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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ポリマー/核酸複合体の溶液の調製
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231201BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20231201BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20231201BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C12N15/11 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528105
(86)(22)【出願日】2021-11-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 GB2021052901
(87)【国際公開番号】W WO2022101617
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】2017725.9
(32)【優先日】2020-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】306034996
【氏名又は名称】オックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】グッドイヤー オリバー
(72)【発明者】
【氏名】デイビース リー
(72)【発明者】
【氏名】キングウッド モーリー
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ラモント シアラン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液の調製、及び細胞のトランスフェクションのための方法におけるそのような溶液の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法であって、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベーションする工程、並びに/或いは
d)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に前記塩溶液を希釈する工程、
を含み、
前記塩が、バルプロ酸塩、イソ酪酸塩又はイソ吉草酸塩ではない、前記ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法。
【請求項2】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法であって、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベーションする工程、並びに/或いは
d)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に前記塩溶液を希釈する工程、
を含み、
前記塩が、ポリマー/核酸複合体の溶液を細胞と接触させる前にのみ添加される、前記ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法。
【請求項3】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法であって、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベーションする工程、並びに/或いは
d)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に前記塩溶液を希釈する工程、
を含み、
工程b)における最終塩濃度が約10mM~約100mMである、前記ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法。
【請求項4】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法であって、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベーションする工程、並びに/或いは
d)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に前記塩溶液を希釈する工程、
を含み、
前記塩が、前記実質的に塩を含まない水溶液中で少なくとも0.95の解離度を有する、前記ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法。
【請求項5】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法であって、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベーションする工程、並びに/或いは
d)工程b)で製造された前記塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に前記塩溶液を希釈する工程、
を含む、前記ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法。
【請求項6】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法であって、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベーションする工程;及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された前記塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に前記塩溶液を希釈する工程、
を含む、前記ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法。
【請求項7】
前記核酸が、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド分子、及びそれらの混合物から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸がDNA、好ましくはプラスミドDNAである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記カチオン性ポリマーが、ポリマーベースのトランスフェクション試薬である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カチオン性ポリマーが、ポリエチレンイミン(PEI)、デンドリマー、DEAE-デキストラン、ポリプロピレンイミン(PPI)、キトサン[ポリ-(β-1/4)-2-アミノ-2-デオキシ-D-グルコピラノース]、ポリ-L-リジン(PLL)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、及びそれらの誘導体から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記カチオン性ポリマーが、PEI又はその誘導体であり、好ましくは直鎖PEI、分枝PEI、PEG化PEI、JetPEI、PEIPro(登録商標)、PEI MAX及びPTG1+から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記塩が、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リン酸塩及びそれらの混合物から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記塩がリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記塩がPBSであり、PBSが工程b)において約0.1X PBS~約1.0X PBSの最終濃度まで添加され、好ましくは前記PBSが約0.1X PBS~約0.3X PBSの最終濃度まで添加される、請求項1、2及び4~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記塩が、工程b)において約10mM~約100mMの最終濃度まで添加され、好ましくは、前記塩が、工程b)において約20mM~約100mMの最終濃度まで添加される、請求項1、2及び4~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程a)が、実質的に塩を含まない水溶液中で複数の核酸分子及び複数のカチオン性ポリマー分子を混合することを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程b)で製造された前記塩溶液をインキュベートする工程を含む、請求項1~5及び7~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記塩溶液を約1分間~最大約2時間インキュベートし、好ましくは前記塩溶液を約20分間~約90分間インキュベートする、請求項6又は請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記塩溶液を約60分間インキュベートする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
工程b)で製造された前記塩溶液又は工程c)のインキュベーション後の前記塩溶液を希釈する工程を含む、請求項1~4及び6~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記塩がPBSであり、前記塩溶液が、約0.05X PBS~約0.15X PBSの最終濃度に希釈され、好ましくは、前記塩溶液が、約0.1X PBSの最終濃度に希釈される、請求項5又は請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記核酸がレトロウイルスベクターコンポーネントをコードする、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記レトロウイルスベクターが複製欠損レトロウイルスベクターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、好ましくは前記レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ベクターコンポーネントが、
a)前記レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物
から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
e)場合により、灌流培養物中で哺乳動物細胞を培養する工程と、
f)請求項1~25のいずれか一項に記載の方法によって得られたポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
g)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸を、前記哺乳動物細胞に導入する工程と、
h)場合により、そのゲノム内に組み込まれた前記核酸を有する哺乳動物細胞を選択する工程と、
i)場合により、前記核酸が発現される条件下で前記哺乳動物細胞を培養する工程と、
j)場合により、前記レトロウイルスベクターが産生される条件下で前記哺乳動物細胞を培養する工程と、
k)場合により、前記レトロウイルスベクターを単離する工程と、
を更に含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
哺乳動物細胞を灌流培養で培養する工程を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
哺乳動物細胞を灌流培養で培養する前記工程が、約10時間~約96時間行われる、請求項26又は請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記核酸が発現される条件下で前記哺乳動物細胞を培養する工程を含む、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記レトロウイルスベクターが産生される条件下で前記哺乳動物細胞を培養する工程を含む、請求項26~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記レトロウイルスベクターを単離する工程を含む、請求項26~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記哺乳動物細胞がHEK293T細胞である、請求項26~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳動物細胞が懸濁液適合哺乳動物細胞である、請求項26~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記トランスフェクション、導入及び/又は培養工程が、無血清培地中の懸濁液中で行われる、請求項26~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記トランスフェクションが一過性トランスフェクションである、請求項26~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記トランスフェクション、導入及び/又は培養工程が少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくは前記トランスフェクション、導入及び培養工程が少なくとも50Lの容量で行われる、請求項26~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸が、トランスフェクション又はエレクトロポレーションによって前記哺乳動物細胞に導入される、請求項26~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸が、前記ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸によってコードされない、以下のもの:
a)レンチウイルスベクターのRNAゲノム;
b)env又はその機能的代用物;
c)gag-pol又はその機能的代用物;並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物;
から選択される任意のウイルスベクターコンポーネントをコードする、請求項26~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
請求項1~38のいずれか一項に記載の方法によって得られる又は得ることができるポリマー/核酸複合体の溶液。
【請求項40】
請求項22~25のいずれか一項に記載の方法によって得られる又は得ることができる、請求項39に記載のポリマー/核酸複合体の溶液。
【請求項41】
ポリマー/核酸複合体及び塩を含む溶液であって、塩濃度が約10mM~約100mMである、前記ポリマー/核酸複合体及び塩を含む溶液。
【請求項42】
前記塩濃度が約90mM未満であるか、又は前記塩がPBSであり、前記PBSの濃度が約0.3X PBS未満である、請求項41に記載のポリマー/核酸複合体の溶液。
【請求項43】
前記核酸が、レトロウイルスベクターを産生するためのコンポーネントをコードし、好ましくは、前記レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、レンチウイルスベクターを産生するためのコンポーネントが、
(i)前記レンチウイルスベクターのRNAゲノム;
(ii)env又はその機能的代用物;
(iii)gag-pol又はその機能的代用物;並びに/或いは
(iv)rev又はその機能的代用物
から選択される、請求項41又は請求項42に記載のポリマー/核酸複合体の溶液。
【請求項44】
前記レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、好ましくは、前記レンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである、請求項43に記載のポリマー/核酸複合体の溶液。
【請求項45】
細胞への前記核酸のトランスフェクションのための、請求項39~44のいずれか一項に記載のポリマー/核酸複合体の溶液の使用。
【請求項46】
レトロウイルスベクターの製造方法における、請求項40、43又は44のいずれか一項に記載のポリマー/核酸複合体の溶液の使用。
【請求項47】
レトロウイルスベクターの製造方法であって、
a)場合により、灌流培養物中で哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)請求項22~25のいずれか一項に記載のポリマー/核酸複合体の溶液又は請求項40、43若しくは44のいずれか一項に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して前記哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
c)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる少なくとも1つの核酸を前記哺乳動物細胞に導入する工程と、
d)場合により、そのゲノム内に組み込まれた前記ウイルスベクターコンポーネントをコードする核酸配列を有する哺乳動物細胞を選択する工程と、
e)前記レトロウイルスベクターが産生される条件下で前記哺乳動物細胞を培養する工程と、
を含む、レトロウイルスベクターの製造方法。
【請求項48】
前記レトロウイルスベクターを単離する工程を更に含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記レトロウイルスベクターが複製欠損レトロウイルスベクターである、請求項47又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記レトロウイルスベクターがレンチウイルスベクターであり、好ましくはレンチウイルスベクターがHIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである、請求項47~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記哺乳動物細胞がHEK293T細胞である、請求項47~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記哺乳動物細胞が懸濁液適合細胞である、請求項47~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
無血清培地に懸濁して実施される、請求項47~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
哺乳動物細胞を灌流培養で培養する工程を含む、請求項47~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
哺乳動物細胞を灌流培養で培養する前記工程が、約10時間~約96時間行われる、請求項47~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
工程a)、工程b)、工程c)及び/又は工程e)が少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくは工程a)、工程b)、工程c)及び工程e)が少なくとも50Lの容量で行われる、請求項47~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記核酸が、工程c)におけるトランスフェクション又はエレクトロポレーションによって前記細胞に導入される、請求項47~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記トランスフェクションが一過性トランスフェクションである、請求項47~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
工程b)において前記哺乳動物細胞に場合により導入される前記少なくとも1つの核酸が、前記ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸によってコードされない、
(i)前記レンチウイルスベクターのRNAゲノム;
(ii)env又はその機能的代用物;
(iii)gag-pol又はその機能的代用物;並びに/或いは
(iv)rev又はその機能的代用物;
からなる群から選択される任意のレンチウイルスベクターコンポーネントをコードする、請求項47~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
a)灌流培養において哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)請求項22~25のいずれか一項に記載のポリマー/核酸複合体の溶液又は請求項40、43若しくは44のいずれか一項に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して前記哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
を含む、哺乳動物細胞をトランスフェクトするための方法。
【請求項61】
哺乳動物細胞を灌流培養で培養する前記工程が、約10時間~約96時間行われる、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記哺乳動物細胞がHEK293T細胞である、請求項60又は請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記哺乳動物細胞が懸濁液適合細胞である、請求項60~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
無血清培地に懸濁して実施される、請求項60~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
工程a)及び/又は工程b)が少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくは工程a)及び工程b)が少なくとも50Lの容量で行われる、請求項60~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記トランスフェクションが一過性トランスフェクションである、請求項60~65のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液の調製、及び細胞のトランスフェクションのための方法におけるそのような溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスフェクションは、核酸を真核細胞に意図的に導入するプロセスである。様々なタイプの外因性核酸を真核細胞に導入することが望ましいか又は有利であり得る多くの状況が存在する。一般的に使用される外因性核酸は、プラスミドDNA、RNA、siRNA及びオリゴヌクレオチドである。細胞に送達されると、核酸は、目的の遺伝子の過剰発現又はサイレンシングを駆動することによって遺伝子発現を調節する。
【0003】
遺伝子過剰発現は、目的の遺伝子の役割(遺伝子研究、ハイスループットスクリーニング)の理解から、特に治療目的(例えば遺伝子及び細胞療法のためのウイルス産生)のための抗体(タンパク質産生)及び組換えウイルス粒子等の生物製剤の産生まで、いくつかの用途に不可欠なツールである。
【0004】
遺伝子サイレンシングは、目的の遺伝子の発現を防止するために使用される方法である。遺伝子の発現は、部分的に低減され得るか(遺伝子ノックダウン)又は完全にブロックされ得る(遺伝子ノックアウト)。任意の遺伝子が潜在的に標的とされ得るため、遺伝子サイレンシングは、単一遺伝子の病状、癌及び免疫療法戦略に対処するための遺伝子ベースの療法を開発するために使用される一般的な技術である。トランスフェクションは、多数の異なる用途において多くの有用性を有することが分かる。特に興味深いのは、組換えタンパク質及びウイルスベクターを含む生物学的薬剤の産生に広く使用されている発現ベクターによる細胞のトランスフェクションである。例えば、ウイルスベクター製造の一般的な方法には、ベクターDNAコンポーネントによる初代細胞又は哺乳動物/昆虫細胞株のトランスフェクション、それに続く限られたインキュベーション期間、次いで培養培地及び/又は細胞からの粗ベクターの回収が含まれる(Merten,O-W.et al.,2014,Pharmaceutical Bioprocessing,2:183-203)。レンチウイルスベクター製造の効率は、典型的には、[1]使用されるウイルス血清型/偽型、[2]トランスジェニック配列の組成及びサイズ、[3]培地組成/ガス処理/pH、[4]トランスフェクション試薬/プロセス、[5]化学的誘導及びベクター回収のタイミング、[6]細胞の脆弱性/生存性、[7]バイオリアクター剪断力及び[8]不純物を含む、「上流相」におけるいくつかの因子によって影響される。明らかに、「下流」の精製/濃縮段階の間に考慮すべき他の要因が存在する(Merten,O-W.et al.,2014,Pharmaceutical Bioprocessing,2:237-251)。
【0005】
臨床試験におけるウイルスベクターアプローチの成功が規制上の承認及び商業化に向けて構築され始めるにつれて、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準(GMP)グレードのベクター材料の大量生産における新たなボトルネックに注目が集まっている(Van der Loo JCM,Wright JF.,2016,Human Molecular Genetics,25(R1):R42-R52)。GMPグレードの組換えタンパク質の産生にも同様の障害が存在する。
【0006】
この課題を克服する方法は、ウイルスベクター又は組換えタンパク質の産生中にトランスフェクション効率を最大化する新しい方法を見出すことである。したがって、当技術分野では、GMPグレードのベクター材料等のGMPグレードの材料の大量生産に関連する既知の問題に対処するのに役立つ、例えばウイルスベクター及び他の生物学的薬剤の生産に使用するための代替の改良されたトランスフェクション方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリマー/核酸複合体が、トランスフェクション効率に悪影響を及ぼす前に塩の存在下で短時間だけ安定であることを示した。これは、最適なインキュベーション期間が短すぎて大規模GMP製造で実際に可能ではないため、生物学的薬剤の大量生産におけるカチオン性ポリマーの使用を制限する。
【0008】
本発明は、細胞トランスフェクションのための改良された方法を提供する。これに関して、本発明者らは、驚くべきことに、核酸及びカチオン性ポリマーを、実質的に塩を含まない水溶液(例えば水)中で混合し、続いて塩を添加してポリマー/核酸複合体の成熟を誘導することによって調製されたポリマー/核酸複合体が、最適なポリマー/核酸複合体の成熟のための時間を延長し、高いトランスフェクション効率を提供することを見出した。したがって、最適な濃度の塩を使用して、最適なポリマー/核酸複合体成熟のための時間(すなわち、インキュベーション時間)を延長することができる。本発明者らは更に驚くべきことに、ポリマー/核酸複合体の成長を抑制し、複合体をポリマー/核酸複合体の溶液の希釈(それにより塩を希釈)によって安定化してインキュベーション時間を更に延長できることを見出した。したがって、本明細書に記載の方法は、ポリマー/核酸複合体の成熟の開始及び/又は終了を制御する能力を提供するため有利である。これは、トランスフェクションプロセスの問題としての時間制約を取り除く、すなわち製造プロセスの柔軟性を改善するので、GMPグレードの材料の大量生産にとって非常に有利である。
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、低下した細胞毒性と組み合わせて、ポリマー/核酸複合体の成熟の開始及び/又は終了を制御する能力が、トランスフェクション中の細胞数でポリマー/核酸複合体の調製をスケーリングする能力を提供するので有利であることを見出した。これは、トランスフェクションプロセスのためにより高い細胞密度(例えば、灌流培養を用いて達成される細胞密度)の使用を可能にする、すなわち、製造プロセスの能力及び収率を改善するので、GMPグレードの材料の大量生産にとって非常に有利である。
【0010】
本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を調製するためのそのようなプロセス、及び例えばレンチウイルスベクターの製造における細胞のトランスフェクションのための溶液の使用に関する。
【0011】
一態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
塩は、バルプロ酸塩、イソ酪酸塩又はイソ吉草酸塩ではない。
【0012】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
塩は、ポリマー/核酸複合体の溶液を細胞と接触させる前にのみ添加される。
【0013】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
工程b)における最終塩濃度は約10mM~約100mMである。
【0014】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
塩は、実質的に塩を含まない水溶液中で少なくとも0.95の解離度を有する。
【0015】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含む。
【0016】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含む。
【0017】
更なる態様では、本発明は、本発明の方法によって得られる又は得ることができるポリマー/核酸複合体の溶液を提供する。
【0018】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体及び塩を含む溶液を提供し、塩濃度は約10mM~約100mMである。
【0019】
更なる態様では、本発明は、細胞への核酸のトランスフェクションのための本発明のポリマー/核酸複合体の溶液の使用を提供する。
【0020】
更なる態様では、本発明は、レトロウイルスベクターの製造方法における本発明のポリマー/核酸複合体の溶液の使用を提供する。
【0021】
いくつかの実施形態では、核酸は、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド分子、及びそれらの混合物から選択される。
【0022】
いくつかの実施形態では、核酸はDNA、好ましくはプラスミドDNAである。
【0023】
いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーはポリマーベースのトランスフェクション試薬である。
【0024】
いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーは、ポリエチレンイミン(PEI)、デンドリマー、DEAE-デキストラン、ポリプロピレンイミン(PPI)、キトサン[ポリ-(β-1/4)-2-アミノ-2-デオキシ-D-グルコピラノース]、ポリ-L-リジン(PLL)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、及びそれらの誘導体から選択される。
【0025】
いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーは、PEI又はその誘導体であり、好ましくは直鎖PEI、分枝PEI、PEG化PEI、JetPEI、PEIPro(登録商標)、PEI MAX及びPTG1+から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態では、塩は、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、リン酸塩及びそれらの混合物から選択される。
【0027】
いくつかの実施形態では、塩はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。
【0028】
いくつかの実施形態では、塩はPBSであり、PBSは工程b)において約0.1X PBS~約1.0X PBSの最終濃度まで添加され、好ましくはPBSは約0.1X PBS~約0.3X PBSの最終濃度まで添加される。
【0029】
いくつかの実施形態では、塩は、工程b)において、約10mM~約100mMの最終濃度まで添加され、好ましくは、塩は、工程b)において、約20mM~約100mMの最終濃度まで添加される。
【0030】
いくつかの実施形態では、工程a)は、実質的に塩を含まない水溶液中で複数の核酸分子及び複数のカチオン性ポリマー分子を混合することを含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、方法は、工程b)で生成された塩溶液をインキュベートする工程を含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、塩溶液は、約1分間~最大約2時間インキュベートされ、好ましくは塩溶液は約20分間~約90分間インキュベートされる。
【0033】
いくつかの実施形態では、塩溶液は約60分間インキュベートされる。
【0034】
いくつかの実施形態では、方法は、工程b)で製造された塩溶液又は工程c)のインキュベーション後の塩溶液を希釈する工程を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、塩はPBSであり、塩溶液は、約0.05X PBS~約0.15X PBSの最終濃度に希釈され、好ましくは、塩溶液は、約0.1X PBSの最終濃度に希釈される。
【0036】
いくつかの実施形態では、核酸は、レトロウイルスベクターコンポーネントをコードする。
【0037】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは複製欠損レトロウイルスベクターである。
【0038】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり、好ましくはレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである。
【0039】
いくつかの実施形態では、ベクターコンポーネントは、
a)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物
から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態では、方法は、
e)場合により、哺乳動物細胞を培養する工程と、
f)先行する請求項のいずれか一項に記載の方法によって得られたポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
g)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸を、哺乳動物細胞に導入する工程と、
h)場合により、そのゲノム内に組み込まれた核酸を有する哺乳動物細胞を選択する工程と、
i)場合により、核酸が発現される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程と、
j)場合により、レトロウイルスベクターが産生される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程と、
k)場合により、レトロウイルスベクターを単離する工程と、
を更に含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、方法は哺乳動物細胞を培養する工程を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、培養は灌流培養によるものである。
【0043】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞を灌流培養で培養する工程は、約10時間~約96時間行われる。
【0044】
いくつかの実施形態では、方法は、哺乳動物細胞を培養する工程の前に、細胞培養容器(例えばバイオリアクター)に哺乳動物細胞を接種する工程を更に含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、方法は、細胞を接種する工程の後で、且つ細胞をトランスフェクトする工程の前に、迅速な培地交換を行う工程を更に含む。適切には、哺乳動物細胞を培養する工程は、少なくとも1回の迅速な培地交換を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、方法は、核酸が発現される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、方法は、レトロウイルスベクターが産生される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、方法はレトロウイルスベクターを単離する工程を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞はHEK293T細胞である。
【0050】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞は懸濁液適合哺乳動物細胞である。
【0051】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション、導入及び/又は培養工程は、無血清培地中の懸濁液中で行われる。
【0052】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションは一過性トランスフェクションである。
【0053】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション、導入及び/又は培養工程は少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくはトランスフェクション、導入及び培養工程は少なくとも50Lの容量で行われる。
【0054】
いくつかの実施形態では、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸は、トランスフェクション又はエレクトロポレーションによって哺乳動物細胞に導入される。
【0055】
いくつかの実施形態では、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸は、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸によってコードされない、以下のもの:
a)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物、
から選択される任意のウイルスベクターコンポーネントをコードする。
【0056】
更なる態様において、本発明は、レトロウイルスベクターを産生するための方法を提供し、
a)必要に応じて哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本発明のポリマー/核酸複合体の溶液又は本発明のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
c)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる少なくとも1つの核酸を哺乳動物細胞に導入する工程と、
d)場合により、そのゲノム内に組み込まれたウイルスベクターコンポーネントをコードする核酸配列を有する哺乳動物細胞を選択する工程と、
e)レトロウイルスベクターが産生される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程と、
を含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、培養は灌流培養によるものである。
【0058】
いくつかの実施形態では、細胞を灌流培養で培養する工程は、約10時間~約96時間行われる。
【0059】
いくつかの実施形態では、方法はレトロウイルスベクターを単離する工程を更に含む。
【0060】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは複製欠損レトロウイルスベクターである。
【0061】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり、好ましくはレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである。
【0062】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞はHEK293T細胞である。
【0063】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞は懸濁液適合細胞である。
【0064】
いくつかの実施形態では、方法は、無血清培地中の懸濁液中で実施される。
【0065】
いくつかの実施形態では、工程a)、工程b)、工程c)及び/又は工程e)は少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくは工程a)、工程b)、工程c)及び工程e)は少なくとも50Lの容量で行われる。
【0066】
いくつかの実施形態では、核酸は、工程c)におけるトランスフェクション又はエレクトロポレーションによって細胞に導入される。
【0067】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションは一過性トランスフェクションである。
【0068】
いくつかの実施形態では、工程b)において哺乳動物細胞に場合により導入される少なくとも1つの核酸は、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸によってコードされない、
(i)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
(ii)env又はその機能的代用物、
(iii)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
(iv)rev又はその機能的代用物、
からなる群から選択される任意のレンチウイルスベクターコンポーネントをコードする。
【0069】
更なる態様において、本発明は、哺乳動物細胞をトランスフェクトするための方法を提供し、
a)灌流培養において哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
を含む。
【0070】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞を灌流培養で培養する工程は、約10時間~約96時間行われる。
【0071】
適切には、哺乳動物細胞は、本明細書に記載の哺乳動物細胞である。
【0072】
いくつかの実施形態では、方法は、無血清培地中の懸濁液中で実施される。
【0073】
いくつかの実施形態では、工程a)及び/又は工程b)は少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくは工程a)及び工程b)は少なくとも50Lの容量で行われる。
【0074】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションは一過性トランスフェクションである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】異なる時間間隔でインキュベートしたPEIPro(登録商標)トランスフェクションミックスを使用して個々の振盪フラスコをトランスフェクトした振盪フラスコの時間経過研究からの機能的力価(TU/mL)の結果を示す図である。DNA/PEIPro(登録商標)複合体のインキュベーション期間は、その後のトランスフェクション及びレンチウイルスベクター産生に有意に影響を与える。データは、最高の機能的力価をもたらす最適なインキュベーション時間が3分であり、インキュベーション時間が15分又は30分に延長される場合、これは急速に減少することを示す。
図2】水中でトランスフェクションミックスを調製し、様々なPBS濃度でスパイクすることによって複合体形成の動態を改変できることを示す図である。DNA/PEIpro複合体を塩を含まない水溶液(HO)中で調製し、複合体成長をPBSスパイクで開始した。(A)トランスフェクション複合体を1X PBSでスパイクした場合、3分間のインキュベーション後に最適な力価が達成された。(B)トランスフェクション複合体に低濃度のPBSを添加すると、インキュベーション時間を延長することができ、0.2X PBSは最適なインキュベーション時間を約25分に延長する。N.B.陰性対照として、複合体を水中で調製し、次いで、PBSをスパイクせずに細胞をトランスフェクトするために使用した。PBSが複合体増殖を開始するために必要であることを示すベクターは作製されなかった。
図3】塩濃度を低下させる(及び複合体増殖を停止させる)ための複合体の希釈後、最大12時間、潜在的には最大1週間、トランスフェクション効率が安定していることを示す図である。トランスフェクションミックスを0.2X PBSでスパイクして複合体の増殖を開始させ、次いで30分間インキュベートして複合体の最適サイズに到達させた。次いで、トランスフェクションミックスを、PBSの最終濃度が0.1Xになるように、塩を含まない水溶液(例えば、HO)を用いて希釈した。次いで、トランスフェクションミックスを4℃で最大1週間保存した。次いで、トランスフェクションミックスの一定分量を使用してGFPレンチウイルスを作製し、得られた機能的力価を測定した。グラフは、12時間のインキュベーション後、トランスフェクションミックスがレンチウイルスベクターの作製に依然として効率的であり、「新鮮な」トランスフェクションミックスと同等の機能的力価をもたらしたことを示している。
図4】DNA:PEIpro複合体をHO中で調製した場合、複合体の成長が観察されないことを示すDLS分析の図である。これは、水中で調製され、PBSでスパイクされていない複合体がベクター産生をもたらさなかったことを実証した図2Bに示されるデータと相関する。これは、80~86nmのサイズ範囲内の複合体が小さすぎてトランスフェクションに成功しないことを示唆している。
図5】DNA/PEIpro複合体を水中で調製し、粒子成長をPBS(0.2X)の添加によって開始した。最高の機能的力価を達成するための最適時間に相当するので、複合体を25分間インキュベートした(図2B)。次いで、複合体を2倍希釈して、0.1Xの最終PBS濃度を達成した。次いで、複合体サイズを更に45分間にわたって経時的に測定した。DLS測定は、トランスフェクションミックスを2倍希釈すると、複合体の成長が停止し、サイズは600~800nmの間のままであることが分かったことを示す。このデータを図2及び図3に示すデータと相関させると、最高の力価を達成する最適な複合体サイズは600~800nmであることが示唆される。
図6】トランスフェクションミックスが、異なる濃度のPBSでスパイクされた場合、複合体がトランスフェクションのための好ましいサイズに成長する速度は、添加されたPBSの濃度に応じて異なることを示す図である。PBSの濃度が低すぎる(≦0.1X PBS)場合、複合体成長は開始されない。
図7】複合増殖を開始させるために任意の塩が使用され得ることを示す図である。複合体の成長速度が速いほど、複合体の成長を引き起こすのに必要な塩の濃度は低くなる。グラフ(A)及び表2は、トランスフェクションミックスに5つの異なる濃度のNaCl(10mM;20mM;50mM;80mM及び100mM)をスパイクすることの影響を示す。80mM及び100mMの濃度のみが有意な複合体増殖を開始させた。グラフ(B)及び表3は、トランスフェクションミックスに5つの異なる濃度のMgCl(10mM;20mM;50mM;80mM;100mM)をスパイクすることの影響を示す。
図8】5Lバイオリアクタスケールでの産生後の治療用ベクターの機能的力価を示す図である。この結果は、「aqPEIPro」トランスフェクション方法がスケーラブルであり、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション方法を使用して達成されるものと同等のレンチウイルスベクターの力価を実証することを示す。「aqPEIPro」トランスフェクション方法についてはn=2、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション方法についてはn=4。
【発明を実施するための形態】
【0076】
ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法
本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)任意選択的に、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含む。
【0077】
外因性核酸による細胞のトランスフェクションは当技術分野で周知であり、様々なウイルス及び非ウイルストランスフェクション試薬を使用して実施することができる。トランスフェクションは、負に帯電した分子(例えば、DNA及びRNAのリン酸骨格)を負に帯電した膜を有する細胞に導入する固有の課題を克服する。トランスフェクション試薬は、化学試薬、カチオン性脂質及び物理的方法の3つのクラスに分けることができる。
【0078】
化学試薬としては、カチオン性ポリマーであるDEAE-デキストランが挙げられ、これは、培養哺乳動物細胞をトランスフェクトするために使用された最初の化学試薬の1つであった(Vaheri and Pagano,1965;McCutchan and Pagano,1968)。ポリブレン(Kawai and Nishizawa,1984)、ポリエチレンイミン(Boussif et al.1995)及びデンドリマー(Haensler and Szoka,1993;Kukowska-Latallo et al.1996)を含む他の合成カチオン性ポリマーが、DNAを細胞に移入するために使用されてきた。トランスフェクション法としてのリン酸カルシウム共沈殿は、1970年代初期(Graham and van der Eb,1973)に導入され、別の化学トランスフェクション試薬に相当する。
【0079】
リポフェクトアミン等のカチオン性脂質は、外来遺伝物質を細胞に導入するための最も一般的な方法の1つを表す。用語「リポソーム」は、水性媒体中でコロイド粒子を形成する脂質二重層を指す(Sessa and Weissmann,1968)。人工リポソームを最初に使用して、1980年に細胞にDNAを送達した(Fraley et al.1980)。リポソームビヒクルの次の進歩は、合成カチオン性脂質の開発であった(Felgner et al.1987)。脂質化合物のカチオン性頭部基は、核酸上の負に帯電したリン酸と会合する。リポソーム媒介送達は、比較的高い遺伝子導入効率、リン酸カルシウム又はDEAE-デキストランに耐性のある特定の細胞型をトランスフェクトする能力、インビトロ及びインビボ用途、オリゴヌクレオチドから酵母人工染色体への全てのサイズのDNAの送達の成功、RNAの送達、及びタンパク質の送達等の利点を提供する(Kim and Eberwine,2010;Stewart et al.2016において概説される)。非リポソーム試薬は、リポソーム媒介トランスフェクション法の代替を提供する。脂質ナノ粒子は、臨床研究及び治療用途における小分子薬物の送達に特に適したこのトランスフェクション方法の拡張を表す(Cullis and Hope,2017において概説される)。
【0080】
遺伝子移入のための物理的方法は1980年代初期に開発され、最初に培養細胞又は核への直接マイクロインジェクションを伴った(Cappechi,1980)。最近、マイクロインジェクションは、遺伝子編集用途において人気を取り戻し、CRISPR-Cas9 DNAを接合子前核に送達してノックアウトブタを作製するために使用されている(Chuang et al.2017)。エレクトロポレーションは別の物理的方法を表し、マウス細胞における遺伝子移入研究について最初に報告された(Wong and Neumann,1982)。この機構は、細胞膜を摂動させ、核酸の細胞内への通過を可能にする一時的な細孔を形成するための電気パルスの使用に基づく(Shigekawa and Dower,1988)。
【0081】
最も広く使用されている非ウイルストランスフェクション試薬には、リポフェクタミン等の脂質ベースの試薬及びPEI等のカチオン性ポリマーが含まれる。多数のトランスフェクション方法が当技術分野で公知である(例えば、Graham et al.(1973),Virology,52:456;Sambrook et al.(1989)Molecular Cloning,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratories,New York;Davis et al.(1986)Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier、及びChu et al.(1981),Gene,13:197を参照されたい)。そのような技術は、1つ以上の外因性核酸を適切な宿主細胞に導入するために使用され得る。
【0082】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクトする」及び「形質導入する」という用語は、宿主細胞への外因性核酸(例えば、DNAプラスミド)の導入を指す。したがって、「トランスフェクション」及び「形質導入」という用語は、外因性核酸(例えば、DNAプラスミド)を宿主細胞に導入するプロセスを指す。外因性核酸が細胞膜の内側に導入されている場合、細胞は「形質導入されている」か、又は「トランスフェクトされている」。宿主細胞に導入された外因性核酸は、宿主細胞のゲノムに安定に組み込まれ得るか、又は染色体外であり得る。組み込まれた核酸は、その細胞内で維持され得、子孫細胞によって継承され得る。或いは、宿主細胞に導入される外因性核酸は、宿主細胞中に一過性に存在し得る。
【0083】
したがって、本明細書で使用される場合、「形質導入/トランスフェクト細胞」という用語は、外因性核酸が導入された細胞、又は外因性核酸が存在するその子孫を指す。形質導入/トランスフェクト細胞を培養し(すなわち、伝播される)、導入された外因性核酸を転写及び/又はタンパク質を発現させることができる。
【0084】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション試薬」という用語は、核酸による細胞形質導入/トランスフェクションを容易にするウイルス又は非ウイルス剤を指す。
【0085】
本明細書で使用される場合、「ポリマー/核酸複合体」、「ポリカチオン/核酸複合体」及び「複合体」という用語は、カチオン性ポリマー及び核酸の凝集体を指す。そのような複合体は、ポリマー縮合核酸としても当技術分野で公知であり、広範囲の細胞をトランスフェクトするために使用することができる。
【0086】
特定の条件下及びイオンの存在下でカチオン性ポリマー及び核酸を混合すると、カチオン性ポリマーと核酸との間の静電相互作用に起因するポリマー/核酸複合体の成熟がもたらされる。したがって、本発明は、任意のカチオン性ポリマー及び任意の核酸を使用することができる。更に、本発明は、任意の生物学的薬剤、例えば組換えタンパク質又はレンチウイルスベクターの産生中の細胞への任意の外因性核酸のトランスフェクションに使用することができる。
【0087】
カチオン性ポリマーによるトランスフェクションは、核酸の縮合及びその後の外因性核酸の細胞内への放出を含む。したがって、カチオン性ポリマーを使用するトランスフェクション効率は、ポリマーの核酸結合及び解離に関連する。
【0088】
従来、トランスフェクション複合体(例えば、ポリマー/核酸複合体)は、核酸コンポーネント、並びにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液、塩化ナトリウム(NaCl)溶液又は培地で希釈することによって調製されたトランスフェクション試薬(リポソーム/ポリマー)の両方を用いて生成される。コンポーネントが混合されると、通常、トランスフェクションに最適なサイズへのこれらの複合体の物理的成長に関連するトランスフェクション複合体(トランスフェクション試薬/核酸複合体)の「成熟」期間が存在する。この最適な複合体サイズを超えると、小さすぎる複合体は十分な核酸を細胞に送達せず、大きすぎる複合体はエンドサイトーシスを妨げるため、細胞トランスフェクションの効率が低下する。トランスフェクション複合体の成熟の動的プロセスは、最適なサイズ生成にかかる時間が大規模製造環境での使用に不適切であり得るという点で問題となり得る。多くの場合、大量のDNAとトランスフェクション試薬とを物理的に混合するのにかかる時間は、複合体の成熟に最適な時間を超える可能性があり、複合体を産生バイオリアクターに送達するのにかかる時間もトランスフェクションプロトコルに考慮しなければならない。
【0089】
本発明者らは、ポリマー/核酸複合体が、トランスフェクション効率に悪影響を及ぼす前に塩の存在下で短時間だけ安定であることを示した。これは他の者によっても報告されている。例えば、製造業者は、カチオン性ポリマーPEIPro(登録商標)とDNAとのインキュベーション時間が、良好なトランスフェクション効率を確実にするために30分を超えてはならないことを推奨する(ウイルス産生プロトコルCPT115 vLについて、PolyplusトランスフェクションPEIPro(登録商標)DNAトランスフェクションキット(July2020):https://fnkprddata.blob.core.windows.net/domestic/data/datasheet/PPU/115-01K.pdfを参照されたい)。最適なインキュベーション期間が、大規模なGMP生産、例えば200L規模で実際に可能であるには短すぎるために、これは、生物学的薬剤、例えば組換えタンパク質又はレンチウイルスベクターの大量生産におけるカチオン性ポリマーの使用を制限する。
【0090】
本発明者らは、驚くべきことに、以下を見出した。
1.実質的に塩を含まない溶液(例えば水中で)中でポリマー/核酸複合体を混合し、続いて塩をスパイクしてポリマー/核酸複合体の成熟を誘導することにより、良好なトランスフェクション効率、それによって良好な機能性レンチウイルスベクター力価を与えるポリマー/核酸複合体の溶液を提供する。換言すれば、最適な濃度の塩を使用して、最適なポリマー/核酸複合体成熟のための時間(すなわち、インキュベーション時間)を延長することができる。
2.ポリマー/核酸複合体の成長を抑制し、複合体をポリマー/核酸複合体の溶液の希釈(それにより塩を希釈)によって安定化してインキュベーション時間を更に延長できる。
【0091】
本明細書に記載の方法は、ポリマー/核酸複合体の成熟の開始及び終了の両方を制御する能力を提供するため有利である。これは、トランスフェクションプロセスの問題としての時間制約を取り除き、すなわち製造プロセスの柔軟性を改善するので、GMP規模で非常に有利である。
【0092】
実質的に塩を含まない水溶液(例えば水)中でのポリマー/核酸複合体の調製もまた、従来のプロセスを超える利点を提供する。例えば、これは、複合体が塩の存在下(例えば、媒体中)で調製される場合に可能であるよりも高い濃度でポリマー/核酸複合体を調製することを可能にし、バイオリアクターに添加されるポリマー/核酸複合体の溶液の容量を著しく減少させる。これはまた、生産性を高めると予想されるトランスフェクション工程でのバイオリアクター内の細胞の総数を増加させる。したがって、有利には、本発明の方法は、トランスフェクション工程の前に灌流細胞培養工程と共に使用され得る。灌流細胞培養の使用は、バイオリアクター内の細胞密度、すなわち細胞数を有利に増加させることができる。
【0093】
更なる例として、本発明者らは、実質的に塩を含まない水溶液(例えば水)中で混合した場合、ポリマー及び核酸は複合体の成長/凝集を示さず、典型的には直径100nM未満の複合体を生成することを示した。したがって、コンポーネント及び/又は混合物の両方を、複合体形成(すなわち、複合体の成熟)及びその後の製造プロセス中の添加の前に効率的に滅菌濾過することができる。これは、製造プロセスに添加する前(例えばバイオリアクタへの添加前)に、複合体の無菌性を確保することができるため、任意の製造プロセスにおいて非常に価値のある安全性工程を追加する。
【0094】
また更なる例として、本発明者らは、実質的に塩を含まない水溶液(例えば水)中で一旦成熟し、及び/又は複合体成熟後に希釈すると、ポリマー/核酸複合体は数日間及び実際には数週間安定であることも示した。これにより、トランスフェクション工程の十分前に複合体を調製することが可能になり、製造中のこの工程に関連する作業負荷が大幅に低減され、プロセスの柔軟性を向上させる。それはまた、製造に使用する前に複合体のトランスフェクション効率の小規模試験を可能にする。
【0095】
また更なる例として、本発明者らは、実質的に塩を含まない水溶液(例えば水)中でのポリマー/核酸複合体の成熟に対する制御が、トランスフェクトされる細胞の数に比例した複合体の調製を可能にすること(すなわち、トランスフェクトされる細胞の数に応じてポリマー/核酸複合体の調製物の濃度及び/又は容量をスケーリングすること)を見出した。更に、本発明のポリマー/核酸複合体に関連する毒性の欠如は、特定の従来のトランスフェクション試薬(例えばリポフェクタミン)と比較して高い濃度でのそれらの使用を可能にする。これにより、生産性を高めると予想されるバイオリアクター内のより多くの細胞の総数のトランスフェクションが可能になる。これはまた、トランスフェクション工程のためのバイオリアクター内の細胞の総数を増加させるために、灌流培養を使用してトランスフェクションのための細胞を調製することを可能にする。
【0096】
したがって、本明細書に記載の方法は、材料の大規模GMP製造に使用するのに適しているだけでなく、そのような製造プロセスにおいて利点も有する。本明細書で使用される「大規模」とは、標準的なバイオリアクタサイズ、例えば50L、200L、500L、1000L及び10,000Lを包含する。
【0097】
トランスフェクション性能及び例えば遺伝子発現を増強するためのトランスフェクション増強剤の使用は、当技術分野で周知である。トランスフェクション増強剤としては、酪酸、バルプロ酸、イソ酪酸及びイソ吉草酸、又はそれらの塩が挙げられる。酪酸、バルプロ酸、イソ酪酸及びイソ吉草酸の塩は、ナトリウム塩又はカリウム塩(例えば、酪酸ナトリウム)等の任意の塩であってもよい。トランスフェクション増強剤は、典型的には、トランスフェクション工程後の細胞の培養中に添加される。しかし、そのような薬剤は、トランスフェクション工程の前又は間に、すなわちトランスフェクションミックスを細胞と接触させる前又は間に添加されてもよい。
【0098】
本明細書で使用される場合、「トランスフェクション増強剤」という用語は、核酸による細胞形質導入/トランスフェクションを増加させる化合物を指す。
【0099】
いくつかの実施形態では、当該塩は、トランスフェクション増強剤ではない。いくつかの実施形態では、当該塩は、酪酸塩、バルプロ酸塩、イソ酪酸塩又はイソ吉草酸塩ではない。好ましくは、当該塩は、バルプロ酸塩、イソ酪酸塩又はイソ吉草酸塩ではない。好ましくは、当該塩は酪酸ナトリウムではない。
【0100】
いくつかの実施形態では、塩は、トランスフェクション工程の間又は後、すなわちトランスフェクションミックス(例えば、ポリマー/核酸複合体の溶液)を細胞と接触させる間又は後に添加されない。いくつかの好ましい実施形態では、塩は、ポリマー/核酸複合体の溶液を細胞と接触させる前にのみ添加される。したがって、実質的に塩を含まない溶液中で調製されたカチオン性ポリマーと核酸との混合物に塩を添加して、複合体の成熟及び成長を開始させ、その後トランスフェクションに使用することができるポリマー/核酸複合体の溶液を得ることができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、塩の最終濃度は、約10mM~約500mMである。いくつかの好ましい実施形態では、塩の最終濃度は、約50mM~約500mMである。いくつかの実施形態では、塩はPBSであり、PBSは、約0.1X PBS~約3X PBSの最終濃度まで添加される。
【0102】
いくつかの実施形態では、塩の最終濃度は、約20mM~約100mMである。いくつかの実施形態では、塩はPBSであり、PBSは、約0.15X PBS~約0.3X PBSの最終濃度まで添加される。
【0103】
いくつかの実施形態では、塩は、実質的に塩を含まない溶液中で少なくとも0.90(適切には、少なくとも0.95、少なくとも0.96、少なくとも0.97、少なくとも0.98、少なくとも0.99又は1)の解離度を有する。
【0104】
本明細書で使用される場合、「解離度」という用語は、実質的に塩を含まない溶液中でイオンに解離した塩分子の割合を指す。解離度は、当技術分野で公知の方法(例えば、Dr Wolfgang Schartl,Basic Physical Chemistry:A Complete Introduction on Bachelor of Science Level(1st Ed.2014)p.109,Bookboon,ISBN 978-87-403-0669-9)を使用して計算することができる。
【0105】
解離定数は、物質Mが溶液(しばしば水性)中でより小さなコンポーネントM及びNに可逆的に解離する(分離する)傾向を規定する。
y(aq)+H(l)⇔xM(aq)+yN(aq)
【0106】
解離定数はKで示され、以下によって計算される。
【数1】

式中、αは種の活性を表し、[M]、[N]、及び[M]は実体M、N、及びMのモル濃度である(https://chem.libretexts.org/Bookshelves/Physical_and_Theoretical_Chemistry_Textbook_Maps/Supplemental_Modules_(Physical_and_Theoretical_Chemistry)/Equilibria/Chemical_Equilibria/Dissociation_Constant)。水は溶媒であり、溶液は希釈される仮定するので、水は純粋であると仮定し、純水の活性を1と定義する。溶質の活性はモル濃度で近似される。解離定数は、より一般的な方法で平衡を記述する質量作用の法則の直接の結果である。解離定数は、塩に適用される場合、イオン化定数と呼ばれることもある。
【0107】
解離度は、解離した元の溶質分子の割合である。これは通常、ギリシャ記号αによって示される。より正確には、解離度は、1モル当たりのイオン又はラジカルに解離する溶質の量を指す。非常に強い酸及び塩基の場合、解離度は1に近い。あまり強力でない酸及び塩基は、より低い解離度を有する。このパラメータとファントホッフの因子iとの間には単純な関係が存在する。溶質物質がnイオンに解離する場合、
i=1+α(n-1)
【0108】
例えば、以下の解離について、
KCI⇔K+CI
n=2として、i=1+αとなる(Atkins P.and de Paula J.Physical Chemistry(8th ed.W.H.Freeman 2006)p.763,ISBN 978-0-7167-8759-4)。
【0109】
したがって、更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
塩は、バルプロ酸塩、イソ酪酸塩又はイソ吉草酸塩ではない。
【0110】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
塩は、ポリマー/核酸複合体の溶液を細胞と接触させる前にのみ添加される。
【0111】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
工程b)における最終塩濃度は約10mM~約100mMである。
【0112】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含み、
塩は、実質的に塩を含まない水溶液中で少なくとも0.95の解離度を有する。
【0113】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)場合により、工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含む。
【0114】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体の溶液を製造するためのインビトロ方法を提供し、
a)実質的に塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合する工程、
b)工程a)で製造された混合物に塩を添加して塩溶液を形成する工程、
c)工程b)で製造された塩溶液をインキュベーションする工程、及び/又は
d)場合により、工程b)で製造された塩溶液を希釈する工程、又は工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程、
を含む。
【0115】
いくつかの実施形態では、工程a)は、実質的に塩を含まない水溶液中で複数の核酸分子及び複数のカチオン性ポリマー分子を混合することを含む。
【0116】
本明細書で使用される場合、「実質的に塩を含まない」という用語は、水溶液が塩を含まないか、又は微量の塩のみを含むことを意味する。水溶液の塩含有量は、例えば、約10mM未満(適切には、約7.5mM未満、約5mM未満、約2.5mM未満、約1mM未満、約0.5mM未満、又は約0.1mM未満)であり得る。実質的に塩を含まない水溶液は、約1mM未満の塩、適切には約0.5mM未満の塩を含み得る。実質的に塩を含まない水溶液の塩濃度は、ポリマー/核酸複合体の成熟を開始するには低すぎる場合があり、すなわち、ポリマー/核酸複合体の形成は水溶液中で開始されない。水溶液の塩濃度は、当技術分野で公知の方法を使用して、例えば塩分濃度計を使用して決定することができる。塩濃度は、一般に、光学屈折計を使用する直接法を使用して測定されるか、又は導電率計によって間接法に従って決定される。多数の市販の選択肢が利用可能である(https://www.pce-instruments.com/english/measuring-instruments/test-meters/salt-meter-kat_40093.htm)。
【0117】
適切には、固体の水への溶解度を求めるために、以下の手順を使用することができる。
1)水100cmを正確に測定し、ビーカーに加える
2)溶解しなくなるまで少量の溶質を添加する
3)蒸発皿の質量を記録する
4)未溶解の固体が残り、溶液が蒸発皿にあるように混合物を濾過する
5)加熱又は蒸発によって水を除去する
6)溶質を含む蒸発皿を秤量し、溶解した溶質の質量を計算する(https://www.bbc.co.uk/bitesize/guides/z4s48min/revision/1)。
【0118】
いくつかの好ましい実施形態では、工程a)は、塩を含まない水溶液中で核酸及びカチオン性ポリマーを混合することを含む。
【0119】
いくつかの好ましい実施形態では、実質的に塩を含まない水溶液は水である。したがって、工程a)は、水中で核酸とカチオン性ポリマーとを混合することを含み得る。
【0120】
本明細書で使用される場合、「核酸」という用語は、DNA、RNA及びオリゴヌクレオチドを含む核酸の全ての形態を指す。したがって、核酸には、ゲノムDNA、cDNA、スプライシングされた又はスプライシングされていないmRNA、rRNA、tRNA、阻害性DNA又はRNA(例えば、RNAi、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉(si)RNA、短鎖ヘアピン(sh)RNA、トランススプライシングRNA、アンチセンスRNA又はアンチセンスDNA)、天然に存在する配列、合成配列、及び意図的に修飾又は変更された配列(例えば、変異体核酸)が含まれる。
【0121】
したがって、いくつかの実施形態では、核酸は、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド分子、及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、核酸はDNA、より好ましくはプラスミドDNAである。
【0122】
いくつかの実施形態では、カチオン性ポリマーはポリマーベースのトランスフェクション試薬である。カチオン性ポリマーベースのトランスフェクション試薬には、ポリエチレンイミン(PEI)、デンドリマー、DEAE-デキストラン、ポリプロピレンイミン(PPI)、キトサン[ポリ-(β-1/4)-2-アミノ-2-デオキシ-D-グルコピラノース]、ポリ-L-リジン(PLL)、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)(PCL)、及びそれらの誘導体が含まれる。誘導体は、カチオン性ポリマーの化学修飾変異体、例えばPEG化変異体又はヒスチジン化変異体であり得る。
【0123】
カチオン性ポリマーは、水、中性溶液/緩衝液又は酸性溶液等の実質的に塩を含まない水溶液で提供されてもよい。カチオン性ポリマーは、カチオン性ポリマーを水性溶媒、中性溶媒/緩衝液又は酸性溶媒に溶解することによって調製することができる。中性カチオン性ポリマー溶液は、典型的には、約pH6.0~約pH8.0(適切には、約pH6.5~約pH7.5、約pH6.8~約pH7.2、又は約pH7.0~約pH7.2)のpHを有する。酸性カチオン性ポリマー溶液は、典型的には、約pH0~約pH3.0(適切には、約pH0.5~約pH2.0)のpHを有する。中性溶媒/緩衝液の例としては、トリス(トリズマ塩基)及びHEPESが挙げられる。緩衝液濃度は、約1mM~約100mM(適切には約2mM~約50mM又は約5mM~約20mM)の範囲であり得る。酸性溶媒の例としては、鉱酸(例えば塩酸)又は有機酸(例えばグリシン塩酸溶液)が挙げられる。カチオン性ポリマーのトランスフェクション活性を低下させることなく、カチオン性ポリマー溶液のpHを適切な範囲内に確立又は維持するために、任意の溶媒又は緩衝液を使用することができる。本明細書に記載されるように、カチオン性ポリマー溶液は、塩を実質的に含まなくてもよい。
【0124】
PEIは、外因性DNAを哺乳動物細胞に導入するための最も高いトランスフェクション効率の1つを提供するカチオン性ポリマーであり、したがって当技術分野で最も広く使用されている非ウイルストランスフェクション試薬の1つである。PEIは、直鎖PEI又は分枝PEIであり得る。PEIは、約4kDa~約160kDa(適切には、約4kDa~約160kDa、約40kDa又は約25kDa)の範囲の分子量を有することができる。直鎖PEI、分枝PEI及びそれらの誘導体は市販されている。具体的には、40kDaの直鎖PEI及び25kDaの直鎖PEIが市販されている。PEIの市販形態としては、直鎖PEI、分枝PEI、PEG化PEI、JetPEI、PEIPro(登録商標)、PEI MAX及びPTG1+が挙げられる。
【0125】
したがって、いくつかの好ましい実施形態では、カチオン性ポリマーはPEI(分枝若しくは直鎖PEI)又はその誘導体である。いくつかの好ましい実施形態では、カチオン性ポリマーは、直鎖PEI、分枝PEI、PEG化PEI、JetPEI、PEIPro(登録商標)、PEI MAX及びPTG1+から選択される。
【0126】
カチオン性ポリマー及び核酸は、溶液中で混合され得る。混合は、カチオン性ポリマーベースの細胞形質導入に適合する任意の溶液中で行うことができる。適切な溶液の非限定的な例を本明細書に記載する。核酸とカチオン性ポリマーとのモル比又は重量比は限定されず、典型的な比は、約100:1~約1:100(適切には、約1:1~約1:10、約1:1~約1:5、約1:2~約1:4)のモル比及び約1:10~約5:1(適切には、約1:1~約5:1)の重量比を含む。核酸及びカチオン性ポリマーの量は、カチオン性ポリマー中の全窒素(N)と核酸中のホスファート(P)とのモル比で表すこともでき、また限定されない。典型的なN:P比は、約1:1~約50:1(適切には、約1:1~約10:1、約10:1、約9:1、約8:1、約7:1、約6:1又は約5:1)を含む。
【0127】
塩は、細胞培養における使用に適し得る。当業者は、塩が低い毒性を有するべきであることを理解するであろう。細胞培養に適合する塩は、当技術分野で周知である。塩は、単純な塩又は単純な塩の混合物であってもよい。塩は、ナトリウム(Na)塩、カリウム(K)塩、マグネシウム(Mg)塩、カルシウム(Ca)塩、リン酸(PO)塩又はそれらの組合せから選択され得るが、これらに限定されない。例えば、塩は、NaCl、MgCl、NaNO、PBS又はそれらの組合せであってもよい。当業者は、適切な塩には、強塩基のカチオン(例えば、K、Na、Ca、Mg、Ba等の周期表の第1及び第2の群から選択される)及び/又は強酸のアニオン(例えば、Cl、NO 、SO 2-)を有するものが含まれることを理解するであろう。
【0128】
いくつかの実施形態では、塩は、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物に(すなわち、工程b)において)、約40mM~約500mM(適切には、約50mM~約450mM、約50mM~約400mM、約60mM~約350mM、約70mM~約300mM、約75mM~約250mM、又は約80mM~200mM)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、塩は、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物に(すなわち、工程b)において)、約10mM~約100mM(適切には、約30mM~約100mM又は約50mM~約100mM)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、塩は、約500mM未満(適切には、約450mM未満、約400mM未満、約350mM未満、約300mM未満、約250mM未満、約200mM未満、約150mM未満、約100mM未満、約80mM未満、又は約50mM未満)の最終濃度まで添加される。
【0129】
いくつかの実施形態では、塩は、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物に(すなわち、工程b)において)、約0.01mM~約49mM(適切には、約0.1mM~約45mM、約5mM~約45mM、約10mM~約40mM、約20mM~約35mM)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、塩は、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物に(すなわち、工程b)において)、約27.5mMの最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、塩は、約49mM未満(適切には、約45mM未満、約40mM未満、約35mM未満、約32mM未満、約30mM未満、約25mM未満、又は約20mM未満)の最終濃度まで添加される。
【0130】
いくつかの好ましい実施形態では、塩はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。いくつかの実施形態では、PBSは、工程b)において、約0.2X PBS~約10X PBS(適切には、約0.2X PBS~約7.5X PBS又は約0.2X PBS~約5X PBS)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、PBSは、工程b)において、約10X未満のPBS(適切には、約9X未満のPBS、約8X未満のPBS、約7X未満のPBS、約6X未満のPBS、約5X未満のPBS、又は約4X未満のPBS)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、PBSは、工程b)において、約0.2X PBS~約3X PBS(適切には、約0.2X PBS~約2.5X PBS、約0.2X PBS~約2X PBS、約0.2X PBS~約1X PBS又は約0.2X PBS~約0.5X PBS)の最終濃度まで添加される。いくつかの好ましい実施形態では、PBSは、約0.2X PBS~約1X PBSの最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、PBSは、工程b)において、約3X PBS未満(適切には、約2.5X未満のPBS、約2X未満のPBS、約1X未満のPBS、又は約0.5X未満のPBS)の最終濃度まで添加される。
【0131】
いくつかの好ましい実施形態では、PBSは、工程b)において、約0.15X PBS~約0.35X PBS(適切には、約0.20X PBS~約0.30X PBS)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、PBSは、約0.45X未満のPBS(適切には、約0.40X未満のPBS、約0.35X未満のPBS、約0.30X未満のPBS、又は約0.25X未満のPBS)の最終濃度まで添加される。いくつかの実施形態では、PBSは、工程b)において、約0.2X PBS(適切には、約0.25X PBS、約0.3X PBS又は約0.35X PBS)の最終濃度まで添加される。
【0132】
カチオン性ポリマー及び核酸の混合物は、イオンの存在下、例えば塩溶液中で、ポリマー/核酸複合体形成を開始し、複合体を効率的なトランスフェクションのために最適なサイズに成長させるために所望の期間インキュベートすることができる。いくつかの好ましい実施形態では、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物は塩の存在下でインキュベートされる。
【0133】
いくつかの好ましい実施形態では、方法は、工程b)で生成された塩溶液をインキュベートする工程を含む。核酸及びカチオン性ポリマーの混合物(すなわち、工程b)で生成された塩溶液))は、約10秒間~約4時間(適切には、約30秒間~約3時間、約1分間~約2時間、約5分間~約90分間、約10分間~約75分間、約20分間~約60分間又は約30分間~約45分間)インキュベートされ得る。核酸及びカチオン性ポリマーの混合物(すなわち、工程b)で生成された塩溶液)は、約20分間、約25分間、約30分間、約35分間、約40分間、約45分間、約50分間、約55分間、約60分間、約65分間、約70分間又は約75分間インキュベートされ得る。いくつかの好ましい実施形態では、工程b)で生成された塩溶液は、約20分間~約60分間、好ましくは約60分間インキュベートされる。インキュベーションは、ポリマー/核酸複合体の形成及び/又は成長に適した任意の温度、例えば室温で行うことができる。
【0134】
イオンの存在下、例えば塩溶液中のカチオン性ポリマー及び核酸の混合物を、混合物のインキュベーションの有無にかかわらず希釈して、例えば貯蔵及びその後の使用のためにポリマー/核酸複合体を安定化することができる。いくつかの好ましい実施形態では、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物を希釈する。いくつかの好ましい実施形態では、カチオン性ポリマー及び核酸の混合物は、インキュベーション工程後に希釈される。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、ポリマー/核酸複合体の溶液は、インキュベーション工程後に希釈される。
【0135】
いくつかの実施形態では、方法は、工程b)で製造された塩溶液又は工程c)のインキュベーション後の塩溶液を希釈する工程を含む。いくつかの好ましい実施形態では、方法は、工程c)のインキュベーション後に塩溶液を希釈する工程を含む。希釈剤は、本明細書に記載のように、実質的に塩を含まない又は塩を含まない溶液、例えば水であってもよい。
【0136】
いくつかの実施形態では、当該塩溶液は、約0.05X PBS~約0.15X PBSの最終濃度に希釈され、好ましくは、当該塩溶液は、約0.10X PBSの最終濃度に希釈される。
【0137】
いくつかの実施形態では、当該塩溶液は、約5mM~約50mM(適切には、約10mM~約40mM又は約15mM~約30mM)の最終濃度に希釈される。いくつかの実施形態では、当該塩溶液は、約50mM未満、約40mM未満、約30mM未満又は約20mM未満の最終濃度に希釈される。
【0138】
ポリマー/核酸複合体の溶液は、使用前に、例えばトランスフェクションのために希釈した後、例えば4℃で保存され得る。
【0139】
複合体形成の開始又は複合体形成を安定化するための希釈に適した塩濃度は、使用される塩のイオン強度に応じて変化することが当業者には理解されよう。既知のイオン強度の特定の塩のための本発明の方法における使用のための適切な塩濃度の選択は、当業者の能力の範囲内である。
【0140】
いくつかの実施形態では、核酸は、レトロウイルスベクターコンポーネントをコードする。
【0141】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは複製欠損レトロウイルスベクターである。
【0142】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり、好ましくはレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである。レンチウイルスベクターは、複製欠損レンチウイルスベクターであり得る。
【0143】
いくつかの実施形態では、ベクターコンポーネントは、
a)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物
から選択される。
【0144】
ベクター/発現カセット
ベクターは、ある環境から別の環境への実体の転送を可能にする、又は容易にするツールである。本発明によれば、及び例として、組換え核酸技術で使用されるいくつかのベクターは、核酸のセグメント(例えば異種DNAセグメント、例えば異種cDNAセグメント)等の実体が標的細胞に移入され、標的細胞によって発現されることを可能にする。ベクターは、ウイルスベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列及び標的細胞内でのその発現を維持するために、ウイルスベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列の統合を促進し得る。
【0145】
ベクターは、発現カセット(発現構築物とも呼ばれる)であり得るか、又はそれを含み得る。本明細書に記載の発現カセットは、転写され得る核酸含有配列の領域を含む。したがって、mRNA、tRNA及びrRNAをコードする配列は、この定義内に含まれる。
【0146】
ベクターは、1つ以上の選択マーカ遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子)及び/又は追跡可能なマーカ遺伝子(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子)を含み得る。ベクターは、例えば、標的細胞に感染及び/又は形質導入するために使用され得る。ベクターは、ベクターが問題の宿主細胞において複製することを可能にするヌクレオチド配列、例えば条件付きで複製する腫瘍溶解性ベクターを更に含み得る。
【0147】
「カセット」という用語は、「コンジュゲート」、「構築物」及び「ハイブリッド」等の用語と同義であり、プロモーターに直接又は間接的に結合したポリヌクレオチド配列を含む。本発明で使用するための発現カセットは、ウイルスベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列の発現のためのプロモーターと、場合によりウイルスベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列の調節因子とを含む。好ましくは、カセットは、プロモーターに作動可能に連結された少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含む。
【0148】
発現カセット、例えばプラスミド、コスミド、ウイルス又はファージベクターの選択は、導入される宿主細胞に依存することが多い。発現カセットは、DNAプラスミド(スーパーコイル状、ニック入り又は線状化)、ミニサークルDNA(線状又はスーパーコイル状)、制限酵素消化及び精製によるプラスミド骨格の除去によって目的の領域のみを含有するプラスミドDNA、酵素DNA増幅プラットフォーム、例えば、使用される最終DNAが閉環形態であるか、又は開放切断端を有するように調製されている(例えば、制限酵素消化)doggybone DNA(dbDNA(商標))を使用して生成されたDNAであり得る。
【0149】
レトロウイルスベクター産生系及び細胞
レトロウイルスベクター産生系(例えば、レンチウイルスベクター産生系)は、レトロウイルスベクター(例えばレンチウイルスベクター)の産生に必要なコンポーネントをコードするヌクレオチド配列のセットを含む。したがって、ベクター産生系は、レトロウイルスベクター粒子(例えばレンチウイルスベクター粒子)を作製するために必要なウイルスベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列のセットを含む。
【0150】
「ウイルスベクター産生系」又は「ベクター産生系」又は「産生系」は、レンチウイルスベクター産生に必要なコンポーネントを含む系として理解されるべきである。
【0151】
一実施形態では、ウイルスベクター産生系は、Gag及びGag/Polタンパク質、並びにEnvタンパク質及びベクターゲノム配列をコードするヌクレオチド配列を含む。産生系は、場合により、Revタンパク質又はその機能的置換物をコードするヌクレオチド配列を含み得る。
【0152】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つの導入遺伝子コンポーネントは、反転であっても逆向きであってもよい。
【0153】
一実施形態では、少なくとも1つの導入遺伝子コンポーネントは、ベクターゲノムRNAの5’-3’方向性に対して反転又は逆向き方向であり得る。導入遺伝子カセットが反転している、すなわち転写ユニットがベクターゲノムカセットを駆動するプロモーターに対向しているレンチウイルスベクターゲノムを利用することができる。更に、導入遺伝子カセットの1つのコンポーネントが逆向きであり、別のコンポーネントが順向きである場合、例えば、双方向導入遺伝子カセット又は複数の別個のカセットを使用する場合があり得る。
【0154】
一実施形態では、ウイルスベクター産生系は、モジュール式核酸構築物(モジュール式構築物)を含む。モジュール構築物は、レンチウイルスベクターの産生に使用される2つ以上の核酸を含むDNA発現構築物である。モジュール構築物は、レンチウイルスベクターの産生に使用される2つ以上の核酸を含むDNAプラスミドであり得る。プラスミドは細菌プラスミドであり得る。核酸は、例えば、gag-pol、rev、env、ベクターゲノムをコードし得る。更に、パッケージング細胞株及びプロデューサ細胞株の作製のために設計されたモジュール構築物は、転写調節タンパク質(例えば、TetR、CymR)及び/又は翻訳抑制タンパク質(例えば、TRAP)並びに選択マーカ(例えば、Zeocin(商標)、ハイグロマイシン、ブラストサイジン、ピューロマイシン、ネオマイシン耐性遺伝子)をコードすることを更に必要とし得る。本発明での使用に適したモジュール式構築物は、欧州特許第3502260号明細書に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0155】
本発明に従って使用するためのモジュール式構築物は、1つの構築物に2つ以上のレトロウイルスコンポーネントをコードする核酸配列を含むため、これらのモジュール式構築物の安全性プロファイルが考慮されており、更なる安全性の特徴が構築物に直接操作されている。これらの特徴には、レトロウイルスベクターコンポーネントの複数のオープンリーディングフレームのためのインスレータの使用、並びに/或いはモジュール式構築物におけるレトロウイルス遺伝子の特異的な配向及び配置が含まれる。これらの特徴を使用することにより、複製可能なウイルス粒子を生成するための直接的なリードスルーが防止されると考えられる。
【0156】
ウイルスベクターコンポーネントをコードする核酸配列は、モジュール式構築物において逆及び/又は交互の転写配向であり得る。したがって、ウイルスベクターコンポーネントをコードする核酸配列は、同じ5’から3’方向に提示されず、その結果、ウイルスベクターコンポーネントは、同じmRNA分子から産生することができない。逆配向とは、異なるベクターコンポーネントに対する少なくとも2つのコード配列が、「head-to-head」及び「tail-to-tail」転写配向で提示されることを意味し得る。これは、モジュール式構築物の一方の鎖上の1つのベクターコンポーネント、例えばenvに対するコード配列及び反対側の鎖上の別のベクターコンポーネント、例えばrevに対するコード配列を提供することによって達成され得る。好ましくは、3つ以上のベクターコンポーネントのコード配列がモジュール式構築物中に存在する場合、コード配列の少なくとも2つは逆転写配向で存在する。したがって、モジュール式構築物中に3つ以上のベクターコンポーネントのコード配列が存在する場合、各コンポーネントは、それが隣接する他のベクターコンポーネントの全ての隣接コード配列に対して反対の5’から3’方向に存在するように配向され得る、すなわち、各コード配列に対して交互の5’から3’(又は転写)方向が使用され得る。
【0157】
本発明に従って使用するためのモジュール式構築物は、以下のベクターコンポーネント:gag-pol、rev、env、ベクターゲノムのうちの2つ以上をコードする核酸配列を含み得る。モジュール構築物は、ベクターコンポーネントの任意の組合せをコードする核酸配列を含み得る。一実施形態では、モジュール式構築物は、以下のもの、
i)レンチウイルスベクターのRNAゲノム及びrev、又はその機能的置換物、
ii)レンチウイルスベクターのRNAゲノム及びgag-pol、
iii)レンチウイルスベクターのRNAゲノム及びenv、
iv)gag-pol及びrev、又はその機能的代用物、
v)gag-pol及びenv、
vi)env及びrev、又はその機能的置換物、
vii)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、rev又はその機能的置換物、及びgag-pol、
viii)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、rev又はその機能的置換物、及びenv、
ix)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、gag-pol及びenv、又は
x)gag-pol、rev、又はそれらの機能的代用物、及びenv、
をコードする核酸配列を含み得、
核酸配列は、逆及び/又は交互配向である。
【0158】
一実施形態では、レンチウイルスベクターを産生するための細胞は、上記i)~x)の組合せのいずれか1つをコードする核酸配列を含み得、核酸配列は、同じ遺伝子座に位置し、逆向き及び/又は交互の配向にある。同じ遺伝子座は、細胞内の単一の染色体外遺伝子座、例えば単一のプラスミド、又は細胞のゲノム内の単一の遺伝子座(すなわち、単一の挿入部位)を指し得る。細胞は、レトロウイルスベクター、例えばレンチウイルスベクターを産生するための安定細胞又は一過性細胞であり得る。
【0159】
DNA発現構築物は、DNAプラスミド(スーパーコイル状、ニック入り又は線状化)、ミニサークルDNA(線状又はスーパーコイル状)、制限酵素消化及び精製によるプラスミド骨格の除去によって目的の領域のみを含有するプラスミドDNA、酵素DNA増幅プラットフォーム、例えば、使用される最終DNAが閉環形態であるか、又は開放切断端を有するように調製されている(例えば、制限酵素消化)doggybone DNA(dbDNA(商標))を使用して生成されたDNAであり得る。
【0160】
一実施形態では、レンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はビスナレンチウイルスに由来する。
【0161】
「ウイルスベクター産生細胞」、「ベクター産生細胞」、又は「産生細胞」は、レンチウイルスベクター又はレンチウイルスベクター粒子を産生することができる細胞として理解されるべきである。レンチウイルスベクター産生細胞は、「プロデューサ細胞」又は「パッケージング細胞」であり得る。ウイルスベクターシステムの1つ又は複数のDNA構築物は、ウイルスベクター産生細胞内に安定に組み込まれるか、又はエピソーム的に維持され得る。或いは、ウイルスベクター系の全てのDNAコンポーネントをウイルスベクター産生細胞に一過性にトランスフェクトしてもよい。更に別の代替法では、コンポーネントのいくつかを安定に発現する産生細胞を、ベクター産生に必要な残りのコンポーネントで一過性にトランスフェクトすることができる。
【0162】
本明細書で使用される場合、「パッケージング細胞」という用語は、レンチウイルスベクター粒子の産生に必要な要素を含むが、ベクターゲノムを欠く細胞を指す。場合により、そのようなパッケージング細胞は、ウイルス構造タンパク質(例えば、gag、gag/pol及びenv)、典型的にはrevを発現することができる1つ以上の発現カセットを含有する。
【0163】
プロデューサ細胞/パッケージング細胞は、任意の適切な細胞型であり得る。プロデューサ細胞は一般に哺乳動物細胞であるが、例えば昆虫細胞であり得る。
【0164】
本明細書で使用される場合、「プロデューサ細胞」又は「ベクター産生/プロデューサ細胞」という用語は、レンチウイルスベクター粒子の産生に必要な全ての要素を含む細胞を指す。産生細胞は、安定なプロデューサ細胞株であるか、又は一過性に誘導されるか、又はレトロウイルスゲノムが一過性に発現される安定なパッケージング細胞であり得る。
【0165】
ベクター産生細胞は、組織培養細胞株等のインビトロで培養された細胞であり得る。適切な細胞株には、マウス線維芽細胞由来細胞株又はヒト細胞株等の哺乳動物細胞が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、ベクター産生細胞はヒト細胞株に由来する。
【0166】
細胞及び製造方法
本明細書に記載のインビトロ方法によって得られる又は得ることができるポリマー/核酸複合体の溶液又は本明細書に記載のポリマー核酸複合体の溶液は、細胞のトランスフェクションに使用され得る。
【0167】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を生成するためのインビトロ方法は、
e)必要に応じて哺乳動物細胞を培養する工程と、
f)本明細書に記載の方法によって得られたポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
g)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸を哺乳動物細胞に導入する工程と、
h)場合により、そのゲノム内に組み込まれた核酸を有する哺乳動物細胞を選択する工程と、
i)場合により、核酸が発現される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程と、
j)場合により、レトロウイルスベクターが産生される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程と、
k)場合により、レトロウイルスベクターを単離する工程と、
を更に含む。
【0168】
適切には、工程e)は、工程a)、b)、c)及び/又はd)の前に、例えば工程a)~d)の前に実施される。
【0169】
適切には、工程e)は、工程a)、b)、c)及び/又はd)と同時に、例えば工程a)~d)と同時に実施される。
【0170】
適切には、工程e)は、工程a)、b)、c)及び/又はd)の後に、例えば以下の工程a)~d)の後に実施される。
【0171】
更なる態様では、本発明は、細胞への核酸のトランスフェクションのための、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液の使用を提供する。
【0172】
更なる態様では、本発明は、レトロウイルスベクターの製造方法における、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液の使用を提供する。
【0173】
更なる態様において、本発明は、レトロウイルスベクターを産生するための方法を提供し、
a)必要に応じて哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
c)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる少なくとも1つの核酸を哺乳動物細胞に導入する工程と、
d)場合により、そのゲノム内に組み込まれたウイルスベクターコンポーネントをコードする核酸配列を有する哺乳動物細胞を選択する工程と、
e)レトロウイルスベクターが産生される条件下で哺乳動物細胞を更に培養する工程と、
を含む。
【0174】
更なる態様では、本発明は、本発明の任意の方法によって産生されたレンチウイルスベクターを提供する。
【0175】
更なる態様では、本発明は、レンチウイルスベクターを産生するための産生細胞を生成する方法を提供し、
a)必要に応じて哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
c)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる少なくとも1つの核酸を哺乳動物細胞に導入する工程と、
d)場合により、ウイルスベクターコンポーネントをコードする核酸配列を含む哺乳動物細胞を選択する工程と、
を含む。
【0176】
更なる態様では、本発明は、レンチウイルスベクターを産生するための安定な産生細胞を生成する方法を提供し、
a)必要に応じて哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
c)場合により、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる少なくとも1つの核酸を哺乳動物細胞に導入する工程と、
d)そのゲノム内に組み込まれたベクターコンポーネントをコードする当該核酸を含む細胞を選択する工程と、
を含む。
【0177】
更なる態様では、本発明は、レンチウイルスベクターを産生するための一過性産生細胞を作製する方法を提供し、場合により哺乳動物細胞を培養する工程と、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、場合によりポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる少なくとも1つの核酸を哺乳動物細胞に導入する工程と、を含む。
【0178】
更なる態様では、本発明は、本発明の任意の方法によって産生されたレンチウイルスベクターを産生するための細胞を提供する。
【0179】
更なる態様では、本発明は、本発明の任意の方法によって産生されたレンチウイルスベクターを産生するための安定な産生細胞を提供する。
【0180】
更なる態様では、本発明は、本発明の任意の方法によって産生されたレンチウイルスベクターを産生するための一過性産生細胞を提供する。
【0181】
いくつかの実施形態では、ポリマー/核酸複合体の核酸は、レトロウイルスベクターコンポーネントをコードする。いくつかの実施形態では、ベクターコンポーネントは、
a)ウイルスベクターのゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物
から選択される。
【0182】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターは複製欠損レトロウイルスベクターである。
【0183】
いくつかの実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターであり、好ましくはレンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はVisnaである。
【0184】
いくつかの実施形態では、ベクターコンポーネントは、
a)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物
から選択される。
【0185】
いくつかの実施形態では、方法は哺乳動物細胞を培養する工程を含む。適切には、哺乳動物細胞を培養する工程は、バッチ培養、流加培養、濃縮流加培養又は灌流培養で実施され得る。
【0186】
本明細書で使用される場合、「バッチ培養」という用語は、栄養素を含有する培地の限られた供給が細胞に提供される、すなわち細胞が、新鮮な培地及び/又はサプリメントの添加なしに、及び不純物を含有する栄養枯渇培地の除去なしに、同じ培地で培養される、ウイルスベクター産生を含むバイオテクノロジープロセスのための運用技術を指す。したがって、栄養素が使い果たされると、又は廃棄物又は副生成物の生成等の別の要因が制限されると、培養物は減少する。典型的には、ウイルスベクター産物は、プロセスの最後に回収される。バッチ培養は、ウイルスベクター等の生体材料又は細胞産物の産生における上流処理技術である。
【0187】
本明細書で使用される場合、「流加培養」という用語は、細胞増殖及びウイルスベクター産生に必要な1つ又は複数の栄養素(例えば、そうでなければ制限になるであろう栄養素)が培養中に培養容器、例えばバイオリアクター内の細胞に供給される、ウイルスベクター産生を含むバイオテクノロジープロセスのための運用技術を指す。ウイルスベクター産物は、ウイルスベクターが回収されるプロセス実行の終わりまで培養容器、例えばバイオリアクター内に留まる。1つ以上の栄養素は、不純物を含有する栄養欠乏培地を除去することなく、少なくとも1つの供給流を介して連続的又は定期的に供給されてもよく、すなわち、1つ以上の栄養素は、別のバッチプロセスに添加される。プロセス実行の終了時に細胞が生存可能なままである場合、プロセスを繰り返してもよい。流加培養は、ウイルスベクター等の生体材料又は細胞産物の産生における上流処理技術である。
【0188】
本明細書で使用される場合、「濃縮流加培養」という用語は、交互接線流(ATF)又は接線流濾過(TFF)であり得る灌流培養システムが限外濾過膜と共に使用される、ウイルスベクター産生を含むバイオテクノロジープロセスのための運用技術を指す。濃縮流加培養では、細胞が培養容器、例えばバイオリアクターの内部に保持される一方で、不純物を含有する栄養枯渇培地が除去され、新鮮な培地が細胞に供給される。このプロセスは、従来の流加培養のようにプロセスが終了するまで培養容器、例えばバイオリアクター内に生成物を保持するが、培養容器内のより高い細胞及び生成物濃度を得る。
【0189】
本明細書で使用される場合、「灌流培養」(「連続灌流培養」又は「灌流」としても知られる)という用語は、細胞が培養容器、例えばバイオリアクターの内部に保持される一方で、不純物を含有する栄養枯渇培地が連続的に除去され、新鮮な培地が細胞に連続的に提供される、ウイルスベクター産生を含むバイオテクノロジープロセスのための運用技術を指す。新鮮な培地は、典型的には、不純物を含有する栄養枯渇培地が除去されるのと同じ速度で細胞に提供される。したがって、連続灌流は、少量のバイオリアクター作業容量の連続的な除去と、典型的には除去された培地と同等の容量の新鮮な培地のバイオリアクターへの導入とを含む。灌流培養は、ウイルスベクター等の生体材料又は細胞産物の産生における上流連続処理技術である。ウイルスベクター産物は、ウイルスベクターが回収されるプロセス実行の終わりまで培養容器、例えばバイオリアクター内に留まり得る。例えば、これは、アデノウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクター等の細胞内で産生されるウイルスベクターの場合であり得る。或いは、ウイルスベクター産物を培養容器、例えばバイオリアクターから灌流し、続いて灌流液からウイルスベクター産物を回収してもよい。例えば、これは、ウイルスベクター産生が開始された後に灌流が行われる場合、レンチウイルスベクター等の分泌ウイルスベクターの場合であり得る。
【0190】
一実施形態では、方法は、灌流培養(例えば、灌流培養系において)において哺乳動物細胞を培養する工程を含む。連続灌流培養は、生産力価及び純度を制限する不純物の蓄積が培地交換によって減少するため、ウイルスベクターの生産においてバッチ培養又は流加培養よりも有利である。
【0191】
本発明の製造プロセスは、好ましくは、治療薬としてヒトに投与するのに適した臨床グレードの製剤を製造するための大規模スケールプロセスである。本明細書に記載のウイルスベクター組成物は、好ましくは治療薬としてヒトに投与するのに適している。
【0192】
本明細書に記載の本発明による方法は、細胞培養容器に哺乳動物細胞を接種する工程を更に含み得る。適切には、細胞培養容器に哺乳動物細胞を接種する工程は、哺乳動物細胞を培養する工程(例えば、灌流培養物中で哺乳動物細胞を培養する工程)の前に行われる。「接種する」とは、例えば培養容器内の培養培地に細胞を導入することを意味する。
【0193】
適切には、哺乳動物細胞を培養する工程(例えば、灌流培養物中で哺乳動物細胞を培養する工程)は、細胞培養容器に哺乳動物細胞を接種する工程の直後に行われる。
【0194】
いくつかの実施形態では、方法は、細胞を接種する工程の後で、且つ細胞をトランスフェクトする工程の前に、迅速な培地交換を実施する工程を更に含み、好ましくは、培地は、接種後約20~約28時間で交換される。適切には、培地は、接種後約21時間(適切には、22、23、24、25、26、又は27)~約28時間で交換され得る。適切には、培地は、トランスフェクションの約21~約27、22~約26、又は23~約25時間前に交換され得る。適切には、培地は、トランスフェクションの約24時間前に交換され得る。適切には、培地は、接種後約21時間未満(適切には、約22、約23、約24、約25、約26、約27又は約28時間未満)で交換され得る。適切には、哺乳動物細胞を培養する工程は、少なくとも1回の迅速な培地交換を含む。迅速な培地交換を使用する細胞培養は、灌流培養と同じ理由で、すなわち、生産力価及び純度を制限する不純物の蓄積が培地交換によって減少するため、ウイルスベクターの生産においてバッチ培養又は流加培養よりも有利である。
【0195】
本明細書で使用される場合、「迅速な培地交換」という用語は、細胞が培養容器、例えば本明細書に記載のバイオリアクターの内部に保持されながら、規定量の細胞培養容器作業容量を除去し、規定量の新鮮な培地を短い離散時間で細胞培養容器に導入する、ウイルスベクター産生を含むバイオテクノロジープロセスのための運用技術を指す。したがって、細胞代謝によって栄養素が枯渇した培地、並びにトランスフェクション試薬等のウイルスベクター産生に悪影響を及ぼし得る不純物及び他の薬剤が除去され、迅速な培地交換中に新鮮な培地が細胞に提供される。迅速な培地交換は逐次プロセスであり、すなわち、使用済み培地を最初に細胞培養容器(例えばバイオリアクター)から取り出し、次いで新鮮培地を細胞培養容器(例えばバイオリアクター)に導入する。細胞培養容器に導入される規定量の新鮮な培地は、除去される規定量の細胞培養容器作業量よりも高くてもよく、低くてもよく、同等であってもよく、又は等しくてもよい。除去された不純物を含有する栄養欠乏培地の容量は、典型的には、導入される新鮮な培地の容量と同等である。規定量の細胞培養容器作業容量は、典型的には、細胞培養容器から除去され、続いて規定量の新鮮な培地が細胞培養容器に導入される、すなわち、細胞培養容器の作業容量は、新鮮な培地の添加前の迅速な培地交換中に一時的に減少する。これは、細胞培養容器作業容量の除去及び新鮮な培地の導入が典型的には同時に起こる従来の灌流プロセスとは異なる。迅速な培地交換は、ウイルスベクター等の生体材料又は細胞産物の産生における上流連続処理技術である。
【0196】
適切には、培養容器は、バイオリアクター、ウェーブバッグ、ローラーボトル又はフラスコであり得る。好ましくは、培養容器はバイオリアクターである。
【0197】
一実施形態では、懸濁培養物は、バイオリアクター等の培養容器内にあってもよい。バイオリアクターは、例えば、約0.1リットル~約1000リットル、例えば約0.1リットル~約500リットルの容量(例えば、作業容量)を有し得る。
【0198】
例えば、作業容量等の容量は、約0.1リットル~約0.25リットル、約0.5リットル~約250リットル、約1リットル~約200リットル、約5~約180リットル、約10~約150リットル、約15~約100リットル、約20~約80リットル、又は約30~約50リットルであり得る。
【0199】
一実施形態では、作業容量等の容量は、約0.1、0.25、0.5、0.75、1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95,100、150、200、250、300、350、400、450、500、1000又は2000リットルであり得る。
【0200】
一実施形態では、作業容量は、約2リットル~約100リットルであり得る。
【0201】
一実施形態では、作業容量は約5リットルであり得る。
【0202】
一実施形態では、作業容量は約50リットルであり得る。
【0203】
一実施形態では、作業容量は約200リットルであり得る。
【0204】
一実施形態では、作業容量は約1000リットルであり得る。
【0205】
いくつかの実施形態では、方法は、核酸が発現される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程を含む。
【0206】
いくつかの実施形態では、方法は、レトロウイルスベクターが産生される条件下で哺乳動物細胞を培養する工程を含む。
【0207】
いくつかの実施形態では、方法はレトロウイルスベクターを単離する工程を含む。
【0208】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞はHEK293T細胞である。
【0209】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞は懸濁液適合哺乳動物細胞である。
【0210】
本明細書で使用される場合、「懸濁液適合細胞」という用語は、懸濁増殖に適合した接着様式で典型的に増殖する細胞を指す。細胞を懸濁液に適合させるための方法は、当技術分野で公知である。例えば、懸濁増殖への適応は、細胞の継代中の連続的な血清減少によって行うことができる。これにより、無血清培地中、すなわちウシ胎児血清(FBS)等の血清の非存在下で懸濁状態で増殖する懸濁液適合細胞が得られる。
【0211】
したがって、いくつかの実施形態では、トランスフェクション、導入及び/又は培養工程は、無血清培地中の懸濁液中で行われる。
【0212】
本発明の方法は、懸濁系で培養された接着細胞に対して実施され得る。例えば、接着細胞は、懸濁系においてマイクロキャリア上で培養され得る。
【0213】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションは一過性トランスフェクションである。
【0214】
本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の方法及び溶液は、材料の大規模生産における使用に適している。本発明での使用に適した大容量培養容器の非限定的な例としては、スピナーフラスコ(最大約36L容量)、ウェーブバッグ(最大約100L容量)及びバイオリアクター(最大約10000L容量)が挙げられる。
【0215】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション、導入及び/又は培養工程は少なくとも50L(適切には、少なくとも60L、少なくとも75L、少なくとも100L、少なくとも200L)の容量で行われ、好ましくはトランスフェクション、導入及び培養工程は少なくとも50L(適切には、少なくとも60L、少なくとも75L、少なくとも100L、少なくとも200L)の容量で行われる。
【0216】
いくつかの実施形態では、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸は、トランスフェクション又はエレクトロポレーションによって哺乳動物細胞に導入される。
【0217】
いくつかの実施形態では、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸とは異なる核酸は、ポリマー/核酸複合体の溶液の核酸によってコードされない、以下のもの:
a)レンチウイルスベクターのRNAゲノム、
b)env又はその機能的代用物、
c)gag-pol又はその機能的代用物、並びに/或いは
d)rev又はその機能的代用物、
から選択される任意のウイルスベクターコンポーネントをコードする。
【0218】
いくつかの実施形態では、方法は、工程(i)、(j)及び/又は(k)を繰り返す工程を更に含む。いくつかの実施形態では、方法は、工程(i)、(j)及び(k)を繰り返す工程を更に含む。いくつかの実施形態では、方法は、工程(i)及び(k)を繰り返す工程を更に含む。いくつかの実施形態では、方法は、工程(j)及び(k)を繰り返す工程を更に含む。工程(i)、(j)及び/又は(k)は、複数回繰り返されてもよい。
【0219】
上に記載されるように、灌流培養は、生産力価及び純度を制限する不純物の蓄積が培地交換によって減少するため、ウイルスベクターの生産においてバッチ培養又は流加培養よりも有利である。これにより、より高い細胞密度に達することが可能になる。したがって、灌流工程の長さは、トランスフェクションのための標的細胞密度に応じて変えることができる。適切には、細胞は、長期間にわたって灌流細胞培養系において連続的に培養され得る。適切には、細胞は、接種からトランスフェクション工程まで、又はトランスフェクション工程の直前まで、灌流細胞培養系内で連続的に培養され得る。
【0220】
いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程の前に、灌流培養系で、約0.5時間~約168時間(適切には、約0.5時間~約156時間、約0.5時間~約144時間、約0.5時間~約132時間、約0.5時間~約120時間、約0.5時間~約108時間、約0.5時間~約96時間、約0.5時間~約84時間、約0.5時間~約72時間、約0.5時間~約60時間、約0.5時間~約48時間、約0.5時間~約36時間、約0.5時間~約32時間、約0.5時間~約28時間、約0.5時間~約24時間、約0.5時間~約22時間、約0.5時間~約20時間、約0.5時間~約18時間、又は約0.5時間~約16時間)培養される。好ましくは、細胞は、灌流培養系中で約0.5時間~約24時間、約0.5時間~約22時間、約0.5時間~約20時間、又は約0.5時間~約18時間、例えば約0.5時間~約20時間培養される。
【0221】
いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程の前に、灌流培養系で、約1時間~約168時間(適切には、約1時間~約156時間、約1時間~約144時間、約1時間~約132時間、約1時間~約120時間、約1時間~約108時間、約1時間~約96時間、約1時間~約84時間、約1時間~約72時間、約1時間~約60時間、約1時間~約48時間、約1時間~約36時間、約1時間~約32時間、約1時間~約28時間、約1時間~約24時間、約1時間~約22時間、約1時間~約20時間、約1時間~約18時間、又は約1時間~約16時間)培養される。好ましくは、細胞は、灌流培養系中で約1時間~約24時間、約1時間~約22時間、約1時間~約20時間、又は約1時間~約18時間、例えば約1時間~約20時間培養される。
【0222】
いくつかの実施形態では、細胞は、本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程の前に、灌流培養系で約12時間~約168時間(適切には、約12時間~約156時間、約12時間~約144時間、約12時間~約132時間、約12時間~約120時間、約12時間~約108時間、約12時間~約96時間、約12時間~約84時間、約12時間~約72時間、約12時間~約60時間、約12時間~約48時間、約12時間~約36時間、約12時間~約32時間、約12時間~約28時間、約12時間~約24時間、約12時間~約22時間、約12時間~約20時間、約12時間~約18時間、又は約12時間~約16時間)培養される。好ましくは、細胞は、灌流培養系中で約12時間~約24時間、約12時間~約22時間、約12時間~約20時間、又は約12時間~約18時間、例えば約12時間~約20時間培養される。
【0223】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション工程は、哺乳動物細胞を灌流培養において培養する工程の直後に行われる。
【0224】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション工程は、哺乳動物細胞を灌流培養において培養する工程の後で約0.5時間~約24時間(適切には、約0.5時間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間又は約24時間、好ましくは約1時間)行われる。
【0225】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション工程は、灌流培養において哺乳動物細胞を培養する工程の後、少なくとも約0.5時間~少なくとも約24時間(適切には、少なくとも約0.5時間、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約4時間、少なくとも約5時間、少なくとも約6時間、少なくとも約7時間、少なくとも約8時間、少なくとも約9時間、少なくとも約10時間、少なくとも約11時間、少なくとも約12時間、少なくとも約13時間、少なくとも約14時間、少なくとも約15時間、少なくとも約16時間、少なくとも約17時間、少なくとも約18時間、少なくとも約19時間、少なくとも約20時間、少なくとも約21時間、少なくとも約22時間、少なくとも約23時間、又は少なくとも約24時間、好ましくは少なくとも約1時間)行われる。
【0226】
いくつかの実施形態では、灌流培養は、約50%~約1000%(適切には、約50%~約900%、約50%~約800%、約50%~約700%、約50%~約600%、約50%~約500%、約50%~約400%、約50%~約300%、約50%~約250%、約50%~約200%、約50%~約150%、約50%~約100%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%又は約1000%)の懸濁細胞培養容量を除去し、適切な容量の新鮮な培地を灌流培養の全期間にわたって懸濁細胞培養に導入することによって行われる。したがって、いくつかの実施形態では、灌流培養は、約50%~約1000%(適切には、約50%~約900%、約50%~約800%、約50%~約700%、約50%~約600%、約50%~約500%、約50%~約400%、約50%~約300%、約50%~約250%、約50%~約200%、約50%~約150%、約50%~約100%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%又は約1000%)の細胞培養容器の作業容量、例えばバイオリアクターの作業容量を除去し、適切な容量の新鮮な培地を細胞培養容器、例えばバイオリアクターに導入することによって行われる。適切には、この容量は、灌流培養の全期間にわたって除去される。細胞培養容器に導入される新鮮な培地の容量は、灌流培養中に除去される細胞培養容器の作業容量よりも大きくてもよく、小さくてもよく、同等であってもよく、又は等しくてもよい。好ましい実施形態では、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、灌流培養中に除去される懸濁細胞培養物の容量と同等である。
【0227】
適切には、約50%~約1000%(適切には、約50%~約900%、約50%~約800%、約50%~約700%、約50%~約600%、約50%~約500%、約50%~約400%、約50%~約300%、約50%~約250%、約50%~約200%、約50%~約150%、約50%~100%、約100%、約150%、約200%)の懸濁細胞培養物の容量が除去され得、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、除去される懸濁細胞培養物の容量と同等であり得る。
【0228】
灌流培養工程で除去される懸濁細胞培養容量は、懸濁細胞培養容量の少なくとも約50%(適切には、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%、少なくとも約600%、少なくとも約700%、少なくとも約800%、少なくとも約900%又は少なくとも約1000%)であり得る。
【0229】
灌流培養工程で除去される懸濁細胞培養容量は、懸濁細胞培養容量の約50%未満(適切には、約100%未満、約150%未満、約200%未満、約250%未満、約300%%未満、約400%未満、約500%未満、約600%未満、約700%未満、約800%未満、約900%未満又は約1000%未満)であり得る。
【0230】
好ましい実施形態では、懸濁細胞培養容量の約100%~約200%(適切には約150%)が灌流培養工程において除去され、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、除去される懸濁細胞培養容量と同等であり得る。
【0231】
いくつかの実施形態では、灌流培養は、1日当たりの懸濁細胞培養容量の約50%~約500%(適切には、約50%~約450%、約50%~約400%、約50%~約350%、約50%~約300%、約50%~約250%、約50%~約200%、約50%~約150%、約50%~100%、約100%、約150%、約200%)の流量を用いて行われる。したがって、いくつかの実施形態では、灌流培養は、細胞培養容器作業容量、例えばバイオリアクター作業容量の1日当たり約50%~約500%(適切には、約50%~約450%、約50%~約400%、約50%~約350%、約50%~約300%、約50%~約250%、約50%~約200%、約50%~約150%、約50%~100%、約100%、約150%、約200%)の流量を用いて行われる。好ましくは、灌流培養は、1日当たりの懸濁細胞培養容量の約50%~約200%(適切には、約50%~約150%又は約50%~100%)の流量を用いて行われる。好ましくは、灌流培養は、1日当たりの浮遊細胞培養容量の約200%、約150%又は約100%の流量を用いて行われる。好ましくは、灌流培養は、1日当たりの浮遊細胞培養容量の約150%の流量を用いて行われる。
【0232】
上記のように、迅速な培地交換の使用は、生産力価及び純度を制限する不純物の蓄積が培地交換によって減少するため、ウイルスベクターの生産においてバッチ培養又は流加培養よりも有利である。これにより、より高い細胞密度に達することが可能になる。
【0233】
いくつかの実施形態では、迅速な培地交換は、約0.1~約8時間(適切には、約0.2~約8時間、約0.3~約8時間、約0.4~約8時間、約0.5~約8時間、約1~約8時間、約1.5~約8時間、約2~約8時間、約2.5~約8時間、約3~約8時間、約4~約8時間、約5~約8時間)以内に完了する。
【0234】
迅速な培地交換は、約0.1~約5時間(適切には、約0.2~約5時間、約0.3~約5時間、約0.4~約5時間、約0.5~約5時間、約1~約5時間、約1.5~約5時間、約2~約5時間、約2.5~約5時間、約3~約5時間、約4~約5時間)以内に完了し得る。迅速な培地交換は、約0.1~約3時間(適切には、約0.2~約3時間、約0.3~約3時間、約0.4~約3時間、約0.5~約3時間、約1~約3時間、約1.5~約3時間、約2~約3時間、約2.5~約3時間)以内に完了し得る。
【0235】
迅速な培地交換は、約0.5時間未満(適切には、約1、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8時間未満)で完了し得る。
【0236】
いくつかの実施形態では、迅速な培地交換は、懸濁細胞培養物の容量の約50%~約99%を除去し、適切な容量の新鮮な培地を懸濁細胞培養物に導入することによって行われる。したがって、いくつかの実施形態では、迅速な培地交換は、細胞培養容器作業容量、例えばバイオリアクター作業容量の約50%~約99%を除去し、適切な容量の新鮮な培地を細胞培養容器、例えばバイオリアクターに導入することによって行われる。細胞培養容器に導入される新鮮な培地の容量は、迅速な培地交換中に除去される細胞培養容器の作業容量よりも大きくてもよく、小さくてもよく、同等であってもよく、又は等しくてもよい。好ましい実施形態では、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、迅速な培地交換中に除去される浮遊細胞培養物の容量と同等である。
【0237】
適切には、懸濁細胞培養容量の約55%~約99%(適切には、約60%~約99%、約65%~約99%、約70%~約99%、約75%~約99%、約80%~約99%、約85%~約99%、約90%~約99%)が迅速培地交換p中に除去され得、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、除去される懸濁細胞培養容量と同等であり得る。
【0238】
適切には、懸濁細胞培養容量の約55%~約95%(適切には、約60%~約90%、約65%~約85%、約70%~約80%、約70%~約85%、約75%~約85%)が迅速な培地交換中に除去され得、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、除去される懸濁細胞培養容量と同等であり得る。
【0239】
好ましい実施形態では、懸濁細胞培養物の容量の約70%~約85%(適切には約75%又は約80%)が除去され、懸濁細胞培養物に導入される新鮮な培地の容量は、除去される懸濁細胞培養物の容量と同等であり得る。
【0240】
除去される懸濁細胞培養容量は、少なくとも約50%(適切には、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%)であり得る。
【0241】
除去される懸濁細胞培養容量は、約55%未満、約60%未満、約65%未満、約70%未満、約75%未満、約80%未満、約85%未満、約90%未満、約95%未満、約99%未満)であり得る。
【0242】
いくつかの実施形態では、迅速な培地交換は、トランスフェクション前に0~約24時間(適切には、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約1、約1.5、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23~約24時間)行われる。いくつかの実施形態では、迅速な培地交換は、トランスフェクション前に0~約3時間(適切には、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約1、約1.5、約2又は約2.5~約3時間)行われる。迅速な培地交換は、トランスフェクションの前に0~約2時間(適切には、約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約1又は約1.5~約2時間)実施され得る。迅速な培地交換は、トランスフェクション前に、約0.1時間未満、約0.2時間未満、約0.3時間未満、約0.4時間未満、約0.5時間未満、約1時間未満、約1.5時間未満、約2時間未満、約2.5時間未満、約3時間未満、約3.5時間未満、約4時間未満、約4.5時間未満、約5時間未満、約5.5時間未満、約6時間未満、約6.5時間未満、約7時間未満、約7.5時間未満、約8時間未満、約8.5時間未満、約9時間未満、約9.5時間未満、約10時間未満、約11時間未満、約12時間未満、約13時間未満、約14時間未満、約15時間未満、約16時間未満、約17時間未満、約18時間未満、約19時間未満、約20時間未満、約21時間未満、約22時間未満、約23時間未満、又は約24時間未満行われてもよい。好ましい実施形態では、迅速な培地交換は、トランスフェクションの約1時間前に行われる。
【0243】
いくつかの実施形態では、細胞は、灌流培養時に指数増殖期にあり得る。細胞は、灌流培養工程後に約1x10細胞/mL~約1x10細胞/mL(適切には、約2x10細胞/mL~約5x10細胞/mL、約3x10細胞/mL~約1x10細胞/mL、約4x10細胞/mL~約5x10細胞/mL、約5x10細胞/mL~約1x10細胞/mL、約6x10細胞/mL~約5x10細胞/mL、約7x10細胞/mL~約1x10細胞/mL)の最終細胞密度を有し得る。細胞は、灌流培養工程後に約1x10細胞/mL~約5x10細胞/mL(適切には、約2x10細胞/mL~約1x10細胞/mL、約3x10細胞/mL~約5x10細胞/mL、約4x10細胞/mL~約1x10細胞/mL、約5x10細胞/mL~約1x10細胞/mL)の最終細胞密度を有し得る。細胞数は、灌流培養工程中に少なくとも約25%(適切には、少なくとも約50%、少なくとも約70%、少なくとも約100%、少なくとも約150%、少なくとも約200%、少なくとも約250%、少なくとも約300%、少なくとも約350%、少なくとも約400%、少なくとも約450%、少なくとも約500%、少なくとも約600%、少なくとも約700%、少なくとも約800%、少なくとも約900%、又は少なくとも約1000%)増加し得る。細胞数は、灌流培養工程中に約25%(適切には、約50%、約70%、約100%、約150%、約200%、約250%、約300%、約350%、約400%、約450%、約500%、約600%、約700%、約800%、約900%又は約1000%)増加し得る。細胞数は、灌流培養工程中に約0.5倍(適切には、約1倍、約1.5倍、約2倍、約2.5倍、約3倍、約3.5倍、約4倍、約4.5倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約15倍、約20倍、約25倍)増加し得る。
【0244】
ポリマー/核酸複合体の溶液は、限定されない期間、トランスフェクションのために細胞と接触(すなわち、インキュベート)され得る。例えば、時間は、約20分間~約24時間(適切には、約30分間~約20時間、約1時間~約16時間、約2時間~約12時間、約3時間~約8時間)であり得る。細胞に対するカチオン性ポリマーの細胞傷害効果を低下させるために、培養培地をトランスフェクション後に新鮮な培地と交換することができる。
【0245】
細胞は、ポリマー/核酸複合体の溶液との接触前又は接触時に指数増殖期にあり得る。細胞は、ポリマー/核酸複合体の溶液との接触前又は接触時に、約1x10細胞/mL~約1x10細胞/mL(適切には、約2x10細胞/mL~約5x10細胞/mL、約3x10細胞/mL~約4x10細胞/mL、約4x10細胞/mL~約3x10細胞/mL、約5x10細胞/mL~約2x10細胞/mL、約6x10細胞/mL~約1x10細胞/mL)の細胞密度を有し得る。
【0246】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション工程で使用されるポリマー/核酸複合体:細胞の比は、1x10細胞当たり約0.1μgのDNA(適切には、1x10細胞当たり約0.2μgのDNA、1x10細胞当たり約0.3μgのDNA、1x10細胞当たり約0.4μgのDNA、1x10細胞当たり約0.5μgのDNA、1x10細胞当たり約0.6μgのDNA、1x10細胞当たり約0.7μgのDNA、1x10細胞当たり約0.8μgのDNA、1x10細胞当たり約0.9μgのDNA、1x10細胞当たり約1μgのDNA、1x10細胞当たり1.5μgのDNA又は1x10細胞当たり2μgのDNA)である。好ましくは、トランスフェクション工程で使用されるポリマー/核酸複合体:細胞の比は、1x10細胞当たり約0.6μgのDNAである。
【0247】
いくつかの実施形態では、トランスフェクション工程で使用されるポリマー/核酸複合体:細胞の比は、1x10細胞当たり約0.3μgのDNA(適切には、1x10細胞当たり約0.6μgのDNA、1x10細胞当たり約1μgのDNA、1x10細胞当たり1.5μgのDNA又は1x10細胞当たり2μgのDNA)である。好ましくは、トランスフェクション工程で使用されるポリマー/核酸複合体:細胞の比は、1x10細胞当たり約0.6μgのDNAである。
【0248】
本発明の方法において、ベクターコンポーネントは、ウイルスベクターのgag、env、rev及び/又はRNAゲノムを含み得る。ベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列は、同時に又は任意の順序で連続的に細胞に導入され得る。
【0249】
本発明の方法及び使用のいくつかの実施形態では、レンチウイルスベクターを産生するための適切な産生細胞又は細胞は、適切な条件下で培養した場合にウイルスベクター又はウイルスベクター粒子を産生することができる細胞である。したがって、細胞は、典型的には、gag、env、rev及びレンチウイルスベクターのRNAゲノムを含み得るベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列を含む。適切な細胞株には、マウス線維芽細胞由来細胞株又はヒト細胞株等の哺乳動物細胞が含まれるが、これらに限定されない。それらは、一般に、ヒト細胞、例えばHEK293T、HEK293、CAP、CAP-T又はCHO細胞を含む哺乳動物であるが、例えばSF9細胞等の昆虫細胞であり得る。好ましくは、ベクター産生細胞はヒト細胞株に由来する。したがって、そのような適切な産生細胞は、本発明の方法又は使用のいずれかにおいて使用され得る。
【0250】
ヌクレオチド配列を細胞に導入する方法は当技術分野で周知であり、以前に記載されている。したがって、分子生物学及び細胞生物学における従来の技術を使用したレンチウイルスベクターのgag、env、rev及びRNAゲノムを含むベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列の細胞への導入は、当業者の能力の範囲内である。
【0251】
安定な産生細胞は、パッケージング又はプロデューサ細胞であり得る。パッケージング細胞からプロデューサ細胞を作製するために、ベクターゲノムDNA構築物を安定に又は一過性に導入することができる。パッケージング/プロデューサ細胞は、国際公開第2004/022761号パンフレットに記載されているように、ベクターのコンポーネントの1つ、すなわちゲノム、gag-polコンポーネント及びエンベロープを発現するレトロウイルスベクターを適切な細胞株に形質導入することによって作製することができる。
【0252】
或いは、ヌクレオチド配列を細胞にトランスフェクトすることができ、次いで産生細胞ゲノムへの組込みがまれに且つランダムに起こる。本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用するトランスフェクション方法は、当技術分野で周知の方法を使用して実施することができる。例えば、安定なトランスフェクションプロセスは、コンカテマー化を助けるように操作された構築物を使用し得る。当業者は、ヌクレオチド配列の産生細胞への組込みを促進する方法を認識しているであろう。例えば、核酸構築物を線形化することは、それが天然に環状である場合に役立ち得る。よりランダムでない組込み方法論は、内因性ゲノム内の選択された部位への組込みを誘導するために、哺乳動物宿主細胞の内因性染色体と相同性の共有領域を含む核酸構築物を含み得る。更に、組換え部位が構築物上に存在する場合、これらを標的化組換えに使用することができる。例えば、核酸構築物は、Creリコンビナーゼ(すなわち、P1バクテリオファージ由来のCre/lox系を使用する)と組み合わせた場合に標的化された組込みを可能にするloxP部位を含み得る。代替において、又は加えて、組換え部位は、ラムダインテグラーゼの存在下での部位特異的組込みを可能にするatt部位(例えばλファージから)である。これにより、レンチウイルス遺伝子を、高い及び/又は安定な発現を可能にする宿主細胞ゲノム内の遺伝子座に標的化することが可能になる。
【0253】
標的化組込みの他の方法は、当技術分野で周知である。例えば、ゲノムDNAの標的化切断を誘導する方法を使用して、選択された染色体遺伝子座での標的化組換えを促進することができる。これらの方法は、二本鎖切断(DSB)、例えば、内因性ゲノムにおけるニックを誘導して、非相同末端結合(NHEJ)等の生理学的機構による切断の修復を誘導するための方法又はシステムの使用を含むことが多い。切断は、操作されたジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)等の特異的ヌクレアーゼの使用、特異的切断をガイドするための操作されたcrRNA/tracr RNA(「単一ガイドRNA」)を有するCRISPR/Cas9システムの使用、及び/又はアルゴノート系に基づくヌクレアーゼ(例えば、T.サーモフィルス(T.thermophilus)から)の使用によって起こり得る。
【0254】
レンチウイルス形質導入のみ若しくは核酸トランスフェクションのみ、又は両方の組合せの方法を使用してヌクレオチド配列の組込みによって作製することができるパッケージング/プロデューサ細胞株が使用され得る。
【0255】
産生細胞からレトロウイルスベクターを作製するための方法、特にレトロウイルスベクターの処理は、国際公開第2009/153563号パンフレットに記載されている。
【0256】
一実施形態では、産生細胞は、RNA結合タンパク質(例えばトリプトファンRNA結合減衰タンパク質、TRAP)及び/又はTetリプレッサー(TetR)タンパク質若しくは代替的な調節タンパク質(例えば、CymR)を含み得る。
【0257】
産生細胞からのレンチウイルスベクターの産生は、トランスフェクション法によるもの、誘導工程(例えばドキシサイクリン誘導)を含み得る安定な細胞株からの産生によるもの、又は両方の組合せによるものであり得る。トランスフェクション方法は、当技術分野で周知の方法を使用して実施することができ、例は以前に記載されている。
【0258】
産生細胞、パッケージング細胞株若しくはプロデューサ細胞株、又はレンチウイルスベクターをコードするコンポーネントで一過性にトランスフェクトされたものを培養して、細胞数及びウイルス数及び/又はウイルス力価を増加させる。細胞の培養は、本発明による目的のウイルスベクターを代謝及び/又は成長及び/又は分裂及び/又は産生することを可能にするために行われる。これは、当業者に周知の方法によって達成することができ、例えば適切な培養培地中で細胞に栄養素を提供することを含むが、これに限定されない。方法は、表面に接着する成長、懸濁液中での成長、又はそれらの組合せを含み得る。培養は、例えば、バッチ、フェドバッチ、連続システム等を使用して、組織培養フラスコ、組織培養マルチウェルプレート、皿、ローラーボトル、ウェーブバッグ又はバイオリアクターで行うことができる。細胞培養によってウイルスベクターの大規模生産を達成するために、当技術分野では、懸濁状態で増殖することができる細胞を有することが好ましい。細胞を培養するための好適な条件は公知である(例えば、Tissue Culture,Academic Press,Kruse and Paterson,editors(1973),and R.I.Freshney,Culture of animal cells:A manual of basic technique,fourth edition(Wiley-Liss Inc.,2000,ISBN 0-471-34889-9を参照されたい)。
【0259】
好ましくは、細胞は、最初に組織培養フラスコ又はバイオリアクターで「バルクアップ」され、続いて多層培養容器又は大型バイオリアクター(50L超)で増殖させて、本発明のベクター産生細胞を生成する。
【0260】
好ましくは、細胞を接着様式で成長させて、本発明のベクター産生細胞を作製する。
【0261】
好ましくは、細胞を懸濁モードで成長させて、本発明のベクター産生細胞を作製する。
【0262】
ポリマー/核酸複合体の溶液
更なる態様では、本発明は、本明細書に記載のインビトロ方法のいずれかによって得られる又は得ることができるポリマー/核酸複合体の溶液を提供する。
【0263】
したがって、更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体及び塩を含む溶液を提供し、塩濃度は約10mM~約500mMである。いくつかの実施形態では、塩濃度は、約50mM~約500mMである。
【0264】
更なる態様では、本発明は、ポリマー/核酸複合体及び塩を含む溶液を提供し、塩濃度は約0.1mM~約49mMである。いくつかの実施形態では、塩濃度は、約10mM~約49mMである。
【0265】
いくつかの実施形態では、塩はPBSであり、PBS濃度は約0.15X PBS~約3X PBSである。
【0266】
いくつかの実施形態では、PBSの濃度は、約0.3X PBS未満である。
【0267】
哺乳動物細胞をトランスフェクトする方法
更なる態様において、本発明は、哺乳動物細胞をトランスフェクトするための方法を提供し、
a)哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
を含む。
【0268】
いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞を培養する工程は灌流培養で行われる。
【0269】
したがって、更なる態様において、本発明は、哺乳動物細胞をトランスフェクトするための方法を提供し、
a)灌流培養において哺乳動物細胞を培養する工程と、
b)本明細書に記載のポリマー/核酸複合体の溶液を使用して哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程と、
を含む。
【0270】
適切には、哺乳動物細胞は、本明細書に記載の哺乳動物細胞である。
【0271】
いくつかの実施形態では、方法は、無血清培地中の懸濁液中で実施される。
【0272】
いくつかの実施形態では、工程a)及び/又は工程b)は少なくとも50Lの容量で行われ、好ましくは工程a)及び工程b)は少なくとも50Lの容量で行われる。
【0273】
いくつかの実施形態では、トランスフェクションは一過性トランスフェクションである。
【0274】
適切には、哺乳動物細胞(例えば、灌流培養において)を培養する工程及び哺乳動物細胞をトランスフェクトする工程は、本明細書に記載のように実施される。
【0275】
レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクター
ウイルスベクターは、ベクター、ベクタービリオン又はベクター粒子とも呼ばれ得る。
【0276】
レトロウイルスベクターは、任意の適切なレトロウイルスに由来し得るか、又は任意の適切なレトロウイルスから導き出される。多数の異なるレトロウイルスが同定されている。例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤波肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄細胞腫症ウイルス-29(MC29)及びトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が挙げられる。レトロウイルスの詳細なリストは、Coffin et al.(1997)“Retroviruses”,Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds:JM Coffin,SM Hughes,HE Varmus pp 758-763に見出すことができる。
【0277】
レトロウイルスは、2つのカテゴリー、すなわち「単純」及び「複合」に大別され得る。レトロウイルスは更に7つの群に分けられ得る。これらの群のうちの5つは、発癌能を有するレトロウイルスを表す。残りの2つの群は、レンチウイルス及びスプーマウイルスである。これらのレトロウイルスの総説は、Coffin et al(1997)同書に提示されている。
【0278】
レンチウイルスは、レトロウイルスのより大きな群の一部である。レンチウイルスの詳細なリストは、Coffin et al.(1997)“Retroviruses”,Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds:JM Coffin,SM Hughes,HE Varmus pp 758-763に見出すことができる。手短に言えば、レンチウイルスを霊長類群と非霊長類群に分けることができる。霊長類レンチウイルスの例には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒト自己免疫不全症候群(AIDS)の原因物質、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれるが、これらに限定されない。非霊長類レンチウイルス群には、プロトタイプ型「スローウイルス」ビスナ・マエディウイルス(VMV)、並びに関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、マエディビスナウイルス(MVV)及びウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。一実施形態では、レンチウイルスベクターは、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、BIV、EIAV、CAEV又はビスナレンチウイルスに由来する。
【0279】
レンチウイルス科は、レンチウイルスが分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力を有するという点でレトロウイルスとは異なる(Lewis et al(1992)EMBO J 11(8):3053-3058及びLewis and Emerman(1994)J Virol 68(1):510-516)。対照的に、MLV等の他のレトロウイルスは、例えば筋肉、脳、肺及び肝臓組織を構成する細胞等の非分裂細胞又はゆっくりと分裂する細胞に感染することができない。
【0280】
レンチウイルスベクターは、本明細書で使用される場合、レトロウイルスから誘導可能な少なくとも1つのコンポーネント部分を含むベクターである。好ましくは、そのコンポーネント部分は、ベクターが標的細胞に感染又は形質導入し、NOIを発現する生物学的機構に関与する。
【0281】
レトロウイルスベクターは、インビトロで適合性の標的細胞においてNOIを複製するために使用され得る。したがって、本明細書には、本発明のベクターを適合する標的細胞にインビトロで導入し、NOIの発現をもたらす条件下で標的細胞を増殖させることによってインビトロでタンパク質を作製する方法が記載される。タンパク質及びNOIは、当技術分野で周知の方法によって標的細胞から回収され得る。適切な標的細胞には、哺乳動物細胞株及び他の真核細胞株が含まれる。
【0282】
いくつかの態様では、ベクターは、プロモーターとエンハンサーとの間の相互作用を遮断し、隣接遺伝子からのリードスルーを減少させるバリアとして作用する「インシュレータ」-遺伝子配列を有し得る。
【0283】
一実施形態では、隣接遺伝子からのプロモーター干渉及びリードスルーを防ぐために、1つ又は複数のレトロウイルス核酸配列の間にインシュレータが存在する。1つ又は複数のレトロウイルス核酸配列の間のベクター中にインシュレータが存在する場合、これらのインシュレータ遺伝子のそれぞれは、個々の発現単位として配置され得る。
【0284】
レトロウイルスゲノム及びレンチウイルスゲノムの基本構造は、ゲノムをパッケージングすることを可能にするパッケージングシグナル、プライマー結合部位、標的細胞ゲノムへの組込みを可能にする組込み部位、並びにパッケージングコンポーネントをコードするgag/pol遺伝子及びenv遺伝子(これらはウイルス粒子の集合に必要なポリペプチドである)の間又はその中に位置する5’LTR及び3’LTR等の多くの共通の特徴を共有する。レンチウイルスは、HIV中のrev遺伝子及びRRE配列等の更なる特徴を有し、感染した標的細胞の核から細胞質への組込みプロウイルスのRNA転写物の効率的な輸送を可能にする。
【0285】
プロウイルスでは、これらの遺伝子は、長末端反復配列(LTR)と呼ばれる領域に両端で隣接している。LTRは、プロウイルスの組込み及び転写を担う。LTRはエンハンサープロモーター配列としても機能し、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0286】
LTR自体は、U3、R及びU5と呼ばれる3つの要素に分けることができる同一の配列である。U3は、RNAの3’末端に固有の配列に由来する。RはRNAの両端で繰り返される配列に由来し、U5はRNAの5’末端に固有の配列に由来する。3つの要素のサイズは、異なるレトロウイルス間でかなり異なり得る。
【0287】
本明細書に記載の典型的なレトロウイルスベクターでは、複製に必須の1つ以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部をウイルスから除去することができ、例えば、gag/pol及びenvは存在しなくてもよく、又は機能しなくてもよい。これにより、ウイルスベクターの複製が欠損する。
【0288】
レンチウイルスベクターは、霊長類レンチウイルス(例えばHIV-1)又は非霊長類レンチウイルス(例えばEIAV)のいずれかに由来し得る。
【0289】
一般的に言えば、典型的なレトロウイルスベクター産生系は、必須のウイルスパッケージング機能からのウイルスゲノムの分離を含む。これらのコンポーネントは、通常、別個のDNA発現カセット(或いは、プラスミド、発現プラスミド、DNA構築物又は発現構築物として知られる)上で産生細胞に提供される。
【0290】
ベクターゲノムは、NOIを含む。ベクターゲノムは、典型的には、NOIを有する内部発現カセットであるパッケージングシグナル(ψ)、(場合により)転写後エレメント(PRE)、典型的には中央ポリプリントラクト(cppt)、3’-ppu及び自己不活性化(SIN)LTRを必要とする。R-U5領域は、ベクターゲノムRNA及びNOI mRNAの両方の正しいポリアデニル化、並びに逆転写のプロセスに必要である。ベクターゲノムは、国際公開第2003/064665号パンフレットに記載されているように、revの非存在下でのベクター産生を可能にするオープンリーディングフレームを場合により含み得る。
【0291】
パッケージング機能には、gag/pol遺伝子及びenv遺伝子が含まれる。これらは、産生細胞によるベクター粒子の製造に必要である。これらの機能をゲノムに対してトランスで提供することにより、複製欠損ウイルスベクターの産生が容易になる。
【0292】
ガンマレトロウイルスベクターの生産系は、典型的には、ゲノム、gag/pol及びenv発現構築物を必要とする3コンポーネント系である。HIV-1系レンチウイルスベクターの製造システムは、更に、アクセサリー遺伝子revが提供され、ベクターゲノムがrev応答配列(RRE)を含むことを必要とし得る。EIAVベースのレンチウイルスベクターは、オープンリーディングフレーム(ORF)がゲノム内に存在する場合、revがトランスで提供されることを必要としない(国際公開第2003/064665号パンフレット参照)。
【0293】
通常、ベクターゲノムカセット内にコードされる「外部」プロモーター(ベクターゲノムカセットを駆動する)及び「内部」プロモーター(NOIカセットを駆動する)の両方は、他のベクター系コンポーネントを駆動するものと同様に、強力な真核生物又はウイルスプロモーターである。そのようなプロモーターの例としては、CMV、EF1α、PGK、CAG、TK、SV40及びユビキチンプロモーターが挙げられる。DNAライブラリによって生成されるもの等、強力な「合成」プロモーター(例えばJeTプロモーター)もまた、転写を駆動するために使用され得る。或いは、組織特異的プロモーター、例えば、ロドプシン(Rho)、ロドプシンキナーゼ(RhoK)、コーンロッドホメオボックス含有遺伝子(CRX)、神経網膜特異的ロイシンジッパータンパク質(NRL)、卵黄様黄斑ジストロフィー2(VMD2)、チロシンヒドロキシラーゼ、ニューロン特異的ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、肝臓脂肪酸結合タンパク質プロモーター、Flt-1プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、WASPプロモーター、SV40/hAlbプロモーター、SV40/CD43、SV40/CD45、NSE/RU5’プロモーター、ICAM-2プロモーター、GPIIbプロモーター、GFAPプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、エンドグリンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、デスミンプロモーター、CD68プロモーター、CD14プロモーター及びB29プロモーターを使用して転写を駆動することができる。
【0294】
レトロウイルスベクターの産生は、産生細胞とこれらのDNAコンポーネントとの一過性コトランスフェクション、又は全てのコンポーネントが産生細胞ゲノム内に安定に組み込まれている安定な産生細胞株の使用のいずれかを含む(例えば、Stewart HJ,Fong-Wong L,Strickland I,Chipchase D,Kelleher M,Stevenson L,Thoree V,McCarthy J,Ralph GS,Mitrophanous KA and Radcliffe PA.(2011).Hum Gene Ther.Mar;22(3):357-69)。別のアプローチは、安定なパッケージング細胞(パッケージングコンポーネントが安定に組み込まれている)を使用し、次いで必要に応じてベクターゲノムプラスミドに一過性にトランスフェクトすることである(例えば、Stewart,H.J.,M.A.Leroux-Carlucci,C.J.Sion,K.A.Mitrophanous and P.A.Radcliffe(2009).Gene Ther.Jun;16(6):805-14)。完全ではない代替的なパッケージング細胞株を作製し(ただ1つ又は2つのパッケージングコンポーネントが細胞株に安定に組み込まれる)、ベクターを作製するために、欠損コンポーネントを一過性にトランスフェクトすることも可能である。産生細胞はまた、転写調節因子のtetリプレッサー(TetR)タンパク質群のメンバー(例えば、T-Rex、Tet-On、及びTet-Off)、転写調節因子のクメート誘導性スイッチ系群のメンバー(例えば、クマートリプレッサー(CymR)タンパク質)、又はRNA結合タンパク質(例えば、TRAP-トリプトファン活性化RNA結合タンパク質)等の調節タンパク質を発現し得る。
【0295】
本発明の一実施形態では、ウイルスベクターはEIAVに由来する。EIAVは、レンチウイルスの最も単純なゲノム構造を有し、本発明での使用に特に好ましい。gag/pol遺伝子及びenv遺伝子に加えて、EIAVは3つの他の遺伝子:tat、rev及びS2をコードする。tatはウイルスLTRの転写活性化因子として作用し(Derse and Newbold(1993)Virology 194(2):530-536 and Maury et al(1994)Virology 200(2):632-642)、revはrev応答エレメント(RRE)を介してウイルス遺伝子の発現を調節及び調整する(Martarano et al.(1994)J Virol 68(5):3102-3111)。これらの2つのタンパク質の作用機序は、霊長類ウイルスにおける類似の機序と広く類似していると考えられている(Martarano et al.(1994)J Virol 68(5):3102-3111)。S2の機能は未知である。更に、膜貫通タンパク質の開始時にenvコード配列にスプライシングされたtatの第1のエクソンによってコードされるEIAVタンパク質、Ttmが同定されている。本発明の代替実施形態では、ウイルスベクターはHIVに由来し、HIVは、S2をコードしないが、EIAVとは異なり、vif、vpr、vpu及びnefをコードする。
【0296】
「組換えレトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクター」(RRV)という用語は、パッケージングコンポーネントの存在下で、標的細胞を形質導入することができるウイルス粒子へのRNAゲノムのパッケージングを可能にするのに十分なレトロウイルス遺伝情報を有するベクターを指す。標的細胞の形質導入は、逆転写及び標的細胞ゲノムへの組込みを含み得る。RRVは、ベクターによって標的細胞に送達される非ウイルスコード配列を担持する。RRVは、独立した複製ができず、標的細胞内に感染性レトロウイルス粒子を産生することができない。通常、RRVは、機能的gag/pol及び/又はenv遺伝子、及び/又は複製に必須の他の遺伝子を欠く。
【0297】
好ましくは、本発明のRRVベクターは、最小のウイルスゲノムを有する。
【0298】
本明細書で使用される場合、「最小ウイルスゲノム」という用語は、標的細胞にNOIを感染させ、形質導入し、送達するのに必要な機能を提供するのに必須の要素を保持しながら、非必須要素を除去するようにウイルスベクターが操作されていることを意味する。この戦略の更なる詳細は、国際公開第1998/17815号パンフレット及び国際公開第99/32646号パンフレットに見出すことができる。最小のEIAVベクターは、tat、S2遺伝子、及び必要に応じてrevを欠き、どちらも産生系においてトランスで提供されない。最小HIVベクターは、vif、vpr、vpu、tat及びnefを欠く。
【0299】
産生細胞内でベクターゲノムを産生するために使用される発現プラスミドは、産生細胞/パッケージング細胞におけるゲノムの転写を指示するために、レトロウイルスゲノムに作動可能に連結された転写調節制御配列を含み得る。全ての第3世代レンチウイルスベクターは、5’U3エンハンサー-プロモーター領域において欠失されており、ベクターゲノムRNAの転写は、後述するように、別のウイルスプロモーター、例えばCMVプロモーター等の異種プロモーターによって駆動される。この特徴は、tatとは無関係にベクトル生成を可能にする。一部のレンチウイルスベクターゲノムは、効率的なウイルス産生のために追加の配列を必要とする。例えば、特にHIVの場合、RRE配列が含まれ得る。しかしながら、(別個の)GagPolカセットに対するRREの必要性(及びトランスで提供されるrevへの依存性)は、GagPol ORFのコドン最適化によって低減又は排除され得る。この戦略の更なる詳細は、国際公開第2001/79518号パンフレットに見出すことができる。
【0300】
rev/RRE系と同じ機能を果たす別の配列も知られている。例えば、rev/RRE系の機能的類似体は、メイソンファイザーサルウイルスに見出される。これは構成的輸送要素(CTE)として知られており、感染細胞中の因子と相互作用すると考えられるゲノム中のRRE型配列を含む。細胞因子は、rev類似体と考えることができる。したがって、CTEは、rev/RREシステムの代替として使用することができる。公知であるか又は利用可能になるRevタンパク質の任意の他の機能的等価物が本発明に関連し得る。例えば、HTLV-IのRexタンパク質がHIV-1のRevタンパク質を機能的に置換し得ることも知られている。Rev及びRREは、本発明の方法で使用するためのベクター中に存在しなくてもよく、又は非機能的であってもよく、代替的なrev及びRRE、又は機能的に等価なシステムが存在してもよい。
【0301】
本明細書で使用される場合、「機能的置換物」という用語は、別のタンパク質又は配列と同じ機能を果たす代替配列を有するタンパク質又は配列を意味する。「機能的代替物」という用語は、本明細書では同じ意味で「機能的等価物」及び「機能的類似物」と互換的に使用される。
【0302】
SINベクター
本明細書に記載のウイルスベクターは、ウイルスエンハンサー及びプロモーター配列が欠失された自己不活性化(SIN)配置で使用され得る。SINベクターが作製され得、非SINベクターの有効性と同様の有効性で、インビボ、エクスビボ又はインビトロで非分裂標的細胞に形質導入され得る。SINプロウイルスにおける長い末端反復配列(LTR)の転写不活性化は、vRNAの動員を防止すべきであり、複製能ウイルスの形成の可能性を更に低下させる特徴である。これはまた、LTRのシス作用効果を排除することによって、内部プロモーターからの遺伝子の調節された発現を可能にするはずである。
【0303】
例として、自己不活性化レトロウイルスベクター系は、3’LTRのU3領域内の転写エンハンサー又はエンハンサー及びプロモーターを欠失させることによって構築されている。一連のベクター逆転写及び組込みの後、これらの変化は、転写的に不活性な「プロウイルス」を産生する5’LTR及び3’LTRの両方にコピーされる。しかしながら、そのようなベクター中のLTRの内部の任意のプロモーターは依然として転写活性である。この戦略は、内部に配置された遺伝子からの転写に対するウイルスLTRのエンハンサー及びプロモーターの影響を排除するために使用されている。そのような効果には、転写の増加又は転写の抑制が含まれる。この戦略はまた、3’LTRからゲノムDNAへの下流転写を排除するために使用され得る。これは、内因性癌遺伝子の偶発的活性化を防ぐことが重要であるヒト遺伝子治療において特に懸念される(Yu et al.,(1986)PNAS 83:3194-98;Marty et al.,(1990)Biochimie 72:885-7;Naviaux et al.,(1996)J.Virol.70:5701-5;Iwakuma et al.,(1999)Virol.261:120-32;Deglon et al.,(2000)Human Gene Therapy11:179-90)。SINレンチウイルスベクターは、米国特許第6,924,123号明細書及び米国特許第7,056,699号明細書に記載されている。
【0304】
複製欠損レンチウイルスベクター
複製欠損レンチウイルスベクターのゲノムにおいて、gag/pol及び/又はenvの配列は、変異していてもよく、及び/又は機能していなくてもよい。
【0305】
本明細書に記載の典型的なレンチウイルスベクターでは、ウイルス複製に必須のタンパク質の1つ以上のコード領域の少なくとも一部をベクターから除去することができる。これにより、ウイルスベクターの複製が欠損する。非分裂標的細胞に形質導入すること、及び/又はそのゲノムを標的細胞ゲノムに組み込むことができるNOIを含むベクターを作製するために、ウイルスゲノムの一部をNOIで置き換えることもできる。
【0306】
一実施形態では、レンチウイルスベクターは、国際公開第2006/010834号パンフレット及び国際公開第2007/071994号パンフレットに記載されているような非組込み型ベクターである。
【0307】
更なる実施形態では、ベクターは、ウイルスRNAを有さないか又は欠く配列を送達する能力を有する。更なる実施形態では、送達されるRNA上に位置する異種結合ドメイン(gagに対して異種)及びGag又はGagPol上の同族結合ドメインを使用して、送達されるRNAのパッケージングを確実にすることができる。これらのベクターの両方は、国際公開第2007/072056号パンフレットに記載されている。
【0308】
ベクター力価
当業者は、ウイルスベクターの力価を決定する多数の異なる方法があることを理解するであろう。力価は、しばしば、形質導入単位/mL(TU/mL)として記載される。感染性粒子の数を増加させることによって、及びベクター調製物の比活性を増加させることによって、力価を増加させ得る。
【0309】
NOI及びポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、DNA又はRNAを含み得る。それらは一本鎖又は二本鎖であり得る。多数の異なるポリヌクレオチドが、遺伝暗号の縮重の結果として同じポリペプチドをコードすることができることが当業者によって理解されるであろう。更に、当業者は、日常的な技術を使用して、本発明のポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映するために、本発明のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行うことができることを理解されたい。
【0310】
ポリヌクレオチドは、当技術分野で利用可能な任意の方法によって修飾され得る。そのような修飾は、本発明のポリヌクレオチドのインビボ活性又は寿命を増強するために行われ得る。
【0311】
DNAポリヌクレオチド等のポリヌクレオチドは、組換え的に、合成的に、又は当業者に利用可能な任意の手段によって作製され得る。それらはまた、標準的な技術によってクローニングされ得る。
【0312】
より長いポリヌクレオチドが、一般に、組換え手段を使用して、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を使用して作製されるであろう。これは、クローニングすることが望まれる標的配列に隣接するプライマー対(例えば、約15~30ヌクレオチド)を作製することと、プライマーを動物又はヒト細胞から得られたmRNA又はcDNAと接触させることと、所望の領域の増幅をもたらす条件下でPCRを行うことと、増幅された断片を(例えば、反応混合物をアガロースゲルで精製することによって)単離することと、増幅されたDNAを回収することと、を含む。プライマーは、増幅されたDNAを適切なベクターにクローニングできるように、適切な制限酵素認識部位を含むように設計され得る。
【0313】
一般的なレトロウイルスベクター要素
プロモーター及びエンハンサー
NOI及びポリヌクレオチドの発現は、制御配列、例えば、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御シグナル(例えば、tetリプレッサー(TetR)系)を含む転写制御エレメント又は翻訳抑制エレメント、或いはベクター産生細胞系(TRIP)における導入遺伝子抑制又は本明細書に記載のNOIの他の調節因子を用いて制御され得る。
【0314】
真核細胞において機能的な原核生物プロモーター及びプロモーターを使用することができる。組織特異的又は刺激特異的プロモーターが使用され得る。2つ以上の異なるプロモーター由来の配列要素を含むキメラプロモーターも使用され得る。
【0315】
適切な促進配列は、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、ウシパピローマウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、レトロウイルス及びサルウイルス40(SV40)等のウイルスのゲノムに由来するもの、又はアクチンプロモーター、EF1α、CAG、TK、SV40、ユビキチン、PGK若しくはリボソームタンパク質プロモーター等の異種哺乳動物プロモーターに由来するものを含む強力なプロモーターである。或いは、組織特異的プロモーター、例えば、ロドプシン(Rho)、ロドプシンキナーゼ(RhoK)、コーンロッドホメオボックス含有遺伝子(CRX)、神経網膜特異的ロイシンジッパータンパク質(NRL)、卵黄様黄斑ジストロフィー2(VMD2)、チロシンヒドロキシラーゼ、ニューロン特異的ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、アストロサイト特異的グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、ヒトα1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、肝臓脂肪酸結合タンパク質プロモーター、Flt-1プロモーター、INF-βプロモーター、Mbプロモーター、SP-Bプロモーター、SYN1プロモーター、WASPプロモーター、SV40/hAlbプロモーター、SV40/CD43、SV40/CD45、NSE/RU5’プロモーター、ICAM-2プロモーター、GPIIbプロモーター、GFAPプロモーター、フィブロネクチンプロモーター、エンドグリンプロモーター、エラスターゼ-1プロモーター、デスミンプロモーター、CD68プロモーター、CD14プロモーター及びB29プロモーターを使用して転写を駆動することができる。
【0316】
NOIの転写は、エンハンサー配列をベクターに挿入することによって更に増加させることができる。エンハンサーは、相対的に配向及び位置に依存しないが、SV40エンハンサー及びCMV初期プロモーターエンハンサー等の真核細胞ウイルス由来のエンハンサーを使用してもよい。エンハンサーは、プロモーターに対して5’又は3’の位置でベクターにスプライシングされ得るが、好ましくはプロモーターから5’の部位に位置する。
【0317】
プロモーターは、適切な標的細胞における発現を確実にするか又は増加させるための特徴を更に含み得る。例えば、特徴は、保存領域、例えば、Pribnowボックス又はTATAボックスであり得る。プロモーターは、ヌクレオチド配列の発現レベルに影響を及ぼす(例えば、維持する、増強する、又は減少させる)他の配列を含み得る。適切な他の配列には、Sh1-イントロン又はADHイントロンが含まれる。他の配列は、温度、化学的、光又は応力誘導性要素等の誘導性要素を含む。また、転写又は翻訳を増強するための適切な要素が存在し得る。
【0318】
NOIの調節因子
レトロウイルスパッケージング/プロデューサ細胞株の生成及びレトロウイルスベクター産生における複雑な要因は、特定のレトロウイルスベクターコンポーネント及びNOIの構成的発現が細胞傷害性であり、これらのコンポーネントを発現する細胞の死をもたらし、したがってベクターを産生することができないことである。したがって、これらのコンポーネント(例えば、gag-pol及びエンベロープタンパク質、例えばVSV-G)の発現を調節することができる。他の非細胞傷害性ベクターコンポーネント、例えばrevの発現も、細胞に対する代謝負荷を最小化するように調節することができる。したがって、本明細書に記載のベクターコンポーネント及び/又は細胞をコードするモジュール式構築物又はヌクレオチド配列は、少なくとも1つの調節要素に関連する細胞傷害性及び/又は非細胞傷害性ベクターコンポーネントを含み得る。本明細書で使用される場合、「調節エレメント」という用語は、関連する遺伝子又はタンパク質の発現に影響を及ぼす、増加又は減少させることができる任意のエレメントを指す。調節エレメントは、遺伝子スイッチ系、転写調節エレメント及び翻訳抑制エレメントを含む。
【0319】
哺乳動物細胞において遺伝子スイッチを生成するために、多数の原核生物調節システムが適合されている。多くのレトロウイルスパッケージング及びプロデューサ細胞株は、遺伝子スイッチシステム(例えば、テトラサイクリン及びクメート誘導スイッチシステム)を使用して制御されており、したがって、ベクター産生時に1つ又は複数のレトロウイルスベクターコンポーネントの発現をオンにすることができる。遺伝子スイッチ系には、転写調節因子の(TetR)タンパク質群のもの(例えば、T-Rex、Tet-On、及びTet-Off)、転写調節因子のクメート誘導性スイッチ系群のもの(例えばCymRタンパク質)、及びRNA結合タンパク質を含むもの(例えば、TRAP)が含まれる。
【0320】
そのようなテトラサイクリン誘導性系の1つは、T-REx(商標)系に基づくテトラサイクリンリプレッサー(TetR)系である。例として、このような系では、テトラサイクリンオペレーター(TetO)は、最初のヌクレオチドがヒトサイトメガロウイルス主要前初期プロモーター(hCMVp)のTATATAAエレメントの最後のヌクレオチドの3’末端から10bpになるような位置に配置され、次いでTetR単独でリプレッサーとして作用することができる(Yao F,Svensjo T,Winkler T,Lu M,Eriksson C,Eriksson E.,1998,Hum Gene Ther;9:1939-1950)。このような系では、NOIの発現は、2コピーのTetO配列がタンデムに挿入されたCMVプロモーターによって制御することができる。TetRホモ二量体は、誘導剤(テトラサイクリン又はその類似体ドキシサイクリン[dox])の非存在下で、TetO配列に結合し、上流CMVプロモーターからの転写を物理的に遮断する。存在する場合、誘導剤はTetRホモ二量体に結合し、それがもはやTetO配列に結合できないようなアロステリック変化を引き起こし、遺伝子発現をもたらす。TetR遺伝子は、TetO制御遺伝子発現のより厳密な制御をもたらす翻訳効率を改善することが見出されたので、コドン最適化され得る。
【0321】
TRIPシステムは、国際公開第2015/092440号パンフレットに記載されており、ベクター産生中の産生細胞におけるNOIの発現を抑制する別の方法を提供する。TRAP結合配列(例えばTRAP-tbs)相互作用は、組織特異的プロモーターを含む構成的及び/又は強力なプロモーターが導入遺伝子を駆動することが望ましい場合、特に、産生細胞における導入遺伝子タンパク質の発現が、ベクターの力価の低下をもたらし、及び/又は導入遺伝子由来タンパク質のウイルスベクター送達に起因してインビボで免疫応答を誘発する場合、レトロウイルスベクターの産生のための導入遺伝子タンパク質抑制系の基礎を形成する(Maunder et al,Nat Commun.(2017)Mar27;8)。
【0322】
簡潔には、TRAP-tbs相互作用は翻訳ブロックを形成し、導入遺伝子タンパク質の翻訳を抑制する(Maunder et al,Nat Commun.(2017)Mar27;8)。翻訳ブロックは、産生細胞においてのみ有効であり、したがって、DNA又はRNAに基づくベクター系を妨げない。TRiPシステムは、導入遺伝子タンパク質が、単一又は複数のシストロン性mRNA由来の組織特異的プロモーターを含む構成的及び/又は強力なプロモーターから発現される場合、翻訳を抑制することができる。導入遺伝子タンパク質の調節されない発現は、ベクターの力価を低下させ、ベクター産物の品質に影響を及ぼし得ることが実証されている。一過性及び安定なPaCL/PCLベクター産生系の両方に対する導入遺伝子タンパク質の抑制は、ベクターの力価の低下を防ぐために産生細胞にとって有益であり、ここで、毒性又は分子量の問題が細胞ストレスにつながる可能性があり、導入遺伝子タンパク質は、導入遺伝子由来タンパク質のウイルスベクター送達に起因してインビボで免疫応答を誘発し、遺伝子編集導入遺伝子の使用は、オン/オフ標的影響をもたらし得、導入遺伝子タンパク質は、ベクター及び/又はエンベロープ糖タンパク質の排除に影響を及ぼし得る。
【0323】
エンベロープ及びシュードタイプ化
1つの好ましい態様では、本明細書に記載のレンチウイルスベクターはシュードタイプ化されている。これに関して、シュードタイプ化は1つ又は複数の利点を与えることができる。例えば、HIVベースのベクターのenv遺伝子産物は、CD4と呼ばれるタンパク質を発現する細胞のみに感染するようにこれらのベクターを制限する。しかし、これらのベクター中のenv遺伝子が他のエンベロープウイルス由来のenv配列で置換されている場合、それらはより広い感染スペクトルを有し得る(Verma and Somia(1997)Nature389(6648):239-242)。例として、作業者は、VSV由来の糖タンパク質を有するHIVベースのベクターをシュードタイプ化した(Verma and Somia(1997)Nature389(6648):239-242)。
【0324】
別の実施形態では、Envタンパク質は、変異Envタンパク質又は操作されたEnvタンパク質等の改変Envタンパク質であり得る。改変は、標的化能力を導入するために、又は毒性を低減するために、又は別の目的のために作製又は選択され得る(Valsesia-Wittman et al 1996 J Virol70:2056-64;Nilson et al(1996)Gene Ther3(4):280-286;及びFielding et al(1998)Blood91(5):1802-1809及びそこに引用されている参考文献)。
【0325】
ベクターは、選択された任意の分子でシュードタイプ化され得る。
【0326】
本明細書で使用される場合、「env」は、本明細書に記載の内因性レンチウイルスエンベロープ又は異種エンベロープを意味するものとする。
【0327】
VSV-G
ラブドウイルスである水疱性口内炎ウイルス(VSV)のエンベロープ糖タンパク質(G)は、特定のエンベロープウイルス及びウイルスベクタービリオンをシュードタイプ化することができることが示されているエンベロープタンパク質である。
【0328】
レトロウイルスエンベロープタンパク質の非存在下でのシュードタイプMoMLVベースのレトロウイルスベクターに対するその能力は、Emi et al.(1991)Journal of Virology65:1202-1207によって最初に示された。国際公開第1994/294440号パンフレットは、レトロウイルスベクターがVSV-Gで首尾よくシュードタイプ化され得ることを教示している。これらのシュードタイプ化VSV-Gベクターは、広範囲の哺乳動物細胞を形質導入するために使用され得る。より最近では、Abe et al.(1998)J Virol72(8)6356-6361は、VSV-Gの添加によって非感染性レトロウイルス粒子を感染性にすることができることを教示している。
【0329】
Burns et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:8033-7は、VSV-Gを有するレトロウイルスMLVのシュードタイプ化に成功し、これにより、その天然型のMLVと比較して宿主域が変化したベクターが得られた。VSV-Gシュードタイプ化ベクターは、哺乳動物細胞だけでなく、魚、爬虫類及び昆虫に由来する細胞株にも感染することが示されている(Burns et al.(1993)同上)。それらはまた、様々な細胞株に対して従来の両指向性エンベロープよりも効率的であることが示されている(Yee et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:9564-9568,Emi et al.(1991)Journal of Virology65:1202-1207)。VSV-Gタンパク質は、その細胞質尾部がレトロウイルスコアと相互作用することができるので、特定のレトロウイルスをシュードタイプ化するために使用することができる。
【0330】
VSV-Gタンパク質等の非レトロウイルスシュードタイプ化エンベロープの提供は、感染性を失うことなくベクター粒子を高力価に濃縮できるという利点をもたらす(Akkina et al.(1996)J.Virol.70:2581-5)。レトロウイルスエンベロープタンパク質は、おそらく2つの非共有結合的に連結されたサブユニットからなるため、超遠心分離中の剪断力に明らかに耐えることができない。サブユニット間の相互作用は、遠心分離によって破壊され得る。比較すると、VSV糖タンパク質は単一単位から構成される。したがって、VSV-Gタンパク質シュードタイプ化は、効率的な標的細胞感染/形質導入及び製造プロセス中の両方に潜在的な利点を提供することができる。
【0331】
国際公開第2000/52188号パンフレットは、膜結合型ウイルスエンベロープタンパク質として水疱性口内炎ウイルス-Gタンパク質(VSV-G)を有する、安定したプロデューサ細胞株からのシュードタイプ化レトロウイルスベクターの作製を記載しており、VSV-Gタンパク質の遺伝子配列を提供している。
【0332】
Ross Riverウイルス
Ross Riverウイルスエンベロープは、非霊長類レンチウイルスベクター(FIV)をシュードタイプ化するために使用されており、全身投与後に主に肝臓を形質導入した(Kang et al.,2002,J.Virol.,76:9378-9388)。効率は、VSV-Gシュードタイプ化ベクターで得られたものよりも20倍大きく、肝毒性を示唆する肝酵素の血清レベルによって測定されるように、細胞傷害性をあまり引き起こさなかったことが報告された。
【0333】
バキュロウイルスGP64
バキュロウイルスGP64タンパク質は、臨床用途及び商業用途に必要な高力価ウイルスの大規模生産に使用されるウイルスベクターのVSV-Gの代替物であることが示されている(Kumar M,Bradow BP,Zimmerberg J(2003)Hum Gene Ther.14(1):67-77)。VSV-G-シュードタイプ化ベクターと比較して、GP64シュードタイプ化ベクターは、類似の広範な向性及び類似の天然の力価を有する。GP64発現は細胞を死滅させないので、GP64を構成的に発現するHEK293T系細胞株を作製することができる。
【0334】
代替エンベロープ
シュードタイプ化EIAVに使用した場合に妥当な力価を与える他のエンベロープとしては、モコラ、狂犬病、エボラ及びLCMV(リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス)が挙げられる。4070Aでシュードタイプ化されたレンチウイルスのマウスへの静脈内注入は、肝臓における最大の遺伝子発現をもたらした。
【0335】
パッケージング配列
本発明の文脈内で利用される場合、「パッケージング配列」又は「psi」と互換的に呼ばれる「パッケージングシグナル」という用語は、ウイルス粒子形成中のレトロウイルスRNA鎖のカプシド形成に必要な非コードシス作用配列に関して使用される。HIV-1では、この配列は、主要スプライスドナー部位(SD)の上流から少なくともgag開始コドンまで延在する遺伝子座にマッピングされている(gagのヌクレオチド688に対する5’配列の一部又は全部が含まれ得る)。EIAVにおいて、パッケージングシグナルは、Gagの5’コーディング領域へのR領域を含む。
【0336】
本明細書で使用される場合、「伸長パッケージングシグナル」又は「伸長パッケージング配列」という用語は、gag遺伝子内に更に伸長するpsi配列の周りの配列の使用を指す。これらの追加のパッケージング配列を含めることにより、ウイルス粒子へのベクターRNAの挿入効率を高めることができる。
【0337】
ネコ免疫不全ウイルス(FIV)RNAキャプシド形成決定基は、ゲノムmRNAの5’末端の一方の領域(R-U5)及びgagの近位311nt内にマッピングされたもう一方の領域を含む別個且つ非連続的であることが示されている(Kaye et al.,J Virol.Oct;69(10):6588-92(1995)。
【0338】
内部リボソーム進入部位(IRES)
IRESエレメントの挿入は、単一のプロモーターからの複数のコード領域の発現を可能にする(Adam et al(上記);Koo et al(1992)Virology186:669-675;Chen et al1993J.Virol67:2142-2148)。IRESエレメントは、ウイルスタンパク質のキャップ非依存性翻訳を促進するピコルナウイルスの非翻訳5’末端に最初に見出された(Jang et al(1990)Enzyme44:292-309)。RNAのオープンリーディングフレームの間に位置する場合、IRESエレメントは、IRESエレメントにおけるリボソームの進入を促進し、続いて翻訳の下流開始を促進することによって、下流のオープンリーディングフレームの効率的な翻訳を可能にする。
【0339】
IRESに関する総説が、Mountford及びSmithによって提示される(TIG May1995vol11,No5:179-184)。脳心筋炎ウイルス(EMCV)(Ghattas,I.R.,et al.,Mol.Cell.Biol.,11:5848-5859(1991);BiPタンパク質[Macejak and Sarnow,Nature 353:91(1991)];ショウジョウバエのアンテナペディア遺伝子(エクソンd及びe)[Oh,et al.,Genes&Development,6:1643-1653(1992)]並びにポリオウイルス(PV)のアンテナペディア遺伝子[Pelletier and Sonenberg,Nature334:320-325(1988);Mountford and Smith,TIG11,179-184(1985)も参照されたい]由来のものを含む多数の異なるIRES配列が知られている。
【0340】
PV、EMCV及びブタ水疱病ウイルス由来のIRES要素は、レトロウイルスベクターにおいて以前から使用されている(上記のCoffin et al)。
【0341】
「IRES」という用語は、IRESとして機能するか又はIRESの機能を改善する任意の配列又は配列の組合せを含む。IRESは、ウイルス起源(例えばEMCV IRES、PV IRES、又はFMDV 2A様配列)又は細胞起源(例えば、FGF2 IRES、NRF IRES、ノッチ2IRES又はEIF4 IRES)であり得る。
【0342】
IRESが各ポリヌクレオチドの翻訳を開始することができるようにするために、IRESは、モジュール構築物中のポリヌクレオチドの間又はポリヌクレオチドの前に配置されるべきである。
【0343】
安定な細胞株の開発のために利用されるヌクレオチド配列は、安定な組込みが起こった細胞を選択するための選択マーカの添加を必要とする。これらの選択マーカは、ヌクレオチド配列内の単一の転写単位として発現させることができるか、又はIRESエレメントを使用してポリシストロニックなメッセージで選択マーカの翻訳を開始することが好ましい場合がある(Adam et al1991J.Virol.65,4985)。
【0344】
遺伝子配向及びインシュレータ
核酸が指向性であり、これが最終的に細胞における転写及び複製等の機構に影響を及ぼすことは周知である。したがって、遺伝子は、同じ核酸構築物の一部である場合、互いに対して相対的な配向を有することができる。
【0345】
本発明の特定の実施形態では、細胞又は構築物中の同じ遺伝子座に存在する少なくとも2つの核酸配列は、逆向き及び/又は交互の配向であり得る。換言すれば、この特定の遺伝子座における本発明の特定の実施形態では、一対の連続する遺伝子は同じ配向を有さない。これは、領域が宿主細胞の同じ物理的位置内で発現される場合、転写及び翻訳の両方のリードスルーを防止するのに役立ち得る。
【0346】
交互の配向を有することは、ベクター産生に必要な核酸が細胞内の同じ遺伝子座に基づく場合、レトロウイルスベクター産生に利益をもたらす。これはまた、結果として生じる構築物の安全性を、複製可能なレトロウイルスベクターの生成の防止において改善することができる。
【0347】
核酸配列が逆及び/又は交互の配向にある場合、インシュレータの使用は、その遺伝的周囲からのNOIの不適切な発現又はサイレンシングを防止することができる。
【0348】
「インシュレータ」という用語は、インシュレータ結合タンパク質に結合したときに、周囲の調節シグナルから遺伝子を保護する能力を有するDNA配列エレメントのクラスを指す。2つのタイプのインシュレータ:エンハンサーブロッキング機能及びクロマチンバリア機能が存在する。インシュレータがプロモーターとエンハンサーとの間に位置する場合、インシュレータのエンハンサー遮断機能は、プロモーターをエンハンサーの転写促進作用から遮蔽する(Geyer and Corces1992;Kellum and Schedl1992)。クロマチンバリアインシュレータは、転写的に不活性なクロマチン領域に変わる転写的に活性なクロマチン領域をもたらし、遺伝子発現のサイレンシングをもたらす近くの凝縮したクロマチンの進行を妨げることによって機能する。ヘテロクロマチンの拡散、したがって遺伝子サイレンシングを阻害するインシュレータは、ヒストン修飾に関与する酵素を動員してこのプロセスを防止する(Yang J,Corces VG.2011;110:43-76;Huang,Li et al.2007;Dhillon,Raab et al.2009)。インシュレータはこれらの機能の一方又は両方を有することができ、ニワトリβグロビン絶縁体(cHS4)はそのような例の1つである。このインシュレータは、最も広く研究されている脊椎動物インシュレータであり、G+Cが非常に豊富であり、エンハンサー遮断機能及びヘテロクロマティックバリア機能の両方を有する(Chung J H,Whitely M,Felsenfeld G.Cell.1993;74:505-514)。エンハンサー遮断機能を有する他のそのようなインシュレータは限定されないが、以下を含む。ヒトβ-グロビンインシュレータ5(HS5)、ヒトβ-グロビンインシュレータ1(HS1)、及びニワトリβ-グロビンインシュレータ(cHS3)(Farrell CM1,West AG,Felsenfeld G.,Mol Cell Biol.2002 Jun;22(11):3820-31;J Ellis et al.EMBO J.1996Feb1;15(3):562-568)。望ましくない遠位相互作用を減少させることに加えて、インシュレータはまた、隣接するレトロウイルス核酸配列間のプロモーター干渉(すなわち、1つの転写単位由来のプロモーターが隣接する転写単位の発現を損なう場合)を防止するのに役立つ。レトロウイルスベクター核酸配列のそれぞれの間にインシュレータが使用される場合、直接リードスルーの減少は、複製可能なレトロウイルスベクター粒子の形成の防止に役立つ。
【0349】
インシュレータは、レトロウイルス核酸配列のそれぞれの間に存在し得る。一実施形態では、インシュレータの使用は、ベクターコンポーネントをコードするヌクレオチド配列中の別のNOI発現カセットと相互作用する1つのNOI発現カセットからのプロモーター-エンハンサー相互作用を防止する。
【0350】
ベクターゲノムとgag-pol配列との間にインシュレータが存在し得る。したがって、これは、複製可能なレトロウイルスベクター及び「野生型」様RNA転写物の産生の可能性を制限し、構築物の安全性プロファイルを改善する。安定に組み込まれた多重遺伝子ベクターの発現を改善するためのインシュレータ要素の使用は、Moriarity et al,Nucleic Acids Res.2013Apr;41(8):e92に記載される。
【0351】
ベクター力価
当業者は、レンチウイルスベクターの力価を決定する多数の異なる方法があることを理解するであろう。力価は、しばしば、形質導入単位/mL(TU/mL)として記載される。ベクター粒子の数を増加させることによって、及びベクター調製物の比活性を増加させることによって、力価を増加させ得る。
【0352】
治療的使用
本明細書に記載のレンチウイルスベクター又は本明細書に記載のレンチウイルスベクターで形質導入された細胞又は組織は、医学で使用され得る。
【0353】
更に、本明細書に記載のレンチウイルスベクター、本発明の産生細胞、又は本明細書に記載のレンチウイルスベクターで形質導入された細胞若しくは組織は、目的のヌクレオチドをそれを必要とする標的部位に送達するための医薬品の調製に使用され得る。本発明のレンチウイルスベクター又は形質導入細胞のそのような使用は、前述のように、治療目的又は診断目的のためであり得る。
【0354】
したがって、本明細書に記載のレンチウイルスベクターによって形質導入された細胞が提供される。
【0355】
「ウイルスベクター粒子によって形質導入された細胞」は、ウイルスベクター粒子によって担持された核酸が移入された細胞、特に標的細胞として理解される。
【0356】
好ましい実施形態では、目的のヌクレオチドは治療効果をもたらす。
【0357】
「標的細胞」は、NOIを発現することが望ましい細胞として理解されるべきである。NOIは、本発明のウイルスベクターを用いて標的細胞に導入することができる。標的細胞への送達は、インビボ、エクスビボ又はインビトロで行われ得る。
【0358】
NOIは、治療的又は診断的用途を有し得る。適切なNOIには、酵素、補因子、サイトカイン、ケモカイン、ホルモン、抗体、抗酸化分子、操作された免疫グロブリン様分子、一本鎖抗体、融合タンパク質、免疫共刺激分子、免疫調節分子、キメラ抗原受容体、標的タンパク質のトランスドメインネガティブ変異体、毒素、コンディショナル毒素、抗原、転写因子、構造タンパク質、レポータータンパク質、細胞内局在化シグナル、腫瘍抑制タンパク質、成長因子、膜タンパク質、受容体、血管活性タンパク質及びペプチド、抗ウイルスタンパク質及びリボザイム、並びにそれらの誘導体(関連レポーター基を有する誘導体等)をコードする配列が含まれるが、これらに限定されない。NOIはまた、マイクロRNAをコードし得る。理論に拘束されることを望むものではないが、マイクロRNAのプロセシングはTRAPによって阻害されると考えられる。
【0359】
一実施形態では、NOIは、神経変性障害の治療に有用であり得る。
【0360】
別の実施形態では、NOIはパーキンソン病の治療に有用であり得る。
【0361】
別の実施形態では、NOIは、ドーパミン合成に関与する1つ又は複数の酵素をコードし得る。例えば、酵素は、以下のうちの1つ又は複数であり得る。チロシンヒドロキシラーゼ、GTP-シクロヒドロラーゼI及び/又は芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼ。3つ全ての遺伝子の配列が利用可能である(それぞれGenBank(登録商標)受託番号X05290、U19523及びM76180)。
【0362】
別の実施形態では、NOIは、小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)をコードし得る。代替の実施形態では、ウイルスゲノムは、芳香族アミノ酸ドーパデカルボキシラーゼをコードするNOI及びVMAT2をコードするNOIを含み得る。そのようなゲノムは、パーキンソン病の治療において、特にL-DOPAの末梢投与と併せて使用され得る。
【0363】
別の実施形態では、NOIは、治療用タンパク質又は治療用タンパク質の組合せをコードし得る。
【0364】
別の実施形態では、NOIは、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、インターロイキン-1β(IL-1β)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インスリン増殖因子-2、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C/VEGF-2、VEGF-D、VEGF-E、PDGF-A、PDGF-B、PDFG-A及びPDFG-Bのヘテロ二量体及びホモ二量体からなる群から選択される1つ又は複数のタンパク質をコードし得る。
【0365】
別の実施形態では、NOIは、アンジオスタチン、エンドスタチン、血小板因子4、色素上皮由来因子(PEDF)、胎盤成長因子、レスチン、インターフェロン-α、インターフェロン誘導性タンパク質、gro-beta及びチューブダウン-1、インターロイキン(IL)-1、IL-12、レチノイン酸、抗VEGF抗体又はその断片/変異体、例えばアフリベルセプト、トロンボスポンジン、VEGF受容体タンパク質、例えば米国特許第5,952,199号明細書及び米国特許第6,100,071号明細書に記載されているもの、並びに抗VEGF受容体抗体からなる群から選択される、1つ又は複数の抗血管新生タンパク質をコードし得る。
【0366】
別の実施形態では、NOIは、NF-kB阻害剤、IL1β阻害剤、TGFβ阻害剤、IL-6阻害剤、IL-23阻害剤、IL-18阻害剤、腫瘍壊死因子α及び腫瘍壊死因子β、リンホトキシンα及びリンホトキシンβ、LIGHT阻害剤、αシヌクレイン阻害剤、タウ阻害剤、βアミロイド阻害剤、IL-17阻害剤から選択される抗炎症タンパク質、抗体又はタンパク質若しくは抗体の断片/変異体をコードし得る。
【0367】
別の実施形態では、NOIは、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)をコードし得る。
【0368】
別の実施形態では、NOIは、眼細胞において通常発現されるタンパク質をコードし得る。
【0369】
別の実施形態では、NOIは、光受容細胞及び/又は網膜色素上皮細胞において通常発現されるタンパク質をコードし得る。
【0370】
別の実施形態では、NOIは、RPE65、アリール炭化水素相互作用受容体タンパク質様1(AIPL1)、CRB1、レシチンレチナールアセチルトランスフェラーゼ(LRAT)、光受容体特異的ホメオボックス(CRX)、レチナールグアニレートシクリース(GUCY2D)、RPGR相互作用タンパク質1(RPGRIP1)、LCA2、LCA3、LCA5、ジストロフィン、PRPH2、CNTF、ABCR/ABCA4、EMP1、TIMP3、MERTK、ELOVL4、MYO7A、USH2A、VMD2、RLBP1、COX-2、FPR、harmonin、Rabエスコートタンパク質1、CNGB2、CNGA3、CEP290、RPGR、RS1、RP1、PRELP、グルタチオン経路酵素及びオプチシンを含む群から選択されるタンパク質をコードし得る。
【0371】
他の実施形態では、NOIは、ヒト凝固第VIII因子又は第IX因子をコードし得る。
【0372】
他の実施形態では、NOIは、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)、メチルマロニルCoAムターゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、イソバレリルCoAデヒドロゲナーゼ、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体、グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ、アセチルCoAカルボキシラーゼ、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、3メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、カルバモイル-リン酸シンターゼアンモニア、オルニチントランスカルバアミラーゼ、グルコシルセラミダーゼβ、αガラクトシダーゼA、グルコシルセラミダーゼβ、シスチノシン、グルコサミン(N-アセチル)-6-スルファターゼ、N-アセチル-α-グルコサミニダーゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、ガラクトサミン-6スルファターゼ、アリールスルファターゼA、シトクロムB-245β、ABCD1、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、アルギニノコハク酸シンターゼ、アルギニノコハク酸リアーゼ、アルギナーゼ1、アラニングリコキシレートアミノトランスフェラーゼ、ATP結合カセット、サブファミリーBメンバーを含む群から選択される代謝に関与する1つ又は複数のタンパク質をコードし得る。
【0373】
他の実施形態では、NOIは、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)をコードし得る。一実施形態では、CARは抗5T4 CARである。他の実施形態では、NOIは、B細胞成熟抗原(BCMA)、CD19、CD22、CD20、CD47、CD138、CD30、CD33、CD123、CD70、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、ルイスY抗原(LeY)、チロシン-プロテインキナーゼ膜貫通受容体(ROR1)、ムシン1、細胞表面結合(Muc1)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、内皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン、タンパク質チロシンホスファターゼ、非受容体型22、インターロイキン2受容体α、ヘリカーゼCドメイン1で誘導されたインターフェロン、ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)、グリピカン3(GPC3)、ジシアロガングリオシド(GD2)、メソテリン、小胞内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)をコードし得る。
【0374】
他の実施形態では、NOIは、ULBP1、2及び3、H60、Rae-1a、b、g、d、MICA、MICBを含む群から選択されるNKG2Dリガンドに対するキメラ抗原受容体(CAR)をコードし得る。
【0375】
更なる実施形態では、NOIは、SGSH、SUMF1、GAA、共通ガンマ鎖(CD132)、アデノシンデアミナーゼ、WASタンパク質、グロビン、αガラクトシダーゼA、δ-アミノレブリン酸(ALA)シンターゼ、δ-アミノレブリン酸デヒドラターゼ(ALAD)、ヒドロキシメチルビラン(HMB)シンターゼ、ウロポルフィリノーゲン(URO)シンターゼ、ウロポルフィリノーゲン(URO)デカルボキシラーゼ、コプロポルフィリノーゲン(COPRO)オキシダーゼ、プロトポルフィリノーゲン(PROTO)オキシダーゼ、フェロケラターゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、ヘパランスルファミダーゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、ヘパリン-α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、3N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ、ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、β-グルクロニダーゼ及びヒアルロニダーゼをコードし得る。
【0376】
NOIに加えて、ベクターはまた、siRNA、shRNA又は調節shRNAを含むか又はコードし得る。(Dickins et al.(2005)Nature Genetics 37:1289-1295,Silva et al.(2005)Nature Genetics 37:1281-1288)。
【0377】
適応症
本発明によるレトロウイルスベクター及びAAVベクターを含むベクターは、国際公開第1998/05635号パンフレット、国際公開第1998/07859号パンフレット、国際公開第1998/09985号パンフレットに列挙されている障害の治療に有用な1つ又は複数のNOIを送達するために使用することができる。目的のヌクレオチドは、DNA又はRNAであり得る。そのような疾患の例を以下に示す。
【0378】
サイトカイン及び細胞増殖/分化活性に応答する障害;免疫抑制剤又は免疫刺激活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスによる感染を含む免疫不全を治療するため、リンパ球増殖の調節のため;癌及び多くの自己免疫疾患を治療するため、並びに移植拒絶を防止するため、又は腫瘍免疫を誘導するため);造血の調節(例えば骨髄性又はリンパ性疾患の治療);骨、軟骨、腱、靭帯及び神経組織の成長の促進(例えば創傷治癒、熱傷、潰瘍及び歯周疾患並びに神経変性の治療のために);卵胞刺激ホルモンの阻害又は活性化(妊孕性の調節);走化性/走化性活性(例えば、特定の細胞型を損傷又は感染の部位に動員するため);止血及び血栓溶解活性(例えば、血友病及び脳卒中を治療するため);抗炎症活性(例えば、敗血症性ショック又はクローン病を治療するため);マクロファージ阻害活性及び/又はT細胞阻害活性、したがって抗炎症活性;抗免疫活性(すなわち、炎症に関連しない応答を含む、細胞性及び/又は体液性免疫応答に対する阻害効果);マクロファージ及びT細胞が細胞外マトリックスコンポーネント及びフィブロネクチンに接着する能力の阻害、並びにT細胞におけるfas受容体発現の上方制御。
【0379】
癌、白血病、良性及び悪性腫瘍の成長、浸潤及び広がり、血管新生、転移、腹水及び悪性胸水貯留を含む悪性障害。
【0380】
関節リウマチ、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、コラーゲン疾患及び他の疾患を含む関節炎を含む自己免疫疾患。
【0381】
動脈硬化症、アテローム硬化性心疾患、再灌流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群、心血管作用、末梢血管疾患、片頭痛及びアスピリン依存性抗血栓症、脳卒中、脳虚血、虚血性心疾患又は他の疾患を含む血管疾患。
【0382】
消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病及び他の疾患を含む胃腸管の疾患。
【0383】
肝線維症、肝硬変を含む肝疾患。
【0384】
フェニルケトン尿症PKU、ウィルソン病、有機酸血症、尿素サイクル障害、胆汁うっ滞、及び他の疾患を含む遺伝性代謝障害。
【0385】
甲状腺炎又は他の腺疾患、糸球体腎炎又は他の疾患を含む腎臓及び泌尿器の疾患。
【0386】
耳炎又は他の耳鼻咽頭疾患、皮膚炎又は他の皮膚疾患を含む耳、鼻及び喉の障害。
【0387】
歯周疾患、歯周炎、歯肉炎又は他の歯/口腔疾患を含む歯及び口腔障害。
【0388】
精巣炎又は精巣上体-精巣炎、不妊症、精巣外傷又は他の精巣疾患を含む精巣疾患。
【0389】
胎盤機能障害、胎盤機能不全、習慣性流産、子癇、子癇前症、子宮内膜症及び他の婦人科疾患を含む婦人科疾患。
【0390】
眼科学的障害、例えば、LCA10を含むレーバー先天性黒内障(LCA)、後部ブドウ膜炎、中間ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、脈絡網膜炎、ブドウ膜炎、視神経炎、緑内障(開放隅角緑内障及び若年性先天緑内障を含む)、眼内炎症、例えば網膜炎又は嚢胞様黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性、加齢黄斑変性(AMD)を含む黄斑変性、及びベスト病を含む若年性黄斑変性、ベスト病、ベスト卵黄様黄斑変性、シュタルガルト病、アッシャー症候群、ドイン蜂巣状網膜ジストロフィー、ソービー黄斑ジストロフィー、若年性網膜分離症、コンドロッドジストロフィー、角膜ジストロフィー、フックスジストロフィー、レーバー先天性黒内障、レーバー遺伝性視神経症(LHON)、アデイ症候群、オグチ病、変性フォンダス病、眼外傷、感染によって引き起こされる眼炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、例えば緑内障濾過手術後の過度の瘢痕化、眼移植片拒絶反応、並びに糖尿病性黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、RLBP1関連網膜ジストロフィー、脈絡膜血症及び無色素視症等の他の眼疾患。
【0391】
パーキンソン病、パーキンソン病の治療による合併症及び/又は副作用、AIDS関連認知症複合HIV関連脳症、デビック病、シデナム舞踏病、アルツハイマー病及び他の変性疾患、CNSの状態又は障害、脳卒中、ポリオ後症候群、精神障害、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎、脳脊髄炎、急性ニューロパシー、亜急性ニューロパシー、慢性ニューロパシー、ファブリー病、ゴーシェ病、シスチノーシス、ポンペ病、異染性白質ジストロフィー、ウィスコットアルドリッチ症候群、副腎白質ジストロフィー、ベータサラセミア、鎌状赤血球症、ギライムバレー症候群、シデナム舞踏病、重症筋無力症、偽腫瘍脳、ダウン症候群、ハンチントン病、CNS圧迫又はCNS外傷又はCNSの感染、筋萎縮症及びジストロフィー、中枢及び末梢神経系の疾患、状態又は障害、筋萎縮性側索硬化症、脊髄筋萎縮症、脊髄及び剥離損傷を含む運動ニューロン疾患を含む神経及び神経変性障害。
【0392】
嚢胞性線維症、ムコ多糖症、例えば、サンフィリポ症候群A、サンフィリポ症候群B、サンフィリポ症候群C、サンフィリポ症候群Dを含むムコ多糖症、Hunter症候群、Hurler-Scheie症候群、モルキオ症候群、ADA-SCID、X連鎖SCID、X連鎖性慢性肉芽腫性疾患、ポルフィリン症、血友病A、血友病B、外傷後炎症、出血、凝固及び急性期反応、悪液質、食欲不振、急性感染症、敗血症性ショック、感染性疾患、糖尿病、手術の合併症若しくは副作用、骨髄移植又は他の移植合併症及び/又は副作用、例えばウイルス担体又はAIDSによる感染による遺伝子治療の合併症及び副作用、体液性及び/又は細胞性免疫応答を抑制又は阻害するための、天然細胞又は人工細胞移植の場合における移植片拒絶の予防及び/又は治療のための、角膜、骨髄、器官、レンズ、ペースメーカー、天然又は人工皮膚組織等の組織及び器官等の他の疾患又は状態。
【0393】
siRNA、マイクロRNA及びshRNA
特定の他の実施形態では、NOIはマイクロRNAを含む。マイクロRNAは、生物において天然に産生される小さなRNAの非常に大きな群であり、その少なくとも一部は標的遺伝子の発現を調節する。マイクロRNAファミリーの形成メンバーはlet-7及びlin-4である。let-7遺伝子は、虫発達中に内因性タンパク質コード遺伝子の発現を調節する、小さく高度に保存されたRNA種をコードする。活性RNA種は最初に約70ntの前駆体として転写され、これは転写後に成熟約21nt形態に処理される。let-7及びlin-4の両方は、ダイサー酵素によってそれらの成熟形態にプロセシングされるヘアピンRNA前駆体として転写される。
【0394】
NOIに加えて、ベクターはまた、siRNA、shRNA又は調節shRNAを含むか又はコードし得る(Dickins et al.(2005)Nature Genetics 37:1289-1295,Silva et al.(2005)Nature Genetics 37:1281-1288)。
【0395】
二本鎖RNA(dsRNA)によって媒介される転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)は、外来遺伝子の発現を制御するための保存された細胞防御機構である。トランスポゾン又はウイルス等の要素のランダムな組込みは、相同な一本鎖mRNA又はウイルスゲノムRNAの配列特異的分解を活性化するdsRNAの発現を引き起こすと考えられる。サイレンシング効果は、RNA干渉(RNAi)として知られている(Ralph et al.(2005)Nature Medicine11:429-433)。RNAiの機構は、長いdsRNAを約21~25ヌクレオチド(nt)RNAの二重鎖にプロセシングすることを含む。これらの産物は、mRNA分解の配列特異的メディエーターである低分子干渉RNA又はサイレンシングRNA(siRNA)と呼ばれる。分化した哺乳動物細胞では、30bp超のdsRNAがインターフェロン応答を活性化し、タンパク質合成及び非特異的mRNA分解のシャットダウンをもたらすことが見出されている(Stark et al.,Annu Rev Biochem67:227-64(1998))。しかしながら、この応答は、培養哺乳動物細胞において遺伝子機能を分析することを可能にする21ntのsiRNA二重鎖を使用することによって回避することができる(Elbashir et al.,EMBO J.Dec3;20(23):6877-88(2001),Hutvagner et al.,Science.Aug3,293(5531):834-8.Eupub Jul12(2001))。
【0396】
医薬組成物
本開示は、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と組み合わせて、本明細書に記載のレンチウイルスベクター又は本明細書に記載のウイルスベクターで形質導入された細胞若しくは組織を含む医薬組成物を提供する。
【0397】
本開示は、遺伝子療法によって個体を治療するための医薬組成物であって、治療有効量のレンチウイルスベクターを含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、ヒト又は動物の使用のためのものであり得る。
【0398】
組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤又はアジュバントを含み得る。薬学的担体、賦形剤又は希釈剤の選択は、意図された投与経路及び標準的な製薬実務に関して行うことができる。医薬組成物は、担体、賦形剤又は希釈剤に加えて、任意の適切な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤、及び標的部位(例えば、脂質送達系等)へのベクターの進入を補助又は増加させることができる他の担体剤を含んでもよい。
【0399】
適切な場合、組成物は、任意の1つ以上の吸入;坐剤又はペッサリーの形態で;ローション、溶液、クリーム、軟膏又は粉剤の形態で局所的に;皮膚貼付剤の使用による;デンプン若しくはラクトース等の賦形剤を含有する錠剤の形態で経口的に、又は単独で若しくは賦形剤と混合したカプセル若しくは卵の形態で、又は香味料若しくは着色剤を含有するエリキシル剤、溶液若しくは懸濁液の形態の任意の1つ又は複数によって投与され得、或いは非経口的に、例えば、空洞内、静脈内、筋肉内、頭蓋内、眼内、腹腔内又は皮下に注射することができる。非経口投与の場合、組成物は、他の物質、例えば溶液を血液と等張にするのに十分な塩又は単糖類を含有し得る滅菌水溶液の形態で最もよく使用され得る。頬側又は舌下投与の場合、組成物は、従来の様式で製剤化することができる錠剤又はトローチ剤の形態で投与することができる。
【0400】
本明細書に記載されるレンチウイルスベクターはまた、標的細胞又は標的組織を必要とする患者にそれを移入する前に、エクスビボで当該標的細胞又は標的組織を形質導入するために使用され得る。そのような細胞の例は自己T細胞であり得、そのような組織の例はドナー角膜であり得る。
【0401】
変異体、誘導体、類似体、ホモログ及び断片
本明細書で言及される特定のタンパク質及びヌクレオチドに加えて、本発明はまた、その変異体、誘導体、類似体、ホモログ及び断片の使用も包含する。
【0402】
本発明の文脈において、任意の所与の配列の変異体は、残基の特定の配列(アミノ酸残基又は核酸残基にかかわらず)が、問題のポリペプチド又はポリヌクレオチドがその内因性機能の少なくとも1つを保持するように改変されている配列である。変異体配列は、天然に存在するタンパク質中に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、修飾、置換え及び/又は変異によって得ることができる。
【0403】
本発明のタンパク質又はポリペプチドに関して本明細書で使用される「誘導体」という用語は、得られるタンパク質又はポリペプチドがその内因性機能の少なくとも1つを保持することを条件として、配列からの、又は配列への1つ(又は複数)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、修飾、置換え、欠失及び/又は付加を含む。
【0404】
ポリペプチド又はポリヌクレオチドに関して本明細書で使用される「類似体」という用語は、任意の模倣物、すなわち、それが模倣するポリペプチド又はポリヌクレオチドの内因性機能の少なくとも1つを有する化学化合物を含む。
【0405】
典型的には、改変された配列が必要な活性又は能力を保持する限り、アミノ酸置換、例えば1、2又は3~10又は20個の置換が行われ得る。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含み得る。
【0406】
本発明で使用されるタンパク質はまた、サイレント変化を生成し、機能的に等価なタンパク質をもたらすアミノ酸残基の欠失、挿入又は置換を有し得る。意図的なアミノ酸置換は、内因性機能が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の性質の類似性に基づいて行われ得る。例えば、負に荷電したアミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ、正に荷電したアミノ酸には、リジン及びアルギニンが含まれ、同様の親水性値を有する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸には、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン及びチロシンが含まれる。
【0407】
保存的置換は、例えば以下の表に従って行うことができる。第2のカラム内の同じブロック内の、好ましくは第3のカラム内の同じライン内のアミノ酸は、互いに置換されてもよい。
【0408】
【表1】
【0409】
「ホモログ」という用語は、野生型アミノ酸配列及び野生型ヌクレオチド配列と一定の相同性を有する実体を意味する。「相同性」という用語は、「同一性」と同一視することができる。
【0410】
本文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%又は90%同一、好ましくは少なくとも95%、97又は99%同一であり得るアミノ酸配列を含むと解釈される。典型的には、相同性は、対象のアミノ酸配列と同じ活性部位等を含む。相同性は類似性(すなわち、類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)に関しても考慮することができるが、本発明の文脈では、配列同一性に関して相同性を表現することが好ましい。
【0411】
本文脈において、相同配列は、対象配列と少なくとも50%、55%、65%、75%、85%又は90%同一、好ましくは少なくとも95%、97%、98%又は99%同一であり得るヌクレオチド配列を含むと解釈される。相同性は類似性に関しても考慮することができるが、本発明の文脈では、配列同一性の観点から相同性を表現することが好ましい。
【0412】
相同性比較は、眼によって、又はより一般的には、容易に利用可能な配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性又は同一性のパーセンテージを計算することができる。
【0413】
相同性パーセントは、連続した配列にわたって計算することができ、すなわち、一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列中の各アミノ酸を他方の配列中の対応するアミノ酸と一度に1残基ずつ直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。典型的には、そのような非ギャップ整列は、比較的少数の残基にわたってのみ行われる。
【0414】
これは非常に単純で一貫した方法であるが、例えば、他の点では同一の配列対において、ヌクレオチド配列における1つの挿入又は欠失が、以下のコドンをアラインメントから外す原因となり得ることを考慮に入れることができず、したがって、全体的なアラインメントが行われるとき、相同性パーセントの大きな低下をもたらす可能性がある。その結果、ほとんどの配列比較方法は、全体的な相同性スコアを過度に不利にすることなく、可能性のある挿入及び欠失を考慮した最適なアラインメントを生成するように設計される。これは、局所相同性を最大化しようとするために配列アラインメントに「ギャップ」を挿入することによって達成される。
【0415】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アラインメントにおいて生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当て、それにより、同じ数の同一のアミノ酸について、2つの比較される配列間のより高い関連性を反映して、可能な限り少ないギャップを有する配列アラインメントが、多くのギャップを有する配列よりも高いスコアを達成する。「アフィンギャップコスト」は、典型的には、ギャップの存在に対して比較的高いコストを課し、ギャップ内の各後続残差に対してより小さいペナルティを課す。これは、最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは、当然ながら、より少ないギャップで最適化されたアラインメントを生成する。ほとんどのアラインメントプログラムは、ギャップペナルティを修正することを可能にする。しかしながら、配列比較のためにそのようなソフトウェアを使用する場合、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列のデフォルトのギャップペナルティは、ギャップに対して-12、各伸長に対して-4である。
【0416】
したがって、最大パーセンテージの相同性の計算は、ギャップペナルティを考慮して、最適なアラインメントの生成を最初に必要とする。そのようなアラインメントを実施するための適切なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfit package(University of Wisconsin,U.S.A.;Devereux et al.(1984)Nucleic Acids Research12:387)である。配列比較を実行することができる他のソフトウェアの例には、BLASTパッケージ(Ausubel et al.(1999)同上-Ch.18を参照)、FASTA(Atschul et al.(1990)J.Mol.Biol.403-410)及びGENEWORKS比較ツール一式が含まれるが、これらに限定されない。BLAST及びFASTAの両方は、オフライン及びオンライン検索に利用可能である(Ausubel et al.(1999)ibid,pages7-58 to7-60を参照)。しかしながら、いくつかの用途では、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST2配列と呼ばれる別のツールもまた、タンパク質及びヌクレオチド配列を比較するために利用可能である(FEMS Microbiol Lett(1999)174(2):247-50;FEMS Microbiol Lett(1999)177(1):187-8を参照されたい)。
【0417】
最終的な相同性パーセントは、同一性に関して測定することができるが、アラインメントプロセス自体は、典型的には、全か無かの対の比較に基づいていない。代わりに、化学的類似性又は進化的距離に基づいて各対比較にスコアを割り当てるスケーリングされた類似性スコア行列が一般に使用される。一般的に使用されるそのような行列の例は、BLASTプログラム一式のデフォルト行列であるBLOSUM62行列である。GCG Wisconsinプログラムは、一般に、提供される場合、パブリックデフォルト値又はカスタムシンボル比較表のいずれかを使用する(更なる詳細についてはユーザマニュアルを参照)。いくつかの用途では、GCGパッケージの公開デフォルト値、又は他のソフトウェアの場合はBLOSUM62等のデフォルト行列を使用することが好ましい。
【0418】
ソフトウェアが最適なアラインメントを生成したら、相同性パーセント、好ましくは配列同一性パーセントを計算することが可能である。ソフトウェアは通常、配列比較の一部としてこれを行い、数値結果を生成する。
【0419】
「断片」もまた変異体であり、この用語は、典型的には、機能的に又は例えばアッセイのいずれかにおいて目的のポリペプチド又はポリヌクレオチドの選択された領域を指す。したがって、「断片」は、全長ポリペプチド又はポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸又は核酸配列を指す。
【0420】
そのような変異体は、部位特異的突然変異誘発等の標準的な組換えDNA技術を使用して調製され得る。挿入が行われる場合、挿入部位の両側の天然に存在する配列に対応する5’及び3’フランキング領域と共に挿入をコードする合成DNAが作製され得る。フランキング領域は、配列が適切な酵素で切断され、合成DNAが断裂に連結されるように、天然に存在する配列の部位に対応する便利な制限部位を含む。次いで、DNAを本発明に従って発現させて、コードされたタンパク質を作製する。これらの方法は、DNA配列の操作のための当技術分野で公知の多数の標準的な技術の例示にすぎず、他の公知の技術も使用することができる。
【0421】
本発明の細胞及び/又はモジュール式構築物における使用に適した調節タンパク質の全ての変異体、断片又はホモログは、NOIの翻訳がウイルスベクター産生細胞において抑制又は防止されるように、NOIの同族結合部位に結合する能力を保持する。
【0422】
結合部位の全ての変異体断片又はホモログは、NOIの翻訳がウイルスベクター産生細胞において抑制又は防止されるように、同族RNA結合タンパク質に結合する能力を保持する。
【0423】
コドン最適化
本発明で使用されるポリヌクレオチド(ベクター産生系のNOI及び/又はコンポーネントを含む)は、コドン最適化され得る。コドン最適化は、国際公開第1999/41397号パンフレット及び国際公開第2001/79518号パンフレットに以前に記載されている。異なる細胞は、特定のコドンの使用が異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的存在量におけるバイアスに対応する。対応するtRNAの相対的存在量と一致するように調整されるように配列中のコドンを変化させることによって、発現を増加させることが可能である。同様に、対応するtRNAが特定の細胞型において稀であることが知られているコドンを意図的に選択することによって、発現を減少させることが可能である。したがって、更なる程度の翻訳制御が利用可能である。
【0424】
レトロウイルスを含む多くのウイルスは、多数の稀少コドンを使用し、これらを一般的に使用される哺乳動物コドンに対応するように変化させ、目的の遺伝子、例えばNOIの発現又は哺乳動物産生細胞中のパッケージングコンポーネントの発現の増加が達成され得る。コドン使用頻度表は、哺乳動物細胞及び様々な他の生物について当技術分野で公知である。
【0425】
ウイルスベクターコンポーネントのコドン最適化には、多数の他の利点がある。それらの配列の変化により、プロデューサ細胞/パッケージング細胞におけるウイルス粒子の集合に必要なウイルス粒子のパッケージングコンポーネントをコードするヌクレオチド配列は、それらから除去されたRNA不安定性配列(INS)を有する。同時に、パッケージングコンポーネントのアミノ酸配列コード配列は、配列によってコードされるウイルスコンポーネントが同じままであるか、又はパッケージングコンポーネントの機能が損なわれないように少なくとも十分に類似するように保持される。レンチウイルスベクターでは、コドン最適化はまた、エクスポートのためのRev/RRE要件を克服し、最適化された配列をRev非依存性にする。コドン最適化はまた、ベクター系内の異なる構築物間(例えば、gag-pol及びenvオープンリーディングフレームにおける重複領域間)の相同組換えを減少させる。したがって、コドン最適化の全体的な効果は、ウイルス力価の顕著な増加及び安全性の改善である。
【0426】
一実施形態では、INSに関連するコドンのみがコドン最適化される。しかしながら、はるかに好ましい実用的な実施形態では、配列は、いくつかの例外を除いて、例えば、gag-polのフレームシフト部位を包含する配列(下記参照)を除いて、それらの全体がコドン最適化される。
【0427】
レンチウイルスベクターのgag-pol遺伝子は、gag-polタンパク質をコードする2つの重複するリーディングフレームを含む。両方のタンパク質の発現は、翻訳中のフレームシフトに依存する。このフレームシフトは、翻訳中のリボソーム「滑り」の結果として起こる。この滑りは、少なくとも部分的にはリボソーム停止RNA二次構造によって引き起こされると考えられる。このような二次構造は、gag-pol遺伝子のフレームシフト部位の下流に存在する。HIVの場合、重複領域は、gagの始まりの下流のヌクレオチド1222(ヌクレオチド1はgag ATGのAである)からgagの終わり(nt 1503)まで延在する。その結果、フレームシフト部位及び2つのリーディングフレームの重複領域にまたがる281bp断片は、好ましくはコドン最適化されない。このフラグメントを保持することにより、Gag-Polタンパク質のより効率的な発現が可能になる。EIAVの場合、重複の開始はnt 1262(ヌクレオチド1はgag ATGのAである)であると解釈され、重複の終了はnt 1461であると解釈されている。フレームシフト部位及びgag-pol重複が保存されることを確実にするために、野生型配列はnt 1156~1465に保持されている。
【0428】
最適なコドン使用頻度からの誘導体が、例えば、好都合な制限部位に適応するために作製される場合があり、保存的なアミノ酸変化がGag-Polタンパク質に導入される場合がある。
【0429】
一実施形態では、コドン最適化は、低発現哺乳動物遺伝子に基づく。第3の塩基、場合によっては第2の塩基及び第3の塩基を変更することができる。
【0430】
遺伝暗号の縮重性に起因して、多数のgag-pol配列が当業者によって達成され得ることが理解されるであろう。また、コドン最適化されたgag-pol配列を生成するための出発点として使用することができる多くのレトロウイルス変異体が記載されている。レンチウイルスのゲノムは非常に多様であり得る。例えば、依然として機能的であるHIV-1の多くの準種が存在する。これはEIAVにも当てはまる。これらの変異体は、形質導入プロセスの特定の部分を強化するために使用され得る。HIV-1変異体の例は、Los Alamos National Security,LLCによって運営されているHIV Databaseのhttp://hiv-web.lanl.gov.に見出すことができる。EIAVクローンの詳細は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.に位置するNational Center for Biotechnology Information(NCBI)データベースで見出すことができる。
【0431】
コドン最適化されたgag-pol配列に対する戦略は、任意のレトロウイルスに関して使用され得る。これは、EIAV、FIV、BIV、CAEV、VMR、SIV、HIV-1及びHIV-2を含む全てのレンチウイルスに適用される。更に、この方法は、HTLV-1、HTLV-2、HFV、HSRV及びヒト内因性レトロウイルス(HERV)、MLV及び他のレトロウイルス由来の遺伝子の発現を増加させるために使用することができる。
【0432】
コドン最適化は、gag-pol発現をRev非依存性にすることができる。しかしながら、レンチウイルスベクターにおける抗rev因子又はRRE因子の使用を可能にするためには、ウイルスベクター産生系を完全にRev/RRE非依存性にすることが必要であろう。したがって、ゲノムも改変される必要がある。これは、ベクターゲノムコンポーネントを最適化することによって達成される。有利には、これらの改変はまた、プロデューサ細胞及び形質導入細胞の両方に全ての追加のタンパク質が存在しないより安全な系の産生をもたらす。
【0433】
本開示は、本明細書に開示される例示的な方法及び材料によって限定されず、本明細書に記載されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料を、本開示の実施形態の実施又は試験に使用することができる。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。別段示されない限り、任意の核酸配列は、5’から3’配向に左から右に書かれ、アミノ酸配列は、それぞれアミノからカルボキシへの配向で左から右に書かれている。
【0434】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間の、文脈上明確に指示されない限り、下限の単位の10分の1までの各介在値も具体的に開示されることが理解される。記載された範囲内の任意の記載された値又は介在する値と、その記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在する値との間のより小さい各範囲は、本開示内に包含される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して範囲に含まれても除外されてもよく、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界を条件として、より小さい範囲に含まれるいずれかの限界、どちらでもない限界、両方の限界の各範囲も本開示内に包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界の一方又は両方を除外した範囲も本開示に含まれる。
【0435】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0436】
本明細書で使用される場合、「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」という用語は、「含むこと(including)」、「含む(includes)」、又は「含有すること(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の列挙されていない部材、要素又は方法工程を排除しない。「含むこと(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」という用語は、「からなる(consisting of)」も含む。
【0437】
本明細書で論じられる刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。本明細書のいかなるものも、そのような刊行物が添付の特許請求の範囲に対する先行技術を構成することの承認として解釈されるべきではない。
【0438】
ここで、本発明を実施例によって更に説明するが、これらは当業者が本発明を実施するのを助けるのに役立つことを意図しており、決して本発明の範囲を限定することを意図していない。
【実施例
【0439】
材料及び方法
PEIPro/DNA複合体の調製
標準的なPEIpro調製方法は以下の通りである。
1.「PEIミックス」を作製する。PEIProを約1:20の比で培養培地に添加する。添加が完了した後、旋回によって簡単に混合する。
2.「DNAミックス」を作製する。DNAプラスミドをおよそ1:20の比で培地に添加する。
3.PEI及びDNAミックスを組み合わせる。次いで、PEI混合物を、注ぎ又は圧送のいずれかによって、1:1の比でDNA混合物に添加する。次いで、トランスフェクション混合物を室温でインキュベートして複合体形成を可能にする。
【0440】
水性PEIpro法は以下の通りである。
1.「PEIミックス」を作製する。PEIProを約1:20の比で水に添加する。添加が完了した後、旋回によって簡単に混合する。添加時間も、添加後のインキュベーション時間も、時間依存性ではない。
2.「DNAミックス」を作製する。DNAプラスミドを約1:20の比で水に添加する。添加時間も、添加後のインキュベーション時間も、時間依存性ではない。
3.PEI及びDNAミックスを組み合わせる。次いで、PEI混合物を、注ぎ又は圧送のいずれかによって、1:1の比でDNA混合物に添加する。完了後に混合物を簡単に旋回させる。添加時間も、添加後のインキュベーション時間も、時間依存性ではない。
4.PBSをスパイクする。PBSの最終濃度が0.2Xに等しくなるように、10X PBSを10X PBSと最終トランスフェクション容量との約1:50の比で添加する。添加直後に混合物を短時間旋回させ、タイマーを開始させる。混合物を室温でインキュベートして複合体形成を可能にする。
【0441】
上記工程の後にトランスフェクションを行ってもよい。バイオリアクター実験のために、30分間のインキュベーション後に、トランスフェクションミックスをハンドポンプを介してバイオリアクターに添加した。インキュベーション期間は、時間経過実験が実行された振盪フラスコ試験では変化した。
【0442】
振盪フラスコ実験条件
培養培地中で調製したDNA/PEIPro複合体を使用したGFPベクター産生に対するトランスフェクション複合体インキュベーション時間の影響を調べるために、上記のように単一のトランスフェクションミックスを調製し、複合体形成後に室温で最大60分間放置した。所定の間隔で、バルクトランスフェクションミックスからおよそ2mLの一定分量を取り出し、HEK293T細胞を播種した個々のE125エルレンマイヤーフラスコをトランスフェクトするために使用した。振盪フラスコ中の最終容量は40mLであったので、トランスフェクション容量は1:20の比を示した。
【0443】
実施例1-トランスフェクションミックスを培地中で調製する場合、最高力価をもたらす最適なインキュベーション時間が短すぎてGMP製造に適用できない
データは、DNA/PEIPro(登録商標)複合体のインキュベーション期間が、その後のトランスフェクション及びレンチウイルスベクター産生に有意に影響を及ぼすことを実証している(図1)。データは、最も高い力価をもたらす最適なインキュベーション時間が約3分であり、インキュベーション時間が15分又は30分に延長される場合、これは急速に減少することを示す。これは、大規模GMP製造目的のためのPEIPro(登録商標)プロセスを開発することに関して重大な問題を表す。最大6時間の複合体安定性が最小限の時間制限である堅牢なプロセスを可能にする標準的なリポフェクタミン2000CDベースのプロセスと比較して、複合体を調製し、5分以内にバイオリアクターに添加しなければならないという要件は、大規模なGMP生産には実用的ではないプロセス自体に著しい時間制限を課す。
【0444】
実施例2-複合体形成の速度論は、トランスフェクションミックスを水中で調製し、DNA/PEIPro(登録商標)複合体形成を開始するために使用されるPBS濃度を変化させることによって改変することができる
トランスフェクション複合体は、GFPベクターを使用して、「PEIPro/DNA複合体の調製」という小見出しの下で上記のように調製した。バルクトランスフェクションミックスを水中で調製し、3つの方法に分けた。PBSの最終濃度が1Xに等しくなるように、トランスフェクション複合体の割合を10X PBSの容量でスパイクした。トランスフェクションミックスの一部を、最終濃度が0.2Xに等しくなるように10X PBSでスパイクした。残りのトランスフェクションミックスは触れないままにし、PBSでスパイクしなかった。次いで、PBSをスパイクした2つの調製物を室温で最大2時間インキュベートした。所定の間隔で、バルクトランスフェクションミックスからおよそ2mLの一定分量を取り出し、HEK293T細胞を播種した個々のE125エルレンマイヤーフラスコをトランスフェクトするために使用した。振盪フラスコ中の最終容量は40mLであったので、トランスフェクション容量は1:20の比を示した。
【0445】
1Xスパイクのトランスフェクションミックスについて、9つの振盪フラスコを以下の時間間隔;1分;2分;3分;4分;5分;6分;7分;15分;30分及び60分及び120分でトランスフェクトした。更なる12の振盪フラスコに、0.2X PBSトランスフェクションミックスを1分;2分;3分;4分;6分;10分;15分;20分;25分;30分及び40分でトランスフェクトした。
【0446】
GFPベクター産生プロセスの最後に、各振盪フラスコから試料を採取し、フローサイトメトリーに基づく形質導入アッセイを使用して機能的力価を決定した。結果は、PBS濃度を変えることによって複合体成長の速度論を修正できることを示している(図2)。図2Aは、トランスフェクション複合体を1X PBSでスパイクした場合、3分のインキュベーション後に最適な力価が達成されたことを示す。図2Bは、トランスフェクション複合体に低濃度のPBSでスパイクすると、インキュベーション時間を延長できることを示す。0.2X PBSによるスパイクは、最適なインキュベーション時間を約25分に延長する。陰性対照として、複合体を水中で調製し、次いで、PBSをスパイクせずに細胞をトランスフェクトするために使用した。PBSが複合体増殖を開始するために必要であることを示すベクターは作製されなかった。
【0447】
実施例3-トランスフェクション効率は、トランスフェクション混合物を希釈して塩濃度を低下させた後(及び複合体成長を停止させた後)、最大12時間、潜在的には最大1週間安定である
トランスフェクションミックスを上記のように調製し、0.2X PBSでスパイクして複合体の増殖を開始させ、次いで30分間インキュベートして複合体の最適サイズに到達させた。次いで、PBSの最終濃度が0.1Xになるように、トランスフェクションミックスを塩を含まない水溶液(すなわち、HO)を用いて希釈した。次いで、トランスフェクションミックスを4℃で最大1週間保存した。希釈PEIPro(登録商標)/DNA複合体の安定性を試験するために、希釈後の様々なインキュベーション時間後に複合体を使用して達成された機能性レンチウイルスベクターの力価を評価した。次いで、トランスフェクションミックスの一定分量を使用してGFPレンチウイルスを作製し、得られた機能的力価を測定した。結果は、希釈複合体のトランスフェクション効率が経時的に保持され(図3)、4℃で少なくとも1週間安定であることを実証している。特に、グラフは、12時間のインキュベーション後、トランスフェクションミックスがレンチウイルスベクターを生成するのに依然として効率的であり、「新鮮な」トランスフェクションミックスと比較して同等の機能的力価をもたらしたことを示している。
【0448】
実施例4-DNA:PEIpro複合体をHO中で作製した場合の経時的なサイズを示す動的光散乱分析(Zetasizer Nanometer ZS Malvern Instrument,Malvern,UK)。
DNA/PEIpro複合体を上記のようにHO中で調製し、次いで、トランスフェクション混合物のサンプルを60分間にわたって2分間隔で取り出し、Zetasizerを用いて分析して複合体サイズを測定した。図4は、複合体が60分間にわたってサイズが増加しなかったことを示す。これは、水のみで構成された複合体がベクター産生をもたらさなかったことを実証した図2Bに示されるデータと相関する。このデータは、DLS測定と共に、80~86nmのサイズ範囲内の複合体が小さすぎてトランスフェクションに成功しないことを示唆している。
【0449】
実施例5-トランスフェクションミックスを2倍希釈すると、最適な粒径での成長が停止する。
DNA/PEIpro複合体を上記のようにHO中で構成し、PBSを0.2Xの最終濃度まで添加することによって粒子成長を開始した。複合体を室温で25分間インキュベートしたが、これは最高の機能的力価を達成するための最適時間に相当した(図2B参照)。次いで、複合体をPBS濃度が0.1Xになるように2倍希釈した。次いで、複合体サイズを最大45分間にわたって経時的に測定した。DLS測定は、トランスフェクションミックスを2倍希釈すると、複合体の成長が停止し、サイズは600~800nmの間のままであることが分かったことを示す(図5)。このデータを上記の実施例2及び3で生成された関数データと相関させることにより、最高の力価を達成する最適な複合体サイズが600~800nmであることが示唆される。
【0450】
実施例6-DLS分析は、異なる濃度のPBSが複合体成長の速度論に影響を及ぼすことを示す。
DNA/PEIpro複合体を上記のように水中で構成し、3つの異なる濃度のPBS(0.1X;0.15X及び0.2X)の添加によって粒子成長を開始させ、室温でインキュベートした。次いで、サンプルを2分毎に取り出し、ゼータサイザーZetasizer(Zetasizer Nanometer ZS Malvern Instrument,Malvern,UK)を用いて分析した。結果は、トランスフェクションミックスに異なる濃度のPBSでスパイクした場合、複合体がトランスフェクションに最適なサイズに成長する速度が、添加されたPBSの濃度に応じて異なることを示す。PBSの濃度が<0.15X PBSで低すぎる場合、これは複合体成長を開始するのに十分に濃縮されていない(図6)。表1は、最適なサイズに達するのにかかる時間に対する複合体成長に対する異なるPBS濃度の効果を示す。
【0451】
【表2】
【0452】
実施例7-複合増殖を開始するために任意の塩を使用することができる
DNA/PEIpro複合体をHO中で調製し、次いで、異なる濃度のNaCl又はMgClでスパイクした。図7A及び表2は、4つの異なる濃度のNaCl(10mM;20mM;50mM;80mM及び100mM)でトランスフェクションミックスをスパイクすることの影響を示す。80mM及び100mMの濃度のみが有意な複合体成長を開始させた。図7B及び表3は、4つの異なる濃度のMgCl(10mM;20mM;50mM;80mM;100mM)でトランスフェクションミックスをスパイクすることの影響を示す。MgClはより高いイオン強度を有するので、より低い濃度で錯体成長を開始し、最適な複合体サイズに達するのにかかる時間はNaClより速かった。
【0453】
【表3】
【0454】
【表4】
【0455】
実施例8-aqPEIProトランスフェクション法を使用して5Lスケールで得られた機能的力価値は、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション法を使用して治療用ベクター産物を製造した場合に得られたものと比較して有利である。
6つの5Lバイオリアクターをこの研究で使用し、4つのバイオリアクターをカチオン性脂質ベースのトランスフェクション法を使用して一過性にトランスフェクトし、他の2つのバイオリアクターを記載のaqPEIPro(登録商標)法を使用してトランスフェクトした。両バイオリアクターを、5T4-CARをコードするHIV-1ベクターゲノムで一過性にトランスフェクトした。この治療用ベクターは、抗原5T4を発現する腫瘍細胞を標的化し、死滅させることを可能にするT細胞の遺伝子改変のためのものである(Owens,L.G;Sheard,V.E et al J Immunother.2018Apr;41(3):130-140)。
【0456】
製造プロセスの最後に試料を採取し、形質導入アッセイ及びフローサイトメトリー分析を使用して機能的力価を決定した。
【0457】
この試験で5Lスケールで得られた機能的力価値は、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション法を使用して生成物を製造した場合に得られたものと比較して有利であり、データはより一貫しているようであった(n=2)。水性PEIPro法を使用して得られた平均粗収穫値は、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション法(n=4)を使用した3.5375x10TU/mL(標準偏差=+/-1.8x10TU/mL)と比較して、4.82.25x10TU/mL(標準偏差=+/-6.8x10TU/mL)の力価をもたらしたことが分かる。これは、aqPEIProトランスフェクション法がカチオン性脂質ベースのトランスフェクション法と同等にうまく機能し、5Lに拡張可能であることを示唆している(図8)。
【0458】
上記の明細書で言及された全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の記載された方法及びシステムの様々な修正及び変形は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して説明したが、特許請求される本発明はそのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されるべきである。実際、分子生物学又は関連分野の当業者に明らかな、本発明を実施するための記載された様式の様々な改変は、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】