(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-08
(54)【発明の名称】ヘリコバクター・ピロリ感染予防および治療用生薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/53 20060101AFI20231201BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20231201BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231201BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20231201BHJP
A61K 31/01 20060101ALI20231201BHJP
A61K 31/075 20060101ALI20231201BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20231201BHJP
【FI】
A61K36/53
A61P1/04
A61P31/04
A61K31/05
A61K31/01
A61K31/075
A23L33/105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548169
(86)(22)【出願日】2020-10-16
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 RS2020000016
(87)【国際公開番号】W WO2022081037
(87)【国際公開日】2022-04-21
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523142364
【氏名又は名称】ハーブエリクサ ドゥオオ スレムスカ カメニツァ
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】シミン、ナターシャ
(72)【発明者】
【氏名】レスジャク、マリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ベアラ、イヴァナ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE06
4B018MD07
4B018MD61
4B018ME11
4B018MF01
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4B018MF14
4C088AB38
4C088BA08
4C088BA23
4C088BA32
4C088CA11
4C088CA15
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4C088NA14
4C088ZA68
4C088ZB35
4C206AA01
4C206AA02
4C206BA02
4C206BA03
4C206BA05
4C206CA08
4C206CA17
4C206CA25
4C206KA18
4C206MA57
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA68
4C206ZB35
(57)【要約】
本発明は、ヒトの胃のヘリコバクター・ピロリ感染の治療および予防用栄養補助食品または医薬品を調製するための、キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)の群から選択される種からの少なくとも2つの精油を混合することによって得られる、4つの主な化合物(GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと、約35%から約50%のカルバクロール、約10%から約30%のγ-テルピネン、約10%から約25%のチモール、約8%から約20%のp-シメン)の存在を特徴とする、生薬製剤の使用に関する。混合物は、液体または固体の担体上に配置および非胃耐性カプセル中にカプセル化され得る。また、本発明は、副作用なしに細菌の除菌を成功させる、ヘリコバクター・ピロリ感染患者の治療および予防のための生薬製剤の投与計画に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの胃のヘリコバクター・ピロリ感染の予防および治療に使用するための、キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)の群より選択される種からの少なくとも2つの精油を混合して得られる生薬製剤。
【請求項2】
GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと
約35%から約50%のカルバクロール、
約10%から約30%のγ-テルピネン、
約10%から約25%のチモール、
約8%から約20%のp-シメン
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の生薬製剤。
【請求項3】
GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すとそれぞれ0.4%から2.9%存在する、α-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオールおよびリモネン、
をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の生薬製剤。
【請求項4】
GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと、
約38%から約48%のカルバクロール、
約18%から約28%のγ-テルピネン、
約10%から約12%のチモール、
約9%から約14%のp-シメン、ならびに
それぞれ0.4%から2.9%で存在する、α-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオールおよびリモネン、
を含むことを特徴とする、請求項1~3に記載の生薬製剤。
【請求項5】
GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと、
カルバクロール47.5%、
γ-テルピネン18.5%、
チモール11.9%、
p-シメン13.6%、
α-テルピネン1.55%、
トランス-β-カリオフィレン1.49%、
リナロール1.24%、
α-ピネン0.99%、
β-ミルセン0.97%、
1,8-シネオール0.55%、
リモネン0.46%および
β-ピネン0.40%
を含むことを特徴とする、請求項1~4に記載の生薬製剤。
【請求項6】
260mgの生薬製剤を毎日服用する、好ましくは130mgを1日2回15日間連続で、好ましくは続いて130mgの生薬製剤を毎日、好ましくは65mgを1日2回もう30日間服用する、請求項1~5に記載の生薬製剤。
【請求項7】
130mgの生薬製剤を毎日服用、好ましくは65mgを1日2回60日間連続して服用する、請求項1~5に記載の生薬製剤。
【請求項8】
抗生物質と組み合わせて使用するための、請求項1~7に記載の生薬製剤。
【請求項9】
製剤が液体または固体担体に配置される、請求項1~8に記載の生薬製剤。
【請求項10】
製剤が経口投与される、請求項1~9に記載の生薬製剤。
【請求項11】
製剤がカプセルの形態で投与される、請求項1~10に記載の生薬製剤。
【請求項12】
胃のヘリコバクター・ピロリ感染の予防および治療のための栄養補助食品または医薬の製造における、請求項1~11に記載の生薬製剤の使用。
【請求項13】
下記工程を含む請求項1~12に記載の生薬製剤の取得方法:
-開花期におけるキダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)を含む群より少なくとも2つの植物種を採取すること、
-採取した植物材料を25~30℃にて自然乾燥させること、
-材料を粉砕すること、
-各種の粉砕材料から、好ましくは水蒸気蒸留(hydrodistillation)により精油を取得すること、
-得られた精油を乾燥、好ましくは無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥すること、
-ろ過により硫酸塩を除去すること、
-キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)を含む群からの植物種から得られた少なくとも2つの精油を混合すること。
【請求項14】
さらに最終工程:
-サマーセイボリー(Satureja hortensis L.)、グリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum L.)およびタチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)の得られた精油をそれぞれ以下の比率2:1:1で混合すること、
を含む請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性細菌の除菌に成功する栄養補助食品または医薬を調製するためのキダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)からの2つ以上の精油を混合して得られる特定の化学組成を有する生薬製剤の治療上の適用に関する。より詳細には、本発明は、ヒトのヘリコバクター・ピロリ (ピロリ菌(H. pylori))の除菌に成功する栄養補助食品または医薬を調製するためのこの生薬製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロリ菌はヒトの胃に生息し、胃炎、消化性潰瘍や十二指腸潰瘍、ならび胃癌などの多くの深刻な胃腸障害を誘導する可能性がある。世界保健機関(WHO)は、世界人口の約50%がピロリ菌に感染し、先進国(25から50%)と発展途上国(70から90%)では有病率が異なることを指摘する。ほとんどの患者は自覚症状がないが、かなり高い割合(約10から20%)の感染者は消化性潰瘍を発症し、これらの患者の4分の1(約4.25%)は重篤な潰瘍合併症を起こし、1から2%は胃がんに進行する。胃がんは、世界で2番目に多いがん関連死の原因である(Kusters et al. (2006) Pathogenesis of H. pylori infection. Clin Microbiol Rev 19:449-490)。それに伴い、1994年にWHOによってピロリ菌はヒトに対する発がん性物質として発表された。さらに、ピロリ菌の感染により、世界で約5億人が遅かれ早かれ消化性潰瘍などの深刻な胃の病変を患い、約3000万人が胃がんに進行する可能性がある。
【0003】
胃の粘膜のピロリ菌除菌を成し遂げることには高いニーズがある。この目標を達成するために、多数の抗生物質療法が使用されている:アモキシシリン、テトラサイクリン、メトロニダゾール、フラゾリドン、レボフロキサシンおよびクラリスロマイシン(Wannmacher (2011) Review of the evidence for H. pylori treatment regimens,18th Expert Committee on the Selection and Use of Essential Medicines)。現在、ピロリ菌感染に対する療法は、3から4個の異なる抗生物質の大量投与に加えて補助剤から構成される。しかしこの療法は、主にピロリ菌の抗生物質耐性株の発生が極めて多いため、非常に限定された有効性を呈する。一例として:クラリスロマイシンおよびアモキシシリン/メトロニダゾールにプロトンポンプ阻害剤(PPI)を用いる3剤療法の成功率は84%および76%、一方、PPI、ビスマス、メトロニダゾールおよびテトラサイクリンからなる4剤療法の成功率は87%を示した。ピロリ菌感染の患者の実際のところ20%では、1コース目の抗生物質治療が終了しても治癒しないため、追加の治療サイクルが必要である。そのため、WHOは2017年に世界トップクラスの70人の専門家グループによって開発された「新規抗生物質の研究、発見および開発を支援するための世界的に重要な抗生物質耐性菌のリスト(Global priority list of antibiotic-resistant bacteria to guide research, discovery and development of new antibiotics)」にピロリ菌を挙げた。さらに、言及されたすべての治療は、下痢、悪心、嘔吐、腹部膨満感および腹痛などの患者が耐え難いと感じる深刻な消化器系の副作用を伴うことが多い。
【0004】
さらに、微生物、ペプチド、多糖類および胃内紫外光照射に基づく、ヒトにおけるピロリ感染症の除菌のためのいくつかの代替療法が提案されているが、細菌の除菌に有効ではなかった(Ayala et al. (2014) Exploring alternative treatment for Helicobacter pylori infection, Word J Gastroenterol 20(6):1450-1469)。さらに、ワクチンに対する最近の研究では、有望なワクチン候補がまだ見つかっていないことが確認された(Sutton & Boag (2019) Status of vaccine research and development for Helicobacter pylori, Vaccine 37:7295-7299)。
【0005】
プロバイオティクスや一部の植物由来の栄養補助食品は、抗生物質療法の副作用の一部を予防または軽減するために使用される。しかし、抗ヘリコバクター活性を有し、抗生物質に対する治療反応を改善し、またはヒトにおけるピロリ菌感染の再発を予防するためにヒトで試験された市販の栄養補助食品またはその他のハーブ製品はない。
【0006】
芳香植物から得られる精油は、多くの細菌株に対して周知の抗菌剤である。精油は、芳香植物から水蒸気蒸留(hydrodistillation)またはスチーム蒸留(steam distillation)によって得られる揮発性有機化合物(主にテルペン類とフェニルプロパン類)の複合混合物である。1つの芳香植物由来の精油は、数百の異なる成分を含みうる。特定の植物種の精油の化学組成は、質的および量的の両面で非常に多様である。この変動にはさまざまな要因、例えば:植物に関連する内在的要因、植物と環境(土壌の種類や気候など)との相互作用、植物の成熟度、精油分離のために選択した植物器官、日中の収穫時間、抽出方法に関連する外在的要因が関係する。精油の抗菌力は、その化学組成に大きく依存する。従って、特定の植物由来の精油の抗菌活性の強さは、その化学的プロファイルを決定しない限り主張することはできない。したがって、特定の精油の応用可能性を調査する場合、精油の各サンプルの化学組成を定義すべきである。
【0007】
一部の精油は、in vitro バイオアッセイで、多剤耐性ピロリ菌株に対してさえも抗菌活性を示す(Martin & Ernst (2003) Herbal medicines for treatment of bacterial infections: a review of controlled clinical trials. J Antimicrob Chemother 51:241-246; Ohno et al. (2003) Antimicrobial activity of essential oils against Helicobacter pylori. Helicobacter 8:207-215; Takeuchi et al. (2014) Natural products and food components with anti-Helicobacter pylori activities, World J Gastroenterol 20:8971-8978)。
【0008】
キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)の種から得られた精油の抗ピロリ菌活性において多くのin vitroの証拠がある。
【0009】
例えば、バチアルセイボリー(Satureja bachtiarica)、ウインターセイボリー(Satureja montana)およびサマーセイボリー(Satureja hortensis)の精油は、in vitroで高い抗ピロリ菌活性を示す(Bergonzelli et al. (2003) Essential oils as components of a diet-based approach to management of Helicobacter infection. Antimicrob Agents Chemother 47:3240-324; Falsafi et al. (2015) Chemical composition and anti-Helicobacter pylori effect of Satureja bachtiarica Bunge essential oil. Phytomed 22:173-177; Lesjak et al. (2016): Binary and tertiary mixtures of Satureja hortensis and Origanum vulgare essential oils as potent antimicrobial agents against Helicobacter pylori. Phytother Res 30:476-484)。
【0010】
オレガノ(Origanum vulgare)から得られた精油は、in vitroバイオアッセイで抗ピロリ菌活性を示している(Bergonzelli et al. (2003) Essential oils as components of a diet-based approach to management of Helicobacter infection. Antimicrob Agents Chemother 47:3240-324)。また、オレガノ精油の主成分であるカルバクロールがin vitroでピロリ菌株に対して殺菌活性を示すことが証明されている(Marinelli et al. (2018) Carvacrol and its derivatives as antibacterial agents. Phytochem Rev 17:903-921; Ruiz-Rico et al. (2020) In vitro antimicrobial activity of immobilised essential oil components against Helicobacter pylori. World J Microbiol Biotechnol 36:3-9)。
【0011】
タイム (Thymus vulgaris)の精油がピロリ菌に対して抗菌効果を有することが示されている(Esmaeili et al. (2012): Anti-Helicobacter pylori activities of soya powder and essential oils of Thymus vulgaris and Eucalyptus globulus. Open Microbiol J 6:65-69)。また他の一部のタイム(Thymus)種も抗ピロリ菌活性を発現する(Dandlen et al. (2011): Antimicrobial activity, cytotoxicity and intracellular growth inhibition of Portuguese Thymus essential oils. Rev. Bras. Farmacogn 21:1012-1024)。さらにタイム精油の主成分である-チモール-はピロリ菌株に対してin vitroで高い殺菌活性を示した(Korona-Glowniak et al. (2020) The in vitro activity of essential oils against Helicobacter pylori growth and urease activity. Molecules 25:1-15)。
【0012】
さらに、タイム精油に高用量で存在する、環状炭化水素p-シメン、およびサマーセイボリー(Satureja hortensis)精油に豊富に存在する、γ-テルピネンは、グラム陰性菌に対する抗菌活性を有さないことが示されている(Korona-Glowniak et al. (2020) The in vitro activity of essential oils against Helicobacter pylori growth and urease activity. Molecules 25:1-15)。しかし、他の抗菌剤の存在下では抗菌活性を示さない一部の化合物が相乗効果を示すことが報告されている。例えば、精油中にカルバクロールと一緒にp-シメンが存在すると精油の抗菌活性が増強されうる(Ultee et al. (2002) The phenolic hydroxyl group of carvacrol is essential for action against the food-borne pathogen Bacillus cereus. Appl Environ Microbiol 68:1561-1568)。
【0013】
さらに、混合物由来のそれぞれの単一の油の活性に関しては、精油の混合物、特に、サマーセイボリー(Satureja hortensis)、オレガノsubsp. vulgare(Origanum vulgare subsp. vulgare)およびグリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum)の精油の2成分や3成分混合物がより有効であった(Lesjak et al. (2016): Binary and tertiary mixtures of Satureja hortensis and Origanum vulgare essential oils as potent antimicrobial agents against Helicobacter pylori. Phytother Res 30:476-484)。
【0014】
実験動物におけるin vivo証拠に関しては、サマーセイボリー(Satureja hortensis)およびグリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum)精油の混合物が、抗生物質を使用しないでマウスピロリ菌の70%の除菌に成功した、一方、毒性またはサイトカインおよびケモカインのバランスの変化も発現しなかったことが証明された(Harmati et al. (2017): Binary mixture of Satureja hortensis and Origanum vulgare subsp. hirtum essential oils: in vivo therapeutic efficiency against Helicobacter pylori infection. Helicobacter e12350)。
【0015】
しかし、キダチハッカ属の種(Satureja sp.)、ハナハッカ属の種(Origanum sp.)およびイブキジャコウソウ属の種(Thymus sp.)から得られた精油、それらの混合物、またはこれらの精油から単離された純粋な化合物のピロリ菌の除菌における治療上の有効性を評価する目的として、ヒトに対して行われた従来技術に存在する研究はない。
【0016】
上記簡潔なレビューは、ヒトにおけるピロリ菌感染の除菌に対する新しい療法を見出すことの大きなニーズならびにこの細菌に対抗することを提案する様々なアプローチを明確に示す。
【発明の概要】
【0017】
技術課題
本発明の目的は、ヒトでのピロリ菌感染の除菌において非常に有効である、精油の混合物を含む定義された化学プロファイルの生薬製剤を提供することである。
【0018】
本発明の第2の目的は、特定された生薬製剤の調製方法を提供することである。
【0019】
本発明の第3の目的は、ピロリ菌感染が確認された患者の成功的胃粘膜のピロリ菌除菌を導くために生薬製剤での治療のための投与計画を確立することである。
【0020】
本発明の第4の目的は、公知の薬または抗生物質のいずれも使用しないで、胃粘膜のピロリ菌除菌用生薬製剤での治療を確立することである。
【0021】
本発明の第5の目的は、標準の抗生物質療法においては非常によく起こる、下痢、悪心、嘔吐、腹部膨満感および腹痛などの望まない副作用も起こすことなく、胃粘膜のピロリ菌除菌のための生薬製剤での治療を確立することである。
【0022】
発明の開示
本発明は、ヒトのヘリコバクター・ピロリ感染の予防および治療のための栄養補助食品または医薬としての、生薬製剤-特定の精油の混合物-の適用である。混合物は、GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと、下記の量の4つの主要な化合物の存在を特徴とする:約35%から約50%のカルバクロール、約10%から約30%のγ-テルピネン、約10%から約25%のチモール、約8%から約20%のp-シメン。混合物は、キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)の種からの2以上の精油を混合することにより得ることができる。混合物は、液体または固体の担体上に配置および非胃耐性カプセル中にカプセル化されてもよい。本願で開示するように、本製剤は、ピロリ菌感染の治療のための栄養補助食品または生薬としての使用に適切である。またヒト胃粘膜からのピロリ菌除菌の成功した投与計画は本願に開示される。
【0023】
製剤(精油の混合物)の取得方法:
本発明の生薬製剤は、高い抗ピロリ菌活性を獲得するための特定の化学プロファイルを有しなければならない。それは4つの主要な化合物: 約35%から約50%のカルバクロール、約10%から約30%のγ-テルピネン、約10%から約25%のチモール、約8%から約20%のp-シメンの存在を特徴とする。量は、質量分析検出を伴うガスクロマトグラフィー(GC-MS)により得られたクロマトグラムにおけるすべてのピークの合計面積の%で表される。さらに、製剤は、α-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオール、リモネンなど、それぞれ0.1から3%で存在する (GC-MSクロマトグラムにおけるすべてのピークの合計面積の%で表される)少量の化合物を、含有しうる。製剤の任意の他の成分は、それぞれ0.4%まで存在しうる。好ましくは、製剤の組成(クロマトグラムにおけるすべてのピークの合計面積の%で表される)は:約38%から約48%のカルバクロール、約18%から約28%のγ-テルピネン、約10%から約12%のチモール、約9%から約14%のp-シメン、およびそれぞれ0.4から2.9%存在するα-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオール、リモネンにすべきである。ピロリ菌に対する最も高い効果は、下記の的確な組成(クロマトグラムにおけるすべてのピークの合計面積の%で表される):カルバクロール 47.5%、γ-テルピネン 18.5%、チモール 11.9%、p-シメン 13.6%、α-テルピネン1.55%、トランス-β-カリオフィレン 1.49%、リナロール 1.24%、α-ピネン0.99%、β-ミルセン 0.97%、1,8-シネオール 0.55%、リモネン 0.46%およびβ-ピネン0.40%を有する製剤で得られた。
【0024】
本発明に記載の製剤は、以下の植物からの2つ以上の精油を混合して、好ましくは水蒸気蒸留により得ることができる: キダチハッカ属の種(Satureja sp.)、ハナハッカ属の種(Origanum sp.)およびイブキジャコウソウ属の種(Thymus sp.)。これらの植物は、スパイスまたは茶として一般的に使用される。より重要なのは、これらの精油は、米国食品医薬品局(FDA)により一般に安全と認められた(GRAS)物質であり、欧州委員会により、食品における香料としての使用目的が認められていることである。
【0025】
好ましくは、本発明の生薬製剤は、サマーセイボリー(Satureja hortensis L.)、グリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum L.)およびタチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)の精油を以下の比率:2:1:1でそれぞれ混合することにより得ることができる。精油の化学プロファイルは、主に種々の環境上の因子、芳香植物の栽培方法および単離方法により、大いに変化するので、本発明の生薬製剤を得るために使用する個々の精油の好ましい化学組成は、下の表に示される:
【0026】
【0027】
本発明で開示される精油は、植物種 サマーセイボリー(Satureja hortensis L.)、グリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum L.)およびタチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)から得られる。植物材料は、開花期に採取し、25~30℃で自然乾燥後ブレンダーで粉砕した。精油は、Ph. EUR. IV (European Pharmacopeia, 2002)の手順にしたがって、Clavenger 装置で水蒸気蒸留(hydrodistillation)により単離された。簡潔には、100gの植物材料を水でタップし、3時間蒸留を続けた。冷却後、純粋な精油をClavenger装置から取り出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ブフナー漏斗でろ過して硫酸塩を除去後、精油を回収し使用するまで-20℃で保存した。サマーセイボリー(Satureja hortensis L.)、グリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum L.)およびタチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)の得られた精油をそれぞれ以下の比率:2:1:1で混合し、本発明の生薬製剤を得て、さらにピロリ菌感染のヒトボランティアの治療のために使用した。
【0028】
本発明の可能な適用:
本発明に記載の生薬製剤は、栄養補助食品または生薬としてピロリ菌感染の治療または予防のために使用してもよい。医薬として使用する場合、単独でも標準的な抗生物質療法を組み合わせてでも適用することができる。製剤(精油の特定の混合物)は、液体または固体担体に配置することやゼラチンカプセル中にカプセル化することもできる。各カプセルは、少なくとも50mgの製剤を、好ましくは65mgの製剤を含まなければならない。
【0029】
ピロリ菌に対する本発明の生薬製剤の有効性は、in vitroおよびin vivoの両方の研究によって証明される。
【0030】
HpEurope(ヨーロッパ)、HpEAsia(東アジア)、HpAsia2(インド)およびHpAfrical(アフリカ)を含む4つの異なる集団に分類される20のピロリ菌臨床株に対して、本発明の生薬製剤を試験した。株の大部分は複数の抗生物質に耐性であった。試験は寒天希釈法を用いて行った。最小発育阻止濃度 (MIC)は、ピロリ菌の増殖を完全に阻害するのに必要とされる組成物の最低濃度として決定された。最小殺菌濃度 (MBC)は、生存コロニー数によって決定され、製品の殺菌効果は未処理対照を比べた細菌コロニー数の減少割合で表される。その結果、製剤は異なる抗生物質耐性ピロリ菌株に対して同じ活性レベルで活性であることが確認されたが、これは本発明の製剤が特定のピロリ菌のタイプに対して選択性を持たず、製剤が特定の細胞ターゲットを持たないことを意味する。すなわち、精油は、細胞壁を貫通し、細菌膜を破壊し、内在性膜蛋白質に干渉する多数の親油性化合物の複雑な混合物である。この混合物の複雑さは、微生物が耐性を獲得するのを完全に阻止する。このことは、製剤があらゆるタイプのピロリ菌の除菌に適していることを暗に意味し、つまり、感染を起こすどのピロリ菌の株(抗生物質耐性または抗生物質非耐性)であっても、世界中の患者の治療に適用する可能性を有することを意味する。
【0031】
本特許出願内に本発明の生薬製剤を用いた28人のヒトボランティア(3つのグループに分けられた)の治療結果を開示する。
【0032】
第1のグループには、感染の軽い症状(腹部膨満感、胃痛、高レベルの胃酸、咳、食欲不振)を有する急性ピロリ菌感染が確認された10人のヒトボランティアを入れた。ボランティアは、65mgの製剤を435mgのヒマワリオイルに溶解して含むゼラチンカプセル(5人のボランティア)または固体担体に配置したもの(5人のボランティア)を服用した。各ボランティアは、1日に2カプセル(カプセルあたり65mgの製剤)を朝に1つ、夕方に1つを食事30分前の空腹時に服用するのを、30日間連続で、すなわち毎日生薬製剤を130mg、65mgを1日2回、30日間連続して服用した。
【0033】
この30日間、彼らはピロリ菌感染のための他の療法を受けることなく、アルコールのみ無しの通常の食事計画を行った。治療終了から4週及び8週間後、ボランティアはピロリ菌の便中抗原検査を受けた。50%の症例で感染の除菌を達成した。それゆえ、少なくとも治療開始時には投与量を多くし、より長く投与すべきであると我々は結論づけた。
【0034】
第2のグループには、感染の軽い症状(腹部膨満感、胃痛、高レベルの胃酸、咳、食欲不振)を有する急性ピロリ菌感染が確認された15人のヒトボランティアを入れた。第1のグループに適用した用量計画と比較するために、第2のグループで適用した用量計画は治療の初期にはより高くそしてより長くにした。ボランティアは、65mgの製剤を435mgのヒマワリオイルに溶解して含むゼラチンカプセル(7人のボランティア)または固体担体に配置したもの(8人のボランティア)を服用した。各ボランティアは、1日に4カプセル、朝に2つ、夕方に2つを食事30分前の空腹時に服用するのを、15日間連続で、次に1日に2カプセル、朝に1つ、夕方に1つを食事30分前の空腹時に服用するのを、もう30日間連続で、すなわち毎日生薬製剤を260mg、130mgを1日2回、15日間連続し、続いて毎日生薬製剤を130mg、65mgを1日2回、もう30日間連続して服用した。
【0035】
この45日間、彼らはピロリ菌感染のための他の療法を受けることなく、アルコールのみ無しの通常の食事計画を行った。治療終了から4週及び8週間後、ボランティアはピロリ菌の便中抗原検査を受けた。15人のボランティアのうち14人のピロリ菌感染の完全な除菌が確認された(感染の除菌は93%の症例で達成された)。10人のボランティアは、治療の開始から10日後、疾患の症状 (胃の疼痛、胃酸のレベル増加、腹部膨満感)の完全な消失を報告したが、他の4人は療法の終了までに症状の消失を報告した。このことは、本発明に記載の生薬製剤は、ピロリ菌に対する抗菌効果の他に、抗炎症作用も発現していることを示唆する。この治療の間、下痢、悪心、嘔吐または腹痛などの抗生物質療法の間によく起こるいずれの胃腸の副作用も報告するボランティアはいなかった。これらの結果は、本発明の製剤が、好ましくは抗生物質を使用しないでも、胃粘膜からのピロリ菌感染の除菌に強力であり、望まない副作用を起こさないことを強く裏付ける。
【0036】
第3のグループでは、慢性感染(1年以上症状が存在する)の3人の他のボランティアは、標準療法(PPIを1日に2回+クラリスロマイシン(2×500mg) + アモキシシリン(2×1000mg))を65mgの本発明の製剤を435mgのヒマワリオイルに溶解して含むゼラチンカプセルと共に2週間服用した。治療終了から4週及び8週間後、ボランティアはピロリ菌の便中抗原検査を受け、感染がないことが確認された。これは、本発明の製剤が標準療法の効果を低下させることなく、むしろ促進することを裏付ける。
【0037】
さらに、ピロリ菌により起こる感染の治療において、現在知られていて使用されているすべての治療剤ではありえない、本明細書に開示された製剤は、完全に天然組成物であり、合成化合物も含んでいない。このため、この組成物は、抗生物質にアレルギーがある人や過敏症の人に好ましい。
【0038】
また、この製剤は、胃炎やピロリ菌感染にかかりやすい人の中でピロリ菌感染予防に使用することができる。予防目的のためには、製剤を1年間に60日間連続で1回又は2回、1日1カプセルを食事30分前の空腹時に、すなわち毎日65mgの生薬製剤を連続60日間服用することができる。好ましくは、この治療は、夏の終わりまたは冬の期間の終わりに行うべきである。
【0039】
本発明の製剤は、特にピロリ菌感染が証明された患者、特に抗生物質を使用する代わりに生薬療法を好む患者、さらにより好ましくは、以前に抗生物質で治療したが、抗生物質治療を終えても治癒しなかった患者に適する。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの胃のヘリコバクター・ピロリ感染の予防および治療に使用するための、
各キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)の
植物種からの少なくとも2つの精油を
含む生薬製剤。
【請求項2】
生薬製剤は、GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと
約35%から約50%のカルバクロール、
約10%から約30%のγ-テルピネン、
約10%から約25%のチモール、
約8%から約20%のp-シメン
を含
む、請求項1に記載の生薬製剤。
【請求項3】
GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと
、生薬製剤中にそれぞれ0.4%から2.9%存在する、α-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオールおよびリモネン、
をさらに含
む、請求項2に記載の生薬製剤。
【請求項4】
生薬製剤は、GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと、
約38%から約48%のカルバクロール、
約18%から約28%のγ-テルピネン、
約10%から約12%のチモール、
約9%から約14%のp-シメン、ならびに
それぞれ
生薬製剤中に0.4%から2.9%で存在する、α-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオールおよびリモネン、
を含
む、請求項1~3に記載の生薬製剤。
【請求項5】
生薬製剤は、GC/MSクロマトグラムのピークの合計面積の%で表すと、
カルバクロール47.5%、
γ-テルピネン18.5%、
チモール11.9%、
p-シメン13.6%、
α-テルピネン1.55%、
トランス-β-カリオフィレン1.49%、
リナロール1.24%、
α-ピネン0.99%、
β-ミルセン0.97%、
1,8-シネオール0.55%、
リモネン0.46%および
β-ピネン0.40%
を含
む、請求項1~4に記載の生薬製剤。
【請求項6】
65mg
剤形での1日2回
投与のために製剤化されている、請求項1~5に記載の生薬製剤。
【請求項7】
130mg
剤形での1日2回
投与のために製剤化されている、請求項1~5に記載の生薬製剤。
【請求項8】
さらに液体または固体担体
を含む、請求項1~
7に記載の生薬製剤。
【請求項9】
液体担体がヒマワリ油である、請求項8に記載の生薬製剤。
【請求項10】
製剤が経口投与される、請求項1~9に記載の生薬製剤。
【請求項11】
製剤がカプセルの形態で投与される、請求項1~10に記載の生薬製剤。
【請求項12】
植物種が、キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)である、請求項1~11に記載の生薬製剤。
【請求項13】
生薬製剤が、カルバクロール、γ-テルピネン、チモール、p-シメン、α-テルピネン、トランス-β-カリオフィレン、α-ピネン、β-ミルセン、リナロール、1,8-シネオールおよびリモネンを含む、請求項1~12に記載の生薬製剤。
【請求項14】
胃のヘリコバクター・ピロリ感染
の治療
に使用するため
の、請求項1~
13に記載の生薬製
剤。
【請求項15】
生薬製剤が一つ以上の抗生物質と組み合わせて
投与される、請求項1~
14に記載の生薬製剤。
【請求項16】
生薬製剤が、65mg剤形での1日2回30日連続投与のために製剤化されている、請求項1~15に記載の生薬製剤。
【請求項17】
生薬製剤が、130mg剤形での1日2回15日間連続投与に続いて65mg剤形での1日2回30日間服連続投与のために製剤化されている、請求項1~16に記載の生薬製剤。
【請求項18】
下記工程を含む請求項1~
17に記載の生薬製剤の
調製方法:
-開花期における
各キダチハッカ属(Satureja L.)、ハナハッカ属(Origanum L.)およびイブキジャコウソウ属(Thymus L.)
から少なくとも2つの植物種
の植物材料を採取すること、
-採取した植物材料を25~30℃にて自然乾燥させ
て乾燥植物材料を形成すること、
-
乾燥植物材料を粉砕
して粉砕材料を形成すること、
-粉砕材料から
、精油を取得すること、
-得られた精油
を無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥すること、
-ろ過により
精油から硫酸塩を除去すること、
ならびに
-精油を混合
して請求項1~17の生薬製剤を形成すること。
【請求項19】
さらに
下記工程
を含む請求項18に記載の方法:
-サマーセイボリー(Satureja hortensis L.)、グリークオレガノ(Origanum vulgare subsp. hirtum L.)およびタチジャコウソウ(Thymus vulgaris L.)の得られた精油をそれぞれ以下の比率2:1:1で混合するこ
と。
【請求項20】
精油を取得することが粉砕材料の水蒸気蒸留を含む、請求項18に記載の方法。
【国際調査報告】