(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-11
(54)【発明の名称】PAEK(s)に基づく粉状組成物、焼結建造工程及びそれから誘導される物体
(51)【国際特許分類】
C08G 67/00 20060101AFI20231204BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231204BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20231204BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231204BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20231204BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231204BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20231204BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20231204BHJP
【FI】
C08G67/00
B33Y80/00
B29C64/153
B33Y70/00
B33Y50/02
B33Y10/00
B29C64/314
C08L71/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534135
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021083965
(87)【国際公開番号】W WO2022117727
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(71)【出願人】
【識別番号】503267906
【氏名又は名称】イーオーエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング イレクトロ オプティカル システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブリュレ, ベノワ
(72)【発明者】
【氏名】デクラメール, ナディーネ
(72)【発明者】
【氏名】フローリッヒ, ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ガリッツ, ヴェレーナ
(72)【発明者】
【氏名】トッツスキー, サビーネ
(72)【発明者】
【氏名】フィステル, アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4F213
4J002
4J005
【Fターム(参考)】
4F213AA32
4F213AC04
4F213AR06
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4J002CH09W
4J002CH09X
4J002GT00
4J005AB00
4J005BA00
4J005BB01
4J005BB02
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンに基づく粉末を含む粉状組成物に関し、該組成物は少なくとも1つの第1吸熱ピークと少なくとも1つの第2吸熱ピークとを有し、該第1吸熱ピークは厳密に280℃を越えるピーク温度を有し、そして第2吸熱ピークは200℃から280℃の値に等しいピーク温度を有し;該吸熱ピークは、標準ISO11357-3:2018に従って、20℃/分の温度傾斜(ランプ)を使用して、最初の加熱により示差走査熱量測定により得られるサーモグラムに基づき測定される。本発明はまた、該粉状組成物から電磁気照射により三次元物体を層ごとの焼結により建造する方法、使用すべき最低建造温度Tcを決定するための方法、及びこの建造工程により製造され得る物体にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンに基づく粉末を含む粉状組成物であって、該組成物は少なくとも1つの第1吸熱ピークと少なくとも1つの第2吸熱ピークとを有し、該第1吸熱ピークは、厳密に280℃を越えるピーク温度、好ましくは290℃より高い又は290℃に等しいピーク温度を有し、そして第2吸熱ピークは200℃から280℃の値に等しいピーク温度、好ましくは220℃より高い又は220℃に等しいピーク温度を有しそして/又は275℃よりも低い又は275℃に等しいピーク温度を有し;
該吸熱ピークは、標準ISO11357-3:2018に従って、20℃/分の温度傾斜(ランプ)を使用した最初の加熱に際して、示差走査熱量測定により得られるサーモグラムに基づき測定され;
ここで、該サーモグラム上で、225℃から280℃の間の温度で測定したエンタルピーは、225℃から330℃の間の温度で測定した全エンタルピーの15%から50%を示す、粉状組成物。
【請求項2】
225℃から280℃の間で測定したエンタルピーが、225℃から330℃の間で測定した全エンタルピーの20%又はそれより大及び/又は40%若しくはそれ未満である、請求項1に記載の粉状組成物。
【請求項3】
225℃から280℃の間で測定したエンタルピーが5 J/gから20 J/g、好ましくは7 J/g又はそれより大そして/又は14 J/g若しくはそれ未満、さらに好ましくは8 J/g又はそれより大そして/又は12 J/g未満である、請求項1又は2に記載の粉状組成物。
【請求項4】
上記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンがポリエーテルケトンケトン(PEKK)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項5】
上記PEKKが、本質的に、好ましくは、テレフタル繰返し単位及びイソフタル繰返し単位から成り、該テレフタル繰返し単位の式は:
【化1】
該イソフタル繰返し単位の式は:
【化2】
であり、イソフタル単位とテレフタル単位との合計に対するテレフタル単位のモルパーセントは45%から75%であり、好ましくは48%又はそれより大そして/又は72%若しくはそれ未満であり、更に好ましくは54%又はそれより大、そして/又は66%若しくはそれ未満であり、そして非常に好ましくは58%又はそれより大、そして/又は64%若しくはそれ未満である、請求項4に記載の粉状組成物。
【請求項6】
上記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンが、下記の繰返し単位(III)及び(IV):
【化3】
【化4】
から本質的に成る、又は該単位から成るポリマーであり、
単位(III)及び(IV)の合計に対する単位(III)のモルパーセントは0%~99%であり、好ましくは55%又はそれより大そして/又は95%若しくはそれ未満であり、更に好ましくは、60%又はそれより大そして/又は85%若しくはそれ未満であり、非常に好ましくは、65%又はそれより大そして/又は75%若しくはそれ未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項7】
上記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンが、下記の繰返し単位(III)及び(V):
【化5】
【化6】
から本質的に成る、又は該単位から成るポリマーであり、
単位(III)及び(V)の合計に対する単位(III)のモルパーセントは0%~99%であり、好ましくは5%又はそれより大そして/又は97%若しくはそれ未満であり、更に好ましくは、40%又はそれより大そして/又は96%若しくはそれ未満であり、非常に好ましくは70%又はそれより大そして/又は95%若しくはそれ未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項8】
上記の少なくとも1つのPAEKは、標準ISO 307:2019に従って、硫酸水溶液中の25℃の96質量%溶液として測定して、0.65 dl/gから1.15 dl/gの粘度指数を有し、好ましくは、該少なくとも1つのPAEKは、0.85 dl/g又はそれより大そして/又は1.13 dl/g若しくはそれ未満の粘度指数を有し、そして更に好ましくは、該少なくとも1つのPAEKは0.92 dl/g又はそれより大そして/又は1.12 dl/g若しくはそれ未満の粘度指数を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項9】
粒径分布のメジアン径d
50がd
50<100μm、好ましくは40μm<d
50<80μm、更に好ましくは、粒径分布はd
10>15μm、40μm<d
50<80μm、そしてd
90<240μmである粒径分布を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項10】
上記少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンが、組成物全重量に対して、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、又は少なくとも65重量%、又は少なくとも75重量%、又は少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%を占める、請求項1~9のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項11】
該少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンから特に本質的に成る、又はそれから成る、請求項1~10のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項12】
第1の粉末P1及び第2の粉末P2を含む、又はこれらから本質的に成る、又はこれらから成る粉状組成物であって、該粉末P1及びP2は、互いに独立して又は独立せずに、該少なくとも1つのPAEKに基づき;
ここで、粉末P1は、厳密に280℃を越えるピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し、好ましくは290℃又はそれより高いピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し、そして280℃若しくはそれより低いのピーク温度を有する吸熱ピークをもたず;そして
ここで粉末P2は200℃から280℃のピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し、好ましくは220℃又はそれより高くそして/又は275℃若しくはそれ未満のピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項13】
粉末P1は、厳密に280℃より高い温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークと200℃から280℃のピーク温度を有する吸熱ピークとを有する初期の粉末を、265℃又はそれより高い温度で熱処理して得られる粉末を含むか、本質的に成るか、又はそれから成るか;又は
粉末P1は、厳密に280℃を越える温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有する初期の粉末又は粉状組成物を265℃又はそれより高い建造温度で焼結することによる層ごとの建造により得られた粉末を含むか、これから本質的に成る、又これから成る、請求項12に記載の粉状組成物。
【請求項14】
上記粉末P1及び上記粉末P2は本質的に同じ化学組成及び/又は本質的に同じ粘度指数及び/又は本質的に同じ粒径分布を有する、請求項13に記載の粉状組成物。
【請求項15】
上記粉末P2は、粉末P1及びP2の合計重量に対して1重量%~39重量%、好ましくは3重量%又はそれより大そして/又は30重量%若しくはそれ未満、更に好ましくは4重量%又はそれより大そして/又は20重量%若しくはそれ未満、そして非常に好ましくは5重量%又はそれより大そして/又は15重量%若しくはそれ未満である、請求項12~14のいずれか1項に記載の粉状組成物。
【請求項16】
上記の粉末P1及び粉末P2を含む請求項11~15のいずれか1項に記載の粉状組成物を作るためのキット。
【請求項17】
電磁気照射により引き起こされる粉状組成物の焼結による三次元物体の層ごとの建造のための最低建造温度Tcを決定するための方法であって、
-最初の加熱によりそして温度傾斜(ランプ)20℃/分を使用した粉状組成物の示差走査熱量測定により得られるサーモグラムを提供し;
-最初の加熱によりそして温度傾斜(ランプ)20℃/分を使用した粉状組成物の示差走査熱量測定により得られるサーモグラムを提供し;
-225℃とTcの間のサーモグラムを積分して、3.0 J/gから7.0 J/gの値、好ましくは約5 J/gの値の部分エンタルピーを得るか;又は
225℃とTcの間のサーモグラムを積分して、全エンタルピーの8.0%から20.0%、好ましくは全エンタルピーの14%又は約14%の部分エンタルピーを得ること
を含む方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法により見積もられた最低建造温度で実施される、請求項1~15のいずれか1項に記載の粉状組成物の電磁気照射により引き起こされる焼結による、三次元物体の層ごとの建造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法により得られる、又は直接得られた物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリールエーテルケトンの分野に関する。更に詳しくは、本発明はポリアリールエーテルケトン(類)(PAEK(s))に基づく粉状組成物に関する。該組成物は、物体の電磁気放射線が媒介する層ごとの焼結建造(construction)のための工程に使用するのに特に適する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリールエーテルケトン類は良く知られた高性能技術ポリマーである。これらは、温度に関して及び/又は機械的制約に関して、又は化学的制約に関してさえも制限される用途に使用し得る。これらはまた、優れた耐火性及び煙又は毒性ガスを僅かしか放出しないことが要求される用途にも使用し得る。最後に、これらは良好な生体適合性を有する。これらのポリマーは、航空及び航空宇宙部門、海洋掘削、動力車、鉄道部門、海洋部門、風力部門、スポーツ、建造、エレクトロニクス又は医療インプラントのような種々の分野に見られる。該ポリマーは、熱可塑性物質が使用される技術、例えば成形、圧縮、押出し成形、スピニング加工、粉末塗装又は焼結プロトタイピング、の全ての技術で使用され得る。
【0003】
一般に、レーザー焼結建造の間、建造中の層のPAEK粉末は建造環境中で、“建造温度”又は“浴温度”として知られる、該粉末の融点未満の10~20℃(典型的には15℃)のオーダーの温度Tcに加熱される。
【0004】
焼結機械に導入される粉末の大部分、一般に85%~90%、は焼結建造方法の結果、焼結されない:この粉末は建造温度に付されそしてこの温度にとどまるか、又はそれに近い温度に数時間、或いは数十時間の間さえもとどまる。この結果、該粉末の構成ポリマーの構造における変化、特に分子量の増加、及び色の変化、特にその黄変、により著しく特徴付けられる粉末の劣化を生じる。温度Tcが高ければ高いほど、該粉末の劣化はより速くそして一層進行する。従って、該粉末をリサイクルするのは困難又は不可能にさえなり得る。何故なら、該粉末を焼結するのは不可能になるか、或いはかかるリサイクルされた粉末のレーザー焼結により得られる三次元片の機械的性質は焼結片中の多孔の存在により低下し、そして不十分であるからである。
【0005】
特許文献1から、テレフタル単位60%及びイソフタル単位40%を含み、焼結工程に使用前に、285℃で120分間の予備的熱処理を受けたPEKK粉末を使用することは知られている。この粉末は、285℃の建造温度を有するレーザー焼結工程により使用され、そして285℃の建造温度を有するレーザー焼結工程に使用するために少なくとも部分的にリサイクルし得る。
【0006】
現在、未焼結の粉末の劣化を著しく制限しそして該粉末のリサイクル性を増加させることができるように、以下に“従来の方法”と呼ばれる上記の方法の建造温度よりも低い建造温度で焼結工程に使用できる組成物を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3423510号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、物体の電磁気放射線が媒介する層ごとの焼結建造の方法に、“従来の”焼結工程の建造温度よりも低い建造温度で使用するのに特に適した、粉状組成物を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、少なくともいくつかの態様で、その後の焼結建造工程でより容易に且つより多数回リサイクルできる組成物を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、少なくともいくつかの態様で、“従来の”焼結工程に使用される粉状組成物よりも製造がより安価な組成物を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、本発明の組成物を使用して、物体の電磁気放射線が媒介する層ごとの焼結建造工程を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、建造工程で組成物を焼結できる最低建造温度を決定する方法を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、少なくともいくつかの態様で、従来の方法を経て得られた物体と同じ程度の性質を有する、この工程を経て製造された物体を提供することである。特に、その目的は、この工程で製造された、良好な機械的性質を有し、従って孔が少ない物体を得ることである。更に、その目的は、この方法で得られる、正確な寸法に適合し、そして著しく変形を示さない物体を得ることが可能であることである。
【0014】
本発明の別の目的は、少なくともいくつかの態様で、許容される機械的性質及び/又は滑らかな表面外観を有する、この工程を経て製造された物体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンに基づく粉末を含む粉状組成物に関する。該組成物は少なくとも第1吸熱ピークと第2吸熱ピークとを有し、該第1吸熱ピークは、厳密に280℃を越えるピーク温度を有し、そして第2吸熱ピークは200℃から280℃の値に等しいピーク温度を有する。優先的には、第1吸熱ピークは290℃より高い又は等しいピーク温度を有し得る。また優先的には、第2吸熱ピークは220℃より高い又は220℃に等しいピーク温度を有し得、そして/又は275℃よりも低い又は275℃に等しいピーク温度を有し得る。
【0016】
ある態様では、225℃から280℃の間の温度で測定したエンタルピーは225℃から330℃の間で測定した全エンタルピーの15%から50%を示し得る。優先的には、225℃から280℃の間で測定したエンタルピーは、該サーモグラム上で、225℃から330℃の間で測定した全エンタルピーの20%又はそれより大(=20%以上)及び/又は40%又はそれより少(=40%以下)であり得る。
【0017】
ある態様では、225℃から280℃の間で測定したエンタルピーは5 J/gから20 J/gであり得る。好ましくは、225℃から280℃の間で測定したエンタルピーは、7 J/g又はそれより大そして/又は14 J/g又はそれ未満であり得る。更に好ましくは、225℃から280℃の間で測定したエンタルピーは、8 J/g又はそれより大、そして/又は12 J/g又はそれ未満であり得る。
【0018】
吸熱ピーク及びエンタルピーは、標準ISO11357-3:2018に従って、20℃/分の温度傾斜(ランプ)を使用して、最初の加熱に際して、示差走査熱量測定により得られるサーモグラムに基づいて測定し得る。
【0019】
ある態様では、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンはポリエーテルケトンケトン(PEKK)であり得る。該PEKKは、本質的にそして優先的に、テレフタル繰返し単位及びイソフタル繰返し単位から成り:該テレフタル繰返し単位の式は:
【0020】
【0021】
イソフタル繰返し単位の式は:
【0022】
【0023】
であり、イソフタル単位とテレフタル単位との合計に対するテレフタル単位のモルパーセントは45%から75%である。好ましくは、イソフタル単位とテレフタル単位との合計に対するテレフタル単位のモルパーセントは48%又はそれより多(48%以上)そして/又は72%又はそれ未満(72%以下)であり得る。更に好ましくは、該モルパーセントは54%又はそれより多(54%以上)、そして/又は66%又はそれ未満(66%以下)であり得る。非常に好ましくは、それは58%又はそれより大(58%以上)、そして/又は64%又はそれ未満(64%以下)であり得る。
【0024】
ある態様では、該少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンは、下記の繰返し単位(III)及び(IV)から本質的に成る、又は該単位から成るポリマーであり得る:
【0025】
【0026】
【0027】
単位(III)及び(IV)の合計に対する単位(III)のモルパーセントは0%~99%である。好ましくは、単位(III)及び(IV)の合計に対する単位(III)のモルパーセントは55%又はそれより大、及び/又は95%又はそれ未満であり得る。更に好ましくは、60%又はそれより大そして/又は85%若しくはそれ未満であり得る。非常に好ましくは、65%又はそれより大そして/又は75%若しくはそれ未満であり得る。
【0028】
ある態様では、該少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンは、下記の繰返し単位(III)及び(V)から本質的に成る、又は該単位から成るポリマーであり得る:
【0029】
【0030】
【0031】
単位(III)及び(V)の合計に対する単位(III)のモルパーセントは0%~99%である。好ましくは、単位(III)及び(V)の合計に対する単位(III)のモルパーセントは5%又はそれより大、及び/又は97%若しくはそれ未満であり得る。更に好ましくは、40%又はそれより大そして/又は96%若しくはそれ未満であり得る。非常に好ましくは、70%又はそれより大そして/又は95%若しくはそれ未満であり得る。
【0032】
いくつかの態様では、上記の少なくとも1つのPAEKは、標準ISO 307:2019に従って、25℃で硫酸水溶液中の96質量%溶液として測定して、0.65 dl/gから1.15 dl/gの粘度指数を有する。好ましくは、粘度指数は0.85 dl/g又はそれより大そして/又は1.13 dl/g若しくはそれ未満であり得る。更に好ましくは、粘度指数は0.92 dl/g又はそれより大そして/又は1.12 dl/g若しくはそれ未満であり得る。
【0033】
いくつかの態様では、粉状組成物は粒径分布のメジアン径d50がd50<100μmであるような粒径分布を有し得る。好ましくは、粒径分布は40μm<d50<80μmである。更に好ましくは、該粒径分布はd10>15μm、40μm<d50<80μm、そしてd90<240μmである。
【0034】
いくつかの態様では、上記少なくとも一つのポリアリールエーテルケトンは、組成物全重量に対して、少なくとも50重量%、又は少なくとも60重量%、又は少なくとも65重量%、又は少なくとも75重量%、又は少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%を占めることができる。特定の態様では、上記粉状組成物は、該少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンから特に本質的に成る、又はそれから成り得る。
【0035】
いくつかの態様では、本発明の粉状組成物は第1の粉末P1及び第2の粉末P2を含む、又は第1の粉末P1及び第2の粉末P2から本質的に成るか又は成り得、該粉末P1及びP2は、互いに独立して又は独立せずに、該少なくとも1種のPAEKに基づく。これらの態様では、粉末P1は、厳密に280℃を越える、好ましくは290℃又はそれより高いピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し得、そして280℃若しくはそれ未満のピーク温度を有する吸熱ピークをもたない。粉末P2は200℃から280℃、好ましくは220℃又はそれより高い及び/又は275℃若しくはそれ未満のピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し得る。
【0036】
いくつかの態様では、粉末P1は、厳密に280℃より高い温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークと、200℃から280℃のピーク温度を有する吸熱ピークとを有する初期の粉末を265℃又はそれより高い温度で熱処理して得られる粉末を含むか、本質的に成るか、又はそれから成り得る。該初期の粉末は特に粉末P2であり得る。
【0037】
いくつかの態様では、粉末P1は、厳密に280℃を越える温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有する初期粉末又は初期粉状組成物を、265℃又はそれより高い建造温度で焼結することによる層ごとの建造方法により得られた粉末を含むか、これから本質的に成る、又これから成り得る。該初期粉状組成物は本発明による組成物であり得る。
【0038】
有利には、粉末P1及び粉末P2は本質的に同じ化学組成及び/又は本質的に同じ粘度指数及び/又は本質的に同じ粒径分布を有し得る。
【0039】
いくつかの態様で、粉末P2は、粉末P1及びP2の合計重量に対して1重量%~39重量%であり得る。好ましくは、粉末P2は、粉末P1及びP2の合計重量に対して3重量%又はそれより多いそして/又は30重量%若しくはそれ未満であり得る。更に好ましくは、4重量%又はそれより多くそして/又は20重量%若しくはそれ未満であり得る。非常に好ましくは、5重量%又はそれより多くそして/又は15重量%若しくはそれ未満であり得る。適当な場合は、粉末P2は粉末P1及びP2の合計重量に対して38重量%以下、又は35重量%以下、或いは30重量%以下であり得る。
【0040】
いくつかの態様で、粉末P1及び粉末P2は、互いに独立して、又は互いに独立せずに、200~550kg/m3のタップ密度を有し得る。好ましくは、粉末P1及び粉末P2は、互いに独立して、又は互いに独立せずに、250~510kg/m3のタップ密度を有し得る。更に好ましくは、それらは互いに独立して、又は互いに独立せずに、300~480kg/m3のタップ密度を有し得る。
【0041】
本発明はまた、本発明による粉状組成物を作るためのキットに関する。該キットは上記の粉末P1及び粉末P2を含む。
【0042】
本発明はまた、電磁気照射により引き起こされる粉状組成物の焼結による三次元物体の層ごとの建造のための最低建造温度Tcを決定するための方法にも関する。
【0043】
この方法は、最初の加熱による温度傾斜(ランプ)20℃/分を使用した粉状組成物の示差走査熱量測定によりサーモグラムを提供することを含む。最低温度は225℃とTcの間のサーモグラムの積分により決定して、3.0 J/gから7.0 J/gの値、好ましくは約5 J/gの値の部分エンタルピーを得ることにより決定される。或いは、最低温度は、225℃とTcの間のサーモグラムの積分により決定して、全エンタルピーの8.0%から20.0%、好ましくは全エンタルピーの14%又は約14%の部分エンタルピーを得ることにより決定される。
【0044】
本発明はまた、上記の方法により見積もられた最低建造温度で実施される、上記の粉状組成物の電磁気照射により引き起こされる焼結による、三次元物体の層ごとの建造工程(プロセス)にも関する。
【0045】
最後に、本発明は上記の建造工程により得られ得る、又は直接得られる物体に関する。
【0046】
本発明は、以下の発明の非制限的態様の詳細な記述及び下記の図面に関連してより明確に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】三次元物体を層ごとの焼結により建造温度Tcで製造する工程を実施するための装置を図式的に示し、ここでは本発明の組成物を有利に使用し得る。
【0048】
【
図2】粉末のDSCサーモグラムを示す(頂部から底部に):i)P1,ii)P1’,iii)P2’及びiv)P2。該サーモグラムは、標準NF EN ISO 11357-3:2018に従って、温度傾斜(ランプ)20℃/分を使用して最初の加熱により得られる。x軸は℃で表した温度を示し、y軸はW/gで表した熱の流れを示す。
【0049】
【
図3】下記のDSCサーモグラムを示す(頂部から底部に):
図2と同じ条件で得られた、i)P1:P2(95:5)質量%の混合物(点線)、ii)P1:P2(80:20)質量%の混合物(実線)、iii)P1:P2’(95:5)質量%の混合物(点線)、iv)P1:P2’(80:20)質量%の混合物(実線)及びv)P1粉末(実線)。x軸は℃で表した温度を示し、y軸はW/gで表した熱の流れを表す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
定義
用語“粉末”とは、物質の分数状態(fractional state)をいい、それは一般に非常に小さいサイズの小片(粒子)の形態にあり、一般に約百ミクロン又はそれ未満のサイズの形態である。用語“粉状”とは、全体として粉末の形態にある組成物をいう。
【0051】
本願で参照されるサーモグラムは、標準NF EN ISO 11357-3:2018に従って、温度傾斜(ランプ)20℃/分を使用して、約10mgのテスト組成物の最初の加熱による示差走査熱量測定(DSC)により得られる。最初の温度は特に約20℃であり得、そして最後の温度は約390℃であり得る。サーモグラムは、例えば、図面に示されたように、TAインストルメンツ会社により販売されるQ2000示差走査熱量測定計を使用して生成し得る。
【0052】
標準NF EN ISO 11357-3:2018に照らすと、用語“融点”とは少なくとも部分的に結晶の組成物が粘性液体状態に変化する温度を表す。特に記載がない限り、それはより特定的にはピーク融点であり、そして適切な場合は、いくつかの吸熱ピークが存在する場合は、最も高い温度ピークの温度である。用語“熔融のエンタルピー”とは、組成物を熔融するのに必要な熱をいう。
【0053】
特に記載がない限り、標準 ISO 11357-1 2016の定義が本発明に適用される。特に、下記の用語が以下のように定義される:
・“ピーク”とは、試料のベースラインから離れて最大又は最低に達し、次に試料のベースラインに戻るDSC曲線の部分を表す。DSC曲線中のピークは特に一次転移を示し得る;
・“吸熱ピーク”とは、試料のるつぼに供給された熱の流れについてのピークが、参照用るつぼの熱の流れよりも高いことを示す。これは熱を吸収する転移に対応する;
・“ベースライン”は、いかなる転移もない記録された曲線の部分、特にこの場合、熔融型の一次転移のない記録された曲線の部分を示す。転移ゾーンにおいて、仮想のベースラインを決定し得る:これは、転移による熱をゼロと仮定して、転移ゾーンを通してプロットされた想像の線である。仮想ベースラインは、試料のベースラインを直線により補間することにより描き得る。
・“ピーク領域”とは、ピークと補間された仮想ベースラインにより囲まれた領域を示す。それは、J/gで表し得る転移のエンタルピーに例えられる。本発明において、エンタルピーは、225℃の温度から所定の温度まで、例えば280℃(“部分的エンタルピー”)又は330℃(“全エンタルピー”)までのベースラインに対するピークの積分により得られる。本発明において、単位J/gは“少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンのグラム”当たりの“ジュール”と理解されたい。これは組成物が少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンから成らない場合、例えば組成物が充填剤を含む場合、特に重要である。
・“補間された初期の温度”とは、補間された仮想ベースラインとピーク開始の屈曲点の接線の交差点を示す;
・“ピーク温度”とは、ピークの進路においてDSC曲線と仮想ベースラインとの間で距離が最大となる温度を示す;
・“補間された最終温度”とは、補間された仮想ベースラインとピーク終点の屈曲点の接線との交差点を示す;
【0054】
Tgと書かれる“ガラス転移温度”の用語は、20℃/分の加熱速度を使用して標準NF ISO 11357-2:2013に従った示差走査熱量測定(DSC)により測定して、少なくとも部分的に無定形のポリマーがゴム状態からガラス状態に移行する、又はその逆の温度を示すことを意図する。
【0055】
粒径分布の結果の表示についての規則は標準ISO9276-パート1~6により与えられる。用語“d50”は、累積ボリューム加重粒子直径分布関数が50%である粉末粒子直径値を意味する。“d50”の値は標準ISO 13320:2009に従って、例えばマルベルン マスターサイザー(Malvern Mastersizer)2000(登録商標)回折計を使用して、レーザー回折により測定される。同様に、“d10”及び“d90”はそれぞれ、累積ボリューム加重粒径関数がそれぞれ10%及び90%になる対応する直径である。用語“タップ密度”(無次元)又は“単位質量当たりのタップ容積”(kg/m3)とは、粉末状材料を圧縮又はタッピングした後の単位質量当たりの密度/容積を意味する。タップ密度は、標準ISO 1068-1975(F)を参照して、下記の方法で測定される:
-ある容積の粉末を正確な目盛付き250mlのガラス製メスシリンダーに入れる;
-必要な場合は、該粉末の自由表面をタップ(軽くたたく)せずに平らにし、そして容積V0を記録する;
-該粉末を入れたメスシリンダーを、前もって風袋の重さを計った0.1gの正確さを有するはかりで秤量する;
-該メスシリンダーをSTAV 2003タップ機械のプレート上に置く;
-それを1250回落下してタップし、容積V1を記録する;
-それを1250回落下してタップし、容積V2を記録する;
-タップ操作を、2つの等しい容積Viが得られるまで繰り返す。同じ容積Viに相当するVfを記録する。
【0056】
タップ密度は、導入した粉末の質量をVfで割ったものである。嵩密度は、導入した粉末の質量をV0で割ったものである。タップ密度及び嵩密度は両方ともkg/m3で表される。
【0057】
用語“流動性”は、粉末が個々の粒子の形態で均一に且つ一定の態様で自由に流動する能力を示すことを意図する。流動性は本願では標準ISO6186:1998の方法“A”に従って、粉状組成物が流れることができる直径25mmの開口部を有する漏斗を使用して測定される。なお、該組成物には帯電防止剤は添加されない。流動性は秒で測定される。
【0058】
用語“粘度指数”とは、標準ISO 307:2019に従って、硫酸水溶液中、25℃にて96質量%で溶解して測定した粘度を示す。粘度指数はdl/gで表される。
【0059】
用語“ポリマーブレンド物”とは、肉眼的に均一なポリマー組成物を示すことを意図する。該用語はまた、高精度のスケールで分散した互いに混合しない相から成る組成物をも包含する。
【0060】
用語“コポリマー”とは、コモノマーといわれる少なくとも2種の化学的に異なるタイプのモノマーの共重合から誘導されたポリマーを示すことを意図する。従って、コポリマーは少なくとも2種の繰り返し単位から形成される。それはまた、3種又はそれ又はそれより大の繰り返し単位から形成されてもよい。
【0061】
略語“PAEK”は用語“ポリアリールエーテルケトン”に対応し、“PAEKs”は用語“ポリアリールエーテルケトン類”に対応し、そして“PAEK(s)”は用語“ポリアリールエーテルケトン(類)”に対応する。
【0062】
単数形“a(n)”又は“the”は、他に記載がない限り、初期設定(デフォルト設定)では、それぞれ“少なくとも1つ”及び“上記少なくとも1つ”を意味する(後者の表現は、あるフレーズの繰り返しをより読みやすくするために、通常は使用されない)。本願で示された全ての範囲において、他に記載がない限り、限界値(境界)は含まれる。
【0063】
ポリアリールエーテルケトン
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、下記式を有する繰り返し単位を含む:
(-Ar-X-)及び(-Ar1-Y-)、
ここで、
-Ar及びAr1はそれぞれ2価芳香族基;
-Ar及びAr1は、好ましくは1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、3,3’位で2価の1,1’-ビフェニレン、3,4’位で2価の1,1’-ビフェニル、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン及び2,6-ナフチレン;
-Xは電子求引性基;それは好ましくはカルボニル基及びスルホニル基から選び得る;
-Yは酸素原子、イオウ原子、又は-(CH)2-のようなアルキレン基及びイソプロピリデンから選ばれる基である。
【0064】
これらの単位X及びYで、基Xの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、そして更に特に少なくとも80%はカルボニル基であり、そして基Yの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、そして更に特に少なくとも80%は酸素原子を表す。
【0065】
好ましい態様によると、基Xの100%はカルボニル基、そして基Yの100%は酸素原子を表す。
【0066】
有利には、PAEK(s)は下記から選び得る:
-PEKKとしても知られるポリエーテルケトンケトン;PEKKは式:-Ph-O-Ph-C(O)-Ph-C(O)-の1つ又はそれ以上の繰り返し単位を含む;
-PEEKとしても知られるポリエーテルエーテルケトン;PEEKは式:-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-の1つ又はそれ以上の繰り返し単位を含む;
-PEKとしても知られるポリエーテルケトン;PEKは式:-Ph-O-Ph-C(O)-の1つ又はそれ以上の繰り返し単位を含む;
-PEEKKとしても知られるポリエーテルエーテルケトンケトン;PEEKKは式:-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-Ph-C(O)-の1つ又はそれ以上の繰り返し単位を含む;
-PEEEKとしても知られるポリエーテルエーテルエーテルケトン;PEEEKは式:-Ph-O-Ph-O-Ph-O-Ph-C(O)-の1つ又はそれ以上の繰り返し単位を含む;
-PEDEKとしても知られるポリエーテルジフェニルエーテルケトン;PEDEKは式:-Ph-O-Ph-Ph-O-Ph-C(O)-の1つ又はそれ以上の繰り返し単位を含む;
-及びそれらの混合物;及び
-上記の繰り返し単位の少なくとも2つを含むコポリマー、
ここで、Phはフェニレン基を表し、そして-C(O)-はカルボニル基を表し、該フェニレンのそれぞれは独立して、オルト(1-2)、メタ(1-3)又はパラ(1-4)型であり得、優先的にはメタ又はパラ型である。
【0067】
更に、欠陥、末端基及び/又はモノマーは、上記リストに記載したポリマーに、該ポリマーの性能に偶発的事故を起こさない非常に少量で混入してもよい。
【0068】
特定の態様では、PAEKは、テレフタル繰り返し単位とイソフタル繰り返し単位から本質的に成る、又はこれら繰り返し単位から成るPEKKであり、該テレフタル繰り返し単位は下記式:
【0069】
【0070】
該イソフタル繰り返し単位は下記式:
【0071】
【0072】
所定のファミリーのポリマー、例えばPEKKファミリー、について、用語“繰り返し単位から本質的に成る”とは、該繰り返し単位がポリマー中で95%~99.9%のモル比率であることを示す。更に、用語“繰り返し単位から成る”とは、該繰り返し単位がポリマー中で99.9%、理想的には100%のモル比率であることを示す。
【0073】
T単位及びI単位の合計に対するT単位のモル比率の選択は、ポリエーテルケトンケトンの結晶速度の調節を可能にする因子の一つである。
【0074】
T単位及びI単位の合計に対するT単位の所定のモル比率は、知られた方法で重合中にそれぞれの試薬の濃度を調節することにより得ることができる。
【0075】
PEKKのT単位及びI単位の合計に対するT単位のモル比率は特に:0%~5%;又は5%~10%;又は10%~15%;又は15%~20%;又は20%~25%;又は2%~30%;又は30%~35%;又は35%~40%;又は40%~45%;又は45%~48%;又は48%~51%;又は51%~54%;又は54%~58%;又は58%~60%;又は60%~62%;又は62%~64%;又は64%~68%;又は68%~72%;又は72%~75%;又は75%~80%;又は80%~85%であり得る。
【0076】
ポリエーテルケトンケトンがコポリマーである態様では、統計的タイプのコポリマーであるのが有利である。
【0077】
特定の態様では、ポリエーテルケトンケトンは“T”及び“I”単位から本質的には成る又はそれから成り、T単位及びI単位の合計に対するT単位のモル比率は、45%~75%の範囲である。T単位及びI単位の合計に対するT単位のモル比率は、好ましくは48%より大又は48%であり、更に好ましくは58%より大又は58%である。T単位及びI単位の合計に対するT単位のモル比率はまた、好ましくは72%未満又は72%、そして更に好ましくは64%未満又は64%である。T単位及びI単位の合計に対するT単位のモル比率は特に、60%又は約60%であり得る。
【0078】
特定の態様では、PAEKは下記式の繰り返し単位:
【0079】
【0080】
【化10】
から本質的に成る又はそれから成るポリマーである。
【0081】
単位(III)及び(IV)の合計に対する単位(III)のモル比率は0%~99%にわたり得る。単位(III)及び(IV)の合計に対する単位(III)のモル比率は優先的には55%またはそれより大、そしてより優先的には60%またはそれより大である。それはまた優先的には95%又はそれ未満、そしてより優先的には85%又はそれ未満である。
【0082】
ポリマーがコポリマーである態様では、統計的タイプのコポリマーであるのが有利である。
【0083】
特定の態様では、PAEKは下記式の繰り返し単位:
【0084】
【0085】
【化12】
から本質的に成る又はそれから成るポリマーである。
【0086】
単位(III)及び(V)の合計に対する単位(III)のモル比率は0%~99%にわたり得る。単位(III)及び(IV)の合計に対する単位(III)のモル比率は優先的には5%またはそれより大、そしてより優先的には40%またはそれより大、そして非常に優先的には70%またはそれより大である。それはまた優先的には97%又はそれ未満、そしてより優先的には96%又はそれ未満、そして非常に優先的には95%又はそれ未満である。
【0087】
ポリマーがコポリマーである態様では、それは統計的タイプのコポリマーであるのが有利である。
【0088】
少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンに基づく粉末
本発明による粉状組成物に使用される少なくとも1種のポリアリールエーテルケトンに基づく(少なくとも1種の)粉末は一般に、粉末全重量に対して少なくとも50%のPAEK又はPAEKs(PAEK類)の混合物を含む。
【0089】
ある態様では、上記粉末は、PAEK(s)を粉末の全重量の少なくとも60重量%、又は少なくとも65重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも75重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも92.5重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも97.5重量%、又は少なくとも98重量%、又は少なくとも98.5重量%、又は少なくとも99重量%、又は少なくとも99.5重量%含む。
【0090】
ある変形例では、上記粉末はPAEK(s)から本質的に成るか、又はPAEK(s)から成り得る。
【0091】
粉末/粉状組成物について、用語“成分から本質的に成る”とは、該成分が粉末/粉状組成物の全重量の95~99.9%のモル比率であることを示す。更に、用語“成分から成る”とは、該成分が粉末/粉状組成物の全重量の99.9%より大、理想的には100%のモル比率であることを示す。
【0092】
ある態様ではPAEKに基づく粉末は、1種のみのPAEK、例えば1種のみのPEKKポリマーを含み、他のタイプのPAEKを含まないことであり得る。或いは、PAEKに基づく粉末は、少なくとも2種の異なるタイプのPAEK、例えばPEKKと単位(III)及び(IV)から本質的に成る又はそれらの単位から成るポリマーとの混合物、又はPEKKと単位(III)及び(V)から本質的に成る又はそれらの単位から成るポリマーとの混合物を含み得る。
【0093】
ある態様では、PAEKに基づく粉末は、所定の化学組成を有する1種のみのPAEKを含み得、例えばT:Iモル比60:40のテレフタル繰り返し単位とイソフタル繰り返し単位とから成り、他のタイプのPAEKを含まないPEKKポリマーのみを含み得る。あるいは、PAEKに基づく粉末は、種々の化学組成を有する1種のみのPAEKを含み得、例えばT:Iモル比60:40を有するPEKKとT:Iモル比50:50を有するPEKKとの混合物、又はT:Iモル比60:40を有するPEKKとT:Iモル比55:45を有するPEKKとの混合物、を含み得る。
【0094】
ある態様では、上記粉末は、標準ISO307:2019に従って、25℃で96質量%の硫酸水溶液中の溶液として測定して、0.65 dl/g~1.15 dl/g、優先的には0.85 dl/g~1.13 dl/g、更に好ましくは0.92 dl/g~1.12 dl/gの粘度指数を有する。これらの粘度指数は特に有利であり、そして焼結中の良好な癒着性(十分に低い粘度)と焼結物体の良好な機械的性質(十分に高い粘度)との両方を有する良好な妥協策を得ることを可能にする。
【0095】
上記粉末は、ポリマーのフレーク又は押し出し粒状物を、当業者に知られた技術に従って製粉することにより得られ得る。
【0096】
ポリマーのフレーク又は押し出し粒状物の製粉は、液体窒素、又は液体二酸化炭素、又はドライアイス(cardice)、又は液体ヘリウムを用いて冷却することにより、-20℃未満の温度、優先的には-40℃未満の温度で実施し得る。他の態様では、特にポリマーフレークの場合、製粉は室温で、即ち特に15℃から35℃の温度、例えば25℃で実施し得る。
【0097】
上記粉末は、分布メディアン直径D50がd50<100μmの粒子サイズ分布を有し得る。優先的には、d50は40<d50<80である。更に好ましい態様では、粒子サイズ分布はd10>15μm、40<d50<80μm、そしてd90<240μmである。ある態様では、d90<220μm又はd90<200μmでさえある。これらの粒子サイズ分布は焼結工程に使用することを意図した粉末/粉状組成物に特に有利である。
【0098】
上記粉末はタップ密度200~550kg/m3を有し得る。タップ密度は優先的には250kg/m3又はそれより大、更に優先的には300kg/m3又はそれより大であり得る。タップ密度はまた、優先的には510kg/m3又はそれ未満、更に優先的には480kg/m3又はそれ未満であり得る。
【0099】
粉状組成物
本発明の粉状組成物は、PAEKに基づく粉末を一般に少なくとも50重量%含む。いくつかの態様では、(少なくとも1種の)PAEKに基づく粉末は、組成物の全重量に対して少なくとも55重量%、又は少なくとも60重量%、又は少なくとも65重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも75重量%、又は少なくとも80重量%、又は少なくとも85重量%、又は少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%を示す。ある種の変形例では、上記組成物は本質的にPAEKに基づく粉末から本質的に成る、又は該粉末から成ることができる。
【0100】
ある変形例では、PAEKに基づく粉末/粉状組成物は、PAEKファミリーに属さない1種又はそれ以上の他のポリマー、特に別の熱可塑性ポリマー、例えばポリエーテルイミド(PEI)を含み得る。PAEKに基づく粉末/粉状組成物は、1種又はそれ以上の添加剤を含んでもよい。添加剤は一般に、PAEKに基づく粉末/粉状組成物の全重量の5重量%未満を示す。好ましくは添加剤は、PAEKに基づく粉末/粉状組成物の全重量の1重量%未満を示す。添加剤の中で、流動剤、安定剤(光、特にUV、及び熱安定剤)、蛍光増幅剤、染料、顔料及びエネルギー吸収添加剤(UV吸収剤を含む)を述べることができる。
【0101】
ある態様では、PAEKに基づく粉末/粉状組成物はホスフェートを含む。ホスフェートは特にリン酸塩、例えばH2PO4
-,HPO4
2-,PO4
3-,又はこれらの混合物の塩であり、優先的にはナトリウムイオン、カリウムイオン又はカルシウムイオンを対イオンとして有する。有利には、ホスフェートはPAEKに基づく粉末/粉状組成物に500ppm又はそれより大、又は750ppm又はそれより大、又は1000ppm又はそれより大、又は1500ppm又はそれより大、又は2000ppm又はそれより大、又は2500ppm又はそれより大の割合で混入される。ある態様では、粉状組成物は流動剤、例えば親水性シリカ又は疎水性シリカ、を含む。有利には、流動剤は組成物の全重量の0.01重量%から0.4重量%を示す。
【0102】
他の態様では、粉状組成物は流動剤を含まない。
【0103】
PAEKに基づく粉末/粉状組成物は1種又はそれ以上の充填剤を含み得る。充填剤は組成物の全重量の50重量%未満、好ましくは40重量%未満を示す。該充填剤の中で、補強用充填剤、特にカーボンブラック、タルク、炭素若しくは非炭素ナノチューブ、繊維(ガラス、炭素等)のような鉱物質充填剤を述べることができ、これらは製粉されてもされなくてもよい。
【0104】
PAEK(s)以外のある種のポリマー、及びある種の添加剤及び/又はある種の補強用充填剤をPAEK(s)に、例えば配合しそして次に粒状物を製粉することによる熔融押出により混入して、これらの他の成分を混入したPAEK系粉末を形成し得る。
【0105】
PAEK(s)以外のある種のポリマー及び/又はある種の添加剤及び/又はある種の補強用充填剤をPAEK系粉末と乾式混合して、粉状組成物に混入することができる。
【0106】
本発明の粉状組成物は、その特性が、従来技術の慣用の焼結工程よりも低い建造温度で電磁気放射媒介焼結を想定することを可能にするDSCサーモグラムにより特徴付けられる。
【0107】
上記組成物のサーモグラムは、少なくとも2つの吸熱ピークを含む。それは、厳密に280℃よりも高い、優先的には290℃又はそれよりも高いピーク温度を有する第1吸熱ピークを含む。それはまた、200℃から280℃の値に等しいピーク温度、優先的には220℃又はそれより高くそして/又は275℃又はそれ未満のピーク温度を有する第2吸熱ピークを含む。
【0108】
225℃と280℃の間で上記組成物のサーモグラムに関して測定したエンタルピーは、該サーモグラムに関して225℃と330℃の間で測定した全エンタルピーの15%から50%を示し得る。
【0109】
優先的には、225℃と280℃の間で上記組成物のサーモグラムに関して測定したエンタルピーは、該サーモグラムに関して225℃と330℃の間で測定した全エンタルピーの20%又はそれ以上を示し得る。それはまた、優先的には全エンタルピーの40%又はそれ未満を示し得る。
【0110】
225℃と280℃の間で測定したエンタルピーは特に5 J/gから20 J/gであり得る。
【0111】
優先的には、225℃と280℃の間で測定したエンタルピーは7 J/g又はそれより大、そして更に優先的には8 J/g又はそれより大であり得る。それはまた、優先的には14 J/g又はそれ未満、更に優先的には12 J/g又はそれ未満であり得る。
【0112】
ある態様では、上記組成物は15秒又はそれ未満の流動性、更に好ましくは10秒又はそれ未満の流動性を有し得る。該組成物は特に9秒又はそれ未満、又は7秒又はそれ未満の流動性を有し得る。
【0113】
いくつかの態様によると、上記組成物は基本の組成物であり得る。いくつかの態様によると、上記組成物は新たに(リフレッシュ)された組成物であり得る。
【0114】
本願で使用される用語“組成物を新たにする”とは、レーザー焼結工程で以前は使用されなかった組成物部分と、レーザー焼結工程に少なくとも1回は使用された組成物部分とから構成される組成物を云う。本発明の文脈内で、レーザー焼結工程で前もって使用されなかった粉末、組成物はそれぞれ、“基本の粉末”、及び“基本の組成物”と名付ける。
【0115】
以下の態様は、かかるサーモグラムを有する組成物の実施の特定の非限定的態様を示す。当業者が、本発明に包含されるある他の変更例を考えることが可能であるのは、自明である。
【0116】
PAEKに基づく粉末は、第1の粉末P1と第2の粉末P2とを含む、又はP1とP2とから本質的に成る、又はP1とP2とから成る混合物から成り得る。粉末P1と粉末P2とは、少なくとも1種のPAEKに基づく。
【0117】
粉末P1は、厳密に280℃を越えるピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し、そして280℃未満又は280℃のピーク温度を有する吸熱ピークをもたない。優先的には、粉末P1は、290℃又はそれを越えるピーク温度を有する吸熱ピークを有し得る。
【0118】
いくつかの態様では、粉末P1は基本の粉末を含むか、又は基本の粉末から成る。
【0119】
いくつかの態様では、粉末P1は、少なくとも1回レーザー焼結工程に既に使用された粉末又は粉状組成物を含むか、又は該粉末又は粉状組成物から成る。
【0120】
粉末P2は、200℃から280℃のピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有する。優先的には、粉末P2は、220℃から275℃の温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し得る。好ましい態様では、粉末P2は、粉末P1と粉末P2の合計重量に対して、5重量%~39重量%、優先的には10重量%~39重量%、更に優先的には15重量%~39重量%、そして非常に好ましくは20重量%~39重量%に相当し得る。ある変更例では、粉末P2は、粉末P1と粉末P2の合計重量に対して、38重量%以下、又は35重量%以下、又は30重量%以下に相当し得る。
【0121】
粉末P1及びP2は、2つの異なるPAEKsに基づくか、又は同じPEAKに基づき得る。
【0122】
有利には、粉末P1及びP2は同じPAEKに基づき得る。例えば、粉末P1及びP2はPEKKに基づくか、又は式(III)及び(IV)の繰り返し単位から本質的に成る若しくはこれらから成るポリマー、又は式(III)及び(V)の繰り返し単位から本質的に成る若しくはこれらから成るポリマーに基づき得る。以下本願で、粉末P1及びP2は1種のPAEK、例えばPEKK、から本質的に成る若しくはこれらから成ると考えられる。
【0123】
粉末P1及びP2は、異なる化学組成を有してもよく、即ち、PEKKの場合、異なるT:I比を有してもよく、そして/又は粉末P1及びP2は、異なる粘度指数を有してもよく、そして/又は粉末P1及びP2は、異なる粒径分布を有してもよい。
【0124】
或いは、粉末P1及びP2は、同じ化学組成、実質的に同じ粘度指数及び実質的に同じ粒径分布を有してもよい。
【0125】
粉状組成物の粉末P1及びP2は、特に同じ初期粉末Pから誘導され得る。この態様では、粉末Pは、厳密に280℃を越える温度を有する少なくとも1つの吸熱ピーク、及び200℃から280℃のピーク温度を有する吸熱ピークを有する。特定の態様では、粉末Pは、例えば、アルケマ(Arkema)から販売されるKEPSTAN(登録商標)6002PL粉末のようなPEKK粉末であり得る。
【0126】
上記粉末Pは、粉末P1を得るために、熱処理されてもよい。熱処理は、粉末Pを265℃又はそれ以上の温度、優先的には270℃又はそれ以上の温度、そして特に好ましくは275℃又はそれ以上の温度に、十分な時間加熱することを含む。粉末Pは特に、その融点から1℃~25℃低い温度、優先的にはその融点から10℃~25℃低い温度、そして特に好ましくはその融点から15℃~25℃低い温度に加熱され得る。この処理についての十分な保持時間は一般に6時間又はそれ未満、そして優先的には4時間又はそれ未満である。
【0127】
粉末P2は粉末Pから直接誘導され得る。或いは、粉末Pは粉末P2を得るために他の処理を受けてもよいが、260℃を越える温度、そして好ましくは250℃を越える温度での熱処理を受けてはならない。
【0128】
最低建造温度の見積り方法
粉状組成物、特に本発明の組成物、を焼結できる最低建造温度は、該組成物のサーモグラムにおける吸熱ピークの面積を決定することにより見積もることができる。
【0129】
該ピークの面積を積分する温度範囲は、一般に225℃から330℃である。この範囲にわたって測定されたエンタルピーは“全”エンタルピーに相当する。
【0130】
最低建造温度は、サーモグラムの積分を225℃で始めると、測定されたエンタルピーが全エンタルピーの8.0%~20.0%を示す温度に相当する。測定されたエンタルピーは特に、全エンタルピーの8.0%~9.0%、又は9.0%~10.0%、又は10.0%~11.0%、又は11.0%~12.0%、又は12.0%~13.0%、又は13.0%~14.0%、又は14.0%~15.0%、又は15.0%~16.0%、又は16.0%~17.0%、又は17.0%~18.0%、又は18.0%~19.0%、又は19.0%~20.0%であり得る。測定されたエンタルピーは特に、全エンタルピーの約14.0%であり得る。
【0131】
或いは又は追加して、最低建造温度は、サーモグラムの積分を225℃で始めると、測定されたエンタルピーが3.0 J/gから7.0 J/g、優先的には5.0 J/gを示す温度に対応する。
【0132】
理論に拘束されることを望まないが、本発明者等は、この温度で組成物は最適温度に加熱されて、粉末床の十分な凝集が得られると考える。これは一般に、建造中の物体を粉末床中に維持するためのサポートの必要性を省くことを可能にする。しかしながら、この凝集は、焼結しなかった組成物の回収及びリサイクル性、そしてまた建造された物体の表面(粒状の外観)に負の影響を与えるであろうほどは高くない。
【0133】
焼結工程
上記の粉状組成物は、
図1に図式的に示されるように、デバイス1中での三次元物体の電磁気放射線が媒介する層ごとの焼結建造のための工程に使用される。
【0134】
電磁気放射線は、例えば赤外線、紫外線、又は好ましくはレーザー光線であり得る。特に、
図1に図式的に示されたようなデバイス1において、電磁気放射線は赤外線100とレーザー光線200の組み合わせを含み得る。
【0135】
焼結工程は、三次元物体80を建造するための層ごとの製造工程である。
【0136】
デバイス1は焼結室10を含み、その中にはPAEKに基づく粉状組成物を収納する供給タンク40と移動可能な水平プレート30が置かれている。水平プレート30は、建造中の三次元物体80の支持体としても作用し得る。それにも係わらず、本発明による粉状組成物から製造された物体は、一般に追加の支持体を必要とせず、そして一般に、前の層の未焼結粉状組成物似より自己支持されることができる。
【0137】
上記工程によると、粉状組成物は供給タンク40から取り出され、そして水平プレート30上に堆積されて、建造中の三次元物体80を構成する粉状組成物の薄層50を形成する。粉状組成物50の層は赤外線100により加熱されて、所定の最低建造温度Tcに等しい実質的に均一の温度に達する。
【0138】
粉状組成物の粒子を粉末50の層中のいろいろなポイントで焼結するために必要なエネルギーは次に、物体の形状に対応する形状に応じて、平面(xy)内の可動性レーザー20のレーザー光線200により与えられる。熔融した粉状組成物は再度固化して焼結部分55を形成し、一方、層50の残部は未焼結の粉状組成物56の形態のままである。1つのレーザー光線200の1回の通過は一般に粉状組成物の焼結を確保するのに十分である。それにもかかわらず、ある態様では、同じ場所及び/又は同じ場所に達する何回かの電磁気放射もまた、粉状組成物の焼結を確実にするために想定される。
【0139】
次に、水平プレート30をz軸に沿って粉状組成物の厚さに相当する距離だけ下げて、新しい層が堆積される。レーザー20は粉状組成物の粒子を、物体の新たなスライスに相当する形状に焼結するのに必要なエネルギーを供給する等である。該操作は物体80の全体が製造されるまで繰り返される。
【0140】
建造中の層の下の層の焼結室10中の温度は建造温度より低くてもよい。しかしながら、この温度は一般に粉状組成物のガラス転移温度よりも高いか、又は十分高いままである。焼結室の底部の温度は、“タンク底部温度”として知られる温度Tbに維持されるのが特に有利であり、TbはTcよりも40℃未満だけ、好ましくは25℃未満だけ、そして更に好ましくは10℃未満だけ低い。
【0141】
一旦物体80が完成すると、水平プレート30から取り除かれ、そして未焼結の粉状組成物56は、リサイクル粉末として役立てるために少なくとも部分的に供給タンク40に戻される前に、篩にかけることができる。粉状組成物のリサイクルは、建造温度Tcは一般に従来の建造方法の建造温度よりも低いという事実により可能にされ、その事実は、少なくとも1つの焼結建造の温度条件に付された未焼結粉状組成物の老化を弱めることを可能にする。リサイクルされた粉状組成物はそのまま又は新たな(フレッシュ)粉末との混合物として使用し得る。
【0142】
特に、本発明の組成物が粉末P1と粉末P2との混合物から成る態様では、建造温度は、粉末P1から成る組成物(本発明によるものでない)を使用した従来の建造工程に使用されるであろう建造温度よりも低い。このことは、未焼結粉状組成物を次の建造への改良されたリサイクルに想定することを可能にする。未焼結粉状組成物は、厳密に280℃よりも高いピーク温度を有する少なくとも1つの吸熱ピークを有し得、そして280℃又はそれ未満のピーク温度を有する吸熱ピークをもたないであろう。それを新たな粉末P及び/又は新たな粉末P2と混合して、新たにされた(リフレッシュされた)粉状組成物を得るのが有利である。リフレッシュされた粉状組成物はまだ、従来の建造方法の建造温度よりも低い建造温度Tcを有する。
【0143】
焼結工程により得ることができる又は直接得られる物体
本発明による焼結工程により得ることができる又は直接得られる物体は、従来の焼結工程により得られる物体の機械的性質に少なくとも類似する機械的性質及び/又はより良い表面外観を有する。
【0144】
特に、本発明の組成物が粉末P1と粉末P2との混合物から成る態様において、本発明の工程により得られる物体の機械的性質は、従来の建造工程により、粉末P1から成る組成物(それは本発明によらない)を使用して得られるであろう物体の機械的性質に類似する。
【0145】
特に、本発明の組成物が粉末P1と粉末P2との混合物から成る態様において、本発明の方法により得られた物体の表面外観は、従来の建造方法により、粉末P1から成る組成物(それは本発明によらない)を使用して得られるであろう物体の表面外観よりも仮により良くはないとしても、少なくともそれに類似する。
【実施例】
【0146】
実施例1:PEKKポリマーの製造
テレフタル繰返し単位及びイソフタル繰返し単位から成り、テレフタル単位対イソフタル単位のモル比が60:40であるPEKKポリマーを以下のように製造した:
オルト-ジクロロベンゼン及び1,4-(フェノキシベンゾイル)ベンゼン(EKKE)を2L反応器に撹拌しながら窒素流の下で入れた。塩化テレフタロイル、塩化イソフタロイル及び塩化ベンゾイルから成る塩化アシル混合物を次ぎに該反応器に加えた。反応器を-5℃に冷却した。
【0147】
三塩化アルミニウムAlCl3を、該反応器の温度を5℃より低く維持しながら加えた。約10分の均一化期間の後に、該反応器温度を毎分5℃で90℃の温度まで上昇させた(重合は温度上昇中に始まると考えられる)。該反応器を90℃に30分間維持し、そして次に30℃に冷却した。該反応器内の温度が90℃を越えないように、濃塩酸溶液(3.3重量%のHCl)を次にゆっくり加えた。該反応器を2時間撹拌し、次に30℃に冷却した。
【0148】
このようにして形成されたPEKKを液体廃液から分離し、次に、当業者に良く知られた通常の分離/洗浄技術に従って、酸の存在下又は非存在下で洗って、“精製した湿潤PEKK”を得た。
【0149】
精製湿潤PEKKを190℃にて減圧下(30ミリバール)で一晩乾燥した。ポリマーフレークを得た。標準ISO307:2019に従って、25℃で96%の硫酸水溶液中の溶液として粘度指数0.93 dl/gが測定された。
【0150】
実施例2:P2粉末の製造
実施例1で得たポリマーフレークをアルピン ホソカワ(Alpine Hosokawa)AFG 200エアージェットミル中で23℃にて微粉化して、d10=21ミクロン、d50=50ミクロン、d90=98ミクロンの粒径分布を有する粉末P2を98%の収率で得た。
【0151】
図2のP2のサーモグラムを参照すると、3つの吸熱ピークが観察される。更に詳しくは、P2は、それぞれ200℃と280℃の間のピーク温度を有する吸熱ピークと、280℃又はそれより高いピーク温度を有する吸熱ピークとを有する2つの吸熱ピークを有する。
【0152】
タップ密度340kg/m3が測定された。
【0153】
粉末P2は流動せず、従って単独でレーザー焼結工程に使用できない。
【0154】
実施例3:P2’粉末の製造
“高密度化されていない”と名付けられた粉末P2をヘンケル(Henschel)高速ミキサー中で、パドル末端の速度:約43m/秒で60分間、熱機械処理に付した。該粉末を室温(約23℃)で導入した。高速ミキサーは温度制御されていないので、混合中の温度は摂氏数度、又は摂氏数十度でさえ上昇することができるが、それでも140℃よりも十分低いままであった。
【0155】
“高密度化された”と名付けられた粉末P2’をこのようにして得た。タップ密度440kg/m3が測定された。
【0156】
図2のP2’のサーモグラムはP2のサーモグラムと類似する。
【0157】
実施例4:P1粉末の製造
粉末P2’を285℃の熱処理に4時間付して、粉末P1を得た。
【0158】
図2のP1のサーモグラムを参照すると、肩部(ピーク温度:313℃)を有する1つだけの吸熱ピーク(ピーク温度:301℃)が観察された。
【0159】
従来技術から、粉末P1のような粉末をレーザー焼結工程に使用することは知られた実践である。
【0160】
実施例5:P1’粉末の製造
粉末P2’を275℃の熱処理に4時間付して、粉末P1’を得た。
【0161】
図2のP1’のサーモグラムを参照すると、それぞれ280℃より高い又は280℃のピーク温度を有する2つの吸熱ピークが観察された。
【0162】
実施例6:粉末混合物
下記の粉末混合物を、Turbula(登録商標)ミキサー中で室温(23℃)にて3分間の乾式混合することにより得た。
【0163】
流動性を、標準ISO6186:1998の方法“A”に従って、粉状組成物が流動することができる直径25mmの開口部を有する濾斗を用いて、いかなる帯電防止剤も用いずに測定した。
【0164】
以下の表は、粉末P1と粉末P2の種々の質量比率を有する組成物についての流動性結果を照合する:
【0165】
【0166】
粉末P1と粉末P2とから成る組成物中の1重量%~30重量%の粉末P2の存在は、該組成物がレーザー焼結工程に使用できるのに十分な流動性を観察できるようにする。粉末P2が40重量%を越えると、該組成物はもはや流動しない(“-”の記号)ので、レーザー焼結工程に使用できない。
【0167】
以下の表は、粉末P1と粉末P2の種々の質量比率を有する組成物についての流動性結果を照合する:
【0168】
【0169】
粉末P2’を使用して得られる流動性に関する結果は、粉末P2を使用して得られる結果と類似する。
【0170】
実施例7:浴温度の見積もり
混合物No.1~10について、DSCサーモグラムを生成した。混合物No.1、No.3、No.9、No.5、及びNo.10についてのサーモグラムを
図3に示す。
【0171】
225℃から330℃の間のベースラインに対するピークの面積を積分する全エンタルピー(J/gで表したΔHf)のピーク融点値(℃で表したT融解)、及び225℃から280℃の間のベースラインに対するピークの面積を積分する部分エンタルピー(J/gで表したΔHp)のピーク融解点値(℃で表したT融解)を下記の表に示す:
【0172】
【0173】
最低浴温度Tc最低を、部分エンタルピー5 J/gが測定された温度値に対応させるために、温度225℃からのDSCスペクトルの積分により見積もった。結果を下記の表に照合する。
【0174】
【0175】
粉末P1と粉末P2から成る組成物中の1重量%~30重量%の粉末P2の存在は、粉末P1だけから成る混合物1の組成物と比較して、建造工程の建造温度値を低下させることができる。
【0176】
少なくとも5重量%の粉末P2の存在は、混合物1の建造温度に対して少なくとも5℃だけ建造温度を低下させることができる。
【0177】
少なくとも20重量%の粉末P2の存在は、混合物1の建造温度に対して少なくとも9℃だけ建造温度を低下させることができる。
【0178】
実施例8:機械試験
標準ISO 527-2:2012に従って、1BA型の試料を、混合物No.1に従った粉末及び混合物No.5に従った粉末を用いてレーザー焼結により製造する。それらをX軸及びY軸に沿って表3の建造温度Tc最低で、レーザー焼結エネルギー28mJ/mm2を用いて建造する。
【0179】
試料の弾性モジュールを、23℃で、処理能力速度1mm/分を用いて、標準ISO 527-2:2012に従って、機械的伸縮計を備えた、MTSシステム社から販売されたMTS 810(登録商標)機械を用いて測定し得る。
【0180】
混合物No.1を用いて製造された試料、及び混合物No.5を用いて製造された試料について、約4GPaの引張弾性係数が建造軸に関係なく測定し得る。
【0181】
混合物No.5から得られた試料は、混合物No.1から得られた試料よりも低い建造温度で製造されたので、未焼結の粉末は老化がより少なく、その後の焼結工程により多くの回数リサイクルすることができる。更に、混合物No.5から誘導された試料の調製工程は混合物No.1から誘導された試料の調製工程よりも速いのは、特に建造温度に達する初期加熱ステップ及び粉末床を取り扱い可能な十分低い温度に達する最終冷却ステップによる。
【0182】
混合物No.7を用いて試料を製造することは、特に該混合物の粉末が流動しないという事実により、可能でない。
【国際調査報告】