(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】2つの管状構造体の間に配置された、内因性組織修復のための移植片デバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20231206BHJP
【FI】
A61F2/07
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023523241
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2021081445
(87)【国際公開番号】W WO2022101370
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520228337
【氏名又は名称】ゼルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレイ、ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】エル-カルディ、モハメド
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC03
4C097CC06
4C097DD01
4C097DD09
4C097DD12
4C097EE08
4C097EE09
4C097FF11
(57)【要約】
現在利用可能な代替血管の欠点を克服するために、市販の小径の代替血管に対して長期にわたって要望されていた移植片デバイスを提供する。既製品のため、静脈移植片のような採取のための追加手術を必要としない。移植片デバイスの多孔性は、完全には治癒しない現在の人工血管とは対照的に、新しい天然の患者自身の組織が得られる修復プロセスを可能にする。この種の(エレクトロスパン)多孔質デバイスの典型的な特徴である耐キンク性を克服するために、移植片支持デバイスが組み込まれている。積層領域及び非積層領域を交互に配置したジグザグパターンにより、十分な耐キンク性を維持する一方で、良好な積層を行うための縫合や内層と外層の接続プロセスを追加することなく、移植片支持デバイスを組み込むことを可能にしている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの管状構造体の間に配置された内因性組織修復のための移植片デバイスであって、
(a)エレクトロスパン内側管状層と、
(b)エレクトロスパン外側管状層と、
(c)内側管状面及び外側管状面を有するジグザグパターン化されたらせん構造によって画定される移植片支持デバイスと、を備え、
前記エレクトロスパン内側管状層は、前記内側管状面と一致し、
前記エレクトロスパン外側管状層は、前記外側管状面と一致し、
前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層が、前記移植片支持デバイスを挟み込むように配置され、
前記移植片支持デバイスは、前記ジグザグパターンが形成する角部によって画定される第1の領域を設定し、
前記移植片支持デバイスは、前記ジグザグパターン内のV字形状または逆V字形状内の領域から、それぞれの角部として画定される前記第1の領域を除いた領域によって画定される第2の領域を設定し、
前記第1の領域は、前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層のいずれも積層されていない非積層領域であるように構成され、
前記第1の非積層領域は前記移植片支持デバイスのキンクを防止する一方で、前記移植片支持デバイスの屈曲を可能にし、
前記第2の領域は、前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層が積層された積層領域であるように構成される、デバイス。
【請求項2】
前記移植片支持デバイスが金属またはポリマーから作製されており、
前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層がポリマー線維から作製されており、
前記第2の領域がポリマー対らせん金属またはらせんポリマーの周方向の表面積比が4:1~12:1(8:1)であるように構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
各角部における前記第1の非積層領域が0.3~0.5mm
2の表面積を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
各V字または各逆V字における前記第2の積層領域が、2.5~3.5mm
2の表面積を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層は、それぞれ、内因性組織の修復または成長を促進するために、移植時に細胞の内殖を可能にするための十分な大きさの多孔性の生分解性ポリマー層であるように構成される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層が、細胞の内殖に伴う内因性組織の回復または成長によって時間の経過と共に置き替えられる、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記移植片支持デバイス内の各角部は、前記ジグザグパターンの方向に応じてn字形状またはu字形状を有し、各角部は、0.3~0.5mm
2の表面積を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記移植片支持デバイスが均一なピッチ角を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記移植片支持デバイスは、その一端または両端に、前記移植片デバイスの長手方向の軸に対して鋭角の配向角度で距離を置いて配置された1以上の独立したC字形状のリングを有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記移植片支持デバイスは、その一端または両端に、前記移植片支持デバイスに接続された閉じたリングを有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記移植片デバイスの約95%に前記ジグザグパターン化されたらせん構造を有する、請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記移植片デバイスが、所定の状態において展開可能であるか、または、移植時に所定の状態を維持するよう構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
移植片デバイスであって、
(a)エレクトロスパン内側管状層と、
(b)エレクトロスパン外側管状層と、
(c)内側管状面及び外側管状面を有するジグザグパターンのらせん構造によって画定される移植片支持デバイスと、を備え、
前記エレクトロスパン内側管状層は、前記内側管状面と一致し、
前記エレクトロスパン外側管状層は、前記外側管状面と一致し、
前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層は、積層領域及び非積層領域を隔てるパターン化されたらせん構造を挟み込むように配置され、
前記非積層領域は前記移植片支持デバイスのキンクを防止する一方で、前記移植片支持デバイスの屈曲を可能にする、デバイス。
【請求項14】
移植片デバイスを用いて2つの管状構造体の間に接続部を形成する方法であって、
前記移植片デバイスは、
(a)エレクトロスパン内側管状層と、
(b)エレクトロスパン外側管状層と、
(c)内側管状面及び外側管状面を有するジグザグパターン化されたらせん構造として画定される移植片支持デバイスと、を備え、
前記エレクトロスパン内側管状層は、前記内側管状面と一致し、
前記エレクトロスパン外側管状層は、前記外側管状面と一致し、
前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層は、積層領域及び非積層領域を隔てる前記パターン化されたらせん構造を挟み込むように配置され、
前記非積層領域は前記移植片支持デバイスのキンクを防止する一方で、前記移植片支持デバイスの屈曲を可能にし、
移植後の前記エレクトロスパン内側管状層及び前記エレクトロスパン外側管状層が、細胞の内殖に伴う内因性組織の回復または成長によって時間の経過と共に置き替えられる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内因性組織修復または成長を増進することができる移植片デバイス及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既製品としての小径の血管が、現在利用可能な血管の代替物の欠点を克服するために長期にわたって要望されてきた。
【0003】
冠動脈バイパス術(CABG)は、最も一般的な開心術であり、世界中で毎年100万回以上実施されている。CABG手術の80%では、冠動脈再建のために天然の静脈部分(一度の手術で平均2~3本)を用いるため、患者の脚から静脈を採取するための痛みを伴う外科手術が追加で必要となり、感染症や慢性疼痛などの合併症を伴うことが多い。懸命な努力にもかかわらず、今日、この用途に適した既製の合成代替物は存在しない。一般的に用いられているePTFEやダクロン(登録商標)をベースとした人工血管は、CABGに必要な4mm以下の直径で開存性(patent)を保つことができないため、CABG用に市販されていない。
【0004】
さらに、透析アクセス用移植片や重症虚血肢(CLI)のような末梢用途の小径血管では、直径がやや大きい(通常6mm、最大8mm)にもかかわらず、天然の静脈及び人工血管のいずれも満足な長期開存性を得ることができないため、未だ対処されていない大きなメディカルニーズが存在する。これらの用途における補綴用移植片の問題点は、天然の組織の修復ができないため、十分に治癒できないことである。最終的に、これらの移植片は、血流から沈着したタンパク質及び組織が時間の経過と共にこれらの移植片内に蓄積するため閉塞し、最終的に狭窄や閉塞を引き起こす。
【0005】
したがって、当技術分野では、移植片デバイスに求められる構造的及び力学的要件を維持する一方で、内因性組織の修復または成長を促進することによって血管を修復するための移植デバイスを提供することが求められている。本発明は、このようなニーズを満たすような移植片デバイスを提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(定義)
本発明において、移植片(graft)という語は、2つの血管の間の接続部を作製するために用いられる移植片として定義され、バイパス移植片、シャント、インターポジション移植片、エンドツーエンド(end-to-end)、サイドツーエンド(side-to-end)、エンドツーサイド(end-to-side)、サイドツーサイド(side-to-side)、スネイクグラフトやジャンプグラフト(1つの移植片でいくつかのバイパスが作られる)を含んでいてもよい。一方、意図されていないのは、ステント、エンドグラフトなどの既存の血管内で用いられるデバイスである。本明細書で提供する移植片の小径範囲は、4mm以下(CABG用)、6mm前後(アクセス移植片用)、8mmまで(末梢移植片用)として定められる。
【0007】
本発明は、2つの管状構造体の間に配置された、内因性組織修復のための移植片デバイスを提供する。一実施形態では、移植片デバイスは、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層、並びに、内側管状表面及び外側管状表面を有するジグザグパターンのらせん構造によって画定される移植片支持デバイスを隔てている。エレクトロスパン内側管状層は内側管状面に、エレクトロスパン外側管状層は外側管状面に、それぞれ一致する。エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、移植片支持デバイスを挟み込むように配置される。一実施形態では、ジグザグパターンのらせん構造が、移植片デバイスの長さの約95%を占める。
【0008】
移植片デバイスは、所定の状態で展開可能であるか、移植時において所定の状態を維持するように構成される。
【0009】
移植片支持デバイスはさらに、ジグザグパターンの角部によって画定される第1の領域と、ジグザグパターンの各V字形状または逆V字形状から、それぞれの角部によって画定される第1の領域を除いた領域によって画定される第2の領域とを隔てている。
【0010】
第1の領域は、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層が共に積層されていない非積層領域である。これらの第1の非積層領域は、移植片支持デバイスのねじれを防止する一方で、移植片支持デバイスの屈曲を可能にする。一例では、各角部の第1の非積層領域は、0.3~0.5mm2の表面積を有する。
【0011】
第2の領域は、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層が共に積層された積層領域である。一例では、各V字形状または逆V字形状内のそれぞれの第2の積層領域は、2.5~3.5mm2の表面積を有する。
【0012】
一実施形態では、移植片支持デバイスは金属またはポリマーから作製され、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層はポリマー繊維から作製され、第2の領域は、ポリマー対らせん金属またはポリマー対らせんポリマーの円周の表面積比が4:1~12:1(8:1)の比率となっている。
【0013】
さらに他の実施形態では、移植片支持デバイスの各角部は、ジグザグパターンの方向に応じてn字形状またはu字形状であり、各角部は、0.3~0.5mm2の表面積を有する。移植片支持デバイスは均一なピッチ角を有する。
【0014】
さらに他の実施形態では、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層はそれぞれ、内因性組織の回復または成長を促進するために、移植時に細胞の内部成長を可能にするのに十分な大きさの多孔性の生分解性ポリマー層である。エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、細胞の内殖に伴う内因性組織の回復または成長によって時間の経過と共に置き替えられる。
【0015】
さらに他の実施形態では、移植片支持デバイスは、片端または両端に、移植片デバイスの縦軸に対して鋭角に配置された1以上の独立したC字形状のリングを有する。
【0016】
さらに他の実施形態では、移植片支持デバイスは、その一端または両端に、移植片支持デバイスに接続された閉じたリングを有する。
【0017】
さらに他の実施形態では、本発明は、エレクトロスパン内側管状層、エレクトロスパン外側管状層、並びに内側管状表面及び外側管状表面を有するパターン化されたらせん構造によって画定される移植片支持デバイスを隔てる移植片デバイスを提供する。同様に、上述した移植片デバイスと同様に、エレクトロスパン内側管状層は内側管状表面と一致し、エレクトロスパン外側管状層は外側管状表面と一致し、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、積層領域及び非積層領域を隔てるパターン化されたらせん構造を挟み込むように配置される。非積層領域は、移植片支持デバイスのねじれを防ぎながら、パターン化されたらせん構造の屈曲を可能にする。
【0018】
さらに他の実施形態では、本発明は、移植片デバイスを用いて2つの管状構造体の間に接続部を作製する方法を提供する。ここで、移植片デバイスは、エレクトロスパン内側管状層、エレクトロスパン外側管状層、並びに、内側管状表面及び外側管状表面を有するパターン化されたらせん構造によって画定される移植片支持デバイスを隔てている。同様に、上述した移植片デバイスと同様に、エレクトロスパン内側管状層は内側管状表面と一致し、エレクトロスパン外側管状層は外側管状表面と一致し、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、積層領域及び非積層領域を隔てるパターン化されたらせん構造を挟み込むように配置される。非積層領域は、移植片支持デバイスのねじれを防ぐ一方で、パターン化されたらせん構造の屈曲を可能にする。移植片デバイスの移植後、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、細胞の内殖に伴う内因性組織の回復または成長によって時間の経過と共に実質的に置き替えられる。
【0019】
本発明の実施形態には、以下のような利点がある。既製品であるため、静脈移植のような採取のための追加の手術を必要としない。人工血管の多孔性は、完全な治癒が不可能な既存の人工血管とは対照的に、修復プロセスを可能とし、新規かつ天然の患者自身の組織を得ることができる。このような(エレクトロスパン)多孔質デバイスの典型的な特徴である、限定的な耐ねじれ性を克服した移植片支持デバイスを内蔵している。積層部及び非積層部を交互に配置したジグザグパターンにより、十分な耐ねじれ性を維持する一方で、良好な積層を行うための内層及び外層の追加の縫合や接続を加えることなく移植片支持デバイスを組み込むことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の例示的な実施形態による移植片支持デバイスの断面を示す図である。
【
図2】本発明の例示的実施形態による、移植片支持デバイスのジグザグパターンのらせん構造の一部の側面図である。また、側面図に関連するピッチ角の定義も示している。
【
図3】本発明の例示的な実施形態による、移植片支持デバイスのジグザグパターンのらせん構造の一部を側面図で示す図であり、ジグザグパターンのらせん構造をエレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層の間に挟み込むように配置した場合に、積層されない第1の領域(円)及び積層される第2の領域(三角形)を示す。
【
図4】本発明の例示的な実施形態による、らせん構造の回転の間にブリッジを有する移植片支持デバイスのジグザグパターンのらせん構造を示す図である。
【
図5】本発明の例示的な実施形態による、角部である第1の領域(すなわち、
図3に表れているn字形状及びu字形状)を示す移植片支持デバイスの実際の設計を示す図である。
【
図6】本発明の例示的な実施形態による、その一端または両端にC字形状のリングを有するパターン化されたらせん構造を有する移植片支持デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
当技術分野では、移植片デバイスに必要とされる構造的及び力学的要件を維持しながら、内因性組織の回復または成長の促進を可能にすることにより、血管を回復するための移植片デバイスを提供することが求められている。本発明は、このニーズに応える移植片デバイスを提供する。
【0022】
一実施形態では、移植片デバイスは、2つの管状構造体を互いに吻合接続するための管状インプラントである。管状インプラントの例としては、これらに限定されないが、静脈、動脈、尿道、腸、食道、気管、気管支、尿管、または卵管等が挙げられる。本発明で意図する移植片デバイスは、内腔配置、すなわち既存の管状構造体の内腔内に配置するためのデバイスではない。
【0023】
一実施形態では、
図1に示すように、移植片デバイス100は、エレクトロスパン内側管状層110と、エレクトロスパン外側管状層120とを有する。例示的な断面を
図2に示すが、ジグザグパターンのらせん構造130から形成された移植片支持デバイスが、エレクトロスパン内側管状層110及びエレクトロスパン外側管状層120の間に挟み込むように配置されている。
図2に示すように、ジグザグパターンのらせん構造130は、均一なピッチ角132、内側管状面、及び外側管状面を有する。エレクトロスパン内側管状層110は、内側管状面と一致し、エレクトロスパン外側管状層120は、外側管状面と一致する。内側管状層110は、ジグザグパターンのらせん構造130が間に配置される場合を除いて、外側管状層120と接触している。
【0024】
本発明の実施形態は、パターン化されたらせん構造が、容易な屈曲及びねじれの防止を目的とした積層領域及び非積層領域を有する移植片デバイスの目的を達成できるものであれば、ジグザグパターンのらせん構造による移植片支持デバイスに限定されるものではない。このデバイスは、内側管状面及び外側管状面を有するパターン化されたらせん構造のエレクトロスパン内側管状層及び外側管状層を有する。エレクトロスパン内側管状層は内側管状面と一致し、エレクトロスパン外側管状層は外側管状面と一致する。エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、積層領域及び非積層領域を隔てるパターン化されたらせん構造を挟み込むように配置される。非積層領域は、パターン化されたらせん構造の屈曲を可能にする一方で、ジグザグパターンのらせん構造のねじれを防止する。
【0025】
ジグザグパターンのらせん構造の例に戻ると、
図3及び
図5に示すように、このパターンは、ジグザグパターンの角部によって画定される第1の領域310を隔てている。第1の領域は、ジグザグパターンの角部の材料の密度が比較的高いために、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層のいずれも積層されない非積層領域である。エレクトロスパン材料は、第1の領域310のような狭い空間では互いに接続されず、ジグにザグパターン化されたらせん構造の屈曲を可能にしながら、耐ねじれ性を強化する。一例では、各角部の第1の非積層領域はそれぞれ、0.3~0.5mm
2の表面積を有する。
【0026】
ジグザグパターンのらせん構造は、
図3及び
図5に示すように、ジグザグパターン内の各V字形状または逆V字形状内の領域から、それぞれの角部として画定される第1の領域を除いた領域によって画定される第2の領域320を隔てている。第2の領域は、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層が共に積層されるか、または共に接着された状態の積層領域である。一例では、各V字形状または逆V字形状内の第2の積層領域は、2.5~3.5mm
2の表面積を有する。
【0027】
ジグザグパターンのらせん構造は、金属(例えば、ニチノール)またはポリマーから作製されてもよく、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、ポリマー繊維から作製されてもよい。一実施形態では、エレクトロスパンポリマー対金属(またはポリマー)の円周/円筒表面積比は、4:1~12:1(移植片デバイスについて定められる)である。例示的な一実施形態では、この比率は約8:1である。円周/円筒表面積は、移植片支持デバイスの外面で測定される。
【0028】
実施形態では、エレクトロスパン内層管状層及びエレクトロスパン外層管状層がそれぞれ、内因性組織の修復または成長を促進するために、移植時に細胞の内殖を可能にするのに十分な大きさの多孔性の生分解性ポリマー層であることが重要である。エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層は、細胞の内殖に伴う内因性組織修復または組織成長によって時間の経過と共に置き換えられる。
【0029】
本発明における移植片支持デバイスの具体的な設計では、ジグザグパターンのらせん構造内の各角部は、
図3に示すように、ジグザグパターン内の方向に応じて、n字形状330またはu字形状340になっている。この形状の理由としては、V字形状または逆V字形状の角部では、金属摩耗によるポリマーの損傷が起こりやすく、ジグザグパターンのらせん構造の可動性に必要な最初の非積層領域を最大化することができないためである。
【0030】
n字形状またはu字形状は幅が狭いため、エレクトロスパン内側ポリマー線維及びエレクトロスパン外側ポリマー繊維を互いに局所的に接着/結合させることができず、すなわち、剥離した状態になる。むしろ、これらのn字形状やu字形状は、相対的に高い金属密度のためにらせん構造及びエレクトロスパン層の間の相対的な動きが可能であり、局所的なエレクトロスパンポリマー繊維が金属/ポリマーのu字形状やn字形状の構造(すなわち、第1の領域)を介して互いに接続されない「ヒンジ領域」として機能する。
【0031】
ジグザグパターンのらせん構造は、レーザー切断されたチューブから作製することができる。実施形態によっては、
図4に示すように、製造歩留まりを向上させるために、連結ストラット(「ブリッジ」)410を含めてもよい。コネクタは、構造が強い締め付けから再生する能力や、疲労寿命の耐久性を損なわないように設計することが可能である。このように、ブリッジコネクタの数は、1回転あたり、ゼロから複数のブリッジまで様々であってもよい。ブリッジの構成は、移植片デバイスの軸方向のコンプライアンスを調整するために用いることができる。
【0032】
ある例では、
図2に示すような、ジグザグのらせん構造の(金属)支持体の2つの隣接するパターンの間に画定される均一なピッチ角132は、エレクトロスパン内側層及びエレクトロスパン外側層間の強固なポリマー繊維の付着を可能にするように間隔を設定されている。ピッチは2mm前後である。ねじれを防ぐため、ピッチはあまり大きくない方が好ましい。一方、この値が小さすぎると潰れてしまう。好ましい値は1.5~2.5mmであるが、1~3mmであってもよい。
【0033】
図2に示すような、均一なピッチ角132は、ジグザグパターンのらせん構造の長さに沿ってほぼ同じである。ピッチに対する各セル間の距離の好ましい比率は1:1である。2:1.5~1:1.5の比率でも同様に機能するが、1:1.5よりも低い比率や2:1よりも高い比率では、耐ねじれ性が損なわれる。隣接する各セル間の距離は2mmが好ましいとされており、ピッチも2mmが最適とされている。これにより、最適な開口部が得られ、耐ねじれ性に優れた支持構造を実現している。
【0034】
移植片の製造工程は、まず、管状のマンドレル上で内層をエレクトロスピニングすることから始まる。内層は、その外径が移植片支持デバイスの内径と一致するように紡糸され、両者の間には十分な摩擦が生じる。次いで、移植片支持デバイスを拡張させ、管に充填する。管の内径は紡績(スパン)内層の外径よりも大きく、移植片支持デバイスを内層状の軸方向の所望の位置に拡張するための拡張ツールとして機能する。次いで、外層のエレクトロスピニングを実施するが、この工程は、非金属被覆部において、外層の繊維及び内層の繊維が最適に接着(すなわち、積層)するように設計された特殊な工程である。このプロセスにより、第2の領域を確実かつ完全に積層し、ベンチトップにおいて試験及び検証を実施した。上述した支持体の仕様(ポリマー及び支持体の密度、各セル間の間隔)は、繊維の最適な積層が得られるように設計されている。
【0035】
図6に示すように、さらに他の実施形態では、移植片支持デバイス600は、長手方向の軸を画定する。移植片支持デバイスの本体は、例えば
図2~
図3に示すように、パターン化されたらせん構造で作製されている。一実施形態では、長手軸の方向に画定された移植片支持デバイスの長さ612の90~95%が、該パターン化されたらせん構造である。他の約5~10%の部分622については、1以上の独立したC字形状のリング620が、支持要素の一端において、移植片デバイスの長手方向軸に対して鋭角の配向角αで配置され、場合によっては、移植片支持デバイス(図示せず)の他端にも配置される。C字形状のリングは、エレクトロスパン内側管状層及びエレクトロスパン外側管状層の間に埋め込まれている。用途に応じて、鋭角の配向角度は15~90度、好ましくは30~60度、公称で45度であってもよい。
【0036】
C字形状のリングは、完全に閉じていない円形または楕円形のリングとして画定され、すなわち、リングストラットを切断することなく、軸方向のスリットを形成するための標準的な外科用ハサミを収容するのに十分な大きさの開口部を有している。一実施形態では、C字形状のリングの開口部は、互いに整列している。他の実施形態では、C字形状のリングは、閉じたリングであってもよい。
【0037】
C字形状のリングは、層の剥離を防止するために、内側管状層及び外側管状層の間に埋め込まれている。一実施形態では、配向角度は公称で約45度である。好ましい実施形態では、C字形状のリングはニチノール製である。
【0038】
一実施形態では、移植片支持デバイス612のパターン化されたらせん構造部分は、パターン化されたらせん構造部分に接着された(その一部となる)楕円形または円形のエンドリング624を有する。このいわゆるエンドリング624は、2以上の独立したC字形状のリングに対して凡そ平行に整列している。好ましい実施形態では、エンドリングはニチノール製である。
【0039】
このエンドリングは、移植片支持デバイスに物理的に接続されていることに注意されたい。このリングは、常に完全に閉じている。これは、移植片が崩壊するのを防ぎ、移植片の端部を安定させるため重要である。さらに、移植片支持デバイスが拡張しないようにして、ステントなどの管腔内デバイスとは区別されるようにする。
【0040】
本願で言及するエレクトロスパン材料は、ウレイド-ピリミジノン(UPy)四重水素結合モチーフ(先駆者としてSijbesma(1997),Science278,1601-1604が挙げられる)や、生分解性ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレートを含む群から選択される、ポリマー主鎖を含んでいてもよい。ポリエステルの例としては、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリ(バレロラクトン)、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、及びそれらのコポリエステルが挙げられる。ポリカーボネートの例としては、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などが挙げられる。
【0041】
超分子以外のポリマーでも、特性を注意深く選択し、必要な表面特性を確保するために材料を加工すれば、同様の結果を得ることができる。これらのポリマーは、生分解性または非生分解性のポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリ(オルトエステル)、ポリホスホエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリビニルアルコール、ポリプロピレンフマレートを含んでいてもよい。ポリエステルの例としては、ポリカプロラクトン、ポリ(L-ラクチド)、ポリ(DL-ラクチド)、ポリ(バレロラクトン)、ポリグリコリド、ポリジオキサノン、及びそれらのコポリエステルが挙げられる。ポリカーボネートの例としては、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリ(ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)などが挙げられる。
【国際調査報告】