(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-13
(54)【発明の名称】血管新生を同定又は予測に使用するためのマーカー
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20231206BHJP
A61B 3/14 20060101ALI20231206BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B3/14
A61B3/10 300
A61B5/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534696
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 EP2021084119
(87)【国際公開番号】W WO2022117791
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523209287
【氏名又は名称】ノヴァイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NOVAI LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】コーデイロ,マリア フランチェスカ
(72)【発明者】
【氏名】マディソン,ジョン
【テーマコード(参考)】
4C117
4C316
【Fターム(参考)】
4C117XB01
4C117XB09
4C117XD06
4C117XD07
4C117XE05
4C117XE43
4C117XE44
4C117XE45
4C117XR07
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4C117XR10
4C316AA09
4C316AA10
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB12
4C316AB16
(57)【要約】
本発明は、対象における血管新生を同定又は予測するのに使用するための標識された細胞ストレスマーカーを提供する。また、対象の血管新生を同定又は予測する方法であって、対象が標識された細胞ストレスマーカーを投与された方法も提供される。本方法は、(a)第1の撮像装置を用いて対象から画像を生成するステップと、(b)画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定するステップとを含む。標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞が画像内で同定された場合、血管新生が同定又は予測される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の血管新生を同定又は予測するための使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項2】
前記細胞ストレスマーカーは、アネキシン又はその断片若しくは変異体である、請求項1に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項3】
前記細胞ストレスマーカーは、アネキシン5、11、2又は6である、請求項2に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項4】
前記標識は、蛍光性である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項5】
前記蛍光標識は、赤外線スペクトルの波長を有する、請求項4に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項6】
前記蛍光標識は、D-776である、請求項4又は5に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項7】
前記血管新生は、生理的、治療的又は病的血管新生である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項8】
前記生理的血管新生は、前記対象による以前の運動に関連する、請求項7に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項9】
前記治療的血管新生は、創傷治癒及び/又は組織工学的足場の統合に関連する、請求項7に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項10】
前記病的血管新生は、疾患、疾患の段階、疾患の重症度に関連する又は疾患の発症を予測する、請求項7に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項11】
前記病的血管新生は、疾患の発症を予測する、請求項10に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項12】
前記疾患は、癌、自己免疫疾患、心血管疾患、アレルギー疾患、鎌状赤血球疾患及び/又は眼疾患を含む、請求項10又は11に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項13】
前記疾患は、眼疾患を含む、請求項12に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項14】
前記眼疾患は、加齢黄斑変性症(AMD)、任意でウェット型AMDを含む、請求項13に記載の使用のための標識された細胞ストレスマーカー。
【請求項15】
対象の血管新生を同定又は予測する方法であって、前記対象は、標識された細胞ストレスマーカーを投与され、以下のステップを含む、方法:
(a)第1の撮像装置を用いて、前記対象から画像を生成するステップ;
(b)前記画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定するステップ;
前記標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞が前記画像内に確認された場合、血管新生が同定又は予測される。
【請求項16】
前記細胞ストレスマーカーは、アネキシン又はその断片若しくは変異体である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞ストレスマーカーは、アネキシン5、11、2又は6である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記標識は、蛍光性である、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記蛍光標識は、赤外線スペクトルの波長を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記蛍光標識は、D-776である、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記血管新生は、生理的、治療的又は病的血管新生である、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記生理的血管新生は、前記対象による以前の運動と関連する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記治療的血管新生は、創傷治癒及び/又は組織工学的足場の統合に関連する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記病的血管新生は、疾患、疾患の段階に関連する又は疾患の発症若しくは疾患の重症度を予測する、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
前記病的血管新生は、疾患の発症を予測する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記疾患は、癌、自己免疫疾患、心血管疾患、アレルギー疾患、鎌状赤血球疾患及び/又は眼疾患を含む、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記疾患は、眼疾患を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記眼疾患は、加齢黄斑変性(AMD)、任意でウェット型AMDを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
同定された疾患、疾患の段階、疾患の重症度又は予測される疾患に適切な治療を投与することをさらに含む、請求項24~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記標識された細胞ストレスマーカーは、静脈内、鼻腔内又は局所に投与された、請求項15~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定することは、前記画像内の前記標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の数を数えることを含む、請求項15~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定は、コンピュータで実施されている、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記対象における前記標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を決定することをさらに含む、請求項31又は32に記載の方法。
【請求項34】
前記位置は、第2の撮像装置を用いて得られた別の画像を用いて決定されている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第2の撮像装置は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ、ポジトロン断層法(PET)スキャナ、偏光子、反射型イメージスキャナ、眼底カメラ及び/又はOCTスキャナを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記第2の撮像装置は、OCTスキャナを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第1の撮像装置は、共焦点スキャナレーザー顕微鏡、任意で共焦点走査型レーザー検眼鏡(cSLO)を含む、請求項15~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
眼ではない対象の身体部分におけるアポトーシスを同定するために使用する、標識されたアポトーシスマーカー。
【請求項39】
前記身体部分は、中枢神経系ではない、請求項38に記載の標識されたアポトーシスマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における血管新生を同定又は予測に使用するための標識された細胞ストレスマーカーに関するものである。本発明はまた、対象における血管新生を同定又は予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、癌、アレルギー疾患、自己免疫疾患、及び加齢黄斑変性(AMD)、特にウェット型AMDなどの眼疾患に関連する重要な病態である。ウェット型AMDは視力低下の主な原因であり、英国では65歳以上の方の2.5%が罹患している。これは、英国の80歳以上の高齢者では6.3%に上る。
【0003】
現在、ウェット型AMDの診断には、網膜を撮影して異常な血管の発生を評価することが必要である。しかしながら、ウェット型AMDは無症状で急速に進行するため、診断や治療が遅すぎて効果が得られないことも少なくない。これは、重大な疾病につながり得る。
【0004】
ウェット型AMDを発症するリスクのある対象を特定し、早期に治療が行われ得るようにする必要がある。本発明は、このような問題やその他の問題に対処しようとするものである。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の様態によれば、対象における血管新生を同定又は予測に使用するための標識された細胞ストレスマーカーが提供される。
【0006】
本明細書で使用する場合、「細胞ストレスマーカー」という用語は、細胞ストレスを受けている細胞を同定するマーカーを指す。したがって、マーカーは、ストレスを受けた細胞に特異的に結合する化合物又は分子として知られていてもよい。細胞ストレスは、最終的にアポトーシスを受けている細胞を予測するものであってもよい。いくつかの実施形態では、細胞ストレスマーカーは、アポトーシス細胞を標識することもできる(すなわち、マーカーは、アポトーシス細胞だけでなく、細胞ストレスを受けている細胞を標識することができる)。したがって、実施形態では、細胞ストレスマーカーは、本明細書において「アポトーシスマーカー」と称されてもよい。
【0007】
本明細書で使用する場合、「アポトーシスマーカー」という用語は、アポトーシスを起こしている細胞を生細胞と区別することができるマーカーを指す。このマーカーはまた、アポトーシス細胞を壊死細胞から区別することができてもよい。したがって、マーカーは、アポトーシス細胞に特異的に結合する化合物又は分子として知られてもよい。
【0008】
細胞ストレスマーカーは、ストレスを受けた細胞膜を同定するマーカーを含む又はからなってもよい。
【0009】
「血管新生」という用語は、既存の血管系から新しい血管が成長することを指す、当該技術分野で既知の用語である。有利なことに、本発明者らは、標識された細胞ストレスマーカーを用いて、ストレスを受けた細胞を単一細胞レベルで同定し、血管新生を予測又は同定し得ることを発見した。いくつかの実施形態では、血管新生は、初期段階の血管新生である。血管新生を初期段階で同定する、又は血管新生の発生を予測することにより、初期段階で血管新生の抑制又は促進を臨床的に目標とし、対象にとって最大の効果を保証し得る。
【0010】
「血管新生を予測する」とは、例えば血管新生が起こる前に、血管新生の発生を予測することを指すと理解されてもよい。これにより、予期せぬ初期段階での臨床介入が可能となる。その結果、例えばウェット型AMDにおける視力低下などの症状の急速な進行を防ぐ。
【0011】
細胞ストレスマーカーが血管新生を同定又は予測し得ることは全く予想外であった。なぜなら、血管新生は、細胞ストレス及び/又はアポトーシスではなく、新しい細胞の増殖に関係するからである。
【0012】
いくつかの実施形態では、細胞ストレスマーカーは、アネキシン又はその断片又は変異体である。タンパク質のアネキシンファミリーは、アポトーシスマーカーとして知られている。アネキシンは、陽イオンの存在下で細胞膜に可逆的に結合するタンパク質である。本発明で有用なアネキシンは、天然であってもよいし、組換えであってもよい。
【0013】
「断片」とは、アネキシン全体の機能活性を実質的に保持するアネキシンの切断バージョンを指すと理解されるであろう。「実質的に保持する」とは、アネキシン全体の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の機能活性を指すと理解されるであろう。アネキシンの変異体は、野生型アネキシンに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有するように、野生型アネキシンと異なるアミノ酸配列を有するタンパク質を指すと理解されるであろう。アネキシンの変異体は、野生型アネキシンの機能活性を実質的に保持することになる。
【0014】
アネキシンは、アネキシン5、11、2又は6であってもよい。いくつかの実施形態では、アネキシンはアネキシン5である。別の実施形態では、アネキシンはアネキシン128である(Taitら、2005)。アネキシン128は、アネキシン5の変異体であり、2つの単一アミノ酸変異によって野生型アネキシン5とは異なる。アネキシン128には、N末端に露出したチオール基が含まれており、蛍光標識などの分子タグの結合効率が向上する。
【0015】
理論にとらわれることなく、本発明者らは、アネキシンが結合可能なホスファチジルセリンがストレスを受けた内皮細胞で露出されると考えている。したがって、例えばアネキシンの結合によるホスファチジルセリンの同定は、細胞ストレスを示し得る。本発明者らは、驚くべきことに、細胞膜上のホスファチジルセリンの露出が初期段階の血管新生のその後の進行を示し得ることを発見した。
【0016】
例えば、シナプトタグミン-IのC2Aドメイン、デュラマイシン、WC-11-89などの非ペプチド系イサチンスルホンアミド類似体及びNST-732、DDC並びにML-10(Saint Hubertら、2009)などのApoSenseを含む他のアポトーシスマーカーが当該技術分野で知られている。このようなアポトーシスマーカーは、本発明の細胞ストレスマーカーとして使用するのに適している。
【0017】
細胞ストレスマーカーの標識は、可視であってもよい。例示的な可視標識としては、量子ドット、ナノスフェア及び/又はナノロッドを含んでもよいが、必ずしもこれらに限定されない。他の可視標識は、当業者に既知であろう。
【0018】
標識は、蛍光性であってもよい。蛍光標識は、励起に応答して光を放出する化合物又は分子(蛍光色素分子など)を指し、光毒性の影響を避けるために露光安全基準を遵守しながら、信号対雑音比が向上し、それによって画像解像度及び感度が向上するため、使用するために選択され得る。蛍光標識は、投与時にほとんど又は全く炎症を引き起こさないことが好ましい。蛍光標識は、赤外又は近赤外スペクトルの波長を有してもよい。蛍光標識は、約400nm~約1000nm、好ましくは約500nm~約900nm、より好ましくは約700nm~約900nmの発光波長を有してもよい。
【0019】
好適な蛍光標識としては、フルオレセインナトリウム、インドシアニングリーン(ICG)、クルクミン、IRDye700、Dy-776(これ以外の場合はD-776と呼ぶことがある)、Dy-488及びDy-781の1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、蛍光標識はD-776である。
【0020】
標識された細胞ストレスマーカーは、標識、例えば蛍光標識をマーカー化合物に結合させるための標準的な技術を用いて調製されてもよい。このような標識は、Dyomicsのような周知の供給源から入手してもよい。標識とマーカーを結合させるための適切な技術は、当該技術分野で知られており、標識の製造業者によって提供されてもよい。
【0021】
血管新生(任意に初期段階の血管新生)は、正常な成長及び発達と同様に、疾患などの病的な状態に関連し得ることが理解されるであろう。したがって、血管新生は、生理的、治療的又は病的血管新生であってもよい。本発明の文脈では、生理的血管新生は、対象における正常な成長及び治癒に関連する血管新生を指すと理解されるであろう。例えば、血管新生は、運動、特に高地での持久運動、例えば山登りによって誘発されることが以前から示されている。したがって、生理的血管新生は、対象による以前の運動と関連する可能性がある。治療的血管新生は、創傷治癒及び/又は組織工学的足場の統合に関連する可能性がある。
【0022】
いくつかの実施形態では、血管新生は、病的血管新生である。病的血管新生とは、疾患に関連する又は関与する血管新生であると理解されるであろう。病的血管新生は、疾患、疾患の段階、疾患の重症度及び/又は疾患発症の予測に関連してもよい。
【0023】
細胞ストレスマーカーは、病的血管新生の同定又は予測に使用するためのものであってもよい。細胞ストレスマーカーによる病的血管新生の同定又は予測は、特定の疾患、疾患の段階及び/又は疾患の重症度を予測又は同定してもよい。有利には、特定の疾患、疾患の段階及び/又は疾患の重症度を予測する能力、又は特定の疾患を初期段階で同定する能力は、最も適した治療コースを選択、投与及び任意にモニターすることを可能にする。
【0024】
疾患の文脈において、本明細書で使用される「予測する」という用語は、疾患、疾患の段階及び/又は疾患の重症度の進行、発症前、又は対象が無症状であり、かつ/若しくは疾患が他の方法では特定されないような疾患の初期段階において予測することを指すと理解されてもよい。初期段階の血管新生が同定される実施形態では、これは、初期段階で疾患を同定するために使用されてもよい。例えば、初期段階の血管新生は、対象に疾患の他の症状がない場合、又は対象が疾患の限定的又は軽微な症状しか有していない場合であって、他の方法では診断が困難又は不可能な疾患の初期段階にあるような場合に同定されてもよい。これは、臨床医が初期段階で治療法を選択し投与することを可能にし、それによって病気の不必要な進行を潜在的に回避するのに有用である。
【0025】
疾患は、血管新生に関連する任意の疾患を含んでいてもよい。例えば、疾患は、抗VEGFが治療として投与され得る任意の疾患を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、疾患は、癌、自己免疫疾患、心血管疾患、アレルギー疾患、鎌状赤血球症及び/又は眼疾患を含む。いくつかの疾患は、例えば、眼疾患及び自己免疫疾患(糖尿病性網膜症など)であってもよいことが理解されるであろう。
【0026】
いくつかの実施形態では、血管新生は、心血管疾患と関連している。他の実施形態では、血管新生は、心血管疾患の効果的な治療(すなわち、治療的血管新生)と関連している。血管新生に関連する心血管疾患の例は、静脈閉塞、例えば、脳卒中を含む。
【0027】
様々な自己免疫疾患は、当業者によく知られている。それらには、サルコイドーシス、関節リウマチ、多発性硬化症(MS)、乾癬、糖尿病(特にI型糖尿病)、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス(ループス)、ギランバレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、バセドウ病、橋本甲状腺炎、重症筋無力症、自己免疫性脳炎、視神経脊髄炎及び抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白抗体病(MOG)が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
いくつかの実施形態では、自己免疫疾患は、中枢神経系(CNS)自己免疫疾患である。例示的なCNS自己免疫疾患には、神経サルコイドーシス、MS、視神経脊髄炎及び抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白抗体病(MOG)が含まれるが、これらに限定されない。
【0029】
アレルギー疾患は、鼻炎、喘息及び/又は花粉症を含む又はからなってもよい。典型的には、アレルギー疾患は、慢性アレルギー疾患である。慢性アレルギー疾患は、血管新生と関連し得ることがわかっている。「慢性アレルギー疾患」とは、長期的かつ再発するアレルギー疾患を指すと理解されるであろう。長期的とは、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも5年、少なくとも10年又は少なくとも20年持続する及び/又は再発する状態を指してもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、疾患は、眼疾患を含む。眼疾患には、網膜静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性(AMD)、視神経炎及び眼血管疾患が含まれるが、必ずしもこれらに限定されない。いくつかの実施形態では、眼疾患は、眼神経変性疾患を含む。「眼神経変性疾患」という用語は、当業者にはよく知られており、眼神経細胞の徐々に進行して失われることによって起こる疾患を指す。それらには、AMD、視神経炎及び糖尿病性網膜症が含まれるが、これらに限定されない。神経変性疾患には、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病及びフリードライヒ失調症が含まれる。
【0031】
いくつかの実施形態では、眼疾患は、糖尿病性網膜若しくはAMDを含む又はからなる。
【0032】
いくつかの実施形態では、眼疾患は、AMDを含む又はからなる。任意で、眼疾患はウェット型AMDを含む又はからなる。本発明者らは、驚くべきことに、標識された細胞ストレスマーカーを用いて対象における血管新生を同定又は予測し得、血管新生の同定又は予測がウェット型AMDの予測マーカーであることを発見した。これにより、臨床医は対象がウェット型AMDを発症するかどうかを予測し得る。ウェット型AMDの症状は非常に早く進行し、永久的な視力喪失につながり得る。したがって、そのような予測は、臨床医が初期段階で対象に治療を施すことを可能にし、それによって視力の喪失を軽減し、いくつかの実施形態では視力の喪失を回避するのに特に有益である。
【0033】
いくつかの実施形態では、対象は哺乳類である。例えば、対象は、ラット、マウス、ヒト、ウサギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ又はヒツジであってよい。いくつかの実施形態では、対象は、マウス、ラット、ヒト及びウサギから選択される。いくつかの実施形態では、対象はヒトである。
【0034】
本発明の第2の様態によれば、対象における血管新生を同定又は予測するための、標識された細胞ストレスマーカーの使用が提供される。血管新生は、生理的血管新生又は治療的血管新生であってもよく、好ましくは、本明細書に記載されるような生理的血管新生である。
【0035】
本発明の第3の様態によれば、以下のステップを含む、対象における血管新生を同定又は予測する方法であって、前記対象は標識された細胞ストレスマーカーを投与される、方法が提供される:
(a)第1の撮像装置を用いて、前記対象から第1の画像を生成するステップ;
(b)前記画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定するステップ;
ここで、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞が前記画像内で同定された場合、血管新生が同定又は予測される。
【0036】
本発明の更なる様態では、以下のステップを含む、対象における血管新生を同定又は予測する方法が提供される:
(a)標識された細胞ストレスマーカーを対象に投与するステップ;
(b)撮像装置を用いて、前記対象から画像を生成するステップ;
(c)前記画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定するステップ;
ここで、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞が前記画像内で同定された場合、血管新生が同定又は予測される。
【0037】
本発明者らは、標識された細胞ストレスマーカーを用いて、単一細胞レベルで細胞ストレスを標識化し得ることを発見した。単一細胞レベルでの細胞ストレスの同定は、有利には、その後の血管新生の発生を予測し、及び/又は血管新生の初期段階での検出を可能にし、それによって、他の又は更なる症状が発生する前に、疾患の予測又は同定を可能にする。
【0038】
標識された細胞ストレスマーカーの投与は、静脈内、鼻腔内、局所又は硝子体内であってもよい。局所とは、対象の表面、例えば、皮膚又は眼の表面への適用を指すと理解されるであろう。いくつかの実施形態では、標識された細胞ストレスマーカーは静脈内に投与される。他の実施形態では、標識された細胞ストレスマーカーは硝子体内に投与される。
【0039】
いくつかの実施形態では、本方法は、血管新生又は予測される血管新生に基づいて特定される疾患、疾患の段階、疾患の重症度又は予測される疾患に対して適切な治療法を施すことをさらに含む。適切な治療は、抗血管新生薬(すなわち、血管新生を抑制する治療)、例えば抗VEGF化合物を含む又はからなってもよい。例示的な抗血管新生薬としては、アキシチニブ、ベバシズマブ、ラニビズマブ、カボザンチニブ、エベロリムス、レナリドミド、パゾパニブ、ラムシルマブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、サロミド、バンデタニブ及びアフリベルセプトを含んでもよいが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。適切な治療薬の投与は、静脈内、鼻腔内、局所又は硝子体内であってもよい。
【0040】
いくつかの実施形態では、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定することは、画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の数を数えることを含む。有利には、このステップは繰り返す必要がない。言い換えれば、本発明者らは驚くべきことに、血管新生を同定する又はその後の発生を予測するために必要な同定ステップが1回だけであることを発見したため、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定するステップは、1回だけ行う必要がある。したがって、本発明の方法は、特に迅速、正確かつ費用対効果に優れている。
【0041】
いくつかの実施形態では、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を同定することは、対象における標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を決定することを含む。これは、画像内に示される標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の解剖学的位置を決定することを含んでもよい。上述したように、本発明の細胞ストレスマーカーは、ストレスを受けている細胞とアポトーシス細胞の両方を標識してもよい。したがって、アポトーシス細胞とストレスを受けた細胞とを区別することが望ましくてもよい。本発明者らは、これを達成する方法の一つとして、標識された細胞の位置を調べ、血管新生が起こりそうな場所、例えば血管の近くにあるか、又は血管新生が起こりそうにない場所、例えば網膜の光受容層にあるかを検討することを確認した。したがって、本発明の方法は、細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を決定するステップをさらに含んでもよく、その位置はその細胞が血管新生に関与しているかアポトーシスであるかを示している。これにより、医者はアポトーシス陽性細胞からの偽陽性を減らすことができるため、血管新生の同定及び/又は予測が特に正確になることを保証する。細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を決定するステップは、血管などの解剖学的構造又は組織タイプに対する細胞の位置を特定することを含んでもよい。
【0042】
位置を決定するステップは、生成された第1の画像上の細胞の位置を特定することを含んでもよい。又は、第2の画像、特に異なる様態から細胞を示す画像、又は第1の画像では見えない組織若しくは他の構造を示す画像内で細胞の位置を特定することを含んでもよい。任意で、本方法は、複数の平面における標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を決定することを含む。例えば、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置は、例えば2D画像において、x軸及びy軸にわたって決定されてもよい。標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置は、x軸、y軸及びz軸にわたって決定されてもよい。いくつかの実施形態では、細胞の位置は、複数の画像から特定されてもよい。例えば、細胞の位置は、少なくとも第2及び第3の画像を用いて特定されてもよい。複数の画像の各々は、類似又は同一の基準フレームを用いて撮影され、複数の画像が得られた後、それらを重ね合わせてx、y及びz軸を形成し得る。言い換えれば、3D画像を形成することである。3D画像は、細胞の位置を特定するために使用され得る。
【0043】
本方法は、例えば、同じ又は異なる撮像装置を用いて対象の第2の画像を生成するステップと、任意に、その画像を第1の画像と比較するステップとを含んでもよい。本方法が1つ以上の画像を比較することを含む場合、一方の画像を他方の画像に重ねて表示することが好ましい。本方法は、そのようにするステップを含んでいてもよい。また、各画像に示された細胞ストレスマーカー陽性細胞を正しく一致させるために、画像登録、すなわち画像を位置合わせするステップを含んでもよい。
【0044】
本方法が2つ以上の画像の使用を含む場合、それらの画像は、同じ又は異なる撮像装置を用いて得られてもよい。例えば、第1の撮像装置は、共焦点スキャナレーザー顕微鏡を含む又はからなってもよい。共焦点スキャナレーザー顕微鏡の一例としては、共焦点走査型レーザー検眼鏡(cSLO)がある。
【0045】
いくつかの実施形態では、複数の画像を取得するために、第1及び第2の撮像装置が使用される。第2の撮像装置は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ、ポジトロン断層法(PET)スキャナ、偏光子、反射型イメージスキャナ、眼底カメラ及び/又はOCTスキャナを含む又はからなってもよい。好ましくは、第2の撮像装置は、第1の撮像装置と異なる装置である。
【0046】
いくつかの実施形態では、第2の撮像装置は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ、ポジトロン断層法(PET)スキャナ及び/又はOCTスキャナを含む又はからなる。
【0047】
いくつかの実施形態では、第2の撮像装置は、OCTスキャナを含む又はからなる。
【0048】
いくつかの実施形態では、複数の画像を取得するために、第1、第2及び第3の撮像装置が使用される。第3の撮像装置は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、磁気共鳴画像法(MRI)スキャナ、ポジトロン断層法(PET)スキャナ、偏光子、反射型イメージスキャナ、眼底カメラ及び/又はOCTスキャナを含む又からなってもよい。好ましくは、第3の撮像装置は、第1及び第2の撮像装置と異なる装置である。
【0049】
第1の撮像装置は、2D又は3D画像を取得するために使用されてもよい。任意に、第1の撮像装置は、2D画像を取得するために使用される。第2の撮像装置は、2D又は3D画像を取得するために使用されてもよい。第2の撮像装置は、3D画像を取得するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、第2又は第3の撮像装置は、マスク画像を提供するために使用される。マスク画像とは、「背景」画像、すなわち、細胞の位置を特定するために使用される画像の背景値を設定するために使用され得る画像を指すと理解されるであろう。
【0050】
いくつかの実施形態では、第3の撮像装置は、反射型イメージスキャナを含む又はからなる。
【0051】
一実施形態では、本方法は、1つ以上の血管の位置を決定することを含む。血管の位置の決定は、当該技術分野で知られている方法である血管造影法によって行われてもよい。例えば、血管の位置は、フルオレセイン血管造影(FA)、インドシアニングリーン血管造影(ICGA)及び/又は光干渉断層撮影(OCT)、任意に光干渉断層血管撮影(OCTA)を用いて決定されてもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を決定することは、血管の位置に対する前記細胞の位置を決定することを含んでもよい。例えば、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞が血管に隣接している又は血管上にあると同定される場合、これはアポトーシスではなく細胞ストレスを同定するために使用されてもよい。これは、初期段階の血管新生又は予測されるその後の血管新生の肯定的な指標として用いてもよい。
【0053】
例えば、血管新生の同定又は予測が、対象が眼神経変性疾患を発症する可能性があるかどうかを予測するために使用される実施形態では、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置の決定(任意に、血管の位置に対する位置を決定することをさらに含む)は、対象が緑内障ではなく、ウェット型AMDを発症するかどうかを予測するために使用されてもよい。これは、ウェット型AMDが細胞ストレスに代表されるのに対し、緑内障はアポトーシスに関連しているためである。ウェット型AMDと緑内障はいずれも深刻で進行が早く、異なる治療が必要な眼疾患であるため、これは特に有益である。症状が出る前又は病気の初期段階で2つの疾患を区別することができれば、不必要な視力喪失を避けるために、正しい治療法を選択して実施され得る。
【0054】
標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定、及び任意で画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置は、コンピュータで実施されてもよい。これは、人工ニューラルネットワークなどの識別モデルを訓練する際に使用するための訓練データを生成することを含んでもよい。人工ニューラルネットワークは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を含んでもよい。訓練データは、例えば、ウェット型AMDなどの疾患を有する(又は有さない)ことが既に知られている対象から、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞を含む又は含まないものとして手動で分類された対照データを含んでもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、識別モデルは、訓練データを用いて訓練されてもよい。これは、識別モデルの訓練に使用するための訓練データを生成するステップに加えて、又はその代わりであってもよい。一旦訓練されると、識別モデルは手動で検証されてもよい。
【0056】
訓練された識別モデル(例えば、畳み込みニューラルネットワークなど)を用いて、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞及び任意で標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置を識別してもよい。
【0057】
又は、標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定、及び任意で画像内の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の位置は、手動で行ってもよい。
【0058】
いくつかの実施形態では、画像内の少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個又は少なくとも40個の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定は、対象が疾患を発症することを予測する。いくつかの実施形態では、画像内の5個以上、10個以上、15個以上、20個以上、30個以上又は40個以上の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定は、対象が疾患を発症することを予測する。例えば、対象の眼の画像における少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個又は少なくとも40個の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定は、対象がウェット型AMDを発症することを予測してもよい。いくつかの実施形態では、対象の眼の画像における少なくとも5個、任意で5個以上の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定は、対象がウェット型AMDを発症することを予測する。
【0059】
有利なことに、本発明者らは、同定される標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の数の増加が、その後発症する疾患の重症度と相関すること、すなわち、画像内で同定される標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の数が多いほど、その後に発症する疾患の重症度が高くなることも発見した。したがって、いくつかの実施形態では、画像内の少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個又は少なくとも40個の標識された細胞ストレスマーカー陽性細胞の同定は、対象の疾患の重症度が増加することを予測する。これは、有利なことに、対象がより高用量の治療、より定期的な治療の投与又は全く別の治療を必要とするかどうかを決定するために使用され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、画像を生成するステップは、第2、第3、第4、第5又はそれ以上の追加の画像を取得するために繰り返される。画像は、対象の同じ領域、例えば対象の同じ眼の1つ以上の先行画像と比較されてもよい。画像の生成の繰り返しは、毎月、2ヶ月ごと、6ヶ月ごと、毎年又は隔年(2年に1回)であってもよい。本方法は、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の先行画像の上に画像を重ねることを含んでもよい。対象の同じ領域の画像を経時的に比較することは、疾患の進行を監視するために使用されてもよい。又は、適切な治療が行われた実施形態では、対象の同じ領域の画像を経時的に比較することは、投与された治療の有効性を監視するために使用されてもよい。例えば、最初の画像を生成した後、対象に適切な治療を施してもよい。その後に得られる画像は、前記治療の有効性を監視するために使用され得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象が特定の疾患を発症する可能性を診断又は予測しようとするために、別の方法が既に実施されている対象に対して実施されてもよい。したがって、本方法は、別の(第1の)方法の精度を試験及び/又は改善し、第1の方法による偽陰性を確実に特定するための「第2の意見」として使用され得る。
【0062】
本発明の別の様態によれば、眼ではない対象の身体部分におけるアポトーシスを同定するのに使用する標識アポトーシスマーカーが提供される。一実施形態において、身体部分は、中枢神経系の一部ではない。身体部分は、四肢(例えば、腕又は脚)、肝臓、脾臓、心臓、1つ以上の肺、胃、小腸、大腸、腎臓、皮膚若しくは膀胱の全部又は一部であってもよい。
【0063】
本明細書の説明及び特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」及び「含有する(contain)」並びに単語の変形、例えば「含んでいる(comprising)」及び「含む(comprises)」は、「含むが限定されない」を意味し、他の成分、整数又はステップを除外しない。また、単数形は、文脈上別段の定めがない限り、複数形を包含する:特に、不定冠詞が使用されている場合、文脈上別段の定めがない限り、本明細書は単数だけでなく複数も想定していると理解される。
【0064】
本発明の各様態の好ましい特徴は、他の様態のいずれかに関連して説明される通りであってもよい。本出願の範囲内において、前の段落、特許請求の範囲及び/又は以下の説明及び図面に記載された様々な様態、実施形態、実施例及び代替案、特にその個々の特徴は、独立して又は任意の組み合わせで取り得ることが明示的に意図されている。すなわち、すべての実施形態及び/又は任意の実施形態の特徴は、そのような特徴が互換性のないものでない限り、任意の方法及び/又は組み合わせで組み合わせ得る。
【0065】
次に、本発明の1つ又は複数の実施形態が、添付の図面を参照して、例示的にのみ説明される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】DARC CNNシステムがOCTにおいて新たな網膜下液(ウェット型AMD)を予測することを示す。位置合わせアプリケーション:各眼について、反射型OCTローカリゼーションマップ(A)は、共焦点走査型レーザー検眼鏡(cSLO)で撮影したベースラインの自家蛍光画像(B)及びOCTスキャン(C)に、を位置合わせされ、連続スキャンでOCT領域を定義する自動ランドマーク(塗りつぶされた白丸)とフィデューシャルマーカー(黄色と青色の十字、A、B)を手動で配置する特注アプリケーションを使用した。DARC画像(D)は、Anx776をcSLOで静注した240分後に撮影され、ベースラインの自家蛍光画像(B)と自動的に位置合わせされ、OCT画像(A、C)とも位置合わせされている。DARC画像に対応する点は、シアン色の垂直線を用いてOCTスキャン(C)内で特定し得、その垂直位置におけるOCT画像内のすべての断面構造を同定することができる。したがって、この例では、ベースライン時に、シアン色で囲まれた黄色のDARCスポット(D)の位置は、ベースラインOCTスキャン(C)のすべての網膜層におけるx,y座標で記録され得る。これはすべてのDARCスポットに対して行われ得、対応する点はすべての経過観察OCTスキャンに配置される。DARCスポットの位置特定:DARCスポットは、既に説明したCNN支援アルゴリズム(Lindekleivら(2013))を使用して自動的に検出される。シアン色で囲まれた黄色のDARCスポット(D)は、ベースライン(C)上に位置し、36ヶ月後の経過観察OCTスキャン(E)に位置合わせされている。新しい網膜下液(SRF)の存在はSRF CNNによって自動的に同定され、36ヶ月後の注釈付き画像に輪郭が描かれている(紫色の領域、F)。これは、シアン色で囲まれた黄色のDARCスポット(D)が36ヶ月後の新しいSRFを予測することを示している(E、F)。ユニークなDARCスポット予測:ベースライン時に観察された個々のDARCスポットは、経過観察時に実行された一連のOCTスキャンとの関連で評価され得る。SRF(D)に関連するユニークなDARCスポットは、異なる時点を表す異なる色で囲まれている:12~18ヶ月(赤色、D、G)、18~24ヶ月(薄緑色、D、L)、24~30ヶ月(紫色、D、Q)、30~36ヶ月(黄色、D)。これらは、経過観察時のOCTスキャン(H、M、R)とベースライン時(J、O、T)に対応するOCTスキャンで示されており、SRF CNNは、ベースライン時(K、P、U)と比較して、新たに形成されたSRF領域(I、N、S)を同じ色分けで注釈付きで示している。各OCTスキャンのシアン色の線は、示されたDARCスポット(白色矢印;G、L、Q)を通る垂直断面を強調している。
【
図2】CNN DARCカウント>5が、36ヶ月以上のOCTにおいてSRF(ウェット型AMD)の発症リスクと関連していることを示す。(A)CNN DARCカウント>5(赤色)又は≦5(青色)でグループ分けし、36ヶ月間にSRFを発症しなかった(ウェット型AMDを発症しなかった)眼の割合を示すプロットである。CNN DARCカウント>5の眼は、CNN DARCカウント≦5の眼に比べ、SRFの発症レベルが有意に高い(ウィルコクソン順位、p=0.0156)。(B)ベースライン診断別の転換眼の内訳を示す表である。新たなSRFを発症した7眼はすべてCNN DARCカウント>5であり、ベースライン時に活動性の脈絡膜新生血管(CNV)を有していた17眼(n=10)又は経過観察中に転換した17眼(n=7)のうち16眼はCNN DARCカウント>5であった。
【
図3】CNN DARCカウントが、SRFの蓄積領域が大きい眼で有意に増加したことを示す。OCT上のSRFを覆うユニークなDARCスポットのデータ分布と、各時点におけるOCT上のSRF蓄積総面積を示すバイオリンプロットである。OCT上でCNV病変を検出するために、The Retinal OCT Fluid Challenge(RETOUCH)のデータを用いて訓練したCNNを用いてSRFの領域を特定した。6ヶ月間隔でのOCTスキャンの回数や眼間のばらつきを考慮し、間隔ごとにSRFの平均面積を計算した。眼は3000μmの閾値を用いて「高SRF」と「低SRF」に分けられた。すべての時点で、すべての眼でDARCカウントが5以上であることが、SRFの大量蓄積と関連している。p値はすべてマン・ホイットニーの有意水準を示す。横線は中央値と四分位範囲、最小値と最大値を示す。
【
図4】ウサギの血管新生モデルにおいて、DARCが内皮活性の最も早い変化を同定していることを示す。ウサギ3匹の左眼のみにヒトVEGF(hVEGF165-Peprotech,London UK)を50μl中1μgを硝子体内投与し、血管新生モデルを作成した。2日後と4日後にANX776(0.2mg)と1%フルオレセインナトリウムを静脈内投与した。ウサギの両眼をcSLOのICGA及びFFA設定を用いて撮影した。DARCスポット(ANX776陽性標識の白点として識別される)は、未処置の右眼(D-F)と比較して、hVEGFを処置した左眼(A-C)ではっきりと見える。DARCカウントは3人のマスクされた手動観察者によって得られた。(G)個々の点は、左右の眼を別々に手動で観察したものである。すべてのhVEGF眼は、未処置の対側眼と比較してDARC染色が陽性であった。治療眼と対照眼のDARCカウントには有意差(p=0.0203)があった。挿入図(A-F)は、hVEGF投与4日後のフルオレセイン血管造影を示す。すべての治療眼は対照(挿入
図D-F)と比較して4日後にフルオレセイン漏出を示した(挿入
図A-C)。ラニビズマブ局所投与は、血管新生DARC標識を減少させた(H-J)。A-Fでは治療眼と対照眼との間でDARCカウントに有意差があったが、ラニビズマブ治療によりこの有意差は消失した(N)。ラニビズマブ局所投与により、DARCカウントはビヒクル対照と比較して有意に減少した(O、p=0.0262)。
【
図5】ウサギの血管新生モデルにおいて、抗血管新生治療が血管漏出を減少させたことを示す。
図4と同様にウサギの血管新生モデルを作成した。抗血管新生治療薬ラニビズマブを局所投与した。hVEGFを投与したウサギの対照眼はすべて、ラニビズマブ眼(G-I)と比較して、4日目にフルオレセイン漏出が見られた(A-C)。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0067】
背景
加齢黄斑変性症(AMD)は、先進国における失明原因の第1位であり、その発症率は高齢化人口の増加とともに上昇すると予測されている。AMDには2つの病型があり、脈絡膜新生血管(CNV)がある(ウェット型)又はない(ドライ型)によって分類され、漏出した血管から網膜下液又は網膜内液(それぞれSRF又はIRF)が形成されることが特徴である。光干渉断層撮影(OCT)は現在、AMDの管理、特に抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)を標的とした治療を評価する際のゴールドスタンダードと考えられている。
【0068】
アポトーシス網膜細胞の検出(DARC)は、網膜の細胞死速度をモニターする技術で、緑内障診断のための第I相臨床試験を最近完了した(Cordeiroら、2017)。この技術は現在、Anx776と呼ばれる新規蛍光剤を静脈内投与するもので、内因性タンパク質アネキシンA5を改変し、近赤色蛍光体Dy-776と結合させたものである。Anx776陽性標識細胞は、一般的に使用されている共焦点走査型レーザー検眼鏡(cSLO)のICGA設定を用いて、網膜上の「白点」として可視化される。DARCは、眼のユニークな光学特性を利用し、蛍光標識されたヒトアネックスV誘導体を用いて、患者の単一神経細胞のアポトーシスを直接観察することを可能にした。DARCを、疾患、特にウェット型AMDの発症を予測する(つまり、十分な症状がないために診断がつかないうちに)技術として研究することにした。
【0069】
材料と方法
D776とアネキシン5の結合
組換え細菌発現アネキシン5(等張緩衝液1mlに5mg)を「標識緩衝液」に対して3時間かけて透析し、2回の交換を行った(各回250ml)。標識緩衝液は、炭酸水素ナトリウム21g(250mmol)を蒸留水400mlに溶解して調製した。アジ化ナトリウム1g(0.2%)を加えた。pHは、水酸化ナトリウムの濃厚水溶液でpH9.0に調整した。使用前に、濃縮原液1部に対して水9部を加えて緩衝液を希釈した(v/v)。その後、アネキシン5タンパク質は標識反応の準備が整った。色素とタンパク質の比率は、各標識反応において一定に保たれた。したがって、1mgのアネキシン5を標識するために0.5mgのD776-NHS-エステルを使用した。これにより、色素とアネキシン5タンパク質のモル比は約500となる。NHS-エステルをボルテックスでジメチルホルムアミドに溶解し、標識緩衝液中のアネキシン5タンパク質に色素を加えて反応を開始した。標識反応におけるアネキシン5の最終濃度は5mg/mlであった。エッペンドルフチューブをシェーカーに入れ、2時間かけてラベリングを行った。
【0070】
反応終了後、着色した標識溶液を5又は10mlのSephadex G-25カラムに注意深くピペッティングし、ゲルに浸透させた。次に、100mMのPBS-緩衝液pH7.4をゆっくりとカラムに滴下し、コンジュゲートを溶出した。標識タンパク質は比較的シャープなバンドとして前方に流れ、遊離色素はゆっくりと後方に流れる。結合したアネキシン5がカラムの底に到達すると、エッペンドルフチューブに回収され、すぐに使用できる。
【0071】
臨床試験デザイン
DARCの単施設非盲検第2相臨床試験は、The Western Eye Hospital,Imperial College Healthcare NHS Trustで実施された。すべての対象に、2017年2月15日~2017年6月30日の間に、蛍光アネキシン5(ANX776、0.4mg)を単回静脈注射した。本試験には、既にWestern Eye Hospitalの網膜内科で治療を受けているAMD対象を募集し、ブレント研究倫理委員会の承認を得た後、ヘルシンキ宣言に従ってインフォームド・コンセントを得た。(ISRCTN10751859)。すべての参加者は、ベースライン時に1回だけDARCを行い、DARC後最長36ヶ月まで、標準治療に従って経過観察のたびに光干渉断層撮影(OCT)スキャンを記録した。
【0072】
患者は、表1に示した包含基準及び除外基準に従って適格である場合に、本試験に参加するものとみなされた。具体的には、AMDコホートに含めるためには、CNV(ウェット型AMD)、「初期AMD」(ドルーゼン、網膜色素上皮(RPE)色素変化)又は「後期AMD」(RPEの地理的萎縮(ドライ型AMD))に一致する変化を示すことが必要だった。さらに、脈絡膜新生血管(CNVM)のリスクを高める眼疾患の存在、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、クロルプロマジン、チオリダジン、硫酸キニーネ、クロファジミン、シスプラチン、カルムスチン、(BCNU)、ディフェロキサミン、アミオダロン、イソレチノイン、金の現在又は過去30日以上の使用は除外した。眼は、臨床検査及び網膜画像所見に基づいて、ベースライン時に活動性CNV、CNV既往、初期AMD、後期AMDに分けられた。
【0073】
19人のAMD対象のうち、31眼が分析され、ベースラインと240分の時点の画像が評価された。
【0074】
DARCの画像取得と試験の盲検化
網膜画像は、Normandoら(2020)に既に記載されたように、cSLO(HRA+OCT Spectralis,Heidelberg Engineering GmbH,Heidelberg,Germany)を用いて取得した。高解像度ICGAモードの蛍光設定(ダイオードレーザー786nm励起;800nmバリアフィルター付き光検出器)を用い、瞳孔拡張(1%トロピカミドと2.5%フェニレフリン)後にベースライン赤外自家蛍光画像を取得した。すべての参加者は、ベースライン時に1回だけDARCを実施した。各患者はANX776を静脈注射(単回投与量0.4mg)され、15分、120分、240分にANX776注射中及び注射後の画像が撮影され、各時点で100フレームの平均画像を記録した。すべての画像は解析を行う前に匿名化され、本試験では240分の画像のみを解析した。
【0075】
また、確立された網膜血管新生モデルを用いてDARCを評価するため、3匹のニュージーランド白ウサギを用いたパイロット試験も実施された。すべての実験は、ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに従い、英国内務省の承認を得たプロトコルで設計及び実施された。簡単に説明すると、2.5kgのウサギを、それぞれ50mg/kgの塩酸ケタミン及び10mg/kgのキシラジンの筋肉注射で麻酔した。瞳孔は2.5%フェニレフリンと1%トロピカミドで拡張した。0.1%ウシ血清アルブミン(Sigma UK)に溶解した1μgのヒトVEGF165(Sigma UK)を含む50μlを、各動物の左眼のみに硝子体内注射した。48時間後、全身麻酔下で、ウサギはAnx776(0.2mg)と1%フルオレセインナトリウムを静脈内投与され、HRA-Spectralisの高解像度ICGA及びFFAモードを用いて、40分後にDARC及び448イメージングを行った。マスクされた3人の観察者がDARC画像のマニュアルカウントを行った。抗血管新生実験では、3匹のウサギにラニビズマブ点眼薬を投与した。3匹のウサギはビヒクル対照とした。
【0076】
OCTスキャンの取得
OCTスキャンは、DARC後最大36ヶ月まで、標準治療に従って各患者の経過観察診察ごとに記録された。DARC画像とOCTスキャンは、事後解析で評価された。
【0077】
DARCスポット検出
スポット検出の完全な方法については、Normandoら(2020)に記載されている。簡単に説明すると、テンプレートマッチングを用いて識別され、5人の観察者が手動で分類した対照データセットからスポットを分類するために、中央ニューラルネットワーク(CNN)を訓練することを含んだ。CNNの訓練には、5人の観察者のうち2人の一致が用いられ、その精度は97%、感度は91.1%、特異度は97.1%であることが判明した。
【0078】
報告されたCNNモデルと重みは、本作業でも変更なく使用されている。
【0079】
CLSOとOCTの位置合わせ
各眼のDARC画像は、対応する一連のOCTスキャンと位置合わせされ、その後の経過観察時に対応するOCTスキャン上でDARCスポットの位置を特定できるようにした。この位置合わせにより、CLSO画像で特定されたDARCスポットの位置と、OCT画像内の網膜下液(SRF)の位置を照合することも可能となった。DARCのCLSO画像をOCT画像に登録するために、ベースラインの自家蛍光画像とDARC画像(240分)を、アフィン変換の後に非剛体Bスプライン変換を用いて自動的に位置合わせをした。これは、SimpleITK(NumFOCUS,US)内の多重解像度位置合わせ法と勾配降下最適化法を用いて完了した。次に、CLSOの自家蛍光とOCT反射率画像上にフィデューシャルマーカー(白点、
図1)を手動で配置し、アフィン変換を計算して適用することにより、連続したSpectralis OCTスキャンの反射率画像を、登録されたDARC画像と位置合わせした。すべての画像の位置合わせが完了すると、240分のDARC画像上の位置を選択し、対応するOCT画像スライスで同じ位置を特定し得た。
【0080】
CNNによるSRFの特定
OCT上で脈絡膜新生血管(CNV)病変を検出するために、SRFの領域を特定するためにCNNを使用した。CNNは、Bogunoviら(2019)に記載されているThe Retinal OCT Fluid Challenge(RETOUCH)のデータを用いて訓練された。
【0081】
Ronnebergerら、2015によって記述されたカスタムUNETが適応された。従来のUNETのための一般的な訓練メカニズムは以前に実装されており、これは、網膜内液(IRF)、網膜下液(SRF)、色素上皮剥離(PED)領域が複数の観察者によって手動で注釈が付けられた、Bogunoviら(2019)に記載されているThe Retinal OCT Fluid Challenge(RETOUCH)のデータを用いて訓練された。
【0082】
各OCTスキャン画像の3チャンネルラベルマスクは、各注釈タイプが3チャンネルRGB画像の別々のチャンネルで表現されるように作成された。モデルは、8GbのNVIDIA GTX 1080グラフィックカードを搭載したWindows PCで、画像サイズ512×512、32フィルター、ドロップアウト0.2の固定で、水平反転のみをランダムに増強したUNETを用いて100エポック訓練した。訓練データセットは、トレーニング用に約2/3(N=4,624)、検証用に約1/3(N=2,312)に分けられ、各SRFスキャン画像の画像サイズは497×495ピクセルであった。
【0083】
モデルの訓練が完了した後、1/3検証セットでモデルをテストした。訓練したネットワークから得られたDICE係数(Normandoら、2020に記載)を比較すると、SRFはRETOUCHで報告された最高のシステムと比較し、SpectralisのDICE係数スコアが0.75であったのに対し、0.83であった。報告された結果は、Cirrus、Spectralis及びTopconを組み合わせたチャレンジデータセットでのものであり、訓練データセットのパーティションサブセットでの結果と直接比較し得ない。
【0084】
RETOUCHデータセットを用いて得られた結果が我々のDARC研究を代表するものであることを確認するため、735枚の匿名化されたOCT画像は、VGG Image Annotator(VIA),Visual Geometry Group, Oxford University and https://gitlab.com/vgg/via/blob/master/Contributors.mdを用いて上級網膜専門医が手動で注釈を付けた。DICE係数は、前述のSRF CNNを用いて計算され、0.84であった。次に、31眼のデータセットから20,630枚のOCT画像にSRF CNNを適用した。
【0085】
DARCスポットは、OCTスキャン面の正常位置に任意のSRFが確認された場合、SRFの領域と交差するとした。
【0086】
SRF蓄積の算出
6ヶ月間隔でSRFの有無で眼を分類した。6ヶ月間隔でのOCTスキャンの回数や眼間のばらつきを考慮し、間隔ごとにSRFの平均面積を算出した。新規のSRFは、OCTでSRFを認め、その前の期間にSRF陰性と分類された眼と定義した。
【0087】
各眼の6ヶ月間のSRF量は、眼全体の特定の時点におけるすべてのOCTスキャンで検出されたSRFピクセルの正規化された合計とされた。蓄積されたSRFは、OCTスキャンごとのSRF量を、6ヶ月間のOCTスキャン数で平均した値である。
【0088】
統計解析
統計解析は、GraphPad Prism(バージョン8.01)、Sklearn(バージョン0.0)、SPSS(IBM SPSS バージョン25)及びPython(バージョン3.6)を用いて行われた。SRFのCNNテスト用に生成された精度、再現率、F1スコア、曲線下面積(AUC)を用いて、精度-再現率曲線を構築した。SRFの臨床的定義とCNN定義の一致は、カッパ統計で評価した。CNNのDARCカウントが5を上回った眼と5を下回った眼を比較し、SRFが残存している眼を基準にグラフを作成し、各時点のウィルコクソン順位ペアと単純線形回帰統計を使って比較した。SRFを覆うDARCスポットのみを用いて、新たなSRFを有する眼の予測率を評価するために混同行列を構築し、そこから陽性予測値(PPV)、特異度、感度を算出した。スピアマンの相関係数を用いて、OCT上のSRFを覆うユニークなDARCスポットと、各時点におけるOCT上のSRF集積総面積との相関を求めた(p<0.05)。各OCT時点におけるSRFを覆うDARCスポットの評価は、バイオリンプロットを用いて行い、SRF蓄積の少ない領域と多い領域にグループを分けた。SRFが多いグループと少ないグループは、マン・ホイットニー検定を用いて比較した。手動DARCカウントは、ウサギのヒトVEGF処置した左眼と未処置の右眼を比較するペアのt検定を用いて解析した。
【0089】
実施例1:DARCは36ヶ月後のOCTで新たな網膜下液(ウェット型AMD)を予測する
DARCを疾患、特にウェット型AMDの発症の予測技術(すなわち、十分な症状がないために診断が下される前)として調査することにした。
【0090】
ロンドンのICNHTにあるWestern Eye Hospitalで行われた第2相DARC臨床試験に参加した19名のAMD患者コホートからのDARC結果の事後解析が行われた。患者は、DARC実施後、最長36ヶ月間、OCTスキャンで定期的に経過観察された。患者のデモグラフィックを表2及び表3に示す。DARCで評価された31眼のうち、DARC実施後36ヶ月までOCTスキャンで定期的に経過観察された29眼のOCT経過観察が可能であった。6ヶ月ごとのOCTスキャンの平均回数は、30~36ヶ月で1.70回、12~18ヶ月で2.59回であった。患者が標準治療に従って治療を続けた結果、抗VEGF硝子体内注射の平均回数は、30~36ヶ月で2.0回、0~6ヶ月で3.61回と変動した。
【0091】
各時点での解析は、ベースラインからのDARCスポットが、
図1に示すようにOCT上の新しいSRFとCNNによって検出された任意の領域と交差することによって、ウェット型AMDの発生を予測するかどうかを確認するために行われた。SRF CNNを用いて新しいSRFを定義し、各時点で眼を新しいウェット型AMDグループとウェット型AMDなしグループに分けた。
【0092】
各時期における新規SRFの発生率は表4の通りであり、OCT CNN SRFの定義のみを用いた場合、6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、30ヶ月、36ヶ月における転換率は、それぞれ7.4、11.5、26.1、29.2、33.3%である。眼は、初めて新しいSRFを示した場合のみ「転換」と分類された。CNN DARCカウントは、SRF形成に関連した1眼を除くすべての眼で5以上であった。
【0093】
ベースラインOCTのSRFを覆う自家蛍光スポットとDARCスポットの両方が、更なる解析から除外され、そこでは、繰り返し数えることを避けるために、新しいSRFを覆う個々のDARCスポットの最初の出現(「ユニークなDARCスポット」と呼ばれる)のみが含まれた。特定の時点において、ある眼がOCT上で新しいSRFを覆うユニークなDARCスポットを示した場合、それは真陽性;SRFはあるがユニークなDARCスポットがない眼は偽陰性;SRFはないがユニークなDARCスポットがある眼は偽陽性;SRFもDARCスポットもない眼は真陰性と分類された。ベースライン後6ヶ月から36ヶ月までの6ヶ月ごとの経過観察期間について、混同行列(各混乱行列は、各時間間隔における眼によるDARC CNNの予測判定を決定する)を構築した。表4は、混同行列の結果をまとめたもので、ユニークなDARCスポットが新たなSRF活性を有する眼を予測する能力を示している。したがって、6ヶ月の時点で、このシステムは、特異度90%、感度83%、PPV71%、NPV95%を有していた。DARC DLシステムのPPVは、すべての時点で70%以上であり、30ヶ月で86%のピークに達した。特異度は79~90%で、感度は80%以上である。
【0094】
図2Aは、各6ヶ月の時点でSRFが残存していない(ウェット型AMDを発症していない)眼の割合を、CNN DARCカウントの閾値5でグループ分けしたものである。グループ間の比較では、CNN DARCカウント>5の眼は、CNN DARCカウント≦5の眼と比較して、SRFを発症するレベルが有意に高いことが示された(ウィルコクソン順位、p=0.0156)。また、同じデータの線形回帰も行われ、回帰推定値の傾きは統計的に有意に異なっていた(p<0.0001、R
2=0.92 DARC CNN>5対R
2=1.0 DARCカウント≦5)。これは「時間*グループ」効果、つまり時間の経過がCNN DARCカウント>5グループとCNN DARCカウント≦5グループに与える影響とは有意に異なることを示している。適合線とデータポイントを観察すると、ハザードが大きいのは最初の16ヶ月で、その後のハザードは比較的平坦であるのに対し、CNN DARCカウント≦5はSRFが残存していない生存期間の延長と有意に関連している。
【0095】
ベースライン診断による転換眼の内訳を
図2Bに示す。新たなSRFを発症した7つの眼はすべてCNN DARCカウント>5であった。ベースライン時に活動性CNV(n=10)を有していた又は経過観察で転換した17眼(n=7)のうち16眼は、CNN DARCカウント>5であった。
【0096】
このことは、DARCがウェット型AMDの発症を予測し、早期診断につなげ得ることを示している。
【0097】
実施例2:DARCは他の予測方法と比較して予測精度が向上する
次に、実施例1のDARC+OCTモデルの結果を、Yimら(2020)の報告結果と比較した。Yimは、OCTを用いたディープラーニング(DL)の使用により、OCTの特徴を解析することで、6ヶ月後の脈絡膜新生血管(CNV)又はウェット型AMDの発症を予測することを改善することを説明した。しかしながら、予測値は低く、すなわち、感度80%で特異度55%、特異度90%で感度34%、陽性予測値(PPV)はそれぞれ7.3%と13.2%と報告された。
【0098】
表5は、実施例1のDARC DLモデルによる結果と、Yimら(2020)の報告結果との比較を示している。DARC DLシステムのPPVははるかに大きく、6ヶ月で100%であるの対し、Yimシステムは7%又は13%である。これは、DARC DLが一貫して特異度、感度ともに高く、6ヶ月で100%と50%、36ヶ月で95%と83%であったことからもわかる。実施例1の転換率は、6ヶ月後のYimらの転換率と同様であり、それぞれ14.8%と13.5%である。これは、サンプルサイズの違いにもかかわらずである。
【0099】
実施例3:DARCカウントの増加は、観察されたSRF蓄積の大きさと相関する
DARC DLシステムは、単一細胞の活性を評価できるため、Yimシステムよりも性能が優れているという仮説を立てた。このことをさらに調べるために、各時点における各眼のSRF蓄積の大きさとDARCカウントの関係を評価した。眼は、各時点で2000ピクセルの閾値を用いて「高SRF」と「低SRF」に分けられた。
図3は、各時点でSRFが大きく蓄積している眼では、SRFを覆うDARCカウントが有意に(6ヶ月、12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、30ヶ月及び36ヶ月でそれぞれp=0.002、<0.0001、0.0019、0.0016、0.0026及び0.0118)増加することを示している。したがって、SRFが大きいほどDARCカウントは多くなり、SRF蓄積が多いほどDARCカウントが5を超えるユニークな眼であることがわかった。実際、各時点でSRFを覆うDARCスポットは、6ヶ月(スピアマンのr=0.65、p=0.0001)、12ヶ月(r=0.72、p<0.0001)、18ヶ月(r=0.60、p=0.0006)、24ヶ月(r=0.57、p=0.0012)、30ヶ月(r=0.67、p<0.0001)及び36ヶ月(r=0.59、p=0.0008)でのOCT SRF面積と正の相関があった。これは、
図1に示されるように、SRFの新しい領域を予測する単一のDARCスポットによって裏付けられている。
【0100】
このことから、DARCカウントが多いほど、発症するウェット型AMDの重症度が高いことが確認された。
【0101】
実施例4:DARCによるウサギの初期段階の血管新生を同定する
ウサギの血管新生モデルは、ヒトVEGF(hVEGF165-Peprotech, London UK)を50μl中1μgを硝子体内投与することで作成した。48時間後にANX776(0.2mg)を静脈内投与し、ウサギをcSLOのICGA設定で撮影した。
【0102】
hVEGFを投与したすべてのウサギの眼は、投与2日後に未処置の対側眼と比較してDARC陽性染色が確認された。
図4は、各動物の両眼を撮影したDARC画像で、左眼(A-C)のhVEGF処置した眼では、未処置の右眼(D-F)と比較してDARCスポットがはっきりと確認でき、処置した眼では有意な増加(p=0.0203、G)を示した。すべての処置した眼は、対照(挿入
図D-F)と比較して挿入
図A-Cに示すように、4日目にフルオレセイン漏出を示すようになった。
【0103】
このことから、初期段階の血管新生に対するDARCの予測及び同定価値がさらに確認さた。
【0104】
実施例5:DARCは抗血管新生治療の有効性をモニターするために使用され得る
実施例4に記載した血管新生のウサギモデルを、抗血管新生治療薬ラニビズマブで局所治療した。血管新生DARC標識は、ラニビズマブ局所投与によって減少した(
図4H-J)。ラニビズマブ局所投与により、DARCカウントはビヒクル対照と比較して有意に減少した(
図4O、p=0.0262)。
【0105】
ラニビズマブによる局所治療の有効性の確認を
図5に示す。hVEGFで治療したすべての対照ウサギの眼は、ラニビズマブの眼(G-I)と比較して4日目にフルオレセイン漏出があった(
図5A-C)。画像は、1%フルオレセインナトリウム投与後8分(D-F)及び20分(A-C、G-I)に収集した。この図から、ラニビズマブ局所投与によりin vivoでの血管漏出が減少したことが確認された。このことから、DARCによる治療効果のモニタリングが可能であることが確認された。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
参考文献
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Ronneberger, O., Fischer, P. & Brox, T. U-Net: Convolutional Networks for Biomedical Image Segmentation. 1-8 (2015).
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Yim, J. et al. Predicting conversion to wet age-related macular degeneration using deep learning. Nat. Med (2020). Doi:https://doi.org/10.1038/s41591-020-0867-7
【国際調査報告】