IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルセロールミタルの特許一覧

特表2023-551416レール用鋼及びそのレールの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】レール用鋼及びそのレールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231201BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20231201BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20231201BHJP
   C21D 9/04 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/60
C21D8/00 A
C21D9/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529030
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 IB2020060815
(87)【国際公開番号】W WO2022106864
(87)【国際公開日】2022-05-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カラスカル,ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】アルバレス・ディエス,ダビド
(72)【発明者】
【氏名】アランコン・アルバレス,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ソラノ・アルバレス,ウィルベルト
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA06
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA32
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA39
4K032AA40
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD01
4K032CD02
4K042AA04
4K042BA01
4K042BA12
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DC02
4K042DC03
4K042DE05
4K042DE06
(57)【要約】
以下の元素、すなわち、0.25%≦C≦0.8%、1.0%≦Mn≦2.0%、1.40%≦Si≦2%、0.01%≦Al≦1%、0.8%≦Cr≦2%、0≦P≦0.09%、0≦S≦0.09%、0%≦N≦0.09%、0%≦Ni≦1%、0%≦Mo≦0.5%、0%≦V≦0.2%、0%≦Nb≦0.1%、0%≦Ti≦0.1%、0%≦Cu≦0.5%、0%≦B≦0.008%、0%≦Sn≦0.1%、0%≦Ce≦0.1%、0%≦Mg≦0.10%、0%≦Zr≦0.10%を含み、残余の組成は、鉄及び加工により生じる不可避の不純物から構成され、該鋼の微細組織は、面積百分率で、2~10%の初析フェライトを含み、残余はパーライトでできており、パーライトは100nm~250nmの層間間隔を有する、レール用鋼。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール用鋼であって、重量パーセントで表される以下の元素、すなわち、
0.25%≦C≦0.8%、
1.0%≦Mn≦2.0%、
1.40%≦Si≦2%、
0.01%≦Al≦1%、
0.8%≦Cr≦2%、
0≦P≦0.09%、
0≦S≦0.09%、
0%≦N≦0.09%、
を含み、且つ以下の任意元素、すなわち、
0%≦Ni≦1%、
0%≦Mo≦0.5%、
0%≦V≦0.2%、
0%≦Nb≦0.1%、
0%≦Ti≦0.1%、
0%≦Cu≦0.5%、
0%≦B≦0.008%、
0%≦Sn≦0.1%、
0%≦Ce≦0.1%、
0%≦Mg≦0.10%、
0%≦Zr≦0.10%、
の1種以上を含むことができ、残余の組成は、鉄及び加工により生じる不可避の不純物から構成され、前記鋼の微細組織は、面積百分率で、2~10%の初析フェライトを含み、残余はパーライトでできており、前記パーライトは100nm~250nmの層間間隔を有する、鋼。
【請求項2】
前記組成が0.27%~0.75%の炭素を含む、請求項1又は2に記載のレール用鋼。
【請求項3】
前記組成が0.02%~0.9%のアルミニウムを含む、請求項1~請求項2のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項4】
前記組成が0.9%~1.9%のクロムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項5】
前記パーライトが93%~99%の間である、請求項1~4のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項6】
パーライトの前記層間間隔が110nm~230nmである、請求項1~5のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項7】
180℃での引張強さが900MPaを超える、請求項1~8のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項8】
310Hv以上の硬度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項9】
40Ωmm/mを超える抵抗度を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項10】
4000A/mにおいて測定された165以上の最大透磁率を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載のレール用鋼。
【請求項11】
以下の連続する工程を含む鋼のレールの製造方法。
- 半完成品の形態の請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼組成物を提供する工程、
- 前記半完成品をAc3~Ac3+500℃の温度に再加熱し、そこで5秒から1200秒間保持する工程、
- 熱間圧延温度がAc3~Ac3+300℃であるオーステナイト範囲で、前記半完成品に1回以上の熱間圧延パスを実施して熱いレールを得る工程、
- 熱いレールを2工程冷却で冷却する工程であって、工程1では、前記熱いレールを0.1℃/秒~5℃/秒の冷却速度でAc3及びAc3+300℃の温度から480~550℃の範囲の温度T1まで冷却する工程、
- その後、工程2では、前記熱いレールを5℃/秒未満の冷却速度でT1から室温まで冷却し、レールを得る工程。
【請求項12】
前記半完成品の再加熱温度がAc3+30℃~Ac3+450℃である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記温度T1が490℃~530℃である、請求項11又は12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記CR1冷却速度がCR2より高い、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
レールワゴンの構造部品又は安全部品の製造のための、請求項1~10のいずれかに記載の鋼又は請求項11~14に記載の方法により製造されたレールの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道用レールの製造に適した鋼に関するものであり、特に反発力及び引力の原理に基づいて磁気浮上又は磁気誘導で走行する列車に適した鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
レール用鋼は、高速鉄道用、又は貨物及び旅客鉄道の両者のための二重用途用に開発されている。鉄道の積み荷運搬能力は用途に関係なく増加しており、今後増加することが予想される。このため、レールの過酷な作業環境下でも、抵抗度(resistivity)、透磁率、引張強さなどの機械的、電気的、磁気的特性が良好なレール用鋼を開発する必要がある。
【0003】
そこで、十分な硬さと共に、室温で高い引張強さを持ち、しかも180℃で900MPaを超える引張強さを持ちながら、抵抗度及び透磁率の良好な材料の開発に精力的な研究開発努力がなされている。
【0004】
鉄道レール用鋼の分野における初期の研究開発は、レール用の高強度耐摩耗鋼を製造するための幾つかの方法をもたらし、その幾つかを本発明の最終的理解のためにここで列挙する。
【0005】
US4350525号の磁気サスペンション鉄道用磁気活性部品は、0~0.15%の炭素、0~0.045%のリン、0~0.008%の窒素、0.75~2.0%のケイ素、0.15~1.00%のマンガン、0.02~0.07%のアルミニウム、可溶性、0.25~0.55%の銅、0.65~1.00%のクロム、残余は不可避の不純物と共に鉄である組成の鋼で製造されているが、US4350525号の鋼は、180℃で900MPaの引張強さに達することが実証されていない。
【0006】
WO2016019730号は、軟磁性鋼からなる誘導コア用F型レールであり、軟磁性鋼の化学組成は、C:0.005%~0.15重量%、Mn:0.25%~0.60%、Si:0.30%~1.0%、Re:0.003%~0.006%であり、P及びSはいずれも0.025%未満であり、残余はFe及び微量不純物であるが、この鋼も180℃の温度において900MPaの強度に達することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4350525号明細書
【特許文献2】国際公開第2016/019730号
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明の目的は、以下を同時に有する鉄道用レールを製造するための機械的操作に適した鋼を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである。
- 180℃で900MPa以上、好ましくは920MPaを超える引張強さ
- 少なくとも310Hv以上、かつ好ましくは315Hv以上の硬度
- 40Ωcm/m以上、好ましくは41Ωmm/m以上の抵抗度
- 4000A/mで測定した165以上の最大透磁率。
【0009】
好ましい実施形態では、本発明による鋼は、室温で950MPa以上、好ましくは1000MPaを超える引張強さを有することもできる。
【0010】
好ましい実施形態では、本発明による鋼は40000A/mにおいて1.5Tを超える分極を有することもできる。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明による鋼はまた、40000A/mにおいてにおいて測定した1.5Tを超える流束密度を有することもできる。
【0012】
好ましくは、このような鋼はレールの製造に適しており、また、この鋼はレールワゴンのシャシー部材のようなレールの他の構造部品にも適している。
【0013】
本発明の別の目的は、製造パラメータシフトに向けて安定でありながら、従来の工業的用途に適合する、これらの機械的部品の製造方法を利用可能にすることでもある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鋼に存在する炭素は0.25%~0.8%である。炭素は、パーライトを生成することによって本発明の鋼の強度を高めるのに必要な元素である。炭素はまた、層状パーライト中のセメンタイトの形成を助けることによって前記抵抗度を保証する。しかし、炭素含有量が0.25%未満では、初析フェライトの過剰な生成のために、抵抗度だけでなく引張強さも付与できない。一方、炭素含有率が0.7%を超えると、熱間圧延後の冷却中に初析セメンタイトが過剰に形成されるため、引張強さが悪影響を受ける。さらに、初析セメンタイトの過剰形成は、その運転ライフサイクル中のレールにとっても有害である。炭素含有率は有利には0.27%~0.75%の範囲であり、とりわけ0.28%~0.7%の範囲である。
【0015】
1.0%~2.0%のマンガンを本鋼に添加する。マンガンは固溶強化を提供し、パーライト中のセメンタイトの形成を助け、抵抗度を増加させることによって焼入れ性を増大させる。さらに、フェライト変態温度を抑制し、フェライト変態速度も低下させて初析フェライトの形成を制御し、したがってパーライトの形成を助ける。少なくとも1.0%の量が、パーライトの形成を補助するだけでなく、強度を付与するために必要である。しかし、マンガン含有率が2.0%を超えると、これらの微細組織が本発明の鋼の抵抗度及び透磁率に悪影響を及ぼすので、マンガンは本発明鋼に悪影響である熱間圧延後の冷却時のマルテンサイト又はベイナイトへのオーステナイトの変態の速度を上昇させるなどの悪影響を生じる。マンガン含有率が2.0%を超えると、凝固時に鋼中に過度に偏析して材料内部の均質性が損なわれ、熱間加工プロセス中に表面割れを発生させることもある。マンガンの存在に対する好ましい限度は1.0%~1.8%であり、より好ましくは1.0%~1.5%である。
【0016】
ケイ素は、本発明の鋼中に1.40%~2%まで存在する必須元素である。ケイ素は、本発明の鋼に固溶強化を通して強度を付与し、また脱酸剤としても作用する。しかし、ケイ素はフェライト形成剤であり、またAc3変態点を上昇もさせ、これはオーステナイト温度をより高い温度範囲に押し上げるので、ケイ素の含有率は最大2%に保たれる。2%を超えるケイ素含有率は、焼戻し脆化の原因となることもある。ケイ素の存在に対する好ましい限度は1.45%~1.8%であり、より好ましくは1.45%~1.6%である。
【0017】
アルミニウムの含有率は0.01%~1%である。アルミニウムは溶鋼中に存在する酸素を除去し、酸素が凝固プロセスで気相を形成するのを防ぐ。アルミニウムはまた、鋼中の窒素を固定して窒化アルミニウムを形成し、結晶粒のサイズを減少させる。アルミニウムは、本発明の鋼がパーライトラメラ間隔のサイズを制御し、それによって適切な透磁率を保持しながら抵抗度を増加させることを可能にする。1%を超えるアルミニウムの高い含有率は、鋼レールの疲労限界及び脆性破壊を悪化させる粗大なアルミニウム富化酸化物の発生につながる。アルミニウムの存在に対する好ましい限度は0.02%~0.9%であり、より好ましくは0.02%~0.5%である。
【0018】
本発明の鋼中にはクロムが0.8%~2%存在する。クロムは、固溶強化によって鋼に強度を与える必須元素であり、強度を付与するためには最低0.2%が必要であるが、2%を超えて使用すると、冷却後にベイナイトのような望ましくない相が形成されるために許容限度を超えて焼入れ性を高め、それによって鋼の延性を損なう。2%を超えるクロム添加はオーステナイト中の炭素の拡散係数も低下させ、従って熱間圧延後の冷却中のパーライトの形成を遅らせる。クロムの存在に対する好ましい限度は0.9%~1.9%であり、より好ましくは0.9%~1.6%である。
【0019】
本発明の鋼のリン含有率は0%~0.09%である。リンは粒界で偏析するか、マンガンと共偏析する傾向がある。これらの理由から、リンはできるだけ少なく使用することが推奨される。具体的には、0.09%を超える含有率は、引張強さ及び耐摩耗性に悪影響であり得る粒間界面剥離により破断を引き起こす可能性がある。リン含有率の好ましい限度は0%~0.05%である。
【0020】
硫黄は0%~0.09%含まれる。硫黄は細長くなり得るMnS析出物を形成する。このような細長いMnS介在物は、介在物が荷重方向にそろわないと、硬さ及び引張強さのような機械的特性にかなりの悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、硫黄含有率は0.09%に制限される。硫黄の含有率の好ましい範囲は0%~0.05%であり、より好ましくは0%~0.02%である。
【0021】
窒素は、本発明の鋼に0%~0.09%の量で存在する。鋼の機械的特性に悪影響である材料の老化を回避し、凝固中の粗大な窒化アルミニウムの析出を防止するために、窒素は0.09%に制限される。窒素はまた、バナジウム、チタン及びニオブと窒化物及び炭窒化物を形成し、本発明の鋼に強度を付与する。
【0022】
ニッケルは任意の元素であり、本発明の鋼の強度を高めるために0%~1%で本発明に添加される。ニッケルはその耐孔食性の改善に有益である。鋼組成中にニッケルを添加するとオーステナイト中の炭素の拡散係数が低下し、それによりパーライト中のフェライトの形成が促進される。しかし、ニッケル含有率が1%を超えると、残留オーステナイトの安定化につながり、それによって引張強さに悪影響を与える可能性がある。本発明の鋼では、0%~0.9%のニッケルを有することが好ましい。
【0023】
モリブデンは任意の元素であり、本発明においては0%~0.5%で存在することができる。モリブデンベースの炭化物を形成することにより、鋼に焼入れ性及び硬さを付与するためにモリブデンを添加する。しかし、モリブデンの添加は、合金元素の添加コストを過度に増加させるため、経済的理由から、その含有率は0.5%に制限される。モリブデン含有率の好ましい限度は0%~0.4%であり、より好ましくは0%~0.2%である。
【0024】
バナジウムは本発明の任意の元素であり、その含有率は0%~0.2%である。バナジウムは、特に炭化物あるいは炭窒化物を形成して析出強化することにより鋼の強度を高める効果がある。経済的理由により上限は0.2%に保たれる。
【0025】
ニオブは本発明の鋼中に0%~0.1%で存在し、析出硬化によって本発明の鋼の強度を付与するために炭窒化物を形成するのに適している。ニオブはまた、炭窒化物としてのその析出を通して、また加熱プロセスの際の再結晶を遅らせ、したがって粒径を微細化することにより、微細組織成分のサイズに影響を与えるものである。しかし、0.1%を超えるニオブ含有率は、経済的に興味深くはなく、鋼の引張強さに悪影響である粗大な析出物を形成し、また、ニオブの含有率が0.1%以上の場合も鋼の熱間延性に対して悪影響であり、鋼の鋳造及び圧延中に困難な点をももたらす。
【0026】
チタンは任意の元素であり、0%~0.1%で存在する。チタンは、強度を鋼に付与し、粒径を微細化する窒化チタンを形成する。チタンに対する好ましい限度は0%~0.05%である。
【0027】
銅は残留元素であり、鋼の加工により0.5%まで存在することがある。0.5%まではいかなる鋼の特性にも影響しないが、0.5%を超えると熱間加工性が著しく低下する。
【0028】
スズ、セリウム、マグネシウム、ホウ素又はジルコニウムのような他の元素を、個別に又は組み合わせて、次の重量比率、すなわち、スズ≦0.1%、セリウム≦0.1%、マグネシウム≦0.10%、0%≦ホウ素≦0.008%及びジルコニウム≦0.10%で添加することができる。これらの元素は、示された最大含有率レベルまでは、凝固中の結晶粒を微細化することを可能にする。鋼の組成の残余は、鉄、及び加工に起因する不可避の不純物からなる。
【0029】
本鋼の微細組織は以下を含む。
【0030】
パーライトは、本鋼のマトリックス微細組織成分であり、面積百分率による存在は少なくとも90%以上でなければならず、好ましくは90%~99%、より好ましくは93%~98%である。熱間圧延後の冷却の第2工程中にパーライトが生成する。本鋼のパーライトは層状組織のものである。本発明のパーライトの層状組織は、フェライト及びセメンタイトの凝集体であり、本発明のパーライトの層間間隔は、100ナノメートル~250ナノメートルである。この層間間隔は、引張強さ及び抵抗度のような本発明の鋼の使用時特性を改善する。層間間隔が250ナノメートルを超えると、鋼は柔らかくなり、前記引張強さに達することができず、特に180℃での前記引張強さに達することができず、パーライトの層間間隔が100ナノメートル未満である場合は常に、この鋼の透磁率が悪影響を受ける。層間間隔に対する好ましい限度は110ナノメートル~230ナノメートル、より好ましくは120ナノメートル~220ナノメートルである。本発明のパーライトはまた、透磁率及び硬さのような使用時特性を鋼に付与する。
【0031】
本発明の鋼中には、初析フェライトが2%~10%存在する。旧オーステナイト結晶粒の粒界には、熱間圧延後の冷却の第1工程で初析フェライトが形成され、初析フェライトはパーライト内に散在する。初析フェライトは透磁率と同様に延性を本鋼に与える。初析フェライトの含有率が10%を超える場合、本発明の鋼は硬さを達成できなくなる。初析フェライトの存在に対する好ましい限度は3%~9%であり、より好ましくは3%~8%である。
【0032】
上記の微細組織に加えて、レールの微細組織にはベイナイト、マルテンサイト及び残留オーステナイトのような微細組織成分は存在しない。
【0033】
本発明によるレールは、以下で説明する規定のプロセスパラメータを用いて、任意の適切な製造プロセスによって製造することができる。
【0034】
好ましい例示的方法が本明細書で実証されるが、この例は開示の範囲及び実施例の基礎となる態様を制限しない。さらに、本明細書に記載されたいずれの例も、限定することを意図しておらず、本開示の様々な態様が実行され得る多くの可能な方法のいくつかを単に記載するにすぎない。
【0035】
好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半完成品の鋳造品を提供することからなる。鋳造は、鉄道用、特に磁気浮上レール用のレールに製造または加工することができるインゴット又はブルーム又はビレットなど、あらゆる形態で行うことができる。
【0036】
例えば、上記の化学組成を有する鋼は、ビレットに鋳造され、次いで、棒の形で圧延される。この棒は、さらに圧延するための半完成品として機能することができる。所望の半完成品を得るために、複数の圧延工程を行ってもよい。
【0037】
レールとして製造される鋼を準備するために、半完成品は、圧延後に直接高温で使用されてもよいし、まず室温まで冷却され、その後レールを製造するために再加熱されてもよい。
【0038】
半完成品は、100%オーステナイトが確実に形成されるようにすると共に、半完成品の断面にわたる均一な温度を保証するために、温度Ac3~Ac3+500℃へ、好ましくはAc3+30℃~Ac3+450℃へ、より好ましくは1100℃~1300℃へ再加熱され、5秒~1200秒の間保持される。Ac3はKASATKIN、O.G.ら、Calculation Models for Determining the Critical Points of Steel in Metal Science and Heat Treatment、26:1-2、1984年1月~2月、27-31に従って計算される(claulated)。
【0039】
半完成品の再加熱温度がAc3より低い場合、圧延中に過大な荷重がかかり、鋼の温度が熱間圧延中にフェライト生成を招くことになるフェライト変態開始温度未満に低下することもある。さらに、歪下での冶金変態は、所与の冷却速度又は所与の化学組成に対し得られた微細組織に顕著な変化をもたらす可能性がある。その結果、得られた微細組織は、目標とするものとは全く異なるため、機械的特性及び電気的特性も異なる。したがって、半完成品の温度は、全ての機械的操作が100%オーステナイト温度範囲で行われ、完了するように十分に高いことが好ましい。Ac3+500℃を超える温度での再加熱は、工業的に費用がかかり、鋼の圧延に影響を及ぼす液体領域の発生につながる可能性があるため、避けなければならない。
【0040】
次いで、半完成品は、Ac3~Ac3+300℃で、好ましくは35~90%の圧下率で、熱間圧延の少なくとも1つのパスにかけられる。熱間圧延は、半完成品から熱いレールを有することが要求される複数のパスで行うことができる。全ての熱間圧延に好ましい温度は、Ac3+30℃~Ac3+300℃であり、より好ましい温度はAc3+50℃~Ac3+250℃である。
【0041】
最終的な圧延温度はAc3超に保たれなければならず、これは再結晶及び機械的製造に有利な構造にとって好ましい。全ての圧延パス、特に最終圧延温度を1000℃より高い温度で実施することが好ましい。なぜなら、この温度未満では鋼は圧延性の大幅な低下を示すからである。最終圧延温度がAc3未満の場合には、レールの最終寸法の問題及び表面形態の劣化につながる可能性がある。それはひび割れ又はレールの完全な故障を引き起こすことさえある。
【0042】
次に、熱いレールは、2工程の冷却プロセスで冷却され、冷却の第1工程は、最終熱間圧延の出口から始まり、熱いレールは、0.1℃/秒~5℃/秒の冷却速度CR1で、480℃~550℃の範囲の温度T1まで冷却される。好ましい実施形態では、冷却のこのような第1工程の冷却速度CR1は0.1℃/秒~3℃/秒、より好ましくは0.1℃/秒~2℃/秒である。このような第1工程の好ましいT1温度は490℃~530℃であり、より好ましくは490℃~510℃である。
【0043】
冷却の第2工程では、熱いレールをT1から室温まで5℃/秒未満の冷却速度CR2で冷却する。好ましい実施形態では、冷却の第2工程の冷却速度CR2は3℃/秒未満であり、より好ましくは1℃/秒未満である。
【0044】
好ましい実施形態では、CR1はCR2よりも高い。
【0045】
熱いレールが室温に達すると、本発明の鋼からレールが得られる。
【実施例
【0046】
本明細書に提示されている以下の試験、例示、図示的例示及び表は、本質的に制限のないものであり、例示のみを目的として考慮しなければならず、本発明の有利な特徴を示すものである。
【0047】
異なる組成の鋼で作製されたレールを表1にまとめ、ここでは、それぞれ表2に規定されたプロセスパラメータに従ってレールを製造する。その後、表3は試行中に得られたレールの微細組織をまとめ、表4は得られた特性の評価結果をまとめる。
【0048】
【表1】
【0049】
表2は、表1の鋼で作られた半完成品に実施されたプロセスパラメータをまとめたものである。試行I1~I3は、本発明によるレールの製造に役立つ。表2は以下のとおりである。
【0050】
【表2】
【0051】
Ac3値は、KASATKIN、O.G.ら、Calculation Models for Determining the Critical Points of Steel in Metal Science and Heat Treatment、26:1-2、1984年1月~2月、27-31に従って決定した。
【0052】
<表3>
表3は、本発明の鋼及び参照鋼の両方の微細組織を面積分率で決定するための走査電子顕微鏡のような異なる顕微鏡についての標準に従って実施した試験の結果を例示している。結果は本明細書に規定されている。
【0053】
【表3】
【0054】
<表4>
表4は、本発明の鋼及び参照鋼の両方の機械的特性及び磁気的特性を例示する。引張強さを決定するために、NF EN ISO 6892-1/2017規格に従って試験を実施する。本発明の鋼及び参照鋼の両方について抵抗度及び透磁率を測定する試験は、それぞれIEC-60404-13及びIEC-60404-4に従って実施する。本発明の鋼及び参照鋼の両方について硬さを測定する試験をEN-13674に従って実施する。規格に従って実施した各種機械的試験の結果をまとめる。
【0055】
【表4】
【国際調査報告】