(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池及び動力車両
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20231206BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231206BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231206BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0585
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533921
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 CN2021135420
(87)【国際公開番号】W WO2022117080
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】202011401161.3
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】梅日国
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼正皎
(72)【発明者】
【氏名】常▲曉▼雅
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼子文
(72)【発明者】
【氏名】潘▲儀▼
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ12
5H029CJ15
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ08
5H029HJ12
5H029HJ19
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050FA02
5H050GA16
5H050HA01
5H050HA08
5H050HA12
5H050HA19
(57)【要約】
リチウムイオン電池(1000)及び動力車両を提供する。リチウムイオン電池(1000)は、N個の電池ユニット(1)を積層して形成されたセルと、少なくとも1つの負極リチウムドープ剤膜(4)とを含み、当該負極リチウムドープ剤膜(4)は、集電体(400)と、集電体(400)の少なくとも1つの側面に設けられた金属リチウム膜層(402)とを含む独立したリチウムドープ電極であるか、又は負極材料層(201)の表面に積層された金属リチウム膜層であり、金属リチウム膜層の面密度σとカスタマイズのパラメータθは、一定の関係を満たす必要がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池であって、N個の電池ユニットを積層して形成されたセルを含み、各前記電池ユニットは、正極板、負極板、及び前記正極板と前記負極板との間に挟持されたセパレータを含み、隣接する2つの前記電池ユニットは、セパレータを介して分離され、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた負極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記負極材料層は、負極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記リチウムイオン電池は、少なくとも1つの負極リチウムドープ剤膜をさらに含み、前記負極リチウムドープ剤膜は、独立したリチウムドープ電極であるか、又は前記負極材料層の表面に積層された金属リチウム膜層であり、前記独立したリチウムドープ電極は、集電体と、前記集電体の少なくとも1つの側面に設けられた金属リチウム膜層とを含み、
前記金属リチウム膜層の面密度σは、以下の式(1)を満たし、下記式(2)に示すパラメータθが定義される。
【数1】
【数2】
(式中、αは、異なるサイクル回数のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵量とN個の前記負極板の可逆容量との比を示し、前記リチウム予貯蔵量の単位は、%であり、前記可逆容量の単位は、mAhであり、
前記金属リチウム膜層の面密度の単位は、mAh/gであり、
εは、前記金属リチウム膜層の面密度の公差であり、
σ
1、ε
1は、それぞれ前記正極材料層の面密度及びその公差であり、前記正極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、
σ
2、ε
2は、それぞれ前記負極材料層の面密度及びその公差であり、前記負極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、
c
1、ξ
1は、それぞれ前記正極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記正極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、
c
2、ξ
2は、それぞれ前記負極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記負極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、
ηは、前記負極活物質の初回クーロン効率であり、
nは、前記リチウムイオン電池の前記金属リチウム膜層の数であり、
c
3は、前記金属リチウム膜層の材質の理論グラム容量であり、単位がmAh/gであり、
kは、矯正係数であり、0.5~0.95の定数であり、前記θは、1.0~1.3の範囲である。)
【請求項2】
前記αは、0~18%の範囲の値である、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記金属リチウム膜層は、リチウム単体層又はリチウム合金層であり、前記リチウム単体層の形態は、リチウム粉末、リチウム箔又はリチウムストリップである、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記金属リチウム膜層がリチウムストリップ又はリチウム箔である場合、前記kは、0.8~0.95であり、前記金属リチウム膜層がリチウム粉末層である場合、前記kは、0.5~0.85であり、前記金属リチウム膜層がリチウム合金である場合、前記kは、0.6~0.9である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記独立したリチウムドープ電極は、少なくとも1つの感熱半導体層をさらに含み、前記感熱半導体層は、前記集電体と前記金属リチウム膜層との間に配置される、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記独立したリチウムドープ電極は、前記セルの任意の位置に配置され、ただし、セパレータを介して前記正極板又は前記負極板と分離されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記独立したリチウムドープ電極は、隣接する前記正極板と前記負極板との間に挿入され、及び/又は前記セルの最も外側に設けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記金属リチウム膜層は、パターン化構造を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記θは、1.07~1.15の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を含む、動力車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権情報)
本願は、2020年12月4日に中国国家知識産権局に提出された、出願名称が「制御可能な設計の長寿命のリチウムイオン電池及び動力車両」である中国特許出願第202011401161.3号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は参照により本願に組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、リチウムイオン電池の技術分野に関し、特に、リチウムイオン電池及び動力車両に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、体積が小さく、メモリー効果がないなどの多くの利点を持っているため、携帯電子機器(携帯電話、タブレットコンピュータなど)、ドローン、電気自動車などの分野で広く適用されている。しかしながら、リチウムイオン電池にも、容量減衰の問題などといったそれ自身の欠点がある。なかでも、活性リチウムの損失は、サイクル中のリチウムイオン電池の容量減衰の主な原因の1つとなっている。このため、業界では一般に、活性リチウムを提供可能なリチウムドープ剤をリチウムイオン電池の系内に予め添加して、電池による活性リチウムの不可逆的な損失を補償するという措置が講じられている。
【0004】
現在、成熟した電池へのリチウムドープの技術は、負極へのリチウムドープであり、これには主に、リチウム粉末を用いた湿式リチウムドープや、リチウムストリップやリチウム箔を用いた乾式リチウムドープなどが含まれる。しかしながら、こうしたリチウムドープの手段は、リチウムドープの効果を制御することが難しい。例えば、金属リチウムのドープ量が多すぎてはならない。金属リチウムのドープ量が多すぎれば、電池の正極と負極のN/P比を大きくすることで、電池のリチウム析出のリスクを低減しなければならない。しかしながら、N/P比が大きすぎると、負極材料を大量に浪費し、電池のエネルギー密度を低下させる可能性があり、リチウムドープの本来の目的と逆行するため、電池容量の向上に不利となる。したがって、金属リチウムのドープ量及び電池のN/P比をいかに正確に制御して、長いサイクル寿命の電池の制御可能な設計を実現するかが、目下、リチウムドープ電池の早急に解決すべき問題となっている。
【発明の概要】
【0005】
これに鑑み、本願は、制御可能な長いサイクル寿命を有するとともにリチウムの析出現象が発生しにくい、リチウムイオン電池及び動力車両を提供する。
【0006】
具体的には、本願の第1態様は、リチウムイオン電池を提供する。前記リチウムイオン電池は、N個の電池ユニットを積層して形成されたセルを含み、各電池ユニットは、正極板、負極板、及び正極板と負極板との間に挟持されたセパレータを含み、隣接する2つの電池ユニットは、セパレータを介して分離され、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた負極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記負極材料層は、負極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記リチウムイオン電池は、少なくとも1つの負極リチウムドープ剤膜をさらに含み、前記負極リチウムドープ剤膜は、独立したリチウムドープ電極であるか、又は前記負極材料層の表面に積層された金属リチウム膜層であり、前記独立したリチウムドープ電極は、集電体と、前記集電体の少なくとも1つの側面に設けられた金属リチウム膜層とを含み、
前記金属リチウム膜層の面密度σは、以下の式(1)を満たし、下記式(2)に示すパラメータθが定義される。
【数1】
【数2】
(式中、αは、異なるサイクル回数のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵量とN個の前記負極板の可逆容量との比を示し、前記リチウム予貯蔵量の単位は、%であり、前記可逆容量の単位は、mAhであり、前記金属リチウム膜層の面密度の単位は、mAh/gであり、εは、前記金属リチウム膜層の面密度の公差であり、σ
1、ε
1は、それぞれ前記正極材料層の面密度及びその公差であり、前記正極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、σ
2、ε
2は、それぞれ前記負極材料層の面密度及びその公差であり、前記負極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、c
1、ξ
1は、それぞれ前記正極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記正極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、c
2、ξ
2は、それぞれ前記負極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記負極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、ηは、前記負極活物質の初回クーロン効率であり、nは、前記リチウムイオン電池の前記金属リチウム膜層の数であり、c
3は、前記金属リチウム膜層の材質の理論グラム容量であり、単位がmAh/gであり、kは、矯正係数であり、0.5~0.95の定数であり、前記θは、1.0~1.3の範囲である。)
【0007】
本願では、金属リチウム膜層の面密度σを正確に制御することにより、電池へのリチウムドープ量の制御を実現でき、さらに、長いサイクル寿命のリチウムイオン電池を制御可能に設計でき、そして、上述したパラメータθを適切な範囲に制御することにより、電池のリチウム析出のリスクを回避するとともに、電池に高い容量及びサイクル性能を備えさせている。
【0008】
第2態様において、本願は、本願の第1態様に記載のリチウムイオン電池を含む、動力車両を提供する。これにより、当該動力車両の航続距離を向上させることができ、高い安全性能も有する。
【0009】
本願の実施例の利点については、一部が以下の明細書において説明され、一部が明細書に基づいて明らかになるか又は本願の実施例を実施することにより理解される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1a-1d】本願の実施形態に係るリチウムイオン電池の、いくつかの概略構成図である。
【
図2】本願の実施例におけるリン酸鉄リチウム-黒鉛系電池の、異なるリチウム予貯蔵程度でのサイクル減衰曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明は、本発明の例示的な実施形態である。なお、当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修正を行うことができ、これらの改良及び修正も本発明の保護範囲に含まれる。
【0012】
本願の第1態様は、リチウムイオン電池1000を提供する。
図1a-1dに示すように、当該リチウムイオン電池1000は、N個の電池ユニット1を積層して形成されたセルを含み、各電池ユニット1は、正極板10、負極板20、及び正極板10と負極板20との間に挟持されたセパレータ3を含み、隣接する2つの電池ユニット1は、セパレータ3を介して分離され、正極板10は、正極集電体100と、正極集電体100の少なくとも1つの側面に設けられた正極材料層101とを含み、負極板20は、負極集電体200と、負極集電体200の少なくとも1つ側面に設けられた負極材料層201とを含み、正極材料層101は、正極活物質、導電剤及びバインダーを含み、負極材料層201は、負極活物質、導電剤及びバインダーを含む。正極集電体100の1つの側面に正極材料層101が設けられてもよく、2つの側面に正極材料層101が設けられてもよい。同様に、負極集電体200の1つの側面に負極材料層201が設けられてもよく、2つの側面に負極材料層201が設けられてもよい。
【0013】
リチウムイオン電池1000は、少なくとも1つの負極リチウムドープ剤膜4をさらに含み、負極リチウムドープ剤膜4は、負極材料層201の表面に積層された金属リチウム膜層であるか、又は金属リチウム膜層を含む独立したリチウムドープ電極である。
【0014】
具体的には、本願のいくつかの実施形態では、負極リチウムドープ剤膜4は、独立したリチウムドープ電極であってもよい。
図1aに示すように、当該独立したリチウムドープ電極は、集電体400と、集電体の少なくとも1つの側面に設けられた金属リチウム膜層402とを含む。金属リチウム膜層402は、リチウム単体層又はリチウム合金層であってもよく、リチウム単体層の形態は、リチウム粉末、リチウム箔又はリチウムストリップであってもよい。上記独立したリチウムドープ電極は、セルの任意の位置に設けられてもよく、例えば、セルの最も外側に配置され(
図1aに示すように)、及び/又はセル内に挿入される(
図1bにおいて、独立したリチウムドープ電極は、隣接する正極板10と負極板20との間に挿入される)が、セパレータ3を介して負極板20と、又は正極板10と分離する必要がある。独立した負極リチウムドープ剤膜4は、負極材料層に金属リチウムを直接設けるため、負極板20のロールプレス時に金属リチウムが負極材料と直接接触して反応して発熱することを回避するとともに、電池のプレリチウム化時に不十分な成膜状態で充電される時のリチウム析出を回避することができ、活性リチウムイオンの制御可能な放出をよく実現し、超長サイクル寿命を実現することができる。なお、独立したリチウムドープ電極は、負極板20と電気的に接続される必要があり、具体的には、独立したリチウムドープ電極の集電体400から引き出されたリチウムドープ電極タブを介して負極板20から引き出された負極タブと電気的に接続されてもよい。
【0015】
いくつかの実施例において、さらに、
図1aを参照すると、独立したリチウムドープ電極として存在する負極リチウムドープ剤膜4において、集電体400と金属リチウム膜層402との間に感熱半導体層401がさらに配置されてもよい。すなわち、このときの負極リチウムドープ剤膜4は、集電体400と、集電体400の少なくとも1つの側面に順に設けられた感熱半導体層401及び金属リチウム膜層402とを含む。感熱半導体層401の感熱性は、主に、次のとおりである。電池が常温又は低温にある場合、感熱半導体層401の抵抗が10
4Ohm*m
2であり、被膜の両端が基本的に電子的に絶縁され、リーク電流が0.1μA/m
2よりも小さく、電池の温度が60℃である場合、被膜の抵抗が10
-3Ohm*m
2よりも小さく、被膜の両端が電子的に導通する。このようにして、感熱半導体層401は、高温条件下でのみ導電することにより、金属リチウム膜層402と集電体400との間に通路が形成され、活性リチウムが金属リチウム膜層402から放出されるとともに電池の負極板に挿入され、また、外部電圧により活性リチウムの放出量を制御することができる。
【0016】
本願の別のいくつかの実施形態において、負極リチウムドープ剤膜4は、負極材料層201と直接接触してもよく(
図1c、
図1dを参照)、このときの負極リチウムドープ剤膜4は、独立した金属リチウム膜層ではなく、具体的には、リチウム単体層又はリチウム合金層であってもよく、リチウム単体層の形態は、リチウム粉末、リチウム箔又はリチウムストリップであってもよい。リチウムイオン電池1000において、金属リチウム膜層は、ある負極材料層201の位置する負極集電体200から離れた当該負極材料層201の表面にのみ位置してもよく(
図1cを参照)、全ての負極板20の負極材料層201の表面にいずれも当該負極リチウムドープ剤膜4が設けられてもよい(
図1dを参照)。
【0017】
本願では、負極リチウムドープ剤膜4の金属リチウム膜層の面密度σは、以下の式(1)を満たし、下記式(2)に示すパラメータθが定義される。
【数3】
【数4】
(式中、αは、異なるサイクル回数のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵量とN個の負極板20の可逆容量との比を示し、上記リチウム予貯蔵量の単位は、%であり、上記可逆容量の単位は、mAhであり、σ
1、ε
1は、それぞれ正極材料層101の面密度及びその公差であり、σ
2、ε
2は、それぞれ負極材料層201の面密度及びその公差であり、c
1、ξ
1は、それぞれ正極材料層101のグラム容量及びその公差であり、c
2、ξ
2は、それぞれ負極材料層201のグラム容量及びその公差であり、ηは、上記負極活物質の初回クーロン効率であり、nは、リチウムイオン電池の金属リチウム膜層の数であり、c
3は、金属リチウム膜層の材質の理論グラム容量であり、kは、矯正係数であり、0.5~0.95の定数であり、前記θは、1.0~1.3の範囲である。)
【0018】
本願では、金属リチウム膜層の面密度σを正確に制御することにより、電池へのリチウムドープ量の制御を実現でき、さらに、リチウムイオン電池1000の長いサイクル寿命を制御可能に設計でき、そして、上述したパラメータθを適切な範囲に制御することにより、電池のリチウム析出のリスクを回避するとともに、電池に高い容量及びエネルギー密度を備えさせている。上述したパラメータθは、プレリチウム化後の電池において、負極に残存したリチウム収容可能な空孔と正極のリチウム収容可能な空孔との比を反映することができ、θの値が小さすぎると、充電中に負極板20にリチウムが析出するリスクがあり、θの値が大きすぎると、負極板20の塗布量が大きくなりすぎ、電池のエネルギー密度を低下させる。本願では、総合的に考慮して、θを1.0~1.3の範囲に制御することにより、リチウム析出のリスクの低さと容量の高さを兼ね備えた電池としている。例えば、θは、1.05、1.1、1.12、1.2又は1.3などであってもよい。本願のいくつかの実施形態において、上記θは、1.07~1.15の範囲であってもよい。
【0019】
上述した正極材料層の面密度σ1、負極材料層の面密度σ2は、リチウムイオン電池の設計パラメータであり、θを組み合わせて決定することができ、公差ε1、ε2、εは、経験値であり、一般に%で示され、正極材料層101、負極材料層201、金属リチウム膜層の具体的な製造プロセスに基づいて決定することができる。上述したパラメータc1、ξ1、c2、ξ2、ηは、測定値であり、正極板10又は負極板20をそれぞれリチウム金属シートと組み立てたボタン電池に対して電気化学的試験を行って得られたものであり、公差ε1、ε2も一般に%で示される。面密度σ1、σ2、σの単位はg/m2で示し、c1、c2、c3の単位はmAh/gで示すことができ、金属リチウム単体のパラメータc3は、3860mAh/gである。本願のいくつかの実施形態において、公差ε1、ε2、ε、ξ1、ξ2は、一般に5%を超えず、例えば、1%~3%の範囲の値である。
【0020】
上述したkは、矯正係数であり、経験値であり、負極リチウムドープ剤膜4の金属リチウム膜層の形態に基づいて決定することができる。例えば、上述した金属リチウム膜層が、金属リチウム粉末を湿式で塗布して得られたリチウム粉末層である場合、当該k値は、通常0.5~0.85であり、金属リチウム膜層が乾式で加圧成形したリチウム箔又はリチウムストリップである場合、当該k値は、通常0.8~0.95であり、当該金属リチウム膜層がリチウム合金である場合、当該k値は、通常0.6~0.9である。
【0021】
上述したパラメータαは、電池のリチウム予貯蔵程度を反映する。用語「リチウム予貯蔵量」は、負極リチウムドープ剤膜4のリチウムドープ容量と電池の負極板20の不可逆容量との比を示し、負極リチウムドープ剤膜4のリチウムドープ容量とは、その初回のリチウム脱離容量を指す。一般に、電池に要求されるサイクル回数が大きい場合、それに応じてαの値も大きい。αが0に等しい場合、負極リチウムドープ剤膜4のリチウムドープ容量が電池の複数の負極板20の不可逆容量にちょうど等しいことを示す。下記実施例1において、リチウムイオン電池のサイクル回数cとパラメータαとの対応関係を詳細に説明する。本願のいくつかの実施形態において、上記αは、0~18%の範囲の値である。例えば、αは、0、2%、4%、6%、8%、10%、12%、15%又は18%に等しくてもよい。本願の別のいくつかの実施形態において、上記αは、4%~15%の範囲の値である。
【0022】
本願のいくつかの実施形態において、上記金属リチウム膜層は、パターン化構造を有してもよく、例えば、リチウム箔又はリチウムストリップは、多孔質構造を有してもよい。パターン化構造は、電解液における金属リチウム膜層の浸潤と、プレリチウム化中に負極のSEI膜が形成される際のガスの放出とに有利となり、負極の表面から金属リチウム膜層が剥離することが回避される。
【0023】
本願の実施形態において、セパレータ3にいくつかの貫通孔が設けられてもよい。貫通孔により、電池の急速充放電時にリチウムイオンがセパレータをスムーズに通って挿入するか又は脱離するよう保証される。貫通孔の空隙率は、40%~50%であってもよい。セパレータの材質は、一般的なPP、PEなどの材料であってもよい。
【0024】
本願の実施形態において、正極集電体100、負極集電体200、負極リチウムドープ剤膜4の集電体400は、金属単体箔又は合金箔を含んでもよいが、これらに限定されない。上記金属単体箔は、銅、チタン、アルミニウム、白金、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、タングステン、タンタル、金又は銀箔を含み、上記合金箔は、ステンレス鋼、又は銅、チタン、アルミニウム、白金、イリジウム、ルテニウム、ニッケル、タングステン、タンタル、金及び銀のうちの少なくとも1種の元素を含む合金を含む。本願のいくつかの実施形態において、上記合金箔は、上述した元素を主な成分とするものである。正極集電体100及び/又は負極集電体200は、対応する電極材料層と有効に接触するために、二次構造を形成するようにエッチング処理又は粗化処理することができる。通常、正極集電体100は、アルミニウム箔であり、負極集電体200は、銅箔である。負極リチウムドープ剤膜4の集電体400は、銅箔であってもよい。
【0025】
リチウムイオン電池において、その正極活物質は、具体的には、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸コバルトリチウム、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム、ニッケル酸マンガンリチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン(NCM)、ニッケルコバルトアルミニウム(NCA)などのうちの少なくとも1種であってもよい。負極活物質は、黒鉛、ハードカーボン、ケイ素系材料(単体ケイ素、ケイ素合金、ケイ素酸化物、ケイ素-炭素複合材料を含む)、スズ系材料(単体スズ、スズ酸化物、スズ系合金を含む)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)及びTiO2などのうちの少なくとも1種を含んでもよい。
【0026】
本願では、上述した導電剤、バインダーは、電池の分野における一般的な選択である。例えば、導電剤は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びグラフェンのうちの少なくとも1種を含んでもよい。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)及びアルギン酸ナトリウムから選択される1種又は複数種であってもよい。
【0027】
本願の実施形態において、リチウムイオン電池1000は、電池ハウジングと電解液をさらに含んでもよい。電解液と、上述した各電池ユニット1及び負極リチウムドープ剤膜4を含むセルとは、上記電池ハウジング内に封止され、セルは、電解液に浸漬される。電池ハウジングは、アルミラミネートフィルムで製造されてもよい。
【0028】
本願の実施例に係るリチウムイオン電池は、容量が高く、サイクル寿命が長く、リチウム析出のリスクが低い。
【0029】
本願の第2態様は、本願の第1態様に記載のリチウムイオン電池を含む、動力車両を提供する。これにより、当該動力車両の航続距離を向上させることができ、高い安全性能も有する。
【0030】
以下、複数の実施例を参照して本願の実施例をさらに説明する。
【実施例1】
【0031】
リチウムイオン電池の構造は
図1aに示すとおりであり、当該リチウムイオン電池の製造方法は、次のステップ(1)~ステップ(3)を含む。
【0032】
ステップ(1):電池の積層セルの製造
a、正極活物質がリン酸鉄リチウムで、正極材料層の面密度σ1が350g/m2で、圧密密度が2.4g/m3である正極板を製造する。具体的な製造プロセスは、次のとおりである。96:2:2の質量比でリン酸鉄リチウム、カーボンナノチューブ及びバインダーPVDFを秤取し、溶媒のN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、十分に分散させて正極スラリーを得て、当該正極スラリーをアルミニウム箔の表面に塗布し乾燥させた後、ロールプレスし、切断して、正極材料層付きの正極板を得る。ここで、σ1の公差ε1(%)=1%である。
【0033】
b、負極活物質が天然黒鉛で、負極材料層の面密度σ2が206g/m2で、σ2の公差ε2=1%、圧密密度が1.5g/m3である負極板を製造する。具体的な製造プロセスは、次のとおりである。96:2:2の重量比で黒鉛、導電剤superP及びバインダーSBRを水に混合して、負極スラリーを得て、負極スラリーを銅箔の両面に塗布し乾燥させた後、ロールプレスし、切断して、負極材料層付きの負極板を得る。
【0034】
c、上述した正極板、セパレータ(セパレータは、PE系フィルム及びセラミック層を含み、セラミック層は、PE系フィルムの上下面に形成され、PE系フィルムの厚さは、40マイクロメートルであり、両面セラミック層の総厚さは、5マイクロメートルである)及び負極板を順に積層して、1つの電池ユニットを得て、同じ方式で、N(N=3)個のこのような電池ユニットを積層して、積層構造のセルを得るが、隣接する2つの電池ユニットは、セパレータを介して分離することに注意する。
【0035】
ステップ(2):独立したリチウムドープ電極の製造
集電体400(具体的には、銅箔である)の2つの側面にいずれも、配合成分がZnO:NiO:Al2O3:Fe2O3=0.3:0.3:0.3:0.1(質量比)である半導体材料の緻密層を塗布し、800℃で24h高温焼結して、厚さが80~120nmの感熱半導体層401を得た後、当該感熱半導体層401に面密度σ=1.98g/m2の金属リチウム膜層402(具体的には、リチウム箔であり、その面密度は前述の式に基づいて計算することができる。以下、詳細に紹介する)を設けてリチウムをドープして、独立したリチウムドープ電極を得る。
【0036】
ステップ(3)では、ステップ(1)で得られた積層構造を有するセルの最も外側に上述した独立したリチウムドープ電極を配置した後、リチウムドープ電極のタブと負極タブを溶接し、アルミニウムプラスチックフィルムで封止して、パウチ電池を形成し、1.0mol/LのLiPF6の炭酸エチレン(EC):炭酸ジメチル(DMC)=1:1~5(体積比)の溶液を電解液とし、次に、当該電解液を電池に注入し、電池を密封して、電池全体を得る。
【0037】
組立完了後に実施例1の電池全体を常温で化成しグレーディングし、その後に、電池SOC状態を10%に調整し、次に電池を60℃に加熱し、12h静置し、このときに、感熱半導体層が導電し、金属リチウムと集電体との間に通路が形成され、このときに、活性リチウムは、独立したリチウムドープ電極から脱離するとともに黒鉛負極に挿入されるので、電池電圧を監視し、リチウムドープ量を制御し調整することにより、電池の開路電圧が0.2Vまで上昇したら加熱を停止し、次に電池を25℃に冷却して、当該電池全体のプレリチウム化を完了する。その後に、当該電池全体に対して電池容量、サイクル性能などの試験を行う。
【0038】
なお、本願の実施例1では、独立したリチウムドープ電極の金属リチウム膜層402の面密度σ=1.98g/m2は、上記式1及び式2を組み合わせて計算して得られたものであり、パラメータθを1.12に制御し、N=3、n=2、補正係数k=0.8、金属リチウム単体のc3=3860mAh/g、測定した正極材料層のグラム容量c1=148mAh/g、その公差ξ1=2%、負極材料層のグラム容量c2=330mAh/g、その公差ξ2=2%、初回効率η=94%、サイクル回数=3000の場合のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵程度α=0%、ε1、ε2、ε=1%である。パラメータc1、ξ1、c2、ξ2、ηは、正極板10又は負極板20をそれぞれリチウム金属シートと組み立てたボタン電池に対して電気化学的試験を行って得られたものである。試験条件:0.1Cの定電流で充放電し、正極板のコインセルの電圧窓を2.5~3.8Vとし、負極板のコインセルの電圧窓を0.005~1.5Vとする。
【0039】
本願の実施例におけるαは、以下の表1に参照されるよう、本願の出願人が、異なるリチウム予貯蔵程度αを有する電池とその容量維持率が80%に低下する時のサイクル回数cとのマッピング関係に基づいて得たものである。
【0040】
(表1)リン酸鉄リチウム-黒鉛系電池のサイクル回数とαとの経験的対照表
【0041】
上記表1は、実施例1の電池系に対して探し求めた、異なるαを有する電池のサイクル減衰曲線(
図2を参照)に基づき得られたものであり、当該サイクル減衰曲線の縦座標は、サイクル中の電池の容量維持率であり、横座標は、サイクル回数である。α=6%、θ=1.12、黒鉛負極層の面密度が206g/m
2である場合、前述の式に基づいて計算した金属リチウム膜層の面密度は、4.42g/m
2となり、当該面密度で
図1aに示すリチウムドープ電池を製造する。同様に、α=10%の場合、金属リチウム膜層の面密度は、6.38g/m
2であり、α=18%の場合、金属リチウム膜層の面密度は、11.48g/m
2である。これらの電池をそれぞれ0.5Cの定電流で3.8Vまで定電圧で充電し、10min静置してから、0.5Cの定電流で2.0Vまで放電し、10min静置し、以上の充電-放電の過程を繰り返して、容量維持率が80%に低下したら試験を停止した。各回の容量を初回の容量で除算して各回の容量維持率を得ることで、表1の対照表が得られた。
【実施例2】
【0042】
実施例2のリチウムイオン電池と実施例1のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極の金属リチウム膜層の面密度が4.42g/m2であり、負極材料層の面密度が230g/m2であり、α=6%という点で相異する。
【実施例3】
【0043】
実施例3のリチウムイオン電池と実施例1のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極の金属リチウム膜層の面密度が6.38g/m2であり、負極材料層の面密度が249g/m2であり、α=10%という点で相異する。
【実施例4】
【0044】
実施例4のリチウムイオン電池と実施例1のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極の金属リチウム膜層の面密度が11.48g/m2であり、負極材料層の面密度が299g/m2であり、α=18%という点で相異する。
【実施例5】
【0045】
実施例5のリチウムイオン電池と実施例2のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極が2つ(n=4)であり、金属リチウム膜層の面密度が1.98g/m2であり、2つの独立したリチウムドープ電極がそれぞれセル全体の最も外の両側に位置し、負極材料層の面密度が206g/m2であるという点で相異する。
【実施例6】
【0046】
実施例6のリチウムイオン電池と実施例1のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極は、集電体と、集電体の2つの側面に設けられた金属リチウム膜層とからなり、感熱半導体層がないという点で相異する。
【実施例7】
【0047】
実施例7のリチウムイオン電池と実施例6のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極が2つ(n=4)であり、金属リチウム膜層の面密度が0.94g/m2であり、2つの独立したリチウムドープ電極がそれぞれセル全体の最も外の両側に位置し、負極材料層の面密度が196g/m2であるという点で相異する。
【実施例8】
【0048】
実施例8のリチウムイオン電池と実施例1のものとを対比すると、負極リチウムドープ剤膜がリチウム箔層であり、セルの最も外側の負極板の2つの負極材料層の表面に直接付着される(n=2)という点で相異する。
【実施例9】
【0049】
実施例9のリチウムイオン電池(その概略構成図を
図1cに示す)と実施例8のものとを対比すると、負極リチウムドープ剤膜は、数が2つであり、それぞれセルの最も外の両側の負極板の2つの負極材料層の表面に積層され(n=4)、リチウム箔層の面密度が0.94g/m
2であり、負極材料層の面密度が196g/m
2であるという点で相異する。
【実施例10】
【0050】
実施例10のリチウムイオン電池と実施例2のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極の金属リチウム膜層の面密度が4.14g/m2であり、負極材料層の面密度が215g/m2であり、パラメータθの値が1.05であるという点で相異する。
【実施例11】
【0051】
実施例11のリチウムイオン電池と実施例2のものとを対比すると、独立したリチウムドープ電極の金属リチウム膜層の面密度が4.92g/m2であり、負極材料層の面密度が256g/m2であり、パラメータθの値が1.25であるという点で相異する。
【0052】
(表2)各リチウムイオン電池の電気化学的試験の結果
【0053】
表2は、上記各実施例の電池の電気化学的試験の結果をまとめたものである。電池放電容量の試験方法は、次のとおりである。常温で、0.2Cの定電流で3.8Vまで定電圧で充電し、0.05Cでカットオフとし、10min静置してから、0.2Cの定電流で2.0Vまで放電し、10min静置し、以上の充電-放電の過程を3回繰り返して、安定した放電容量を得る。サイクル性能の試験方法は、次のとおりである。常温で、0.5Cの定電流で3.8Vまで充電し、10min静置してから、0.5Cの定電流で2.0Vまで放電し、10min静置し、以上の充電-放電の過程を繰り返して、容量維持率が80%に低下したら試験を停止する。電池のエネルギー密度は、セルの質量を基準として計算される。
【0054】
表2から分かるように、異なるリチウム予貯蔵量により電池の異なるサイクル寿命を実現することができる。リチウム予貯蔵程度αが大きいほど、対応する電池のサイクル寿命が長い。また、実施例1と実施例6~9とを対比すると分かるように、電池のリチウムドープ剤膜が感熱半導体層を有する独立したリチウムドープ電極である場合に、電池のリチウム予貯蔵程度が同じであると、容量とサイクル寿命がいずれも最適となり、αに対応する予想サイクル寿命にほぼ近くなる。そして、実施例6~9の実際のサイクル寿命は、αに対応する予想サイクル寿命よりもわずかに短かかった。また、実施例2、10、11から分かるように、パラメータθの値が大きすぎる場合、電池のサイクル寿命及び容量は同程度であるものの、負極材料の質量を増加させるため、電池のエネルギー密度を低下させる可能性がある。本願では、θの値を1.0~1.2の範囲に制御することにより、電池に長いサイクル寿命を備えさせるとともに、電池にできるだけ高いエネルギー密度を保持させることができる。
【0055】
上述した実施例は、本願のいくつかの実施形態を示すものに過ぎず、その説明は具体的かつ詳細であるが、本願の特許請求の範囲を限定するものと理解してはならない。なお、当業者であれば、本願の構想から逸脱することなく、さらにいくつかの変形及び改良を行うことができ、これらはいずれも本願の保護範囲に属する。したがって、本願の保護範囲は、添付された特許請求の範囲を基準とすべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-08-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池であって、N個の電池ユニットを積層して形成されたセルを含み、各前記電池ユニットは、正極板、負極板、及び前記正極板と前記負極板との間に挟持されたセパレータを含み、隣接する2つの前記電池ユニットは、セパレータを介して分離され、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた負極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記負極材料層は、負極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記リチウムイオン電池は、少なくとも1つの負極リチウムドープ剤膜をさらに含み、前記負極リチウムドープ剤膜は、独立したリチウムドープ電極であるか、又は前記負極材料層の表面に積層された金属リチウム膜層であり、前記独立したリチウムドープ電極は、集電体と、前記集電体の少なくとも1つの側面に設けられた金属リチウム膜層とを含み、
前記金属リチウム膜層の面密度σは、以下の式(1)を満たし、下記式(2)に示すパラメータθが定義される。
【数1】
【数2】
(式中、αは、異なるサイクル回数のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵量とN個の前記負極板の可逆容量との比を示
し、前記可逆容量の単位は、mAhであり、
前記金属リチウム膜層の面密度の単位は、mAh/gであり、
εは、前記金属リチウム膜層の面密度の公差であり、
σ
1、ε
1は、それぞれ前記正極材料層の面密度及びその公差であり、前記正極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、
σ
2、ε
2は、それぞれ前記負極材料層の面密度及びその公差であり、前記負極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、
c
1、ξ
1は、それぞれ前記正極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記正極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、
c
2、ξ
2は、それぞれ前記負極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記負極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、
ηは、前記負極活物質の初回クーロン効率であり、
nは、前記リチウムイオン電池の前記金属リチウム膜層の数であり、
c
3は、前記金属リチウム膜層の材質の理論グラム容量であり、単位がmAh/gであり、
kは、矯正係数であり、0.5~0.95の定数であり、前記θは、1.0~1.3の範囲である。)
【請求項2】
前記αは、0~18%の範囲の値である、請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記金属リチウム膜層は、リチウム単体層又はリチウム合金層であり、前記リチウム単体層の形態は、リチウム粉末、リチウム箔又はリチウムストリップである、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記金属リチウム膜層がリチウムストリップ又はリチウム箔である場合、前記kは、0.8~0.95であり、前記金属リチウム膜層がリチウム粉末層である場合、前記kは、0.5~0.85であり、前記金属リチウム膜層がリチウム合金である場合、前記kは、0.6~0.9である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記独立したリチウムドープ電極は、少なくとも1つの感熱半導体層をさらに含み、前記感熱半導体層は、前記集電体と前記金属リチウム膜層との間に配置される、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記独立したリチウムドープ電極は、前記セルの任意の位置に配置され、ただし、セパレータを介して前記正極板又は前記負極板と分離されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記独立したリチウムドープ電極は、隣接する前記正極板と前記負極板との間に挿入され、及び/又は前記セルの最も外側に設けられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記金属リチウム膜層は、パターン化構造を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
前記θは、1.07~1.15の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池を含む、動力車両。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
具体的には、本願の第1態様は、リチウムイオン電池を提供する。前記リチウムイオン電池は、N個の電池ユニットを積層して形成されたセルを含み、各電池ユニットは、正極板、負極板、及び正極板と負極板との間に挟持されたセパレータを含み、隣接する2つの電池ユニットは、セパレータを介して分離され、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた正極材料層とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体の少なくとも1つの側面に設けられた負極材料層とを含み、前記正極材料層は、正極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記負極材料層は、負極活物質、導電剤及びバインダーを含み、前記リチウムイオン電池は、少なくとも1つの負極リチウムドープ剤膜をさらに含み、前記負極リチウムドープ剤膜は、独立したリチウムドープ電極であるか、又は前記負極材料層の表面に積層された金属リチウム膜層であり、前記独立したリチウムドープ電極は、集電体と、前記集電体の少なくとも1つの側面に設けられた金属リチウム膜層とを含み、
前記金属リチウム膜層の面密度σは、以下の式(1)を満たし、下記式(2)に示すパラメータθが定義される。
【数1】
【数2】
(式中、αは、異なるサイクル回数のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵量とN個の前記負極板の可逆容量との比を示
し、前記可逆容量の単位は、mAhであり、前記金属リチウム膜層の面密度の単位は、mAh/gであり、εは、前記金属リチウム膜層の面密度の公差であり、σ
1、ε
1は、それぞれ前記正極材料層の面密度及びその公差であり、前記正極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、σ
2、ε
2は、それぞれ前記負極材料層の面密度及びその公差であり、前記負極材料層の面密度の単位は、g/m
2であり、c
1、ξ
1は、それぞれ前記正極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記正極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、c
2、ξ
2は、それぞれ前記負極材料層のグラム容量及びその公差であり、前記負極材料層のグラム容量の単位は、mAh/gであり、ηは、前記負極活物質の初回クーロン効率であり、nは、前記リチウムイオン電池の前記金属リチウム膜層の数であり、c
3は、前記金属リチウム膜層の材質の理論グラム容量であり、単位がmAh/gであり、kは、矯正係数であり、0.5~0.95の定数であり、前記θは、1.0~1.3の範囲である。)
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
本願では、負極リチウムドープ剤膜4の金属リチウム膜層の面密度σは、以下の式(1)を満たし、下記式(2)に示すパラメータθが定義される。
【数3】
【数4】
(式中、αは、異なるサイクル回数のリチウムイオン電池に必要なリチウム予貯蔵量とN個の負極板20の可逆容量との比を示
し、上記可逆容量の単位は、mAhであり、σ
1、ε
1は、それぞれ正極材料層101の面密度及びその公差であり、σ
2、ε
2は、それぞれ負極材料層201の面密度及びその公差であり、c
1、ξ
1は、それぞれ正極材料層101のグラム容量及びその公差であり、c
2、ξ
2は、それぞれ負極材料層201のグラム容量及びその公差であり、ηは、上記負極活物質の初回クーロン効率であり、nは、リチウムイオン電池の金属リチウム膜層の数であり、c
3は、金属リチウム膜層の材質の理論グラム容量であり、kは、矯正係数であり、0.5~0.95の定数であり、前記θは、1.0~1.3の範囲である。)
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
上述したパラメータαは、電池のリチウム予貯蔵程度を反映する。用語「リチウム予貯蔵量」は、負極リチウムドープ剤膜4のリチウムドープ容量と電池の負極板20の不可逆容量との差を示し、負極リチウムドープ剤膜4のリチウムドープ容量とは、その初回のリチウム脱離容量を指す。一般に、電池に要求されるサイクル回数が大きい場合、それに応じてαの値も大きい。αが0に等しい場合、負極リチウムドープ剤膜4のリチウムドープ容量が電池の複数の負極板20の不可逆容量にちょうど等しいことを示す。下記実施例1において、リチウムイオン電池のサイクル回数cとパラメータαとの対応関係を詳細に説明する。本願のいくつかの実施形態において、上記αは、0~18%の範囲の値である。例えば、αは、0、2%、4%、6%、8%、10%、12%、15%又は18%に等しくてもよい。本願の別のいくつかの実施形態において、上記αは、4%~15%の範囲の値である。
【国際調査報告】