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特表2023-551806リサイクルプロセスのためのポリエステル廃棄物の原料エンジニアリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】リサイクルプロセスのためのポリエステル廃棄物の原料エンジニアリング
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20231206BHJP
   B29B 17/02 20060101ALI20231206BHJP
   C08G 63/88 20060101ALI20231206BHJP
   B01D 15/04 20060101ALI20231206BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20231206BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
B29B17/02
C08G63/88
B01D15/04
B01D15/00 K
B29K67:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530882
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 IB2021061240
(87)【国際公開番号】W WO2022118244
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】63/120,364
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/540,184
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(74)【復代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100118108
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ブレイタ、グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】アレン、ロバート、デヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】パレク、ニティン、シャシカント
【テーマコード(参考)】
4D017
4F401
4J029
【Fターム(参考)】
4D017AA03
4D017BA20
4D017CA03
4D017CA17
4D017CB01
4D017DA07
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA22
4F401AD03
4F401AD07
4F401BB12
4F401CA56
4F401DA14
4F401EA54
4F401EA55
4F401EA59
4F401EA80
4F401FA07Z
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029CB06A
4J029CC05A
4J029CF19
4J029EA05
4J029EH03
4J029KD02
4J029KD06
4J029KE13
4J029KG01
4J029KG03
4J029KH05
4J029KH08
4J029KJ02
4J029LB07
4J029LB08
(57)【要約】
ポリエステル廃棄物を、ヘキサフルオロイソプロピル(HFIPA)と、ジクロロメタン(DCM)などの塩素化炭化水素もしくはトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素またはその両方とを含む溶液に当該材料を溶解させることによってリサイクル用に調製し、溶解ポリエステル試料を形成する。溶解ポリエステルは、蒸発、噴霧乾燥、もしくは沈殿またはその組み合わせによってリサイクル用に調製することができ、これにより、精製された固体ポリエステル生成物を生成する。精製された固体ポリエステル生成物から分離された溶解液も、精製を伴う蒸留を通じてリサイクルされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含む廃棄物を、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールと、塩素化炭化水素もしくは芳香族炭化水素またはその両方とを含む溶解液で処理し、溶解ポリエステルを形成することと、
前記溶解ポリエステルを精製することと、
前記精製した溶解ポリエステルを、固体ポリエステルを製造する技術を用いて処理することであって、前記溶解液は当該固体ポリエステルから分離される、ことと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記塩素化炭化水素はジクロロメタンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芳香族炭化水素は、トルエンもしくはキシレンまたはその両方である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶解液は、30%のヘキサフルオロイソプロピルアルコールと70%のジクロロメタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶解液は、1~85%のジクロロメタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記分離された溶解液は、蒸留もしくは凝縮またはその両方によって再利用のために回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶解ポリエステルは、脱色もしくは脱イオン化またはその両方によって精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶解ポリエステルは、活性炭、イオン交換、濾過、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される処理で精製される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記固体ポリエステルを製造する前記技術は、蒸発、噴霧乾燥、沈殿、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記固体ポリエステルは、ケミカルリサイクルプロセスまたはメカニカルリサイクルプロセスによってリサイクルされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ケミカルリサイクルプロセスは、アルコール分解、加水分解、酸分解、加リン酸分解、アミノ分解、加安分解、および酵素分解からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ケミカルリサイクルプロセスは、解糖解重合である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記溶解液で処理する前に、前記ポリエステル廃棄物をポリエステル非溶媒で別途前処理して、当該ポリエステル廃棄物から不純物を除去する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリエステル非溶媒は、塩素化炭化水素、芳香族炭化水素、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリエステル非溶媒は、ジクロロメタン、トルエン、キシレン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む廃棄物を、30%のヘキサフルオロイソプロピルアルコールと70%のジクロロメタンを含む溶解液で処理し、溶解PETを形成することと、
前記溶解PETを精製することと、
前記精製した溶解PETを、固体PETを製造する技術を用いて再利用のために処理することであって、前記溶解液は当該固体PETから分離される、ことと、
を含む、方法。
【請求項17】
前記分離された溶解液は、蒸留もしくは凝縮またはその両方によって再利用のために回収される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記溶解PETは、脱色もしくは脱イオン化またはその両方によって精製される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記溶解PETは、活性炭、イオン交換、濾過、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される処理で精製される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記固体PETを製造する前記技術は、蒸発、噴霧乾燥、沈殿、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記固体PETは、ケミカルリサイクルプロセスまたはメカニカルリサイクルプロセスによってリサイクルされる、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記ケミカルリサイクルプロセスは、アルコール分解、加水分解、酸分解、加リン酸分解、アミノ分解、加安分解、および酵素分解からなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ケミカルリサイクルプロセスは、解糖解重合である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記溶解液で処理する前に、前記廃棄物をジクロロメタンで別途前処理して、当該廃棄物から不純物を除去する、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記廃棄物は、着色した、汚れた、もしくは混ざり合ったまたはその組み合わせの状態のPETフレークである、請求項16~24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記廃棄物は、着色したPET生地もしくは繊維またはその組み合わせを含む、請求項16~24のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にリサイクルプロセスに関し、より具体的には、ジクロロメタン(DCM)とヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIPA)の組み合わせを用いて廃ポリエステル原料(waste polyester feedstock)を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低品質のプラスチック廃棄物中に不純物が存在すると、プラスチック廃棄物のケミカルリサイクル(chemical recycling)およびメカニカルリサイクル(mechanical recycling)の効率および効果に問題を生じさせる。例えば、モノマーまたはポリマー供給流(feed stream)中に少量の不純物(染料、顔料、汚れ、異物または異種ポリマーなど)が存在すると、流入する原料の品質を大きく損ない、結果として改質ポリマー(reformed polymer)の機械的特性、光学特性、もしくはバリア特性またはその組み合わせを著しく低下させる可能性がある。
【0003】
ケミカルリサイクルは、廃プラスチックや廃繊維を原料として使用する。リサイクルプロセスでは、ポリマーを溶解し、もしくは新しいプラスチック材料を調製するためのモノマーを生成し、またはその両方を行う。逐次重合(step growth polymerization)/縮合重合(condensation polymerization)によって新しい高分子量ポリエステルを生成するには、モノマーに非常に高い純度(99%超)が要求される。ケミカルリサイクルにおける継続的な課題は、低品質で組成が変動しやすい(compositionally fluctuating)原料をいかに回収して解重合およびモノマー精製を通じて処理し、縮合(または逐次)重合に必要な品質を有する最終生成物(モノマー)を作成するかである。現在、反応後精製(post reaction purification)は、活性炭およびイオン交換樹脂を用いた処理を通じた脱色および脱イオン化によって行われている。これらの技術を反応前蒸留(pre-reaction distillation)とともに用いることで、色を含む不純物の除去には概ね成功しているが、投入物の汚染や着色が多いほど、精製媒体(purification media)の再生頻度を高くする必要がある。使用済み活性炭または汚染活性炭を再活性化するプロセスは、一般的に熱分解(600~900℃の範囲の温度)であり、大きなエネルギーコストが発生する。さらに、イオン交換床(ion exchange bed)を再生する場合、希釈した酸または塩基で逆流洗浄(backflow washing)する必要があり、環境廃棄物もしくは追加処理の必要性またはその両方が発生する。
【0004】
メカニカルリサイクルは、厳しく洗浄された無色の投入物のみを使用できる。メカニカルリサイクルは異物に対する許容度がゼロであるため、選別プロセスにおいて大量のプラスチックが拒絶される。ポリエチレンテレフタレート(PET)ボトルの場合、ポリオレフィン(ボトルキャップ、リング、ラベルなど)が1%しか含まれていないPETボトルのバッチでも、メカニカルリサイクルには適さず、拒絶される。このような制限から、メカニカルリサイクルは回収率の低いリサイクルプロセスとなっている(57%未満)。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本発明は、ポリエステルを含む廃棄物を、ヘキサフルオロイソプロピルアルコールと、塩素化炭化水素もしくは芳香族炭化水素またはその両方とを含む溶解液で処理し、溶解ポリエステルを形成することと、前記溶解ポリエステルを精製することと、前記溶解ポリエステルを、固体ポリエステルを製造する技術を用いて処理することであって、前記溶解液は当該固体ポリエステルから分離される、ことと、を含む、方法に関する。
【0006】
別の態様において、本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む廃棄物を、30%のヘキサフルオロイソプロピルアルコールと70%のジクロロメタンを含む溶解液で処理し、溶解PETを形成することと、前記溶解PETを精製することと、前記溶解PETを、固体PETを製造する技術を用いて再利用のために処理することであって、前記溶解液は当該固体PETから分離される、ことと、を含む、方法に関する。
【0007】
本発明の追加の態様もしくは実施形態またはその両方を、以下に記載する本発明の詳細な説明において、限定を目的とせずに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】汚染混合(DM)PETフレークをジクロロメタン(DCM)で前処理した結果得られた分離生成物を示す写真である(実施例1)。
図2】受け取ったDM PETフレークと、DCMによる前処理後の回収PET生成物との比較を示す写真である(実施例2)。
図3A】PETクリーンカラー(CC)フレークをDCMで前処理した結果得られた生成物を示す写真である(実施例2)。
図3B】PETクリーンカラー(CC)フレークをDCMで前処理した結果得られた生成物を示す写真である(実施例2)。
図4】DCM処理したCCおよびDM PETフレーク(実施例1および2)から得られた時系列DCM抽出物を示す写真である。
図5】CC PETフレークのDCM前処理による色抽出をリアルタイムでプロットしたグラフである(実施例2)。
図6】DCM前処理を施した黒色ポリエステル生地の脱色を示す写真である(実施例3)。
図7】HFIPA(ヘキサフルオロイソプロピルアルコール)処理後のCC PETフレークの脱色を示す写真である(実施例4)。
図8A】CC PETフレークを含む4つのバイアルの写真(実施例5)であり、DCM前処理を行ったCC PETフレーク(バイアル3、4)とDCM前処理を行わなかったCC PETフレーク(バイアル1、2)とを示したものである。
図8B】CC PETフレークを含む4つのバイアルの写真(実施例5)であり、DCM/HFIPA 70/30(バイアル1、3)および純HFIPA(バイアル2、4)による溶解開始の15分後のバイアルを示したものである。
図8C】CC PETフレークを含む4つのバイアルの写真(実施例5)であり、30分後(溶解から45分後)の同じバイアルを示したものである。
図9】DCM前処理を行った場合と行わなかった場合のHFIPA処理の前後のPETを示す写真である(実施例6)。(A)は、DCM前処理を行わなかった汚染混合(DM)PETフレーク(左)、DCM前処理を行わなかったクリーンカラー(CC)PETフレーク(中央)、およびDCM前処理を行ったCC PETフレーク(右)の溶液を示した写真である。(B)は、処理および精製後のDMおよびCC PETフレーク試料の溶液の写真である。
図10】DCM/HFIPA 70/30で処理し精製した後のDM、CC、およびDCM前処理済みCC(PCC)PETフレークから得られたPETフィルムを示す写真である(実施例7)。
図11】DCM/HFIPA 70/30による処理、および活性炭精製濾過の前後のCCおよびPCC PETフレークの溶液を示す写真である(実施例8)。
図12】DCM/HFIPA 70/30による処理、活性炭精製、および1.0μmフィルタ膜による濾過の前後のCCおよびPCC PETフレークの溶液を示す写真である(実施例8)。
図13】DCM/HFIPA 70/30で処理(脱色あり、脱色なし)したCCおよびPCC PETフレークから回収したPETフィルムの写真である(実施例9)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の種々の態様もしくは実施形態またはその両方の説明を例示として提示するが、網羅的であることや、開示する実施形態に限定することを意図したものではない。当業者には明らかなように、記載する各実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの変更および変形が可能である。本明細書で用いられる用語は、各態様もしくは実施形態またはその両方の原理、実際の用途、または市場で確認される技術に対する技術的な改善を最もよく説明するために、あるいは、他の当業者が本明細書に開示する各態様もしくは実施形態またはその両方を理解できるように選択されたものである。
【0010】
本明細書において「メカニカルリサイクル」という用語は、ポリエステル廃棄物をチップ化し、再溶融および押出して、再成形用途に使用可能な、または直接新しい商品に形成されるリサイクルペレットを作ることによって、ポリエステル廃棄物の分子構造を維持するリサイクルプロセスを指す。メカニカルリサイクルでは、汚染されていない無着色の廃棄物流(waste streams)が求められる。これには、類似した材料のみが一緒にリサイクルされ、色内容が全くまたはほとんどないように、徹底した選別と洗浄が必要である。
【0011】
本明細書において、「ケミカルリサイクル」という用語は、プラスチックポリマーを化学的に元のモノマーに還元し、再重合して新しいプラスチック材料に作り変えることができるようにするプロセスを指す。ケミカルリサイクルでは、プラスチック廃棄物を原料に戻し、さらなるリサイクルに利用することができる。分別された単一流(single-stream)のプラスチック廃棄物を必要とするメカニカルリサイクルとは異なり、ケミカルリサイクルは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)からなる使用済み混合プラスチック廃棄物流に使用することができる。ケミカルリサイクルは、メカニカルリサイクルに比べて、着色料や汚れの含有量の許容度が高い。ケミカルリサイクルプロセスには、特に限定されないが、溶媒溶解(solvent dissolution)プロセスおよび解重合(depolymerization)プロセスが含まれる。解重合リサイクル反応の例としては、特に限定されないが、アルコール分解(例えば、解糖およびメタノール分解)、加溶媒分解、加水分解、酸分解、加リン酸分解、アミノ分解、加安分解、酵素分解、およびオリゴマーまたはモノマーを生成する他の交換反応が挙げられる。補足すると、ポリエステルの解重合の場合、アルコール分解で、アルコール基がポリマーのエステル結合を切断するエステル交換反応(transesterification reaction)が起こる。
【0012】
本明細書において、「解糖解重合(glycolysis depolymerization)」という用語は、グリコールをポリマー鎖に挿入してエステル結合を破壊し、ヒドロキシルアルキル末端に置き換える解重合リサイクルプロセスを指す。解糖に使用されるグリコールの例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、およびジプロピレングリコールが挙げられる。
【0013】
本明細書において、「溶媒溶解(solvent dissolution)」という用語は、溶媒を使用してポリマーを溶解し、他の材料から分離するケミカルリサイクルプロセスを指す。
【0014】
本明細書では、供給物中の異なるポリエステル等級、共重合体および色の均質化(homogenization)を通じて、ケミカルまたはメカニカルリサイクル用のポリエステル試料(例えば、PETボトル)または織物(textile)材料(例えば、ポリエステル生地(fabrics)もしくは繊維(fibers)またはその両方)を調製する溶剤ベースの原料エンジニアリング(feedstock engineering)プロセスを記載する。原料投入物を本明細書に記載の溶媒で処理し、さらなる精製プロセスで処理することにより、リサイクルされた出力は、色が少なく、固有粘度などの機械的特性がそのままの高品質な製品になる。原料エンジニアリングプロセスで使用される溶媒は、ポリエステル(例えば、フレーク状、布状、または繊維状のPET)を選択的かつ迅速に溶解することができ、ポリエステルのすべての分子量を溶媒和(solvate)するものであり、高収率であり、かつ容易に回収して再利用することができる。
【0015】
ポリエステルリサイクルでは、着色した(colored)、汚れた(dirty)、もしくは混ざり合った(mixed)またはその組み合わせの状態のポリマー投入物(polymer input)は一般に、ポリエステルリサイクルの前段階である溶解の前に、色や不純物を除去する前処理を必要とする。ポリエステル試料は、リサイクルプロセスの開始前に、ジクロロメタン(DCM)で処理することにより、脱色(decolor)もしくは精製(purify)またはその両方を行ってもよい。下流のリサイクルに問題を引き起こす可能性のある、ポリエステル原料試料に存在する不純物の例としては、特に限定されないが、非エステルポリマー、物理的な汚れもしくは垢またはその両方、着色剤、有機不純物、金属不純物およびイオン性不純物、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。有機不純物の非限定的な一例としては、アセトアルデヒドまたはそのアセタールが挙げられる。金属不純物およびイオン性不純物の例としては、特に限定されないが、アルミニウムまたはアルミニウム含有フィルム、ワイヤまたは粉末としての鉄および銅が挙げられる。ポリエステル原料中に存在する非エステルポリマーの例としては、例えば、ポリオレフィン(ボトルキャップに含まれる)、ポリアミド(例えば、ナイロン)、ポリイミド、ポリウレタン、およびポリ塩化ビニルなどのポリマーが挙げられる。
【0016】
繊維リサイクルにおいては、当技術分野で使用される溶解リサイクルプロセスは、ポリエステルの低分子量部分の分別除去(fractional removal)(溶媒和)や、ポリエステルポリマーの固有粘度(すなわち、ポリマーの分子量、融点、結晶性および引張強度の尺度)の減少により、回収ポリエステル(PETを含む)の品質に影響を与える。ポリエステル/綿混合繊維の用途では、ポリエステルポリマーの溶媒和と固有粘度の低下とにより、高分子量ポリエステル(一般的にはPET)が綿に残留し、リサイクル綿繊維に好ましくない特性が付与されることになる。
【0017】
DCM(沸点39.6℃)は、PETを含むポリエステルの着色除去および精製に有効であるが(実施例1~3、図1~6)、PETを含むポリエステルの非溶媒(non-solvent)として知られている。多くの非エステルポリマーは、PETおよびDCMよりも密度が低いため、PET試料をDCMで処理すると、PET試料中に存在する非エステルポリマーがDCM液の表面に浮かび、そこで液表面から(例えば、スキミングによって)濾過することができる。一方、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIPA、沸点58.2℃)は、PETを含むポリエステルの溶媒として知られている(実施例4、図7)。予想外かつ驚くべきことに、ポリエステル溶媒HFIPAと組み合わせてDCMなどのポリエステル非溶媒を添加すると、HFIPA単独よりも優れたポリエステル用溶媒が得られることが見出された。
【0018】
ポリエステル溶解のためにHFIPAと組み合わせて使用可能なポリエステル非溶媒の例としては、特に限定されないが、DCMなどの塩素化炭化水素、およびトルエンやp-キシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。塩素化炭化水素および芳香族炭化水素を、個別に、またはHFIPAと組み合わせて使用して、リサイクル用の調製としてポリエステルを溶解させてもよい。一実施形態では、HFIPA混合溶媒溶液中のポリエステル非溶媒の割合は、廃ポリエステルの前処理に使用された残留DCMである。別の実施形態では、ポリエステル非溶媒の濃度は、全溶液の1~85%である。さらなる実施形態では、ポリエステル非溶媒の濃度は、全溶液の10~80%である。別の実施形態では、ポリエステル非溶媒の濃度は、全溶液の20~80%である。さらなる実施形態では、ポリエステル非溶媒の濃度は、全溶液の20~70%である。別の実施形態では、ポリエステル非溶媒の濃度は、全溶液の30~70%である。さらなる実施形態では、HFIPA/ポリエステル非溶媒(本明細書において「HFIPA混合溶媒」とも呼ぶ)は、ポリエステル非溶媒の濃度が70%であり、HFIPAの濃度が30%である。別の実施形態では、HFIPA混合溶媒は、DCMが70%であり、HFIPAが30%である。なお、HFIPA混合溶媒中のポリエステル非溶媒の割合は、本明細書に記載するポリエステル前処理からの残留ポリエステル非溶媒を含んでもよい。
【0019】
HFIPA混合溶媒を任意のリサイクルプロセスとともに使用して、製品の純度を高め、かつ、処理コスト、時間、および煩雑さを低減することができる。以下の説明では、DCM/HFIPA 70/30配合物(formulation)を例示的なHFIPA混合溶媒配合物として、PETを例示的なポリエステルとして参照する。ただし、本明細書で参照する他のポリエステル非溶媒を、ポリエステル溶解配合物におけるDCMの代わりに使用してもよいし、任意のポリエステルをPETの代わりに使用してもよい。
【0020】
図8A~8C(実施例5)は、DCM/HFIPA 70/30配合物を用いた場合のPETフレークの溶解の改善(HFIPA単独と比較して)、およびDCMで前処理したPETのさらなる溶解促進を示す図である。図8Aに、溶解前のPETフレークを示す。図8Aに示すように、DCM前処理を施したバイアル3および4は、DCM前処理を施さなかったバイアル1および2と比較して、元のPETの色の多くが除去されている。図8Bは、DCM/HFIPA 70/30(バイアル1および3)およびHFIPA単独(バイアル2および4)による溶解から15分後の同じバイアルを示したものである。図8Bに示すように、HFIPA単独で溶解したバイアル2および4は、15分後に未溶解のPETフレークが液面に浮いており(図8B)、30分後にも両バイアルには未溶解のPETフレークが残っていた(図8C)。これに対して、DCM前処理とDCM/HFIPA 70/30による溶解の両方を行ったバイアル3は、わずか15分後にPETが完全に溶解した溶液を生成した。溶媒としてDCM/HFIPA 70/30を施したがDCM前処理を行わなかったバイアル1は、15分後に少量の未溶解PETを含む溶液を生成したが、さらに30分経過後には完全に溶解した。図8Bおよび図8Cの溶液は、DCM/HFIPA 70/30配合物によってPETが効果的に溶解すること、およびPETをDCMで前処理した場合にPET溶解に対する相加効果が得られることを示すものである。DCM前処理に関して、図8Bおよび図8Cのバイアル3および4の溶液の色は、同図のバイアル1および2の溶液よりもはるかに明るい。図9(A)および(B)(実施例6)は、純(neat)HFIPAでクリーンカラー(CC:clean-color)PETフレークを処理する場合も、DCM前処理により、前処理を行わない場合よりも明るい溶液が生成されるという同様の結果を示すものである。これらのすべての場合において、DCMで前処理した試料に残っている色のほとんどは、不溶性の青色顔料の存在によるものであり、これは濾過によって容易に除去することができる。
【0021】
HFIPA混合溶媒による処理(および、例えば脱色、脱イオン化もしくは濾過またはその組み合わせによる任意の工程としての精製)を行った後、ポリエステルは蒸発、噴霧乾燥(spray drying)もしくは沈殿(precipitation)またはその組み合わせにより回収することができる(実施例7および9、図10、13)。乾燥ポリエステルは、その後、さらなるケミカルまたはメカニカルリサイクルに供することができる。必要に応じて、HFIPA混合溶媒処理の後であって、リサイクルプロセスの開始前に、乾燥ポリエステルに対して、活性炭処理(実施例8、図11、12)もしくはイオン交換またはその両方を通じてさらに脱色もしくは脱イオン化またはその両方を行ってもよい。
【0022】
本明細書に記載するDCM/HFIPA 70/30に関して、この配合物は、低温でポリエステルを急速に溶解する低沸点共沸混合物(low boiling azeotrope)(沸点36℃)を好都合に生成する。DCM/HFIPA共沸溶媒は、任意のHFIPAおよびDCMとともに、ポリエステル回収プロセスの低温蒸留(low temperature distillation)または直接凝縮(direct condensation)後に、リサイクルして再利用することができる。DCMおよびHFIPAは、共沸混合物として、または個別に、36~58℃の低温蒸留により、着色剤、染料および他の有機材料などの溶解不純物から好都合に精製および回収することができる。精製後、回収した共沸混合物、DCM、HFIPAは、新たに使用することができ、クローズドループリサイクルプロセスが促進される。
【0023】
なお、すべてのポリエステル試料が脱色/脱イオン化のための前処理または後処理を必要とするわけではない。精製前および精製後処理が有用であるかどうかは、リサイクル前のポリエステル試料の清浄度によって決まる。食品グレードの製品に使用されるリサイクルPETの場合、適切なリサイクル製品を製造するために、前処理および後処理工程が必要な場合がある。一方、カーペットや配管などの工業用途に使用されるリサイクルPETの場合、必ずしも追加の処理を必要としない。
【0024】
一実施形態では、HFIPA混合溶媒精製プロセスから得られた生成物は、アルコール分解解重合(alcoholysis depolymerization)リサイクルプロセスへの投入物を提供する。アルコール分解解重合リサイクルプロセスの1つの非限定的な例として、揮発性触媒(VolCat:volatile catalyst)ケミカルリサイクルプロセスが挙げられる。VolCatケミカルリサイクルプロセスは、米国特許第9,255,194号(Allenら)および米国特許第9,914,816号(Allenら)に記載されている。一実施形態では、VolCatプロセスは、アルコールの沸点以上の温度にて反応器内で、ポリエステルを、アルコール溶媒および有機触媒(organocatalyst)で解重合(depolymerize)する。別の実施形態では、有機触媒は、アルコール溶媒の沸点よりも少なくとも50℃低い沸点を有し、解重合は、アルコール溶媒の沸点よりも高い温度で実行される。さらなる実施形態では、有機触媒は、アルコール溶媒の沸点よりも少なくとも50℃低い沸点を有し、解重合は、有機触媒の沸点よりも高い温度で実行される。別の実施形態では、ポリエステル投入物およびアルコール溶媒が、有機触媒の導入前に約200~250℃の反応温度まで加熱される。VolCat解重合からの反応生成物(Reaction products)は、ポリエステルからの単量体ジエステル(monomeric diesters)もしくはオリゴマージエステル(oligomeric diesters)またはその両方、ならびに、回収した有機触媒および過剰なアルコール溶媒であり、このうちの前者は再生ポリエステル製品への再利用を目的とし、後者は以後の解重合反応に再利用することもできる。
【0025】
別の実施形態では、VolCat反応は、化学反応器内で行われる。化学反応器は、オートクレーブ(autoclave)や押出反応器(extrusion reactor)などの圧力反応器であってもよいし、丸底フラスコなどの非加圧反応器であってもよい。さらなる実施形態では、解重合反応(加圧または非加圧で行われてもよい)、およびモノマー生成物の1つ以上の任意の精製工程は、バッチで実施されてもよいし、連続フロープロセスで実施されてもよいし、その両方で実施されてもよい。別の実施形態では、モノマー生成物の溶解度が限定された溶媒を使用して、解重合されたポリエステルモノマー生成物(バッチプロセスで得られたものであるか、連続フローで得られたものであるかを問わず)を精製してもよい。このような精製溶媒の非限定的な例としては、アルコールもしくは水またはその両方が挙げられる。精製にアルコールを使用する場合、アルコールは、解重合反応からの未反応アルコールであってもよいし、新たに導入された清浄アルコールであってもよい。さらなる実施形態では、VolCat反応から得られた回収モノマー生成物を使用して、新たなポリマー材料を製造してもよい。
【0026】
別の実施形態では、ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンフラノアート(PEF)、ポリエチレンテレフタレートグリコール変性(PETG)、ポリ乳酸(PLA)およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、アルコール溶媒は、グリコール溶媒もしくはジオール溶媒またはその両方である。別の実施形態では、アルコール溶媒は、1,2-エタンジオール(エチレングリコール、EG)、1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール)、1,4-ブタンジオール(テトラメチレングリコール)、1,5-ペンタンジオール(ペンチレングリコール)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、有機触媒は、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方である。別の実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方のアミンは、3級アミンである。さらなる実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方は、トリエチルアミン(TEA)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリメチルトリアザシクロノナン(TACN)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、N-メチルイミダゾール(NMI)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方は、TEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方である。さらなる実施形態では、ポリエステル投入物はテレフタレートを含み、回収した解重合反応生成物はテレフタレートエステルモノマーを含む。別の実施形態では、ポリエステル投入物はPETを含み、回収したポリエステルモノマー生成物は、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)である。さらなる実施形態では、ポリエステル投入物はPETを含み、アルコールはEGであり、アミン有機触媒はTEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方であり、回収した反応生成物は未反応EG、TEA、およびBHETを含む。
【0027】
別の実施形態では、HFIPA混合溶媒精製プロセスから回収した生成物は、メカニカルリサイクルプロセスへの投入物を提供する。このタイプのプロセスでは、精製した出力を直接再溶解して、リサイクルPETペレット、フィラメント、もしくは繊維またはその組み合わせにすることができる。
【0028】
本開示の種々の態様もしくは実施形態またはその両方を例示として説明してきたが、網羅的であることや、開示した実施形態に限定することを意図したものではない。当業者には明らかなように、記載した各実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの変更および変形が可能である。本明細書で用いられる用語は、各態様もしくは実施形態またはその両方の原理、実際の用途、または市場で確認される技術に対する技術的な改善を最もよく説明するために、または、他の当業者が本明細書に開示する各態様もしくは実施形態またはその両方を理解できるように選択されたものである。
【0029】
<実施例>
以下の実施例は、本明細書に記載する本発明の態様および実施形態の製造方法および使用方法についての完全な開示を当業者に提供するために記載されるものである。量や温度などの変数に関して正確性を確保するための努力がなされているが、実験誤差および偏差も考慮すべきである。別段の記載がない限り、部は重量部、温度は摂氏温度、圧力は大気圧または大気圧付近である。すべての成分は、別段の記載がない限り、商業的に入手したものである。
【0030】
(実施例1:汚染混合PETフレークのDCM精製)
2.5kgのカーブサイド(curbside:道路脇回収)混合PETフレークを、12LのDCMとともに22Lのガラス反応器に加え、室温で穏やかに攪拌した。DCMは、攪拌前であっても、直ちに驚くべき量の色を帯びた。1時間後、2時間後、3時間後にDCMの試料を採取した。その後、液面から密度の低い物質をすくい取り、PE、PP、およびアルミニウム含有フィルムであることを確認した。汚染(dirty)PETの上または中に元々存在していた汚れや垢のほとんどは、DCM液中に放出され、液中から容易に濾過することができた。そして、清浄なPETフレークが残り、その後の濾過で容易に回収することができた。得られた生成物において、ポリオレフィンまたはPET中の色として残った着色物質はほとんどなかった。図1の1枚目は、DCM(色を吸収している)に浸漬されたPET、およびポリオレフィンとアルミホイルが浮かんでいる状態を示している。図1の2枚目は、DCM液の表面から浮遊物および汚れ/垢を金網スクリーンで除去する様子を示している。図1の3枚目は、残ったDCM液に浮遊する汚れ/垢を示している。図1の4枚目は、回収された精製PETフレークを示している。図2は、投入されたカーブサイド汚染混合PETフレーク(左)、精製PET(中央上)、回収されたポリオレフィンおよびアルミニウム(中央下)、ならびに濾過時に除去された汚れおよび垢(右)を示している。図4(右)は、3つのDCM溶液の時系列試料を示している。
【0031】
(実施例2:クリーンカラーPETフレークのDCM精製)
2.5kgのクリーンカラーPETフレーク(clean-color PET flake)を、12LのDCMとともに22Lのガラス反応器に加え、室温で穏やかに攪拌した。DCMは、攪拌前であっても、直ちに濃い色になった。DCMの試料を、1、2、3、4、5、6、および24時間後に採取し、その後、濾過によってPETフレークを回収した。図3Aは、DCM処理前(右)と処理後(左)のクリーンカラーPETフレークの一部を、DCMの蒸発後に抽出された染料および他の材料の一部(上、フラスコ内)とともに示したものである。図3Bは、受け取った状態(左)、および濾過によるDCM処理(追加の乾燥なし)から回収後(右)のクリーンカラーフレークを示したものである。染料のほとんどは被処理材料から抽出されており、残っている青色着色料はほとんどが不溶性顔料で、解重合などの後続のリサイクルプロセスにて濾過によって容易に除去される。図4に、7つのDCM溶液の時系列試料(左)を示す。表1に、DCM精製前(左)と精製後(右)のクリーンカラーフレーク試料のCIEカラー測定値を示す。表1に示すように、元のPETをDCM精製することによって得られたPETは、L*が45.12から49.23に増加するとともに、a*が-9.22から-2.6(緑の減少)に、b*が+13.5から+2.91(黄色の減少)に低下して色が著しく減少し、光学品質が改善した。
【0032】
【表1】
【0033】
表2は、本明細書に記載のクリーンカラーPETフレークおよび実施例1のカーブサイド汚染混合PETフレークに使用したDCM液の時系列アリコートのCIEカラー測定値を示したものである。図5は、クリーンカラーPETフレークについて表2の色抽出データをプロットしたグラフである。表2および図5のデータから、脱色が室温で2時間以内に起きていることが分かる。プロセス温度を上げることによって、脱色時間が短くなることが予想される。
【0034】
【表2】
【0035】
(実施例3:黒色ポリエステル生地のDCM精製)
ポリウレタンのデカールが付いた黒色ポリエステル生地の切断片50gを、500mLの三角フラスコ中で、250gのDCMとともに室温で撹拌した。液体はほとんどすぐに深紫色になった。1時間15分後に試料を濾過し、DCMで洗浄した後、吸引乾燥したところ、生地の重量は49.5gであった。ポリウレタンのデカールが生地から剥がれ、生地は水色に変色していることが確認された。反応から得られた抽出物は、DCMを蒸発させた後は濃い黒/紫色で、重量は1.9g(3.8%)であった。図6に、投入された黒色ポリエステル生地(左)、DCMによる脱色(左中央)、脱色後のポリエステル生地(右中央)、およびDCM蒸発後の回収染料(右)を示している。
【0036】
(実施例4:HFIPAおよび炭素床濾過によるクリーンカラーPETフレークの精製/脱色)
クリーンカラーPETフレークを、一晩転がす(roll)ことによってHFIPAに溶解させた。この溶液を炭素床(carbon bed)に通して色を除去し、次に、ロータリーエバポレータで回転するフラスコの壁面に対して噴霧乾燥して溶媒を除去した。得られたPETフィルムを図7に示す。
【0037】
(実施例5:純HFIPAを使用した場合と、30/70 HFIPA/DCMを使用した場合の、クリーンカラーPETフレークおよびDCM前処理済みクリーンカラーPETフレークの溶解)
クリーンカラーPETフレークおよび実施例2のDCM前処理済みクリーンカラーPETフレークを、それぞれ別個にDCM/HFIPA 70/30と、純HFIPAとに溶解させた。すべての溶解は室温で、ローラー上で実施した。図8Aに、溶媒を添加する前のPETフレークを示す。右側の2本のバイアルは、DCMのみで前処理して精製および色の大部分の除去を行い、乾燥は行っていない(右側の2本のバイアルはそれぞれ「POST H+DCM」および「POST HFIPA」と表記している)。左側の2本のバイアルは、未処理フレークである(左側の2本のバイアルはそれぞれ「Pre H+DCM」および「Pre HFIPA」と表記している)。1本目と3本目のバイアルは、30/70 HFIPA/DCMで処理し、2本目と4本目のバイアルは、純HFIPAで処理した。30/70 HFIPA/DCM溶液および純HFIPA溶液における溶解を、それぞれ15分、30分、45分の時点で測定した。図8Bに、溶媒添加から15分後のPET試料を示す。HFIPAのみを溶媒として用いた2本目と4本目のバイアルでは、かなりの量の未溶解PETが表面に浮いているのが分かる。これに対して、1本目のバイアルのPETはほぼ完全に溶解し、3本目のバイアルのPETは完全に溶解したことから、非溶媒であるDCMがDCM/HFIPA混合物中のPETの溶解速度を驚くほど向上させたことが分かる。さらに、3本目のバイアルのDCM前処理されたPETがより速く溶解していることは、DCM前処理で残ったこのPETに存在する残留DCMにメリットがあることを示している。図8Cに、溶媒添加から45分後のPET試料を示す。HFIPA溶媒では、さらに30分かけても、2本目と4本目のバイアルに示すように、PETの完全溶解には至らず、未溶解のPETフレークが溶液の上部に浮いている。これに対して、1本目と3本目のバイアル内のPETフレークは、45分経過する前に完全に溶解した。温度を上げると、すべての溶解速度が上昇した。
【0038】
(実施例6:汚染混合(DM)、クリーンカラー(CC)、およびDCM前処理済みクリーンカラー(PCC)PETフレークのHFIPAによる精製/脱色)
カーブサイド汚染混合(DM)、クリーンカラー(CC)およびDCM前処理済みクリーンカラー(PCC)PETフレークの各8gを、室温で磁気撹拌しながら80mLのHFIPAに溶解させることによって、HFIPAに溶解したPET(10%w/v)の各溶液を調製した。PCCフレーク試料は、8gのCCフレークを40mLのDCM中で一晩転がしてから濾過することにより調製した。HFIPAに加えて溶解させる前に、この試料から残留DCMを除去する追加乾燥は行わなかった。図9(A)に、HFIPAに溶解した3つのPETフレーク試料を示す。PET部分が溶解した後のDMフレーク調製物には、未溶解の不純物ポリマー製品(主にポリオレフィン)、汚れ、およびアルミニウムフィルムが存在していた(図9(A)、左の瓶)。DCMで脱色したPCCフレーク試料(図9(A)、右の瓶)は、未処理のCCフレークから得られた試料(図9(A)、中央の瓶)よりもはるかに明るい色を有していた。図9(A)のPET-HFIPA溶液のそれぞれに1.6gの活性炭を加えて2時間撹拌し、珪藻土の床で濾過して基本的に無色のHFIPA溶液を得た(図9(B))。
【0039】
(実施例7:精製/脱色した汚染混合(DM)、クリーンカラー(CC)、および前処理済みクリーンカラー(PCC)PETフレークからのポリマー回収)
実施例6で得られた溶液から、2つの異なるプロセスによって精製PET生成物を回収した。第1のプロセスでは、各試料からの溶液の大部分を、真空下でロータリーエバポレータ上の回転フラスコの壁面に対して噴霧乾燥し、得られたフィルムをフラスコ内部から剥離した。溶媒は、再利用のためにドライアイス/IPAトラップで回収した。第2のプロセスでは、旋回後に三角フラスコの壁面に付着したやや粘性の高い溶液の部分からポリマーを沈殿(precipitate)させ、スクイズボトルから噴出したアセトンで洗浄した。このプロセスにより、フラスコの壁面に製品PETのフィルムが堆積し、これを除去して65℃の真空オーブンで乾燥させた。図10に、DMおよびCC PETフレークの投入試料と、DMおよびCC PETフレークならびにDMCで前処理したCCフレーク(PCCフレーク)の噴霧乾燥試料と、沈殿したDM、CC、およびPCC PETフレークとを示す。
【0040】
(実施例8:クリーンカラー(CC)およびDCM前処理済みクリーンカラー(PCC)PETフレークの70/30 HFIPA/DCM中での精製/脱色)
実施例2のCC PETフレーク20gおよびDCM PCC PETフレーク20gをそれぞれ、室温で磁気撹拌しながら、186.2gのDCMおよび96.0gのHFIPAに溶解させた。DCM洗浄液から回収したPCCフレークは、DCM/HFIPA添加前に追加の蒸発を行うことなく使用した。得られた2つの溶液をそれぞれ4つの部分に分け、それぞれの一部を、PETに対して1%、2%、5%の充填量(loading)の活性炭(JT Baker USP Grade JT1560-1, Avantor, Inc. Radnor, PA, USA)で撹拌処理し、一部分を参照として使用した。30分後、溶液を珪藻土(CELPURE(登録商標) P300, Imerys Filtration Materials, Inc. Roswell, GA, USA)の短床(short bed)で加圧濾過し、次いで1.0μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シリンジフィルタ膜(ACRODISK(登録商標) CR, Pall Corporation, Port Washington, NY, USA)で濾過した。図11(上)に、CC PETフレークの未濾過溶液と、0%、1%、2%、および5%の活性炭(AC)を含むCC PETフレークの濾過溶液とを示す。図11(下)に、PCC PETフレークの未濾過溶液と、0%、2%、および5%のACを含むPCC PETフレークの濾過溶液とを示す。図12に、CC PETフレークおよびPCC PETフレークの0%、1%、2%、5%AC濾過溶液を、1.0μmのPTFEフィルタ膜で二次濾過したものを示す。各試料の溶液色を、HunterVista測色計(Hunter Associates Laboratory, Inc. Reston, VA, USA)で測定した。表3に、各溶液のCIEカラー測定値を示す。表3のデータおよび図12の各溶液の外観から、PETフレークをDCM/HFIPA混合物に溶解させる前にDCMで前処理した場合に著しい色の減少が起こり、最小量の活性炭(1%)の処理でさらに色の減少が起こることが分かる。色の減少は、L*が90から98に増加し(白の増加)、a*が-4.73から-0.31に(赤の減少)、b*が37.1から4.01に(黄色の減少)低下していることから分かる。このように、2つの色除去工程は相補的であり、それぞれが生成物の光学品質の全体的な向上に寄与していることが分かった。
【0041】
【表3】
【0042】
(実施例9:精製/脱色したクリーンカラー(CC)および前処理済みクリーンカラー(PCC)PETフレークからのポリマー回収)
実施例8で得られた溶液を、40℃の真空下でロータリーエバポレータ上の回転フラスコの壁面に対して噴霧乾燥し、得られたフィルムをフラスコ内部から掻き取ることにより、精製PET生成物を回収した。DCMとHFIPAは、再利用のためにドライアイス/IPAトラップで回収した。フィルムは、65℃の真空オーブンで乾燥させた。図13に、得られた4枚のPETフィルムの写真を、それぞれのCIEカラー測定値とともに示す。図の上段に、CC PETフレーク(DCMによる前処理なし)から得られた2枚のフィルムを示し、下段に、PCCフレーク(DCMによる前処理あり)から得られた2枚のフィルムを示す。左側のフィルムは、活性炭による脱色を行わずに溶液から回収したPETであり、右側の試料は、5%の活性炭による脱色後に溶液から回収したPETである。上段に示すフィルムは、下段のフィルムにはない濃い茶色い色調を有しており、下段のフィルムは上段のフィルムに対して光学品質が向上していることが分かる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2023-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0034
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0034】
【表2】
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5
【国際調査報告】