(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】腫瘍内直接注射による免疫療法のための、方法及び陽イオン性脂質を含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/231 20060101AFI20231201BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231201BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231201BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20231201BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20231201BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231201BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20231201BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
A61K31/231
A61K39/00 Z
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/39
A61K31/685
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/32
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530630
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 US2021060337
(87)【国際公開番号】W WO2022109391
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509263191
【氏名又は名称】ピーディーエス バイオテクノロジー コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】PDS BIOTECHNOLOGY CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】フランク ベドゥ-アド
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー コン
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ワード
(72)【発明者】
【氏名】ジェロルド ウッドワード
(72)【発明者】
【氏名】シバ ケー.ガンダプディ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA11
4C076AA22
4C076BB11
4C076CC07
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4C206NA14
4C206ZB09
4C206ZB26
4C206ZC75
(57)【要約】
腫瘍内直接注射のための、陽イオン性脂質ベースの組成物の使用を含む新規の免疫療法的介入が、本明細書に提供される。本組成物は、局所的、標的化された、全身的及び遠位の有効性を伴う腫瘍増殖及びがん増殖の低減、排除及び/又は防止に有効である。本組成物は、DOTAP及びDOTMAなどの1種以上の陽イオン性脂質を含み得、かつ抗原、治療薬、及び/又は薬学的に許容される賦形剤などの追加の成分を更に含み得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の陽イオン性脂質を含む組成物の腫瘍内直接注射によって、抗腫瘍免疫応答を誘導するための、方法。
【請求項2】
前記1種以上の陽イオン性脂質が、少なくとも1種の非ステロイド性脂質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上の陽イオン性脂質が、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、N-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)-プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、及びそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記陽イオン性脂質が、R-DOTAP、R-DDA、R-DOEPC、R-DOTMA、S-DOTAP、S-DDA、S-DOEPC、S-DOTMA、それらの変種又は類似体からなる群から選択される前記陽イオン性脂質のエナンチオマーを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記エナンチオマーが、(R)-1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(R-DOTAP)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、1種以上の抗原を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上の抗原が、タンパク質、ペプチド、多糖類、糖タンパク質、糖脂質、核酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記抗原が、ウイルス抗原、細菌抗原、病原性抗原、微生物抗原、がん抗原、並びにそれらの活性断片、単離物、及び組み合わせを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、又は増加した疎水性若しくは減少した疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質若しくはペプチドを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、治療薬及び/又は薬学的に許容される賦形剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、放出制御調製物の形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記放出制御調製物が、ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ乳酸、及びヒドロゲルなどのポリマー複合体の使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
抗原特異的CD8+T細胞応答が上昇する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
対象における免疫原性応答を誘導するための方法であって、陽イオン性脂質を含む組成物の腫瘍内投与を含み、前記陽イオン性脂質の前記投与が、抗腫瘍応答の刺激をもたらす、方法。
【請求項15】
前記陽イオン性脂質が、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、N-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)-プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、及びそれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記陽イオン性脂質が、(R)-1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(R-DOTAP)を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が、1種以上の抗原を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記1種以上の抗原が、タンパク質、ペプチド、多糖類、糖タンパク質、糖脂質、核酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、治療薬及び/又は薬学的に許容される賦形剤を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、放出制御調製物の形態であり、前記放出制御調製物が、ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ乳酸、及びヒドロゲルなどのポリマー複合体の使用を含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、一般的に、新規の免疫治療介入、特に、腫瘍内直接注射のための陽イオン性脂質ベースのワクチンの使用、組成物、及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
局所及び遠位の腫瘍部位で抗腫瘍免疫応答を生成する手段としての腫瘍内直接注射を評価する多くの研究が、臨床で評価されている。かかる薬剤としては、Bacillus Calmette-Guerin(BCG)、腫瘍溶解性ウイルス、IL-2、小分子STINGアゴニスト、トール受容体アゴニスト、及び腫瘍の局所照射が挙げられる。腫瘍溶解性ウイルスの腫瘍内直接注射は、最近、転移性黒色腫の治療のために承認されている。腫瘍内注射は、一般に、腫瘍自体への免疫刺激剤の直接注射として定義され、抗腫瘍応答の優れた準備刺激剤として働く可能性を有する。更に、腫瘍への直接注射は、全身曝露、オフターゲット毒性、及び使用される薬物の量を減少させるだけでなく、注射された腫瘍病変及びおそらく遠隔にある注射されていない腫瘍病変においてもより強い抗腫瘍活性を誘導することができる。1局所トール様受容体(TLR)アゴニストは、がんの治療に使用するために研究されている。TLR-7/8アゴニストであるイミキモドは、臨床的抗腫瘍活性を実証しており、表在性基底細胞がん、光化性角化症、及び生殖器疣贅の治療のために承認されている。2報告された第I/II相試験では、局所イミキモドと病変内インターロイキン(IL)-2と組み合わせて、皮膚黒色腫転移を患う13人の患者を試験した。合計182個の腫瘍病変が治療され、92/182個の病変で抗腫瘍反応が報告され、74個の病変が完全退縮した。別の研究において、Kidnerら3は、9人の黒色腫患者で病変内BCGと局所イミキモドを併用した臨床試験で、5/9人の患者が完全な臨床的利益を得たことを報告した。別の局所TLR-7/8アゴニストであるレシキモドは、Rookらによって、IA-IIA期皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)患者12人を対象とした第I相試験で研究されている。4患者の75%で部分的な利益が報告され、患者の30%で完全な臨床的利益が見られた。この研究において、T細胞受容体の配列決定及びフローサイトメトリーは、患者の90%でクローン性悪性T細胞の減少を実証し、30%で完全根絶を実証した。
【0003】
他の研究において、腫瘍内TLRアゴニストは、軽度(2×2Gy)の局所照射と組み合わせて、B細胞及びT細胞リンパ腫患者において試験されている。5Brodyらは、非注射標的病変における4/15人の患者における奏効率を報告した。更に8人の患者が持続的で安定した疾患を示した。Kimら6は、非注射(標的部位から離れた所の)標的病変において同じ併用療法を行った場合、5/14人の菌状息肉症患者における奏効率を報告した。注射部位で行った生検において、CD25+/FoxP3+T細胞及び抗原提示細胞の有意な減少、並びに腫瘍内免疫化時のCD123+pDCの増加を見出した。
【0004】
放射線療法によって誘発される局所組織損傷及び炎症は、腫瘍抗原を生成し、危険に関連する分子パターンを放出する可能性があることも報告されている。7腫瘍内薬物と同様に、局所照射は、全身性サイトカイン及びケモカインのレベルの上昇などの全身性免疫変化を誘発する可能性がある。8照射有効性は部分的に免疫系に依存し、免疫原性細胞死、抗原放出、MHC-I上方制御、及びT細胞応答を通じて、抗腫瘍免疫を生成する可能性があることも報告されている。9しかしながら、放射線療法は、腫瘍抗原に対する既存の免疫寛容に対処しない可能性があることも示唆されている。また、最初の腫瘍組織損傷後、Treg増殖などの負のフィードバックループは、細胞傷害性T細胞に対する免疫を効果的に回復させるであろうことが提案されている。10
【0005】
サイトカインの腫瘍内注射も、がん免疫療法アプローチとして研究されている。IL-2サイトカイン療法は現在、黒色腫の治療に使用されている。11病変内IL-2の臨床活性は、小規模なIII期の黒色腫で最も有益である。12病変内IL-2と抗CTLA-4の組み合わせが小規模な第I相試験で報告されている。奏効は患者の67%で見られ、irRCによる奏効率は40%であった。13
【0006】
ワクチンとがん免疫療法の合理的な設計には大きな進歩があったものの、予防的及び治療的の両方でがん治療の開発が継続的に必要とされている。最小限の副作用で、特異的かつ効果的な組成物の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
1種以上の陽イオン性脂質を含む組成物の腫瘍内直接注射によって、抗腫瘍免疫応答を誘導する、新規の方法が、本明細書に開示される。ある特定の実施形態において、1種以上の陽イオン性脂質は、少なくとも1種の非ステロイド性脂質を含む。ある特定の実施形態において、1種以上の陽イオン性脂質は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、N-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)-プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、及びそれらの組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】生存プロットを示す。B6マウス(1群当たりn=4匹)に50,000個のTC1腫瘍細胞を皮下移植した。10日目に、第2群は、HPV抗原(ASP3/R-DOTAP(S.C.))を含有する腫瘍ワクチンR-DOTAP-HPV混合製剤(100μl)(ASP3-250-HPV混合物)を腫瘍の反対側脇腹に受け、第3群のマウスは、R-DOTAP(6mg/mlの50μl)(RDOTAP(IT))の腫瘍内注射を受けた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の詳細な説明は、例示的かつ説明的であり、本明細書に記載の本開示の更なる説明を提供することを意図する。他の利点及び新規な特徴は、本開示の以下の詳細な説明から、当業者にとっては容易に明白であろう。
【0010】
本明細書で言及される参考文献の文章は、以下の特許及び特許出願とともに、それらの全体が本明細書に組み込まれる:2007年12月4日に発行された米国特許第7,303,881号、2014年11月4日に発行された米国特許第8,877,206号、2017年10月17日に発行された米国特許第9,789,129号、2014年11月5日に出願された米国特許出願第14/344,327号、2014年12月11日に出願された米国特許出願第14/407,419号、2015年3月18日に出願された米国特許出願第14/429,123号、2017年10月5日に出願された米国特許出願第15/725,985号、2017年10月4日に出願された米国特許出願第15/724,818号、2018年2月22日に出願された米国特許仮出願第62/633,865号、2019年2月22日に出願された米国仮特許出願第62/809,182号、2019年11月22日に出願された米国仮特許出願第62/939,161号、2020年11月20日に出願された米国仮特許出願第63/116,406号。
【0011】
腫瘍に対する細胞免疫応答を刺激することができる薬剤を使用する、腫瘍への直接注射に関心が高まっている。そのようなアプローチのほとんどの目標は、腫瘍内に既に存在する腫瘍抗原の存在を利用して、がん細胞抗原に対する抗腫瘍免疫を生成することである。このアプローチは、基本的に腫瘍をそれ自身のワクチンとして使用する。腫瘍内直接注射は、複数のがん標的に対するポリクローナル抗腫瘍免疫応答の生成も支援し得る。これは、がんの不均一性に対処する可能性を高める上で重要である。腫瘍内直接注射の重要な焦点は、最も高い免疫原性の腫瘍抗原(新抗原、グリコペプチド、腫瘍関連のがん胚性抗原、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)I又はII制限)の性質に依存しない可能性である。
【0012】
任意のがんの固有の不均一性は、がん細胞ゲノムにおける経時的な変異の発生及び蓄積の結果である。どのようながん細胞も親がん細胞に存在しない変異を発生させることができることは、十分に認められている。そのような新しい突然変異は時間とともに蓄積し得、結果として生じる突然変異プロファイルは、腫瘍病変間で異なり得る。腫瘍内免疫療法は、腫瘍に存在する腫瘍細胞サブクローンの完全なレパートリーに対して抗腫瘍免疫応答を生成する強い可能性を示す。1人の患者において複数の腫瘍病変を直接注射する腫瘍内直接注射によって与えられる能力は、全てのがん細胞によって共有される広範囲の抗原を標的とするポリクローナル免疫応答を生成する可能性を有意に増強するはずである。また、腫瘍内免疫療法でB細胞及びT細胞抗腫瘍免疫応答の両方を生成する可能性は、ICT mAb単独療法で見られる逃避機構のいくつかを克服する可能性があることも発見されている[例えば、がん細胞上のヒト白血球抗原(HLA)-I発現の喪失]。
【0013】
腫瘍内直接注射は、従来のがんワクチンよりも顕著な利点を示す。例えば、樹状細胞ワクチンは、事前に同定された腫瘍抗原でパルスされなければならず、腫瘍抗原は単離され、産生されなければならない。最近、新抗原ワクチンが大きな注目を集めている。そのようなワクチンは、腫瘍生検、腫瘍配列決定、エピトープ結合予測、及びエピトープのGMP産生を含む、複数の開発段階をも必要とする。従来のがんワクチンでは、通常、特定のがん/患者の最も免疫原性の高い標的について、不確実性がある。そのようなワクチンは、正常に提示され得る抗原の数、したがってポリクローナル免疫を生成する能力においても制限される。いくつかのがんワクチンは、HLA制限された単一エピトープCD8+ペプチドに基づいており、これは広く適用可能な免疫応答を生成する能力を制限する。
【0014】
本明細書の発明者らは、脂質を腫瘍に直接注射することによって、複数の腫瘍抗原に対して、広範で堅牢な抗腫瘍免疫応答を生成するための陽イオン性脂質を含む、新規の組成物及び方法を本明細書で示す。
【0015】
免疫療法戦略としての腫瘍内免疫療法の使用を含み、腫瘍がそれ自身へのワクチンの貢献者として利用される、新規の抗がん方法が本明細書で開示される。免疫療法剤の局所及び部位特異的な送達は、深刻な全身曝露を防ぎ、一般的に観察されるオフターゲット毒性及び副作用を防ぎながら、複数の併用療法の使用を可能にする。腫瘍に直接注射すると、高濃度の免疫刺激産物が原位置で送達され得る。更に、多くのがんで一般的であるように、所与のがんの優性エピトープに関する知識が欠如している場合であっても、腫瘍内直接注射を利用して、関連する新抗原又は腫瘍関連抗原に対する免疫応答を、それらについて事前の同定又は特性評価を必要とせずに、誘導し得る。本明細書の実施例部分で詳述するように、陽イオン性脂質は、抗原を使用せずに腫瘍内直接注射する際の局所及び遠位の抗腫瘍免疫応答の両方を誘導する能力について研究された。腫瘍内で得られた陽イオン性脂質誘導免疫活性化は、局所的にがん免疫の強い準備刺激を誘導し、同時に遠位の抗腫瘍応答も生成した。
【0016】
本発明者らが以前に発見したように、R-DOTAPなどの陽イオン性脂質は、抗原提示細胞に抗原カーゴ(antigen cargo)を送達し、最適なT細胞活性化に必要なI型インターフェロンを誘導することによって、抗原提示T細胞を効率的に準備刺激することができる。特定の濃度では、陽イオン性脂質は、細胞毒性作用及び膜不安定化を示す。本明細書で示すように、本発明者らは、陽イオン性脂質の最適用量の腫瘍内直接注射が、腫瘍細胞死を引き起こすであろうこと、及び陽イオン性脂質と相互作用し、抗原提示細胞によって取り込まれる腫瘍抗原の放出を引き起こすことを発見した。本発明に従って投与される陽イオン性脂質は、局所腫瘍微小環境及び流入領域リンパ節における抗原負荷樹状細胞によるI型インターフェロンも誘導し、T細胞の準備刺激を誘発する。したがって、単剤療法として、又は他の全身又は腫瘍内免疫療法と組み合わせて送達される場合、陽イオン性脂質は、抗腫瘍免疫応答を生成して、局所的及び異なる部位で腫瘍を退縮させることができる。
【0017】
1種以上の陽イオン性脂質を含む組成物の腫瘍内直接注射によって、抗腫瘍免疫応答を誘導するための新規の方法が、本明細書で示される。一実施形態において、陽イオン性脂質は、少なくとも1種の非ステロイド性脂質を含む。陽イオン性脂質は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、N-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)-プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、及びそれらの組み合わせを含み得る。ある特定の実施形態において、陽イオン性脂質は、R-DOTAP、R-DDA、R-DOEPC、R-DOTMA、S-DOTAP、S-DDA、S-DOEPC、S-DOTMA、それらの変種又は類似体からなるが、これらに限定されない、群から選択される陽イオン性脂質のエナンチオマーを含む。ある特定の実施形態において、エナンチオマーは、(R)-1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(R-DOTAP)である。
【0018】
ある特定の実施形態において、腫瘍内注射を介して投与される組成物は、1種以上の陽イオン性脂質を含み、1種以上の抗原を更に含む。1種以上の抗原は、タンパク質、ペプチド、多糖類、糖タンパク質、糖脂質、核酸、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原、病原性抗原、微生物抗原、がん抗原、並びにそれらの活性断片、単離物、及び組み合わせを含み得る。抗原は、リポタンパク質、リポペプチド、又は増加した疎水性若しくは減少した疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質若しくはペプチドを含み得る。
【0019】
ある特定の実施形態において、腫瘍内注射を介して投与される組成物は、1種以上の陽イオン性脂質を含み、任意選択的に、1種以上の抗原を含み得、治療薬及び/又は薬学的に許容される賦形剤をも含み得る。ある特定の実施形態において、組成物は、放出制御調製物の形態であり得、放出制御調製物は、ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ乳酸、及びヒドロゲルなどのポリマー複合体の使用を含み得る。本明細書に記載の組成物の投与は、抗原特異的CD8+T細胞応答の上昇、並びに腫瘍微小環境の変化をもたらし得る。
【0020】
本明細書では、対象における免疫原性応答を誘導するための方法であって、陽イオン性脂質を含む組成物の腫瘍内投与を含み、陽イオン性脂質の投与が、抗腫瘍応答の刺激をもたらす、方法が提供される。陽イオン性脂質は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、(R)-1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(R-DOTAP)N-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)-プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、及びそれらの組み合わせを含み得る。組成物は、任意選択的に、1種以上の抗原を含み得、放出制御調製物の形態であり得る。
脂質アジュバント
【0021】
陽イオン性脂質は、強い免疫刺激アジュバント効果を有することが報告されている。本発明の陽イオン性脂質は、任意選択的に抗原と混合されたリポソームを形成し得、かつ陽イオン性脂質を単独で、又は中性脂質及び/若しくは他の医薬賦形剤と組み合わせて含有し得る。好適な陽イオン性脂質種としては、3-β[4N-(1N,8-ジグアニジノスペルミジン)-カルバモイル]コレステロール(BGSC);3-β[N,N-ジグアニジノエチル-アミノエタン)-カルバモイル]コレステロール(BGTC);N,N1N2N3テトラメチルテトラパルミチルスペルミン(cellfectin);N-t-ブチル-N’-テトラデシル-3-テトラデシル-アミノプロピオン-アミジン(CLONfectin);ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロマイド(DDAB);1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DMRIE);2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンアミニウムトリフルオロアセテート)(DOSPA);1,3-ジオレオイルオキシ-2-(6-カルボキシスペルミル)-プロピルアミド(DOSPER);4-(2,3-ビス-パルミトイルオキシ-プロピル)-1-メチル-1H-イミダゾール(DPIM)N,N,N’,N’-テトラメチル-N,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,3ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウムアイオダイド)Tfx-50);N-1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)又は他のN-(N,N-1-ジアルコキシ)-アルキル-N,N,N-三置換アンモニウム界面活性剤;1,2ジオレオイル-3-(4’-トリメチルアンモニオ)ブタノール-sn-グリセロール(DOBT)又はコレステリル(4’トリメチルアンモニア)ブタノエート(ChOTB)、ここで、トリメチルアンモニウム基は、ブタノールスペーサーアームを介して、二重鎖(DOTB)又はコレステリル基(ChOTBの場合)のいずれかに接続されている;DORI(DL-1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロピル-β-ヒドロキシエチルアンモニウム)又はDORIE(DL-1,2-O-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロピル-β-ヒドロキシエチルアンモニウム)(DORIE)、又はWO93/03709に開示されているその類似物;1,2-ジオレオイル-3-スクシニル-sn-グリセロールコリンエステル(DOSC);コレステリルヘミスクシナートエステル(ChOSC);ジオクタデシルアミドグリシルペルミン(DOGS)及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミルスペルミン(DPPES)又は米国特許第5,283,185号に開示されている陽イオン性脂質などのリポポリアミン、コレステリル-3β-カルボキシル-アミド-エチレントリメチルアンモニウムアイオダイド、1-ジメチルアミノ-3-トリメチルアンモニオ-DL-2-プロピル-コレステリルカルボキシレートアイオダイド、コレステリル-3-O-カルボキシアミドエチレンアミン、コレステリル-3-β-オキシスクシンアミド-エチレントリメチルアンモニウムアイオダイド、1-ジメチルアミノ-3-トリメチルアンモニオ-DL-2-プロピル-コレステリル-3-β-オキシスクシナートアイオダイド、2-(2-トリメチルアンモニオ)-エチルメチルアミノエチル-コレステリル-3-β-オキシスクシナートアイオダイド、3-β-N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイルコレステロール(DC-chol)、及び3-β-N-(ポリエチレンイミン)-カルバモイルコレステロール;O,O’-ジミリスチル-N-リシルアスパーテイト(DMKE);O,O’-ジミリスチル-N-リシル-グルータメイト(DMKD);1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロマイド(DMRIE);1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DLEPC);1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC);1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC);1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DPEPC);1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DSEPC);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);ジオレオイルジメチルアミノプロパン(DODAP);1,2-パルミトイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DPTAP);1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP)、1,2-ミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP);及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。本発明は、本出願に開示される陽イオン性脂質の構造変異体及び誘導体の使用を企図する。
【0022】
本発明のある特定の態様は、以下の式で表される構造を有する非ステロイド性キラル陽イオン性脂質を含み、
【化1】
【0023】
式中、R1は、第四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン、及びペプチドから選択され、R2及びR3は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、リン-ジエステル、並びにそれらの組み合わせから独立して選択される。DOTAP、DMTAP、DSTAP、DPTAP、DPEPC、DSEPC、DMEPC、DLEPC、DOEPC、DMKE、DMKD、DOSPA、DOTMAは、この一般構造を有する脂質の例である。
【0024】
一実施形態において、本発明のキラル陽イオン性脂質は、親油基とアミノ基との間の結合が水溶液中で安定している、脂質である。したがって、本発明の複合体の属性は、貯蔵中のそれらの安定性(すなわち、それらの形成後に、経時的に小径を維持し、生物学的活性を保持するそれらの能力)である。陽イオン性脂質に使用されるかかる結合としては、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びカルバモイル結合が挙げられる。当業者であれば、2種以上の陽イオン性脂質種を含有するリポソームを使用して、本発明の複合体を作製し得ることを容易に理解するであろう。例えば、2種の陽イオン性脂質種、リシル-ホスファチジルエタノールアミン及びβ-アラニルコレステロールエステルを含むリポソームは、特定の薬物送達用途について開示されている[Brunette,E.et al.,Nucl.Acids Res.,20:1151(1992)]。
【0025】
本発明での使用に好適であり、かつ任意選択的に1種以上の抗原と混合するキラル陽イオン性リポソームを考慮する場合、本発明の方法は、上記の陽イオン性脂質の使用に限定されず、むしろ、陽イオン性リポソームが産生され、得られる陽イオン性電荷密度が免疫応答を活性化及び誘導するのに十分である限り、任意の脂質組成物が使用され得ることを、更に理解されたい。
【0026】
したがって、本発明の脂質は、陽イオン性脂質に加えて他の脂質を含有し得る。これらの脂質としては、リゾホスファチジルコリン(1-オレオイルリゾホスファチジルコリン)が例示であるリゾ脂質、コレステロール、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)又はジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)を含む中性リン脂質、及び種々の脂肪族界面活性剤(これらはポリエチレングリコール部分を含有し、Tween(登録商標)-80及びPEG-PEがその例示である)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の陽イオン性脂質は、形成される複合体の正味電荷が正である、及び/又は複合体の表面が正電荷である限り、負に荷電した脂質及び陽イオン性脂質を含んでもよい。本発明の負に荷電した脂質は、生理学的pH又はこれらの組み合わせで又はその近くで、正味負に荷電した少なくとも1種の脂質種を含むものである。好適な負に荷電した脂質種としては、CHEMS(ヘミコハク酸コレステリル)、NGPE(N-グルタリルホスファチジルエタノールアミン)、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジン酸、又は同様のリン脂質類似体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の薬物送達複合体を含む脂質の製造に使用されるリポソームの製造方法は、当業者には既知である。リポソーム調製の方法論のレビューは、Liposome Technology(CFC Press New York 1984);Liposomes by Ostro(Marcel Dekker,1987)、Methods Biochem Anal.33:337-462(1988)及び米国特許第5,283,185号に見出され得る。かかる方法は、凍結融解押出及び超音波処理を含む。単層リポソーム(平均直径約200nm未満)及び多層リポソーム(平均直径約300nm超)の両方を、本発明の複合体を産生するための出発成分として使用してもよい。
【0029】
本発明の陽イオン性脂質ワクチンを製造するために利用される陽イオン性リポソームにおいて、陽イオン性脂質は、総リポソーム脂質の約10モル%~約100モル%、又は約20モル%~約80モル%でリポソーム内に存在する。中性脂質は、リポソームに含まれる場合、全リポソーム脂質の約0モル%~約90モル%、又は約20モル%~約80モル%、又は40モル%~80モル%の濃度で存在し得る。負に荷電した脂質は、リポソームに含まれる場合、全リポソーム脂質の約0モル%~約49モル%、又は約0モル%~約40モル%の範囲の濃度で存在し得る。一実施形態において、リポソームは、約2:8~約6:4の比率で、陽イオン性及び中性脂質を含有する。本発明の複合体は、複合体を特定の組織又は細胞型に向ける標的化因子として機能する、修飾脂質、タンパク質、ポリカチオン、又は受容体リガンドを含有し得ることが、更に理解される。標的化因子の例としては、アシアロ糖タンパク質、インスリン、低密度リポタンパク質(LDL)、葉酸、並びに細胞表面分子に対して向けられるモノクローナル及びポリクローナル抗体が挙げられるが、これらに限定されない。更に、複合体の循環半減期を変更するために、正の表面電荷は、ポリエチレングリコール部分を含有する親油性界面活性剤を組み込むことによって、立体的に遮蔽することができる。
【0030】
本発明の陽イオン性脂質組成物は、スクロース勾配から収集して、等張スクロース又はデキストロース溶液中に保存され得、又はそれらを凍結乾燥させて、使用前に等張溶液中で再構築され得る。一実施形態において、陽イオン性脂質複合体は溶液中に保存される。本発明の陽イオン性脂質複合体の安定性は、特定のアッセイによって測定され、貯蔵中の経時的な陽イオン性脂質ワクチンの物理的安定性及び生物学的活性を決定する。陽イオン性脂質組成物の物理的安定性は、例えば、電子顕微鏡法、ゲル濾過クロマトグラフィーを含む、当業者に既知の方法によって、又は例えば、コールターN4SD粒径分析器を使用した準弾性光散乱によって、陽イオン性脂質複合体の直径及び電荷を測定することによって測られる。貯蔵された陽イオン性脂質ワクチンの直径が、陽イオン性脂質ワクチンが精製された時点で決定された陽イオン性脂質複合体の直径を超えて100%超、又は50%超、又は30%超増加しない場合、陽イオン性脂質複合体の物理的安定性は、貯蔵にわたって「実質的に変化しない」。
【0031】
陽イオン性脂質は、純粋又は実質的に純粋な形態で投与されることが可能であるが、ある特定の実施形態において、医薬組成物、製剤又は調製物として投与されてもよい。本発明のキラル陽イオン性脂質複合体を使用する医薬製剤は、例えば、リン酸緩衝食塩水、等張食塩水、又は酢酸塩若しくはHepesなどの低イオン強度緩衝液などの生理学的に適合する滅菌緩衝液(例示的なpHは、約5.0~約8.0の範囲である)中に、陽イオン性脂質ワクチンを含み得る。キラル陽イオン性脂質組成物は、腫瘍内、動脈内、静脈内、気管内、腹腔内、皮下、及び筋肉内投与のための液体溶液として投与され得る。
【0032】
本明細書に記載の様々な実施形態において、組成物は、1種以上の抗原を更に含む。本明細書で使用される場合、用語「抗原」は、免疫系を有する哺乳動物に導入されると(例えば、DNAワクチンのように直接又は発現時に)、哺乳動物の免疫系によって認識され、免疫応答を誘発することができる任意の薬剤(例えば、タンパク質、ペプチド、多糖類、糖タンパク質、糖脂質、核酸、又はそれらの組み合わせ)を指す。本明細書で定義されるように、抗原誘導免疫応答は、体液性又は細胞媒介性、又はその両方であり得る。免疫グロブリン(抗体)又はT細胞抗原受容体(TCR)などの免疫系の抗原認識分子と特異的に相互作用することができる場合、薬剤は「抗原性」と称される。
【0033】
いくつかの実施形態において、1種以上の抗原は、タンパク質ベースの抗原である。他の実施形態において、1種以上の抗原は、ペプチドベースの抗原である。様々な実施形態において、1種以上の抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原、及び病原性抗原からなる群から選択される。本明細書で使用される「微生物抗原」は、微生物の抗原であり、感染性ウイルス、感染性細菌、感染性寄生虫、及び感染性真菌を含むが、これらに限定されない。微生物抗原は、完全な微生物、及びその天然の単離物、断片、又は誘導体、天然に存在する微生物抗原と同一若しくは類似であり、好ましくは、対応する微生物(天然に存在する微生物抗原に由来する)に特異的な免疫応答を誘導する合成化合物であり得る。一実施形態において、抗原はがん抗原である。一実施形態において、抗原はウイルス抗原である。別の実施形態において、抗原は真菌抗原である。別の実施形態において、抗原は細菌抗原である。種々の実施形態において、抗原は病原性抗原である。いくつかの実施形態において、病原性抗原は合成抗原又は組換え抗原である。
【0034】
いくつかの実施形態において、病原性抗原は合成抗原又は組換え抗原である。いくつかの実施形態において、抗原はがん抗原である。「がん抗原」は、本明細書で使用される場合、腫瘍又はがん細胞に関連する分子又は化合物(例えば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA、及び/又はDNA)であり、MHC分子の状況で抗原提示細胞の表面上で発現される場合、免疫応答(体液性及び/又は細胞性)を誘発することができる。例えば、がん抗原は、腫瘍関連抗原であってもよい。腫瘍関連抗原には、自己抗原、並びにがんに特異的に関連していないかもしれないが、それにもかかわらず、哺乳動物に投与されたときに腫瘍又はがん細胞に対する免疫応答を増強し、及び/又は増殖を減少させる他の抗原が含まれる。一実施形態において。
【0035】
様々な実施形態において、少なくとも1種の抗原は、リポタンパク質、リポペプチド、及び増加した疎水性又は減少した疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質又はペプチドからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、1種以上の抗原は、抗原の疎水性を増加させるように修飾された抗原である。一実施形態において、少なくとも1種の抗原は、修飾タンパク質又はペプチドである。いくつかの実施形態において、修飾タンパク質又はペプチドは疎水性基に結合される。他の実施形態において、疎水性基に結合した修飾タンパク質又はペプチドは、抗原と疎水性基との間のリンカー配列を更に含む。いくつかの実施形態において、疎水性基はパルミトイル基である。更に他の実施形態において、少なくとも1種の抗原は、非修飾タンパク質又はペプチドである。
【0036】
製剤
本発明の製剤は、当該技術分野で既知の任意の安定剤を組み込んでもよい。例示的な安定剤は、リポソーム二重層を硬化させ、二重層の崩壊又は不安定化を防止するのを助けることができるコレステロール及び他のステロールである。また、ポリエチレングリコール、ポリ糖、及びモノ糖などの薬剤をリポソームに組み込んで、リポソーム表面を修飾し、血液成分との相互作用による不安定化を防ぎ得る。他の例示的な安定剤は、タンパク質、糖類、無機酸、又は有機酸であり、これらは、単独で、又は混合物として使用され得る。
【0037】
いくつかの薬学的方法が、免疫刺激の持続時間を制御、修飾、又は延長するために用いられ得る。ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ乳酸、及びヒドロゲルなどのポリマー複合体を使用して、陽イオン性脂質を封入又は囲い込み、それらを徐々に放出することによって、放出制御調製物は達成され得る。同様のポリマーは、リポソームを吸着するためにも使用することができる。リポソームは、刺激剤の放出プロファイルを変化させるためにエマルション製剤中に含有され得る。代わりに、リポソームの表面を、ポリエチレングリコール又は他のポリマーなどの化合物、及びリポソーム及びエマルションの循環時間又は半減期を増大することができる糖類などの他の物質でコーティングすることによって、血液循環中の刺激剤の存在の持続時間は増大させられ得る。
【0038】
経口調製物が必要とされる場合、キラル陽イオン性脂質は、例えば、スクロース、ラクトース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はアラビアガムなどの当該技術分野で既知の典型的な医薬担体と組み合わせてもよい。陽イオン性脂質はまた、全身送達のためにカプセル剤又は錠剤に封入してもよい。
【0039】
本開示のキラル陽イオン性脂質組成物の投与は、予防的又は治療的目的のいずれかのためであり得る。予防的に提供される場合、陽イオン性脂質は、病気の兆候又は症状の前に与えられる。治療的に提供される場合、陽イオン性脂質は、疾患の発生又は腫瘍の兆候が見られたとき又はその後に与えられる。免疫刺激剤の治療的投与は、疾患を減弱又は治癒するのに役立つ。両方の目的のために、陽イオン性脂質は、追加の治療薬又は抗原とともに投与され得る。陽イオン性脂質が追加の治療薬又は抗原とともに投与されるとき、例えば、微生物によって引き起こされる疾患又は障害を含む、特定の疾患に対して予防又は治療効果が生成され得る。
【0040】
動物用及びヒト用の両方の本発明の製剤は、抗原又は薬物分子などの1種以上の治療成分とともに、R及びSエナンチオマーの混合物として、上述のような純粋なキラル陽イオン性脂質のみを含む。製剤は、単位剤形で都合よく提示され得、医薬品分野で知られる任意の方法によって調製され得る。
【0041】
用語
用語「a」又は「an」は、1種以上を指すことに留意されたい。したがって、用語「a」(又は「an」)、「1種以上」、及び「少なくとも1種」は、本明細書において互換的に使用される。
【0042】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」という語は、排他的ではなく包括的に解釈されるべきである。「からなる(consist)」、「からなる(consisting)」、及びその変形語は、包括的ではなく排他的に解釈されるべきである。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「約」は、特に明記しない限り、与えられた参照から10%の変動性を意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「対象」及び「患者」は、互換的に使用され、哺乳動物、例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、又はサル、チンパンジー、ヒヒ、又はゴリラなどの非ヒト霊長類を含む。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「疾患」、「障害」及び「状態」は、対象における異常な状態を示すために、互換的に使用される。
【0046】
本明細書で別段に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、当業者によって、及び本出願で使用される用語の多くに対する一般的な案内を当業者に提供する公開された文章を参照することによって、一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0047】
本開示の組成物は、対象において免疫原性応答を生成するのに有効な量の組成物陽イオン性脂質を含む。具体的には、治療効果を達成するための組成物の投与量は、製剤、組成物の薬理的効力、患者の年齢、体重及び性別、治療される状態、患者の症状の重症度、送達経路、及び患者の応答パターンなどの要因に依存するであろう。組成物の処置及び投与量は、単位剤形で投与されてもよく、当業者が、それに応じて、相対的な活性レベルを反映するように単位剤形を調整することも企図される。使用される特定の用量(及び1日当たりに投与される回数)に関する決定は、通常、熟練した医師の裁量の範囲内であり、治療効果をもたらすために、特定の状況への投与量の用量設定によって変化させることができる。更に、当業者は、組成物成分又は希釈液の変化に起因する、組成物の有効量の任意の変化を計算することができるであろう。一実施形態において、組成物は2倍希釈され得る。別の実施形態において、組成物は4倍希釈され得る。更なる実施形態において、組成物は8倍希釈され得る。
【0048】
したがって、本明細書に開示される組成物の有効量は、70kgの哺乳動物、例えば、ヒト、対象に基づいて、用量当たり約1mg~約1000mgであり得る。別の実施形態において、治療有効量は、用量当たり約2mg~約250mgである。更なる実施形態において、治療有効量は、約5mg~約100mgである。更に別の実施形態において、治療有効量は、約25mg~50mg、約20mg、約15mg、約10mg、約5mg、約1mg、約0.1mg、約0.01mg、約0.001mgである。
【0049】
有効量(治療的に投与される場合)は、定期的なスケジュール、すなわち、毎日、毎週、毎月、若しくは毎年、又は様々な投与日、週、月などを伴う不規則なスケジュールで提供され得る。代わりに、投与される治療有効量は変化し得る。一実施形態において、最初の用量の治療有効量は、後続の用量のうちの1つ以上の治療有効量よりも高い。別の実施形態において、最初の用量の治療有効量は、後続の用量のうちの1つ以上の治療有効量よりも低い。等価投与量は、約2時間毎、約6時間毎、約8時間毎、約12時間毎、約24時間毎、約36時間毎、約48時間毎、約72時間毎、約1週間毎、約2週間毎、約3週間毎、約1ヶ月毎、約2ヶ月毎、約3ヶ月毎、及び約6ヶ月毎を含むがこれらに限定されない、様々な期間にわたって投与されてもよい。完了した治療経過に対応する投与量の数及び頻度は、医療従事者の判断に従って決定されるであろう。
【0050】
組成物は、それが選択された特定の条件を考慮して、任意の経路によって投与することができる。ある特定の実施形態において、組成物は、腫瘍内注射を介して投与される。代替の実施形態において、組成物は、経口的に(例えば、口腔、咽喉、又は食道がんの場合)、注射、吸入(経口、経鼻、及び気管内を含む)、眼的に、経皮的に(単純な受動拡散製剤を介して、又は例えば、イオン泳動、マイクロニードルを用いたマイクロポレーション、高周波アブレーションなどを使用した促進送達を介して)、血管内、皮膚内、皮下、筋肉内、舌下、頭蓋内、硬膜外、直腸内、膀胱内、及び膣内などによって、腫瘍に送達され得る。
【0051】
組成物は、適切に製剤化し得、又は投与のための1種以上の医薬担体及び/又は賦形剤と製剤化し得る。医薬担体の量は、溶解度、使用される陽イオン性脂質の化学的性質、選択された投与経路、及び標準的な薬理学的実務によって、決定される。医薬担体は、固体又は液体であり得、固体及び液体担体/マトリックスの両方を組み込み得る。様々な好適な液体担体は既知であり、当業者によって容易に選択され得る。そのような担体としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、生理食塩水、緩衝生理食塩水、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン(HPβCD)、n-ドデシル-β-D-マルトシド(DDM)及びそれらの混合物が挙げられ得る。同様に、種々の固体(剛性又は可撓性)担体及び賦形剤は、当業者に既知である。
【0052】
組成物は単独で投与され得るが、それらは生理学的に適合性のある1種以上の医薬担体の存在下でも投与され得る。担体は、乾燥形態又は液体形態であり得、薬学的に許容されなければならない。液体薬学的組成物は、無菌溶液又は懸濁液であり得る。液体担体を利用する場合、それらは滅菌液体であり得る。液体担体は、溶液、懸濁液、乳剤、シロップ、及びエリキシルの調製に利用し得る。一実施形態において、組成物は液体担体に溶解され得る。別の実施形態において、組成物は、液体担体中に懸濁され得る。製剤の当業者であれば、投与経路に応じて、好適な液体担体を選択することができるであろう。代替的に、組成物は、錠剤、カプレット、又は粉末などの固体担体中で製剤化され得る。一実施形態において、組成物は、単位用量形態、すなわち、錠剤又はカプレットに圧縮され得る。別の実施形態において、組成物を単位用量形態、すなわちカプセルに加え得る。更なる実施形態において、組成物は、粉末として投与するために製剤化し得る。固体担体中の製剤は、様々な機能を果たし得、すなわち、以下に記載される賦形剤の2種以上の機能を果たし得、又は部位特異的放出制御のための注射を介して送達され得る。固体担体は、香味剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁剤、充填剤、流動促進剤、圧縮促進剤、結合剤、崩壊剤、又は封入材料としても作用し得る。一実施形態において、固体担体は、滑沢剤、可溶化剤、懸濁剤、結合剤、崩壊剤、又は封入材料として作用する。組成物は、適切な量の組成物を含有するように細分化し得る。例えば、単位投薬量は、包装された組成物、例えば、小包にされた粉末、バイアル、アンプル、充填済みシリンジ、又は液体を含有する小袋であってもよい。
【0053】
一実施形態において、組成物は、修飾放出送達デバイスによって投与され得る。本明細書で使用される「修飾放出」は、例えば、少なくとも約8時間(例えば、延長送達)から少なくとも約12時間(例えば、持続送達)にわたって制御される、開示された組成物の送達を指す。かかるデバイスは、即時放出(例えば、約1時間未満、又は約2時間未満で達成される治療レベル)も可能にし得る。当業者は、好適な修飾放出送達デバイスを知っている。
【0054】
本明細書に開示される組成物を含むキットも提供される。キットは、送達経路に適した製剤化された組成物を含む包装又は容器を更に含み得る。適切には、キットは、投薬に関する説明書及び組成物に関する添付文書を含む。
【0055】
定期的な使用のために医薬組成物を分配するためのいくつかのパッケージ又はキットが当該技術分野では知られている。一実施形態において、パッケージは、各期間についての表示を有する。別の実施形態において、パッケージは、ホイル又はブリスターパッケージ、ラベル付けされたアンプル、バイアル又はボトルである。
【0056】
キットの包装手段は、それ自体が、注射デバイス、吸入器、注射器、ピペット、点眼器、カテーテル、膀胱鏡、トロカール、カニューレ、圧力排出デバイス、又は他のそのような装置などの投与のために作られ得、包装手段から、製剤を、肺などの体の患部に適用し、対象に注射し、膀胱組織に送達し、又はキットの他の構成要素に適用し、及び他の構成要素と混合してもよい。
【0057】
これらのキットの1種以上の成分は、乾燥又は凍結乾燥形態でも提供され得る。試薬又は成分が乾燥形態として提供される場合、再構成は一般に、適切な溶媒を加えることによって行われる。溶媒は、別のパッケージで提供され得ることも想定される。キットは、商業販売のために、バイアル又は他の適切な包装手段を密閉して収容するための手段、例えば、バイアルを保持するインジェクション又はブロー成形されたプラスチック容器などを含み得る。パッケージの数又は種類にかかわらず、上記のように、キットは、動物の体内での組成物の注射/投与又は配置を支援するための別個の器具も含み得、又は別個の器具とともに包装もされ得る。そのような器具は、吸入器、注射器、ピペット、鉗子、計量スプーン、点眼器、カテーテル、膀胱鏡、トロカール、カニューレ、圧力送達デバイス、又は任意のそのような医学的に承認された送達手段であり得る。
【0058】
用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、又はそれらの任意の変形は、患者又は対象における健康問題又は状態を修復するために利用される療法を含むことを意味する。一実施形態において、健康問題又は状態は、永久に又は短期間除去され得る。別の実施形態において、健康問題若しくは状態の重症度、又は健康問題若しくは状態に特徴的な1種以上の症状の重症度は、永久に、又は短期間軽減され得る。疼痛の治療の有効性は、本明細書に記載されるものなどの、任意の標準疼痛指標を使用して決定され得る、又は患者の主観的疼痛に基づいて決定され得る。疼痛を引き起こすはずの刺激に対する疼痛の減少又は反応の減少が報告されている場合、患者は「治療された」とみなされる。
【0059】
本発明は、以下の実施例によって更に説明され、これらの実施例は、その範囲に制限を課すものとしていかなる方法でも解釈されるべきではない。それどころか、様々な他の実施形態、変更形態、及びそれらの均など物に頼ることができることを明確に理解されたい。これは、本明細書の記載を読んだ後、本発明の趣旨から逸脱することなく、当業者に示唆され得る。
【実施例】
【0060】
本発明の完全な理解を容易にするために、以下に実施例を示す。
【0061】
実施例1
陽イオン性脂質R-DOTAPの直接注入は、
強力な抗腫瘍免疫応答を誘導する
0日目に、3群のマウスに50,000個のHPV陽性TC-1腫瘍細胞を注射した。抗腫瘍効果の厳格な試験のために、10日目の治療前に、腫瘍を6~7mmのサイズに成長させた。積極的に増殖した腫瘍は、14日目までに10mmのサイズに達した。群1のマウス(投与なし)を未処置のままにし、16日目までに屠殺しなければならなかった。群2(ASP3/R-DOTAP S.C.)のマウスを、腫瘍の反対側の脇腹に、R-DOTAP+HPV16(49-57)抗原注射の1回の皮下注射で処置した。群3(R-DOTAP IT)のマウスを、R-DOTAPの単回の腫瘍内注射のみで処置した。3つの群全ての腫瘍の大きさ及び生存率を監視した。群2及び群3では、腫瘍増殖速度の劇的な減速を観察した(データは図示せず)。生存プロット(
図1)は、強力な抗腫瘍効果を有することが報告されているR-DOTAP.E7ワクチンと比較して、R-DOTAPの直接注射の効果を実証する。(前述の治療アプローチの有効性を実証する米国特許第8,877,206号及び米国特許第9,789,129号を参照されたい)。
【0062】
図1は、生存プロットを示す。B6マウス(群当たりn=4匹)に50,000個のTC1腫瘍細胞を皮下移植した。10日目に、群2は、腫瘍の反対側脇腹に、HPV抗原(ASP3/R-DOTAP(S.C.))を含有する腫瘍ワクチンR-DOTAP-HPV混合製剤(100μl)(ASP3-250-HPV混合物)を受け、群3のマウスは、R-DOTAP(6mg/mlを50μl)(R-DOTAP(IT))の腫瘍内注射を受けた。直接注射されたときに、抗原を含まない陽イオン性脂質が、腫瘍内で発現される抗原の提示を促進し、免疫活性化が、実証されているR-DOTAP+抗原の皮下注射と比較して、陽イオン性脂質のみ(抗原なし)の腫瘍内直接注射が同程度の抗腫瘍有効性をもたらすことを、結果は示唆する。
【0063】
実施例2
腫瘍への陽イオン性脂質の直接注射は、
腫瘍特異的T細胞及びB細胞応答を誘導する
腫瘍内陽イオン性脂質(R-DOTAP、DOTMA)注射が抗腫瘍免疫応答を生成させるであろうことを実証するために、マウスに同系腫瘍(TC-1細胞、CT26、A20など)を皮下に移植する。腫瘍が直径2~4mmに達すると、30ゲージの針を使用して、腫瘍中心部又は腫瘍周辺のいずれかに様々な用量の陽イオン性脂質を、腫瘍に注射するであろう。マウスのサブセットでは、様々な間隔で複数回用量(2~3回用量)の陽イオン性脂質を投与するであろう。腫瘍移植マウスを、ワクチン接種後の異なる時期に安楽死させて、脾臓細胞及び流入領域リンパ節を採取するであろう。リンパ節細胞及び脾臓細胞の細胞懸濁液を、既知の腫瘍抗原又は照射された腫瘍細胞とともに、IFN-γ ELISPOTプレート中で24時間共培養するであろう。このステップの後、Elispotプレートを処理して、腫瘍特異的T細胞応答を定量化するであろう。T細胞の多機能性を更に評価するために、脾臓細胞を、タンパク質輸送阻害剤を含有する細胞培地中で、抗原又は照射された腫瘍細胞と12時間共培養する。このステップの後、細胞を処理して、共培養中の脾臓細胞によって産生される細胞内サイトカイン(IFN-γ、IL-2、及びTNF-α)を検出するであろう。R-DOTAP注射によって誘導されるB細胞応答を評価するために、R-DOTAPの最初の腫瘍内注射の20~30日後に血清を採取するであろう。フローサイトメトリーを使用して、腫瘍結合抗体について、血清を試験するであろう。これらの研究を実施する際に得られた結果は、腫瘍内陽イオン性脂質投与が、腫瘍に特異的なT細胞及びB細胞応答を誘導することを、実証することが期待されるであろう。
【0064】
実施例3
腫瘍への陽イオン性脂質の直接注射により、
腫瘍微小環境を変更し、抗腫瘍免疫応答を促進する
腫瘍内陽イオン性脂質(R-DOTAP、DOTAPラセミ混合物、DOTMA、DOEPC、R-DOTAP+HPV16、R-DOTAP+DOPC)注射が、抗腫瘍免疫応答を促進する免疫調節効果を有することを実証するために、マウスに、同系腫瘍(TC-1細胞、CT26、A20など)を皮下移植するであろう。腫瘍が直径2~4mmに達すると、30ゲージの針を使用して、腫瘍は、様々な用量の陽イオン性脂質を腫瘍中心部又は腫瘍周辺に注射されるであろう。腫瘍は、最初の陽イオン性脂質注射の後、様々な時点で安楽死させたマウスから単離され、腫瘍浸潤細胞を単離するように処理されるであろう。特定の陽イオン性脂質については、腫瘍浸潤細胞における表現型及び遺伝子発現パターンをそう、単一細胞レベルでの高パラメータフローサイトメトリー及び全トランスクリプトーム分析などのマルチオミクス技術を使用して分析するだろう。これらの研究では、腫瘍内陽イオン性脂質投与が腫瘍微小環境を腫瘍促進環境から腫瘍退縮環境に切り替えることを実証する証拠を提示することが期待される。
【0065】
実施例4
腫瘍への陽イオン性脂質の直接注入は、
遠位腫瘍の腫瘍成長特性を変化させる
R-DOTAP及びDOTMAを含むがこれらに限定されない陽イオン性脂質の腫瘍内注射が、全身抗腫瘍免疫応答を生成するであろうことを実証するために、同系腫瘍(TC-1細胞、CT26、A20など)をマウスに皮下移植する。腫瘍が2~4mmに達すると、30ゲージの針を使用して、陽イオン性脂質を腫瘍に注射する。陽イオン性脂質注射の後の様々な時点で、腫瘍保有マウスを、初期腫瘍から遠く離れた部位(例えば、反対側の脇腹)に第2の腫瘍を皮下移植し、第2の移植腫瘍の成長速度を測定して、陽イオン性脂質によって誘導される全身性抗腫瘍免疫応答を評価するだろう。これらの研究では、腫瘍内陽イオン性脂質投与が全身的に抗腫瘍免疫応答を生成し、遠位部位に位置する腫瘍を退縮させることができることを実証する証拠を提示することが期待される。
【0066】
実施例5
陽イオン性脂質の腫瘍内投与は、
他の免疫療法アプローチと相乗効果がある
腫瘍内陽イオン性脂質注射と他の確立された免疫療法アプローチとの間の相乗作用を実証するために、腫瘍内陽イオン性脂質注射が、チェックポイント阻害剤投与及びTLRアゴニスト注射、抗腫瘍サイトカイン、及び/又は化学療法などの他の免疫療法アプローチとの併用療法として使用される設定で、実施例1で提案されるように、研究を実施するだろう。これらの研究において、結果は、陽イオン性脂質を使用する腫瘍内免疫療法が、腫瘍退縮の増強を促進する他の免疫療法アプローチと相乗的である抗腫瘍免疫応答を誘導することを実証する証拠をもたらすことが期待される。
【0067】
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【国際調査報告】