(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極材、その製造方法及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231206BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231206BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534406
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 KR2021018462
(87)【国際公開番号】W WO2022124762
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0169236
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0173834
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】スルキ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ハクユン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ソラ・ベク
(72)【発明者】
【氏名】ヒュク・ホ
(72)【発明者】
【氏名】ドン・フィ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒョンギル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ワン・モ・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ドンフン・イ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA02
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物が薄く均一に形成され、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面副反応が抑制され、これにより、電解液副産物及び岩塩相を含む抵抗成分の発生及び蓄積、酸素脱離及びガス発生などが減少し、電池の抵抗及び寿命退化の問題を改善させることができるリチウム二次電池用正極材、その製造方法及びこれを含むリチウム二次電池が開示される。前記リチウム二次電池用正極材の製造方法は、化学気相蒸着方式により金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングさせる方法であって、蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガスを供給する段階を含み、このとき、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を蒸着中に撹拌させることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相蒸着方式により金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングさせる方法であって、
蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガスを供給する段階を含み、
このとき、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を蒸着中に撹拌させることを特徴とする、リチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項2】
前記キャリアガスを25℃~150℃の温度の蒸着器に供給することを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項3】
前記キャリアガスを10分間~200分間供給することを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項4】
前記キャリアガスはアルゴンガスまたは窒素ガスであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物は、Al
2O
3、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、VO
2、V
2O
5、Nb
2O
5、MgO、TaO
2、Ta
2O
5、B
2O
2、B
4O
3、B
4O
5、ZnO、SnO、HfO
2、Er
2O
3、La
2O
3、In
2O
3、Y
2O
3、Ce
2O
3、Sc
2O
3及びW
2O
3からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物前駆体はトリメチルアルミニウムであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項7】
前記撹拌は蒸着中に持続的に行われることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項8】
前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質と金属酸化物前駆体は、100~120:1~10の重量比で蒸着器に供給されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項9】
前記蒸着は1回~4回行われることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材の製造方法。
【請求項10】
リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質;及び
前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングされた金属酸化物層;を含むリチウム二次電池用正極材。
【請求項11】
前記金属酸化物層の厚さは2nm以下であることを特徴とする、請求項10に記載のリチウム二次電池用正極材。
【請求項12】
前記金属酸化物層に含まれた金属酸化物は、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に80~88%の金属元素比でコーティングされたことを特徴とする、請求項10又は11に記載のリチウム二次電池用正極材。
【請求項13】
前記金属酸化物層に含まれた金属酸化物は、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の総重量100重量部に対して0.05~2重量部の含有量でコーティングされたことを特徴とする、請求項10~12のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極材を含む正極;負極;前記正極と負極との間に介在する電解質;及び分離膜;を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月7日付け韓国特許出願第10-2020-0169236号及び2021年12月7日付け韓国特許出願第10-2021-0173834号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池用正極材、その製造方法及びこれを含むリチウム二次電池に関し、より詳細には、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物が薄く均一に形成され、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面副反応が抑制され、これにより、電解液副産物及び岩塩相を含む抵抗成分の発生及び蓄積、酸素脱離及びガス発生などが減少し、電池の抵抗及び寿命退化の問題を改善させることができるリチウム二次電池用正極材、その製造方法及びこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、携帯電話、ノートパソコン、電気自動車など電池を使用する電子機器の急速な普及に伴い、小型で軽量でありながらも相対的に高容量である二次電池の需要が急速に増大している。特に、リチウム二次電池は軽量で高エネルギー密度を有しており、携帯機器の駆動電源として脚光を浴びている。これにより、リチウム二次電池の性能向上のための研究開発の努力が活発に進められている。
【0004】
このようなリチウム二次電池は、リチウムイオンの挿入(intercalation)及び脱離(deintercalation)が可能な活物質からなる正極と負極との間に有機電解液又はポリマー電解液を充填させた状態で、リチウムイオンが正極及び負極から挿入/脱離されるときの酸化と還元反応により電気エネルギーが生成される。
【0005】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMnO2、LiMn2O4など)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePO4)などが使用されてきた。この中でも、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)は作動電圧が高く容量特性に優れた利点があり、広く使用されており、高電圧用正極活物質として適用されている。しかし、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化で熱的特性が非常に劣悪し、高価であるため、電気自動車などのような分野の動力源として大量使用するには限界がある。
【0006】
また、約200mAh/gの高い可逆容量を有し、大容量の電池具現が容易なリチウムニッケル酸化物(LiNiO2)についても活発な研究開発が続いているが、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)に比べて相対的に熱安定性が低下し、充電状態で外部からの圧力などにより内部短絡が生じると、正極活物質自体が分解して電池の破裂及び発火をもたらす問題がある。
【0007】
そこで、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)の優れた可逆容量を維持しながらも低い熱安定性は改善するための方法であって、ニッケル(Ni)の一部をコバルト(Co)とマンガン(Mn)で置換したリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質(またはリチウムNCM系正極活物質、またはNCM系リチウム複合遷移金属酸化物、またはHigh Ni正極材)が開発された。
【0008】
このようなリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を電池に適用する場合、高い容量の具現が可能であるという利点はある。しかし、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面において酸素脱離及び電解質酸化などの副反応が発生し、電解液副産物及び岩塩相(Rocksalt phase)を含む抵抗成分の発生及び蓄積、酸素脱離及びガス発生により電池の抵抗増加及び寿命退化を誘発する問題が発生する。
【0009】
したがって、高い容量の具現が可能なリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を用い、電解質と当接する界面において酸素脱離及び電解質酸化などの副反応が発生せず、電池の抵抗及び寿命退化の問題を改善することができる正極材の開発が切実である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物が薄く均一に形成され、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面副反応が抑制され、これにより、電解液副産物及び岩塩相を含む抵抗成分の発生及び蓄積、酸素脱離及びガス発生などが減少し、電池の抵抗及び寿命退化の問題を改善させることができるリチウム二次電池用正極材、その製造方法及びこれを含むリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、化学気相蒸着方式により金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングさせる方法であって、蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガスを供給する段階を含み、このとき、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を蒸着中に撹拌させることを特徴とするリチウム二次電池用正極材の製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質;及び前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングされた金属酸化物層;を含むリチウム二次電池用正極材を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記リチウム二次電池用正極材を含む正極;負極;前記正極と負極との間に介在する電解質;及び分離膜;を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るリチウム二次電池用正極材、その製造方法及びこれを含むリチウム二次電池によれば、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物を薄く均一に形成させることにより、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面副反応が抑制され、これにより、電解液副産物及び岩塩相を含む抵抗成分の発生及び蓄積、酸素脱離及びガス発生などが減少し、電池の抵抗及び寿命退化の問題を改善させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のリチウム二次電池用正極材を製造するのに使用される蒸着器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0017】
本発明に係るリチウム二次電池用正極材の製造方法は、化学気相蒸着方式により金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングさせる方法であって、蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガス(carrier gas)を供給する段階を含み、このとき、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を蒸着中に撹拌させることを特徴とする。
【0018】
前述のように、リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)とリチウムニッケル酸化物(LiNiO2)など既存のリチウム二次電池の正極材として用いられていたリチウム遷移金属酸化物の問題点を補完するために、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質(またはリチウムNCM系正極活物質、またはNCM系リチウム複合遷移金属酸化物、またはHigh Ni正極材)が開発され、このようなリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を電池に適用する場合、高い容量の具現が可能であることを確認した。
【0019】
しかし、この場合、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面において酸素脱離及び電解質酸化などの副反応が発生するにつれて、電解液副産物及び岩塩相(Rocksalt phase)を含む抵抗成分の発生及び蓄積、酸素脱離及びガス発生により電池の抵抗増加及び寿命退化を誘発する問題が発生するようになる。
【0020】
そこで、本出願人は、高い容量の具現が可能なリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を用い、電解質と当接する界面において酸素脱離及び電解質酸化などの副反応が発生せず、電池の抵抗及び寿命退化の問題を改善することができる正極材を開発した。より具体的には、金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングさせると共に、これを化学気相蒸着(CVD、Chemical Vapor deposition)方式によることによって、金属酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に薄くて均一にコーティングされるようにしたのである。すなわち、化学気相蒸着方式により金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に薄く均一にコーティングさせることにより、電解質と当接する界面において酸素脱離及び電解質酸化などの副反応を最小化したのである。
【0021】
より具体的に、本発明に係るリチウム二次電池用正極材の製造方法は、蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガスを供給する段階を含む。前記金属酸化物前駆体は、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングされる金属酸化物のうち金属を含む原料(すなわち、coating agent)で、前記金属酸化物としては、Al2O3、TiO2、SiO2、ZrO2、VO2、V2O5、Nb2O5、MgO、TaO2、Ta2O5、B2O2、B4O3、B4O5、ZnO、SnO、HfO2、Er2O3、La2O3、In2O3、Y2O3、Ce2O3、Sc2O3及びW2O3を例示することができる。このような金属酸化物がアルミニウム(Al)を含む場合(ex:Al2O3)には、トリメチルアルミニウム(TMA、trimethyl aluminum)などを例示することができる。
【0022】
前記キャリアガス(carrier gas、または運搬気体)は、蒸着器に供給された金属酸化物前駆体が過飽和により液化することを防止し、かつ、金属酸化物が気体状としてリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面と反応するようにする役割を果たす。これによって、金属酸化物をリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に薄く均一にコーティングまたは形成されることができる。このようなキャリアガスとしては、当業界において通常用いたれる不活性気体を例示することができ、具体的には、アルゴン(Ar)ガス及び窒素(N2)ガスを例示することができるが、これらに制限されるものではない。
【0023】
また、前記キャリアガスをリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質及び金属酸化物前駆体が投入された蒸着機内に一定の温度下で一定の時間を供給することにより、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質と金属酸化物前駆体が反応するようにする。より具体的に、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質及び金属酸化物前駆体が投入された蒸着器内に、前記キャリアガスを25~150℃、好ましくは60~120℃の温度下で10~200分、好ましくは60~120分間流すことができる。前記条件を満たさない場合には、金属酸化物前駆体が気化しないか、又はリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質表面への金属酸化物蒸着が十分に行われないおそれがある。
【0024】
また、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質と金属酸化物前駆体は、100~120:1~10の重量比で蒸着器に供給されることができる。もし、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質と金属酸化物前駆体の供給(投入)重量比が前記範囲を外れる場合には、蒸着層が緻密に形成されない問題が発生する可能性がある。
【0025】
一方、蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガスを供給中には(または、蒸着中には)、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を蒸着中に撹拌させる工程を行わなければならない。すなわち、前記金属酸化物前駆体(または、金属酸化物)がリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面と均一に接触するようにする撹拌過程を蒸着中に持続的に行わなければならない。もし、蒸着中に撹拌工程を持続的に行わなければ、製造された正極材を含む電池の過電圧が大きくなり容量維持率が低くなるなど、寿命性能が低下することがある。
【0026】
このように、蒸着器にリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を入れ、金属酸化物前駆体及びキャリアガスの供給中に撹拌させると、気体状の金属酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面と反応し、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物のコーティング層が形成されるようになる。なかでも、キャリアガスの使用とリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の撹拌により、気相蒸着の収率及び均一度を最大化させることができる。
【0027】
一方、前記蒸着工程は合計1~4回、好ましくは2~4回、より好ましくは3回または4回行われてもよい。もし、前記蒸着工程を5回以上行う場合には、金属酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に過度の厚さでコーティングされることができる。また、前記蒸着工程は、できるだけ4回または4回に近い回数で行われると金属酸化物がより薄くて均一にコーティングされることができる。
【0028】
その他に、本発明に係るリチウム二次電池用正極材の製造方法において、前記金属酸化物は、電極内の導電性低下を防止するために、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面のみにコーティングされることが好ましい。したがって、前記製造方法により製造されるリチウム二次電池用正極材にバインダー及び導電材を加えてスラリーを製造する工程と、前記スラリーを集電体上にコーティング及び乾燥させる工程は、できるだけ別途に行うことが好ましい。
【0029】
一方、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質は、市販されているものを購入して使用するか、又は当該技術分野において周知の製造方法により製造して用いることができる。一例として、ニッケル含有原料物質、コバルト含有原料物質及びマンガン含有原料物質を含む遷移金属溶液に、アンモニウムカチオン含有錯体形成剤と塩基性化合物を添加して共沈反応させてニッケル-コバルト-マンガン前駆体を製造した後、前記ニッケル-コバルト-マンガン前駆体とリチウム原料物質とを混合し、980℃以上の温度で過焼成してリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を製造することができる。
【0030】
前記ニッケル含有原料物質は、例えば、ニッケル含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであってもよく、具体的には、Ni(OH)2、NiO、NiOOH、NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、NiC2O2・2H2O、Ni(NO3)2・6H2O、NiSO4、NiSO4・6H2O、脂肪酸ニッケル塩、ニッケルハロゲン化物またはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記コバルト含有原料物質は、コバルト含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物またはオキシ水酸化物などであってもよく、具体的には、Co(OH)2、CoOOH、Co(OCOCH3)2・4H2O、Co(NO3)2・6H2O、CoSO4、Co(SO4)2・7H2O、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記マンガン含有原料物質は、例えば、マンガン含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硫化物、水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物またはこれらの組み合わせであってもよく、具体的には、Mn2O3、MnO2、Mn3O4などのようなマンガン酸化物;MnCO3、Mn(NO3)2、MnSO4、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン塩、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン塩のようなマンガン塩;オキシ水酸化マンガン、塩化マンガンまたはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0031】
前記遷移金属溶液は、前記ニッケル含有原料物質、コバルト含有原料物質及びマンガン含有原料物質を溶媒、具体的には水、または水と均一に混合されることができる有機溶媒(例えば、アルコールなど)の混合溶媒に添加して製造されたものであっても、ニッケル含有原料物質の水溶液、コバルト含有原料物質の水溶液及びマンガン含有原料物質を混合して製造されたものであってもよい。前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、例えば、NH4OH、(NH4)2SO4、NH4NO3、NH4Cl、CH3COONH4、NH4CO3またはこれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されるものではない。一方、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は水溶液の形態で用いることもでき、このとき、溶媒としては水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水の混合物を用いることができる。
【0032】
前記塩基性化合物は、NaOH、KOHまたはCa(OH)2などのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、これらの水和物またはこれらの組み合わせであってもよい。前記塩基性化合物も水溶液の形態で用いることもでき、このとき、溶媒としては水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水の混合物を用いることができる。前記塩基性化合物は、反応溶液のpHを調整するために添加されるもので、金属溶液のpHが11~13となる量で添加されてもよい。
【0033】
一方、前記共沈反応は、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、40~70℃の温度で行うことができる。前記のような工程によりニッケル-コバルト-マンガン水酸化物の粒子が生成され、反応溶液内に沈殿する。沈殿したニッケル-コバルト-マンガン水酸化物粒子を通常の方法により分離させ、乾燥させてニッケル-コバルト-マンガン前駆体を得ることができる。前記ニッケル-コバルト-マンガン前駆体は、1次粒子が凝集して形成された2次粒子であってもよく、前記ニッケル-コバルト-マンガン前駆体2次粒子の平均粒径(D50)は4~8μmであってもよく、好ましくは4~7.5μm、より好ましくは4~7μmであってもよい。
【0034】
前記リチウム原料物質としては、リチウム含有硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、ハライド、水酸化物またはオキシ水酸化物などを用いることができ、水に溶解できるものであれば特に限定されない。具体的に、前記リチウムソースは、Li2CO3、LiNO3、LiNO2、LiOH、LiOH・H2O、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CH3COOLi、Li2O、Li2SO4、CH3COOLiまたはLi3C6H5O7などであってよく、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物を用いることができる。前記ニッケル-コバルト-マンガン前駆体の全金属元素(M)に対するリチウム(Li)のモル比率(Li/M)は1~1.5、好ましくは1~1.1となるように前記リチウム原料物質を混合することができる。
【0035】
次に、前記リチウム二次電池用正極材の製造方法により製造される本発明のリチウム二次電池用正極材について説明する。本発明に係るリチウム二次電池用正極材は、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質、及び前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングされた金属酸化物層を含む。
【0036】
前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングされた金属酸化物層の厚さは、2nm以下、好ましくは0.8~1.5nm、さらに好ましくは0.8~1.2nmであってもよい。もし、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面にコーティングされた金属酸化物層の厚さが2nmを超える場合には、前記正極材を含む電池のサイクル初期被膜抵抗及び律速特性が低下する可能性がある。
【0037】
また、前記金属酸化物層に含まれた金属酸化物は、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に80~88%、好ましくは80~85%の金属元素比でコーティングされるなど、非常に高いコーティング均一度を有する。
【0038】
また、前記金属酸化物層に含まれた金属酸化物は、前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の総重量100重量部に対して0.05~2重量部、好ましくは0.08~1.2重量部の含有量でコーティングされることができる。もし、前記金属酸化物が前記リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の総重量100重量部に対して0.05重量部未満で用いられると、蒸着層の形成効果が微小であり、2重量部を超える場合には電池容量が減少する問題が発生する可能性がある。
【0039】
その他に、前記リチウム二次電池用正極材を構成するリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質及び金属酸化物についての説明は、前記リチウム二次電池用正極材の製造方法の項目に記載されたところを準用する。
【0040】
最後に、前記リチウム二次電池用正極材を含むリチウム二次電池について説明すると、前記リチウム二次電池は、前記リチウム二次電池用正極材を含む正極、負極、前記正極と負極との間に介在する電解質及び分離膜を含む。
【0041】
ここで、前記リチウム二次電池用正極材の含有量は、前記正極100重量部に対して50~95重量部、好ましくは60~90重量部であってもよい。前記正極材の含有量が正極全重量100重量部に対して50重量部未満であると、正極材による電池の電気化学特性が低下することがあり、95重量部を超えるとバインダー及び導電材のような追加の構成成分が少量で含めることができ、効率的な電池の製造が困難になり得る。
【0042】
一方、前記正極材を除いた正極の残りの構成、負極、電解質及び分離膜は、当業界において用いる通常のものであってもよく、以下、これらについて具体的に説明する。
【0043】
本発明のリチウム二次電池に含まれる正極は、前述した正極活物質の他に、バインダー及び導電材などをさらに含む。前記バインダーは、正極材(正極活物質)と導電材などの結合及び集電体への結合に助力する成分であり、例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ポリビニリデンフルオライド-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVdF/HFP)、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリエチレン、ポリエチレンオキシド、アルキル化ポリエチレンオキシド、ポリプロピレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルクロライド、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピリジン、ポリビニルピロリドン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、スチレン-ブチレンゴム、フッ素ゴム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、及びこれらの混合物からなる群から選択される1種以上を用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0044】
前記バインダーは通常、正極総重量100重量部を基準として1~50重量部、好ましくは3~15重量部添加される。前記バインダーの含有量が1重量部未満であると、正極材と集電体との接着力が不十分となり、50重量部を超えると接着力は向上するが、その分正極材の含有量が減少して電池容量が低くなることがある。
【0045】
前記正極に含まれる導電材は、リチウム二次電池の内部環境で副反応を誘発せず、当該電池に化学的変化を誘発することなくかつ優れた電気伝導性を有するものであれば特に制限されず、代表的には黒鉛または導電性炭素を用いることができ、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック;結晶構造がグラフェンまたはグラファイトである炭素系物質;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウイスキー;酸化チタンなどの導電性酸化物;及びポリフェニレン誘導体などの導電性高分子;を単独で又は2種以上混合して用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0046】
前記導電材は、通常、正極全重量100重量部を基準として0.5~50重量部、好ましくは1~30重量部で添加される。導電材の含有量が0.5重量部未満と少なすぎると、電気伝導性の向上効果が期待できず、電池の電気化学的特性が低下することがあり、導電材の含有量が50重量部を超えて多すぎると相対的に正極材の量が少なくなり、容量及びエネルギー密度が低下することがある。正極に導電材を含ませる方法は大きく制限されず、正極材へのコーティングなど当分野において公知の通常の方法を用いることができる。また、必要に応じて、正極材に導電性の第2の被覆層が付加されることにより、前記のような導電材の添加に代えることもできる。
【0047】
また、本発明の正極には、その膨張を抑制する成分として充填剤を選択的に添加することができる。このような充填剤は、当該電池に化学的変化を誘発することなく電極の膨張を抑制できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオリフィン系重合体;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質;などを用いることができる。
【0048】
前記正極材、バインダー及び導電材などを分散媒(溶媒)に分散、混合させてスラリーを作り、これを正極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延することにより、本発明の正極を製造することができる。前記分散媒としては、NMP(N-methyl-2-pyrrolidone)、DMF(Dimethyl formamide)、DMSO(Dimethyl sulfoxide)、エタノール、イソプロパノール、水及びこれらの混合物を用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0049】
前記正極集電体としては、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、ステンレススチール(STS)、アルミニウム(Al)、モリブデニウム(Mo)、クロム(Cr)、カーボン(C)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ITO(In doped SnO2)、FTO(F doped SnO2)、及びこれらの合金と、アルミニウム(Al)またはステンレススチールの表面にカーボン(C)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)または銀(Ag)を表面処理したものなどを用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。正極集電体の形態は、ホイル、フィルム、シート、パンチングされたもの、多孔質体、発泡体などの形態であってもよい。
【0050】
前記負極は、当該技術分野において知られている通常の方法により製造することができる。例えば、負極活物質、導電材、バインダー、必要に応じて充填剤などを分散媒(溶媒)に分散、混合させてスラリーを作り、これを負極集電体上に塗布した後、乾燥及び圧延して負極を製造することができる。前記負極活物質としては、リチウムの可逆的なインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物を用いることができる。具体例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Sb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金またはAl合金などリチウムと合金化が可能な金属化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO2、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のようにリチウムをドープ及び脱ドープすることができる金属酸化物;あるいは、Si-C複合体またはSn-C複合体のように前記金属化合物と炭素質材料とを含む複合体などが挙げられ、これらのいずれか1つまたは2つ以上の混合物を用いることができる。また、前記負極活物質として金属リチウム薄膜を用いてもよい。また、炭素材料は、低結晶炭素及び高結晶性炭素などの両方を用いることができる。低結晶性炭素としては軟化炭素(soft carbon)及び硬化炭素(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては無定形、板状、鱗片状、球状又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、液晶ピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、炭素微小球体(meso-carbon microbeads)、液晶ピッチ(Mesophase pitches)及び石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0051】
また、前記負極に用いられるバインダー及び導電材は、前述の正極において説明したことと同一のものであってもよい。前記負極集電体としては、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、ステンレススチール(STS)、銅(Cu)、モリブデニウム(Mo)、クロム(Cr)、カーボン(C)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ITO(In doped SnO2)、FTO(F doped SnO2)、及びこれらの合金と、銅(Cu)又はステンレススチールの表面にカーボン(C)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)又は銀(Ag)を表面処理したものなどを用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。負極集電体の形態は、ホイル、フィルム、シート、パンチングされたもの、多孔質体、発泡体などの形態であってもよい。
【0052】
前記分離膜は、正極と負極との間に介在してこれらの間の短絡を防止し、リチウムイオンの移動通路を提供する役割を果たす。前記分離膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなオレフィン系ポリマー、ガラス繊維などをシート、多重膜、微細多孔性フィルム、織布及び不織布などの形態で用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。ただし、多孔性のポリエチレンまたは多孔性のガラス繊維不織布(glass filter)を分離膜として適用することが好ましく、多孔性のglass filter(ガラス繊維不織布)を分離膜として適用することがさらに好ましい。
【0053】
一方、電解質としてポリマーなどの固体電解質(例えば、有機固体電解質、無機固体電解質など)が用いられる場合には、前記固体電解質が分離膜を兼ねることもできる。具体的には、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜を用いる。分離膜の細孔径は一般的に0.01~10μm、厚さは一般的に5~300μmの範囲であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
前記電解質または電解液としては、非水系電解液(非水系有機溶媒)としてカーボネート、エステル、エーテルまたはケトンを単独でまたは2種以上混合して用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、n-メチルアセテート、n-エチルアセテート、n-プロピルアセテート、リン酸トリエステル、ジブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリジノン、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフランのようなテトラヒドロフラン誘導体、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン及びその誘導体、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0055】
前記電解液にはリチウム塩をさらに添加して用いることができ(いわゆる、リチウム塩含有非水系電解液)、前記リチウム塩としては非水系電解液に溶解しやすい公知のもの、例えばLiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiPF3(CF2CF3)3、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4-フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミドなどが挙げられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。前記(非水系)電解液には充放電特性、難燃性などの改善を目的として、例えばピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、グライム系化合物、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが添加されてもよい。必要に応じては、不燃性を付与するために四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒をさらに含ませてもよく、高温保存特性を向上させるために二酸化炭酸ガスをさらに含ませてもよい。
【0056】
一方、本発明のリチウム二次電池は、当分野の通常の方法により製造することができる。例えば、正極と負極との間に多孔性の分離膜を入れ、非水電解液を投入することによって製造することができる。本発明に係るリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに適用されることはもちろん、中大型デバイスの電源である電池モジュールの単位電池として特に好適に用いることができる。このような側面から、本発明はまた、2つ以上のリチウム二次電池が電気的に連結(直列または並列)されて含まれた電池モジュールを提供する。前記電池モジュールに含まれるリチウム二次電池の数量は、電池モジュールの用途及び容量などを考慮して多様に調節することができることは言うまでもない。
【0057】
さらに、本発明は、当分野の通常の技術により前記電池モジュールを電気的に連結した電池パックを提供する。前記電池モジュール及び電池パックは、パワーツール(Power tool);電気車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、及びプラグ-インハイブリッド電気車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;電気トラック;電気商用車;または電力貯蔵用システムのいずれか1つ以上の中大型デバイス電源として利用可能であるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0058】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示するが、これは本発明を例示するに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で種々の変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0059】
[実施例1]リチウム二次電池用正極材の製造
まず、50℃に設定された回分式バッチ(batch)型40L反応器において、NiSO4、CoSO4、MnSO4をニッケル:コバルト:マンガンのモル比が80:10:10のモル比となるような量で水中で混合し、2.4M濃度の前駆体形成溶液を準備した。共沈反応器(容量40L)に脱イオン水13リットルを入れた後、窒素ガスを反応器に25リットル/分の速度でパージングして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気に組成した。その後、25%濃度のNaOH水溶液83gを投入した後、50℃温度で700rpmの速度で撹拌し、pH11.5を維持するようにした。その後、前記前駆体形成溶液を1.9L/hrの速度でそれぞれ投入し、NaOH水溶液及びNH4OH水溶液を共に投入しながら48時間共沈反応させ、ニッケル-コバルト-マンガン含有水酸化物(Ni0.5Co0.3Mn0.2(OH)2)の粒子を形成した。前記水酸化物粒子を分離して洗浄した後、120℃のオーブンで乾燥し、ニッケル-コバルト-マンガン前駆体(D50=4.8μm)を製造した。
【0060】
続いて、前記製造されたニッケル-コバルト-マンガン前駆体及びリチウムソースLiOHをLi/M(Ni、Co、Mn)モル比が1.02となるようにヘンシェルミキサー20Lに投入し、中心部300rpmで20分間ミキシング(mixing)した。混合された粉末を330mm×330mmの大きさのアルミナるつぼに入れ、酸素雰囲気下、1010~1030℃で15時間焼成し、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を製造した。
【0061】
次いで、前記製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質100gを化学気相蒸着器に供給及び撹拌しながら、トリメチルアルミニウム(TMA、金属酸化物前駆体)1gを供給し、これと同時にキャリアガスであるアルゴンガスを注入し、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物がコーティングされた本発明のリチウム二次電池用正極材を製造した。一方、前記蒸着器内部の温度は60℃に設定し、前記キャリアガスはトリメチルアルミニウムを供給した後から60分間注入した。その他に、
図1は、本発明のリチウム二次電池用正極材を製造するのに使用される蒸着器の模式図で、
図1のAはキャリアガス注入部、
図1のBはキャリアガス排出口、
図1のCは撹拌機の位置を概略的に示すもので、蒸着機の下端に位置することができる。
【0062】
[比較例1]リチウム二次電池用正極材の製造
キャリアガスであるアルゴンガスを用いていないことを除いては、実施例1と同様に行ってリチウム二次電池用正極材を製造した。
【0063】
[比較例2]リチウム二次電池用正極材の製造
撹拌過程を除いたことを除いては、前記実施例1と同様に行ってリチウム二次電池用正極材を製造した。
【0064】
[比較例3]リチウム二次電池用正極材の製造
キャリアガスであるアルゴンガスを用いず、また、撹拌過程を除いたことを除いては、前記実施例1と同様に行って正極活物質を製造した。
【0065】
[比較例4]リチウム二次電池用正極材の製造
前記実施例1で製造されたリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質100gの表面にトリメチルアルミニウム(金属酸化物前駆体、1g)を電子ビームコーティング装置でコーティングさせ(すなわち、化学気相蒸着方式ではなく物理気相蒸着方式を利用)、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物がコーティングされたリチウム二次電池用正極材を製造した。このとき、前記電子ビームコーティング装置は、回転部上部のバー(bar)を回転させ、コーティング中に原料物質を均一に混合されることができるようにした。
【0066】
[実験例1]正極材内の金属コーティング含有量の評価
前記実施例1及び比較例1~4でそれぞれ製造された正極材において、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に位置する金属酸化物(Al2O3)中の金属(Al)の重量を測定し、その結果を下記1に示す。一方、前記金属重量はICP-OES分析(誘導結合プラズマ分光分析法)により測定した。
【0067】
【0068】
前記のように、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に位置する金属酸化物(Al2O3)中の金属(Al)の重量を測定した結果、前記表1に示すように、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を供給すると同時に持持続的に撹拌し、ここに金属酸化物前駆体と共にアルゴンガス(carrier gas)を供給した実施例1の正極材は、キャリアガスを流していない比較例1の正極材、正極活物質の供給後、撹拌させていない比較例2の正極材及びキャリアガスを流さずに正極活物質の供給後、撹拌させてもいない比較例3の正極材に比べて金属含有量が高いことが確認できた。特に、化学気相蒸着方式を用いた実施例1の正極材は、物理気相蒸着方式を用いた比較例4の正極材に比べて金属含有量が非常に高いことが分かる。
【0069】
これによって、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質と金属酸化物前駆体を同様に使用しても、本発明の化学気相蒸着工程、そして、これに加えて正極活物質を供給した後の撹拌過程が排除されると、金属酸化物コーティング層が正常に形成されないことが分かる。
【0070】
[実験例2]正極材表面の金属元素比率の評価
前記実施例1及び比較例1~4でそれぞれ製造された正極材において、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に位置する金属酸化物(Al2O3)中の金属(Al)の元素比を測定し、その結果を以下の表2に示す。一方、前記金属元素比は、AES(Auger Electron Spectroscopy)分析により測定した。
【0071】
【0072】
前記のように、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に位置する金属酸化物(Al2O3)中の金属(Al)の元素比を測定した結果、前記表2に示すように、アルゴンガスの供給と共に正極活物質を撹拌して蒸着した実施例1は、活物質表面の蒸着物含有量が最も高かった。一方、キャリアガス供給と活物質撹拌の一方のみ適用した場合(比較例1及び2)と、キャリアガス供給及び活物質撹拌の両方を実施していない比較例3の場合には、蒸着物含有量が実施例1に比べて確実に少なかった。特に、物理気相蒸着方式を用いた比較例4は、化学気相蒸着方式を用いた実施例1に比べて蒸着物含有量が非常に少なく現れた。これによって、化学気相蒸着方式を用いると同時にキャリアガス注入及び活物質撹拌の両方を行うと、蒸着収率と緻密度の側面から有利であることが確認できた。
【0073】
[実施例2、比較例5~8]リチウム二次電池の製造
前記実施例1及び比較例1~4でそれぞれ製造された正極材、導電材としてカーボンブラック及びバインダーとしてポリビニリデンフルオライド(PVdF)を96.5:1.5:2の重量比で混合し、NMP溶媒に分散させてスラリーを製造した後、これをブレードタイプのコーティング機であるマティスコーター(Labdryer/coater type LTE、Werner Mathis AG社)で25μm厚さのアルミニウムホイル(Al foil)に均一な厚さでコーティングし、120℃の真空オーブンで13時間乾燥して、リチウム二次電池用正極を製造した。
【0074】
次いで、前記製造された正極を負極(Li metal foil)と対向するように位置させた後、その間に多孔性のポリエチレン分離膜を介在して電極組立体を製造し、前記電極組立体をケース内部に位置させた後、ケース内部に電解液を注入して、ハーフセル(half cell)形態のリチウム二次電池を製造した。このとき、電解液はエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートを1:2:1の体積比で混合した有機溶媒に微量のビニレンカーボネート(VC)を溶解させて製造したものを用いた。
【0075】
[実験例3]リチウム二次電池の充放電容量及びクーロン効率の評価
まず、前記実施例2及び比較例5~8で製造したリチウム二次電池に対して、常温でCCCVモード及び0.2Cで4.4Vになるまで充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電させる充放電を30回進行し、一番目のサイクル時の充電容量、放電容量及びクーロン効率をそれぞれ測定し、下記表3に示す。
【0076】
【0077】
前記のように実施例2及び比較例5~8で製造されたリチウム二次電池に対して1回充放電を進行して充電容量、放電容量及びクーロン効率をそれぞれ測定した結果、前記表3に示すように、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質を供給すると同時に持続的に撹拌し、ここに金属酸化物前駆体と共にアルゴンガス(carrier gas)を供給して製造された正極材を含む実施例2の電池は、キャリアガスを流していないまま製造された正極材を含む比較例5の電池、正極活物質の供給後、撹拌させていないまま製造された正極材を含む比較例6の電池、キャリアガスを流さずに正極活物質の供給後、撹拌させてもいないまま製造された正極材を含む比較例7の電池及び物理気相蒸着方式を用いて製造された正極材を含む比較例8の電池に比べてクーロン効率に優れることが確認できた(特に、前記比較例8の電池は、充電時、電解質副反応により充電容量が大きくクーロン効率が低かった)。
【0078】
これを通じては、金属酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に正常にコーティングされなければ(すなわち、薄く均一にコーティングされなければ)、電池の高い容量維持が不可能であることが分かり、これは、リチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に金属酸化物が薄く均一に形成され、電池駆動時(充電時)電解質と当接する界面副反応が抑制されたことが分かる。
【0079】
[実験例4]リチウム二次電池の寿命評価
まず、前記実施例2及び比較例5~8で製造したリチウム二次電池に対して、常温でCCCVモード及び0.2Cで4.4Vになるまで充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電させる充放電を30回進行し、30回充放電後、一番目のサイクル対比放電容量の維持率をそれぞれ測定し、下記表4に示す。
【0080】
【0081】
前記のように実施例2及び比較例5~8で製造されたリチウム二次電池に対して、30回充放電後、一番目のサイクル対比放電容量の維持率をそれぞれ測定した結果、前記表4に示すように、金属酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン系正極活物質の表面に均一かつ緻密にコーティングされているほど、電極-電解質界面での副反応が効果的に抑制され、電池の寿命維持に有利であることが分かる。
【国際調査報告】