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特表2023-551734眼の疾患を治療するための組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-12
(54)【発明の名称】眼の疾患を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231205BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231205BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P27/02 ZNA
A61P27/06
A61K39/395 Y
A61K39/395 D
A61K9/08
C07K16/18
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533830
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 US2021061755
(87)【国際公開番号】W WO2022120137
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】63/121,629
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516008350
【氏名又は名称】アネクソン,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グローバー,アニタ
(72)【発明者】
【氏名】テイラー,ロリ
(72)【発明者】
【氏名】イェドノック,テッド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC10
4C076FF12
4C076FF14
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB31
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、概して、眼の疾患(例えば、緑内障または加齢黄斑変性症)を予防する、発生リスクを低減する、または治療する組成物及び方法に関連する。加齢黄斑変性症は、地図状萎縮であってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者における眼の疾患を治療する方法であって、約1mg~約10mgの抗C1q抗体を含む組成物を、硝子体注射を介して前記患者に投与することを含み、
前記抗体が、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記抗体が、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、前記軽鎖可変ドメインが、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記軽鎖可変ドメインが、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体が、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、前記重鎖可変ドメインが、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記重鎖可変ドメインが、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、抗体断片またはそれらの抗体誘導体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体が抗体断片であり、前記抗体断片が、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディ、または一本鎖抗体分子である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記Fab断片が、配列番号39の重鎖Fab断片及び配列番号40の軽鎖Fab断片を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体が週1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が隔週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体が3週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体が月1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が4週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が6週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が8週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体が隔月毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体が10週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体が12週毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体が3ヵ月毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体が4ヵ月毎に1回投与される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体が、少なくとも3ヵ月間、少なくとも4ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、少なくとも7ヵ月間、少なくとも8ヵ月間、少なくとも9ヵ月間、少なくとも10ヵ月間、少なくとも11ヵ月間、または少なくとも12ヵ月間投与される、請求項9~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が12ヵ月間投与される、請求項9~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記投与される組成物が、約1mg、約1.5mg、約2mg、約2.5mg、約3mg、約3.5mg、約4mg、約4.5mg、約5mg、約5.5mg、約6mg、約6.5mg、約7mg、約7.5mg、約8mg、約8.5mg、約9mg、約9.5mg、または約10mgの前記抗C1q抗体を含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、約1mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、約2.5mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が、約5mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が、約2mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が、約5mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物が、約10mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物が、約1mg~約2.5mg、約2.5mg~約5mg、約5mg~約7.5mg、または約7.5mg~約10mgの前記抗C1q抗体を投与することを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記眼の疾患が、緑内障または加齢黄斑変性症である、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記加齢黄斑変性症が地図状萎縮である、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許出願は、2020年12月4日に出願された米国仮特許出願第63/121,629号に対する優先権を主張するものであり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
緑内障及び加齢黄斑変性症(AMD)は、全世界で、不可逆的な失明の主要な原因である。萎縮型AMDまたは進行した萎縮型AMDとしても知られる地図状萎縮(GA)は、進行したAMDの形態である。40~80歳の人口についての世界的な緑内障有病率は、3.54%(95%CrI、2.09-5.82)である。有病率は、2040年までに世界で1億1,200万人、北米で470万人に増加すると予測されている。現在承認されている緑内障の治療は、眼圧(IOP)を低下させることに限られている。手術、レーザー治療またはIOP下降剤は、全て一般に用いられている。しかし、投薬または手術によってIOPをよく管理した場合であっても、多くの緑内障患者は進行性の視力障害を経験し続ける。さらに、GAの承認された処置または治療法は存在しない。したがって、IOPの管理では、進行性かつ不可逆的な視力障害につながる神経節細胞、軸索またはシナプスの欠損を予防するために不十分である患者のための神経保護処置という、重要な満たされていないニーズが存在する。それゆえ、眼の疾患(例えば、緑内障、及び地図状萎縮などのAMD)を予防する、発生リスクを低減する、及び治療するための新規療法が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、概して、ヒト患者における眼の疾患(例えば、緑内障または、地図状萎縮を含むAMDなどの加齢黄斑変性症)を予防する、発生リスクを低減する、または治療する組成物及び方法を対象とする。そのような方法は、患者に、約1mg~約10mgの抗C1q抗体を含む組成物を、硝子体注射を介して投与することを含み、上記抗体は、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインと、を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖可変ドメインは、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、重鎖可変ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸配列を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸配列を有するHVR-H3を含む。いくつかの実施形態では、重鎖可変ドメインは、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインであって、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインであって、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインと、を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、を含む。抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、抗体断片またはそれらの抗体誘導体であってよい。抗体断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディまたは一本鎖抗体分子であってよい。いくつかの実施形態では、Fab断片は、配列番号39の重鎖Fab断片及び配列番号40の軽鎖Fab断片を含む。
【0004】
いくつかの実施形態では、抗体は、1週間に1回、隔週毎に1回、3週間毎に1回、1ヵ月に1回、4週間毎に1回、6週間毎に1回、8週間毎に1回、隔月毎に1回、10週間毎に1回、12週間毎に1回、3ヵ月毎に1回、または4ヵ月毎に1回投与される。いくつかの実施形態では、抗体は、少なくとも6ヵ月間、少なくとも7ヵ月間、少なくとも8ヵ月間、少なくとも9ヵ月間、少なくとも10ヵ月間、少なくとも11ヵ月間または少なくとも12ヵ月間投与される。
【0005】
いくつかの実施形態では、投与される組成物は、約1mg、約1.5mg、約2mg、約2.5mg、約3mg、約3.5mg、約4mg、約4.5mg、約5mg、約5.5mg、約6mg、約6.5mg、約7mg、約7.5mg、約8mg、約8.5mg、約9mg、約9.5mg、または約10mgの抗C1q抗体を含む。投与される組成物は、約1mg~約5mgの抗C1q抗体を含んでよい。投与される組成物は、約1mg~約2.5mg、約2.5mg~約5mg、約5mg~約7.5mg、または約7.5mg~約10mgの抗C1q抗体を含んでよい。投与される組成物は、約5mgの抗C1q抗体を含んでよい。投与される組成物は、約10mgの抗C1q抗体を含んでよい。
【0006】
いくつかの実施形態では、眼の疾患は、緑内障、または地図状萎縮などの加齢黄斑変性症である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ヒトC1q結合アッセイを示す。片側ELISA(one-sided ELISA)で、ヒトC1qに、Mab2-Fab、FabA及びMab2を結合させる。酵素を標識した抗ヒトFcまたは抗ヒトカッパ抗体、その後、酵素基質を用いて、結合した抗体またはFab分子を検出した。抗体は、ヒトC1qに対して同等の結合親和性を示した。Mab2-Fab、FabA及びMab2のEC50は、それぞれ4.4、2.5及び4.9ng/mL(34~95pMの範囲)であった。
図2】FabAは古典的経路を阻害するが、レクチン経路及び補体副経路を阻害しないことを示す。FabA及びMab2を、古典的経路、レクチン経路及び補体副経路を阻害する能力について、EurodiagnosticaからのELISAベースのアッセイキット(Weislab[商標])を用いて評価した。ウエルを、古典的経路(IgM)、レクチン経路(マンナン)または副経路(リポ多糖体)の、特定の活性化剤でコーティングし、C5b-9末端複合体検出抗体を用いて全経路の活性化を評価した。C5の阻害抗体を、陽性対照として使用した。FabA及びMab2は古典的経路を選択的に遮断し、IC50=0.3μg/mLであり、一方で抗C5は3経路全てを阻害する。
図3】ヒト血清における、IgM被覆RBCの溶血の阻害を示す。表面反応性ポリクローナルIgM抗体を用いて予め感作処理したヒツジRBCを、37℃で、20~30分間、ヒト血清(100xに希釈)と共培養した。ヘモグロビンの放出を測定することでRBC溶血を定量化し、無治療によって引き起こされる溶血のパーセンテージで表す。
図4】Mab1-Fab、Mab1またはMab2で処置した眼の視神経における、損傷した軸索数の減少を示す。各動物の片眼において、1日目に前眼房に、1μlの6μmポリスチレンビーズ、1μlの10μmポリスチレンビーズ(Polybead Microspheres;Polysciences,Inc.,Warrington,PA,USA)、及び1μlの粘弾性溶液(10mg/mLのヒアルロン酸ナトリウム;Advanced Medical Optics Inc.,USA)を注射して、IOPの上昇を誘発した。反対側の眼は、対照として機能させるために無処置のままにした。抗体Mab2、Mab1及びMab1-Fab(Mab1の酵素消化由来のFab)、対生理食塩水を、硝子体内にミクロビーズを注入した眼に、ミクロビーズ注入の1日前及び1週間後に投与した(0日目及び7日目、各注入について2μLの10mg/mL抗体食塩水、対生理食塩水単独)。損傷の2週間後、動物から視神経を収集し(生理食塩水及び4%のパラホルムアルデヒドによって灌流)、4%のパラホルムアルデヒド及び1%のオスミウムによって後固定し、上昇アルコール濃度において脱水し、1%の酢酸ウラニル/エタノール中に置いた。神経をエポキシ樹脂内に埋め込み、半薄切片(1um)を切り取った。StereoInvestigatorソフトウェア(MicroBrightfield,Inc,VT,USA)を使用して、変性した軸索の合計数を推定した。スケールバー=20um。Mab1-Fab及びMab2はいずれも、視神経における損傷した軸索の形成を大幅に低下させ、一方で抗体Mab1も同様の傾向を示した。
図5A】マウス光損傷モデルにおいて、Mab1抗体を用いた視細胞神経欠損及び網膜機能の保護を示す。マウスの7日間の光損傷モデル、続いてMab1抗体の硝子体投与(IVT)、及び14日目における網膜機能及び組織学の評価を示す。7日目に、1μLの7.5mg/mLのMab1またはアイソタイプ対照抗体を、IVT投与を介してマウスに投与した。
図5B】マウス光損傷モデルにおいて、Mab1抗体を用いた視細胞神経欠損及び網膜機能の保護を示す。Mab1処置は、アイソタイプ対照と比較したとき、網膜の外顆粒層のTunel陽性視細胞の著しい低下をもたらしたことを示す。
図5C】マウス光損傷モデルにおいて、Mab1抗体を用いた視細胞神経欠損及び網膜機能の保護を示す。Mab1処置は、アイソタイプ対照と比較したとき、外顆粒層における視細胞列の数の増加をもたらしたことを示す。
図5D】マウス光損傷モデルにおいて、Mab1抗体を用いた視細胞神経欠損及び網膜機能の保護を示す。Mab1抗体処置は、アイソタイプ対照抗体と比較したとき、14日目の網膜電図におけるA波及びB波の著しい上昇をもたらしたことを示す。
図6】単回IVT注射後の、房水中の遊離C1qを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
総論
本開示は、概して、眼の疾患(例えば、緑内障または、地図状萎縮を含むAMDなどの加齢黄斑変性症)を予防する、発生リスクを低減する、または治療する組成物及び方法を対象とする。
【0009】
本明細書にて開示されるのは、レクチン経路または補体副経路に影響を及ぼさずに古典的補体カスケードを阻害する、組換えヒト化免疫グロブリンG(IgG1)抗原結合断片(Fab)である。抗C1q Fab(例えばFabA、すなわち配列番号39の重鎖Fab断片及び配列番号40の軽鎖Fab断片を含む抗C1q Fab)は、眼科的疾患、例えば緑内障、及び地図状萎縮(GA)などのAMDの治療のための、硝子体内(IVT)に投与する試薬として開発される。マウス抗体M1(配列番号3の重鎖可変ドメイン及び配列番号7の軽鎖可変ドメインを含むMab1抗体)に由来する超可変領域は、ヒトIgG1 Fab断片コンストラクト(FabA)として記載した。Mab1に由来する超可変領域を含む、完全長ヒトIgG4抗体(Mab2、すなわち配列番号8の重鎖可変ドメイン及び配列番号4の軽鎖可変ドメインを含む抗体)も記載した。Mab1及びMab2、さらにそれらのFab(Mab1-Fab及びMab2-Fab)は、薬理学試験においてFabAの代用分子として使用した。FabAは、Fc重鎖定常ドメイン2及び3(CH2及びCH3)を欠く一価のFabコンストラクトであるため、Fcドメインとの相互作用を介してC1qに結合することができない。さらに、FabAは単一の抗原結合アームしか持たないため、広範囲のFabA濃度にわたって、C1qについてアゴニスト性活性を示さない。
【0010】
補体カスケードは先天性免疫の重要な要素であり、異なる3経路、すなわち古典的経路、レクチン経路及び副経路を介して活性化されることができる。3経路全てが補体成分C3の活性化につながり、これにより免疫細胞のリクルート、炎症、膜侵襲複合体を介した細胞膜溶解、及び細胞死へと最終的に導かれる。
【0011】
古典的補体カスケードを開始させる分子であるC1qは、神経変性疾患、例えば緑内障、及びGAなどのAMDの開始及び拡大と関連があると考えられている。C1qを阻害することで、古典的補体カスケードの開始を遮断し、神経細胞細胞膜への損傷を直接的に低減させ、また補体活性化の結果による炎症を低減させることによって、神経細胞及びシナプスの損傷を遅らせる可能性がある。
【0012】
Mab2-Fab及び/またはFabAは、Biacore(<10pM)、及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)(40~50pM、図1)によって測定されるように、ヒトC1qに対して高い親和性の結合を示す。Mab1は、C1qの分離した球状頭部ドメインに結合するが、C1qのコラーゲン尾部には結合しない(ELISAによって決定)。この所見と一致して、Mab1は、C1qの球状頭部ドメインによって媒介される基質相互作用(IgM、C反応性タンパク質[CRP]及びホスファチジルセリン)を阻害し、FabAは、C1qの、免疫グロブリンM(IgM)被覆赤血球(RBC)との機能的相互作用を阻害する(溶血の遮断、図3)。抗体Mab1は、C1qを特異的に認識し、その他の補体成分(C3b及びC5)、またはTNFをはじめとするその他のC1q/腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーメンバー、及びアディポネクチン、すなわちC1qと球状頭部ドメインで最も高い配列同一性を共有するタンパク質への結合を示さない。これらの結果と一致して、FabAは、マンノース結合レクチン(MBL、別のC1q/TNFスーパーファミリーメンバー)によって開始されるレクチン補体経路を阻害せず、また補体活性化副経路(C3bによって開始される)も阻害しない(図2)。
【0013】
緑内障は、視神経に損傷を与え、最終的に視力喪失につながる、一連の進行性の眼の障害を含む。原発性開放隅角緑内障では、視神経損傷の主な要因は眼圧(IOP)の上昇であり、これにより、視野検査での特徴的な視力喪失が経時的に引き起こされる。この視力喪失は、(1)網膜神経節細胞(RGC)層の網膜神経細胞または神経節細胞の進行性変性、(2)網膜神経線維層(RNFL)の網膜神経細胞または神経節細胞の軸索の進行性変性、及び(3)主に網膜内網状層における神経細胞シナプスの数の減少によるものである。
【0014】
現在承認されている緑内障の治療は、眼圧(IOP)を低下させることに限られている。手術、レーザー治療またはIOP下降剤は、全て一般に用いられている。しかし、投薬または手術によってIOPをよく管理した場合であっても、多くの緑内障患者は進行性の視力障害を経験し続ける。共同初期緑内障試験(CIGTS)では、緑内障患者を、線維柱帯切除術(手術)または局所的投薬を用いた初期治療に無作為化した。試験過程において、投薬群での17.1~18.3mmHgまたは手術群での13.8~14.4mmHgの範囲の平均IOPにもかかわらず、実質的に悪化した患者の割合(ハンフリー視野検査[HVF]による3dB以上の平均偏差)は、9年でそれぞれ23.1%及び34.1%であった。早期発症緑内障試験では、患者を、局所用β遮断薬と組み合わせたアルゴンレーザー線維柱帯形成術群と、進行が観察されるまで治療しない群に無作為化した。初期治療に無作為化された群では、IOPがベースラインから25%低下したにもかかわらず、45%の患者が、HVFまたは視神経検査を基準として6年で進行した。これらのデータは、IOPの管理では、進行性かつ不可逆的な視力障害につながる神経節細胞、軸索またはシナプスの欠損を予防するために不十分である患者のための神経保護処置という、重要な満たされていないニーズが存在することを立証している。
【0015】
C1qは、ある種の病原体、自己抗原の変性、抗原結合抗体または細胞表面における特定の分子を認識する。正常な老化では、C1qはシナプス上に蓄積するが、おそらく年齢または神経細胞へのストレスによってこれが弱まり、続いて様々な病態生理学的刺激が古典的補体カスケードの活性化を誘発し、シナプスの不適当な排除につながる可能性がある。シナプス除去を伴うこの異常な炎症反応は、補体媒介神経変性(CMND)と称される。CMNDは、アルツハイマー病、統合失調症、ハンチントン病、前頭側頭型認知症脊髄筋萎縮症及び緑内障に関与している。網膜において変性ストレスがあると、C1q活性化によりシナプス排除がもたらされ、RGC及び視神経の欠損に寄与する。C1q増加及び補体活性化は、ヒト緑内障の網膜において観察され、プロテオミクス分析及び組織学的染色によって示されている。CMNDは、また緑内障モデルのラット、マウス及びイヌでも報告されている。慢性的、自然発生的な緑内障マウスモデル(DBA/2Jマウス)では、疾患進行の早い段階で網膜のC1q蓄積及びシナプス喪失が発生し、一方でC1qの遺伝子欠損モデルでは保護され、RGC喪失及び視神経変性が著しく遅くなる。これらの結果は、前眼房へのミクロビーズ注入によるIOPの急上昇を伴う、別のマウスモデルでも再現された。C1qの遺伝子欠損、または眼への補体阻害剤の直接的な注入を用いた薬理学的阻害のいずれの場合でも、神経細胞欠損及び網膜変性から保護された。別の試験では、IOPの短期的な超上昇によって誘発された、一過性虚血に続く網膜変性を検討し、ここでもRGC喪失及び網膜菲薄化は、C1qノックアウトマウスでは改善された。
【0016】
加齢黄斑変性症(AMD)は、全世界で失明の主要な原因である。萎縮型AMDまたは進行した萎縮型AMDとしても知られているGAは、AMDの進行した形態であり、網膜中心視細胞、網膜色素上皮及び脈絡毛細管の進行性かつ不可逆的欠損に至り、視力障害をもたらす。現在のところ、GAの承認された処置または治療法は存在しない。
【0017】
補体は、補体経路活性を変更できる6種の異なるタンパク質で識別される多型とともに、AMDと遺伝的に連結しているようである。FabAによって行うように、C1qの標的結合頭部の相互作用を阻害することによって、古典的経路の活性を完全に阻害し、レクチン経路及び補体活性化副経路を無処置のままにすることができる。C1q/古典的補体経路は、発生において望ましくないシナプスの排除を媒介する。成人では、C1qはシナプス上に蓄積し、加齢及び疾患があると、シナプス排除、神経炎症及び変性を異常に誘発する場合がある。C1qの阻害は、神経変性の多数のモデルにおいて保護的である。
【0018】
古典的補体カスケードを開始させる分子であるC1qは、GAの開始及び拡大と関連があると考えられている。C1qは、加齢とともに、2つの異なる、重要なGA関連疾患の過程において、外網状層の視細胞神経細胞シナプス及びドルーゼン上に蓄積する。ドルーゼンは、変性している視細胞外節からの、脂質及びタンパク質で構成される細胞外蓄積であり、この大きさ及び領域が増加すると、AMD発病のリスクを伴う。古典的経路及び補体活性化副経路両方の活性化が視細胞外節上で明白であり、GAにおける網膜萎縮を引き起こすことが示されている。光損傷により誘発したGAマウスモデルでは、異常なC1q/古典的経路活性は、視細胞の欠損と関連している。網膜ミクログリア/マクロファージにより産生された局所的なC1qが、インフラマソーム活性化及び炎症の元凶であることが示されてきた。このモデルにおいてFabAを用いて網膜のC1qを阻害すると、網膜萎縮が遅くなり、視細胞欠損が減少し、網膜厚みが上昇し、網膜の機能が保たれた。FabAは、GAをはじめとする補体媒介性の網膜変性の治療のために、新規アプローチを提供する。
【0019】
本開示で挙げられる全ての配列は、米国特許出願番号14/933,517、米国特許出願番号14/890,811、米国特許番号8,877,197、米国特許番号9,708,394、米国特許出願番号15/360,549、米国特許番号9,562,106、米国特許番号10,450,382、米国特許番号10,457,745、国際特許出願番号PCT/US2018/022462(これらの各々は、それが開示する抗体及び関連する組成物について参照により本明細書に組み込まれる)から参照により組み込まれる。
【0020】
全長抗体は、組換えDNA修飾技術の使用によって調製され得る。そのような修飾バージョンには、例えば、天然抗体のアミノ酸配列内にまたはアミノ酸配列への挿入、欠失または変化によって天然抗体可変領域から作製されるものが含まれる。このタイプの特定の例には、1つ目の抗体からの少なくとも1つのCDR及び任意に1つ以上のフレームワークアミノ酸及び2つ目の抗体からの可変領域ドメインの残りを含有するそれらの修飾された可変領域ドメインが含まれる。抗体をコードするDNAは、全長抗体をコードするDNAの所望の部分以外の全てを欠失させることによって調製され得る。キメラ化抗体をコードするDNAは、ヒト定常領域を実質的にまたは独占的にコードするDNA及びヒト以外の哺乳動物の可変領域の配列に実質的にまたは独占的に由来する可変領域をコードするDNAを組み換えることによって調製され得る。ヒト化抗体をコードするDNAは、対応するヒト抗体領域に実質的にまたは独占的に由来する定常領域及び相補性決定領域(CDR)以外の可変領域をコードするDNA、及びヒト以外の哺乳動物に実質的にまたは独占的に由来するCDRをコードするDNAを組み換えることによって調製され得る。
【0021】
抗体をコードするDNA分子の好適な供給源には、全長抗体を発現するハイブリドーマなどの細胞が含まれる。例えば、抗体は、抗体の重鎖及び/または軽鎖をコードする発現ベクターを発現する宿主細胞から単離され得る。
【0022】
Fab断片が挙げられるがこれらに限定されない抗体断片、及び/または抗体誘導体はまた、抗体可変及び定常領域をコードするDNAの操作及び再発現を含む組換えDNA修飾技術の使用によって調製され得る。標準的な分子生物技術は、所望により、さらなるアミノ酸またはドメインを改変、付加または欠失させるために使用され得る。可変または定常領域に対する任意の変化は、依然として、本明細書で使用される用語「可変」及び「定常」領域に包含される。いくつかの例では、C1ドメインの翻訳が鎖間システインで停止するように、C1の鎖間システインをコードするコドンの直後に終止コドンを導入することによって抗体断片を生成するためにPCRが使用される。好適なPCRプライマーを設計するための方法は当該技術分野でよく知られており、抗体C1ドメインの配列は容易に利用可能である。いくつかの実施形態では、終止コドンは、部位特異的変異誘発技術を使用して導入され得る。
【0023】
本開示の抗体は、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEならびにそのサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む)を含む任意の抗体アイソタイプ(「クラス」)に由来し得る。ある特定の好ましい実施形態では、抗体の重鎖及び軽鎖は、IgGに由来する。抗体の重鎖及び/または軽鎖は、マウスIgGまたはヒトIgGに由来し得る。ある特定の他の好ましい実施形態では、抗体の重鎖及び/または軽鎖は、ヒトIgG1に由来する。さらに他の好ましい実施形態では、抗体の重鎖及び/または軽鎖は、ヒトIgG4に由来する。
【0024】
本開示の抗体は、C1q、C1r、またはC1sに結合し、その生物学的活性を阻害し得る。例えば、(1)自己抗体に対するC1q結合、(2)C1rに対するC1q結合、(3)C1sに対するC1q結合、(4)ホスファチジルセリンに対するC1q結合、(5)ペントラキシン-3に対するC1q結合、(6)C反応性タンパク質(CRP)に対するC1q結合、(7)球状C1q受容体(gC1qR)に対するC1q結合、(8)補体受容体1(CR1)に対するC1q結合、(9)Bアミロイドに対するC1q結合、または(10)カルレチキュリンに対するC1q結合である。他の実施形態では、C1qの生物学的活性は、(1)古典的補体活性化経路の活性化、(2)溶解の減少及び/またはC3沈着の減少、(3)抗体及び補体依存性細胞傷害の活性化、(4)CH50溶血、(5)赤血球溶解の減少、(6)赤血球貪食の減少、(7)樹状細胞浸潤の減少、(8)補体媒介性赤血球溶解の阻害、(9)リンパ球浸潤の減少、(10)マクロファージ浸潤の減少、(11)抗体沈着の減少、(12)好中球浸潤の減少、(13)血小板貪食の減少、(14)血小板溶解の減少、(15)移植片生存の改善、(16)マクロファージ媒介性貪食の減少、(17)自己抗体媒介性補体活性化の減少、(18)輸血反応による赤血球破壊の減少、(19)同種抗体による赤血球溶解の減少、(20)輸血反応による溶血の減少、(21)同種抗体媒介性血小板溶解の減少、(22)貧血の改善、(23)好酸球増多症の減少、(24)赤血球上のC3沈着の減少(例えば、RBC上のC3b、iC3bなどの沈着の減少)、(25)血小板上のC3沈着の減少(例えば、血小板上のC3b、iC3bなどの沈着の減少)、(26)アナフィラトキシン生成の減少、(27)自己抗体媒介性発疹形成の減少、(28)自己抗体誘導性エリテマトーデスの減少、(29)輸血反応による赤血球破壊の減少、(30)輸血反応による血小板溶解の減少、(31)肥満細胞活性化の減少、(32)肥満細胞ヒスタミン放出の減少、(33)血管透過性の減少、(34)移植片内皮上の補体沈着の減少、(35)B細胞抗体生成、(36)樹状細胞成熟、(37)T細胞増殖、(38)サイトカイン生成、(39)ミクログリア活性化、(40)アルツス反応、(41)移植片内皮におけるアナフィラトキシン生成の減少、または(42)補体受容体3(CR3/C3)発現細胞の活性化である。
【0025】
いくつかの実施形態では、CH50溶血は、ヒト、マウス、及び/またはラットCH50溶血を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、CH50溶血の少なくとも約50%~少なくとも約95%を中和することが可能である。いくつかの実施形態では、抗体は、CH50溶血の50%、60%、70%、80、90%、または100%を中和することが可能である。抗体はまた、150ng/ml未満、100ng/ml未満、50ng/ml未満、または20ng/ml未満の用量でCH50溶血の少なくとも50%を中和することが可能であり得る。
【0026】
補体活性を測定するための他のインビトロアッセイには、補体活性化中に形成する補体成分または複合体の分割生成物の測定のためのELISAアッセイが含まれる。古典的経路を介する補体活性化は、血清中のC4d及びC4のレベルを追跡することによって測定され得る。副経路の活性化は、循環におけるBbまたはC3bBbP複合体のレベルを評価することによってELISAで測定され得る。インビトロ抗体媒介性補体活性化アッセイもまた、C3a生成の阻害を評価するために使用され得る。
【0027】
本開示の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体、その抗体断片、またはその誘導体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体である。
【0028】
本開示の抗体はまた、抗体断片、例えば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fv断片、ダイアボディ、または一本鎖抗体分子であり得る。いくつかの実施形態では、抗体断片はFab断片である。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗体は、組換え手段によって調製、発現、生成または単離され得るヒトモノクローナル抗体、例えば、(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子またはそれから調製されるハイブリドーマのトランスジェニックまたはトランス染色体である動物(例えば、マウス)から単離された抗体(以下にさらに記載される)、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から単離された抗体、例えば、トランスフェクトーマから単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体、及び(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、生成または単離された抗体である。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列及び/または非生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列に対してトランスジェニックな動物が使用される場合、インビボ体細胞変異誘発)を受けてもよく、したがって、組換え抗体のV及びV領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列V及びV配列に由来し、関連しているが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に自然に存在しなくてもよい配列である。
【0030】
いくつかの実施形態では、抗体は、齧歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター及びモルモット)を(1)ヒト血漿または血清からの精製された補体成分の酵素消化に由来する天然補体成分(例えば、C1q)、または(2)真核生物系または原核生物系のいずれかによって発現した組換え補体成分、またはその誘導断片で免疫することによって樹立され得るヒト化及び/またはキメラモノクローナル抗体である。他の動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニックマウス、及びヒトBリンパ球が移植された重症複合免疫不全(SCID)マウスが免疫のために使用され得る。
【0031】
ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体は、病原体に対する免疫系の反応において免疫グロブリン(Ig)分子として天然に生成される。ヒト血清において8mg/mlの濃度を有する優勢的な形式である約150kDaのIgG1分子は、2つの同一の約50kDaの重鎖及び2つの同一の約25kDaの軽鎖から構成される。
【0032】
ハイブリドーマは、免疫された動物からのBリンパ球をミエローマ細胞と融合させることによって従来の手順によって生成され得る。また、抗C1q抗体は、ファージディスプレイシステムにおいてヒトBリンパ球からの組換え一本鎖FvまたはFabライブラリをスクリーニングすることによって生成され得る。ヒトC1qに対するMAbの特異性は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウエスタンイムノブロッティング、または他の免疫化学的技術によって試験され得る。
【0033】
スクリーニングプロセスにおいて同定された抗体の補体活性化に対する阻害活性は、補体副経路の場合は未感作ウサギまたはモルモットRBC、または古典的補体経路の場合は感作ニワトリまたはヒツジRBCを使用して溶血アッセイによって評価され得る。古典的補体経路に特異的な阻害活性を示すそれらのハイブリドーマは、限界希釈によってクローニングされる。抗体は、上述したアッセイによってヒトC1qに対する特異性についての特性化のために精製される。
【0034】
定義
本明細書で使用される場合、「a」または「an」は、1つ以上を意味し得る。本明細書において請求項(複数可)で使用される場合、用語「含む」と併せて使用される場合、用語「a」または「an」は、1つまたは複数を意味し得る。例えば、「抗体」に対する言及は、1つから多くの抗体の言及である。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくとも第2のまたはそれ以上を意味し得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、別の化合物または組成物と「併せた」投与は、同時投与及び/または異なる時点での投与を含む。併せた投与はまた、異なる投薬頻度または間隔、及び同じ投与経路または異なる投与経路を使用することを含む、共製剤としての投与または別々の組成物としての投与を包含する。
【0036】
用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書で「抗体」と互換的に使用される。本明細書における用語「抗体」は、最も広義に使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、生物学的活性を示す場合に限り抗体断片、及び抗体誘導体を具体的に包含する。
【0037】
基本的な4鎖抗体単位は、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖から構成されるヘテロ四量体糖タンパク質である。V及びVが一緒に対合すると、単一の抗原結合部位が形成される。異なるクラスの抗体の構造及び特性については、例えば、Basic and Clinical Immunology,8th Ed.,Daniel P.Stites,Abba I.Terr and Tristram G.Parslow(eds.),Appleton & Lange,Norwalk,CT,1994,page 71 and Chapter 6を参照。
【0038】
任意の脊椎動物種に由来するL鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(「κ」)及びラムダ(「λ」)と呼ばれる2つの明確に異なるタイプのうちの1つに割り当てられ得る。それらの重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てられ得る。5つのクラスの免疫グロブリンが存在する:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM(アルファ(「α」)、デルタ(「δ」)、イプシロン(「ε」)、ガンマ(「γ」)及びミュー(「μ」)と標記される重鎖をそれぞれ有する)。γ及びαクラスは、CH配列及び機能の比較的小さな相違に基づいてサブクラス(アイソタイプ)にさらに分類され、例えば、ヒトは、次のサブクラス:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2を発現する。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元構成はよく知られており、一般に、例えば、Abbas et al.,Cellular and Molecular Immunology,4th ed.(W.B.Saunders Co.,2000)に記載されている。
【0039】
「全長抗体」は通常、2つの同一の軽(L)鎖及び2つの同一の重(H)鎖を含む約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に連結されている一方で、ジスルフィド結合の数は、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。各重鎖及び軽鎖は、規則的間隔の鎖内ジスルフィド架橋も有する。各重鎖は、一端に可変ドメイン(V)と、それに続くいくつかの定常ドメインを有する。各軽鎖は、一端に可変ドメイン(V)を有し、その他端に定常ドメインを有し、軽鎖の定常ドメインは、重鎖の第1の定常ドメインと整列し、軽鎖の可変ドメインは、重鎖の可変ドメインと整列している。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間に界面を形成すると考えられている。
【0040】
「単離された」分子または細胞は、それが生成された環境において通常関連する少なくとも1つの混入分子または細胞から同定及び分離された分子または細胞である。好ましくは、単離された分子または細胞は、生成環境に関連する全ての成分と会合しない。単離された分子または細胞は、天然に見られる形態または状況以外の形態である。そのため、単離された分子は、細胞に天然に存在する分子とは区別され;単離された細胞は、組織、器官、または個体に天然に存在する細胞とは区別される。いくつかの実施形態では、単離された分子は、本開示の抗C1q抗体である。他の実施形態では、単離された細胞は、本開示の抗C1q抗体を生成する宿主細胞またはハイブリドーマ細胞である。
【0041】
「単離された」抗体は、その生成環境(例えば、天然または組換え)の成分から同定、分離、及び/または回収されたものである。好ましくは、単離されたポリペプチドは、その生成環境からの全ての他の混入成分と会合しない。組換えトランスフェクション細胞に起因するものなどのその生成環境からの混入成分は、抗体の研究、診断的または治療的使用を典型的に妨げるであろう物質であり、これには酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性または非タンパク質性の溶質が含まれ得る。ある特定の好ましい実施形態では、ポリペプチドは、(1)例えば、ローリー法によって決定される、抗体の95重量%超、いくつかの実施形態では、99重量%超になるまで、(2)スピニングカップシークエネーターを使用して、N末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るのに十分な程度まで、または(3)クマシーブルー、または好ましくはシルバー染色を使用して、非還元または還元条件下でSDS-PAGEによって均質性が得られるまで、精製されるであろう。単離された抗体には、抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換えT細胞内でin situの抗体が含まれる。しかしながら、通常、単離されたポリペプチドまたは抗体は、少なくとも1つの精製工程を含むプロセスによって調製される。
【0042】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ「V」及び「V」と称され得る。これらのドメインは通常、抗体の最も可変性の高い部分であり(同じクラスの他の抗体と比べて)、抗原結合部位を含有する。
【0043】
用語「可変」は、可変ドメインのある特定のセグメントが、抗体によって配列が大幅に異なるという事実を指す。Vドメインは、抗原結合を媒介し、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を定義する。しかしながら、可変性は、可変ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。むしろ、それは、軽鎖及び重鎖の両方の可変ドメインの両方において、超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、ベータ-シート構造を接続し、いくつかの場合では、ベータ-シート構造の一部を形成するループを形成する3つのHVRによって接続されたベータ-シート立体配置を大いに採用する4つのFR領域を含む。各鎖内のHVRは、FR領域によって近接して互いに結び付いており、他方の鎖のHVRと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest,Fifth Edition,National Institute of Health,Bethesda,MD(1991)を参照)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接的に関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞毒性における抗体の関与を示す。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「CDR」または「相補性決定領域」は、重鎖及び軽鎖の両方のポリペプチドの可変領域内に見られる非連続的抗原結合部位を意味することが意図されている。CDRは、Kabat et al.,J.Biol.Chem.252:6609-6616(1977);Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequences of proteins of immunological interest”(1991)(本明細書ではKabat 1991とも称される);Chothia et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)(本明細書ではChothia 1987とも称される);及びMacCallum et al.,J.Mol.Biol.262:732-745(1996)(定義には、互いに対して比較した場合にアミノ酸残基の重複またはサブセットが含まれる)に記載されている。それにもかかわらず、抗体もしくはグラフト抗体またはそのバリアントのCDRを指すためのいずれの定義の適用も、本明細書で定義及び使用される用語の範囲内であることが意図されている。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「CDR-L1」、「CDR-L2」、及び「CDR-L3」は、それぞれ、軽鎖可変領域における第1、第2、及び第3CDRを指す。本明細書で使用される場合、用語「CDR-H1」、「CDR-H2」、及び「CDR-H3」は、それぞれ、重鎖可変領域における第1、第2、及び第3CDRを指す。本明細書で使用される場合、用語「CDR-1」、「CDR-2」、及び「CDR-3」は、それぞれ、いずれかの鎖の可変領域の第1、第2及び第3CDRを指す。
【0046】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指す、すなわち、その集団の個々の抗体は、微量で存在し得る天然に存在する変異及び/または翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除き、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して仕向けられている。異なる決定基(エピトープ)に対して仕向けられた異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して仕向けられている。それらの特異性に加え、モノクローナル抗体は、典型的にはハイブリドーマ培養によって合成され、他の免疫グロブリンが混入されていないので有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に同種の抗体集団として得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を必要とするものと解釈されるべきではない。例えば、本開示に従って使用されるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ方法(例えば、Kohler and Milstein.,Nature,256:495-97(1975);Hongo et al.,Hybridoma,14(3):253-260(1995),Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2d ed.1988);Hammerling et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier,N.Y.,1981))、リコンビナントDNA法(例えば、米国特許番号4,816,567参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992);Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004);Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 101(34):12467-472(2004);及びLee et al.,J.Immunol Methods 284(1-2):119-132(2004)参照)、及びヒト免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子座または遺伝子の一部または全部を有する動物においてヒトまたはヒト様抗体を生成するための技術(例えば、WO1998/24893;WO1996/34096;WO1996/33735;WO1991/10741;Jakobovits et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature 362:255-258(1993);Bruggemann et al.,Year in Immunol.7:33(1993);米国特許番号5,545,807;5,545,806;5,569,825;5,625,126;5,633,425;及び5,661,016;Marks et al.,Bio/Technology 10:779-783(1992);Lonberg et al.,Nature 368:856-859(1994);Morrison,Nature 368:812-813(1994);Fishwild et al.,Nature Biotechnol.14:845-851(1996);Neuberger,Nature Biotechnol.14:826(1996);及びLonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.13:65-93(1995)参照)を含む多様な技術によって生成され得る。
【0047】
用語「全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「完全抗体」は、抗体断片または抗体誘導体とは対照的に、実質的にインタクトな形態の抗体を指すために互換的に使用される。具体的には、完全抗体は、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列バリアントであり得る。いくつかの場合では、インタクトな抗体は、1つ以上のエフェクター機能を有し得る。
【0048】
抗体の「抗体断片」または「抗原結合断片」または「機能的断片」は、インタクトな抗体の一部、好ましくはインタクトな抗体の抗原結合及び/または可変領域または改変されたFcR結合能力を保持し、または有する抗体のF領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)及びFv断片;ダイアボディ;及び線状抗体が含まれる(米国特許5,641,870、実施例2;Zapata et al.,Protein Eng.8(10):1057-1062(1995)参照)。抗体断片の追加の例には、抗体誘導体、例えば、抗体断片から形成される一本鎖抗体分子、一価抗体及び多重特異性抗体が含まれる。
【0049】
「抗体誘導体」は、抗体の抗原結合領域を含む任意のコンストラクトである。抗体誘導体の例には、抗体断片から形成される一本鎖抗体分子、一価抗体及び多重特異性抗体が含まれる。
【0050】
抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片と、容易に結晶化する能力を反映して表記される1つの残留「Fc」断片とが生成される。Fab断片は、L鎖全体に加えて、H鎖の可変領域ドメイン(V)、ならびに1つの重鎖の第1の定常ドメイン(C1)からなる。各Fab断片は、抗原結合に関しては一価である、すなわち、単一の抗原結合部位を有する。抗体のペプシン処理は、単一の大型F(ab’)断片をもたらし、これは、異なる抗原結合活性を有する2つのジスルフィド結合したFab断片にほぼ対応し、依然として抗原を架橋することができる。Fab’断片は、C1ドメインのカルボキシ末端に、抗体ヒンジ領域からの1つ以上のシステインを含む、いくつかのさらなる残基を有することにより、Fab断片とは異なる。Fab’-SHは、定常ドメインのシステイン残基(複数可)が遊離チオール基を持つFab’の本明細書における呼称である。F(ab’)抗体断片は、元来、間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生成された。抗体断片の他の化学的カップリングも既知である。
【0051】
Fc断片は、ジスルフィドによって一緒に保持された両方のH鎖のカルボキシ末端を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域における配列によって決定され、この領域はまた、ある特定の細胞型に見られるFc受容体(FcR)によって認識される。
【0052】
本明細書における「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義して使用され、天然配列のFc領域及びバリアントFc領域が含まれる。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界は様々であり得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226位のアミノ酸残基から、またはPro230から、そのカルボキシル末端まで伸びると定義される。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによると残基447)は、例えば、抗体の生成もしくは精製の間に、または抗体の重鎖をコードする核酸を組換え操作することによって、除去されてもよい。したがって、インタクトな抗体の組成物は、全K447残基が除去された抗体母集団、除去されたK447残基がない抗体母集団、及びK447残基を有する抗体と有しない抗体との混合物を有する抗体母集団を含んでもよい。本開示の抗体における使用に好適な天然配列のFc領域には、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が含まれる。
【0053】
「天然配列Fc領域」は、天然で見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然配列ヒトFc領域には、天然配列ヒトIgG1 Fc領域(非A及びAアロタイプ)、天然配列ヒトIgG2 Fc領域、天然配列ヒトIgG3 Fc領域、及び天然配列ヒトIgG4 Fc領域、ならびにそれらの天然に存在するバリアントが含まれる。
【0054】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸改変、好ましくは1つ以上のアミノ酸置換(複数可)によって天然配列Fc領域のものとは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、天然配列Fc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換、例えば、天然配列Fc領域中または親ポリペプチドのFc領域中に約1~約10個のアミノ酸置換、及び好ましくは約1~約5個のアミノ酸置換を有する。本明細書におけるバリアントFc領域は、好ましくは、天然配列Fc領域及び/または親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%の相同性、ならびに最も好ましくは、それらと少なくとも約90%の相同性、より好ましくは、それらと少なくとも約95%の相同性を保有する。
【0055】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を表す。好ましいFcRは、天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(ガンマ受容体)と結合し、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含み、これらの受容体の対立遺伝子バリアント及び選択的スプライシング形態を含むものであり、FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)が含まれ、これらは主にその細胞質ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(「ITAM」)を含む。阻害受容体FcγRIIBは、免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(「ITIM」)をその細胞質性ドメインに含有する。(例えば、M.Daeron,Annu.Rev.Immunol.15:203-234(1997)参照)。FcRは、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.9:457-92(1991);Capel et al.,Immunomethods 4:25-34(1994);及びde Haas et al.,J.Lab. Clin.Med.126:330-41(1995)でレビューされている。将来特定されるものを含む他のFcRは、本明細書における「FcR」という用語に包含される。FcRは、抗体の血清半減期を増加させ得る。
【0056】
ヒトFcRn高親和性結合ポリペプチドのインビボでのFcRnへの結合及び血清中半減期は、例えば、ヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトヒト細胞株において、またはバリアントFc領域を有するポリペプチドが投与される霊長類においてアッセイすることができる。WO2004/42072(Presta)は、FcRへの結合が改善また低減された抗体バリアントについて記載している。例えば、Shields et al.,J.Biol.Chem.9(2):6591-6604(2001)を参照。
【0057】
「Fv」は、完全な抗原認識部位及び抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である。この断片は、1つの重鎖可変領域ドメインと1つの軽鎖可変領域ドメインが、非共有結合で緊密に結合した二量体からなる。これらの2つのドメインの折り畳みにより、抗原結合のためのアミノ酸残基を提供し、抗原結合特異性を抗体に与える、6つの超可変ループ(H鎖及びL鎖からそれぞれ3つのループ)が生じる。しかしながら、全結合部位よりも低い親和性であるが、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的なHVRを3つしか含まないFvの半分)でさえも、抗原を認識し、それに結合する能力を有する。
【0058】
「sFv」または「scFv」とも短縮される「一本鎖Fv」は、単一のポリペプチド鎖に結合されるVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、sFvポリペプチドは、V及びVドメイン間にポリペプチドリンカーをさらに含んでおり、sFvが抗原結合に所望される構造を形成することを可能にする。sFvの概説については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照。
【0059】
「ダイアボディ」という用語は、鎖内ではなく鎖間のVドメイン対合を達成し、それによって二価断片、すなわち、2つの抗原結合部位を有する断片が得られるように、VドメインとVドメインとの間に短いリンカー(約5~10個の残基)を用いてsFv断片(前の段落を参照)を構築することによって調製された小さな抗体断片を指す。二重特異性ダイアボディは、2つの抗体のV及びVドメインが異なるポリペプチド鎖に存在している、2つの「交差」sFv断片のヘテロ二量体である。ダイアボディは、例えば、EP 404,097;WO 1993/011161;WO/2009/121948;WO/2014/191493;Hollinger et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 90:6444-48(1993)においてより詳細に記載されている。
【0060】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」は、重鎖及び/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体内の対応する配列と同一または相同である一方で、鎖(複数可)の残りが、別の種に由来するか、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一または相同である抗体(免疫グロブリン)、ならびにそのような抗体の断片を指し、これは、それらが所望される生物学的活性を呈する限りにおいてである(米国特許番号4,816,567;Morrison et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,81:6851-55(1984))。本明細書における対象となるキメラ抗体には、PRIMATIZED(登録商標)抗体が含まれ、ここで、この抗体の抗原結合領域は、例えば、マカクザルに目的の抗原で免疫付与を行うことによって生成される抗体に由来する。本明細書で使用される場合、「ヒト化抗体」は、「キメラ抗体」のサブセットである。
【0061】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、レシピエントのHVRからの残基が、所望される特異性、親和性、及び/または能力を有するマウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)のHVRからの残基で置き換えられている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFR残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含み得る。これらの改変は、結合親和性などの抗体の性能をさらに改良するために行われ得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むことになり、ここで、超可変ループの全てまたは実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリン配列のものに対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てが、ヒト免疫グロブリン配列のものに対応するが、FR領域には、結合親和性、異性体化、免疫原性などの抗体の性能を向上させる1つ以上の個々のFR残基置換が含まれてもよい。FRにおけるこれらのアミノ酸置換の数は典型的には、H鎖では6以下、及びL鎖では3以下である。ヒト化抗体はまた、任意に、免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、例えば、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988);and Presta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照。例えば、Vaswani and Hamilton,Ann.Allergy,Asthma & Immunol.1:105-115(1998);Harris,Biochem.Soc.Transactions 23:1035-1038(1995);Hurle and Gross,Curr.Op.Biotech.5:428-433(1994);及び米国特許番号6,982,321及び7,087,409も参照。
【0062】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生成された抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体、及び/または本明細書に開示されるヒト抗体を作製する技術のうちの任意のものを用いて作製されたものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を具体的に除外する。ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリを含む当該技術分野で既知の種々の技術を使用して生成され得る。Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.,222:581(1991)。Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985);Boerner et al.,J.Immunol.,147(1):86-95(1991)に記載の方法も、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である。van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)も参照。ヒト抗体は、抗原攻撃に応答してそのような抗体を生成するように改変されているが、その内因性遺伝子座が無効化されているトランスジェニック動物、例えば、免疫化異種マウスに抗原を投与することにより調製され得る(例えば、XENOMOUSE(商標)技術に関しては、米国特許番号6,075,181及び6,150,584を参照)。例えば、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により生成されるヒト抗体についても、Li et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)を参照。
【0063】
本明細書で使用される場合、「超可変領域」、「HVR」、または「HV」という用語は、配列が超可変性であり、かつ/または構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。概して、抗体は、6つのHVRを含み、3つがVHにあり(H1、H2、H3)、3つがVLにある(L1、L2、L3)。天然抗体において、H3及びL3は、これらの6つのHVRのうちで最も高い多様性を呈し、特にH3が、抗体に優れた特異性を与える上で特有の役割を果たすと考えられている。例えば、Xu et al.,Immunity 13:37-45(2000);Johnson and Wu in Methods in Molecular Biology 248:1-25(Lo,ed.,Human Press,Totowa,NJ,2003))を参照。実際には、重鎖のみからなる天然に存在するラクダ科抗体は、軽鎖の不在下で機能的であり、安定している。例えば、Hamers-Casterman et al.,Nature 363:446-448(1993)and Sheriff et al.,Nature Struct. Biol.3:733-736(1996)を参照。
【0064】
いくつかのHVR描写が本明細書で使用され、本明細書に包含される。Kabat相補性決定領域(CDR)であるHVRは、配列可変性に基づくものであり、最も一般的に使用されている(上記のKabat et al.) Chothiaは、そうではなく、構造的ループの位置を指す(Chothia及びLesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。AbM HVRは、Kabat CDRとChothia構造的ループとの間の妥協案を示し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアにより使用される。「接触」HVRは、利用可能な複合体結晶構造の分析に基づく。これらのHVRの各々由来の残基が以下に記載される。
【0065】
【表1】
【0066】
HVRは、以下のように「伸長HVR」を含み得る:VLにおける24~36または24~34(L1)、46~56または50~56(L2)、及び89~97または89~96(L3)、ならびにVHにおける26~35(H1)、50~65または49~65(好ましい実施形態)(H2)、及び93~102、94~102、または95~102(H3)。可変ドメイン残基は、これらの伸長HVRの定義の各々について上記のKabat et al.に従って番号付けされる。
【0067】
「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書に定義されるHVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0068】
「Kabatにあるような可変ドメイン残基番号付け」または「Kabatにあるようなアミノ酸位置番号付け」という語句、及びそれらの変形は、上記のKabat et al.における抗体の編集物の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに使用される番号付けシステムを指す。この番号付けシステムを使用して、実際の直鎖状アミノ酸配列は、可変ドメインのFRもしくはHVRの短縮、またはそれへの挿入に対応するより少ないアミノ酸または追加のアミノ酸を含有し得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52後に単一のアミノ酸挿入(Kabatに従って残基52a)を、そして重鎖FR残基82後に挿入された残基(例えば、Kabatに従って残基82a、82b、及び82c等)を含んでもよい。残基のKabat番号付けは、所与の抗体に対して、抗体の配列と「標準の」Kabatによって番号付けされた配列との相同領域での整合によって決定され得る。
【0069】
Kabatナンバリングシステムは、一般に、可変ドメイン内の残基(大体、軽鎖の1~107残基及び重鎖の1~113残基)に言及する際に使用される(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。「EU番号付けシステム」または「EU指標」は、一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域内の残基に言及する際に使用される(例えば、上記のKabat et al.で報告されているEU指標)。「KabatにあるようなEU指標」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基番号付けを指す。本明細書に別途述べられない限り、抗体の可変ドメインにおける残基番号への言及は、Kabat番号付けシステムによる残基番号付けを意味する。本明細書で別途述べられない限り、抗体の定常ドメインにおける残基番号への言及は、EU番号付けシステムによる残基番号付けを意味する(例えば、米国特許公開番号2010-280227参照)。
【0070】
「アクセプターヒトフレームワーク」は、本明細書で使用される場合、ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク由来のVLフレームワークまたはVHフレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、それと同じアミノ酸配列を含んでもよく、またはそれは既存のアミノ酸配列変化を含有してもよい。いくつかの実施形態では、既存のアミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、または2以下である。既存のアミノ酸変化がVHに存在する場合、好ましいそれらの変化が位置71H、73H、及び78Hのうちの3つ、2つ、または1つにのみ存在する場合、例えば、それらの位置のアミノ酸残基は、71A、73T、及び/または78Aであり得る。いくつかの実施形態では、VLアクセプターヒトフレームワークは、配列において、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列と同一である。
【0071】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に生じるアミノ酸残基を代表する、フレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVLまたはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループから行われる。一般に、配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)にあるようなサブグループである。例には、VLに関するものが含まれ、サブグループは、上記のKabat et al.にあるようなサブグループカッパI、カッパII、カッパIII、またはカッパIVであり得る。さらに、VHについては、サブグループは、上記のKabat et al.にあるようなサブグループI、サブグループII、またはサブグループIIIであり得る。
【0072】
指定された位置における「アミノ酸改変」は、指定された残基の置換もしくは欠失、または指定された残基に隣接する少なくとも1個のアミノ酸残基の挿入を指す。指定された残基に「隣接する」挿入は、その1~2個の残基内への挿入を意味する。挿入は、指定された残基のN末端側またはC末端側であり得る。本明細書における好ましいアミノ酸改変は、置換である。
【0073】
「親和性成熟」抗体は、その1つ以上のHVRに1つ以上の変化を有し、これらの変化が、それらの変化(複数可)を有しない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性の向上をもたらすものである。いくつかの実施形態では、親和性成熟抗体は、標的抗原に対するナノモルまたはさらにはピコモルの親和性を有する。親和性成熟抗体は、当該技術分野で公知の手順によって生成される。例えば、Marks et al.,Bio/Technology 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟について記載している。HVR及び/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発は、例えば、Barbas et al.Proc Nat.Acad.Sci.USA 91:3809-3813(1994);Schier et al.Gene 169:147-155(1995);Yelton et al.J.Immunol.155:1994-2004(1995);Jackson et al.,J.Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkins et al,J.Mol.Biol.226:889-896(1992)に記載されている。
【0074】
本明細書で使用される場合、用語「特異的に認識する」または「特異的に結合する」は、生物学的分子を含む分子の異種集団の存在下で標的の存在を決定する、標的と抗体との間の引力または結合などの測定可能な及び再生可能な相互作用を指す。例えば、標的またはエピトープに特異的または優先的に結合する抗体は、他の標的または標的の他のエピトープに結合する場合よりも高い親和性、アビディティで、より容易に、及び/またはより長い持続時間でこの標的またはエピトープに結合する抗体である。例えば、第1の標的に特異的または優先的に結合する抗体(または部位)は、第2の標的に特異的または優先的に結合する場合があり、または結合しない場合があることも理解される。このように、「特異的結合」または「優先的結合」は、排他的な結合を(含み得るが)必ずしも必要とするわけではない。標的に特異的に結合する抗体は、少なくとも約10-1または10-1、時に約10-1または10-1、他の例では約10-1または10-1、約10-1~10-1、または約1010-1~1011-1またはそれ以上の結合定数を有し得る。特定のタンパク質と特異的免疫反応性の抗体を選択するために多様なイムノアッセイ形式が使用され得る。例えば、固相ELISAイムノアッセイは、タンパク質と特異的免疫反応性のモノクローナル抗体を選択するために日常的に使用される。特異的免疫反応性を決定するために使用され得るイムノアッセイ形式及び条件の説明については、例えば、Harlow and Lane(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New Yorkを参照。
【0075】
「同一性」は、本明細書で使用される場合、アライメントされた配列における任意の特定の位置でアミノ酸残基が配列間で同一であることを示す。「類似性」は、本明細書で使用される場合、アライメントされた配列における任意の特定の位置でアミノ酸残基が配列間で類似するタイプのものであることを示す。例えば、ロイシンは、イソロイシンまたはバリンの代わりに用いられ得る。しばしば互いに置換され得る他のアミノ酸には、
-フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);
-リジン、アルギニン及びヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);
-アスパルテート及びグルタメート(酸性側鎖を有するアミノ酸);
-アスパラギン及びグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);及び
-システイン及びメチオニン(硫黄含有側鎖を有するアミノ酸)が含まれるがこれらに限定されない。
【0076】
同一性及び類似性の程度は容易に計算され得る(例えば、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing. Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;及びSequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M Stockton Press,New York,1991参照)。
【0077】
本明細書で使用される場合、補体タンパク質と第2のタンパク質との間の「相互作用」は、限定されないが、タンパク質-タンパク質相互作用、物理的相互作用、化学的相互作用、結合、共有結合、及びイオン結合を包含する。本明細書で使用される場合、抗体が2つのタンパク質間の相互作用を破壊し、減少させ、または完全に排除する場合、抗体は、2つのタンパク質間の「相互作用を阻害する」。抗体またはその断片が2つのタンパク質のうちの1つに結合する場合、本開示の抗体、またはその断片は、2つのタンパク質間の「相互作用を阻害する」。
【0078】
「遮断」抗体、「アンタゴニスト」抗体、「阻害」抗体、または「中和」抗体は、それが結合する抗原の1つ以上の生物学的活性、例えば、1つ以上のタンパク質との相互作用を阻害または減少させる抗体である。いくつかの実施形態では、遮断抗体、アンタゴニスト抗体、阻害抗体、または「中和」抗体は、抗原の1つ以上の生物学的活性または相互作用を実質的にまたは完全に阻害する。
【0079】
用語「阻害剤」は、標的生体分子の活性または発現を減少させることによるものかどうかにかかわらず、標的生体分子、例えば、mRNAまたはタンパク質の生物学的機能を阻害する能力を有する化合物を指す。阻害剤は、抗体、小分子、または核酸分子であり得る。用語「アンタゴニスト」は、受容体に結合し、受容体の生物学的反応を阻止または減衰させる化合物を指す。用語「阻害剤」はまた、「アンタゴニスト」を指し得る。
【0080】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列バリアントFc領域)に起因するそれらの生物学的活性を指し、抗体アイソタイプによって異なる。
【0081】
本明細書で使用される場合、用語「親和性」は、2つの物質(例えば、抗体及び抗原)の可逆的結合についての平衡定数であり、解離定数(KD)として表される。親和性は、非関連アミノ酸配列に対する抗体の親和性よりも少なくとも1倍高く、少なくとも2倍高く、少なくとも3倍高く、少なくとも4倍高く、少なくとも5倍高く、少なくとも6倍高く、少なくとも7倍高く、少なくとも8倍高く、少なくとも9倍高く、少なくとも10倍高く、少なくとも20倍高く、少なくとも30倍高く、少なくとも40倍高く、少なくとも50倍高く、少なくとも60倍高く、少なくとも70倍高く、少なくとも80倍高く、少なくとも90倍高く、少なくとも100倍高く、または少なくとも1,000倍高く、またはそれ以上であり得る。標的タンパク質に対する抗体の親和性は、例えば、約100ナノモル濃度(nM)~約0.1nM、約100nM~約1ピコモル濃度(pM)、または約100nM~約1フェムトモル濃度(fM)またはそれ以上であり得る。本明細書で使用される場合、用語「アビディティ」は、2つ以上の物質の複合体が希釈後に解離することに対する抵抗性を指す。用語「免疫反応性」及び「優先的に結合する」は、抗体及び/または抗原結合断片に関して本明細書で互換的に使用される。
【0082】
用語「結合」は、例えば、塩架橋及び水架橋などの相互作用を含む、共有結合性、静電気性、疎水性、及びイオン性及び/または水素結合相互作用による、2つの分子間の直接的会合を指す。例えば、対象抗C1q抗体は、補体C1qタンパク質内のエピトープに特異的に結合する。「特異的結合」は、少なくとも約10-7M以上、例えば、5×10-7M、10-8M、5×10-8M、及びそれ以上の親和性での結合を指す。「非特異的結合」は、約10-7M未満の親和性、例えば、10-6M、10-5M、10-4Mなどの親和性での結合を指す。
【0083】
用語「kon」は、本明細書で使用される場合、抗原に対する抗体の会合についての速度定数を指すことが意図されている。
【0084】
用語「koff」は、本明細書で使用される場合、抗体/抗原複合体からの抗体の解離についての速度定数を指すことが意図されている。
【0085】
用語「K」は、本明細書で使用される場合、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指すことが意図されている。
【0086】
本明細書で使用される場合、ペプチド、ポリペプチド、または抗体配列に関して、「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」及び「相同性」は、配列同一性最大パーセントを達成するために、配列を整合させ、必要に応じてギャップを導入した後の、配列同一性の一部としていずれの保存的置換も考慮しない、特定のペプチドもしくはポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合を指す。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のためのアライメントは、例えば、公共に利用可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMEGALIGN(商標)(DNASTAR)ソフトウェアを使用して、当該技術分野における技術内の様々な方法で達成され得る。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するのに必要な当該技術分野で知られている任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定し得る。
【0087】
「生物学的サンプル」は、個体から得られる多様なサンプルタイプを包含し、診断またはモニタリングアッセイにおいて使用され得る。その定義は、血液及び生物学的起源の他の液体サンプル、固体組織サンプル、例えば、生検サンプルまたは組織培養物またはそれに由来する細胞及びその子孫を包含する。その定義にはまた、それらの調達後に任意の方法で、例えば、ポリヌクレオチドなどのある特定の成分について試薬での処置、可溶化、または濃縮によって操作されたサンプルが含まれる。用語「生物学的サンプル」は、臨床サンプルを包含し、培養細胞、細胞上清、細胞ライセート、血清、血漿、生体液、及び組織サンプルも含む。用語「生物学的サンプル」には、尿、唾液、脳脊髄液、間質液、眼液、滑液、血液分画、例えば、血漿及び血清などが含まれる。用語「生物学的サンプル」にはまた、固体組織サンプル、組織培養サンプル、及び細胞サンプルが含まれる。
【0088】
「単離された」核酸分子は、それが生成された環境において通常関連する少なくとも1つの混入核酸分子から同定及び分離された核酸分子である。好ましくは、単離された核酸は、生成環境に関連する全ての成分と会合しない。本明細書におけるポリペプチド及び抗体をコードする単離された核酸分子は、天然に見られる形態または状況以外の形態である。そのため、単離された核酸分子は、細胞において天然に存在する本明細書における任意のポリペプチド及び抗体をコードする核酸とは区別される。
【0089】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合は、それが連結された別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を指すことが意図されている。ベクターの1つのタイプは、「プラスミド」であり、これは、追加のDNAセグメントがライゲーションされ得る環状二本鎖DNAを指す。ベクターの別のタイプは、ファージベクターである。ベクターの別のタイプは、ウイルスベクターであり、この場合、追加のDNAセグメントがウイルスゲノム内にライゲーションされ得る。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自己複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞に導入すると宿主細胞のゲノムに組み込まれ得、それにより宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが機能可能に連結された遺伝子の発現を指示することが可能である。そのようなベクターは、本明細書で「組換え発現ベクター」、または単純に「発現ベクター」と称される。通常、組換えDNA技術において有用な発現ベクターはしばしば、プラスミドの形態である。本明細書において、「プラスミド」及び「ベクター」は、プラスミドが最も一般的に使用される形態のベクターであるため互換的に使用され得る。
【0090】
本明細書で互換的に使用される「ポリヌクレオチド」、または「核酸」は、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNA及びRNAを含む。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、改変ヌクレオチドまたは塩基、及び/またはそれらのアナログ、またはDNAもしくはRNAポリメラーゼによってまたは合成反応によってポリマーに組み込まれ得る任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、改変ヌクレオチド、例えば、メチル化ヌクレオチド及びそれらのアナログを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する改変は、ポリマーのアセンブリの前または後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって隔てられていてもよい。ポリヌクレオチドは、合成後に生成される改変(複数可)、例えば、標識へのコンジュゲーションを含み得る。他のタイプの改変には、例えば、天然に存在するヌクレオチドのうちの1つ以上をアナログと置換する「キャップ」、ヌクレオチド間改変、例えば、非電荷性結合(例えば、メチルホスホン酸塩、ホスホトリエステル、ホスホアミデート、カルバメートなど)によるもの、及び電荷性結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)によるもの、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ-L-リジンなど)の懸垂部位を含むもの、挿入剤(例えば、アクリジン、ソラーレンなど)によるもの、キレート剤(例えば、金属、放射活性金属、ホウ素、酸化金属など)によるもの、アルキル化剤を含むもの、改変結合(例えば、アルファアノマー核酸など)によるもの、ならびにポリヌクレオチド(複数可)の未改変形態が含まれる。さらに、糖内に通常存在するヒドロキシル基のうちのいずれかは、例えば、ホスホン酸基、リン酸基により置き換えられるか、標準的な保護基により保護されるか、もしくは活性化されて追加のヌクレオチドへの追加の結合を生成してもよく、または固体もしくは半固体支持体にコンジュゲーションされてもよい。5’及び3’末端OHは、リン酸化され、またはアミンもしくは1~20個の炭素原子の有機キャッピング基部位と置換され得る。他のヒドロキシルもまた、標準的な保護基に誘導体化され得る。ポリヌクレオチドは、例えば、2’-O-メチル-、2’-O-アリル、2’-フルオロ-または2’-アジド-リボース、炭素環糖アナログ、α-アノマー糖、エピマー糖、例えば、アラビノース、キシロースまたはリキソース、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、アクリル酸アナログ、及び塩基性ヌクレオシドアナログ、例えば、メチルリボシドを含む、当該技術分野において一般的に知られているリボースまたはデオキシリボース糖のアナログ形態を含み得る。1つ以上のホスホジエステル結合は、代替連結基によって置き換えられ得る。これらの代替連結基には、ホスフェートがP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO、またはCH(「ホルムアセタール」)(式中、各RまたはR’は、独立して、H、またはエーテル(-O-)結合を任意に含有する置換もしくは非置換アルキル(1~20C)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニルまたはアラルキルである)によって置き換えられた実施形態が含まれるがこれらに限定されない。ポリヌクレオチドにおける全ての結合が同一である必要はない。先述の記載は、RNA及びDNAを含む、本明細書で言及される全てのポリヌクレオチドに適用される。
【0091】
「宿主細胞」には、ポリヌクレオチド挿入物の組み込みのためのベクター(複数可)のためのレシピエントであり得、レシピエントとなっている個々の細胞または細胞培養物が含まれる。宿主細胞には、単一の宿主細胞の子孫が含まれ、子孫は、天然、突然、または意図的変異のため、必ずしも元の親細胞と(形態においてまたはゲノムDNA相補体において)完全に同一である必要はない場合がある。宿主細胞には、本開示のポリヌクレオチド(複数可)でインビボでトランスフェクションされた細胞が含まれる。
【0092】
本明細書で使用される「担体」は、用いられる投薬量及び濃度でそれに曝露されている細胞または哺乳動物に対して非毒性の薬学的に許容可能な担体、賦形剤、または安定剤が含まれる。しばしば、生理的に許容可能な担体は、水性pH緩衝液である。生理的に許容可能な担体の例には、緩衝液、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;アスコルビン酸を含む抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、またはリジン;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む単糖、二糖、及び他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖アルコール、例えば、マンニトールまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;及び/または非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、ポリエチレングリコール(PEG)及びPLURONICS(商標)が含まれる。
【0093】
用語「予防する」は、当該技術分野において認知されており、例えば眼の疾患(例えば、緑内障または、地図状萎縮を含むAMDなどの加齢黄斑変性症)または関連する症状などの状態に関連して用いられる場合、治療を受けていない患者に対するものである。
【0094】
用語「対象」は、本明細書で使用される場合、生存している哺乳動物を指し、用語「患者」と互換的に使用され得る。哺乳動物の例には、哺乳動物クラスの任意のメンバー:ヒト、非ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、及び他の類人猿及びサル種;牧場動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ;家庭動物、例えば、ウサギ、イヌ、及びネコ;齧歯類、例えば、ラット、マウス及びモルモットを含む実験動物などが含まれるがこれらに限定されない。その用語は、特定の年齢または性別を示さない。
【0095】
本明細書で使用される場合、用語「処置すること」または「処置」は、病態の症状、臨床的兆候、または根底にある病理を減少、停止、または逆行させて、対象の病態を安定化または改善することまたは対象の病態が対象が処置を受けなかった場合と同じ程度悪化する可能性を低下させることを含む。
【0096】
対象の処置方法に関して化合物の「治療的有効量」という用語は、(哺乳動物、好ましくはヒトに対する)所望の投薬レジメンの一部として投与される場合、例えば、任意の医学的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で、疾患または病態が処置されるために、または化粧品目的のために臨床的に許容可能な標準に従う、症状を軽減する、病態を改善する、または疾患病態の発症を遅らせる調製物における化合物(複数可)の量を指す。本明細書における治療的有効量は、患者の疾患状態、年齢、性別、及び体重、ならびに個体において所望の反応を引き起こすための抗体の能力などの要因に応じて変わり得る。
【0097】
本明細書で使用される場合、特定の疾患、障害、または病態を発症する「リスクのある」個体は、検出可能な疾患または疾患の症状を示してもいなくてもよく、また、本明細書に記載の処置方法の前に検出可能な疾患または疾患の症状を示してもいなくてもよい。「リスクのある」は、個体が、当該技術分野で知られているように、特定の疾患、障害、または病態の発症と相関する測定可能なパラメータである、1つ以上のリスク因子を有することを意味する。これらのリスク因子のうちの1つ以上を有する個体は、これらのリスク因子のうちの1つ以上を有さない個体よりも特定の疾患、障害、または病態を発症する可能性が高い。
【0098】
「慢性」投与は、初期の治療効果(活性)を長期間維持するように、急性様式とは対照的に連続した医薬品(複数可)の投与を指す。「間欠的」投与は、中断することなく連続的に投与されるのではなく、事実上周期的/定期的である処置を指す。
【0099】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。本明細書に記載のもの類似または同等の任意の方法及び物質も本発明の実践または試験において使用され得るが、好ましい方法及び物質をこれより説明する。本明細書で挙げられる全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれて、刊行物が引用される方法及び/または物質、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3d edition(2001)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.,(2003));the series Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.):PCR 2:A Practical Approach(M.J.MacPherson,B.D.Hames and G.R.Taylor eds.(1995)),Harlow and Lane,eds.(1988)Antibodies,A Laboratory Manual,and Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.(1987));Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney),ed.,1987);Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-8)J.Wiley and Sons;Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.);Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis et al.,eds.,1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:A Practical Approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal Antibodies:A Practical Approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using Antibodies:A Laboratory Manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.,Harwood Academic Publishers,1995);及びCancer:Principles and Practice of Oncology(V.T.DeVita et al.,eds.,J.B.Lippincott Company,1993)に記載されている広く利用されている方法論を開示し、記載する。
【0100】
抗補体C1q抗体
本明細書で開示される抗C1q抗体は、C1qの強力な阻害剤であり、任意の期間にわたってC1q機能の継続的阻害のために投薬され、次いでその活性が重要であり得る時点で正常なC1q機能の回復を可能にするために任意に停止され得る。動物研究において本明細書に開示される抗C1q抗体で得られた結果は、ヒト化またはヒト抗体、ならびにその断片及び/または誘導体を用いて臨床に容易に進展させることができる。
【0101】
C1qは、18個のポリペプチド鎖(6個のC1qのA鎖、6個のC1qのB鎖、及び6個のC1qのC鎖)からなる460kDaの大型多量体タンパク質である。C1r及びC1s補体タンパク質は、C1q尾部領域に結合してC1複合体(C1qr)を形成する。
【0102】
本開示の抗体は、古典的補体活性化経路のC1複合体における補体因子C1q及び/またはC1qを特異的に認識する。結合した補体因子は、限定されないが、任意の哺乳動物生物、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、またはブタを含む補体系を有する任意の生物に由来し得る。
【0103】
本明細書で使用される場合、「C1複合体」は、限定されないが、1つのC1qタンパク質、2つのC1rタンパク質、及び2つのC1sタンパク質を含み得るタンパク質複合体(例えば、C1qr)を指す。
【0104】
本明細書に開示される抗C1q抗体は、C1複合体形成を阻害し得る。
【0105】
本明細書で使用される場合、「補体因子C1q」は、野生型配列及び天然に存在するバリアント配列の両方を指す。
【0106】
本開示の抗体によって認識される補体因子C1qの非限定的な例は、3つのポリペプチド鎖A、B、及びCを含むヒトC1qである:
C1q,鎖A(homo sapiens),アクセッション番号 タンパク質
データベース: NP_057075.1;GenBank番号: NM_015991:
>gi|7705753|ref|NP_057075.1|補体C1q
サブコンポーネントサブユニットA前駆体[Homo sapiens]
(配列番号1)
MEGPRGWLVLCVLAISLASMVTEDLCRAPDGKKGEAGRPGRRGRPGLKGEQGEPGAPGIRTGIQGLKGDQGEPGPSGNPGKVGYPGPSGPLGARGIPGIKGTKGSPGNIKDQPRPAFSAIRRNPPMGGNVVIFDTVITNQEEPYQNHSGRFVCTVPGYYYFTFQVLSQWEICLSIVSSSRGQVRRSLGFCDTTNKGLFQVVSGGMVLQLQQGDQVWVEKDPKKGHIYQGSEADSVFSGFLIFPSA。
【0107】
C1q,鎖B(homo sapiens),アクセッション番号 タンパク質
データベース: NP_000482.3;GenBank番号: NM_000491.3:
>gi|87298828|ref|NP_000482.3|補体Clq
サブコンポーネントサブユニットB前駆体[Homo sapiens]
(配列番号2)
MMMKIPWGSIPVLMLLLLLGLIDISQAQLSCTGPPAIPGIPGIPGTPGPDGQPGTPGIKGEKGLPGLAGDHGEFGEKGDPGIPGNPGKVGPKGPMGPKGGPGAPGAPGPKGESGDYKATQKIAFSATRTINVPLRRDQTIRFDHVITNMNNNYEPRSGKFTCKVPGLYYFTYHASSRGNLCVNLMRGRERAQKVVTFCDYAYNTFQVTTGGMVLKLEQGENVFLQATDKNSLLGMEGANSIFSGFLLFPDMEA。
【0108】
C1q,鎖C(homo sapiens),アクセッション番号 タンパク質
データベース: NP_001107573.1;GenBank番号:
NM_001114101.1:
>gi|166235903|ref|NP_001107573.1|補体C1q
サブコンポーネントサブユニットC前駆体[Homo sapiens]
(配列番号3)
MDVGPSSLPHLGLKLLLLLLLLPLRGQANTGCYGIPGMPGLPGAPGKDGYDGLPGPKGEPGIPAIPGIRGPKGQKGEPGLPGHPGKNGPMGPPGMPGVPGPMGIPGEPGEEGRYKQKFQSVFTVTRQTHQPPAPNSLIRFNAVLTNPQGDYDTSTGKFTCKVPGLYYFVYHASHTANLCVLLYRSGVKVVTFCGHTSKTNQVNSGGVLLRLQVGEEVWLAVNDYYDMVGIQGSDSVFSGFLLFPD。
【0109】
したがって、本開示の抗C1q抗体は、C1qタンパク質のポリペプチド鎖A、ポリペプチド鎖B、及び/またはポリペプチド鎖Cに結合し得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗C1q抗体は、ヒトC1qまたはそのホモログ、例えば、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ラクダ、ヒツジ、ヤギ、またはブタC1qのポリペプチド鎖A、ポリペプチド鎖B、及び/またはポリペプチド鎖Cに結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはその断片またはその誘導体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fab断片などの抗体断片である。
【0110】
以下の20段落で挙げられる全ての配列は、米国特許番号9,708,394(それが開示する抗体及び関連する組成物について参照により本明細書に組み込まれる)から参照により組み込まれる。
【0111】
抗体M1(Mab1)の軽鎖及び重鎖可変ドメイン配列
標準的な技術を使用して、抗体M1の軽鎖可変及び重鎖可変ドメインをコードする核酸及びアミノ酸配列を決定した。抗体M1の軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、
【0112】
である。
【0113】
軽鎖可変ドメインの超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。いくつかの実施形態では、M1軽鎖可変ドメインのHVR-L1は配列RASKSINKYLA(配列番号5)を有し、M1軽鎖可変ドメインのHVR-L2は配列SGSTLQS(配列番号6)を有し、M1軽鎖可変ドメインのHVR-L3は配列QQHNEYPLT(配列番号7)を有する。
【0114】
抗体M1の重鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、
【0115】
である。
【0116】
重鎖可変ドメインの超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。いくつかの実施形態では、M1重鎖可変ドメインのHVR-H1は配列GYHFTSYWMH(配列番号9)を有し、M1重鎖可変ドメインのHVR-H2は配列VIHPNSGSINYNEKFES(配列番号10)を有し、M1重鎖可変ドメインのHVR-H3は配列ERDSTEVLPMDY(配列番号11)を有する。
【0117】
軽鎖可変ドメインをコードする核酸配列は、
GATGTCCAGATAACCCAGTCTCCATCTTATCTTGCTGCATCTCCTGGAGAAACCATTACTATTAATTGCAGGGCAAGTAAGAGCATTAACAAATATTTAGCCTGGTATCAAGAGAAACCTGGGAAAACTAATAAGCTTCTTATCTACTCTGGATCCACTTTGCAATCTGGAATTCCATCAAGGTTCAGTGGCAGTGGATCTGGTACAGATTTCACTCTCACCATCAGTAGCCTGGAGCCTGAAGATTTTGCAATGTATTACTGTCAACAACATAATGAATACCCGCTCACGTTCGGTGCTGGGACCAAGCTGGAGCTGAAA(配列番号12)と決定した。
【0118】
重鎖可変ドメインをコードする核酸配列は、
CAGGTCCAACTGCAGCAGCCTGGGGCTGAGCTGGTAAAGCCTGGGGCTTCAGTGAAGTTGTCCTGCAAGTCTTCTGGCTACCATTTCACCAGCTACTGGATGCACTGGGTGAAGCAGAGGCCTGGACAAGGCCTTGAGTGGATTGGAGTGATTCATCCTAATAGTGGTAGTATTAACTACAATGAGAAGTTCGAGAGCAAGGCCACACTGACTGTAGACAAATCCTCCAGCACAGCCTACATGCAACTCAGCAGCCTGACATCTGAGGACTCGGCGGTCTATTATTGTGCAGGAGAGAGAGATTCTACGGAGGTTCTCCCTATGGACTACTGGGGTCAAGGAACCTCAGTCACCGTCTCCTCA(配列番号13)と決定した。
【0119】
物質の寄託
以下の物質は、ブダペスト条約に従ってAmerican Type Culture Collection,ATCC Patent Depository,10801 University Blvd.,Manassas,Va.20110-2209,USA(ATCC)に寄託された:
【0120】
【表2】
【0121】
培養物の入手が特許出願の係属中及び30年間、または最新の請求から5年後、または特許の有効期間のうち長い方まで利用可能となることを保証する条件下でM1抗体を生成するハイブリドーマ細胞株(マウスハイブリドーマC1qM1 7788-1(M)051613)がATCCに寄託された。寄託物は、その期間中に生存できなくなった場合に置き換えられる。寄託物は、本出願の対応出願、またはその子孫が出願された国における外国特許法によって要求されるように利用可能である。しかしながら、寄託物の利用可能性は、政府の措置によって付与された特許権を逸脱して本発明の実施するためのライセンスを構成するものではないことが理解されるべきである。
【0122】
本明細書では、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを含む抗C1q抗体を投与する方法が開示される。抗体は、少なくともヒトC1q、マウスC1q、またはラットC1qに結合し得る。抗体は、ヒト化抗体、キメラ抗体、またはヒト抗体であり得る。抗体は、モノクローナル抗体、その抗体断片、及び/またはその抗体誘導体であり得る。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fab断片などの抗体断片である。軽鎖可変ドメインは、アクセッション番号PTA-120399で寄託されたハイブリドーマ細胞株によって生成されるモノクローナル抗体M1のHVR-L1、HVR-L2、及びHVR-L3を含む。重鎖可変ドメインは、ATCCアクセッション番号PTA-120399で寄託されたハイブリドーマ細胞株によって生成されるモノクローナル抗体M1のHVR-H1、HVR-H2、及びHVR-H3を含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、HVR-L1の配列番号5、HVR-L2の配列番号6、HVR-L3の配列番号7、HVR-H1の配列番号9、HVR-H2の配列番号10、及びHVR-H3の配列番号11のうちの1つ以上を含む。
【0124】
抗体は、好ましくはHVR-L1 RASKSINKYLA(配列番号5)、HVR-L2 SGSTLQS(配列番号6)、及びHVR-L3 QQHNEYPLT(配列番号7)を保持しつつ、配列番号4と少なくとも85%、90%、または95%同一の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。抗体は、好ましくはHVR-H1 GYHFTSYWMH(配列番号9)、HVR-H2 VIHPNSGSINYNEKFES(配列番号10)、及びHVR-H3 ERDSTEVLPMDY(配列番号11)を保持しつつ、配列番号8と少なくとも85%、90%、または95%同一の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。
【0125】
本明細書では、C1qと自己抗体との間の相互作用を阻害する抗C1q抗体を投与する方法が開示される。好ましい実施形態では、抗C1q抗体は、循環または組織からのC1qのクリアランスを引き起こす。
【0126】
いくつかの実施形態では、本開示の抗C1q抗体は、C1qとC1sとの間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1rとの間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1sとの間及びC1qとC1rとの間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qと別の抗体、例えば、自己抗体との間の相互作用を阻害する。好ましい実施形態では、抗C1q抗体は、循環または組織からのC1qのクリアランスを引き起こす。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、2.5:1;2.0:1;1.5:1;または1.0:1未満の化学量論でそれぞれの相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、C1q抗体は、およそ等モルの濃度のC1q及び抗C1q抗体で、C1q-C1s相互作用などの相互作用を阻害する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、20:1未満;19.5:1未満;19:1未満;18.5:1未満;18:1未満;17.5:1未満;17:1未満;16.5:1未満;16:1未満;15.5:1未満;15:1未満;14.5:1未満;14:1未満;13.5:1未満;13:1未満;12.5:1未満;12:1未満;11.5:1未満;11:1未満;10.5:1未満;10:1未満;9.5:1未満;9:1未満;8.5:1未満;8:1未満;7.5:1未満;7:1未満;6.5:1未満;6:1未満;5.5:1未満;5:1未満;4.5:1未満;4:1未満;3.5:1未満;3:1未満;2.5:1未満;2.0:1未満;1.5:1未満;または1.0:1未満の化学量論でC1qに結合する。ある特定の実施形態では、抗C1q抗体は、20:1~1.0:1または1.0:1未満の範囲の結合化学量論でC1qに結合する。ある特定の実施形態では、抗C1q抗体は、6:1~1.0:1または1.0:1未満の範囲の結合化学量論でC1qに結合する。ある特定の実施形態では、抗C1q抗体は、2.5:1~1.0:1または1.0:1未満の範囲の結合化学量論でC1qに結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1rとの間、またはC1qとC1sとの間、またはC1qとC1r及びC1sの両方との間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qとC1rとの間、C1qとC1sとの間、及び/またはC1qとC1r及びC1sの両方との間の相互作用を阻害する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qのA鎖に結合する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、C1qのB鎖に結合する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、C1qのC鎖に結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qのA鎖、C1qのB鎖及び/またはC1qのC鎖に結合する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、C1qのA鎖、B鎖、及び/またはC鎖の球状ドメインに結合する。他の実施形態では、抗C1q抗体は、C1qのA鎖、C1qのB鎖、及び/またはC1qのC鎖のコラーゲン様ドメインに結合する。
【0127】
本開示の抗体が2つ以上の補体因子間の相互作用、例えば、C1q及びC1sの相互作用、またはC1qとC1rとの間の相互作用を阻害する場合、抗体の存在下で生じる相互作用は、本開示の抗体が非存在の対照と比べて少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%減少し得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、2つ以上の補体因子間の相互作用を50%、60%、70%、80%、90%、または100%減少させる。ある特定の実施形態では、抗体の存在下で生じる相互作用は、本開示の抗体が非存在の対照と比べて少なくとも30%~少なくとも99%の範囲の量減少する。
【0128】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、本開示の抗体が非存在の対照と比べて、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%、または少なくとも30%から少なくとも99%の範囲の量、C2またはC4切断を阻害する。C2またはC4切断を測定するための方法は、当該技術分野でよく知られている。それぞれのC2またはC4切断での本開示の抗体についてのEC50値は、3μg/ml;2.5μg/ml;2.0μg/ml;1.5μg/ml;1.0μg/ml;0.5μg/ml;0.25μg/ml;0.1μg/ml;0.05μg/ml未満であり得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、およそ等モル濃度のC1q及びそれぞれの抗C1q抗体でC2またはC4切断を阻害する。
【0129】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、本開示の抗体が非存在の対照と比べて、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%、または少なくとも30%から少なくとも99%の範囲の量、自己抗体依存性及び補体依存性細胞傷害(CDC)を阻害する。自己抗体依存性及び補体依存性細胞傷害の阻害に関して本開示の抗体のEC50値は、3μg/ml;2.5μg/ml;2.0μg/ml;1.5μg/ml;1.0μg/ml;0.5μg/ml;0.25μg/ml;0.1μg/ml;0.05μg/ml未満であり得る。
【0130】
いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、本開示の抗体が非存在の対照と比べて、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくは少なくとも99%、または少なくとも30%から少なくとも99%の範囲の量、補体依存性細胞媒介性細胞傷害(CDCC)を阻害する。CDCCを測定するための方法は、当該技術分野でよく知られている。CDCC阻害に関して本開示の抗体のEC50値は、3μg/ml;2.5μg/ml;2.0μg/ml;1.5μg/ml;1.0μg/ml;0.5μg/ml;0.25μg/ml;0.1μg/ml;0.05μg/ml未満であり得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体は、CDCCを阻害するが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を阻害しない。
【0131】
ヒト化抗補体C1q抗体
本開示のヒト化抗体は、古典的補体経路のC1複合体における補体因子C1q及び/またはC1qタンパク質に特異的に結合する。ヒト化抗C1q抗体は、ヒトC1q、ヒト及びマウスC1q、ラットC1q、またはヒトC1q、マウスC1q、及びラットC1qに特異的に結合し得る。
【0132】
以下の16段落で挙げられる全ての配列は、米国特許出願番号14/933,517(それが開示する抗体及び関連する組成物について参照により本明細書に組み込まれる)から参照により組み込まれる。
【0133】
いくつかの実施形態では、ヒト重鎖定常領域は、配列番号47のアミノ酸配列、または配列番号47と少なくとも70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%の相同性を有するアミノ酸配列を含むヒトIgG4重鎖定常領域である。ヒトIgG4重鎖定常領域は、Kabat番号付けに従って1つ以上の改変及び/またはアミノ酸置換を有するFc領域を含み得る。そのような場合では、Fc領域は、位置248におけるロイシンからグルタメートへのアミノ酸置換を含み、そのような置換は、Fc領域がFc受容体と相互作用することを阻害する。いくつかの実施形態では、Fc領域は、位置241におけるセリンからプロリンへのアミノ酸置換を含み、そのような置換は、抗体におけるアームスイッチを防止する。
【0134】
ヒトIgG4(S241P L248E)重鎖定常ドメインのアミノ酸配列は、ASTKGPSVFPLAPCSRSTSESTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTKTYTCNVDHKPSNTKVDKRVESKYGPPCPPCPAPEFEGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSQEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPSSIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSQEEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSRLTVDKSRWQEGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSLGK(配列番号47)である。
【0135】
抗体は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含み得、重鎖可変ドメインは、配列番号31~34のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列、または配列番号31~34のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。ある特定のそのような実施形態では、軽鎖可変ドメインは、配列番号35~38のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列、または配列番号35~38のいずれか1つから選択されるアミノ酸配列と少なくとも約90%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0136】
重鎖可変ドメインバリアント1(VH1)のアミノ酸配列は、
【0137】
である。VH1の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0138】
重鎖可変ドメインバリアント2(VH2)のアミノ酸配列は、
【0139】
である。VH2の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0140】
重鎖可変ドメインバリアント3(VH3)のアミノ酸配列は、
【0141】
である。VH3の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0142】
重鎖可変ドメインバリアント4(VH4)のアミノ酸配列は、
【0143】
である。VH4の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0144】
カッパ軽鎖可変ドメインバリアント1(Vκ1)のアミノ酸配列は、
【0145】
である。Vκ1の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0146】
カッパ軽鎖可変ドメインバリアント2(Vκ2)のアミノ酸配列は、
【0147】
である。Vκ2の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0148】
カッパ軽鎖可変ドメインバリアント3(Vκ3)のアミノ酸配列は、
【0149】
である。Vκ3の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0150】
カッパ軽鎖可変ドメインバリアント4(Vκ4)のアミノ酸配列は、
【0151】
である。Vκ4の超可変領域(HVR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0152】
抗体は、HVR-L1 RASKSINKYLA(配列番号5)、HVR-L2 SGSTLQS(配列番号6)、及びHVR-L3 QQHNEYPLT(配列番号7)を保持しつつ、配列番号35~38と少なくとも85%、90%、または95%同一の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。抗体は、好ましくはHVR-H1 GYHFTSYWMH(配列番号9)、HVR-H2 VIHPNSGSINYNEKFES(配列番号10)、及びHVR-H3 ERDSTEVLPMDY(配列番号11)を保持しつつ、配列番号31~34と少なくとも85%、90%、または95%同一の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含み得る。
【0153】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号35の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列及び配列番号31の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号36の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列及び配列番号32の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号37の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列及び配列番号33の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号38の軽鎖可変ドメインアミノ酸配列及び配列番号34の重鎖可変ドメインアミノ酸配列を含む。
【0154】
いくつかの実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体は、Fab領域を含有する重鎖可変領域及びFc領域を含有する重鎖定常領域を含み、Fab領域は本開示のC1qタンパク質に特異的に結合するが、Fc領域はC1qタンパク質に結合することが不可能である。いくつかの実施形態では、Fc領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4アイソタイプに由来する。いくつかの実施形態では、Fc領域は、補体活性を誘導することが不可能であり、及び/または抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導することが不可能である。いくつかの実施形態では、Fc領域は、限定されないが、アミノ酸置換を含む、1つ以上の改変を含む。ある特定の実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体のFc領域は、Kabat番号付け慣例に従う位置248またはKabat番号付け慣例に従う位置248に対応する位置で、及び/またはKabat番号付け慣例に従う位置241またはKabat番号付け慣例に従う位置241に対応する位置でアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、位置248または位置248に対応する位置でのアミノ酸置換は、Fc領域がFc受容体と相互作用することを阻害する。いくつかの実施形態では、位置248または位置248に対応する位置でのアミノ酸置換は、ロイシンからグルタメートへのアミノ酸置換である。いくつかの実施形態では、位置241または位置241に対応する位置でのアミノ酸置換は、抗体におけるアームスイッチを防止する。いくつかの実施形態では、位置241または位置241に対応する位置でのアミノ酸置換は、セリンからプロリンへのアミノ酸置換である。ある特定の実施形態では、本開示のヒト化抗C1q抗体のFc領域は、配列番号47のアミノ酸配列、または配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む。
【0155】
抗C1q Fab断片
組換えDNA技術の出現の前は、抗体分子の構造を切断し、分子のどの部分がその様々な機能を担っているのかを決定するために、ポリペプチド配列を切断するタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が使用されていた。プロテアーゼパパインでの限定消化は、抗体分子を3つの断片に切断する。Fab断片として知られている2つの断片は同一であり、抗原結合活性を含有する。Fab断片は、抗体分子の2つの同一の腕部に対応し、その各々は、重鎖のV及びC1ドメインと対合した完全軽鎖からなる。他の断片は、抗原結合活性を含まないが、容易に結晶化することが当初観察され、この理由からFc断片(結晶化可能断片)と名づけられた。Fab分子をIgG分子と比較した場合、Fabは、それらのより高い移動性及び組織浸透能力、それらの減少した循環半減期、抗体エフェクター機能を媒介することなく一価で抗原に結合するそれらの能力、ならびにそれらのより低い免疫原性のため、ある特定のインビボ用途についてIgGよりも優れていることが見出された。
【0156】
Fab分子は、定常ドメインC2及びC3によって短縮された重鎖を有するIg分子の人工の約50kDaの断片である。2つの異好性(V-V及びC-C1)ドメイン相互作用は、Fab分子の2つの鎖の構造の基礎にあり、これはCとC1との間のジスルフィド架橋によってさらに安定化される。Fab及びIgGは、6つの相補性決定領域(CDR)(3つはそれぞれV及びVに由来する(LCDR1、LCDR2、LCDR3及びHCDR1、HCDR2、HCDR3))によって形成される同一の抗原結合部位を有する。CDRは、抗体の超可変抗原結合部位を画定する。最も高い配列バリエーションは、LCDR3及びHCDR3に見られ、これは天然免疫系では、それぞれV及びJ遺伝子またはVH及びH遺伝子の再編成によって生成される。LCDR3及びHCDR3は典型的には、抗原結合部位のコアを形成する。6つのCDRを接続し、提示する保存領域は、フレームワーク領域と称される。可変ドメインの三次元構造において、フレームワーク領域は、外側では超可変CDRループによって及び内側では保存ジスルフィド架橋によって連結された2つの対向する逆平行β-シートのサンドイッチを形成する。Fab及びIgGの抗原結合部位の安定性及び汎用性のこの独自の組み合わせは、疾患の診断、モニタリング、予防、及び処置のための臨床業務においてその成功を強調する。
【0157】
全ての抗C1q抗体Fab断片配列は、米国特許出願番号15/360,549(それが開示する抗体及び関連する組成物について参照により本明細書に組み込まれる)から参照により組み込まれる。
【0158】
ある特定の実施形態では、本開示は、重鎖(V/C1)及び軽鎖(V/C)を含むC1qタンパク質に結合する抗C1q抗体Fab断片であって、抗C1q抗体Fab断片は、6つの相補性決定領域(CDR)(3つはそれぞれV及びVに由来する)(HCDR1、HCDR2、HCDR3、及びLCDR1、LCDR2、LCDR3)を有する、抗C1q抗体Fab断片を提供する。抗体Fab断片の重鎖は、IgG1の第1の重鎖ドメインの後で切断され(配列番号39)、以下のアミノ酸配列を含む:
【0159】
配列番号39の相補性決定領域(CDR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0160】
抗体Fab断片の軽鎖ドメインは、以下のアミノ酸配列(配列番号40)を含む:
【0161】
配列番号40の相補性決定領域(CDR)は、太字かつ下線の文字で示されている。
【0162】
核酸、ベクター及び宿主細胞
本開示の方法において使用するのに好適な抗体は、例えば、米国特許番号4,816,567に記載されているように、組換え方法及び組成物を使用して生成され得る。いくつかの実施形態では、本開示の抗体のいずれかをコードするヌクレオチド配列を有する単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗C1q抗体のV/Cを含有するアミノ酸配列及び/またはV/C1を含有するアミノ酸配列をコードし得る。いくつかの実施形態では、そのような核酸を含有する1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。そのような核酸を含有する宿主細胞も提供され得る。宿主細胞は、(1)抗体のV/Cを含有するアミノ酸配列及び抗体のV/C1を含有するアミノ酸配列をコードする核酸を含有するベクター、または(2)抗体のV/Cを含有するアミノ酸配列をコードする核酸を含有する第1のベクター及び抗体のV/C1を含有するアミノ酸配列をコードする核酸を含有する第2のベクターを含有し得る(例えば、形質導入されている)。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、真核、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、E.coliなどの細菌である。
【0163】
抗C1q抗体を作製する方法が本明細書に開示される。本方法は、抗C1q抗体をコードする核酸を含有する本開示の宿主細胞を、抗体の発現に好適な条件下で培養することを含む。いくつかの実施形態では、抗体はその後、宿主細胞(または宿主細胞培地)から回収される。
【0164】
本開示のヒト化抗C1q抗体の組換え生成のため、抗体をコードする核酸は単離され、宿主細胞においてさらなるクローニング及び/または発現のための1つ以上のベクターに挿入される。そのような核酸は、慣用の手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能であるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、容易に単離され、シーケンシングされ得る。
【0165】
本開示の抗体、または本明細書に記載のその断片ポリペプチド(抗体を含む)のいずれかをコードする核酸配列を含有する好適なベクターには、限定されないが、クローニングベクター及び発現ベクターが含まれる。好適なクローニングベクターは、標準的な技術に従って構築され得、または当該技術分野で利用可能な多数のクローニングベクターから選択され得る。選択されるクローニングベクターは、使用されることが意図された宿主細胞に応じて変わり得る一方で、有用なクローニングベクターは通常、自己複製する能力を有し、特定の制限エンドヌクレアーゼのための単一の標的を保有し得、及び/またはベクターを含有するクローンを選択する際に使用され得るマーカーのための遺伝子を有し得る。好適な例には、プラスミド及び細菌ウイルス、例えば、pUC18、pUC19、Bluescript(例えば、pBS SK+)及びその誘導体、mpl8、mpl9、pBR322、pMB9、ColE1、pCR1、RP4、ファージDNA、及びシャトルベクター、例えば、pSA3及びpAT28が含まれる。これらの及び多くの他のクローニングベクターがBioRad、Stratagene、及びInvitrogenなどの商業的ベンダーから利用可能である。
【0166】
対象となる核酸を含有するベクターは、エレクトロポレーション、塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、または他の物質を用いるトランスフェクション;微粒子銃;リポフェクション;及び感染(例えば、ベクターはワクシニアウイルスなどの感染性物質である)を含む、多数の適切な手段のいずれかによって宿主細胞に導入され得る。ベクターまたはポリヌクレオチドを導入する選択はしばしば、宿主細胞の特徴に依存する。いくつかの実施形態では、ベクターは、本開示の抗C1q抗体をコードする1つ以上のアミノ酸配列を含有する核酸を含有する。
【0167】
抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に好適な宿主細胞には、原核生物細胞または真核生物細胞が含まれる。例えば、本開示の抗C1q抗体は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合、細菌において生成され得る。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現について(例えば、米国特許番号5,648,237、5,789,199、及び5,840,523;ならびにCharlton,Methods in Molecular Biology,Vol.248(B.K.C.Lo,ed.,Humana Press,Totowa,NJ,2003),pp.245-254(E.coliにおける抗体断片の発現について記載している))。他の実施形態では、本開示の抗体は、真核細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはリンパ細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)において生成され得る(例えば、米国特許出願番号14/269,950、米国特許番号8,981,071、Eur J Biochem.1991 Jan 1;195(1):235-42)。発現後、抗体は、可溶性画分における細菌細胞ペーストから単離され得、さらに精製され得る。
【0168】
薬学的組成物及び投与
本開示の抗C1q抗体(例えば、FabA)は、薬学的組成物の形態で投与され得る。
【0169】
本開示の抗体、抗体断片及び/または抗体誘導体の治療製剤は、所望の純度を有する抗体を任意の薬学的に許容可能な担体、賦形剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.[1980])と混合することによって保存のために凍結乾燥製剤または水溶液の形態で調製され得る。許容可能な担体、賦形剤、または安定化剤は、用いられる投薬量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、これには緩衝液、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む単糖、二糖、及び他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖類、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);及び/または非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)が含まれる。
【0170】
リポフェクションまたはリポソームもまた、抗体または抗体断片、または抗体誘導体を細胞に送達するために使用され得、標的タンパク質の結合ドメインに特異的に結合するエピトープまたは最小断片が好ましい。
【0171】
抗体はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、または界面重合によって調製されたマイクロカプセル、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル内に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロ乳濁液、ナノ粒子、及びナノカプセル)中、またはマクロ乳濁液中に取り込まれ得る。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0172】
投与のために使用される製剤は無菌であり得る。これは、滅菌濾過膜を介する濾過によって容易に達成される。
【0173】
持続放出調製物が調製され得る。持続放出調製物の好適な例としては、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、これらのマトリックスは、成形物品、例えば、フィルム、またはマイクロカプセルの形態である。持続放出マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許番号3,773,919)、L-グルタミン酸とγエチル-L-グルタミン酸エステルのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、例えば、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドから構成される注射用ミクロスフェア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸などのポリマーが100日間にわたる分子の放出を可能にする一方で、ある特定のヒドロゲルは、より短い期間にわたってタンパク質を放出する。
【0174】
本開示の抗体、抗体断片及び/または抗体誘導体ならびに組成物は、典型的には硝子体投与によって投与される。
【0175】
薬学的組成物はまた、所望の製剤に応じて、動物またはヒト投与のための薬学的組成物を製剤化するために一般的に使用されるビヒクルとして定義される、希釈剤の薬学的に許容可能な非毒性担体を含み得る。希釈剤は、組み合わせの生物学的活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、緩衝水、生理的生理食塩水、PBS、リンゲル液、デキストロース溶液、及びハンクス溶液である。また、薬学的組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または非毒性、非治療性、非免疫原性安定化剤、賦形剤などを含み得る。組成物はまた、おおよその生理的条件のための追加の物質、例えば、pH調整及び緩衝剤、毒性調整剤、湿潤剤及び洗浄剤を含み得る。
【0176】
組成物はまた、例えば、抗酸化剤などの多様な安定化剤のいずれかを含み得る。薬学的組成物がポリペプチドを含む場合、ポリペプチドは、ポリペプチドのインビボ安定性を向上させるか、またはそうでなければその薬理学的特性を向上させる(例えば、ポリペプチドの半減期を増加させる、その毒性を低下させる、他の薬物動態及び/または薬力学的特性を向上させる、または溶解性または取り込みを向上させる)様々なよく知られている化合物と複合体化され得る。そのような改変または錯化剤の例には、スルフェート、グルコネート、シトレート及びホスフェートが含まれる。組成物のポリペプチドはまた、それらのインビボ属性を向上させる分子と複合体化され得る。そのような分子には、例えば、炭水化物、ポリアミン、アミノ酸、他のペプチド、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン)、及び脂質が含まれる。様々なタイプの投与に好適な製剤に関するさらなる指針は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mace Publishing Company,Philadelphia,Pa.,17th ed.(1985)で見ることができる。薬物送達のための方法の簡潔なレビューについては、Langer,Science 249:1527-1533(1990)を参照。
【0177】
活性成分の毒性及び治療的有効性は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な投与量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な投与量)を決定することを含む、細胞培養及び/または実験動物における標準的な薬学的手順に従って決定され得る。毒性と治療効果との間の投与量比は治療指数であり、それは比LD50/ED50として表され得る。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0178】
細胞培養及び/または動物研究及び/またはヒト臨床試験から得られたデータは、ヒトのための投薬量の範囲を策定する際に使用され得る。活性成分の投薬量は典型的には、低い毒性でED50を含む循環濃度の範囲内に収まる。投薬量は、用いられる投薬形態及び利用される投与経路に応じてこの範囲内で変わり得る。
【0179】
薬学的組成物を製剤化するために使用される成分は、好ましくは、高純度のものであり、潜在的に有害な混入物質を実質的に含まない(例えば、少なくとも国の食品(National Food)グレード、通常は少なくとも分析グレード、より典型的には少なくとも薬学的グレード)。さらに、非経口的使用のために意図される組成物は通常、無菌である。所与の化合物が使用前に合成されなければならない限り、得られる生成物は、合成または精製プロセスの間に存在し得る任意の潜在的に毒性の物質、特に任意のエンドトキシンは典型的には実質的に含まれない。非経口投与のための組成物もまた、典型的には実質的に等張性であり、GMP条件下で生成される。
【0180】
本開示の組成物は、任意の医学的に適切な手順、例えば硝子体注射を用いて、投与されてよい。
【0181】
治療方法
本開示は、概して、ヒト患者における眼の疾患(例えば、緑内障または、地図状萎縮を含むAMDなどの加齢黄斑変性症)を予防する、発生リスクを低減する、または治療する組成物及び方法を対象とする。そのような方法は、患者に、硝子体注射を介して、約1mg~約10mgの抗C1q抗体(例えば、約1mg、約1.5mg、約2mg、約2.5mg、約3mg、約3.5mg、約4mg、約4.5mg、約5mg、約5.5mg、約6mg、約6.5mg、約7mg、約7.5mg、約8mg、約8.5mg、約9mg、約9.5mgまたは約10mgの抗C1q抗体)を含む組成物を投与することを含む。そのような方法はまた、患者に、約1mg~約10mg(例えば、約1mg、約1.5mg、約2mg、約2.5mg、約3mg、約3.5mg、約4mg、約4.5mg、約5mg、約5.5mg、約6mg、約6.5mg、約7mg、約7.5mg、約8mg、約8.5mg、約9mg、約9.5mgまたは約10mgの抗C1q抗体)の抗C1q抗体を含む組成物を、硝子体注射を介して投与することを含み、上記抗体は、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインと、を含む。投与される組成物は、約1mg~約5mgの抗C1q抗体を含んでよい。投与される組成物は、約1mg~約2.5mg、約2.5mg~約5mg、約5mg~約7.5mg、または約7.5mg~約10mgの抗C1q抗体を含んでよい。投与される組成物は、約5mgの抗C1q抗体を含んでよい。投与される組成物は、約10mgの抗C1q抗体を含んでよい。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、軽鎖可変ドメインは、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む。いくつかの実施形態では、軽鎖可変ドメインは、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインを含み、重鎖可変ドメインは、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸配列を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸配列を有するHVR-H3を含む。いくつかの実施形態では、重鎖可変ドメインは、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインであって、配列番号5のアミノ酸配列を有するHVR-L1、配列番号6のアミノ酸を有するHVR-L2、及び配列番号7のアミノ酸を有するHVR-L3を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列と少なくとも約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインであって、配列番号9のアミノ酸配列を有するHVR-H1、配列番号10のアミノ酸を有するHVR-H2、及び配列番号11のアミノ酸を有するHVR-H3を含む重鎖可変ドメインと、を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号4及び35~38から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインと、配列番号8及び31~34から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインと、を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、抗体断片またはそれらの抗体誘導体であってよい。抗体断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディまたは一本鎖抗体分子であってよい。いくつかの実施形態では、Fab断片は、配列番号39の重鎖Fab断片及び配列番号40の軽鎖Fab断片を含む。
【0182】
いくつかの実施形態では、抗体は、1週間に1回、隔週毎に1回、3週間毎に1回、1ヵ月に1回、4週間毎に1回、6週間毎に1回、8週間毎に1回、隔月毎に1回、10週間毎に1回、12週間毎に1回、3ヵ月毎に1回、または4ヵ月毎に1回投与される。いくつかの実施形態では、抗体は、少なくとも6ヵ月間、少なくとも7ヵ月間、少なくとも8ヵ月間、少なくとも9ヵ月間、少なくとも10ヵ月間、少なくとも11ヵ月間または少なくとも12ヵ月間投与される。
【0183】
いくつかの実施形態では、眼の疾患は、緑内障、または地図状萎縮などの加齢黄斑変性症である。
【0184】
特定の好ましい実施形態では、FabAは、2.5mg/眼の投与量で、毎月1回、4週間毎に1回、6週間毎に1回、または隔月毎に1回、IVT注射として投与される。
【0185】
特定の好ましい実施形態では、FabAは、5mg/眼の投与量で、毎月1回、4週間毎に1回、6週間毎に1回、または隔月毎に、IVT注射として投与される。
【0186】
特定の好ましい実施形態では、FabAは、5mg/眼の投与量で、毎月1回、4週間毎に1回、6週間毎に1回、または隔月毎に1回、IVT注射として投与される。
【0187】
特定の好ましい実施形態では、FabAは、10mg/眼の投与量で、毎月1回、4週間毎に1回、6週間毎に1回、または隔月毎に1回、IVT注射として投与される。
【0188】
FabAの注射は、IVT注射を実行する訓練を行い、資格を得た医師が、無菌技術を使用して完了する。
【0189】
抗C1q抗体は、C1qと自己抗体との間またはC1qとC1rとの間、またはC1qとC1sとの間の相互作用を阻害し得、または循環もしくは組織からのC1qのクリアランスを促進し得る。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、100nM~0.005nMまたは0.005nM未満の範囲の解離定数(K)を有する。いくつかの実施形態では、抗C1q抗体は、20:1~1.0:1または1.0:1未満の範囲の結合化学量論、6:1~1.0:1または1.0:1未満の範囲の結合化学量論、または2.5:1~1.0:1または1.0:1未満の範囲の結合化学量論でC1qに結合する。
【0190】
本方法は、C1qの生物学的活性を阻害する。例えば、(1)自己抗体に対するC1q結合、(2)C1rに対するC1q結合、(3)C1sに対するC1q結合、(4)ホスファチジルセリンに対するC1q結合、(5)ペントラキシン-3に対するC1q結合、(6)C反応性タンパク質(CRP)に対するC1q結合、(7)球状C1q受容体(gC1qR)に対するC1q結合、(8)補体受容体1(CR1)に対するC1q結合、(9)Bアミロイドに対するC1q結合、または(10)カルレチキュリンに対するC1q結合である。他の実施形態では、C1qの生物学的活性は、(1)古典的補体活性化経路の活性化、(2)溶解の減少及び/またはC3沈着の減少、(3)抗体及び補体依存性細胞傷害の活性化、(4)CH50溶血、(5)赤血球溶解の減少、(6)赤血球貪食の減少、(7)樹状細胞浸潤の減少、(8)補体媒介性赤血球溶解の阻害、(9)リンパ球浸潤の減少、(10)マクロファージ浸潤の減少、(11)抗体沈着の減少、(12)好中球浸潤の減少、(13)血小板貪食の減少、(14)血小板溶解の減少、(15)移植片生存の改善、(16)マクロファージ媒介性貪食の減少、(17)自己抗体媒介性補体活性化の減少、(18)輸血反応による赤血球破壊の減少、(19)同種抗体による赤血球溶解の減少、(20)輸血反応による溶血の減少、(21)同種抗体媒介性血小板溶解の減少、(22)貧血の改善、(23)好酸球増多症の減少、(24)赤血球上のC3沈着の減少(例えば、RBC上のC3b、iC3bなどの沈着の減少)、(25)血小板上のC3沈着の減少(例えば、血小板上のC3b、iC3bなどの沈着の減少)、(26)アナフィラトキシン生成の減少、(27)自己抗体媒介性発疹形成の減少、(28)自己抗体誘導性エリテマトーデスの減少、(29)輸血反応による赤血球破壊の減少、(30)輸血反応による血小板溶解の減少、(31)肥満細胞活性化の減少、(32)肥満細胞ヒスタミン放出の減少、(33)血管透過性の減少、(34)移植片内皮上の補体沈着の減少、(35)B細胞抗体生成、(36)樹状細胞成熟、(37)T細胞増殖、(38)サイトカイン生成、(39)ミクログリア活性化、(40)アルツス反応、(41)移植片内皮におけるアナフィラトキシン生成の減少、または(42)補体受容体3(CR3/C3)発現細胞の活性化である。
【0191】
いくつかの実施形態では、CH50溶血は、ヒトCH50溶血を含む。抗体は、ヒトCH50溶血の少なくとも約50%~約100%を中和することが可能であり得る。抗体は、ヒトCH50溶血の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%を中和することが可能であり得る。抗体は、150ng/ml未満、100ng/ml未満、50ng/ml未満、または20ng/ml未満の投与量でCH50溶血の少なくとも50%を中和することが可能であり得る。
【0192】
いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、一価抗体、多重特異性抗体、もしくは抗体断片、またはその抗体誘導体である。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、Fab断片などの抗体断片である。抗体断片の例は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディ、及び一本鎖抗体分子である。
【0193】
組成物は、インビボ使用のために医師の指導の下で得られ、使用され得ることが企図される。治療製剤の投薬量は、疾患の特質、投与の頻度、投与の様式、宿主からの薬剤のクリアランスなどに応じて広く変わり得る。
【0194】
本明細書で使用される場合、「慢性投与される」、「慢性処置」、「慢性的に処置すること」、またはその類似する文法的類型は、長期間にわたって患者における全身性補体活性を完全にまたは実質的に抑制するために、患者の眼における治療剤の所定閾値濃度を維持するために用いられる処置レジメンを指す。したがって、抗体で慢性的に処置される患者は、2週以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、または52週;1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヵ月;または1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、または12年または患者の人生の残りの間)の期間、患者における全身性補体活性を阻害するまたは実質的に阻害する患者の眼における抗体の濃度を維持するのに十分な量の抗体及び投薬頻度で処置され得る。いくつかの実施形態では、抗体は、20%以下(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、またはさらに5%未満)で血清溶血活性を維持するのに有効な量及び頻度でそれを必要とする患者に慢性投与され得る。いくつかの実施形態では、抗体は、LDHについて正常な範囲の少なくとも20%以内(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、またはさらに5%未満)で血清乳酸脱水素酵素(LDH)レベルを維持するのに有効な量及び頻度で患者に投与され得る。
【0195】
治療剤、例えば抗C1q抗体は、適切な、薬学的に許容可能な担体または希釈剤と組み合わせることによって、治療的投与のための種々の製剤中に組み込むことができる。
【実施例
【0196】
実施例1:非臨床試験におけるFabAの評価
FabA医薬品は、IVT注射用の無菌等張液である。
【0197】
FabAは、IVT注射用の無菌単回投与バイアルとして提供する。
【0198】
FabAを用いて、広範囲にわたる一連のインビトロ及びインビボ薬理学試験を実施した。
【0199】
抗体Mab1、Mab1-Fab及びMab2は、急性の緑内障マウスモデルにおいて活性であり、網膜神経節細胞及び/または神経線維を欠損から保護した。光酸化光誘発損傷モデルのマウスでは、硝子体内に投与したMab1は、眼内における視細胞欠損及び網膜の機能的結合性に対する保護効果があった。
【0200】
FabAのGLP試験は、単回投与ラット眼毒性試験、及び3回の反復投与カニクイザル眼毒性試験からなる。毒性試験のための投与経路は、IVT注射であった。単回投与及び2回投与(毎月1回)のIVT GLP試験において、カニクイザルにおける毎月1回、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)、及び単回投与ラット試験における0.05mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の無毒性量(NOAEL)では、FabAは有害な眼毒性の根拠を示していない。カニクイザルにおける26週間慢性眼毒性試験では、有害な眼の変化を、2回の注射手順と関連付け、及び/または抗薬剤抗体(ADA)媒介のものであり、FabA IVT投与の直接的な作用ではないと決定した。
【0201】
ラット及びカニクイザルの血清及び硝子体におけるFabAの薬動力学評価を実施した。硝子体内のC1q濃度を、サルにおけるFabAのC1q阻害のPDマーカーとして測定した。サルにおけるPK/PD試験及びTK/PD試験により、硝子体におけるFabA薬剤曝露レベルと一致して、確固たる眼へのPD作用が示された。
【0202】
FabA及び前駆体分子の、ヒトC1qへの結合及び親和性
FabA及び前駆体分子の、C1qへの結合親和性も、ELISAによって調査した。全ての分子(Mab2-Fab、FabA、及びMab2、Mab1及びMab1-Fab)は、ヒトC1qに対する親和性を示し、2.2~4.9ng/mL(20~95pM)の範囲の50%効果濃度(EC50)を有した。C1qへのFabA結合のEC50は、2.5ng/mLである。
【0203】
IgM媒介性赤血球溶血への作用
ヒト血清中のIgMによりオプソニン化したRBCの古典的補体依存の溶血を機能的に阻害するFabA、Mab2及びMab2-Fabの活性を測定した(図3)。3分子はほとんど同一の力価を示し、これは同等の結合親和性と一致している。IgM被覆RBC溶血に対する、FabA阻害の50%阻害濃度(IC50)は、0.62μg/mL(約12nm)である。
【0204】
インビボ薬理学試験
急性の緑内障マウスモデルにおける、抗C1q抗体処置の視覚神経損傷予防
マウスにおいて、前眼房内へのポリスチレンビーズの注射によって、2週間にわたって、IOPの急上昇、網膜の神経節細胞の欠損、及び視神経損傷を引き起こす。IOP上昇の前日及び7日後に、マウスに、Mab1、Mab1-Fab及びMab2を硝子体投与した。各時点で、2μLの10mg/mL抗体、または生理食塩水を投与した。マウスの眼の5~10μlの硝子体体積を基準として、抗体の濃度は、2000~4000μg/mLであった。損傷後2週間で視神経を収集し、無傷の軸索、及び損傷を受けた軸索の数を定量化した。抗C1q抗体処置は、この緑内障誘発マウスモデルにおいて、RGC欠損及び/または網膜の神経線維損傷に対する保護をもたらした(図4)。
【0205】
光酸化光誘発損傷モデルにおける、抗C1q抗体処置の視細胞損傷からの保護
マウスを、天然白色LEDの100Kluxに1~7日間曝露したとき、光酸化損傷により網膜の視細胞欠損がもたらされた。このモデルでは、視細胞死及びミクログリア/マクロファージリクルートメントと相関する、3~7日にわたる時間依存的なC1qa遺伝子発現の増大があった。C1qa-/-マウスは、光損傷誘発の7日後には示さなかったが、14日後の時点で、より少ない視細胞死、視細胞損傷に対するミクログリア/マクロファージリクルートメントの低下、及びより高い視覚機能を示した。光損傷後7日目におけるMab1抗体のIVT投与は、網膜電図(図5)で測定したように、視細胞欠損を減少させ、網膜機能を維持した。マウスに7.5mg/mLの抗体1μLを投与した。これは硝子体内での750~1500ug/mLの濃度に相当する。これに対して、0、4及び8日目における、100mg/kgでのMab1の全身送達は、視細胞の欠損または機能に効果がなかった。網膜C1qは、初期のAMDにおける外側の網膜、及びマウス網膜に位置する網膜下のミクログリア/マクロファージによって主に発現した。したがって、抗C1q抗体による保護は、ヒト疾患のGAの病因における、視細胞損傷及び古典的補体カスケードの開始についてのC1qの明確な役割を示唆している。
【0206】
安全性薬理学
26週間のカニクイザルへの、慢性IVT投与に続く全身曝露は、86.3ng/mLを超えず、一方で26週間のカニクイザル試験における、毎週1回のIV投与による同一CDRを有するMab2の全身曝露は、200mg/kgのNOAELで1mg/mLを超えた。
【0207】
したがって、IV投与後の全長抗体、Mab2の安全性薬理学エンドポイントは、サルでの4週間反復投与GLP毒性試験において毎週最大200mg/kg、及びサルでの26週間反復投与毒性試験において毎週最大200mg/kgであり、心臓血管系、呼吸器系、または神経系エンドポイントへの治療関連作用の根拠はなく、IVT投与したFabAの全身安全性を裏付けた。
【0208】
さらに、SC投与後のFabAの安全性薬理学エンドポイントは、サルでの4週間反復投与GLP毒性試験において毎日最大20mg/kgであり、心臓血管系、呼吸器系、または神経系エンドポイントへの治療関連作用の根拠はなく、IVT投与したFabAの全身安全性を裏付けた。
【0209】
動物における薬物動態
FabAのPK、TK及びPDを特性決定するように設計した非臨床試験を、ラット及びカニクイザルにおいて実施した。これらの試験には、FabAを用いた、ラット及びカニクイザルにおける単回投与IVT PK試験と、カニクイザルにおける反復投与TK/PD試験とが含まれる。より大規模なTK/PD試験をサルにおいて実施し、ラットまたはサルのいずれの単回投与試験においても眼毒性はなかった。
【0210】
薬物動態/毒物動態/薬力学分析
硝子体内のFabAの薬物動態
ラットに、0.01mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)、または0.05mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与量で、両側のIVTにFabAを単回投与し、その後、両方の投与量レベルで、薬剤は、約12時間の半減期と一致して硝子体から比較的早く排除された。カニクイザルでも両側のIVTにFabAを投与した。薬剤は、1mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)及び5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の両方の投与群で、約3日の半減期を伴い、ラットと比較してゆっくりと硝子体から分配された。
【0211】
両方の種において、FabAのIVT PKは、投与量に対して線形であった。FabAを、1.0mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)、2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)、または5.0mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与量で、28日の期間にわたって2回投与した、カニクイザルにおける眼毒性試験からのデータは、屠殺時(すなわち、2回目の投与後15日及び30日)の硝子体濃度が、単回IVT投与からのデータと通常一致していたことを示している。
【0212】
FabAを、毎月2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)、毎月5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)、または隔週で5mg/眼(いずれの5mg/眼の投与量も、その後2.5mg/眼に減らし、5/2.5mg/眼と称する)でIVTに投薬したカニクイザルにおける26週間慢性眼毒性試験では、硝子体液FabA濃度は、169日目を通してFabAを受けた全ての動物では、184日目に定量化可能であり、全ての動物において、10週間の投与のない回復期間後の242/243日目には、定量化限界(BQL)より低かった。硝子体液FabA濃度は、高い変動性を示し、投与群間または性別間で明確な差または傾向はなかった。
【0213】
血清中のFabAの薬物動態
単回IVT投与後、血清濃度は硝子体液濃度よりもはるかに低く、Cmax血清/Cmax硝子体は、ラットにおいて約0.003、カニクイザルにおいて0.000001であった。28日の期間にわたって両側のIVTにFabAを2回投与したカニクイザルでは、血清濃度は低く、最も高い平均値ピーク濃度(Cmax)は10.1ng/mLであり、それは2回目の5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)のIVT投与後に観察された。FabAが硝子体から血清コンパートメントに分配されるとき、FabAは、C1qに結合する、または遊離形態のままでアッセイで定量化可能であることができ、1mg/眼群では定量化できない(すなわち、<1.25ng/mL)、ならびに2.5及び5.0mg/眼の群ではそれぞれ3.3及び10.1ng/mLの平均Cmaxである、低いFabA血清濃度をもたらす。
【0214】
これに対して、10mg/kgの投与量でのFabAのIV投与後には、試験した2匹のカニクイザルで、FabA最大濃度は13800及び17000ng/mLであり、濃度はその後、Fab断片で予期したように、約2時間の半減期と一致して極めて迅速に低下した。
【0215】
4週間にわたって週1回、200mg/kgの投与量でMab2の全身IV投与を行った後に対して、28日の期間にわたって2回の両側のIVT投与(5mg/眼)後の血清FabA濃度を比較すると、FabA血清曝露は著しく低かった(0.00000701のFabA/Mab2のCmax比率)。
【0216】
カニクイザルにおける26週間の慢性眼毒性試験では、FabAを、毎月2.5mg/眼、毎月5/2.5mg/眼、または隔月で5/2.5mg/眼の投与量でIVTに投薬した。血清中のFabA全身性曝露は低く、局所的投与経路と一致した。85日目のFabA血清濃度は86.3ng/mLを超えず、最後の投与後の169日目においては、FabA血清濃度は60.8ng/mLを超えなかった。投与量レベル/レジメン及び評価日を問わず、投与後24~48時間で最大血清FabA濃度を観察した。血清中のFabAの半減期(T1/2)値は、隔週5/2.5mg/眼の投与群の動物における少数の例においてのみ算出可能/報告可能であり、全ての評価日で49.9~143時間の範囲であり、眼の腔から血清への分配の可能性を表している。2.5mg/眼での毎月の反復IVT投与では、血清中のFabAの蓄積はほとんどなかった。しかしこの群では、1日目以降の後続の各評価日に、算出可能なFabA血清濃度が上昇した。その他のどの群においても、57日目以降に投与量レベルを変化させるために、1日目からの蓄積を決定できなかった。169日目/85日目の時間「t」に対する曲線下面積(AUC[0-t])比率は、毎月1回の5/2.5mg/眼を投与した雄及び雌では0.0407~0.664の範囲であり、隔週の5/2.5mg/眼を投与した雄及び雌では0.132~7.15の範囲であった。カニクイザルにおける慢性26週間投与後のFabA及びMab2の性別を合わせた平均全身性曝露を比較するとき、隔週5/2.5mg/眼での両側のIVT投与後のFabA曝露AUC0-t(1,230hr*ng/mLまたは1.23hr*μg/mL)は、Mab2の毎週1回の全身性IV投与後に得られた、200mg/kgのAUC0-t(3,150,000hr*μg/mL)と比較して、FabA血清曝露は著しく低かった(0.000000073のFabA/Mab2のCmax比率、0.00000039のAUC0-t比率)。
【0217】
眼のC1qの薬力学
対照動物における平均硝子体遊離C1q濃度は、40.3ng/mLであり、一方で1mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)、または5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)のいずれかのFabAのIVT単回投与を受けたカニクイザルの硝子体では、遊離C1q濃度は、試験期間(30日)の間、検出限界(<1.953ng/mL)より低く、完全なC1q抑制を示した。FabAを、合計2回の投与で28日毎に受けたサルでは、2回目の投与後、3種の投与量(すなわち、1、2.5及び5mg/眼を28日毎に2回投与)全てにおいて、C1qは15日間抑制されたままであった。2回目のFabA投与の30日後、C1qは、全ての眼ではないが、一部の眼で検出限界より低いままであった。
【0218】
2回目の5mg/眼のIVT投与の15日後、C1qの>80%は、網膜、脈絡膜及び視神経乳頭内のFabAに結合していた。2回目の5mg/眼の投与の30日後、C1qは、網膜及び脈絡膜においてのみ抑制されたままであった。
【0219】
カニクイザルにおける26週間の慢性眼毒性試験では、FabAを、毎月2.5mg/眼、毎月5/2.5mg/眼、または隔週5/2.5mg/眼でIVTに投薬した。FabAを受けた全ての群において、屠殺剖検で硝子体液C1q濃度の低下があった。投与の休みを設けた及び/または10週間の投与のない回復期間後の動物はそれぞれ、屠殺剖検及び回復後の剖検で、硝子体液C1q濃度が回復し、対照群と同等だった。
【0220】
血清C1q及び血清溶血の阻害
カニクイザルへの5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の両側のIVT投与後に、C1q依存性血清溶血は約50~80%阻害され、1回目のIVT投与後、約24~48時間持続し、2回目のFabA投与後、最大96時間持続し、その後ベースラインに戻った。
【0221】
カニクイザルへの10mg/kgの単回IV投与後、1時間で、最大のC1q依存性血清溶血の阻害に達した。最大阻害は約24時間維持され、FabA投与の120時間後、ベースラインに戻った。無血清C1qも迅速に減少したが、120時間までにベースライン値に戻らず、それにより、一部のFabAは、この時間枠を通じて循環しているC1qに結合したままだったことが示唆される。
【0222】
毒性学
FabAの安全性は、臨床試験におけるIVT投与用のFabA使用を裏付けるように設計された、包括的な非臨床的眼毒性学プログラムによって裏付けされる。ラット及びカニクイザルで、FabAを用いた初回の単回投与試験を実施し、これらの種のいずれにおいても眼毒性は観察されなかった。ラット及びサルでの同様の所見、及びインビトロ薬理学データ、サルがラットよりも重要であることを示した及び配列相同性データに基づいて、FabAの反復投与眼毒性試験にカニクイザルを選択した。
【0223】
反復投与眼毒性試験には、検眼(OE)、IOP、網膜電図(ERG)、眼の組織病理学、ならびにTK分析用の血清及び硝子体内のFabA測定が含まれた。さらに、FabAのPD特性は、硝子体内のC1q(全て反復投与試験)、及び眼組織(2回投与試験)、及び血清中のC1q依存性溶血の阻害(2回投与試験)の測定によって決定した。
【0224】
単回投与の毒性
FabAのIVT投与は、単回投与(ラット及びカニクイザル)眼毒性試験における忍容性が良好であった。これらの試験において、ラット及びカニクイザルのNOAELは、それぞれ0.05mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)及び5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)であると考えられ、これらは各試験において評価した最大投与量であり、硝子体体積(ラット0.02mL、サル2mL)用に補正した場合と同等(2.5mg/mL)である。
【0225】
スプラーグドーリーラットにおける、硝子体注射によるFabAのGLP単回投与眼毒性試験
この単回投与GLPラット眼毒性試験では、若年成体の雄ラットに、ビヒクルまたはFabAを、0.01mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)、及び0.05mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与量で、IVT注射によって両側に1回投与した。FabA処置済み動物を、1日目(投与の6時間後)、3日目、7日目、10日目、20日目、30日目に屠殺し、全てのビヒクル対照動物を30日目に屠殺した。全ての動物は予定の剖検まで生存した。
【0226】
この試験には、標準的な安全性パラメータが含まれた。血液サンプルを屠殺時に収集し、TK分析用に屠殺時の硝子体サンプルを得た。さらに、IOPを含む眼科検査(OE)、及び眼の組織病理学を評価した。
【0227】
OE、IOP及び眼の組織病理学を含む、評価を行ったいかなる安全性パラメータにおいても、FabAに関連する変化は認められなかった。
【0228】
FabAへの硝子体曝露を、0.01mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)、及び0.05mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の両方で、投与後6時間(初回の収集)~144時間、処置した動物において、TKで確認した。FabAへの血清曝露を、0.01及び0.05mg/眼で処置した動物(投与後2~48時間のみ)において、TKで確認した。
【0229】
FabAに関連すると考えられる副作用は、この試験において観察した、評価した最大投与量である0.05mg/眼を含め、いかなる投与量レベルにおいても観察されなかった。これらの結果に基づき、NOAELは、0.05mg/眼(硝子体内の2.5mg/mL)であった。
【0230】
カニクイザルにおける、硝子体注射によるFabAの非GLP単回投与眼毒性試験
この単回投与非GLPカニクイザル眼毒性試験では、若年成体の雌カニクイザルに、ビヒクルまたはFabAを、1mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)、及び5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与量で、IVT注射によって両側に投与した。FabA処置済み動物を、1日目(投与の6時間後)、3日目、7日目、10日目、20日目、30日目に屠殺した。全てのビヒクル対照動物を30日目に屠殺し、全ての動物は予定の剖検まで生存した。
【0231】
この試験では、OE、IOP及び眼の組織病理学を含む標準的な安全性パラメータを評価した。さらに試験全体にわたって血液サンプルを収集し、TK及びPDのために、屠殺時の硝子体サンプルを分析した。
【0232】
FabAに関連する変化は、炎症を伴わない、有害でない所見に限られていた。これらの所見には、1mg/眼の投与群での、ブドウ膜における組織球浸潤及び軽度の好塩基球増加が含まれた。5mg/眼の投与量での所見は、ブドウ膜における組織球浸潤及び最小から軽度の好塩基球増加で構成された。
【0233】
OE及びIOPにおいては、FabAに関連する変化は観察されなかった。この試験において、FabAに関連すると考えられる副作用は、5mg/眼(評価した最大投与量)を含め、いかなる投与量レベルにおいても観察されなかった。これらの結果に基づき、NOAELは、5mg/眼(硝子体内の2.5mg/mL)であると考えられた。
【0234】
硝子体におけるFabAへの曝露を、全ての処置動物において、試験の間(30日目を通して)、TKで確認した。FabAへの血清曝露は、1mg/眼では存在せず、5mg/眼では低いかつ一時的現象であり、6ng/mL(LLOQ1.25ng/mL)を超えなかった。Clqは、全てのFabA処置動物の硝子体内に、30日目を通して存在しなかった。
【0235】
反復投与毒性試験
反復投与眼毒性試験では、少なくとも4週間毎に1回、IVT注射によってFabAを投与した。カニクイザルにおけるFabAの反復投与は、忍容性が良好であった。初回の反復投与GLP眼毒性試験では、カニクイザルのNOAELは、評価した最大投与量である、毎月の2回投与での5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)であった。カニクイザルにおける26週間慢性眼毒性試験では、有害な眼の変化を、2回の注射手順と関連付け、及び/またはADA媒介のものであり、FabAのIVT投与の直接的な作用ではないと決定した。したがって、NOAELは、カニクイザルにおける隔週または毎月1回、それぞれ13回または7回の投与で、2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)であると決定した。
【0236】
カニクイザルにおける、硝子体注射によるFabAの6週間GLP反復投与眼毒性試験
この試験には標準的な安全性パラメータが含まれ、試験を通じて血液サンプルを収集した。TK及びPD分析用に屠殺時の硝子体サンプルと、TK及びPD分析用に屠殺時の視神経切片も同様に収集した。さらに、OE、IOP、ERG及び眼の組織病理学も評価した。
【0237】
有害でないと決定したFabAの所見は、1回の高い投与量(2.5mg/眼)(ヒト投与量5mgに相当する)の雌に限られており、この雌は、炎症を伴わない硝子体の最小の好塩基性/青色染色を有した(好塩基球増加と呼ばれる)。重要なことに、OE、IOP及びERGでは、FabAに関連する変化は認められなかった。全ての処置動物の硝子体におけるFabAへの曝露を、試験及び回復の間(最後の投与から30日目後)、TKによって確認した。
【0238】
血清曝露は、1mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)では測定可能ではなく、2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)では低くかつ一時的(最初の投与から12~48時間後、最後の投与から6~168時間後)であり、8ng/mL(LLOQ1.25ng/mL)を超えなかった。FabA濃度が約100ng/mLであったとき、全ての処置動物の硝子体内にC1qが存在しないことを、PDによって確認した。FabAのADAを、1mg/眼(ヒト投与量2mgに相当する)(12匹の動物のうちの6匹)及び2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)(12匹の動物のうちの7匹)の投与量の動物において検出したが、血清または硝子体内のFabA曝露への、ADAの明確な影響はなかった。
【0239】
カニクイザルにおける、硝子体注射によるFabAの6週間GLP反復投与眼毒性試験
この6週間GLPカニクイザル眼毒性試験では、若年成体の雄及び雌カニクイザルに、ビヒクルまたはFabAを、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与量で、4週間毎(1日目及び29日目)にIVT注射によって両側に投与し、続いて4週間の回復期間を与えた。全ての主要な試験動物を44日目に屠殺し、全ての回復動物を59/60日目に屠殺した。全ての主要な試験動物及び回復動物は予定の剖検まで生存した。
【0240】
この試験には標準的な安全性パラメータが含まれ(全身の組織病理学を除く)、試験を通じて血液サンプルを収集し、TK及びPD分析用に屠殺時の硝子体サンプルも同様に収集した。ADA及び房水のサンプルを収集し、保存した。さらに、OE、IOP、ERG及び眼の組織病理学も評価した。
【0241】
OE、IOP、ERG及び眼の組織病理学を含む、評価を行ったいかなる安全性パラメータにおいても、FabAに関連する変化は認められなかった。炎症を伴わない、硝子体の最小から軽度の好塩基性/青色染色(好塩基球増加と呼ばれる)を処置動物及び対照動物の両方で観察し、したがってFabAに関連しないと見なした。
【0242】
全ての処置動物の硝子体におけるFabAへの曝露を、試験及び回復の間(最後の投与から30日目後)、TKによって確認した。対照動物の血清及び硝子体には、FabAが存在しないことを確認した。全ての処置済みの主要な試験動物において、44日目に硝子体内にC1qが存在しないことをPDによって確認した。59日目に、回復動物4匹のうち2匹は、硝子体内に測定可能なC1qを有した。FabAのADAを、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与群の動物(10匹の動物のうちの9匹)において検出したが、血清または硝子体内のFabA曝露への、ADAの明確な影響はなかった。
【0243】
C1q依存性溶血の>80%阻害は、FabA投与の24~48時間後に達成され、その後ベースラインに戻った。
【0244】
44日目に、網膜、脈絡膜及び視神経乳頭内のC1q濃度も大きく低下し、59日目には網膜及び脈絡膜内で低減し続けたが、視神経乳頭では低減しなかった。
【0245】
この試験において、FabAに関連すると考えられる副作用は、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)(評価した最大投与量)を含め、いかなる投与量レベルにおいても観察されなかった。これらの結果に基づき、NOAELは、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)(硝子体内の2.5mg/mL)であった。
【0246】
カニクイザルにおける、10週間の回復期間を設けた、硝子体注射によるFabAの26週間GLP反復投与眼毒性試験
この26週間GLPカニクイザル眼毒性試験では、若年成体の雄及び雌カニクイザルに、ビヒクルまたはFabAを、毎月1回、2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)、毎月1回、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)及び隔週で1回、5mg/眼の投与量で、IVT注射によって両側に投与し、続いて10週間の回復期間を与えた。2.5mg/眼に相当した50μlの単回注射、あるいは合計100μLとなる2回注射(10分間隔の2回の50μL注射は、5mg/眼に相当した)は、2週間毎(13回の投与期間)または4週間毎(7回の投与期間)に行った。全ての主要な試験動物を184日目に屠殺し、全ての回復動物を242/243日目に屠殺した。全ての主要な試験動物及び回復動物は予定の剖検まで生存した。
【0247】
対照群、毎月1回の5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与群、及び隔週の5mg/眼の投与群の動物に、投与しない日または投与停止が発生した。これらの群における2回注射は、OEにより検出された有害な所見のために停止し、これは手順及び高い投与量体積に関連すると見なした。試験の71日目から、毎月1回、5mg/眼の投与群に、毎月1回、2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)を投与し(毎月1回、5/2.5mg/眼と称する)、さらに隔週、5mg/眼の投与群に、隔週で2.5mg/眼を投与した(隔週で5/2.5mg/眼と称する)。これらの投与群(対照群を含む)において、2回注射を停止した後、投与しない日を継続した。2回注射の停止は、後述のように手順及び/またはADAに関連した。毎月1回、2.5mg/眼の投与群(低投与量群)には投与しない日はなかった。
【0248】
この試験には標準的な安全性パラメータが含まれ(全身の組織病理学を除く)、試験を通じて血液サンプルを収集し、TK及びPD分析用に屠殺時の硝子体サンプルも同様に収集した。ADA及び房水のサンプルを収集し、保存した。さらに、OE、IOP、ERG、眼の組織病理学、及び眼球内に沈着した免疫複合体検出のための免疫組織化学(IHC)を評価した。
【0249】
体重、摂餌量、網膜電図検査、眼圧測定及び臨床上の病態において、FabA関連の変化は認められなかった。
【0250】
FabAに関連すると考えられる眼の臨床上の兆候及び眼の検査所見は、眼球の混濁(おそらく、前眼房、水晶体包被膜及び/または後眼房における混濁のため)ならびに細胞及び/または色素の存在に限定されていた。血清中にADAが検出されなかった動物(群2動物12匹のうちの4匹、群3動物12匹のうち2匹及び群4動物12匹のうち2匹)におけるこれらの所見の存在は、FabAとの関連を示している。ADA及び潜在的に免疫複合体沈着に関連すると見なされる所見は、より重度となる傾向があり、房水フレア、及び硝子体混濁の存在、瞳孔対光反射の変化、及び網膜血管の減衰が含まれた。
【0251】
雄及び雌のサルへのFabAのIVT投与後に、血清FabA濃度で測定される全身曝露は一時的で低く、85日目の投与後に86.3ng/mL、または169日目の最後の投与後に60.81ng/mLを超えなかった。FabAを受けたほとんど全ての処置動物において、169日目を通して、FabAへの曝露をTKによって確認したが、これは投与しない日を設けた一部の動物を除いて、硝子体C1qが検出可能でないことと一致した。10週間の投与のない回復期間後の242/243日目に、FabA硝子体濃度は測定可能でなく、全ての処置投与群においてC1q濃度は検出可能だった。対照動物の血清及び硝子体にはFabAが存在しないことを確認した。
【0252】
血清サンプル中の抗FabA抗体の存在を、群1(対照)動物12匹のうちの4匹、群2動物12匹のうちの8匹、群3動物12匹のうちの10匹、及び群4動物12匹のうちの10匹で確認した。2匹の群1動物の陽性を、1日目の後の動物当たり1回の時点で確認し、一方でFabA処置動物のADA陽性を、3回または4回以上の時点で特定した(主要な試験動物及び回復動物について、それぞれ合計4個または5個のサンプルを収集した)。血清または硝子体内のFabA曝露への、ADAの明確な影響はなかった。
【0253】
184日目の最終的な安楽死で、FabAへのADA媒介性免疫応答に一致する顕微鏡的変化を、毎月及び隔週の5/2.5mg/眼の投与群(それぞれ中程度及び高い投与量群)の右眼で観察した。炎症に関連した眼内の変化には、毛様体及び硝子体腔の軽度の混合細胞浸潤、硝子体腔内の最小から中程度の線維化(投与頻度に比例した重症度)、及び最小から軽度の後方水晶体の変性(投与頻度に比例した重症度)が含まれた。隔週及び毎月の5/2.5mg/眼の処置群のそれぞれ1匹の雌において、後方の網膜内で最小の血管周囲の単核球浸潤も観察した。隔週及び毎月、5/2.5mg/眼を投与した動物の眼球周囲の角膜輪部内で、最小から中程度の単核球浸潤も観察し、重症度は投与頻度に比例した。
【0254】
242/243日目の回復後の安楽死において、FabAに対するADA媒介性免疫応答に関連した右眼の顕微鏡的変化は、毎月の5/2.5mg/眼の投与群では、限定的で軽度だったが、一方で隔週の5/2.5mg/眼の投与群では、さらに変化が持続した、または発生した。硝子体腔及びブドウ膜の最小の組織球浸潤、ならびに硝子体腔の好塩基球増加の高まりは、隔週及び/または毎月のFabA5/2.5mg/眼を投与した動物の、回復期において限定的だった。これらの変化は、最終的な剖検での対照動物で観察された変化に類似しており、これらの変化は、IVT注射手順に付随する前方の硝子体の、軽度の炎症/破壊に関連すると見なされた。しかしながら、回復期間後のこれらの変化の持続、回復期の対照動物ではこれらの変化が解消したこと、及び隔週及び毎月の5/2.5mg/眼のFabAを投与した動物の最終的な剖検での、より重度の炎症性変化の存在は、回復期のこれらの変化が、注射手順の影響が残っているというよりはむしろ、FabAに対するADA媒介性免疫応答に関連する炎症を解消していることを示している可能性があると示した。眼球周囲の角膜輪部の、最小の単核球浸潤は、隔週及び毎月の5/2.5mg/眼を投与した両方の群で持続した。
【0255】
隔週の5/2.5mg/眼の投与群では、硝子体腔の、最小の混合細胞浸潤及び線維化が持続し、一方で網膜の細胞性の穏やかな低下、及びヘモシデリン色素が発生した。また隔週の5/2.5mg/眼の投与群では、網膜の、視神経円板での最小の血管周囲の単核球浸潤も観察した。これらの変化は、FabAに対するADA媒介性応答の続発性であると見なした。
【0256】
病理学的に有害な顕微鏡的変化は、ADA媒介性炎症の続発性であると見なし、隔週及び毎月の5/2.5mg/眼の投与群では、硝子体腔内の線維化、水晶体変性、及び網膜の細胞性の低下が含まれた。
【0257】
毎月の2.5mg/眼の群では、最終的または回復後の安楽死のいずれにおいても、FabAに関連した顕微鏡的変化は認められなかった。
【0258】
群1、群3及び群4からの、それぞれ12匹のうち2匹、12匹のうち4匹、及び12匹のうち6匹の動物について、免疫組織化学を実施した。IHCに選択した、中程度の投与量、すなわち毎月5/2.5mg/眼の群(動物4匹のうち2匹)、及び高投与量、すなわち隔週の5/2.5mg/眼の投与群(6匹の動物のうちの2匹)の処置動物10匹のうちの4匹の左眼内で、免疫組織化学的に検出した、FabA、サルIgG、IgM及び/またはC3を含有する顆粒状沈着の存在が、評価により明らかとなった。これらの血管壁内沈着は、右眼のヘマトキシリン‐エオジン評価によって観察した沈着に類似して、血管周囲の炎症性細胞浸潤に関連して存在した。右眼内で観察したその他の顕微鏡的変化は、サルにおける、このFabAに対する免疫応答に伴う続発性変化と一致した。血清ADA陰性の一部の動物も含め、免疫組織化学に選択した全ての動物において眼の免疫複合体沈着が観察されたわけではなかったが、これは沈着の識別が組織の切片化によって変動し得るため、また血清ADAが、顕微鏡的根拠を有する動物において、免疫複合体の病態と一致して常に存在するわけではないため、予想外ではなかった。さらに、投与がない日を複数回設けた一部の動物では、分析前にADA及び/または免疫複合体が排出されている可能性もある。免疫組織化学的に確認した沈着物の存在は、動物のサブセットにおいてさえ、右眼で観察された、類似の病原的に一致した病態が、FabAの免疫応答に関連するようであるという、最も説得力がある根拠の重みであると見なした。
【0259】
カニクイザルにおける、この26週間慢性眼毒性試験では、有害な眼の変化を、2回の注射手順と関連付け、及び/またはADA媒介のものであり、FabAのIVT投与の直接的な作用ではないと決定した。したがって、NOAELは、カニクイザルにおける隔週または毎月1回、それぞれ13回または7回の投与で、2.5mg/眼(ヒト投与量5mgに相当する)であると決定した。
【0260】
実施例2:臨床試験におけるFabAの評価
FabA医薬品は、IVT注射用の無菌等張液である。フェーズ1:ファースト・イン・ヒューマン、非盲検、用量漸増試験(FabA-GLA-01)を実施して、原発性開放隅角緑内障を有する患者における、FabAの単回IVT注射の初期の安全性及び忍容性を評価した。
【0261】
フェーズ1b:無作為化、二重盲検試験(FabA-GLA-02)を実施して、原発性開放隅角緑内障を有する患者における、FabAの反復IVT注射の安全性及び忍容性を評価した。
【0262】
両方の試験の結果、FabAのIVTによる単回投与(1~5mg/眼)(ヒト投与量2~10mgに相当する)及び反復投与(2.5及び5mg/眼、4週間間隔で2回投与)は、緑内障患者において忍容性が良好であることが見出され、重篤または重大な有害事象(AE)は報告されなかった。これらの試験で、FabAで治療した患者における眼のAEには、結膜充血、結膜出血及び眼刺激症状が含まれ、治療眼においてのみ生じた。フェーズ1b試験では、シャム群の患者における眼のAEには、眼痛、眼の異物感、眼の充血及び霧視が含まれた。FabAのIVT処置に関連すると考えられる全身性AEは発生しなかった。
【0263】
FabA2.5mg(ヒト投与量5mgに相当する)、及び5mg(ヒト投与量10mgに相当する)の単回IVT注射は、房水中の遊離C1qを少なくとも29日間阻害した(試験FabA-GLA-02)。
【0264】
ヒトにおける薬物動態及び薬力学
眼の薬物動態及び薬力学
FabA-GLA-02は、房水を採取してPK及びPDを評価したフェーズ1b試験である。対象に、シャム、2.5mg/眼のFabA(ヒト投与量5mgに相当する)、または5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)のFabAの、2回のIVT注射を29日間隔で投与した。この試験では、投与前及び最初のFabA投与から29日後、2回目の投与前に房水を採取した。29日目(D29)に、全ての治療患者の房水中で遊離FabAを検出した。同時に、FabAの2.5mg/眼及び5mg/眼の両投与量レベルが、房水中の遊離C1qを少なくとも29日間阻害した(図6)。
【0265】
全身の薬物動態及び薬力学
FabA-GLA-01は、投与前及び投与後3時間で血清FabA及びC1qを採取した、単回投与フェーズ1試験である。FabA-GLA-02は、29日間隔での2回の投与それぞれの投与前及び投与後3時間において血清及びFabA及びC1qを採取した、複数回投与フェーズ1b試験である。フェーズ1またはフェーズ1b臨床試験で試験したいずれの投与量レベルにおいても、単回または反復IVT注射後、FabAは体循環において通常検出可能ではなかった。同様に、いずれの試験においても、循環遊離C1qの変化は検出されなかった。
【0266】
後述のように、5mg/眼(ヒト投与量10mgに相当する)の投与量レベルは、FabA臨床試験における単回または29日間隔での2回の投与の場合、忍容性が良好であった。上述のように、フェーズ1b試験において、FabAの2.5mg(ヒト投与量5mgに相当する)及び5mg(ヒト投与量10mgに相当する)での単回投与は、房水中の遊離C1qを、少なくとも29日間阻害した(図6)。
【0267】
安全性及び有効性
フェーズ1用量漸増試験(FabA-GLA-01)
これは、原発性開放隅角緑内障を有する患者において、FabAの単回IVT注射の安全性/忍容性及びPKを評価する、フェーズ1、非盲検、用量漸増試験であった。適格患者は、試験眼において、Humphrey Field Analyzer-Swedish Interactive Threshold Algorithm(HFA-SITA)の24-2の速いアルゴリズムを用いて、固視不良のカットオフが33%及び偽陽性反応率のカットオフが33%である、信頼性が高い視野検査を行うことができた、信頼性が高い視野検査で3~18dBの平均偏差を有し、投与前の≧4週間の間、安定なIOP治療レジメンにおいて、試験眼で<21mmHgのIOPを有した成人であった。9名の患者を、以下のようにコホート毎に3名の患者を登録して、3つのコホートに割り当てた。
・コホート1=1.0mg/眼、単回投与(0.02mL)×1回投与
・コホート2=2.5mg/眼、単回投与(0.05mL)×1回投与
・コホート3=5.0mg/眼、単回投与(0.10mL)×1回投与
スクリーニングの後、3名の適格患者を最も低いオープンコホートに登録し、前述の低い投与量で忍容性及び短期安全性が示された後にのみ開始される、次のコホートに登録した。各コホートの全患者は、最低15日の安全性観察期間を完了する必要があり、その後、次のコホートの患者に注射することが可能となった。試験中に、用量制限毒性(DLT)は報告されなかった。
【0268】
9名の患者が登録され、治療を受け、試験を完了した。
【0269】
安全性
眼の試験治療下での有害事象(TEAE)には、結膜充血(全ての投与量レベル)、結膜出血(2.5mg/眼のみ)及び眼刺激症状(1mg/眼のみ)が含まれ、試験眼においてのみ生じた。
【0270】
この試験で経験された唯一の全身性TEAEは、副鼻腔炎であった。
・全てのTEAEの重症度は軽度であった。
・重篤または重大なTEAEは認められなかった。
・TEAEのために治療を中止したり、試験から離脱した患者はいなかった。
・9名の患者のうちの9名で、30分以内にIOPが正常(注射直前のIOPの5mmHg以内、または<21mmHg)に戻った。
・抗FabA抗体の何らかの根拠を示した患者はいなかった。
【0271】
全体的な概要/結論:
この試験では、安定な緑内障を有する患者において、FabAの単回IVT投与は、最大5mg/眼まで忍容性が良好だった。報告された眼のAEは、承認された薬剤のIVT投与で報告されたAEと類似していた。FabAに関する安全性シグナルは観察されなかった。
【0272】
FabAは、体循環において通常検出可能ではなく、単回IVT投与後、循環する遊離C1qの変化は検出されなかった。
【0273】
フェーズ1b(FabA-GLA-02)
これは、原発性開放隅角緑内障を有する患者において、反復IVT注射として投与されるFabAの2回の投与量レベル対シャム注射を評価するための、二重盲検、無作為化、シャム対照試験であった。適格患者は、試験眼において、HFA-SITAの速いアルゴリズムを用いて、固視不良のカットオフが33%及び偽陽性反応率のカットオフが33%である、信頼性が高い視野検査を行うことができた、信頼性が高い視野検査で、試験眼において-3~-24dBの平均偏差を有し、スクリーニング時及び1日目に<21mmHgのIOPを有し、注射前に、≧4週間の安定なIOP治療レジメンにあり、試験中にIOP治療レジメンに予期された変化がなかった成人であった。患者は、4週間間隔で2回の注射を受け、安全性、忍容性、PK、PD、免疫原性の評価及び継続中の探索的評価のために、合計12週間追跡された。患者を、以下のように3つのコホートのうち1つ(コホート毎に5名の患者という計画)に、無作為に割り当てた(1:1:1)。
・投与量レベル1=2.5mg/眼、単回投与量(0.05mL)×2回投与
・投与量レベル2=5.0mg/眼、単回投与量(0.10mL)×2回投与
・シャム=0mg/眼×2回投与
18名の患者を無作為化(7名を2.5mgのFabA群、5名を5.0mgのFabA群、及び6名をシャム群)し、17名の患者に処置を行った。2.5mgの投与群の患者1名は、無作為化されたが、処置を行わなかった。16名の患者が試験を完了した。
【0274】
安全性
FabAで処置した患者が経験した眼のTEAEには、結膜充血(2.5及び5mg/眼)、結膜出血(5mg/眼のみ)、及び眼刺激症状(5mg/眼のみ)が含まれた。これらのTEAEのいずれも、シャム群の患者は経験しなかった。シャム群の患者における眼のTEAEには、眼痛、眼の異物感、眼の充血及び霧視が含まれ、それぞれ1名の患者で発生した。
【0275】
全身性TEAEが試験中に認められたが、研究者が試験治療に関連すると認めたものはなかった。
・全てのTEAEの重症度は軽度であった。
・報告されたTEAEのうち1件を除く全ては、最初の投与後、試験治療の2回目の投与前に発生した。
・重篤または重大なTEAEは認められなかった。
・TEAEのために治療を中止したり、試験から離脱した患者はいなかった。
・IOPは、17名のうち16名の患者についてはIVT注射の30分以内に、残りの患者については45分以内に正常(<21mmHg)に戻った。
・FabAを硝子体内に投薬した11名の患者のうち、試験した6名の患者は、少なくとも1時点の間、陽性であった。1名の患者は、ADA陽性で、力価が時間の経過とともに穏やかに上昇し、残りの5名の患者は、投与前を含め全ての時点で陽性であり、時間の経過とともに力価が変化することはなかった。1名のシャム患者は、投与前を含め、全ての時点でADA陽性であり、時間の経過とともに力価が変化することはなかった。まとめると、これらのデータによって、ADA測定値とFabA投与の関係は不明であると示唆される。
【0276】
全体的な概要/結論:
安定な緑内障を有する患者において、FabAの4週間間隔の2回のIVT投与は、最大5mg/眼まで忍容性が良好だった。報告された眼のAEは、承認された薬剤のIVT投与で報告されたAEと類似していた。この試験では、FabAに関する安全性シグナルは観察されなかった。
【0277】
FabAのIVT単回投与(2.5及び5mg/眼)は、房水中の遊離C1qを少なくとも29日間阻害した。
【0278】
実施例3:加齢黄斑変性症(AMD)に続発する地図状萎縮(GA)を有する患者における、硝子体注射によって投与するFabAの効能、安全性及び忍容性の、フェーズ2、多施設、無作為化、平行群間、二重盲検、4アーム、シャム対照試験
根拠
概要
この試験は、AMDに続発するGAを有する患者において実施する。試験の目的は、毎月1回(EM)または隔月1回(EOM)、12ヵ月間のFabAの硝子体(IVT)注射が、GA病変の増殖率を低下させるかどうかを決定することである。試験は、30日のスクリーニング期間及び12ヵ月の治療期間、その後の6ヵ月の(治療はなし)追跡期間から構成される。患者の参加期間は合計19ヵ月である。患者は、12ヵ月の治療期間中、治療及び/または安全評価のために、毎月診療所を訪れる。
【0279】
約240名の患者を登録し、約204人の患者を、12月目に主要分析(主要分析は、修正した治療意図[ITT]を基準としている)について評価可能であるように、4つの治療アームの1つに無作為に割り当てた。
【0280】
介入群及び継続期間:
試験介入の割り当ては、無作為化を基準とした(2:2:1:1)。患者を以下の治療アームのいずれかに割り当てた。投与量レベルは固定され、変更されない。
・アーム1=FabA5.0mg/眼(0.10mL)を月1回(EM)、12ヵ月間(12回投与)
・アーム2=FabA5.0mg/眼(0.10mL)を隔月1回(EOM)、12ヵ月間(6回投与)
・アーム3=シャム注射をEMで12ヵ月間(12回のシャム注射)
・アーム4=シャム注射をEOMで12ヵ月間(6回のシャム注射)
【0281】
注射
FabA/シャム投与は、注射を行う医師が、無菌技術を使用して完了する。
【0282】
FabAに無作為化された全ての患者は、5.0mg/眼のIVT投与(0.10mLの固定した体積)を、毎月1回または隔月1回で、12ヵ月間受ける。
【0283】
注射後
薬剤投与の直後に、注射を行う医師は、手動弁の視力、または網膜中心動脈灌流を見ることができるかを評価する。必要に応じて、硝子体出血などの視力障害のその他の原因を排除する。必要であれば、手動弁の視力または網膜中心動脈灌流が観察されるまで、デジタルマッサージを実行する、さらに局所用/経口のIOP下降薬剤を投与する。
【0284】
IOP(眼圧測定)を、薬剤投与の30分後に試験眼でのみ評価し、上昇している場合は、IOP<25mmHgになるまで、その後15分毎に評価する。
【0285】
薬物動態、薬力学及び免疫原性
PK評価(FabA血清濃度)及びPD評価(血清C1q濃度及びその他のバイオマーカーの血漿中濃度)用の血液サンプルを、患者訪問時に、投与前30分及び投与後3時間(±15分)以内に収集する。
【0286】
患者の診療所訪問の間、注射前に、免疫原性試験(ADA)用のサンプルを収集する。さらに、ADA用のサンプルを、2週目に、診療所または家庭訪問時に収集する。
【0287】
薬物動態:この試験には血清が必要である。FabAの血清濃度を測定するために、血液サンプルを収集する。
【0288】
薬力学:この検査には血清及び血漿が必要である。C1qの血清濃度と探索的補体バイオマーカーの血漿濃度を分析する。
【0289】
免疫原性:この試験には血清が必要である。免疫原性は、血清の抗薬物(FabA)抗体(ADA)の分析によって評価する。
【0290】
硝子体注射の手順
FabAの調製
FabAの無菌のバイアルから、19ゲージX1-1/2インチ、5マイクロメートルのフィルター針を備えた、無菌の1.0ccのシリンジを用いて、FabAの全体体積(約0.3mL)を引き出す。
【0291】
フィルター針を、30ゲージX1/2インチの注射針と置き換える。注射の直前に、シリンジからFabAの余剰体積を排出して、シリンジ内に必要とされる注入量のみを残す。
【0292】
FabAの投与体積は0.10mLに固定し、毎月1回(EM)で12ヵ月間(12回の投与)、または隔月に1回(EOM)で12ヵ月間(6回の投与)とする。
【0293】
硝子体注射の準備
1.試験眼を検査する。
2.注射前に、試験眼の術前眼圧(IOP)を測定して、記録する。試験眼のみ眼圧測定を実施する。続行するには、IOPは≦21mmHgでなければならない。>21mmHgである場合、研究者の裁量でFabA注射の予定を変更し、IOPを管理する。
3.注射後、後極の視覚化が可能となるように、必要に応じて、注射30分前に、試験眼に局所用塩化フェニレフリン点眼剤2.5%を1滴適用する。
4.注射直前:
・患者に、首が十分に支えられた状態で、検査椅子に横たわってもらう。
【0294】
硝子体注射
1.注射には、手洗い、無菌手袋及びサージカルマスクが必要である。
2.試験眼に、局所用プロパラカイン0.5%を適用する。
3.まつげ及び眼瞼の縁に、ポビドンヨード10%を適用する。注射前または注射後のいずれも、マイボーム腺の表出を避けるために、眼瞼の広範囲なマッサージは避ける。
4.手順の間、目的の注射部位から眼瞼を引き離す。顕微鏡の使用が推奨される。
5.目的の注射部位を含め、結膜表面に、ポビドンヨード5%を適用する。
6.FabAの注射:角膜輪部の3.5~4mm後方、垂直直筋と水平直筋の間に、強膜に対して垂直に針を挿入する。針を引き抜いた直後に、注入部位上に無菌綿棒アプリケーターを適用して、硝子体の逆流を低減させる。
7.シャム注射:シャム注射の調製及び注射後手入れは、FabAを用いた注射と同じである。典型的な硝子体注射の位置で、空のシリンジの鈍針を針なしで用いて、圧力を眼に適用することでシャム注射を実施する。
【0295】
硝子体注射後
1.患者は、注射後、眼の評価及び安全性追跡調査のために、診療所内に留まることになっている。
2.直ちに手動弁の視力または網膜中心動脈灌流を評価し、硝子体出血などの視力障害のその他の原因を排除する。他の原因が見つからなければ、手動弁の視力または網膜中心動脈灌流が観察されるまで、デジタルマッサージを実行する、さらに局所用/経口のIOP下降薬剤を投与する。
3.試験眼で、注射後30分でのみIOP測定値を得て、上昇している場合、IOP<25mmHgになるまで15分毎に測定する。眼圧が15分を超えて30mmHgを上回る場合、医師の裁量で治療するべきである。
4.局所用抗生物質は必要ない。
【0296】
参照による組み込み
本明細書で引用される特許、公開された特許出願、及び非特許文献の各々は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0297】
均等物
当業者らは、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または単なる通常の実験のみを使用して確認することができるであろう。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
【配列表】
2023551734000001.app
【国際調査報告】