(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ポリエステル-綿生地もしくは繊維またはその両方から綿を回収するためのリサイクルプロセス
(51)【国際特許分類】
B29B 17/02 20060101AFI20231206BHJP
C08J 11/24 20060101ALI20231206BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20231206BHJP
C07C 67/03 20060101ALI20231206BHJP
C07C 69/80 20060101ALI20231206BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231206BHJP
B29K 1/00 20060101ALN20231206BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
B29B17/02
C08J11/24
C07C67/08
C07C67/03
C07C69/80 B
C07B61/00 300
B29K1:00
B29K67:00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530885
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 IB2021060971
(87)【国際公開番号】W WO2022118148
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(74)【復代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100118108
【氏名又は名称】久保 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ブレイタ、グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】アレン、ロバート、デヴィッド
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4F401AA02
4F401AA22
4F401AA24
4F401AD20
4F401BA06
4F401BA13
4F401CA02
4F401CA03
4F401CA33
4F401CA67
4F401CA68
4F401CA75
4F401EA60
4F401EA67
4F401EA77
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC91
4H006BJ50
4H006BN10
4H006KA03
4H039CA66
4H039CE10
(57)【要約】
ポリエステルおよび綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方およびアルコール溶媒と反応させることによって、ポリエステルフリー綿を得る。この反応は、バッチで実行してもよいし、連続フロープロセスとして実行してもよく、(i)反応の固体不活性副生成物としてのポリエステルフリー綿、(ii)再利用のためのアミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方、(iii)ポリエステルモノマー生成物、および(iv)未反応アルコールを回収する。この反応は、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、アセテート、ビスコース、モダール、アクリル、ウール、およびその組み合わせなどの少なくとも1つの追加素材を有するものを含む、あらゆるポリエステル-綿生地もしくは繊維またはその両方に適用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルおよび綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方およびアルコール溶媒と反応させることと、
(i)前記反応の固体不活性副生成物としてのポリエステルフリー綿、(ii)再利用のための前記アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方、(iii)ポリエステルモノマー生成物、および(iv)未反応アルコール溶媒を回収することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記生地もしくは繊維またはその両方は、リサイクルもしくは再利用またはその両方のために前記反応から回収される少なくとも1つの追加成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの追加成分は、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、アセテート、ビスコース、モダール、アクリル、ウール、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方のアミンは3級アミンであり、前記アルコール溶媒はグリコールもしくはジオールまたはその両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方はトリエチルアミンもしくはそのカルボン酸塩またはその両方であり、前記アルコール溶媒はグリコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリエステルはテレフタレートを含み、前記ポリエステルモノマー生成物はテレフタレートエステルモノマー生成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記生地もしくは繊維またはその両方は、前記アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方および前記アルコール溶媒との反応前に、脱色もしくは精製またはその両方が行われる着色生地もしくは繊維またはその両方である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリエステルフリー綿は、前記ポリエステルモノマー生成物を含まないように洗浄され、乾燥され、リサイクルされる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリエステルフリー綿は、アルコール、アセトン、水、およびその組み合わせからなる群から選択される液体で洗浄される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリエステルモノマー生成物は前記未反応アルコール溶媒に溶解され、回収した前記ポリエステルフリー綿から分離され、当該未反応アルコールから回収され、ポリエステル生成物にリサイクルされる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記方法はバッチで実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は連続フロープロセスとして実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
回収したアミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方、および/または、前記未反応アルコールをその後の反応に適用して、ポリエステルおよび綿を含む追加の生地もしくは繊維またはその両方をリサイクルすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ポリエチレンテレフタレート(PET)および綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、トリエチルアミン(TEA)もしくはそのカルボン酸塩またはその両方およびエチレングリコール(EG)と反応させることと、
(i)前記反応の固体不活性副生成物としてのPETフリー綿、(ii)再利用のための前記TEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方、(iii)ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、および(iv)未反応EGを回収することと、
を含む、方法。
【請求項15】
回収した前記PETフリー綿は、前記BHETを含まないように洗浄され、乾燥され、リサイクルされる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記生地もしくは繊維またはその両方は、前記TEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方および前記アルコール溶媒との反応前に、脱色もしくは精製またはその両方が行われる着色生地もしくは繊維またはその両方である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記BHETは前記未反応EGに溶解され、前記PETフリー綿から分離され、当該未反応EGから回収され、PET生成物にリサイクルされる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記方法はバッチで実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記方法は連続フロープロセスとして実行される、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
回収した前記TEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方、および/または、前記未反応EGをその後の反応に適用して、PETおよび綿を含む追加の生地もしくは繊維またはその両方をリサイクルすることをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
ポリエチレンテレフタレート(PET)および綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、連続フロープロセスにおいてトリエチルアミン(TEA)およびエチレングリコール(EG)と反応させることであって、当該TEAおよびEGが当該生地もしくは繊維またはその両方中の当該PETを解重合する、ことと、
(i)前記反応の固体不活性副生成物としてのPETフリー綿、(ii)ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、(iii)前記トリエチルアミン(TEA)、および(iv)未反応EGを回収することであって、当該TEAもしくは当該未反応EGまたはその両方は、新たに導入される生地もしくは繊維またはその両方を継続的に解重合するために前記連続フロープロセスにおいて再利用される、ことと、
を含む、方法。
【請求項22】
前記PETフリー綿は、前記BHETを含まないように洗浄され、乾燥され、リサイクルされる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記生地もしくは繊維またはその両方は、前記TEAおよび前記EGとの反応前に、脱色もしくは精製またはその両方が行われる着色生地もしくは繊維またはその両方である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記BHETは前記EGに溶解され、前記PETフリー綿から分離され、当該EGから回収され、PET生成物にリサイクルされる、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にリサイクルプロセスに関し、より具体的には、ポリエステル-綿生地もしくは繊維またはその両方から綿を回収するための解重合プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーのリサイクルは、他の材料による汚染を許容しないというポリマーの性質上、困難である。異物、異種ポリマー、染料、顔料、汚れなどは、一般的なリサイクルプロセス中に特性(機械的特性、光学的特性、バリア特性など)の重大な劣化を引き起こす原因となる。メカニカルリサイクルもケミカルリサイクルも、低品質のプラスチック廃棄物からのそれぞれ別の課題に直面しており、織物(繊維および生地)についてはさらに複雑である。衣料品産業は、「ファストファッション(fast fashion)」と相まって、世界の人口増加に伴う衣料品の生産において、非常に収益性の高いビジネスを実現してきた。実際、繊維や生地には、食品や飲料のパッケージよりも多くのポリエステルが使用されているが、これらは現在、事実上リサイクルが行われていない。繊維のリサイクルを難しくしているのは、衣料品には「混紡素材(blends)」が圧倒的に多く使用されていることである。最も一般的なのは、綿とポリエステルの混紡である。ポリブレンド(polyblend)生地とは、ポリエステルと綿が50/50、あるいはより一般的には65/35(ポリエステルが優勢な繊維)で混紡された生地を指す。ポリブレンド生地からポリエステルを化学的にリサイクルする試みとして、ポリブレンド生地からポリエステル成分を消化もしくは溶解またはその両方を行う方法があるが、どちらの方法を行っても、綿は使用できないものになる。ポリエステル分解では、ポリエステルのリサイクルに強い(harsh)触媒(例えば、アルカリ金属水酸化物塩基)を使用すると、綿が分解され、綿生地は回収しても使用できなくなる可能性がある。ポリエステル溶解では、ポリエステルの残渣が綿の表面に残ってしまい、再利用に許容できるものではなくなる。
【発明の概要】
【0003】
一態様において、本発明は、ポリエステルおよび綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方およびアルコール溶媒と反応させることと、(i)前記反応の固体不活性副生成物としてのポリエステルフリー綿、(ii)再利用のための前記アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方、(iii)ポリエステルモノマー生成物、および(iv)未反応アルコール溶媒を回収することと、を含む、方法に関する。
【0004】
別の態様において、本発明は、ポリエチレンテレフタレート(PET)および綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、トリエチルアミン(TEA)もしくはそのカルボン酸塩またはその両方およびエチレングリコール(EG)と反応させることと、(i)前記反応の固体不活性副生成物としてのPETフリー綿、(ii)再利用のための前記TEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方、(iii)ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)、および(iv)未反応EGを回収することと、を含む、方法に関する。
【0005】
さらなる態様において、本発明は、PETおよび綿を含む生地もしくは繊維またはその両方を、連続フロープロセスにおいてTEAおよびエチレングリコールEGと反応させることであって、当該TEAおよびEGが当該生地もしくは繊維またはその両方中の当該PETを解重合する、ことと、(i)前記反応の固体不活性副生成物としてのPETフリー綿、(ii)BHET、(iii)前記TEA、および(iv)未反応EGを回収することであって、当該TEAもしくは当該未反応EGまたはその両方は、新たに導入される生地もしくは繊維またはその両方を継続的に解重合するために前記連続フロープロセスにおいて再利用される、ことと、を含む、方法に関する。
【0006】
本発明の追加の態様もしくは実施形態またはその両方を、以下に記載する本発明の詳細な説明において、限定を目的とせずに提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】~2.4/97.6綿/ポリエステルの反毛白色繊維の試料をVolCat(揮発性触媒)解重合して、白色ポリエステルフリー綿生成物および結晶化ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)を生成した結果を示す写真である(実施例1)。
【
図2A】
図1(実施例1)に示した繊維のポリエステル部分を解重合して得られた結晶化BHETモノマー生成物のHPLC分析結果である。
【
図2B】
図1(実施例1)に示した繊維のポリエステル部分を解重合して得られた結晶化BHETモノマー生成物のH-NMR分析結果である。
【
図3】黒色50/50綿/ポリエステル生地試料をVolCat解重合して、中性色ポリエステルフリー綿生成物および結晶化BHETを生成した結果を示す写真である(実施例2)。
【
図4】白色52/48綿/ポリエステル糸試料をVolCat解重合して、白色ポリエステルフリー綿生成物および結晶化BHETを生成した結果を示す写真である(実施例3)。
【
図5】灰色52/48綿/ポリエステル生地試料をVolCat解重合して、明るい中性色のポリエステルフリー生成物および結晶化BHETを生成した結果を示す写真である(実施例4)。
【
図6】VolCat解重合(実施例3)の前後で、白色52/48綿/ポリエステル糸試料から採取した個々の綿繊維について繊維強度試験を行った結果を示すグラフである。
【
図7】VolCat解重合(実施例3)の前後の白色52/48綿/ポリエステル繊維の糸の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、特許請求される発明の好ましい態様もしくは実施形態またはその両方であると現在考えられるものについて説明する。機能、目的、または構造におけるいかなる代替形態または変更も、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈上そうではないことが明らかでない限り、複数の指示対象を含む。本明細書および添付の特許請求の範囲において、用語「含む(comprise)」、「構成される(comprised)」、「含む(comprises)」、もしくは「含んでいる(comprising)」またはその組み合わせが使用される場合、明示的に記載された構成要素、要素、特徴、もしくはステップまたはその組み合わせが存在することを規定するが、1つ以上の構成要素、要素、特徴、もしくはステップまたはその組み合わせが存在したり、追加されたりすることを排除するものではない。
【0009】
本明細書において、「生地(fabric)」という用語は、その従来の意味で使用され、繊維を編む、織る、またはフェルト化することによって製造される布、織物、またはパイルを指す。
【0010】
本明細書において、「繊維(fiber)」という用語は、天然または合成のより糸、フィラメント、または糸を指す。
【0011】
本明細書において、「ポリエステル-綿(polyester-cotton)」という用語は、ポリエステルおよび綿を特定の割合に限定されず有し、別の非綿材料を含んでもよい生地もしくは繊維またはその両方を指す。ポリエステル-綿生地もしくは繊維またはその両方に含まれ得る非綿材料の例としては、特に限定されないが、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、アセテート、ビスコース、モダール、アクリル、ウールおよびその組合せが挙げられる。
【0012】
本明細書では、ポリエステル-綿生地に適用した場合に、少なくとも2つの生成物流(product stream)、すなわち、高品質リサイクル綿およびポリエステルモノマーを生成する揮発性触媒(VolCat)プロセスについて説明する。ここで、ポリエステルモノマーは、その後の新しいポリエステル材料(ボトル用品質または織物用品質のいずれか)の製造に使用することができる。VolCatは、投入されたポリエステル成分を解重合する一方で、投入されたポリエステル原料(feedstock)に含まれる他の成分をそのままの状態で回収する、穏やかで選択性の高いプロセスである。
【0013】
VolCatケミカルリサイクルプロセスは、米国特許第9,255,194号(Allenら)および米国特許第9,914,816号(Allenら)に記載されている。一実施形態では、VolCatプロセスは、アルコール溶媒の沸点以上の温度にて反応器内で、ポリエステルを、アルコール溶媒およびアミン有機触媒(amine organocatalyst)もしくはそのカルボン酸塩またはその両方で解重合(depolymerize)する。別の実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方は、アルコールの沸点よりも少なくとも50℃低い沸点を有し、解重合は、アルコール溶媒の沸点よりも高い温度で実行される。さらなる実施形態では、有機触媒は、アルコール溶媒の沸点よりも少なくとも50℃低い沸点を有し、解重合は、有機触媒の沸点よりも高い温度で実行される。別の実施形態では、ポリエステル投入物およびアルコール溶媒が、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方の導入前に約200~250℃の反応温度まで加熱される。VolCat解重合からの反応生成物(Reaction products)は、ポリエステルからの単量体ジエステル(monomeric diesters)もしくはオリゴマージエステル(oligomeric diesters)またはその両方、ならびに、回収した有機触媒および過剰なアルコール溶媒であり、このうちの前者は再生ポリエステル製品への再利用を目的とし、後者は以後の解重合反応に再利用することもできる。
【0014】
別の実施形態では、VolCat反応は、化学反応器内で行われる。化学反応器は、オートクレーブ(autoclave)や押出反応器(extrusion reactor)などの圧力反応器であってもよいし、丸底フラスコなどの非加圧反応器であってもよい。さらなる実施形態では、解重合反応(加圧または非加圧で行われてもよい)、およびモノマー生成物の1つ以上の任意の精製工程は、バッチで実施されてもよいし、連続フロープロセスで実施されてもよいし、その両方で実施されてもよい。別の実施形態では、モノマー生成物の溶解度が限定された溶媒を使用して、解重合されたポリエステルモノマー生成物(バッチプロセスで得られたものであるか、連続フローで得られたものであるかを問わず)を精製してもよい。このような精製溶媒の非限定的な例としては、アルコールもしくは水またはその両方が挙げられる。精製にアルコールを使用する場合、アルコールは、解重合反応からの未反応アルコールであってもよいし、新たに導入された清浄アルコールであってもよい。さらなる実施形態では、VolCat反応から得られた回収モノマー生成物を使用して、新たなポリマー材料を製造してもよい。
【0015】
別の実施形態では、ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTI)、ポリエチレンフラノアート(PEF)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、アルコール溶媒は、グリコール溶媒もしくはジオール溶媒またはその両方である。別の実施形態では、アルコール溶媒は、1,2-エタンジオール(エチレングリコール、EG)、1,3-プロパンジオール(トリメチレングリコール)、1,4-ブタンジオール(テトラメチレングリコール)、1,5-ペンタンジオール(ペンチレングリコール)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方のアミンは、3級アミンである。別の実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方は、トリエチルアミン(TEA)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリメチルトリアザシクロノナン(TACN)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、N-メチルイミダゾール(NMI)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。さらなる実施形態では、アミン有機触媒もしくはそのカルボン酸塩またはその両方は、TEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方である。
【0016】
一実施形態では、ポリエステル投入物はテレフタレートを含み、回収した解重合反応生成物はテレフタレートエステルモノマーを含む。別の実施形態では、ポリエステル投入物はPETを含み、回収したポリエステルモノマー生成物は、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート(BHET)である。さらなる実施形態では、ポリエステル投入物はPETを含み、アルコールはEGであり、アミン有機触媒はTEAもしくはそのカルボン酸塩またはその両方であり、回収した反応生成物は未反応EG、TEA、およびBHETを含む。
【0017】
VolCatプロセスをポリエステル-綿の混合物を含む生地もしくは繊維またはその両方に使用すると、生地中のポリエステルの解重合から得られるモノマー(例えば、PETからのBHET)に加えて、使用可能なリサイクル綿(recycled cotton)を生成することができる。解重合されたポリエステル投入物(input)は、新しいポリマー材料の製造に使用することができる。織物生地は大きな表面積を有しているため、VolCat解重合反応は迅速かつ完全に進行する。反応終了後、生地もしくは繊維またはその両方中のポリエステルモノマーは溶媒に溶解し、綿素材はポリエステル成分から解放され、反応の副生成物としてポリエステルを含まない(ポリエステルフリー/polyester-free)固体不活性(solid inert)綿が生成される。
【0018】
一実施形態では、回収した綿生成物は、VolCatプロセスの完了後に回収した綿生成物上に残っている残留モノマーを洗い流すことによって精製される。精製は、アルコール、アセトン、水、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される液体を用いて実施してもよい。精製にアルコールを使用する場合、アルコールは、解重合反応からの未反応アルコールであってもよいし、新たに導入した清浄なアルコールであってもよい。洗浄した綿は、乾燥させて再利用してもよい。回収した精製綿の顕微鏡写真分析から、回収した綿の構造は損傷しておらず、不純物もなく、ポリエステルも含まないので、有用かつ価値の高い反応生成物であることが分かる(
図6および
図7)。
【0019】
VolCatプロセスは、強い化学物質や漂白を使用することなく、着色したポリエステル-綿生地もしくは繊維またはその両方を、再利用可能な中性色(neutral)もしくは白色またはその両方のポリエステルフリー綿にリサイクルすることができる。VolCatプロセスは生地もしくは繊維またはその両方から色を除去するが、VolCat解重合反応の開始前に脱色もしくは精製またはその両方を行うと、反応完了時に、より高品質のリサイクル生地を生成することができる。ポリエステル-綿生地もしくは繊維またはその両方が綿以外の素材を含んでいる場合、VolCatプロセスは、この非綿素材が非ポリエステル系の場合、非綿素材を完全に回収することもできる。VolCatプロセスから回収可能な非ポリエステル/非綿素材の例としては、特に限定されないが、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ナイロン、レーヨン、アセテート、ビスコース、モダール、アクリル、ウール、およびその組み合わせが挙げられる。
【0020】
以下の説明では、綿とPETを含む生地もしくは繊維またはその両方の解重合およびBHETの回収について言及するが、以下の説明は例示に過ぎず、本発明を限定するものでない。本明細書に記載の解重合方法は、綿と、他の非綿素材もしくは他のポリエステルまたはその両方とを含む生地もしくは繊維またはその両方に対して使用してもよい。
【0021】
図1の写真は、~2.4/97.6綿/ポリエステルの反毛(garnetted)白色繊維にVolCatプロセスを適用すると、PETが完全に解重合され、白色ポリエステルフリー綿繊維生成物が回収され、かつ、結晶化BHETモノマーが得られることを示したものである(実施例1)。
【0022】
図2Aおよび
図2Bのグラフは、実施例1の生地のポリエステル部分を解重合して得られたBHETモノマー生成物のHPLCおよびH-NMR分析結果をそれぞれ示したものである。HPLCおよびH-NMRの結果には、BHETモノマー生成物およびその少量の二量体(dimer)(<5%M)と、少量の残留EGとが示されている。なお、EGはH-NMRスペクトルに示されている。
【0023】
図3の写真は、50/50綿/ポリエステルの黒色生地にVolCatプロセスを適用すると、PETが完全に解重合され、中性色ポリエステルフリー綿生地生成物が回収され、かつ、結晶化BHETモノマー生成物が得られることを示したものである(実施例2)。
【0024】
図4の写真は、白色52/48綿/ポリエステル糸試料にVolCatプロセスを適用すると、PETが完全に解重合され、白色ポリエステルフリー綿糸生成物が回収され、かつ、結晶化BHETモノマー生成物が得られることを示したものである(実施例3)。
【0025】
図5の写真は、灰色52/48綿/ポリエステル生地試料にVolCatプロセスを適用すると、PETが完全に解重合され、明るい中性色のポリエステルフリー綿生地生成物が回収され、かつ、結晶化BHETモノマー生成物が得られることを示したものである(実施例4)。
【0026】
図6の繊維強度グラフは、VolCat解重合前(上のグラフ)とVolCatプロセスから回収後(下のグラフ)の白色52/48綿/ポリエステル糸試料(実施例3)の個々の綿繊維の破断伸び(elongation-to-break)を示したものである。この前後の繊維強度のグラフから、VolCatプロセスの前後で綿繊維が区別できないことが分かる。したがって、VolCat処理から回収した糸繊維は、リサイクル糸として再利用することができる。
【0027】
図7は、実施例3の白色52/48綿/ポリエステル糸繊維束の500倍顕微鏡写真であり、VolCat解重合前(上)と、VolCat解重合後に残った回収綿繊維(下)とを示したものである。綿繊維の特徴的な旋回形状(convolutions)は、処理前、処理後ともに明らかである。処理前の顕微鏡写真を参照すると、中央上部の挿入写真は、ポリエステル繊維の円筒形を示している。一方、処理後の顕微鏡写真では、ポリエステル繊維は綿から完全に溶解しており、綿繊維の表面にはポリマー残渣がなく、また、処理後の綿繊維にはバルーン化(ballooning)や繊維壁(fiber wall)の損傷などの化学的劣化は認められない。右列の顕微鏡写真を参照すると、処理前および処理後の糸が酸性の青色染料混合物で染色され、綿繊維がポリエステルと区別して可視化されている。処理後の顕微鏡写真における糸は、ポリエステル繊維が存在せず、綿繊維上にポリエステルコーティングが存在せず、回収したポリエステルフリーの綿糸繊維が均一に着色されていることが分かる。
【0028】
本開示の種々の態様もしくは実施形態またはその両方を例示として説明してきたが、網羅的であることや、開示した実施形態に限定することを意図したものではない。当業者には明らかなように、記載した各実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの変更および変形が可能である。本明細書で用いられる用語は、各態様もしくは実施形態またはその両方の原理、実際の用途、または市場で確認される技術に対する技術的な改善を最もよく説明するために、または、他の当業者が本明細書に開示する各態様もしくは実施形態またはその両方を理解できるように選択されたものである。
【0029】
<実施例>
以下の実施例は、本明細書に記載する本発明の態様および実施形態の製造方法および使用方法についての完全な開示を当業者に提供するために記載されるものである。量や温度などの変数に関して正確性を確保するための努力がなされているが、実験誤差および偏差も考慮すべきである。別段の記載がない限り、部は重量部、温度は摂氏温度である。以下の実施例において、密閉した反応器内で記載成分を加熱し昇温させた後に圧力を測定した。このような圧力測定値は、通常(必ずしもそうではないが)50psigの範囲である。すべての成分は、別段の記載がない限り、商業的に入手したものである。
【0030】
(実施例1:反毛白色の~2.4/97.6綿/ポリエステル繊維試料からの綿の回収)
図1を参照すると、25gの反毛白色の~2.4/97.6綿/ポリエステル繊維を126gのEGおよび0.7gのTEAと混合し、450mLのガラス製Parr反応器に封入し、220~230℃に1時間加熱して反応を確実に完了させた。その後、反応物を90℃に冷却し、濾過して綿を回収し、溶液(146g)を冷却させた。冷却後、形成されたBHET結晶を液体から真空濾過し、まず歯科用ダム(dental dam)を用いて結晶床(crystal bed)を圧縮し、次に水で洗浄してから65℃の真空オーブンで乾燥させた。綿をアセトンで洗浄し、追加のBHETを回収し、乾燥させた。乾燥後、2.4gの追加のBHETと0.6g(2.4%)の綿を回収した。合計26.8g(81.1%)のBHETを回収し、83.5gの母液(EGと残りのBHET)も回収した。生地のポリエステル部分の解重合から得られたBHETモノマー生成物に対するHPLCおよびH-NMR分析結果を、
図2A(HPLC)および
図2B(H-NMR)に示す。
【0031】
(実施例2:黒色50/50綿/ポリエステル生地試料からの綿回収)
図3を参照すると、50gの黒色50/50綿/ポリエステル生地を、およそ1~2インチの破片に切断した。この生地を250gのEGおよび1.2gのTEAと混合し、450mLのガラス製Parr反応器に封入し、220~230℃に1時間加熱して反応を確実に完了させた。その後、反応物を90℃に冷却し、濾過して綿を回収し、溶液を10gの活性炭で30分間処理してから珪藻土の小床で濾過し、その後冷却させた。冷却後、形成されたBHET結晶を母液から真空濾過し、まず歯科用ダムを用いて結晶床を圧縮し、次に水で洗浄してから65℃の真空オーブンで乾燥させた。回収した綿生地をアセトンで洗浄し、次に水で洗浄して追加のBHETを回収し、乾燥させた。BHETと綿を回収し、母液(EGと残りのBHET)も回収した。
【0032】
(実施例3:白色52/48綿/ポリエステル糸試料からの綿回収)
図4を参照すると、25gの白色52/48綿/ポリエステル糸を約2.5インチの長さに切断し、250gのEGおよび2.6gのTEAと混合し、450mLのガラス製Parr反応器に封入し、220℃に1時間加熱して反応を確実に完了させた。その後、反応物を90℃に冷却し、濾過して綿を回収し、溶液を冷却させた。冷却後、形成されたBHET結晶を母液から真空濾過し、まず歯科用ダムを用いて結晶床を圧縮し、次に水で洗浄してから65℃の真空オーブンで乾燥させた。回収した綿繊維をアセトンで洗浄し、次に水で洗浄して追加のBHETを回収し、乾燥させた。BHETと11.8gの綿を回収し、母液(EGと残りのBHET)も回収した。
図6に、破断伸び繊維強度試験の結果を示す。
図7に、解重合反応前の綿/ポリエステル糸繊維(上)と、解重合反応終了後のポリエステルフリー綿糸繊維(下)の顕微鏡写真画像を示す。
【0033】
(実施例4:灰色52/48綿/ポリエステル生地試料からの綿回収)
図5を参照すると、50gの灰色52/48綿/ポリエステル生地を2.5インチ幅のストリップに切断し、450mLのガラス製Parr反応器の攪拌シャフトに巻き付けた。250gのEGと2.6gのTEAを、攪拌シャフトと生地を下げた反応器に添加した。反応器を密閉し、220℃に1時間加熱して反応を確実に完了させた。その後、反応器の内容物を90℃に冷却し、生地を絞って、吸収した液体の大部分を除去した。冷却後、BHET結晶を液体から濾過し、少量の冷エチレングリコールで洗浄し、次に水で洗浄し、吸引乾燥した。回収した綿を脱イオン水(DI water)ですすぎ、まず歯科用ダムを用いて綿を圧縮して余分な水分を除去した後、フィルタ漏斗(filter funnel)を通して一晩真空乾燥させた。回収したBHET生成結晶および生地を、65℃の真空オーブンでさらに4時間乾燥させた。BHETと25.6gの綿を回収し、母液(EGと残りのBHET)も回収した。
【国際調査報告】