(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ピストン圧縮機のためのピストンリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/24 20060101AFI20231201BHJP
F16J 9/20 20060101ALI20231201BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20231201BHJP
F16J 9/16 20060101ALI20231201BHJP
F16J 9/10 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
F16J9/24
F16J9/20
F04B39/00 107J
F16J9/16
F16J9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533829
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2021084177
(87)【国際公開番号】W WO2022117821
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592229502
【氏名又は名称】ブルクハルト コンプレッション アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100116322
【氏名又は名称】桑垣 衛
(72)【発明者】
【氏名】ファイステル、ノルベルト
【テーマコード(参考)】
3H003
3J044
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AC01
3H003BC03
3H003CB08
3J044AA02
3J044AA04
3J044BA06
3J044CB12
3J044CB18
3J044CB21
3J044CB22
3J044DA10
3J044DA16
(57)【要約】
ピストンリング(1)の第1環状体(10)と第2環状体(20)とは、軸方向(A)に隣接して互いに同心に配置される。第1環状体(10)は、径方向外方に向く外面(11)と、上部フランク(12)および下部フランク(13)と、径方向内方に向く内面(14)と、を有する。第2環状体(20)は、複数のシールリングセグメント(20a~20c)を備える分割型シールリング(20)として設計される。シールリングセグメント(20a~20c)は各々、少なくとも1つのガイド手段(4a~4c、5a~5c)によって第1環状体(10)上に案内される。ガイド手段(4a~4c、5a~5c)は、周方向(U)における第1環状体(10)に対するシールリングセグメント(20a~20c)同士の捩れを防止するとともに、軸方向(A)に対して横方向のシールリングセグメント(20a~20c)同士の変位を許容する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリング(1)、特にピストン圧縮機(100)用のピストンリング、であって前記ピストンリングは、
第1環状体(10)および第2環状体(20)を備えており、前記第1環状体(10)および前記第2環状体(20)は、軸方向(A)において互いに隣接しているとともに同心に配置されており、
前記第1環状体(10)は、径方向外方に向けられた外面(11)と、上部フランク(12)および下部フランク(13)と、および、径方向内方に向けられた内面(14)と、を有しており、
前記第2環状体(20)は、複数のシールリングセグメント(20a、20b、20c)を備えている分割型シールリング(20)として形成されており、前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)は各々、径方向外方に向けられたシール面(21a、21b、21c)と、上部シールリングセグメントフランク(22a、22b、22c)および下部シールリングセグメントフランク(23a、23b、23c)と、および、径方向内方に向けられた内面(24a、24b、24c)と、を備えており、
前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)は各々、少なくとも1つのガイド手段(4a、4b、4c、5a、5b、5c)によって前記第1環状体(10)上で案内されており、前記ガイド手段(4a、4b、4c、5a、5b、5c)は、周方向(U)における前記第1環状体(10、20)に対する前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)の捩れを実質的に防止しているとともに、前記軸方向(A)に対する横方向における前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)の変位を許容する、
ピストンリング(1)。
【請求項2】
前記ガイド手段(4a、4b、4c、5a、5b、5c)は、前記第1環状体(10)と前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)との接触するフランク同士が、互いに正対するように延びているように構成されている、
請求項1に記載のピストンリング(1)。
【請求項3】
前記ガイド手段(4a、4b、4c、5a、5b、5c)は、ガイド溝に係合するガイドリブとして形成されている、
請求項1または2に記載のピストンリング(1)。
【請求項4】
前記ガイド溝の深さ(T
N)は、0.5mm~4mmの間であり、好ましくは1mm~2mmの間であることと、
前記ガイド溝の幅(B
N)は、10mm~50mmの間であり、好ましくは20mm~40mmの間であり、特に好ましくは25mm~35mmの間であることと、
のうちの少なくとも1つが成立している、
請求項3に記載のピストンリング(1)。
【請求項5】
前記第1環状体(10)は一体に、好ましくはエンドレスに、形成されている、
請求項1~4のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項6】
前記第1環状体(10)は、複数個のベースリングセグメント(10a、10b、10c)を備えている分割型ベースリングとして形成されており、
前記ベースリングセグメント(10a、10b、10c)の数は、好ましくは前記分割型シールリング(20)の前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)の数に対応する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項7】
前記第1環状体(10)は、3つのベースリングセグメント(10a、10b、10c)によって形成されており、
前記第2環状体(20)は、3つの前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)によって形成されており、
前記ベースリングセグメント(10a、10b、10c)および前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)は、各々120度の弧にわたって延びている、
請求項1~6のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項8】
前記分割型シールリング(20)は、1mm~6mmの間の軸方向シールリング高さ(H
D)を有している、
請求項1~7のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項9】
前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)を相手面に押し付けるためのクランプリング(60)は、前記分割型シールリング(20)の径方向内方には配置されていない、
請求項1~8のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項10】
前記ピストンリング(1)はさらに、
互いに隣接する前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)同士の2つの対向する端部同士によって各々形成されるリング端部間隙(80)同士をシールするための、少なくとも1つの追加シール要素(70)を備えている、
請求項1~9のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項11】
前記ピストンリング(1)は、正に1つの追加シール要素(70)を備えており、前記追加シール要素(70)はシングルカットリングとして形成されており、
前記シングルカットリングの一方のリング端部は、前記シングルカットリングのリング平面内に横たわる径方向外方に向いた突起(71)を有しているL字形であり、
前記突起(71)は、前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)の内面(24a、24b、24c)上の凹部(25)に係合可能にされており、
前記凹部(25)は、好ましくは、前記分割型シールリング(20)上に配置された前記ガイド手段の領域内に配置されている、
請求項10に記載のピストンリング(1)。
【請求項12】
前記ピストンリング(1)はさらに、第3環状体(30)を備えており、
前記第3環状体(30)は好ましくはエンドレスであり、
前記第3環状体(30)は、径方向外方に向けられた外面(31)と、上部フランク(32)および下部フランク(33)と、および、径方向内方に向けられた内面(34)と、を有しており、
前記分割型シールリング(20)は、前記第1環状体(10)と前記第3環状体(30)との間に配置されている、
請求項1~11のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項13】
前記分割型シールリング(20)のうちの少なくとも1つの前記シールリングセグメントは、好ましくは全ての前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)は、前記第1環状体(10)上および前記第3環状体(30)上に案内される、
請求項12に記載されたピストンリング(1)。
【請求項14】
前記第1環状体(10)または第3環状体(30)は、それらのフランクに、前記分割型シールリング(20)から離れる方向に向くように少なくとも1つの径方向に延びている戻り流路(2)を備えており、
前記戻り流路(2)は、フランク幅全体にわたって径方向に延びているとともに、前記ピストンリング(1)の意図する使用中に圧縮室(V)に向かっており、
前記戻り流路(2)は、好ましくは三角形の面取り(3)を有している、
請求項1~13のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項15】
前記分割型シールリング(20)から出発して、
前記第1環状体(10)の径方向外方に向けられた前記外面(11)と、
第3環状体(30)の径方向外方に向けられた外面(31)と、
のうちの少なくとも1つは、前記軸方向(A)にテーパ状であり、好ましくは円錐状にテーパ状である、
請求項1~14のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項16】
前記第1環状体(10)は、径方向外方の環状縁部(15)に、前記分割型シールリング(20)から離れる方向に向く面取りを有しており、
前記面取りの面取り角度(α
1)は好ましくは1°~10°の間であることと、
前記面取りのウェブ高(H
S)は好ましくは少なくとも4mmであることと、
のうちの少なくとも1つが成立している、
請求項9~14のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項17】
第3環状体(30)は、前記分割型シールリング(20)に面する径方向外方の環状縁部(35)に面取りを有しており、
前記面取りの面取り角度(α
3)は好ましくは1°~10°の間であることと、
前記面取りのウェブ高さ(H
S)は好ましくは少なくとも4mmであることと、
のうちの少なくとも1つが成立している、
請求項9~14のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項18】
前記分割型シールリング(20)の組立状態において、2つの互いに隣接する前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)同士は、各々の前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)の前記シール面(21a、21b、21c)に向かって内面(24a、24b、24c)から径方向に延びている断面(S)の線に沿って、各々の場合で接触状態にある、
請求項1~17のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項19】
各々の前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)の端部は、周方向(U)において前記軸方向に段差を有しているように設計されており、
互いに隣接する前記シールリングセグメント(20a、20b、20c)同士の前記段差が有る前記端部同士は、前記軸方向(A)において少なくとも部分的に重なるように配置されることで軸方向シールを形成している、
請求項1~18のいずれか1項に記載のピストンリング(1)。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の少なくとも1つのピストンリング(1)を備えている、
ピストン圧縮機(100)、特に乾式走行ピストン圧縮機(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン圧縮機のためのピストンリングと、そのようなピストンリングを有しているピストン圧縮機と、に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストン圧縮機では、シリンダ内を往復するピストンによって、作動媒体が圧縮される。ピストンとシリンダ内壁との間に形成される環状間隙をシールするシール部材(シール要素)は、ピストンリングと呼ばれる。
【0003】
特許文献1に記載されたピストンリングは、摩擦シール要素としてデサインされたシールリングを備えている。シールリングは、シリンダ内壁に沿って摺動する。ピストンリングは複数の支持(サポート)リングを備えている。ピストンリングの軸方向の両側には支持リングが、すなわちベースリングとカバーリングとが、配置されている。シールリングには、シールリングの内方に、接線方向に延びている(走る)3つの切れ目がある。これらの切れ目は、シールリングを3つのシールリングセグメントに分割する。シールリングの内方に沿って配置されたクランプリングは、予圧を発生させることで、個々のシールリングセグメント同士をシリンダ内壁に押し付ける。材料のアブレーションによる磨耗(ウィアー)は、個々のシールリングセグメント同士が、シリンダ内壁の方向に作用する圧力によって押し戻されることによって、補われる。その結果、シールリングは、径方向に良好な適合性を示しているだけでなく、シリンダ内壁に対して良好なシールを形成しているので、発生し得る漏れを防止または軽減することができる。このようなピストンリングは、圧縮室が50MPa(500bar)を超える高圧負荷と、高温負荷と、のうちの少なくとも1つを有しているピストン圧縮機との組み合わせに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3555502号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなピストンリングの欠点は、シールリングまたはシールリングセグメントが押し戻されるときに損傷する虞れがあることによって、シールリングが、特定状況下では減少したシール効果を有している虞れがあることである。
【0006】
本発明は、前述の先行技術に基づき、先行技術のそのようなおよびさらなる欠点を排除すること、特に、冒頭で述べたタイプのピストンリングを規定すること、を目的としている。その中で、シール要素は、損傷のリスクなしにピストン圧縮機のシリンダ内壁に確実かつ良好にシール接触していることを目的とする。
【0007】
本発明はさらに、より有利な動作特性、特に一層長い耐用年数を有している、以下に述べるような少なくとも1つのピストンリングを備えているピストン圧縮機を提供するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立請求項の特徴を有しているピストンリングおよびピストン圧縮機によって解決される。従属請求項は、本発明のさらに有利な実施形態に関する。
この目的は特に、軸方向に隣接して配置されているとともに互いに同心である第1環状体および第2環状体を備えている、ピストン圧縮機用のピストンリングによって解決される。第1環状体は、径方向外方に向いた外面(外方面)と、上部フランク(上部側面)と、下部フランク(下部側面)と、および、径方向内方に向いた内面(内方面)と、を有している。第2環状体は、セグメント化されたシールリングとして、すなわち分割型シールリングとして、設計されていることで、複数のシールリングセグメントを備えている。各シールリングセグメントは、径方向外方に向けられたシール面と、上部および下部シールリングセグメントフランクと、ならびに、径方向内方に向けられた内面(内方面)と、を有している。組立状態では、分割型シールリングは、したがって、径方向外方に向けられた外方シール面(シールリング外面)と、上部シールリングフランクおよび下部シールリングフランクと、および、径方向内方に向けられた内方シール面(シールリング内面)と、を有している。シールリングセグメント同士は各々、少なくとも1つのガイド手段によって、第1環状体上に案内されている。ガイド手段は、第1環状体に対するシールリングセグメント同士の周方向への回転を実質的に防止しているとともに、シールリングセグメント同士の軸方向に対する横方向への変位を、すなわち外方への変位を、許容する。
【0009】
各々の環状体に関する「軸方向」という用語は、本発明の目的のために、各々の環状体の回転軸線(リング直径に対して垂直)に沿って延びている方向を意味する。
本発明の目的のために、「軸方向に対する横方向」の変位は、第2環状体によって形成された環状面の実質的に内部で、仮想平面に対して実質的に垂直なシールセグメントの変位、を意味している。この仮想平面は、環状面に対して垂直に延びているとともに、回転軸線を通って延びている。
【0010】
本発明に従って設計されたピストンリングは、好ましくは、往復圧縮機のピストンのピストンリング溝内に配列することができる。そして本発明のピストンリングは、先行技術から知られているピストンリングとで比較して、個々のシールリングセグメント同士が動作中(運転中)に周方向に衝突できないという利点を有している。したがって、提案された設計手段は、シールリングセグメントの損傷を防止するとともに、ピストンリングの耐用年数を延ばすことができる。
【0011】
分割型シールリングの領域では、ピストンリングは、圧縮室からガスが抜けるのを防ぐべく、相手面に対して、例えばピストン圧縮機のシリンダライナのシリンダ内壁に対して、シールする。個々のシールリングセグメントは、シリンダ内壁に沿って摺動する摩擦シール要素として設計されている。それによってピストンリングは、乾式運転(ドライランニング)または潤滑式で動作することができる。本発明によるピストンリングは、好ましくは、圧縮室が高圧負荷であるような、圧縮室が特に50MPa(500bar)~100MPa(1000bar)の間であるような、ピストン圧縮機との組み合わせに適している。
【0012】
組立状態において、本発明によるピストンリングは、径方向外方に向けられたピストンリング外面と、径方向内方に向けられたピストンリング内面と、両者間に配置されているとともに互いに実質的に平行に間隔をあけられた2つのピストンリングフランクと、を有している。本発明によるピストンリングの使用において、一方のピストンリングフランクは、圧縮室に面している。他方である反対側のピストンリングフランクは、クランクケースに面する。
【0013】
好ましい実施形態では、ガイド手段は、第1環状体の接触フランクと、シールリングセグメントと、が互いに正対するように延びているように設計されることで構成されている。
【0014】
例えば、ガイド手段は、ガイド溝内に係合するガイドリブとして設計される。本発明によれば、ガイドリブがシールリング側に配置(アレンジ、構成)されるとともに、ガイド溝が第1環状体に配置されることが考えられる。また、本発明によれば、ガイドリブが第1環状体に配置されるとともに、ガイド溝がシールリング側に配置されることが考えられる。原理的には、両方の環状体同士が、ガイドリブとガイド溝との両方を有している。ガイドリブとガイド溝は、2つの環状体の接触フランク同士に、接触フランク同士が互いにフォームフィットするように延びている(走行する、ランする)ように形成および配置されることも考えられる。
【0015】
ガイド手段を接触フランクに組み込むことによって、設計の手間が最小限に抑えられるだけでなく、ピストンリングの機械的負荷容量が増加する。
本発明によるピストンリングの好ましい実施形態では、ガイド溝の深さは、0.5mm~4mmの間であり、好ましくは1mm~2mmの間である。代替的にまたは追加的に、ガイド溝の幅は、10mm~50mmの間であり、好ましくは20mm~40mmの間であり、特に好ましくは25mm~35mmの間である。
【0016】
このようなピストンリングは、シールリングセグメント同士が第1環状体上で特に確実にガイド(案内)される、という利点を有している。
本発明によるピストンリングの好ましい実施形態では、第1環状体は、一体(ワンピース)で、好ましくはエンドレスで、作られる。これによって、漏れ出しが減少するとともに、ピストンリングの機械的強度が増加する。
【0017】
本発明によるピストンリングの代替実施形態では、第1環状体は、複数のベースリングセグメントを備えているセグメント化されたベースリングとして、すなわち分割型ベースリングとして、形成されている。これによって、第1環状体の取付が容易になる。極めて好ましくは、ベースリングセグメントの数は、分割型シールリングのシールリングセグメントの数に対応していることによって、このことは、ピストンリングの組立をさらに容易にする。
【0018】
本発明によるピストンリングのさらに好ましい実施形態では、第1環状体は、3つのベースリングセグメントから形成されている。第2環状体は、3つのシールリングセグメントから形成されている。この場合、3つのベースリングセグメントと3つのシールリングセグメントとの各々は、120°の円弧上に延びている。それによって、ベースリングまたはシールリングセグメントの各々は、本発明によるピストンリングの意図した使用中に、同じ機械的負荷を経験する。
【0019】
好ましくは、分割型シールリングでは、軸方向のシールリング高さが1mm~6mmの範囲にある。よって、第2環状体は、軸方向で可能な限りコンパクトであるとともに、スペースをとらない。
【0020】
運転状態において、本発明によるピストンリングは、ピストンの周方向ピストンリング溝内に配置される。周方向ピストンリング溝は、ピストン圧縮機の運転中に、流体が圧縮室から、シールリングセグメント同士の後方に位置する溝空間に浸透することによって、十分な流体圧力があれば、シールリングセグメント同士を相手面に、例えばピストン圧縮機のシリンダライナのシリンダ内壁に、外方に押し付けることができるように、設計されている。この目的のためには、周方向ピストンリング溝における、ピストンリング同士の軸方向のバックラッシュが、十分に大きいことが必要である。
【0021】
よって、分割型シールリングの径方向内方に面する内面に対して静止することでシールリングセグメントを相手面に押し付けるクランプリングは、不要になる。シリンダ内壁に対するシールリングセグメント同士の流体圧依存の接触圧力は、シールリングセグメント同士の径方向外向きのシール表面から除去される材料が少ないことも意味する。
【0022】
さらなる好ましい実施形態において、本発明によるピストンリングはさらに、互いに隣接するシールリングセグメント同士の2つの対向する端部によって各々の場合に形成されるリングジョイントをシール(密封)するための、少なくとも1つの追加シール要素を備えている。1つまたは複数のこのようなシール要素を設けることによって、本発明による使用時に2つの互いに隣接するシールリングセグメント同士間で発生する漏れを、著しく低減することができる。
【0023】
好ましい実施形態では、本発明によるピストンリングは、まさに1つの追加シール要素を備えている。この追加シール要素は、シングルカットリングとして設計されている。シングルカットリングのリング端部同士のうちの1つは、シングルカットリングのリング平面に位置しているとともに径方向外方に向けられている突起を有しているように設計されている。この突起は、シールリングセグメントの内方に存在する凹部に係合する。シングルカットリングは、シールリングセグメントの径方向内方に配置されているとともに、各々の場合に2つの隣接するシールリングセグメント同士の間に存在するリングジョイントの全てをシールする。一体型(ワンピース)設計によって、このようなシール要素は、製造が容易であるだけでなく、組立が早いとともに、機械的負荷に耐えることができる。
【0024】
好ましくは、シングルカットリングの突起が係合可能な凹部は、シールリング側に配置されたガイド手段の領域に配置される。
好ましい実施形態では、本発明によるピストンリングは、第1環状体および第2環状体に加えて、第3環状体を任意に備えて構成されることができる。第3環状体は、径方向外方に向けられた外面と、上部フランクおよび下部フランクと、ならびに、径方向内方に向けられた内面と、を有している。この実施形態では、分割型(セグメント化された)シールリングは、第1環状体と第3環状体との間に配置される。
【0025】
第1環状体および第3環状体は、分割型シールリングの軸方向両側に配置された支持リングである。
作動状態(動作状態、運転状態)において、第3環状体は、好ましくは、軸方向においてシールリングに隣接して低圧側に配置されているとともに、相手方に対して接触せずにしかし可能な限り少ないクリアランスで延びている(走行する)ようにディメンジョン(寸法付け)される。
【0026】
このようなピストンリングは、サンドイッチピストンリングとも呼ばれていることで、リーク率(漏れ速度)を低減することができる。
特に好ましくは、第3環状体は、特にエンドレスの、一体型設計である。これによって、漏れ量をさらに顕著に低減することができる。
【0027】
本発明によるピストンリングのサンドイッチ設計によって、分割型シールリングとして設計された第2環状体を、プラスチック材料から作ることが可能になる。すなわち第2環状体を、支持リング無しで高圧差をシールする「セルフサポート」設計にはそれ自体では適していないプラスチック材料から、作ることが可能になる。
【0028】
好ましい実施形態では、分割型シールリングは、実質的にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作られているが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、またはそれらの混合物、などの高温ポリマーも非常に高い圧力差が存在する場合に用いられる。このようなポリマーは、その機械的特性によって、基本的に変形することなく高い差圧に耐えることができるだけでなく、高い耐熱性を示す。オプションとして、分割型シールリングは、1つまたは複数のフィラー、特にカーボン、グラファイト、ガラス繊維、二硫化モリブデン(MoS2)、および/またはブロンズ(青銅)、で充填することができる。これによって、特にシールリングのドライランニング(乾式走行)特性を向上させることが可能になる。
【0029】
好ましい実施形態では、第1環状体および/または第3環状体は、実質的に高温ポリマー、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)またはエポキシ樹脂、繊維複合材料、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはエポキシ樹脂のマトリックス中の炭素繊維、金属、特に銅合金、またはエンジニアリングセラミックス、特に酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、または窒化ケイ素、で作られている。このような材料は、非常に高い機械的強度を有しているので、ピストンリングの耐用年数を大幅に増やすことができる。任意に、第1環状体および/または第3環状体は、1つまたは複数の充填剤(フィラー)、特に炭素、グラファイト、ガラス繊維、二硫化モリブデン(MoS2)、および/またはブロンズ(青銅)、で充填することができる。これによって、特に、それらのドライランニング特性を改善することが可能となる。
【0030】
本発明によるサンドイッチピストンリングの好ましい実施形態では、分割型シールリングのうちの少なくとも1つのシールリングセグメントは、第1環状体上および第3環状体上に案内(ガイド)される。好ましくは、分割型シールリング同士のうちの全てのシールリングセグメントは、第1環状体上および第3環状体上に案内される。これによって、一方では、シールリングセグメント同士の特に確実な案内を実現しているとともに、他方では、3つの環状体の設置方向を指定することが可能となる。よって、本発明によるピストンリングの組立または設置時の誤差を低減することができる。
【0031】
ピストン圧縮機の運転中にピストンリング溝に一時的に貯蔵されたガスの戻り流れは、上述の周方向ピストンリング溝におけるピストンリングの軸方向バックラッシュに加えて、いわゆる圧力均等化または戻り流路によって、かなり改善することができる。よって、シールリングセグメント同士はこの段階において実質的にシール効果を有さないので、したがって摩耗を受けない。
【0032】
本発明によるピストンリングの好ましい実施形態では、第1環状体または第3環状体は、シールリングから離れる方向に面するフランク(側面)に、径方向に延びている少なくとも1つの戻り流路(リターンフローチャネル)を有している。戻り流路は、フランク幅(フランク寸法)全体にわたって径方向に延びていることで、本発明によるピストンリングの使用において圧縮室に向かう。好ましくは、戻り流路は、三角形の面取りを有している。
【0033】
特に好ましくは、ピストンリングの組立状態における戻り流路は、分割型シールリングのセグメント端部の領域に各々で配置されている。それによって、ピストンリング溝に一時的に貯蔵された流体の戻り流れは、再び著しく改善され得る。
【0034】
第1環状体およびもしあれば第3環状体は、運転から暖まった状態でシリンダボア内に「間隙なく」適合(「隙間なく」フィット)していると有利である。第1環状体および存在する場合には第3環状体が、慣らし運転中に詰まらない(ジャムしない)ようにするべく、本発明によるピストンリングまたはサンドイッチピストンリングの好ましい実施形態では、第1環状体の径方向外方に向けられた外面と、第3環状体の径方向外方に向けられた外面と、のうちの少なくとも一方は、分割型シールリングから始まって軸方向に、好ましくは円錐方向に、テーパ状に設計されている。
【0035】
これによって、第1環状体および/または第3環状体の径方向外方に向いた外面は、慣らし運転中に軸方向の全高にわたって除去する必要はないので、そうでなければシリンダ内壁の上に延びていることが理解できないような領域のみが除去される。したがって、本発明によるピストンリングまたはサンドイッチピストンリングは、動作温度(運転温度)において、シリンダボア内で遊びなく配置される。
【0036】
本発明によるピストンリングの代替的な実施形態では、第1環状体は、径方向外方の環状縁部に、シールリングから離れる方向に面取りを有している。ここにおける面取り角度は、好ましくは1°~10°の間である。さらにまたは代替的に、面取りのウェブ高さは、少なくとも4mmである。
【0037】
本発明によるピストンリングの代替実施形態では、第3環状体は、径方向外方の環状縁部に、シールリングに面する面取りを有している。ここにおける面取り角度は、好ましくは1°~10°の間である。追加的または代替的に、面取りのウェブの高さは、少なくとも4mmである。
【0038】
本発明によるピストンリングの好ましい実施形態では、シールリングの組立状態において、各々の場合、2つの互いに隣接するシールリングセグメント同士は、各々のシールリングセグメント同士の内方からシール面まで径方向に延びている径方向断面(交線)に沿って、接触している。言い換えれば、シールリングの組立状態において、2つの互いに隣接するシールリングセグメント同士は、径方向内方に向けられたシールリング内面についての接線に対して、本質的に90°に対応する交差角を形成する交差線に沿って、互いに接触している。
【0039】
このようなシールリングセグメント同士は、特に頑丈であるとともに、製造が促進される(容易である)。
本発明によるピストンリングの代替的な好ましい実施形態では、各々のシールリングセグメント同士の端部同士は、周方向において軸方向段差を有している。この実施形態では、隣接するシールリングセグメント同士の段差付き端部同士は、軸方向に少なくとも部分的に重なることで、軸方向シールを形成するように配置(構成、アレンジ)される。
【0040】
シールリングセグメント同士のこの設計は、特にセグメント端部の領域において、軸方向シールの改善をもたらす。
この目的は、上記のような少なくとも1つのピストンリングを備えているピストン圧縮機によって、特に乾式走行(ドライランニング)ピストン圧縮機によって、さらに解決される。
【0041】
以下、図面を参照して本発明の様々な実施形態を説明する。ここで、同一または対応する要素には、基本的に同一の参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図2a】分割型シールリングとして設計されている第2環状体の透視図。
【
図2b】
図2aに示した分割型シールリングの上面図。
【
図4】
図1aに示す第1環状体と、
図2aに示す第2環状体と、を備えているピストンリングを示す図。
【
図6】ピストン上に配置されたシール配置(シール配列、シールアレンジメント、シール構成)を通る長手方向断面図。
【
図8】分割型第1環状体およびバットキャップを備えている、ピストンリングの分解図。
【
図9b】
図9aの線X-Xに沿った第1環状体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1aは、第1環状体10の透視図である。第1環状体10は、径方向外方に向けられた外面(外方面)11と、上部フランク12と、下部フランク13と、および、径方向内方に向けられた内面(内方面)14と、を有している。第1環状体10は、エンドレスリングとして設計されている。第1環状体10は、3つの戻り(リターン、還流)流路2を備えている。3つの戻り流路2は、周方向に分布しているとともに、フランク幅(フランク寸法)全体に沿って径方向に延びている。戻り流路2は各々、戻り流路2から上部フランク12への移行部(遷移部)に、2つの三角形の面取り3を有している。戻り流路2から離れる向きの下部フランク13において、第1環状体10はさらに、周方向に分布する3つのガイド手段5a~5cを備えている。この実施形態例では、以下に詳細に説明するように、ガイド手段5a~5cは、溝状の凹部として設計されている。
【0044】
図1bは、
図1aの第1環状体10の上面図である。示されているのは、面取り3を有している3つの戻り流路2である。3つの戻り流路2は、上部フランク12に配置されているとともに、径方向に延びている。3つの戻り流路2は、リング軸線(A)に対して周方向Uに120°オフセットされている。ガイド手段5a~5cの中心同士と、各戻り流路2の中心同士と、は周方向Uに互いに対して60°オフセットして配置されている。
【0045】
図1cは、
図1aおよび
図1bの第1環状体10の底面図である。示されているのは、3つの溝状凹部5a~5cである。3つの溝状凹部5a~5cは、第1環状体10の下部フランク13上において、軸方向Aに対して横方向に延びている(走る)。これら溝状凹部5a~5cは、周方向Uにおいて互いに120°だけオフセットして配置されている。この実施形態では、溝状凹部5a~5cでは各々、溝幅B
Nが27.5mmであるとともに、溝深さT
Nが1.6mmである。
【0046】
図2aは、3つのシールリングセグメント(20a~20c)を備えている分割型シールリング20である、第2環状体20の透視図である。組立状態において、分割型シールリング20は、径方向外方に向けられたシールリング外面(21)と、上部シールリングフランク22および下部シールリングフランク23と、径方向内方に向けられたシールリング内面(24)と、を有している。これらの面(21~24)は各々、第1~第3シールリングセグメント20a~20cの各々の径方向外方に向けられたシール面21a~21cと、上部シールリングセグメントフランク22a~22cおよび下部シールリングセグメントフランク23a~23cと、および、径方向内方に向けられた内面24a~24c(明確化のために
図2aでは参照符号が示されていない)と、によって形成されている。3つのシールリングセグメント(20a~20c)は、各々、ガイドリブとして設計されたガイド手段4a~4cを有している。
【0047】
図2bは、
図2aに示す分割型シールリング20の上面図である。分割型シールリング20は、3つの径方向断面Sを有している。各々の径方向断面Sは、分割型シールリング20の内方から、分割型シールリング20のシール面(21)まで径方向に延びている。3つのシールリングセグメント(20a~20c)の各々は、120°の円弧上に延びているとともに、ガイドリブ4a~4cを備えている。ガイドリブ4a~4cは、周方向Uに120°だけ互いにオフセットして配置されている。ガイドリブ4a~4cが、
図1a~
図1cに示す第1環状体10のガイド溝5a~5cに本質的に「遊びなく」係合できるように、ガイドリブ4a~4cの幅B
Rは選定される。したがって、周方向Uにおける第1環状体10上の第1~第3シールリングセグメント20a~20cの、相互捩れまたは変位が防止される。なお、図示の実施形態例では、ガイドリブ4a~4cの幅B
Rは約27.5mmである。ガイドリブ4a~4cの深さT
Rは約1.5mmである。
【0048】
図3は、第3環状体30の上面図である。この第3環状体30は、径方向外方に向けられた外面31と、上部フランク32および下部フランク(図示せず)と、ならびに、径方向内方に向けられた内面34と、を有している。第3環状体30は、エンドレスリングとして形成されている。第1環状体10、分割型シールリング20、および第3環状体30、は周方向Uに対して直交して延びている軸方向Aに、連続して配置されている。分割型シールリング20(
図3には不図示)は、第1環状体10と第3環状体30との間に配置されている。
【0049】
図4は、
図1aに示す第1環状体10と、
図2aに示す第2環状体20と、を備えているピストンリング1を示している。第1~第3シールリングセグメント20a~20cは、ガイド手段4a~4c、5a~5cによって、第1環状体10上に案内される。図示の実施形態例では、ガイド手段4a~4c、5a~5cは、第1環状体10と第1~第3シールリングセグメント20a~20cとの、接触フランク同士の互いに噛み合う(インターロッキング)構成によって形成されている。この場合、分割型シールリング20側に配置(アレンジ、構成)されたガイドリブ4a~4cは、カバーリング10側に配置されたガイド溝5a~5cに、第1環状体10に対する第1~第3シールリングセグメント20a~20cの周方向Uへの捩れが本質的に防止されているだけでなく、第1~第3シールリングセグメント20a~20cが軸方向Aに対して横方向に変位できるように、係合する(噛み合う)。
【0050】
図5は、第1環状体10、第2環状体20、および第3環状体30、を備えているピストンリング1を通る縦断面を示す。第2環状体20は、3つのシールリングセグメント(20a~20c)を有している分割型の(セグメント化された、セグメンテッド)シールリングとして設計されている。分割型シールリング20は、第1環状体10と第3環状体30との間に配置される。第1環状体10は、圧縮室Vに面する上部フランク12に、ピストンリング1の組立状態において、分割型シールリング20のセグメント端部の領域において軸方向Aにオフセットして配置された複数の戻り流路2を各々有している。
図5に示す実施形態例では、互いに接触する第1、第2、第3環状体10、20、30のフランクは、互いに正対するように延びている(走行する)ように設計されている。よって、全ての第1~第3シールリングセグメント20a~20c(第1シールリングセグメント20aについてのみ図示)は、第1環状体10上および第3環状体30上のガイド手段4a~4c、5a~5c、9a~9cによってガイドされる。この文脈において、第1シールリングセグメント20aは、第1環状体10に面する上部フランク22aに、ガイドリブとして設計されたガイド手段4aを有している。このガイド手段4aは、分割型シールリング20に面する第1環状体10の下部フランク13に形成されているガイド溝として設計されたガイド手段5aに、係合する。第1シールリングセグメント20aはさらに、第3環状体30に面する下部フランク23aに、ガイド溝として設計されている第2ガイド手段(4a)を備えている。第2ガイド手段(4a)は、分割型シールリング20に面する第3環状体30の上部フランク32に配置されたガイド手段9aに、噛み合う。ガイド手段5a、4a、4a、9aは、それらガイド手段5a、4a、4a、9aを備えている第1、第2、および第3環状体10、20、30の取付方向が軸方向Aに予め定められているように、各々のフランク(13、22a、23a、32)に形成されている。本実施形態では、軸方向のシールリング高さH
Dは、4.5mmである。
【0051】
図6は、シリンダ内壁41を有しているシリンダ40と、ピストン50と、格納状態でピストン50に配置された本発明による少なくとも1つのピストンリング1と、を備えて構成されているピストン圧縮機100を通る縦断面を示す。ピストン50は、マルチピースピストンとして設計されているので、軸方向Aに次々に配置された複数のピストン体51を備えている。各ピストン体51は、ピストンリング1を受け入れるための周方向ピストンリング溝7を形成するチャンバディスク52を有している。
図6において、往復式のピストン圧縮機100の圧縮室Vは上部に配置されており、低圧側のクランクケースKは下部に配置されている。ピストンリング1は、分割型シールリング20と、任意のクランプリング60と、第1環状体10と、第3環状体30と、を備えて構成されている。クランプリング60は、好ましくは、直進する第1~第3シールリングセグメント20a~20cが特に無圧状態であっても、外方に向けられた外方シール面21でシリンダ内壁41に耐えるように、径方向Rの外方に作用する事前ロードを分割型シールリング20に作用させる。本実施形態例では、第1環状体10はカバーリングとして、第3環状体30は支持(サポート)リングまたはベースリングとして、設計されている。ピストンリング1は、径方向Rに離間することで、チャンバディスク52に対して内方間隙8を形成している。内方間隙8は、圧縮室Vに面するカバーリング10のフランクに形成された戻り流路2と、圧縮室V側の外方間隙6と、を介することで、さらに上方に存在するとともに図示の図では見えない空間に、流体伝達可能に接続されている。
【0052】
図7は、
図6のピストン圧縮機100を通る縦断面を示すが、しかし、新しい状態、すなわち分割型シールリング20が摩耗する前の状態における本発明によるピストンリング1の第2実施形態を示している。有利な実施形態では、分割型シールリング20または図示された第1シールリングセグメント20aは、新しい状態におけるその径方向外方に向けられた外方シール面21が、カバーリング10の外面11を越えるとともに、ベースリング(30)の外面31を越えることで、径方向Rに突き出るように設計されている。その結果、分割型シールリング20は、慣らし運転段階においてシリンダ内壁41に接触しているので、外方シール面21とシリンダ内壁41との間の間隙が極めて小さくなる。よって、内方間隙8に加えられた圧力によって、第1~第3シールリングセグメント20a~20cが径方向Rの外方に押し出されるので、それによって分割型シールリング20が、運転温度にあるときのシリンダ40のボアの形状に適応するまで、外方シール面21において分割型シールリング20から材料が取り除かれる。往復式のピストン圧縮機100の引き続きの運転(動作)において、第1~第3シールリングセグメント20a~20cの外方シール面21は、摩耗を受けることで、それによって、摩耗した第1~第3シールリングセグメント20a~20cは、内方間隙8において加えられる圧力によって、径方向Rの外方に押し出される。そして、外方シール面21の対応する摩耗によって、第1~第3シールリングセグメント20a~20cが径方向Rの外方に押し出されることで、外方シール面21とシリンダ内壁41との間のシール効果は、摩耗が起こったにもかかわらず維持されるようになる。
図7に示す実施形態例では、カバーリング(10)および支持リング(30)は各々、それらの径方向外方に向けられた外面11および外面31が、分割型シールリング20を起点として、軸方向Aに少なくとも部分的に円錐状にテーパするように設計されている。よって、カバーリング(10)および支持リング(30)の径方向外方の外面11および外面31は、収納状態および動作的(運転的)に温かい状態で、軸方向Aの全高にわたってはシリンダ40のシリンダ内壁に接しない。
図6に示すピストンリングとは対照的に、
図7に示すピストンリング1は、図示の第1~第3シールリングセグメント20a~20cをシリンダ内壁41に押し付けるためのクランプリング(
図6では60)を、分割型シールリング20の径方向内方に向けられた内面には有していない。
【0053】
図8は、分割型の第1環状体10と、締結要素71を有しているシングルカットリング70と、分割型の第2環状体20と、および第3環状体30と、が軸方向Aに隣接して配置されたピストンリング1のさらなる実施形態を示している。締結要素71は、シングルカットリング70の一方の端部に存在することで、第2環状体20の内方に存在する凹部25に係合可能な、径方向外方に向く突起の形態である。
【0054】
図9aは、
図8の第1環状体10の底面図である。第1環状体10は、3つのベースリングセグメント10a~10cを備えている分割型ベースリングとして設計されている。各ベースリングセグメント10a~10cは120°の弧を描いて延びている。図示の実施形態では、ベースリング側に配置されたガイド手段5a~5cは、各々の場合で11mmの溝幅B
Nを有しているガイド溝として設計されている。ガイド溝(5a~5c)は、各々の場合で、互いに隣接するベースリングセグメント10a~10c同士の対向する2つの軸方向段差を有している突端同士によって形成されている。言い換えれば、参照符号5a.aで指定された第1ベースリングセグメント10aの端部は、参照符号5a.cで指定された第3ベースリングセグメント10cの端部とともに、第1ガイド溝5aを形成する。従って、参照符号5c.cおよび5c.bで各々指定された第3ベースリングセグメント10cの端部および第2ベースリングセグメント10bの端部は、第3ガイド溝5cを形成している。参照符号5b.bおよび5b.aで各々指定された第2ベースリングセグメント10bの端部および第1ベースリングセグメント10aの端部は、第2ガイド溝5bを形成する。
【0055】
図9bは、
図9aに示すベースリング10を通る、
図9aの線X-Xに沿った断面を示す。軸方向Aに段差が有るリングセグメント端部5c.cおよび5a.cを有している完全な第3ベースリングセグメント10cと、軸方向に段差が有るリングセグメント端部5a.aを有している切断された第1ベースリングセグメント10aと、が示されている。この実施形態では、ベースリング10は、3mmの軸方向高さH
Gを有している。さらに、ベースリング10は、ベースリング10の径方向外方の環状縁部(リングエッジ)15に、分割型シールリング(図示せず)から離れる方向に面取りを施している。本実施形態における面取り角度α
1は4°であるとともに、ウェブ高さH
Sは0.5mmである。
【0056】
図10は、3つのシールリングセグメント(20a~20c)を有している、
図8に示す第2環状体20の上面図である。各第1~第3シールリングセグメント20a~20cは、120°の弧を描いて周方向Uに延びている。第1~第3シールリングセグメント20a~20c同士は、分割型シールリング20の組立状態において、各々の第1~第3シールリングセグメント20a~20cの内方からシール面まで径方向に延びている径方向断面Sの線に沿って、接する。互いに隣接する第1~第3シールリングセグメント20a~20c同士の対向する2つの端部同士は、各々リング端部間隙(リングエンドギャップ)80を形成している。また、軸方向Aに対して横方向に延びているとともに、周方向Uに互いに120°だけ相対的にオフセットされた3つのガイドリブ4a~4cが、示されている。この実施形態では、各ガイドリブ4a~4cは、各々11mmの幅B
Rを有している。ガイドリブ4a~4cの幅B
Rは、結果的に、ガイドリブ4a~4cが、
図8に示す第1環状体10のガイド溝5a~5cに本質的に「遊びなく」係合させることができるように、選択されている。図示の実施形態では、第1~第3シールリングセグメント20a~20cのうちの1つである第3シールリングセグメント20cは、
図8に示す締結要素71を受け入れるべく、ガイドリブ4cの領域における内面24cに、凹部25を備えている。凹部25は、分割型シールリング20の全高にわたって軸方向Aに延びている溝の形態で、設計されている。
【0057】
図11aは、
図8に示す第3環状体30の上面図を示している。この第3環状体30はエンドレス設計である。第3環状体30は、径方向外方に向けられた外面31と、上部フランク32と、下部フランク33(
図11b)と、および、径方向内方に向けられた内面34と、を有している。第3環状体30はまた、分割型シールリング(図示せず)に面する径方向外方の環状縁部35に、面取りを有している。
【0058】
図11bは、
図11aの線Y-Yに沿った、
図11aに示す第3環状体30の断面を示す。上部フランク32および下部フランク33と、分割型シールリング(図示せず)に面する上部フランク32上の面取りを有している径方向外方の環状縁部35と、が示されている。拡大図断面Zに示すように、本実施形態例における面取り角度α
3は4°であるとともに、ウェブ高さH
Sは0.5mmである。
【符号の説明】
【0059】
1…ピストンリング。
2…戻り流路。
3…三角形の面取り。
【0060】
4…第2環状体上のガイド手段。
5…第1環状体上のガイド手段。
6…外方間隙。
【0061】
7…ピストンリング円形溝。
8…内方間隙。
9…第3環状体上のガイド手段。
【0062】
10…第1環状体。
11…第1環状体の外面。
12…第1環状体の上部フランク。
【0063】
13…第1環状体の下部フランク。
14…第1環状体の内面。
15…第1環状体の径方向外方の環状縁部。
【0064】
20…第2環状体。
21…第2環状体の外方シール面。
22…第2環状体の上部フランク。
【0065】
23…第2環状体の下部フランク。
24…第2環状体の内面。
25…締結要素用のレセプタクル。
【0066】
30…第3環状体。
31…第3環状体の外面。
32…第3環状体の上部フランク。
【0067】
33…第3環状体の下部フランク。
34…第3環状体の内面。
35…第3環状体の径方向外方の環状縁部。
【0068】
40…シリンダ。
41…シリンダ内壁。
50…ピストン。
【0069】
51…ピストン体。
52…チャンバディスク。
60…クランプリング。
【0070】
70…追加シール要素。
71…締結要素。
80…リング端部間隙。
【0071】
100…ピストン圧縮機。
α1…第1環状体上の面取り角度。
α3…第3環状体上の面取り角度。
【0072】
A…軸方向。
R…径方向。
U…周方向。
【0073】
S…断面線。
BN…ガイド溝の幅。
HA…シールリングの高さ。
【0074】
HD…シールリングの高さ。
HG…ベースリング高さ。
HS…ウェブ高さ。
【0075】
TN…ガイド溝の深さ。
BR…ガイドリブの幅。
TR…ガイドリブの深さ。
【国際調査報告】