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特表2023-551596大気中の炭素排出量が実質的にゼロである、メタンの熱分解と水素及び固体炭素の製造のための触媒材料
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  • 特表-大気中の炭素排出量が実質的にゼロである、メタンの熱分解と水素及び固体炭素の製造のための触媒材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】大気中の炭素排出量が実質的にゼロである、メタンの熱分解と水素及び固体炭素の製造のための触媒材料
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/187 20060101AFI20231201BHJP
   B01J 23/86 20060101ALI20231201BHJP
   C01B 3/26 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
B01J27/187 M ZAB
B01J23/86 M
C01B3/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547922
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(85)【翻訳文提出日】2023-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2021078865
(87)【国際公開番号】W WO2022084273
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】63/093,399
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/502,628
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523145550
【氏名又は名称】ベリキオス、 セノフォン
(71)【出願人】
【識別番号】523138769
【氏名又は名称】ファウンデーション フォー リサーチ アンド テクノロジー―ヘラス/インスティテュート オブ ケミカル エンジニアリング サイエンスィズ(フォース/アイス―エイチティー)
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ベリキオス、 セノフォン
(72)【発明者】
【氏名】ネオフィティデス、 スティリアノス
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140DA03
4G140DC02
4G169AA02
4G169BA01B
4G169BA02B
4G169BA03B
4G169BA06B
4G169BA20B
4G169BA31A
4G169BB06B
4G169BB09B
4G169BB14B
4G169BC09B
4G169BC10B
4G169BC58B
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169CB81
4G169CC21
4G169CC31
4G169DA06
4G169DA07
4G169DA08
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EA02X
4G169EA02Y
(57)【要約】
メタン又は天然ガス等の炭化水素の熱分解のための触媒は、炭化水素の水素と炭素への分解を促進するように構成される廃棄物の集積物を含む。廃棄物は、ボーキサイト残渣、ミルスケール、又はスラグのうちの1つである。廃棄物の集積物は、粉末又は断片形態に分解され得る。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の熱分解のための触媒であって、
前記炭化水素の水素と炭素への分解を促進するように構成される廃棄物の集積物を含み、
前記廃棄物が、ボーキサイト残渣、ミルスケール、又はスラグのうちの1つである、触媒。
【請求項2】
前記廃棄物に積層された基礎構造を更に含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記基礎構造が、前記廃棄物から少なくとも一部作製される、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記廃棄物が、ニッケル、コバルト、又は鉄添加剤によって増強される、請求項2に記載の触媒。
【請求項5】
前記基礎構造が、ニッケル、コバルト、鉄、酸化アルミニウム、又は酸化マグネシウムから少なくとも一部作製される、請求項2に記載の触媒。
【請求項6】
前記廃棄物の集積物が、粉末又は断片形態に分解される、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
前記廃棄物が、鉄鋼スラグ、銅スラグ、又はニッケルスラグのうちの少なくとも1つを含むスラグである、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
水素ガス及び固体炭素を生成するための方法であって、
廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることと、
前記炭化水素及び廃棄物触媒を加熱することと、
前記炭化水素を水素と固体炭素に熱触媒分解することと、
前記水素を容器に回収することと、を含む、方法。
【請求項9】
廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることが、廃棄物触媒上に天然ガス又はメタンを通過させることを含む、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項10】
前記廃棄物触媒上に堆積した固体炭素を回収することを更に含む、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項11】
廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることが、廃棄物の触媒集積物の上に前記炭化水素を通過させることを含む、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項12】
廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることが、ボーキサイト残渣、スラグ、又はミルスケールのうちの少なくとも1つを含む廃棄物触媒上に前記炭化水素を通過させることを含む、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項13】
廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることが、
基礎構造と、
前記基礎構造上の外層としての廃棄物材料の層と、を含む廃棄物触媒上に前記炭化水素を通過させることを含む、請求項11に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項14】
前記廃棄物触媒が反応器に含まれる、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項15】
前記反応器が、固定床、流動床、移動床、トリクル床、回転床、又はスラリー反応器である、請求項13に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項16】
前記廃棄物触媒を粉末又は断片形態に加工するステップを更に含む、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項17】
前記炭化水素及び廃棄物触媒が、約750℃から約950℃まで加熱される、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項18】
前記炭化水素及び廃棄物触媒が、約500℃から約1300℃まで加熱される、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項19】
廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることが、鉄鋼スラグ、銅スラグ、又はニッケルスラグのうちの少なくとも1つを含む廃棄物触媒上に前記炭化水素を通過させることを含む、請求項8に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【請求項20】
前記スラグが、鉄鋼スラグ、銅スラグ、又はニッケルスラグのうちの少なくとも1つである、請求項11に記載の水素ガス及び固体炭素を生成するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月19日に出願された米国仮特許出願第63/093,399号の利益及びそれに対する優先権を主張する、2021年10月15日に出願された米国非仮特許出願第17/502,628号の利益及びそれに対する優先権を主張するものであり、それらの各々の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、炭化水素の熱分解(pyrolysis)による水素及び固体炭素材料の製造に関する。具体的には、本開示は、メタン又は天然ガスの熱分解のための触媒に関し、触媒は廃棄物(waste-products)を含む。
【背景技術】
【0003】
エネルギー部門の脱炭素化は、地球温暖化及び気候変動に関連する環境問題にとって最も重要である。水素、中でも純粋なHは、特に発電及び輸送に使用されるため、多くの人々によって化石燃料の有望な代替品であるとみなされる、エネルギー部門を脱炭素化するための、周知の炭素を含まないエネルギー担体である。燃料電池技術の出現は、燃料電池が高い電気効率及び他の環境上の利点を伴って水素で動作するため、この代替品を推進している。
【0004】
しかしながら、水素は、地球上ではその自由分子状態では見られない。したがって、それは水素を含む化合物から抽出する必要がある。最も成熟した技術は、電気分解によって水から水素を抽出すること(水分解)を含む。水中のH-O結合が非常に安定であり、それらを切断するためには大量のエネルギーが必要であるため、このプロセスは多大なエネルギーを要する。水電解によって1立方メートルの水素を製造するには、4kWhを超える電力が必要である。問題を悪化させているのは、純粋なHの製造に消費される電力源と、その製造の環境への影響である。世界の多くの地域では、発電は膨大な量の炭素排出及び他の大気汚染物質の排出を伴うため、この技術の環境フットプリントには疑問がある。
【0005】
代替のアプローチは、天然ガスの主成分(90~95%超)であるメタン(CH)等の炭化水素から水素を抽出することである。これは実行可能なプロセスであり、技術的に成熟しているが、このプロセスは炭化水素に含まれる炭素から生じる二酸化炭素(CO)を排出する。排出されるCOの量は少ないかもしれないが、ゼロではない。しかしながら、天然ガスの世界的な供給量は非常に多く、炭素排出量は低いため、フルカーボンとゼロカーボンのアプローチの間の過渡的なものとして使用できる技術である。
【0006】
「青色水素」、すなわち、炭素排出がほぼない水素を製造する別の代替プロセスは、メタン又は天然ガスの、ガス状水素と固体炭素への分解又は熱分解である。そのようなプロセスは、所望の純粋な水素を製造し、これは、Muradovに対する米国特許第6,670,058号に記載されているように、CO排出が無いか限られた、発電のための燃料電池に直接使用され得る。固体炭素副産物は、工業プロセスで使用することができるか、又は地下に容易に処分することができる。天然ガスの代わりにバイオガス(又はバイオメタン)を使用する場合、バイオメタンに含まれる炭素は大気から吸収される炭素であるため、このプロセスは「負の」炭素排出である。このプロセスのエネルギー「ペナルティ」は、水素を製造するためのメタン分解、及び発電するための燃料電池中の水素の使用によるエネルギー損失として定義されるが、タービン内の天然ガスによる発電と比較して15%少ない。製造された炭素が工業プロセスで利用される場合、ペナルティはより少ないか、あるいは「負」でさえある。
【0007】
メタンの熱分解には、一般的に1200℃を超える非常に高い温度が必要である。好適な触媒を使用して、熱分解に必要なメタンの要求される活性化温度を低下させることができる。好適な触媒の存在下では、メタン分解は、800~900℃で生じ得る。最も有望な触媒は、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、及びコバルト(Co)を含み、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物材料に担持される。しかしながら、触媒は、その表面上に炭素を蓄積し、短期間の使用後に不活性化するため、そのような触媒上でのメタンの分解は、実用的ではなく、経済的に実現可能ではない。蓄積した炭素を除去し、触媒を再利用することは、複雑かつ高価である。したがって、触媒及び蓄積した炭素を含む固体材料は、しばしば一緒に処分される。触媒のコストが多大であるため、これはプロセスの経済的実現可能性に支障をきたす。したがって、メタンの熱分解のための温度要件を低減する際に実用的であり、経済的に実現可能であり、かつ効果的な触媒が所望される。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、廃棄物の集積物(pile)を含むメタンの熱分解のための触媒に関する。廃棄物は、炭化水素の水素と炭素への分解を促進するように構成される。廃棄物は、精製されたボーキサイト残渣、ミルスケール、又はスラグのうちの1つである。
【0009】
ある態様において、触媒は、廃棄物に積層された基礎構造(substructure)を含み得る。
【0010】
態様において、基礎構造は、廃棄物から少なくとも一部作製され得る。
【0011】
他の態様において、廃棄物は、ニッケル、コバルト、又は鉄添加剤によって増強(enhanced)され得る。
【0012】
更なる態様において、基礎構造は、ニッケル、コバルト、鉄、酸化アルミニウム、又は酸化マグネシウムから少なくとも一部作製され得る。
【0013】
ある態様において、廃棄物の集積物は、粉末又は断片形態に分解される。
【0014】
態様において、廃棄物は、鉄鋼スラグ、銅スラグ、又はニッケルスラグのうちの少なくとも1つを含むスラグであり得る。
【0015】
本開示の別の態様は、水素を製造するための方法を提供する。方法は、廃棄物触媒上に炭化水素を通過させること、炭化水素及び廃棄物触媒を加熱すること、炭化水素を水素と固体炭素に熱触媒分解すること、及び水素を容器に回収することを含む。
【0016】
態様において、廃棄物触媒上への炭化水素の通過は、廃棄物触媒上に天然ガス又はメタンを通過させることを含み得る。
【0017】
更なる態様において、方法は、廃棄物触媒上に堆積した固体炭素を回収することを更に含み得る。
【0018】
他の態様において、廃棄物触媒上への炭化水素の通過は、廃棄物の触媒集積物上に炭化水素を通過させることを含み得る。
【0019】
開示される態様において、廃棄物触媒上への炭化水素の通過は、ボーキサイト残渣、スラグ、又はミルスケールのうちの少なくとも1つを含み得る廃棄物触媒上に炭化水を通過させることを含み得る。
【0020】
更に他の代替例において、廃棄物触媒上への炭化水素の通過は、基礎構造を含み得る廃棄物触媒上に炭化水素を通過させることを含む。廃棄物材料の層は、基礎構造上の外層であり得る。
【0021】
更なる態様において、廃棄物触媒は、反応器内に含まれ得る。
【0022】
更なる態様において、反応器は、固定床、流動床、移動床、トリクル床、回転床、又はスラリー反応器である。
【0023】
開示される態様において、方法は、廃棄物触媒を粉末又は断片形態に加工することを含み得る。
【0024】
態様において、方法は、炭化水素及び廃棄物触媒を約750℃から約950℃まで加熱することを含み得る。
【0025】
態様において、方法は、炭化水素及び廃棄物触媒を約500℃から約1300℃まで加熱することを含み得る。
【0026】
本開示のこれらの並びに他の特徴及び利点は、以下の説明及び付随する図面から明らかになる。
【0027】
本開示の特徴及び利点のより良好な理解は、例示的な態様を記載する以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】ボーキサイト残渣触媒材料の集積物の画像である。
【0029】
図2】ミルスケール触媒材料の集積物の画像である。
【0030】
図3】ボーキサイト残渣が触媒材料として使用される場合の例示的な水素の生成速度の図である。
【0031】
図4】ミルスケールが触媒材料として使用される場合の例示的な水素の生成速度の図である。
【0032】
図5】本開示の別の態様による、水素を生成するための方法の図である。
【0033】
図6】平らな棒の形状の廃棄物触媒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示は、特定の実施形態の観点から説明されるが、本開示の主旨から逸脱することなく、様々な修正、再構成、及び置換が行われ得ることは、当業者には容易に明らかであろう。
【0035】
本明細書の説明は、本開示の徹底的な理解を提供するために含まれる多数の具体的な詳細を提示する。しかしながら、本開示は、これらの具体的な詳細の一部又は全てを用いることなく実施され得ることは、当業者には明白であろう。その一方で、周知のプロセスステップ、手順、及び構造は、本開示を不必要に不明瞭にしないように、詳細には説明されていない。
【0036】
メタンの熱分解又は熱触媒分解のプロセスによる純粋な水素及び固体炭素材料の製造は、水素経済の発展に不可欠である。反応に使用される触媒の供給源及び特性を改善することは、天然ガス又は天然ガスの主要成分であるメタンからの水素製造の実現可能性を改善する重要な側面である。触媒特性の向上は、一般に、反応速度、動作温度の最小化、及び巨大なナノカーボンの堆積中に熱化学的安定性を保持する能力に関して行われる。したがって、様々な金属及び炭素系触媒が導入された。金属系触媒は、水素の生成率及び反応速度の点で炭素触媒よりも優れている。
【0037】
遷移金属、特にNi、Fe、及びCo系触媒は、熱分解中の触媒反応を改善するためにしばしば使用される。Ni系触媒は、それらの比較的低いコスト、低い毒性、優れた活性、安定性、及び環境に優しい特性のために、金属系触媒と区別される。金属系触媒は、反応媒体に向かって触媒の上部に金属の活性部位を保持するナノカーボン形成機構を維持することにより、より長い触媒寿命を有する。熱分解法からのナノカーボン又は固体炭素生成物の成長機構は、活性金属部位を通した堆積炭素の拡散を伴う。拡散されたナノカーボンは、次いで、金属粒子の反対側に沈殿して、より長い炭素フィラメントを形成する。
【0038】
この方法に使用される触媒の触媒活性及び安定性、並びに生成されたままのナノカーボンの特性は、どちらも生成される固体炭素副産物及び水素の全体的な収率及び構造を決定する上で極めて重大な役割を果たすため、熱触媒分解(TCD:thermocatalytic decomposition)において非常に重要である。固体炭素は、固体炭素が触媒を飽和させそれによって触媒を不活性化するまで、触媒上に蓄積する。不活性化がほぼ完了すると、触媒は、それが含む固体炭素とともに、好適な方法で処分され得るか、又は他のプロセスで使用され得る。
【0039】
メタンの熱分解又はTCDからの固体炭素副産物は、一般にナノカーボン、黒鉛状炭素、又はカーボンナノチューブの形態である。これは、熱分解又はTCDによって水素を生成することに対して、追加の経済的な利点を提供し、いくつかの用途では、環境上の利点を提供する(さもなければ役に立たない固体炭素を処分する必要性を低減するため)。例えば、黒鉛状炭素副産物は、当業者に既知の他の多くの用途の中でも、鉛筆の先端、高温るつぼ、乾電池、電極の製造等の様々な産業用途及び消費者用途に、又は潤滑剤として、使用され得る。カーボンナノチューブ(CNT)は、SWCNTの場合は0.8~2nm、MWCNTの場合は5~20nmの直径の、グラフェン(格子)のシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)として知られる1つ以上の層からなる円筒である。CNTは、望ましい特性の構造材料であり、エネルギー貯蔵、デバイスモデリング、自動車部品、ボート船体、スポーツ用品、浄水器、薄膜エレクトロニクス、コーティング、アクチュエータ、及び電磁シールドを含むがこれらに限定されない用途で使用される。
【0040】
低コストで、環境に優しく、かつ豊富な触媒材料を提供することは、高価な触媒材料の特性を改善する必要性、又は触媒を再利用するための方法を開発する必要性を低減する。
【0041】
本開示は、メタン又は天然ガスからの水素と固体炭素への熱触媒分解(熱分解)を促進することができ、純粋な水素の低カーボン、ほぼゼロカーボン、又は「負の」カーボンでの製造のために使用され得る、「廃棄物」触媒又は触媒材料を形成する廃棄物のファミリーを説明する。該触媒は、いずれにしても処分されなければならない廃棄材料から構成されているため、カーボンニュートラルであり、炭素消費を可能にし、環境に優しい。廃棄物触媒は、廃棄材料から生成され、触媒が使用されない場合よりも低い温度でメタンの熱分解又は熱触媒分解(TCD)を可能にする。追加的に、これらの廃棄材料が豊富であることに起因して、該材料は通常ならば例えば埋立地に処分されるのだから使用済みの「廃棄物」触媒を交換することは経済的であり、実行可能である。したがって、これは、しばしばより高価な触媒材料の上に蓄積してそれを不活性化する固体炭素堆積物の問題を軽減する。廃棄物触媒は、スラグ、ミルスケール、ボーキサイト残渣、又はTCDのための十分なレベルの鉄を含む同様の廃棄物を含み得る。
【0042】
廃棄物触媒は、メタン又は天然ガスを分解するのに役立つ。これらの材料をメタンのTCDにおいて廃棄物触媒として使用すると、以下の反応が起こる。
【数1】
【0043】
図1を参照すると、一般に「赤泥」と称されるボーキサイト残渣(ボーキサイト尾鉱)から廃棄物触媒が生成される。赤泥を乾燥させ、「粉末」又は「断片(piece-meal)」形態で触媒として使用する。赤泥は、主に酸化鉄から構成される。ボーキサイト残渣は、特にアルミニウム抽出分野の当業者にバイヤー法として知られる方法によってボーキサイト鉱石からアルミニウムを抽出するプロセスの副産物である。
【0044】
バイヤー法では、露天掘りで採掘されたボーキサイト鉱石を、高温の苛性ソーダとしても知られる水酸化ナトリウムで処理し、一連の他の鉱化金属からアルミニウムを選択的に溶解する。最終産物は、アルミニウム金属を製造するために使用されるアルミナ(Al)と、ボーキサイト残渣である。1トンのアルミナが生産されるごとに、約1~1.5トンの赤泥が発生する。一般に、発生した赤泥は池に貯蔵され、他の用途はほとんどなく、環境に優しくない。2018年現在、アルミナの年間生産量は約1億2,600万トンであり、その結果として1億6,000万トンの赤泥を発生することを考えると、赤泥の適切で環境に優しい使用が所望される。
【0045】
赤泥から廃棄物触媒を作製することにより、効率的かつ効果的な熱分解が行われるだけでなく、バイヤー法からの廃棄物が再利用され、熱分解法及びバイヤー法の両方の環境への影響が軽減される。更に、豊富な赤泥は、触媒のための魅力的な経済的な材料となる。
【0046】
ボーキサイト残渣は、キルン乾燥又は天日乾燥等の様々な方法で乾燥させて、その後、「粉末」又は「断片」(小塊及び小片)の触媒集積物を形成するように加工することができる。乾燥した赤泥は、熱分解のために化学反応器に入れ、封入することができる。反応器は、固定床、流動床、移動床、トリクル床、回転床、又はスラリー反応器であり得る。化学反応器又は熱分解の当業者に既知の任意の好適な反応器が使用され得る。乾燥した赤泥触媒集積物を化学反応器に直接入れることにより、炭素の節減及び水素の製造に加えて、触媒の更なる加工が必要ないため触媒材料の製造コストが削減される。
【0047】
態様において、廃棄物触媒は、精製又は乾燥した赤泥の層でコーティングされた触媒基礎構造を含み得る。態様において、基礎構造は、赤泥から作製することができ、乾燥した赤泥を、次いで、触媒基礎構造上に積層することができる。乾燥した赤泥は、触媒構造の全体を形成するように構成され得る。態様において、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、若しくは鉄(Fe)金属又は化合物を赤泥に添加して、赤泥の触媒性能を向上させることができる。
【0048】
ボーキサイト残渣は、30~60重量%の酸化鉄(III)(Fe)、10~20重量%の酸化アルミニウム(Al)、3~50重量%の二酸化ケイ素(SiO)、2~10重量%の酸化ナトリウム(NaO)、2~8重量%の酸化カルシウム(CaO)、及び約0~25重量%の二酸化チタン(TiO)を含み得る。追加的に、微量のMgOが、しばしば赤泥中に見られる。Al、SiO、MgO、及びTiOは、ジャーナルRenewable&Sustainable Energy Reviews March 2017の、Ashikらによる「A review on methane transformation to hydrogen and nanocarbon:Relevance of catalyst characteristics and experimental parameters on yield」という表題の記事で論じられているように、触媒性能を改善することが当技術分野において既知である。具体的には、触媒添加剤としてのSiOは、熱分解における触媒反応を促進するための有効な材料である。したがって、「粉末」又は「断片」の集積物中の乾燥ボーキサイト残渣は、望ましい触媒材料である。
【0049】
赤泥は、そのそれぞれの成分の望ましい量を含むように精製され得る。赤泥は、Co、Ni、Fe、又はAl若しくはMgO等の金属酸化物を含む基礎構造上に積層され得る。触媒基礎構造は、当業者に既知の任意の形状、サイズ、又は幾何学的形状であり得る。触媒基礎構造は、円筒形、立方体、棒、ハニカム、又は任意の他の望ましい形状であり得る。
【0050】
本開示の別の態様において、廃棄物触媒は、鉄鋼の製造及び加工からの廃棄材料として由来する固体粒子又はフレークを含み、いずれの混合物も含まずに鉄鋼から構成される。態様において、固体粒子又はフレークは、鋼圧延プロセスからの副産物として生成されたミルスケールであり得る。ミルスケールは、熱間圧延鋼の薄片状の表面又は薄酸化鉄層であり、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)、及び酸化鉄(II、III)(Fe、マグネタイト)等の混合酸化鉄からなる。態様において、ミルスケール廃棄材料は、約40%から約100%のFe又は約90%超のFeから構成され得る。ミルスケールを収集して触媒集積物にし、固定床、流動床、移動床、トリクル床、回転床、又はスラリー反応器等の好適な反応器内に配置する。化学反応器又は熱分解の当業者に既知の任意の好適な反応器が使用され得る。
【0051】
本開示の別の態様において、金属がその原鉱から分離された後に残る副産物である廃棄材料のスラグが、廃棄物触媒の全部又は一部として使用され得る。スラグを収集して触媒集積物にし、廃棄物触媒を形成する。スラグは、「粉末」又は「断片」形態に分解され、収集されて触媒集積物にされ得る。スラグの触媒集積物を、ミルスケール及び赤泥に関して上述したような好適な反応器内に配置する。
【0052】
スラグは、一般に、金属酸化物と二酸化ケイ素(SiO2)との混合物から構成されるが、金属硫化物、酸化マグネシウム(MgO)、及び他の元素金属も含み得る。様々な種類のスラグの典型的な組成を表1に示す:
【表1】
【0053】
スラグは、例えば、鉄鋼産業で、粗鉄(銑鉄とも呼ばれる)の精製中に生成される鉄鋼スラグであってもよい。粗鉄の精製は、鉄溶融物上に浮遊することによって分離される様々な残留脈石を酸化するために、塩基性酸素炉(BOF)又は電気アーク炉(EAF)でしばしば行われる。表2は、BOF又はEAFを使用して生成された鉄鋼スラグの重量パーセント(重量%)による例示的な組成を示す。
【表2】
【0054】
態様において、スラグは、ニッケルスラグ(Niスラグ)であり得る。Niスラグは、ニッケル金属の製造における廃棄材料として生成される。(Ni,Fe)としてFe及びSと混合されるペントランド鉱であり得るニッケル鉱石を製錬して、ニッケルマットを生成する。ニッケルマットは、ニッケルと硫化鉄を含む。次いで、ニッケルマットを、ニッケルマット中の鉄が酸化される電気炉で処理し、その鉄をシリカと組み合わせて、約30%以下~約40重量%以上のFeOを含むスラグを生成することができる。コンバータ炉は、ニッケルマット中に残っている酸化鉄からニッケルマットを更に精製して、約60%以下~約66%以上のFeOを含むスラグを生成することができる。表3は、Niスラグの例示的な組成を示す。
【表3】

【0055】
他の態様において、スラグは、例えば、銅マットを生成する、硫酸鉄銅(例えば、CuFeS又はCuFeS)として存在する銅鉱石の製錬プロセスにおいて廃棄材料として生成される銅スラグ(Cuスラグ)であり得る。次いで、銅マットを処理して、銅マットから鉄、硫黄、及び脈石材料を除去する。シリカは、銅マットの酸化鉄と相互作用して、スメルトから分離することができる浮遊層を形成するため、シリカがスメルトに添加され得る。シリカと混合された酸化鉄が銅スラグを形成する。表4は、Cuスラグの例示的な組成を示す。
【表4】
【0056】
態様において、スラグ又はミルスケールは、触媒基礎構造上に積層され得るか、又は触媒基礎構造全体を形成し得る。態様において、触媒基礎構造は、スラグ及び/又はミルスケールの複数の層を含み得る。
【0057】
本開示の別の態様において、原鉄鉱は、廃棄物ではないが、「粉末」又は「断片」形態に分解され、化学反応器内で熱分解に使用するように収集されて触媒集積物にされる。鉄鉱石は、一般に、鉄鋼を作るために使用されるその鉄の抽出のために採掘され、典型的には廃棄物ではなく、むしろ将来の製品に加工される原料である。鉄鉱石は、その未加工の状態では、多くの標準的な触媒と比較して安価な材料である。スラグ及びミルスケールは、鉄鉱石が加工された後の残余物又は廃棄物である。
【0058】
スラグ、ミルスケール、及び赤泥は、既に処分を必要としており、かつ熱分解に望ましい特性を有する材料であるため、熱分解用の廃棄物触媒を作製するための魅力的な材料を提供する。以下の表5は、典型的な触媒材料に対する赤泥及びミルスケールの、炭素蓄積比の比較を提供する。より高い比率ではより多くの炭素が炭化水素(例えば、メタン)から分離して触媒上に蓄積するため、1グラム(g)の触媒当たりの炭素のグラム(g)の比率が高いほど、より多くの水素が生成される。廃棄物触媒(赤泥及びミルスケール)上に蓄積する炭素の量は、従来使用されている触媒と遜色ない。注目すべきは、ミルスケールの炭素蓄積比が他の多くの触媒を上回ることである。
【表5】

【0059】
図3を参照すると、例示的な実験において、乾燥させた赤泥触媒集積物を経時的なメタンの熱触媒分解(熱分解)のために使用した場合の水素の生成速度のグラフが示される。900℃でほぼ純粋なメタンが分解された。例示的な実験で使用した乾燥赤泥は、約100mgのFeを含む300ミリグラム(mg)の重量であった。220分後に、約500mgの炭素が赤泥の上に堆積した。220分後に約1,850立方センチメートル(cc)の水素(H)が生成され、これは赤泥1kg当たり約0.55キログラム(kg)のHに相当する。例示的な実験では、赤泥触媒集積物を使用した熱分解による水素の生成速度は、毎分約15cc(cc/分)~約5cc/分の範囲であった。
【0060】
図4を参照すると、例示的な実験において、経時的な熱分解のためにミルスケール触媒集積物を使用した場合の水素の生成速度のグラフが示される。900℃でほぼ純粋なメタンが分解された。この例で使用した含まれるミルスケール触媒集積物は、300mgの重量であった。2,000分後に、約2,850mgの炭素が鉄スラグ触媒集積物の上に堆積した。約10,600ccのHが生成され、これは鉄スラグ触媒集積物1kg当たり約3.15kgのHに相当する。最初の120分間で、ミルスケール触媒集積物を使用した熱分解による水素の生成速度は、約25cc/分のピークまで増加し、2000分後には約3cc/分に減少した。
【0061】
本開示の別の態様において、メタン又は天然ガス等の炭化水素からの水素の製造のための方法500は、本開示の廃棄物触媒上に炭化水素を通過させるステップ510を含む。ステップ520において、方法は、本開示の廃棄物触媒の存在下で炭化水素を望ましい温度まで加熱することを含む。態様において、炭化水素は、500℃から約1300℃まで加熱され得る。態様において、炭化水素及び廃棄物触媒は、約750℃から約950℃まで加熱される。別のステップ530において、炭化水素(例えば、メタン)は、純粋な水素と固体炭素に分解される。この方法は、廃棄物触媒の表面上で固体炭素を生成することを含む。態様において、ガス状炭素ではなく固体炭素のみが副産物として生成される。別のステップ540において、方法は、容器に水素を回収することを含む。この方法は、生成された水素を使用して触媒を加熱することを含み得る。別のステップ550において、方法は、廃棄物触媒から固体炭素を回収することを含む。態様において、廃棄物触媒は、赤泥、ミルスケール、又はスラグのうちの少なくとも1つを含む触媒集積物である。態様において、固体炭素及び廃棄物触媒は、炭素が大気中に逃げるのを防止するために地中に処分される。
【0062】
図6を参照すると、例示的な廃棄物触媒600は、基礎構造610及び廃棄物外層620を含む。基礎構造610は、Ni、Co、若しくはFe等の任意の好適な材料、MgO若しくはAl等の金属酸化物、又はセラミック等の非金属から作製され得る。廃棄物層620は、ボーキサイト残渣、スラグ、又はミルスケール等の1つ以上の廃棄物を含み得る。態様において、廃棄物層620は、廃棄物の複数のサブ層を含み得る。添加剤を廃棄物と混合して、廃棄物が熱分解を促進し、固体炭素の堆積物を回収する能力を高めることができる。図6は、棒状の廃棄物触媒を示すが、任意の好適な形状又は構造が使用され得る。態様において、基礎構造610は、廃棄物触媒集積物を保持するように構成される。態様において、廃棄物層620は、基礎構造610の上面上に配置された廃棄物触媒集積物である。
【0063】
本開示のある特定の態様は、本明細書に含まれる図面、説明、及び特許請求の範囲から当業者に容易に明らかな上記の利点及び/又は1つ以上の他の利点のうちのいくつかを含み得るか、全てを含み得るか、又はいずれも含まなくてもよい。更に、特定の利点が上記に列挙されているが、本開示の様々な態様は、列挙される利点及び/又は上記に具体的に列挙されていない他の利点の全てを含み得るか、いくつかを含み得るか、又はいずれも含まなくてもよい。
【0064】
「ある態様において」、「態様において」、「様々な態様において」、「いくつかの態様において」又は「他の態様において」という句は、それぞれ、本開示による、同一の又は異なる態様のうちの1つ以上を指し得る。「A又はB」という形式の句は、「(A)、(B)、又は(A及びB)」を意味する。「A、B、又はCのうちの少なくとも1つ」という形態の句は、「(A)、(B)、(C)、(A及びB)、(A及びC)、(B及びC)、又は(A、B及びC)」を意味する。
【0065】
上述の説明は、本開示の例示にすぎないことを理解されたい。本開示から逸脱することなく、様々な代替物及び修正が当業者によって工夫され得る。したがって、本開示は、全てのそのような代替物、修正、及び変動を包含することを意図する。添付の図面を参照して説明される態様は、本開示のある特定の例を示すためにのみ提示される。上記及び/又は添付の特許請求の範囲に記載されるものと実質的に異なる他の要素、ステップ、方法、及び技術もまた、本開示の範囲内であることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】