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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】前駆細胞の分化の為の無血清培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20231206BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20231206BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20231206BHJP
【FI】
C12N5/077
A23L13/00 Z
A23L13/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531688
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-07-18
(86)【国際出願番号】 NL2021050718
(87)【国際公開番号】W WO2022114955
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】2026978
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520426139
【氏名又は名称】モサ ミート ビーブイ
【氏名又は名称原語表記】MOSA MEAT BV
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】クルス,ヘルダー
(72)【発明者】
【氏名】フラック,ジョシュア エドウィン
(72)【発明者】
【氏名】フルキン,カロリーナ
(72)【発明者】
【氏名】クレヴェニック,イヴァ
(72)【発明者】
【氏名】メルツェナー,レア
(72)【発明者】
【氏名】メスマー,トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ポスト,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ファン,エッセン アノン
【テーマコード(参考)】
4B042
4B065
【Fターム(参考)】
4B042AC10
4B042AD39
4B042AK14
4B042AK20
4B042AP30
4B065AA90X
4B065BB03
4B065BB19
4B065BB20
4B065BB32
4B065BD25
4B065CA41
(57)【要約】
本発明はなかんずく、筋前駆細胞を分化させる方法であって、筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地中で筋前駆細胞を培養することの工程を含み、ここで、前記無血清培地が、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子を含む、上記の方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋前駆細胞を分化させる方法であって、
筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地中で筋前駆細胞を培養すること
の工程を含み、
ここで、前記無血清培地が、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子を含む、
前記方法。
【請求項2】
前記無血清培地が、(i)リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト及びラクテート、並びに(ii)Notchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト及び/又は前記リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストがリゾホスファチジン酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記オキシトシン受容体(OXTR)アゴニストがオキシトシンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記グルカゴン受容体(GCGR)アゴニストがグルカゴンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記Notchシグナル伝達経路阻害剤がガンマ-セクレターゼ阻害剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記Notchシグナル伝達経路阻害剤が、DAPT、E2012、L685458、RO4929097及びLY-411575からなる群より選択される化合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、筋前駆細胞を増殖させ、その後、増殖された筋前駆細胞を分化させる方法であり、ここで、前記方法は更に、該筋前駆細胞を分化させる前に、筋前駆細胞を増殖させる為の無血清培地中で筋前駆細胞を培養して、それによって、増殖された筋前駆細胞を提供することの工程を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記分化方法、及び/又は筋前駆細胞の増殖と、その後の、増殖された筋前駆細胞の分化方法が、(完全)無血清方法である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記筋前駆細胞が、ウシ筋前駆細胞、好ましくはウシ(筋)衛星細胞、である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
分化させる為の該無血清培地中での該筋前駆細胞の該培養は、該筋前駆細胞を、筋細胞、筋管及び/又は筋原線維に分化させることができる条件下で実施される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
任意的に脂肪細胞と組み合わせて、前記該筋細胞、筋管及び/又は筋原線維をヒトによる消費の為の肉製品内に取り込むことの工程を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
分化させる為の前記無血清培地が更に、上皮成長因子(EGF)又はその代替物を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
分化させる為の前記無血清培地が更に、アルブミン又はその代替物を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
分化させる為の前記無血清培地が更に、グルコース源及び/又はグルタミン源を更に含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
分化させる為の前記無血清培地が更に、鉄源及び/又は鉄輸送体を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
分化させる為の前記無血清培地が更に、アスコルビン酸又はその誘導体を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
分化させる為の前記無血清培地が更に、亜セレン酸ナトリウムを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
分化させる為の前記無血清培地が更に、エタノールアミンを含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
分化させる為の前記無血清培地が更に、インスリンを含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
分化させる為の前記無血清培地が更に、重炭酸ナトリウムを含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
分化させる為の前記無血清培地が更に、
リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト及びラクテートからなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子;
上皮成長因子(EGF)又はその代替物;
アルブミン又はその代替物;
グルコース源及びグルタミン源;
鉄源又は鉄輸送体;
アスコルビン酸又はその誘導体;
亜セレン酸ナトリウム;
エタノールアミン;
インスリン;及び、
重炭酸ナトリウム;並びに、
任意的に、Notchシグナル伝達経路阻害剤
を含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
分化させる為の該無血清培地及び/又は増殖させる為の該無血清培地中の全ての成分が、動物質を含まない、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地であって、該培地が請求項1~23のいずれか1項に定義されたものである、前記無血清培地。
【請求項25】
請求項24に定義された分化させる為の無血清培地と、筋前駆細胞及び/又は部分的に分化した細胞若しくは最終分化した細胞、例えば、筋細胞、筋管及び/又は筋原線維、とを含む組成物。
【請求項26】
請求項24に記載の無血清培地又は請求項25に記載の組成物であって、前記筋前駆細胞がウシ筋前駆細胞である、前記無血清培地又は組成物。
【請求項27】
請求項1~23のいずれか1項に記載された方法によって得られうる、筋細胞、筋管及び/又は筋原線維の培養物。
【請求項28】
請求項1~23のいずれか1項に記載された方法によって得られうる、筋細胞、筋管及び/又は筋原線維を含む肉製品であって、該肉製品が更に、任意的に、脂肪細胞、好ましくはウシ脂肪細胞、を含む、前記肉製品。
【請求項29】
請求項27に記載の培養物、又は請求項28に記載の肉製品であって、前記培養物又は前記肉食品が、血清成分、例えばウシ胎児血清成分、を欠いている、前記培養物又は肉製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞培養の為の無血清培地、より特には、ウシ前駆細胞、例えばウシ筋前駆細胞、を筋細胞(myocytes)に分化する方法において用いる為の無血清培地、の分野である。本発明はまた、本明細書に開示されている培地を用いる細胞培養によるそのような前駆細胞を分化する為の方法、及びそのような方法で得られた肉製品に関する。分化の前に、該前駆細胞は、例えば、ヒト食用培養肉の製造(production of cultured meat for human consumption)の為の完全無血清細胞培養方法の一部として、無血清培地中の増殖に供されうる。
【背景技術】
【0002】
種々の由来の血清は、動物細胞培地中の必須成分として用いられてきたが、これは、他の成分の中で、複数の重要な栄養素、ビタミン、成長因子(growth factors)及び接着タンパク質を提供する為である。
【0003】
しかしながら、血清は、汚染物質、例えば、細菌、マイコプラズマ、ウイルス及びプリオン、の潜在源であり、プリオンは、ヒト、及び血清が最も多く得られる他の動物、例えばウシ、における感染性神経変性疾患の作用物質であることから、より最近の関心事になっている。これらの考慮すべき事柄は、特に動物細胞型が食品用途、例えば、細胞培養ベースのヒト食用食肉製造(cell culture-based meat production for human consumption)、の為に培養されるときに重要な役割を果たす。
【0004】
更に、血清は、バイオプロセスに高いコストを示し、血清のロット間のばらつきを考慮すると、性能にばらつきをもたらす。加えて、細胞培養用途に血清が用いられる場合、動物の幸福は関心事である。
【0005】
種々の組織源、しばしば筋組織、から得られた前駆細胞の筋原性分化は、伝統的には、培地中の血清の百分率を減少させること、しばしば血清を20%(v/v)から2%(v/v)に減少させること、によって実施される。血清を含有しない、そして無血清培養条件下で既に増殖している及び/又は拡大している前駆細胞の分化を誘導する、筋肉分化培地は、以前に開発されていない。これは特に、血清濃度を低減する立証された参照方法による細胞分化を誘導する条件が不可能である、完全無血清細胞培養方法において、無血清分化培地中で先に増殖された前駆細胞を分化させる為に無血清分化培地が用いられる場合に関連する。
【0006】
従って、例えばそのような細胞が無血清条件下で先に増殖された(拡大された)場合に、前駆細胞を分化することができる無血清細胞培地が求められている。特に、細胞培養ベースのヒト食用食肉製造(cell culture-based meat production for human consumption)では、そのような培地が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等は、ヒト以外の哺乳類前駆細胞、例えばウシ、ヒツジ及びブタの前駆細胞、好ましくはウシ、ヒツジ又はブタの筋前駆細胞、の分化に用いることができる無血清培地を見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
それ故に、本発明は、1つの観点において、筋前駆細胞を分化させる方法であって、筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地中で筋前駆細胞を培養することの工程を含み、ここで、該無血清培地が、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子を含む、上記の方法を提供する。
【0009】
RNAシークエンシングデータから、驚くべきことに、筋肉組織由来前駆細胞の識別の細胞表面受容体が、該前駆細胞の筋細胞(myocytes)への分化のプロセスの間に上方制御されることが立証された(実施例1)。識別された過剰発現した受容体の少なくとも1つのアゴニスト(誘発因子)(すなわち、LPAR1、LPAR3、OXTR又はGCGRのアゴニストのうちの少なくとも1つ)又はラクテートを無血清培地に取り込むことによって、驚くべきことに、筋肉分化が実際に誘導されることができることが見いだされた(実施例2)。該データはまた、ある範囲の濃度で該受容体アゴニストのうちの1以上を添加することにより分化を達成することが可能であることを示す(実施例3)。更に、ウシ筋前駆細胞の亜集団において、Notch2及びNotch3受容体が上方制御されること(実施例4)、並びにNotch経路シグナル伝達を阻害することが筋肉分化を更に向上させること(実施例5;図3)が見いだされた。
【0010】
本発明者等の別の重要で予想外の成果は、筋前駆細胞、特にウシ、ヒツジ又はブタの筋前駆細胞、の分化に用いることができる無血清培地、例えば上記で言及された分化誘発因子のうちの1以上を含有する無血清培地、を定義することができたことであった。
【0011】
本発明者等の別の重要で予想外の成果は、完全無血清細胞培養方法において、無血清増殖培地中で先に増殖した前駆細胞の分化に用いることができる無血清培地を定義することができたことであった。完全無血清細胞培養方法において、立証され、広く使用された、血清濃度を低減する参照方法による細胞分化の誘導は不可能である。
【0012】
本発明の無血清培地の利点は、血清を含まないことであり、好ましくは、動物成分をまた含まないことである。そのような無血清培地は、生存細胞培養ベースの肉製品を得る為に必要とされる血清を含む培地よりも有意に低いコストで製造されることができる。加えて、細胞培養用途におけるそのような無血清培地の使用は、現在の食品規制を満たし、本明細書に開示されている細胞培養ベースの肉製品を開発する場合に有益である。
【0013】
本発明の分化方法の好ましい実施態様において、該筋前駆細胞は、増殖された筋前駆細胞である(すなわち、好適な組織源からの単離後に細胞培養において増殖された又は拡大された筋前駆細胞である)。言い換えれば、好ましい実施態様において、該筋前駆細胞は、筋前駆細胞を増殖する又は拡大する、細胞培養物が起源であるか又はそれに由来する、筋前駆細胞であり、好ましくはここで、該細胞培養物は、無血清(増殖(proliferation)又は拡大(expansion))培地に含まれる細胞培養物である。
【0014】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該無血清培地は、(i)リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1:lysophosphatidic acid receptor 1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3:lysophosphatidic acid receptor 3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR:oxytocin receptor)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR:glucagon receptor)アゴニスト及びラクテートからなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子、並びに(ii)Notchシグナル伝達経路阻害剤を含む。実施態様において、該無血清培地は、(i)リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト及びNotchシグナル伝達経路阻害剤、(ii)リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト及びNotchシグナル伝達経路阻害剤、(iii)オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト及びNotchシグナル伝達経路阻害剤、(iv)グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト及びNotchシグナル伝達経路阻害剤、又は(v)ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤を含む。
【0015】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト及び/又は該リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストは、リゾホスファチジン酸である。
【0016】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該オキシトシン受容体(OXTR)アゴニストは、オキシトシンである。
【0017】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該グルカゴン受容体(GCGR)アゴニストは、グルカゴンである。
【0018】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該Notchシグナル伝達経路阻害剤は、ガンマ-セクレターゼ阻害剤である。
【0019】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該Notchシグナル伝達経路阻害剤は、DAPT、E2012、L685458、RO4929097及びLY-411575からなる群より選択される化合物、好ましくはDAPT、である。
【0020】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該方法は、筋前駆細胞を増殖させ、その後、増殖された筋前駆細胞を分化させる方法であり、ここで、該方法は更に、該筋前駆細胞を分化させる前に、筋前駆細胞を増殖させる為の無血清培地中で筋前駆細胞を培養し、それによって、増殖された筋前駆細胞を提供することの工程を含む。
【0021】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該分化方法、及び/又は筋前駆細胞の増殖と、その後の、増殖された筋前駆細胞の分化方法は、(完全)無血清方法である。
【0022】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該筋前駆細胞は、ウシ筋前駆細胞、好ましくはウシ(筋)衛星細胞、である。
【0023】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地中での該筋前駆細胞の該培養は、該筋前駆細胞を、筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維に分化させることができる条件下で実施される。
【0024】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、該方法は更に、任意的に脂肪細胞と組み合わせて、該筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維をヒトによる消費の為の肉製品内に取り込むことの工程を含む。
【0025】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、上皮成長因子(EGF:epidermal growth factor)又はその代替物を含む。
【0026】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、アルブミン又はその代替物を含む。
【0027】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、グルコース源及び/又はグルタミン源を含む。
【0028】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、鉄源及び/又は鉄輸送体を含む。
【0029】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、アスコルビン酸又はその誘導体を含む。
【0030】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、亜セレン酸ナトリウムを含む。
【0031】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、エタノールアミンを含む。
【0032】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、インスリンを含む。
【0033】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は更に、重炭酸ナトリウムを含む。
【0034】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地は、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト及びラクテートからなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子;上皮成長因子(EGF)又はその代替物;アルブミン又はその代替物;グルコース源及びグルタミン源;鉄源又は鉄輸送体;アスコルビン酸又はその誘導体;亜セレン酸ナトリウム;エタノールアミン;インスリン;及び重炭酸ナトリウム;並びに任意的に、Notchシグナル伝達経路阻害剤を含む。
【0035】
本発明の分化方法の別の好ましい実施態様において、分化させる為の該無血清培地及び/又は増殖させる為の該無血清培地中の全ての成分は、動物質を含まない。
【0036】
別の観点において、本発明は、筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地であって、本発明の分化方法の観点及び/又は実施態様のいずれか1つにおいて定義されている、該無血清培地を提供する。
【0037】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の好ましい実施態様において、該リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、例えばリゾホスファチジン酸、が存在し、該リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストは、0.01~500μM、好ましくは0.5~50μM、より好ましくは約5μM、の濃度で存在する。
【0038】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、例えばリゾホスファチジン酸、が存在し、該リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストは、0.01~500μM、好ましくは0.5~50μM、より好ましくは約5μM、の濃度で存在する。
【0039】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、例えばオキシトシン、が存在し、該オキシトシン受容体(OXTR)アゴニストは、0.01~1000nM、好ましくは5~500nM、より好ましくは約50nM、の濃度で存在する。
【0040】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、例えばグルカゴン、が存在し、該グルカゴン受容体(GCGR)アゴニストは、0.01~100μM、好ましくは0.1~10μM、好ましくは約1μM、の濃度で存在する。
【0041】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該ラクテートが存在し、該ラクテートは、0.1~1000mM、好ましくは2~200mM、より好ましくは約10~20mM、の濃度で存在する。
【0042】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該Notchシグナル伝達経路阻害剤が存在し、該Notchシグナル伝達経路阻害剤(DAPT等)は、0.01~1000μM、例えば0.1~100μM又は1~50μM、の濃度で存在する。
【0043】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、基礎培地が存在し、好ましくは、ここで、該基礎培地は、DMEM及び/又はハムF12、より好ましくは、DMEM単独又は1:10~10:1の比のDMEM及びハムF12培地のいずれか、更により好ましくは、DMEM単独又は1:1の比のDMEM及びハムF12培地のいずれか、を含む。代替的には、該基礎培地は、アルファ-MEM又はM199も含みうる。DMEM、ハムF12培地、アルファ-MEM及びM199は、基礎培地の例である。任意の成分の代替、低減又は排除による基礎培地の改変を含む基礎培地も用いられうる。例として、基礎培地、例えばDMEM、はまた、ピルビン酸塩、グルコース源及び/又はグルタミン源で補充されうる。
【0044】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、グルコース源及び/又はグルタミン源が存在し、該グルコース源は、0.01~10g/l、好ましくは0.1~4.5g/l、の濃度で存在し、該グルタミン源は、0.01~80mM、好ましくは0.1~8mM、の濃度で存在する。
【0045】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、アルブミン又はその代替物が存在し、該アルブミン又は該代替物は、0.01~50g/l、好ましくは0.05~5g/l、より好ましくは0.1~1g/l、の濃度で存在する。
【0046】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、鉄源又は鉄輸送体、例えばトランスフェリン、が存在し、該鉄源又は該鉄輸送体は、0.1~1000mg/l、好ましくは1~100mg/l、より好ましくは約11mg/l、の濃度で存在する。
【0047】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、インスリンが存在し、該インスリンは、0.1~400mg/l、好ましくは2~200mg/l、より好ましくは約19mg/l、の濃度で存在する。
【0048】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、亜セレン酸ナトリウムが存在し、該亜セレン酸ナトリウムは、0.1~1000μg/l、好ましくは1~100μg/l、より好ましくは約14μg/l、の濃度で存在する。
【0049】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、エタノールアミンが該培地中に存在し、該エタノールアミンは、0.01~100mg/l、より好ましくは0.1~10mg/l、更により好ましくは2~5mg/l、の濃度で存在する。
【0050】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該アスコルビン酸又はその該誘導体が存在し、該アスコルビン酸又は該誘導体は、1~10000mg/l、好ましくは10~1000mg/l又は50~500mg/l、より好ましくは約115mg/l、の濃度で存在する。
【0051】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該上皮成長因子(EGF)又はその代替物が存在し、該EGF又はその代替物は、0.1~1000μg/l、好ましくは1~100μg/l、より好ましくは約10μg/l、の濃度で存在する。
【0052】
本発明の分化方法又は本発明の無血清培地の別の好ましい実施態様において、該重炭酸ナトリウムが存在し、該重炭酸ナトリウムは、1~10000mg/l、好ましくは50~5000mg/l又は250~750mg/l、より好ましくは約543mg/l、の濃度で存在する。
【0053】
別の観点において、本発明は、本発明の分化させる為の無血清培地と、筋前駆細胞及び/又は部分的に分化した細胞若しくは最終分化した細胞、例えば筋芽細胞、筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維、とを含む組成物を提供する。
【0054】
別の観点において、本発明は、本発明の分化方法によって得られうる、筋細胞(myocytes)、筋管及び/又は筋原線維の培養物を提供する。
【0055】
別の観点において、本発明は、本発明の分化方法によって得られうる、筋細胞(myocytes)、筋管及び/又は筋原線維を含む肉製品であって、該肉製品が更に、任意的に、脂肪細胞、好ましくはウシ脂肪細胞、を含む、上記肉製品を提供する。
【0056】
本発明の肉製品の好ましい実施態様において、該肉製品は、炎症細胞、例えば免疫細胞、を含まず、抗生物質及び/又は抗生物質残留物を含まず、赤血球を含まず、動物の屠畜によって得られた肉製品と比較して、より低いレベルの微生物汚染を含み、軟骨組織を含まず、及び/又は動物の屠畜によって得られた肉製品と比較して、より低いレベルの線維性組織を含む。
【0057】
本発明の肉製品の別の好ましい実施態様において、該肉製品は、抗生物質及び/又は抗生物質残留物を含まず、赤血球を含まず、動物の屠畜によって得られた肉製品と比較して、より低いレベルの微生物汚染を含み、及び/又は軟骨組織を含まない。
【0058】
別の観点において、本発明は、前駆細胞を分化させる為の本発明の無血清培地の使用を提供する。同様に、本発明は、前駆細胞の分化、好ましくは該前駆細胞の筋肉分化、より好ましくは該前駆細胞の筋芽細胞、筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維への筋肉分化、の為の、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される分化誘発因子の使用を提供する。
【0059】
別の観点において、本発明は、上皮成長因子(EGF)又はその代替物;アルブミン又はその代替物;グルコース源及び/又はグルタミン源;鉄源又は鉄輸送体;アスコルビン酸又はその誘導体;亜セレン酸ナトリウム;エタノールアミン;インスリン;並びに重炭酸ナトリウムを含む、無血清培地を提供する。本発明者等は、そのような培地が、本明細書に記載されている分化誘発因子のうちの1以上の存在なしでさえ、前駆細胞をある程度まで分化させることが可能であったが(例えば、ここで、該前駆細胞は、無血清細胞培養条件下で先に分化された(拡大された))、性能は、本明細書に開示されている分化誘発因子が該培地中に含まれる状況と比較して、大幅に低かったことを立証した。
【0060】
当業者は、グルコース源及び/又はグルタミン源が、基礎培地、例えばM199、アルファ-MEM、DMEM及び/又はハムF12培地、例えばDMEM単独又は1:10~10:1の比のDMEM及びハムF12培地、より好ましくはDMEM単独又は1:1の比のDMEM及びハムF12培地、の形態で提供されることができることを容易に理解する。
【発明を実施するための形態】
【0061】
定義
本明細書において用いられる場合、語「無血清(serum-free)」は、血清、例えばヒト血清又はウシ血清、の非存在下で配合される培地への言及を包含する。無血清培地は、血清アルブミンを該培地に添加することにより、血清タンパク質、例えば血清アルブミン、を含みうる。しかしながら、好ましくは、該培地の全ての成分は、動物質を含まない、すなわち、該成分は、例えば組換えにより産生されるが、動物から得られるものではない。例えば、アルブミンは、組換えにより生産されることが好ましい。本発明の無血清培地の該成分の濃度は、前駆細胞、例えばウシ前駆細胞、の培養及び分化、好ましくは筋肉分化、に対して調節され、そして最適化されることができる。例として、無血清培地は、グルコース源及び/又はグルタミン源を含有する無血清基礎培地を含むことができ、又はグルコース源及び/又はグルタミン源で補充されることができる無血清基礎培地を含むことができる。好ましくは、本発明の(すなわち、本明細書に、記載されている/開示されている)無血清培地において、該分化誘発因子、該上皮成長因子(EGF)、該アルブミン、該基礎培地、該グルコース源、該グルタミン源、該鉄源若しくは該鉄輸送体、該アスコルビン酸若しくはその該誘導体、該亜セレン酸ナトリウム、該エタノールアミン、該インスリン及び/又は該重炭酸ナトリウムは、培養において前駆細胞を分化させることができる有効量で存在し、好ましくは、ここで、先の培養工程における該前駆細胞は、無血清条件下、例えば前駆細胞の増殖の為の無血清培地を用いる無血清条件下、増殖されている又は拡大されている(或いは先に増殖された若しくは拡大された前駆細胞の培養物が起源である又はそれに由来する)。筋前駆細胞の増殖(proliferation)又は拡大(expansion)の為の無血清培地の非限定的な例は、実施例3に提供される。
【0062】
本明細書において用いられる場合、語「培養(培養する)(culturing)」は、前駆細胞、例えばウシ、ヒツジ又はブタの前駆細胞、の分化又は増殖への言及を包含する。本発明の文脈において、この語は好ましくは、ウシ前駆細胞の分化又は増殖への言及を包含する。しかしながら、本発明の無血清培地はまた、ヒツジ及びブタの(筋)前駆細胞といったヒト以外の他の哺乳類前駆細胞を分化又は増殖する為にも採用されうることを理解されたい。それ故に、ウシ前駆細胞に関して本明細書に記載されている、あらゆる実施態様はまた、ヒツジ(ヒツジ等)の前駆細胞及びブタ(ブタ等)の前駆細胞、すなわち、ヒツジ又はブタ由来の前駆細胞に適用可能である。前駆細胞の分化方法に関して本明細書において用いられる場合、語「培養(培養する)(culturing)」は、前駆細胞、例えば(筋)衛星細胞、の部分的に分化した細胞又は最終分化した細胞、好ましくは筋芽細胞、筋細胞(myocyte)、筋管又は筋原線維、に分化、好ましくは筋肉分化、させることができる細胞培養条件への言及を包含する。当業者は、前駆細胞を分化させることができる好適な細胞培養条件を十分に承知している。
【0063】
本明細書において用いられる場合、語「分化(differentiation)」は、細胞分化の誘発因子の存在下で未分化細胞を共培養することによる、該未分化細胞、例えば前駆細胞、における分化表現型の誘導への言及を包含する。分化は、発達的プロセスであり、それによって、細胞は、特殊化された表現型を担う、例えば他の細胞型と異なる1以上の特徴又は機能を獲得する。一部の場合において、分化表現型は、一部の発達経路における成熟エンドポイントにある細胞表現型(すなわち、最終分化細胞)、例えば筋細胞(myocyte)、筋管又は筋原線維、を云う。好ましくは、本明細書において云われる分化は、筋肉分化、すなわち筋前駆細胞(筋幹細胞、例えば衛星細胞等)の、筋細胞(myocyte)への又は筋管若しくは筋原線維への分化、である。
【0064】
本明細書において用いられる場合、語「分化誘発因子(differentiation inducer)」は、分化、好ましくは筋肉分化、を誘導、刺激又は活性化する作用物質への言及を包含する。筋肉分化の例は、筋肉分化の初期段階、例えば、分化の最初の24時間を含む、最初の72時間の筋肉分化を誘導又は駆動する、筋肉分化の初期段階である。
【0065】
本明細書において用いられる場合、語「アゴニスト(agonist)」は、受容体に結合し、該受容体によってモジュレートされるシグナル伝達経路を活性化して、それによって、細胞、例えば前駆細胞、における応答を生じさせる、物質への言及を包含する。アゴニストは、該受容体及び/又は該受容体によってモジュレートされる該シグナル伝達経路に対する活性化効果、刺激効果又は誘導効果を有する、内因性リガンド(及び本明細書において用いられる場合、アゴニストは該内因性リガンドであることができる)の作用を模倣する。好ましくは、受容体の該アゴニストは、リゾホスファチジン酸受容体(LPAR)アゴニスト、より好ましくはリゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト若しくはリゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト;オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト;又はグルカゴン受容体(GCGR)アゴニストである。
【0066】
既知のリゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストの例は、リゾホスファチジン酸(例えば、オレオイル-L-α-リゾホスファチジン酸、例えば、(ナトリウム)塩形態)、N-パルミトイルセリンリン酸、N-アシルエタノールアミドホスフェート、1-オレオイル-2-O-メチル-rac-グリセロホスホ-チオエート異性体2、13及び15、sn-2-アミノオキシアナログ12b、アルファ-フルオロメチレンホスホネート、ジアルキルチオホスファチジン酸、チオホスフェート脂質アナログ並びにオレオイル-チオホスフェートである。実施態様において、本明細書に開示されている該リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストは、前述のリゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストのうちの1以上であり、好ましくは、該リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストは、リゾホスファチジン酸である。作用物質がリゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストであるかどうかを当業者が評価することを可能にする、ルーチンアッセイが利用可能である。表面プラズモン共鳴(SPR)は、2種の化学物質間、例えば細胞受容体とリガンドとの間、の結合キネティクスについての会合及び解離の速度を測定する為の広く使用されている技術の例である。
【0067】
既知のリゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストの例は、リゾホスファチジン酸(例えば、オレオイル-L-α-リゾホスファチジン酸、例えば、(ナトリウム)塩形態)、N-パルミトイルセリンリン酸、N-アシルエタノールアミドホスフェート、1-オレオイル-2-O-メチル-rac-グリセロホスホ-チオエート及びその異性体2、13及び15、アルファ-フルオロメチレンホスホネート、アルファ-ヒドロキシメチレンホスフェート、ジアルキルチオホスファチジン酸、ドデシルホスフェート、チオホスフェート脂質アナログ並びにオレオイル-チオホスフェートである。実施態様において、本明細書に開示されている該リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストは、前述のリゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストのうちの1以上であり、好ましくは、該リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストは、リゾホスファチジン酸である。作用物質がリゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストであるかどうかを当業者が評価することを可能にする、ルーチンアッセイが利用可能である。表面プラズモン共鳴(SPR)は、2種の化学物質間、例えば細胞受容体とリガンドとの間、の結合キネティクスについての会合及び解離の速度を測定する為の広く使用されている技術の例である。
【0068】
既知のオキシトシン受容体(OXTR)アゴニストの例は、ペプチドアゴニスト、例えばオキシトシン、カルベトシン、バソプレシン、デスモプレシン、デモキシトシン、リポ-オキシトシン-1及びメロトシン、並びに非ペプチドアゴニスト、例えばTC OT 39、WAY-267464及びWAY 267464二塩酸塩、である。実施態様において、本明細書に開示されている該オキシトシン受容体(OXTR)アゴニストは、前述のオキシトシン受容体(OXTR)アゴニストのうちの1以上であり、好ましくは、該オキシトシン受容体(OXTR)アゴニストは、オキシトシンである。作用物質がオキシトシン受容体(OXTR)アゴニストであるかどうかを当業者が評価することを可能にする、ルーチンアッセイが利用可能である。表面プラズモン共鳴(SPR)は、2種の化学物質間、例えば細胞受容体とリガンドとの間、の結合キネティクスについての会合及び解離の速度を測定する為の広く使用されている技術の例である。
【0069】
既知のグルカゴン受容体(GCGR)アゴニストの例は、グルカゴン及びそのペプチド誘導体、例えばグルカゴン1-21及びグルカゴン1-6、並びにまたオキシントモジュリン及びNNC1702である。実施態様において、本明細書に開示されている該グルカゴン受容体(GCGR)アゴニストは、前述のグルカゴン受容体(GCGR)アゴニストのうちの1以上であり、好ましくは、該グルカゴン受容体(GCGR)アゴニストは、グルカゴンである。作用物質がグルカゴン受容体(GCGR)アゴニストであるかどうかを当業者が評価することを可能にする、ルーチンアッセイが利用可能である。表面プラズモン共鳴(SPR)は、2種の化学物質間、例えば細胞受容体とリガンドとの間、の結合キネティクスについての会合及び解離の速度を測定する為の広く使用されている技術の例である。
【0070】
本明細書において用いられる場合、語「ラクテート(lactate)」は、遊離酸(乳酸)としてのラクテート、塩形態のラクテート、例えば乳酸ナトリウム、又はイオン形態のラクテートへの言及を包含する。
【0071】
本明細書において用いられる場合、語「Notchシグナル伝達経路(Notch signaling pathway)」は、哺乳類において発達及び組織ホメオスタシスにおける不可欠の役割を果たす、進化的に保存されたシグナル伝達経路への言及を包含する。Notch受容体及びリガンドは、1回膜貫通ドメインを含有する。Notchシグナル伝達は、数ある中でも、受容体及びリガンドを発現する隣接細胞間のコミュニケーションの媒介において重要である。Notch受容体は、単一ポリペプチドとして最初に合成される細胞外ドメイン及び細胞内ドメインから構成されたヘテロ二量体タンパク質である。受容体-リガンド相互作用(すなわち、Notch受容体活性化)は、γ-セクレターゼ活性が関与する該Notch受容体ポリペプチドの一連のタンパク質切断を引き起こす。より特には、γ-セクレターゼ活性は、Notch細胞内ドメイン(NICD;該タンパク質の活性型)の切断をもたらし、続いてそのドメインが核に移行して転写因子複合体を形成する。
【0072】
語「γ-セクレターゼ(γ-secretase)」及び「ガンマ-セクレターゼ(gamma-secretase)」は、本明細書において交換可能に用いられる。
【0073】
本明細書において用いられる場合、語「受容体(receptor)」は、特異的な分子(リガンド)、例えば神経伝達物質、ホルモン又は他の物質に結合し、該リガンドに対する細胞応答を開始する、細胞膜上の、又は細胞質若しくは細胞核内の、タンパク質への言及を包含する。受容体タンパク質の挙動におけるリガンド誘導性変化は、該リガンドの生物学的作用を構成する細胞変化をもたらす。
【0074】
本明細書において用いられる場合、語「Notch」又は「Notch受容体(Notch receptor)」は、4種の哺乳類のうちの1種、好ましくは、ウシ、のNotch受容体のNotch1~4、及び特に、ウシNotch2(例えば、UniProtKB-A0A3Q1MTU2)又はNotch3(例えば、UniProtKB-E1BPT8)受容体のうちの1つ、への言及を包含する。
【0075】
本明細書において用いられる場合、語「Notchシグナル伝達経路阻害剤(Notch signaling pathyway inhibitor)」は、例えばNotch受容体活性化を阻害する又はアンタゴナイズすることによって、Notchシグナル伝達を阻害する又はアンタゴナイズする、物質、例えば化合物、タンパク質、ペプチド又は他の分子、への言及を包含する。好ましくは、該物質は、例えば好適な阻害剤、例えばDAPT、を用いてガンマ-セクレターゼ活性を阻害することによって、Notchシグナル伝達経路の活性化、刺激又は誘導を阻害する又はアンタゴナイズする。好ましいNotchシグナル伝達経路阻害剤は、ガンマ-セクレターゼ阻害剤である。Notchシグナル伝達経路の阻害活性について化合物をスクリーニングする為のアッセイは、当業者にルーチン的に利用可能である。例として、Notch受容体アッセイキット(Genway Biotech社、GWB-PS79B7)は、培養細胞におけるNotchシグナル伝達経路の活性をモニターする為に用いられることができ、従って、Notchシグナル伝達経路阻害剤についてスクリーニングする為に用いられることができる。
【0076】
本明細書において用いられる場合、語「前駆細胞(progenitor cell)」は、識別型の細胞に分化すること、又は識別型の組織を形成することが約束されている細胞への言及を包含する。語「前駆細胞(progenitor cell)」は、より特殊化した細胞、例えば自己再生能、及び、特に筋細胞(myocytes)(筋細胞(muscle cells))への多分化能を有する多能性間質細胞(multipotent stromal cells)(間葉系幹細胞)に分化することができる細胞への言及を包含しうる。好ましくは、該前駆細胞は、筋前駆細胞である。前駆細胞は、野生型動物(例えば、家畜の雌ウシ、ヒツジ若しくはブタ)、又は遺伝子導入動物(例えば、遺伝子導入雌ウシ、ヒツジ若しくはブタ)から得られる、組織由来前駆細胞であることができる。該前駆細胞それ自体は、遺伝子的に組換えされていてもよく、又は遺伝子的に組換えされていなくてもよい。例えば、該前駆細胞は、ウシ、ヒツジ又はブタ由来の細胞から作製される人工多能性幹細胞(iPS:induced pluripotent stem cell)であることができる。好ましくは、該前駆細胞は、遺伝子的に組換えされていない筋組織前駆細胞又は脂肪組織由来前駆細胞である。本明細書において云われる前駆細胞は、該前駆細胞を分化することがない細胞培養によって、増殖培地中で、例えば無血清増殖培地中で、(集団サイズが)拡大される、前駆細胞であることができる。
【0077】
本明細書において用いられる場合、語「ウシ前駆細胞(bovine progenitor cells)」は、識別型のウシ細胞に分化すること、又は識別型のウシ組織を形成することが約束されているウシ細胞への言及を包含する。語「ウシ前駆細胞」は、自己再生能、及び、特に筋細胞(myocytes)(筋細胞(muscle cells))への多分化能を有する多能性ウシ間質細胞(間葉系幹細胞)への言及を包含しうる。好ましくは、該ウシ前駆細胞は、ウシ筋前駆細胞である。ウシ前駆細胞は、野生型動物(例えば、家畜の雌ウシ)、又は遺伝子導入動物(例えば、遺伝子導入雌ウシ)から得られる、組織由来ウシ前駆細胞であることができる。該ウシ前駆細胞それ自体は、遺伝子的に組換えされていてもよく、又は遺伝子的に組換えされていなくてもよい。例えば、該ウシ前駆細胞は、ウシ細胞から作製される人工多能性幹細胞(iPS)であることができる。好ましくは、該ウシ前駆細胞は、遺伝子的に組換えされていない組織由来ウシ前駆細胞である。
【0078】
本明細書において用いられる場合、語「ウシの(bovine)」は、ウシ科(Bovidae)、例えばウシ属(Bos)を包含するウシ科、に属する動物への言及を包含する。本明細書に記載されている観点及び実施態様に用いられる場合、語「ウシの」は、語「ウシ科(bovid)」に置き換えられうる。語「ウシ科」は、ウシ科のあらゆる動物を云う為に用いられることができる。ウシ科は、バイソン、バッファロー(buffalo)、アンテロープ、ヌー(wildebeest)、インパラ、ガゼル、ヒツジ、ヤギ、ジャコウネコ、及びウシ(例えば、雌ウシ)、例えば家畜のウシを包含するウシ、を包含する。特に好ましいウシの種は、ウシ(Bos taurus)(雌ウシ)である。
【0079】
本明細書において用いられる場合、語「ヒツジの(ovine)」は、ヒツジ属(Ovis)、例えばヒツジ(Ovis aries)種を包含するヒツジ属、に属するあらゆる動物への言及を包含する。該語は、家畜化された種又は野生種であることができるヒツジへの言及を包含する。
【0080】
本明細書において用いられる場合、語「ブタの(porcine)」は、イノシシ科、例えば、イノシシ科(Suidae)の亜科及びイノシシ属(Sus)を包含する上記のイノシシ科、のあらゆる動物への言及を包含する。該語は、家畜化された種又は野生種であることができるブタへの言及を包含する。
【0081】
本明細書において用いられる場合、語「筋前駆細胞(muscle progenitor cell)」は、語「筋幹細胞(muscle stem cell)」又は「筋原性前駆(細胞)(myogenic progenitor(cell))」と交換可能に用いられることができる。これらの語は、成体幹細胞であって、組織、例えば骨格筋組織、中に存在し、多能性を有し、自己再生が可能であり、骨格筋細胞等の筋細胞を生み出すことが可能な成体幹細胞への言及を包含する。該語は、筋細胞(muscle cells)、例えば骨格筋細胞、を生じさせることができる脂肪組織中に存在する前駆細胞である、脂肪(組織)由来筋前駆脂肪への言及も包含する。語「筋前駆細胞」はまた、「筋細胞前駆細胞(muscle cell progenitor)」と言及されることがある。好ましい筋前駆細胞は、ウシ筋前駆細胞、例えばウシ筋衛星細胞、である。好ましくは該筋前駆細胞、より好ましくは該筋衛星細胞、は、(骨格)筋組織由来前駆細胞である。そのような細胞は、動物からの直接単離によって得られることができるか、又は増殖培地中、好ましくは無血清増殖培地中、での増殖(proliferation)(拡大(expansion))後に得られることができる。そのような細胞は、遺伝子的に組換えされていてもよく、又は遺伝子的に組換えされていなくてもよく、好ましくは遺伝子的に組換えされていない。筋肉由来の前駆細胞は、過去に記載されているCD29の陽性発現に基づいて単離されることができる(Ding et al.,Sci.Rep.17(8):10808(2018))。そのような前駆細胞は、該前駆細胞の分化を誘導しない増殖培地を使用することによって、集団サイズを拡大されることができる。
【0082】
本明細書において用いられる場合、語「筋衛星細胞(myosatellite cell)」は、小型の多能性細胞への言及を包含し、且つ、成熟筋組織において見いだされることができる。筋衛星細胞は、骨格筋細胞の前駆体であり、衛星細胞又は分化した骨格筋細胞を生み出すことができる。筋衛星細胞は、筋組織から得られることができる前駆細胞である。筋衛星細胞は、親筋線維に筋核(myonuclei)を追加供給する可能性、又は静止状態に戻る可能性を有する。より特には、衛星細胞は活性化に応じて、細胞周期に再び入り増殖するか又は筋芽細胞、及び融合して筋管を形成する筋細胞(myocytes)に最終的に分化しうる。筋衛星細胞は、概して、筋線維の基底膜と筋線維鞘との間に存在する。筋衛星細胞は、概して、多数の特徴的な遺伝子マーカーを発現する。大部分の衛星細胞は、PAX7及びPAX3を発現する。
【0083】
本明細書において用いられる場合、語「鉄(iron)」は、鉄、例えば硝酸第二鉄及び硫酸第一鉄、を含む塩への言及を包含する。
【0084】
本明細書において用いられる場合、語「~源(source of)」は、該培地成分の前駆物質として供給される培地成分、又は該培地成分自体として供給される培地成分への言及を包含する。当業者は、本明細書に記載されている培地成分に適した前駆物質を十分に理解している。例えば、グルタミン源としてL-アラニル-L-グルタミン又はグルタミンが用いられることができ、脂肪酸源としてα-リノレン酸が用いられることができ、グルコース源としてグルコースが用いられることができる。
【0085】
本明細書において用いられる場合、語「成長因子(growth factor)」は、生体分子、すなわち、細胞機能、例えば分化、の観点を制御するタンパク質への言及を含む。該タンパク質のグループには、上皮成長因子(EGF)が包含される。好ましくは、本明細書に記載されている該成長因子及び/又はホルモンは、ヒト由来であり、及び、組換えにより生産されることが好ましい。一般的に、成長因子又はホルモン又は他のタンパク質、例えばタンパク質、に言及される場合、そのようなタンパク質は、野生型タンパク質、又はその野生型等価物、例えばヒト野生型等価物、と比較して変異されているか若しくは修飾されたタンパク質であることができる。
【0086】
本明細書において用いられる場合、語「代替物(replacement)」は、筋前駆細胞の分化に負の影響を及ぼすことなく識別の培地成分に対する代替物としての役割を果たすことができる、任意の化合物又は化合物の群又は化合物の組み合わせ、例えばペプチド、タンパク質及び/又は小分子、への言及を包含する。言い換えれば、識別の培地成分が本発明の無血清培地中に存在する状況と比較して、該培地成分の代替物は、筋前駆細胞の分化に負の影響を及ぼさない。
【0087】
本発明の無血清培地
本発明は、筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地であって、該無血清培地が、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子を含む、無血清培地を提供する。
【0088】
LPAR1は、好ましくは、ウシLPAR1、例えばUniProtKB-Q28031によって識別されたウシLPAR1、である。LPAR3は、好ましくは、ウシLPAR3、例えばUniProtKB-F1MX11によって識別されたウシLPAR3、である。OXTRは、好ましくは、ウシOXTR、例えばUniProtKB-P56449によって識別されたウシOXTR、である。GCGRは、好ましくは、ウシGCGR、例えばUniProtKB-E1BKB6によって識別されたウシGCGR、である。
【0089】
実施態様において、本明細書に開示されている分化誘発因子のうちの少なくとも1つが、1以上の本明細書に開示されている更なる分化誘発因子と組み合わせて、本発明の無血清培地中で採用されることができる。例えば、(i)LPAR1アゴニスト又はLPAR3アゴニスト、及びOXTRアゴニスト、(ii)LPAR1アゴニスト又はLPAR3アゴニスト、及びGCGRアゴニスト、(iii)LPAR1アゴニスト又はLPAR3アゴニスト、及びラクテート、(iv)OXTRアゴニスト及びGCGRアゴニスト、(v)OXTRアゴニスト及びラクテート、(vi)GCGRアゴニスト及びラクテート、並びに(vii)LPAR1アゴニスト及びLPAR3アゴニストの組み合わせ、任意的にNotchシグナル伝達経路阻害剤と組み合わされた(i)~(vii)のそれぞれが想定される。他の実施態様において、本明細書に開示されている分化誘発因子のうちの少なくとも3つ、少なくとも4つ又は少なくとも5つが、本発明の無血清培地中で採用されることができる。例えば、少なくとも3つの分化誘発因子の例は、任意的にNotchシグナル伝達経路阻害剤と組み合わされた、少なくともLPAR1(又はLPAR3)アゴニスト、OXTRアゴニスト及びGCGRアゴニストの組み合わせである。そのような組み合わせについて、筋管の安定化が観察された(データは示さない)。
【0090】
好ましくは、該無血清培地は、(i)リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト及びラクテートからなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子、並びに(ii)Notchシグナル伝達経路阻害剤を含む。そのような組み合わせは、筋前駆細胞の筋肉分化を更に向上させることができる。
【0091】
好ましくは、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニストである該分化誘発因子は、リゾホスファチジン酸、N-パルミトイルセリンリン酸、N-アシルエタノールアミドホスフェート、1-オレオイル-2-O-メチル-rac-グリセロホスホ-チオエート異性体2、13及び15、sn-2-アミノオキシアナログ12b、アルファ-フルオロメチレンホスホネート、ジアルキルチオホスファチジン酸、チオホスフェート脂質アナログ並びにオレオイル-チオホスフェートによって形成される群より選択される。最も好ましくは、該LPAR1アゴニストは、リゾホスファチジン酸である。この誘発因子は、Sigma Aldrich社カタログ番号L7260から得られることができる。好ましくは、該LPAR1アゴニストは、本発明の無血清培地中に、0.01~500μM、好ましくは0.5~50μM、より好ましくは約5μM、の濃度で存在する。リゾホスファチジン酸は、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0092】
分化誘発因子に関して本明細書において用いられる場合、語「リゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid)」は、その全ての形態、例えばその遊離酸(プロトン化された)形態、コンジュゲート塩基(非プロトン化)形態、及び塩形態(リゾホスファチジン酸(ナトリウム)塩等)への言及を包含する。
【0093】
好ましくは、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニストである該分化誘発因子は、リゾホスファチジン酸、N-パルミトイルセリンリン酸、N-アシルエタノールアミドホスフェート、1-オレオイル-2-O-メチル-rac-グリセロホスホ-チオエート及びその異性体2、13及び15、アルファ-フルオロメチレンホスホネート、アルファ-ヒドロキシメチレンホスホネート、ジアルキルチオホスファチジン酸、ドデシルホスフェート、チオホスフェート脂質アナログ並びにオレオイル-チオホスフェートによって形成される群より選択される。最も好ましくは、該LPAR3アゴニストは、リゾホスファチジン酸である。この誘発因子は、Sigma Aldrich社カタログ番号L7260から得られることができる。好ましくは、該LPAR3アゴニストは、本発明の無血清培地中に、0.01~500μM、好ましくは0.5~50μM、より好ましくは約5μM、の濃度で存在する。リゾホスファチジン酸は、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0094】
好ましくは、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニストである該分化誘発因子は、オキシトシン、カルベトシン、バソプレシン、デスモプレシン、デモキシトシン、リポ-オキシトシン-1、メロトシン、TC OT 39、WAY-267464及びWAY 267464二塩酸塩によって形成される群より選択される。最も好ましくは、該OXTRアゴニストは、オキシトシンである。この誘発因子は、Sigma Aldrich社カタログ番号O6379から得られることができる。好ましくは、該OXTRアゴニストは、本発明の無血清培地中に、0.01~1000nM、好ましくは5~500nM、より好ましくは約50nM、の濃度で存在する。オキシトシンは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0095】
好ましくは、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニストである該分化誘発因子は、グルカゴン及びそのペプチド誘導体のいずれか1つ、例えばグルカゴン1-21及びグルカゴン1-6、並びにまたオキシントモジュリン及びNNC1702によって形成される群より選択される。最も好ましくは、該GCGRアゴニストは、グルカゴンである。この誘発因子は、Sigma Aldrich社カタログ番号G2044から得られることができる。好ましくは、該グルカゴンアゴニストは、本発明の無血清培地中に、0.01~100μM、好ましくは0.1~10μM、好ましくは約1μM、の濃度で存在する。グルカゴンは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0096】
好ましくは、ラクテートは、Sigma Aldrich社カタログ番号71718から得られる。該ラクテートは、塩、例えばナトリウム塩、の形態で無血清培地に補充されることができる。該ラクテートは、本発明の無血清培地中に、0.1~1000mM、好ましくは2~200mM、より好ましくは約10~20mM、の濃度で存在することが好ましい。ラクテートは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0097】
好ましくは、Notchシグナル伝達経路阻害剤である、該分化誘発因子は、ガンマ-セクレターゼ阻害剤である。実施態様において、該ガンマ-セクレターゼ阻害剤は、DAPT(CAS 208255-80-5)、E 2012(CAS 870843-42-8)、L685458(CAS 292632-98-5)、RO4929097(CAS 847925-91-1)及びLY-411575(CAS 209984-57-6)によって形成される群より選択される。好ましくは、該ガンマ-セクレターゼ阻害剤は、DAPTである。DAPTは、Abcam社(番号ab120633)から得られることができる。該Notchシグナル伝達経路阻害剤は、本明細書に開示されている筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地中に、0.01~1000μM、例えば0.1~100μM又は1~50μM、の濃度で存在することができる。
【0098】
本発明の無血清培地が更に、上皮成長因子(EGF)又はその代替物を含むことが好ましい。好ましくは、該上皮成長因子(EGF)は、組換え(すなわち、組換えにより生産される)ヒト又はウシ上皮成長因子(EGF)、好ましくはウシ上皮成長因子(EGF)、である。EGFは、Peprotech社カタログ番号AF-100-15から得られることができる。該EGFは、本発明の無血清培地中に、0.1~1000μg/l、好ましくは1~100μg/l、より好ましくは約10μg/l、の濃度で存在することが好ましい。EGFは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0099】
好ましくは、本発明の無血清培地は更に、アルブミン又はその代替物を含む。好ましくは、該アルブミンはヒトアルブミンであり、例えばBiorbyt社(orb419911)から入手される、組換えヒトアルブミン等である。該アルブミンは、本発明の無血清培地中に、0.01~50g/l、好ましくは0.05~5g/l、より好ましくは0.1~1g/l、の濃度で存在することが好ましい。アルブミンは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0100】
本発明の無血清培地は更に、グルコース源及び/又はグルタミン源を含むことが好ましい。好ましいグルコース源は、グルコースを含み、好ましいグルタミン源は、グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンを含む。グルタミン又はL-アラニル-L-グルタミンは、Thermo Fisher Scientific(Gibco(商標)GlutaMAX(商標)カタログ番号:35050061)から得られることができる。
【0101】
該グルコース源は、本発明の無血清培地中に、0.01~10g/l、好ましくは0.1~4.5g/l、の濃度で存在することができ、該グルタミン源は、本発明の無血清培地中に、0.01~80mM、好ましくは0.1~8mM、の濃度で存在することができる。該グルコース源及び/又はグルタミン源は、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0102】
本発明の無血清培地は更に、鉄源又は鉄輸送体、好ましくはトランスフェリン、を含むことが好ましい。該鉄源又は該鉄輸送体は、0.1~1000mg/ml、好ましくは1~100mg/l、より好ましくは約11mg/l、の濃度で存在することができる。鉄又は鉄輸送体は、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。鉄輸送体、例えばトランスフェリン、は、Peprotech Biogems社カタログ番号10-366から得られることができる。
【0103】
好ましくは、本発明の無血清培地は更に、アスコルビン酸又はその誘導体、例えばL-アスコルビン酸2-リン酸、を含む。L-アスコルビン酸2-リン酸は、Sigma Aldrich社カタログ番号A8960から得られることができる。アスコルビン酸又はその誘導体、例えばL-アスコルビン酸2-リン酸、は、本発明の無血清培地中に、1~10000mg/l、好ましくは10~1000mg/l又は50~500mg/l、より好ましくは約115mg/l、の濃度で存在することができる。アスコルビン酸又はその誘導体は、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0104】
本発明の無血清培地は更に、亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム)を含むことが好ましい。亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム)は、Sigma Aldrich社カタログ番号S5261から得られることができる。亜セレン酸ナトリウムは、本発明の無血清培地中に、0.1~1000μg/l、好ましくは1~100μg/l、より好ましくは約14μg/l、の濃度で存在することができる。溶液中の、亜セレン酸ナトリウム、又はそのカチオン及びアニオンは、例えばその亜セレン酸ナトリウム塩の形態で、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0105】
本発明の無血清培地は更に、エタノールアミンを含むことが好ましい。エタノールアミンは、Sigma Aldrich社カタログ番号E9508から得られることができる。エタノールアミンは、本発明の無血清培地中に、0.1~100mg/l、好ましくは0.1~10mg/l、より好ましくは約4mg/l、の濃度で存在することができる。エタノールアミンは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0106】
本発明の無血清培地は更に、インスリンを含むことが好ましい。該インスリンは、好ましくはヒトインスリン、より好ましくは組換えにより生産されたヒトインスリン、である。組換えにより生産されたヒトインスリンは、Sigma Aldrich社(91077C)から得られることができる。インスリンは、本発明の無血清培地中に、0.1~400mg/l、好ましくは2~200mg/l、より好ましくは約19mg/l、の濃度で存在することができる。インスリンは、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0107】
好ましい実施態様において、該インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン及び亜セレン酸塩は、インスリン-トランスフェリン-亜セレン酸塩-エタノールアミン(ITSE)補充物の形態で、基礎培地に、提供される、例えば補充される、ことができる。加えて、該基礎培地は、ピルビン酸塩、グルタミン源及び/又はグルコース源を更に含みうる。加えて、又は代替的には、基礎培地は、(必須)アミノ酸補充物(MEM AA溶液50x(Gibco社カタログ番号11130051等)、大豆加水分解物、及び任意的にPSA(ペニシリンストレプトマイシンアンホテリシン)補充物を更に含みうる。
【0108】
本発明の無血清培地は、重炭酸ナトリウムを更に含むことが好ましい。重炭酸ナトリウムは、Sigma Aldrich社カタログ番号S5761から得られることができる。重炭酸ナトリウムは、本発明の無血清培地中に、1~10000mg/l、好ましくは50~5000mg/l又は250~750mg/l、より好ましくは約543mg/l、の濃度で存在することができる。溶液中の、重炭酸ナトリウム、又はそのカチオン及びアニオンは、例えばその重炭酸ナトリウム塩の形態で、基礎培地中に既に含まれていることができ、又は基礎培地に補充されることができる。
【0109】
より好ましくは、本発明の無血清培地は、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト及びラクテートからなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子;上皮成長因子(EGF)又はその代替物;アルブミン又はその代替物;グルコース源及びグルタミン源;鉄源又は鉄輸送体;アスコルビン酸又はその誘導体;亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム);エタノールアミン;インスリン;及び重炭酸塩(重炭酸ナトリウム);並びに任意的に、Notchシグナル伝達経路阻害剤を含む。同様に、好ましい本発明の無血清培地は、L-アスコルビン酸2-リン酸、亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム)、エタノールアミン、インスリン、トランスフェリン、重炭酸塩(重炭酸ナトリウム)、アルブミン、EGF;アルファ-MEM、又はM199、又はDMEM単独若しくはDMEM/F12基礎培地;及びラクテート、リゾホスファチジン酸、オキシトシン又はグルカゴンのうちの1以上;並びに任意的にガンマ-セクレターゼ阻害剤、例えばDAPT、を含む。更により好ましくは、本発明の無血清培地は、約115μg/mlの濃度のL-アスコルビン酸2-リン酸、約0.014μg/mlの濃度の亜セレン酸塩(亜セレン酸ナトリウム)、約4μg/mlの濃度のエタノールアミン、約19μg/mlの濃度のインスリン、約11μg/mlの濃度のトランスフェリン、約543μg/mlの濃度の重炭酸塩(重炭酸ナトリウム)、約0.5mg/mlの濃度のアルブミン、約10ng/mlの濃度のEGF、DMEM単独若しくはDMEM/F12基礎培地、及び約10~20mMの濃度のラクテート、0.5~10μMの濃度のリゾホスファチジン酸、10~200nMの濃度のオキシトシン又は0.1~2μMの濃度のグルカゴンのうちの1以上;並びに任意的にガンマ-セクレターゼ阻害剤、例えばDAPT、を含む。
【0110】
好ましくは、本発明の無血清培地において、全ての成分は、動物質を含まない。言い換えれば、該培地成分は、例えば組換えにより生産されるが、動物から得られるものではない。
【0111】
本発明は、本発明の無血清培地と、細胞、例えば筋前駆細胞及び/又は該前駆細胞から得られた部分的に分化した細胞若しくは最終分化した細胞、とを含む組成物も提供する。
【0112】
実施態様において、本発明の組成物は、細胞培養物である。最も好ましくは、該前駆細胞は、ウシ筋前駆細胞、例えばウシ筋衛星細胞、である。好ましくは、該前駆細胞は、筋肉組織に由来し、遺伝子的に組み換えられていない。そのような前駆細胞は、増殖(proliferation)/拡大(expansion)培地中での拡大(expansion)/増殖(proliferation)細胞培養により生産された細胞であることができる。最も好ましくは、そのような増殖(proliferation)/拡大(expansion)培地は、無血清培地でもあった。前駆細胞から得られた部分的に分化した細胞の例は、筋芽細胞である。前駆細胞から得られた最終分化した細胞の例は、筋細胞(myocyte)、筋管又は筋原線維である。
【0113】
好ましくは、本発明の無血清培地又は本発明の組成物において、該前駆細胞は、ウシ、ヒツジ又はブタの前駆細胞、好ましくはウシ、ヒツジ又はブタの筋前駆細胞、である。
【0114】
本発明は、本発明の無血清培地の製造方法であって、本明細書に開示されている本発明の無血清培地の構成成分又は成分を、基礎培地、好ましくは液体基礎培地、例えばアルファ-MEM又はM199又はDMEM又はハムF12培地、好ましくはDMEM単独又は例えば1:10~10:1の比の、DMEM及びハムF12培地のいずれか、より好ましくはDMEM単独又は1:1の比のDMEM及びハムF12培地のいずれか、を含む液体基礎培地、に添加することの工程を含む、製造方法も提供する。
【0115】
前駆細胞を分化する方法
本発明は、筋前駆細胞を分化する方法であって、筋前駆細胞を分化させる為の無血清培地中で筋前駆細胞を培養することの工程を含み、ここで、該無血清培地が、リゾホスファチジン酸受容体1(LPAR1)アゴニスト、リゾホスファチジン酸受容体3(LPAR3)アゴニスト、オキシトシン受容体(OXTR)アゴニスト、グルカゴン受容体(GCGR)アゴニスト、ラクテート及びNotchシグナル伝達経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの分化誘発因子を含む、分化方法も提供する。
【0116】
好ましくは、該前駆細胞は、本明細書の上記に開示されている無血清培地中で培養される。培養の工程は、該前駆細胞を分化させることができる、好ましくは該前駆細胞を筋肉分化させることができる、より好ましくは該前駆細胞を筋芽細胞、筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維に筋肉分化させることができる、培養条件下である。当業者は、筋肉分化が、本明細書に開示されている無血清分化培地を用いて誘導されることができる適切な培養条件を承知している。例えば、少なくとも8集団倍加の間、無血清増殖培地中で先に増殖された、ウシ筋組織から単離されたウシ筋前駆細胞は、無血清分化培地中で、Matrigel Matrix(Corning社製の356230)がコーティングされた細胞培養容器上に、37500 細胞/cm2の密度で蒔かれることができる。その後、分化は、約24時間後に、該培地を本発明の無血清分化培地に変更することによって誘導されることができる。
【0117】
好ましくは、本発明の分化方法において、該前駆細胞は、ウシ、ヒツジ又はブタの前駆細胞、好ましくはウシ、ヒツジ又はブタの筋前駆細胞、である。更により好ましくは、本発明の分化方法において、該ウシ、ヒツジ又はブタの筋前駆細胞は、ウシ、ヒツジ又はブタの筋芽細胞、筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維に分化される。
【0118】
好ましくは、本発明の分化方法において、前駆細胞は、任意の段階において、血清含有培地で培養されておらず、より好ましくは、動物成分、すなわち動物から得られた又は単離された成分、を含有する培地で培養されていない。それ故に、好ましい実施態様において、本発明の分化方法は、ヒト食用培養肉の製造の為の(完全)無血清細胞培養方法の一部である。
【0119】
本発明の分化方法は、該培養培地から、ウシ、ヒツジ又はブタの筋芽細胞、筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維を単離する又は精製することの工程を更に含みうる。
【0120】
より好ましくは、本発明の該分化方法は、任意的に脂肪細胞と組み合わせて、該筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維を、ヒトによる消費の為の肉製品に取り込む工程を更に含みうる。ヒトによる消費の為の肉製品は、好ましくは、細胞培養ベースの肉製品、例えば、細胞培養ベースのミンチされた肉製品、である。更に、該筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維を、ヒトによる消費の為の肉製品に取り込む該工程において、該筋細胞(myocyte)、筋管及び/又は筋原線維は、該肉製品に、脂肪細胞と組み合わされることができる。
【0121】
本発明は、本発明の分化方法によって得られうる、筋細胞(myocytes)、筋管及び/又は筋原線維の培養物も提供する。
【0122】
本発明は、本発明の分化方法によって得られうる、筋細胞(myocytes)、筋管及び/又は筋原線維を含む肉製品であって、該肉製品が、任意的に脂肪細胞を更に含む、肉製品も提供する。本発明の、ヒトによる消費の為の肉製品は、好ましくは細胞培養ベースの肉製品、例えば細胞培養ベースのミンチされた肉製品、であり、好ましくは、血清成分、例えばウシ胎児血清成分、を欠いている(好ましくは、血清が起源の成分を欠いている)。
【0123】
明確性及び簡潔な説明の為に、本明細書において、特徴が同一又は別々の実施態様の一部として説明されており、しかしながら、本開示は、記載されている該特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施態様を包含することが理解されるであろう。
【0124】
本明細書において言及されている文書の内容は、参照により本明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0125】
図1図1は、識別された過剰発現した受容体のアゴニスト(分化誘発因子)又はラクテートを含有する、本明細書に開示されている無血清筋肉分化培地中でのウシ筋前駆細胞の筋細胞(myocytes)への筋肉分化を示す。筋肉分化前に、該細胞は、無血清増殖培地中で拡大された。
図2図2は、本明細書に開示されている無血清筋肉分化培地中でのウシ筋前駆細胞の筋細胞(myocyte)への筋肉分化を示し、それによって、該識別された過剰発現した受容体の該アゴニスト(分化誘導培地)又はラクテートが、ある範囲の濃度で添加された。図2において、LPAはリゾホスファチジン酸を云い、OTはオキシトシンを云い、GCGはグルカゴンを云う。
図3】Notchシグナル伝達は、衛星細胞の亜集団において筋肉分化を阻害し、Notchシグナル伝達の阻害剤、例えばDAPTのようなガンマセクレターゼ阻害剤、の添加により向上しうる。より特には、図3は、DAPTが存在しない対照無血清筋肉分化培地と比較して、ある範囲の濃度(1uM、5uM及び10uM)のDAPTの添加を伴う、無血清筋肉分化培地におけるウシ筋前駆細胞の筋細胞(myocytes)への筋肉分化を示す。
【0126】
実施例
実施例1.筋肉分化の間のRNA発現
材料及び方法
筋肉分化
ウシ衛星細胞は、20%ウシ血清を含有する成長培地中に5×105 細胞/cm2で播種することによって、Matrigelがコーティングされたフラスコにおいて分化させた。24時間後、分化は、血清濃度を20%から2%に減少させることによって誘導された。
【0127】
RNA単離
RNA溶解物は、培地を除去し、PBSで洗浄した後に、組織培養試料にTRK溶解緩衝液を直接添加することによって、該試料から収穫された。該RNAは、組織培養の為の供給業者のプロトコールに従って、Omega MicroElute Total RNAキット(Bio-Rad社)を用いることによって、精製された。RNA濃度は、ナノ分光法によって決定された。
【0128】
プレシークエンシング品質管理は、バイオアナライザーを用いて実施された。ライブラリーは、TruSeq stranded mRNAキット(Illumina社)を用いて調製され、高アウトプットの75bp NextSeqフローセルにおける実行ごとに12試料を用いて配列決定された。平均で、1試料当たり37.0×106(±7.3×106)のアラインメントリードが得られた。
【0129】
リードアラインメント及び定量化
シングルエンドリードを、STAR aligner(Dobin et al.,Bioinformatics 29,15-21(2013))を用いて、参照ゲノムtau9 Bos_taurus.ARS-UCD1.2.98.gtfとアラインメントし、Rsubreadパッケージ(Liao et al.,Bioinforma.Oxf.Engl.,30:923-930(2014))のFeatureCounts機能を用いて、遺伝子に割り当てた。平均でリードの78.86%(±1.04%)が、遺伝子に一意的に割り当てられた。
【0130】
品質管理及び正規化
次に、DGEList-オブジェクトが、得られたカウントマトリックス及びBtaurus_gene_ensemblデータセット(Yates et al.,Ensembl 2020.Nucleic Acids Res.48,D682-D688(2020);Robinson et al.,Bioinforma.Oxf.Engl.,26,139-140(2010))からの遺伝子メタ情報を用いて、作成された。低存在量の遺伝子(4反復のうちの少なくとも3つにおいて表された、最小総カウントが15を下回る)は除去され、正規化因子は、edgeR(Robinson et al.,Genome Biol.,11,R25(2010);Anders et al.,Genome Biol.11,R106(2010))のNormFactor機能におけるTMM(Trimmed-mean of M-values)法を用いて、算出された。最後に、100万当たりのカウント(cpm)及び100万当たりのキロベース当たりのリードは、正規化されたライブラリーサイズに基づいて、コンピュータ計算された。
【0131】
次元削減及び差次的発現分析
主成分分析は、RPKMの分散に基づいて、500の最も可変の遺伝子を用いて、実施された。差次的発現分析は、log(1.2)のlfc閾値(McCarthy et al.,Nucleic Acids Res.40,4288-4297(2012);Ritchie et al.,Nucleic Acids Res.43,e47(2015))を用いる共通の値に対する経験的eBayesモデレーションによる分化の各日間の各遺伝子について実施された。遺伝子は、1のlog-Fcカットオフを上回る差次的発現(DE)及び5%を下回るFDRと見なされ、個々のボルケーノプロットにおいて可視化された。D0とD1との間で1000の最も差次的発現した遺伝子のz値を示すヒートマップが構築され、ここで、試料は、ユークリッド距離を用いるウォードの最小分散法を用いてクラスター化された(Ward,J.Am.Stat. Assoc.58,236-244(1963))。最後に、過剰出現した遺伝子オントロジー(GO)用語は、上方制御及び下方制御されたDE遺伝子の両方についてコンピュータ計算された(Ashburner et al.,The Gene Ontology Consortium.Nat.Genet.25,25-29(2000);The Gene Ontology Consortium,Nucleic Acids Res.47,D330-D338(2019))。
【0132】
結果
RNAシークエンシング実験は、筋肉分化の初期段階において上方制御される受容体の識別を提供しており、筋肉分化誘発因子を識別することができる。表1は、血清含有条件下での初期段階(0日目/1日目)の筋肉分化の間に得られたRNAシークエンシングデータの分析によって、無血清条件下で誘発因子として使用される代表的なアゴニストを示す、膜受容体をコードする上方制御された遺伝子を識別する。
【0133】
【表1】
【0134】
実施例2.本発明の無血清培地の製造
本明細書に開示されている前駆細胞の分化の為の例示的な無血清培地は、次のとおり調製された。
【0135】
DMEM/F12 1:1若しくは10:1若しくは1:0、又はアルファ-MEM、又はM199培地は、0.5mg/mlのアルブミン(Richcore社製の組換えヒトアルブミン)、19.4ug/mlのインスリン(組換えヒトインスリン、Peprotech社製の10-365)、10.7ug/mlのトランスフェリン(組換えヒトトランスフェリン、Peprotech社製の10-366)、0.014ug/mlの亜セレン酸ナトリウム(SigmaAldrich社製のS5261)、4ug/mlのSigma Aldrich社製カタログ番号E9508のエタノールアミン、115.22ug/mlのアスコルビン酸(L-アスコルビン酸2-リン酸セスキマグネシウム塩水和物、SigmaAldrich社製のA8960)、10ng/mlのEGF(組換えヒトEGF、Peprotech社製のAF-100-15)及び以下の誘発因子のうちの1つ:10mMのラクテート(L-乳酸ナトリウム、SigmaAldrich社製の71718)、5uMのLPA(オレオイル-L-α-リゾホスファチジン酸ナトリウム塩、SigmaAldrich社製のL7260)、50nMのオキシトシン(SigmaAldrich社製のO6379)、又は1uMのグルカゴン(SigmaAldrich社製のG2044)で補充された。
【0136】
実施例3.前駆細胞の筋肉分化
材料及び方法
ウシ筋前駆細胞は、ウシ筋組織(ウシ(Bos taurus))から単離され、過去に記載されているCD29の陽性発現に基づいて選別された(Ding et al.,Sci.Rep.,17(8):10808(2018))。筋前駆細胞は、分化前に、少なくとも8集団倍加の間、無血清増殖培地中で増殖(propagated)させた。簡単に言えば、該細胞は、適切なコラーゲンがコーティングされた細胞培養容器内で、無血清増殖培地(アルブミン(5mg/ml)、ソマトトロピン(2ng/ml)、L-アスコルビン酸2-リン酸(50μg/ml)、ヒドロコルチゾン(36ng/ml)、α-リノレン酸(1μg/ml)、インスリン(10μg/ml)、トランスフェリン(5.5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(0.0067μg/ml)、エタノールアミン(2μg/ml)、L-アラニル-L-グルタミン又はグルタミン(2mM)、IL-6(5ng/ml)、bFGFとも云われるFGF2(10ng/ml)、IGF1(100ng/ml)、VEGF(10ng/ml)、HGF(5ng/ml)、PDGF-BB(10ng/ml)及びDMEM/F12基礎培地)中に、5000 細胞/cm2の密度で播種された。該細胞は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、ThermoFischer Scientific社製の20012027)により1回リンスされた後、トリプシン(ThermoFischer Scientific社製の25200072)を添加することにより、90%の培養密度に達したときに、継代された。該細胞が一旦剥離すると、トリプシンは、ダイズ(Glycine max)由来のトリプシンインヒビター(Sigma Aldrich社製のT6522)を加えて中和され、該細胞は、PBSに集められ、350gで遠心分離された。上清は吸引され、細胞ペレットは、該無血清増殖培地に再懸濁された。該細胞は、Matrigel Matrix(Corning社製の356230)がコーティングされた細胞培養容器上で、該無血清増殖培地中に、37500 細胞/cm2の密度で蒔かれた。分化は、24時間後に、実施例2(基礎として1:1のDMEM/F12を使用)に示されるとおり、該無血清増殖培地を該無血清分化培地に変更することによって誘導された。
【0137】
結果
無血清筋肉分化の誘導が、示されたとおり、種々の基礎処方を有する無血清分化培地への、筋肉分化誘発因子としての、該識別された過剰発現した受容体のアゴニスト又はラクテートを取り込むことによって、無血清増殖培地中で先に増殖された細胞において達成されうることが観察された(図1)。ある範囲の濃度の該分化誘発因子が、該筋肉分化を誘導する為に、成功裏に採用されることができることが更に立証された(図2)。
【0138】
実施例4.筋肉分化の間のnotchシグナル伝達受容体の上方制御
実施例1に対する追加として、notchシグナル伝達受容体のNOTCH2及びNOTCH3が、筋肉分化の間に、衛星細胞のサブセットにおいて上方制御されることが見いだされた(表2)。
【0139】
【表2】
【0140】
実施例5.Notch経路阻害あり又はなしの、前駆細胞の筋肉分化
材料及び方法
実施例2に開示されている筋前駆細胞は、40k 細胞/cm2の播種密度で、Matrigelがコーティングされた(PBS中1:200)プレートに蒔かれ、実施例2に開示されている無血清増殖培地中で24時間培養させた。筋肉分化は、0μM(DAPT非存在;対照培地)、1μM、5μM及び10μMのDAPT(ガンマ-セクレターゼ阻害剤 番号ab120633、abcam)の存在及び非存在下、例示的な無血清分化培地(表3)を添加することによって誘導された。細胞は、明視野顕微鏡法でイメージングされ、分化表現型が比較された。
【0141】
【表3】
【0142】
結果
Notchシグナル伝達は、ウシ衛星細胞の亜集団において筋肉分化を阻害し、ガンマセクレターゼ阻害剤である、DAPTの添加により向上させることができることが観察された。図3は、DAPTを含んでいない対照培地と比較して、ある範囲の濃度(1uM、5uM及び10uM)のDAPTの添加により、無血清筋肉分化培地中で、ウシ筋前駆細胞の筋細胞(myocytes)への筋肉分化が向上したことを示す。筋肉分化の間のγ-セクレターゼ阻害剤である、DAPTの添加が、筋管に融合する細胞の数を増加させることが観察された。DAPTは、1~10uMの範囲の様々な濃度で分化を向上させることが示された。
図1
図2
図3
【国際調査報告】