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特表2023-551970GLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】GLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20231206BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231206BHJP
   C07K 14/605 20060101ALI20231206BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20231206BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231206BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231206BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
C07K14/605
A23L33/17
A61K39/395 N
A61P19/02
A61P29/00
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534099
(86)(22)【出願日】2021-07-29
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 KR2021009934
(87)【国際公開番号】W WO2022119076
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0167844
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2020年(令和2年)8月28日 https://www.nature.com/articles/s41467-020-18208-y及びhttps://doi.org/10.1038/s41467-020-18208-yを通じて発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523206231
【氏名又は名称】イムノフォージ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヒョジョン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ヒョンジン
(72)【発明者】
【氏名】アン、ソンミン
(72)【発明者】
【氏名】チャン、キホ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME05
4B018ME10
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB11
4C085BB31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA30
4H045DA76
4H045EA01
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、GLP-1(Glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト及び抗オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)抗体を含む融合タンパク質、前記融合タンパク質を含む、関節炎の予防又は治療用薬学的組成物、食品組成物、機能性食品組成物、並びに前記薬学的組成物を投与するステップを含む、関節炎の予防又は治療方法に関する。本発明のGLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質は、優れた軟骨保護及び疼痛緩和効果を有するので、関節炎の効果的な治療に広く活用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP-1(Glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト及び抗オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)抗体を含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記抗オスカー抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むものであって、
1)配列番号1で表される重鎖可変領域、及び配列番号2で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、
2)配列番号3で表される重鎖可変領域、及び配列番号4で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、並びに
3)配列番号5で表される重鎖可変領域、及び配列番号6で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1又はその誘導体である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質は、半減期延長物質をさらに含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記半減期延長物質は免疫グロブリンFc領域である、請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記免疫グロブリンFc領域は、297番目のアミノ酸がアスパラギンからアラニンに置換されたものである、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質は、配列番号7で表されるものである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記関節炎は、退行性関節炎又は関節リウマチである、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記薬学的組成物は、軟骨破壊を遅延させるか、又は疼痛を軽減することを特徴とする、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用食品組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用機能性食品組成物。
【請求項13】
請求項8に記載の薬学的組成物をヒト以外の個体に投与するステップを含む、関節炎の予防又は治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP-1(Glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト及び抗オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)抗体を含む融合タンパク質、前記融合タンパク質を含む、関節炎の予防又は治療用薬学的組成物、食品組成物、機能性食品組成物、並びに前記薬学的組成物を投与するステップを含む、関節炎の予防又は治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨関節炎(osteoarthritis)は、通常、加齢により炎症性変化を伴うことなく軟骨が消失し、関節が変形して局所的に退行性変化が現れる疾患であり、このような特性から退行性関節炎ともいう。過去には、年を取って身体のあらゆる機能が低下するにつれて軟骨が摩耗することにより生じる自然現象であると思われていたが、最近は、このような機構的な要因と共に様々な生物学的な要因により、軟骨が変化して破壊されることが知られている。現在、骨関節炎の治療は、関節リウマチとは異なり、炎症性変化を伴うことなく軟骨の消失と関節の変形がもたらされるので、軟骨の変性が進行しないように原因的要因を最大限抑制することにより、関節の疼痛を緩和し、機能を回復させることを目標としている。
【0003】
骨関節炎の治療において、患者の疼痛の軽減及び炎症の調節のために普遍的に処方される薬物は非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)である。骨関節炎の薬物治療としては、通常の鎮痛剤、非ステロイド性抗炎鎮痛剤、選択的COX-2阻害剤、麻薬性及び非麻薬性鎮痛剤、関節腔内ステロイド注射、DMOARD(disease modifying osteoarthritis drug)などが挙げられる。長期間のNSAID治療による副作用のうち、最も多く、時に緊急事態を引き起こす副作用は胃腸の副作用であるが、軽い消化不良から、潰瘍、出血、穿孔に至る様々な副作用が知られている(非特許文献1)。骨関節炎の治療に最も多く用いられる非ステロイド性抗炎鎮痛剤は心血管系の副作用が重篤であり、甚だしくは5~10%に達する死亡率が示すように危険性が高く、特に骨関節炎患者のほとんどが高齢者であるので、NSAIDを用いた骨関節炎治療はリスクを伴う。よって、このような骨関連疾患治療剤の問題を解決するために、治療効果に優れ、かつ安全な治療剤の迅速な開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Best Practice & Research Clinical Gastroenterology 24 (2010) 121-132
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした背景の下、本発明者らは、GLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質が関節炎治療効果に優れることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、GLP-1(Glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト及び抗オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)抗体を含む融合タンパク質を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は治療用薬学的組成物を提供することを目的とする。
【0008】
さらに、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用食品組成物を提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、前記融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用機能性食品組成物を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、関節炎の予防又は治療方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、前記融合タンパク質の関節炎予防、改善又は治療用途を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明は、前記融合タンパク質を含む薬学的組成物の関節炎予防又は治療用途を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、前記融合タンパク質を含む食品組成物の関節炎予防又は改善用途を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、前記融合タンパク質を含む機能性食品組成物の関節炎予防又は改善用途を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のGLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質は、優れた軟骨保護及び疼痛緩和効果を有するので、関節炎の効果的な治療に広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】融合タンパク質であるPF1803の構造を示す模式図である。
図2】PF1803タンパク質の確認のためにSDS-PAGE及びwestern blotを行った結果を示す図である。
図3】PF1803タンパク質の構造確認のためにELISAを行った結果を示す図である。
図4】細胞死が誘導された軟骨細胞におけるPF1803の細胞死阻害効果を示す図である。
図5】細胞死が誘導された軟骨細胞においてPF1803がcaspase 3及びcaspase 8の発現を減少させることを示す図である。
図6】細胞死が誘導された軟骨細胞においてPF1803がMMP3発現レベルを低下させ、Aggrecanの発現レベルを上昇させることを示す図である。
図7】関節炎動物モデルにおけるPF1803の軟骨保護効果を確認する組織学的分析を示す図である。
図8】関節炎動物モデルにおけるPF1803の疼痛緩和効果を確認する体重負荷を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0018】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0019】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、GLP-1(Glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト及び抗オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)抗体を含む融合タンパク質を提供する。
【0020】
本発明における「GLP-1受容体アゴニスト」とは、グルカゴン遺伝子の転写産物から誘導された胃腸由来ホルモンの一種であるGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の受容体に結合するタンパク質を意味し、血糖レベルを低下させる役割を果たす。前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1受容体を選択的に刺激し、GLP-1に類似するシグナル伝達経路を有するものであれば、特定物質に限定されるものではないが、具体例として、GLP-1やその誘導体などが挙げられる。前記GLP-1誘導体は、GLP-1から一部のアミノ酸の置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの組み合わせにより作製することができる。このようなGLP-1誘導体は、当該技術分野において周知の物質であり、例えばリラグルチド(liraglutide)、エキセンジン-4(exendin-4)、リキシセナチド(lixisenatide)、デュラグルチド(Dulaglutide)、アルビグルチド(albiglutide)などが挙げられる。
【0021】
本発明における「オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)」とは、白血球(leukocyte)受容体複合体に属し、2つの免疫グロブリン(immunoglobulin; Ig)ドメインを有する細胞表面受容体を意味する。本発明の前記オスカータンパク質又はその断片は、ヒト又はマウス由来のものであってもよい。前記ヒト又はマウス由来オスカータンパク質のアミノ酸配列、それをコードする塩基配列などの遺伝的情報は、公知のデータベースから得られ、例えば米国国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information; NCBI)のGenBankなどから得られるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明における「抗体」とは、タンパク質又はペプチド分子の抗原性部位に特異的に結合するタンパク質性分子を意味するが、このような抗体は、各遺伝子を通常の方法により発現ベクターにクローニングし、マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質を得て、得られたタンパク質から通常の方法により作製することができる。前記抗体は、軽鎖(light chain)と重鎖(heavy chain)が2つずつ集まって構成され、それぞれの鎖はアミノ酸配列が可変である可変領域(variable domain)と、一定の配列を有する定常領域(constant domain)とからなる。前記抗体は、可変領域の3次元構造の末端に抗原結合部位が位置し、その部位は、軽鎖と重鎖にそれぞれ3つずつ存在する相補性決定領域(complementarity determining region)が集まって形成される。前記相補性決定領域は、可変領域の中でもアミノ酸配列の可変性が特に高い部分であり、その高い可変性により様々な抗原に対する特異的抗体が得られる。本発明には、完全な抗体の形態だけでなく、前記抗体分子の抗原結合断片も含まれる。
【0023】
本発明における「抗体断片」とは、抗体の任意の一部分を意味し、scFv、dsFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、sdAb、ナノボディ(nanobody)など、及びそれらの組み合わせが抗体断片に該当し、前記抗体断片は、抗原認識部位を含むものであるが、これらに限定されるものではない。前記Fabは、軽鎖及び重鎖の可変領域、軽鎖の定常領域、並びに重鎖の第1定常領域(CH1ドメイン)を有する構造であり、1つの抗原結合部位を有する。Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に少なくとも1つのシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと異なる。F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合して生成される。Fv(variable fragment)とは、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のみを有する最小の抗体断片を意味する。ジスルフィド安定化Fv(dsFv)は、ジスルフィド結合により重鎖可変領域と軽鎖可変領域が連結されており、一本鎖Fv(scFv)は、一般にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合により連結されている。このような抗体断片は、プロテアーゼを用いることにより得てもよく、遺伝子組換え技術により作製してもよい。また、前記sdAb及びナノボディは、単一可変ドメイン抗体断片であり、例えば自然発生する単一可変ドメイン(VH)と、2つの不変ドメイン(CH2及びCH3)とを含む重鎖抗体のうち、その可変ドメインにおけるタンパク質加水分解又は遺伝子組換え技術により作製した抗体断片、及び抗体軽鎖又は重鎖可変ドメインを人工的に改変して作製した単一ドメイン抗体断片が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
本発明の抗オスカー抗体は、オスカータンパク質に作用する抗体であり、オスカーとコラーゲンの結合を阻害する抗体が含まれる。
【0025】
本発明の一実施例においては、前記抗オスカー抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むものであって、1)配列番号1で表される重鎖可変領域、及び配列番号2で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、2)配列番号3で表される重鎖可変領域、及び配列番号4で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、並びに3)配列番号5で表される重鎖可変領域、及び配列番号6で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片からなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の融合タンパク質は、GLP-1受容体アゴニストと抗オスカー抗体が結合されるように人工的に合成したタンパク質であるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明の融合タンパク質は、GLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体が直接連結されるか、リンカーを介して連結されるか、又は他のタンパク質部分(moiety)をさらに含むが、これらに限定されるものではない。本発明の融合タンパク質の連結方法は、連結されるタンパク質の構造や活性を変更させないものであれば、当該技術分野で行われるいかなる方法を用いてもよい。前記リンカーは、1~20個のアミノ酸からなるペプチド性リンカー又は非ペプチド性リンカーであるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の融合タンパク質は、タンパク質(例えば、GLP-1受容体アゴニスト及び/又は抗オスカー抗体)の半減期を延長させる物質の結合や、体内での分解を防止するための変異の導入などの方法で製造することができ、タンパク質に作用して持続性を向上させるものであれば、当該技術分野で公知のいかなる方法を用いてもよい。半減期を延長させる物質は、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド(saccharide)、ヘパリン及びエラスチンからなる群から選択されることを特徴とする。前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域であるが、特にこれに限定されるものではない。前記免疫グロブリンFc領域は、前記タンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本発明に用いられることは言うまでもない。
【0029】
前記免疫グロブリンFc領域は、CH1、CH2、CH3及びCH4ドメインからなる群から選択される1つ~4つのドメインからなるものであってもよく、ヒンジ(hinge)部分を含むこともある。前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、それらの組み合わせ(combination)及びそれらのハイブリッド(hybrid)からなる群から選択されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列変異体(mutant)も含まれる。アミノ酸配列変異体とは、天然アミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。
【0031】
具体的には、前記免疫グロブリンFc領域は、CH2及びCH3領域を含むものであり、単量体又は二量体であるが、これらに限定されるものではない。あるいは、前記免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG1のFc領域(配列番号8)の297番目のアミノ酸がアスパラギン(Asparagine)からアラニン(Alanine)に置換されたもの(配列番号9)であるが、これに限定されるものではない。一実施例として、前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号8又は配列番号9のアミノ酸配列からなるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
具体的な態様として、本発明の融合タンパク質は、配列番号7のアミノ酸配列からなるものであり、PF1803と混用されるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明の融合タンパク質は、GLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含むことにより、GLP-1受容体と抗オスカー抗体が同時に作用することを特徴とする。さらに、半減期延長物質を含むことにより、体内で長期間持続する薬効を示す。よって、本発明の融合タンパク質は、GLP-1受容体と抗オスカー抗体の同時作用、及び延長された半減期に基づいて、ターゲット疾患、特に関節炎に対する優れた治療剤となる。
【0034】
本発明の他の態様は、前記融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0035】
前記融合タンパク質については前述した通りである。
【0036】
本発明における「関節炎」とは、関節を保護している軟骨の損傷や退行性変化により関節を形成する骨や靭帯などに損傷が生じて炎症や疼痛が発生する疾患を意味し、骨関節炎(osteoarthritis)ともいう。本発明の関節炎には、退行性関節炎、剥離性骨軟骨炎、関節靭帯損傷、半月板損傷、関節の不整列、無血性壊死、関節リウマチ、小児特発性関節炎、外傷、炎症性関節炎又は感染による関節炎が含まれ、具体的には退行性関節炎又は関節リウマチであるが、これらに限定されるものではない。本発明の前記薬学的組成物は、軟骨破壊の遅延又は疼痛の軽減という効果を発揮し、関節炎の予防又は治療効果を有するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明における「予防」とは、本発明の組成物の投与により関節炎を防止又は遅延させるあらゆる行為を意味し、「治療」とは、本発明の組成物の投与により関節炎の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤をさらに含んでもよい。このような薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤は、非自然発生のものであってもよい。具体的には、前記組成物は、それぞれ通常の方法で散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エアゾール剤などの経口剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態に剤形化して用いられる。本発明において、前記薬学的組成物に含まれる担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱油が挙げられる。製剤化する場合は、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調製される。経口用固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが挙げられ、これらの固形製剤は、前記抽出物とその分画物に少なくとも1つの賦形剤、例えばデンプン、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混合して調製される。また、通常の賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤も用いられる。経口用液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられ、通常用いられる通常の希釈剤である水、流動パラフィン以外にも種々の賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが用いられる。非経口用製剤としては、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が挙げられる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラテンなどが用いられる。
【0039】
本発明のさらに他の態様は、前記融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用食品組成物を提供する。
【0040】
本発明のさらに他の態様は、前記融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用機能性食品組成物を提供する。
【0041】
前記融合タンパク質、関節炎及び予防については前述した通りである。
【0042】
本発明における「改善」とは、前記組成物を用いて疾患の発症個体及びその疑いのある個体の症状を好転又は有利に変化させるあらゆる行為を意味する。
【0043】
本発明における「食品」は、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類をはじめとする乳製品、各種スープ、清涼飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料、ビタミン複合剤、機能性食品などの通常の意味の食品であればいかなるものでもよく、本発明の融合タンパク質を含むものであればいかなるものでもよい。前記食品組成物の製造時には、当該技術分野において通常添加する原料及び成分を添加して製造することができ、その種類は特に限定されるものではない。例えば、通常の食品と同様に様々な生薬抽出物、食品学的に許容される食品補助添加剤、天然炭水化物などを追加成分として含んでもよいが、これらに限定されるものではない。有効成分の混合量は、使用目的に応じて適宜決定される。
【0044】
本発明における「機能性食品」とは、特定保健用食品(food for special health use, FoSHU)と同義であり、健康補助を目的として特定成分を原料とするか、食品原料に入っている特定成分を抽出、濃縮、精製、混合などの方法で製造、加工した食品であって、前記成分により生体防御、生体リズムの調節、疾病の防止及び回復などの生体調節機能が生体において十分に発揮されるように設計、加工された食品を意味する。前記機能性食品組成物は、疾病の予防、疾病の回復などに関する機能を有する。本発明の機能性食品は、健康機能食品などの当該技術分野で公知の用語と混用される。
【0045】
本発明のさらに他の態様は、前記薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、関節炎の予防又は治療方法を提供する。
【0046】
本発明における「個体」は、関節炎を発症したか、発症するリスクのある、マウス、家畜、ヒトなどが含まれる哺乳動物、養殖魚類などであればいかなるものでもよい。
【0047】
本発明の薬学的組成物は、当該技術分野で通常用いる投与方法を用いて経口、又は皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、関節、局所、舌下、膣内もしくは直腸経路が含まれる非経口投与経路で投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明の薬学的組成物の好適な投与量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定され、1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否か、具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間などに応じて異なる量であることが好ましい。
【0049】
本発明のさらに他の態様は、前記融合タンパク質の関節炎予防、改善又は治療用途を提供する。
【0050】
本発明のさらに他の態様は、前記融合タンパク質を含む薬学的組成物の関節炎予防又は治療用途を提供する。
【0051】
本発明のさらに他の態様は、前記融合タンパク質を含む食品組成物の関節炎予防又は改善用途を提供する。
【0052】
本発明のさらに他の態様は、前記融合タンパク質を含む機能性食品組成物の関節炎予防又は改善用途を提供する。
【0053】
前記融合タンパク質、薬学的組成物、食品組成物、機能性食品組成物、関節炎、予防、改善、治療などについては前述した通りである。
【実施例
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
融合タンパク質の製造及び検証
GLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質(PF1803;配列番号7)は、GLP-1-Fc-VH-VLとなるように合成した(図1)。合成した前記PF1803は、Nhe1/HindIIIサイトを用いてpcDNA3.1ベクターにクローニングした。クローニングしたベクターをCHO-S細胞にトランスフェクションし、3日目に上清を回収し、遠心分離と0.22μmフィルターを用いて細胞と浮遊物を除去し、その後protein A bead(Cytiva, Hitrap Preotain A)により精製した。
【0056】
非還元及び還元条件のSDS-PAGE gelとAnti-GLP1 Ab(Abcam)を用いたwestern blotによりPF1803が製造されることが確認された(図2)。
【0057】
Human OSCARタンパク質をコーティングバッファーにより1well当たり300ngずつimmuno-96 microwell plateに分注し、4℃で一晩表面固定した。5%skim milkを含むPBSTを1well当たり20μlずつ入れ、その後37℃で1時間反応させて非特異的結合を阻害した。その後、PF1803を最高濃度1000nMから0.017nMまで3倍希釈して各wellに100μlずつ分注し、37℃で1時間反応させた。200μlのPBSTで3回洗浄し、その後mouse anti-GLP1 antibody(abcam)を1:2000に希釈して各wellに100μlずつ分注し、37℃で1時間反応させた。PBSTでさらに3回洗浄し、その後1:3000に希釈したanti-mouse IgG-HRP(Millipore)を各wellに100μlずつ入れ、37℃で1時間反応させ、次いでPBSTで3回洗浄した。その後、TMB(BD)溶液を各wellに100μlずつ入れ、5分間常温で反応させ、次いで100μlの1N HClで反応を停止した。最終的に、分光光度計(Spectrmax iD3, Molecular devices)を用いて、450nmで吸光度を測定した。その結果、7.494nMのEC50値が確認されたので(図3)、生産されたPF1803タンパク質がOSCARとGLP-1抗体の両方に結合していることが確認された。
【実施例2】
【0058】
MIA誘導関節炎モデル
本発明に用いられる関節炎動物モデルは、monosodium iodoacetate(MIA)を関節腔内に注入して骨関節炎を誘導したモデルであり、MIAは、matrix metalloproteinase(MMP)の活性化を引き起こし、軟骨におけるproteoglycan合成を阻害し、軟骨細胞の壊死をもたらすので、患者の退行性関節炎の症状に類似した動物モデルである。
【0059】
具体的には、Monosodium iodoacetate(MIA, I2512, Sigma, Poole, UK)を注射用salineに20mg/mL、60mg/mLの濃度で溶解し、実験開始当日(day 0)に調製した。群分離し、実験開始日に動物を麻酔チャンバーに入れ、isofluraneを用いて吸入麻酔し、その後26.5gauge 1cc注射器により右膝関節内にinfrapatellar ligamentを介してMIA 50μL(MIA 1,3mg/body)を注射した。実験群及び投与物質を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
MIAで骨関節炎を誘導し、その後試験物質投与群(G3~G6群)は、試験物質を所定の用量でvehicleに均質化し、次いで1mlの投与ボリュームで膝関節投与を7日に1回行った。正常対照群及び賦形剤対照群は、同量のvehicleのみの膝関節投与を試験物質投与と同じ日程で7日に1回行い、陽性対照群は、Celecoxibを所定の用量でvehicleに均質化し、その後1日に1回経口投与した。
【実施例3】
【0062】
軟骨細胞(chondrocyte)の細胞死阻害効果
実施例3-1.軟骨細胞死の阻害
軟骨細胞死を誘導するために、マウスの軟骨から軟骨細胞を分離して用いた。マウス軟骨細胞をIL-1β 10ng/mlで処理し、抗OSCAR抗体に対する効果を評価するために、OSCARを発現するprimary cellからのシグナルを誘導するOSC(Oscar-binding triple-helical peptide)(配列番号10)で処理した。
【0063】
IL-1β及びOSC処理後に、GLP1-Fc(GLP-1と抗体のFc領域を融合した融合タンパク質)、抗OSCAR抗体又はPF1803で処理した各軟骨細胞の生存率(cell viability)を測定した。
【0064】
その結果、anti-OSCAR抗体投与群及びGLP-1投与群に比べて、PF1803 PF1803で処理した軟骨細胞の死滅が濃度依存的に著しく阻害されることが確認された(図4)。
【0065】
実施例3-2.細胞死伝達経路(caspase 3及びcaspase 8の活性低下)
実施例3-1でIL-1β及びOSC処理後にGLP1-Fc、抗OSCAR抗体又はPF1803で処理した各軟骨細胞のcaspase 3及びcaspase 8の活性を測定した。caspase 3及びcaspase 8は細胞死を示すタンパク質であるので、それらのレベルを測定して比較した。
【0066】
caspase 3及びcaspase 8のcleavage activityを測定する方法として、caspase 3又はcaspase 8のcolorimetric assay kitを用いた(caspase 3 kit (Biovision K106), caspase 8 kit (Biovision K113))。
【0067】
その結果、anti-OSCAR抗体投与群及びGLP-1投与群に比べて、PF1803で処理した軟骨細胞において、caspase 3及びcaspase 8の活性が大幅に低下することが確認された(図5)。これは、PF1803が軟骨破壊遅延及び再生効果に優れることを示唆するものである。
【0068】
実施例3-3.細胞死伝達経路(MMP3の発現減少及びAggrecanの発現増加)
実施例3-1でIL-1β及びOSC処理後にGLP1-Fc、抗OSCAR抗体又はPF1803で処理した各軟骨細胞のMMP3及びAggrecanの発現レベルをウェスタンブロットにより測定した。
【0069】
具体的には、MMP3(matrix metalloproteinase-3)はcatabolic markerであり、MMP3の増加は軟骨細胞破壊の指標となり、Aggrecanはanabolic markerであり、Aggrecanの増加は軟骨細胞再生の指標となるので、MMP3及びAggrecanの発現レベルを測定した。
【0070】
その結果、anti-OSCAR抗体投与群及びGLP-1投与群に比べて、PF1803で処理した軟骨細胞において、caspase 3及びcaspase 8の発現レベルが大幅に低下することが確認された(図6)。これは、PF1803が軟骨破壊遅延及び再生効果に優れることを示唆するものである。
【実施例4】
【0071】
PF1803の軟骨破壊遅延効果
各群の動物モデルの関節を採取してparaffin blockを作製した。軟骨組織の破壊と炎症細胞の増殖の程度を観察するために、H&EとSafranin Oを全数に対して行い、Safranin O stainの結果に応じてOARSI及びMankin scoreをつけ、対照群との差を統計的に分析した。
【0072】
その結果、陽性対照群を投与した動物の軟骨は完全に破壊された。anti-OSCAR抗体及びGLP-1併用投与群に比べて、PF1803を投与した動物において、軟骨破壊遅延効果に優れることが確認された(図7)。
【実施例5】
【0073】
PF1803の疼痛緩和効果
体重負荷(weight bearing)測定試験は、一方の脚に関節炎を誘導した後脚膝の疼痛により発生する、正常後脚(左)と関節炎誘導後脚(右)の体重負荷(又は体重分布)の変化を測定する実験である。体重負荷を測定する装置であるincapacitance meter(Model 600, IITC, USA)を用いて両側の後脚の荷重をそれぞれ測定した。動物の脚を着く姿勢により荷重が変化するので、動物がホルダー内に正確に位置して両脚を対称に着くようにし、固定担当者は1人にして可能な限り誤差を少なくした。各動物がホルダー内に正確に位置するときに機械を作動させ、5秒の測定時間で計2回ずつ測定し、その平均値を各脚のweight bearing(g)数値とした。測定時期に関しては、賦形剤対照群、実験群及び陽性対照群において、MIA投与による関節炎誘導前(day 0)に測定してbaseline値を求め、その後試験物質投与前(day 3)に測定して群分離し、次いで週2回所定時間に測定した。体重負荷測定試験の結果は、次の計算式によりweight bearing ratioに変換して分析した。
【0074】
【数1】
【0075】
その結果、陽性対照群、又はanti-OSCAR抗体及びGLP-1併用投与群に比べて、PF1803投与群は疼痛軽減効果に優れることが確認された(図8)。
【0076】
すなわち、本発明のGLP-1受容体アゴニスト及び抗オスカー抗体を含む融合タンパク質は、関節炎の予防又は治療用途に有用であることが示唆された。
【0077】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023551970000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-06-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP-1(Glucagon like peptide-1)受容体アゴニスト及び抗オスカー(Osteoclast-associated receptor, OSCAR)抗体を含む融合タンパク質。
【請求項2】
前記抗オスカー抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含むものであって、
1)配列番号1で表される重鎖可変領域、及び配列番号2で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、
2)配列番号3で表される重鎖可変領域、及び配列番号4で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、並びに
3)配列番号5で表される重鎖可変領域、及び配列番号6で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1又はその誘導体である、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質は、半減期延長物質をさらに含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記半減期延長物質は免疫グロブリンFc領域である、請求項4に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
前記免疫グロブリンFc領域は、297番目のアミノ酸がアスパラギンからアラニンに置換されたものである、請求項5に記載の融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質は、配列番号7で表されるものである、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記関節炎は、退行性関節炎又は関節リウマチである、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
前記薬学的組成物は、軟骨破壊を遅延させるか、又は疼痛を軽減することを特徴とする、請求項8に記載の薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用食品組成物。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質を有効成分として含む、関節炎の予防又は改善用機能性食品組成物。
【請求項13】
請求項8に記載の薬学的組成物をヒト以外の個体に投与するステップを含む、関節炎の予防又は治療方法。
【請求項14】
1)配列番号1で表される重鎖可変領域、及び配列番号2で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、
2)配列番号3で表される重鎖可変領域、及び配列番号4で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片、並びに
3)配列番号5で表される重鎖可変領域、及び配列番号6で表される軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体又はその断片
からなる群から選択される少なくとも1つを含む、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む抗オスカー抗体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0070
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0070】
その結果、anti-OSCAR抗体投与群及びGLP-1投与群に比べて、PF1803で処理した軟骨細胞において、MMP3の発現レベルは大幅に低下し、Aggrecanの発現レベルは大幅に増加した図6)。これは、PF1803が軟骨破壊遅延及び再生効果に優れることを示唆するものである。
【国際調査報告】