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特表2023-551811養子免疫療法のための改変されたT細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】養子免疫療法のための改変されたT細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0783 20100101AFI20231206BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231206BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231206BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20231206BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
A61P35/00
A61K35/17
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530946
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 IB2021061168
(87)【国際公開番号】W WO2022123394
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/134641
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】21152684.3
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523189129
【氏名又は名称】グイジョウ シノルダ バイオテクノロジー カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ,ハン
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジンリン
(72)【発明者】
【氏名】フ,ピンシェン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団であって、T細胞ががんを有する対象におけるセンチネルリンパ節に由来する、T細胞の集団に関する。また、本発明は、そのようなT細胞を取得するための方法、ならびに治療におけるそれらの使用、およびそのようなT細胞を含む医薬組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団を取得するための方法であって、
S1. 対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節を特定する工程と;
S2. 特定された前記リンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された前記細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された前記細胞を増幅する工程と
を含む方法。
【請求項2】
SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団を取得するための方法であって、
S1. 対象から除去したT細胞含有リンパ節組織を提供する工程であって、前記リンパ節組織が前記対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節として特定されるリンパ節から取得される、工程と;
S2. 特定された前記リンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された前記細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された前記細胞を増幅する工程と
を含む方法。
【請求項3】
SIGLEC15の前記発現が、siRNAトランスフェクション、shRNAトランスフェクションまたはCRISPR媒介性遺伝子編集による、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
SIGLEC15の前記発現が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有するsiRNA分子を使用するsiRNAトランスフェクションによる、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
T細胞増幅を支持する前記条件が、インターロイキン-2の存在下での前記細胞の維持を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
医薬における使用のための、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団。
【請求項7】
がんの処置のための方法における使用のための、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法により取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団。
【請求項8】
前記がんが、固形腫瘍である、請求項7に記載の使用のためのT細胞の集団。
【請求項9】
前記がんが、前記T細胞が由来する対象の前記がん性腫瘍、またはその転移である、請求項7または8に記載の使用のためのT細胞の集団。
【請求項10】
前記がんが、結腸直腸がん、悪性黒色腫、子宮頸癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)の群から選択される、請求項7~9のいずれか一項に記載の使用のためのT細胞の集団。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団、ならびに任意選択により薬学的に許容される賦形剤およびまたは担体を含む医薬組成物。
【請求項12】
対象におけるがん性腫瘍の処置のための方法であって、
S1. 前記対象において前記がん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節を特定する工程と;
S2. 特定された前記リンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された前記細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された前記細胞を増幅する工程と;
S5. SIGLEC15の発現が低減されている増幅されたT細胞を投与する工程と
を含む方法。
【請求項13】
SIGLEC15の前記発現が、siRNAトランスフェクション、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有するsiRNA分子を使用することによるsiRNAトランスフェクション;shRNAトランスフェクション;またはCRISPR媒介性遺伝子編集による、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
請求項12~14のいずれか一項に記載の方法における使用のための医薬組成物の調製における、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療処置の分野に関する。特に、本発明は、それを必要とする患者への自家細胞の投与に基づくがん治療、そのような治療において有用な細胞、およびそのような細胞を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍流入領域センチネルリンパ節から単離された、自己の、インビトロで(in vitro)増幅されたリンパ球を使用する養子免疫療法は、当該技術分野において公知である(1)。また、自家腫瘍反応性リンパ球の収集および増幅、ならびに患者への返血を含む養子免疫療法は、悪性黒色腫において探索されている(2)。
【0003】
WO2018/234516は、堅固に会合された1つまたは複数の腫瘍ネオ抗原構築物を有する、貪食可能な粒子と共に、抗腫瘍T細胞を増幅するための方法を教示している。
【0004】
自己または同種T細胞ががんを有する患者に注入される、養子T細胞移行治療は、最近、かなり有望であることが示されている(3)。
【0005】
シグレック(Siglec)は、シアル酸付加グリカンを認識する脊椎動物細胞表面受容体である。SIGLEC15は、(i)2つの免疫グロブリン(Ig)様ドメイン、(ii)リジン残基を含有する膜貫通ドメイン、および(iii)短い細胞質尾部からなるI型膜貫通タンパク質である。SIGLEC15は、ヒト膵臓およびリンパ節のマクロファージおよび/または樹状細胞上で発現する(4)。SIGLEC15メッセンジャーRNA発現は、ほとんどの正常ヒト組織および様々な免疫細胞サブセットにおいて最小限であるが、マクロファージにおいて見出すことができ、M2マクロファージにおいて最も多く見出すことができる(4)。SIGLEC15は、破骨細胞分化を調節することができるだけでなく、T細胞応答を抑制する(5)。
【0006】
US2019/202912では、がん治療においてSIGLEC15に結合する抗体を使用することが示唆されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは驚くべきことに、センチネルリンパ節に由来するT細胞におけるSIGLEC15のダウンレギュレーションが、がん由来免疫抑制因子によってもたらされた免疫低下(immune compromise)を軽減し、したがって腫瘍の浸潤および転移する能力を軽減することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様において、本発明は、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団を取得するための方法であって、
S1. 対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節を特定する工程と;
S2. 特定されたリンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された細胞を増幅する工程と
を含む方法に関する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団を取得するための方法であって、
S1’. 対象から除去したT細胞含有リンパ節組織を提供する工程であって、前記リンパ節組織が前記対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節として特定されるリンパ節から取得される、工程と;
S2. 特定されたリンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された細胞を増幅する工程と
を含む方法に関する。
【0010】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、siRNAトランスフェクション、shRNAトランスフェクションまたはCRISPR媒介性遺伝子編集による、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている。
【0011】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有するsiRNA分子を使用するsiRNAトランスフェクションによる、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている。
【0012】
一部の実施形態において、T細胞増幅を支持する条件は、インターロイキン-2の存在下での細胞の維持を含む。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、本発明に記載の方法により取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団に関する。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、医薬における使用のための本発明に記載のT細胞の集団に関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、がんの処置のための方法における使用のための本発明に記載のT細胞の集団に関する。
【0016】
一部の実施形態において、がんは、固形腫瘍である。
【0017】
一部の実施形態において、がんは、T細胞が由来する対象のがん性腫瘍、またはその転移である。
【0018】
一部の実施形態において、がんは、結腸直腸がん、悪性黒色腫、子宮頸癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)の群から選択される。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、対象におけるがん性腫瘍の処置のための方法であって、
S1. 前記対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節を特定する工程と;
S2. 特定されたリンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された細胞を増幅する工程と;
S5. SIGLEC15の発現が低減されている増幅されたT細胞を投与する工程と
を含む方法に関する。
【0020】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、siRNAトランスフェクション、shRNAトランスフェクションまたはCRISPR媒介性遺伝子編集による、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている。
【0021】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または配列番号6に記載のヌクレオチド配列を有するsiRNA分子を使用するsiRNAトランスフェクションによる、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減されている。
【0022】
一部の実施形態において、がんは、固形腫瘍である。
【0023】
一部の実施形態において、がんは、T細胞が由来する対象のがん性腫瘍、またはその転移である。
【0024】
一部の実施形態において、がんは、結腸直腸がん、悪性黒色腫、子宮頸癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)の群から選択される。
【0025】
さらなる態様において、本発明は、本発明に記載の処置の方法における使用のための医薬組成物の調製における、本発明に記載のT細胞の集団の使用に関する。
【0026】
さらなる態様において、本発明は、本発明に記載のT細胞の集団、ならびに任意選択により薬学的に許容される賦形剤およびまたは担体を含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に記載のT細胞の集団を取得するための方法を例示するフローチャートを示す図である。
図2】本発明に記載の処置の方法を例示するフローチャートを示す図である。
図3A】センチネルリンパ節および非センチネルリンパ節におけるSIGLEC15の相対的発現を、それぞれ示す図である。
図3B】siRNAノックダウン前後のセンチネルリンパ節におけるSIGLEC15の相対的発現を示す図である。
図4A】様々な細胞種におけるSIGLEC15のタンパク質発現を示す図である。細胞種にわたる、センチネル節(SN)と非センチネル節(NSN)との間の比較を示す。
図4B】様々な細胞種におけるSIGLEC15のタンパク質発現を示す図である。センチネル節(SN)についての細胞種にわたる比較を示す。
図5】SIGLEC15ノックダウン後のT細胞機能性サイトカイン放出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
原発腫瘍からの流入を受容するリンパ節は、有効な抗腫瘍T細胞免疫応答の開始にとって重要である。しかしながら、がん由来免疫抑制性因子は、センチネルリンパ節(SN)免疫を損なわせ、腫瘍が浸潤および転移することを可能にする。
【0029】
本発明者らは、初期臨床段階において腫瘍の広がりを停止させる治療介入策を考案するために、この免疫逃避の根底にある様々な機構を研究した。したがって、本発明は、がん患者、例えば結腸直腸がん患者のリンパ節における転写レベルに対する微小環境調節の理解を利用する。
【0030】
いくつかのサイトカインは、直接的な抗増殖活性もしくはアポトーシス促進活性によって、または腫瘍細胞に対する免疫細胞の細胞傷害活性を刺激することによって間接的に、腫瘍細胞増殖を制限する。インターロイキン-2(IL-2)2は、ナチュラルキラー(NK)細胞およびTリンパ球の増幅を促進することにおいて重要なサイトカインとみなされている。NK細胞およびT細胞は、腫瘍を死滅させる主要なリンパ球サブセットである。腫瘍壊死因子α(TNF-α)は、主に抗腫瘍免疫応答のメディエーターと考えられている。インターフェロンγ(IFN-γ)は、関連する抗増殖機構、アポトーシス促進機構および抗腫瘍機構を伴う多面的な分子である。IFN-γの放出は、例えば、CAR-T細胞製品であるチサゲンレクロイセルの品質評価における重要な効力インジケーターである(6)。
【0031】
腫瘍流入領域リンパ節から単離され、SIGLEC15の発現を低減させるように処置されているT細胞は、上記に説明されるエフェクターサイトカインの放出プロファイルによって評価すると、抗腫瘍効果の改善を有することが見出されている。以下の実験の節において開示されている通り、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞は、サイトカインIL-2、TNF-αおよびIFN-γの放出の増加を示す。
【0032】
本発明は、一部には、がん治療における、SIGLEC15の発現を低減させるように処置されている自己T細胞の使用、および対応する処置の方法に関する。また、本発明は、そのようなT細胞を調製および取得するための方法、そのような方法によって取得されるかまたは取得可能なT細胞、ならびにそのようなT細胞を含む医薬組成物に関する。
【0033】
したがって、第1の態様において、本発明は、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団を取得するための方法であって、
S1. 対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節を特定する工程と;
S2. 特定されたリンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された細胞を増幅する工程と
を含む方法に関する。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、ヒトまたは動物の身体に対して行われる任意の外科的工程を含まない方法であって、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団を取得するためのその方法が、
S1’. 対象から除去したT細胞含有リンパ節組織を提供する工程であって、前記リンパ節組織が前記対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節として特定されるリンパ節から取得される、工程と;
S2. 特定されたリンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された細胞を増幅する工程と
を含む、方法に関する。
【0035】
上記方法は、図1において模式的に示される。
【0036】
リンパ節の、がん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節としての特定は、当該技術分野において公知である通り、例えばDahlおよび共同研究者によって説明される通りに(7)、行われ得る。簡潔に説明すると、検出可能かつ生理学的に許容される染料を腫瘍内または腫瘍周囲に注入する。リンパ液は、染料を注入部位から流入領域リンパ節へ運搬し、そのため、流入領域リンパ節は染料によって染色され、流入領域リンパ節として特定される。例示的な染料はパテントブルー、エバンスブルーおよびAlexa Fluor(登録商標)488染料である。
【0037】
流入領域リンパ節として特定されたリンパ節からの細胞の抽出は、様々な方法において行われ得る。リンパ節全体は、切除によって患者から除去され得る。また、例えば生検を通して、一片のリンパ節組織のみを取得することが可能である。リンパ節組織の抽出された細胞は、当該技術分野において公知である通り(8)、単一細胞懸濁液にされ得る。
【0038】
その後、抽出された細胞におけるSIGLEC15の発現が低減される。
【0039】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、siRNAトランスフェクションによる、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減される。簡潔に説明すると、リンパ節単一細胞の、siRNAによるトランスフェクションが行われ得る。1μmol/LのsiRNAを、Accell siRNAデリバリー媒体(GE Dharmacon)を含む96ウェル組織培養プレートにおいて製造業者の使用説明書に従い72時間トランスフェクトしてもよい。通常、siRNAをトランスフェクトした群およびトランスフェクトしていない群におけるSIGLEC15 mRNA発現を評価するために、RT-PCRを使用する。他のプロトコールは当該技術分野において周知であり(9)、ここでは詳細に説明しない。また、siRNAにより特定の遺伝子の発現をダウンレギュレートするためのプロトコールおよび試薬は、先入観を伴わずに、ThermoFisher Scientific、Sigma-Aldrich、QiagenおよびGE Dharmaconを含むいくつかの会社から市販されている。
【0040】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、短ヘアピンRNA(shRNA)トランスフェクションによる、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減される。そのようなプロトコールは当該技術分野において周知であり(10)、ここでは詳細に説明しない。簡潔に説明すると、SIGLEC15 shRNAを有するpGPU6ベクターを、トランスフェクションキット、例えばShanghai GenePharma Company(Shanghai、中国)からのキットを使用して製造業者の使用説明書に従い、上記の通りに取得されるリンパ節単一細胞にトランスフェクトしてもよい。48時間のインキュベーション後、SIGLEC15発現のノックダウンをRT-PCRにより確認する。また、shRNAにより特定の遺伝子の発現をダウンレギュレートするための他のプロトコールおよび試薬は、先入観を伴わずに、ThermoFisher ScientificおよびSigma-Aldrichを含むいくつかの会社から市販されている。
【0041】
一部の実施形態において、SIGLEC15の発現は、CRISPR媒介性遺伝子編集による、SIGLEC15をコードする遺伝子の発現のダウンレギュレーションによって低減される。CRISPR/Cas9ベクターは、SIGLEC15遺伝子内の選択された特定の部位および領域を標的化するために構築される。sgRNAを、CRISPRdirect(http://crispr.dbcls.jp/)を使用して設計する。sgRNAオリゴマーを合成し、pU6gRNACas9EGFPベクターへクローニングする。リンパ節単一細胞を最初に、6ウェルプレートに播種し、その後、リポフェクタミン2000(ThermoFisher Scientific)を使用して製造業者の使用説明書に従いトランスフェクトする。細胞をさらなる48時間インキュベートした後、SIGLEC15発現のノックアウトを、RT-PCRおよびフローサイトメトリーによって確認した。
【0042】
SIGLEC15の発現を低減させた後、抽出された細胞を、T細胞増幅を支持する条件下においてエクスビボで(ex vivo)培養する。そのためのそのようなプロトコールおよび試薬はそれ自体公知であり、特に、商品名Gibco(商標)CTS(商標)OpTmizer(商標)、CTS AIM V培地およびCTS Immune Cell SR(ThermoFisher Scientific)として、およびStem Cell Technologies Inc.(Cambridge、MA、米国)からTechnical Bulletin 27143番において開示される通り、入手可能である)。また、T細胞の増幅のためのプロトコールは、WO2018234516および中国特許出願第108220234号において開示されている。
【0043】
一般的に、SIGLEC15の発現が低減されている単一細胞の懸濁液を、インターロイキン-2および/または他のサイトカインの存在下で血清非含有細胞培養培地に再懸濁し、フラスコまたはプレートなどの増殖容器へ移す。その後、細胞を、5%のCO高含有雰囲気において37℃にて増幅し、細胞培養中に抗原呈示細胞と共に腫瘍抗原によって再刺激する。
【0044】
以下のプロトコール(8)は、1つの可能なプロトコールとして提供される。SLNから取得された単一細胞懸濁液を、X-VIVO(商標)15血清非含有細胞培養培地(LONZA)中に細胞4×10個/mlの密度において1000IU/mlの組換え体ヒトインターロイキン-2(Shuanglu、中国)の存在下で再懸濁する。これらの細胞を、フラスコまたはプレートに播種し、5%のCOを含有する加湿雰囲気下において37℃にて維持する。自己腫瘍溶解物を、最初の培養物に、以前に説明されるように(1)1/100(v/v)の希釈にて添加する。高腫瘍特異的SLN-T細胞を誘導するために、再刺激を、SLN-T細胞培養中に被照射自己PBMCと共に自己腫瘍溶解物を添加することにより行う。輸血の1週間前に、培養培地5mlを、BACTEC 9120(Becton-Dickinson)を使用する細菌および真菌汚染試験のために除去し、エンドトキシンレベルをリムルス反応に基づいて測定する。輸血の日に、これらのアッセイを反復して、任意の細菌、真菌またはエンドトキシン汚染を検出する。SLN-T細胞のリンパ球サブセットを解析する。さらに、細胞1×10個を、腫瘍表面マーカー上皮細胞接着分子(EpCAM)のフローサイトメトリー解析のために使用して、腫瘍細胞の存在を除外した。
【0045】
さらなる態様において、本発明は、上記の態様に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団に関する。
【0046】
さらなる態様において、本発明は、医薬における使用のための本発明に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団に関する。
【0047】
この態様の一実施形態において、本発明は、がんの処置、例えば固形腫瘍の処置における使用のための上記の態様に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能な、SIGLEC15の発現が低減されているT細胞の集団に関する。
【0048】
一実施形態において、本発明は、がん性腫瘍の処置のための方法における自己T細胞の使用に関する。この実施形態に従って、上記の態様に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能なT細胞の集団は、腫瘍流入領域リンパ節が取得された対象において、上記に説明される方法に従って腫瘍流入領域リンパ節として特定されたリンパ節に近接して位置するがん性腫瘍の処置において使用され得る。
【0049】
がん性腫瘍は、任意の型の固形がんであり得る。本発明に記載の固形がんは、器官において起こる組織の異常な塊である。固形がんは通常、嚢腫または液体領域を含有しない。固形がんは、悪性であり得る。様々な種類の固形がんは、それらを形成する細胞の種類に基づいて命名される。固形がんの種類には、肉腫、癌腫およびリンパ腫が含まれる。本発明は、本発明の方法によって取得されるかまたは取得可能なT細胞を含む組成物を提供する。
【0050】
固形がんの例には、副腎がん、肛門がん、未分化大細胞型リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、B細胞リンパ腫、胆管がん、膀胱がん、脳/CNS腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、ユーイング腫瘍、眼がん、胆嚢がん、消化管カルチノイド、消化管間質腫瘍(gist)、妊娠性絨毛性疾患、肝脾T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、血管内大細胞型B細胞リンパ腫、腎がん、喉頭および下咽頭がん、肝がん、肺がん(非小細胞および小細胞)、肺カルチノイド、リンパ腫様肉芽腫症、悪性中皮腫、鼻腔および副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、結節性辺縁帯B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、口腔および中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、原発性体液性リンパ腫、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、肉腫、皮膚がん(基底細胞および扁平上皮細胞、黒色腫およびメルケル細胞)、小腸がん、胃がん、精巣がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症ならびにウィルムス腫瘍が挙げられる。本発明のT細胞は、とりわけ、固形がんの処置において有効である。そのため、本発明の治療方法により処置される対象は、固形がんを有し得る。本発明のT細胞は、特に、肛門がん、膀胱がん、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、肝がん、肺がん(非小細胞および小細胞)、肺カルチノイド、卵巣がん、膵がん、陰茎がん、前立腺がん、胃がん、精巣がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がんからなる群から選択される固形がんの処置において、ならびにさらによりとりわけ、乳がん、結腸がん、肝がん、肺がん(非小細胞および小細胞)、肺カルチノイド、膵がん、前立腺がん、卵巣がんならびに膀胱がんの処置のために有効である。
【0051】
一実施形態において、がんは、結腸直腸がん、悪性黒色腫、子宮頸癌、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)、非小細胞肺癌(NSCLC)の群から選択される。
【0052】
一態様において、本発明は、対象におけるがん性腫瘍の処置の方法であって、
S1. 前記対象においてがん性腫瘍からのリンパ液が流入するリンパ節を特定する工程と;
S2. 特定されたリンパ節から細胞を抽出する工程と;
S3. 抽出された細胞においてSIGLEC15の発現を低減させる工程と;
S4. T細胞増幅を支持する条件下においてSIGLEC15の発現が低減されている抽出された細胞を増幅する工程と;
S5. SIGLEC15の発現が低減されている増幅されたT細胞を投与する工程と
を含む方法に関する。
【0053】
工程S1は、上記に説明されるように工程S1’に交換することができる。
【0054】
本発明に記載の処置の方法は、図2に模式的に示される。
【0055】
工程S1、S2、S3およびS4は、上記に説明されるように行われ得る。
【0056】
増幅されたT細胞の投与は、当該技術分野において公知の通り(11)静脈内投与によって行われ得る。また、投与は、動脈内、髄腔内または腹腔内であってもよい。
【0057】
以下のプロトコール(8)は、T細胞の投与のための1つの有用なプロトコールとして提供される。最終的なSLN-T細胞を回収し、食塩水中で2回洗浄し、食塩水200mlおよび1%のヒト血清アルブミン(CSL Behring GmbH、ドイツ)を含有する滅菌プラスチック袋に移す。細胞を、病院の輸血ガイドラインに従って60分の間隔にわたり静脈内に輸血する。細胞輸血後、有害事象共通用語基準(CTCAE)3.0の基準を使用して輸血関連毒性を評価する。
【0058】
また、本発明は、医薬組成物の製造における、上記に説明される方法に従って取得されるかまたは取得可能なT細胞の集団の使用に関する。一実施形態において、医薬組成物は、がんの処置、例えば固形腫瘍の処置における使用のための医薬組成物である。
【0059】
また、本発明は、上記に説明される方法に従って取得されるかまたは取得可能なT細胞の集団を含む医薬組成物に関する。一実施形態において、医薬組成物は、上記に説明される医薬における、例えばがんの処置、例えば固形腫瘍の処置における使用のための医薬組成物である。
【0060】
前記医薬組成物は、当該技術分野において一般的である薬学的に許容される賦形剤を含み得る。医薬組成物は、好ましくは注射、例えば静脈内、動脈内、髄腔内または腹腔内投与に好適な液体に製剤化される。
【0061】
「医薬賦形剤」または「薬学的に許容される賦形剤」は、担体、通常、液体であり、その中に有効治療剤が製剤化される。本発明の一実施形態において、有効治療剤は、本発明に記載の方法によって取得されるかまたは取得可能なT細胞の集団である。賦形剤は、一般的に、製剤に任意の薬理活性を提供しないが、それは化学的および/または生物学的安定性を提供し得る。例示的な製剤は、例えば、参照によって組み込まれるRemington’s Pharmaceutical Sciences、第19版、Grennaro, A.編、1995において見出すことができる。
【0062】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」または「賦形剤」は、生理学的に適合性である任意のおよびすべての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤を含む。一実施形態において、担体は、非経口投与に好適である。あるいは、担体は、静脈内、腹腔内、筋内また舌下投与に好適であり得る。薬学的に許容される担体は、滅菌注射用溶液または分散液の即席の調製のための滅菌水溶液または分散液を含む。医薬として有効な物質のためのそのような媒体および薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来型媒体または薬剤が有効化合物と非適合性である場合を除いては、本発明の医薬組成物におけるその使用が企図される。また、補助的な有効化合物を組成物に組み込んでもよい。
【0063】
本発明を行うことにおいて、当業者は、本明細書において参照される特許文献および科学論文ならびにそのような文献中の参考文献において開示される方法およびプロトコールを非排他的に含む、当該技術分野において公知の方法およびプロトコールを使用してもよく、当該文献のすべては参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0064】
実験
遺伝子発現解析
センチネルおよび非センチネルリンパ節を、以前に説明される通りに(7)特定した。簡潔に説明すると、リンパ球向性染料(パテントブルー、Sigma-Aldrich)を原発腫瘍の周囲の漿膜下に注射した。腫瘍流入領域リンパ節、すなわち、センチネル節は、青色に染色された。染色されなかったリンパ節は、非センチネル節と考えられた。
【0065】
1つは非転移性センチネルリンパ節(SN)であり、1つは非センチネルリンパ節(NSN)のリンパ節である、2つのリンパ節を、結腸直腸がんと診断された23人の患者の各々から取得し、ハイスループットRNA配列決定技術およびバイオインフォマティクス解析により遺伝子発現プロファイルを得るために使用した。
【0066】
遺伝子発現データを、IluminaのRNA-SEQ技術を使用してリンパ節組織について配列決定することによって取得した。
【0067】
9つのアップレギュレートされたおよび7つのダウンレギュレートされた遺伝子を含む全部で16個の遺伝子は、非センチネルリンパ節と比較して、センチネルリンパ節において差次的に発現された。IL1RL1、STON2、TPSAB1、GATA2、DNAJB4、NR2F1およびDIPK2Aは、ダウンレギュレートされていることが見出され、PLA2G2D、ZBED6CL、SIGLEC15、KCNC3、ATP2A1、MMP2-AS1、FBXO41、DSC2およびTFECはアップレギュレートされていることが見出された。
【0068】
RT-PCRによる確証
トータルRNAを、23人超の患者からランダムに選択された8人の患者からのSNおよびNSNの対から、TRIzol試薬を使用して製造業者の使用説明書に従い抽出した。cDNA合成を、PrimeScript(商標)RT試薬キットおよびgDNA Eraser(Takara、日本)を使用して行った。SIGLEC15および内因性基準遺伝子β-アクチンのプライマーを、Primer5ソフトウェアを使用して設計した。TB Green(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(Takara、日本)を使用して製造業者の使用説明書に従い、RT-qPCRを行った。PCR後に融解曲線解析を行って、プライマー特異性を確認し、SIGLEC15の相対的レベルを2-ΔΔCt法(12)を使用して計算した。siRNAノックダウン前後のセンチネルリンパ節におけるSIGLEC15の相対的発現を、3つのセンチネルリンパ節において解析した。結果を表1および2、ならびに図3に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
RNAscopeインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーション
リンパ節におけるSIGLEC15の発現パターンをさらに探索するために、私たちは、組織細胞におけるRNAの空間的発現についての情報を提供し得るRNAscopeインサイチュハイブリダイゼーション技術(13)を使用して、4人の患者からのSNおよびNSNの対におけるSIGLEC15およびCD163の発現を調査した。結果は表3に開示され、mRNA発現が、センチネルリンパ節においてより高いことを示す(p=0.042、スチューデントt検定)。
【0072】
【表3】
【0073】
センチネルおよび非センチネルリンパ節スライスにおけるSIGLEC15およびCD163の二重染色結果に従って、私たちは、SIGLEC15がNSNと比較してSNにおいて高度に発現していることをさらに確認することができる。加えて、SIGLEC15は、M2マクロファージにおいてのみでなく、他の細胞種においても発現していた。
【0074】
この結果から、私たちは、SIGLEC15がNSNと比較してSNにおいて高度に発現しており、SIGLEC15がM2マクロファージにおいてのみでなく、他の細胞においても発現していたことをさらに確認することができる。
【0075】
フローサイトメトリー解析
私たちは、フローサイトメトリーによって様々な細胞サブセットの表面におけるSIGLEC15タンパク質発現を検出した。
【0076】
SNまたはNSNおよび腫瘍組織からの単一細胞懸濁液を、ルーズフィットガラスホモジナイザーを使用して穏やかな圧力を適用することによって、手術後即座に取得した。
【0077】
SNまたはNSNからの細胞のSIGLEC15解析のために、CD45、CD86、CD11c、CD163、CD11b、CD15、CD14、CD3、CD4、CD8、CD16、CD56、CD19およびSIGLEC15(Biolegend)に対する蛍光標識モノクローナル抗体(mAb)を使用した。細胞をmAbの存在下で製造業者の推奨に従い、室温(18~25℃)において光から保護して20分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞懸濁液を、リン酸緩衝食塩水(PBS)により洗浄し、細胞ペレットを解析のためにPBS0.5ml中に再懸濁した。試料を、Naviosフローサイトメーター(Beckman Coulter)を使用してさらに解析した。少なくとも全部で50,000事象を収集し、Flowjoソフトウェア(Flowjo LCC)を使用して解析した。
【0078】
SIGLEC15は、センチネルリンパ節のほぼすべてのサブ群において比較的高度に発現していた(図4A)。センチネルリンパ節について、SIGLEC15は、M2マクロファージにおいて比較的高度に発現しており(図4B)、同じ傾向が非センチネルリンパ節について観察された(データは示していない)。
【0079】
SIGLEC15機能解析
センチネルリンパ節におけるSIGLEC15の役割を評価するために、私たちは、センチネルリンパ節においてsiRNA技術を通してSIGLEC15の発現をノックダウンした。簡潔に説明すると、リンパ節の単一細胞の、siRNAによるトランスフェクションを、製造業者の使用説明書(GE Dharmacon)に従って行った。
【0080】
ノックアウト効果を確認するために、私たちは、全部で3つのsiRNA配列を合成した。siRNAは、標的化遺伝子(SIGLEC15)のRNA配列に従って、およびsiRNA設計ソフトウェア(Invivogen、https://www.invivogen.com/sirnawizard/guidelines.php)を使用してsiRNA設計原理に従い設計した。
【0081】
以下のsiRNA配列を設計した(相補鎖、および3’-エキソヌクレアーゼによる分解を防ぐための3’-TTオーバーハングを含む)。
【0082】
【表4】
【0083】
1μmol/LのsiRNAを、Accell siRNAデリバリー媒体を含む96ウェル組織培養プレートにおいて72時間トランスフェクトした。RT-PCRを使用して、siRNAをトランスフェクトした群およびトランスフェクトしていない群におけるSIGLEC15 mRNA発現を評価した。
【0084】
フローサイトメトリーを使用して、リンパ節におけるすべての生細胞の表面上のSIGLEC15タンパク質の蛍光強度平均値(MFI)を検出して、SIGLEC15タンパク質発現の低減に対するsiRNA干渉の効果を評価した。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
フローサイトメトリーデータは、センチネルリンパ節からの細胞において、T細胞により放出される抗腫瘍機能性サイトカイン、例えばIL-2、TNFαおよびIFNγが、SIGLEC15ノックダウン後にアップレギュレートされることを示した(表6および図5)。
【0087】
【表6】
【0088】
SIGLEC15遮断後に、機能性T細胞サイトカインは増加し、それはT細胞の抗腫瘍効果の向上として認識される。
【0089】
IL2は、主にTh1 T細胞によって分泌された。IL2は、活性化Th細胞および細胞傷害性T細胞ならびにNK細胞のマーカーであり、また、それは、活性化T細胞の増殖に必要な要素である。
【0090】
TNFαは、主に活性化Tリンパ球およびナチュラルキラー(NK)細胞によって生産される。それは、ある特定の組の腫瘍の種類において出血性壊死を誘導し、局所進行性軟部組織肉腫および転移性黒色腫の局所的処置において使用される。また、TNFαは炎症応答を引き起こし、それは、より多くの免疫細胞が腫瘍を死滅させるように誘導する。
【0091】
IFNγは、細胞免疫の活性化、および続いて抗腫瘍免疫応答の刺激において重要な役割を果たす。それは、グランザイムBおよびパーフォリンと共に細胞傷害性サイトカインとして作用して、腫瘍細胞においてアポトーシスを開始するが、また、免疫チェックポイント阻害性分子およびインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の合成を可能にし、したがって他の免疫抑制機構を刺激する。
【0092】
結果として、サイトカイン放出プロファイルは、SIGLEC15の発現が低減されている増幅されたT細胞の抗腫瘍効果を示す。
【0093】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】