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特表2023-551743複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規アデノウイルスベクター、およびこれの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-12
(54)【発明の名称】複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規アデノウイルスベクター、およびこれの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20231205BHJP
   C12N 15/34 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20231205BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/34
C12N15/50
A61K35/761
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/215
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023538084
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2022001046
(87)【国際公開番号】W WO2022158879
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】10-2021-0008666
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523066543
【氏名又は名称】株式会社 セリッド
【氏名又は名称原語表記】CELLID CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】#142-504, 1, Gwanak-ro, Gwanak-gu Seoul 08826, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン・チャンユル
(72)【発明者】
【氏名】パク・ボンジュ
(72)【発明者】
【氏名】シン・グァンス
(72)【発明者】
【氏名】オ・テクォン
【テーマコード(参考)】
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA71
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規アデノウイルスベクターに関する。本発明の組換えE1/E3/E4欠失アデノウイルスベクターは、抗原性タンパク質およびE4orf6遺伝子がE1遺伝子欠失領域中に挿入されており、対照群の場合と同様のアデノウイルス産生能、抗原の発現度、中和抗体の産生量、およびT細胞誘導能力を有し、よって疾患または抗がんワクチン用の様々なワクチンのための担体として有効に使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
E4遺伝子が、E1/E3/E4欠失アデノウイルスのE1遺伝子欠失領域中に挿入されていることを特徴とする、組換えアデノウイルスベクター。
【請求項2】
E4遺伝子が、E4orf6(E4オープンリーディングフレーム6)遺伝子である、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項3】
欠失したE4遺伝子が、E4orf6遺伝子領域の、長さが10~1,000bpのヌクレオチド配列である、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項4】
アデノウイルスが、Ad2、Ad4、Ad5、Ad11、Ad26、Ad35、Ad5/35、ChAd68、FAd9、またはPAd3である、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項5】
欠失したE4遺伝子が、E4orf6、E4orf6/7、またはE4orf4の領域である、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項6】
欠失したE4遺伝子が、長さが10~1,500bpのヌクレオチド配列である、請求項5に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項7】
E1遺伝子欠失領域中へ挿入されているE4遺伝子が、E4orf6遺伝子である、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項8】
E4orf6遺伝子が、コザック配列がそこから除去されていることを特徴とする、請求項7に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項9】
ベクターが、抗原タンパク質をコードする配列が、E1遺伝子欠失領域中に挿入されていることを特徴とする、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項10】
抗原タンパク質をコードする配列が、E4orf6遺伝子の5'位置にて挿入されている、請求項9に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項11】
E4orf6遺伝子が、フォワード方向に発現される、請求項10に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項12】
E1遺伝子欠失領域中に挿入されているE4遺伝子が、EF-1a、mPGK、RSV、CMV、E4orf6の-0.25kb、E4orf6の-0.5kb、およびE4orf6の-1.0kbからなる群から選択されるプロモーターによって発現される、請求項1に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項13】
抗原タンパク質をコードする配列が、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターによって発現される、請求項9に記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項14】
コロナウイルススパイクタンパク質をコードする配列が、請求項1に記載のベクター中へ挿入される、コロナウイルス感染を予防するためのワクチン。
【請求項15】
コロナウイルスが、SARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2である、請求項14に記載のコロナウイルス感染を予防するためのワクチン。
【請求項16】
スパイクタンパク質が、スパイクタンパク質のS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断認識配列が除去され、かつリンカー配列がそこに導入されている組換えスパイクタンパク質である、請求項14に記載のコロナウイルス感染を予防するためのワクチン。
【請求項17】
リンカーが、(GGGGS)nから構成される、請求項16に記載のコロナウイルス感染を予防するためのワクチン。
【請求項18】
nが、1~5の整数である、請求項17に記載のコロナウイルス感染を予防するためのワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の背景
1.本発明の分野
本発明は、複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規なアデノウイルスのベクター、およびこれの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の記載
様々な標的組織への非常に有効な遺伝子の送達および多くの導入遺伝子(transgene)の用量を達成するアデノウイルスの能力に起因して、組換えアデノウイルスは、遺伝子治療およびワクチン用途において幅広く使用されている。
【0003】
アデノウイルスベクターは、複製に不可欠なE1遺伝子の欠失に起因して、理論上、複製するのが不可能である。しかしながら、複製能のあるアデノウイルス(replication competent adenovirus,RCA)は、HEK293細胞株のアデノウイルスに由来するE1遺伝子が、複製不能なアデノウイルスベクターの産生プロセスの最中に相同組換えを通して複製不能なアデノウイルスベクター遺伝子中へ挿入されたときに、創出され得る。アデノウイルスベクターにおけるRCAの存在によって、アデノウイルス感染、ベクターの意図せぬ複製、および患者の悪化する炎症反応を包含する数多の安全性に関する問題の原因になる。KFDAおよびFDAなどの規制当局は、RCA関連規格を、3×1010ウイルス粒子のうち1未満のRCAとして定義しており、これらRCA関連規制がアデノウイルスベクターの大量産生に対し障害となっている。
【0004】
RCAの発生を克服する方法は、その大部分が、アデノウイルス増殖用の細胞株の開発および操作と、アデノウイルスベクターバックボーンの操作とを包含する。具体的に言うと、以下のストラテジーが知られている:1)アデノウイルスベクター(第一世代アデノウイルスベクター)と相同の配列を有さないE1遺伝子領域のタンパク質をコードする部分のみを導入するという、新しい細胞株を開発するためのストラテジー、2)E2A、E2B、およびE4などの複製に不可欠なアデノウイルス遺伝子をベクターから除去し、かつ除去された遺伝子のタンパク質コード領域を、細胞株(第二世代アデノウイルスベクター)中へこれを導入することによって補充するというストラテジー、3)HEK293細胞株において相同の配列を除去することによって相同組換えをブロックするというストラテジー、4)相同の配列がより少ないアデノウイルスの他の種を使用するというストラテジー、ならびに5)複製不能なアデノウイルスが相同組換えを通してE1遺伝子を再取得するとしても、複製不能なアデノウイルスを維持するというストラテジー。
【0005】
E1遺伝子をもち相同の配列はない2つの細胞株(第一世代アデノウイルスベクター)が成功裏に開発され、商業的に使用されている。これらは、E1遺伝子(459~3510nt)がヒト胚性網膜芽細胞(human embryonic retinoblasts,HER)細胞株中へ導入されたPER.C6細胞株、およびE1遺伝子(505~3522nt)が初代ヒト羊膜細胞(primary human amniocytes)中へ導入されたN52.E6(CAP-GT)細胞株である。しかしながら、これらの細胞株の多継代および大量産生の過程におけるRCA発生の完全な解決を期待するのは困難である。細胞株(第二世代アデノウイルスベクター)においてE2A、E2B、およびE4などの複製に不可欠な遺伝子を補充するというストラテジーは1995~2000の間、深く研究され発展したが、第一世代アデノウイルスベクターと比較して低い産生能と導入遺伝子の不安定な発現とに起因して商品化はされなかった。HEK293細胞株の遺伝子操作は、293細胞株のゲノムの複雑さおよび導入E1遺伝子のコピー数(7コピー)に起因して困難であり、アデノウイルスの他の種の使用は、安全性リスクを引き起こし得る。最後に、E3領域に抗原遺伝子を置くことによって相同組換えが発生するとしてもアデノウイルスゲノムのサイズを限定することによってRCAの出現を防止するというアデノウイルスベクターの操作ストラテジーは目下、研究レベルでしか行われていない。
【0006】
結果的に、本発明者らは、アデノウイルス複製に不可欠なE4遺伝子を欠失させこれをE1遺伝子欠失の部位へ再配置することによって相同組換えが発生するとしても複製能のあるアデノウイルスを包含しない既存のアデノウイルスベクターと同様のアデノウイルス産生能および抗原発現度を有する新規アデノウイルスベクターを開発することによって、本発明を完成させた。
【発明の概要】
【0007】
本発明の概要
複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規なアデノウイルスのベクター、およびその使用を提供することが、本発明の目的である。
【0008】
上の目的を達成するため、本発明は、E1、E3、およびE4遺伝子が欠失されたアデノウイルスにおけるE1遺伝子の欠失部位中へのE4遺伝子の挿入によって特徴付けられる組換えアデノウイルスベクターを提供する。
加えて、本発明は、コロナウイルススパイクタンパク質をコードする配列がベクター中へ挿入されたコロナウイルス感染を予防するためのワクチンを提供する。
【0009】
有利な効果
本発明は、複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規なアデノウイルスのベクターに関する。抗原性タンパク質およびE4orf6遺伝子がE1遺伝子欠失領域に挿入された、本発明の組換えE1/E3/E4欠失アデノウイルスベクターは、対照群と同様のアデノウイルス産生能、抗原発現度、中和抗体産生量、およびT細胞誘導能力を有し、よって疾患または抗がんワクチン用の様々なワクチンのための担体として有効に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、複製能のあるアデノウイルス生成の機序を示す概略図である。
図2図2は、本発明の複製能のあるアデノウイルスを包含しない新規なアデノウイルスのベクターを示す概略図である。
【0011】
図3図3は、カナマイシン耐性遺伝子およびpBR322オリジン遺伝子配列が複製能のあるアデノウイルスクローン中へ導入された、E4orf6の14bp(pRCA-E4dl355)または1429bp(pRCA-E4dlO4-7)が除去されたpRCAのベクターを示す概略図であって、ここでE1遺伝子は、Ad5/35のE1欠失部位での相同組換えによって取得され、ここでAd5のE1およびE3は欠失され、かつAd35のknob遺伝子はE3欠失部位にて挿入された。
【0012】
図4図4は、E4遺伝子の一部が欠失されたpRCA-E4dl355と、E4orf4、E4orf6、およびE4orf6/7遺伝子のすべてが欠失されたpRCA-E4dlO4-7ベクターとにおいて、細胞の病変作用が確認されなかったのでアデノウイルス産生能が維持されたことを確認する図表である。
【0013】
図5図5は、E4遺伝子の一部が欠失されたpRCA-E4dl355と、4orf4、E4orf6、およびE4orf6/7遺伝子のすべてが欠失されたpRCA-E4dlO4-7ベクターとにおいて、アデノウイルス遺伝子複製は生じなかったことを確認する図表である。
図6図6は、E1遺伝子が欠失されかつSwaI制限酵素標的配列がそこに挿入されたpAdk35-E4dl355およびpAdk35-E4dlO4-7のベクターを示す概略図である。
【0014】
図7図7は、スパイクタンパク質抗原を発現しかつE1欠失部位にて再配列されたE4orf6遺伝子を有する12種類のアデノウイルスベクターを示す概略図である
図8図8は、スパイクタンパク質抗原を発現しかつE1欠失部位にて再配列されたE4orf6遺伝子を有するアデノウイルスベクターの構築プロセスを示す概略図である。
【0015】
図9図9は、E4re#1およびE4re#11の再配置E4orf6遺伝子のプロモーターが変更された11種類のE4再配置ベクター(E4re#13~24)を示す概略図である。
図10図10は、E4re#13もしくは20ベクターに使用された抗原F2-スパイク/E4orf6(mPGK)またはRF-スパイク/E4orf6(RSV)がE1欠失部位中へ導入され、かつE4orf6コード領域のC末領域から-12、27、42、57、318、421、または711bp配列が除去されたベクターを示す概略図である。
【0016】
図11図11は、E4re#29アデノウイルスベクターについてRCA陰性試験した結果を示す図表である。
図12図12は、RCAがE4re#29アデノウイルスベクターの継代増加に従って検出されたかを確認する図表である。
【0017】
図13a図13aは、E4re#1、13、および14ベクターにおいて測定された抗原発現度を示す図表である。
図13b-c】図13bは、E4re#13、19、および20ベクターにおいて測定された抗原発現度を示す図表である。 図13cは、E4re#13および29ベクターにおいて測定された抗原発現度を示す図表である。
【0018】
図14a図14aは、E4re#1ベクターにおける中和抗体の産生量を示す図表である。
図14b図14bは、E4re#13および14ベクターにおける中和抗体の産生量を示す図表である。
図14c図14cは、E4re#13および20ベクターにおける中和抗体の産生量を示す図表である。
図14d図14dは、E4re#13および29ベクターにおける中和抗体の産生量を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい態様の記載
下文に本発明は詳細に記載される。
本発明は、E1、E3、およびE4遺伝子が欠失されたアデノウイルスにおいてE4遺伝子がE1遺伝子の欠失部位にて挿入されていることを特徴とする組換えアデノウイルスベクターを提供する。
【0020】
本発明において、「ベクター」は、標的細胞への、クローン化遺伝子(またはクローン化DNAの他のフラグメント)を持つ送達ビヒクルを指す。
組換えアデノウイルスベクターは、アデノウイルスE1遺伝子がゲノム中へ導入された既存のHEK 293細胞株を使用しつつ、既存のE1/E3欠失アデノウイルスからE4遺伝子を加えて欠失することによって複製能のあるアデノウイルス(replication-competent adenovirus)の発生を最小限にすることができるという利点を有する。
【0021】
欠失されたE4遺伝子は、E4orf6(E4オープンリーディングフレーム6(E4 open reading frame 6))遺伝子を特徴とする。
欠失されたE4遺伝子は、E4orf6遺伝子領域の10~1,000bpのヌクレオチド配列、好ましくは10~800bpのヌクレオチド配列である。
本発明の特定の態様に従うと、E4orf6遺伝子領域の14bpまたは711bpの長さを有するヌクレオチド配列を欠失することが好ましい。
【0022】
該アデノウイルスは、アデノウイルス血清型2(Adenovirus serotype 2,Ad2)、アデノウイルス血清型4(Adenovirus serotype 4,Ad4)、アデノウイルス血清型5(Adenovirus serotype 5,Ad5)、アデノウイルス血清型11(Adenovirus serotype 11,Ad11)、アデノウイルス血清型26(Adenovirus serotype 26,Ad26)、アデノウイルス血清型35(Adenovirus serotype 35,Ad35)、チンパンジーアデノウイルス血清型68(Chimpanzee adenovirus serotype 68,ChAd68)、家禽アデノウイルス血清型9(Fowl adenovirus serotype 9,FAd9)、またはブタアデノウイルス血清型3(Porcine adenovirus serotype 3,PAd3)であってもよい。
アデノウイルスは、Ad5に基づく改変形態であってもよい。
【0023】
アデノウイルスは、アデノウイルス血清型5(Adenovirus serotype 5,Ad5)のknob遺伝子がアデノウイルス血清型35(Adenovirus serotype 35,Ad35)のknob遺伝子に置き換えられているアデノウイルス(Ad5/35)であってもよい。
欠失されたE4遺伝子は、E4orf6、E4orf6/7、またはE4orf4の領域を特徴とする
欠失されたE4遺伝子は、10~1,500bp、好ましくは14bpまたは1,429bpの長さを有するヌクレオチド配列によって特徴付けられる。
【0024】
E4orf6遺伝子は、コザック配列(kozak sequence)が削除されていることを特徴とする。
抗原タンパク質をコードする配列は、E1遺伝子の欠失部位中へ挿入されていてもよい。
抗原タンパク質をコードする配列は、E4orf6遺伝子の5'または3'位置にて、しかし好ましくはE4orf6遺伝子の5'位置にて、挿入され得る。
【0025】
E4orf6遺伝子は、フォワード(forward)方向でまたはリバース(reverse)方向で、好ましくはフォワード方向で、発現されてもよい。
E1遺伝子の欠失部位にて挿入されたE4遺伝子は、必ずしてもこれらに限定されないが、EF-1a、mPGK、RSV、CMV、-0.25kbのE4orf6、-0.5kbのE4orf6、および-1.0kbのE4orf6からなる群から選択されるいずれか1つのプロモーターによって発現される。
【0026】
抗原タンパク質をコードする配列は、必ずしてもこれらに限定されないが、サイトメガロウイルス(CMV(cytomegalovirus))プロモーターによって発現されることを特徴とする。
抗原タンパク質は、SARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質であってもよい。
【0027】
抗原タンパク質は、SARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2のS1スパイクタンパク質とS2遺伝子との間の切断部位が除去されかつリンカー配列が導入された組換えのスパイクタンパク質であってもよい。
リンカーは、(GGGGS)nから構成されることを特徴としてもよい。
nは、1~5の整数であることを特徴とする。
【0028】
加えて、本発明は、コロナウイルススパイクタンパク質をコードする配列が組換えアデノウイルスベクター中へ挿入されている、コロナウイルス感染を予防するためのワクチンを提供する。
コロナウイルスは、SARS-CoV、MERS-CoV、またはSARS-CoV-2がベータコロナウイルスに属することを特徴とする。
【0029】
SARS-CoV-2とSARS-CoVとの間のゲノム相同性は79.6%まで達し、SARS-CoV-2とMERS-CoVとの間のゲノム相同性は50%まで達する。とりわけ、SARS-CoV-2およびMERS-CoVは、本発明の標的である、同様の相同性(35%)のスパイクタンパク質を有するのに対し、SARS-CoV-2およびSARS-CoVは、極めて高いスパイクタンパク質の相同性(76%)を有する。
【0030】
スパイクタンパク質(spike protein)は、S1スパイクタンパク質とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、かつリンカー配列が導入されている組換えスパイクタンパク質を特徴とする。
【0031】
ワクチンにおいて、抗原が大量に分泌されることは重要である。抗原が大量に発現されていたとしても、これらが当初から分解される場合、それらは免疫細胞を刺激して免疫応答を充分に誘導しないため、発現された抗原が高い安定性を有することは極めて重要である。S1およびS2がリンカー配列によって連結されている、本発明の組換えスパイクタンパク質は、高い抗原発現度および改善された安定性を有し、よって中和抗体を生成しかつT細胞反応性を誘導する優れた能力を有する。
【0032】
用語「免疫応答」は、必ずしてもこれらに限定されないが、CD4+またはCD8+ 細胞活性化などの体液性のおよび細胞性の免疫応答を包含してもよい
【0033】
スパイクタンパク質(spike protein)(Sタンパク質(S protein))は、コロナウイルス粒子の表面を覆い、コロナウイルスがヒト細胞に侵入するときに使用されるスパイク形のタンパク質であって、S1およびS2サブユニットから構成される。スパイクタンパク質は、ヒト細胞のアンジオテンシン変換酵素2(angiotensin converting enzyme 2,ACE-2)受容体へ結合することによって人体に感染し、細胞中へ入り、遺伝物質(RNA)を、遺伝物質それ自体を複製するよう促進する。
【0034】
組換えタンパク質はスパイクタンパク質のサブユニットであるS1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位(cleavage site)が除去されていることを特徴とする。
タンパク質は、S1遺伝子とS2遺伝子との間の切断部位が除去され、かつリンカー配列によって連結されていることを特徴とする。
【0035】
リンカーは、(GGGGS)nから構成されることを特徴とし、ここでnは、1~5の整数である。
各タンパク質を構成するドメインは、それらのユニークな特徴に従い、相互作用のために最適化された間隔(リンカー配列長さ)を有し、タンパク質の構造上の安定性は、リンカー配列の長さに従って呈される。したがって、タンパク質におけるnは、好ましくは1または3であってもよく、最も好ましくは、nは1である。
【0036】
nが4を超えると、数多の反復配列が生成され、リンカー配列が、意図的ではない相同組換えによって欠失されることもあり、タンパク質の安定性(stability)が低減され得る。
リンカー配列によって連結されているスパイクタンパク質抗原は、増大した安定性によって特徴付けられる。
【0037】
本発明の特定の態様において、E4遺伝子の一部が欠失したアデノウイルスタイプ5/35(Ad5/35)の産生の最中に生成された、E1遺伝子を再取得した複製能のあるアデノウイルスは、複製不全を呈した。E1遺伝子が相同組換えによって取得されたときであっても、E4orf6遺伝子が欠失されたときアデノウイルス複製が生じなかったことが確認された(図4を見よ)。抗原タンパク質およびE4orf6遺伝子がE1遺伝子の欠失部位中へ、i)欠失されたE4のヌクレオチド配列の数と、ii)抗原タンパク質およびE4orf6遺伝子の挿入の順序かつ方向とに従い挿入された組換えアデノウイルスベクターが構築され、アデノウイルス産生能が評価された。結果として、14bpのE4orf6が欠失され、抗原タンパク質が再配列E4orf6の5'位置へライゲートされ、および再配列E4orf6がフォワードの向きで(forwardly)発現されたベクター(E4re#1およびE4re#11)は、高いアデノウイルス産生能を有したことが確認された(表2)。
【0038】
E4re#1およびE4re#11ベクターにおいて再配列されたE4orf6を発現するための異なるタイプのプロモーターをもつ組換えアデノウイルスベクターが構築され、アデノウイルス産生能が評価された。結果として、産生能が増大した5タイプのベクター(E4re#13、E4re#14、E4re#18、E4re#19、およびE4re#20)を確認した(表3)。
【0039】
産生能を7ベクターについて繰り返し試験し、これらは優れた産生能を有すると評価された(E4re#1、E4re#11、E4re#13、E4re#14、E4re#18、E4re#19、およびE4re#20)。結果として、産生能が対照ベクターと同様である5タイプのベクター(E4re#13、E4re#14、E4re#18、E4re#19、およびE4re#20)が確認された(表4)。
【0040】
E4orf6コード領域のC末領域から-12、27、42、57、318、421、および711bp配列が除去された、遺伝子の安定性を損なう可能性のあるE4re#18を除く、4ベクター(E4re#13、E4re#14、E4re#19、およびE4re#20)のうち、E4orf6の711配列が除去されかつE4re#13抗原が導入されたE4re#29ベクターは、高いアデノウイルス産生能を示した。
【0041】
ウイルス原液の産生能を、5ベクター(E4re#13、E4re#14、E4re#19、E4re#20、およびE4re#29)において評価した。結果として、産生能は対照群と比較して73~98%であった(表6)。細胞ベースのRCA陰性試験がE4re#29アデノウイルスベクターで実施された。結果として、複製能のあるアデノウイルス(RCA)は検出されなかった(図11)。ウイルスの継代を増加させたときでさえ、RCAが検出されなかったことが確認された(図12)。加えて、細胞内抗原発現度を6ベクター(E4re#1、E4re#13、E4re#14、E4re#19、E4re#20、およびE4re#29)について評価した。結果として、E4re#13およびE4re#29ベクターは最も高い細胞内抗原発現度を有したこと(図13a~13c)、ならびに5ベクター(E4re#1、E4re#13、E4re#14、E4re#20、およびE4re#29)における中和抗体の産生量は対照群と同じであったことが確認された(図14a~14d)。
【0042】
したがって、本発明の組換えアデノウイルスベクターは、疾患または抗がんワクチン用の様々なワクチンのための担体として有効に使用され得る。
【0043】
下文に、本発明は以下の例および実験例によって詳細に記載されるであろう。
しかしながら、以下の例および実験例は、本発明を説明するためのものでしかなく、本発明の内容は、これらに限定されない。
【0044】
例1: 複製能のあるアデノウイルス(RCA)ベクターおよびE4orf6欠失アデノウイルスベクター(pRCA-E4dl355およびpRCA-E4dlO4-7)の構築
アデノウイルスタイプ5/35(Ad5/35)の産生の最中に生成された、E1遺伝子を再取得した複製能のあるアデノウイルス(replication competent adenovirus,RCA)クローンを入手し、pRCA(配列番号1、36,262bp)アデノウイルスベクターを、カナマイシン耐性遺伝子およびpBR322オリジン遺伝子配列を導入することによって構築した。pRCAは、アデノウイルス血清型5(Ad5)に基づきE3遺伝子が欠失された形態であって、細胞受容体結合部位であるファイバーは、アデノウイルス血清型35(Ad35)のファイバーで置換されている。
【0045】
pRCAベクターのE4orf6遺伝子のリバースコード配列の一部を、CRISPR/Cas酵素と、配列およびライゲーションに依存しないクローニング(sequence and ligation independent cloning,SLIC)技法とを使用して切断し、構築物pRCA-E4dl355(配列番号2)(E4orf6欠失部位:33,918~33,931、14bpが除去された)ベクターとした。加えて、pRCA-E4dlO4-7(配列番号3)(E4欠失部位:33,238~34,666、1,429bpが除去された)ベクターも構築したが、ここで全E4orf6コード配列およびE4orf4/E4orf6/7(E4orf6コード配列の一部を共有する)をさらに欠失した。
【0046】
例2: E4orf6欠失アデノウイルスベクターの複製欠陥(replication-defective)の確認
対照ベクターpRCAと、E4欠失ベクターpRCA-E4dl355およびpRCA-E4dlO4-7とを、AD-293細胞株を使用して産生し、E4遺伝子欠失アデノウイルスに複製欠陥があるか確認した。
【0047】
具体的に言うと、T25フラスコ上約80%埋まったAD-293細胞株を、20μlのLipofectamine 2000(ThermoFisher,Cat.#:11668027)と共に8μgの各ベクターで形質転換して、当初のアデノウイルスベクターを産生した。形質転換から2日後に細胞を2つのT75フラスコに分け、形質転換後6日から14日まで培養した。顕微鏡下で観察したとき細胞変性効果(CPE,cytopathic effect)が80%超の細胞で見られた場合、アデノウイルスが充分に産生されたと見なし、細胞を回収した。細胞変性効果が形質転換から第14日までに見られない場合、細胞を、トリプシンを使用して剥がして回収した。回収された細胞を、超低温冷凍庫(deep freezer)および37℃水浴インキュベーターにおいて凍結および解凍のプロセスを3回繰り返すことによって破壊し、これを遠心分離することでアデノウイルスを含有する上清が得られた。アデノウイルス増幅のため、4×106 AD-293細胞をT175フラスコに分配して2日間培養した。2日後に、各アデノウイルスを含有する上清をT175フラスコあたり2mlによって感染させ、さらに48時間培養した。顕微鏡下で細胞変性効果を観察した後に細胞を回収して破壊し、遠心分離することでアデノウイルスを含有する上清が得られた。ウイルスゲノムを、High Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)プロトコル(protocol)を参照することによって上清の一部から抽出した。増幅されたウイルスコピー数を、d35ファイバー(fiber)(pRCAベクターに存在する細胞受容体結合部位)に特異的なプライマーを使用して確認した。
【0048】
結果として、図4に示されるとおり、E4遺伝子が部分欠失したpRCA-E4dl355と、すべてのE4orf4、E4orf6、およびE4orf6/7遺伝子が欠失したpRCA-E4dlO4-7とは、2継代のアデノウイルス産生の最中には細胞変性効果を示さなかった。図5に示されるとおり、アデノウイルスの遺伝子複製もまた、上のベクターにおいては生じなかった。これらの結果は、E1遺伝子が相同組換えによって再取得される場合でさえ、アデノウイルス複製が、E4orf6遺伝子が欠失されたときには生じないことを示唆する。
【0049】
例3: E4遺伝子が再配列されたアデノウイルスベクターの構築
<3-1>E1遺伝子の欠失および制限酵素配列の挿入
複製欠陥のあるpRCA-E4dl355およびpRCA-E4dlO4-7ベクターのE1遺伝子を除去し、E4遺伝子の再配列のためのSwaI制限酵素部位を挿入した。
【0050】
図6に示されるとおり、PCRによる部位特異的変異誘発(site-directed mutagenesis)およびin-fusionクローニングライゲーション(in-fusion cloning ligation,Clontech,Cat.#:639648)を使用して、E1遺伝子が除去されてSwaI制限酵素標的配列がそこに挿入されたpAdk35-E4dl355(配列番号4)およびpAdk35-E4dlO4-7(配列番号5)ベクターを構築した。
【0051】
具体的に言うと、領域を、ファイバー(fiber)遺伝子中のNheI制限酵素部位およびE1遺伝子のフロント(front)領域へ結合するプライマーセットと、pTP遺伝子と52K遺伝子との間のNheI制限酵素部位およびE1遺伝子のビハインド(behind)へ結合するプライマーセットとを使用して増幅した。SwaI制限酵素標的配列を、E1遺伝子のフロントおよびバック(back)へ結合するプライマーへ加えて、PCP産物の両末端を15bp配列分重複させた。E1遺伝子が除去されてSwaI制限酵素標的配列がそこに挿入された中間体ベクターを、2つのPCP産物を使用し、infusionクローニングライゲーションによって構築した。中間体ベクターをNheI制限酵素で線形にし、残りのアデノウイルスベクター領域をPCRによって増幅して、pAdk35-E4dl355(配列番号4)およびpAdk35-E4dlO4-7(配列番号5)ベクターを、2つの線形ベクターを使用し、infusionライゲーションクローニングによって構築した。
【0052】
<3-2>E4遺伝子の再配列および抗原(スパイク(spike))遺伝子の導入のためのシャトルベクターおよびE4が再配列されたアデノウイルスベクターの構築
E4orf6および抗原遺伝子を、複製欠陥のあるpRCA-E4dl355およびpRCA-E4dlO4-7ベクターのE1遺伝子が除去されたエリアに導入したベクターを、次のように構築した。
【0053】
具体的に言うと、pSBbi-Purをシャトルベクターとして使用し、E4orf6遺伝子発現カセットおよび抗原遺伝子発現カセットを連続して導入した。抗原として、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のS1とS2との間の切断部位をリンカー配列(GGGGS)で置き換えることによって得られたタンパク質をコードするヌクレオチド配列を使用した。
【0054】
pRCAベクターの全E4orf6領域をPCRによって増幅し、pSBbi-PurベクターのEF-1aプロモーターとbGHポリA配列との間に、infusionライゲーションクローニングによって挿入することで、pSBbi-E4orf6ベクターを構築した。部位特異的変異誘発およびin-fusionクローニングライゲーションを使用し、抗原(スパイクタンパク質)発現カセットを、pSBbi-E4orf6ベクターのEF-1a配列のフロントかつbGHポリ(poly)のリア(rear)にて、フォワード方向およびリバース方向に挿入することによって、4タイプのシャトルベクターを構築した。抗原(スパイクタンパク質)発現カセットは、CMV((cytomegalovirus))プロモーター、テトラサイクリンオペレータ(tetracycline operator,Tet O)、スパイクタンパク質抗原、およびSV40ポリA配列を連続して含有する。図7に示されるとおり、スパイク/E4orf6発現カセットを増幅するためのプライマーセットを使用して増幅した後、E4orf6遺伝子がE1欠失領域へ再配置された、スパイクタンパク質抗原を発現する12のアデノウイルスベクターを、pAdk35-E4dl355およびpAdk35-E4dlO4-7ベクターをSwaIで消化したinfusionクローニングライゲーションによって構築した。12のベクター間の差異は次のとおりである: 1)E4欠失領域(E4orf6の14bp欠失または1.429bp欠失、2)スパイクタンパク質およびE4orf6遺伝子の場所(スパイクタンパク質およびE4orf6、またはE4orf6およびスパイクタンパク質)、ならびに3)方向性(フォワードまたはリバース)。
【0055】
【表1】
【0056】
例4: E4遺伝子が再配列された12のベクターのアデノウイルス産生能の測定
表1に示されるE4遺伝子が再配列された12のベクターのアデノウイルス産生能を、293R細胞株を使用して検証した。
【0057】
具体的に言うと、T175フラスコ上約80%埋まった293R細胞株を、100μlのLipofectamine 2000(ThermoFisher,Cat.#:11668027)と共に50μgの各ベクターで形質転換して、当初のアデノウイルスベクターを産生した。形質転換から2日後に細胞を2つのT175フラスコに分け、形質転換後6日から14日まで培養した。顕微鏡下で観察したとき細胞変性効果(CPE,cytopathic effect)が80%超の細胞で見られた場合、アデノウイルスが充分に産生されたと見なし、細胞を回収した。細胞変性効果が形質転換から第14日までに見られない場合、ウイルス産生能は低いと決定した。
【0058】
結果として、表2に示されるとおり、アデノウイルスがE4re#1およびE4re#11ベクターによって充分に産生されたことが確認された。E4re#1およびE4re#11ベクターは次の特徴を有する: 1)これらはpAdk35-E4dl355ベクターのバックボーンを使用し、2)再配列されたE4orf6は抗原遺伝子(スパイクタンパク質)のビハインドに位置付けられ、および3)これらはフォワード方向に発現される。
【0059】
【表2】
【0060】
例5: 改変E4遺伝子プロモーターを含有する、E4遺伝子が再配列されたベクターの構築
例4の結果に従うと、pAdk35-スパイク発現ベクターの細胞変性効果は、形質転換から6~7日後に90%に達する。他方、E4re#1およびE4re#11ベクターの細胞変性効果は、形質転換の第10日に90%に達する。これらの結果は、ベクターの、アデノウイルスゲノムの複製および組み立ての効率が低いか、または組み立てスピードが低いことを指し示している。上の12のベクターにおいて再配列されたE4orf6遺伝子が、EF-1aと呼ばれる強力なプロモーターによって発現されるから、いたずらに強いE4orf6遺伝子発現は、他のアデノウイルス複製に関する遺伝子の発現に影響を及ぼして複製および組み立てのプロセス全体の効率を低減させることもある。したがって、E4re#1において再配列されたE4orf6遺伝子のプロモーターを変更してE4orf6の発現レベルを制御し、それによってアデノウイルスゲノムの複製および組み立ての効率が増加した。
【0061】
具体的に言うと、E4re#1およびE4re#11のスパイク/E4orf6発現カセットを含有するシャトルベクターのEF-1aプロモーターを、部位特異的変異誘発技法を使用して除去した。PCRで増幅されたmPGK、RSV、およびCMVプロモーター、ならびにE4orf6 -0.25kb、-0.5kb、および-1kbプロモーターの予測領域を夫々、in-fusionクローニングライゲーションによって、EF-1aプロモーターが除去されたシャトルベクター中へ導入した。最終的に、プロモーターが置き換えられた11のシャトルベクターを構築し、E4(E4re#13~24)が再配列された11のベクターを、表3および図9に示されるとおり、スパイク/E4orf6発現カセットを増幅し同カセットをSwaIで線形にしたpAdk35-E4dl355ベクター中へ導入することによって構築した。
【0062】
E4が再配列されたベクターの細胞変性効果を、293R細胞株を使用して観察し、産生能を調査した。結果として、プロモーターがmPGK、RSV、またはCMVプロモーターに置き換えられているベクターの細胞変性効果は、約2日間進むことが確認された。
【0063】
【表3】
【0064】
例6: 細胞変性効果が14日以内に観察されたベクターの産生能の比較
細胞をT25フラスコ中、細胞変性効果が293R細胞株において14日以内に観察された7つのベクター(E4re#1、11、13、14、18、19、および20)を使用し、12.5μgの各ベクターで形質転換し、産生能を比較した。
【0065】
具体的に言うと、293R細胞株の細胞変性効果が90%以上に達したとき、細胞を回収して破壊し、ウイルスを得た。2mlの得られたウイルスを、1つのT175フラスコのサイズにおいて293R細胞中へ再感染させ、2日間培養した。細胞を回収し破壊した後ウイルスゲノムを抽出し、ウイルスゲノムのコピー数を、k35特異的プライマーを使用して算出し、0.7を乗じてT175フラスコ中の各ウイルスの粒子数を算出した。相対的な産生を、pAdk35-スパイクを対照ベクターとして使用して比較した。
【0066】
結果として、表4に示されるとおり、E4re#1およびE4re#11は、対照ベクターの約45%の産生を示し、残りの5ベクター(E4re#13、14、18、19、および20)は、対照ベクターの83%~109%の産生を示した。5ベクターは、対照ベクターと同様の79%~99%産生能を示したことが反復実験を通して確認された。
【0067】
【表4】
【0068】
例7: RCAの出現を最小限にして産生能を維持する最適化プロセス
最終5ベクター(E4re#13、14、18、19、および20)のうち、E4re#18は、CMVプロモーターを使用して、スパイクタンパク質発現遺伝子とE4orf6再配列遺伝子との両方を発現する。これは、アデノウイルスが数回の継代培養によって大規模に産生されたときに遺伝子の安定性を阻害する因子として作用することがあり、よってベクターが候補ベクターから排除された。
【0069】
加えて、pAdk35-E4dl355ベクターバックボーンは産生能の点で優れているが、中ほどにE4欠失領域が14ヌクレオチドからなる配列であり、E1欠失領域には、正常なE4orf6遺伝子が再配列された相同の配列領域が2つある。ウイルス増殖の過程において、相同組換えがベクター内またはベクター間で生じることもあり、E4欠失領域の回復およびRCAの出現がもたらされる。したがって、RCA出現の可能性を最小限にし、かつE4欠失領域を14ヌクレオチドからなる中ほどの配列からC末部位へ変更することによって産生能を最大限維持するための最適化プロセスを、次のとおり実施した。
【0070】
具体的に言うと、図10に示されるとおり、-12、27、42、57、318、421、および711bpの配列を、E4orf6コード領域のC末領域から除去した。加えて、E4re#13および20のベクターにおいて使用された抗原のF2スパイク/E4orf6(mPGK)およびRFスパイク/E4orf6(RSV)をE1欠失領域中へ導入し、E4orf6の発現をさらに低減させるために、E4re#13ベクターにおいて再配列されたE4orf6遺伝子のフロントにあるコザック配列が除去されたベクターを構築した。
【0071】
【表5】
【0072】
例8: アデノウイルス産生能の検証
E4re #13、14、19、20、および29のベクターの成熟アデノウイルス産生能を検証するため、アデノウイルスをCellSTACK 10(CS10)スケールにて産生して、塩化セシウム(CsCl)で精製し、次いで293R細胞をCS10スケールにて500vp/細胞でのウイルスで再感染させた。細胞を回収、破壊、精製し、アデノウイルスをFPLCによって精製し、ウイルス粒子含量をHPLCによって測定することでウイルス原液の産生能を確認した。
【0073】
結果として、E4が再配列されたベクターは、対照ベクターの産生能の73%~98%を呈したことが確認された。
【0074】
【表6】
【0075】
例9: E4re#29アデノウイルスベクターによる複製能のあるアデノウイルスの出現の検証
細胞ベースのRCA陰性試験をE4re#29アデノウイルスベクターで実施した。36のT175フラスコのA549細胞を4.14E+10VPで感染させた後、細胞を回収し、再感染を4回繰り返した。最後の感染から1週間後に細胞変性効果を顕微鏡下で確認した。
結果として、図11に示されるとおり、複製能のあるアデノウイルス(RCA)は、36フラスコすべてにおいて検出されなかった。
【0076】
E4re#29アデノウイルスベクターをHEK293R産生細胞株において継代培養して、継代4、継代5、および継代6ウイルスを得た。A549細胞を各継代ウイルスで3E+10VPにて感染させ、ウイルスDNAを10日後に抽出した。複製能のあるアデノウイルスの存在または不在を、E1遺伝子特異的プライマーを使用する定量的PCRによって確認した。
結果として、図12に示されるとおり、RCAは、ウイルス継代を増加したときでさえ検出されなかったことが確認された。
【0077】
例10: E4が再配列されたベクターの細胞内抗原発現度の比較
産生能、スパイクタンパク質抗原発現度、ならびに最終4ベクター(E4re#13、14、19、20、および29)の免疫原性を比較するために、継代2ウイルスをCellSTACK 10(CS10)スケールにて産生、単離、精製した。塩化セシウム(CsCl)密度勾配遠心分離(cesium chloride density gradient centrifugation)を精製方法として使用し、精製を第1ラウンド(1.2g/ml CsCl+1.4g/ml CsCl、32,000RPM、90分間)および第2ラウンド(1.35g/ml CsCl、32,000RPM、18時間)にわたって実施し、完全なアデノウイルスを、透析(20mMトリス-HCl、25mM塩化ナトリウム、2.5%グリセロール)を通して産生した。
【0078】
E4re#1、13、14、19、20、および29ベクターによって細胞内抗原発現度を比較するため、A549細胞株における抗原発現度をフローサイトメトリー(FACS)によって測定した。
【0079】
具体的に言うと、フローサイトメトリーについて、A549細胞を96ウェル培養ディッシュに1ウェルあたり2.5×105細胞の密度にて分配し、次いで各ベクターおよび対照CLA-04ベクターを細胞中へ500、1000、または2000vp/細胞にて導入した。次いで、細胞を24時間培養した。その後、各ウェル中の細胞を各1.5ml管へ移し、500μlのFACS緩衝剤を各管へ加えて遠心分離した(5000rpm、3分間、4℃)。上清を除去した後、1:1000希釈された50μlの生存率指標染料(viability indicator dye)(eFluor(商標)450,ebioscience,cat#:65-0863-14)を各管へ加え、表面染色を4℃にて30分間実施した。
【0080】
細胞内部に発現された抗原を検出するため、細胞固定/浸透濃縮液(ebioscience,Cat.#:00-5123-43)を、細胞固定/浸透希釈剤(ebioscience,Cat.#:00-5223-56)で1:4に希釈し、100μlの溶液を各管へ加え、4℃にて30分間細胞固定/浸透を続けた。スパイク抗原染色を、浸透緩衝剤(ebioscience、Cat.#:00-8333-56)で1:2500に希釈されたSARS-CoV-2スパイクタンパク質抗体(GeneTex,Cat.#:GTX632604)の溶液(抗体濃度:0.4μg/ml)で4℃にて1時間実施して、洗浄した。次いで抗原染色を、1:100に希釈された二次抗体のAPCヤギ抗マウスIgG抗体(APC Goat anti-mouse IgG antibody)(Biolegend,Cat:405308)の溶液(抗体濃度:2μg/ml)で4℃にて30分間実施した。染色反応後、300μlの緩衝剤を各試料へ加え、抗原発現度をフローサイトメトリー(BD bioscience,LSRFORESSA)によって測定した。
【0081】
結果として、図13a~13cに示されるとおり、E4re#13およびE4re#29ベクターは、タンパク質を産生する能力である抗原発現度が最も高いことを示したことが確認された。
【0082】
例11: E4が再配列されたベクターによる中和抗体産生の比較
E4re#1、13、14、20、および29ベクターを6~7週齢BALB/cマウス中へ筋肉内注射した(1群あたり6マウス)。およそ300μlの血液試料を、与から2~3週後に眼窩血液の試料採取によってマウスから収集した。次いで、血漿を遠心分離(8000rpm、10分間、20℃)によって分離し、血液中に存在する中和抗体の量を酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって測定した。
【0083】
具体的に、酵素結合免疫吸着アッセイについて、スパイクタンパク質(Acro Biosystems,Cat.#:SPN-C52H84)をPBSN(PBS 1L+アジ化ナトリウム0.01g)に溶解して、96ウェルプレート(100ng/ウェル)上に被覆し、4℃にて16時間反応を続けた。96ウェルプレートを被覆してから16時間後、コーティングタンパク質を除去してPBSで3回洗浄し、次いで150μlのブロッキング緩衝剤(blocking buffer)(PBSN+BSA 1%)を各ウェルへ加え、37℃にて90分間反応を続けた。反応の最中、血漿を希釈緩衝剤(dilution buffer)(PBSN+0.1%BSA+0.05%Tween-20)で6400倍に希釈し、ブロッキング反応が完了した後、プレートをPBSで3回洗浄し、次いで50μlの希釈血漿試料を各ウェルへ加え、37℃にて3時間反応を続けた。反応が完了した際、プレートをPBSで3回洗浄した。二次抗体のGAM-IgG-HRP(southernbiotech,Cat.#:1030-05)およびGAM-IgM-HRP(southernbiotech,Cat.#:1020-05)を希釈緩衝剤で1000倍に希釈し、プレート(50μl/ウェル)へ加え、37℃にて2時間反応を続けた。次いで、二次抗体をプレートから除去してプレートをPBSで5回洗浄し、発色性試薬(TMB Peroxidase Substrate buffer,ROCKLAND,Cat.#:TMBE-1000)をプレートへ加え(50μl/ウェル)、発色現像を15分間続けた。発色現像を、0.25N HClを加える(50μl/ウェル)ことによって停止させ、試料をマイクロリーダーで450nmの波長にて分析した。
【0084】
結果として、図14a~14dに示されるとおり、ベクター#1、13、14、20、および29による抗体産生の量は、対照ベクターCLA-04と等しかったことが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b-c】
図14a
図14b
図14c
図14d
【配列表】
2023551743000001.app
【国際調査報告】