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特表2023-551594ゴム組成物におけるチオール官能化EPDMの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ゴム組成物におけるチオール官能化EPDMの使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20231201BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231201BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231201BHJP
   C08L 23/32 20060101ALI20231201BHJP
   C08F 8/34 20060101ALI20231201BHJP
   C08F 210/18 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K3/04
C08L9/00
C08L23/32
C08F8/34
C08F210/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544623
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 JP2021049037
(87)【国際公開番号】W WO2022145493
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】63/132,540
(32)【優先日】2020-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 円
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002AC11X
4J002BB15W
4J002DA036
4J002FD016
4J002GN01
4J100AA02P
4J100AA03Q
4J100AS11R
4J100CA05
4J100HA08
4J100HA61
4J100HB39
4J100HB50
4J100JA29
(57)【要約】
【解決手段】 ゴム組成物中にチオール官能化EPDMを含めると、カーボンブラック充填剤に対する高い親和性がEPDMに与えられる。エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーを含むゴム組成物中の相対的に少量のそのようなチオール官能化EPDMは、そのような充填剤をより良好に分散させ、その結果、改善された性能特性を有する、特に、ヒステリシス及び亀裂成長に対する耐性を同時に改善する加硫物が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物であって、
a)カーボンブラックと、
b)エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーと、
c)官能化EPDMであって、ジエンモノマー残基から生じる前記官能化EPDMの部分が、チオール基を含むアルキル側鎖を含む、官能化EPDMと、
を含む、ゴム組成物。
【請求項2】
前記官能化EPDMが、EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリブタジエンを含む、請求項1~2のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリイソプレンを更に含む、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
非官能化EPDMを更に含む、請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
非官能化EPDMを更に含む、請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリイソプレンを含む、請求項1~2のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
非官能化EPDMを更に含む、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
非官能化EPDMを更に含む、請求項1~2のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記非官能化EPDMに対する成分(c)のモル比が、1:125~1:33である、請求項9に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記非官能化EPDMに対する成分(c)のモル比が、1:5~4:3である、請求項9に記載のゴム組成物。
【請求項12】
EPDMの総量が、前記組成物中の全ポリマーの少なくとも10重量パーセントを構成する、請求項9に記載のゴム組成物。
【請求項13】
EPDMの総量が、前記組成物中の全ポリマーの40重量パーセント以下を構成する、請求項12に記載のゴム組成物。
【請求項14】
EPDMの総量が、前記組成物中の全ポリマーの少なくとも10重量パーセントを構成する、請求項1~2のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項15】
EPDMの総量が、前記組成物中の全ポリマーの40重量パーセント以下を構成する、請求項14に記載のゴム組成物。
【請求項16】
カーボンブラック及びエチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーを含むゴム組成物から調製される加硫物のヒステリシス及び亀裂成長に対する耐性の性能を同時に改善する方法であって、前記ゴム組成物中に官能化EPDMを含めることを含み、ジエンモノマー残基から生じる前記官能化EPDMの部分が、チオール基を含むアルキル側鎖を含む、方法。
【請求項17】
前記官能化EPDMが、EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリブタジエン及びポリイソプレンのうちの1つ以上を含む、請求項16~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記ゴム組成物が、非官能化EPDMを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ゴム組成物が、非官能化EPDMを更に含む、請求項16~17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物におけるチオール官能化EPDMの使用に関する。本国際出願は、2020年12月31日に出願された米国特許仮出願第63/132,540号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
タイヤ部品(例えば、トレッド、サイドウォール等)等のゴム製品は、多くの場合、例えば、粒状カーボンブラック及びシリカ等の1つ以上の補強材を含有するエラストマー組成物から作製される。タイヤ部品等の加硫物の製造において使用される最も一般的に使用されている合成エラストマー材料の一部は、触媒を使用するプロセスによって作製されることが多い高シスポリブタジエン(BR)及びアニオン性開始剤を使用するプロセスによって作製されることが多い実質的にランダムなスチレン/ブタジエンインターポリマー(SBR)を含む。
【0003】
良好なトラクション及び耐摩耗性はタイヤトレッドの主たる考慮事項であるが、自動車の燃費効率に関する懸念から、タイヤ動作中のヒステリシス及び発熱の減少に相関する転がり抵抗の最小化について議論されている。これらの考慮事項は、大いに競合し、やや矛盾しており、良好な路面トラクション性をもたらすように設計された組成物から作製されたトレッドは、通常高い転がり抵抗を示し、その逆もまた同様である。
【0004】
タイヤのサイドウォールに関しては、耐オゾン性が主な考慮事項であるが、競合する考慮事項は、(自動車の燃費を改善するために)タイヤ全体の重量を減少させたいという要望である傾向がある。しかしながら、サイドウォール部品を提供するために使用されるゴム組成物の量を減少させた場合、存在する酸化防止剤の量がより少なくなるため、耐オゾン性が低下する傾向がある。
【0005】
充填剤(複数可)、ポリマー(複数可)、及び添加剤は、典型的には、所望の特性の許容可能な妥協点又はバランスが得られるように選択される。補強充填剤(複数可)がエラストマー材料(複数可)全体に良好に分散されることを確実にすることは、加工性を向上させて、かつ物理的特性を改善するよう働く。充填剤粒子の分散は、エラストマー(複数可)との相互作用を増加させる及び/又は互いとの相互作用を減少させることにより改善することができる。このタイプの試みの例としては、選択的反応性促進剤の存在下での高温混合、配合材料の表面酸化、及び表面グラフト化が挙げられる。
【0006】
最後の架橋の部位から末端までのポリマー鎖の部分は、高分子網目構造に結びつかないので、効率的な弾性回復プロセスに含めることはできない。その結果、ポリマー(及びそのようなポリマーが組み込まれた加硫物)のこの部分に伝達されたエネルギーは、熱として失われる。これらの末端が確実に補強粒状充填剤に結びつくか又は他の方法で十分に相互作用するようにすることは、例えば、ヒステリシスの減少等の多くの加硫物の物理的特性にとって重要である。
【0007】
ポリマーを、通常はその末端で、化学修飾することは、充填剤とポリマーとの相互作を増加させる最も効果的な手法のうちの1つである。末端化学修飾は、多くの場合、リビングポリマーを官能性終端剤と反応させることにより生じる。例えば、米国特許第3,109,871号、同第4,647,625号、同第4,677,153号、同第5,109,907号、同第6,977,281号等、並びにこれらの特許に引用された参照文献及び後にこれらの特許を引用する刊行物を参照。アニオン的に開始されたポリマーで実施することができる重合後末端官能化は、多くの場合、配位触媒されたポリマーに対して実施することはできず、比較的程度は低いが、その逆も同様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
耐オゾン性はタイヤのサイドウォールにおいて非常に重要であるので、その中にエチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)ポリマーを含めることは依然として関心の対象である。EPDMは、オゾン(したがってオゾン分解)に対する耐性が高いことが知られているが、亀裂成長に対する耐性は特に良好ではない。後者は、EPDMを含むブレンドの使用によって対処されることがある。それにもかかわらず、そのようなゴム組成物に別のポリマーの代わりにEPDMを含めると、組成物中に含まれる酸化防止剤の量を減少させることができる傾向があり、これは前述の重量減少上の理由から望ましい。
【0009】
このようなブレンドに関して、起こり得る問題は、充填剤、特にカーボンブラックに対する親和性に関する。EPDMは、ポリイソプレン(NR)、BR、及びSBR等のエチレン性不飽和を有するポリマーよりも極性が低いので、カーボンブラックは、後者のタイプのポリマーを含有する相中に優先的に存在する傾向がある。これは、そのような組成物から作製される加硫物の物理的特性を低下させる傾向がある。
【0010】
EPDMとエチレン性不飽和を含む1つ以上のポリマーとを両方含有するゴム組成物において、EPDMに対するカーボンブラックの親和性を高める費用効果の高い方法が、依然として望まれている。
発明の開示
【0011】
チオール官能化EPDMを含むゴム組成物が本明細書に提供される。チオール官能基は、EPDMのカーボンブラック充填剤に対する親和性を高める。エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマー、例えばポリジエン(複数可)を含むゴム組成物中にこのようなチオール官能化EPDMを比較的少量含めることにより、このような充填剤のより良好な分散が可能になり、望ましい特性を有する加硫物が得られる。
【0012】
加硫物のヒステリシス及び耐亀裂成長性能に対する耐性は、そのような加硫物が提供されるゴム組成物を、少なくともカーボンブラック及びエチレン性不飽和を有する少なくとも1つのポリマーに加えてチオール官能化EPDMも含むように改変することを含む方法によって同時に改善することができる。
【0013】
これらの態様及び他の態様では、エチレン性不飽和を有する少なくとも1つのポリマーは、BR、NR、又はBRとNRとの組合せであり得る。
【0014】
追加的又は代替的に、ゴム組成物は、非官能化EPDMを含んでいてもよい。
【0015】
本発明の他の態様は、以下の詳細な説明から当業者に明白となるであろう。その説明の理解を手助けするために特定の定義を以下に示すが、これらは周辺の文章が反対の意図を明白に示していない限り、全体を通して適用されるものとする。
「ポリマー」とは1つ以上のモノマーの重合生成物を意味し、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、テトラポリマーなどを含む。
「マー」及び「マー単位」とは、単一の反応分子に由来するポリマーの一部分を意味する(例えば、エチレンマーは、一般式-CH2CH2-を有する)。
「コポリマー」は、2つの反応物質、通常はモノマーに由来するマー単位を含んだポリマーを意味し、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、セグメント化コポリマー、グラフトコポリマーなどを含む。
「インターポリマー」は、少なくとも2つの反応物質、通常はモノマーに由来するマー単位を含んだポリマーを意味し、コポリマー、ターポリマー、テトラポリマーなどを含む。
「置換」は、該当する基について意図した目的を阻害しないヘテロ原子又は官能基(例えば、ヒドロカルビル基)を含むものを意味する。
「ポリエン」は、最長部分又は分子鎖に少なくとも2つの二重結合が存在する分子を意味し、具体的にはジエン、トリエンなどが含まれる。
「ポリジエン」は、1つ以上のジエンのマー単位を含むポリマーを意味する。
「ゴム」は、少なくとも50%(w/w)のポリエンマーを含む天然及び/又は合成ポリマーを意味する。
「phr」は、ゴム100重量部(parts by weight、pbw)当たりのpbwを意味する。
「ラジカル」又は「残基」は、反応の結果、何らかの原子が得られるか又は失われるかに関わらず、別の分子と反応した後に残る分子の一部分を意味する。
【0016】
本明細書全体を通して、百分率で与えられる全ての値は、前後の文章が明確に逆の意図を示していない限り、重量パーセント(w/w)である。
【0017】
特に指定しない限り、成分の量、プロセス条件(例えば、時間及び温度)等を表す全ての数は、用語「約」を本質的に含むものとして理解されるべきである。列挙された数値限定は、使用される重要な桁数に基づいた適切な精度を有する。例えば、「最大5.0」は、「最大5」よりも低い絶対上限を設定するものと読むことができる。
【0018】
全体を通して言及された全ての特許文献の関連する教示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
合成及び天然ゴムの両方を、本発明の加硫性ゴム組成物内で使用してもよい。
【0020】
これらのゴムとしては、限定するものではないが、天然又は合成ポリイソプレン(NRが好ましい)、並びにポリエン、具体的にはジエン、最も具体的には共役ジエンのホモ及びインターポリマーが挙げられる。例示的な共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,2-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられ、1,3-ブタジエンが特に好ましい。3%以下の1,2-ビニル含量及び少なくとも96のシス-1,4含量を有するポリジエン、例えばBRが好ましい。他の成分のレベルを適切に調整すれば、最大約12%の1,2-含量を有するBRを使用することもできる。(この段落において、全ての百分率はモル濃度であり、このような百分率は種々の分光学的技術によって求められる。)
【0021】
共役ジエンモノマーと少なくとも1つのモノオレフィンとのインターポリマーを含めてもよい。潜在的に有用なモノオレフィンモノマーとしては、ビニル芳香族化合物(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン等)及びα-オレフィン(例えば、エチレン及びプロピレン)、並びに前述のものの混合物が挙げられる。このようなインターポリマーは、最大50%、好ましくは約35%以下(両方ともw/w)のモノオレフィンマーを含有し得る。この種の好ましいインターポリマーは、SBRである。
【0022】
ゴム組成物はまた、EPDMを含有していてもよく、特定の実施形態では、EPDMを含有することが好ましい。分子量、エチレン対プロピレンマー含量、ジエンモノマーの具体的な種類等に関して異なる種々の等級のいずれを使用してもよい。
【0023】
得られるゴム組成物が所望の物理的特性を有する加硫物を提供する能力に干渉しない任意の他のポリマーを適切な量で使用することができる。非限定的な例としては、ブチルゴム、ネオプレン、EPR、アクリロニトリル/ブタジエンゴム、シリコーンゴム、フルオロエラストマー、エチレン/アクリルゴム、EVA、エピクロロヒドリンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、テトラフルオロエチレン/プロピレンゴム等が挙げられる。
【0024】
上記に加えて、本発明によるゴム組成物は、有効量のチオール官能化EPDMを含む。この特定の種類の官能化ポリマーは、より具体的には、EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物として説明することができる。官能化EPDMにおいて、ジエンモノマー残基から得られる部分はアルキル基側鎖を含み、これは次にチオール基を含む。
【0025】
官能化EPDMは、以下に記載のプロセスに従って提供することができる:M.G.Oliveira et al.,「Functionalization of EPDM with mercapto groups and its use in NBR/EPDM blends,」Macromol.Rapid Commun.20,pp.526-31(1999,Wiley-VCH Verlag GmbH;Weinheim,Germany)。反応スキーム全体は2つの工程を含む。第1の工程では、ジエンモノマーラジカルの残りのエチレン性不飽和を、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)等のフリーラジカル発生剤の存在下でチオ酢酸と反応させる。次いで、S原子に結合したCHC(O)部分がH原子で置換されるように第1の工程の生成物を加水分解し、それによってチオール部分を提供する。
【0026】
ゴム組成物中の非官能化及び官能化EPDMの総量は、一般に、ポリマーの総量の約10~約60%、一般に約13~約52%、典型的には約16~約48%、好ましくは約18~約45%、より好ましくは約20~約35%を構成する。前述の範囲の最も広い範囲内で、好ましい上限は約50%、約40%、及び約30%である。
【0027】
官能化EPDMの量は、存在するEPDMの全量のうち大きな割合を構成する必要はない。ゴム組成物中の少量の官能化EPDMの効果であっても、それから作製される加硫物に顕著な性能利益を提供することができる。非官能化EPDMに対する官能化EPDMのモル比は、一般に1:50~2:1、通常1:25~3:2、典型的には1:5~4:3、好ましくは1:2~1:1の範囲である。
【0028】
上記の種類のポリマーは、特に、補強充填剤と配合することができる。エラストマー化合物は、通常、添加される充填剤(複数可)の総体積をエラストマーストックの総体積で除した体積分率が多くの場合約25%になるように充填され、補強充填剤の典型的な(合計)量は、約30~約100phrの範囲であり、範囲の上限は、そのような充填剤が使用される場合に付与される増加した粘度を加工装置がいかに効果的に取り扱うことができるかによって主に規定される。
【0029】
有用な充填剤としては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、及びランプブラック等が挙げられるがこれらに限定されない、カーボンブラックの種々の形態が挙げられる。より具体的には、カーボンブラックの例としては、超摩耗性ファーネスブラック、高摩耗性ファーネスブラック、高速押出性ファーネスブラック、微細ファーネスブラック、準耐摩耗性ファーネスブラック、半補強性ファーネスブラック、中級加工性チャンネルブラック、難加工性チャンネルブラック、導電性チャンネルブラック、及びアセチレンブラックが挙げられ、これらのうちの2種以上の混合物が使用されてもよい。少なくとも20m/g、好ましくは少なくとも約35m/gの表面積(EMSA)を有するカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの表面積を求める方法についてはASTM D-1765を参照されたい。カーボンブラックはペレット化形態であってもよく、又は非ペレット化綿状塊であってもよいが、特定のミキサーでの使用では、非ペレット化カーボンブラックが好ましい場合がある。
【0030】
カーボンブラックの量は、最大約50phrであってもよく、通常約5~約40phrである。
【0031】
非晶質シリカ(SiO)を充填剤として利用してもよい。シリカは一般に、水中での化学反応により製造され、超微細球状粒子として沈殿するため、湿式、水和シリカとして分類される。これらの一次粒子は強く会合して凝集体になり、この凝集体は、次々に比較的弱い力で結合して粒塊になる。「高分散性シリカ」は、脱凝集して、薄片顕微鏡により観察され得るエラストマー性マトリックス中に分散するための非常に実質的な能力を有する任意のシリカである。
【0032】
表面積は、様々なシリカの補強特性の信頼性のある指標であり、ブルナウアー、エメット、及びテラー(Brunauer, Emmet and Teller、「BET」)法(J.Am.Chem.Soc.,vol.60,p.309 et seq.に記載)が、表面積を求めるための認められている方法である。シリカのBET表面積は、一般に450m/g未満、通常約32~約400m/g、又は約100~約250m/g、又は約150~約220m/gである。
【0033】
シリカ充填剤のpHは(使用される場合)、一般に約5~約7又はそれよりわずかに高く、好ましくは約5.5~約6.8である。
【0034】
シリカが用いられる場合、エラストマー(複数可)における良好な混合及びエラストマー(複数可)との相互作用を確実にするために、シラン等のカップリング剤が添加されることが多い。一般に、シランの添加量は、エラストマー性化合物中に存在するシリカ充填剤の重量に基づいて約4~20%の範囲内である。カップリング剤は、一般式A-T-G(式中、Aは、シリカ充填剤の表面上の基(例えば、表面シラノール基)と物理的及び/又は化学的に結合することができる官能基を表し、Tは、炭化水素基結合を表し、Gは、(例えば、硫黄含有結合を介して)エラストマーと結合することができる官能基を表す)を有し得る。そのようなカップリング剤としては、有機シラン、特に多硫化アルコキシシラン(例えば、米国特許第3,873,489号、同第3,978,103号、同第3,997,581号、同第4,002,594号、同第5,580,919号、同第5,583,245号、同第5,663,396号、同第5,684,171号、同第5,684,172号、同第5,696,197号等参照)又は上記のG及びA官能基を有するポリオルガノシロキサンが挙げられる。加工助剤の添加は、使用されるシランの量を減少させるために用いることができる。例えば、加工助剤として使用される糖の脂肪酸エステルの詳細に関しては、米国特許第6,525,118号を参照。加工助剤として有用な追加の充填剤としては、クレイ(含水ケイ酸アルミニウム)、タルク(含水ケイ酸マグネシウム)及びマイカなどの鉱物充填剤に加え、尿素及び硫酸ナトリウムなどの非鉱物充填剤が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なマイカは、主にアルミナ、シリカ、及び炭酸カリウムを含有するが、他の変種を使用してもよい。追加の充填剤は、最大約40phr、典型的には最大約20phrの量で利用することができる。
【0035】
シリカは一般に、最大約100phr、典型的には約5~約80phrの量で用いられる。カーボンブラックも存在する場合、シリカの量を約1phrにまで減らすことができ、シリカの量を減らした場合は、もしあればシランを加えたより少ない量の加工助剤を用いることができる。
【0036】
相対的に高い界面自由エネルギー、すなわち、水中表面自由エネルギー値(γpl)を有する1つ以上の従来にない充填剤を、カーボンブラック及び/若しくはシリカと共に又はその代わりに使用してもよい。「相対的に高い」という用語は、例えば、水-空気界面よりも大きい、好ましくはこの値の数倍(例えば、少なくとも2×、少なくとも3×又は更に少なくとも4×);非晶質シリカのγpl値の少なくとも数倍(例えば、少なくとも2×、少なくとも3×、少なくとも4×、少なくとも5×、少なくとも6×、少なくとも7×、少なくとも8×、少なくとも9×、又は更に少なくとも10×);絶対項では、例えば、少なくとも約300、少なくとも約400、少なくとも約500、少なくとも約600、少なくとも約700、少なくとも約750、少なくとも約1000、少なくとも約1500、及び少なくとも約2000mJ/m等、種々の方法で規定又は特徴付けることができる。比較的高い界面自由エネルギーを有する天然由来材料の非限定的な例としては、F-アパタイト、針鉄鉱、赤鉄鉱、紅亜鉛鉱、黒銅鉱、ギブサイト、石英、カオリナイト、全ての形態の黄鉄鉱などが挙げられる。特定の合成複合酸化物もまた、この種類の高い界面自由エネルギーを示すことができる。
【0037】
前述の種類の材料は、典型的には、カーボンブラック又は非晶質シリカのいずれよりも高密度であり、したがって、特定の質量のカーボンブラック又はシリカを等しい質量の従来にない充填剤で置き換えると、典型的には所与の化合物中に存在する全充填剤の体積ははるかに小さくなるであろう。したがって、置き換えは、典型的には等しい重量ではなく等しい体積に基づいて行われる。
【0038】
他の従来のゴム添加剤が添加されてもよい。例えば、これらには、プロセスオイル、可塑剤、酸化防止剤及びオゾン劣化防止剤などの劣化防止剤、硬化剤などが挙げられる。有利なことに、本発明によるゴム組成物は、適切なレベルの耐オゾン性を有する加硫物を提供するために、それほど多くの酸化防止剤/オゾン劣化防止剤を含む必要がない。
【0039】
例えば、バンベリー型又はブラベンダー型ミキサー等の標準的な機器を使用して、全ての成分を混合することができる。通常、混合は、2つ以上の段階で行われる。第1段階(多くの場合、マスタバッチ段階と称される)の間、混合は、通常約120~約130℃の温度で開始し、いわゆる降下温度である通常約165℃に到達するまで増加させる。
【0040】
製剤がカーボンブラック以外の又はカーボンブラックに加えて充填剤を含む場合、シラン成分の別個の添加ごとに別個の再粉砕段階を使用することが多い。この段階は、多くの場合、マスターバッチ段階で採用される温度と同様であるが、往々にしてわずかに低い温度、即ち約90℃から約150℃の降下温度までの温度で行われる。
【0041】
強化されたゴム化合物は従来法により、例えば、硫黄又は過酸化物系硬化系などの1種類又は2種類以上の公知の加硫剤約0.2~約5phrで硬化される。好適な加硫剤の一般的な開示について、興味のある読者は、Kirk-Othmer,Encyclopedia of Chem.Tech.,3d ed.,(Wiley Interscience,New York,1982),vol.20,pp.365-468に提供されているもの等の概説を参照されたい。加硫剤、促進剤などは最終の混合段階で添加される。望ましくないスコーチが生じる及び/又は加硫の開始が早すぎる確率を低減するために、この混合工程は、多くの場合、低温で実施され、例えば約60°~約65℃で開始して、約105°~約110℃よりも高温にしない。
【0042】
その後、種々の部品のうちのいずれかに形成される前に、シートに加工(例えば、ミル加工)してから加硫され、この加硫は通常、混合段階の間に用いられる最も高い温度よりも、約5~約15℃高く、最も一般的には約170℃で行われる。
【0043】
前述の記載から明らかなように、特徴、範囲、数値限定、及び実施形態に関する全体的な選好は、干渉しないか又は不適合でない限り、実行可能な程度に、他のかかる全体的に好ましい特徴、範囲、及び数値限定と組み合わせることができると想定される。以下の列挙される実施形態は、そのような組み合わせのいくつかを想定するのを支援するために提供される。
【0044】
プロセスの実施形態
P1.(a)カーボンブラック及び(b)エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーを含むゴム組成物から調製される加硫物のヒステリシス及び亀裂成長に対する耐性の性能を同時に改善するプロセスであって、当該ゴム組成物中に(c)EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物を含めることを含む、プロセス。
P2.(a)カーボンブラック及び(b)エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーを含むゴム組成物から調製される加硫物のヒステリシス及び亀裂成長に対する耐性の性能を同時に改善するプロセスであって、当該ゴム組成物中に(c)官能化EPDMを含めることを含み、ジエンモノマー残基から生じる当該官能化EPDMの部分が、チオール基を含むアルキル基側鎖を含む、プロセス。
P3.当該エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリブタジエンを含む、P1又はP2に記載のプロセス。
P4.当該エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリイソプレンを含む、P1~P3のいずれかに記載のプロセス。
P5.当該ゴム組成物が、非官能化EPDMを更に含む、P1~P4のいずれかに記載のプロセス。
P6.当該非官能化EPDMに対する成分(c)のモル比が、1:200~1:20である、P5に記載のプロセス。
P7.当該モル比が、1:150~1:25である、P6に記載のプロセス。
P8.当該モル比が、1:125~1:33である、P7に記載のプロセス。
P9.当該非官能化EPDMに対する成分(c)のモル比が、1:50~2:1である、P5に記載のプロセス。
P10.当該モル比が、1:25~3:2である、P9に記載のプロセス。
P11.当該モル比が、1:5~4:3である、P10に記載のプロセス。
P12.当該モル比が、1:2~1:1である、P11に記載のプロセス。
P13.EPDMの総量が、当該組成物中の全ポリマーの少なくとも10重量パーセントを構成する、P1~P12のいずれかに記載のプロセス。
P14.EPDMの総量が、当該組成物中の全ポリマーの40重量パーセント以下を構成する、P13に記載のプロセス。
P15.当該ゴム組成物を加硫することを更に含む、P1~P14のいずれかに記載のプロセス。
【0045】
ゴム化合物の実施形態
R1.(a)カーボンブラック、(b)エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマー、及び(c)EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物を含むゴム組成物。
R2.(a)カーボンブラック、(b)エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマー、及び(c)官能化EPDMを含むゴム組成物であって、ジエンモノマー残基から生じる当該官能化EPDMの部分が、チオール基を含むアルキル基側鎖を含む、ゴム組成物。
R3.当該エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリブタジエンを含む、R1又はR2に記載のゴム組成物。
R4.当該エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーが、ポリイソプレンを含む、R1~R3のいずれかに記載のゴム組成物。
R5.非官能化EPDMを更に含む、R1~R4のいずれかに記載のゴム組成物。
R6.当該非官能化EPDMに対する成分(c)のモル比が、1:200~1:20である、R5に記載のゴム組成物。
R7.当該モル比が、1:150~1:25である、R6に記載のゴム組成物。
R8.当該モル比が、1:125~1:33である、R7に記載のゴム組成物。
R9.当該非官能化EPDMに対する成分(c)のモル比が、1:50~2:1である、R5に記載のゴム組成物。
R10.当該モル比が、1:25~3:2である、R9に記載のゴム組成物。
R11.当該モル比が、1:5~4:3である、R10に記載のゴム組成物。
R12.当該モル比が、1:2~1:1である、R11に記載のゴム組成物。
R13.EPDMの総量が、当該組成物中の全ポリマーの少なくとも10重量パーセントを構成する、R1~R12のいずれかに記載のゴム組成物。
R14.EPDMの総量が、当該組成物中の全ポリマーの40重量パーセント以下を構成する、R13に記載のゴム組成物。
【0046】
R1~R14のいずれかから提供される加硫物も企図される。
【0047】
以下の非限定的で例示的な実施例は、本発明の実施において有用となり得る詳細な条件及び材料を提供する。これらの実施例は、費用、入手可能性、対処能力、及び最も重要なことには、以前報告されたポリマーとの比較と同様に内部比較を行う能力を含む様々な要因により、例示的なポリエンとして1,3-ブタジエンを用いる。当業者は、これらの例を種々の他のポリエンから調製されたポリマーに拡張することができる。
【実施例
【0048】
ポリマーサンプルの分子量値(全てkg/mol)は、溶媒としてTHFを用いてGPCによって求め、一連のポリスチレン標準で較正した。
【0049】
実施例1:EPDM官能化
で30分間パージした10gのEPDMを入れたガラスボトルに、217gのトルエンを添加した。一晩静置した後、ボトルを70℃で約2時間撹拌した。
【0050】
ガラスバイアルに、2mLのチオ酢酸、110mgのAIBN、及び10mLのトルエンを添加した。バイアルをNバブリングにより20分間パージした。
【0051】
ガラスバイアルの全内容物をガラスボトルに仕込んだ後、後者を70℃で約5時間撹拌した。
【0052】
得られたポリマーセメントをイソプロパノール溶液中で凝固させ、更にイソプロパノールで2回洗浄した。ポリマーセメントを40℃で3時間真空オーブン中で乾燥させた(収率64.4%)。
【0053】
実施例2:加水分解
実施例1からのポリマー15gを入れたガラスボトルをNで30分間パージした後、トルエン400gを添加した。一晩静置した後、ボトルを50℃で約3時間撹拌した。
【0054】
ガラスバイアルに、0.32gのNaOH及び50mLのメタノールを添加した後、バイアルをNで15分間パージした。
【0055】
ガラスバイアルの内容物の一部を、以下の通りガラスボトルに添加した:1mLを滴下、約25分間待機、2mLを滴下。
【0056】
最初の上記添加の約2時間後に、2mLの1M HClをボトルに滴下した。
【0057】
得られたポリマーセメントをイソプロパノール溶液中で凝固させ、更にイソプロパノールで2回洗浄した。ポリマーセメントを、室温で6時間真空オーブン中で乾燥させた。
【0058】
得られたチオールグラフト化ポリマーは、約133kg/molのM、2.64のMWD、及び2.1%(w/w)のグラフト化量を有すると求められた。
【0059】
実施例3~6:ゴム組成物及び加硫物
90ccのToyoseiki(商標)ミキサーを用いて、下記の各ゴム組成物を作製した。プレマスターバッチ及びマスターバッチ段階は160℃及び70rpmで3分間調製したが、最終段階は80℃及び50rpmで1分間混合した。(使用したEPDM及び高シスBRは両方とも市販の材料である)。
【0060】
実施例3~6の各マスターバッチ段階における添加剤パッケージは同一であった。
【0061】
最終段階(以下の表1には含まれていない)では、同量の硫黄をそれぞれに添加したが、酸化防止剤(複数可)を含む他の添加剤の量は、実施例3~4に対して実施例5~6では30%減少させた。
【0062】
プレマスターバッチ段階の成分の量はpbwであるが、マスターバッチ段階の成分の量はphrである。
【0063】
【表1】
【0064】
グリーンゴムを160℃で硬化させて、物理的試験のための試験片を調製し、その結果を直下の表にしたが、各数値は、実施例3の加硫物について集められた同じデータに対するものであり、すなわち、実施例3に対してインデックスが付けられている。(dc/dn特性は亀裂成長に対する耐性の指標であり、典型的にはEPDMの量に強く相関する。tanδ特性については、低いほど良好であり、したがって、より高い指数値は、実施例3の加硫物に対してより低い絶対値が得られたことを示す。
【0065】
【表2】
【0066】
典型的には、ヒステリシス性能の低下は、亀裂成長に対する耐性の低下と相関する。すなわち、一方においてより良好な結果を得るためには他方においてより劣った結果も受け入れなければならない。しかしながら、実施例5の加硫物は実施例3の加硫物よりも明らかに性能が優れており、同様に、実施例6の加硫物は実施例4の加硫物よりも明らかに性能が優れていた。(実施例3及び5におけるEPDMの量は、実施例4及び6における量と同様に同じである。)したがって、本発明による官能化EPDMを含有する加硫物は、官能化EPDMを含有しない加硫物よりも良好なヒステリシス及び亀裂成長耐性を示すことができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物であって、
a)カーボンブラックと、
b)エチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーと、
c)官能化EPDMであって、ジエンモノマー残基から生じる前記官能化EPDMの部分が、チオール基を含むアルキル側鎖を含む、官能化EPDMと、
を含む、ゴム組成物。
【請求項2】
前記官能化EPDMが、EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
EPDMの総量が、前記組成物中の全ポリマーの少なくとも10重量パーセントを構成する、請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
カーボンブラック及びエチレン性不飽和を含む少なくとも1つのポリマーを含むゴム組成物から調製される加硫物のヒステリシス及び亀裂成長に対する耐性の性能を同時に改善する方法であって、前記ゴム組成物中に官能化EPDMを含めることを含み、ジエンモノマー残基から生じる前記官能化EPDMの部分が、チオール基を含むアルキル側鎖を含む、方法。
【請求項5】
前記官能化EPDMが、EPDMとチオ酢酸との加水分解反応生成物である、請求項4に記載の方法。

【国際調査報告】