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特表2023-551497ヨードチロシン誘導体とヨードチロシン誘導体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ヨードチロシン誘導体とヨードチロシン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 271/22 20060101AFI20231201BHJP
   C07C 269/06 20060101ALI20231201BHJP
   C07K 1/06 20060101ALI20231201BHJP
   C07K 1/10 20060101ALI20231201BHJP
   C07K 5/08 20060101ALN20231201BHJP
【FI】
C07C271/22 CSP
C07C269/06
C07K1/06
C07K1/10
C07K5/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532457
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2021083649
(87)【国際公開番号】W WO2022117590
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】20211107.6
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514027805
【氏名又は名称】エービーエックス・アドヴァンスド・バイオケミカル・コンパウンズ-ビオメディツィーニシェ・フォルシュングスレアゲンツィエン・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヘッピング・アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー・クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ・デスナ
(72)【発明者】
【氏名】ケスター・シュテファン・ダーフィト
(72)【発明者】
【氏名】アイゼルト・エーリク
【テーマコード(参考)】
4H006
4H045
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB20
4H006AB84
4H006RA16
4H006RB04
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA12
4H045FA33
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は一般式Iの化合物に関する
式中
Aは、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択され;
SGは保護基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
、RおよびRは、それぞれ独立して、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
およびRは、それぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Iの化合物
【化1】
式中
Aは、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択され;
SGは保護基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
、RおよびRは、それぞれ独立して、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
およびRは、それぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【請求項2】
一般式IAの化合物であることを特徴とする、請求項1記載の化合物、
【化2】
式中、
AおよびSGは、請求項1に定義された意味を有する。
【請求項3】
SGがフルオレニルメチレンオキシカルボニル基(Fmoc)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)およびベンジルオキシカルボニル基からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
Aが、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基および-C(O)-O-R-Si(R)-基からなる群から選択され、ここで、R、R、R、R、RおよびRは、請求項1に記載の意味を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
Aが、1~6個の炭素原子を有するアルキル基;Rが1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、Rが1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基である-R-O-R基;Rが1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である-R-Si(R)-基;および、Rが1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である、-C(O)-O-R-Si(R)-基からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
Aが、1~6個の炭素原子を有するアルキル基;Rが1~4個の炭素原子を有するアルキレン基であり、Rが1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基である-R-O-R基;Rが1~4個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である-R-Si(R)-基;および、Rが1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である、-C(O)-O-R-Si(R)-基からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(メトキシメトキシ)フェニル)プロピオン酸,、
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(((2-(トリメチルシリル)エトキシ)カルボニル)オキシ)フェニル)プロピオン酸、
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(2-(tert-ブチルジフェニルシリル)エトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸、
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(メトキシメトキシ)フェニル)プロピオン酸、
2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(((2-(トリメチルシリル)エトキシ)カルボニル)オキシ)フェニル)プロピオン酸、
2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-(2-(tert-ブチルジフェニルシリル)エトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸、または
2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
一般式IIの化合物を、一般式X-Aの化合物と反応させ、
【化3】
式中、SGが保護基であり、
Xは、ハロゲンまたはアンモニアであり、
Aは、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択され;
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
、RおよびRは、それぞれ独立して、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
およびRは、それぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、
【化4】
式中、AとSGは式IIに関連して与えられた意味を有する、
一般式Iの化合物を得ることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物の製造方法。
【請求項10】
一般式IIの化合物を一般式X-Aの化合物と反応させて、一般式IIIの化合物を得て、
【化5】
さらに、一般式IIIの化合物を反応させて一般式Iの化合物とすることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
一般式IIの化合物が一般式IVの化合物から
【化6】
一般式IVの化合物のアミノ基上に保護基SGを導入して製造することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ペプチドの製造のための請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
ペプチドが一般式IXの化合物であることを特徴とする請求項12に記載の使用、
【化7】
式中、
10は、水素または1つ以上のアミノ酸単位であり;
11は、水素または1つ以上のアミノ酸単位であり、
ただし、R10が水素の場合はR11が水素でなく、R11が水素の場合はR10が水素でないものとする。
【請求項14】
一般式VIIIの化合物が反応し、
【化8】
式中、
Aは、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択され;
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
、RおよびRは、それぞれ独立して、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
およびRは、それぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり
は、1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり、
10とR11は、一般式IXの化合物に関連して与えられた意味を有する;
一般式IXの化合物になることを特徴とする請求項12または請求項13に記載の使用。
【請求項15】
反応が酸性の範囲で生じることを特徴とする請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヨードチロシン誘導体、特にFmoc-3-ヨード-チロシン誘導体およびBoc-3-ヨード-チロシン誘導体に関する。また、ヨードチロシン誘導体、特にFmoc-3-ヨード-チロシン誘導体およびBoc-3-ヨード-チロシン誘導体を製造するための方法にも関する。また、ペプチドの合成におけるヨードチロシン誘導体、特にFmoc-3-ヨード-チロシン誘導体およびBoc-3-ヨード-チロシン誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヨードチロシン(D/L)によるペプチドの修飾は、本質的にヨードチロシンを有するペプチドの性質に正の影響を与えるのに役立つ。多くの場合、ヨードチロシンは主にペプチドまたは小分子のN末端に導入される[4](非特許文献1)。ヨードチロシンは脂溶性であるため、その結合特性が改善され、しばしば受容体親和性が改善される。ヨードチロシンを含むペプチドまたはペプチド化合物の例は、セラノスティックペプチドのPentixather/Pentixather/Pentixafor[5](非特許文献2)、HA-ドータテート[6](非特許文献3)またはPSMA I&T[7](非特許文献4)である。さらに、ヨードチロシンによるチロシンの置換は、ホルモンの特性の改善につながる[8](非特許文献5)。
【0003】
多くの場合、ヨードチロシンは、市販の構成単位Fmoc-3-ヨード-L-チロシン、Fmoc-3-ヨード-D-チロシン、Boc-3-ヨード-D-チロシンまたはBoc-3-ヨード-L-チロシンを用いて導入される。「Fmoc」という用語は、保護基であるフルオレニルメチルオキシカルボニルを意味する。Bocという名称は、保護基であるtert-ブチルオキシカルボニルを表す。しかし、Fmoc-3-ヨード-L-チロシン、Fmoc-3-ヨード-D-チロシン、Boc-3-ヨード-D-チロシンまたはBoc-3-ヨード-L-チロシンの使用は、パラ位におけるそのヒドロキシ官能性が、C-末端活性化アミノ酸によってアシル化され得るほど十分に求核性であるため、望ましくない副反応を伴うことがある。多くの場合、これはアミノ酸の喪失につながり、もはやカップリングに利用できない。この文脈においては、Fmoc-3-ヨード-L-チロシン、Fmoc-3-ヨード-D-チロシン、Boc-3-ヨード-D-チロシンまたはBoc-3-ヨード-L-チロシンとのカップリングは、チロシンの求核性ヒドロキシ官能性の高い反応性から生じることができ、この反応段階におけるターンオーバーがほとんどまたは全くない場合には、実際的でないことが証明されている。
【0004】
この欠点を克服する一つの方法は、最終ペプチド生成物中のチロシンのヨード化である。この方法では通常、モノヨード化チロシン残基とジヨード化チロシン残基からなる2つの異なる生成物が得られる[9](非特許文献6)。両方とも逆相クロマトグラフィーで分離する必要があり、工業的応用を困難にしている。さらに、この方法は、ペプチド中に1超のチロシン単位がある場合には適さない。さらに、この方法は、合成スケールが明らかに制限されているため、工業的応用には適していない。さらに、出発物質を分離する必要がある。
【0005】
Cobbらが[10](非特許文献7)は、メタノール中のAgSOの存在下で、完全に保護されたFmoc-Tyr(tBu)-OHが直接ヨード化され、主にFmoc-3-ヨード-Tyr(tBu)-OMeが生成し、その後にけん化させることを提案している。この方法は、工業化で必要とされるより大きなスケールには不適であると考えられる。Amedioらが[11](非特許文献8)は、Boc-3-ヨード-Tyr(PMB)-OHの使用を提示している。別の例では、Kiyoyukiらが、環状ペプチドの合成のためのBoc-3-ヨード-Tyr(Boc)-OHを使用している[12](非特許文献9)。保護された両ヨードチロシン誘導体は、Boc化学にもっぱら適している。MartinyらはFmoc-3-ヨード-Tyr(TBDMS)-OHを合成し、Fmoc/tBu化学を用いてペプチドへのヨード化チロシンの導入に適していることを証明した[13](非特許文献10)。この特定の化合物の欠点は、(弱い)酸(例えばヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP))に対する感受性である。この感受性は、樹脂から完全に保護されたペプチドを切断できない(例えば、HFIPを用いる)結果となりうる。「tBu」という用語は保護基「tert-ブチル」、「Me」という用語はメチル、「boc」という用語は保護基tert-ブトキシカルボニル、「PMB」という用語は保護基p-メトキシベンジル、「TBDMS」という用語は保護基「tert-ブチルジメチルシリル」を意味する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Assoian, R.K., et al., Iodotyrosylation of peptides using tertiary-butyloxycarbonyl-l-[125I]iodotyrosine N-hydroxysuccinimide ester. Analytical Biochemistry, 1980. 103(1): p. 70-76.
【非特許文献2】Schottelius, M., et al., [(177)Lu]pentixather: Comprehensive Preclinical Characterization of a First CXCR4-directed Endoradiotherapeutic Agent. Theranostics, 2017. 7(9): p. 2350-2362.
【非特許文献3】Brogsitter, C., et al., Twins in spirit part II: DOTATATE and high-affinity DOTATATE-the clinical experience. European journal of nuclear medicine and molecular imaging, 2014. 41.
【非特許文献4】Weineisen, M., et al., 68Ga- and 177Lu-Labeled PSMA I&T: Optimization of a PSMA-Targeted Theranostic Concept and First Proof-of-Concept Human Studies. J Nucl Med, 2015. 56(8): p. 1169-76.
【非特許文献5】A, W.M., IODINATED INSULIN ANALOGUES WITH FORESHORTENED SIGNALING. 14.12.2016.
【非特許文献6】Schottelius, M., et al., An optimized strategy for the mild and efficient solution phase iodination of tyrosine residues in bioactive peptides. Tetrahedron Letters, 2015. 56(47): p. 6602-6605.
【非特許文献7】Steer, A.M., et al., A direct route for the preparation of Fmoc/OtBu protected iodotyrosine. Tetrahedron Letters, 2018. 59(27): p. 2644-2646.
【非特許文献8】White, J.D. and J.C. Amedio, Total synthesis of geodiamolide A, a novel cyclodepsipeptide of marine origin. The Journal of Organic Chemistry, 1989. 54(4): p. 736-738.
【非特許文献9】Ishiwata, H., et al., Total Synthesis of Doliculide, a Potent Cytotoxic Cyclodepsipeptide from the Japanese Sea Hare Dolabella auricularia. The Journal of Organic Chemistry, 1994. 59(17): p. 4712-4713.
【非特許文献10】Pedersen, M.H.F. and L. Martiny, Homogeneous deuteriodeiodination of iodinated tyrosine in angiotensin-I using synthesized triethyl[2H]silane and Pd(0). 2011. 54(4): p. 191-195.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、先行技術の欠点を解消することである。記載された副反応を伴わず、かつ樹脂によって完全に保護された場合にこのように修飾されたペプチドの切断を伴わずに、ヨード-チロシン単位を導入することによるペプチドの修飾を妨げることのない、ヨードチロシン誘導体、特にFmoc-3-ヨード-チロシン誘導体およびBoc-3-ヨード-チロシン誘導体を提供することが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、請求項1、9および12の特徴によって解決される。本発明の有用な実施形態は、従属クレームの特徴によってもたらされる。
【0009】
本発明によると、一般式Iの化合物が提供され、
【化1】
式中
Aは、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択される;
SGは保護基であり;
は1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり;
は1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
、RおよびRは、それぞれ独立して、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
およびRはそれぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり
は1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【0010】
保護基SGは、フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)およびベンジルオキシカルボニル基からなる群から選択されることが好ましい。より好ましくは、保護基SGはフルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)またはtert-ブトキシカルボニルである。保護基SGは特に好ましくはフルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)である。保護基SGは、チロシン部分のアミノ官能基を保護するのに役立つ。一般式Iの化合物は、以下SG-ヨード-チロシンとも呼ばれる。
【0011】
SGがフルオレニルメチルオキシカルボニル基である一般式Iの化合物(Fmoc)は一般式Iaの化合物であり、SGがtert-ブトキシカルボニル基である一般式Iの化合物(Boc)は一般式Ibの化合物である:
【化2】
【0012】
一般式Iaの化合物は、以下、Fmoc-ヨード-チロシンとも示される。一般式Ibの化合物は以下、Boc-ヨード-チロシンとも示される。
【0013】
本発明による一般式Iの化合物は、エナンチオマー自体の各々と、これらのエナンチオマーの混合物の両方を含む。したがって、一般式Iの化合物のチロシン単位は、D配置、L配置、またはDとL配置の混合物として存在することができる。用語「D/L」は、D配置にある化合物、L配置にある化合物、またはDおよびL配置の混合物を意味する。
【0014】
本発明の一般式Iの化合物は、チロシン単位のフェニル基に結合しているヨウ素原子を有する。
【0015】
本発明の化合物は、SG-3-ヨード-D-チロシン(A)-OHまたはSG-3-ヨード-L-チロシン(A)-OHのペプチドへの導入を可能にする。A基を保護することによるフェノール性ヒドロキシ基の保護は、従来技術において保護されていないヒドロキシ官能性を有する関連する望ましくない副反応を防止する。したがって、単位AはC末端で活性化されたアミノ酸によるアシル化を防ぐ。これはアミノ酸の損失を防止する。さらに、フェノール性ヒドロキシ官能基はA部分により保護されるので、ここではSG-3-ヨード-D-チロシン(A)-OHまたはSG-3-ヨード-L-チロシン(A)-OHとの困難なカップリングが可能となった。特に、本発明は、Fmoc-3-ヨード-D-チロシン(A)-OHまたはFmoc-3-ヨード-L-チロシン(A)-OHのペプチドへの導入を可能にする。また、Boc-3-ヨード-D-チロシン(A)-OHまたはBoc-3-ヨード-L-チロシン(A)-OHをペプチドに導入することも可能である。「(A)-OH」という表記は、チロシン部分のフェノール性ヒドロキシ基が保護基Aによって保護されているが、カルボキシ基のヒドロキシ基は保護されていないことを示すように意図されている。SG-3-ヨード-D-チロシン(A)-OHまたはSG-3-ヨード-L-チロシン(A)-OHをペプチドに導入した後、保護基Aを切断することができる。
【0016】
一般式Iの化合物が一般式IAの化合物であることを示すことができる
【化3】
ここで、Aは、請求項1に定義されている。一般式IAの化合物は、ヨウ素原子が3位にあることを除けば、一般式Iの化合物に相当する。SGがフルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)である一般式IAの化合物は一般式Ia-Aの化合物であり、SGがtert-ブトキシカルボニル基(Boc)である一般式Iの化合物は一般式Ib-Aの化合物である:
【化4】
【0017】
単位AはSG-ヨード-チロシンのフェノール性ヒドロキシ基を保護するための保護基である。単位Aは、エーテル基、シリルエーテル基、アセタール基またはカーボネート基であることが好ましい。Fmoc-ヨード-チロシンの場合、単位Aは、非ヨード化Fmoc-D/L-チロシン(tBu)-OHに適用されるFmoc/tBu戦略と適合するように選択されることが好ましい。Fmoc-D/L-チロシン(tBu)-OHでは、フェノール性ヒドロキシ官能基はtert-ブチル基(tBu)によって保護されている。また、本発明による化合物を生産スケールで使用できるように単位Aを選択する。
【0018】
は、1~6個のメチレン単位を有する未分岐鎖アルキレン基であることが好ましい。好ましくは、Rはメチレン、エチレンまたはn-プロピレンである。
【0019】
は、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基が好ましく、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基が好ましい。
【0020】
好ましくは、R、RおよびRは、それぞれ独立して、1~2個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基またはアリール基である。
【0021】
好ましくは、RおよびRは、それぞれ独立して、1~2個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である。
【0022】
は、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基が好ましく、ここで、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基が好ましい。
【0023】
は、1~6個のメチレン単位を有する未分岐鎖アルキレン基であることが好ましい。好ましくは、Rはメチレン、エチレン、プロピレンまたはブチレンである。
【0024】
この単位Aは、1~12個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、および-C(O)-O-R-Si(R)-基からなる群から選択される。単位Aが、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択されるものも提供することができる。
単位Aが、以下からなる群から選択されることをさらに提供することができる
1~6個の炭素原子を有するアルキル基;Rが1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、Rが1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基である-R-O-R基;
が1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である-R-Si(R)-基;および
が1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である、-C(O)-O-R-Si(R)-基。
【0025】
一般式Iの化合物を提供することができ、ここで、
ここで、Aが、-R-O-R-基、-R-Si(R)-基、-R-O-Si(R)-基、-C(O)-O-R-Si(R)-基、-CH(O-R)(O-R)-基、-R-CH(O-R)(O-R)-基、-R-O-C(O)-O-R-基からなる群から選択され;
SGは保護基であり;
は1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基であり;
は1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
、RとRはそれぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
とRはそれぞれ独立して1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり;
は、1~12個の炭素原子を有する1価の炭化水素基であり
は1~12個の炭素原子を有する2価の炭化水素基である。
【0026】
単位Aが、以下からなる群から選択されることをさらに提供することができる
が1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、Rが1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基である-R-O-R基;
が1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基である、R-Si(R)-基
が1~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、R、RおよびRがそれぞれ独立して1~6個の炭素原子を有する未分岐鎖または分岐鎖アルキル基、またはアリール基であるC(O)-O-R-Si(R)-基。
【0027】
一般式Ia-Aの化合物の好適な例は以下である:
(i)2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(メトキシメトキシ)フェニル)プロピオン酸、これは、Fmoc-D/L-Tyr(MOM)-OHとも示され、Fmoc-D-Tyr(MOM)-OHが特に好ましい;
(ii)2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(((2-(トリメチルシリル)エトキシ)カルボニル)オキシ)フェニル)プロピオン酸、これはFmoc-D/L-Tyr(TEOC)-OHとも示され、Fmoc-D-Tyr(TEOC)-OHが特に好ましい;
(iii)2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(2-(tert-ブチルジフェニルシリル)エトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸、これはFmoc-D/L-Tyr(TBDPSE)-OHとも示され、Fmoc-D-Tyr(TBDPSE)-OHが特に好ましい;
(iv)2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸、これはFmoc-D/L-Tyr(tBu)-OHとも示され、Fmoc-D-Tyr(tBu)-OHが特に好ましい。
【0028】
一般式Ib-Aの化合物の好適な例は:
(i)2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(メトキシメトキシ)フェニル)プロピオン酸、これはBoc-D/L-Tyr(MOM)-OHとも示され、Boc-D-(MOM)-OHが好ましい;
(ii)2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(((2-(トリメチルシリル)エトキシ)カルボニル)オキシ)フェニル)プロピオン酸、これはBoc-D/L-Tyr(TEOC)-OHとも示され、Boc-D-Tyr(TEOC)-OHが好ましい;
(iii)2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-(2-(tert-ブチルジフェニルシリル)エトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸、これはBoc-D/L-Tyr(TBDPSE)-OHとも示され、Boc-D-Tyr(TBDPSE)-OHが好ましい;
(iv)2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-ヨードフェニル)プロピオン酸、これはBoc-D/L-Tyr(tBu)-OHとも示され、Boc-D-Tyr(tBu)-OHが好ましい。
【0029】
本発明によれば、本発明による一般式Iの化合物の製造方法も提供される。この目的のために、一般式IIの化合物を一般式X-Aの化合物と反応させ、一般式Iの化合物を得て、
【化5】
ここで、SGが一般式Iに関連して与えられた意味を有し、Xがハロゲンまたはアンモニウムであり、Aが一般式Iに関連して与えられた意味を有し、
【化6】
ここで、SGとAは式Iに関連して与えられた意味を有する。保護基Aが化合物X-Aによって一般式IIの化合物に導入される。一般式IIの化合物中でSGがFmocである場合、この化合物はFmoc-ヨード-D/L-チロシンであり、これは2-(((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシ-ヨードフェニル)プロピオン酸と体系的に定義される。一般式IIの化合物は、好ましくはFmoc-ヨード-D-チロシンである。一般式IIの化合物でSGがBocである場合、この化合物はBoc-ヨード-D/L-チロシンであり、2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシ-ヨードフェニル)プロピオン酸と体系的に定義され、Boc-ヨード-D-チロシンが好ましい。
【0030】
一般式IIの特に好ましい化合物は、Fmoc-3-ヨード-D/L-チロシンであり、これは2-(((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシ-3-ヨードフェニル)プロピオン酸として系統的に同定される。この化合物では、フェノール性ヨウ素原子は3位にある。Fmoc-3-ヨード-D-チロシンが特に好ましい。一般式IIの別の好ましい化合物はBoc-3-ヨード-D/L-チロシンであり、これは系統的に2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシ-3-ヨードフェニル)プロピオン酸と命名される。この化合物では、フェノール性ヨウ素原子は3位にある。Boc-3-ヨード-D-チロシンが特に好ましい。
【0031】
一般式IIの化合物は一般式IVの化合物から製造することができる。
【化7】
一般式IVの化合物のアミン官能基は、保護基SGを導入することによって保護される。この目的のために、一般式IVの化合物を、例えば、9-フルオレニルメトキシカルボニル試薬またはtert-ブトキシカルボニル試薬と反応させることができる。9-フルオレニルメトキシカルボニル化合物は、例えば(9-フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)スクシンイミド(Fmoc-OSu)でよい。tert-ブトキシカルボニル試薬は、例えばジ-t-ブチルジカルボナート(BocO)であり得る。一般式IVの化合物はD/L-ヨードチロシンであり、D-ヨードチロシンが好ましい。
【0032】
一般式IIの化合物と一般式X-Aの化合物とを反応させて、一般式IIIの化合物を得ることができ、
【化8】
続いて、一般式IIIの化合物を反応させて一般式Iの化合物に変換する。スキーム1は、一般式IIの化合物からの本発明による一般式Iの化合物の本発明の製造を例示する。
【化9】
スキーム1aは、一般式IIaの化合物からの本発明による一般式Iaの化合物の本発明の製造を例示する。化合物IIaはSGがFmocである一般式IIの化合物である。スキーム1aに示されるプロセスは、スキーム1に示されるプロセスの一実施形態である。
【化10】
スキーム2は、3-ヨード-D/L-チロシンからの本発明による一般式Ia-Aの化合物の本発明の製造を例示する。スキーム2に示すプロセスは、スキーム1aに示すプロセスの好適な実施形態である。
【化11】
【0033】
反応式1に示されるステップ(a)は、一般式IVの化合物の一般式IIの化合物への変換を提供する。このプロセスにおいて、アミン官能基を保護する保護基を一般式IVの化合物のN末端に導入する。この目的のために、一般式IVの化合物を、例えば(9-フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)スクシンイミド(Fmoc-OSu)(スキーム1a参照)またはジ-tert-ブチルジカルボナート(BocO)と反応させることができる。一般式IIの化合物は、一般式IVの化合物のN末端が保護基SGにより保護されることを除いて、一般式IVの化合物に相当する。周囲温度とは、18~25℃の範囲の温度を意味する。
【0034】
スキーム1のステップ(a)においてFmocを保護基SGとして導入する場合、ステップ(a)は、保護ガス(不活性ガス)、例えばアルゴン雰囲気下で、周囲圧力および周囲温度で行うことができる。保護基SGとしてFmocを導入するには、この場合、炭酸ナトリウム水溶液と1,4-ジオキサンの混合物中でステップ(a)を行うことが好ましい。
【0035】
反応式1のステップ(a)において、保護基SGとしてBocを導入する場合には、ステップ(a)は、周囲圧力および周囲温度で行うことができる。保護ガスは必要ない。この場合、ステップ(a)は、水、テトラヒドロフラン、トリエチルアミンの混合物中で行うのが好ましい。
【0036】
反応式1に示される工程のステップ(b)は、一般式IIの化合物の一般式IIIの化合物への変換を提供する。このプロセスにおいて、一般式IIの化合物のC末端のヒドロキシ基とフェノール性ヒドロキシ基が、単位Aで保護されている。この目的のために、一般式IIの化合物を化合物X-Aと反応させる。この反応は非プロトン溶媒中、例えば、ジクロロメタン(DCM)中で、補助塩基、例えば、ジイソプロピルエチルアミン(Huenig塩基、DIPEA)と相転移触媒、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)の存在下で生じ得る。反応は0℃と周囲温度の間の温度範囲で行うことができる。これは、周囲圧力および保護ガス下、例えばアルゴン雰囲気下で行うことができる。一般式IIIの化合物は一般式IIの化合物のC末端のヒドロキシ基とフェノール性ヒドロキシ基がA部分で保護されていることを除いて、一般式IIの化合物に相当する。
【0037】
反応式1に示されるステップ(c)は、一般式IIIの化合物の一般式Iの化合物への変換を提供する。このプロセスにおいて、一般式IIIの化合物のC末端のヒドロキシ基を保護する単位Aが切断され、フェノール性ヒドロキシ基を保護する単位Aは保持される。切断は塩基性の範囲、たとえばピリジン/水混合物中で生じる。反応は0℃と周囲温度の間の温度範囲で行うことができる。周囲圧力で行うことができる。保護ガスは必要ない。一般式Iの化合物は、一般式Iの化合物のC末端にヒドロキシ基があることを除いて、一般式IIIの化合物に相当する。
【0038】
本発明による方法のさらなる詳細は、本発明による一般式Iの化合物に関連して既に記載されている。それらの記述を参照されたい。
【0039】
本発明によれば、ペプチドの製造のための本発明による一般式Iの化合物の使用が提供される。製造されたペプチドは、少なくとも1つのヨード-チロシン単位を有している。製造されたペプチドは、少なくとも1つ、好ましくは正確に1つのチロシン単位が3-ヨード-チロシン単位に置換されているということを除いて、既知のペプチドに対応することができる。3-ヨード-チロシン単位は、一般式Iの化合物をアミノ酸またはアミノ酸配列と反応させてペプチドを得ることによって製造することができる。ペプチドは、例えば、Merrifield合成によって、それ自体が既知の合成方法によって製造することができる。ペプチド合成への経路は、Robert Bruce Merrifield、Solid phase peptide synthesis Journal of the American Chemical Society、Volume 85、Issue 14 pp2149-2154に記載されている。ペプチドの製造後、一般式Iの化合物に由来する単位Aが切断され、それによってフェノール性OH基が保護されていない3-ヨード-チロシン単位を有するペプチドが得られる。
【0040】
スキーム3は、一般式Iの化合物を用いたヨード-チロシン単位を有する一般式Vのペプチドの製造を例示する。
【化12】
スキーム3aは、一般式Iaの化合物を用いたヨード-チロシン単位を有する一般式Vaのペプチドの製造を例示する。一般式Vaのペプチドは、SGがFmocである一般式Vのペプチドである。
【化13】
続いて、保護基SGを切断させることができ、それによって、一般式Vの化合物は、スキーム4およびスキーム4aに示すように、一般式VIの化合物に変換されることができる。
【化14】
【化15】
ヨード-チロシン単位がペプチドの末端単位でないならば、さらに別のアミノ酸を一般式VIの化合物のN末端に結合させて、スキーム5に示すような一般式VIIの化合物を得ることができる。
【化16】
1つまたはそれ以上の追加アミノ酸をさらにアミノ酸に結合させることができ、それによって一般式VIIIのペプチドを得ることができ、
【化17】
ここで、Aは一般式Iの化合物に関連して与えられた意味をもち、R10は水素または1つ以上のアミノ酸単位であり、R11は水素または1つ以上のアミノ酸単位であり、ただし、R10が水素である場合にはR11は水素ではなく、R11が水素である場合にはR10は水素でない。アミノ酸単位は、N末端にNH基またはNR12-基を有するものであることができ、ここで、R12はメチル基である。
【0041】
一般式VIIIの化合物は、スキーム6に示すように、単位Aを切断することによって一般式IXのペプチドに変換することができる。
【化18】
単位Aの切断は、酸性の範囲で、たとえばペプチドの全脱保護の過程で行われる。トリフルオロ酢酸(TFA)の水溶液、例えば95%TFA溶液が、ペプチドの全脱保護のために好ましく使用される。反応は0℃と周囲温度の間の温度範囲で行うことができる。周囲圧力で行うことができる。保護ガスは必要ない。一般式IXの化合物は、単位Aが切断されてヒドロキシ基を得ることを除いて、一般式VIIIの化合物に相当する。
【0042】
用語「アルキル」は、特に明記しない限り、1~12個の炭素原子、好ましくは1~8個の炭素原子、およびより好ましくは1~6個の炭素原子を有する分岐または非分岐炭素鎖を有する1価の飽和脂肪族炭化水素基を指す。アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、n-ヘキシル、オクチル、ドデシル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
用語「アルキレン」は、特に明記しない限り、1~12個の炭素原子、好ましくは1~8個の炭素原子、およびより好ましくは1~6個の炭素原子を有する分岐または非分岐炭素鎖を有する2価の飽和脂肪族炭化水素基を指す。アルキレン基の例としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
用語「アリール」は、特に明記しない限り、5~18個の環原子、好ましくは5または6個の環原子を有する単環、二環または三環芳香族環系からなる環状芳香族炭化水素基を指す。アリール基の例は、これらに限定されるものではないが、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル、フルオレニル、インデニル、アズレニル、ビフェニル、メチレンジフェニルなどを含み、これらの部分的に水素化された誘導体を含む。特に明記しない限り、アリール基は、1価または多価、例えば、1価または2価であり得る。
【0045】
本発明は、本発明を制限することを意図しない例示的な実施形態を用いて、以下により詳細に説明される。
【実施例
【0046】
本発明による化合物の例を表1に示す。化合物1D、2D、3Dおよび4DはR配置を有し、D-チロシンの誘導体である。化合物1L,2L,3Lおよび4LはS配置を有し、L-チロシンの誘導体である。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に記載の複数の化合物は、一般式Iと一般式Iaの例示化合物である。化合物1Dと1Lは、Aが-R-O-R-基であり、Rがメチレン基であり、Rがメチル基である一般式Iaの化合物である。化合物2Dおよび2Lは、Aが-R-Si(R)-基であり、Rが-CH-CH-であり、R、RおよびRがそれぞれメチル基である一般式Iaの化合物である。化合物3Dおよび3Lは、Aが-R-Si(R)-基であり、Rが-CH-CH-であり、R、およびRが各々フェニル基であり、R5がtert-ブチル基である一般式Iaの化合物である。化合物4Dおよび4Lは、Aがtert-ブチル基である一般式Iaの化合物である。
【0049】
本発明による化合物のさらなる例を表1aに示す。化合物5D、6D、7Dおよび8DはR配置を有し、D-チロシンの誘導体である。化合物5L、6L、7Lおよび8LはS配置を有し、L-チロシンの誘導体である。
【0050】
【表1a】
【0051】
表1aに記載の化合物は、一般式Iおよび一般式Ibの例示的化合物である。化合物5Dおよび5Lは、-R-O-R-基であり、Rがメチレン基であり、Rがメチル基である一般式Ibの化合物である。化合物6Dおよび6Lは、Aが-R-Si(R)-基であり、Rが-CH-CH-であり、R、RおよびRがそれぞれメチル基である一般式Ibの化合物である。化合物7Dおよび7Lは、Aが-R-Si(R)-基であり、Rが-CH-CH-、RおよびRが各々フェニル基であり、R5がtert-ブチル基である一般式Ibの化合物である。化合物8Dおよび8Lは、Aがtert-ブチル基である一般式Ibの化合物である。
【0052】
略称で使用される略語は、以下の意味を有する:
Boc t-ブトキシカルボニル
Fmoc 9-フルオレニルメチルオキシカルボニル
MOM メトキシメチル
OH カルボキシル単位のヒドロキシ基
TBDPSE t-ブチルジフェニルシリルエチル
TEOC 2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル
D-Tyr D-チロシン
L-Tyr L-チロシン
【0053】
例1
Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(1D)の合成
反応式B1に記載されているように、Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OHの合成を行った:
【化19】
ステップ(a)において、(R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシ-3-ヨードフェニル)プロピオン酸 11(これは、3-ヨード-D-チロシンまたは3-ヨード-D-Tyr-OHとも示される)とN-(9-フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)-スクシンイミド(Fmoc-OSu)と反応させ、(R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシ-3-ヨードフェニル)プロピオン酸 12(Fmoc-3-ヨード-D-Tyr-OHとも示される)を得た。反応は炭酸ナトリウム水溶液と1,4-ジオキサンの混合物中で生じた。ステップ(b)において、化合物12をメトキシメチルブロミド(CH-O-CH-Br)と反応させて、メトキシメチル-(R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(メトキシメトキシ)フェニル)プロパノエート 13(Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OMOMとも示される)を得た。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とテトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)の存在下でジクロロメタン(DCM)中で反応が生じる。ステップ(c)において、化合物13は、次いで標的化合物1Dに変換される。反応はテトラヒドロフラン(THF)、水、ピリジンの混合物中で生じる。
【0054】
生成した化合物をHPLC分析とLC-MS分析の両方で分析した。
【0055】
a)Fmoc-3-ヨード-D-Tyr-OH(12)の合成
3-ヨード-D-Tyr-OH 11(5g、16.28mmol)をアルゴン雰囲気中で50mLのNaCO水溶液(1.726g、16.28mmol)に懸濁した。ジオキサン10mLを加え、氷水浴中で黄色溶液を冷却した。1,4-ジオキサン50mLに溶解したFmoc-OSu(5.492g、16.28mmol)をアルゴン雰囲気下で滴下漏斗を介して滴下して添加した。添加後、反応混合物を氷水浴中で1時間、その後室温で撹拌した。17時間後、薄層クロマトグラフィー(溶出液として、DCM/メタノール(MeOH)、9:1)で、所望の生成物Fmoc-3-ヨード-D-Tyr-OHへの完全な変換を示した。HO100mlを加え、混合物を氷水浴中で冷却した。pHが2~3に達するまで30%HCl(約4ml)を添加した。混合物を酢酸エチル(3x150mL)で抽出し、合わせた有機相をHO(2x150mL)およびブライン(塩水)(1x150mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥し、濾過した(フィルター孔径4)。溶媒を回転蒸発により除去し、残留物を高減圧下で乾燥した。収率:9.5g(110%、定量)の白色泡状固体粗生成物は精製せずに次のステップで使用した。
【0056】
HPLC:t=7.26min.LC-MS:t=12.57min,m/z=530.05[M+H],1059.16[2M+H]HNMR(DMSO-d,500MHz):12.70(br,1H),10.12(s,1H),7.88(m,2H),7.72-7.60(m,4H),7.43-7.39(m,2H),7.34-7.28(m,2H),7.09(m,1H),6.79(m,1H),4.21-4.18(m,3H),4.10-5.05(m,1H),2.97-2.93(m,1H),2.75-2.70(m,1H)。
【0057】
b)Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OMOM(13)の合成
Fmoc-3-ヨード-D-Tyr-OH 12(9.5g、すなわち、8.62g、16.28mmol≡100%)をアルゴン雰囲気下で120mLのDCM(無水)中に懸濁した。DIPEA(5.673ml、32.57mmol、2当量)を加え、室温で10分間攪拌した後、黄色溶液とした。TBACl(453mg、1.628mmol、0.1当量)を加え、混合物を氷冷した水浴中で冷却した。DCM(無水)30mlで希釈した臭化メトキシメチル(MOMBr)(2.658mL、32.57mmol、2当量)をアルゴン雰囲気下で滴下漏斗を介して滴下した(ガス発生)。添加後、反応混合物を氷冷下で撹拌した。1時間後、室温でさらに18時間攪拌を続けた。DC(DCM/MeOH,50:1)は完全な転換を示した。100mLのHOを加え、混合物を室温で激しく撹拌した。1時間後、各相を分離漏斗で分離した。水相は毎回150mlのDCMで数回抽出した。合わせた有機相を1NのHCl(2x150mL)およびブライン(150mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、濾過した(フィルター孔径4)。溶媒は減圧下で除去し、残留物を高減圧下で乾燥した。収率:11g(109%、定量)の白色泡状固体粗生成物は精製せずに次の段階で使用した。
【0058】
HPLC:t=8.97min.LC-MS:t=14.76min,m/z=618.12[M+H],1235.32[2M+H]
【0059】
c)Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(1D)の合成
Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OMOM 13を140mLのTHF(p.a.)に溶解した。400mLのHOと10mLのピリジンの混合物を攪拌しながら加えた。透明な混合物が形成されるまで約100mlのTHF(p.a.)を添加した。激しく攪拌しながら、油浴(70℃)で混合物を加熱して還流させた。64時間後、HPLC(214nm)は出発物質の生成物Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OHへの完全な変換を示した(tR=8.96分)。溶媒(THF)を減圧下で蒸発させた。この混合物に2NのHCl(約120ml)を氷冷下で添加した。溶液のpHはpH4とpH5の間であった。混合物をDCM(3x150mL)で抽出し、合わせた有機相を0.5NのHCl(2x150mL)および飽和ブライン(150mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥し、濾過した。溶媒を減圧下で蒸発させ、残留物を高減圧下で乾燥した。収率:9.7g(104%、定量)の白色泡状固体粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製した(収率:4.6g、HPLCによる純度(214nm):>95%)。
【0060】
m/z=574.11[M+H]+,1147.26[2M+H]+.1H-NMR(400MHz,CDCl)(ppm):7.752(d,2H),7.610(s,1H),7.549(m,2H),7.387(t,2H),7.307(m,2H),7.042(d,1H),6.960(d,2H),5.185(s,2H),4.697(m,1H),4.444(m,1H),4.336(m,1H),4.201(m,1H),3.483(s,3H),3.131(m,1H),3.004(m,1H)。
【0061】
例2
Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(5D)の合成
Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OHの合成は反応式B2に記載されているように行った:
【化20】
ステップ(a)において、(R)-2-アミノ-3-(4-ヒドロキシ-3-ヨードフェニル)プロピオン酸 11(これは3-ヨード-D-チロシンまたは3-ヨード-D-Tyr-OHとしても知られている)とジ-tert-ブチルジカルボナート(BocO)とを反応させて、(R)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシ-3-ヨードフェニル)プロピオン酸 22(Boc-3-ヨード-D-Tyrr-OHとしても知られている)が得られる。反応は水、テトラヒドロフランおよびトリエチルアミンの混合物中で生じる。次に、ステップ(b)において、化合物22を臭化メトキシメチル(CH-O-CH-Br)と反応させて、メトキシメチル-(R)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-3-(3-ヨード-4-(メトキシメトキシ)フェニル)プロパノエート23(Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OMOMとしても知られている)を得る。反応は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とテトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)の存在下でジクロロメタン(DCM)中で生じる。次に、ステップ(c)において、化合物23を反応させ、標的化合物5Dに変換される。反応はテトラヒドロフラン(THF)、水、ピリジンの混合物中で起こる。
【0062】
a)Boc-3-ヨード-D-Tyr-OH(22)の合成
3-ヨード-D-Tyr-OH 11(16.28mmol)をTHF/HO(1:1)の混合物150mLに溶解し、TEA(4.44mL、32.56mmol、2当量)を添加した。この混合物を氷上で0℃に冷却した。BocO(3.63mL、17.9mmol、1.1当量)を30℃の水浴中で溶解した後、20mLのTHFに溶解した。この溶液を滴下漏斗に移し、30分間かけて滴下した。1時間後、氷浴を除去し、反応混合物を室温で一晩撹拌した。変換の完全性をHPLCでチェックした。THFを減圧除去した。水溶液は1MのHClでpH3~4に調整し、酢酸エチルによって各回150mlで3回抽出した。合わせた有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥し、溶媒を減圧除去した。生成物を高減圧下で乾燥した。合成産物(Boc-3-ヨード-D-Tyr-OH 22)の純度をHPLC(>95%)により測定した。
【0063】
b)Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OMOM(23)の合成
Boc-3-ヨード-D-Tyr-OH 22(16.28mmol)を乾燥DCM120mLに溶解した。DIPEA(5.67mL、32.56mmol、2当量)および塩化テトラブチルアンモニウム(0.453g、1.63mmol、0.1 当量)を添加した。臭化メトキシメチル(2.657mL、32.56mmol、2 当量)をDCM(無水)30mLに溶かした液を、Boc-3-ヨード-D-Tyr-OHの氷冷した溶液に30分間かけて徐々に滴加した。1時間後、氷浴を除去し、その後室温で一晩撹拌した。水を加えて分離し、有機相を乾燥した後、有機相を減圧蒸発させた。変換の完全性をHPLCでチェックした。生成物Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OMOM 23をHPLCにより同定した(>95%)。
【0064】
c)Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(5D)の合成
Boc-I-D-Tyr(MOM)-OMOMをTHF20mLに溶解した。LiOHの2M水溶液20mlを加え、室温で2時間撹拌した。THFを減圧除去した。DCM300mlと5%KHSO溶液150mlを加え、5分間撹拌した。相分離後、150mlのDCMで水相を1回抽出した。合わせた有機相をNaSO上で乾燥し、溶媒を減圧で除去した。得られた生成物を凍結乾燥した。
【0065】
H-NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):7.619(s,1H),7.103(d,1H),6.993(d,1H),5.216(s,2H),4.968;4.54(m,1H),3.504(s,3H),3.138(m,1H),2.993(m,1H),1.440(s,9H)。
【0066】
例3
a)トリペプチドの合成
トリペプチドを製造し、本発明による一般式IAの化合物の改善されたカップリング特性を実証した。生成したトリペプチドを表2に示す。ここで、Acはアセチル、Meはメチル、Ambはアミノメチルベンゾイル、Pbfは2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル基を示す。
【0067】
Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(化合物1D)またはBoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(化合物5D)のいずれかを用いて、本発明によるトリペプチドP1およびP2を製造した。さらに、比較を目的としてトリペプチドV1およびV2を製造した。トリペプチドV1およびV2は、フェノール性ヒドロキシ基の保護があることで、トリペチドP1およびP2とは異なる。トリペチドP1およびP2においては、フェノール性ヒドロキシ基は-CH-O-CH基(MOM)により保護されており、トリペプチドV1およびV2では保護されていない。
【0068】
【表2】
【0069】
トリペプチドは、「Barlos樹脂」としても知られるクロロトリチル樹脂上でMerrifieldによって開発されたFmoc/tBu戦略を用いて製造された(Barlos, K., et al., Darstellung geschuetzter Peptid-Fragmente unter Einsatz substituierter Triphenylmethylharze, Tetrahedron Letters, 1989, 30(30), S. 3943-3946)。これにより、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)のような弱酸性化合物を用いて完全に保護されたペプチド断片を切断することができる。すべてのアミノ酸様成分のカップリングは、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)およびヒドロキシイミノシアノ酢酸エチルエステル(Oxyma)を用いて行った。Fmoc保護基をDMF中の20%ピペリジンで切断した。DCM中20%の1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-オール(HFIP)で樹脂からペプチドを切断した。
【0070】
b)比較試験
本発明によるトリペプチドP1およびP2並びに比較のために供するトリペプチドV1およびV2は、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)およびヒドロキシイミノシアノ酢酸エチルエステル(Oxyma)を用いて60分以内にカップリングさせた。
【0071】
Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(1D)をH-N-Me-D-Orn(Amb-Ac)-Arg(Pbf)-クロロトリチル樹脂にカップリングさせ、トリペプチドP1を製造した。カップリングを速度論的に追跡した。結果は表3のとおりであった。
【0072】
【表3】
【0073】
トリペプチドV1を製造するために、Fmoc-3-ヨード-D-Tyr-OHをH-N-Me-D-Orn(Amb-Ac)-Arg(Pbf)-クロロトリチル樹脂にカップリングさせた。カップリングを速度論的に追跡した。結果は表4のとおりであった。
【0074】
【表4】
【0075】
トリペプチドP2を製造するために、Boc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(5D)をH-N-Me-D-Orn(Amb-Ac)-Arg(Pbf)-クロロトリチル樹脂にカップリングさせた。カップリングを速度論的に追跡した。結果は表5のとおりであった。
【0076】
【表5】
【0077】
トリペプチドV2を製造するために、Boc-3-ヨード-D-Tyr-OHをH-N-Me-D-Orn(Amb-Ac)-Arg(Pbf)-クロロトリチル樹脂にカップリングさせた。カップリングを速度論的に追跡した。結果は表6のとおりであった。
【0078】
【表6】
【0079】
本発明によるトリペプチドP1およびP2、ならびに比較のために使用されるトリペプチドV1およびV2の製造においては、Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH (1D)およびBoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(5D)の両方の使用によって、高純度および高収率で標的化合物が得られることを示す。保護されていないヨード-チロシン誘導体を側鎖に使用すると、収率が著しく低下し、不特定の副生成物が生成された。トリペプチドP1およびP2は、保護されたフェノール性ヒドロキシ官能基を有する本発明のチロシン誘導体の使用によって生じるペプチド合成の効率の向上を実証する。
【0080】
例4
ペンチキサーテル(Pentixather)の合成
ペンチキサーテルはアミノ酸Fmoc-3-ヨード-D-Tyr(MOM)-OH(1D)を用いて非常に効率的に製造できたが、非保護アミノ酸Fmoc-3-ヨード-D-Tyr-OHを用いると、ほとんど変換されないか、まったく変換されない結果となった。
【0081】
例5
PSMAI&Tの合成
化合物Glu-CO-Lys[(Sub)DLys-DPhe-DTyr(3I)-DO-TAGA]トリフルオロ酢酸(PSMAI&T)の合成(Wirtz, M., et al., Synthesis and in vitro and in vivo evaluation of urea-based PSMA inhibitors with increased lipophilicity. EJNMMI Research, 2018. 8(1): p. 84))は、保護されていない誘導体の代わりにBoc-3-ヨード-D-チロシン(MOM)-OH(1D)を使用した場合、より高い効率で最終生成物の有意に改善された純度で、Pentixatherの合成を同様に進めることができた。
【0082】
引用された文献
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5. Schottelius, M., et al., [(177)Lu]pentixather: Comprehensive Preclinical Characterization of a First CXCR4-directed Endoradiotherapeutic Agent. Theranostics, 2017. 7(9): p. 2350-2362.
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【国際調査報告】