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特表2023-551984ポリマー組成物及びそれから膜を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ポリマー組成物及びそれから膜を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20231206BHJP
   C08L 61/04 20060101ALI20231206BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20231206BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20231206BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L61/04
C08K5/09
C08K5/42
C08J9/26 102
C08J9/26 CEZ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534307
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2021084665
(87)【国際公開番号】W WO2022122769
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/122,005
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】21151656.2
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブランハム, ケリー ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ハワード, サラ
(72)【発明者】
【氏名】シングレタリー, ナンシー ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】アウリリア, ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコロ, エマヌエーレ
【テーマコード(参考)】
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4F074AA87
4F074AB03
4F074AD10
4F074AD15
4F074CB03
4F074CB16
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA23
4F074DA43
4J002CC082
4J002CN011
4J002EG076
4J002EV256
4J002FD206
4J002GR00
(57)【要約】
本発明は、ポリ(アリーレンスルフィド)と少なくとも1つの水溶性塩とを含む、多孔質物品、とりわけ膜を製造するための組成物に関する。また、本発明は、前記多孔質物品を製造するための方法、及び流体を精製するためのその使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1つのポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーと、
(b)少なくとも1つの高分子電解質[高分子電解質(E)]と、
(c)芳香族化合物の少なくとも1つの塩であって、芳香族基と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム及び銀からなる群から選択される金属の少なくとも1つのスルホネート又はカルボキシレートとを含む塩[化合物(S)]と
を含む組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
ポリマー(PAS)が、次式:
[-Ar-S-](RPAS1
[式中、
-Ar-は、
【化1】
からなる式(式中、
Rは、それぞれの場合において、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され;
Tは、結合、-CO-、-SO-、-O-、-C(CH-、-C(CF-、フェニル及び-CH-からなる群から選択され;
iは、それぞれの場合において、0~4の独立して選択される整数であり;
jは、それぞれの場合において、0~3の独立して選択される整数である)の群から選択され;及び
-Ar-は好ましくは、次式:
【化2】
のいずれかによって表され、R及びiは上記の意味を有する]によって表される繰り返し単位(RPAS1)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ポリマー(PAS)が、式:
【化3】
の単位(RPAS1)を有するポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマーであって、式:
【化4】
のいずれかの単位を更に含み得、ポリマー(PPS)が単位(RPPS-m)及び/又は(RPPS-o)を更に含むとき、前記ポリマー(PPS)中の繰り返し単位(RPPS-m)及び/又は(RPPS-o)の合計濃度が、単位(RPPS)、(RPPS-m)及び(RPPS-o)の総量を基準として、最大でも10モル%、最大でも5モル%、最大でも3モル%、最大でも1モル%であると理解されるポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマーである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
- ポリマー(PAS)が、式(RPPS):
【化5】
の単位(RPAS1)から本質的になるポリマー(PPS)であり;及び/又は
- 前記ポリマー(PAS)が、最大でも700g/10分の、より好ましくは最大でも500g/10分の、更により好ましくは最大でも200g/10分の、更にいっそう好ましくは最大でも50g/10分の、更によりいっそう好ましくは最大でも35g/10分及び/又は少なくとも1g/10分の、より好ましくは少なくとも5g/10分の、更により好ましくは少なくとも10g/10分の、更にいっそう好ましくは少なくとも15g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bに従って1.27kgの荷重下に315.6℃において)を有し;及び/又は
- 前記ポリマー(PAS)が、ASTM D3418に従って示差走査熱量計(DSC)によって測定されるとき少なくとも240℃、より好ましくは少なくとも248℃、更により好ましくは少なくとも250℃、及び/又は最大でも320℃、より好ましくは最大でも300℃、更により好ましくは最大でも295℃の融点を有する、請求項3に記載の組成物(C)。
【請求項5】
前記高分子電解質(E)が、式:
【化6】
の基から選択される、酸基を有する繰り返し単位を有するポリマーであり、
はp価のカチオンであり、pは1、2又は3、好ましくは1又は2であり、Xは好ましくはH、(アルキル)アンモニウム基、金属カチオン基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
- 前記高分子電解質(E)が、不活性雰囲気下で、ASTM E1131に従ってTGA分析によって測定されるとき、100~300℃の温度範囲において5重量%未満、好ましくは3重量%未満の損失重量を有し、及び/又は
- 前記高分子電解質(E)が、少なくとも1.0g/l、好ましくは5.0g/l、より好ましくは10.0g/lの、25℃の水への溶解度を有し、及び/又は500超、好ましくは600超、より好ましくは800超の平均分子量を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
高分子電解質(E)が、スルホン化芳香族ホルムアルデヒド縮合物[下記に、ポリマー(Ar-S)]からなる群から選択され、及び好ましくは、式(RAPS):
【化7】
(式中、
- 記号
【化8】
は、フェニル基、ビフェニル基、ナフタレン基など、単核であっても多核であってもよく、縮合していてもいなくてもよい、芳香族基を意味し;
- Xはp価のカチオンであり、pは1、2又は3、好ましくは1又は2であり、Xは好ましくはH、(アルキル)アンモニウム基、金属カチオン基であり;
- qはゼロ又は1以上の整数であり;及び
- 式(RAPS)のそれぞれの繰り返し単位において、mはゼロ又は1~4の整数であり、但し、スルホン化度(下記に、D.S.)とも称される、mの平均値は一般的に、約0.4~約1.4に含まれることを条件とする)の単位を含むポリマー(Ar-S)から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
高分子電解質(E)が、式(RNPS-1):
【化9】
(式中、Xは原子価pのカチオンであり、pは1、2又は3である)の繰り返し単位(RNPS)を含むポリマー(N-S)、
及び式(RNPS-2)及び(RNPS-3)
【化10】
(nは整数であり、特にnは1~3であり、X及びpは上記の意味を有する)の繰り返し単位を含み得るポリマー(N-S)から選択される、ポリマー(Ar-S)であり、
好ましくは、単位(RNPS-1)のモル分率は、全単位(RNPS-1)、(RNPS-2)及び(RNPS-3)の50モル%超、好ましくは70モル%超、より好ましくは85モル%超である、請求項7に記載の組成物(C)。
【請求項9】
前記化合物(S)が、次式(I):
(R)-Ar-(T)(I)
(式中、
Arは、5~18個の炭素原子を有する置換又は無置換の、芳香族単環式基又は多環式基からなる群から選択される芳香族部分であり;
aは、ゼロ又は1~5の範囲の整数であり、好ましくはaはゼロ又は1であり;
aが1~5の整数である場合、Rのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、ハロゲン原子、-OH、-NH、C~C18脂肪族基、C~C18脂環式基、及びC~C18芳香族基からなる群から選択され;
bは1~4の範囲の整数であり、好ましくはbは1又は2であり;
Tのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、(SO )(Mp+1/p又は(COO)(Mp+1/pであり、Mp+は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム及び銀からなる群から選択されるp価の金属カチオンである)に従い;及び
好ましくは、式(I)中の前記基-Ar-は、
【化11】
(式中、
Zは、-SO-、-CO-及び1~6個の炭素原子の(ハロ)アルキレンからなる群から選択される二価部分である)からなる群から選択され;及び
より好ましくは、化合物(S)は、次式(II):
【化12】
(式中:
a、R、b、及びTは上述した通りである)に従い、
当業者に明らかなように、前記化合物(S)は、以下で定義されるように抽出可能であるといわれる場合もある、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
化合物(S)が、ナトリウム又はカリウムベンゾエート、ナトリウム又はカリウムメチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムエチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムブチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムベンゼン-1,3-ジスルホネート、ナトリウム又はカリウムp-トルエンスルホネート、ナトリウム又はカリウムキシレンスルホネート、ナトリウム又はカリウムクメンスルホネート、ナトリウム又はカリウムパラ-シメンスルホネート、ナトリウム又はカリウムn-ブチルベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムイソ-ブチルベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムtert-ブチルベンゼンスルホネート及びナトリウム又はカリウムドデシルベンゼンスルホネートを含む群において、より好ましくはからなる群において選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物(C)が、前記組成物(C)の総重量を基準として25重量%~65重量%、好ましくは30重量%~55重量%、より好ましくは35重量%~50重量%の量で前記少なくとも1つのポリマー(PAS)を含み;及び/又は
前記組成物(C)が、前記組成物(C)の総重量を基準として5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量で前記少なくとも1つの高分子電解質(E)を含み;及び/又は
前記組成物(C)が、前記組成物(C)の総重量を基準として5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量で前記少なくとも1つの化合物(S)を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物(C)が、
- 25重量%~65重量%、好ましくは30重量%~55重量%、より好ましくは35重量%~50重量%の量の、請求項3又は4に記載のポリマー(PPS)と;
- 5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量の、請求項7に記載のポリマー(Ar-S)、及び好ましくは、請求項8に記載のポリマー(N-S)と;
- 5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量の、請求項9に記載の式(I):(R)-Ar-(T)の化合物(S)と
を含み、これらの量が前記組成物(C)の総重量基準である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物(C)を製造する方法(M)であって、前記方法が、少なくとも1つのポリマー(PAS)、少なくとも1つの高分子電解質(E)及び少なくとも1つの化合物(S)をブレンディングすることを含み、前記ブレンディングが溶融混合装置内で、特に、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸スクリュー押出機、及び二軸スクリュー押出機からなる群から選択される機器内で行われる、方法。
【請求項14】
微孔性物品[物品(P)]の製造のための方法[方法(M)]であって、前記方法が、
(I)請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物(C)を溶融加工し、このように前駆物品[物品(A)]を提供する工程と;
(II)工程(I)において得られる前記物品(A)を少なくとも1つの浸出媒体と接触させて、高分子電解質(E)及び化合物(S)を少なくとも部分的に除去し、このように前記物品(P)を提供する工程とを含む方法。
【請求項15】
- 工程(I)において、組成物(C)が押出成形、射出成形、注型成形、溶融紡糸から選択される溶融加工技術を用いて溶融加工され;及び/又は
- 工程(I)において、組成物(C)の溶融加工後に、物品(A)が、ポリマー(PAS)の融解温度及び/又はガラス転移温度よりも低く適切に冷却され;及び/又は
- 工程(II)が、水性媒体及び有機溶媒媒体からなる群から選択される少なくとも1つの浸出媒体を含む浴に前記物品(A)を入れることによって行われ、好ましくは前記浸出媒体は、水性塩基性媒体などの水性媒体である、請求項14に記載の方法(M)。
【請求項16】
好ましくは膜(Q)である、請求項14又は15に記載の方法から得られる多孔質物品(物品(P))。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月7日に出願された米国仮特許出願第63/122005号及び2021年1月14日に出願された欧州特許出願公開第21151656.2号に対する優先権を主張するものであり、これらの出願のそれぞれの全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ポリアリールスルフィドポリマーと、水溶性ポリマー添加剤と少なくとも1つの水溶性塩とを含む、多孔質物品、とりわけ膜を製造するための組成物に関する。また、本発明は、前記多孔質物品を製造するための方法、それからの多孔質物品及び流体を精製するためのその使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
多孔質膜は、それらと接触した化学種の透過を適度にする不連続の、薄い界面である。多孔質膜の重要な特性は、膜自体を通っての化学種の透過速度を制御するそれらの能力である。この特徴は、分離用途(水及びガス)又は薬物送達用途のような多くの異なる用途において利用されている。多孔質(微孔性を含める)膜による分離方法の中で、限外ろ過、精密濾過、深層ろ過、マクロろ過、膜蒸留、及び膜ストリッピングを挙げることができる。
【0004】
ところで、ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマー(PAS)、特にポリ(フェニレンスルフィド)ポリマーから製造される膜は既に記載されている。確かに、ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーは、高いガラス転移温度、高い結晶融点、高い熱安定性、及び無類の耐溶媒性を有する高性能熱可塑性樹脂であり、それらはPASを化学的に及び熱的に過酷な環境において選択するための材料にしている。一貫して、このような特性のために、PASポリマーは流体分離において使用される膜のために特に有用であり、石油及びガス製造用、薬剤及び精化学薬品の精製、食品及び飲料の製造、並びにその他の工業用途など、高温における有機流体、酸性流体又は塩基性流体の処理を必要とする、膜分離方法において特に有用である。
【0005】
それにもかかわらず、高い耐熱性及び/又は耐溶媒性が必要とされる使用分野においてポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーを非常に望ましい材料にするまさに同じ特質が、同じくこのようなポリマーを膜に加工するのを非常に難しくしている。
【0006】
とりわけ、膜を製造するための溶液型方法は、共通溶媒中へのポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーの不十分な溶解性によって制限され、高温でPASを溶解することができる場合がある特殊な溶媒/可塑剤の使用を必要とする。したがって、ジフェニルケトン(DPK)、ジフェニルスルホン(DPS)、及びジブチルフタレート(DBP)などの可塑剤を利用する時に(例えばX.Wang et al.,RSC Adv.,2017,7,pp.10503を参照のこと)、及び前記稀釈剤の除去のための、浸出用の追加の溶媒を使用する時に(例えば米国特許第5246647号明細書、米国特許第5507984号明細書を参照のこと)、PAS多孔質膜への可能な手段として熱誘起相分離技術が報告されている。
【0007】
PAS膜への他の手法は、国際公開第WO94/17974号パンフレットに記載されており、それは、PPSと、PPSと不相溶性である結晶性ポリマーと、任意選択によりPPSの押出又はキャスティング温度でPPSを溶解することができる可塑剤とのブレンドを形成する工程と、前記ブレンドを溶融状態から加工してフィルムを形成する工程と、可塑剤及び結晶性ポリマーの少なくとも一部を浸出除去する工程とを含む、ポリフェニルスルフィド(PPS)の微孔性膜の製造方法に関する。それによって例示される作業実施形態において、結晶性ポリマーのなかでとりわけポリカプロラクトン、ポリ(ビニルアルコール)又はポリエチレングリコールが使用されるが、浸出工程は、塩化メチレンを使用して行われる。
【0008】
更に、国際公開第WO94/17985号パンフレットには、類似しているが、ポリフェニルスルフィド(PPS)と組み合わせて滲出性成分として結晶性ポリマーの代わりに非晶質ポリマー(例えばポリスチレン、ポリエーテルイミド又はポリスルホン)を使用してPPS微孔性膜を製造するための方法が記載されている。
【0009】
しかし、全てのこれらの方法は、大量の有機可塑剤及び有機溶媒をしばしばこれらの引火点をかなり超える温度で取り扱うことを必要とし、したがって重大な安全性の問題を提起する。
【0010】
もっと最近では、国際公開第2018/065526号パンフレット(Solvay specialty Polymers USA,L.L.C..)には、微孔性膜又は中空繊維を製造するための代替方法が提案されており、前記方法は、
(I)ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマー又はポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマー、及び
(II)前記組成物の総重量を基準として少なくとも28重量%の、スルホン酸塩又はカルボン酸塩である添加剤、
を含む組成物を提供する工程と、
同じ組成物をフィルムに加工し、添加剤を浸出除去するための水性媒体に前記フィルムを暴露して多孔質膜を提供する工程とを含む。実験の項において提供される組成物の例は、とりわけ、比50/50のPPSとナトリウムベンゼンスルホネートとの二成分ブレンドを含み、それは約50%の多孔率を有する多孔質膜に加工される。
【0011】
この技術は、使用される添加剤が溶融相において低い粘度を有する小分子であるので、上に言及したように、浸出媒体として温水を使用して約50%の多孔率まで多孔質膜を有効に製造することが示されたが、このような技術は、より高い多孔率の膜を製造するために適していない。添加剤の量を増加させることによって、配合及びフィルム加工中に成分の相分離を不可避的にもたらし、その結果、PPSマトリックス中の添加剤の必要とされる均一に分散される分布を有するのに適したペレット/フィルム前駆体を得ることができない。したがって、この技術は、これらの点において失敗しており、60%以上の多孔率を有する膜を提供することができないことがわかっている。
【発明の概要】
【0012】
石油及びガス製造、薬剤及び精化学薬品の精製、食品及び飲料の製造、並びにその他の工業用途において使用するためにとりわけ適した、フラットシート、チューブ状及び中空繊維の形態の膜などの、ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマーの微孔性物品を製造する方法が依然として必要とされており、前記方法は、有機溶媒を利用しないような方法であり、且つ高い多孔率のポリ(アリーレンスルフィド)ポリマー膜を提供するために経済的及び工業的に有効であるような方法であることを出願人は理解する。
【0013】
出願人は、驚くべきことに、少なくとも1つのポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーと、少なくとも1つの高分子電解質と、アルカリ金属又はアルカリ土類金属種から選択される金属を有する少なくとも1つのスルホネート又はカルボキシレート塩との三成分ブレンドを含む組成物から出発して膜を製造することによって上記問題が解決できることを見出した。
【0014】
したがって、第1の態様では、本発明は、
(a)少なくとも1つのポリ(アリーレンスルフィド)(PAS)ポリマーと、
(b)少なくとも1つの高分子電解質[高分子電解質(E)]と、
(c)芳香族化合物の少なくとも1つの塩であって、芳香族基と、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム及び銀からなる群から選択される金属の少なくとも1つのスルホネート又はカルボキシレートとを含む塩[化合物(S)]とを含む組成物[組成物(C)]に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本説明の目的のために、
- 化合物、化学式又は式の部分を特定する記号又は数字の前後の括弧の使用は、それらの記号又は数字を本文の残りからよりよく区別する目的を有するにすぎず、これ故に、前記括弧はまた省略することができ;
- 「溶融温度(T)」又は「T」又は「融点」は、実施例において詳述するように、ASTM D3418に従って20℃/分で示差走査熱量測定(DSC)により測定した溶融温度を示すことが意図されており;
- 用語「ハロゲン」は、特に明記しない限り、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素を含み;
- 形容詞「芳香族」は、4n+2(nは1又は任意の正の整数である)に等しいπ電子数を有する任意の単核又は多核の環状基(又は部位)を意味し、芳香族基(又は部位)は、アリール及びアリーレン基(又は部位)であり得る。
【0016】
ポリ(アリーレンスルフィド)ポリマー[ポリマー(PAS)]
ポリ(アリーレンスルフィド)(「PAS」)ポリマーは、次式:
[-Ar-S-](RPAS1
[式中、
-Ar-は、
【化1】
からなる式(式中:
Rは、それぞれの場合において、C~C12アルキル基、C~C24アルキルアリール基、C~C24アラルキル基、C~C24アリーレン基、及びC~C18アリールオキシ基からなる群から独立して選択され;
Tは、結合、-CO-、-SO-、-O-、-C(CH-、-C(CF-、フェニル及び-CH-からなる群から選択され;
iは、それぞれの場合において、0~4の独立して選択される整数であり;
jは、それぞれの場合において、0~3の独立して選択される整数である)の群から選択される]によって表される繰り返し単位(RPAS1)を含む。
【0017】
式(a)、(b)及び(c)において、i又はjがゼロであるとき、相当するベンジル環は非置換である。本明細書全体を通して、同様の表記法が使用される。更に、各式(a)~(c)は、2つの破線の結合を含んでおり、一方の結合は繰り返し単位(RPAS1)の明確な硫黄原子への結合であり、もう一方の結合は繰り返し単位(RPAS1)の外側の原子(例えば隣接する繰り返し単位)への結合である。全体を通じて類似の表記法が使用される。
【0018】
好ましくは、-Ar-は、式(a)又は(b)のどちらかによって表され、より好ましくは式(a)よって表される。
【0019】
より好ましくは、-Ar-は、次式:
【化2】
のいずれかによって表される。
【0020】
更にいっそう好ましくは、-Ar-は、式(a-1)、(a-2)及び(a-3)(iはゼロである)のいずれかによって表される。
【0021】
式(a-1)の-Ar-を有する単位(RPAS1)は、-Ar-が式(a-2)及び/又は(a-3)のいずれかである単位と共に存在している場合、ポリマー(PAS)において-Ar-が式(a-2)及び(a-3)のいずれかである繰り返し単位(RPAS1)の合計濃度は、-Ar-が式(a-1)、(a-2)及び(a-3)のいずれかである単位(RPAS1)の総量を基準として最大でも10モル%、最大でも5モル%、最大でも3モル%、最大でも1モル%である。
【0022】
上記のように、式(a1)(iはゼロである)の単位(RPAS1)を有する、すなわち式:
【化3】
の単位(RPAS1)を有するポリマー(PAS)はポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマーと称される。
【0023】
ポリマー(PPS)は、式:
【化4】
のいずれかの単位を更に含み得、ポリマー(PPS)が単位(RPPS-m)及び/又は(RPPS-o)を更に含むとき、ポリマー(PPS)中の繰り返し単位(RPPS-m)及び/又は(RPPS-o)の合計濃度は、単位(RPPS)、(RPPS-m)及び(RPPS-o)の総量を基準として最大でも10モル%、最大でも5モル%、最大でも3モル%、最大でも1モル%であると理解される。
【0024】
いくつかの実施形態において、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS1)の合計濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも98モル%、少なくとも99モル%又は少なくとも99.9モル%である。
【0025】
いくつかの実施形態において、ポリマー(PAS)は、繰り返し単位(RPAS1)と異なる繰り返し単位(RPAS2)を含み得、前記繰り返し単位(RPAS2)は、次式:
[-Ar-S-](RPAS2
[式中、
-Ar-は、次式
【化5】
(式中、Rは、C~C10直鎖又は分岐アルキル基であり、好ましくはRは-CHである)によって表される]によって表される。
【0026】
式(d)において、「*」を有する破線の結合は、繰り返し単位(RPAS2)の明確な硫黄原子への結合を示し、及び「*」のない破線の結合は、繰り返し単位(RPAS2)の外側の原子への結合を示す。他の面から言えば、単位(RPAS2)において、R置換基は、-S-部分に対してオルト位にある。
【0027】
当然、いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)は、それぞれ互いに異なり、且つ繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)とは異なる、追加の繰り返し単位を有することができる。
【0028】
いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)の合計濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも98モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%である。
【0029】
本明細書において、ポリマー中の繰り返し単位のモル濃度は、別段の明示的な規定がない限り、そのポリマー中の繰り返し単位の総数に対するものである。
【0030】
いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS1)の濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも85モル%、少なくとも88モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも97モル%、少なくとも98モル%、少なくとも98.5モル%、又は少なくとも99モル%である。
【0031】
いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS2)の濃度は少なくとも0.5モル%、少なくとも1モル%、少なくとも1.5モル%、少なくとも2モル%、又は少なくとも2.5モル%である。いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS2)の濃度は、15モル%以下、12モル%以下、10モル%以下、又は8モル%以下である。
【0032】
いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS2)のモル数は、0.5モル%~15モル%、0.5モル%~12モル%、0.5モル%~10モル%、0.5モル%~8モル%、1モル%~15モル%、1モル%~12モル%、1モル%~10モル%、1モル%~8モル%、2モル%~8モル%、又は2.5モル%~8モル%である。
【0033】
いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)の総数に対する繰り返し単位(RPAS2)の数の比は、少なくとも1モル%、少なくとも1.5モル%、少なくとも2モル%、又は少なくとも2.5モル%である。
【0034】
いくつかの実施形態では、繰り返し単位(RPAS1)及び(RPAS2)の総数に対する繰り返し単位(RPAS2)の数の比は、15モル%以下、12モル%以下、10モル%以下、又は8モル%以下である。
【0035】
ポリマー(PAS)は単位(RPAS2)を含むことができるが、ポリマー(PAS)が上に詳述したような単位(RPAS2)を全く含まない実施形態が好ましい。これらの実施形態によると、ポリマー(PAS)中の繰り返し単位(RPAS1)の濃度は、少なくとも50モル%、少なくとも60モル%、少なくとも70モル%、少なくとも80モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、少なくとも98モル%、少なくとも99モル%、又は少なくとも99.9モル%である。
【0036】
最も好ましくは、ポリマー(PAS)は、上に詳述したような繰り返し単位(RPAS1)から本質的になる。「本質的に~からなる」という表現は、ポリマー(PAS)の構成部分を特徴づけるために使用されるとき、少量の疑わしい単位(例えば0.1モル%未満)、不純物又は鎖末端は、これがポリマー(PAS)の有利な特質を変えずに存在し得ることを示すことを意図している。
【0037】
最も好ましくは、ポリマー(PAS)は、上記のようなポリマー(PPS)であり、上に詳述したような.式(RPPS)の単位(RPAS1)から本質的になるポリマー(PPS)が最も好ましい。
【0038】
ポリマー(PAS)は、最大でも700g/10分の、より好ましくは最大でも500g/10分の、更により好ましくは最大でも200g/10分の、更にいっそう好ましくは最大でも50g/10分の、更によりいっそう好ましくは最大でも35g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bに従って1.27kgの荷重下に315.6℃において)を有し得る。
【0039】
好ましくは、ポリマー(PAS)は、少なくとも1g/10分の、より好ましくは少なくとも5g/10分の、更により好ましくは少なくとも10g/10分の、更にいっそう好ましくは少なくとも15g/10分のメルトフローレート(ASTM D1238、手順Bに従って1.27kgの荷重下に315.6℃において)を有する。
【0040】
ポリマー(PAS)は、アモルファス又は半結晶性であり得る。本明細書において、アモルファスポリマーは、5ジュール/g(「J/g」)以下の融解エンタルピー(「ΔH」)を有する。当業者であれば、ポリマー(PAS)がアモルファスである場合、それが検出可能な融解温度(T)を有さないことを認識するであろう。したがって、当業者であれば、ポリマー(PAS)がTを有する場合にはそれが半結晶性ポリマーを指すことを認識するであろう。好ましくは、ポリマー(PAS)は半結晶性である。いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)は、少なくとも10J/g、少なくとも20J/g、少なくとも、又は少なくとも25J/gのΔHを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)は、90J/g以下、70J/g以下、又は60J/g以下のΔHを有する。いくつかの実施形態では、ポリマー(PAS)は、10J/g~90J/g又は20J/g~70J/gのΔHを有する。ΔHは、ASTM D3418に従って示差走査熱量計(DSC)によって測定することができる。
【0041】
好ましくは、ポリマー(PAS)は、ASTM D3418に準拠して示差走査熱量計(DSC)を用いて決定されるとき少なくとも240℃、より好ましくは少なくとも248℃、更により好ましくは少なくとも250℃の融点を有する。
【0042】
好ましくは、ポリマー(PAS)は、ASTM D3418に準拠して示差走査熱量計(DSC)を用いて決定されるとき最大でも320℃、より好ましくは最大でも300℃、更により好ましくは最大でも295℃の融点(Tm)を有する。
【0043】
高分子電解質(E)
高分子電解質(E)は、1つ又は2つ以上の電解質基、すなわち水性媒体中にイオン性基を有する繰り返し単位を有するポリマーである。高分子電解質(E)の繰り返し単位はカチオン型及びアニオン型の両方の電解質基を有し得るが、本発明の目的のために高分子電解質(E)が酸基、好ましくは式:
【化6】
(式中、Xはp価のカチオンであり、pは1、2又は3、好ましくは1又は2であり、Xは好ましくはH、(アルキル)アンモニウム基、金属カチオン基である)の群から選択される基を有する単位を有することが好ましい。
【0044】
高分子電解質(E)は有利には、溶融相においてポリマー(PAS)を加工する時に直面する条件において熱安定性を確実にするように選択される。したがって、高分子電解質(E)は有利には、不活性雰囲気下で、ASTM E1131に従ってTGA分析によって測定されるとき、100~300℃の温度範囲において5重量%未満、好ましくは3重量%未満の損失重量を有する高分子電解質から選択される。あり得る保湿性のために高分子電解質(E)の100℃未満での損失重量は意味がない場合があると一般的に理解される。したがって、100~300℃の間で5重量%未満の損失重量は、ポリマー(PAS)を溶融加工する時に直面するような加熱条件に著しい分解現象を全く受けることなく耐え得る高分子電解質(E)を表わしている。
【0045】
更に、高分子電解質(E)は一般的に、室温で又はより高い温度で、しかし標準沸点より低い温度で水への測定可能な溶解度を有する高分子電解質のなかから選択される。一般的に、高分子電解質(E)は、少なくとも1.0g/l、好ましくは5.0g/l、より好ましくは10.0g/lの、25℃の水への溶解度を有する高分子電解質のなかから選択される。
【0046】
高分子電解質(E)は、高分子材料、すなわち複数の繰り返し単位を含む化合物である。したがって、高分子電解質(E)は、化合物(S)などの小分子から区別できる。
【0047】
高分子電解質は一般的に、500超、好ましくは600超、より好ましくは800超の平均分子量を有すると理解される。高分子電解質(E)の平均分子量の上限は特に制限されない。500000までの平均分子量を有する高分子電解質(E)が有用であり得る。
【0048】
高分子電解質(E)の分子量を決定するための方法は公知であり、高分子電解質(E)それ自体の化学的特性に応じて、当業者によって選択される。ゲル透過クロマトグラフィー、NMR、溶液の粘度測定、浸透圧法等の技術を使用して、必要ならば適した標準に対して分子量を決定することができると一般的に理解される。
【0049】
このようなポリマー特性は、溶融状態の適切な粘度を前記高分子電解質(E)に与えるような特性であり、ポリマー(PAS)の連続相において均一に分散された相として、組成物(C)中の適した混合及び分散性を確実にする。
【0050】
本発明の特定の有利な実施形態によると、高分子電解質(E)は、スルホン化芳香族ホルムアルデヒド縮合物[下記に、ポリマー(Ar-S)]からなる群から選択される。
【0051】
このようなポリマー(Ar-S)は一般的に、例えば、ナフタレンスルホン酸、ナフトールスルホン酸、アルキル化ナフタレン及びアルキル化ナフトールスルホン酸並びにトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの間の反応の結果である。
【0052】
芳香族スルホン酸又は芳香族スルホネート(前記ポリマー(Ar-S)の前駆体である)は、例えば、アルファ-ナフトール、ベータ-ナフトール、ナフタレン、トルエン、ベンゼン、フェノール、メチル、エチル、イソプロピル及びブチルナフタレン及びアルキル置換基に例えば1~8個の炭素原子を含有するアルキル化ベンゼンなどの芳香族化合物をスルホン化することによって調製することができる。
【0053】
特定の出発原料に応じて、スルホン化反応は、単一スルホン酸基又は2つ以上のスルホン酸基を芳香核に導入することができる。例えば、濃硫酸によるベータ-ナフトールのスルホン化は、8-スルホン酸に転位し次いで2-ナフトール-6-スルホン酸に転位する2-ナフトール-1-スルホン酸の製造を主として初期にもたらす。これは、6,8-及び3,6-ジスルホン酸の形成を伴う。したがって、スルホン化生成物は一般に、主にモノスルホン酸を含有する様々なスルホン酸の混合物である。同様に、説明されたタイプの他の芳香族化合物のスルホン化において混合物が得られる。
【0054】
より詳しくは、ポリマー(Ar-S)を調製するため、スルホン化芳香族化合物をホルムアルデヒドと反応させて縮合物を形成し、金属酸化物また水酸化物、水酸化アンモニウム、金属炭酸塩、又は金属酢酸塩の水溶液を添加することによってそれを中性又はアルカリ性にする。
【0055】
ポリマー(Ar-S)は一般的に、式(RAPS):
【化7】
(式中:
- 記号
【化8】
は、フェニル基、ビフェニル基、ナフタレン基など、単核であっても多核であってもよく、縮合していてもいなくてもよい、芳香族基を意味し;
- Xはp価のカチオンであり、pは1、2又は3、好ましくは1又は2であり、Xは好ましくはH、(アルキル)アンモニウム基、金属カチオン基であり;
- qはゼロ又は1以上の整数であり;及び
- 式(RAPS)のそれぞれの繰り返し単位において、mはゼロ又は1~4の整数であり、但し、スルホン化度(下記に、D.S.)とも称される、mの平均値は一般的に、約0.4~約1.4に含まれることを条件とする)の単位を含むと理解される。
【0056】
ポリマー(Ar-S)は一般的に、500超、好ましくは600超、より好ましくは800超;及び/又は最大でも10000、好ましくは最大でも8000、より好ましくは最大でも5000の平均分子量を有すると理解される。
【0057】
確かに、スルホネート又はスルホン酸基の平均数/ポリマー構造の繰り返し単位として本明細書において定義される、スルホン化度(D.S.)は、スルホン化芳香族ホルムアルデヒド縮合物の溶解性に影響を与え得る重要な変数である。
【0058】
本発明の文脈で使用されるポリマー(Ar-S)は、ホルムアルデヒドと単一モノスルホン化芳香族化合物との重縮合によって本質的に製造される場合、1に等しいD.S.を有することができるか、又はとりわけ、別の経路によって、及び/又はスルホン化芳香族化合物の混合物から調製される場合、1と実質的に異なっているD.S.を有することができる。
【0059】
本発明による組成物(C)に導入するために有用であることがわかったポリマー(Ar-S)は好ましくは、ナフタレンスルホン酸[下記に、ポリマー(N-S)]のホルムアルデヒド縮合ポリマーであり、最も好ましくはナフタレンモノスルホン酸の、特に2-モノスルホン酸のホルムアルデヒド縮合ポリマーである。一般的に、これらのポリマー(N-S)は、カチオンがリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、水素、製剤的に許容可能な有機アミンに由来するアンモニウム及び置換アンモニウムイオンからなる群から選択される、食品適合且つ製剤的に許容可能な塩として利用できる。一般的には、金属及びアンモニウム塩が、それらのより高い水溶解性及びより低い酸性度(中性に近い)のために遊離スルホン酸誘導体よりも好ましく、ナトリウム及び亜鉛塩が特に好ましい。
【0060】
一般的に、ポリマー(N-S)は、式:
【化9】
(式中、Xは原子価pのカチオンであり、pは1、2又は3である)の繰り返し単位(RNPS)を含むポリマーである。
【0061】
その特性繰り返し単位(RNPS-1):
【化10】
(式中、Xは原子価pのカチオンであり、pは1、2又は3である)の一般構造式に示されるように、
芳香環上のメチレン(-CH-)結合の正確な位置又は配向は知られておらず、一般的に複雑で変化すると認識されている。ホルムアルデヒド結合の一部は-CH-型だけでない場合があるが、以下の式に示されるような-CHOCH-及び-CH(OCHOCH-などのいくつかの延長単位も含み得、それらは、好ましい実施形態:
【化11】
(nは整数であり、特にnは1~3であり、又は更に他の可能性がある)によると、ポリマー(N-S)中に存在し得る追加の繰り返し単位を表わしていると更に理解されるが、単位(RNPS-1)に含まれる-CH-型のホルムアルデヒド結合が一般に支配的であると考えられる。
【0062】
他の面から言えば、ポリマー(N-S)は、上に詳述したような繰り返し単位(RNPS-1)に加えて、式(RNPS-2)及び/又は(RNPS-3)の繰り返し単位を含み得、一般的に、単位(RNPS-1)のモル分率は、全単位(RNPS-1)、(RNPS-2)及び(RNPS-3)の50モル%超、好ましくは70モル%超、より好ましくは85モル%超であると理解される。
【0063】
同様に、ポリマー(N-S)において、ナフタレン環はモノスルホン化され、式(RNPS-1-a)の単位に示されるように主に2位にスルホン酸基を有すると考えられるが、式(RNPS-1-b)におけるように、1-異性体のものもあり得る:
【化12】
(X及びpは上で示した意味を有する)。
【0064】
ポリマー(Ar-S)は一般的に、水又は水とそれと混和性の有機溶媒(一般的に少なくとも1%w/w)とを含む混合溶媒中に実質的に可溶性である。
【0065】
繰り返し単位(RNPS-1)、(RNPS-2)及び(RNPS-3)において示されるように、本発明において使用される市販のポリマー(N-S)は、ホルムアルデヒドと(精製した)ナフタレンスルホン酸との縮合によって調製され、したがって本質的に1のスルホン化度を有すると理解される。しかしながら、本発明は、これらの市販のポリマーの使用に制限されないが、上記のように、D.S.が約0.4~約1.4の範囲である類似したホルムアルデヒド/ナフタレン縮合物を含む。
【0066】
スルホン化芳香族ホルムアルデヒド縮合物、別称ポリマー(Ar-S)は一般的に、本発明の組成物(C)において塩として使用され、すなわち、H.以外のカチオンで塩に変えられたそれらのスルホン酸基の主部分を有する。アルカリ金属カチオン、特にリチウム、ナトリウム、カリウム、又は多価金属カチオン、例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛、及びアルミニウム、アンモニウム及び第一、第二、又は第三有機アンモニウムカチオンがポリマー(Ar-S)において適した造塩カチオンであり得る。
【0067】
本発明の組成物(C)において特に有効であることがわかっているポリマー(Ar-S)は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒドポリマーナトリウム塩である。
【0068】
化合物(S)
好ましくは、前記化合物(S)は、次式(I):
(R)-Ar-(T)(I)
(式中、
Arは、5~18個の炭素原子を有する置換又は無置換の、芳香族単環式基又は多環式基からなる群から選択される芳香族部分であり;
aは、ゼロ又は1~5の範囲の整数であり、好ましくはaはゼロ又は1であり;
aが1~5の整数である場合、Rのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、ハロゲン原子、-OH、-NH、C~C18脂肪族基、C~C18脂環式基、及びC~C18芳香族基からなる群から選択され;
bは1~4の範囲の整数であり、好ましくはbは1又は2であり;
Tのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、(SO )(Mp+1/p又は(COO)(Mp+1/pであり、Mp+は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム及び銀からなる群から選択されるp価の金属カチオンである)に従う。
【0069】
上の式(I)で示されているように、化合物(S)は、上で定義した互いに同じであるか異なる1~4個の基Tを含み得る。
【0070】
好ましくは、各Rは、互いに同じであるか異なり、ハロゲン原子、-OH、-NH、及びC~C脂肪族基(メチル、エチル、又はプロピルなど)からなる群から選択される。
【0071】
好ましくは、Mp+は、アルカリ金属(周期表のIA族)又はアルカリ土類金属(周期表のIIA族)から選択される。
【0072】
好ましい実施形態では、Mp+はナトリウム又はカリウムであり、その結果、Tはスルホン酸及び/又はカルボン酸のナトリウム及び/又はカリウム塩である。
【0073】
好ましくは、式(I)中の前記芳香族部分は、以下:
【化13】
からなる群から選択され、これらの式において、
Zは、-SO-、-CO-及び1~6個の炭素原子の(ハロ)アルキレンからなる群から選択される二価部分である。
【0074】
好ましくは、Zは、-C(CH-、-C(CF-又は-C2n-(nは1~6の整数である)、例えば-CH-又は-CH-CH-から選択される。
【0075】
好ましくは、式(Ar-A)~(Ar-D)の芳香族部分は、互いに同じであるか異なる1、2、又は3つの基Tを含み、Xは上で定義した通りである。より好ましくは、式(Ar-A)~(Ar-D)の芳香族部分は、上で定義した1つ又は2つの基Tを含む。
【0076】
より好ましくは、化合物(S)は、次式(II):
【化14】
(式中:
a、R、b、及びTは上述した通りである)に従う。
【0077】
好ましくは、上記の式(I)及び(II)において、aは、0、1、又は2である。
【0078】
一実施形態によれば、aはゼロであり、そのため、フェニレン部位は、スルホネート又はカルボキシレート官能基以外の置換基を有さない。
【0079】
別の実施形態によれば、aは1であり、Rは-NHである。
【0080】
有利には、化合物(S)は本質的に水溶性である。
【0081】
当業者に明らかなように、前記化合物(S)は、以下で定義されるように抽出可能であると言われる場合もある。
【0082】
好ましくは、化合物(S)は、安息香酸塩、メチル安息香酸塩、エチル安息香酸塩、プロピル安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンジスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩、p-シメンスルホン酸塩、及びドデシルベンゼンスルホン酸塩を含む群の中で、より好ましくはこれらからなる群の中で選択される。
【0083】
本発明の好ましい実施形態によれば、化合物(S)は、ナトリウム又はカリウムベンゾエート、ナトリウム又はカリウムメチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムエチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムブチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムベンゼン-1,3-ジスルホネート、ナトリウム又はカリウムp-トルエンスルホネート、ナトリウム又はカリウムキシレンスルホネート、ナトリウム又はカリウムクメンスルホネート、ナトリウム又はカリウムパラ-シメンスルホネート、ナトリウム又はカリウムn-ブチルベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムイソ-ブチルベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムtert-ブチルベンゼン(benezene)スルホネート及びナトリウム又はカリウムドデシルベンゼンスルホネートからなる群から選択される。
【0084】
別の好ましい実施形態によれば、化合物(S)は、少なくとも1つのアミノ基を更に含む。この実施形態では、化合物(S)の適切な例は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むパラ-アミノ安息香酸塩である。
【0085】
組成物(C)に含まれる化合物(S)がナトリウムベンゼンスルホネートであったときに非常に良い結果が得られており、それは、とりわけ安息香酸ナトリウムなどの他の化合物(S)で達成される既にきわめて良い性能を凌ぐことがわかった。
【0086】
上記のように、化合物(S)は、明確に定義された化学構造を有利には有する、したがって高分子電解質(E)などのポリマーから区別できる、「小分子」とみなすことができる。確かに、化合物(S)は、特に、繰り返し単位を有さないので、前記高分子電解質(E)から区別することができる。また、化合物(S)は低分子量を有すると更に理解される。一般的に、化合物(S)は、500未満、好ましくは400未満、より好ましくは360未満の分子量を有する。化合物(S)の分子量は一般的に、その明確に定義された化学構造から知られる。
【0087】
特定の実施形態によると、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として25重量%~65重量%、好ましくは30重量%~55重量%、より好ましくは35重量%~50重量%の量で前記少なくとも1つのポリマー(PAS)を含む。
【0088】
特定の実施形態によると、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量で前記少なくとも1つの高分子電解質(E)を含む。
【0089】
特定の実施形態によると、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量で前記少なくとも1つの化合物(S)を含む。
【0090】
更に好ましい実施形態では、前記組成物(C)は、
- 25重量%~65重量%、好ましくは30重量%~55重量%、より好ましくは35重量%~50重量%の量の、前記ポリマー(PAS)と;
- 5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量の、前記高分子電解質(E)と;
- 5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量の、前記化合物(S)と
を含み、これらの量が前記組成物(C)の総重量基準である。
【0091】
特定の好ましい実施形態では、前記組成物(C)は、
- 25重量%~65重量%、好ましくは30重量%~55重量%、より好ましくは35重量%~50重量%の量の、上記のようなポリマー(PPS)と;
- 5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量の、上記のようなポリマー(Ar-S)、及び好ましくは上に詳述したようなポリマー(N-S)と;
- 5重量%~50重量%、好ましくは10重量%~45重量%、より好ましくは15重量%~40重量%の量の、上に詳述したような、式(I):(R)-Ar-(T)の化合物(S)と
を含み、これらの量が前記組成物(C)の総重量基準である。
【0092】
本発明による組成物(C)には、任意選択的な成分を添加することができる。前記任意選択的な成分は、膜の意図される最終用途に基づいて、当業者が選択することができる。
【0093】
存在する場合、前記任意選択的な成分は、前記組成物(C)の総重量に基づいて、20重量%未満、好ましくは18重量%未満、更に好ましくは15重量%未満の合計量である。
【0094】
適切な任意選択的な成分は、(ナノ)シリカ、TiO、ZnO、ZrO、硫酸塩、NaCl、炭酸塩などの無機充填剤;ジフェン酸、N,N-ジフェニルホルムアミド、ベンジル、アントラセン、1-フェニルナフタレン、4-ブロモビフェニル、4-ブロモジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、1-ベンジル2-ピロリジノン、o,o’-ビフェノール、フェナントレン、トリフェニル-メタノール、トリフェニルメタン、トリフェニレン、1,2,3-トリフェニルベンゼン、ジ-フェニルスルホン、2,5-ジフェニルオキサゾール、2-ビフェニルカルボン酸、4-ビフェニルカルボン酸、m-テルフェニル、4-ベンゾイルビフェニル、2-ベンゾイルナフタレン、3-フェノキシベンジルアルコール、フルオランテン、3,4-オキサジアゾール、9-フルオレノン、1,2,ジベンゾイルベンゼン、ジベンゾイルメタン、p-テルフェニル、4-フェニルフェノール、4,4’-ブロモビフェニル、ジフェニルフタレート、2,6-ジフェニルフェノール、フェノチアジン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、9,10-ジフェニルアントラセン、ペンタクロロフェノール、ピレン、9,9’-ビフルオレン、テルフェニルの混合物、部分的に水素化されたテルフェニルの混合物、テルフェニルとクアテル-フェニルとの混合物、1-フェニル-2-ピロリジノン、4,4’-イソプロピリデンジフェノール、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、クアテルフェニル、ジフェニルテレフタレート、4,4’-ジメチルジフェニルスルホン、3,3’,4,4’-テトラメチルジフェニルスルホン、イプシロン-カプロラクタム、及びそれらの混合物からなる群から特に選択され得る可塑剤から選択される。
【0095】
好ましい実施形態では、本発明の組成物(C)は、前記ポリマー(PAS)、前記高分子電解質(E)及び前記化合物(S)のみを含む。
【0096】
上で定義した組成物(C)は、当業者に周知の方法によって調製することができる。
【0097】
本発明は、更なる実施形態では、組成物(C)を製造する方法(M)に関し、前記方法は、上に詳述した、上で定義した、少なくとも1つのポリマー(PAS)、少なくとも1つの高分子電解質(E)及び少なくとも1つの化合物(S)をブレンディングすることを含む。
【0098】
例えば、そのような方法(M)としては、溶融混合プロセスが挙げられるが、それらに限定されない。溶融混合プロセスは典型的に、熱可塑性ポリマーをその融解温度を超える温度に加熱し、それによって熱可塑性ポリマーの溶融体を形成することによって行われ、このようなプロセスは、ポリマー(PAS)、高分子電解質(E)及び化合物(S)をポリマー(PAS)の融解温度(T)を超える温度に及び/又はガラス転移温度(T)を超える温度に加熱して、組成物(C)の溶融体を形成することによって行われてもよい。
【0099】
方法(M)の結果は組成物(C)である。組成物(C)に関連して上述した全ての特徴は、方法(M)の相当する特徴である。
【0100】
方法(M)におけるブレンディングは、溶融混合装置で実施することができる。溶融混合によってポリマー組成物を調製する当業者に公知の任意の溶融混合装置を使用することができる。好適な溶融混合装置は、例えば、ニーダー、バンバリー(Banbury)ミキサー、一軸スクリュー押出機、及び二軸スクリュー押出機である。好ましくは、所望の成分を全て押出機に、押出機の供給口又は溶融物のいずれかに投与するための手段を備えた押出機が使用される。方法(M)では、組成物(C)を形成するための構成成分は、融解混合装置に供給されて、装置内で融解混合される。構成成分は、ドライブレンドとしても知られている粉末混合物若しくは顆粒ミキサーとして同時に供給するか又は個別に供給し得る。この後者の場合、添加の順序は特に限定されておらず、ポリマー(PAS)が一般的に最初の成分として供給され、他の成分は同時に又はその後にどちらかで供給されると理解される。
【0101】
特に適した溶融混合装置は、製造元Coperion GmbH製のものなどの二軸スクリュー押出機である。
【0102】
方法(M)が溶融混合によるブレンディングを含むとき、それはまた、組成物(C)を固体として形成するために溶融混合物を冷却することでなる工程を含み得る。
【0103】
方法(M)の結果として、組成物(C)は有利には、ペレットの形態又は粉末の形態のいずれかで提供することができる。
【0104】
別の選択肢として、方法(M)は、粉末又はペレット以外に、造形立体成形品の形態で組成物(C)を提供することができる。更に、組成物(C)は、追加の加工のためにその溶融形態で直接に提供することができる。
【0105】
いくつかの実施形態において、方法(M)におけるブレンド温度は、約180~450℃、好ましくは約220~440℃、約260~430℃又は約280~420℃の範囲である。
【0106】
好ましくは、方法(M)におけるブレンド温度は、ポリマー(PAS)の融解温度及び/又はガラス転移温度よりも少なくとも15℃、好ましくは少なくとも20℃、少なくとも40℃、少なくとも50℃高い。
【0107】
多孔質物品を製造する方法
更なる態様において、本発明は、微孔性物品[物品(P)]を製造するための方法[方法(M)]に関し、前記方法は、
(I)上に詳述されたような、少なくとも1つのポリマー(PAS)、少なくとも1つの高分子電解質(E)及び少なくとも1つの化合物(S)を含む組成物(C)を溶融加工し、このように前駆物品[物品(A)]を提供する工程と、
(II)工程(I)において得られる前記物品(A)を少なくとも1つの浸出媒体と接触させて、高分子電解質(E)及び化合物(S)を少なくとも部分的に除去し、このように前記物品(P)を提供する工程とを含む。
【0108】
微孔性物品
用語「微孔性物品」又は物品(P)は、物品が多孔質であり、すなわちそれが明確に定義された多孔率を有し、すなわちそれは細孔を含む物品であり、且つ細孔が小さなサイズ寸法を有することを意味する。
【0109】
微孔性物品(P)は一般的に、それらの平均流動細孔径及び多孔率、すなわち多孔質である全物品の割合で特徴づけられ得る。
【0110】
確かに、「微孔性」という表現は、ASTM F316-03に従って測定されるとき、微孔性物品の細孔の平均流動細孔径(MFD)が5μm未満、好ましくは3μm未満、より好ましくは2μm未満であることを意味することを意図している。
【0111】
物品(P)は発泡体又は発泡材料であり得、それらは、どちらも可能な三次元形状に造形され得、且つ成分ポリマー(PAS)の機械的特性を示す著しい機械的特性を提供しながら、軽量の利点を提供する。
【0112】
物品(P)は、流体の分離を達成するために適した膜であり得る。
【0113】
更に、物品(P)は、追加の成分で場合により更にコート/改良される、二次電池において使用するためのセパレーターとして使用することができる。
【0114】
その製造のために使用されるテンプレート浸出方法に由来する残留物を含み得ると一般的に理解されている。したがって、微孔性物品は、過半量のポリマー(PAS)に加えて、上に詳述したように、少量の高分子電解質(E)及び/又は化合物(S)を含むことができるかもしれない。
【0115】
一般的に、前記微孔性物品は、微孔性物品の総重量に対して最大でも15重量%、好ましくは最大でも12重量%、より好ましくは最大でも10重量%の合計量の高分子電解質(E)及び化合物(S)を含む。
【0116】
特定の好ましい実施形態によると、微孔性物品は、過半量のポリマー(PAS)並びに少量の高分子電解質(E)及び化合物(S)から本質的になり、微孔性物品の有利な特質を実質的に変えないならば、少量の、(微孔性物品の総重量に対して)一般的に最大で1重量%の他の成分、不純物又は疑わしい成分を許容することができると理解される。
【0117】
微孔性物品は有利には、20~95%v/v、好ましくは40~90%v/vの重量多孔率(ε)を有する。より好ましくは、微孔性物品は、50%v/v超、好ましくは53%v/v超、更により好ましくは55%v/v超の重量多孔率をこれにより提供され得る。特有の利点を提供する微孔性物品は、重量多孔率が55~85%v/v、好ましくは58~80%v/vである微孔性物品である。
【0118】
説明したように、用語「重量多孔率」は、多孔質膜の全体容積にわたって空隙の体積分率を意味することが意図される。
【0119】
多孔質物品における重量多孔率の決定のための適当な技術は、例えば、SMOLDERS,K.,et al.Terminology for membrane distillation.Desalination.1989,vol.72,p.249-262に記載されている。
【0120】
前述したように、前記微孔性物品は、ASTM F316-03に従って測定されるとき、少なくとも0.005~最大で0.500μm、好ましくは少なくとも0.008μm、より好ましくは少なくとも0.010μm、更により好ましくは少なくとも0.020μm、及び/又は又は好ましくは最大で0.250μm、より好ましくは最大で0.150μm、更により好ましくは最大で0.100μmの平均流動細孔径(MFD)を有する。
【0121】
有利には、微孔性物品は、その濾過/分離性能のために特に有利である、細孔径の狭い分布を与えられる。バブルポイント径(BPD)は、膜中の最大細孔大きさを表わすことは一般的に公知である。したがって、比BDP/MFDは、微孔性物品の細孔径の分布を記述するために重要である。したがって、特に、微孔性物品は、バブルポイント径(BPD)と平均流動細孔径(MFD)との間の比(比BDP/MFD)が20未満、好ましくは15未満、より好ましくは12未満であるような細孔径の分布を有し、BDP及びMFDはASTM F316-03に従って測定される。
【0122】
本発明の微孔性物品は、一般的に多孔性膜[膜(Q)]であり、即ち、それと接触する化学種の浸透を緩和する、個別の、通常、薄い界面である。この界面は、分子的に均一であり得る(即ち構造が完全に均一であり得る)か(稠密膜)、又は化学的若しくは物理的に不均一であり得、例えば有限寸法の空隙、空孔又は細孔を含有し得る(多孔質膜)。
【0123】
それらの厚さ全体にわたって均一に分布している細孔を含有する、それらの厚さ全体にわたって一様な構造を有する膜(Q)は、一般に、対称(又は等方性)膜として知られており、それらの厚さ全体にわたって細孔が均一に分布していない膜は、一般に、非対称膜として知られている。非対称膜は、薄い選択的な層(厚さ0.1~1μm)と、支持体として働き、且つこの膜の分離特性にほとんど影響を及ぼさない高多孔質の厚い層(厚さ100~200μm)とを含み得る。
【0124】
膜(Q)は、対称膜か又は非対称膜かのどちらかであり得る。
【0125】
これによって提供される膜(Q)は典型的に、20~95%v/vの間、好ましくは40~90%v/vの間に含まれる重量多孔率(ε)を有する。より好ましくは、多孔質膜は、50%v/v超、好ましくは53%v/v超、更により好ましくは55%v/v超の重量多孔率をこれによって提供され得る。特有の利点を提供する多孔質膜は、重量多孔率が55~85%v/v、好ましくは58~80%v/vである多孔質膜である。
【0126】
膜(Q)は、自立性多孔質膜であり得るか又は複数層組立体に組み立てられることができるかいずれかである。
【0127】
複数層組立体に組み立てられるとき、膜(Q)は特に、基材層上に支持され得、本発明の多孔質膜がこれに部分的に又は完全に相互浸透していることも相互浸透していないこともあり得る。
【0128】
基材の本質は、特に限定されない。基材は、通常、多孔質膜の選択性に最小限の影響を及ぼす材料からなる。基材層は、好ましくは、不織材料、ガラス繊維並びに/又はポリマー材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレン及びポリエチレンテレフタレートなどからなる。
【0129】
膜(Q)は、平らなシートの形態又は管状の形態であり得る。管状膜は、それらの寸法に基づいて分類される:
- 3mm超の直径を有する管状膜、
- 0.5mm~3mmに含まれる直径を有するキャピラリー膜、
- 0.5mm未満の直径を有する中空繊維。しばしばキャピラリー膜は、中空繊維とも称される。
【0130】
大きい表面積のコンパクトなモジュールが必要とされる用途では中空繊維が特に有利であるのに対して、大きい流束が必要とされる場合には平らなシート膜(Q)が一般に好ましい。
【0131】
これにより提供される膜(Q)の厚さは、目標使用分野に応じて調整することができる。一般的に、多孔質膜は、少なくとも10μm、好ましくは少なくとも15μm、より好ましくは少なくとも20μm、及び/又は最大で500μm、好ましくは最大で450μm、更により好ましくは最大で400μmの厚さを有する。
【0132】
本発明の微孔性物品は一般的に、1barの圧力及び23℃の温度で、少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも15l/(hxm)の水の流束の透過率を有する。
【0133】
工程(I)において、組成物(C)は溶融加工され、組成物(C)に関連して上述した全ての特徴は、方法(M)の相当する特徴である。
【0134】
一般的に、組成物(C)は、物品(P)の目標使用分野に応じて、工程(I)において様々な三次元形状に造形され得る。目標形状に応じて、押出成形、射出成形、流し込成形、溶融紡糸等を含む技術など、様々な溶融加工技術を使用することができる。
【0135】
それにもかかわらず、方法(M)において、物品(A)は好ましくは、溶融押出プロセスを用いて組成物(C)から加工されると理解される。
【0136】
押出ダイの適切な選択、及び/又は冷却の追加の工程、及び/又は縦方向又は横方向のどちらかでの(又はそれらの任意の組み合わせでの)伸長を利用して、目標寸法の物品(A)を得ることができる。
【0137】
方法(M)において、物品(A)は、組成物(C)を基材層上に溶融加工して前記基材層を有する組立体として物品(A)を得るか、又は前記物品(A)を前記基材層と共に組み立てることによって、上記のように、適した基材層を有する組立体として得ることができると更に理解される。
【0138】
工程(I)において、組成物(C)の溶融加工後に、物品(A)は一般的に、ポリマー(PAS)の融解温度及び/又はガラス転移温度よりも低い温度に適切に冷却される。
【0139】
工程(II)において、前記物品(A)を少なくとも1つの浸出媒体と接触させて、高分子電解質(E)及び化合物(S)を少なくとも部分的に除去する。
【0140】
前記工程(II)は、好ましくは、少なくとも1種の浸出媒体を含む浴(「浸出浴」又は「抽出浴」とも呼ばれる)に前記物品(A)を入れることによって行われる。
【0141】
適した浸出媒体は、水性媒体又は有機溶媒媒体から、すなわち液相が主に水から構成される液体媒体のなかから、又は液相が主に少なくとも1つの有機溶媒から構成される液体媒体のなかから選択することができる。
【0142】
浸出媒体は、(少なくとも工程(II)の条件において)ポリマー(PAS)を実質的に可溶化しないまま、化合物(S)及び高分子電解質(E)の両方に対して十分な可溶化能力を有することが一般的に必要とされることを考慮して、浸出媒体の選択は当業者によって行われる。
【0143】
有機溶媒媒体は、極性プロトン性溶媒又は極性非プロトン性溶媒を含むことができる。
【0144】
極性プロトン性溶媒のなかで、グリコール又はポリオール、好ましくは脂肪族アルコールなどのアルコールに特を挙げることができる。
【0145】
極性非プロトン性溶媒のなかで、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、Solvayから商品名Rhodiasolv(登録商標)PolarCleanとして市販されているメチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロ-メタン、及びスルホランを挙げることができる。
【0146】
それにもかかわらず、浸出媒体が水性媒体であることが好ましい。確かに、有機溶媒の使用は必要とされないという事実は方法(M)の有利な態様である。特に、環境問題も毒性問題もない、まったく好ましい環境プロファイルを有すると共に方法(M)の経済性全体に寄与する水性媒体を使用して、膜などの微孔性物品を製造するための方法(M)を使用することができる。
【0147】
水性媒体は、少量の1つの水混和性溶媒を含むことができる。特に、水性媒体は、少量の少なくとも1つの脂肪族アルコール、好ましくは、短鎖、例えば1~6個の炭素原子を有する少なくとも1つの脂肪族アルコール、より好ましくはメタノール、エタノール及びイソプロパノールを含むことができる。
【0148】
更に、滲出性成分及び/又は可塑剤などの追加の添加剤の可溶化を高めるために水性媒体のpHを有利に調節することができる。したがって、水性媒体が7超、好ましくは8超のpHを有する塩基性水性媒体であることが適切であり得る。
【0149】
浸出媒体は通常、少なくとも0℃の温度に保持され、好ましくは少なくとも15℃の温度に保持され、より好ましくは少なくとも20℃の温度に保持される。浸出媒体は通常、100℃未満の温度に保持され、好ましくは98℃未満の温度に保持され、より好ましくは95℃未満の温度に保持される。
【0150】
好ましくは、前記浸出媒体中での滞留時間は、前記化合物(S)の少なくとも一部及び前記高分子電解質(E)の少なくとも一部が除去されるような時間である。前記化合物(S)の少なくとも一部及び前記高分子電解質(E)の少なくとも一部を溶解するのに必要な時間は変動する。好ましくは、時間は30分から10時間の間で変動し得る。
【0151】
浸出媒体の温度の選択は、化合物(S)及び/又は高分子電解質(E)の溶解速度に影響を与え得る。特に浸出媒体が水性媒体であるとき、80~90℃の間の温度が特に有利であることがわかった。
【0152】
任意選択的には、1つ以上の任意選択的な工程を工程(II)の後に行うことができる。
【0153】
例えば、工程(II)の後に得られる前記物品(P)を乾燥及び/又は伸長することができる。
【0154】
一般的に、方法(M)は、物品(P)を乾燥させる追加の工程を少なくとも含む。
【0155】
一実施形態によると、乾燥させる前に、物品(P)中に残っている浸出媒体を、浸出媒体と比べてより低い表面張力及び/又は増加した揮発性を有する、より揮発性の乾燥剤[溶媒(D)]と交換することができる。
【0156】
浸出媒体から溶媒(D)への交換は、物品(P)に悪影響を及ぼさない温度、好ましくは約0℃~約100℃で行うことができる。
【0157】
浸出媒体が水性媒体である実施形態については、イソプロパノールを溶媒(D)として使用することができる。
【0158】
乾燥は、真空下で又は不活性ガスの流れ下での作業によって行うことができる。
【0159】
物品(P)は、好ましくは、物品(P)が悪影響を受けないように、温度を適切に選択することによって乾燥されるのが好ましい。
【0160】
有利には、乾燥は、0℃~200℃、より好ましくは40℃~100℃の温度で行われる。
【0161】
工程(II)の終わりに、物品(P)が得られる。
【0162】
物品(A)が工程(II)において少なくとも1つの基材層を有する組立体として提供される場合、又は上記のように、物品(P)が任意のこのような基材層と共に更に組み立てられる場合、基材層を含む物品(P)を得ることができる。
【0163】
別の実施形態によれば、前記物品(A)をアニーリングする工程、又は言い換えると前記物品(A)を高温に曝す工程を、前記工程(I)の後且つ前記工程(II)の前に任意選択的に行うことができる。
【0164】
好ましくは、前記アニーリング工程は、前記ポリマー(PAS)のガラス転移温度(T)より高い温度且つポリマー(PAS)の融点より少なくとも約10℃低い温度で行われる。
【0165】
好ましくは、前記アニーリング工程は、約30秒から約24時間行われる。
【0166】
微孔性物品の使用
物品(Pp)が膜(Q)であるとき、膜(Q)は、生物学的溶液(例えば、バイオバーデン、ウイルス、他の大きな分子)及び/又は緩衝溶液(例えば、DMSO若しくは他の極性の非プロトン性溶媒のような少量の溶媒を含有し得る溶液)を濾過するために使用することができる。
【0167】
好ましくは、本発明による膜(Q)は、特にフラッキング水及びいわゆる「生産水」、又は言い換えれば油井からの水、高固形分の水、廃水などの油/水エマルジョンを濾過するために使用される。
【0168】
したがって、更なる態様では、本発明は、生物学的溶液、緩衝溶液、油/水エマルジョン、生産水を含む群から、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも1種の流体を濾過するための、上で定義した膜(Q)の使用に関する。
【0169】
別の態様によれば、本発明は、前記流体を上で定義した少なくとも1種の膜(Q)と接触させることを含む、少なくとも1種の流体を濾過するための方法に関する。
【0170】
有利には、前記流体は、生物学的溶液(例えば、バイオバーデン、ウイルス、他の大きな分子);及び/又は緩衝溶液(例えばDMSOのような少量の溶媒又は他の極性非プロトン性溶媒を含有し得る溶液);及び/又は特にフラッキング水及びいわゆる「生産水」、若しくは言い換えれば油井からの水、高固形分の水、廃水などの油/水エマルジョンを含む群の中で、より好ましくはこれらからなる群の中で選択される液相である。
【0171】
上に加えて、本発明による膜(Q)は、液体から及び液体へのガス移動用途におけるように逆浸透、限外濾過、及びガス分離プロセスにおいて支持層として良好に使用することができる。
【0172】
ガス分離用途の例には、空気からの窒素の生成、製油所及び石油化学プラントでの水素回収、ガスの脱水、及び天然ガスからの酸性ガスの除去が含まれる。
【0173】
本発明は、以下において、非限定的な実施例によって以下のセクションでより詳細に例証される。
【実施例
【0174】
材料
【0175】
【表1】
【0176】
実施例1
上記の表の成分を組み合わせて商用二軸スクリュー押出機内で加工することによって下記の化合物を製造した:30~40重量パーセント(wt%)のRyton(登録商標)QC160N PPS、30~35%のナトリウムナフタレンスルホネートポリマー、NaNSPと略記(Parchem,New Rochelle,NY)、及び30~35%のナトリウムベンゼンシルホネート(Sodium benezenesilfonate)、NaBzSと略記(Biddle Sawyer,New York,NY)、又は安息香酸ナトリウム、NaBzと略記(Fluid Energy,Telford,PA、製品名: 微粉化ナトリウムベンゾエート)。Coperion ZSK-26二軸スクリュー押出機(Coperion GmbH,Stuttgart,Germany)を全ての場合において使用してこれらのブレンドを配合した。この押出機は、12のバレル領域と、450℃までで運転する加熱出口ダイとを有し、質量処理量>30kg/時間を可能にした。
【0177】
総合質量供給量17~18ポンド/時間を用いて、K-Tron重量計量供給装置(Coperion GmbH,Stuttgart,Germany)を使用してそれぞれの材料を押出機の供給セクションに供給し、成分の適切な質量比を得た。これらの比は下記の表に記載する。成分を溶融し、均一な溶融組成物が得られるように設計されたスクリューで混合した。出口ダイでの実際の溶融温度をそれぞれのブレンドについてハンドヘルド機器で測定したところ、それぞれの化合物について340~345℃であることが分かった。それぞれの溶融流を空冷し、直径3~4mmのストランドを集めた。
PPSからのNaNSP、NaBzS、NaBzの抽出性を決定するための先行試験として、それぞれのストランドの短材を温水(90~95℃)に入れ、可溶性成分(NaNSP、NaBz、NaBzS)を抽出によって有効に除去した。結果を下の表に要約する。
【0178】
【表2】
【0179】
実施例2
化合物を下の表に示される成分比で実施例1で説明したように製造した。質量供給量は約20~25ポンド/時間に維持され、溶融温度は355~360℃であった。この場合、溶融流を空冷し、Maag Primo 60Eペレタイザー(Maag Automatik GmbH,Stuttgart,Germany)に供給した。ペレットを集め、フィルム押出作業のために使用するまで密封されたプラスチックバケツに保持した。
【0180】
【表3】
【0181】
6インチのフラットフィルムダイを備えたOCS(Rheology Solutions,Victoria AU)一軸スクリュー押出機内にペレットを供給することによって上記の化合物によるフィルムを溶融押出した。押出機は5つの領域を有し、それぞれの領域は以下の温度に設定された:250、280、300、320、320(℃)。ダイ温度は320℃に維持された。押出機のスクリュー速度を15~20rpmに変化させ、100Cに維持した冷却ロール上にフィルムをキャストした。前駆体フィルム試料を集め、可溶性成分(NaNSP、NaBzS、NaBz)を温水(80~90C)を用いて抽出によって除去した。これらのデータを下の表に示す。膜厚さは、約0.2~0.4mmの範囲であった。
【0182】
【表4】
【0183】
上の表4に含まれるデータは、上記のように、温水での処理による可溶性成分(NaNSP、NaBzS、NaBz)の抽出は、全ての作業実施形態においてほとんど定量的であることを明らかに実証する。
【0184】
これらの膜は以下に説明される方法で特性評価された。
【0185】
方法
水流束透過率
所定の圧力で各膜を通る水流束(PWP)は、単位面積当たり及び単位時間当たり透過する容積と定義した。L/(hxm)で表される流束(PWP)は、次式によって計算される:
【数1】
(式中、
V(L)は透過液の量であり、
A(m)は膜面積であり、
Δt(h)は作動時間である)。
水流束の測定(PWP)は、1barの一定の窒素圧力下でデッドエンド形状を用いて室温(23℃)で行った。11.3cmの有効面積を有する膜の円板を、水の中に貯蔵していた物品から切り出し、金属プレートの上に置いた。
【0186】
重量空隙率
膜の重量空隙率は、膜の総体積で割った細孔の容積と定義した。
膜の空隙率(ε)は、以下で詳述する重量測定法に従って決定した。
完全に乾燥した膜片の重量を測定し、24時間、イソプロピルアルコール(IPA)中で含浸させた。この時間後に、過剰の液体をティッシュペーパーで除去し、膜重量を再び測定した。多孔率は、Appendix of Desalination,72(1989)249-262に記載されている手順に従って湿潤流体としてIPA(イソプロピルアルコール)を使用して測定した。
【数2】
「Wet」は、湿潤膜の重量であり、
「Dry」は、乾燥膜の重量であり、
ρpolymerは、Ryton(登録商標)QC160NPPSの密度(1.34g/cm)であり、
ρliquidは、IPAの密度(0.78g/cm)である。
【0187】
泡立ち点及び細孔径の決定
ASTM F316-03法に従い、毛細管流動ポロメーターPorolux(商標)1000(Porometer-Belgium)を用いて、膜の泡立ち点(すなわち最も大きい細孔の測定)(BPD)、最小の細孔径、及び平均細孔径平均流動細孔径(MFD)を求めた。
それぞれの試験に関して、Fluorinert C 43(16dyn/cmの表面張力を有するフッ素系流体)を用いて、膜試料を最初に十分に濡らした。窒素(不活性ガス)を使用した。
【0188】
厚さ測定
厚さの値は、Mitutoyoデジマティックインジケータ(モデルID-H0530)を使用して乾燥膜で測定した。少なくとも5回の測定を行い、平均値を計算した。それらは以下の表に報告されている。
【0189】
【表5】
【0190】
引張測定
引張測定は、実施例5の膜から取られた試験体のASTM D638タイプVに従って行われた。下の表に記載された値は、弾性率(E)、破断応力(ε)を含み、破断歪(σ)は、5つの試験体の測定値から平均された結果である。
機械的特性は、膜の縦方向及び横断方向の両方において決定された。
【0191】
【表6】
【国際調査報告】