(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電気化学センサー
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20231206BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20231206BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20231206BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20231206BHJP
C12Q 1/70 20060101ALI20231206BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20231206BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N33/483 F
G01N33/569 L
C12M1/34 B
C12M1/34 E
C12Q1/70
C12Q1/37
G01N27/327 357
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525568
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 GB2021052781
(87)【国際公開番号】W WO2022090706
(87)【国際公開日】2022-05-05
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523346445
【氏名又は名称】アウレウム ダイアグノスティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】コリガン、 ダミオン ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッツァ、 ヴィンセント ジェームズ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045CB21
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA20
2G045DA36
2G045DA37
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2G045FB05
4B029AA07
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4B063QA18
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4B063QX01
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4B063QX04
(57)【要約】
本開示は、診断試験における使用のための、自己組織化単分子層(SAM)の形成においてフルオロオルガノチオールまたはフルオロオルガノシランを使用する、電気化学センサーに関する。開示される電気化学センサーを用いて患者試料を試験する方法もまた提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット分析物を検出する際に使用するための電気化学バイオセンサーであって、
自己組織化単分子層(SAM)でコーティングされた表面を含む少なくとも1つの検出電極を含み、前記SAMは、ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン上に存在する反応性イオウまたはケイ素基を通じて前記電極表面上に結合する前記ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子を含むか、これらから本質的になるか、またはこれらからなる、
電気化学バイオセンサー。
【請求項2】
前記ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子が、単一または複数の反応性イオウまたはケイ素基を有する、直鎖、分枝鎖または環状アルカン、アルケンまたはアルキン分子である、請求項1に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項3】
前記反応性イオウ基が、チオールまたはシラン基である、請求項1または2に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項4】
前記フルオロカーボン分子が、直鎖フルオロアルカンチオールまたはフルオロアルカンシランである、請求項1~3のいずれかに記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項5】
前記直鎖フルオロアルカンチオールまたはフルオロアルカンシランが:
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタンチオール、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカンチオール、
3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサンチオール、
2,2,2-トリフルオロエタンチオール、
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルトリエトキシシラン、
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルトリエトキシシラン、および
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロドデシルトリクロロシラン
からなる群より選択される、請求項4に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項6】
前記直鎖フルオロアルカンチオールが1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオールである、請求項4に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項7】
前記電極表面が、ガラス状炭素;金属酸化物;導電性ポリマー;または金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金および銀を含む貴金属から形成される、請求項1~6のいずれかに記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項8】
前記電極表面が金である、請求項7に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項9】
前記電極表面上にコーティングされた前記SAM層によって捕捉される生物学的薬剤をさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項10】
前記生物学的薬剤が物理吸着によって前記SAM層に捕捉される、請求項9に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載の電気化学バイオセンサーを作製する方法であって:
有機溶媒および本明細書に上述されるハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子を含む溶液と、少なくとも1つの検出電極表面とを接触させることによって、前記少なくとも1つの検出電極の表面上にSAMを形成させる工程と、
前記溶媒を蒸発させ、前記SAMが少なくとも1つの検出電極の表面上に形成されることを可能にする工程と
を含む、方法。
【請求項12】
前記SAMでコーティングされた電極と、前記生物学的薬剤を含む溶液とを接触させ、前記電極上にコーティングされた前記SAM層によって前記生物学的薬剤が捕捉されることを可能にする工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記の少なくとも1つの検出電極に電気的にカップリングされている、少なくとも1つの参照電極および/またはカウンター電極をさらに含む、請求項1~10のいずれかに記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項14】
前記電極が、基板上に備えられる、請求項1~10のいずれかに記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項15】
スクリーン印刷電極;マイクロ電極;印刷回路基板上;またはFETS/OFETS上などの形で提供される、請求項14に記載の電気化学バイオセンサー。
【請求項16】
前記センサーによって捕捉された前記生物学的薬剤に結合、典型的には特異的に結合可能であるターゲット分析物の検出における、請求項1~10および14~15のいずれかに記載の電気化学バイオセンサーの使用。
【請求項17】
前記ターゲット分析物が、化学物質(例えばホルモン、麻薬または汚染物質)または生物学的分子(例えばペプチド、タンパク質、糖タンパク質、酵素、糖脂質、細胞表面受容体、サイトカイン、抗体、核酸)である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記ターゲット分析物が、分析しようとする試料内に遊離しているか、またはその中に前記ターゲット分析物がin situで通常見られる、細胞、細胞膜、ウイルスコート等の一部のままである、請求項16または17に記載の使用。
【請求項19】
前記ターゲット分析物がウイルスコートタンパク質である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記電気化学バイオセンサーによって捕捉される前記生物学的巨大分子がACE-2であり、前記ターゲット分析物がSARS-CoV-2またはそのコートタンパク質である、請求項16に記載の使用。
【請求項21】
前記SARS-CoV-2がCOVID-19である、請求項20に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、診断試験における使用のための電気化学センサーに関する。開示される電気化学センサーを用いて患者試料を試験する方法もまた提供する。
【背景技術】
【0002】
電気化学バイオセンサーは、広範囲の病原体および臨床的に重要なバイオマーカーの迅速かつ高感度な検出を達成する、有望な経路である1。最もよく知られる例は、グルコースバイオセンサー(最も一般的にはアンペロメトリックセンサー(amperometric sensor))であり、これは血中グルコースレベルの家庭での試験に広く用いられ、血糖レベルのルーチンのモニタリングにおいて、糖尿病患者に非常に役立つ2。サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)(CV)4、リニアスイープボルタンメトリー(linear sweep voltammetry)(LSV)5、電気化学インピーダンススペクトロスコピー(electrochemical impedance spectroscopy)(EIS)6および微分パルスボルタンメトリー(differential pulse voltammetry)(DPV)7を含む、広範囲の原理によって作動する3、多くの他のバイオセンサーが開発されてきている。EISは、小さいAC励起電位が作業電極で(しばしば開路電位下で)課される測定セットアップを伴い、それにより生じる電気化学セルの電流反応が測定される。セルに関連する多様なパラメータおよびその反応をEIS反応から抽出可能であり、これらには、液抵抗(solution resistance)(Rs)、二重層容量(double layer capacitance)(CDL)、電荷移動抵抗(charge transfer resistance)(RCT)およびワールブルグインピーダンス(Warburg impedance)(W)8が含まれる。二重層容量および電荷移動抵抗は、生物学的に官能化された電極表面での結合の標識不含(label-free)モニタリングに特に有効であることが示されてきている。これらの技術は、DNAおよびタンパク質バイオマーカーの高感度で特異的な測定を可能にし、これは文献において繰り返し示されてきている9。
【0003】
上述のもののような多くの電気化学バイオセンサーに関して、表面官能化および付着化学は、センサー設計および性能に重要な役割を果たす10,11。金センサーに関しては、生物学的分子の付着は、しばしば、金-チオール付着の使用を通じて、より具体的には自己組織化単分子層(self-assembled monolayer)(SAM)の形成を通じて行われる12。SAMは、試料媒体中のタンパク質、細胞および他の構成要素の非特異的結合から電極表面をブロッキングし、かつバイオ認識要素(bio-recognition element)(例えばDNA配列、抗体または酵素)の正しい配向を確実にしうる、二重の目的を果たす13。自己組織化単分子層は、しばしば、金表面とチオール化生体分子の溶液とのインキュベーションによって形成され、受容体の適切な配向および表面ファウリングに対する優れた耐性を確実にするために、単一分子(単層)またはさらなる複雑性が導入される多構成要素を含有しうる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、診断使用のためのセンサー開発に関する本研究者らによって行われた研究であって、SAMの形成にフルオロオルガノチオール(fluoro organothiol)またはフルオロオルガノシラン(fluoro organosilane)分子を使用する研究に基づく。1つの実施形態において、SAMは、センサー表面上の1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール(PFDT)を用い、次いで生物学的薬剤(biological agent)で生物官能化されて、形成される。PFDTは、自発的に、金表面上に高密度の疎水性SAMを形成し、表面バイオファウリング(surface biofouling)を減少させる14。PFDTは、以前、有機トランジスターの性能を増進させ15、DNAをマイクロパターン化基板上に可逆的に構造化する16ために用いられてきている。
【0005】
第一の教示において、本開示は、ターゲット分析物を検出する際に使用するための電気化学バイオセンサーであって、
自己組織化単分子層(SAM)でコーティングされた表面を含む少なくとも1つの検出電極を含み、SAMは、ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン上に存在する反応性イオウまたはケイ素基を通じて、電極表面上に結合するハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子を含むか、これらから本質的になるか、またはこれらからなる、検出電極を含む、電気化学バイオセンサーを提供する。
【0006】
ハイドロフルオロカーボンは、フッ素および水素原子を含有する有機化合物である。フルオロカーボンは、すべてのC-H結合がC-F結合によって置換されている化合物である。ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子は、単一または複数の反応性イオウまたはケイ素基を有する、直鎖、分枝鎖または環状アルカン、アルケンまたはアルキン分子の形を取りうる。
【0007】
1つの実施形態において、反応性イオウ基(reactive sulphur group(s))は、チオールであってもよく、こうしたものとして、分子は、フルオロオルガノチオールであってよい。1つの実施形態において、反応性ケイ素基(reactive silicon group(s))は、シランであってもよく、こうしたものとして、分子はフルオロオルガノシランであってよい。
【0008】
1つの実施形態において、フルオロカーボン分子は、直鎖フルオロアルカンチオールまたはフルオロアルカンシランである。
【0009】
本開示において使用に適した例示的な化合物には:
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタンチオール
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカンチオール
3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロ-1-ヘキサンチオール
2,2,2-トリフルオロエタンチオール
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクチルトリエトキシシラン
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデシルトリエトキシシラン、および
1H,1H,2H,2H-ペルフルオロドデシルトリクロロシラン
が含まれる。
【0010】
1つの実施形態において、SAMを形成する際に使用するための化合物は、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオールである。
【0011】
本開示の電極は、本明細書に記載されるようなハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子によってコーティングされていてもよい、任意の適切な導電性物質で作製されてもよい。適切な物質には、ガラス状炭素;金属酸化物;導電性ポリマー;ならびに金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金および銀を含む貴金属が含まれる。1つの特定の実施形態において、電極は金である。
【0012】
自己組織化単分子層(SAM)は、典型的には両親媒性分子の自己構造化層であり、この中で分子の一方の端が基板物質に特異的アフィニティを示す。SAM分子には、分子を基板に係留する頭部基、ならびに末端のテール部分または官能基が含まれうる。SAM層は、例えば蒸気または液相から基板物質上への頭部基、例えば反応性イオウ(例えばチオール)およびケイ素(例えばシラン)の化学吸着によって形成されうる。本開示に従ったSAMのテール部分基は、既知のフルオラス効果17を利用し、本質的に疎水性であり、本明細書により詳細に記載されるように、多様な生物学的薬剤の捕捉または物理吸着を可能にする。
【0013】
好適には、SAMの疎水性の性質は、適切な生物学的薬剤がSAMによって捕捉されることを可能にするだけでなく、試料とともに存在しうる他の物質、例えばタンパク質、細胞および他の分子によるファウリングおよび/または干渉を減少させるように働くバリア層を提供する。試料は被験体から得られてもよく、血液、唾液または任意の他の適切な生物学的液体、例えば尿、精液、または組織試料であってもよい。あるいは、試料は、環境試料、例えば水試料、土壌試料、またはさらに植物試料であってもよい。
【0014】
さらなる教示において、本開示は、例えば物理吸着によって、電極表面上にコーティングされたSAM層により捕捉される生物学的薬剤をさらに含む、第一の教示および実施形態に記載されるような電気化学バイオセンサーをさらに提供する。
【0015】
さらなる教示において、本開示は、上述の第一のまたはさらなる教示および実施形態に記載される電気化学バイオセンサーを作製する方法であって:
有機溶媒および本明細書に上述されるハイドロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン分子を含む溶液と、少なくとも1つの検出電極表面とを接触させることによって、少なくとも1つの検出電極の表面上にSAMを形成させる工程と、
溶媒を蒸発させ、SAMが少なくとも1つの検出電極の表面上に形成されることを可能にする工程と;
任意選択で、続いて、SAMでコーティングされた電極と、生物学的薬剤を含む溶液を接触させ、電極上にコーティングされたSAM層によって生物学的薬剤が捕捉されることを可能にする工程と
を含む、方法を提供する。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態において、電気化学バイオセンサーは、例えば測定系または測定系に連結するための連結を通じて、前記の少なくとも1つの検出電極に電気的にカップリングされていてもよい、少なくとも1つの参照電極および/またはカウンター電極をさらに含む。電極は、典型的には基板上にあり、例えばスクリーン印刷電極;マイクロ電極;印刷回路基板上;FETS/OFETS等の形で提供されてもよい。電気化学バイオセンサーは、測定系に連結するための連結を含むかまたはこうした連結とともに提供されてもよい。測定系は、少なくとも1つの検出電極および少なくとも1つの参照および/またはカウンター電極の間に電気シグナルを適用するように設定されていてもよい。測定系は、生物学的薬剤による分析物の検出から生じる電気反応を測定するように設定されていてもよい。測定系は、インピーダンス、ボルタンメトリー、またはアンペロメトリー測定を実行するように設定されていてもよい。測定系は電気化学インピーダンススペクトロスコピー(EIS)を実行するように設定されていてもよい。
【0017】
本開示に従った電気化学バイオセンサーは、センサーによって捕捉された生物学的薬剤に結合、典型的には特異的に結合可能であるターゲット分析物を検出するために用いられてもよい。ターゲット分析物は、化学物質(例えばホルモン、麻薬または汚染物質)または生物学的分子、例えばペプチド、タンパク質、糖タンパク質、酵素、糖脂質、細胞表面受容体、サイトカイン、抗体、核酸等であってもよい。ターゲット分析物は、分析しようとする試料内で遊離していてもよいし、またはその中にターゲット分析物、例えば生物学的分子がin situで通常見られる、細胞、細胞膜、ウイルスコート等の一部のままであってもよい。生物学的薬剤およびターゲット分析物の間の結合は、引力(attractive forces)によってともに保持される2つ以上の種の誘引結合(attractive binding)(すなわち非反発性)を伴う。こうした結合は、試料中の生物学的薬剤およびターゲット分析物をともに引っ張る(または引き寄せる)、生物学的薬剤およびターゲット分析物の間の相互作用を含む。結合には、限定されるわけではないが、共有相互作用;静電相互作用;イオン-イオン相互作用、例えば誘引性のまたは反対の電荷間のもの;双極子相互作用;イオン-双極子相互作用;水素結合相互作用;ファンデルワールス相互作用;πスタッキング相互作用;電子密度の共有またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0018】
本開示の電気化学センサーは、生物学的薬剤へのターゲット分析物のいかなる結合も、プロセシングおよび/またはディスプレイのためのシグナルに変換可能である、シグナル変換法を提供する。生物学的薬剤は、ターゲット分析物と類似であってもよく、タンパク質、酵素、抗体、核酸等を含んでもよい。バイオセンサーは、ターゲット分析物を同定するため、特異的化学相互作用特性(例えば酵素およびその基質)または分子認識機構(例えば受容体へのタンパク質結合または抗原への抗体結合)を使用するよう設定されてもよい。バイオセンサーは、電極を使用して、生物学的薬剤による分析物の検出から生じる電気シグナルを、光学的、電子的または他の手段によって現されうる異なるシグナルに変換しうる。
【0019】
1つの実施形態において、インピーダンス、ボルタンメトリー、またはアンペロメトリー測定は、電気化学センサーによって、シグナル、またはシグナルにおける変化を検出するために実行されてもよい。1つの実施形態において、ターゲット分析物の電気化学検出は、電気化学インピーダンススペクトロスコピー(EIS)によって実行される。この方式では、本開示の電気化学バイオセンサーは、ターゲット分析物への生物学的巨大分子結合によって誘導される電極および電解質の間の界面特性の変化を、電気シグナルに変換する。典型的には、レドックス対、例えばK3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]を、界面での電極動力学に関するレドックス指標として用いてもよい。EIS検出の使用に基づくセンサーは標識不含であり、従って、コストが低く、単純であり小型化が容易であるという利点を有する。EISは、表面相互作用に感受性であり、荷電レドックスプローブと関連する界面電荷移動抵抗(RCT)を定量化するため、特に有用である。RCTは、試料溶液中の電極-溶液界面近傍の電荷分布の変化によって強く影響を受け、これが表面感受性を生じる。
【0020】
本開示のバイオセンサーは、多くの異なる診断適用に適用を見出し、これには、例えば、感染性病原体、例えば細菌、ウイルス(インフルエンザ、SARS-COV2を含む)等;敗血症に関連する分子、例えばIL-16およびプロカルシトニン;心臓バイオマーカー、例えばトロポニン;および肝臓バイオマーカーの検出が含まれる。好適には、本発明のセンサーを用いる検出の原理は、製造が相対的に容易であり、検出が速やかであるため、広い適用可能性を有する。
【0021】
1つの限定されない実施形態において、本開示はCOVID-19の検出に関する。この例において、電気化学バイオセンサーによって捕捉される生物学的巨大分子は、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の進入受容体として同定されているACE-2である。従って、1つの実施形態において、生物学的巨大分子がACE-2である本開示に従った電気化学バイオセンサーは、SARS-CoV-2、例えばCOVID 19の検出に使用されうる。あるいは、COVID 19特異的抗体18、例えばCOVID 19のスパイクタンパク質に特異的に結合可能である抗体は、生物学的巨大分子として使用されうる。この方式で、検出されるべきターゲット分析物は、SARS-CoV-2またはより具体的にはCOVID 19のウイルスまたはコートタンパク質である。
【0022】
本明細書で使用される化学的専門用語は、明確に言及されない限り、IUPAC Goldbookに従い、当該技術分野に知られる標準的な意味を有する。文脈(context)が明らかに別のものを必要としない限り、明細書および請求項全体で、単語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」等は、排他的または網羅的意味とは反対の包含的な意味と見なされ、すなわち、「限定されるわけではないが、含む」の意味である。
【0023】
本開示は、ここで、例として、かつ以下の図に言及して、さらに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(A)オンチップAuカウンター電極および参照電極を含む8xAu作業電極PCBの画像。(B、C、D、E)以下の状態:清浄(B)、PFDT官能化(C)およびACE2官能化(D)ならびにSARS-CoV-2スパイクタンパク質または不活性化ウイルスの結合を伴うもの(E)のAuセンサー表面の描写。(F)ACE2官能化センサー(黒)および組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質への曝露後(赤)のシグナルを示すナイキストプロット例。
【
図2】(A)清浄化(黒)、PFDT官能化(赤)およびACE2インキュベーション(青)後の代表的な電極からのナイキストプロット例。(B)電極官能化の3つの段階(清浄化、SAM形成およびACE2固定)を通じたR
ct値を示すボックスプロット。(C)ACE2(1R42)のタンパク質構造
19。(D)PFDTの構造式。
【
図3】(A)ACE2官能化電極対HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質溶液およびHRPコンジュゲート化ストレプトアビジン溶液に関する正規化R
ct値を示すボックスプロット。(B)HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質の増加に対するインピーダンス測定反応(impedimetric response)を示すナイキストプロット。(C)HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクおよびHRPコンジュゲート化ストレプトアビジンタンパク質の添加に反応したΔRCT%変化を示す棒グラフ。(D)HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質に関する用量反応曲線。(E)SARS-CoV-2スパイクタンパク質(6XM4)
20およびストレプトアビジン(4BX5)
21のタンパク質構造。
【
図4】(A)HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質の増加に対するインピーダンス測定反応を示すナイキストプロット。(B)HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクおよびIL-6の添加に反応したΔR
CT%変化を示す棒グラフ。(C)ACE2官能化電極対HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質溶液およびIL-6溶液に関する正規化R
ct値を示すボックスプロット。(D)HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質に関する用量反応曲線。(E)IL-6(2IL6)
24のタンパク質構造。
【
図5】(A)不活性化SARS-CoV-2ウイルス濃度の増加に対するインピーダンス測定反応を示すナイキストプロット。(B)不活性化SARS-CoV-2の陰性および陽性試料の添加に反応したΔR
CT%変化を示す棒グラフ。(C)ACE2官能化電極対不活性化SARS-CoV-2の陽性および陰性試料に関する正規化R
ct値を示すボックスプロット。(D)不活性化SARS-CoV-2に関する用量反応曲線。(E)SARS-CoV-2構造(Maya Peters Kostman for the Innovative Genomics Institute. https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/legalcodeによる画像から適合)。
【
図6】スパイクタンパク質結合に際する電荷移動抵抗増加に特徴的な、PFDT修飾電極に関して観察されるもののようなインピーダンス変化は、下層のSAM層が1-オクタンチオールまたは1-ウンデカンチオールで構成されていた際には観察不能であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
材料および方法
【0026】
略語
PFDT、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール;ACE2、アンギオテンシン変換酵素2;IL-6、インターロイキン-6;SARS-CoV-2、重度急性呼吸器症候群コロナウイルス2;HRP、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ;EIS、電気化学インピーダンススペクトロスコピー;ARDS、急性呼吸器促拍症候群;PCB、印刷回路基板;PBS、リン酸緩衝生理食塩水;SAM、自己組織化単分子層;Rct、電荷移動抵抗;OCP、開路電位;IQR、四分位範囲。
【0027】
化学物質。K3[Fe(CN)6]、K4[Fe(CN)6]、1H,1H,2H,2H-ペルフルオロデカンチオール、KOHおよびH2O2 30%(v/v)を、Sigma-Aldrichから得た。トルエンをFisher Scientific UK Ltd(Loughborough,UK)から得た。脱イオン水(5.00μS/cm、25℃)をScientific Laboratory Supplies Limited(Nottingham,UK)から購入した。不活性化SARS-CoV-2および陰性対照をRandox laboratories Ltd(Crumlin,UK)から得た。ACE2をAbcam(Cambridge,UK)から購入し、HRPコンジュゲート化スパイクタンパク質をThe Native Antigen Company(Oxford,UK)より購入し、HRPコンジュゲート化ストレプトアビジンを、Bio-techne(Abingdon,UK)のIL-6診断キットの一部として購入した。
【0028】
条件付け(Preconditioning)。SEP1 BIOTIPマルチチャネル電極PCBプラットフォーム(biotip ltd,Bath,UK)を、供給されるプロトコルに従って清浄化した。これは、H2O230%(v/v)中の50mM KOHの溶液中、室温で15分間浸すことからなった。次いで、PCBをDI水でリンスし、圧縮空気を用いて乾燥させた。次いで、PCBを、外部白金カウンター電極 (Metrohm,Runcorn,UK)および3M NaCl Ag/AgCl参照電極(IJ Cambria,Llanelli,UK)とともに、50mM KOH(溶媒としてDI水)に浸すことによって電気化学的に清浄化した。以下のパラメータを用いて、PCB上のすべての作業電極に対して、サイクリックボルタンメトリーを行った:電位窓(potential window)は-1.2~0.6V、スキャン速度は0.1V/s、電極あたり15スキャン。次いで、PCBをDI水でリンスし、再度、圧縮空気を用いて乾燥させた。どちらもPalmsens BV(Houten,Netherlands)によって供給されるPalmSens4ポテンシオスタットおよび付随するPSTraceソフトウェアを用いて、すべての電気化学測定を行った。
【0029】
フルオラスSAMおよびACE2固定。トルエンを磁気攪拌し、1mM溶液が形成されるまでPFDTを添加することによって、SAM溶液を調製した。攪拌は、PFDTが溶液全体に分散されることを補助する。フルオロカーボンは、有機溶媒中で低混和性を有する可能性があり、自己相互作用の傾向を有し、フルオラス効果を通じて、別個の相を形成する17。PCBを小型のガラスペトリ皿中に水平に配向し、PCBを過剰な溶液で覆うように、PFDT溶液を添加した。トルエンは迅速に蒸発するため、過剰な溶液を用い、フィルムで覆い、蒸発ロスを減少させた。PCBを室温で一晩インキュベーションし、次いでDI水でリンスし(電極あたり10秒間の水ボトル流)、圧縮空気で乾燥させた。トルエンでのすべての作業を、適切なハロゲン化溶媒廃棄物処理経路を備えた適切なドラフト中で行った。
【0030】
ACE2を1xPBS中のストックから1μg/mlに希釈し、10μlアリコットをPCB上の各作業電極に適用し、室温で1時間インキュベーションした。インキュベーション後、PCBを1xPBS(電極あたり10秒間の水ボトル流)でリンスし、圧縮空気で乾燥させた。
【0031】
タンパク質ターゲット検出。リガンド(ACE2)およびタンパク質(HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質)の間の特異的結合の証拠を調べるため、陽性対照HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質および類似のサイズのタンパク質の陰性対照(HRPコンジュゲート化ストレプトアビジンおよびIL-6)の一連の希釈物(dilutions)を、PCBセンサーアレイ上、室温で30分間インキュベーションし、1xPBS(電極あたり10秒間の水ボトル流)でリンスし、各濃度のインキュベーション間でEIS測定した。用いたHRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質およびIL-6濃度は、1、10、50および100ng/ml(すべて1xPBS中の希釈)であった。HRPコンジュゲート化ストレプトアビジンはELISAキットの一部として得られ、濃度は開示されていなかった。付随する使用説明書は、ELISAアッセイのため、1:40希釈を推奨した。用いる一連の希釈物(1:100、1:75、1:50、1:25および1:5)は、1:40推奨希釈周囲に分布した。
【0032】
不活性化ウイルス検出。不活性化ウイルス検出のため、SARS-CoV-2臨床分子標準キット(Qnostics)を購入した。キットは、臨床試料の代わりとなる複雑な「輸送媒体」中に存在するウイルスの陽性および陰性試料を含んでいた。陽性対照(不活性化ウイルス+輸送媒体およびヒト細胞)の一連の希釈物を、PCB上、室温で30分間インキュベーションした。用いた濃度は、102、103、104、105および106dC/ml(mlあたりのデジタルコピー)であった。提供される溶液体積が小さいため、陰性対照(輸送媒体+ヒト細胞)を室温で30分間、2回インキュベーションした。診断デバイスに必要となる可能性が高い操作環境条件を複製するため、室温インキュベーションを選択した。PCBを1xPBS(電極あたり10秒間の水ボトル流)でリンスし、各インキュベーションの間でEIS測定を行った。
【0033】
EISパラメータ。すべてのEIS測定は以下のパラメータを用いた。Eac=0.01Vrms、Edc=0V、周波数範囲=50周波数、9.8/ディケードで100kHz~1Hz、測定を開路電位(OCP)に対して行った。1xPBS中の5mM K3[Fe(CN)6]/K4[Fe(CN)6]を用いて、すべての測定を得た。
【0034】
結果および考察
フルオロカーボンSAM官能化。一般的な電気化学バイオセンサーは、センサー表面に直接付着し(共有結合、物理吸着および化学吸着を通じて)、ハイドロカーボンに基づくSAMに囲まれたプローブ分子を有するであろう。より一般的でない場合、ハイドロカーボンSAMが最初に固定され、生体分子は疎水性物理吸着相互作用によってこれに吸着し、これはプローブ生体分子のより優れた配向を達成可能であり、受容体-ターゲット結合の可能性を増加させうる。しかし、こうしたアプローチは共有付着よりもより弱い固定法でもあり、従って、インキュベーションおよび洗浄工程中に除去される可能性がより高い、不都合な点を有する。本研究者らは、より強い物理吸着および抗バイオファウリング特性を提供する、ハイドロカーボンを超える非常に増加した両親媒性(疎水性および疎油性特性)を提供可能であるため、フルオロカーボンの使用を考慮しようと努めた
17。フルオロカーボンがPCB電極表面上にSAMを形成する能力を調べた。1mM PFDTの一晩インキュベーションは、電極の測定インピーダンスの増加に影響を及ぼし、これは、ナイキストプロット中の清浄インピーダンスに比較して、より大きいR
ct半円(SAM)として明らかである(
図2A)。定量的に、これは、
図2Bおよび
図2C中の平均R
ct=2.5kΩを有する清浄電極およびSAM段階R
ct=13kΩで、928%のR
ctの平均パーセント増加として見られうる。
【0035】
【0036】
式1を用いてパーセント変化を計算した。式中、Δ%はパーセント変化であり、R
ct前は初期段階のR
ctであり、R
ct後は、インキュベーション段階のR
ctである。有意な相違をボックスプロットから評価した。1つの群の中央値が別の群の四分位範囲(IQR)の外にある場合、群間で有意な相違がある可能性が高い。これらの実験は、念頭にある仮説試験では設計されず、こうしたものとして誤った結果を報告する可能性があるため、T検定分析は行われなかった。ボックスプロット(
図2C)は、清浄およびSAM段階が、両群のIQRが重ならず、従ってSAM形成中に形成されるPFDT層が電極インピーダンスの有意な増加を引き起こすため、有意に異なる可能性があることを示し、固定PFDT層形成の強い証拠を提供した。これは、表面に付着するSAM分子でのSAM形成および表面上での秩序だった層形成のよく確立されたプロセスのためであると仮定された。こうした層は、測定緩衝液中のレドックス活性Fe(CN)
6
3-/4-イオンがレドックス反応を経る可能性がある量または速度を制限して、インピーダンス測定の増加を生じさせうる。要約すると、これらのデータは、フルオロカーボンSAMがPCB電極上に成功裡に形成されることを示した。
【0037】
ACE2疎水性固定。強疎水性フルオラスSAMのさらなる利点は、ACE2生体分子の疎水性物理吸着を促進するために理想的な環境を提供することである。これを試験するため、ACE2タンパク質を電極SAMの存在下でインキュベーションした。SAM官能化電極上で、1μg/mlのACE2溶液とともに1時間インキュベーションした後、わずかなインピーダンス増加が明らかであった(
図2A)。絶対的には、これはSAM単独を超えるさらなる2kΩ Rct増加であった(
図2C)。これは、支持SAM層内への酵素の疎水性物理吸着の指標であった。ACE2電極は、清浄群とは有意に異なったが、SAM群とは有意には異ならなかった。フルオラスSAMは、以前は清浄であった表面を、大きなインピーダンス変化を生じる高密度のパッキングされた層で覆っているため、この知見は、完全に予期されないものではなかった。ACE2は、フルオラスSAM内に吸着され、さらに電極表面をブロッキングすることによって、この層に添加された;が、表面上に存在するフルオラス分子に比較して、相対的により少数のACE2分子であるため、インピーダンスの小さい相対変化の原因となる。PFDT SAMの集合成功が立証され、SAM構造内へのACE2取り込みの証拠が見られたため、一連のリガンド結合実験を次に行った。
【0038】
HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質(陽性)およびHRPコンジュゲート化ストレプトアビジンタンパク質(陰性)。ACE2の固定成功が確認されたため、HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質(結合の視覚的決定を可能にするため、HRPコンジュゲート化型を用いた)を官能化センサー表面と30分間インキュベーションした。1、10、50および100ng/mlの測定インピーダンスは、前の濃度に比較して一貫して増加し、用量依存性の振る舞いを示した(
図3A)。R
ctの平均パーセント変化(n=4)は、最低濃度の96%から最高濃度の156%までであった(
図3B、赤)。これは、HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質が、PFDT-ACE2修飾センサーに結合したことを示した。HRPコンジュゲート化ストレプトアビジンの一連の希釈物(陰性対照1:100、1:75、1:50、1:25および1:5)の添加によって、HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質の特異的結合の確認が可能になった。陰性対照のR
ctの平均パーセント変化(n=4)は、最低濃度の6.2%から最高濃度の52.8%の範囲であった(
図3B、青)。陰性反応は、1:25(53.1%)および1:5(52.8%)の2つの連続パーセント変化測定でプラトーであるようであり、2つの類似のデータスプレッドおよび値であった(
図2C、青)。これらの実験におけるすべての正規化データは、正規化因子としてACE2シグナルを用いた。ACE2およびすべての陽性対照濃度の間には、有意な相違があるようであり、強いSARS-CoV-2スパイクタンパク質結合をさらに立証した(
図2C、赤)。陰性対照実験は、一連の希釈で有意に異ならず、PFDT-ACE2修飾センサーへの弱い結合が示された。すべての陽性群は、陽性群のIQRの外に陰性データの中央値があることによって示されるように、すべての陰性群とは有意に異なる可能性が高い。この証拠を考慮すると、陽性HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、ACE2受容体に成功裡にかつ特異的に結合する一方、HRPコンジュゲート化ストレプトアビジンは特異的に結合しないと結論付けられた。陰性対照によって生成されるシグナルは、フルオラスSAM内への少量の吸収による可能性が最も高い。シグナルは、陽性対照に比較して低く、低レベルで飽和するようであり、フルオラスSAM層が抗バイオファウリング特性を提供し、陽性シグナルが優位を占めることを可能にすることが示唆される。また、HRP標識ストレプトアビジン溶液の出発濃度が1mg/mLの領域中にあり、つまり、陰性対照タンパク質溶液の一連の希釈がHRPコンジュゲート化スパイクタンパク質溶液よりも有意に濃縮されている(少なくとも1桁)ことも指摘されるべきである。陽性の特異的結合および陰性の比較的より弱い結合の強い証拠があるという事実はまた、ACE2が、陽性リガンドに結合するために有意に十分な量および配向でフルオラスSAM内に物理吸着されることを確認する。ACE2が好ましくない配向で結合するならば、受容体結合部位へのリガンドアクセスは妨げられ、陽性シグナルは非常に減少するであろう。
【0039】
より短い8炭素オクタンチオールおよびより長い11鎖ウンデカンチオールを用いた際、結合効率が有意に減少することもまた確認された(
図6)。これは、PFDT層の強い疎水性特性がセンサーの振る舞いに関与する吸着機構を生じることをさらに示す。HRP標識は、陽性タンパク質試料に使用されたため、HRPが結合シグナルに寄与する潜在能力を考慮するために、HRP標識陰性対照もまた用いることが良識的であった。HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質はおよそ154kDaであり、HRPコンジュゲート化ストレプトアビジンはおよそ104kDaである。2つのタンパク質は従って、相対的に類似のサイズであり、どちらもHRP標識を含有し、2つの間の優れた比較が可能であった。式2:
【数2】
(式中、Y
LODは、Y軸パラメータ(正規化R
ct)の検出限界であり、Y
iはデータの線形回帰から得られるy切片であり、SDiはy切片の付随する標準偏差である)
を用いて、検出のY軸限界の指標(LOD)を計算した。SARS-CoV-2 HRPコンジュゲート化スパイクタンパク質の正規化R
ct Y
LODに関して得られる値は2.1であった(
図3D)。試験した最低濃度シグナルは、この限界の閾値であった。すべての他の濃度は限界より上であった。X軸の検出限界もまた、線形回帰データから計算した(R
2=0.99342)。Y
LODおよび適合線の式を用いると、SAR-CoV-2 HRPコンジュゲート化スパイクタンパク質に関して、1.06ng/mlのX
LODが生じた。
【0040】
HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質(陽性)対IL-6(陰性)。陽性対照に関して用いたものと等しい濃度(1、5、10、50、100ng/ml)のタンパク質IL-6(26kDa)を用いて、第二の陰性対照を調べた。IL-6は、正常環境下、特に運動後に人体中によく見られるマイオカインおよびサイトカインである。IL-6は、細菌およびウイルス感染を含む多数の疾患において、炎症および免疫効果を有する。IL-6は、COVID-19の多くの進行した症例で観察される「サイトカインストーム」において上昇したレベルで存在することが示されてきている。従って、特異的ウイルス検出に影響を及ぼしうるアーチファクトの潜在的な供給源に相当し、従って、陰性対照として選択された。今回、各対照群は、単一のボードを陽性および陰性セクションに分ける代わりに、単一のPCBアレイを用いた。これは、両群に関して、収集されるデータ量をn=4からn=8に増加させた。増加する濃度に関するHRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質反応は再び、連続して増加することが示された(
図4A)。これはまた、最低濃度の24.4%から最高濃度の300%の範囲のR
ctパーセント変化からも明らかであった(
図4B、赤)。これは再び、HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質がPFDT-ACE2複合体に結合していることを示した。陰性対照IL-6は、10および50ng/mlで、類似の57%および59%のより小さいパーセント増加を示した(
図4B、青)。平均は、最低濃度の14%から最高濃度の77%の範囲であった。1、50および100ng/ml濃度の陽性および陰性対照の間で、同様の相違があった(
図4C)。陽性データ(
図4Bおよび4C)は、以前示された増加する用量依存性の振る舞いを示した。陰性データは、小さい平均パーセント変化と一致して、ゆっくりと増加した(
図4B)。これらの結果は、HRPコンジュゲート化SARS-CoV-2スパイクタンパク質が、成功裡にかつ特異的に検出され、陰性IL-6シグナルは抑制されており、再び、フルオラスSAMから生じる抗バイオファウリング特性が示唆された。用いるIL-6濃度が、COVID-19患者で検出されるIL-6レベルよりも10
3~10
5倍高いことに注目することが重要である。急性呼吸器促拍症候群(ARDS)に進行した患者は、7.39pg/mLの中央値を有し
22、死亡した患者は、11.4pg/mLの中央値を有した
23。この実験は、臨床COVID-19試料において見られるものをはるかに超える混入レベルでの区別を示すことが可能であった。正規化R
ct Y
LODは1.21であることが見出され(
図4D)、これは、以前のセクションで報告されるもの(Y
LOD=2.1)よりもわずかに改善された。1ng/ml濃度データポイントのみがこの限界と交差することから、1ng/mlは、明らかな検出のための信頼可能な値ではない可能性が示唆される。しかし、濃度X
LODは1.68ng/mlであることが見出された(R
2=0.99)。
【0041】
不活性化SARS-CoV-2検出。スパイクタンパク質リガンドが陰性対照タンパク質の存在下で、ACE2受容体に特異的に結合可能であることが示されたため、焦点をウイルス検出に変更した。不活性化全ウイルスの一連の希釈(10
2、10
3、10
4、10
5および10
6dC/ml)を、同じ分子標準キット由来であり、複雑な臨床試料を模倣するため、「輸送媒体(transport medium)」中に溶解細胞およびタンパク質を含有する、未希釈陰性対照試料に対して試験した。インキュベーションは、一貫して増加するR
ctを生じた(
図5A)。陽性対照に関する平均パーセント変化(n=7)は、最低の106%から二番目に高い濃度の211%の範囲であった(
図5A、赤)。最高の濃度は、211%から168%への減少を示した。これはおそらく、ウイルスまたはウイルス+ACE2複合体の除去、あるいは連続する実験を通じた、多量のウイルスの存在から生じるSAMの続く再配置(reordering)または吸収によるものである。類似の効果が本発明者らのグループ内の他の研究で見られている(非公開データ)。陰性対照は、同じバックグラウンド輸送媒体に加えて、陽性対照としてのヒト細胞を含有するが、全ウイルスを欠いた。実際の濃度および組成は、業者によって提供されていないが、試料は臨床ヒト標本の代わりとなると言及され、定量化データはmLあたりのデジタルコピー(dC/mL)の形で供給された。第一の陰性試料は第一の陽性対照と同時に適用され、同じ処理を経た。第二の陰性適用は、第二の陽性と同じ時点で行われた。必要な試料体積に対して、供給される体積が少ないため、2回の陰性処理のみ可能であった。どちらの陰性反応も、114.4%および113.9%のほぼ同一の平均パーセント変化を示した(
図5B、青)。これは、バックグラウンド溶液が、高いシグナルを生じるが、直ちに飽和することを示した。対照的に、SARS-CoV-2を含有する試料からのシグナルは、ウイルス濃度の増加とともに増え続けた。正規化データは、10
2および10
3dC/ml濃度が陰性と有意に異ならないが、10
4、10
5および10
6dC/mlは有意に異なるようであることを示した(
図5C)。このデータは、ウイルスがACE2受容体に特異的に結合し、10
4dC/ml以上で陰性から区別可能であることを示した。臨床レベルは10
4~10
11 RNAコピー/mlの範囲である
25,26。これは提示される区別可能領域内である。センサー自体の性能は、1.83の正規化R
ct Y
LODによって示された(
図5D)。この限界と交差するデータポイントはなく、最低の10
2濃度が検出成功であることが示された。X
LODは、37.8dC/mlであった(R
2=0.96064)。従って、センサーは、試験した全範囲に渡って検出する性能を有し、陽性対陰性シグナル比が改善されるならば、より低い濃度を区別する潜在能力を有する。不活性化ウイルスでの試験の結果は、非常に説得力があった:まず、ウイルスを65℃で30分間加熱し、ガンマ照射したため、その三次元構造は有意に破壊されており、陽性および陰性ウイルス試料は、ウイルスを産生する細胞を培養するために用いられる複雑な培地中に存在し、従って、唾液および血清などの他の生物学的媒体と類似性があった。30分間のインキュベーション時間は、説得力があるシグナル増加を提供し、これは、特に判断基準である核酸増幅検出と比較して、測定が比較的迅速であることを意味する。最後に、アッセイプロトコルの最適化にはかなりの余地があり、例えばウイルスインキュベーション工程の短縮化、および識別力を最大化するため、洗浄法の最適化がある。
【0042】
結論
SARS-CoV-2に関する試料の調製および試験、ならびに容易に産生される電気化学バイオセンサーを示した。センサーは、層内に疎水性に吸収されるACE2を含む、完全にPFDTで構成される、基盤SAMからなる。HRPコンジュゲート化スパイクタンパク質(陽性)ならびにHRPコンジュゲート化ストレプトアビジンおよびIL-6(陰性)の溶液を用いて、高感度、特異的および用量依存方式で、ウイルススパイクタンパク質を検出することが可能であった。複雑な媒体(細胞培養溶解物)中に存在する不活性化SARS-CoV-2の検出および区別は、SARS-CoV-2の有用なバイオセンサーに必要な、感度、特異性および生物学的ファウリングに対する耐性を確実にすることが立証された。センサーを調製可能な容易さおよび調製工程の大量製造技術との適合性は、アッセイが存在する商業的バイオセンサー形式に潜在的に採用可能であることを意味する。これは、COVID-19パンデミックを制御するための努力の中核をなす、試験センターでの診断を伴う集団の迅速な試験、接触の追跡およびトレーシングのためのポイントオブケアアッセイの広い流通を可能にする。
【0043】
提示されるセンサーはEISを使用して、組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質、ならびに完全に検証された分子標準キット由来の不活性化SARS-CoV-2の陽性及び陰性試料の溶液からの結合を検出する。センサー設計の利点は、結果が標識不含方式で生じうることであり(すなわちアッセイ工程中に蛍光または電気化学標識を添加する必要がない)、試験は唾液中のウイルス粒子を測定するように設計され、従って、感染後の残渣ウイルスRNAを検出する可能性はなく、重大なことに、センサーは、2つの試料産生工程:(1)容易なSAM形成および(2)ACE2官能化でのアップスケーリングおよび製造の容易さのために設計されている。作業において、アッセイは、低コストの8作業電極PCBセンサー系に関して立証されるが、アッセイはさらにより大量製造可能なプラットフォーム、例えばスクリーン印刷デバイスまたはグルコース形式試験ストリップなどに導入されてもよい。重要なことに、これは、よく確立された大容量産生環境との統合を解き放ち、広範囲の迅速な必要とされる地点での使用に関する潜在能力を持つ診断につながる。
【0044】
参考文献
【0045】
【国際調査報告】