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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】自動車の自動操舵の方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20231201BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20231201BHJP
   B60W 50/10 20120101ALI20231201BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20231201BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
B60W30/08
B62D6/00
B60W50/10
B60T7/12 C
B60T8/1755 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531062
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 EP2021081746
(87)【国際公開番号】W WO2022112047
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】2012064
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ド, アン-ラン
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
3D246
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA02
3D232DA10
3D232DA15
3D232DA22
3D232DA23
3D232DA27
3D232DA32
3D232DA33
3D232DA76
3D232DA84
3D232DA87
3D232DC33
3D232DC34
3D232DD08
3D232DD17
3D232DE05
3D232DE09
3D232EA01
3D232EB04
3D232EB16
3D232FF01
3D232GG01
3D241BA31
3D241CE01
3D241CE05
3D241DA58Z
3D241DC33Z
3D246DA01
3D246EA18
3D246FA03
3D246GB04
3D246GB30
3D246GC16
3D246HA13A
3D246HA15A
3D246HA81A
3D246HB12A
3D246HB18A
3D246JA04
3D246JB11
3D246JB23
(57)【要約】
本発明は、車輪(11、12)であって、少なくともそのうち2つが操舵輪である車輪(11、12)を備える自動車(10)を自動操舵する方法に関し、この方法は、-自動車による障害物の回避のための経路に関するパラメータを取得するステップと、-コンピュータ(13)によって、前記パラメータに応じて、操舵輪用の操舵アクチュエータのための第1の操舵設定値、および車輪の差動制動用の少なくとも1つのアクチュエータのための第2の操舵設定値を計算するステップとを含み、この第1および第2の操舵設定値がそれぞれ、設定値の変動および/または範囲を制限するモデルを考慮して、コントローラによって決定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの車輪(11)が操舵輪である車輪(11、12)を有する自動車(10)の自動操縦のためのプロセスであって、
-前記自動車(10)が障害物(20)を回避するための軌道に関するパラメータ(β、r、Ψ、eyL、δ、δref)を取得するステップと、
-コンピュータ(13)によって、前記操舵輪(11)の操舵角アクチュエータ(31)の第1の操縦設定値(δref)および前記車輪(11、12)の少なくとも1つの差動制動アクチュエータ(32)の第2の操縦設定値(Mz_ref)を、前記パラメータ(β、r、Ψ、eyL、δ、δref)の関数として計算するステップと
を含み、
前記第1の操縦設定値(δref)および前記第2の操縦設定値(Mz_ref)がそれぞれ、設定値の振幅および/または変動の制限モデルを満たすコントローラによって決定され、
前記第1の操縦設定値(δref)および前記第2の操縦設定値(Mz_ref)が、各アクチュエータ(31、32)の寄与を固定する係数(αDB)の関数として決定され、前記係数(αDB)が、前記自動車(10)の偏揺れ速度(r)、運転者によって前記自動車(10)のハンドルに加えられるトルク、およびパラメータ(θδ)の関数として計算され、前記パラメータの値は、前記第1の操縦設定値(δref)が前記コントローラによって制限されるか否かによって変化する、プロセス。
【請求項2】
前記第1の操縦設定値(δref)および/または前記第2の操縦設定値(Mz_ref)が、設定値の振幅および変動の制限モデルを満たすコントローラによって決定される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
-前記運転者によって前記自動車(10)のハンドルに加えられるトルクの絶対値が、所定の閾値
を超える場合、前記第2の操縦設定値(Mz_ref)がゼロであり、
-前記車両の前記偏揺れ速度(r)が制御閾値(rctrl)よりも大きいとき、かつ/または、前記操縦設定値(δref)が単独で、前記自動車(10)を安定させることを可能にするときには、前記操舵輪(11)の前記操舵角アクチュエータ(31)のみが使用され、
-そうでない場合には、前記操舵輪(11)の前記操舵角アクチュエータ(31)と前記車輪(11、12)の前記差動制動アクチュエータ(32)とを組み合わせて使用する
ように、前記係数(αDB)が計算される、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記係数(αDB)が、時間の関数として連続して変化するように計算される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記運転者が前記自動車(10)のハンドルに加えるトルクの絶対値が、所定の閾値
を超えるとき、前記第1の操縦設定値(δref)の決定を中断するようになされる、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記運転者が前記自動車(10)のハンドルに加えるトルクの絶対値が、所定の閾値
を超えるとき、前記第2の操縦設定値(Mz_ref)の決定を中断するようになされる、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記第2の操縦設定値(Mz_ref)を決定することを可能にする前記コントローラは、前記第2の操縦設定値(Mz_ref)が制限値(Mz_max)以下のままであるように、振幅制限モデルを満たし、前記制限値(Mz_max)が、前記自動車(10)の速度(V)および前記偏揺れ速度(r)の関数として決定される、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記第1の操縦設定値(δref)を計算するために、第1の非飽和設定値(δ)を決定し、前記第1の非飽和設定値(δ)と前記第1の設定値(δref)との間のずれ(Δ)の双曲線正接タイプの関数を含む直接連鎖伝達関数を有する閉ループ擬似コントローラによって、前記第1の非飽和設定値(δ)から前記第1の設定値(δref)を推定するようになされる、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記第2の設定値(Mz_ref)を計算するために、
-第2の非飽和設定値(MKz)を決定し、前記第2の非飽和設定値(MKz)と第2の半飽和設定値(Mz_sat)との間のずれ(ε)の双曲線正接タイプの関数を含む直接連鎖伝達関数を有する閉ループ擬似制御装置によって、前記第2の非飽和設定値(MKz)から前記第2の半飽和設定値(Mz_sat)を推定し、次いで、
-出力として前記第2の設定値(Mz_ref)を提供し、前記第2の設定値(Mz_ref)の前記直接連鎖伝達関数が、前記第2の半飽和設定値(Mz_sat)と前記第2の設定値(Mz_ref)との間のずれ(ε)の双曲線正接タイプの関数を含む、別の閉ループ擬似コントローラを使用する
ようになされる、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の操縦プロセスでコントローラを使用する目的で、前記コントローラを作成する方法であって、
-機器(10)の挙動行列モデルを取得し、
-前記挙動行列モデルの行列(A、B)の係数の少なくともいくつかを決定し、
-そこから、2つのコントローラを推定し、2つのコントローラのそれぞれが、辿るべき軌道を追跡することを満たす、すなわち操縦設定値の振幅制限モデルおよび/または操縦設定値の変動制限モデルを満たす
ようになされる、方法。
【請求項11】
操舵輪(11)の操舵角アクチュエータ(31)と、車輪(11、12)の差動制動アクチュエータ(32)と、前記アクチュエータ(31、32)を操縦するためのコンピュータ(13)とを備える自動車(10)であって、前記コンピュータ(13)が、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセスを実行するようにプログラムされることを特徴とする、自動車(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、自動車の軌道追跡の自動化に関する。
【0002】
本発明は、自動車の運転のための支援において、特に有利な用途を有する。
【0003】
本発明は、より詳細には、自動車が障害物回避軌道を追跡できるようにする、この自動車の自動操縦のためのプロセスに関する。
【0004】
本発明はまた、この方法を実行するように構成されたコンピュータを備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0005】
自動車の安全性を視野に入れて、自動車には現在、運転支援システムまたは自動運転システムが備えられている。
【0006】
これらのシステムの中で、自動緊急制動システム(より一般には、略語AEBで知られている)が知られており、これは、車両が辿る経路上に位置している障害物とのいかなる衝突をも回避するように設計されている。これらのシステムは、道路上の障害物を検出し、その状況において、自動車の従来の制動システムに介入するように設計されている。
【0007】
しかし、これらの緊急制動システムが、衝突を回避できないようになるか、またはこの緊急制動システムを使用することができない状況が存在する(たとえば、この自動車の後方に、別の車両が非常に接近して追跡している場合)。
【0008】
これらの状況において、自動回避システム(より一般には、「自動回避操舵」または「自動緊急操舵」の略語AESで知られている)が開発されてきており、これは、車両の操舵または車両の差動制動システムのいずれかに介入することによって、車両をその軌道から方向転換することによって障害物を回避できるようにする。
【0009】
障害物回避プロセスは、WO2020099098の文書からも知られており、この文書では、操舵角システムと差動制動システムがともに命令されて、回避軌道を管理する。この操舵角システムは、中速での良好な安定性を確実にするために使用され、制動システムは、高速において使用される。
【0010】
このAESシステムは、可制御性の観点から限界にある軌道を車両に強いることが場合によっては発生し、このことにより、運転者が車両の運転を再び全能力で引き継ぐことはできなくなる。
【発明の概要】
【0011】
従来技術の前述の欠点を克服するために、本発明は、操舵輪の操舵角と、車両の右側および左側の車輪の差動制動との両方に介入し、自動車に強いられる操舵変化の振幅および/または速度を制限する操縦設定値を作成するように構成された、混合コントローラを使用することを提案する。
【0012】
より具体的には、本発明は、
-自動車が障害物を回避するための軌道に関するパラメータを取得するステップと、
-前記パラメータの関数として、操舵輪の操舵角アクチュエータの第1の操縦設定値と、車輪の少なくとも1つの差動制動アクチュエータの第2の操縦設定値とを、コンピュータによって計算するステップと
を有し、
この第1の操縦設定値および第2の操縦設定値がそれぞれ、設定値の振幅および/または変動の制限モデルを満たす制御によって決定される、自動車の自動操縦のためのプロセスを提供する。
【0013】
したがって、本発明によれば、車両が障害物回避軌道を追跡するように、操舵角および差動制動に介入する混合制御法則を使用することが可能である。この制御法則は、良好に機能し(すなわち、障害物回避を確実にするのに十分に迅速であり)、安定で頑強な車両制御を確実にするように最適化される。
【0014】
このために、本発明は、振幅および速度(すなわち、設定値変動の)に関する制約条件を適用することを提案する。本発明はさらに、操縦設定値の計算を抑制することが必要であると判明すると、この操縦設定値の計算を抑制すること、すなわち、各条件がそのように必要とするときには、ブレーキまたは操舵角の制御を停止することを提案することが好ましい。AESシステムが新たに起動するまで、この停止は、一時的でも、または永続的でもよい。
【0015】
個々にまたは技術的に実現可能な任意の組合せで得られる、本発明によるプロセスの他の有利で非限定的な特徴は、以下の通りである。
-第1の操縦設定値および/または第2の操縦設定値が、設定値の振幅および変動の制限モデルを満たすコントローラによって決定され、
-第1の操縦設定値および第2の操縦設定値は、(車両のハンドルの操縦における)各アクチュエータの寄与を固定する係数の関数として決定され、前記係数が、自動車の偏揺れ速度、および運転者によって自動車のハンドルに加えられるトルクの関数として計算され、
-前記係数がまた、パラメータの関数として計算され、その値は、第1の操縦設定値が飽和しているかどうかよって(すなわち、この第1の操縦設定値がコントローラによって制限されているかどうかによって)変化し、
-この係数は、運転者によって自動車のハンドルに加えられるトルクの絶対値が所定の閾値を超える場合に、第2の操縦設定値がゼロになるように計算され、
-この係数は、車両の偏揺れ速度が制御閾値を超えるとき、かつ/または第1の操縦設定値がひとりでに自動車を安定させることができるようにするときに、操舵輪の操舵角アクチュエータのみが使用されるように計算され、
-この係数は、操舵輪の操舵角アクチュエータと、車輪の差動制動アクチュエータとを他の方法で組み合わせて使用するように計算され、
-この係数は、時間の関数として連続的に変化するように計算され、
-運転者によって自動車のハンドルに加えられるトルクの絶対値が所定の閾値を超えるとき、第1の操縦設定値の決定を(好ましくは永続的に)中断するようになされ、
-運転者によって自動車のハンドルに加えられるトルクの絶対値が別の所定の閾値を超えるとき、第2の操縦設定値の決定を(一時的にまたは永続的に)中断するようになされ、
-コントローラは、第2の操縦設定値が制限値以下に留まるように、この第2の操縦設定値が振幅制限モデルを満たすことを確定できるようにし、
-前記制限値は、車両の速度および自動車の偏揺れ速度の関数として決定され、
-第1の操縦設定値を計算するために、第1の非飽和設定値を決定し、この第1の非飽和設定値と第1の設定値との間のずれの双曲線正接タイプの関数を含む直接連鎖伝達関数を有する閉ループ擬似コントローラによって、第1の非飽和設定値から第1の設定値を推定するようになされ、
-第2の設定値を計算するために、第2の非飽和設定値を決定し、この第2の非飽和設定値と第2の半飽和設定値との間のずれの双曲線正接タイプの関数を含む直接連鎖伝達関数を有する閉ループ擬似コントローラによって、第2の非飽和設定値から第2の半飽和設定値を推定し、次いで、出力として第2の設定値を提供し、その直接連鎖伝達関数が、第2の半飽和設定値と前記第2の設定値との間のずれの双曲線正接タイプの関数を含む、別の閉ループ擬似コントローラを使用するようになされる。
【0016】
本発明はまた、前述のような操縦プロセスでコントローラを使用する目的で、コントローラを作成する方法を提示するものであり、
-機器の挙動行列モデルを取得し、
-この挙動行列モデルの行列の係数の少なくともいくつかを決定し、
-そこから、2つのコントローラを推定し、そのそれぞれが、辿るべき軌道の追跡を満たす、すなわち操縦設定値の振幅制限モデルおよび/または操縦設定値の変動制限モデルを満たすようになされる。
【0017】
本発明はまた、操舵輪の操舵角アクチュエータと、車輪の差動制動アクチュエータと、前述のプロセスを実行するようにプログラムされた、前記アクチュエータを操縦するためのコンピュータとを備える、自動車を提供する。
【0018】
本発明の様々な特徴、変形形態、および実施形態は、これらが互いに矛盾しないか、または排他的でない限りは、当然ながら、様々な組合せにおいて互いに組み合わせてもよい。
【0019】
添付図面を参照しながら進める説明は、限定しない例として与えられるものであり、本発明が何に存するのか、および本発明がどのように実施され得るのかを明確に説明することになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】自動車がとることになっている軌道が示してある道路上を走行する、この自動車の上方からの概略図である。
図2】障害物を回避するための軌道に沿って存在する、連続した4つの位置で表された、図1の自動車の概略斜視図である。
図3】車両の車輪の操舵角の飽和関数を実装するのに使用される、閉ループ伝達関数を示す図である。
図4】車両の車輪の差動制動の飽和関数を実装するのに使用される、閉ループ伝達関数を示す図である。
図5】本発明による、自動車を操縦する手順において使用することのできる値を決定する動作の、各ステップを示す図である。
図6】自動車を操縦するこの手順の範囲において使用することのできる様々な飽和関数および抑制関数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1には、従来のように、客室を区切るシャーシ、操舵される2つの前輪11、および操舵されない2つの後輪12を備える自動車10が示してある。一変形形態として、これら2つの後輪を操舵することもできるが、これは、以下に述べる命令法則の適合を必要とするはずである。
【0022】
この自動車10は、車両の向きを変えることができるように、前輪11の向きに介入することを可能にする、従来の操舵システムを有する。この従来の操舵システムは、具体的には、前輪11を枢動させるようにタイロッドに連結されたハンドルを有する。考慮される例では、これはまた、ハンドルの向きに応じて、かつ/またはコンピュータ13から受信される要求に応じて、前輪の向きに介入することを可能にする、(図6に示す)アクチュエータ31を有する。
【0023】
さらに、この自動車は、自動車の向きを変えながら自動車を減速させるように、前輪11(および後輪12)に直接介入することを可能にする差動制動システムを有する。この差動制動システムは、たとえば、車両の車輪に配置された操縦式の差動モータもしくは電気モータ、または互いに独立して操縦されるブレーキキャリパを備える。これはまた、コンピュータ13から受信される要求に応じて車輪の回転速度に直接介入するように設計された、(図6に示す)少なくとも1つのアクチュエータ32を有する。ここでは、これは複数のアクチュエータ32を有することが仮定されよう。
【0024】
次いで、コンピュータ13は、遭遇する交通状態に応じて、支援型操舵アクチュエータ31、および差動制動システムのアクチュエータ32を操縦することを目的とする。このために、このコンピュータは、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つのメモリ、ならびに入力および出力のインターフェースを有する。
【0025】
そのインターフェースによって、コンピュータ13は、様々なセンサから到来する入力信号を受信するように構成される。
【0026】
これらのセンサの中には、たとえば、以下のものが設けられる。
-車両の位置をその車線に対して識別することを可能にする、フロントカメラなどの装置、
-自動車10(図2)の軌道上に存在する障害物20を検出することを可能にするRADARまたはLIDARの遠隔検出器などの装置、
-車両の側方の環境を観察することを可能にする、RADARまたはLIDARなど少なくとも1つの横方向検出装置、
-自動車10の(垂直軸の周りの)偏揺れ回転速度を決定することを可能にする、ジャイロメータなどの装置、
-ハンドルの位置および角速度のセンサ、ならびに、
-運転者によってハンドルに加えられるトルクのセンサ。
【0027】
コンピュータ13は、そのインターフェースによって、ある1つの設定値を支援型操舵アクチュエータ31に送信し、別の設定値を差動制動システムのアクチュエータ32に送信するように構成される。
【0028】
これによりまた、車両に軌道T0を追跡させて、障害物20(図2参照)を回避することが可能になる。
【0029】
コンピュータ13は、そのメモリによって、以下に述べるプロセスの範囲において使用されるデータを記憶する。
【0030】
具体的には、コンピュータは、命令を含むコンピュータプログラムからなるアプリケーションソフトウェアを記憶し、プロセッサによってこれを実行すると、以下に述べるプロセスが、コンピュータによって実行されることが可能になる。
【0031】
このプロセスを説明する前に、使用されることになる様々な変数を導入してもよく、その一部が図1に示してある。
【0032】
自動車の全質量は、「m」と示されることになり、kgで表されることになる。
【0033】
その重心CGを通る垂直軸の周りの自動車の慣性は、「J」または「I」と示されることになり、N.mで表されることになる。
【0034】
重心CGと車両の前車軸との間の距離は、「l」と示されることになり、メートルで表されることになる。
【0035】
重心CGと後車軸との間の距離は、「l」と示されることになり、メートルで表されることになる。
【0036】
前輪のコーナリング剛性係数は、「C」と示されることになり、N/radで表されることになる。
【0037】
後輪のコーナリング剛性係数は、「C」と示されることになり、N/radで表されることになる。
【0038】
これら車輪のコーナリング剛性係数は、当業者にはよく知られた概念である。一例として、前輪のコーナリング剛性係数は、したがって、前輪の横滑り力をF、前輪のドリフト角をαとして、F=2.C.αという式を書くことができる係数である。
【0039】
また、操舵される前輪が自動車10の縦軸A1となす操舵角は、「δ」と示されることになり、radで表されることになる。
【0040】
radで表される変数δrefは、支援型操舵アクチュエータに伝達されることになるように、飽和操舵角の設定値を表すことになる。
【0041】
radで表される変数δは、非飽和操舵角の設定値を表すことになる。この段階では、飽和の概念が、値の制限または値の変動とリンクすることになるということだけが言える。
【0042】
(車両の重心CGを通る垂直軸の周りの)車両の偏揺れ速度は「r」と示されることになり、rad/sで表されることになる。
【0043】
車両の縦軸A1と回避軌道T0(車両の所望の軌道)の接線との相対的な向首角は、「Ψ」と示されることになり、radで表されることになる。
【0044】
車両の前方に存在する観測距離「ls」において、自動車10の縦軸A1(重心CGを通る)と回避軌道T0との間の横方向のずれを「y」と示されることになり、メートルで表されることになる。
【0045】
車両の前方に存在する観測距離「ls」において、自動車10の縦軸A1(重心CGを通る)と回避軌道T0との間の横方向のずれの設定値を「yL-ref」と示されることになり、メートルで表されることになる。
【0046】
軌道追跡誤差は「eyL」と示されることになり、メートルで表されることになる。これは、横方向のずれの設定値yL-refと横方向のずれyとの差に等しくなる。
【0047】
前述の観測距離「ls」は、重心CGから測定されることになり、メートルで表されることになる。
【0048】
自動車10のドリフト角(自動車の速度ベクトルがその縦軸A1となす角度)は、「β」と示されることになり、radで表されることになる。
【0049】
縦軸A1に沿った自動車の速度は、「V」と示されることになり、m/sで表されることになる。
【0050】
定数「g」は、重力による加速度となり、m.s-2で表されることになる。
【0051】
自動車と同じ高さにある道路の平均曲率は、ρrefと示されることになり、m-1で表されることになる。
【0052】
差動制動手段によって加えられる偏揺れモーメントの設定値は、「Mz_ref」と示されることになり、N.mで表されることになる。
【0053】
定数「ξ」および「ω」は、車両の前輪の操舵角の動特性を表すことになる。
【0054】
定数「ω」としては、車両に加えられる任意の有界摂動「w」の動特性を表すことになる。
【0055】
操舵角速度は、操舵される前輪の操舵角速度を示すことになる。
【0056】
前提として、自動車が移動している道路は、直線状で平坦であると想定される。その道路は、主軸に沿って延びている。
【0057】
本発明を実施するためにコンピュータ13が実行することになる処理を説明する前に、この説明の最初の部分では、自動車の効果的な操縦を確実にするように選択される制約条件の概要を示してもよく、次いで、本発明を実施できるようにするコントローラを実現することを可能にしてきた計算を説明して、これらの計算がどこから来て、何に基づいているかを明確に理解するようにしてもよい。
【0058】
図6のX1の部分では、支援型操舵アクチュエータ31に伝達される飽和操舵角の設定値δref、および差動制動アクチュエータ32に伝達される偏揺れ設定値モーメントMz_refを計算する手順がモデル化されてきた。
【0059】
さらに、X2の部分は、これらの設定値がアクチュエータ31、32と相互作用する方式を図式化するためのものである。
【0060】
この第2の部分X2は、AESタイプの運転支援システムが始動するときに、運転者による車両の安定性および可制御性を確実にするように、前述の設定値に適用される制約条件を示す。
【0061】
飽和操舵角の設定値δrefに適用される第1の制約条件Z5は、速度飽和である。より厳密に言えば、これは、車両の操舵角速度の制限事項である。使用される操舵角速度の閾値は、υと示される。
【0062】
この第1の制約条件は、現在の操舵角δ_measを提供するフィードバックループおよびコントローラKDAEによって、仮のエンジントルクを得ることを可能にする。
【0063】
コントローラKDAEの出力に適用される第2の制約条件Z7は、振幅飽和である。より厳密に言えば、これは、前述の仮のエンジントルクの絶対値の制限事項である。使用されるエンジントルクの閾値は、TEPS_saturation_1と示される。
【0064】
ブロックZ6は、飽和操舵角の設定値δrefの調整を抑制するための、第1のメカニズムを示す。この第1のメカニズムは、運転者がハンドルに加えるトルクの絶対値が、
で示される閾値を超えるときに、支援型操舵アクチュエータ31に供給すべき任意のエンジントルクの調整を阻止し、したがってその計算を阻止するものである。
【0065】
偏揺れモーメントの設定値Mz_refに適用される第3の制約条件Z8は、振幅飽和である。より厳密に言えば、これは、この偏揺れモーメントの設定値Mz_refの値の制限事項であり、その目的は、差動制動が大きすぎて、車両の満足な安定性および可制御性が確実にならなくなることを防止することである。使用される偏揺れモーメントの閾値は、制限値Mz_maxと呼ばれる。
【0066】
この飽和について使用される制限値Mz_maxは、可変となることが好ましい。これは、(ブロックZ10において)少なくとも車両の偏揺れ速度rおよび速度vの関数として計算されることになる。これはまた、任意選択として、運転者がハンドルに加えるトルクに依存してもよい。
【0067】
振幅飽和した偏揺れモーメントの設定値Mz_refに適用される第4の制約条件Z9は、速度飽和である。より厳密に言えば、これは、偏揺れモーメントの設定値Mz_refの変動率の制限事項である。使用される偏揺れモーメントの変動率の閾値は、
と示される(これはまた、簡略化された表記∇で表示されることになる)。
【0068】
この第4の制約条件は、コントローラKBrakeによって、差動制動システムのアクチュエータ32に供給される制動トルクを得ることを可能にする。
【0069】
この第4の制約条件は、偏揺れモーメントの設定値Mz_refをオフにするか、または再開するとき、車両の可制御性を改善するのに好ましいと考えられる。
【0070】
ブロックZ11は、偏揺れモーメントの設定値Mz_refの調整を抑制するための、第2のメカニズムを示す。この第2のメカニズムは、運転者がハンドルに加えるトルクの絶対値が、
と示される閾値を超えると、任意の差動エンジントルクの調整を阻止し、したがってその計算を阻止するものである。
【0071】
前述の閾値υ、TEPS_saturation_1、および
は、本発明が実装されることになる車両と同じモデルの試験車両を用いた路上試験を実行することによって得られる。
【0072】
具体的には、閾値TEPS_saturation_1は、このパラメータの関数として変化するので、車両の様々な速度Vについて得られる。これは、差動制動機能が解除されている間に、試験を実行することによって得られる。
【0073】
同様に、閾値υおよび
は、このパラメータの関数として変化するので、車両の様々な速度Vについて路上試験によって得られる。
【0074】
制限値Mz_maxとしては、ブロックZ10を用いて、特定の方式で得られる。
【0075】
車両の偏揺れ速度rが、ここではrctrlと示されることになる偏揺れ速度の閾値を絶対値において超える場合、この制限値は、
と示される変数に等しくなるように選択される。そうでなければ、この制限値Mz_maxは、0に等しくなるように選択されることになる。
【0076】
これは、次式[数式1]の形で書くことができる。
【0077】
[数式1]
【0078】
【0079】
これはまた、図4のW1の部分によって示すように、図で表してもよい。
【0080】
偏揺れ速度の閾値rctrlは、所定の速度Vにおいて、運転者によって車両が依然として制御可能である最大偏揺れ速度に対応する。
【0081】
偏揺れ速度の閾値rctrlおよび変数
は、試験車両の試験によって決定されるか、もしくは計算され、または試験によって計算され、次いで調整される。ここで適用されるのは、第1の解決策である。
【0082】
このために、第1のステップにおいて、試験車両の差動制動機能が解除され、次いで、車両の可制御性試験が実行されて、制約条件Z5およびZ7に使用可能な閾値を決定する。
【0083】
次に、第2のステップにおいて、車両の差動制動機能が再始動され、次いで、新規の可制御性試験が実行されて、(たとえば、5km/h刻みでの)複数の異なる速度について、最大操舵角の閾値δmax(V)を決定する。一変形形態として、これら操舵角の閾値は、計算によって得ることもできる。
【0084】
最終的に、第3のステップにおいて、偏揺れ速度の閾値rctrlおよび変数
がそこから推定される。
【0085】
(以下でより詳細に説明される)自転車モデルによって車両をモデル化し、次いで、そこから次式を推定することによって、この偏揺れ速度の閾値rctrlがより精密に得られる。
【0086】
[数式2]
【0087】
【0088】
この式において、kは、アンダーステア勾配であり、これは、次式によって計算される。
【0089】
[数式3]
【0090】
【0091】
同じモデル化により、次式によって、変数
を得ることが可能である。
【0092】
[数式4]
【0093】
【0094】
次に、ブロックZ6およびZ11によって、図6に表される2つの抑制メカニズムに取り組んでもよい。これら2つのメカニズムは、それぞれ、閾値

を含む。
【0095】
操舵角の設定値δrefを無効化するのに使用される閾値
は、差動制動機能が解除されると、車両に実行される可制御性試験によって決定される。この閾値は、車両の速度Vの関数として変化する。
【0096】
偏揺れモーメントの設定値Mz_refを無効化するのに使用される閾値
は、差動制動システムが稼働中のときに、可制御性試験によって決定される。この閾値はまた、車両の速度Vの関数として変化する。
【0097】
これらの閾値は、以下の不等式を満たすことに留意されてもよい。
【0098】
[数式5]
【0099】
【0100】
この不等式において、変数
は、閾値TEPS_saturation_1から得られる。このために、支援型操舵アクチュエータ31の支援法則に対応する関数fを考慮に入れると、以下のように書くことができる。
【0101】
[数式6]
【0102】
【0103】
説明のこの段階において、車両の可制御性を保証するために。前述の閾値および変数の値を得ることを可能にする手順を、図5を使用して概要説明することができる。
【0104】
この図が示すように、第1のステップE1において、試験車両の差動制動機能が解除されている間に、可制御性試験が実行されて、閾値TEPS_saturation_1および
の値を得る。
【0105】
次に、第2のステップE2において、差動制動機能が再始動され、一連の新規の可制御性試験が実行されて、最大操舵角δmaxの値を得る。
【0106】
このステップでは、閾値
の値も計算される。
【0107】
第3のステップE3において、閾値
および
は、最大操舵角δmaxを考慮に入れながら計算される。
【0108】
最終的に、第4のステップE4において、可制御性試験の結果が使用されて、閾値

の値を精緻化し、また、閾値
および運転者トルクの閾値
の値を決定する。
【0109】
前述の様々な制約条件と、車両を操縦するためにハンドルの操舵角と差動制動システムの間での選択が行われる方式とを、ここで明確に示すことができる。
【0110】
このために、図6の左側部分X1を参照してもよい。
【0111】
この図において、ブロックZ1は、障害物20を回避するために辿るべき軌道を決定することを可能にするブロックに対応する。この軌道が決定される方式は、本発明の主題の一部分を形成しないので、ここでは説明しないことにする。次いで、このブロックZ1は、AES機能が始動されると、横方向のずれの設定値yL-refおよび相対的な向首角Ψを決定することを可能にする。
【0112】
ブロックZ2は、回避軌道を最適に辿るために、操舵システムと差動制動システムとの間での選択を行うことを可能にするブロックである。これは、適用すべき差動制動および操舵角の比率を示す、係数αDBの値を決定することを可能にする。その値がゼロのとき、差動制動は解除され、その値が最大の(1に等しい)とき、解除されるのは操舵角である。このブロックを、以下で詳細に説明する。
【0113】
ブロックZ3は、前述の制約条件Z5およびZ7をモデル化することを可能にする、数学関数に対応する。これは、入力として、非飽和操舵角の設定値δを受信する。
【0114】
ブロックZ4は、前述の制約条件Z8およびZ9をモデル化することを可能にする、数学関数に対応する。これは、入力として、非飽和偏揺れモーメントの設定値MKzを受信する。
【0115】
非飽和操舵角の設定値δの計算用にKδと示され、非飽和偏揺れモーメントの設定値MKzの計算用にKと示されるコントローラを用いて、これらの非飽和設定値が得られる。これらは、係数αDBに依存する。
【0116】
これら2つのブロックの基本となる計算を理解するために、車両の動的挙動は、以下の式[数式7]によってモデル化することができると仮定してもよい。
【0117】
[数式7]
【0118】
【0119】
このモデルは、改良された自転車モデルである。
【0120】
しかし、これにより、車両の前輪11の操舵角の振幅および速度、または車両の車輪に加えられる差動制動モーメント、もしくはこの制動モーメントの変動を制限することはできない。しかし、車両の運転者が、いつなんどきでも車両の制御を再開できることを確実にするために、これらの制限が特に重要であることが分かっている。
【0121】
操舵角速度の飽和は、以下のように定式化してもよい。
【0122】
[数式8]
【0123】
【0124】
この式[数式8]において、閾値υは、たとえば、0.0491rad/sに等しく、これは、操舵のギア減速係数が16に等しい場合、ハンドルにおける0.785rad/s(すなわち、45°/s)に対応する。
【0125】
図3に示すように、操舵角速度リミッタは、閉ループ擬似コントローラ(すなわち、制限された単純な計算を実行するコントローラ)を形成する限りにおいては注目に値し、この閉ループ擬似コントローラは、
-([数式8]によって規定される条件に適合するための)閾値υと、1/s積分器と、Δ.αの双曲線正接タイプの関数である補正器との積に等しい直接連鎖伝達関数と、
-1に等しい間接連鎖(または「フィードバック連鎖」)伝達関数とを有する。
【0126】
双曲線正接タイプの関数は、双曲線正接関数と同様の形式を有する様々な関数を意味するものであり、これには、具体的には、逆三角関数(アークタンジェントなど)、誤差関数(一般には、erfと示される)、グーデルマン関数(一般には、gdと示される)、および双曲線三角関数(双曲線正接など)が含まれる。
【0127】
これは、入力として、非飽和操舵角の設定値δrefを受信し、出力として、飽和操舵角の設定値δrefを送信する。
【0128】
この図において、係数Δは、変数δとδrefの間のずれに対応する。係数αは、0~無限大の間の定数であり、操舵角リミッタの迅速なまたは柔軟な性質に影響を及ぼすことを可能にする唯一のパラメータである。
【0129】
したがって、この操舵角速度リミッタは、係数αを調整することで十分なので、調整が簡単であるという利点を有する。これにより、連続的で滑らかな(無限に弁別可能な)コマンドを確実にすることが可能になる。
【0130】
このために、この操舵角速度リミッタL2の形式を考慮に入れて、以下の式[数式9]を書くことができる。
【0131】
[数式9]
【0132】
【0133】
したがって、擬似線形である、車両の可制御性モデルが得られる。
【0134】
より厳密に言えば、次いで、以下のパラメータθδを導入してもよい。
【0135】
[数式10]
【0136】
【0137】
次いで、この式[数式10]を、以下の形式に書き直してもよい。
【0138】
[数式11]
【0139】
【0140】
この式[数式11]は、状態表現の特性であり、設定値の変動制限モデルが、パラメータθδの関数として線形であることを示す。
【0141】
これに基づいて、次いで、回避軌道T0の良好な追跡を確実にし、設定値の変動制限モデルを満たし、係数αDBによって規定される条件に適合するコントローラを決定することが可能である。
【0142】
偏揺れモーメントの設定値Mz_refの飽和を、以下のように定式化してもよい。
【0143】
[数式12]
【0144】
|Mz_ref|≦Mz_max
【0145】
偏揺れモーメントの設定値Mz_refの変動率の飽和を、以下のように定式化してもよい。
【0146】
[数式13]
【0147】
【0148】
本発明によれば、偏揺れモーメントの設定値Mz_refの振幅および変化率は、厳格な閾値を課すことによってではなく、その代わりに設定値振幅リミッタおよび設定値変動リミッタを使用することによって制限されるものである。
【0149】
図4を参照すると、非飽和偏揺れモーメントの設定値MKzを修正して、半飽和偏揺れモーメントの設定値Mz_satを生成するのにここで使用されることになる振幅リミッタを、まずは説明してもよい。
【0150】
この振幅リミッタは、閉ループ擬似コントローラを形成する限りにおいては注目に値し、この閉ループ擬似コントローラは、
-([数式12]によって規定される条件に適合するための)制限値Mz_maxと、β.εの双曲線正接タイプの関数である補正器との積に等しい直接連鎖伝達関数と、
-1に等しい間接連鎖(または「フィードバック連鎖」)伝達関数とを有する。
【0151】
この図4において、係数εは、変数Mz_satとMKzの間のずれに対応する。係数βは、0~無限大の間の定数であり、振幅リミッタの迅速なまたは柔軟な性質に影響を及ぼすことを可能にする唯一のパラメータである。
【0152】
このような擬似コントローラを使用することにより、偏揺れモーメントの設定値Mz_refを十分に時間制限することが可能になるだけでなく、さらには、この設定値の変動の連続性を確実にすることが可能になる。
【0153】
この振幅リミッタの形式を考慮に入れると、式[数式14]を以下のように書くことができる。
【0154】
[数式14]
【0155】
z_sat=Mz_max.tanh(β.(Mz_sat-MKz))
【0156】
図4に示すように、偏揺れモーメントの変動率リミッタはまた、閉ループ擬似コントローラを形成するという点で注目に値し、この閉ループ擬似コントローラは、
-([数式13]によって規定される条件に適合するための)定数
と、1/s積分器と、β.εの双曲線正接タイプの関数である補正器との積に等しい直接連鎖伝達関数と、
-1に等しい間接連鎖(または「フィードバック連鎖」)伝達関数とを有する。
【0157】
これは、入力として、半飽和偏揺れモーメントの設定値Mz_satを受信し、出力として、偏揺れモーメントの設定値Mz_refを送信する。
【0158】
この図では、係数εは、変数Mz_refとMz_satの間のずれに対応する。係数βは、0~無限大の間の定数であり、速度リミッタの迅速なまたは柔軟な性質に影響を及ぼすことを可能にする唯一のパラメータである。
【0159】
このような補正器を使用することにより、偏揺れモーメントの変動を十分に時間制限することが可能になるだけでなく、さらには、この変動の連続性を確実にすることが可能になる。
【0160】
この速度リミッタの形式を考慮に入れると、式[数式15]を以下のように書くことができる。
【0161】
[数式15]
【0162】
【0163】
したがって、擬似線形である、車両の可制御性モデルが得られる。
【0164】
次に、式[数式14]および[数式15]の表現を簡略化するために、いくつかの変数を導入して、状態表現の形式で完全なモデルを準線形に(すなわち、LPV、線形パラメータ変動のようにして)表してもよい。
【0165】
式[数式14]は、式[数式16]の形式で書いてもよい。
【0166】
[数式16]
【0167】
【0168】
ここで、
【0169】
[数式17]
【0170】
【0171】
次いで、以下のパラメータθΔを導入してもよい。
【0172】
[数式18]
【0173】
【0174】
次に、式[数式15]は、式[数式19]の形式で書き直してもよい。
【0175】
[数式19]
【0176】
【0177】
ここで、
【0178】
[数式20]
【0179】
α=∇β
【0180】
[数式21]
【0181】
【0182】
[数式22]
【0183】
θ∇Δ=θθΔ
【0184】
[数式23]
【0185】
【0186】
式[数式19]は、状態表現の特性であり、完全な偏揺れモーメントの振幅および速度の制限モデルが、外因性のパラメータθ∇Δおよびθ(車両が動いているときに計算することのできるパラメータ)の関数として準線形であることを示す。
【0187】
次いで、この状態表現を用いて、式[数式7]の自転車モデルを機能強化して、使用可能な新規のモデルを得てもよい。
【0188】
このようにして、線形行列不等式の方法など、最適化方法によって、(図6において、Kδ、Kによって、ならびにブロックZ3およびZ4によって表される)コントローラを合成することが実現可能である。
【0189】
次いで、これらのコントローラは、試験が実行された自動車の生産シリーズの、自動車10のコンピュータ13に実装されてもよい。
【0190】
一例として、第1のコントローラ(操舵角の設定値δrefを得ることを可能にするコントローラ)の合成が実行される方式を説明してもよい。第2のコントローラ(偏揺れモーメントの設定値を得ることを可能にするコントローラ)の合成は、対応する方式で実行されることになり、したがって、ここでは詳細に説明しないこととする。
【0191】
式[数式7]の機能強化された自転車モデルは、以下のように書かれる。
【0192】
[数式24]
【0193】
【0194】
次いで、状態ベクトルxを考慮してもよく、これを以下の形式で書くことができる。
【0195】
[数式25]
【0196】
【0197】
次いで、この目的は、この状態ベクトルxに基づいて非飽和操舵角の設定値δを計算することを可能にする、状態フィードバックであるコントローラKδの形式を決定することである。
【0198】
安定性と迅速性の両方に対して適切なコントローラKδをどのようにして決定するかを理解するために、次に、我々の挙動モデルを一般形式で書いてもよい。
【0199】
[数式26]
【0200】
【0201】
この式において、Cは恒等行列であり、Aは動的行列であり、Bはコマンド行列であり、Bは摂動行列であり、以下の形式で書いてもよい。
【0202】
[数式27]
【0203】
【0204】
静的状態フィードバックとして定義されるコントローラKδとしては、次の形式で表してもよい。
【0205】
[数式28]
【0206】
δ=Kδ.x
【0207】
最適なコントローラKδを見つけるためには、様々な方法を使用してもよい。
【0208】
ここで使用される方法は、線形行列不等式の方法である。したがって、この方法は、線形行列不等式の制約条件の下で、凸最適化の判定基準に基づいて実行される。
【0209】
その目的は、より厳密に言えば、極の選択を変化させることによって、コントローラKδによって規定される閉ループの利得を最適化することである。
【0210】
3つの行列不等式が使用され、これらが、以下の不等式によって定義される。
【0211】
[数式29]
【0212】
【0213】
[数式30]
【0214】
【0215】
[数式31]
【0216】
【0217】
これらの不等式において、iは1または2に等しく、次いで、行列AおよびBは、以下のように定義してもよい。
【0218】
[数式32]
【0219】
=A(θδmin
【0220】
=A(θδmax
【0221】
=B(θδmin
【0222】
=B(θδmax
【0223】
の形式の行列が、
の形式に書き表される。
【0224】
コントローラKδは、以下の式によって定義される。
【0225】
[数式33]
【0226】
δ=R.Q-1
【0227】
車両の速度は一定であると仮定される(したがって、システムのすべての行列が一定であると考えられる)。
【0228】
3つの不等式は、閉ループの動力学が、確実に制限されたままであるようにすることを可能にする。この理由は、これらの制約条件によって、閉ループの各極が、半径γ、虚軸μからの最小距離、および開口角φによって画定される区域内で境界付けられることになるからである。
【0229】
この方法は、合理的な(また、平均的な能力を有する運転者が習得することのできる)方式で、またアクチュエータによって実行することのできる方式で、各瞬間でのハンドルの角度を決定することを含むので、効果的であることが分かる。これらの制約条件はまた、閉ループの安定性を確実にする。
【0230】
この目的は、半径γを最小限に抑えることである。コントローラKδが得られると、非飽和操舵角の設定値は、以下の式によって計算されてもよい。
【0231】
[数式34]
【0232】
【0233】
値θδminおよびθδmaxは、3つの行列不等式に導入されてきた。
【0234】
δとδrefの間のずれにリンクされたθδの値は、式[数式8]によって設定された可制御性の制限値のコントローラKδによる、違反のレベルを反映する。
【0235】
定義によれば、θδは、0(含まず)~1(含む)の間に存在する。θδが1に等しいとき、ハンドルにおける角度の、計算された非飽和設定値δは、可制御性の制限値と良好に適合する。これが0に近いときは、ハンドルにおける角度の、計算された非飽和設定値δは、大きすぎる操舵動力学を課す値を有し、これによって、車両が不安定になる危険性が生じる。θδが、0~1の間の中間値をとるとき、可制御性の制限値は適合されず、車両が不安定になる危険性はなくなる可能性がある。
【0236】
すなわち、値θδminおよびθδmaxの選択は、コントローラKδの性能および頑強性への直接の影響を有する。間隔[θδmin、θδmax]が大きくなるほど、コントローラKδの性能は良好でなくなるが、頑強性は高くなる。逆に言えば、この間隔が小さくなるほど、コントローラKδの実行は良好になるが、頑強性は低くなる。
【0237】
論理的には、値θδmaxは、1に等しくなるように選択される(コントローラKδが線形モードで機能する場合であり、さらに一般には、可制御性の制約条件違反がない場合である)。
【0238】
その一方で、値θδminの決定には、性能と頑強性の間で妥協することが必要である。この値の決定は、δとδrefの間の絶対値でのずれに対して、最大閾値を課すことに同じである。
【0239】
要するに、特定の自動車モデルに適したコントローラKδを計算する方法は、αDB、v、α、θδmin、およびθδmaxの値を固定することにある。
【0240】
次に、この方法は、行列A、Bの係数を決定し、次いで、式[数式29]~[数式30]を解いて、そこから、回避軌道T0の良好な追跡を確実にし、操舵角の設定値の変動制限モデルを満たすコントローラKδを推定することにある。
【0241】
次に、ブロックZ2を、より詳細に説明することができる。
【0242】
係数αDBが得られる方式は、適用される差動制動および操舵角の比率を示すことが想起されることになり、次に、この方式を説明することができる。
【0243】
このために、予備の変数αDB_rawが初めに選択される。
【0244】
運転者によってハンドルに加えられるトルクが、絶対値で閾値
以下である場合にのみ、この選択が行われる。
【0245】
特に、これが、この閾値よりも大きい場合、設定値は計算されないことになる。
【0246】
これが、閾値
以下である場合、以下の2つの累積的な条件が満たされる場合には、予備の変数αDB_rawが1に等しくなるように選択される。そうでない場合には、これがゼロに等しくなるように選択される。
【0247】
第1の条件は、絶対値での変数θδが、絶対値での変数θδ min以下になることである。
【0248】
この変数θδ minは、操舵角のコントローラKδ単独で車両を安定させることのできる、変数θδの最小値である。これは、車両の速度Vに依存するので、変数である。
【0249】
すなわち、第1の条件は、操舵角の設定値が飽和しているかどうかを検査することにある。
【0250】
第2の条件は、絶対値での偏揺れ速度が、絶対値での偏揺れ速度の閾値rctrl以下になることである。
【0251】
予備変数αDB_rawの値(0または1)が選択されると、次式によって係数αDBを計算することが可能である。
【0252】
[数式35]
【0253】
【0254】
この式において、パラメータτDBは、運転者にとっての良好な感触を保証するために、係数αDBのいかなる急激な変化をもフィルタリングすることを可能にする時定数である。したがって、このパラメータの値は、運転者が得たいと望む感触によって調整可能である。
【0255】
パラメータsは、ラプラス変数である。
【0256】
この段階では、本発明を実行するために、前述の生産シリーズの自動車のうち1つの自動車のコンピュータ13によって実行されることになるプロセスを説明することができる。
【0257】
ここで、このコンピュータ13は、このプロセスを再帰的に、すなわち段階的にループで実行するようにプログラムされる。
【0258】
このために、第1のステップにおいて、コンピュータ13は、自動障害物回避機能(AES)が始動していることを検査する。
【0259】
この場合には、コンピュータ13は、自動車10の経路上に存在する、考え得る障害物の存在を検出しようと試みる。このために、コンピュータ13は、RADARまたはLIDARの遠隔検出器を使用する。
【0260】
障害物が存在しない場合、このステップは、ループで繰り返される。
【0261】
障害物20が検出されるとすぐに(図2参照)、コンピュータ13は、この障害物20を回避できるようにする回避軌道T0を計画する。
【0262】
次いで、コンピュータ13は、この回避軌道T0を最適に追跡することを可能にする、従来の操舵システムおよび差動制動システム用の操縦設定値を定義しようと試みることになる。
【0263】
このために、コンピュータ13は、パラメータを計算または測定することによって開始し、これらのパラメータは、
-測定された操舵角δ、
-測定された操舵角δの時間導関数、
-先行する時間増分において得られる飽和操舵角の設定値δref
-偏揺れ速度r、
-相対的な向首角Ψ
-横方向のずれの設定値yL_refの時間導関数、
-軌道追跡誤差eyL
-ドリフト角β、
-係数αDB
など、特に車両の動的挙動を特徴付ける。
【0264】
図6に示すように、コンピュータ13は、次に、そのメモリに記憶されたコントローラKδおよびKを使用する。したがって、これらのコントローラは、非飽和操舵角の設定値δおよび非飽和偏揺れ角の設定値MKzの値を決定することを可能にする。
【0265】
図6において、ブロックZ3およびZ4によって表される擬似コントローラは、次に、操舵角δrefおよび偏揺れモーメントMz_refの飽和設定値をそこから推定することを可能にする。次いで、これらの設定値がアクチュエータ31、32に送信されて、車両をその初期軌道から方向転換することになる。
【0266】
すなわち、上記のパラメータに基づいて操舵角の設定値δrefを決定することを可能にする、第1の総合コントローラを形成することになるのは、したがって、コントローラKδと、ブロックZ3によって表される擬似コントローラとの組合せである。
【0267】
同様に、上記のパラメータに基づいて偏揺れモーメントの設定値Mz_refを決定することを可能にする、第2の総合コントローラを形成することになるのは、コントローラKと、ブロックZ4によって表される擬似コントローラとの組合せである。
【0268】
本発明は、説明された実施形態には決して限定されない。むしろ、本発明による任意の変形形態を、どのようにしてこれに加えるかを、当業者は知ることになる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】