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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】誘導放出を用いた量子状態読み出し
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20231201BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532649
(86)(22)【出願日】2021-11-29
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 US2021061034
(87)【国際公開番号】W WO2022119781
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】17/499,999
(32)【優先日】2021-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/119,728
(32)【優先日】2020-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523000950
【氏名又は名称】コールドクアンタ・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】COLDQUANTA,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラドナエヴ・アレクサンドル・ゲオルゲヴィチ
(57)【要約】
【解決手段】原子の量子状態読み出しが、誘導放出を用いて、例えば、原子からの光子放出を誘導するよう選択された波長を有する電磁放射(EMR)により原子を照射することによって、実行される。かかる放出は、四波混合を用いて誘導されてよく、この場合、3つの照射波長が、放出波長を誘導するために混合される。照射波長は、誘導放出ではなく自然放出につながる原子軌道による捕捉を避けるために、近くの共振波長から離調されている。誘導放出は、指向性であり、強い信号の捕捉を容易にする。照射波長は、放出検出におけるノイズを最小化するために、放出波長とは異なる方向になるように選択されうる。最終的な結果として、高信号対ノイズ比の検出信号および量子状態読みだしが実現される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子状態読み出し処理であって、
照射波長の照射セットで特徴付けられる電磁放射(EMR)で量子状態キャリア(QSC)を照射し、前記EMRの照射は、前記QSCが前記照射中に第1固有状態にあった場合に、それぞれの放出波長のEMRを放出するように前記QSCを誘導し、
前記放出波長のEMRが前記QSCから放出されたか否かを検出し、
前記検出に基づいて、前記QSCが前記第1固有状態にあったか否かを判定すること、
を備える、処理。
【請求項2】
請求項1に記載の量子状態読み出し処理であって、さらに、前記照射の前に、前記QSCを重ね合わせ状態に移行させることを備え、前記QSCは、前記照射中に前記重ね合わせ状態から前記固有状態へ切り替わる、処理。
【請求項3】
請求項1に記載の量子状態読み出し処理であって、前記照射波長の少なくとも1つは、前記QSCの共振波長から離調されている、処理。
【請求項4】
請求項1に記載の量子状態読み出し処理であって、前記放出EMRは、前記照射EMRの方向の各々と異なる方向を有する、処理。
【請求項5】
請求項1に記載の量子状態読み出し処理であって、3つの照射波長が存在し、各照射波長は、前記QSCのそれぞれの共振波長から0.1~100ピコメートルの範囲内の量だけ離調され、各照射波長は、前記放出EMRの方向とは異なるそれぞれの照射方向を有し、前記QSCは、原子であり、前記波長は、近赤外光および可視光を含む範囲内にある、処理。
【請求項6】
量子状態読み出しシステムであって、
照射波長の照射セットで特徴付けられる電磁放射(EMR)で量子状態キャリア(QSC)を照射するための照射システムと、前記照射EMRは、前記QSCが前記照射中に第1固有状態にあった場合に、それぞれの放出波長のEMRを放出するように前記QSCを誘導し、
前記放出波長のEMRが前記QSCから放出されたか否かを検出するための検出器システムと、
前記検出に基づいて、前記QSCが前記第1固有状態にあったか否かを判定するための解析器と、
を備える、システム。
【請求項7】
請求項6に記載の量子状態読み出しシステムであって、さらに、前記QSCを重ね合わせ状態に移行させるための量子コンピュータを備え、前記QSCは、前記照射中に前記重ね合わせ量子状態から前記固有状態へ切り替わる、システム。
【請求項8】
請求項6に記載の量子状態読み出しシステムであって、前記波長の少なくとも1つは、前記QSCの共振波長から離調されている、システム。
【請求項9】
請求項6に記載の量子状態読み出しシステムであって、前記放出波長は、前記照射EMRの方向の各々と異なる方向を有する、システム。
【請求項10】
請求項6に記載の量子状態読み出しシステムであって、前記照射システムは、3つの照射波長で照射し、各照射波長は、QSCのそれぞれの共振波長から0.1~100ピコメートルの範囲内の量だけ離調され、各照射波長は、前記放出EMRの方向とは異なるそれぞれの照射方向を有し、前記QSCは、原子であり、前記波長は、近赤外光および可視光を含む範囲内にある、システム。
【発明の詳細な説明】
【他の出願への相互参照】
【0001】
本願は、2021年10月13日出願の「QUANTUM-STATE READOUT USING FOUR-WAVE MIXING」と題する米国特許出願第17/499,999号、および、2020年12月1日出願の「QUANTUM STATE READOUT AND IMAGING WITH FOUR-WAVE MIXING」と題する米国仮特許出願第63/119,728号に基づく優先権を主張し、これらの出願は両方とも、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
古典的なデジタルコンピュータは、古典的な情報の単位(例えば、ビット)を扱うが、量子コンピュータは、量子情報の単位(例えば、量子ビット)を扱う。古典ビットおよび量子ビットは両方とも、2状態キャリアを用いて物理的に表されうる。2状態量子キャリアの例は、スピンアップ状態およびスピンダウン状態を取りうる電子と、基底状態または励起状態のいずれかを取りうる原子内の電子とを含む。古典2状態キャリアは、いつでも2つの状態の内の一方を取り、量子2状態キャリアは、同時に両方の状態の量子重ね合わせ状態を取りうる。
【0003】
量子計算が完了すると、結果を読み出すことができる。基礎となる量子技術(例えば、超電導回路、イオン、冷却中性原子)に関わらず、重ね合わせ状態は、確率論的に非重ね合わせ状態へ崩壊する。実際には、量子ビットは、ビットに還元される。したがって、目的は、各量子状態キャリアの非重ね合わせ状態(すなわち、固有状態)を決定することである。
【0004】
例えば、冷却原子量子アレイが、蛍光を用いて読み出されうる。蛍光は、励起状態の電子が基底状態または少なくともあまり励起していない状態へ緩和する過程で光子を自発的に放射した時に起こりうる。(例えば)ロジック1を表す第1量子状態の原子とロジック0を表す第2量子状態の原子とを区別するために、アレイ内の原子は、前者のみを蛍光可能状態に励起するように選択された光を照射されうる。蛍光可能状態の原子が光子を放出した時に、アレイの画像が形成されうる。そうして、画像は、どのアレイ位置がロジック1を表す原子を保持しており、どのアレイ位置が保持していないのかを示す。しかしながら、読み違いが、画像における低い信号対ノイズ比に起因して起こりうる。したがって、既存の量子状態読み出しアプローチよりも高い信号対ノイズ比を達成する読み出しアプローチが求められている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】誘導放出に基づく量子状態読み出しシステムを示す概略図。
【0006】
図2】誘導四波混合読み出しの文脈で運動量の保存の影響を示す概略図。
【0007】
図3図1のシステムおよびその他のシステムで実施可能な量子状態読み出し処理を示すフローチャート。
【0008】
図4】2進値を表す2つの量子状態の各々のために1つずつの2つの誘導四波混合システムを用いる量子状態読み出しシステムを示す概略図。
【0009】
図5】2進値を表す2つの量子状態の各々に対してポジティブ検出を提供するデュアル誘導四波混合システムを用いる量子状態読み出しシステムを示す概略図。
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、電磁放射(EMR)(例えば、可視光および近赤外光)の誘導放出を用いた量子状態読み出しを提供する。誘導放出は、高指向性である傾向があり、放出された光子を高い割合で捕捉することを容易にする。高い割合で捕捉された放出物は、強力な放出検出信号をもたらす。さらに、誘導された放出からの誘導する照射の空間的分離を容易にするように、照射波長および入射角を選択でき、低いノイズ捕捉につながる。組み合わせることで、高い割合の捕捉および照射波長の優れた排除が、高い信号対ノイズ比と、改善された読み出し性能とを提供する。
【0012】
本明細書において、「誘導放出」は、「自然放出」とは区別されている。誘導放出は、運動量の保存により、放出の方向が照射の方向に基づくように、照射と同時に起きる。自然放出は、運動量の保存が照射イベントおよび放出イベントへ別個に適用されるように、照射に対してランダムな遅延の後に起きる。結果として、放出方向は、照射方向と独立しているので、任意の方向でありうる。自然放出の全指向性は、大きい割合の放出を捕捉することを困難にするが、誘導放出の指向性は、高い捕捉率および関連する強力な信号を可能にする。
【0013】
放出は、単一の光子または複数の光子を用いて誘導されうる。後者の場合、複数の光子は、異なる方向および波長の光子を含みうる。本発明は、異なる方向および波長の放出も提供する。図1の実施形態は、例えば、それぞれの方向を有する3つの照射波長と、3つの照射波長によって決定される方向を有する1つの放出波長とを用いた誘導放出四波混合を利用する。
【0014】
図1に示すように、量子状態読み出しシステム100は、誘導放出四波混合を実施するために、レーザシステム102、光検出器104、および、画像解析器106を備える。読み出される量子状態キャリア(QSC)は、誘導放出四波混合をサポートするために非線形性を有するシステム(例えば、冷却中性ルビジウム87(87Rb)原子110)である。原子110は、以下に示すように、その外殻電子が占めうる多数の固有状態エネルギレベル(「軌道」とも呼ばれる)を有する。ロジック0を表すために用いられる固有状態エネルギレベル|0>、ロジック1を表すために用いられる固有状態エネルギレベル|1>、ならびに、基準固有状態エネルギレベル|a>、|b>、および、|c>。
【0015】
レーザシステム102は、それぞれの方向に沿って原子110に向かって、波長λ、λ、および、λを有する電磁放射(EMR)を出力する。説明の目的で、波長λを有するEMRは、固有状態エネルギレベル|1>から固有状態|a>に対して非共振である非固有状態(非軌道)エネルギレベル|a’>へ電子を上方遷移させるようトリガすると見なされてよく、波長λは、非固有状態エネルギレベル|a’>から固有状態エネルギレベル|b>に対して非共振である非固有状態レベル|b’>へ電子を上方遷移させるようトリガすると見なされてよく、波長λは、非固有状態エネルギレベル|b’>から固有状態エネルギレベル|c>に対して非共振である非固有状態エネルギレベル|c’>へ電子を下方遷移させるようトリガすると見なされてよい。原子110は、波長λ、λ、および、λを「混合」して、波長λ=λ+λ-λのEMRを生み出し、これは、波長λ、λ、および、λによる原子110の照射に応じて放出される。
【0016】
ルビジウム87(87Rb)原子の例については、|0>=|5s1/2,F=2,m=0>、|1>=|5s1/2,F=1,m=0>、|a>=|5p3/2,F=2>、|b>=|6s1/2,F=1>、|c>=|5p1/2,F=2>、である。87Rbにおいて、離調の大きさは、λに対して41メガヘルツ(MHz)、λに対して30MHz、および、λに対して6MHzである。これらの離調は、1ナノメートルにも満たない波長に対応しており、より具体的には、1~10ピコメートルの範囲内にある。セシウム133(133Cs)の例については、|0>=|6s1/2,F=3,m=0>、|1>=|6s1/2,F=4,m=0>、|a>=|6p1/2,F=4>、|b>=|7s1/2,F=4>、|c>=|6p3/2,F=5>、である。離調は、原子および対象となる遷移に依存するが、一般に、ピコメートル範囲(0.1~100ピコメートル)未満の波長シフトになる。
【0017】
四波混合は、放出が自然放出ではなく誘導放出になりうるように、照射周波数が原子共振にどれだけ近いのかを選択することなど、豊富な選択肢を提供する。共振照射は、指向性放出ではなく、自然放出をもたらしうる。自然放出の場合、照射および放出は、運動量の保存の結果として照射の吸収中および放出中の両方に反跳が起こりうるように、切り離されている。反跳は、原子の望ましくない変位および加熱につながりうる。レーザが共振から離調されるレジームにおいて、原子は、四波混合処理中に状態を変化させず、自然放出は抑制されるため、これは、有益に加熱を低減し、処理効率を高めうる。誘導放出の場合、第4波の生成は、3つのレーザ場によって誘導振動している原子双極子モーメントの混合の結果と考えることができる。
【0018】
あるいは、照射波長は、自然放出が起こりうる許容固有状態/軌道への1または複数の遷移をもたらすよう選択されうる。自然放出の方向はランダムであるため、高い捕捉率ひいては高い信号対ノイズ比を達成するのは困難でありうる。一方、照射波長を用いて許容固有状態/軌道への遷移を避けると、高指向性の誘導放出につながり、高い割合の光子捕捉および照射からの放出の良好な空間的分離、ひいては、強力な放出検出信号を促進する。
【0019】
強力な放出検出信号は、低照射ノイズ検出レベルと組み合わせられうる。低照射ノイズ検出レベルは、放出方向とはいずれも異なる照射方向を選択することによって達成されうる。87Rbの例について、照射波長λ=70ナノメートル(nm)、λ=1367nm、λ=1324nmに対する方向(対応する運動量ベクトルp 、p 、および、p によって図2に表されている)は、放出波長λ=455nmの方向(運動量ベクトルp によって図2に表されている)とは各々異なっている。運動量の大きさp ∝1/λ(例えば、i=1,2,3,4)なので、運動量は、波長が短いほど大きくなる。運動量が原子自体によって失われまたは得られると仮定すると、運動量の保存は、p =p +p +p を必要とする。87Rbの例について、運動量ベクトルp に対する運動量ベクトルp 、p 、および、p のそれぞれの角度は、α=1.7°,α=-0.55°および、α3=-2.25°であり、放出波長λからの照射波長λ、λ、および、λの空間フィルタリングを可能にするのに十分である。もちろん、照射検出ノイズのさらなる低減が、スペクトルフィルタリングで達成されうる。強力な信号検出と低照射ノイズとの組みあわせが、高い信号対ノイズ比を生み出す。
【0020】
したがって、光検出器104は、波長λの所定の経路に沿って配置されうる。この位置において、光検出器104は、波長λ、λ、および、λの経路の外にあるので、これらの照射波長が波長λの検出に与えるノイズはごくわずかである。赤外線(IR)除去フィルタ202を用いて、近赤外線(700~1400nm)照射波長、すなわち、λ=780nm、λ=1367nm、および、λ=1324nm、をスペクトル的にフィルタアウトして、それらが光検出器104に到達しないようにすることによって、さらなるノイズ低減が達成されうる。他の実施形態において、その他のスペクトルフィルタおよび偏光フィルタが、ノイズ低減のために用いられてもよい。
【0021】
したがって、誘導放出四波混合読み出し方法は、四波混合光が、全方向に放出される蛍光よりもはるかに指向性が高いことから、検出器上で実質的に高い(10~100x)光子束を生み出すことができる。典型的な実際のイメージングシステムは、捕集立体角の制限により、蛍光の一部だけ(~1~10%)しか捕集できない。FWM光照射野立体角は、はるかに小さいため、10~100xの高い光子検出をもたらすそれらのイメージングシステムによって完全に捕集されることが可能であり、したがって、同数の光子を検出するのに、10~100xよりも小さい倍数でよい。
【0022】
量子状態読み出し処理300が、図3にフローチャートで示されており、量子状態読み出しシステム100およびその他のシステムに実装されうる工程301において、量子計算またはその他の処理が、量子状態キャリア(QSC)を量子状態(典型的には、未知の重ね合わせ状態)に移行させる。例えば、量子状態読み出しシステム100は、可能な重ね合わせ量子状態を生成する量子コンピュータとして機能しうる。
【0023】
量子計算において、QSCの量子状態は、QSCが相互作用させられるように操作される。典型的には、量子計算結果は、読み出される前には未知である。読み出し処理は、読み出されるものが非重ね合わせQSC固有状態(量子値の古典的な実現を表す)になるように、重ね合わせ状態を崩壊させる。量子計算の結果として得られる重ね合わせ値は、読み出し結果の統計的分布を得るために量子計算を多数回反復することによって近似されうる。
【0024】
工程302において、QSCは、例えば、レーザ光を用いて、1または複数のセットの照射波長で照射される。照射中、QSCは、重ね合わせ量子状態から固有状態へ切り替わりうる。量子状態読み出しシステム100(図1)は、3つの照射波長を1セット用いて、1つの量子固有状態を確実に検出する。後にさらに論じるように、量子状態読み出しシステム500(図5)および600(図6)は各々、3つの波長を2セット用いて、2つの異なる固有状態を確実に検出する。3つ以上の波長のさらなる照射セットが、3つ以上の固有状態を確実に区別するために用いられてもよい。
【0025】
本発明は、四波混合以外の技術を用いて誘導放出を提供する。例えば、単一の照射波長が、励起状態で準備された原子において放出を誘導できる。いわゆる「三波混合」と呼ぶことができるものにおいて、離調2光子遷移が、第3波長の放出を誘導するために利用されうる。n>5での離調n波誘導が、四波混合で用いられる1光子遷移の代わりに2以上の光子遷移を用いることによって達成されうる。システムがnプロセスをサポートするために良好な非線形性を有する限りは、任意のn波混合が可能である。
【0026】
工程303において、QSCが照射されている間に、放出波長のそれぞれの放出の有無が検出されうる(誘導放出が照射と同時であるため)。1つの光検出器からの1つの読み出しが、1つの量子状態の有無を示しうる。2以上の光検出器の各々からの1つの読み出しが、同じ数の量子状態の有無を示しうる。必要とされる光検出器の数は、2色または多色検出器を用いることによって、または、光検出器を時分割多重化することによって削減されうる。
【0027】
工程304において、量子状態読み出しが、工程303で得られた検出に基づいて達成される。量子状態読み出しシステム100において、画像解析器106が、量子状態自体および/または量子状態によって表される論理値を決定するために、光検出器104からの読み出しを解析する。例えば、原子の検出された固有状態が決定され、論理値がエネルギレベルから決定されうる。あるいは、量子状態は、電子エネルギレベルの途中での決定なしに論理値の形態であってもよい。いずれにしても、量子計算の結果の決定が完了しうる。
【0028】
冷却原子量子計算では、それぞれの量子レジスタサイトにおける原子の読み出しが必要とされる。多数の原子が存在しうるので、原子がそのサイトを空けるリスクがある。このリスクに鑑みて、或る状態(例えば、ロジック1状態)の原子を有していないサイトが、別の状態(例えば、ロジック0状態)の原子を有するはずであると仮定することはできない。このリスクに対処するために、図4に示す量子状態読み出しシステム400が、第1(例えば、ロジック1)状態のおよび第2状態(例えば、ロジック0状態)のポジティブ/ブライト識別を提供し、一方、ネガティブ/ダーク(またはダブルブライト)検出が、エラー状態を示す。
【0029】
量子状態読み出しシステム400は、87Rb原子450を読み出すために設計されたロジック1読み出しサブシステム430およびロジック0読み出しサブシステム440を備える。ロジック1読み出しサブシステム430は、「ロジック1」レーザシステム432および「ロジック1」光検出器434を備え、ロジック0読み出しサブシステム440は、「ロジック0」レーザシステム442および「ロジック0」光検出器444を備える。より概略的には、量子状態読み出しシステム400が、レーザシステム432および442を含むレーザシステム452と、光検出器434および444を含む光検出器システム454と、を備える。
【0030】
ロジック1レーザシステム432は、波長λ11、λ12、および、λ13を出力する。これらの波長および波長それぞれの方向は、87Rb原子450がロジック1状態にある条件で、原子450が、ロジック1光検出器434によって検出可能である方向に波長λ14を放出するように選択される。ロジック0レーザシステム442は、波長λ01、λ02、および、λ03を出力する。これらの波長および波長それぞれの方向は、87Rb原子450がロジック0状態にある場合に、原子450が、ロジック0光検出器444によって検出可能である方向に波長λ04を放出するように選択される。
【0031】
光検出器434および444によって出力された検出信号は、読み出しテーブル460によって図5に表されている検出プロセッサに送信される。テーブル460によって示されるように、ロジック1光検出器434からの検出と、ロジック0光検出器444からの非検出との組み合わせで、87Rb原子450が、そのロジック1状態にあった(例えば、ロジック1を表していた)ことが示される。ロジック0光検出器544からの検出と、ロジック1光検出器434からの非検出との組み合わせで、87Rb原子450が、そのロジック0状態にあった(例えば、ロジック0を表していた)ことが示される。両方の光検出器434および444からの非検出は、失われた原子などのエラーε状態を示す。両方の光検出器434および444からの検出有りも、エラー状態を示す。一連の原子が調べられる場合、2進列が、コンテキストに従って解釈されるために取得されうる。
【0032】
図5に示す量子状態読み出しシステム500は、量子状態読み出しシステム400の変形例であるが、対象となる第2状態を扱うための別個のレーザシステム(例えば、図4のロジック0レーザシステム442)の必要性をなくす。ロジック1レーザシステム432は、3つのビームスプリッタ502を備えるよう変形されており、それらのビームスプリッタは、波長λ11、λ12、および、λ13を有するEMRのコピーを提供する。これらのコピーは、3×周波数発生器506によって受信されたそれぞれの周波数によって決定された量だけ、波長λ11、λ2、および、λ13をシフトさせる1セットの3つのそれぞれの電気光学変調器504に入力される。返される結果は、それぞれ、波長λ01、λ02、および、λ03である。システム500は、いくつかの中間光検出結果が、明確なYes(1)またはNo(0)として認められえない可能性を考慮に入れて、3レベル読み出しテーブル560を利用する。図に示すように、読み出しの2つの組みあわせ以外はすべて、エラー状態を表している。他の点では、システム500は、システム400と同じである。レーザシステム432、3×EOM504、および、3×周波数発生器506は、レーザスーパーシステム552を構成するものと見なされてよい。
【0033】
本明細書には示されていない別の量子状態読み出しシステムは、1つのレーザシステムおよび1つの光検出器のみを用いる。レーザシステムは、システム500の3×EOMおよび3×周波数発生器を備える。この実施形態において、周波数発生器は、照射および混合波長を時分割多重化するために、2つの周波数の間(または、オフとオンとの間)で振動する。光検出器の出力は、異なる量子状態(例えば、ロジック1およびロジック0)に対する別個の読み取りに逆多重化される。
【0034】
本明細書において、「量子状態キャリア」すなわち「QSC」は、固有状態と、それらの固有状態の重ね合わせとを含む2以上の量子状態を取りうる任意の実体である。QSCは、量子状態の間で遷移しうる。量子状態は、固有状態(例えば、ロジック0およびロジック1を表すために用いられる状態を含む安定状態)と、固有状態の重ね合わせとを含む。基底状態の例えば超微細レベルは、異なる量子状態であると見なされうる。QSCの例は、荷電分子実体および中性分子実体、超電導電子回路、量子ドット、および、ダイヤモンド格子内の窒素-空孔中心を含む。より具体的には、中性および荷電のルビジウム、セシウム、ストロンチウム、および、イットリウム原子が、QSCとして機能しうる。本明細書において、「分子実体」は、国際純正・応用化学連合(IUPAC)ゴールドブックに定義されているように用いられており、以下を意味する。「任意の構造上または同位体的に異なる原子、分子、イオン、イオン対、ラジカル、ラジカルイオン、錯体、配座異性体など、個別に区別可能な実体として識別可能であるもの」。
【0035】
QSCは、量子情報の単位(例えば、量子ビットおよびその他の量子ビット)を表すことができる。(本明細書において、「量子ビット」は、基準x +x =1を満たす複素数値xによって表されうる量子情報の単位であり、ここで、xは、xの実数成分であり、xは、xの虚数成分であり、「量子ビット」は、その固有状態および重ね合わせの自然数dだけのセットからの値である)。
【0036】
本明細書において、「電磁放射」(EMR)は、1ピコメートル(pm)~100キロメートル(km)の波長に及ぶ。分子実体の形態のQSCに最も関係する波長は、近紫外光(~300-~400nm)、可視光(~400nm-~700nm)、および、近赤外光(~700-~1400nm)を含む、100~10,000nmの範囲内にある。本明細書において、EMR波長は、QSCの固有状態の間の遷移を含むことができる場合、QSCに対して「共振する」。本明細書において、EMR波長は、それが共振波長と等しくないが共振波長の1%以内にある場合、共振波長から「離調されている」。
【0037】
本明細書において、「冷却」は、1ミリケルビン(1mK)未満の温度を意味し、「超冷却」は、100μK(典型的なドップラー冷却限界)未満の粒子温度を特徴付ける。実施形態に応じて、超冷却粒子は、さらに低い100ナノケルビン(nK)未満でありうる。例えば、BECの一例において、温度は、約50nKでありうる。本明細書において、「超高真空」および「UHV」は、10-9Torr未満の圧力を意味する。
【0038】
本発明は、誘導放出を達成するために四波混合を用いる文脈で記載されている。いくつかの実施形態において、その他の技術が、量子状態読み出し実行の目的および/またはその他の目的で誘導放出を達成するために用いられてもよい。
【0039】
本明細書において、「従来技術」と表示されている技術があれば、従来技術として認められ、「従来技術」と表示されていない技術があれば、従来技術として認められない。図に示した実施形態、その変更例、および、その変形例は、本発明によって提供され、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって規定される。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】