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  • 特表-ポアソン比が高いガラス組成物 図1
  • 特表-ポアソン比が高いガラス組成物 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ポアソン比が高いガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20231206BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20231206BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20231206BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20231206BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/087
C03C3/085
C03C3/064
C03C3/062
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531542
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 US2021060755
(87)【国際公開番号】W WO2022115555
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】63/119,062
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】グオ,シアオジュー
(72)【発明者】
【氏名】レッツィ,ピーター ジョゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ジエン
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA05
4G062DA06
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DC04
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA03
4G062EA04
4G062EB03
4G062EC01
4G062EC02
4G062ED03
4G062ED04
4G062ED05
4G062EE01
4G062EE02
4G062EE03
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FC01
4G062FD01
4G062FE01
4G062FE02
4G062FF01
4G062FG01
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM27
4G062NN33
(57)【要約】
ガラス組成物は、50モル%以上から65モル%以下のSiO、2モル%以上から25モル%以下のAl、1モル%以上から40モル%以下のMgO、3モル%以上から17モル%以下のLiO、および1モル%以上から10モル%以下のNaOを含む。そのガラス組成物は、LaおよびYを実質的に含まない。そのガラス組成物は、0.24以上のポアソン比を有する。そのガラス組成物は、イオン交換可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
34モル%以上から65モル%以下のSiO
2モル%以上から25モル%以下のAl
1モル%以上から40モル%以下のMgO、
1モル%以上から10モル%以下のNaO、および
3モル%以上から17モル%以下のLiO、
を含むガラスであって、
前記ガラスは、LaおよびYを実質的に含まず、0.24以上のポアソン比を有する、ガラス。
【請求項2】
前記ポアソン比が0.25以上である、請求項1記載のガラス。
【請求項3】
前記ポアソン比が0.30以下である、請求項1または2記載のガラス。
【請求項4】
2モル%以上から16モル%以下のBを含む、請求項1から3いずれか1項記載のガラス。
【請求項5】
1モル%以上から6モル%以下のCaOを含む、請求項1から4いずれか1項記載のガラス。
【請求項6】
0モル%以上から1モル%以下のKOを含む、請求項1から5いずれか1項記載のガラス。
【請求項7】
0モル%以上から0.2モル%以下のSnOを含む、請求項1から6いずれか1項記載のガラス。
【請求項8】
前記ガラスが、CaO、KO、B、SnO、SrO、BaO、HfO、およびZrOの少なくとも1つを実質的に含まない、請求項1から7いずれか1項記載のガラス。
【請求項9】
前記ガラスが、75GPa以上から105GPa以下のヤング率を有する、請求項1から8いずれか1項記載のガラス。
【請求項10】
前記ガラスが、30GPa以上から41GPa以下の剛性率を有する、請求項1から9いずれか1項記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2020年11月30日に出願された米国仮特許出願第63/119062号の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、広く、電子機器用のカバーガラスとして使用するのに適したガラス組成物に関する。より詳しくは、本明細書は、電子機器用のカバーガラスに成形できるイオン交換可能なガラスに関する。
【背景技術】
【0003】
スマートフォン、タブレット、携帯型メディアプレーヤー、パーソナルコンピュータ、およびカメラなどの携帯型機器は、性質上、持ち運べるので、特に、地面などの硬い表面に偶発的に落下し易い。これらの機器には、典型的に、カバーガラスが組み込まれ、このカバーガラスは、硬い表面と衝突した際に、損傷を受けることがある。これらの機器の多くでは、カバーガラスは、ディスプレイカバーの機能を果たし、タッチ機能を備えることがあり、よって、カバーガラスが損傷を受けると、機器の使用が悪影響を受けてしまう。
【0004】
関連する携帯機器が硬い表面に落とされたときのカバーガラスの破壊モードは、主に2つある。モードの1つは屈曲破壊であり、これは、機器が、硬い表面との衝突による動荷重に曝されたときのガラスの曲げにより生じる。他のモードは急激な接触破壊であり、これは、ガラス表面への損傷の導入により生じる。アスファルト、花崗岩などの硬い粗面とガラスが衝突すると、ガラス表面に鋭い圧痕が生じ得る。これらの圧痕は、ガラス表面の破壊部位となり、そこから、亀裂が発生し伝播することがある。
【0005】
ガラスは、ガラス表面に圧縮応力を導入することを含む、イオン交換技術によって、屈曲破壊に耐性を持たせることができる。しかしながら、イオン交換済みのガラスは、それでも、急激な接触でガラス内の局所的な圧痕により生じる高度の応力集中のために、動的で急激な接触を受けやすくなる。
【0006】
ガラスメーカーと手持ち型機器の製造業者は、急激な接触破壊に対する手持ち型機器の耐性を改善するために持続的に取り組んできた。解決策は、カバーガラスへのコーティングから、機器が硬い表面に落とされたときに、カバーガラスが硬い表面に直接衝突するのを防ぐベゼルまでに及ぶ。しかしながら、審美的要件と機能的要件の制約のために、カバーガラスが硬い表面に衝突するのを完全に防ぐことは非常に難しい。
【0007】
携帯型機器ができるだけ薄いことも望ましい。したがって、強度に加え、携帯型機器においてカバーガラスとして使用すべきガラスは、できるだけ薄く作られることも望ましい。それゆえ、カバーガラスの強度を増加させることに加え、ガラスが、薄いガラスシートなどの薄いガラス物品を製造できるプロセスによって形成できる機械的特徴を有することも望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、イオン交換などによって強化することができ、薄いガラス物品として形成できるようにする機械的性質を有するガラスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
態様(1)によれば、ガラスが提供される。そのガラスは、34モル%以上から65モル%以下のSiO、2モル%以上から25モル%以下のAl、1モル%以上から40モル%以下のMgO、1モル%以上から10モル%以下のNaO、および3モル%以上から17モル%以下のLiOを含み、そのガラスは、LaおよびYを実質的に含まず、0.24以上のポアソン比を有する。
【0010】
態様(2)によれば、ポアソン比が0.25以上である、態様(1)のガラスが提供される。
【0011】
態様(3)によれば、ポアソン比が0.30以下である、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0012】
態様(4)によれば、ポアソン比が0.27以下である、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0013】
態様(5)によれば、0モル%以上から16モル%以下のBを含む、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0014】
態様(6)によれば、ガラスがBを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0015】
態様(7)によれば、2モル%以上から16モル%のBを含む、態様(1)から態様(5)のいずれかのガラスが提供される。
【0016】
態様(8)によれば、0モル%以上から7モル%以下のCaOを含む、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0017】
態様(9)によれば、ガラスがCaOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0018】
態様(10)によれば、1モル%以上から6モル%以下のCaOを含む、態様(1)から態様(8)のいずれかのガラスが提供される。
【0019】
態様(11)によれば、0モル%以上から1モル%以下のKOを含む、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0020】
態様(12)によれば、ガラスがKOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0021】
態様(13)によれば、0モル%以上から0.2モル%以下のSnOを含む、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0022】
態様(14)によれば、ガラスがSnOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0023】
態様(15)によれば、ガラスがSrOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0024】
態様(16)によれば、ガラスがBaOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0025】
態様(17)によれば、ガラスがHfOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0026】
態様(18)によれば、ガラスがZrOを実質的に含まない、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0027】
態様(19)によれば、ガラスが、75GPa以上から105GPa以下のヤング率を有する、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0028】
態様(20)によれば、ガラスが、30GPa以上から41GPa以下の剛性率を有する、態様(1)から前態様のいずれかのガラスが提供される。
【0029】
追加の特徴と利点が、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【0030】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明は両方とも、様々な実施の形態を記載しており、請求項の主題の性質と特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることを理解すべきである。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を図解しており、説明と共に、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】ここに開示され、記載された実施の形態による、その表面上に圧縮応力層を有するガラスの断面図
図2A】ここに開示されたガラス物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器の平面図
図2B図2Aの例示の電子機器の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0032】
ここで、様々な実施の形態によるリチウムアルミノケイ酸塩ガラスを詳しく参照する。リチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、良好なイオン交換可能性を有し、リチウムアルミノケイ酸塩ガラス中に高い強度と高い靱性特性を達成するために、化学強化過程が使用されてきた。リチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、ガラス品質が高い高度にイオン交換可能なガラスである。ケイ酸塩ガラス網状構造中にAlを置換すると、イオン交換中に一価陽イオンの相互拡散性が増す。溶融塩浴(例えば、KNOまたはNaNO)中で化学強化することによって、高強度、高い靱性、および高い圧入亀裂抵抗を有するガラスを得ることができる。化学強化によって達成される圧力プロファイルは、ガラス物品の落下性能、強度、靱性、および他の属性を増す様々な形状を有することがある。
【0033】
したがって、物理的性質、化学的耐久性、およびイオン交換可能性が良好なリチウムアルミノケイ酸塩ガラスは、カバーガラスとしての用途のために注目を集めている。具体的に、高い破壊靱性および速いイオン交換可能性を有する、リチウム含有アルミノケイ酸塩ガラスが、ここに提供される。異なるイオン交換過程により、より大きい中央張力(CT)、圧縮深さ(DOC)、および高い圧縮応力(CS)を達成することができる。しかしながら、アルミノケイ酸塩ガラスにリチウムを加えると、ガラスの融点、軟化点、または液相粘度が低下することがある。
【0034】
ここに記載されたガラス組成物の実施の形態において、構成成分(例えば、SiO、Al、LiOなど)の濃度は、特に明記のない限り、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で与えられている。実施の形態によるアルカリアルミノケイ酸塩ガラスの成分゛は、下記に個別に述べられる。ある成分の様々に列挙された範囲のいずれも、任意の他の成分の様々に列挙された範囲のいずれと個別に組み合わされてもよいことを理解すべきである。ここに用いられているように、数の後に付く0は、その数の有効桁を表すことを意図している。例えば、数「1.0」は、二桁の有効数字を含み、数「1.00」は、三桁の有効数字を含む。
【0035】
高いポアソン比を示すリチウムアルミノケイ酸塩ガラス組成物がここに開示されている。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、0.24以上のポアソン比により特徴付けられる。
【0036】
ある材料の損傷抵抗は、一般に、強度と靱性(または延性)の関数である。高強度は、新たな亀裂の導入を妨げ、高靱性は、既存の亀裂の伝播を阻害する。ケイ酸塩ガラスの損傷抵抗を改善するために、原子結合または原子構造と無関係な2つの一般手法が広く使用されている。第1の外因性手法は、イオン交換過程、CTEに差がある積層構造、または熱的焼き鈍し方法などにより、ガラスの表面に圧縮応力を印加することである。この手法は、ガラスの強度を改善するが、潜在的に、壊れやすさを増すことがある。別の広く使用されている外因性手法は、ガラス-高分子-ガラス配列の積層構造を製造することである。そのような積層体が破壊されると、延性高分子は、粉々になったガラス片をまとめて保持し、破滅的な破壊を防ぐことができる。
【0037】
前記ガラスの原子結合/構造に固有の別の著しく異なる手段は、損傷抵抗を増加させることもできる。例えば、「フロッピー(floppy)」モードを導入し、塑性/圧密変形を促進するために、三配位ホウ素の含有量が最大化されている、ホウ素含有アルミノケイ酸塩ガラスは、改善された損傷抵抗を示す。剪断変形を促進するために局部幾何学的に不安定な構造を最大にすることによって、非常に高い破壊靱性(150MPa√m超)が達成される類似の手法が、Zr系金属ガラスの設計に見出されている。これらの手法は、延性挙動を示し、それによって、破壊靱性を増加させる材料を提供しようとしている。
【0038】
脆性/延性挙動の根源は、剪断と開裂との間の競合によって制御される。亀裂の先端では、剪断に必要なエネルギーまたは応力が、開裂に必要なものより低い場合、亀裂の先端は、剪断のために丸くなり、結果として、その材料は、延性すなわち高い破壊靱性を示すことになる。そのような基本的な手法は、全ての種類のガラスの固有の延性に適用できる。
【0039】
原子レベルでは、ガラスの脆性/延性挙動は、結合強度とガラス網状構造における角度拘束との間の競合によって制御される。結合強度の相対的な増加または角度拘束の相対的な減少は、開裂を防ぐことにより、または剪断変形を促進することにより、延性を増加させるはずである。剪断は別として、圧密は、圧入または引っ掻き抵抗を増加させることもできるが、圧密は、引張荷重下では剪断ほど効果的ではないかもしれないことに留意されたい。したがって、酸素に強力に結合でき、角度拘束を減少させることもできる、特定の種類の金属元素を加えることにより、強度(硬度)を犠牲にせずに、靱性(延性)が増加するであろう。
【0040】
表Iに示されるように、酸素に対するTa、Th、Zr、La、Hf、Y、BaおよびBの結合エネルギーは、非常に高い。酸素に対する結合エネルギーは、ケイ酸塩ガラス中に通常含まれている、NaおよびKについては低い。低い結合エネルギーは、ガラスの開裂または脆性破壊を促進するであろう。
【0041】
【表1】
【0042】
Ta、La、Y、BaおよびHfなど、酸素結合エネルギーが高い金属元素を含有する酸化物ガラスの調査により、「フロッピー」モードの手法は、増加した靱性を提供することが示された。Ta、La、Y、BaおよびHfの酸化物を含有する組成空間の過去の調査では、1.2MPa√mまでのKICを有する透明ガラスが得られた。現在、原子結合の「角度拘束」または「方向柔軟性(directional flexibility)」には明白な定量化できる定義がないので、特に、高価な希土類酸化物を含有しないガラスにおいて、方向柔軟結合が良好なガラスを区別することは、難しいであろう。ポアソン比は、どの材料が延性挙動を示すことになるかを判定するための大雑把な指針であり得ることが分かった。
【0043】
モデル化の取組みにより、延性挙動に非常に重要なポアソン比は、系依存であろうことが示された。ケイ酸塩系について、延性挙動を生じるための非常に重要なポアソン比は、約0.25である。ここに記載されたガラス組成物は、従来のケイ酸塩ガラスよりも高いポアソン比を有し、これにより、そのガラスは、より高い延性および改善された損傷抵抗を有することが示される。
【0044】
引っ掻き性能は望ましいが、落下性能は、携帯型電子機器に組み込まれるガラス物品にとって主要な属性である。破壊靱性およびある深さでの応力は、粗面上への落下性能を改善する上で非常に重要である。それに加え、延性挙動を示すガラスを選択することによっても、落下性能が改善される。ここに記載されたガラス組成空間は、高いポアソン比を達成する能力について選択した。
【0045】
ここに記載されたガラス組成物において、SiOは、最大成分であり、それゆえ、SiOは、そのガラス組成物から形成されるガラス網状構造の主成分である。純粋なSiOは、比較的低いCTEを有する。しかしながら、純粋なSiOは、高い融点を有する。したがって、ガラス組成物中のSiOの濃度が高すぎると、より高濃度のSiOにより、ガラスを溶融する困難さが増すので、ガラス組成物の成形性が低下するであろう。このことにより、次に、ガラスの成形性が悪影響を受ける。実施の形態において、ガラス組成物は、概して、34モル%以上から65モル%以下、例えば、35モル%以上から64モル%以下、36モル%以上から63モル%以下、37モル%以上から62モル%以下、38モル%以上から61モル%以下、39モル%以上から60モル%以下、40モル%以上から59モル%以下、41モル%以上から58モル%以下、42モル%以上から57モル%以下、43モル%以上から56モル%以下、44モル%以上から55モル%以下、45モル%以上から54モル%以下、46モル%以上から53モル%以下、47モル%以上から52モル%以下、48モル%以上から51モル%以下、49モル%以上から50モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のSiOを含む。
【0046】
前記ガラス組成物は、Alを含む。Alは、SiOと同様に、ガラスの網状構造形成材の機能を果たすことがある。Alは、ガラス組成物から形成されたガラス溶融物における四面体配位のために、ガラス組成物の粘度を増加させ、Alの量が多すぎると、ガラス組成物の成形性を低下させることがある。しかしながら、Alの濃度が、ガラス組成物中のSiOの濃度とアルカリ酸化物の濃度に対して釣り合わされている場合、Alは、ガラス溶融物の液相温度を低下させ、それによって、液相粘度を高め、特定の成形過程とのガラス組成物の適合性を改善することができる。実施の形態において、ガラス組成物は、概して、2モル%以上から25モル%以下、例えば、3モル%以上から24モル%以下、4モル%以上から23モル%以下、5モル%以上から22モル%以下、6モル%以上から21モル%以下、7モル%以上から20モル%以下、8モル%以上から19モル%以下、9モル%以上から18モル%以下、10モル%以上から17モル%以下、11モル%以上から16モル%以下、12モル%以上から15モル%以下、13モル%以上から14モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の濃度でAlを含む。
【0047】
前記ガラス組成物は、LiOを含む。ガラス組成物にLiOを含ませると、イオン交換過程をよりよく制御することが可能になり、さらに、ガラスの軟化点を低下させ、それによって、ガラスの製造可能性を高める。ガラス組成物中にLiOが存在すると、放物形の応力プロファイルを形成することもできる。実施の形態において、ガラス組成物は、3モル%以上から17モル%以下、例えば、4モル%以上から16モル%以下、5モル%以上から15モル%以下、6モル%以上から14モル%以下、7モル%以上から13モル%以下、8モル%以上から12モル%以下、9モル%以上から11モル%以下、10モル%以上から17モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のLiOを含む。
【0048】
前記ガラス組成物は、NaOも含む。NaOは、ガラス組成物のイオン交換可能性を支援し、ガラス組成物の成形性、およびそれによって、製造可能性も改善する。しかしながら、ガラス組成物に添加されるNaOの量が多すぎると、熱膨張係数(CTE)が低すぎることがあり、融点が高すぎることがある。ガラス組成物にNaOを含ませると、イオン交換強化によって、高い圧縮応力値を達成することも可能になる。実施の形態において、そのガラス組成物は、1モル%以上から10モル%以下、例えば、1.5モル%以上から9.5モル%以下、2モル%以上から9モル%以下、2.5モル%以上から8.5モル%以下、3モル%以上から8モル%以下、3.5モル%以上から7.5モル%以下、4モル%以上から7モル%以下、4.5モル%以上から6.5モル%以下、5モル%以上から6モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のNaOを含む。
【0049】
前記ガラスはMgOを含む。MgOを含ませると、ガラスの粘度が低下し、これによりガラスの成形性と製造可能性が向上することがある。ガラス組成物にMgOを含ませると、ガラス組成物の歪み点とヤング率も改善され、ガラスのイオン交換能力も改善されることがある。しかしながら、ガラス組成物に添加されるMgOの量が多すぎると、ガラス組成物の密度とCTEが望ましくなく増加してしまう。実施の形態において、そのガラス組成物は、1モル%以上から40モル%以下、例えば、2モル%以上から39モル%以下、3モル%以上から38モル%以下、4モル%以上から37モル%以下、5モル%以上から36モル%以下、6モル%以上から35モル%以下、7モル%以上から34モル%以下、8モル%以上から33モル%以下、9モル%以上から32モル%以下、10モル%以上から31モル%以下、11モル%以上から30モル%以下、12モル%以上から29モル%以下、13モル%以上から28モル%以下、14モル%以上から27モル%以下、15モル%以上から26モル%以下、16モル%以上から25モル%以下、17モル%以上から24モル%以下、18モル%以上から23モル%以下、19モル%以上から22モル%以下、20モル%以上から21モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のMgOを含む。
【0050】
前記ガラス組成物は、Yを実質的に含まないか、または含まない。Yは、ガラスの費用を増加させる成分であり、Y含有原材料の入手可能性が限定されることがある。ここに記載されたガラスは、Yを含まずに、所望のポアソン比および損傷抵抗を達成することができる。ここに用いられているように、「実質的に含まない」という用語は、その成分が、0.01モル%未満など、汚染物質として非常に少量で最終的なガラス中に存在するかもしれないが、その成分はバッチ材料の成分として添加されないことを意味する。
【0051】
前記ガラス組成物は、Laを実質的に含まないか、または含まない。Laは、ガラスの費用を増加させる成分であり、La含有原材料の入手可能性が限定されることがある。ここに記載されたガラスは、Laを含まずに、所望のポアソン比および損傷抵抗を達成することができる。
【0052】
前記ガラス組成物は、Bを含むことがある。ガラス中にBを含ませると、引っ掻き性能が改善され、ガラスの圧入破壊閾値も増す。ガラス組成物中のBは、ガラスの破壊靱性も増加させる。ガラス中のBの含有量が多すぎると、ガラスをイオン交換したときに達成されるであろう最大中央張力が低下する。Bのレベルが過剰に高いと、ガラスの溶融および成形過程中にヴォリティビティ(volitivity)問題も生じ得る。実施の形態において、ガラスは、0モル%以上から16モル%以下、例えば、0モル%超から15モル%以下、1モル%以上から14モル%以下、2モル%以上から13モル%以下、3モル%以上から12モル%以下、4モル%以上から11モル%以下、5モル%以上から10モル%以下、6モル%以上から9モル%以下、7モル%以上から8モル%以下、2モル%以上から16モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のBを含む。実施の形態において、そのガラス組成物は、Bを実質的に含まないか、または含まない。
【0053】
前記ガラス組成物は、CaOを含むことがある。CaOを含ませると、ガラスの粘度が低下し、これにより、成形性、歪み点およびヤング率が向上し、イオン交換能力が改善されることがある。しかしながら、ガラス組成物に添加されるCaOの量が多すぎると、ガラス組成物の密度とCTEが増加する。実施の形態において、そのガラス組成物は、0モル%以上から7モル%以下、例えば、0モル%超から6.5モル%以下、0.5モル%以上から6モル%以下、1モル%以上から5.5モル%以下、1.5モル%以上から5モル%以下、2モル%以上から4.5モル%以下、2.5モル%以上から4モル%以下、3モル%以上から4モル%以下、3.5モル%以上から7モル%以下、1モル%以上から6モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のCaOを含む。実施の形態において、そのガラス組成物は、CaOを実質的に含まないか、または含まない。
【0054】
前記ガラス組成物は、KOを含むことがある。ガラス中に少量のKOを含ませると、ガラスのイオン交換効率が改善されることがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、0モル%以上から1モル%以下、例えば、0モル%超から1.0モル%以下、0.1モル%以上から0.9モル%以下、0.2モル%以上から0.8モル%以下、0.3モル%以上から0.7モル%以下、0.4モル%以上から0.6モル%以下、0.5モル%以上から1.0モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のKOを含む。実施の形態において、そのガラス組成物は、KOを実質的に含まないか、または含まないことがある。
【0055】
前記ガラス組成物は、必要に応じて、1種類以上の清澄剤を含むことがある。実施の形態において、清澄剤の例としては、SnOが挙げられるであろう。そのような実施の形態において、SnOは、0.2モル%以下、例えば、0.1モル%以下、0モル%以上から0.2モル%以下、0モル%以上から0.1モル%以下、0モル%以上から0.05モル%以下、0.1モル%以上から0.2モル%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量でガラス組成物中に存在することがある。いくつかの実施の形態において、そのガラス組成物は、SnOを実質的に含まないか、または含まないことがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、ヒ素およびアンチモンの一方または両方を実質的に含まないことがある。他の実施の形態において、そのガラス組成物は、ヒ素およびアンチモンの一方または両方を含まないことがある。
【0056】
実施の形態において、前記ガラス組成物は、ZrO、SrO、BaO、およびHfOの少なくとも1つを実質的に含まないか、または含まないことがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、ZrOを実質的に含まないか、または含まないことがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、SrOを実質的に含まないか、または含まないことがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、BaOを実質的に含まないか、または含まないことがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、HfOを実質的に含まないか、または含まないことがある。
【0057】
実施の形態において、前記ガラス組成物は、TiOを実質的に含まないか、または含まないことがある。ガラス組成物にTiOを含ませると、失透しやすい、および/または望ましくない着色を示すガラスが得られることがある。
【0058】
実施の形態において、前記ガラス組成物は、Pを実質的に含まないか、または含まないことがある。ガラス組成物にPを含ませると、ガラス組成物の溶融性および成形性が望ましくなく低下し、それによって、ガラス組成物の製造可能性が損なわれることがある。所望のイオン交換性能を達成するために、ここに記載されたガラス組成物中にPを含ませる必要はない。この理由のために、所望のイオン交換性能を維持しつつ、ガラス組成物の製造可能性に悪影響を及ぼすのを避けるために、ガラス組成物からPが排除されることがある。
【0059】
実施の形態において、前記ガラス組成物は、Feを実質的に含まないか、または含まないことがある。鉄は、ガラス組成物を形成するために利用される原材料中に多くの場合で存在し、その結果、ガラスバッチに能動的に添加されていない場合でさえ、ここに記載されたガラス組成物中に検出されることがある。
【0060】
先に開示されたガラス組成物の物理的性質をこれから説明する。
【0061】
ここに記載されたガラス組成物は、高いポアソン比を有する。先に記載されたように、そのガラス組成物の高いポアソン比は、ガラスの損傷抵抗を増加させる延性挙動を示す。実施の形態において、そのガラス組成物のポアソン比は、0.24以上、例えば、0.25以上、0.26以上、0.27以上、0.28以上、0.29以上、またはそれより大きい。実施の形態において、そのガラス組成物のポアソン比は、0.30以下、例えば、0.29以下、0.28以下、0.27以下、0.26以下、0.25以下、またはそれより小さい。実施の形態において、そのガラス組成物のポアソン比は、0.24以上から0.30以下、例えば、0.25以上から0.29以下、0.26以上から0.28以下、0.25以上から0.27以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲にある。本開示に列挙されたポアソン比の値は、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts」と題する、ASTM E2001-13に述べられた一般型の共鳴超音波スペクトロスコピー技術によって測定された値を称する。
【0062】
実施の形態において、前記ガラス組成物のヤング率(E)は、75GPa以上、例えば、80GPa以上、85GPa以上、90GPa以上、95GPa以上、100GPa以上、またはそれより大きい。実施の形態において、そのガラス組成物のヤング率(E)は、75GPa以上から105GPa以下、例えば、80GPa以上から100GPa以下、85GPa以上から95GPa以下、90GPa以上から105GPa以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲であることがある。本開示に列挙されたヤング率の値は、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts」と題する、ASTM E2001-13に述べられた一般型の共鳴超音波スペクトロスコピー技術によって測定された値を称する。
【0063】
実施の形態において、前記ガラス組成物は、30GPa以上、例えば、31GPa以上、32GPa以上、33GPa以上、34GPa以上、35GPa以上、36GPa以上、37GPa以上、38GPa以上、39GPa以上、40GPa以上、またはそれより大きい剛性率(G)を有する。実施の形態において、そのガラス組成物は、30GPa以上から41GPa以下、例えば、31GPa以上から40GPa以下、32GPa以上から39GPa以下、33GPa以上から38GPa以下、34GPa以上から37GPa以下、35GPa以上から36GPa以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の剛性率(G)を有することがある。本開示に列挙された剛性率の値は、「Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts」と題する、ASTM E2001-13に述べられた一般型の共鳴超音波スペクトロスコピー技術によって測定された値を称する。
【0064】
上述した組成物から、実施の形態によるガラス物品は、どの適切な方法によって成形されてもよい。実施の形態において、そのガラス組成物は、圧延過程によって成形されることがある。
【0065】
前記ガラス組成物およびそれから製造された物品は、それを成形する様式によって、特徴付けられることがある。例えば、そのガラス組成物は、フロート成形可能(すなわち、フロート法で成形される)または圧延成形可能(すなわち、圧延法によって成形される)と特徴付けられることがある。
【0066】
1つ以上の実施の形態において、ここに記載されたガラス組成物は、非晶質微細構造を示し、結晶または晶子を実質的に含まないことがあるガラス物品を形成することができる。言い換えると、ここに記載されたガラス組成物から形成されるガラス物品は、ガラスセラミック材料を排除することがある。
【0067】
先に述べたように、実施の形態において、ここに記載されたガラス組成物は、イオン交換などによって強化し、以下に限られないが、ディスプレイカバーなどの用途のために損傷抵抗であるガラス物品を製造することができる。図1を参照すると、ガラス物品の表面から圧縮深さ(DOC)まで延在する、圧縮応力下にある第1の領域(例えば、図1の第1と第2の圧縮層120、122)およびDOCからガラス物品の中央または内部領域まで延在する、引張応力または中央張力(CT)下にある第2の領域(例えば、図1の中央領域130)を有するガラス物品が示されている。ここに用いられているように、DOCは、ガラス物品内の応力が圧縮から引張に変化する深さを称する。DOCでは、応力は、正の(圧縮)応力から負の(引張)応力に交差し、それゆえ、ゼロの応力値を示す。
【0068】
当該技術分野で通常使用されている慣例によれば、圧縮または圧縮応力は、負の(<0)応力として表され、張力または引張応力は、正の(>0)応力として表される。しかしながら、本説明を通じて、CSは、正の値または絶対値として表される-すなわち、ここに列挙されたように、CS=|CS|である。圧縮応力(CS)は、ガラス物品の表面で、またはその近くで最大値を有し、CSは、関数にしたがって、表面からの距離dで変化する。再び図1を参照すると、第1のセグメント120は、第一面110から深さdまで延在し、第2のセグメント122は、第二面112から深さdまで延在する。これらのセグメントは共に、ガラス物品100の圧縮またはCSを規定する。圧縮応力(表面CSを含む)は、有限会社折原製作所(日本国)により製造されているFSM-6000などの市販の計器を使用して表面応力計(FSM)によって測定することができる。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する、応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する。SOCは、次に、ここにその内容が全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題する、ASTM基準C770-16に記載された手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。
【0069】
実施の形態において、圧縮応力層は、400MPa以上から1200MPa以下、例えば、425MPa以上から1150MPa以下、450MPa以上から1100MPa以下、475MPa以上から1050MPa以下、500MPa以上から1000MPa以下、525MPa以上から975MPa以下、550MPa以上から950MPa以下、575MPa以上から925MPa以下、600MPa以上から900MPa以下、625MPa以上から875MPa以下、650MPa以上から850MPa以下、675MPa以上から825MPa以下、700MPa以上から800MPa以下、725MPa以上から775MPa以下、750MPa以上から1200MPa以下、550MPa以上から925MPa以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲のCSを含む。実施の形態において、圧縮応力層は、400MPa以上、例えば、450MPa以上、500MPa以上、550MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、800MPa以上、850MPa以上、900MPa以上、またはそれより大きいCSを含む。
【0070】
1つ以上の実施の形態において、NaおよびKイオンがガラス物品中に交換され、Naイオンは、Kイオンよりも深い深さまでガラス物品中に拡散する。Kイオンの貫通深さ(「DOL」)は、イオン交換過程の結果としてのカリウムの貫通深さを表すので、DOCとは区別される。カリウムDOLは、典型的に、ここに記載された物品について、DOCより小さい。カリウムDOLは、CS測定に関して先に述べたように、応力光学係数(SOC)の精密測定に依存する、有限会社折原製作所(日本国)により製造されている市販のFSM-6000表面応力計などの表面応力計を使用して測定される。カリウムDOL(DOL)は、圧縮応力スパイクの深さ(DOLSP)を規定することがあり、ここで、応力プロファイルは、急峻なスパイク領域からそれほど急峻ではない深い領域へと移行する。この深い領域は、スパイクの底部から圧縮深さまで延在する。実施の形態において、そのガラス物品のDOLは、4μm以上から11μm以下、例えば、5μm以上から10μm以下、6μm以上から9μm以下、7μm以上から8μm以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラス物品のDOLは、4μm以上、例えば、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、10μm以上、またはそれより大きいことがある。実施の形態において、そのガラス物品のDOLは、11μm以下、例えば、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、またはそれより小さいことがある。
【0071】
両方の主面(図1の110、112)の圧縮応力は、ガラス物品の中央領域(130)中に貯蔵された張力により釣り合わされる。最大中央張力(CT)およびDOCの値は、当該技術分野で周知の散乱光偏光器(SCALP)技術を使用して測定することができる。ガラス物品の応力プロファイルを決定するために、屈折近視野(RNF)法またはSCALPを使用することができる。応力プロファイルを測定するために、RNF法が使用される場合、SCALPにより与えられる最大CT値が、RNF法に利用される。詳しくは、RNFによって決定される応力プロファイルは、SCALP測定により与えられる最大CT値に対して力平衡され、較正される。このRNF法は、ここに全てが引用される、「Systems and methods for measuring a profile characteristic of a glass sample」と題する米国特許第8854623号明細書に記載されている。詳しくは、このRNF法は、基準ブロックに隣接してガラス物品を配置する工程、1Hzと50Hzの間の速度で直交偏光の間で切り換えられる偏光切替光線を生成する工程、その偏光切替光線の出力量を測定する工程、および偏光切替基準信号を生成する工程を含み、直交偏光の各々の出力の測定量は互いの50%以内にある。この方法は、偏光切替光線を、ガラス試料中の異なる深さについて、ガラス試料および基準ブロックに透過させ、次いで、リレー光学系を使用して、透過した偏光切替光線を信号光検出器に中継する工程をさらに含み、その信号光検出器は偏光切替検出器信号を生成する。この方法は、検出器信号を基準信号で割って、正規化検出器信号を形成する工程、およびその正規化検出器信号からガラス試料の特徴を示すプロファイルを決定する工程も含む。
【0072】
ガラス物品中の最大中央張力の量は、イオン交換過程によって生じた強化の程度を表し、最大CT値の上昇が、強化の程度の増加に相関する。最大CT値が高すぎると、ガラス物品は、望ましくない脆性挙動を示すことがある。実施の形態において、そのガラス物品は、90MPa以上、例えば、95MPa以上、100MPa以上、105MPa以上、110MPa以上、115MPa以上、120MPa以上、125MPa以上、130MPa以上、135MPa以上、140MPa以上、145MPa以上、150MPa以上、155MPa以上、またはそれより大きい最大CTを有することがある。実施の形態において、そのガラス物品は、90MPa以上から160MPa以下、例えば、95MPa以上から155MPa以下、100MPa以上から150MPa以下、105MPa以上から145MPa以下、110MPa以上から140MPa以下、115MPa以上から135MPa以下、120MPa以上から130MPa以下、125MPa以上から160MPa以下、100MPa以上から160MPa以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の最大CTを有することがある。
【0073】
DOCは、いくつかの実施の形態において、ガラス物品の厚さ(t)の一部としてここに与えられる。実施の形態において、そのガラス物品は、0.15t以上から0.25t以下、例えば、0.18t以上から0.22t以下、または0.19t以上から0.21t以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の圧縮深さ(DOC)を有することがある。
【0074】
ガラスをイオン交換媒体に曝露することによって、ガラスに圧縮応力層を形成することができる。実施の形態において、イオン交換媒体は、溶融硝酸塩であることがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、溶融塩浴であることがあり、KNO、NaNO、またはその組合せを含むことがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、95質量%以下、例えば、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、75質量%以下、またはそれより少ない量のKNOを含むことがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、75質量%以上、例えば、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、またはそれより多い量のKNOを含むことがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、75質量%以上から95質量%以下、例えば、80質量%以上から90質量%以下、75質量%以上から85質量%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のKNOを含むことがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、25質量%以下、例えば、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、またはそれより少ない量のNaNOを含むことがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、5質量%以上、例えば、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、またはそれより多い量のNaNOを含むことがある。実施の形態において、イオン交換媒体は、5質量%以上から25質量%以下、例えば、10質量%以上から20質量%以下、15質量%以上から25質量%以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の量のNaNOを含むことがある。イオン交換媒体は、先の範囲のどの組合せにより規定されてもよいことを理解すべきである。実施の形態において、イオン交換媒体に、例えば、ナトリウムまたはカリウムの亜硝酸塩、リン酸塩、または硫酸塩など、他のナトリウムおよびカリウムの塩を使用してもよい。実施の形態において、イオン交換媒体は、LiNOなど、リチウム塩を含むことがある。イオン交換媒体は、それに加え、ケイ酸など、ガラスをイオン交換するときに通常含まれる添加剤をさらに含んでもよい。
【0075】
前記ガラス組成物は、ガラス組成物から製造されたガラス基板をイオン交換媒体の浴中に浸漬することにより、ガラス組成物から製造されたガラス基板にイオン交換媒体を吹き付けることにより、またはガラス組成物から製造されたガラス基板にイオン交換媒体を他のやり方で物理的に施すことにより、イオン交換媒体に曝露されて、イオン交換済みガラス物品を形成することができる。イオン交換媒体は、実施の形態によれば、ガラス組成物に曝露される際に、360℃以上から500℃以下、例えば、370℃以上から490℃以下、380℃以上から480℃以下、390℃以上から470℃以下、400℃以上から460℃以下、410℃以上から450℃以下、420℃以上から440℃以下、430℃以上から470℃以下、430℃以上から450℃以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の温度であることがある。実施の形態において、そのガラス組成物は、4時間以上から48時間以下、例えば、4時間以上から24時間以下、8時間以上から44時間以下、12時間以上から40時間以下、16時間以上から36時間以下、20時間以上から32時間以下、24時間以上から28時間以下、4時間以上から12時間以下、および先の値の間の全ての範囲と部分的範囲の期間に亘りイオン交換媒体に曝露されることがある。
【0076】
イオン交換過程は、例えば、ここに全てが引用される、米国特許出願公開第2016/0102011号明細書に開示されているような、改善された圧縮応力プロファイルを提供する処理条件下でイオン交換媒体内で行うことができる。いくつかの実施の形態において、イオン交換過程は、ここに全て引用される、米国特許出願公開第2016/0102014号明細書に記載されている応力プロファイルなどの、放物線応力プロファイルをガラス物品に形成するように選択されることがある。
【0077】
イオン交換過程が行われた後、イオン交換済みのガラス物品の表面での組成は、形成されたままのガラス基板(すなわち、イオン交換過程を経る前のガラス基板)の組成とは異なることを理解すべきである。これは、例えば、LiやNaなど、形成されたままのガラス基板中の1種類のアルカリ金属イオンが、それぞれ、例えば、NaやKなどのより大きいアルカリ金属イオンと交換されたことにより生じる。しかしながら、ガラス物品の深さの中心またはその近くのガラス組成は、ガラス物品を形成するために利用される形成されたままのイオン交換されていないガラス基板の組成をまだ有することになる。ここに用いられているように、ガラス物品の中心は、tがガラス物品の厚さである、その全ての表面から少なくとも0.5tの距離であるガラス物品中の任意の位置を称する。
【0078】
ここに開示されたガラス物品は、ディスプレイを有する物品(またはディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む消費者用電子機器)、建築物品、輸送物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、電化製品、またはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性またはその組合せを必要とする任意の物品などの別の物品中に組み込まれることがある。ここに開示されたガラス物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、図2Aおよび2Bに示されている。詳しくは、図2Aおよび2Bは、前面204、背面206、および側面208を有する筐体202;その筐体内に少なくとも一部がまたは全てがあり、少なくとも制御装置、メモリ、および筐体の前面またはそれに隣接したディスプレイ210を含む電気部品(図示せず);およびディスプレイの上にあるように筐体の前面にあるまたはそれを覆うカバー212を備えた消費者用電子機器200を示す。実施の形態において、カバー212および筐体202の少なくとも一方の少なくとも一部は、ここに記載されたガラス物品のいずれかを含むことがある。
【実施例
【0079】
実施の形態を、以下の実施例によりさらに明白にする。これらの実施例は、上述した実施の形態に限定されないことを理解すべきである。
【0080】
ガラス組成物を調製し、分析した。分析したガラス組成物は、下記の表IIに列挙された成分を含み、従来のガラス成形方法によって調製した。表IIにおいて、全ての成分はモル%で表され、ガラス組成物のポアソン比(ν)、ヤング率(E)、および剛性率(G)は、ここに開示された方法にしたがって測定した。
【0081】
【表2-1】
【0082】
【表2-2】
【0083】
【表2-3】
【0084】
【表2-4】
【0085】
【表2-5】
【0086】
【表2-6】
【0087】
【表2-7】
【0088】
【表2-8】
【0089】
【表2-9】
【0090】
本明細書に記載された全ての組成成分、関係、および比は、特に明記のない限り、モル%で与えられている。本明細書に開示された全ての範囲は、範囲が開示される前または後に明白に述べられていようとなかろうと、広く開示された範囲により包含される任意と全ての範囲および部分的範囲を含む。
【0091】
請求項の主題の精神と範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に、様々な改変および変更を行えることが当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が、付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲に入るという前提で、包含することが意図されている。
【0092】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0093】
実施形態1
34モル%以上から65モル%以下のSiO
2モル%以上から25モル%以下のAl
1モル%以上から40モル%以下のMgO、
1モル%以上から10モル%以下のNaO、および
3モル%以上から17モル%以下のLiO、
を含むガラスであって、
前記ガラスは、LaおよびYを実質的に含まず、0.24以上のポアソン比を有する、ガラス。
【0094】
実施形態2
前記ポアソン比が0.25以上である、実施形態1に記載のガラス。
【0095】
実施形態3
前記ポアソン比が0.30以下である、実施形態1または2に記載のガラス。
【0096】
実施形態4
前記ポアソン比が0.27以下である、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラス。
【0097】
実施形態5
0モル%以上から16モル%以下のBを含む、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラス。
【0098】
実施形態6
前記ガラスがBを実質的に含まない、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラス。
【0099】
実施形態7
2モル%以上から16モル%以下のBを含む、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラス。
【0100】
実施形態8
0モル%以上から7モル%以下のCaOを含む、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラス。
【0101】
実施形態9
前記ガラスがCaOを実質的に含まない、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラス。
【0102】
実施形態10
1モル%以上から6モル%以下のCaOを含む、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラス。
【0103】
実施形態11
0モル%以上から1モル%以下のKOを含む、実施形態1から10のいずれか1つに記載のガラス。
【0104】
実施形態12
前記ガラスがKOを実質的に含まない、実施形態1から11のいずれか1つに記載のガラス。
【0105】
実施形態13
0モル%以上から0.2モル%以下のSnOを含む、実施形態1から12のいずれか1つに記載のガラス。
【0106】
実施形態14
前記ガラスがSnOを実質的に含まない、実施形態1から13のいずれか1つに記載のガラス。
【0107】
実施形態15
前記ガラスがSrOを実質的に含まない、実施形態1から14のいずれか1つに記載のガラス。
【0108】
実施形態16
前記ガラスがBaOを実質的に含まない、実施形態1から15のいずれか1つに記載のガラス。
【0109】
実施形態17
前記ガラスがHfOを実質的に含まない、実施形態1から16のいずれか1つに記載のガラス。
【0110】
実施形態18
前記ガラスがZrOを実質的に含まない、実施形態1から17のいずれか1つに記載のガラス。
【0111】
実施形態19
前記ガラスが、75GPa以上から105GPa以下のヤング率を有する、実施形態1から18のいずれか1つに記載のガラス。
【0112】
実施形態20
前記ガラスが、30GPa以上から41GPa以下の剛性率を有する、実施形態1から19のいずれか1つに記載のガラス。
【符号の説明】
【0113】
100 ガラス物品
110 第一面
112 第二面
120 第1の圧縮層、第1のセグメント
122 第2の圧縮層、第2のセグメント
130 中央領域
200 消費者用電子機器
204 前面
206 背面
208 側面
210 ディスプレイ
212 カバー
図1
図2A
図2B
【国際調査報告】