粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、約0.3重量%以下の残存溶媒を含む、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項39】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均分子量が少なくとも約10,000ダルトンである、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項40】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均分子量が少なくとも約30,000ダルトンである、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項41】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均分子量が少なくとも約50,000ダルトンである、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【請求項42】
前記固形エポキシ又はフェノキシ樹脂は、平均粒径が約12μm以下である、請求項35に記載の粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第63/111,325号、出願日2020年11月9日、の利益を請求する。上記出願の内容は、本明細書中参照として援用される。
【0002】
本出願は、固形エポキシ又はフェノキシ樹脂のスプレードライ法に関する。より詳細には、高分子量固形エポキシ又はフェノキシ樹脂を、アルコール溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させ、得られる溶液を、閉サイクルスプレードライヤーでスプレードライして、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂を形成させる。
【背景技術】
【0003】
高分子量エポキシ又はフェノキシ樹脂は、熱可塑性樹脂と見なされる場合が多く、典型的には、射出成形、押出し、コーティング剤、及び接着剤等の用途に使用される。エポキシ又はフェノキシ樹脂を溶解させる一般的な有機溶媒は、メチルエチルケトン(MEK)である。しかしながら、MEKに溶解させたエポキシ又はフェノキシ樹脂は、上手くスプレードライできない。同様に、過去において他の固形エポキシ又はフェノキシ樹脂溶液でも、スプレードライ法はうまくいかなかった。
【0004】
粉末化樹脂は、スプレードライ法の代替として、重合体を低温で粉砕することにより形成されてきた。しかしながら、得られる平均粒径は、約200μmであり、これは、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂に望まれるものより相当大きいうえに、このプロセスは、エネルギーを大量消費し高価である。
【0005】
これまで実務では典型的に、高分子量エポキシ又はフェノキシ樹脂を、溶媒の存在下で合成し、溶液を水で洗って、反応中に形成された塩を除去し、溶媒を除去して、固形ペレットを得てきた。溶媒の除去は、高温及び真空下の薄膜装置、例えば、Filmtruder(登録商標)装置等を利用することで達成されてきた。しかしながら、このやり方で除去できる溶媒の量には限度があり、プロセスの初動は、典型的には、廃棄物として処理しなければならない濃色生成物及び炭化材料の初期期間を招いてきた。そのうえさらに、ペレットは、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂ほど有用ではない。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、概して、固形エポキシ樹脂及び固形フェノキシ樹脂からなる群より選択される固形熱可塑性樹脂を、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させて、スラリーを形成させ、スラリーをスプレードライして、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物を形成させることによる、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の形成法を提供する。本開示は、上記方法により得られる乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物も提供し、この熱可塑性樹脂組成物は、エポキシ樹脂粒子及びフェノキシ樹脂粒子から選択される、平均粒径が約150μm以下である複数の粒子を含有する。本開示の乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物は、例えば、コーティング剤、接着剤、プラスチック、複合材料、及び電子部品に、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の実施形態に従う粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の形成法を解説する流れ図である;及び
【
図2】本開示の実施形態で使用するためのスプレードライ装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有するものとする:
【0009】
「含む(comprising)」という用語及びその派生語は、任意の追加要素、工程、又は手順について、それらが本明細書中開示されているか否かに関わらず、その存在を排除することを意図しない。どのような誤解も避ける目的で、含む(comprising)」という用語の使用を通じて本明細書中特許請求される全ての組成物は、反対する記述がない限り、任意の追加の添加剤又は化合物を含むことができる。対照的に、「~から本質的になる(consisting essentially of」という用語は、本明細書中登場する場合、任意の他の要素、工程、又は手順について、それらが操作性に必須ではない場合を除いて、それらをどのような後続の列挙範囲からも排除し、「~からなる(consisting of)」という用語は、使用される場合には、具体的に描写又は列挙されていない任意の要素、工程、又は手順を排除する。「又は」という用語は、特に記載がない限り、列挙される要員を個別に指すとともに、任意の組み合わせでも指す。
【0010】
冠詞の「a」及び「an」は、本明細書中、その冠詞の文法上の目的語が、1つ又は1つより多いこと(すなわち、少なくとも1つであること)を指すのに使用される。例として、「プロトン性溶媒(a protic solvent)」は、1種のプロトン性溶媒又は1種より多いプロトン性溶媒を意味する。「1つの実施形態において」、「1つの実施形態に従って」等の語句は、一般に、その語句に続く特定の特長、構造、又は特徴が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれており、及び本開示の実施形態の1つより多くにも含まれている可能性があることを意味する。重要なことは、そのような語句が、必ずしも同一態様を指してはないことである。本明細書中、ある要素若しくは特長が、含まれている又はある特徴を有することを記述するのに「may」、「can」、「could」、又は「might」が使用される場合、その特定の要素若しくは特長は、含まれている又はある特徴を有することを必須としない。
【0011】
「約」という用語は、本明細書中使用される場合、値又は範囲にある度合いの変動性を許容することを可能にし、例えば、その度合いは、表示される値の又は表示される範囲限度の、10%以内、5%以内、又は1%以内が可能である。
【0012】
「好適である」及び「好ましくは」という用語は、ある特定の状況下で、ある特定の利益をもたらす可能性がある実施形態を指す。しかしながら、他の実施形態もまた、同じ又は異なる状況下で、好適である可能性がある。そのうえさらに、1つ又は複数の好適な実施形態という記述は、他の実施形態が有用ではないことを暗示するものではなく、本開示の範囲から他の実施形態を排除することを意図しない。
【0013】
「任意選択の」又は「任意選択で」という用語は、続いて記載される事象、状況、又は材料が生じる又は存在する場合もあれば生じない又は存在しない場合もあること、並びにその記載には、当該事象、状況、又は材料が生じる又は存在する場合及び生じない又は存在しない場合が含まれること、を意味する。
【0014】
範囲形式で表現される値は、範囲の限度として明記される数値を含むだけでなく、その範囲内に包含される全ての個別の数値又はサブ範囲も、各数値及びサブ範囲が明記されているかのように含まれるとして、柔軟な様式で解釈されなければならない。例えば、1~6等の範囲は、1~3、2~4、3~6等のサブ範囲、並びにその範囲内に含まれる個別の数字、例えば、1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示していると見なされなければならない。これは、範囲の幅に関わらず当てはまる。
【0015】
「実質的に含まない」という用語は、ある組成物であって、その組成物中に、特定の化合物又は部分が、組成物に対して現実的な影響を有さない量で存在するもの、を指す。実施形態によっては、「実質的に含まない」は、ある組成物であって、その組成物中に、特定の化合物又は部分が、組成物の合計重量に基づいて、2重量%未満、又は1重量%未満、又は0.5重量%未満、又は0.1重量%未満、又は0.05重量%未満、又は更には0.01重量%未満の量で存在するもの、あるいはその特定の化合物又は部分の量がその化合物中に存在しないもの、を指すことができる。
【0016】
「乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物」という用語は、典型的には、ある組成物であって、特長の中でも特に、その残存水分量を特徴とするものを指し、この残存水分量は、粉末の流動性を低減又は阻害する可能性のある凝集体の形成を防ぐ目的で、好ましくは十分に低い。本明細書中使用される場合、「残存水分量(又は「残存水分」)」という用語は、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物中に存在する溶媒の合計量を指す。残存水分の合計量は、当該分野で既知である任意の適切な方法、例えば、カールフィッシャー滴定法又は熱重量分析(TGA)等を用いて特定することができる。1つの実施形態において、本発明による乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の残存水分量は、10%(w/w)以下、又は9%(w/w)以下、又は8%(w/w)以下、又は7%(w/w)以下、又は6%(w/w)以下、又は5%(w/w)以下、又は4%(w/w)以下、又は3%(w/w)以下、又は2%(w/w)以下、又は1%(w/w)以下、又は0.5%(w/w)以下、又は更には0.25%(w/w)以下である。更なる実施形態において、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の残存水分量は、約0.01%(w/w)~約5%(w/w)、約0.01%(w/w)~約3%(w/w)、約0.01%(w/w)~約2%(w/w)、約0.01%(w/w)~約1.5%(w/w)、約0.01%(w/w)~約1.25%(w/w)、約0.01%(w/w)~約1%(w/w)、約0.01%(w/w)~約0.75%(w/w)の範囲である。
【0017】
「平均粒径」という用語は、本明細書中使用される場合、最小の粒子から最大の粒子への粒径順で粒子を累積させていく分布曲線において粒子の50%に相当する粒径を指す。本明細書では、累積粒子の合計数は100%である。平均粒径は、当業者に既知の方法により測定することができる。例えば、平均粒径は、粒径分析装置で測定することができ、又は透過型電子顕微鏡(TEM)若しくは走査型電子顕微鏡(SEM)画像を用いて測定することができる。他の測定法の例として、平均粒径は、動的光散乱を利用する測定装置で測定することができる。この方法に従って、あらかじめ定めた寸法範囲内の粒子の数を計数することができ、そこから平均粒径を計算することができる。
【0018】
図1で解説するとおり、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂を形成する例示方法は、固形エポキシ又はフェノキシ樹脂を用意すること(10)と、固形エポキシ又はフェノキシ樹脂を、アルコール溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させること(20)と、及び得られる溶液を閉サイクルスプレードライヤーにおいてスプレードライすることで粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂を形成すること(30)と、を含む。閉サイクルスプレードライヤーが工程30で使用されるが、その理由は、乾燥チャンバー中で溶媒を霧化するため、不活性雰囲気が望ましいからである。
【0019】
例示方法は、平均分子量が少なくとも1000ダルトン、好ましくは少なくとも10,000ダルトン、より好ましくは少なくとも30,000ダルトン、より好ましくは少なくとも50,000ダルトン、及び最も好ましくは約50,000~約55,000ダルトンである高分子量固形樹脂に関する。
【0020】
例示方法の工程20のアルコール溶媒の分子は、2~6個の炭素原子を有する。アルコール溶媒の例として、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペン
タノール、及びヘキサノールが挙げられる。好適なアルコール溶媒は、ブタノールである。
【0021】
例示方法の工程20の非プロトン性溶媒の例として、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、及びテトラヒドロフランが挙げられる。好適な非プロトン性溶媒は、トルエンである。
【0022】
例示方法の工程20のブレンドにおけるアルコール溶媒対非プロトン性溶媒の重量比は、例えば、約30:70(w/w)~約70:30(w/w)、好ましくは約40:60(w/w)~約60:40(w/w)、及びより好ましくは約50:50(w/w)が可能である。
【0023】
例示方法の工程20で得られる溶液は、得られる溶液の合計重量に基づき、例えば、約1重量%~約10重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂、好ましくは約5重量%~約10重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有する。
【0024】
例示方法から得られる粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、粉末化エポキシ樹脂又はフェノキシ樹脂の合計重量に基づき、例えば、約5重量%以下の残存溶媒、好ましくは約1.5重量%以下の残存溶媒、より好ましくは約0.5重量%以下の残存溶媒、及び最も好ましくは約0.3重量%以下の残存溶媒を含む。
【0025】
例示方法から得られる粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の平均粒径は、例えば、約20μm以下、及び好ましくは約12μm以下である。
【0026】
これまで薄膜装置を利用して高熱及び真空下で溶媒を除去することにより典型的に得られていた粒子と比べた場合、スプレードライ法は、溶媒の霧化により表面積が大幅に増大し、蒸発効率が改善されるため、それより低い温度で溶媒を除去することを可能にする。溶媒の選択が、過去において上手くいかなかった固形エポキシ又はフェノキシ樹脂溶液をスプレードライする能力において大きな違いをもたらすと思われる。アルコール溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させたエポキシ又はフェノキシ樹脂をスプレードライすることにより、「糸引きの発生(stringing)」なしにスプレードライヤーを通して処理することが可能になり、比較的小さい粒径の粉末が生成する。
【0027】
例示方法のスプレードライ工程30から得られる粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、これまで典型的であった実務から得られるペレットに比べて、非常に有利である。スプレードライ法による溶媒除去は、薄膜装置を利用することに比べて熱曝露を低減する。このことは、熱曝露から生じる黒斑(black specks)及び黄着色がそれ以上形成されないことから、大幅に品質を改善する。そのうえさらに、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、これまで典型的であった実務から得られるペレットよりも速く、例えば、溶媒、液状エポキシ樹脂、アミン、アクリレート、及びポリオールに溶解する。これは、製造上好都合であり、水系及び溶媒系誘導体生成のサイクルタイムも減少させる。具体例として、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂は、ペレットのほぼ2倍速く溶解し、誘導体生成における40%削減となる。また、粉末化エポキシ又はフェノキシ樹脂の残存溶媒のパーセンテージが低くなることから、残存溶媒に関連した将来の規制のリスクに関する懸念が低減する。この懸念は、電子機器、複合材料、及び熱可塑性接着剤等の市場に関する要因である。
【0028】
別の実施形態に従って、提供されるのは、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の形成方法であり、本方法は、固形エポキシ樹脂及び固形フェノキシ樹脂からなる群より選択される固形熱可塑性樹脂を、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒のブレンドに溶解させて、スラリ
ーを形成させる工程と、スラリーをスプレードライして乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物を形成させる工程と、を含む。本発明による方法は、バルクで行うことも、連続プロセスとして行うことも可能である。1つの実施形態において、本方法は、連続プロセスとして行われる。
【0029】
ある実施形態において、固形熱可塑性樹脂は、固形エポキシ樹脂である。固形エポキシ樹脂は、室温(25℃)で、固体であることも半固体であることも可能であり、温度が上昇した場合、軟化することも可能であるが、粘度の急激な降下を提示しない。1つの実施形態において、固形エポキシ樹脂の分子量は、約1000g/mol以上、又は約2000g/mol以上、又は約5000g/mol以上、又は約10,000g/mol以上が可能である。別の実施形態において、固形エポキシ樹脂は、約60,000g/mol以下、又は約50,000g/mol以下、又は約40,000g/mol以下、又は約30,000g/mol以下の分子量を有することができる。更に別の実施形態において、固形エポキシ樹脂は、約1000g/mol~約55,000g/mol、又は約2500g/mol~約45,000g/mol、又は約5000g/mol~約35,000g/mol、又は約10,000g/mol~約25,000g/molの分子量を有することができる。
【0030】
更に別の実施形態において、固形エポキシ樹脂は、約250g/eq~約3000g/eq、又は約300g/eq~約2000g/eq、又は約325g/eq~約1500g/eq、又は約350g/eq~約1200g/eq、又は約360g/eq~約1100g/eq、又は約500g/eq~約1000g/eqのエポキシ等価重量(EEW)を有することができる。他の実施形態において、室温での固形エポキシ樹脂の軟化点は、約40℃~120℃、又は約50℃~110℃、又は約60℃~100℃が可能である。
【0031】
様々な固形エポキシ樹脂が、それらが室温で固体又は半固体であるかぎり、特定の制限なく使用可能である。例として、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂、ビスフェノールAF系エポキシ樹脂、o-クレゾールnovolakエポキシ樹脂、フェノールnovolakエポキシ樹脂、改質フェノールエポキシ樹脂、ナフタレンエポキシ樹脂、トリフェノールメタンエポキシ樹脂、アルキル改質トリフェノールメタンエポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンエポキシ樹脂、グリシジルアミンエポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂、水素化ビスフェノールAエポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、スチルベンエポキシ樹脂、トリスフェノール-メタントリグリシジルエーテル、イソシアネート改質ビスフェノールA系エポキシ樹脂、イソシアネート改質ビスフェノールF系エポキシ樹脂、イソシアネート改質ビスフェノールAF系エポキシ樹脂、及びビスフェノールA novolakエポキシ樹脂、ビスフェノールF novolakエポキシ樹脂、又はビスフェノールAF novolakエポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
別の実施形態において、固形熱可塑性樹脂は、固形フェノキシ樹脂である。固形フェノキシ樹脂は、二価フェノール化合物とエピクロロヒドリンの縮合反応、又は二価フェノール化合物と二官能性エポキシ樹脂の重付加反応により得ることができる。
【0033】
固形フェノキシ樹脂の生成に使用される二価フェノール化合物の例として、ヒドロキノン、レゾルシン、4,4-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1
,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)プロパン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1-3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等を挙げることができる。これらの中でも、4,4-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、又は9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)が、特に好適である。
【0034】
固形フェノキシ樹脂の生成に使用される二官能性エポキシ樹脂として、上記二価フェノール化合物とエピクロロヒドリンの縮合反応により得られるエポキシオリゴマーが挙げられ、そのようなエポキシオリゴマーとは、例えば、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール.S型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、メチルヒドロキノンジグリシジルエーテル、クロロヒドロキノンジグリシジルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルオキシドジグリシジルエーテル、2、6-ジヒドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、ジクロロビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、9,9’-ビス(4)-ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテル、等である。これらの中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、又は9,9’-ビス(4)-ヒドロキシフェニル)フルオレンジグリシジルエーテル、が、好適である。
【0035】
固形フェノキシ樹脂の生成は、溶媒なしでも、反応溶媒の存在下でも行うことができ、使用される反応溶媒としては、例えば、有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン.、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、トルエン等が可能である。反応溶媒を使用して得られるフェノキシ樹脂は、得られるフェノキシ樹脂をエバポレーター等を用いて溶媒除去処理に供することにより、反応溶媒を含有しない固形樹脂にすることができる。他の実施形態において、反応溶媒は、除去するのではなく、引き続きスプレードライされるブレンドの一部として使用する。
【0036】
固形フェノキシ樹脂の平均分子量(g/mol)は、約1000以上、又は約5000以上、又は約10,000以上が可能である。他の実施形態において、固形フェノキシ樹脂の平均分子量は、約500,000以下、又は約200,000以下、又は約150,000以下、又は約100,000以下が可能である。更に他の実施形態において、固形エポキシ樹脂の平均分子量(g/mol)は、約10,000~約250,000、又は約20,000~約150,000、又は約25,000~約80,000が可能である。
【0037】
別の実施形態において、固形フェノキシのヒドロキシル基当量(g/eq)は、約50~約1,000、又は約100~約750、又は約200~約500が可能である。
【0038】
別の実施形態に従って、固形フェノキシ樹脂は、以下の構造式を有することができ
【化1】
式中、nは、約8~約400の整数であり、及びXは、以下から選択される
【化2】
【0039】
1つの特定の実施形態において、nは、約20~400、又は約25~150、又は約35~100、又は約38~60の整数である。別の実施形態において、Xは、
【化3】
である。
【0040】
本方法の第一工程では、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂を、プロトン性溶媒及び非プロトン性溶媒を含むブレンドに溶解させて、スラリーを形成させる。本明細書中使用される場合、「プロトン性溶媒」は、その溶媒が原則としてプロトン(H+)を供与できるように、酸素原子に結合した水素原子(ヒドロキシル基に含まれるとして)又は窒素原子に結合した水素原子(アミン基に含まれるとして)を有する溶媒を、一般的に指す。1つの実施形態において、プロトン性溶媒は、C1-C6-アルカノール、C2-C4-アルカンジオール、エーテルアルカノール、水、酢酸、ギ酸、及びそれらの混合物であることが可能である。
【0041】
C1-C6-アルカノールとして、一般的に、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノールが挙げられる。好適なC1-C4-アルカノールとして、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、及びn-ブタノールが挙げられる。特に好適であるのは、n-ブタノールである。
【0042】
C2-C4-アルカンジオールとして、エチレングリコール又はプロピレングリコールが挙げられる。エーテルアルカノールとして、ジエチレングリコールが挙げられる。
【0043】
1つの実施形態において、プロトン性溶媒は、C1-C4-アルカノールである。驚いたことに、C1-C4アルカノールをブレンドの溶媒として使用することが、固形熱可塑性樹脂をスプレードライする能力及び比較的小さい平均粒径の粉末の生成に関して特別有利であることが、見出された。
【0044】
1つの実施形態において、ブレンドは、ブレンドの合計重量に基づき、約1重量%以上のプロトン性溶媒を含む。他の実施形態において、ブレンドは、ブレンドの合計重量に基づき、約5重量%以上、又は約10重量%以上、又は約20重量%以上、又は約30重量%以上のプロトン性溶媒を含む。更に他の実施形態において、ブレンドは、ブレンドの合計重量に基づき、約99重量%以下、又は約90重量%以下、又は約80重量%以下、又は約70重量%以下のプロトン性溶媒を含む。
【0045】
ブレンドは、非プロトン性溶媒も含む。本明細書中使用される場合、「非プロトン性溶媒」は、プロトンを供与できない溶媒を指す。1つの実施形態において、非プロトン性溶媒は、芳香族溶媒、アルカン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒、アセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、及びそれらの混合物から選択される。
【0046】
1つの実施形態において、芳香族溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン(ortho-キシレン、meta-キシレン、又はpara-キシレン)、メシチレン、クロロベンゼン(MCB)、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、あるいはそれらの混合物である。好適な芳香族溶媒は、トルエン、キシレン(ortho-キシレン、meta-キシレン、又はpara-キシレン)、クロロベンゼン、及びそれらの混合物から選択される。
【0047】
アルカン溶媒として、脂肪族炭化水素、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、石油エーテル、又はそれらの混合物、及びハロゲン化炭化水素、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0048】
エーテル溶媒として、開放鎖及び環状エーテル、特には、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチル-エーテル(MTBE)、2-メトキシ-2-メチルブタン、シクロペンチルメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(CH3-THF)、又はそれらの混合物が挙げられる。
【0049】
エステル溶媒として、カルボン酸エステル、例えば、酢酸エチル又は酢酸ブチルが挙げられる。
【0050】
1つの実施形態において、非プロトン性溶媒は、トルエン、キシレン(ortho-キシレン、meta-キシレン、又はpara-キシレン)、クロロベンゼン、ヘプタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、メチル-tert-ブチル-エーテル、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、アセトニトリル、及びそれらの混合物から選択される。
【0051】
1つの特定の実施形態において、非プロトン性溶媒は、芳香族溶媒である。驚いたことに、芳香族溶媒をブレンドの非プロトン性溶媒として使用することが、固形熱可塑性樹脂をスプレードライする能力及び比較的小さい平均粒径の乾燥粉末の生成に関して特別有利であることが、見出された。
【0052】
別の実施形態において、ブレンドは、ブレンドの合計重量に基づき、約1重量%以上の非プロトン性溶媒を含む。他の実施形態において、ブレンドは、ブレンドの合計重量に基づき、約5重量%以上、又は約10重量%以上、又は約20重量%以上、又は約30重量%以上の非プロトン性溶媒を含む。更に他の実施形態において、ブレンドは、ブレンドの合計重量に基づき、約99重量%以下、又は約90重量%以下、又は約80重量%以下、又は約70重量%以下の非プロトン性溶媒を含む。
【0053】
更に他の実施形態において、ブレンドは、プロトン性溶媒及び非プロトン性溶媒(プロトン性溶媒:非プロトン性溶媒)を、重量比で約10:90(w/w)~約90:10(w/w)で含む。更に他の実施形態において、ブレンドは、プロトン性溶媒対非プロトン性溶媒を、重量比で約25:75(w/w)~約75:25(w/w)、又は約30:70(w/w)~約70:30(w/w)、又は約40:60(w/w)~約60:40(w/w)、又は約45:55(w/w)~約55:45(w/w)で含む。
【0054】
1つの実施形態において、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂をブレンドに溶解させて、ブレンドの合計重量に基づき、約1重量%以上のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有するスラリーを形成させる。他の実施形態において、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂をブレンドに溶解させて、ブレンドの合計重量に基づき、約3重量%以上、又は約5重量%以上、又は約7重量%以上、又は約10重量%以上、又は約15重量%以上のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有するスラリーを形成させる。
【0055】
別の実施形態において、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂をブレンドに溶解させて、ブレンドの合計重量に基づき、約20重量%以下のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有するスラリーを形成させる。他の実施形態において、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂をブレンドに溶解させて、ブレンドの合計重量に基づき、約17重量%以下、又は約15重量%以下、又は約12重量%以下、又は約10重量%以下のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有するスラリーを形成させる。
【0056】
更に別の実施形態において、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂をブレンドに溶解させて、ブレンドの合計重量に基づき、約1重量%~約15重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有するスラリーを形成させる。他の実施形態において、固形エポキシ樹脂又は固形フェノキシ樹脂をブレンドに溶解させて、ブレンドの合計重量に基づき、約2重量%~約13重量%、又は約3重量%~約12重量%、又は約5重量%~約10重量%のエポキシ又はフェノキシ樹脂を含有するスラリーを形成させる。
【0057】
次いで、スラリーをスプレードライして、複数の熱可塑性樹脂(すなわち、エポキシ樹脂又はフェノキシ樹脂)粒子を含む乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物を形成させる。「粒子」という用語は、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の個々の固形粒子を指す。乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の個々の粒子は、好ましくは、互いに物理的に分離している、すなわち、乾燥粉末を構成する個々の粒子は、互いに束縛されておらず可逆的に接触できる(個々の粒子間の不可逆的結合とは反対である)。
【0058】
本明細書中使用される場合、「スプレードライ法」という用語は、スプレードライ装置において液体を分解して小さい液滴にすること(霧化)及び液滴から溶媒を急速除去することを一般に含むプロセスを指し、スプレードライ装置には、液滴から溶媒を蒸発させる強力な駆動力が存在する。溶媒蒸発のための強力な駆動力は、一般に、液滴の表面対質量比が高いことにより、及びスプレードライ装置中の溶媒分圧を、乾燥する液滴の温度での溶媒の蒸気圧より十分に低く維持することにより、もたらされる。これは、例えば、スプレードライ装置中の圧を部分真空に維持することにより、又は液滴を温かい乾燥ガスと混合することにより、あるいはそれらを組み合わせることにより、達成することができる。スプレードライ法プロセスの結果として、粒子、好ましくは乾燥粒子、より好ましくは乾燥粒子組成物の形状にあるもの、が得られる。
【0059】
典型的には、固形熱可塑性樹脂と、及び溶媒ブレンドと、を含むスラリーを、最初に分解して複数の小さい液滴にする。これらの液滴は、ガス又はガス混合物、例えば空気中に浮遊させることができる。得られる、液滴とガスの混合物は、典型的には、「スプレー」又は「霧」と称する。スラリーを分解して液滴にするプロセスは、「霧化」として知られ、当該分野で既知である任意の適切な装置(アトマイザー)を使用して行うことができる。本開示の方法で使用するのに適切である様々な種類のアトマイザーが当該分野で既知であり、そのようなアトマイザーとして、例えば、ロータリーアトマイザー、加圧ノズル式、2流体ノズル式、噴水ノズル式、超音波ネブライザー、及び振動オリフィス式エアロゾル発生器がある。
【0060】
1つの実施形態において、スラリーの霧化は、球状液滴をもたらす。本明細書中使用される場合、「球状」という用語は、幾何学的に完全な球体だけでなく、それよりも不規則な形状、例えば、回転楕円体、楕円体、卵形、又は丸みを帯びた液滴等も含む。
【0061】
いったんスラリーが霧化されると、生成したスプレー液滴は、乾燥ガスと混合されて、溶媒ブレンドが乾燥チャンバー中で急速に蒸発することが可能になる。急速蒸発は、典型的には、冷却効果をもたらし、そのため乾燥した粒子は乾燥空気温度に到達しない。このことは、熱に敏感な材料を乾燥させる場合に特に有利である。乾燥チャンバーは、任意の形状のものが可能であり、及び1つ又は複数のチャンバーを有することが可能である。乾燥ガスは、液滴から蒸発する溶媒を、少なくとも部分的に、吸収することができるものが可能であり、入口、例えば、分散機を介して乾燥チャンバーに導入することができる。分散機は、乾燥チャンバーの上半分に、例えば、アトマイザー付近に位置することができ、そうすることで、乾燥ガスと液滴の迅速な混合が可能になる。乾燥ガス流は、出口を通じて乾燥チャンバーから出て行き、出口は、乾燥チャンバーの底部に位置することができる
。
【0062】
乾燥チャンバーの特性は、とりわけ、使用するアトマイザーと一致させることができる。均一な製品品質を確実にする目的で、液滴が十分に乾燥している場合に限り、それらを乾燥チャンバーの表面に接触させることが可能である。乾燥粉末は、乾燥チャンバーの底部で収集することが可能である。1つの実施形態において、乾燥チャンバーは、コーンとして設計され、乾燥ガス流の出口は、コーンの中心に配置されて、そこで冷たい湿潤空気を乾燥チャンバーから除去することが可能である。そのように設計されたコーン及び出口は、サイクロン分離器として働き、乾燥粉末を乾燥チャンバーの底部に堆積させる。ボルテックス分離を通じて、実施形態によってはフィルターを使用せずに、乾燥ガスから乾燥粒子又は微小液滴を分離させるのに、サイクロン分離が、好ましく用いられる。この目的に向けて、高速回転流が、サイクロンの円柱形又は円錐形容器内に、好ましく確立される。典型的には、乾燥ガスは、サイクロンの頂部(大口端)から底部(小口)端に向かって螺旋状に流れていってから、サイクロンの中心を通じて直線流でサイクロンを出ていく。大きい又は密度の高い粒子になるほど、回転する流れの中で、流れの急カーブに従わずに、外側の壁に衝突してサイクロンの底部に落下するので、そこでそれらを収集することができる。あるいは、フィルター、例えば、袋状フィルター、又はサイクロン分離器とフィルターの組み合わせを、乾燥粉末と乾燥ガスの分離に使用することができる。
【0063】
流れの種類、すなわちアトマイザー及び乾燥ガス入り口の相対配置に応じて、又はスプレー及び乾燥ガスの相対運動それぞれに応じて、複数種類のスプレードライ装置を区別することができ、これらは全て、本開示による方法において使用することができる。1つの実施形態において、スプレードライ装置は、並流装置として(スプレー及び乾燥ガスは、同方向に向かって動く)、向流装置として(スプレー及び乾燥ガスは、反対方向に向かって動く)、又は混合流装置として(並流と向流の組み合わせ)設定される。1つの実施形態において、スプレードライ法装置は、並流装置である。
【0064】
そのうえ、スプレードライ装置は、使用する乾燥ガスサイクルの種類に応じて分類可能である。例えば、スプレードライ装置は、開サイクル装置(入口を通じてスプレードライ装置に入る乾燥ガスは、出口を通じて大気中に排気される)であることも、閉サイクルスプレードライ装置(入口を通じてスプレードライ装置に入る乾燥ガスは、出口を通じて排気され、再生及び再使用される)であることも可能である。1つの実施形態において、スプレードライ装置は、閉サイクルスプレードライ装置である。
【0065】
乾燥ガスは、任意の適切なガス又はガス混合物が可能である。1つの実施形態において、不活性ガスが、乾燥ガスとして使用される。不活性ガスは、例えば、窒素、窒素濃縮空気、ヘリウム、CO2、又はアルゴンが可能である。
【0066】
1つの実施形態において、スプレードライ装置は、本明細書中定義されるとおり、システムを通る1つの経路において、乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の残存水分量を所望のレベルまで低下させる。1サイクル後の乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物の残存水分量が望んだものより高い場合、所望の残存水分量が達成されるまで、第二(又は複数)の乾燥段階により残存水分量を更に低下させることができる。
【0067】
スプレードライ装置の例を、
図2に示す。この図は、スプレードライ法の原理を更に解説する。スラリー投入流(1)は、ノズル(2)を通じて、乾燥ガス流(3)中にスプレーされ、蒸発する。乾燥ガス流(3)に導入される際、スラリーから溶媒が蒸発するため、液滴は、冷却される。固形球状粒子が形成され、一方で水分が急速に液滴から離れる。十分に小さな液滴寸法を達成する(アトマイザー)目的で並びに熱伝導及び溶媒蒸発速度を最大化する目的で、ノズルが使用される。固形球状粒子は、サイクロン装置(4)中で
更に乾燥され分離される。乾燥球状粒子は、冷却され、サイクロン装置(4)に接続された収集容器(5)に収集され、様々な様式ですぐに梱包できる。
【0068】
最終生成物を、上記のとおり収集する。最終生成物は、好ましくは、本明細書中定義されるとおりの熱可塑性樹脂球状粒子を含む乾燥粉末の形状にある。1つの実施形態において、熱可塑性樹脂球状粒子は、平均粒径が約150μm以下、又は約125μm以下、又は約100μm以下、又は約75μm以下、又は約50μm以下、又は約25μm以下、又は約20μm以下、又は約10μm以下、又は約5μm以下である。他の実施形態において、熱可塑性樹脂球状粒子は、平均粒径が約1μm以上、又は約5μm以上、又は約10μm以上、又は約15μm以上、又は約25μm以上である。更に他の実施形態において、熱可塑性樹脂球状粒子は、平均粒径が約0.5μm~約150μm、又は約1μm~約100μm、又は約2μm~約50μm、又は約3μm~約25μm、又は約4μm~約15μmである。
【0069】
乾燥粉末状熱可塑性樹脂組成物は、様々な用途/配合物に使用することができ、そのような用途/配合物として、自動車、産業関連、建築、航空宇宙、海洋、土木工学、個人用防護具、コーティング剤、消費者又は日曜大工製品、複合材料フィルム、プラスチック、磁気テープコーティング剤、硬質梱包及び軟梱包コーティング剤、エポキシベーキングプライマー、補修用プライマー、ジンクリッチプライマー、ショッププライマー及び重機プライマー、電化製品及びコイルコーティングプライマー、耐薬品性仕上げ剤、ウッドコーティング剤、パイプコーティング剤、フェノール成分又はポリ(エチレンテレフタレート)用柔軟改質剤、セロファン、ポリスチレン、アルミニウム箔、ポリカーボネート、ボール紙、ポリ(メタクリル酸メチル)、クラフト紙、キャンバス生地、「B」ステージフェノール含浸紙、ガラス繊維布、並びにフェルトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
予言的実施例
フェノキシ樹脂濃度が約10%(w/w)である試料を、出発溶液として調製する。固形フェノキシ樹脂10gを、50:50(w/w)n-ブタノール/トルエン溶媒のブレンド90gと混合する。スラリーを、透明溶液が得られるまで、約10分間撹拌する。スラリー50gを、磁気撹拌子の入った50mlガラスビーカーに移す。スプレードライを行っている間、スラリーを連続撹拌する。ビーカーをパラフィルム箔で密閉して、乾燥プロセスの間、どのような溶媒も蒸発しないようにする。
【0071】
スラリーを、閉サイクルスプレードライ装置でスプレードライする。乾燥ガスとして、窒素を使用する。乾燥ガス流速は、約140L/であり、これにより、内部圧が約60mbarになる。層状乾燥ガス流及び圧電型霧化により、穏やかな蒸発を招く。入口温度を、20℃、25℃、30℃、35℃、及び40℃の間で変化させる。選択したスプレーキャップサイズに応じて、出口温度及びスプレーヘッド温度も変化する。スプレー速度60%を使用する。入口温度に到達した後、出口温度を安定させる目的で、50:50(w/w)比のn-ブタノール/トルエンのブレンドをスプレーする。次いで、スラリーをスプレーし、乾燥粉末を、静電粒子収集器に収集する。乾燥粉末の固形フェノキシ樹脂粒子の形態及び粒径を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて特定すると、平均粒径が約10μmである球状粒子であることがわかる可能性がある。水分量を、Moisture Analyzer B-302により特定すると、約1%(w/w)であることがわかる可能性がある。
【0072】
上記から、当然のことながら、本発明の新規概念の真の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の修飾及び改変を実現することが可能である。当然のことながら、解説及び記載される具体的実施形態に関して制限はないことが意図される、すなわち推測される制限があるはずはない。
【国際調査報告】