(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】高分子ナノ粒子分散液およびn型導電性インクの取得方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/09 20060101AFI20231201BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20231201BHJP
C08L 79/00 20060101ALI20231201BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20231201BHJP
【FI】
C08J3/09
C08L101/12
C08L79/00
C09D11/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529015
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2020082815
(87)【国際公開番号】W WO2022106017
(87)【国際公開日】2022-05-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523176451
【氏名又は名称】エン-イーエンコー、アクチボラグ
【氏名又は名称原語表記】N-INK AB
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ、ファビアーノ
(72)【発明者】
【氏名】マグヌス、バーリグレーン
(72)【発明者】
【氏名】マルク-アントワーヌ、シュテッケル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、チー-ユアン
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J039
【Fターム(参考)】
4F070AA41
4F070AA56
4F070AA57
4F070AB11
4F070CA01
4F070CB05
4F070CB12
4J002AA001
4J002CE001
4J002CM021
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4J002GT00
4J002HA08
4J039AE13
4J039BC07
4J039BC19
4J039BE12
4J039BE29
4J039CA05
4J039DA02
4J039EA24
(57)【要約】
本発明は、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を製造する方法であって、
a)前記硬質共役高分子を第1の溶媒系に溶解する工程、
b)前記溶解した硬質共役高分子と第2の溶媒系とを組み合わせて、前記硬質共役高分子を含む沈殿物を得る工程、
c)前記硬質共役高分子を含む前記沈殿物を収集する工程、および
d)前記沈殿物を第3の溶媒系に再分散させて、前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を得る工程
を含む、前記方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を製造する方法であって、
a)前記硬質共役高分子を第1の溶媒系に溶解する工程、
b)前記溶解した硬質共役高分子と第2の溶媒系とを組み合わせて、前記硬質共役高分子を含む沈殿物を得る工程、
c)前記硬質共役高分子を含む前記沈殿物を収集する工程、および
d)前記沈殿物を第3の溶媒系に再分散させて、前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を得る工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
n型導電性インクを製造する方法であって、
a)0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子を第1の溶媒系に溶解する工程、
b)前記溶解した硬質共役高分子と第2の溶媒系とを組み合わせて、前記硬質共役高分子を含む沈殿物を得る工程、
c)前記硬質共役高分子を含む前記沈殿物を収集する工程、
d)前記沈殿物を第3の溶媒系に再分散させて、前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を得る工程、
e)前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む前記分散液を第4の溶媒系で希釈してインクを得る工程、および
f)n型高分子カチオンを前記インクに添加してn型導電性インクを得る工程
を含む、前記方法。
【請求項3】
前記第1の溶媒系が、25℃で0.01~4mPa・sの粘度、大気圧で35~165℃の沸点、および-2~2のpK
aを有する第1の酸、ならびに-12~-1のpK
aを有する第2の酸を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の酸が、2,2-ジフルオロ酢酸、2,2,2-トリフルオロ酢酸(TFA)、2,2-ジフルオロプロパン酸、2,2-ジフルオロプロパン酸、ペルフルオロプロパン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロヘキサン酸またはそれらの混合物からなる群から選択され、前記第2の酸が、メタンスルホン酸(MSA)、硫酸、過塩素酸、硝酸、スルフロフルオリド酸、スルファミン酸、塩化スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-メチルベンゼンスルホン酸、4-(トリフルオロメチル)ベンゼンスルホン酸またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の溶媒系における前記第1の酸と前記第2の酸との体積比が95:5~5:95である、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の溶媒系がアルコールを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、ブタン-1-オール、2-メチルプロパン-1-オール、2-メチルプロパン-2-オール、2-メチルブタン-2-オール、エタン-1,2-ジオール、2-メトキシエタン-1-オール、1-メトキシプロパン-2-オールまたはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
TFA:アルコールの体積比が0:1~1:1である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記第3の溶媒系が、アルコールおよび任意に水を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第3の溶媒系が前記第2の溶媒系と同じである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記硬質共役高分子が共役はしご型高分子、好ましくはポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記工程c)が遠心分離または減圧濾過によって行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
高分子カチオン/(高分子カチオン+共役高分子)の質量比が0.01%~99.99%、好ましくは20~50%である、請求項2~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法により製造される、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液。
【請求項15】
請求項2~13のいずれか一項に記載の方法により製造される、n型導電性インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液の製造方法、およびそのような方法により製造される硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液に関する。さらに、本発明は、n型導電性インクの製造方法、およびそのような方法により製造されるn型導電性インクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導電性高分子および導電性高分子は、インクジェット印刷技術やスプレーコーティング技術等の大面積蒸着法と互換性がある一方で、その機械的柔軟性と高い導電性とに起因して、その多用途性により、バイオエレクトロニクス用途およびオプトエレクトロニクス用途の有望なソリューションとして浮上している。インクジェット印刷は、処理が簡単であり、低コストであり、かつ電子デバイス、センサー、発光ダイオード等の大規模製造に対する適応性が高いため、予め設計されたパターンで機能性材料をフレキシブル基板上に直接堆積させる効率的な方法として認識されている。しかしながら、インクジェット印刷で用いられるインクは、主に金属ナノ粒子とグラフェンやカーボンナノチューブ等の炭素材料とで構成されており、これまでに高分子インクはほとんど開発されていない。
【0003】
大面積堆積技術はドーパントの使用と非常に相性が良く、有機導電性高分子を、電荷注入障壁を下げながら金属的な挙動に到達させることができる。これは、分子または高分子のドーピング物質を共役高分子マトリックスに添加する際の化学的または電気化学的なプロセスを介して発生し、主に電荷移動プロセスまたは酸塩基交換が関与する。用いられる高分子およびドーパントの組み合わせに応じて、pドーピングまたはnドーピングが発生し得る。どちらのタイプも有機太陽光発電(OPV)または有機発光ダイオード(OLED)で用いることができ、相補的な回路およびデバイスを検討する場合に必要となる。このような材料は、加工が容易であり、多段階のデバイス製造で用いられる一般的な有機溶媒に不溶である必要がある。p型有機高分子は大規模に開発され、盛んに研究されているが、その先頭に立つのが、遍在する市販の水溶性p型PEDOT-PSSであり、一つの部位(すなわち、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、PEDOT)が、他の化合物(すなわち、ポリ(スチレンスルホン酸)、PSS)からのスルホン酸塩によって誘起される負電荷を介してドープされるが、安定性の欠如により、これまでに、n型導電性高分子の例はほんの数例にすぎない。さらに、ほとんどのn型導電性高分子は、環境に有害なハロゲン化溶媒中でのみ処理することができる。
【0004】
光学用途および電子用途に適した高分子の一例は、高分子主鎖上のすべての主鎖単位がπ共役および縮合している硬質共役高分子、例えば、完全共役はしご型高分子である。これらの高分子は、その興味深い特性、優れた化学的安定性および熱的安定性、および機能性有機材料としての潜在的な適合性により、大きな関心を集めている。さらに、これらの高分子は、縮合環構造により主鎖に沿った芳香族単位間の自由なねじれ運動が制限されるという点で、従来の共役高分子とは異なる。ねじれ欠陥が減少するため、完全に共面状の骨格を有する硬質共役高分子は、コヒーレントなπ共役、高速の鎖内電荷輸送、長い励起子拡散長、および強力なπ-πスタッキング相互作用を実現する。
【0005】
硬質共役高分子は最適なπ電子非局在化を備えた平面骨格を有し、ねじれ欠陥がないため、グラフェンの優れた電荷輸送特性と、高性能導電性材料としての開いたバンドギャップとを組み合わせたグラフェンナノリボンに類似していると考えられる。さらに、硬質共役高分子は、潜在的に高い熱安定性と光学安定性、および化学劣化に対する高い耐性を示す。硬質共役高分子のこのようなユニークな特性の組み合わせにより、硬質共役高分子は幅広い用途の有望な候補となる。
【0006】
しかしながら、硬質共役高分子は加工性に劣っている。ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)等の硬質共役高分子は、メタンスルホン酸(MSA)、濃硫酸およびニトロメタン/ルイス酸(三塩化ガリウムや三塩化アルミニウム)等の強酸性溶媒にのみ溶解できることが知られている。このような硬質共役高分子は、溶媒置換法を用いることにより、水またはアルコール溶媒中でナノ粒子分散液に変換することができる。この溶媒置換法には通常、次の3つの工程が含まれる:
1)高分子をMSAに溶解する工程、
2)激しく撹拌しながら高分子MSA溶液を水/アルコールに添加して高分子ナノ粒子を形成する工程;
3)高分子ナノ粒子を水/アルコールで洗浄して残留MSAを除去する工程。
【0007】
しかしながら、この方法は高分子ナノ粒子分散液の製造に適用することはできない。上述した工程2では、高分子MSA溶液と水/アルコールとを混合すると、高分子内の非常に強い分子間相互作用により、特大の硬質高分子粒子の凝集が生じる。さらに、MSAおよび濃硫酸は、高粘度(25℃で11mPa・s)および高沸点(10mmHg真空で167℃)を併せ持つ強酸であるため、処理が難しく、ナノ粒子分散液の大量調製には適していない。
【0008】
したがって、インク製造に適した高分子ナノ粒子分散液を製造するため、かつ大面積堆積技術、特にインクジェット印刷に適した安定で高性能のn型導電性インクを製造するための、環境に優しい方法を提供する必要がある。さらに、この方法は大規模製造に適応できる必要がある。
【発明の概要】
【0009】
上記を考慮して、本発明は、硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液の製造方法に関する。
【0010】
本発明の文脈における「硬質」という用語は、0°~20°、好ましくは10°未満の二面角を有する共役高分子を意味する。本発明の文脈における「二面角」という用語は、共役高分子の繰り返し単位間の角度である。上述したように、本発明の共役高分子の硬質性は、高い安定性と組み合わされた優れた電荷輸送能力の必須条件であり、それは、ねじり欠陥が高分子主鎖に沿った共役を部分的に破壊し、その結果、電子の非局在化が低減し、バンドギャップが広がり、トラップされた電荷の数が増大し、分子間結合の効果が低下するからである。
【0011】
本発明の文脈における硬質共役高分子は、-3.9eV未満の最低空分子軌道(LUMO)エネルギー準位ELUMOを有し得る。なお、負の値における「以下」とは、絶対値がより大きい負の値を意味する。言い換えれば、本発明の文脈における「以下」という用語は、数直線上で-3.9から左に位置する値、例えば-4.2、-5.8等を意味する。
【0012】
本発明の硬質共役高分子は、n型硬質共役高分子であり得る。
【0013】
本発明による特に適切なタイプの硬質共役高分子は、共役はしごまたははしご型高分子である。一般に、はしご型高分子は、ストランドを接続する周期的な連結を備える複数のストランド高分子であり、はしごのレールと横木に似ており、2つ以上の原子を共有する隣接する環の連続した配列をもたらす。共役はしご型高分子は、主鎖内のすべての縮合環がπ共役しているはしご型高分子の特定のサブタイプである。さらに、縮合環構造により主鎖に沿った芳香族単位間の自由なねじれ運動が制限されるという点で、従来の共役高分子とは異なる。
【0014】
融合した主鎖に由来する共役はしご型高分子は、並外れた熱安定性、化学的安定性、機械的安定性を示す。ねじれ欠陥が低減しているため、完全に共面状の骨格を有する共役はしご型高分子は、コヒーレントなπ共役、高速の鎖内電荷輸送、長い励起子拡散長、および強力なπ-πスタッキング相互作用を実現する。
【0015】
共役はしごまたははしご型高分子の例としては、ポリ(ベンズイミダゾベンゾフェナントロリン)(BBL)、ポリキノキサリン(PQL)、ポリ(フェンチアジン)(PTL)、ポリ(フェノオキサジン)(POL)、ポリ(p-フェニレン)はしご型高分子(LPPP)およびカルバゾール-フルオレン系はしご型高分子が挙げられる。好ましくは、本発明の硬質共役高分子は、10~10000個、好ましくは20~100個、より好ましくは30~50個の繰り返し単位を含むBBLである。
【化1】
【0016】
本発明の方法は、
a)硬質共役高分子を第1の溶媒系に溶解する工程、
b)前記溶解した硬質共役高分子と第2の溶媒系とを組み合わせて、硬質共役高分子を含む沈殿物を得る工程、
c)前記硬質共役高分子を含む前記沈殿物を収集する工程、および
d)前記沈殿物を第3の溶媒系に再分散させて、前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を得る工程
を含む。
【0017】
本発明の方法のすべての工程は、周囲空気圧および湿度の空気中で行われる。本発明の方法の工程は、上記で列挙した順序で実行され、すなわち、工程a)が完了した後に工程b)が行われ、工程b)が完了した後に工程c)が行われ、工程c)が完了した後に工程d)が行われることに留意されたい。しかしながら、追加の中間工程、例えば冷却、加熱、希釈、蒸発、洗浄、乾燥等の工程が上記の方法に存在していてもよい。
【0018】
本発明による第1の溶媒系は、25℃で0.01~4mPa・sの粘度、大気圧で35~165℃の沸点、および-2~2のpK
aを有する第1の酸を含んでもよい。上記から理解されるように、第1の酸は低粘度および低沸点を有し、これにより加工性が大幅に改善される。第1の酸は、第1の溶媒系の主成分として機能し、以下に示すように、2,2-ジフルオロ酢酸、2,2,2-トリフルオロ酢酸(TFA)、2,2-ジフルオロプロパン酸、ペルフルオロプロパン酸、ペルフルオロブタン酸、ペルフルオロペンタン酸、ペルフルオロヘキサン酸およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【化2】
【0019】
第1の溶媒系は、-12~-1のpK
aを有する第2の酸をさらに含んでもよい。第2の酸は、硬質共役高分子をプロトン化するために、第1の溶媒系においてプロトン供与体として機能する。第2の酸は、以下に示すように、メタンスルホン酸(MSA)、硫酸、過塩素酸、硝酸、スルフロフルオリド酸、スルファミン酸、塩化スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、4-メチルベンゼンスルホン酸、4-(トリフルオロメチル)ベンゼンスルホン酸およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【化3】
【0020】
好ましい実施形態において、第1の溶媒系は、第1の酸としてTFAを含み、第2の酸としてMSAを含む。
【0021】
第1の溶媒系における第1の酸と第2の酸との体積比は、95:5~5:95、好ましくは95:5~80:20、より好ましくは95:5~90:10であり得る。換言すれば、工程a)の加工性が向上するという利点をもたらす、少量の第2の酸が用いられることが好ましい。
【0022】
工程b)中に、工程a)で得られた溶解した硬質共役高分子と第2の溶媒系とを組み合わせる。この工程中に、硬質共役高分子を含む沈殿物が得られる。
【0023】
「組み合わせる」という用語は、工程a)で得られた硬質共役高分子の溶液と第2の溶媒系と混合することと理解される。工程b)は、溶解した硬質共役高分子に第2の溶媒系を添加することによって、または溶解した硬質共役高分子を第2の溶媒系に添加することによって行うことができる。
【0024】
「沈殿物」という用語は、化学的または物理的な変化によって溶液または懸濁液から分離された物質を意味し、通常は不溶性の非晶質または結晶性固体として存在する。本発明の文脈における沈殿物は、ナノ粒子、粒子凝集体、繊維状構造等であり得る。工程b)中に形成される沈殿物の性質は、工程b)がどのように行われるかに依存し得る。したがって、第2の溶媒系を溶解した硬質共役高分子に添加すると、通常、硬質共役高分子のナノ粒子が形成される。一方、溶解した硬質共役高分子を第2の溶媒系に添加すると、通常、硬質共役高分子の柔らかい繊維状の粒子凝集体が形成される。
【0025】
本発明によれば、第2の溶媒系はアルコールを含んでもよい。さらに、第2の溶媒系はTFAを含んでもよい。第2の溶媒系におけるTFA:アルコールの体積比は、0:1~1:1であり得る。換言すれば、第2の溶媒系は純粋なアルコールから構成されていてもよく、等量のTFAとアルコールを含んでもよい。アルコールは、以下に示すように、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、ブタン-1-オール、2-メチルプロパン-1-オール、2-メチルプロパン-2-オール、2-メチルブタン-2-オール、エタン-1,2-ジオール、2-メトキシエタン-1-オール、1-メトキシプロパン-2-オールおよびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【化4】
【0026】
好ましくは、第2の溶媒系は、メタノール、エタノール、イソプロパノールまたはそれらの混合物を含む。第2の溶媒系の性質は、工程b)がどのように行われるかに依存し得る。したがって、溶解した硬質共役高分子に第2の溶媒系を添加する場合、第2の溶媒系は、TFA:アルコールの体積比が1:3~1:1であることが好ましい。一方、溶解した硬質共役高分子を第2の溶媒系に添加する場合、第2の溶媒系はアルコールのみからなることが好ましい。
【0027】
溶解した硬質共役高分子への第2の溶媒系の添加、または第2の溶媒系への溶解した硬質共役高分子の添加は、低温、好ましくは0℃で行うことができる。さらに、溶解した硬質共役高分子への第2の溶媒系の添加、または溶解した硬質共役高分子の第2の溶媒系への添加は、撹拌中、好ましくは中程度から激しい撹拌中に行うことができる。
【0028】
沈殿物が形成されると明確な色の変化が起こる可能性があるため、工程b)の完了を視覚的に観察することができる。
【0029】
次の工程c)中に、硬質共役高分子を含む沈殿物が収集される。工程c)は、工程b)で得られた沈殿物の性質に応じて、遠心分離または真空濾過によって行うことができる。残留酸を除去するために、工程c)中に収集された沈殿物を洗浄することが考えられる。洗浄は、プロトン性溶媒、例えばアルコール/水混合物を用いて行うことができる。アルコールは、上述した群から選択され得る。
【0030】
工程d)中、工程c)で得られた沈殿物が第3の溶媒系に再分散され、それにより硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液が得られる。工程d)は、例えば、撹拌粉砕またはボールミル粉砕の方法による浮遊化工程を伴ってもよい。さらに、工程d)は、残留酸が分散液から除去されるように、数回繰り返して行ってもよい。
【0031】
第3の溶媒系はプロトン性溶媒系であってもよく、上述した群から選択されるアルコールを含んでもよい。第3の溶媒系は、第2の溶媒系と同じであってもよい。好ましくは、第3の溶媒系はイソプロパノールである。さらに、第3の溶媒系は水を含んでもよい。
【0032】
上述したように、本発明の方法は、硬質共役高分子のナノ粒子の分散液を提供する。本明細書に示されているように、本発明の方法は、環境にもユーザーにも優しい溶媒を利用する。さらに、上記で開示した方法のすべての工程は空気中で行うことができ、大規模製造に非常に適している。
【0033】
本発明は、上述した方法により製造される、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液に関する。
【0034】
上述した方法により得られるナノ粒子分散液は、n型導電性インクの製造に用いることができる。したがって、本発明は、n型導電性インクの製造方法であって、
a)0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子を第1の溶媒系に溶解する工程、
b)前記溶解した硬質共役高分子と第2の溶媒系とを混合して、前記硬質共役高分子を含む沈殿物を得る工程、
c)前記硬質共役高分子を含む前記沈殿物を収集する工程、
d)前記沈殿物を第3の溶媒系に再分散させて、前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を得る工程、
e)前記硬質共役高分子のナノ粒子を含む前記分散液を第4の溶媒系で希釈してインクを得る工程、および
f)n型高分子カチオンを前記インクに添加してn型導電性インクを得る工程
を含む前記方法に関する。
【0035】
工程a)~d)は上記で詳細に説明されている。工程d)でナノ粒子分散液が得られると、硬質共役高分子のナノ粒子を含む分散液を第4の溶媒系で希釈する工程e)が行われ、その結果インクが得られる。工程e)の前に、例えば遠心分離によって硬質共役高分子のナノ粒子を濃縮する工程を行ってもよい。
【0036】
第4の溶媒は、好ましくは上述した群から選択されるアルコールを含んでもよい。工程e)後の硬質共役高分子のナノ粒子の濃度は、0.001~100g/Lであり得る。
【0037】
工程f)中に、工程e)で得られたインクにn型高分子カチオンが添加され、それによりn型導電性インクが得られる。n型高分子カチオンは、上述した群から選択されるアルコール等の適切な溶媒に溶解することができる。n型高分子カチオンの濃度は、0.01~100g/Lであり得る。n型高分子カチオンは、好ましくはn型高分子ドーパントである。n型高分子ドーパントは、直鎖状ポリエチレンイミン(PEIlin)、分岐鎖状PEI(PEIbra)、エトキシル化PEI(PEIE)またはそれらの混合物であり得る。n型高分子ドーパント中の繰り返し単位の数は、2~10000個、好ましくは5~1000個、より好ましくは50~100個の繰り返し単位であり得る。
【0038】
工程f)中の高分子カチオン/(高分子カチオン+硬質共役高分子)の質量比は、0.01%~99.99%、好ましくは0.1%~90%、より好ましくは1%~75%、最も好ましくは20%~50%であり得る。
【化5】
【0039】
n型高分子カチオンが分岐鎖状PEIである場合、a、b、cおよびdは正の整数であり、これらの整数の合計は5~10000、好ましくは10~1000、より好ましくは50~100である。
【0040】
n型高分子カチオンがエトキシル化PEIである場合、x、yおよびzは正の整数であり、これらの整数の合計は5~10000、好ましくは10~1000、より好ましくは50~100である。
【0041】
工程e)は、均質な混合物を提供するために、工程e)で得られる溶液を超音波浴中で超音波処理する工程を伴ってもよく、工程e)の後に行ってもよい。超音波処理時間は1時間であり得る。
【0042】
本発明はさらに、上述した方法により製造されるn型導電性インクに関する。したがって、n型導電性インクは、0°~20°の二面角を有する硬質共役高分子および高分子カチオンを含む。
【0043】
本発明の方法により得られるn型導電性インクは、空気中および大気温度でスプレーコーティングされ、20nm~1mmの厚さを有する膜を形成することができる。ドーピングを可能にするために、熱的なアニーリングが必要な場合がある。熱的なアニーリングは、100℃~200℃の温度で1分~120分間行うことができる。好ましくは、熱的なアニーリングは、150℃で120分間、または200℃で90分間行われる。熱的なアニーリングは不活性雰囲気下で行う必要がある。あるいは、膜は、熱的なアニーリングの前に封入されてもよい。
【0044】
このn型導電性インクは、スプレーキャスティング技術やインクジェット印刷技術等の大規模な堆積方法に適している。このインクは、その性質上、空気中でも処理することができ、用いられる溶媒の沸点が低いため、乾燥のための熱処理が必要ない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して例として説明する。
【
図1】
図1は、硬質共役高分子のナノ粒子の分散液および硬質共役系高分子を含むn型導電性インクの製造方法の工程を示す。
【
図2】
図2は、BBL:PEI
lin(a)およびBBL:PEI
bra(b)エタノールベースのn型インクの動的光散乱(DLS)分析によって決定されたインクの粒度分布を示す。
【
図3】
図3は、本発明の方法により製造されたn型インクの導電率をドーパント含有量の関数として示す。
【
図4】
図4は、本発明の方法によって製造されたn型インクのゼーベック係数をドーパント含有量の関数として示す。
【発明の詳細な説明】
【0046】
図1は、ブロックIおよびブロックIIの2つのブロックで構成される。ブロックIは、硬質共役高分子のナノ粒子の分散液を製造する方法の工程を示す。ブロックIIは、硬質共役高分子を含むn型導電性インクを製造する方法の工程を示す。
【0047】
図1のブロックIに見られるように、ナノ粒子分散液を製造する方法の2つの異なる実施形態が示されている。
【0048】
BBL(Mw=60.5kDa)は、先行技術(Arnold, F. E. & Deusen, R. L. V. Preparation and properties of high molecular weight, soluble oxobenz[de]imidazobenzimidazoisoquinoline ladder polymer. Macromolecules 2, 497-502 (1969))に記載される手順に従って合成した。直鎖状PEI(Mn=2.5kDa、PDI<1.3)、分岐鎖状PEI(Mn=10kDa、PDI=1.5)、MSAおよびエタノールはSigma-Aldrich社から購入し、受け取ったまま用いた。
【0049】
ブロックIの左側部分に示される第1の実施形態によれば、工程a)において、BBLを、TFA:MSA混合溶媒(体積比TFA:MSA=95:5~80:20)を含む第1の溶媒系に溶解させて、明るい赤色の溶液を得た。
【0050】
続く工程b)において、TFA:アルコール混合溶媒(1:3~1:1)を含む第2の溶媒系を、工程a)で得られたBBL TFA-MSA溶液に、溶液の色が濃青色に変わるまで0℃で激しく撹拌しながら添加した。アルコールは、MeOH、EtOH、IPAまたはそれらの混合物から選択される。
【0051】
工程c)およびd)中に、ナノ粒子は遠心分離によって溶媒から分離され、すぐに水/IPAに再分散されます。残留酸が分散液から除去されるまで、この工程を数回繰り返す。
【0052】
図1に示すブロックIの右側部分に注目すると、本発明の方法の別の実施形態が示されている。この実施形態の工程a)は上述したのと同じであり、すなわち、BBLをTFA:MSA混合溶媒(体積比TFA:MSA=95:5~80:20)を含む第1の溶媒系に溶解し、明るい赤色の溶液を得た。
【0053】
工程b’)では、工程a)で得られたBBL TFA:MSA溶液を、0℃で中程度に撹拌しながらEtOHに添加し、柔らかい繊維状のBBL粒子凝集体を形成する。この工程では、色が明るい赤から濃い紫/黒に変わる。
【0054】
次の工程c’)では、柔らかい繊維状のBBL粒子凝集体を真空濾過によって収集し、粒子凝集体が完全に無色になるまで水/IPAで数回洗浄する。BBL粒子凝集溶液を遠心分離により濃縮する。
【0055】
工程d’)中、EtOH中での撹拌粉砕またはボールミル粉砕を用いて、軟質粒子凝集体を沈降させてBBLナノ粒子分散液を形成する。
【0056】
図1のブロックIに示し、上述した両方の方法は、インクの製造に適した十分に分散したBBLナノ粒子を含むナノ粒子分散液を提供する。本発明の方法は環境に優しい溶媒を用いることを強調しなければならない。
【0057】
図1のブロックIIは、本発明のn型導電性インクの製造方法を示す。
【0058】
工程e)では、工程d)で得られた分散液、または工程d’)で得られた分散液をアルコール系溶媒で適切な濃度(0.2~0.5g/L)に希釈する。
【0059】
最後に、工程f)中に、高分子カチオン(直鎖状PEI、分岐鎖状PEIまたはPEIE)のEtOHベースの溶液が添加される。高分子カチオンはドーパントとして機能し得る。この特定の実施形態で用いられる高分子カチオンの濃度は30g/Lであるが、当業者であれば、濃度を変更し得ることを理解するであろう。高分子カチオン/(高分子カチオン+BBL)の質量比は、PEIlinおよびPEIbraでは50%、PEIEでは20%であった。
【0060】
本発明の方法により得られる分散液中のBBLナノ粒子の直径は約20nmである(
図2)。次いで、BBLナノ粒子をエタノールで洗浄し、異なる質量比で直鎖状PEI(PEI
lin)または分岐鎖状PEI(PEI
bra)と混合し、超音波浴で1時間超音波処理して、エタノールベースの全高分子導電性インクを得る。得られたエタノールベースのインクは、
図2に示すように、PEI含有量に応じて、サイズが30~100nmのBBL:PEIナノ粒子で構成される。
【0061】
以下に説明するBBL:PEI薄膜は、噴霧空気圧2barの標準HD-130エアブラシ(0.3mm)を用いて、空気中でスプレーキャスティングすることによって製造された。スプレーキャスティング後、BBL:PEI薄膜をN2グローブボックス内または真空下で、140℃で2時間アニーリングして、導電性膜を得た。
【0062】
電気伝導率およびゼーベック係数の測定は、Keithley 4200-SCS半導体特性評価システムを用いて、窒素を充填したグローブボックス内で行った。接着層としての3nmのクロム、および47nmの金を、シャドウマスクを介して洗浄したガラス基板上に熱蒸着し、電気用の場合はチャネル長/チャネル幅が30μm/1000μm、ゼーベック係数の特性評価用の場合は0.5mm/15mmの電極を形成した。
【0063】
BBL:PEI薄膜の導電率をドーパント含有量の関数として
図3に示す。純粋なBBL膜は、元の状態では10
-5Scm
-1という低い導電率を有している。
図3に見られるように、直鎖状PEI(PEI
lin)、分岐鎖状PEI(PEI
bra)およびPEIEをドープしたn型BBLインクは、成膜後に優れたn型導電性を示す。PEIとブレンドすると、導電率は5重量%PEIで0.10±0.02Scm
-1に増大し、50重量%PEI含有量では7.7±0.5Scm
-1に飽和する。PEIには電子供与性のアミン基が高密度に含まれているため、150℃で5分間の処理で1Scm
-1のn型導電率に達するのに十分であるが、1:1の重量比のブレンドが達成される2時間のアニーリング後には7Scm
-1の最大導電率が得られる。BBLにPEIEをドープすると、BBL:PEIE5:1で1.4±0.1Scm
-1の導電率に達するが、PEIE含有量が高くなると電気的性能の低下がもたらされる。これらの電気伝導率はPEDOT:PSSと比較することができる。
【0064】
図4は、異なるドーパントPEI
linおよびPEI
braを含むBBLのゼーベック係数を示す。
図4に見られるように、BBL:PEIは-480~-65μV/Kという大きな負のゼーベック係数を示し、BBL:PEIがn型導電性高分子であることが確認される。ゼーベック係数は、PEI含有量が増加すると低下する。
【0065】
本発明を様々な実施形態を参照して説明してきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく変更を加えることができることを認識するであろう。詳細な説明は例示的なものとみなされ、すべての等価物を含む添付の特許請求の範囲は本発明の範囲を定義するものであることが意図されている。
【国際調査報告】