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特表2023-551698フォスフェニトインナトリウム固体組成物、凍結乾燥法、及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-12
(54)【発明の名称】フォスフェニトインナトリウム固体組成物、凍結乾燥法、及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/661 20060101AFI20231205BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231205BHJP
【FI】
A61K31/661
A61P25/08
A61K9/19
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532771
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 CN2020133822
(87)【国際公開番号】W WO2022116134
(87)【国際公開日】2022-06-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520002243
【氏名又は名称】シーチュアン クレジット ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100166729
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 幸子
(72)【発明者】
【氏名】チェン ガン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ゴンチェン
(72)【発明者】
【氏名】リン ソン
(72)【発明者】
【氏名】ネッライアッパン カリアッパナダー
(72)【発明者】
【氏名】ジャヴェリ インドゥ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC01
4C076DD25Z
4C076DD50Z
4C076DD51Z
4C076DD67A
4C076FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA44
4C086NA03
4C086ZA06
(57)【要約】
フォスフェニトインナトリウム固体組成物、フォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法、及びフォスフェニトインナトリウム固体組成物の使用である。前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含む。得られるフォスフェニトインナトリウム固体組成物は、安定性に優れ、室温で保存できる。また、前記フォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法は、凍結乾燥時間が短く、該方法で得られる製品は、陷没せず、再溶解時間が短く、水分含有量が品質要求を満たす。前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、癲癇又は他の痙攣状態の治療に使用できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含むことを特徴とするフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項2】
前記固体組成物は、室温で保存できることを特徴とする請求項1に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項3】
前記固体組成物は、凍結乾燥組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項4】
前記炭水化物は、糖、オリゴ糖から選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記糖は、単糖、二糖、糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記単糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトースから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記二糖は、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、イソマルトースから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記オリゴ糖は、ラフィノース、スタキオース、イソマルトオリゴ糖、オリゴフルクトース、オリゴマンノース、大豆オリゴ糖から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項5】
凍結乾燥の前に、前記炭水化物の組成物における重量体積比が1~20%であり、好ましくは3~15%であり、より好ましくは5~10%であることを特徴とする請求項3又は4に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項6】
前記固体組成物は、更に緩衝剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項7】
前記緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤、リン酸水素塩緩衝剤、リン酸二水素塩緩衝剤、炭酸水素塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、トリアルキルアミン緩衝剤、トロメタモール緩衝剤、ピロリン酸塩緩衝剤、グリシルグリシン(Glycylglycine)緩衝剤から選択される1種又は複数種であり、好ましくは、前記リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、炭酸水素塩、炭酸塩、ホウ酸塩、ピロリン酸塩はそれぞれ独立して、ナトリウム塩、及び/又は、カリウム塩であり、前記トリアルキルアミンは、トリメチルアミンであり、好ましくは、凍結乾燥の前に、前記緩衝剤の濃度が10~150mMであり、より好ましくは20~100mMであることを特徴とする請求項6に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項8】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、凍結乾燥前又は再溶解後のpHが8~10であり、好ましくは8~9.3であり、より好ましくは8~9であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項9】
凍結乾燥の前に、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであり、好ましくは75mg/mL~100mg/mLであり、より好ましくは75mg/mL又は100mg/mLであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項10】
再溶解の後、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであり、好ましくは75mg/mL~100mg/mLであり、より好ましくは75mg/mLであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項11】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、25℃及び60%の相対湿度で14日間経過して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じず、好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、25℃及び60%の相対湿度で3ヶ月間経過して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じないことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【化1】
【請求項12】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、40℃及び75%の相対湿度で14日間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じず、好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、40℃及び75%の相対湿度で3ヶ月間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じないことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【化2】
【請求項13】
前記固体組成物は、凍結乾燥組成物であり、前記凍結乾燥組成物は、フォスフェニトインナトリウムと、緩衝剤と、少なくとも1種の炭水化物とを含み、前記緩衝剤は、トロメタモールが選択され、前記炭水化物は、トレハロース、スクロース、マンニトール又はラクトースから選択され、前記凍結乾燥組成物は、凍結乾燥前又は再溶解後のpHが8~9であることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項14】
凍結乾燥の前に、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL又は100mg/mLであり、前記緩衝剤の濃度が20~100mMであり、前記炭水化物の組成物における重量体積比が5~10%であることを特徴とする請求項13に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項15】
合計凍結乾燥時間が従来の凍結乾燥法の合計凍結乾燥時間より60%以上減少し、好ましくは70%以上減少することを特徴とするフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法。
【請求項16】
前記凍結乾燥法は、(1)フォスフェニトインナトリウム溶液を調製する工程と、(2)前記フォスフェニトインナトリウム溶液を予備凍結する工程と、(3)昇華乾燥工程及び解析乾燥工程を単独で設置することなく、一定の昇温速度で乾燥板温度を予定の温度に直接昇温して乾燥する工程とを含むことを特徴とする請求項15に記載のフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法。
【請求項17】
前記フォスフェニトインナトリウム溶液は、フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含み、好ましくは、前記炭水化物は、糖、オリゴ糖から選択される少なくとも1種、前記糖は、単糖、二糖、糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、好ましくは、前記単糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトースから選択される少なくとも1種であり、好ましくは、前記二糖は、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、イソマルトースから選択される少なくとも1種であり、好ましくは、前記糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールから選択される少なくとも1種であり、好ましくは、前記オリゴ糖は、ラフィノース、スタキオース、イソマルトオリゴ糖、オリゴフルクトース、オリゴマンノース、大豆オリゴ糖から選択される少なくとも1種であり、好ましくは、前記炭水化物の重量体積比が1~20%であり、好ましくは3~15%であり、より好ましくは5~10%であり、好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム溶液のpHが8~10であり、好ましくは8~9.3であり、より好ましくは8~9であり、好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム溶液は、更に緩衝剤を含み、好ましくは、前記緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤、リン酸水素塩緩衝剤、リン酸二水素塩緩衝剤、炭酸水素塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、トリアルキルアミン緩衝剤、トロメタモール緩衝剤、ピロリン酸塩緩衝剤、グリシルグリシン(Glycylglycine)緩衝剤から選択される1種又は複数種であり、好ましくは、前記リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、炭酸水素塩、炭酸塩、ホウ酸塩、ピロリン酸塩はそれぞれ独立して、ナトリウム塩、及び/又は、カリウム塩であり、前記トリアルキルアミンは、トリメチルアミンであり、好ましくは、前記緩衝剤の濃度が10~150mMであり、より好ましくは20~100mMであり、好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであり、より好ましくは75mg/mL~100mg/mLであり、更に好ましくは75mg/mL又は100mg/mLであることを特徴とする請求項16に記載の凍結乾燥法。
【請求項18】
第(2)工程における予備凍結の温度が-40~-60℃であり、好ましくは-45~-55℃であり、より好ましくは-45~-50℃であり、好ましくは、前記予備凍結温度まで降温する降温速度が0.5~6℃/minであり、好ましくは1~5℃/minであり、より好ましくは1~1.5℃/minであり、好ましくは、前記第(3)工程において、前記昇温速度が0.01~5℃/minであり、好ましくは0.025~3℃/minであり、より好ましくは0.05~1.5℃/minであり、好ましくは、前記乾燥板温度を直接5~25℃に昇温し、好ましくは10~25℃に昇温し、より好ましくは20~25℃に昇温することを特徴とする請求項16又は17に記載の凍結乾燥法。
【請求項19】
癲癇又は他の痙攣状態の治療薬を製造するための、請求項1~14のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォスフェニトインナトリウム固体組成物、凍結乾燥法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フォスフェニトインナトリウムは、フェニトインのリン酸エステルプロドラッグであり、1996年9月に米国FDAによって販売が承認され、癲癇及び他のタイプの痙攣状態の治療・制御に使用される。体内でフェニトインに転換される前に、フォスフェニトインナトリウムは薬理学的活性を有しない。そのため、その薬理作用はフェニトインによるものである。
【0003】
フォスフェニトインナトリウムの開発は、フェニトインの代替を目的とする。市販されているフェニトインナトリウム注射剤の配合処方には、過量のプロピレングリコール及び比較的高いpH(12)が含まれているため、投与部位の激痛、低血圧、輸液部位の遠位進行性四肢虚血及びその他の血管合併症、例えば、「パープルグローブ症候群(Purple Glove Syndrome)」を引き起こすことがある。一方、フォスフェニトインナトリウムを使用すると、フェニトインナトリウムの関連問題を回避できる。
【0004】
現在、市販のフォスフェニトインナトリウムの剤形は注射液であり、該製剤は2~8℃で保存する必要があり、室温での保存は48時間を超えてはならない。フォスフェニトインナトリウム注射液は室温では安定せず、分解しやすく、分解不純物、例えば、ジフェニルグリシン、ジフェニルヒダントイン酸及びフェニトインを生じることによって、その臨床使用の有効性に影響を与える。また、2~8℃の貯蔵条件により、フォスフェニトインナトリウム注射液の輸送・保存コストが向上した。フォスフェニトインナトリウムが保存中で生じる主な分解不純物の構造は、表1に示される。
【0005】
【表1】
【0006】
このことに鑑み、上記の課題を解決するよう、フォスフェニトインナトリウムの代替剤形の開発が切望されている。
【0007】
米国特許文献US 4,925,860には、フォスフェニトインナトリウムの医薬組成物が開示されている。該特許文献には、フォスフェニトインナトリウムが分解しやすく、分解生成物が、ホルムアルデヒド、5,5-ジフェニル-4-イミダゾリノン(DIZ)、ジフェニルグリシンアミド、ベンゾフェノン、不純物A、及び不純物Cを含むことが記載されている。該特許文献には、pHの低下によってフェニトインの生成速度が増すとともに、比較的低いpHにおいて不純物Cの溶解度が低下することが説明されている。不純物Cが水不溶性であるため、フォスフェニトインナトリウム水性製剤中で不純物Cの沈殿物を生じて、フォスフェニトインナトリウムの保存期間を短縮させるとともに、このような粒子状物質の問題を生じる。該特許文献には、適切な有機緩衝液、例えば、トロメタモールを用いて、pHを8.3~9.4に保ち、このpH範囲であれば、フォスフェニトインナトリウムの分解生成物を主にジフェニルグリシンアミドにすることができ、不純物Cの発生を最小限にすることによって、フォスフェニトインナトリウムの保存期間を延ばすことが教示されている。該組成物のpH範囲が米国薬局方(USP 28)の要求を満たしている。しかし、該特許には、フォスフェニトインナトリウムの分解を避ける方法も教示されていなければ、室温で保存できるフォスフェニトインナトリウム製剤を得る方法も教示されていない。
【0008】
本発明者の研究によって、特許文献US 4,925,860に記載の配合に従って調製された医薬組成物は、25℃及び40℃の条件での貯蔵が不安定であり、不純物Bを生じることを見出した。
【0009】
欧州特許文献EP2303228B1には、異なる緩衝液を含むフォスフェニトインナトリウム液体製剤が開示されている。該発明は、フォスフェニトイン又はその塩と、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ホウ酸又はグリシンから選択される緩衝液とを含み、pHが8.3未満である水性医薬組成物について特許を請求するものである。該発明には、これらの組成物が安定であるか否かについての教示もなければ、これらの組成物を凍結乾燥して室温で安定な凍結乾燥組成物を得ることができるか否かについての教示もない。
【0010】
本発明者の研究によれば、特許文献EP2303228B1に記載の配合で調製されたフォスフェニトインナトリウム液体製剤は、25℃及び40℃の条件での貯蔵が不安定であり、不純物Bを生じることを見出した。そして、これらの液体製剤を凍結乾燥した後、25℃及び40℃の条件での貯蔵が依然として不安定であり、不純物Aを生じることを見出した。
【0011】
特許文献US 6,133,248には、フォスフェニトインナトリウムと、シクロデキストリンと、薬学的に許容されるベクターとを含む、延ばされた保存期間を有する医薬組成物が記載されている。該特許文献の記載によれば、37℃で10日目放置すると、約10μg/mLの不純物Cを新たに生じることになる。不純物Cが水性条件で不溶であり、該特許文献においてシクロデキストリンは不純物Cの溶解度を向上させる役割を果たすが、該不純物の発生速度に影響を与えることはない。また、該特許文献には、不純物C及びその他の不純物の発生を効果的に低減させる方法が記載されていない。
【0012】
特許文献WO 9904798A1には、薬学的に許容される希釈剤(最も好ましくは水)を添加することによって再溶解できる、凍結乾燥形式のフォスフェニトインナトリウム組成物が記載されている。該特許文献の記載によれば、100mM トロメタモール緩衝液で調製され冷凍乾燥されたフォスフェニトインナトリウムを再溶解させる際に、140mg/mL超えの溶解度に達する。しかし、該特許には、フォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥製剤が安定であるか否かについての教示がない。本発明者の研究によれば、緩衝液(トロメタモールを含め)を含むフォスフェニトインナトリウム組成物を凍結乾燥した後、25℃及び40℃で14日間放置すると、不純物Aを生じることを見出した。
【0013】
一般的な冷凍乾燥過程は下記の工程を含む。
1)製品の調製(前処理)
2)製品の凍結(予備凍結):製品を固体状態に凍結する。
3)1段目の乾燥(昇華乾燥):製品中の氷晶を昇華によって除去する。
4)2段目の乾燥(解析乾燥):製品に残存の水分の一部を比較的高い温度で蒸発させ、残存の水分を所定の要求を満たせる。
5)密封包装する。
【0014】
1段目の乾燥において、物質が熱を吸収する必要がある。薬品を加熱せず、あるいは熱が足りないと、水分が昇華の際に薬品自体の熱を吸収して薬品の温度を低下させ、薬品の蒸気圧を低下させることによって、昇華速度が低下し、全体の乾燥時間が延ばされ、生産性が低下する。薬品を過度に加熱すると、薬品の昇華速度はもちろん向上するが、薬品の昇華で吸収された熱と相殺した後、余分の熱によって凍結薬品自体の温度が上昇し、一部ひいては全部の薬品が溶解して、薬品の乾燥陥没・フクレ現象を引き起こして、全体の乾燥が失敗する。したがって、1段目の乾燥において、必ず適切な熱を与えて、必ず凍結乾燥層を製品の共晶点以下に制御すればこそ、氷晶を溶解させずに済む。
【0015】
2段目の乾燥は、解析乾燥とも呼ばれる。1段目の乾燥の後、乾燥物質の毛細管壁及び極性基には一部の水分が吸着されており、これらの水分は凍結されていない。このような水分が一定の含有量に達した時、微生物の成長・繁殖やある種の化学反応の条件を与える。実験によれば、単分子層に吸着された低い含水量でも、ある種の化合物の溶液となって、水溶液と同様な移動性と反応性を生じる。したがって、製品の貯蔵安定性を改善して、その保存期間を延ばすためには、これらの水分をできるだけ除去する必要がある。
【0016】
一般的な凍結乾燥プロセスにおいて、製品中の水分をより除去するために、凍結乾燥の時間の延長を選択するが、これによって製品の合計凍結乾燥時間が長くなりすぎて、凍結乾燥の時間コストが増加し、凍結乾燥の効率が低下する。現在、フォスフェニトインナトリウムの効率的な凍結乾燥法についての研究がまだ報告されていない。
【発明の概要】
【0017】
従来技術に存在するフォスフェニトインナトリウム製剤が分解しやすく、室温で保存できないといった課題について、本発明は、上記の課題を解決するよう、フォスフェニトインナトリウム固体組成物を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、効率的なフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法を提供することにある。
【0018】
本発明は、フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含むことを特徴とするフォスフェニトインナトリウム固体組成物を提供する。
【0019】
好ましくは、前記固体組成物は、室温で保存できる。
【0020】
好ましくは、前記固体組成物は、凍結乾燥組成物である。
【0021】
好ましくは、前記炭水化物は、糖、オリゴ糖から選択される少なくとも1種である。
【0022】
好ましくは、前記糖は、単糖、二糖、糖アルコールから選択される少なくとも1種である。
【0023】
好ましくは、前記単糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトースから選択される少なくとも1種である。
【0024】
好ましくは、前記二糖は、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、イソマルトースから選択される少なくとも1種である。
【0025】
好ましくは、前記糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールから選択される少なくとも1種である。
【0026】
好ましくは、前記オリゴ糖は、ラフィノース、スタキオース、イソマルトオリゴ糖、オリゴフルクトース、オリゴマンノース、大豆オリゴ糖から選択される少なくとも1種である。
【0027】
好ましくは、凍結乾燥の前に、前記炭水化物の組成物における重量体積比が1~20%であり、好ましくは3~15%であり、より好ましくは5~10%である。
【0028】
好ましくは、前記固体組成物は、更に緩衝剤を含む。
【0029】
好ましくは、前記緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤、リン酸水素塩緩衝剤、リン酸二水素塩緩衝剤、炭酸水素塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、トリアルキルアミン緩衝剤、トロメタモール緩衝剤、ピロリン酸塩緩衝剤、グリシルグリシン(Glycylglycine)緩衝剤から選択される1種又は複数種であり、好ましくは、前記リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、炭酸水素塩、炭酸塩、ホウ酸塩、ピロリン酸塩はそれぞれ独立して、ナトリウム塩、及び/又は、カリウム塩であり、前記トリアルキルアミンは、トリメチルアミンである。
【0030】
好ましくは、凍結乾燥の前に、前記緩衝剤の濃度が10~150mMであり、より好ましくは20~100mMである。
【0031】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、凍結乾燥前又は再溶解後のpHが8~10であり、好ましくは8~9.3であり、より好ましくは8~9である。
【0032】
好ましくは、凍結乾燥の前に、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであり、好ましくは75mg/mL~100mg/mLであり、より好ましくは75mg/mL又は100mg/mLである。
【0033】
好ましくは、再溶解の後、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであり、好ましくは75mg/mL~100mg/mLであり、より好ましくは75mg/mLである。
【0034】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、25℃及び60%の相対湿度で14日間経過して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0035】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、25℃及び60%の相対湿度で3ヶ月間経過して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0036】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、40℃及び75%の相対湿度で14日間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0037】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、40℃及び75%の相対湿度で3ヶ月間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0038】
好ましくは、前記固体組成物は、凍結乾燥組成物であり、前記凍結乾燥組成物は、フォスフェニトインナトリウムと、緩衝剤と、少なくとも1種の炭水化物とを含み、前記緩衝剤は、トロメタモールが選択され、前記炭水化物は、トレハロース、スクロース、マンニトール、又はラクトースから選択され、前記凍結乾燥組成物は、凍結乾燥前又は再溶解後のpHが8~9である。
【0039】
好ましくは、凍結乾燥の前に、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL又は100mg/mLであり、前記緩衝剤の濃度が20~100mMであり、前記炭水化物の組成物における重量体積比が5~10%である。
【0040】
別の局面では、本発明は更に、合計凍結乾燥時間が従来の凍結乾燥法の合計凍結乾燥時間より60%以上減少し、好ましくは70%以上減少することを特徴とするフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法を提供する。
【0041】
好ましくは、前記凍結乾燥法は、(1)フォスフェニトインナトリウム溶液を調製する工程と、(2)前記フォスフェニトインナトリウム溶液を予備凍結する工程と、(3)昇華乾燥工程及び解析乾燥工程を単独で設置することなく、一定の昇温速度で乾燥板温度を予定の温度に直接昇温して乾燥する工程とを含む。
【0042】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム溶液は、フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含み、
好ましくは、前記炭水化物は、糖、オリゴ糖から選択される少なくとも1種であり、前記糖は、単糖、二糖、糖アルコールから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記単糖は、グルコース、ガラクトース、フルクトースから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記二糖は、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、イソマルトースから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記糖アルコールは、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールから選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記オリゴ糖は、ラフィノース、スタキオース、イソマルトオリゴ糖、オリゴフルクトース、オリゴマンノース、大豆オリゴ糖から選択される少なくとも1種であり、
好ましくは、前記炭水化物の重量体積比が1~20%であり、好ましくは3~15%であり、より好ましくは5~10%であり、
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム溶液のpHが8~10であり、好ましくは8~9.3であり、より好ましくは8~9であり、
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム溶液は、更に緩衝剤を含み、
好ましくは、前記緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤、リン酸水素塩緩衝剤、リン酸二水素塩緩衝剤、炭酸水素塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、トリアルキルアミン緩衝剤、トロメタモール緩衝剤、ピロリン酸塩緩衝剤、グリシルグリシン(Glycylglycine)緩衝剤から選択される1種又は複数種であり、好ましくは、前記リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩、炭酸水素塩、炭酸塩、ホウ酸塩、ピロリン酸塩はそれぞれ独立して、ナトリウム塩、及び/又は、カリウム塩であり、前記トリアルキルアミンは、トリメチルアミンであり、
好ましくは、前記緩衝剤の濃度が10~150mMであり、より好ましくは20~100mMであり、
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであり、より好ましくは75mg/mL~100mg/mLであり、更に好ましくは75mg/mL又は100mg/mLである。
【0043】
好ましくは、前記凍結乾燥法において、第(2)工程における予備凍結温度が-40~-60℃であり、好ましくは-45~-55℃であり、より好ましくは-45~-50℃である。
【0044】
好ましくは、前記予備凍結温度まで降温する降温速度が0.5~6℃/minであり、好ましくは1~5℃/minであり、より好ましくは1~1.5℃/minである。
【0045】
好ましくは、前記第(3)工程において、前記昇温速度が0.01~5℃/minであり、好ましくは0.025~3℃/minであり、より好ましくは0.05~1.5℃/minである。
【0046】
好ましくは、前記乾燥板温度を直接5~25℃に昇温し、好ましくは10~25℃に昇温し、より好ましくは20~25℃に昇温する。
【0047】
好ましくは、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物を、癲癇又は他の痙攣状態の治療に使用する。
【0048】
別の局面では、更に、癲癇又は他の痙攣状態の治療薬を製造するための、前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物の使用を提供する。
【0049】
別の局面では、更に、癲癇又は他の痙攣状態の治療有効用量の上記フォスフェニトインナトリウム固体組成物を、それを必要とする患者に投与することを含む、癲癇又は他の痙攣状態の治療法を提供する。
【0050】
本発明の明細書及び請求の範囲において、特に特記がない限り、本発明で使用された科学・技術名詞は当業者に一般的に理解される意味を有する。しかし、本発明をより理解するために、以下、一部の関連用語の定義と解釈を記載する。
【0051】
本発明における炭水化物の分類は、文献「Carbohydrates in human nutrition:Report of a joint FAO/WHO expert consultation,Rome,14-18 April 1997」。そのうち、糖とは、重合度が1~2の糖類の総称であり、単糖、二糖、及び糖アルコールを含み、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース、イソマルトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、マルチトールである。オリゴ糖とは、重合度が3~9の糖類の総称であり、例えば、ラフィノース、スタキオース、イソマルトオリゴ糖、オリゴフルクトース、オリゴマンノース、大豆オリゴ糖である。
【0052】
本発明における炭水化物のパーセンテージ(%)とは、重量体積比であり、前記「重量体積比」とは、100mLあたりの液体系に含まれる前記成分の重量(単位g)、すなわち、g/100mLである。
【0053】
本発明における緩衝剤の濃度単位mMとは、ミリモル濃度であり、前記「ミリモル濃度」とは、1Lあたりの液体系に含まれる前記成分のミリモル数(単位mmol)、すなわち、mmol/Lである。
【0054】
本発明におけるすべての安定性研究において、25℃の条件で、相対湿度が60%とし、40℃の条件で、相対湿度が75%とする。
【0055】
本発明におけるRP-HPLCとは、逆相高速液体クロマトグラフィーである。
【0056】
本発明における検出限界とは、サンプルにおける被検物を検出できる最低量である。なかでも、本発明における不純物Aの検出限界は11.0pg、不純物Bの検出限界は6.3pg、不純物Cの検出限界は4.5ngである。
【0057】
本発明における前記「不純物を生じない」、「不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない」、「不純物A、不純物B及び不純物Cが検出されず、他の不純物も検出されなかった」、「不純物A、不純物B及び不純物C、並びにその他の不純物を生じなかった」、「不純物が見られない」といった似たような表現はいずれも、被検物における対応する不純物が検出限界を下回ることを意味する。
【0058】
本発明における前記「未検出」とは、被検物における対応する不純物が検出限界を下回ることを意味する。
【0059】
本発明における図2図3の不純物含有量が0であるとは、対応する不純物が検出されない、すなわち、不純物が検出限界を下回ることを意味する。
【0060】
本発明における前記「N/A」は、適用されないことを意味する。
【0061】
本発明における前記「PES」は、ポリエーテルスルホンを意味する。
【0062】
本発明における水含有量は、Karl Fischer滴定法によって測定されたものである。
【0063】
本発明においてFTS Lyo tar II凍結乾燥機を用いて凍結乾燥する。
【0064】
本発明における用語「再溶解」とは、水性溶液(エタノール、水、緩衝液、塩化ナトリウム溶液、グルコース水溶液、又はそれらの混合物、例えば、注射用水、生理食塩水などを含むが、これらに限定されない)を用いて凍結乾燥製剤の各成分を溶解して、再溶解された医薬品製剤を得ることを意味する。本発明における凍結乾燥製剤の再溶解は、当業者に一般的に熟知されている技術的手段を用いて行うことができる。したがって、凍結乾燥製剤を再溶解させた後に再溶解製剤が得られる。
【発明の効果】
【0065】
本発明によるフォスフェニトインナトリウム固体組成物は、安定性に優れ、室温で保存できる。一方で、市販のフォスフェニトインナトリウム注射液は2~8℃で貯蔵しなければならず、このような低温で保存したとしても、市販の製品に不純物を生じることが避けられない。
【0066】
本発明の一局面の発明として提供されるフォスフェニトインナトリウム固体組成物は、25℃及び60%湿度条件、40℃及び75%湿度条件で14日間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0067】
本発明の別の局面の発明として提供されるフォスフェニトインナトリウム固体組成物は、2~8℃、25℃及び60%湿度条件、40℃及び75%湿度条件で1ヶ月間、2ヶ月間及び3ヶ月間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0068】
なお、本発明によるフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法は、一般的な凍結乾燥法を採用せず、独立した昇華乾燥及び解析乾燥の段階を設けず、一定の昇温速度で乾燥板温度を予定の温度(例えば20℃など)に直接昇温し凍結乾燥を行い、水分含有量が品質要求を満たし、凍結乾燥時間が明らかに短縮され、そして凍結乾燥後の製品の再溶解性が比較的良好であり、1分間以内に完全に再溶解し、臨床での使用に便利である。
【0069】
本発明の別の局面の発明として提供される凍結乾燥プロセスは、凍結乾燥製品の品質が安定し、25℃及び60%湿度条件、40℃及び75%湿度条件で14日間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【0070】
本発明の別の局面の発明として提供される凍結乾燥プロセスは、凍結乾燥製品の品質が安定し、2~8℃、25℃及び60%湿度条件、40℃及び75%湿度条件で1ヶ月間、2ヶ月間及び3ヶ月間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】試験1における液体製剤を25℃及び40℃で14日間放置した後の不純物Bの含有率のヒストグラムである。そのうち、各サンプルに対応する左側のヒストグラムは25℃で14日間放置した後のサンプルデータグラフであり、右側のヒストグラムは40℃で14日間放置した後のサンプルデータグラフである。
図2】試験1における凍結乾燥製剤を25℃及び40℃で14日間放置した後の不純物Aの含有率のヒストグラムであり、そのうち、各サンプルに対応する左側のヒストグラムは25℃で14日間放置した後のサンプルデータグラフであり、右側のヒストグラムは40℃で14日間放置した後のサンプルデータグラフである。
図3】試験1における液体製剤及び凍結乾燥製剤を25℃及び40℃で14日間放置した後の総不純物のパーセンテージのヒストグラムである。
図4】試験1におけるグリシンを含む凍結乾燥製剤を40℃で14日間放置した後のクロマトグラムである。
図5】試験1におけるグリシンを含む凍結乾燥製剤を40℃で14日間放置した後の拡大クロマトグラムである。
図6】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1を用いて凍結乾燥を行った凍結乾燥圧力曲線(充填量が1.5mL)であり、そのうち、CM線は凍結乾燥機の圧力設定値を示し、Pirani線は凍結乾燥機の圧力モニタリング値を示す。
図7】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1を用いて凍結乾燥を行った凍結乾燥温度曲線(充填量が1.5mL)であり、そのうち、SHELF SETPT線は乾燥板の温度設定値を示し、Left線は凍結乾燥機における左側のプローブの温度モニタリング値を示し、Right線は凍結乾燥機における右側のプローブの温度モニタリング値を示す。
図8】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-2を用いて凍結乾燥を行った凍結乾燥圧力曲線(充填量が7.5mL)であり、そのうち、CM線は凍結乾燥機の圧力設定値を示し、Pirani線は凍結乾燥機の圧力モニタリング値を示す。
図9】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-2を用いて凍結乾燥を行った凍結乾燥温度曲線(充填量が7.5mL)であり、そのうち、SHELF SETPT線は乾燥板温度設定値を示し、Left線は凍結乾燥機における左側のプローブの温度モニタリング値を示し、Right線は凍結乾燥機における右側のプローブの温度モニタリング値を示す。
図10】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1を用いて凍結乾燥を行って得られた凍結乾燥製剤の代表的なサンプル外観の写真(充填量が1.5mL)である。
図11】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1を用いて凍結乾燥を行って得られた凍結乾燥製剤の代表的なサンプル瓶底の写真(充填量が1.5mL)である。
図12】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-2を用いて凍結乾燥を行って得られた凍結乾燥製剤の代表的なサンプル外観の写真(充填量が7.5mL)である。
図13】試験5においてスケールアップ凍結乾燥プロセス#7-2を用いて凍結乾燥を行って得られた凍結乾燥製剤の代表的なサンプル瓶底の写真(充填量が7.5mL)である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下の実施例によって本発明を実施するための形態について詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。
【0073】
材料と方法
分析検出方法
本発明における分析検出方法は、米国薬局方(USP 42)に記載のフォスフェニトインナトリウム注射液の分析検出方法と同様である。具体的な検出方法は、逆相高速クロマトグラフィーであり、検出条件は下記の通りである。
クロマトグラフィー条件:
機器:高速液体クロマトグラフィー Agilent 1290 Infinity
クロマトグラフィーカラム:ZORBAX Eclipse SB 80Å Phenyl、4.6x150mm、3.5μm
移動相:メタノール:アセトニトリル:緩衝液(8.2g/Lのリン酸二水素カリウム溶液を6mol/Lの水酸化カリウム溶液でpHを6.5に調整)=25:2:73
溶出方法:定組成溶出
検出波長:214nm
サンプル濃度:0.15mg/mL
流速:1.25mL/min
サンプル注入量:40μL
システムの適用性:不純物A、不純物B、不純物C
分離度:不純物Aと不純物Bの分離度が4.0以上である
テーリング係数:フォスフェニトインナトリウムピークのテーリング係数が1.8以下である
%RSD:フォスフェニトインナトリウムのピーク面積の相対標準偏差が1.0%以下である
理論段数:フォスフェニトインナトリウムピークで計算して2250以上である
【0074】
(2)溶液の調製:
緩衝液の調製:8.2g/Lリン酸二水素カリウム水溶液を調製し、6N水酸化カリウム溶液でpHを6.5±0.05に調整した。
【0075】
リファレンスサンプルの貯蔵液A:フォスフェニトインナトリウムのリファレンスサンプルを適量取って、少量のメタノールで溶解した後、移動相で希釈して、1mLあたりにフォスフェニトインナトリウムを約0.75mg含有する溶液とした。
【0076】
リファレンスサンプルの貯蔵液B:ジフェニルグリシン(不純物A)のリファレンスサンプル、ジフェニルヒダントイン酸(不純物B)のリファレンスサンプル及びフェニトインのリファレンスサンプル(不純物C)をそれぞれ適量取って、メタノールを加えて溶解し、定量的に希釈して、1mLあたりに不純物Aを約7.5μg、不純物Bを約15μg及び不純物Cを約7.5μg含有する溶液とした。
【0077】
リファレンスサンプル溶液:リファレンスサンプルの貯蔵液A及びリファレンスサンプルの貯蔵液Bをそれぞれ適量取って、緩衝液で定量的に希釈して、1mLあたりにフォスフェニトインナトリウム150μg、不純物Aを約0.75μg、不純物Bを約1.5μg及び不純物Cを約0.75μg含有する溶液とした。
【0078】
サンプル溶液(液体製剤):濃度が100mg/mLのフォスフェニトインナトリウム液体製剤を7.5μL取って、10%メタノールを含む緩衝液(pH 6.5)で5mLに希釈して、1mLあたりに約150μgのフォスフェニトインナトリウムを含む溶液とした。
【0079】
サンプル溶液(凍結乾燥製剤):濃度が75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤の再溶解溶液を10μL取って、10%メタノールを含む緩衝液(pH 6.5)で5mLに希釈して、1mLあたりに約150μgのフォスフェニトインナトリウムを含む溶液とした。
【0080】
pH
Ross PerpHecT微小電極(型番8220BNWP)を備えたThermo Scientific、OrionStar Model A 211 pH計を用いて、フォスフェニトインナトリウム製剤サンプルのpHを測定した。緩衝溶液製剤に対して、三極電極(Thermo Scientific、US Gel-filled Ultra Triode Electrodes)を用いてpHを測定した。毎回使用する前に、pH 4、7及び10の緩衝液を用いて機器を校正した。
【0081】
Karl-Fischer
Mettler Toledo DL36 KF Coulometer及びMettler Toledo DO305 Drying Ovenを用いて、水分含有量を測定した。Hydranal水標品を用いて、KF-Oven(Sigma、34784、Lot#SZBD 226AV)機器を校正した。約50mgの凍結乾燥粉末を、3mL 13mmの小瓶に移して蓋をした。凍結乾燥粉を入れた小瓶を、乾燥オーブンにおいて100℃で加熱し、サンプルに残存の水蒸気を、陰極・陽極液の容器を有するHydranal(Sigma、34836、Lot#SZBE 2830V)に吹き込んで、クーロン法で発生した水蒸気を滴定した。
【0082】
試験1 異なる緩衝液を含む75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム製剤の安定性についての研究
本発明者は、異なる緩衝液を含むと緩衝液を含まない75mg/mLのフォスフェニトインナトリウムの液体製剤及び凍結乾燥製剤を、25℃及び40℃で14日間放置して、その安定性を評価した。
【0083】
【表2】
【0084】
調製方法:
(1)配合量の緩衝剤を注射用水に加えて、pH調整剤でpHを8.8に調整し、注射用水を加えて100mLにメスアップし、100mM濃度の緩衝液を調製し、0.2μmのPESろ膜でろ過し、
(2)工程(1)で調製された緩衝液を用いて、フォスフェニトインナトリウムを加えて、フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mLの液体製剤を調製し、2mLの規格で5mLのシリン瓶に注入し、凍結乾燥プロセスを用いて凍結乾燥して、フォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤を調製した。そのうち、凍結乾燥製剤の凍結乾燥パラメータを表3に示した。
【0085】
【表3】
【0086】
表4には、異なる緩衝液を含むフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥前の液体製剤、再溶解後の凍結乾燥製剤の0日目の濃度及び含有量のRP-HPLC分析結果を示した。データによれば、凍結乾燥前後の製剤の濃度はいずれも目標値の範囲内にあった。米国薬局方(USP-42)によれば、フォスフェニトインナトリウムの許容される含有量の限度が90~110%である。グリシルグリシンを含む製剤(配合5)の含有量が若干高く、111~112%であった。
【0087】
【表4】
【0088】
表5~6には、液体製剤及び凍結乾燥製剤を25℃及び40℃で14日間放置した後の濃度と含有量を示した。データによれば、液体製剤及び凍結乾燥製剤はほぼ目標濃度にあった。
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
表7~8には、凍結乾燥前後の異なる緩衝液を含むフォスフェニトインナトリウム製剤を14日間放置した後の純度の変化状況を示した。
【0092】
【表7】
【0093】
【表8】
【0094】
表7及び図1に示されたように、25℃及び40℃で14日間放置した後、液体製剤には不純物Bが生じた。
表8及び図2に記載されたように、25℃及び40℃で14日間放置した後、凍結乾燥製剤には不純物Aが生じた。
図3には、液体製剤及び凍結乾燥製剤を25℃及び40℃で14日間放置した後の総不純物の含有率を示した。
図4~5には、代表的な凍結乾燥製剤(グリシンを含む凍結乾燥製剤)のクロマトグラムを示し、40℃で14日間放置した後、不純物Aが生じたことを示した。
【0095】
試験2 炭水化物のフォスフェニトインナトリウム製剤への安定性影響についての研究
本試験では、炭水化物の存在下、フォスフェニトインナトリウム製剤への安定性影響について考察した。配合は表9に示された通りである。
【0096】
【表9】
【0097】
調製方法:
上記配合におけるフォスフェニトインナトリウム、緩衝剤、炭水化物を、注射用水に加えて、撹拌して溶解した後、pH調整剤でpHを8.8±0.1に調整し、注射用水を加えて100mLにメスアップし、0.2μmのPESろ膜でろ過し、配合に示された濃度のフォスフェニトインナトリウム液体製剤を調製し、1mLを3mLのシリン瓶に注入した後、表10に記載のプロセスパラメータで凍結乾燥を行った。
【0098】
【表10】
【0099】
実験結果からすれば、各液体製剤及び凍結乾燥製剤の0日目及び14日目の濃度はほぼ目標濃度にあった。
各製剤のRP-HPLC結果からすれば、液体製剤及び凍結乾燥製剤の0日目のRP-HPLC分析純度はいずれも100%であった。
フォスフェニトインナトリウムの液体製剤及び凍結乾燥製剤を、25℃及び40℃のそれぞれで14日間放置した後の不純物状況を表11に示した。
【0100】
【表11】
【0101】
市販のフォスフェニトインナトリウム液体製剤には、100mMトロメタモール及び75mg/mLのフォスフェニトインナトリウムが含まれ、明細書には、該製剤のpH範囲が8.6~9.0であることが開示されている。該製剤の貯蔵条件は2~8℃である。本発明は、市販配合に従ってフォスフェニトインナトリウム液体製剤を調製し(配合10)、その安定性を考察した。表11に示されたように、25℃及び40℃で貯蔵した場合、該製剤は加水分解によって含有量の比較的高い不純物Bを生じた。そして、該液体製剤を凍結乾燥した後に40℃で14日間放置して、不純物Aを生じた。
【0102】
また、水、炭酸ナトリウム、リジン、アルギニン又はグリシンを含む75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤(配合8、10、12、14、16、18)を、40℃で14日間放置した後、いずれも不純物Aを生じた。そのうち、炭酸ナトリウム、リジン又はグリシンを含むフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤(配合12、14、18)は、不純物Cを生じた。
【0103】
意外にも、5%ラクトース、5%マンニトール、10%トレハロース又は10%スクロースの存在下で、凍結乾燥製剤(配合9、11、13、15、17、19、20、21、22)を、25℃及び40℃で14日間放置した後、いずれも不純物A、不純物B及び不純物Cが検出されず、他の不純物も検出されなかった。
【0104】
このことから、炭水化物の存在下で、水、トロメタモール、炭酸ナトリウム、アルギニン、リジン又はグリシンをそれぞれ含む75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤を、25℃及び40℃で14日間放置した後も、不純物を生じないことが分かった。このことからすれば、凍結乾燥製剤における炭水化物は、フォスフェニトインナトリウムを安定化するとともに、製剤が分解して不純物Aなどの各種不純物を生じることを避けることができる。
【0105】
液体製剤と比べて、本発明に開示された凍結乾燥製剤は、25℃及び40℃で放置した後に不純物を生じることなく、安定性に優れている。
【0106】
試験3 炭水化物を含む100mg/mLのフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤の安定性についての研究
試験2には、炭水化物を含む75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤を、40℃で14日間放置した後に、不純物を生じないことが示された。
【0107】
本試験において、炭水化物を含む100mg/mLのフォスフェニトインナトリウム凍結乾燥製剤(トロメタモールを含む又は含まない)の安定性について考察した。
【0108】
通常、凍結乾燥にとって、充填体積は重要なパラメータの一つであり、特に充填体積の高さが重要である。したがって、より高い濃度でAPIを調製して500mg用量の充填体積を最大限に抑えることを図った。調製濃度がより高いが、有効用量は依然として同一であるか、あるいは必要な用量で調製し直すことができる。
【0109】
フォスフェニトインナトリウムの調製濃度が112.5mg/mLであった場合、マンニトールを含む製剤の清澄度は、トレハロース又はスクロースを含む製剤よりも優れたため、フォスフェニトインナトリウムはマンニトール溶液での溶解性がより良好であり、100mg/mLに希釈した時、いずれも完全に溶解できた。
【0110】
炭水化物を含み、緩衝液を含む又は含まない100mg/mLのフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥前の溶液配合を表12に示した。
【0111】
【表12】
【0112】
調製方法:
上記配合における炭水化物、フォスフェニトインナトリウム、緩衝剤を、注射用水に加えて、撹拌して溶解した後、pH調整剤でpHを8.8±0.1に調整し、注射用水を加えて100mLにメスアップし、0.2μmのPESろ膜でろ過し、配合に示された濃度のフォスフェニトインナトリウム液体製剤を調製し、1mLを3mLのシリン瓶に注入した後、表13に記載のプロセスパラメータで凍結乾燥を行った。
【0113】
【表13】
【0114】
清澄度試験結果からすれば、液体製剤は0日目及び40℃で14日間放置した後にいずれも清澄であり、凍結乾燥製剤は0日目及び40℃で14日間放置した後の再溶解製剤がいずれも清澄であった。
【0115】
表14には、100mg/mLのフォスフェニトインナトリウムを含む各液体製剤及び凍結乾燥製剤の測定濃度を示した。各液体製剤及び凍結乾燥製剤を40℃で14日間放置した後の濃度はほぼいずれも目標濃度にあった。
【0116】
【表14】
【0117】
表15には、各液体製剤及び凍結乾燥製剤を40℃で14日間放置した後の純度を示した。各凍結乾燥製剤を40℃で14日間放置した後の純度はいずれも100%であった。
【0118】
【表15】
【0119】
表16には、各液体製剤及び凍結乾燥製剤を40℃で14日間放置した後の不純物含有量状況を示した。
【0120】
【表16】
【0121】
表16に示されたように、各液体製剤のいずれにも不純物Bが生じた。5%マンニトール、10%トレハロース又は10%スクロースが存在した場合、各フォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥製剤(100mg/mL)を40℃で14日間放置した後、意外にも、不純物A、不純物B及び不純物C、並びにその他の不純物を生じなかったことから、凍結乾燥製剤における炭水化物は、フォスフェニトインナトリウムを安定化し、分解させないことが分かった。
【0122】
試験4 凍結乾燥プロセスについての研究
100mg/mLフォスフェニトインナトリウム、5%マンニトール及び100mMトロメタモールを含む、pHが8.8の溶液に対して、異なる凍結乾燥プロセスでの研究を行った。
【0123】
凍結乾燥に用いられたフォスフェニトインナトリウム液体製剤の配合は表17に示された通りである。
【0124】
【表17】
【0125】
調製方法:
フォスフェニトインナトリウムを25℃の注射用水に溶解し、溶液に、トロメタモール、マンニトールを加えて、撹拌して溶解した後、1N HCl又はNaOHでpHを8.8に調整し、注射用水を加えて100mLにメスアップし、0.2μmのPESろ膜でろ過し、配合で示されるフォスフェニトインナトリウム液体製剤を調製し、7.5mLを15mLのシリン瓶中に注入した。
【0126】
上記方法で調製された液体製剤をそれぞれ、表18に記載のプロセスパラメータで凍結乾燥を行った。
【0127】
【表18】
【0128】
異なる凍結乾燥プロセスを経て得られた凍結乾燥サンプルの含水量、再溶解時間及び安定性の考察結果は、表19に示された通りである。
【0129】
【表19】
【0130】
表18及び表19結果からすれば、凍結乾燥プロセスで得られた凍結乾燥製品はいずれもケーキ状物であり、含水量が2.5~3.6%である。凍結乾燥製品はいずれも、2~8℃、25℃及び40℃で14日間保存しても、不純物を生じなかった。
【0131】
凍結乾燥プロセス#2~6で得られた凍結乾燥製品の再溶解時間はいずれも1分間以内であったが、凍結乾燥プロセス#1で得られた凍結乾燥製品の再溶解時間は比較的長かった。一般的な凍結乾燥プロセス(凍結乾燥プロセス#1~4)の凍結乾燥の合計時間は、約4~6日間程度である。意外にも、本発明の凍結乾燥プロセス#5及び凍結乾燥プロセス#6の凍結乾燥時間が非常に早く、凍結乾燥時間が2日間程度に短縮された。従来の凍結乾燥プロセス(#2、#3、4)の凍結乾燥時間が少なくとも141時間であるのに対して、本発明の凍結乾燥プロセス(#5、#6)の凍結乾燥時間が少なくとも60%減少し、そのうち、凍結乾燥プロセス#5の凍結乾燥時間が約64%減少し、凍結乾燥プロセス#6の凍結乾燥時間が約69%減少した。(凍結乾燥プロセス#5の時間減少={[(凍結乾燥プロセス#4の凍結乾燥時間-凍結乾燥プロセス#5の凍結乾燥時間)/凍結乾燥プロセス#4の凍結乾燥時間]×100%であり、凍結乾燥プロセス#6の時間減少=[(凍結乾燥プロセス#4の凍結乾燥時間-凍結乾燥プロセス#6の凍結乾燥時間)/凍結乾燥プロセス#4の凍結乾燥時間]×100%}である。
【0132】
表20には、凍結乾燥プロセス#6で得られた凍結乾燥サンプルの0日目及び異なる条件で14日間放置した後の製品の外観、再溶解時間及びpHを示した。
【0133】
【表20】
【0134】
表20結果からすれば、#6凍結乾燥プロセスに従って調製された凍結乾燥製品は、0日目のサンプルが、2~8℃、25℃、40℃のそれぞれで14日間放置した後のサンプルと比べて、製品の外観に変化がなく、いずれも白色で陥没のないケーキ状物であった。注射用水を用いて凍結乾燥製品を75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム溶液に再溶解し、製品の再溶解時間はいずれも1分間を下回った。凍結乾燥製品を再溶解した後、サンプルは、清澄で、無色で粒子がなく、pHが目標値の8.8~9.0であった。
【0135】
表21には、凍結乾燥プロセス#6で得られた凍結乾燥サンプルを0日目及び異なる条件で14日間放置した後の製品のRP-HPLC分析結果を示した。
【0136】
【表21】
【0137】
表21の結果からすれば、凍結乾燥前後の製剤は0日目でいずれも不純物を生じず、濃度及び含有量がいずれも米国薬局方(USP 42)の要求を満たした。2~8℃、25℃及び40℃で14日間放置した凍結乾燥製剤は、製品の純度がいずれも100%であり、不純物A、不純物B及び不純物C、並びにその他の不純物を生じなかった。
【0138】
試験5 スケールアップ凍結乾燥についての研究
凍結乾燥に用いたフォスフェニトインナトリウム液体製剤の配合は、表22に示された通りである。
【0139】
【表22】
【0140】
凍結乾燥前の溶液の調製:
フォスフェニトインナトリウムを、40℃の注射用水に溶解して、溶液に、トロメタモール、マンニトールを加えて、撹拌して溶解した後、1N HCl又はNaOHでpHを8.8に調整し、注射用水を加えて1Lにメスアップし、0.2μmのPESろ膜でろ過し、配合に示された濃度のフォスフェニトインナトリウム液体製剤を調製した。
【0141】
スケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1
凍結乾燥前の溶液1.5mLを、5mLのシリン瓶に注入して、表23に示されたプロセスパラメータで凍結乾燥を行った。
【0142】
【表23】
【0143】
環境温度:20℃
スケールアップ凍結乾燥プロセス#7-2
凍結乾燥前の溶液7.5mLを、15mLのシリン瓶に注入して、表24に示されるプロセスパラメータで凍結乾燥を行った。
【0144】
【表24】
【0145】
凍結乾燥プロセス操作は以下の通りである。
20℃でサンプルを配置して、1.5℃/minの速度で乾燥板温度を-50℃まで降温して予備凍結を行った。製剤を-50℃で3時間冷凍した。凍結乾燥機圧力を75mTorrに設定した後、1.5℃/minの昇温速度で乾燥板温度を20℃に昇温した。Pirani圧力が設定圧力に達すると、乾燥板温度を1.5℃/minの昇温速度で30℃に昇温した。データによれば、スケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1(1.5mL充填体積)に従って調製されたサンプルは、凍結乾燥過程が2日間未満の時間で完了した。スケールアップ凍結乾燥プロセス#7-2(7.5mL充填体積)に従って調製されたサンプルは、凍結乾燥過程が3日間未満の時間で完了した。
【0146】
スケールアップ凍結乾燥プロセスの温度と圧力曲線
スケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1、7-2の温度と圧力曲線は図6~9にしめされた。
【0147】
1.5mL充填体積のサンプルは、20時間後、Pirani圧力が75mTorrに達し、30時間乾燥した後、30℃で二次乾燥を行った。30℃の二次乾燥過程においてより多くの水分が放出され、このことはPirani圧力の増加によって証明された。
【0148】
7.5mL充填体積のサンプルは、30時間後、Pirani圧力が75mTorrに達し、38時間乾燥した後、30℃で二次乾燥を行った。30℃の二次乾燥過程においてより多くの水分が放出され、このことはPirani圧力の増加によって証明された。
【0149】
スケールアップ凍結乾燥プロセス7-1、7-2の温度曲線データによれば、乾燥過程において、-20℃で、1.5ml充填体積の製品を約4時間保持し、7.5mL充填体積の製品を約10時間保持した。
【0150】
スケールアップ凍結乾燥プロセスにおいて、0日目の凍結乾燥サンプルは、白色で、僅かなクラックがあるケーキ状物であり、陥没がなく(図10~13)、サンプルの再溶解時間が約56~70秒であり、水分含有量が約2~3%であった。凍結乾燥サンプルを、2~8℃、25℃及び40℃で1ヶ月間放置した後、依然として白色で、僅かなクラックがあるケーキ状物であり、そのうち、7.5mL充填体積のサンプル含水量が約3%であったが、1.5mL充填体積のサンプル含水量が約3~6%であり、凍結乾燥サンプルの再溶解時間が約31~88秒であった(表25)。
【0151】
【表25】
【0152】
注射用水を用いて凍結乾燥製剤を再溶解させて、濃度が75mg/mLのフォスフェニトインナトリウム溶液とし、0日目、並びに、2~8℃、25℃及び40℃で1ヶ月間放置したサンプルを再溶解させた後、pHが8.8~8.9であり、明らかな変化はなかった(表26)。
【0153】
【表26】
【0154】
表27には、スケールアップ凍結乾燥プロセス#7-1、#7-2で得られた製剤のRP-HPLC分析結果を示した。0日目の液体と凍結乾燥製剤には、不純物A及び不純物Bが含まれていない。製剤は、目標濃度にあった。
【0155】
【表27】
【0156】
表28~30には、凍結乾燥製剤を、2~8℃、25℃及び40℃で、1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間放置した後のRP-HPLC分析結果を示した。データによれば、凍結乾燥製剤を2~8℃、25℃及び40℃で3ヶ月間放置した後、不純物を生じなかった。
【0157】
【表28】
【0158】
【表29】
【0159】
【表30】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含むことを特徴とするフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項2】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、室温で保存できることを特徴とする請求項1に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項3】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、凍結乾燥組成物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項4】
前記炭水化物は、糖、オリゴ糖から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項5】
凍結乾燥の前に、前記炭水化物の組成物における重量体積比が1~20%であることを特徴とする請求項3又は4に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項6】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、更に緩衝剤を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項7】
前記緩衝剤は、リン酸塩緩衝剤、リン酸水素塩緩衝剤、リン酸二水素塩緩衝剤、炭酸水素塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、アミノ酸緩衝剤、トリアルキルアミン緩衝剤、トロメタモール緩衝剤、ピロリン酸塩緩衝剤、グリシルグリシン(Glycylglycine)緩衝剤から選択される1種又は複数種であることを特徴とする請求項6に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項8】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、凍結乾燥前又は再溶解後のpHが8~10であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項9】
凍結乾燥の前に、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項10】
再溶解の後、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL~150mg/mLであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項11】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、25℃及び60%の相対湿度で14日間経過して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じないことを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【化1】
【請求項12】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、40℃及び75%の相対湿度で14日間放置して、不純物A、不純物B及び不純物Cを生じないことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【化2】
【請求項13】
前記フォスフェニトインナトリウム固体組成物は、凍結乾燥組成物であり、前記凍結乾燥組成物は、フォスフェニトインナトリウムと、緩衝剤と、少なくとも1種の炭水化物とを含み、前記緩衝剤は、トロメタモールが選択され、前記炭水化物は、トレハロース、スクロース、マンニトール又はラクトースから選択され、前記凍結乾燥組成物は、凍結乾燥前又は再溶解後のpHが8~9であることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項14】
凍結乾燥の前に、前記フォスフェニトインナトリウムの濃度が75mg/mL又は100mg/mLであり、前記緩衝剤の濃度が20~100mMであり、前記炭水化物の組成物における重量体積比が5~10%であることを特徴とする請求項13に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【請求項15】
合計凍結乾燥時間が従来の凍結乾燥法の合計凍結乾燥時間より60%以上減少することを特徴とするフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法。
【請求項16】
前記凍結乾燥法は、(1)フォスフェニトインナトリウム溶液を調製する工程と、(2)前記フォスフェニトインナトリウム溶液を予備凍結する工程と、(3)昇華乾燥工程及び解析乾燥工程を単独で設置することなく、一定の昇温速度で乾燥板温度を予定の温度に直接昇温して乾燥する工程とを含むことを特徴とする請求項15に記載のフォスフェニトインナトリウムの凍結乾燥法。
【請求項17】
前記フォスフェニトインナトリウム溶液は、フォスフェニトインナトリウムと、少なくとも1種の炭水化物とを含むことを特徴とする請求項16に記載の凍結乾燥法。
【請求項18】
第(2)工程における予備凍結の温度が-40~-60℃であることを特徴とする請求項16又は17に記載の凍結乾燥法。
【請求項19】
癲癇又は他の痙攣状態の治療薬を製造するための、請求項1~14のいずれか1項に記載のフォスフェニトインナトリウム固体組成物。
【国際調査報告】