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特表2023-551660石灰化関連腎臓病の治療をするためのイノシトールヘキサキスリン酸アナログ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-12
(54)【発明の名称】石灰化関連腎臓病の治療をするためのイノシトールヘキサキスリン酸アナログ
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/09 20060101AFI20231205BHJP
   A61K 31/6615 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 31/77 20060101ALI20231205BHJP
   C08G 65/04 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C07F9/09 K
A61K31/6615
A61P13/12
A61P13/02
A61K31/77
C08G65/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530557
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-07-07
(86)【国際出願番号】 EP2021082374
(87)【国際公開番号】W WO2022106657
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】20209090.8
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
2.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】523057644
【氏名又は名称】ヴィフォール (インターナショナル) アーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】516091949
【氏名又は名称】イーティーエッチ チューリッヒ
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】イヴァルソン,マティアス,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ルルー,ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】クレッツマイヤー,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】黒尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】林 宏栄
【テーマコード(参考)】
4C086
4H050
4J005
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086DA34
4C086FA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4J005AA04
(57)【要約】
本発明は、カルシウム塩結晶の形成に関連する疾患の治療又は予防に使用するための、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物、又はその薬学的に許容可能な塩に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム塩結晶の形成及び/又は組織への曝露に関連する疾患の治療又は予防に使用するための、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩であって、該疾患は、以下から選択される、前記イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩:
- 腎線維症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症、
- 腎炎症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症、
- 腎炎、
- 間質性腎炎、
- 糸球体腎炎、
- リン酸誘導性腎線維症、
- リン酸誘導性慢性腎臓病、
- 高リン酸血症に関連する慢性腎臓病、
- 慢性腎臓病の進行、
- リン酸毒、
- 高リン尿、
- 高リン酸血症、及び/又は
- 高FGF23-血症。
【請求項2】
イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物が、一般式I
【化1】
で表され、
(式中1個又は2個又は3個のXはオリゴエチレングリコールであり、かつ残りのXはOPO 2-である、請求項1に記載の使用のための、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項3】
2個のXがオリゴエチレングリコールであり、かつ残りの4個のXがOPO 2-である、請求項2に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項4】
3個のXがオリゴエチレングリコールであり、かつ残りの3個のXがOPO 2-である、請求項2に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
1個のXがオリゴエチレングリコールであり、かつ残りの5個のXがOPO 2-である、請求項2に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項6】
オリゴエチレングリコールは、式O-(CH-CH-O)CHによって表され、nは2~20の整数から選択され、特にnは2~12の整数から選択される、請求項2~5のいずれか1項に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項7】
nは2である、請求項6に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
化合物が以下式:
【化2】
のいずれか1個により表される、請求項3に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項9】
化合物が以下式:
【化3】
のいずれか1個により表される、請求項5に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項10】
イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物が、一般式II
【化4】
で表され、
(式中、各XはOPO 2-であり、及びLは-(O-CH-CH-O-であり、mは5~15の値であり、特にmは6~12の値であり、より特にmは7~10の値であり、さらに特にmが8である、請求項1に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項11】
化合物が以下式:
【化5】
のいずれか1個により表される、請求項10に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項12】
イノシトール部分がミオ-イノシトールである、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩、又はイノシトール部分が両方ともミオ-イノシトールである、請求項10に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項13】
前記関連する疾患は、リン酸カルシウム塩又はリン酸カルシウム沈殿物の形成に関連する疾患である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項14】
前記関連する疾患は、シュウ酸カルシウム塩又はシュウ酸カルシウムの沈殿物の形成に関連する疾患である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項15】
前記関連する疾患は、混合リン酸シュウ酸カルシウム沈殿物の形成に関連する疾患である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸カルシウム(CaP)及びその他のカルシウムの沈殿物の沈着又は曝露に起因する組織、特に腎臓組織の石灰化に関連する状態の治療に使用するための化合物及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2013045107(A1)は、まず、イノシトールポリリン酸ポリアルキルエーテル誘導体を医薬物質として使用する概念を開示する。当初は、結腸内腔のC.difficile毒素を中和する薬剤として相当な可能性があると考えられていたが、その後の分析により、WO2017098047(A1)、US10624909(B2)及びUS20200247837(A1)に初めて開示されているように、全身に適用するとカルシウム化の減少に高い効果がある化合物があることが見出された。
【0003】
WO2020058321(A1)は、薬理学的特性が改善されたイノシトールポリリン酸の骨格(scaffold)に基づくさらなる化合物を開示する。
【0004】
本明細書中で言及されている全ての特許文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、イノシトールポリリン酸ポリアルキルエーテル誘導体のさらなる有利な適用を提供することである。該目的は、本明細書の独立請求項の主題によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成に関連する疾病の治療又は予防に使用するための、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物、又はその薬学的に許容可能な塩を提供する。広義には、本発明の化合物が対処する疾病は、カルシウム塩沈殿物、特にリン酸カルシウム及び/又はシュウ酸カルシウムからなる沈殿物の形成に関連した慢性腎臓病である。
【0007】
ここに記載された化合物の投与が治療に有益であると考えられる具体的な疾病は、腎線維症、特に腎組織のリン酸カルシウム沈殿物若しくはシュウ酸カルシウム沈殿物の石灰化又はこれらへの曝露を伴う場合の腎線維症、腎炎症、特に腎組織のリン酸カルシウム沈殿物若しくはシュウ酸カルシウム沈殿物の石灰化又は曝露を伴う場合の腎炎症、腎炎、特に間質性腎炎、糸球体腎炎、リン酸誘導性腎線維症、リン酸誘導性慢性腎臓病、高リン酸血症を伴う慢性腎臓病、慢性腎臓病の進行、リン酸毒、高リン尿、高リン酸血症、及び/又は高FGF23血症(hyper-FGF23-emia)を含む。
【0008】
本発明の本側面の代替によれば、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成を伴う疾病の治療又は予防における使用のために、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物若しくはその薬学的に許容可能な塩が提供され、該疾患は血管石灰化、冠状動脈疾患、血管硬化、弁膜石灰化、ネフロカルシン症、皮膚石灰沈着症、腎石及びコンドロカルシン症から選ばれる。
【0009】
本明細書で提示されたデータから見出される、本発明者らが真に新規であると考える肝要な知見の一つは、顕在的な石灰化がない場合でも、生体内で保護効果が観察されたことである。実施例で使用したマウスモデルは、試験した期間中、尿細管にCaPの沈殿物が形成されるが、実際には組織学的に腎臓自体の石灰化を検出することはできない(von Kossa染色は陰性)ということであった。石灰化は、阻害剤で治療しない条件下で、実験開始時に腎摘出術を行って石灰化を促進する場合、又はより長く上記マウスを維持する場合に発現する。もちろん、石灰化が存在し、測定可能なとき(初期の実施例で使用した細胞アッセイの場合)、保護効果もまた期待できる。
【0010】
用語及び定義
本明細書の解釈のために、以下の定義が適用され、適切な場合には、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆もまた然りである。以下に定める定義が、参照により本書に組み込まれた文書と矛盾する場合、定められた定義が優先されるものとする。
【0011】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(having)」、「含む(containing)」及び「含む(including)」、及び他の同様の形態、並びにそれらの文法的に同等な用語は、意味において同等であること、及びこれらの用語のいずれか1つに続く1つ又は複数の項目が、係る1つ又は複数の項目を網羅的に列挙するものではない、又は列挙した1つ又は複数の項目のみに限定するものではないことにおいてオープンエンドとすることを意図している。例えば、成分A、B及びCを「含む(comprising)」品目は、成分A、B及びCからなる(すなわち、成分A、B及びCのみを含む)こともできるし、又は成分A、B及びCのみならず、1つ又は複数の他の成分を含むこともできる。そのため、「含む(comprise)」及びその類似の形態、並びにその文法的に同等な用語には、「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」の実施形態の開示を含むことが意図及び理解される。
【0012】
値の範囲が提供されている場合、文脈上明確に別段の指示がない限り、その範囲の上限及び下限の間の下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその記載の範囲内の他の記載値又は介在値のそれぞれは、記載の範囲内で具体的に除外される限界に従って、本開示内に包含されると理解される。記載された範囲が限界値の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方又は両方を除いた範囲もまた開示に含まれる。
【0013】
本明細書において、ある値又はパラメータに関する「約」の言及は、その値又はパラメータそれ自体を対象とする変化形を含む(及び記載する)。例えば、「約X」に言及する記載は、「X」の記載を含む。
【0014】
添付の特許請求の範囲を含み、本明細書で使用されるとおり、単数形の「a」、「又は(or)」及び「the」は、文脈によって明らかに別段の指示がない限り、複数の参照語を含む。
【0015】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学の当業者)により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。分子、遺伝及び生化学的手法(一般に、Sambrook et al,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第4編.(2012)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.及びAusubel et al,Short Protocols in Molecular Biology(2002)第5編,John Wiley&Sons,Inc.)及び化学的手法には、標準的な技術を使用する。
【0016】
本明細書の文脈では、用語「オリゴアルキルエーテル」は、オリゴエチレングリコール及びオリゴプロピレングリコール及びオリゴグリセロールなどの近縁の化学物質に関する。用語「オリゴ」は、1個以上、特に2~20個のモノマー、より特に2~12個のモノマー、オリゴエチレングリコールの場合は-CH-CH-O-、オリゴプロピレングリコールの場合は(-CH(CH)-CH-O-)が存在することを意味する。
【0017】
本明細書の文脈において、用語「イノシトールポリリン酸」は、OHが先行する定義に従ってオリゴアルキルエーテル部分によって置換されていない限り、各OHがリン酸エステル部分によって置換されているシクロヘキサン-ヘキソール(イノシトール,シクロヘキサン-1,2,3,4,5,6-ヘキソール)に関する。特定の実施形態において、イノシトール骨格は、ミオ-イノシトール((1R,2S,3R,4R,5S,6S)-シクロヘキサン-1,2,3,4,5,6-ヘキソール)である。
【0018】
本明細書の文脈における用語「イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物」は、上記で定義した1個又は複数個のイノシトールポリリン酸部分と、少なくとも1個のオリゴアルキルエーテルとを含む化合物に関する。
【0019】
本明細書における用語「石灰化」(calcification)は、患部組織、特に腎臓組織におけるカルシウム沈殿物の形成に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一態様は、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成に関連する疾患の治療又は予防に使用するための、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物、又はその薬学的に許容可能な塩に関する。広義には、上記疾患は、カルシウム塩沈殿物、特にリン酸カルシウム及び/又はシュウ酸カルシウムからなる沈殿物の形成に関連した慢性腎臓病である。
【0021】
本発明者らは、理論にとらわれることなく、本明細書に記載した結果から、ここに挙げた疾患の病態生理メカニズムには、第一段階として、リン酸カルシウム物質の沈着が関与し、その後にリン酸カルシウム物質は成長し、細胞に付着する(及び、細胞に付着するとさらに成長するであろう)、という結論を導き出した。リン酸カルシウム沈殿物と腎尿細管細胞との相互作用は、該沈殿物の大小にかかわらず、細胞に障害を与える。
【0022】
本明細書で提供される化合物及び組成物は、明らかに新しい沈殿物の形成/成長を阻止するが、既存の沈殿物の細胞への付着も阻止し、その両方が保護効果を付与する。したがって、二重の作用機序がある。
【0023】
カルシウム沈殿物(Calcium Precipitates)
腎疾患及び心血管疾患に関連するカルシウム結晶沈殿物の化学組成はよく研究されている(Elliot, J Urology 100(1968),687-693;Xie et al.,Cryst Growth Des.2015 Jan 7;15(1):204-211)。原則として、本発明に係る治療は、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム及びリン酸カルシウム-シュウ酸カルシウム混合結晶の沈着が役割を果たすあらゆる状態を予防又は緩和することが可能である。
【0024】
リン酸カルシウムは、人体の病理学的沈着物中にさまざまな結晶形で存在し、ハイドロキシアパタイト(HA、Ca10(PO(OH))、ブルシャイト(brushite)(CaHPO*2HO)、モネタイト、及び各種非晶質のリン酸カルシウム塩などがある。
【0025】
純粋な形のシュウ酸カルシウムは、一水和物(whewellite)、二水和物(weddellite)及び三水和物として発見され、しばしば他の沈着物、主にリン酸塩を伴う。
【0026】
実施例に示した結果は、カルシウム塩結晶形成の細胞性後遺症のいずれもが、巨視的に検出可能な石灰化の段階に先立つ沈着物に関連する場合であっても、本明細書に記載した本発明に係る治療によって防止できることを示している。
【0027】
本発明に係る治療が有益なカルシウム沈殿に関連する疾患
カルシウム塩結晶の形成、及び/又はこれらへの組織曝露に関連する「尿細管間質性線維症」又は「腎臓線維症」とは、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム又はCaP/CaOx混合沈殿物への曝露による慢性的な傷害後の治癒不全により、腎臓組織が肥厚し傷つくことをいう。この過程の間、線維化マトリックスの沈着が抑制されなくなり、糸球体硬化症、尿細管萎縮症及び間質性線維症が引き起こされる。前記疾患に罹患した患者は、激しい腹痛(出血又は吐血を伴う)、片足又は両足の腫れ及び変色を経験する可能性があり、最終的には慢性腎臓病へと進行し得る。
【0028】
「腎臓炎症」又は「腎炎」は、腎実質細胞と、マクロファージ、樹状細胞などの常在免疫細胞との間の相互作用の複雑なネットワークと定義され、循環する単球、リンパ球及び好中球の動員と結びつけられる。これらの細胞は、刺激を受けると、Toll様受容体、Nod様受容体(NLR)などの特定の構築物を活性化する。これらの受容体は、危険関連分子を検出することにより、核因子κB(NF-κB)、NLRP3インフラマソームなどの主要な自然免疫経路を動かし、免疫細胞及び実質細胞の代謝リプログラミング及び表現型変化を引き起こし、不可逆的組織損傷及び機能喪失を引き起こし得る多くの炎症媒介物質の分泌の引き金を引くことが可能である。CKDでは、慢性的な炎症により糸球体ろ過量(GFR)が徐々に低下し、最終的には腎不全(末期腎不全、ESRD)に至り得る。
【0029】
腎臓の炎症/腎炎が、腎臓組織とカルシウム沈着物との相互作用に関連又は起因している範囲において、本発明に係る治療は、その状態を緩和又は予防することが期待される。本明細書に示した実施例は、リン酸カルシウムの沈着/暴露が腎臓の炎症及び線維化マーカーの上方制御をもたらすことを実証しており、したがって、腎臓の炎症及び線維化からなるあらゆる疾患は、沈着の形成を阻害する治療から利益を得るはずである。また、これらの炎症性疾患は、いずれも多因子性のプロセスであることが多いため、炎症及び線維化の原因が他に、さらには同時に存在する可能性がある。しかし、1つの要因を取り除くことで、全体的な臨床像が改善されることが期待される。
【0030】
「糸球体腎炎」とは、糸球体毛細血管の炎症性変化を特徴とする疾患群をいう。前記疾患群に罹患する患者は、ある場合には体液貯留、高血圧及び浮腫と組み合わさった腎機能低下、蛋白尿を経験し得る。糸球体腎炎は、主に腎臓の病気として起こり得るだけでなく、体系的な疾患プロセスを示すこともあり得る。カルシウム塩結晶の形成、及び/又は組織曝露を伴う場合、糸球体腎炎は、本明細書に記載の化合物を用いた治療から利益を得ることが期待される。
【0031】
「間質性腎炎」とは、カルシウムの偏りが原因で起こり得る腎間質の炎症をいう。症状としては、尿量の増加、血尿、精神状態の変化、浮腫などが挙げられる。この状態は、カルシウム塩結晶の形成、及び/又は組織曝露に関連する場合、本明細書に記載の化合物を用いた治療から利益を得ることが期待される。
【0032】
「リン酸塩誘導性(Phosphate-induced)腎線維症」は、腎尿細管での沈殿をもたらすある範囲のカルシウム及びリン酸濃度と関連している可能性がある。図2に示したデータを参照されたい:すなわち、カルシウム>2又は5mmol/L、及びリン酸>5又は7mmol/L。注目すべきは、検出できる血漿中のリン酸値が正常であっても(すなわち、高リン酸血症ではない)、腎尿細管液中のリン酸値が上昇する(カルシウムとの沈殿をもたらす)場合がある。血漿リン酸値の上昇は、腎機能が20%の閾値を下回るときに起こる末期腎不全の末期症状である。
【0033】
「リン酸誘導性慢性腎臓病」、リン酸誘導性CKDは、血漿中のリン酸値が正常であっても(つまり、早期CKD患者において)起こり得る。基準値は、腎尿細管で、カルシウム>2又は5mmol/L、かつリン酸>5又は7mmol/Lとすることができる。
【0034】
「高リン酸血症を伴う慢性腎臓病」とは、進行性のCKDにおいて、GFRの低下が進むことにより起こる高リン酸血症をいう。これにより、尿細管でのリン酸再吸収が阻害されるため、リン酸の滞留が増加し、つまり、リン酸クリアランスが減少し、リン酸の恒常性が損なわれる(Sharon M.Moe,Prim Care.2008 June;35(2):215-vi.)。本発明に係る治療から利益を得ることが期待される患者を特徴付けるための有用な基準値は、>1.46mmol/Lsの血漿リン酸値であり得る。
【0035】
「慢性腎臓病の進行」とは、第1段階(軽度の障害、eGFR90以上)から第5段階(完全腎不全、eGFR15未満)までの範囲の5段階をいう。現在のガイドラインでは、CKDの重篤GFRは3ヶ月間で1.73mあたり60mL/min未満とされている。
【0036】
「リン酸毒」とは、腎臓のリン酸排泄及び再吸収が調節できなくなり、リン酸の恒常性が損なわれ、腎臓組織に深刻な損傷を与えることをいう(Razzaque,Clin Sci(Lond).2011 Feb;120(3):91-97)。この状態が、本発明に係る治療によって回避できる、結晶の形成、及び/又は組織暴露及び/又は沈着に関連する組織損傷を引き起こす程度まで、該治療は、この状態に罹患している患者に適応される。
【0037】
「高リン酸血症」又は「リン酸尿症」とは、尿中のリン酸値が高いことをいう。この状態が、本発明に係る治療によって回避できる、結晶の形成、及び/又は組織暴露及び/又は沈着に関連する組織損傷を引き起こす程度まで、該治療は、この状態に罹患している患者に適応される。
【0038】
「高リン酸血症」とは、血液中のリン酸値が高くなること(>4.5mg/dL;>1.46mmol/L)をいう。この状態が、本発明に係る治療によって回避できる、結晶の形成、及び/又は組織暴露及び/又は沈着に関連する組織損傷を引き起こす程度まで、該治療は、この状態に罹患している患者に適応される。
【0039】
「高FGF23血症」とは、線維芽細胞増殖因子(FGF)-23値の上昇により、血清リン酸値の低下と組み合わせられる、分画リン酸排泄量が増加することをいう。
【0040】
「血管石灰化」とは、CDK又は糖尿病の患者に多く見られる、血管系にミネラルが沈着する病的な状態をいう。カルシウム値及び/又はリン酸値の上昇は、糖尿病、脂質異常症、酸化ストレス、尿毒症、高リン酸血症などに起因する代謝異常の結果である可能性があり、これらは骨芽細胞様細胞の形成、石灰化沈着物の出現、血管壁の硬化につながる。
【0041】
「冠動脈疾患」又は「動脈硬化性心疾患」とは、冠動脈の損傷した内層にプラークが蓄積された状態をいう。炎症細胞、リポタンパク質、カルシウムなどの因子がプラークに付着し、該プラークがさらなる狭窄を引き起こす。この病気が進行すると、最終的には心筋梗塞又は脳梗塞につながり得る。
【0042】
「血管硬化」とは、石灰化によって動脈壁が硬くなることをいう。血管硬化は、血管の弾力性が低下し、脈波圧の上昇をもたらす。
【0043】
「弁石灰化」、特に大動脈弁石灰化とは、弁、特に大動脈弁及び僧帽弁の石灰化と同時に、弁組織の血管新生、脂質蓄積、線維化、ECM分解などの正常な恒常性プロセス及び血行動態の変化の活発な調節不全をいう。
【0044】
「ネフロカルシノーシス」とは、腎実質、特に腎臓の髄質(髄質ネフロカルシノーシス)又は皮質(皮質ネフロカルシノーシス)にカルシウム塩が沈着することをいう。
【0045】
「皮膚石灰沈着症」とは、皮膚内、特に四肢内にリン酸カルシウム沈殿物が沈着することをいう。カルシウム及びリン酸塩の溶解点を超えると、カルシウム塩の沈殿及び非晶質ハイドロキシアパタイトとしての沈着が起こる。
【0046】
「腎臓結石」、「腎結石」、「腎石症」、及び「尿石症」とは、腎臓組織にミネラルが沈着することをいい、これは尿が蓄積され、そのために尿が過飽和状態となること(高カルシウム尿症)による。
【0047】
「軟骨石灰化症」とは、関節にリン酸カルシウムが蓄積されることをいう。
【0048】
また、本明細書の実施例に基づき、本明細書に記載の化合物の投与により治療効果が期待される特有の状態としては、さらに大動脈弁狭窄症、末梢動脈疾患及び脳石灰化が挙げられる。
【0049】
実施例1に示すデータは、特発性カルシウム腎石症/特発性カルシウム腎石、特にリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、又はそれらの混合物を主成分とするものの予防及び治療において、リン酸カルシウム結晶形成を低減又は阻害するのに有効なものとして、本明細書に開示する化合物の有用性を確認する。
【0050】
1個のイノシトール骨格を有する化合物
特定の実施形態において、上記で挙げられた疾患の治療又は予防に使用するためのイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、一般式Iによって記載され、該式において1個又は2個又は3個のXはオリゴエチレングリコールであり、残りのXはOPO 2-である。
【化1】
【0051】
本明細書で提供される実施例に示されるように、鎖長の異なるモノ-オリゴエチレングリコール誘導体及びビス-オリゴエチレングリコール誘導体の両方が、細胞アッセイにおいてカルシウム沈殿物の形成を阻害することが可能である。イノシトール骨格は、任意の立体化学を有することができる。本発明者らは、好ましくはミオ-イノシトールを用いて作業した。
【0052】
生理的pHで水性媒体に溶解した場合、本明細書に記載の化合物はアニオン性であり、カチオンによって会合される(accompanied)ことは当業者には明らかである。スクリーニング(screens)に使用されている緩衝液は、ナトリウム(408mmol/L)を主成分とし、カリウム(0.26mmol/L)及びマグネシウム(4mmol/L)を微量に含む。
【0053】
ある特定の実施形態では、上記式Iで示されるイノシトール置換基Xのうち2個はオリゴエチレングリコールであり、残りの4個のXはOPO 2-ある。
【0054】
本発明に係る治療に有利に使用できる化合物の例としては、一般式I-1、I-2、I-3及びI-4が挙げられ、それぞれの場合において、Xはリン酸塩であり、Rは本明細書に規定するオリゴエチレングリコールである:
【化2】
【0055】
それらの1つのより特定の実施形態では、骨格はミオ-イノシトールであり、オリゴエチレングリコール置換基は4位及び6位にあり、残りの置換基はリン酸塩である。さらに特定の実施形態では、オリゴエチレングリコール置換基は、O-(CH-CHO)-CHである。
【0056】
他の特定の実施形態では、上記式Iで示されるイノシトール置換基Xのうち1個はオリゴエチレングリコールであり、残りの5個のXはOPO 2-である。それらの1つのより特定の実施形態では、骨格はミオ-イノシトールであり、オリゴエチレングリコール置換基は4位又は6位にあり、特に6位にあり、残りの置換基はリン酸塩である。さらに特定の実施形態では、オリゴエチレングリコール置換基は、O-(CH-CHO)-CHである。
【0057】
他の特定の実施形態では、上記式Iで示されるイノシトール置換基Xのうち3個はオリゴエチレングリコールであり、残りの3個のXはOPO 2-である。それらの例としては、一般式I-5及びI-6が挙げられ、それぞれの場合において、Xはリン酸塩であり、Rは本明細書に規定するオリゴエチレングリコールである:
【化3】
【0058】
特定の実施形態では、本発明に係る使用のために提供される、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物、又はその薬学的に許容可能な塩の1個のオリゴエチレングリコール置換基(又は複数個の置換基)は、式O-(CH-CH-O)CHで表され、nは2~20の整数、特にnは2~12の整数から選ばれる。化合物の生理活性の様々なパラメータ、薬理学的パラメータ、及び製造の側面は、nのどの値が最適であるかに影響するだろう。
【0059】
特定の実施形態では、本発明に係る使用のために提供される、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩の1個のオリゴエチレングリコール置換基(又は複数個の置換基)は、式O-(CH-CH-O)CHで表され、該式においてnは2である。実施例の表1は、OEG-IP5及び(OEG-IP4の特に有利な点を示しており、いずれもnが2であることが特徴である。
【0060】
本明細書で特定される使用のための化合物のある特定の実施形態は、以下式のいずれか1個によって記載される:
【化4】
【0061】
本明細書で特定される使用のための化合物のある特定の実施形態は、以下式のいずれか1個によって記載される:
【化5】
【0062】
本発明の側面に係る使用のための化合物の他の実施形態は、以下を含む:
【化6】
【0063】
1個より多いイノシトール骨格を有する化合物
特定の実施形態において、上記で挙げられた疾患の治療又は予防に使用するための、イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容される塩は、一般式IIによって記載され、該式において各XはOPO 2-であり、かつLは-(O-CH-CH-O-であり、mは5~15の値、特に6~12の値である。
【化7】
【0064】
一つの特定の実施形態において、mは7である。一つの特定の実施形態において、mは9である。一つの特定の実施形態において、mは10である。
【0065】
一つの特有の特定の実施形態において、mは8である。
【0066】
本明細書で特定される使用のための化合物のある特定の実施形態は、式II-a(本明細書ではOEG-(IP5)ともよばれる)及びII-b(本明細書ではOEG-(IP5)ともよばれる)のいずれか1種によって記載される:
【化8】
【0067】
ある特定の実施形態において、本発明に係る使用のための一般式IIの二核性イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩は、両方のイノシトール部分がミオ-イノシトールであることを特徴とする。
【0068】
イノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩のいずれかは、体内、特に腎組織におけるリン酸カルシウム塩又は他の固体沈殿物の形成を伴う疾患を治療又は予防する使用のために提供される。
【0069】
ミオ-イノシトールテトラキスリン酸骨格(Ia)に結合した2個のオリゴエチレングリコール部分を有する化合物の投与は、実施例1で提供されたデータによって証明され、及びリン酸カルシウムに基づくランダルプラーク(Randall’s plaque)上でのシュウ酸カルシウム腎臓結石の成長によって例示されるように、リン酸カルシウム固体物質の沈殿と関連する本明細書に記載の疾患の治療又は予防において特に有利であり、及び混合リン酸-シュウ酸カルシウム沈殿物又は主にシュウ酸を含むがリン酸カルシウム核に由来する沈殿物の予防又は治療において特に有利である。
【0070】
本明細書の実施例に示すように、(OEG2)-IP4などのビペギル化(bipegylated)化合物もまた、混合沈殿物(CaP+CaOx)の文脈でも保護効果を有する。
【0071】
オリゴエチレングリコール架橋によって連結された2個のミオ-イノシトールペンタキスリン酸骨格(II)を有する化合物、特に8個の-(O-CH-CH)リピートを有するものの投与は、シュウ酸カルシウム固体物質の沈殿と関連している、本明細書に記載の疾患の治療又は予防において特に有利である。
【0072】
当業者は、本明細書に記載された具体的に言及された任意の薬剤化合物が、当該薬剤の薬学的に許容可能な塩として存在し得ることを認識している。薬学的に許容可能な塩は、イオン化された薬物及び逆帯電した対イオンを含む。薬学的に許容可能なカチオン塩形態の非限定的な例としては、アルミニウム、ベンザチン、カルシウム、エチレンジアミン、リジン、マグネシウム、メグルミン、カリウム、プロカイン、ナトリウム、トロメタミン及び亜鉛が挙げられる。
【0073】
本発明に係る製造方法及び治療方法
本発明はさらに、さらなる側面として、カルシウム塩の沈殿物又はカルシウム塩の結晶の形成に関連する疾患、特に腎線維症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症、腎炎症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症、腎炎、特に間質性腎炎、糸球体腎炎、リン酸誘導性腎線維症、リン酸誘導性慢性腎臓病、高リン酸血症を伴う慢性腎臓病、慢性腎臓病の進行、リン酸毒、高リン酸尿、高リン酸血症、及び/又は高FGF23血症から選択される疾患の治療又は予防のための医薬の製造方法における使用のための、上記で詳細に特定されたイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩の使用を包含する。
【0074】
本発明の化合物は、カルシウム塩沈殿物又はカルシウム塩結晶の形成を伴う疾患の治療又は予防のための医薬の製造方法に使用するために、同様に提供される。該疾患は血管石灰化、冠状動脈疾患、血管硬化、弁膜石灰化、ネフロカルシン症、皮膚石灰沈着症、腎石及びコンドロカルシン症から選ばれる。
【0075】
同様に、本発明は、カルシウム塩の沈殿物又はカルシウム塩の結晶の形成に関連する疾患、特に腎線維症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎線維症、腎炎症、特に腎組織の石灰化に関連する場合の腎炎症、腎炎、特に間質性腎炎、糸球体腎炎、リン酸誘導性腎線維症、リン酸誘導性慢性腎臓病、高リン酸血症を伴う慢性腎臓病、慢性腎臓病の進行、リン酸毒、高リン酸尿、高リン酸血症、及び/又は高FGF23血症から選択される疾患を有すると診断されている患者の治療方法を包含する。該方法は、本明細書で詳細に特定されるように、有効量のイノシトールポリリン酸オリゴアルキルエーテル化合物又はその薬学的に許容可能な塩を患者に投与することを含む。
【0076】
医薬組成物及び投与
本発明の別の側面は、本発明の化合物又はその薬学的に許容可能な塩及び薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物に関する。さらなる実施形態では、該組成物は、本明細書に記載されるものなどの少なくとも2種の薬学的に許容可能な担体を含む。
【0077】
本発明の特定の実施形態において、本発明の化合物は、典型的には、薬物の容易に制御可能な投与量を提供し、患者に上品かつ扱い易い製品を提供するための医薬用剤形に製剤化される。
【0078】
特定の実施形態において、本発明に係る使用のための医薬組成物は、皮内又は皮下注射による投与のために製剤化される。
【0079】
本発明の化合物の投与計画は、特定の薬剤の薬力学的特性及びその投与の様式及び経路;レシピエントの種、年齢、性別、健康状態、病状及び体重;症状の性質及び程度;同時治療の種類;治療の頻度;投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに所望の効果などの既知の要因に応じて変化するであろう。特定の実施形態において、本発明の化合物は、1日1回の投与で投与することができ、又は1日の総投与量を1日2回、3回又は4回の分割投与で投与することができる。
【0080】
本発明に係る使用のための医薬組成物は、滅菌などの従来の医薬操作に供することができ、及び/又は従来の不活性希釈剤又は緩衝剤、並びに保存剤、安定化剤、界面活性剤及び緩衝剤などのアジュバントを含むことができる。これらは、標準的な工程、例えば、従前の混合、溶解又は凍結乾燥工程によって製造することができる。医薬組成物を製造するための多くのそのような手順及び方法は、当技術分野で知られており、例えば、L.Lachmanら、The Theory and Practice of Industrial Pharmacy,第4編,2013(ISBN 8123922892)を参照されたい。
【0081】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1A1図1は、成長した石灰化プロファイリングプラットフォームの概要を示す。(A)ワークフローの概要。
図1A2図1は、成長した石灰化プロファイリングプラットフォームの概要を示す。(A)ワークフローの概要。
図1B図1は、成長した石灰化プロファイリングプラットフォームの概要を示す。(B)分析パイプラインのアウトプットの概要。5/7mM Ca/Pで処理したRPTEC細胞の明視野(brightfield)(列1)、CellMask(列2)、Hoechst(列4)及びカルセイン(calcein)(列6)の染色の画像例及び2箇所の拡大した関心領域(ROI)を示す。CellMask及びHoechstチャンネル画像は、単一細胞のセグメンテーションに使用された。Hoechstの局所最大値(紺色で表示、列4)及びCellMaskの2値画像は、それぞれ流域アルゴリズムのシード及び入力画像として使用された。青で表示された最終的な細胞セグメンテーションと赤で表示されたCellMaskの2値画像との比較を列3に示す。最終的なセグメンテーション及びHoechstのシードを列5に示す。適応的閾値処理により、カルセインチャネルの2値画像を生成した。個々の標識されたCaP領域を7列目に示す。
図2A図2は、RPTECのin vitroにおけるCa/Pの濃度増加の影響を示す。(A)Ca/P処理条件及び抽出された画像特徴のヒートマップ及び階層的クラスタリング。
図2B図2は、RPTECのin vitroにおけるCa/Pの濃度増加の影響を示す。(B)Ca/P濃度上昇に伴う細胞変化を示す、選択された単一の特徴が描かれる。総細胞数(cell count)、死細胞数(dead cell count)、単一細胞面積(single cell area)及び細胞のコンパクトさの指標である単一細胞の固体性(solidity)を示す。
図2C図2は、RPTECのin vitroにおけるCa/Pの濃度増加の影響を示す。(C)Ca/P濃度の増加に伴うCaP沈着及び膜パターンの変化を示す、選択された単一の特徴が描かれる。二値カルセイン染色の総面積、単層から抽出したカルシウム含有量の比色定量、カルセイン蛍光の最大強度、構造類似性指標メトリック(SSIM)及びCellMaskチャンネル画像の相関を示す。
図2D図2は、RPTECのin vitroにおけるCa/Pの濃度増加の影響を示す。(D)2/5mM Ca/Pで処理したRPTECの明視野(brightfield)、カルセイン(calcein)、CellMask及びEthDのチャンネル画像及び2つの拡大した関心領域(ROI)の例を表す。個々の実験ごとの平均スケール値を色付きの円でプロットした。ただし、総カルシウム定量については、個々の実験ごとの絶対値を使用した(N=3)。3回の個別実験の平均値及びSDをそれぞれ灰色の横線及び縦線でプロットし、1/1mM Ca/Pに対する各濃度間のDunnetの多重比較による一元配置分散分析を行った(* p<0.01)。
図3図3は、溶液中で試験されたIP6アナログの概要を示す。
図4A図4は、(OEG-IP4がin vitroでRPTECのCa/Pが誘導した変化を抑制する特性を示す。(A)抽出された画像特徴のヒートマップ及び階層的クラスタリング。
図4B図4は、(OEG-IP4がin vitroでRPTECのCa/Pが誘導した変化を抑制する特性を示す。(B)(OEG-IP4濃度上昇に伴う細胞変化を示す、選択された単一の特徴が描かれる。総細胞数(cell count)、死細胞数(dead cell count)、単一細胞面積(single cell area)及び細胞のコンパクトさの指標である単一細胞の固体性(solidity)を示す。
図4C図4は、(OEG-IP4がin vitroでRPTECのCa/Pが誘導した変化を抑制する特性を示す。(C)(OEG-IP4濃度の増加に伴うCaP沈着及び膜パターンの変化を示す、選択された単一の特徴が描かれる。二値カルセイン染色の総面積、単層から抽出したカルシウム含有量の比色定量、カルセイン蛍光の最大強度、構造類似性指標メトリック(SSIM)及びCellMaskチャンネル画像の相関を示す。
図4D図4は、(OEG-IP4がin vitroでRPTECのCa/Pが誘導した変化を抑制する特性を示す。(D)13μM(OEG-IP4で処理したRPTECの明視野(brightfield)、カルセイン(calcein)、CellMask及びEthDのチャンネル画像及び2つの拡大した関心領域(ROI)の例を表す。個々の実験ごとの平均スケール値がプロットされる(N=3)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pスパイキングのない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。3回の個別実験の平均値及びSDをそれぞれ灰色の横線及び縦線でプロットし、陽性対照に対する各濃度間のDunnetの多重比較による一元配置分散分析を行った(* p<0.01)。
図5A図5は、腎上皮細胞のCa/P誘導性トランスクリプトーム変化には、炎症経路、ECMタンパク質、細胞増殖及び組織恒常性プロセスが含まれ、in vitroで(OEG-IP4によって妨げられることを示す。A)RNAシーケンシングにより決定された相対的な遺伝子発現量のヒートマップ及び階層的クラスタリング。p≦0.01及びlog2fold change≧0.5での培地コントロールとCa/Pとの間で上位2000個の異なる発現遺伝子と、他の処理群におけるそれぞれの発現量がプロットされる(赤-相対的な上方制御、青-相対的な下方制御)。
図5BC図5は、腎上皮細胞のCa/P誘導性トランスクリプトーム変化には、炎症経路、ECMタンパク質、細胞増殖及び組織恒常性プロセスが含まれ、in vitroで(OEG-IP4によって妨げられることを示す。B)Ca/P群対培地群における上方制御された遺伝子転写物の過剰発現(Overrepresentation)解析。C)Ca/P群対培地群における下方制御された遺伝子転写物の過剰発現解析。Ca/P群対培地コントロール群で差次的に発現した遺伝子について、遺伝子オントロジー用語の重み付けセットカバー率及びそれぞれのエンリッチメントスコアがプロットされる(いずれもFDR≦0.05)。
図5D図5は、腎上皮細胞のCa/P誘導性トランスクリプトーム変化には、炎症経路、ECMタンパク質、細胞増殖及び組織恒常性プロセスが含まれ、in vitroで(OEG-IP4によって妨げられることを示す。D)異なる処理群の炎症反応、ECM組成、細胞増殖及び組織恒常性に関わる遺伝子転写物の正規化数(FPKM-fragments per kilobase of exon model per million reads mapped)がプロットされる(平均+SD、N=3)。
図6AB図6は、(OEG-IP4がin vivoで高リン酸塩が誘導した腎臓の障害を軽減することを示す。C57BL/6雄に、0.35%無機リン酸含有普通食(NP)又は2.0%無機リン酸含有高リン酸食(HP)を与えた。これらのマウスに(OEG-IP4(100mg/kg)又は担体(蒸留水)を週3回皮下注射し、次いで20週齢で屠殺して血液及び腎臓を採取した。腎臓組織ホモジネート中の(A)Spp1、(B)IL36a、(C)Ngal、(D)MMP3及び(E)Col1a1の相対的mRNA量を示す(平均±SD、N=7、ただしHP担体群はN=6、それぞれの食餌群内の(OEG-IP4対担体対照の間のSidakの多重比較による2元配置分散分析、ns-有意ではないこと、* p<0.05)。(F)腎臓のピクロシリウスレッド染色後のコラーゲン体積率(平均±SD、N=6、(OEG-IP4対担体間のt検定、** p<0.01)。
図6CD図6は、(OEG-IP4がin vivoで高リン酸塩が誘導した腎臓の障害を軽減することを示す。C57BL/6雄に、0.35%無機リン酸含有普通食(NP)又は2.0%無機リン酸含有高リン酸食(HP)を与えた。これらのマウスに(OEG-IP4(100mg/kg)又は担体(蒸留水)を週3回皮下注射し、次いで20週齢で屠殺して血液及び腎臓を採取した。腎臓組織ホモジネート中の(A)Spp1、(B)IL36a、(C)Ngal、(D)MMP3及び(E)Col1a1の相対的mRNA量を示す(平均±SD、N=7、ただしHP担体群はN=6、それぞれの食餌群内の(OEG-IP4対担体対照の間のSidakの多重比較による2元配置分散分析、ns-有意ではないこと、* p<0.05)。(F)腎臓のピクロシリウスレッド染色後のコラーゲン体積率(平均±SD、N=6、(OEG-IP4対担体間のt検定、** p<0.01)。
図6EF図6は、(OEG-IP4がin vivoで高リン酸塩が誘導した腎臓の障害を軽減することを示す。C57BL/6雄に、0.35%無機リン酸含有普通食(NP)又は2.0%無機リン酸含有高リン酸食(HP)を与えた。これらのマウスに(OEG-IP4(100mg/kg)又は担体(蒸留水)を週3回皮下注射し、次いで20週齢で屠殺して血液及び腎臓を採取した。腎臓組織ホモジネート中の(A)Spp1、(B)IL36a、(C)Ngal、(D)MMP3及び(E)Col1a1の相対的mRNA量を示す(平均±SD、N=7、ただしHP担体群はN=6、それぞれの食餌群内の(OEG-IP4対担体対照の間のSidakの多重比較による2元配置分散分析、ns-有意ではないこと、* p<0.05)。(F)腎臓のピクロシリウスレッド染色後のコラーゲン体積率(平均±SD、N=6、(OEG-IP4対担体間のt検定、** p<0.01)。
図7AB図7は、OEG-IP5、OEG11-IP5、(OEG-IP4、(OEG11-IP4及びOEG-(IP5)によるCaP沈殿の阻害を示す。9mMリン酸二ナトリウム及び8mM塩化カルシウムをスパイクしたRTF中のCaP沈殿における(A)OEG-IP5、(B)OEG11-IP5、(C)(OEG-IP4、(D)(OEG11-IP4及び(E)OEG-(IP5)の効果を、t=4hで光学顕微鏡による評価後に自動画像分析により評価した。CaP沈殿物で覆われた総面積/総視野面積の定量(N=3、平均+SD、対照に対して正規化)。
図7CD図7は、OEG-IP5、OEG11-IP5、(OEG-IP4、(OEG11-IP4及びOEG-(IP5)によるCaP沈殿の阻害を示す。9mMリン酸二ナトリウム及び8mM塩化カルシウムをスパイクしたRTF中のCaP沈殿における(A)OEG-IP5、(B)OEG11-IP5、(C)(OEG-IP4、(D)(OEG11-IP4及び(E)OEG-(IP5)の効果を、t=4hで光学顕微鏡による評価後に自動画像分析により評価した。CaP沈殿物で覆われた総面積/総視野面積の定量(N=3、平均+SD、対照に対して正規化)。
図7E図7は、OEG-IP5、OEG11-IP5、(OEG-IP4、(OEG11-IP4及びOEG-(IP5)によるCaP沈殿の阻害を示す。9mMリン酸二ナトリウム及び8mM塩化カルシウムをスパイクしたRTF中のCaP沈殿における(A)OEG-IP5、(B)OEG11-IP5、(C)(OEG-IP4、(D)(OEG11-IP4及び(E)OEG-(IP5)の効果を、t=4hで光学顕微鏡による評価後に自動画像分析により評価した。CaP沈殿物で覆われた総面積/総視野面積の定量(N=3、平均+SD、対照に対して正規化)。
図8AB図8は、OEG-IP5、OEG11-IP5、(OEG-IP4、(OEG11-IP4及びOEG-(IP5)によるCaP凝集の阻害を示す。9mMリン酸二ナトリウム及び8mM塩化カルシウムをスパイクしたRTF中のCaP沈殿における(A)OEG-IP5、(B)OEG11-IP5、(C)(OEG-IP4、(D)(OEG11-IP4及び(E)OEG-(IP5)の効果を、t=4hで光学顕微鏡による評価後に自動画像分析により評価した。凝集物の平均サイズ/対照に対して正規化された視野の定量(N=3、平均+SD、コントロールに対して正規化)。
図8CDE図8は、OEG-IP5、OEG11-IP5、(OEG-IP4、(OEG11-IP4及びOEG-(IP5)によるCaP凝集の阻害を示す。9mMリン酸二ナトリウム及び8mM塩化カルシウムをスパイクしたRTF中のCaP沈殿における(A)OEG-IP5、(B)OEG11-IP5、(C)(OEG-IP4、(D)(OEG11-IP4及び(E)OEG-(IP5)の効果を、t=4hで光学顕微鏡による評価後に自動画像分析により評価した。凝集物の平均サイズ/対照に対して正規化された視野の定量(N=3、平均+SD、コントロールに対して正規化)。
図9図9は、IP6アナログによるin vitroでのCaP付着の低減及び細胞傷害の防止を示す。コンフルエントになったRPTEC/TERT1単層を、7mMリン酸二ナトリウム、5mM塩化カルシウム及び化合物をスパイクした培地で処理し、24時間インキュベートした。カルセイン染色及びEthD染色により、CaP沈着量及び細胞損傷の程度をそれぞれ検出した。蛍光画像はMatlabを用いて定量化した。(A)OEG-IP5、(B)OEG11-IP5、(C)(OEG-IP4及び(D)OEG-(IP5)で処理したRPTEC単層上のCaP沈着で覆われた面積の定量。(N=3、平均+SD、Dunnettの多重比較による一元配置分散分析、* p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001)。
図10A図10は、5/7mM Ca/P及び濃度を増加した(OEG-IP4で処理したRPTECの画像例を示す。明視野、カルセイン、CellMaskTM及びEthDチャンネル画像並びに2箇所の拡大した関心領域(ROI)が示される(列1~4)。細胞セグメンテーションをHoechstチャンネル画像(青色)と重ねて表示する(列4)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pをスパイキングしていない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。
図10B図10は、5/7mM Ca/P及び濃度を増加した(OEG-IP4で処理したRPTECの画像例を示す。明視野、カルセイン、CellMaskTM及びEthDチャンネル画像並びに2箇所の拡大した関心領域(ROI)が示される(列1~4)。細胞セグメンテーションをHoechstチャンネル画像(青色)と重ねて表示する(列4)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pをスパイキングしていない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。
図10C図10は、5/7mM Ca/P及び濃度を増加した(OEG-IP4で処理したRPTECの画像例を示す。明視野、カルセイン、CellMaskTM及びEthDチャンネル画像並びに2箇所の拡大した関心領域(ROI)が示される(列1~4)。細胞セグメンテーションをHoechstチャンネル画像(青色)と重ねて表示する(列4)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pをスパイキングしていない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。
図10D図10は、5/7mM Ca/P及び濃度を増加した(OEG-IP4で処理したRPTECの画像例を示す。明視野、カルセイン、CellMaskTM及びEthDチャンネル画像並びに2箇所の拡大した関心領域(ROI)が示される(列1~4)。細胞セグメンテーションをHoechstチャンネル画像(青色)と重ねて表示する(列4)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pをスパイキングしていない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。
図10E図10は、5/7mM Ca/P及び濃度を増加した(OEG-IP4で処理したRPTECの画像例を示す。明視野、カルセイン、CellMaskTM及びEthDチャンネル画像並びに2箇所の拡大した関心領域(ROI)が示される(列1~4)。細胞セグメンテーションをHoechstチャンネル画像(青色)と重ねて表示する(列4)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pをスパイキングしていない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。
図10F図10は、5/7mM Ca/P及び濃度を増加した(OEG-IP4で処理したRPTECの画像例を示す。明視野、カルセイン、CellMaskTM及びEthDチャンネル画像並びに2箇所の拡大した関心領域(ROI)が示される(列1~4)。細胞セグメンテーションをHoechstチャンネル画像(青色)と重ねて表示する(列4)。陽性対照は5/7mM Ca/Pによる処理、陰性対照はCa/Pをスパイキングしていない培地(=通常の細胞培地に存在する1/1mM Ca/P)を示す。
【0083】
表1は、スクリーニングした化合物の、RTFにおけるCaP沈殿を阻害する効果の概要を示す。CaP沈殿の完全阻害(結晶で覆われた総面積<総面積コントロールの10%)を達成するために要する化合物の最小濃度(化学構造については図3);及びCaPスクリーニングアッセイにおけるCaP結晶凝集を防止するのに要する最少濃度(CaP凝集サイズ<凝集サイズ対照の50%)(N=3)を示す概要表。
【0084】
表2は、異なる処理群のマウスで測定された血清、並びに尿中のリン酸値及びカルシウム値を示す(平均±SD)。
【実施例
【0085】
材料及び方法
材料
IP6アナログはChimete Srl社(トルトナ、イタリア)によりカスタム合成された。質量分析計及びH-NMRスペクトルは、提供者が構造を確認し、化合物は提供されたものをそのまま使用した。フィチン酸ドデカソジウム塩は、Biosynth AG社(サール、スイス)から購入した。IP5及びIS6ヘキサカリウム塩は、Santa Cruz Biotechnology社(ダラス、テキサス州、米国)から購入した。IC6はFluorochem社(ハドフィールド、英国)から購入した。カルシウム比色アッセイキット(MAK022)、ビス-トリス、シュウ酸ナトリウム(NaOx)、EthD、Hoechst 33342、塩化マグネシウム六水和物、リン酸二水素ナトリウム及びカルセインはSigma-Aldrich社(セントルイス、ミズーリ州、米国)から購入した。塩化ナトリウム、無水硫酸ナトリウム及び塩化カルシウム(CaCl)二水和物は、Merck社(ケニルワース、ニュージャージー州、米国)から入手した。シュウ酸カルシウム(CaOx)一水和物は、abcr社(カルルスルーエ、ドイツ)から購入した。8ウェルガラス底スライド(80 827)は、ibidi社(マルティンスリート、ドイツ)から購入した。CellMask Deep Red Plasma Membrane Stain、標準細胞培養プレート及び試薬は、Thermo Fisher Scientific社(ロチェスター、ニューヨーク州、米国)及びTPP社(トラザーディンゲン、スイス)から購入した。RPTEC/TERT1細胞、ProxUp基礎培地及びサプリメントはEvercyte社(ウィーン、オーストリア)から入手した。RNeasy kitはQuiagen社(ヒルデン、ドイツ)から購入し、TrueSeq RNA kitはIllumina社(サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)から購入した。RNAiso PlusはTaKaRa社(草津市、日本)から入手した。ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover及びSYBR Green PCR Master mixは東洋紡社(大阪、日本)から購入した。
【0086】
溶液内スクリーニング
文献報告(Fasano,J.M.et al.,Kidney Int.59,169-178.DOI:10.1046/j.1523-1755.2001.00477.x,2001)に従って、二重蒸留水に0.05mMシュウ酸、0.005mM硫酸、408mMナトリウム、424mM塩素、0.26mMカリウム、4mMマグネシウム及び0.2mMクエン酸という最終組成で人工腎管液(RTF)を調製した。該溶液を0.45μmのシリンジフィルターでろ過した。実験中のpH安定性を確保するため、報告されたプロトコルに20mM Bis-Tris緩衝液を加え、pHを7.2に設定した。人工RTFを、室温で4ヶ月まで保存した。0.25Mリン酸塩及び1Mカルシウムのストック溶液を二重蒸留水で調製し、別々に-20℃で保管した。
【0087】
20倍(Twenty-x)最終濃度リン酸、20倍最終濃度カルシウム及び10倍最終濃度化合物の希釈液をRTFで調製した。80%RTF、10%化合物希釈液、5%リン酸希釈液及び5%カルシウム希釈液からなるアッセイ混合液をエッペンドルフチューブに以下のように調製した。RTF(320μL)を20μLリン酸希釈液(最終濃度9mM)、40μL化合物希釈液及び20μLカルシウム希釈液(最終濃度8mM)と混合した。各成分を加えた後にアッセイ混合液をボルテックス撹拌し、380μLの混合液を直ちに8ウェルガラス底スライドに加え、4ハットRT(4 hat RT)でインキュベートした。CaP沈殿を、Leica DM 6000B顕微鏡(Leica Microsystems社、ウェツラー、ドイツ)を用いて、明視野モードで評価した。定量のために、3ウェル/条件を、3~4画像/ウェルで40倍の対物レンズで撮像した。視野に占めるCaP沈着物で覆われた総面積の割合及びCaP凝集物の平均サイズを測定した。
【0088】
細胞培養
RPTEC/TERT 1ヒト近位尿細管細胞(RPTEC)を、T75組織培養フラスコ内で、ProxUpサプリメントを混合したProxUp基礎培地を用いて、メーカーの推奨に従い、37℃、5%COで培養した。細胞を30継代まで使用し、定期的にマイコプラズマ感染について試験した。実験には、RPTECを24ウェルプレート内で150,000cells/cmの播種密度で培養した。播種前の細胞生存率評価及び細胞数の計測を、自動セルカウンター(BioRad TC 20、ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)を用いて実施した。
【0089】
イメージングアッセイ
播種後t=48時間で、RPTECを、第1に様々な濃度のリン酸塩(最終濃度1~7mM)、及び第2にカルシウム(最終濃度1~7mM)をスパイクしたProxUp基礎培地で処理し、各ウェルに直接添加した。
【0090】
選択したIP6アナログの比較のために、選択した阻害剤でProxUp基礎培地を調製し、各ウェルに添加した。次いで、第一にリン酸、及び第二にカルシウムを直接添加することにより、CaPの沈殿を誘導した。最終濃度7mMリン酸及び5mMカルシウムを使用した。細胞を37℃、5%COで24時間インキュベートした。スパイクした培地を除去し、染色前に細胞をPBSで2回洗浄した。
【0091】
CaP誘導性CaOx結晶化の評価については、24時間のインキュベーション後、Ca/Pをスパイクした培地を除去し、細胞をPBSで2回洗浄した。次いで、1.2mMシュウ酸及び化合物を含む培地を各ウェルに添加した。37℃、5%COで4時間インキュベーションした後、処理物を取り除き、染色前にPBSで1回細胞を洗浄した。
【0092】
染色には、ProxUp基礎培地にカルセイン(最終濃度500nM)、EthD(最終濃度6μM)、CellMask染色剤(5μg/μL)及びHoechst33342を混合した。染色混合物をRPTECに加え、細胞を37℃、5%COの暗所で30分間インキュベートした。染色液を除去し、細胞をPBSで1回洗浄し、及びProxUp基礎培地を添加した。細胞を染色後すぐに画像化した。画像は、ライカCTR6000顕微鏡を使用して、37℃で落射蛍光顕微鏡検査により得られた。定量には、3ウェル/条件を用意し、3画像/ウェルを撮影した。予備的な接着実験では10倍の対物レンズで画像を撮影し、イメージングアッセイでは20倍の対物レンズで画像を撮影した。
【0093】
カルシウムの比色定量
Ca/P処理後の細胞単層のカルシウム含有量を比色定量するために、既報のプロトコールを使用した。簡潔にいうと、24時間のCa/Pインキュベーションの後、細胞単層を上記のように染色し、画像化した。次いで、細胞をPBSで1回洗浄した後、250μLの0.1M HClを用いて4℃で一晩インキュベートし、細胞単層を脱カルシウム化した。HCl溶液を回収し、10,000×g、4℃で4分間遠心分離し、カルシウム比色アッセイキット(MAK022)を用いてカルシウム量を測定した。
【0094】
細胞画像解析
マルチチャンネル画像を、各チャンネル画像として8ビットtiff形式で保存した。解析のために、Hoechstチャンネル画像を、三角閾値(triangle threshold)を使用して閾値を設定した。二値画像の接触核を、二値画像の距離変換を入力とし、及びその局所最大値をシード(seeds)とする流域アルゴリズムを用いてさらに分割した。
【0095】
EthDチャンネル画像では、CellMask染色の蛍光が滲み出るためか、高レベルのバックグラウンドノイズが観察された。したがって、画像ごとの全強度値の99%を閾値として用いることで、前景画素を良好に検出できることがわかった。最低閾値を60で固定した。Hoechstチャンネルと同様の流域セグメンテーションを行い、タッチングオブジェクト(touching objects)をセグメント化した。カルセインチャネル画像では、三角閾値による適応的閾値処理により、CaP沈着物を良好に検出することができ、これは明視野チャネル画像との視覚的比較により検証された。複合実験では、追加の上限閾値を、それぞれの実験の陽性対照画像の最小閾値に設定した。これにより、CaP沈着量が多い画像で閾値が過度に無反応になることを回避した。2値画像の前景画素の合計から、CaP沈着物の総面積を算出した。接触した前景領域を標識するために、スカイメージラベル(skimage label)アルゴリズムを使用した。
【0096】
単一細胞に画像をセグメント化するために、CellMaskチャンネル画像を、まず35のブロックサイズを用いて、適応的閾値処理により2値化し、次いでメディアンフィルタリングした。2値浸食(Binary erosion)を行い、アウトラインを縮小した。画像全体を単一細胞にセグメント化するために、あるバージョンの流域アルゴリズムを使用した。このため、2値浸食画像の距離変換を入力画像として用い、シードをHoechstチャンネル画像の局所最大値に設定した。このプロトコールは、単一細胞の形態を近似的に示すことができたが、より正確な結果を得るためには、分析的かつ実験的な染色手順のさらなる改善が必要であろう。
【0097】
さらに、カルセインチャンネル画像及びCellMaskチャンネル画像のテクスチャ特徴を抽出した。グレーレベル共起行列を、5ピクセルの1セットのオフセット及び90°の角度を用いて計算した。ここで、より大きなオフセットを用いることで、例えば、CaPのクラスター部位などの大規模な特徴の変化の検出を向上することができるであろう。抽出されたマトリックスのテクスチャ特性は、コントラスト、非類似度、エネルギー、ASM、均質性及び相関性であった。カルセインチャンネル画像とCellMaskチャンネル画像との間の重複を、構造類似性指標メトリック(SSIM)の計算によって測定した。
【0098】
抽出された特徴量には、単一細胞又は単一カルセインパッチの両方の特徴量と、画像全体の特徴量を含んだ。画像全体の特徴量として、Hoechst画像に基づく全細胞数、ethdチャンネル画像に基づく全死細胞数、SSIM、カルセインチャンネル画像及びCellMaskチャンネル画像の両方のテクスチャー特徴量、並びにカルセイン強度の最大値、最小値、平均値及び標準偏差、合計面積及びクラスター数を含んだ。単一細胞、単一核及び単一カルセインパッチ特徴量は、形状と、カルセイン及び細胞についてのみ、強度特性を含み、画像ごとにメディアン値にまとめられた。特性には、メディアン面積、範囲、偏心度、外周、堅実性、長軸及び短軸の長さ、並びに細胞又はCaPパッチあたりの最大、最小及び平均強度が含まれた。特徴量を、sklearn前処理パッケージのMinMaxScalerを使用して、0~1の範囲でスケーリングした。各条件につき9枚の画像(各条件につき3ウェル*3画像/ウェル)にわたる各画像特徴量の平均値を各実験につき計算し、最終解析には3個の独立した実験を使用した。解析を、Python 3でnumpy、pandas、skimage、sklearn及びseabornの各パッケージを使用して行った。
【0099】
RNAシーケンシング
細胞を、上記画像解析で説明したように培養し、培地コントロール(1/1mM Ca/Pを含むProxUp基礎培地)、5/7mM Ca/P、50μM(OEG-IP4含む培地中の5/7mM Ca/P又は培地中の50μM(OEG-IP4を用いて24時間処理した。RNeasy kit(Quiagen社)を用いて製造者の指示にしたがって総RNAを抽出した。サンプル群ごとに3ウェルを用意し、該3ウェルから抽出した総RNAをプールした。mRNAを精製し、TrueSeq RNA kit(Illumina社)を用いてRNAseqライブラリーを調製した。シークエンシング(配列決定)はNovaseq6000(Illumina社)を用いて実施した。リードはSTARツール(https://github.com/alexdobin/STAR)を用いてヒト参照ゲノムGRCh38.p10にアライメントし、Kallistoプログラム(42)を用いて転写物を定量した。遺伝子モデルの定義には、Ensembl release 91を使用した。有意差のある遺伝子(p≦0.01、log2倍変化≧0.5)のヒートマップ及び階層的クラスタリングでは、全サンプルの平均値と比較したlog倍変化を算出し、log2倍変化>4を4に設定した。ヒートマップはRソフトウェアを使用してプロットした。過剰発現解析は、Webgestalt.org(v2019)(43)で、p≦0.01、log2倍変化≧0.5の差次的発現遺伝子を用いて行った。差分発現遺伝子は、ジーン・オントロジー-バイオロジカル・プロセス・ファンクショナル・データベースと比較し、参照セットとしてヒトゲノム-プロテイン・コーディングを使用した。上位30個の豊富な(enriched)カテゴリの加重セットカバーをプロットした。選択した遺伝子の発現量の比較には、マッピングされた100万リードあたりのエクソンモデル1キロベースあたりの断片数(FPKM)を使用した。3回の独立した実験を実施した。RNA配列決定の生データは、EMBL Nucleotide Sequence Database(ENA)のアクセッション番号PRJEB38397で入手可能である。
【0100】
動物実験
C57BL/6雄マウス(12週齢)に、0.35%無機リン酸含有普通食又は2.0%無機リン酸含有高リン酸食のいずれかを与えた。これらのマウスに(OEG-IP4(100mg/kg)又は担体(蒸留水)を週3回皮下注射し、20週齢で屠殺して血液及び腎臓を採取した。一部のマウスを個別に代謝ケージに移し、屠殺前3日間で尿を採取した。血清FGF23値は、インタクトのFGF23 ELISA(Kinos社)を用いて、製造者のプロトコールに従って測定した。血清及び尿中のリン酸値を、Fuji Dri-Chemスライド及び分析装置(Dri-Chem NX500V、フジ社、東京、日本)を用いて測定した。凍結したマウス腎臓をRNAiso Plus(タカラ社、大阪、日本)でホモジナイズした。ライセートをクロロホルムを用いて抽出した。水相中のRNAをイソプロパノールで沈殿させ、75%エタノールで洗浄し、RNaseフリーの水に溶解した。RNA(0.4μg)の逆転写は、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(東洋紡社、FSQ-301、大阪、日本)を用いて、製造者のプロトコールに従って実施した。定量的RT-PCR反応は、20ngのcDNAを410nMの各プライマー及び6μLのSYBR Green PCR Master mix(東洋紡社、大阪、日本、THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix QPS-201)を用いて、総容量12μlでインキュベートして行った。PCR反応(95℃、1分、次いで95℃、10秒、60℃、40秒の45サイクル)を、Roche社のLC480システム(バーゼル、スイス)を用いて実施した。相対的なmRNA量は、シクロフィリンを内部対照として、比較閾値サイクル法により算出した。プライマーの配列を、補充表6に記載する。RNA抽出に使用しなかった腎臓を、10%ホルマリンで固定し、標準的なパラフィン切片に加工し、及びピクロシリウスレッドで染色してコラーゲンを赤い繊維として検出した。コラーゲン体積率(シリウスレッド陽性領域の総面積に対する割合)を、画像解析ソフトウェア(IMAGE PRO 9.32、Medica Cybernetics社、ロックビル、メリーランド、米国)を用いて既報のとおりに定量した(Hirano,Y.Kurosu et al.,FEBS Open Bio.10,894-903.DOI:10.1002/2211-5463.1284,2020)。大脳皮質及び皮質髄質接合部を別々に評価した。すべての動物実験は、自治医科大学の施設動物管理使用委員会の承認を得た。
【0101】
データ分析
溶液実験での事前スクリーニング及び予備的な細胞接着データをMatlabを用いて解析し、及びGraphPad Prism(GraphPad社、ラ・ホイヤ、カリフォルニア州、米国)を用いてプロットした以外は、すべての画像をPython 3を用いて解析し、グラフを作成した。RNA配列決定データを、上記項で説明したとおりに解析し、Rソフトウェア及びGraphPad Prismを使用してグラフを作成した。動物データを、GraphPad Prismで解析した。
【0102】
結果
実施例1:石灰化プロセスの画像によるプロファイリング
多様な腎臓の石灰化プロセスに対する分子の影響を迅速にプロファイリングするために、本発明者らは、CaP沈着とそれに伴う細胞の変化とをモニターできる細胞ベースのアッセイを開発した。そこで、本発明者らは、様々な染色剤で染色した腎近位尿細管細胞(RPTEC)の単層を利用して、石灰化及び細胞の形態変化を定量した(図1)。単層に増殖した細胞を、例えばカルシウム及び/又はリン酸の増加など、腎尿細管内で見出される様々なイオン条件を変えるように曝し、CaPの結晶化及び細胞の付着を引き起こした(図1A)。CaPの沈着を、カルセイン染色で検出した(図1B)。カルセインは、固定又は未固定の細胞サンプルのカルシウム染色技術として、これまでに提案されている。蛍光染色剤はカルシウムに結合し、蛍光顕微鏡を用いて画像化される。さらに、本発明者らは、特発性腎結石形成に特徴的であるCaP誘導性CaOx結晶化の誘導を試験した。最初にCaP沈殿を誘導し、その後高シュウ酸塩を添加することで、CaP沈着物にCaOx結晶が見られることが観察された。CaOx結晶は強いコントラストを示し、典型的な双晶構造を示した。
【0103】
細胞の変化は、CellMask染色剤で膜を染色することで可視化した。Hoechstは核色素として使用し、単一細胞のセグメンテーションを可能にし、エチジウムホモダイマー1(EthD)は、損傷した細胞膜を有する細胞の染色を容易にした(図1B)。さらに、CellMask及びカルセインチャネルの両方のテクスチャ特徴が抽出され、CaPの沈着パターン(すなわち、大きく、かつ高強度のCaPクラスター対より分散して細胞単層全体に均等に広がるCaP)を示した(図1B)。
【0104】
実施例2:腎臓上皮細胞のCaP誘導性変化
本発明者らは、まず、カルシウム及びリン酸の濃度を上げると、細胞内CaP沈着及びそれに伴う細胞内変化に影響を及ぼすことを検討した。抽出された特徴は、単一細胞の形状及び蛍光強度パラメータ、CellMask画像及びカルセイン画像のテクスチャ特徴、並びにCaP沈着物の形状及び強度特徴を含んだ。実験条件及び特徴を階層的にクラスタリングしたところ、明確な用量依存性の傾向が見られた(図2A)。カルシウム及びリン酸の濃度が低い場合、例えば非添加の細胞培地(1/1mM Ca/P)及び低量添加のもの(2/2mM Ca/P)は、細胞内の変化を誘発せず、高量の場合は漸次的な変化(2/5mM)及び劇的な変化(5/7及び7/7mM)を示した(図2B)。Ca/P値に関連する細胞内変化は、単一パラメータで見るとより明確になった。Ca/Pを増加させると、腎臓上皮に特徴的な細胞のタイトパッキング(tight packing)の喪失を誘導した。これは単一細胞面積の増加及びコンパクトさの指標である単一細胞の固体性(solidity)の減少に関連する。したがって、これらのデータは、上皮細胞の典型的な丸型形状が失われ、より不規則な形状になっていることを示した(図2B)。これらの効果は、細胞総数/視野の減少を伴った。さらに、Ca/P値の上昇に伴い、細胞膜が損傷した細胞の増加が検出された(図2B)。これらの結果は、CaP又はCaOxで刺激すると上皮の表現型が失われ、細胞が損傷することを示唆する文献報告と一致する。
【0105】
CaPの沈着量は、まずカルセイン画像の適応的閾値処理により測定し、次いで視野あたりの被覆総面積の定量により測定した。この方法を用いて、本発明者らは、Ca/P濃度が高くなると、細胞単層のCaP被覆率が増加することが見出された(図2C)。これらの結果は、明視野画像との比較により定性的に検証され、CaPは粒状の質感を有する特徴として、又は大きな沈着物の場合には暗いスポットとして可視化できた(図2D)。CaP沈着のカルセインの定量は、酸処理により細胞単層から抽出されたカルシウムの比色定量を採用することで確認された(図2C)(Schantl,A.E.et al.,Nat.Commun.11,721.DOI:10.1038/s41467-019-14091-4,2020)。興味深いことに、2/5mM Ca/Pで処理しても、CaP沈着物の面積はそれほど増大しなかったが、該沈着物は高いカルセイン強度を示した(図2C、D)。そこで、本発明者らは、CaPは、低濃度では単層膜全体に均等に分布するのではなく、カルシウム結合特性を有する糖タンパク質の表面発現が増加した脱分化細胞及び傷害細胞などのCaP親和性が高い部位に蓄積する傾向があると仮定した。これらの知見は、カルセイン及びCellMaskチャンネル画像の高い構造類似性指標メトリック(SSIM)によって支持され、中間の、及び高いCa/P刺激時に、CaP沈着面積と膜染色とが重なることが示された(図2C)。重複した面積は膜の染色強度が高いことを示し、傷つき剥離した細胞の破片の塊を示していると考えられる。さらに、画像の一貫性を反映するCellMaskチャンネル画像の相関テクスチャ特徴は、1/1~2/5mM Ca/Pスパイキングの間で増加した後、≧5/7mM Ca/Pで再び低下した(図2C)。中間のCa/P濃度で観測された最高値は、Ca/Pが存在しても大きなCaPクラスター部位が形成されなかった場合、細胞の外形が失われるためだったかもしれない。高濃度では、CaP-膜クラスターが高い染色強度を与えるため、CaP部位は再び相関的な特徴の低下を引き起こした。阻害剤のさらなる試験については、CaPの結晶化の主要部位とされるヘンレループの生理的範囲内である、5/7mM Ca/Pの濃度が使用された。
【0106】
実施例3:腎臓CaP阻害剤としてのIP6アナログの溶液中における予備スクリーニング
第一段階として、人工腎臓尿細管液(RTF)を用いて、選択したIP6アナログ(図3)がCaPの沈殿及び成長に及ぼす影響をin vitroで評価した(表1)。本発明者らは、以前の研究で、血清中のCaPタンパク質粒子形成について検討した。しかし、心血管石灰化との重要な違いは、腎尿細管液のタンパク質含有量は極めて少ないことに対して、血液中のタンパク質は非常に豊富であり、非晶質粒子を安定化できることにある。有効性を評価するために、2つの断面(two cut-offs)が選択された。最初に、化合物を含まない対照サンプルと比較して、検出されたCaP沈殿物が>90%で減少することを完全阻害と定義した。第二に、CaP凝集の阻害は、対照と比較して、凝集体の平均サイズが>50%で減少することと定義した。
【0107】
興味深いことに、IP6、及び幾分かのミオ-イノシトールペンタキスホスフェート(IP5)は、10μM及び30μMでそれぞれCaPの沈殿を促進した。CaP沈殿は、IP6とカルシウムとの凝集体が形成されることで促進される可能性が高いことが、リン酸塩を含まない培地で本発明者らは確認した。OEG-IP5の場合のように、リン酸基をオリゴエチレングリコール(OEG)鎖に置き換えると、30μM及び1μMでそれぞれCaPの沈殿及び凝集の阻害をもたらした(表1、図8A及び図9A)。OEG-IP5及びOEG11-IP5を比較すると、OEG鎖の繰り返し単位を2個から11個までに増やすことで分子の阻害特性が向上し、凝集阻害濃度が1μMから300nMまでに低下することがわかった(表1、図8B及び9B)。しかし、さらにOEG((OEG-IP4対OEG-IP5)でリン酸を置換しても、阻害活性はさらに上昇しなかった(表1、図8C及び図9C)。リン酸基を電荷の少ない硫酸基及びカルボキシル基の置換、例えば、ミオ-イノシトールヘキサ硫酸(IS6)及びシクロヘキサンヘキサカルボン酸(IC6)は、上記促進効果の消失を導いた。これらの化合物は、CaPの結晶化に対して弱い阻害作用しか示さなかった(表1)。
【0108】
以前の研究で、腎臓のCaOx結晶化の強力な阻害剤として同定されている2価のIP5分子には、別の興味深い傾向が見られた。結晶化に対する効果は、IP5部分の間のリンカーの長さに依存した。リンカー内に4個のEG単位を有するOEG-(IP5)はCaP沈殿を促進したが、8個のEG繰り返し単位を有するOEG-(IP5)は阻害効果を発揮した。30μMで完全阻害が観察され、1μMで50%の凝集阻害が得られた(表1、図8E図9E)。総合すると、これらの知見から、タンパク質を全く含まない培地におけるIP6アナログによるCaP阻害は、分子の電荷及び安定化特性に大きく依存することを示唆する。
【0109】
実施例4:(OEG-IP4はin vitroでCaP沈着及び細胞変化を防ぐこと
次の段階として、本発明者らは、OEG-IP5、OEG11-IP5、(OEG-IP4及びOEG-(IP5)について、CaP付着を防止する効果を比較した(図9)。細胞培地は、リン酸塩及びカルシウムを添加する前に化合物をスパイクした。ここで、有効性はすべての化合物で同様の範囲にあり、50μMでCaPの付着を完全に阻害することができた。興味深いことに、(OEG-IP4は、12.5μMまで減らしてもCaP付着を劇的に減少させ、その報告された良好な薬物動態プロファイルと相まって、最も優れた性能を示し(Schantl,A.E.et al.,Nat.Commun.11,721.DOI:10.1038/s41467-019-14091-4,2020)、本発明者らは、この化合物のさらなる特徴評価を行うに至った。
【0110】
6~50μMの(OEG-IP4で細胞を処理すると、画像の特徴プロファイルが用量依存的に陽性対照(ctrl)(+5/7mM Ca/P)から陰性対照(+1/1mM Ca/P)に反転した(図4A)。(OEG-IP4は、用量依存的に、陽性対照と比較して死細胞の数及び単一細胞の面積を減少し、かつ単一細胞の固体性及び総細胞数/視野を増加した(図4B)。したがって、これらのデータは、(OEG-IP4による陰性対照の表現型への反転を示唆する。
【0111】
6μM及び13μMの(OEG-IP4をスパイクした細胞培地は、陽性対照と比較して、総CaP面積の減少を招いた。しかし、それでも高いカルセイン染色強度を示した(図4C)。これらの結果は、陽性対照ではCaPが単層に均等に広がっているのに対し、部分的にCaPを阻害すると、大きく局所的にカルシウム含有量の多いクラスターが形成されることを示す(図4C、D、図10)。本発明者らは、このことは、濃度範囲実験における中間的なCa/P濃度と同様に、CaPに対する細胞親和性の高い領域を除いて、CaP付着が一般的に阻害されることを反映していると推測している。それらの面積には、CaPが多く蓄積されていることが観察されている。Ca/P濃度の漸増実験と同様に、これらの効果は、カルセイン及びCellMaskのチャンネル画像のSSIMによってさらに裏付けられ得る。高いSSIMは、高カルシウム領域と重複する高強度の膜染色の面積を示唆した(図4C)。さらに、本発明者らは、EthD染色によって示されるように、そのような面積と傷害のある細胞との重複を観察した(図4B)。したがって、このような部位では、細胞損傷の局所的な面積があり、結晶結合タンパク質を表面に発現する上皮が再生/増殖し、CaPの高蓄積を引き起こす可能性があった。(OEG-IP4の濃度を6μMから13μMまでに上げると、まずCellMask染色の相関指標が陽性対照を超える量にまで増加し、これはCaP膜クラスターが存在しない、又は限定的に存在する細胞輪郭の消失が潜在的に要因となり得るが、その後は陰性対照量まで低下し、細胞が丸状の細胞輪郭を示すようになった。
【0112】
次いで、本発明者らは、CaP誘導性CaOx結晶化に対する該化合物の効果を試験した。該化合物は、以前の研究(Kletzmayr,A.et al.,Adv.Sci.7,1903337.DOI:10.1002/advs.201903337,2020)で溶液中のCaOx結晶化に対して限定的な効果を示したが、本発明者らは、CaP誘導性モデルにおいて、用量依存的な変化を観察した。すなわち、(OEG-IP4は、段階的なCaOx阻害についての本発明者らの以前の報告にそって(Kletzmayr,A.et al.,Adv.Sci.7,1903337.DOI:10.1002/advs.201903337,2020)、第一に、CaOxの結晶化を、優勢な最も安定な形態であるシュウ酸カルシウム一水和物(COM)からシュウ酸カルシウム二水和物(COD)に戻す可能性があった。第二に、さらに濃度を100μMまで上げると、CODはほぼ完全に消失した。したがって、(OEG-IP4はCaP誘導性CaOxの結晶化を減少したが、これはCaP沈着物を該化合物で被覆及び遮蔽したことに起因する可能性があった。
【0113】
以上のことから、(OEG-IP4は、CaPの細胞単層への付着及びそれに伴う細胞変化の両方を防止することができた。該化合物は、まずCaPの付着及び細胞傷害を、CaP-膜クラスターが形成している局所的な付着部位に閉じ込め、その後、高濃度でのCaP沈着及び細胞傷害を完全に防止する。
【0114】
実施例5:Ca/P誘導性トランスクリプトーム変化は、in vitroでの血管石灰化プロセスを反映し、(OEG-IP4によって防止されたこと
CaPに対する細胞応答をさらに理解し、画像化によって観察された関連する細胞形態の変化を解釈するために、本発明者らはRNAシークエンシング(配列決定)実験を実施した。細胞を画像解析と同様に培養し、Ca/Pをスパイクした培地(陽性対照)、50μM(OEG-IP4をあらかじめ混合したCa/Pをスパイクした培地、培地のみ(陰性対照)又は(OEG-IP4のみで処理した。陽性対照及び陰性対照の間で発現量の異なる遺伝子を階層的にクラスタリングしたところ、Ca/P処理によって遺伝子発現プロファイルが劇的に変化し、(OEG-IP4のスパイキングによってそれが防止された(図5A)。陽性対照サンプル対陰性対照サンプルでは、Ca/P+(OEG-IP4及び(OEG-IP4対陽性対照サンプル(それぞれ2437個及び2935個の発現量の異なる遺伝子)と同様に、倍率変化≧1.5及びp≦0.05での2818個の発現量の異なる遺伝子が検出された。それに対して、Ca/P+(OEG-IP4に対する陰性対照又は(OEG-IP4のみの間では、極めて限られた数の発現量が異なる遺伝子が検出された(それぞれ76個及び77個)。これにより、Ca/P処理により誘導される劇的な変化と、(OEG-IP4によるその防止とが確認された。
【0115】
陽性対照サンプル対陰性対照サンプルにおける上方制御された遺伝子の過剰発現解析により、細胞周期、細胞分裂及び関連プロセス(DNA代謝プロセス、リボソーム生合成、染色体構成)、並びに細胞ストレス応答プロセスが改良することが明らかにされた(図5B)。下方制御された遺伝子は、構造及び発生プロセスを改良した(図5C)。
【0116】
次いで、本発明者らは、4群の遺伝子、すなわち、炎症反応経路、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質、細胞周期及び増殖プロセスの遺伝子、並びに組織の恒常性に関わる遺伝子に焦点を当て、単一遺伝子の発現量を調べた。CaOx結晶について以前に報告されたように、細胞のCa/P処理によって炎症反応経路が誘導された(Kletzmayr,A.et al.,Adv.Sci.7,1903337.DOI:10.1002/advs.201903337,2020)。上方制御された遺伝子には、インターロイキン-6(IL6)及びインターロイキン-32(IL32)、補体C3(C3)、C-X-Cモチーフのケモカインリガンド(例えば、CXCL5など)、並びにTNFα誘導タンパク質3(TNFAIP3)などのTNFシグナル伝達経路遺伝子を含んだ(図5D)。さらに細胞外マトリックス及び細胞表面遺伝子を調査した。細胞表面の糖タンパク質であるオステオポンチン(SPP1)又はCD55などの推定カルシウム結晶結合タンパク質は、Ca/P添加により上方制御された。一方、コラーゲンIVファミリーメンバー(COL4A3、COL4A4、COL4A5)は、下方制御された。コラーゲンIVは、尿細管基底膜の主要なタンパク質構成要素である。したがって、これらのデータは、腎臓結石形成物に観察される基底膜の石灰化に寄与する可能性のある、基底膜の強い変化を示唆する。
【0117】
過剰発現解析は、細胞周期及び細胞分裂のプロセスの劇的な脱制御(deregulation)を明らかにした。増殖促進遺伝子であるmyc、及びG1/S移行の細胞周期を制御するサイクリンD1(CCND1)の上方制御は、腎上皮細胞がCa/P刺激によって増殖期に入ることを示唆している可能性がある。この考え方は、G1/S制御点におけるDNA損傷認識及び修復の制御因子であるTP53の同時的上方制御によってさらに裏付けられる。
【0118】
さらに、発生過程及び組織の恒常性に関わる遺伝子の脱制御は、Ca/P刺激による細胞分化の変化を示唆する。上皮細胞マーカーであるe-カドヘリン(CDH1)の発現はCa/P処理により減少し、上皮表現型の喪失を示した。wntシグナル経路は、Runx2遺伝子の発現を直接調節することにより、血管細胞の骨形成的なトランス分化及び血管石灰化を促進することが報告された。腎上皮細胞のCa/P刺激により、Wntファミリーメンバー7A(WNT7A)、sclerostin domain containing 1(SOSTDC1)及び dickkopf WNT signalling pathway inhibitor 1(DKK1)を含む、いくつかのwntシグナル伝達経路遺伝子の発現が脱制御された。さらに、Runx2の発現はCa/P処理により上方制御された。
【0119】
したがって、RNA配列決定は、Ca/P刺激により、劇的な細胞変化が起こることを示唆し、それには上皮の表現型が失われ、さらなる増殖期に向かうこと、及び血管の石灰化プロセスと同様の細胞分化の変化を含んだ。(OEG-IP4は、おそらく細胞-結晶間の相互作用が減少したことにより、Ca/P誘導性変化をほぼ防ぐことができた。
【0120】
実施例6:(OEG-IP4はin vivoで高リン酸誘導性腎臓損傷を軽減すること
さらに、(OEG-IP4の有効性を、高リン酸誘導性腎臓損傷モデルマウスで検証した。以前に為した、ラットにおける(OEG-IP4の薬物動態の特徴に基づき、マウスでは100mg/kgの皮下注射により30分後に約80μMの血漿濃度が予想される。高リン酸食は、通常のリン酸食に比べて、FGF23の発現を誘導し、その結果、腎臓のリン酸排泄を促進し、血清レベルを正常範囲内に保つ。このフィードバック機構は、初期のCKDでの腎臓のリン酸値が高くなることの一因であることも示唆されている。リン酸食は、尿中リン酸排泄量を1.9mg/日から35.6mg/日に増加することを誘導したが、担体群と処理群との間に有意差はなかった(表2)。さらに、投与期間終了時の血清リン酸塩、CaP又は尿中カルシウムにおいても、担体群と投与群との間に有意差は認められなかった(表2)。高リン酸食を摂取したマウスでは、Spp1、IL-36a及びNgalの増加など、腎臓損傷のマーカーが上昇した(図6A~C)。さらに、マトリックスメタロペプチダーゼ-3(MMP)及びコラーゲン1α1(Col1a1)などの線維化マーカーの腎臓発現量の上昇が、高リン酸塩群と通常リン酸塩担体対照群との間で測定された。100mg/kgの(OEG-IP4を3回/週で皮下投与すると、高リン酸食群では担体対照群に比べ、腎臓損傷及び線維化マーカーが有意に減少した(図6A~E)。さらに、(OEG-IP4は、腎臓のピクロシリウスレッド染色後のコラーゲン体積分率の減少によって測定されるように、線維化を著しく減少する(図6F)。したがって、本発明者らの予備的な結果は、in vivoでのリン酸誘導性腎障害に対する(OEG-IP4の有益な効果を示唆する。
【0121】
議論
腎尿細管は、多種多様な代謝物に高濃度で曝され、ときにはその沈殿及び細胞障害を引き起こす。CaP及びCaOxの形態でのカルシウムの沈殿は、関連する腎臓の石灰化、組織の損傷及びCKDの潜在的な進行の促進により、特に懸念される。多種多様な腎毒性環境変動のために、本発明者らはまず、石灰化状態に焦点を当てた多数の腎障害と可能性のある阻害分子とを迅速に検査できる、簡便なin vitroでの画像に基づくプロファイリングツールを確立することを目指した。
【0122】
提案された画像に基づく石灰化プロファイリングプラットフォームは、石灰化条件、すなわち、異なるタイプのカルシウム結晶を誘発するイオン条件を簡便かつ迅速に変更することを可能にした。本発明者らは、自動解析パイプラインを導入し、単一細胞の変化と、カルセインによる蛍光染色によるCaP沈着の両方を定量した。画像に基づくプロファイリングアプローチを使用する利点は、例えばバルク細胞のRNA配列決定と比較して、局所的な変化を検出する可能性及びハイスループット適応性である。
【0123】
本発明者らは、培養液中のCa/P濃度の上昇に伴い、腎上皮細胞の単層膜の特徴プロファイルが徐々に変化することを実証した。石畳のような(cobblestone-like)明確な上皮表現型が失われ、肥大した細胞形状になることが観察された。また、RNA配列決定により、上皮マーカーであるe-カドヘリンの消失と、Ca/Pで刺激した細胞のさらなる増殖期とが確認された。これらの結果は、細胞-結晶間の相互作用によって脱分化及び細胞傷害のプロセスが起こることを示唆する文献報告と一致する。血管石灰化が関与した病的変化に類似したシグナル伝達経路の変化から、上皮細胞が骨芽細胞様表現型に分化している可能性が示唆された。また、興味深いことに、本発明者らはCaPの沈着パターンの変化も観察した。Ca/P負荷が低下すると、細胞傷害部位及び高膜染色部位でCaPの沈殿及び/又は付着が促進された。それらの部位に、CaPが蓄積され、さらなる傷害、細胞の剥離及びCaP-膜クラスターの形成を引き起こした。
【0124】
これまでの研究で、CaPは特定の結晶結合タンパク質に優先的に付着するという考えが支持されており、これは主に脱分化又は再生した腎上皮細胞で発現している可能性がある。RNA配列決定により、オステオポンチンなどの結晶結合性細胞表面及びECMタンパク質の発現が亢進していることが確認された。Ca/P刺激による細胞増殖の亢進は、無制御の多層成長とその後の細胞剥離とを促進し、これは細胞膜染色の異常を説明し、CaPクラスター形成に寄与する可能性があった。
【0125】
さらに、腎尿細管基底膜の主成分であるコラーゲンIVファミリーメンバーは、Ca/P刺激により下方制御された。基底膜の石灰化は、腎臓結石症におけるCaPプラーク形成の第一段階と考えられているが、現在までのところ、初期の石灰化過程は不明なままである。したがって、コラーゲンIVの下方制御は、CaPプラーク形成に関する最初の洞察を提供することができ、病態生理学的プロセスを模倣するための石灰化プラットフォームの有用性を示唆する。CaPの負荷により初期付着部位が形成されるのか、それともある程度の細胞傷害が先行し、その後にCaPの結合により増幅されるのかを明らかにするためには、さらなる研究が必要であろう。この結果は、腎臓の石灰化プロセスにおける細胞内の積極的な関与の存在を示唆し、該プロセスの複数のステップに作用し得る幅広い分子のプロファイリングを支持する。
【0126】
次の段階として、本発明者らは、IP6アナログのライブラリーを用いて、溶液中での腎臓CaP沈殿及びin vitroでの細胞付着に対する効果を検討した。選択したリード化合物(OEG-IP4は、用量依存的に細胞の特徴プロファイルを陰性対照プロファイルに戻し、単一細胞の変化を阻害し、CaP沈着も阻害した。高Ca/P誘導性細胞変化に対する本化合物の保護効果は、RNA配列決定により確認された。この効果は、CaP成長の阻害及びCaP付着の阻害の両方の結果である可能性がある。重要なことは、本化合物の保護効果が、高リン酸誘導性腎臓損傷モデルマウスで有効であると解釈した。したがって、本発明者らは、(OEG-IP4がCaPの沈殿及びCaP-細胞間相互作用を阻害することにより、CaPにより促進した腎臓の損傷を予防する可能性があると考えている。さらに、本化合物は、in vitroの細胞単層上でのCaP誘導性CaOx結晶化を減少した。これらの結果は、CaPを発端とする腎臓疾患における本分子の治療効果の可能性を示唆する。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
図1A1
図1A2
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5BC
図5D
図6AB
図6CD
図6EF
図7AB
図7CD
図7E
図8AB
図8CDE
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
【国際調査報告】