(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】金属粉末の表面処理方法及び表面不動態化金属粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 1/145 20220101AFI20231207BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20231207BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20231207BHJP
C23C 22/07 20060101ALI20231207BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20231207BHJP
H01F 1/059 20060101ALI20231207BHJP
H01F 1/06 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B22F1/145
B22F1/145 100
B22F1/052
B22F1/16
B22F1/16 100
C23C22/07
H01F1/057 120
H01F1/059
H01F1/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022577281
(86)(22)【出願日】2022-05-16
(85)【翻訳文提出日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 CN2022093106
(87)【国際公開番号】W WO2023082580
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】202111329401.8
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517366220
【氏名又は名称】横店集団東磁股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【氏名又は名称】白井 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】孫永陽
(72)【発明者】
【氏名】李玉平
(72)【発明者】
【氏名】▲しょう▼雲涛
(72)【発明者】
【氏名】張雲逸
(72)【発明者】
【氏名】郭長征
【テーマコード(参考)】
4K018
4K026
5E040
【Fターム(参考)】
4K018BA13
4K018BB04
4K018BC09
4K018BC28
4K018BC33
4K018BD01
4K018KA42
4K026AA02
4K026AA23
4K026BA03
4K026BB08
4K026CA18
4K026CA23
4K026CA32
4K026CA33
4K026CA38
4K026DA03
5E040AA04
5E040AA11
5E040BC05
5E040CA01
5E040HB14
5E040NN06
(57)【要約】
本発明は、金属粉末の表面処理方法及び表面不動態化金属粉末を提供する。表面処理方法は、不動態化液を用いて金属粉末を処理し、金属粉末の表面に不動態化皮膜を形成し、不動態化液は流動することで金属粉末を通過し、金属粉末の平均粒子径が0.1~100μmである。金属粉末が酸化されやすいという従来技術の問題を解決し、金属酸化防止分野に適用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉末の表面処理方法であって、
不動態化液を用いて前記金属粉末を処理し、前記金属粉末の表面に不動態化皮膜を形成し、
前記不動態化液は流動することで前記金属粉末を通過し、
前記金属粉末の平均粒子径が0.1μm~100μmである、ことを特徴とする金属粉末の表面処理方法。
【請求項2】
前記金属粉末を容器に加えるステップ1)と、
前記容器に前記不動態化液を加えて、前記不動態化液が前記金属粉末を流れてから前記容器から流出するように制御を行うステップ2)と、
前記容器において前記不動態化液で処理された前記金属粉末を乾燥させるステップ3)と、を含み、
好ましくは、ステップ2)とステップ3)との間に、前記容器に洗浄液を加え、前記金属粉末に残留された前記不動態化液を洗浄した後、前記容器から流出し、
好ましくは、前記洗浄液はエタノール及び/又はアセトンを含み、
好ましくは、1回の処理量は10kg~200kgであり、
好ましくは、前記不動態化液はウォーターポンプ又は空気ポンプによって前記容器に加えられ、
好ましくは、前記乾燥の方法は真空乾燥を含み、
好ましくは、前記真空乾燥の温度は1℃~100℃であり、
より好ましくは、前記真空乾燥の温度は50℃~70℃であり、
好ましくは、前記真空乾燥の真空度は0.0001MPa~0.03MPaである、ことを特徴とする請求項1に記載の表面処理方法。
【請求項3】
前記容器はろ過網又はろ過布を備えた容器であり、前記不動態化液は前記ろ過網又はろ過布を通過して前記容器から流出し、
好ましくは、前記容器に前記不動態化液又は前記洗浄液を加えた後、前記容器にガスを導入するステップをさらに含み、
好ましくは、前記ガスは窒素ガス又は不活性ガスであり、
より好ましくは、前記不活性ガスはアルゴンガスであり、
好ましくは、前記容器に導入される前記ガスの圧力は0.1MPa~1MPaであり、
好ましくは、前記ガスの通気時間は0.1min~120minであり、
より好ましくは、前記ガスの前記通気時間は1min~10minである、ことを特徴とする請求項2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記不動態化液の流速は1L/min~1000L/minであり、
好ましくは、前記不動態化液の前記流速は100L/min~600L/minであり、
好ましくは、前記不動態化液の処理時間は1s~3600sであり、
より好ましくは、前記不動態化液の前記処理時間は10s~1800sである、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記金属粉末は、Fe、FeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMo、LaFeSi、NdFeB、NdFeN、CeFeB、CeFeN及びSmFeNのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、前記金属粉末の前記平均粒子径は1μm~10μm、さらに好ましくは2μm~8μmであり、
好ましくは、前記金属粉末は乾燥、湿潤又はスラリーの形態であり、
好ましくは、前記不動態化皮膜の厚さは3nm~30nmであり、
より好ましくは、前記金属粉末の前記平均粒子径が0.1μm以上、10μm未満である場合、前記不動態化皮膜の厚さは3nm~6nmであり、又は
前記金属粉末の前記平均粒子径が10μm以上、60μm未満である場合、前記不動態化皮膜の厚さは6nm~15nmであり、又は
前記金属粉末の前記平均粒子径が60μm以上、100μm未満である場合、前記不動態化皮膜の厚さは15nm~30nmである、ことを特徴とする請求項4に記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記不動態化液は、溶質、無機溶剤、有機溶剤、及び添加剤を含み、
好ましくは、前記不動態化液のpHが3~6であり、
好ましくは、前記溶質は、Zn
2+、Zr
2+、Na
+、K
+、Ca
2+、NH
4+、Cl
-、PO
4
3-、NO
3
-、SO
4
2-及びCH
3COOHのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、前記不動態化液におけるそれぞれの前記溶質の濃度が0.001mol/L~10mol/Lであり、
より好ましくは、それぞれの前記溶質の濃度が0.01mol/L~1mol/Lであり、
好ましくは、前記無機溶剤は水を含み、
好ましくは、前記有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、アセトン、ガソリン、トルエン及びキシレンのうちの1種又は複数種を含み、
より好ましくは、前記有機溶剤は、前記エタノール、前記アセトン、前記イソプロパノール及び前記エチレングリコールのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、前記無機溶剤と前記有機溶剤との質量比が1:0.001~1:1000であり、
より好ましくは、前記無機溶剤と前記有機溶剤との質量比が1:0.1~1:10であり、
より好ましくは、前記添加剤は、シランカップリング剤、ケイ酸エチル、エポキシ樹脂、チタン酸エステル及びリン酸エステルのうちの1種又は複数種を含む、ことを特徴とする請求項5に記載の表面処理方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の表面処理方法によって前記金属粉末を不動態化して得られ、平均粒子径が0.1μm~100μmである、ことを特徴とする表面不動態化金属粉末。
【請求項8】
前記表面不動態化金属粉末は、空気中で、300℃で30min加熱すると、重量増加率が0.1%~6%であり、
前記金属粉末は、Fe、FeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMo、LaFeSi、NdFeB、NdFeN、CeFeB、CeFeN及びSmFeNのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、前記表面不動態化金属粉末の前記平均粒子径は1μm~10μmであり、
好ましくは、前記不動態化皮膜の厚さは3nm~30nmであり、
より好ましくは、前記金属粉末の前記平均粒子径が0.1μm以上、10μm未満である場合、前記不動態化皮膜の厚さは3nm~6nmであり、又は
前記金属粉末の前記平均粒子径が10μm以上、60μm未満である場合、前記不動態化皮膜の厚さは6nm~15nmであり、又は
前記金属粉末の前記平均粒子径が60μm以上、100μm未満である場合、前記不動態化皮膜の厚さは15nm~30nmである、ことを特徴とする請求項7に記載の表面不動態化金属粉末。
【請求項9】
請求項8に記載の表面不動態化金属粉末を用いて製造される、ことを特徴とする酸化防止磁性材料。
【請求項10】
前記金属粉末で製造される同規格の非酸化防止磁性材料に比べて、残留磁気低下率が10%未満であり、
好ましくは、前記同規格の非酸化防止磁性材料に比べて、保磁力低下率が10%未満である、ことを特徴とする請求項9に記載の酸化防止磁性材料。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、中国出願番号が202111329401.8で、出願日が2021年11月10日である中国出願を基礎とし、その優先権を主張しており、当該中国出願の開示内容は全体として本願に組み込まれている。
【技術分野】
【0002】
本発明は金属酸化防止の分野に関し、具体的には、金属粉末の表面処理方法及び表面不動態化金属粉末に関する。
【背景技術】
【0003】
金属材料は生活のあらゆる面で応用されており、磁性材料は金属材料の中で非常に重要な分岐であり、モータ、変圧器、太陽光発電インバータ、新エネルギー自動車で広く応用されている。一方、磁性材料を製造するプロセスとしては、合金粉末を製造してから粉末を磁石にし、磁石を様々な所望の形状規格に加工するか、粉末を直接ワンステップで所望の形状規格に加工することが一般的である。粉末を磁石にする過程と磁石を使用する過程では、いずれも不可避的に酸化の問題に直面し、粉末や磁石の酸化は磁石の特性に深刻な影響を与え、磁石の特性を低下させ、深刻な場合は、磁石が効力を失うことを引き起こす。
【0004】
ネオジム・鉄・ボロン焼結磁石は、一般に、不動態化液を磁石表面に含浸して不動態化皮膜を形成し、その後、めっき層を電気めっきすることにより、磁石の酸化防止能力を向上させる。粘結及び射出成形ネオジム・鉄・ボロンに用いられるネオジム・鉄・ボロン磁性粉末は、一般的に、平均粒子径が100μm程度であり、磁性粉末と不動態化液とを所定の割合して秤量した後に、混合し、均一に撹拌し、一定時間反応させた後、ろ過し、乾燥させて不動態化皮膜を有する磁性粉末を得る。
【0005】
デバイスの小型化や精密化の発展に伴い、焼結及び粘結磁石は人々の需要を満たすことができなくなり、射出成形ネオジム・鉄・ボロン、射出成形フェライト、射出成形サマリウム鉄窒素の応用はますます多くなってきた。磁石の特性に対する要求も高まっている。一般に、磁性粉末が細かくなればなるほど、この磁性粉末で製造された磁石の特性が高くなる。しかし、磁性粉末が細かくなればなるほど、酸化されやすく、酸化防止に対する要求も高くなり、指数関数的に増加することもある。
【0006】
焼結ネオジム・鉄・ボロンは一般的にブロック状磁石であり、非常に緻密であり、不動態化において不動態化液に直接浸漬し、一定時間後に磁石を取り出すことにより、所望の不動態化皮膜を形成する。一方、粘結ネオジム・鉄・ボロンや射出成形ネオジム・鉄・ボロンに用いられる磁性粉末は、一般に、磁性粉末にとって非常に大きな粒子径である100μm程度であり、不動態化を行った際に磁性粉表面にのみ不動態化皮膜が形成されて、内部はほとんど影響を受けない。磁気粉末コア用のFeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMoなどの磁性粉末も平均粒子径が20μm以上である。
【0007】
しかし、射出成形用のサマリウム鉄窒素磁性粉末は、その特性と製造方法の制限により、粉末粒子径が0.1~10μmであり、酸化防止に大きな挑戦をもたらした。伝統的な方法で用いられている浸漬法は、非常に少量の磁性粉末が不動態化する場合、速やかに浸漬した後、磁性粉末を取り出すことで、不動態化の程度を制御することができる。
【0008】
しかし、量産する場合、反応が比較的に速く、反応時間が長過ぎ、反応後短時間で固液分離が困難なため、磁性粉末の不動態化が激しく腐食となり、特性低下が激しい。不動態化液の濃度が高すぎると磁性粉末の腐食を引き起こし、ただし、不動態化液の濃度が低下することで腐食を減少させることができるものの、不動態化効果も失われる。したがって、0.1~10μmレベルの微粉末は浸漬法が適用できず、量産が困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、金属粉末、特に粒子径10μm未満の金属粉末が酸化されやすいという従来技術の問題を解決するために、金属粉末の表面処理方法及び表面不動態化金属粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成させるために、本発明の第1態様によれば、
不動態化液を用いて金属粉末を処理し、金属粉末の表面に不動態化皮膜を形成し、
不動態化液は流動することで金属粉末を通過し、
金属粉末の平均粒子径が0.1~100μmである、金属粉末の表面処理方法を提供する。
【0011】
さらに、表面処理方法は、
金属粉末を容器に加えるステップ1)と、
容器に不動態化液を加えて、不動態化液が金属粉末を流れてから容器から流出するように制御を行うステップ2)と、
容器において不動態化液で処理された金属粉末を乾燥させるステップ3)とを含み、
好ましくは、ステップ2)とステップ3)との間に、容器に洗浄液を加え、金属粉末に残留された不動態化液を洗浄した後、容器から流出し、
好ましくは、洗浄液はエタノール及び/又はアセトンを含み、
好ましくは、1回の処理量は10~200kgであり、
好ましくは、不動態化液はウォーターポンプ又は空気ポンプによって容器に加えられ、
好ましくは、乾燥方法は真空乾燥を含み、
好ましくは、真空乾燥の温度は1~100℃であり、
より好ましくは、真空乾燥の温度は50~70℃であり、
好ましくは、真空乾燥の真空度は0.0001~0.03MPaである。
【0012】
さらに、容器はろ過網又はろ過布を備えた容器であり、不動態化液はろ過網又はろ過布を通過して容器から流出し、
好ましくは、容器に不動態化液又は洗浄液を加えた後、容器にガスを導入するステップをさらに含み、
好ましくは、ガスは窒素ガス又は不活性ガスであり、
より好ましくは、不活性ガスはアルゴンガスであり、
好ましくは、容器に導入されるガスの圧力は0.1~1MPaであり、
好ましくは、ガスの通気時間は0.1~120minであり、
より好ましくは、ガスの通気時間は1~10minである。
【0013】
さらに、不動態化液の流速は1~1000L/minであり、
好ましくは、不動態化液の流速は100~600L/minであり、
好ましくは、不動態化液の処理時間は1~3600sであり、
より好ましくは、不動態化液の処理時間は10~1800sである。
【0014】
さらに、金属粉末は、Fe、FeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMo、LaFeSi、NdFeB、NdFeN、CeFeB、CeFeN及びSmFeNのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、金属粉末の平均粒子径は1~10μm、さらに好ましくは2~8μmであり、
好ましくは、金属粉末は乾燥、湿潤又はスラリーの形態であり、
好ましくは、不動態化皮膜の厚さは3~30nmであり、
より好ましくは、金属粉末の平均粒子径が0.1μm以上、10μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは3~6nmであり、又は
金属粉末の平均粒子径が10μm以上、60μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは6~15nmであり、又は、
金属粉末の平均粒子径が60μm以上、100μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは15~30nmである。
【0015】
さらに、不動態化液は、溶質、無機溶剤、有機溶剤、及び添加剤を含み、
好ましくは、不動態化液のpHが3~6であり、
好ましくは、溶質は、Zn2+、Zr2+、Na+、K+、Ca2+、NH4+、Cl-、PO4
3-、NO3
-、SO4
2-及びCH3COOHのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、不動態化液におけるそれぞれの溶質の濃度が0.001~10mol/Lであり、
より好ましくは、それぞれの溶質の濃度が0.01~1mol/Lである。好ましくは、無機溶剤は水を含み、
好ましくは、有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、アセトン、ガソリン、トルエン及びキシレンのうちの1種又は複数種を含み、
より好ましくは、有機溶剤は、エタノール、アセトン、イソプロパノール及びエチレングリコールのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、無機溶剤と有機溶剤との質量比が1:0.001~1:1000であり、
より好ましくは、無機溶剤と有機溶剤との質量比が1:0.1~1:10であり、
より好ましくは、添加剤は、シランカップリング剤、ケイ酸エチル、エポキシ樹脂、チタン酸エステル及びリン酸エステルのうちの1種又は複数種を含む。
【0016】
上記の目的を達成させるために、本発明の第2態様によれば、上記表面処理方法によって金属粉末を不動態化し得られ、平均粒子径が0.1~100μmである表面不動態化金属粉末を提供する。
【0017】
さらに、表面不動態化金属粉末は、空気中で、300℃で30min加熱すると、重量増加率が0.1%~6%であり、
金属粉末は、Fe、FeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMo、LaFeSi、NdFeB、NdFeN、CeFeB、CeFeN及びSmFeNのうちの1種又は複数種を含み、
好ましくは、表面不動態化金属粉末の平均粒子径は1~10μmであり、
好ましくは、不動態化皮膜の厚さは3~30nmであり、
より好ましくは、金属粉末の平均粒子径が0.1μm以上、10μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは3~6nmであり、又は
金属粉末の平均粒子径が10μm以上、60μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは6~15nmであり、又は
金属粉末の平均粒子径が60μm以上、100μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは15~30nmである。
【0018】
上記の目的を達成させるために、本発明の第3態様によれば、上記表面不動態化金属粉末を用いて、酸化防止磁性材料を製造する酸化防止磁性材料を提供する。
【0019】
さらに、酸化防止磁性材料は、金属粉末で製造される同規格の非酸化防止磁性材料に比べて、残留磁気低下率が10%未満であり、
好ましくは、酸化防止磁性材料は、同規格の非酸化防止磁性材料に比べて、保磁力低下率が10%未満である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の技術的解決手段によれば、不動態化液が金属粉末を流れる方法によって、金属粉末を不動態化処理し、金属粉末の表面に不動態化皮膜を形成し、表面不動態化金属粉末を製造し、酸化防止能力が高い表面不動態化金属粉末及び酸化防止磁性材料を得る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
なお、矛盾しない限り、本願の実施例及び実施例の特徴は互いに組み合わせられてもよい。以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明する。
【0022】
用語の解釈:
平均粒子径:本願では、表面積平均直径(SMD)、即ち表面積が粒子中の全ての顆粒の平均表面積に等しい粒子の直径を指す。
等温磁気エントロピー変化:磁性材料は、等温磁化において、所定温度で磁界が加えられて磁気モーメントを無秩序配列から有秩序配列にし、磁気エントロピーが減少し、システムの総エントロピーが減少し、熱が外部へ放出され、このプロセスにおけるエントロピー変化の大きさは等温磁気エントロピー変化と呼ばれる。磁界変化が等しい場合に、等温磁気エントロピー変化(ΔSM)によって磁気熱量効果の大きさを表すことができる。
【0023】
背景技術に記載のとおり、0.1~10μmレベルの不動態化磁気粉末を量産する場合、反応時間が長く、固液分離が遅く、不動態化が必要以上行われ、磁気粉末特性が大幅に低下するという問題が生じやすく、本願の発明者らは、金属粉末の表面処理方法について鋭意研究を行った結果、金属粉末の表面処理方法及びこの方法で製造された表面不動態化金属粉末を提案する。本発明では、不動態化液が金属粉末を流れる方法が使用されており、不動態化液が金属粉末を流れる方法によって金属粉末を不動態化処理し、金属粉末の表面に不動態化皮膜を形成し、表面不動態化金属粉末を製造し、酸化防止能力が高い表面不動態化金属粉末及び酸化防止磁性材料を得る。また、不動態化液が金属粉末を流れることは、不動態化時間を制御し、金属粉末、特に粒子径の小さな金属粉末又は大量の金属粉末が、不動態化液に浸漬される時間が長すぎて必要以上不動態化され、特性が影響を受けることを防止するのに有利である。
【0024】
したがって、本願の発明者らは、不動態化液が金属粉末を流れる方法によって表面不動態化金属粉末を製造することを試み、試験した結果、該方法は表面不動態化金属粉末を大量で製造できることを見出した。よって、本願の一連の解決手段を提案している。
【0025】
本願の代表的な第1実施形態では、不動態化液を用いて金属粉末を処理し、金属粉末の表面に不動態化皮膜を形成し、不動態化液は流動することで金属粉末を通過する、金属粉末の表面処理方法が提供される。
【0026】
流動方法によれば、不動態化液が流動することで粉末を通過し、粉末を流れる過程で粉末と不動態化液とが反応を起こし、不動態化皮膜が形成され、このように不動態化皮膜を形成する方式は、さらに処理液の濃度、流速や時間を制御することで、金属粉末の表面処理の程度を正確に制御することに有利であり、これによって、金属粉末、特に粒子径の小さな金属粉末又は大量の金属粉末の場合不動態化が必要以上行われて特性に影響を与えるという問題を解決する。
【0027】
本願では、不動態化液は容器に加えられながら流出し、一方、従来技術では、処理液は全て金属粉末を浸潤する。本願では、処理液は、流動しているものであり、中間の過程において、全て浸潤し、添加直後及び処理液の添加を停止した時には不完全に浸潤しており、このように、浸潤の全時間が減少し、粒子径の小さな金属粉末又は大量の金属粉末の場合不動態化が必要以上行われるという問題を防止する。不動態化時間が短いので、金属粉末スタックの表層にある金属粉末が、深層の金属粉末に比べて、不動態化処理の時間には多くの差がなく、同一ロッドとして製造された表面不動態化金属粉末の不動態化層の厚さ、酸化防止特性や磁気特性が近い。
【0028】
好ましい一実施例では、上記表面処理方法は、金属粉末を容器に加えるステップ1)と、容器に不動態化液を加えて、不動態化液が金属粉末を流れてから容器から流出するように制御を行うステップ2)と、容器において不動態化液で処理された金属粉末を乾燥させるステップ3)とを含み、好ましくは、表面処理方法は、ステップ2)とステップ3)との間に、容器に洗浄液を加え、金属粉末に残留された不動態化液を洗浄した後、容器から流出し、好ましくは、洗浄液はエタノール及び/又はアセトンを含み、好ましくは、1回の処理量は10~200kgであり、好ましくは、不動態化液はウォーターポンプ又は空気ポンプによって容器に加えられ、好ましくは、乾燥方法は真空乾燥を含み、好ましくは、真空乾燥の温度は1~100℃であり、より好ましくは、真空乾燥の温度は50~70℃であり、好ましくは、真空乾燥の真空度は0.0001~0.03MPaである。
【0029】
上記表面処理方法では、金属粉末を容器に加えることによって、不動態化液と金属粉末の後続の分離に有利である。不動態化液が金属粉末を流れる流速や不動態化時間を制御することによって、金属粉末の不動態化の程度が制御され、不動態化後、金属粉末を乾燥させることで、不動態化液が長期間にわたって金属粉末表面に存在し、不動態化反応が持続的に起こることが回避され、必要以上の不動態化が回避される。不動態化液が金属粉末を流れた後かつ乾燥前に、洗浄剤が不動態化された金属粉末を流れることによって、不動態化された金属粉末の表面に残留された不動態化液が除去され、必要以上の不動態化が回避される。
【0030】
上記表面処理方法によれば、従来技術に比べて、特に小粒子径(0.1~10μm)の金属粉末の不動態化の場合、1回あたり10~200kgの金属粉末が処理され、実験室レベル(100g以下)の生産しかできない従来技術よりも大幅の向上が図られる。量産は手間、時間や試薬を節約することができ、生産コストの削減に有利である。1回の反応で大量の製品を製造することにより、製品の不動態化程度の均一性や安定性の制御も容易である。本願の不動態化反応が容器で起こり、反応に必要な原料が大量であり、しかも、不動態化液には一定の揮発性や腐食性がある。このため、不動態化液はウォーターポンプ又は空気ポンプによって容器に加えられてもよい。
【0031】
不動態化液処理を受けた金属粉末では、金属粉末の表面に残留された不動態化液が容易に除去され、不動態化反応がさらに進行して必要以上の不動態化を引き起こすことがないように、好ましくは、真空乾燥などの常用方法を用いて表面不動態化金属粉末を乾燥させることを推薦する。加熱乾燥と比較すると、真空乾燥は乾燥温度が低いので、表面不動態化金属粉末を保護し、乾燥中に金属粉末が酸化されて、製品の品質や後の使用に影響を与えることを回避することが容易である。金属粉末の粒子径、固液分離の効果、不動態化液の沸点や組成などの要素によって、真空乾燥の温度は適宜調整されてもよく、例えば、1~100℃にしてもよい。好ましくは20~80℃であり、最も一般的な真空乾燥温度は50~70℃であり、具体的には、実際のニーズに応じて、真空乾燥の温度は50、55、60、65又は70℃に柔軟に制御されてもよく、これによって、異なる金属粉末酸化の防止能力の違いに応じて調整が行われて、温度が高すぎて金属粉末が酸化されることが回避される。さらに、乾燥効果を確保しながら、不動態化された金属粉末を保護し、温度が高すぎて酸化反応が起こることを回避することができる。
【0032】
金属粉末表面の不動態化液は、真空乾燥温度、不動態化液の組成によって、適切な真空度を選択して表面不動態化金属粉末を乾燥させることで除去されてもよく、真空乾燥の真空度は好ましくは0.0001~0.03MPaであり、また、この範囲以外で適宜調整されてもよく、これによって、できるだけ高い真空度を維持しながら所望の乾燥効果を果たし、生産に消費されるエネルギーを減少させる。さらに好ましくは、真空乾燥前に、窒素ガス又は不活性ガスなど、化学性質が安定なガスで真空乾燥装置内の空気を置換した後、真空吸引を行い、表面不動態化金属粉末の加熱条件でのさらなる酸化を最大限に減少させ、製品の品質を低下させる。
【0033】
好ましい一実施例では、容器はろ過網又はろ過布を備えた容器であり、不動態化液はろ過網又はろ過布を通過して容器から流出し、好ましくは、容器に不動態化液又は洗浄液を加えた後、容器にガスを導入するステップをさらに含み、好ましくは、ガスは窒素ガス又は不活性ガスであり、より好ましくは、不活性ガスはアルゴンガスであり、好ましくは、容器に導入されるガスの圧力は0.1~1MPaであり、好ましくは、ガスの通気時間は0.1~120minであり、より好ましくは、ガスの通気時間は1~10minである。
【0034】
ろ過網、ろ過布やろ過機能を有する他の装置が容器に設けられ、上記ろ過装置によって、不動態化液で金属粉末を不動態化した後、固液分離を素早く行い、これによって、不動態化時間を制御し、必要以上の不動態化を回避するという目的を達成させる。ろ過装置の使用方式は、具体的には、反応開始前に、不動態化対象の金属粉末をろ過装置に入れてから、金属粉末を容器内にセットしてもよい。また、ろ過装置を容器内にセットしてから、容器に金属粉末を直接加えてもよい。
【0035】
好ましい実施例では、容器には供給口、給気口及び出液口が設けられる。固液分離を促進し、固液分離を十分に行うことを確保するために、供給口から容器に不動態化液を加えてから、給気口から容器にガスを導入し、これによって、適切なガス圧力を提供し、不動態化液が固液分離装置から流出し、出液口を介して容器から流出するようにし、このように適切なガス圧力によって、不動態化時間がさらに制御及び短縮される。上記の導入されるガスは窒素ガス又は不活性ガスとしてもよく、圧力を提供するとともに、空気ではなく化学性質が安定なガスが使用されることで、空気中の酸素ガスが金属粉末を酸化することを回避し、製造された製品の品質を高める。不活性ガスの中でも、アルゴンガスは導入ガスとして使用されてもよい。入手しやすく、低コストであり、生産コストの削減に有利でることから、窒素ガス及びアルゴンガスは保護ガスとして使用される。金属粉末粒子径、不動態化液の流動性などによって、ガスの圧力は適宜調整され、0.1~1MPaとしてもよい。通気時間は0.1~120minの間で調整されてもよく、これによって、固液分離の効果が高い表面不動態化金属粉末が得られ、後続の真空乾燥ステップの負荷が低減する。効果を保持する上に、ガスの導入量を減少させ、生産コストを削減させるために、通気時間は1~10minであってもよい。
【0036】
好ましい一実施例では、不動態化液の流速は1~1000L/min、好ましくは、100~600L/minであり、不動態化液の処理時間は好ましくは1~3600s、より好ましくは、10~1800sである。
【0037】
不動態化液の流速は不動態化液が容器に添加されるときの流速であり、金属粉末性質、不動態化量、不動態化液性質などの条件によって、不動態化液の流速は1~1000L/minとしてもよい。前記不動態化層の厚さ、金属粉末や不動態化液の性質などの要素によって、不動態化液の処理時間は、1~3600sで柔軟に調整される。処理時間が1s未満であれば、金属粉末の表面の処理が不十分であり、満足のいく不動態化皮膜が形成できず、その結果、酸化防止特性が改善されず、処理時間が3600sを超えれば、不動態化皮膜が厚すぎ、金属粉末の特性が低下する。より好ましくは、不動態化液の処理時間は上記容器の使用及び導入されるガスによって10~1800sの間に制御され、これによって、必要以上の不動態化が行わずに金属粉末の不動態化層が所望の厚さに達し、製品の品質が確保される。平均粒子径の小さいな金属粉末の場合、不動態化処理の時間の正確な制御は表面不動態化金属粉末の製造における重要なパラメータであり、上記表面処理方法によって、不動態化液の処理時間がさらに10s~600s、さらに100s~300sに制御されることは、平均粒子径の小さな金属粉末を同時に大量で不動態化し、必要以上の不動態化の発生を回避することに有利である。
【0038】
好ましい一実施例では、金属粉末は、Fe、FeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMo、LaFeSi、NdFeB、NdFeN、CeFeB、CeFeN及びSmFeNのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されるものではなく、好ましくは、金属粉末の平均粒子径は、0.1~100μm、より好ましくは1~10μm、さらに好ましくは2~8μmである。金属粉末の平均粒子径は、具体的には、0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.5μm、0.8μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μmである。好ましくは、金属粉末は乾燥、湿潤又はスラリーの形態であり、好ましくは、不動態化皮膜の厚さは3~30nmであり、より好ましくは、金属粉末の平均粒子径が0.1μm以上、10μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは3~6nmであり、金属粉末の平均粒子径が10μm以上、60μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは6~15nmであり、金属粉末の平均粒子径が60μm以上、100μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは15~30nmである。
【0039】
金属粉末は単一材質であってもよいし、異なる種類の金属粉末の混合物である複数種の材質であってもよい。不動態化時間や不動態化液の組成などの要素が柔軟に調整されることにより、同一の不動態化反応にて複数種の金属粉末を同時に不動態化することができ、1回の不動態化反応をしただけで、後続の使用に供することができる。異なる金属粉末を個別に不動態化することや不動態化後に混合することの問題を回避し、生産工程やかかる時間を減少させ、生産コストを削減させる。金属粉末の平均粒子径は0.1~100μmである。金属粉末の平均粒子径が0.1μm未満と小さすぎると、不動態化液に接触すると必要以上不動態化され、元の活性が失われる。金属粉末の平均粒子径が100μm超過で、大きすぎると、後続の利用にとって好ましくない。後続の利用を容易にするために、不動態化時間を正確かつ柔軟に制御し得るという該表面処理方法の利点を活用し、特に、金属粉末の平均粒子径が1~10μmである場合、この表面処理方法は優れた効果を奏することができる。
【0040】
不動態化前に、容器に加えられる金属粉末は、乾燥、湿潤又はスラリーなど、様々な形態としてもよく、このようにして、適切な方式を選用して容器に加えられて不動態化反応を行うことが容易であり、また、金属粉末に対する前処理のステップが減少する。不動態化の効果を確保し、金属粉末の酸化防止性を向上させることから、表面不動態化金属粉末の不動態化層の厚さは3~30nmとしてもよい。不動態化層が薄すぎると、製品の酸化防止能力が不十分であり、不動態化層が厚すぎると、金属粉末自体の特性が必要以上低下しやすく、使用要求を満たしにくくなる。
【0041】
不動態化皮膜の厚さは金属粉末の平均粒子径に応じて適宜調整されてもよい。平均粒子径が小さな金属粉末では、不動態化皮膜の厚さが薄い場合にも、製品の酸化防止能力が要求を満たす。一方、平均粒子径が大きな金属粉末では、製品の酸化防止能力が要求を満たすのに不動態化皮膜の厚さは厚くなければならない。不動態化皮膜の厚さは金属粉末の種類及び酸化防止能力の要求に応じて柔軟に調整されてもよい。
【0042】
不動態化皮膜の厚さの測定方法としては、得られた磁石粉末に対してアルゴンガススパッタリング(Arスパッタリング)を行い、X線光電子分光計(XPS)でリン元素(P)の含有量を測定し、不動態化皮膜のリン(P)断面から最大強度の50%まで下がった位置を、不動態化皮膜と基底との界面位置とし、表面から界面位置までのスパッタリング時間tを読み取り、標準試料であるSiO2のスパッタリング速度5nm/minを乗算したものを、SiO2換算の膜厚とする。又は、走査型電子顕微鏡で粉末側面について成分及び形様の検出を行うことで、不動態化皮膜の厚さを推定してもよい。
【0043】
好ましい一実施例では、不動態化液は、溶質、無機溶剤、有機溶剤、及び添加剤を含み、好ましくは、不動態化液のpHは3~6であり、好ましくは、溶質は、Zn2+、Zr2+、Na+、K+、Ca2+、NH4+、Cl-、PO4
3-、NO3
-、SO4
2-及びCH3COOHのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されるものではなく、好ましくは、不動態化液におけるそれぞれの溶質の濃度は0.001~10mol/L、より好ましくは、0.01~1mol/Lである。好ましくは、無機溶剤は水を含み、好ましくは、有機溶剤は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、アセトン、ガソリン、トルエン及びキシレンのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されるものではなく、より好ましくは、有機溶剤は、エタノール、アセトン、イソプロパノール及びエチレングリコールのうちの1種又は複数種を含み、好ましくは、無機溶剤と有機溶剤との質量比が1:0.001~1:1000であり、より好ましくは、1:0.1~1:10であり、より好ましくは、添加剤は、シランカップリング剤、ケイ酸エチル、エポキシ樹脂、チタン酸エステル及びリン酸エステルのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されるものではない。
【0044】
不動態化液には、溶質、無機溶剤、有機溶剤及び添加剤が含まれる。溶質は、Zn2+、Zr2+、Na+、K+、Ca2+、NH4+、Cl-、PO4
3-、NO3
-、SO4
2-及びCH3COOHのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されるものではなく、しかも、それぞれの溶質の濃度は0.001~10mol/Lであってもよい。溶質の濃度が0.001mol/L未満であれば、金属粉末の表面が十分に不動態化されにくく、満足のいく不動態化皮膜が形成できず、その結果、酸化防止性が改善されず、添加量が10mol/Lを超えれば、不動態化皮膜が厚すぎるという問題が発生しやすく、その結果、金属粉末の特性が低下する。不動態化反応を制御しやすくするために、不動態化時間を適切な範囲にすることによって、不動態化時間が短すぎて不動態化反応を制御しにくくすることも、不動態化時間が長すぎて反応時間を浪費し、生産効率を低下させることもなく、それぞれの溶質の濃度は好ましくは0.01~1mol/Lである。
【0045】
不動態化液の無機溶剤は一般に水であり、有機溶剤は、不動態化液の調製し難さを低減させることから、単一の溶媒としてもよく、不動態化液の特性を調整して、良好な不動態化能力をもたらすことから、複数種の有機溶剤の混合物としてもよい。好ましくは、有機溶剤は一般的なエタノール、アセトン、イソプロパノール及びエチレングリコールのうちの1種又は複数種であってもよい。アセトン、イソプロパノール及びエチレングリコールが水に溶解しやすく、エタノールが水と任意の割合で相溶化でき、且つ、上記有機溶剤の沸点が低く、後の乾燥ステップで除去されやすいからである。一般的な溶媒として使用されやすく、且つ低コストである。様々な組成の不動態化液が各種の金属粉末に対して適切な不動態化能力を発揮することから、無機溶剤と有機溶剤との質量比は1:0.001~1:1000、より好ましくは、1:0.1~1:10である。シランカップリング剤、ケイ酸エチル、エポキシ樹脂、チタン酸エステル及びリン酸エステルのうちの1種又は複数種を添加剤とすることによって、不動態化皮膜はより緻密になり、かつ被覆効果がより良好である。添加剤は、以降の使用中に、表面不動態化金属粉末と粘結剤などの他の物質とをよりよく結合することができる。添加剤は、不動態化液を調製するときに添加されてもよく、後のプロセスにおいて添加されてもよい。
【0046】
本願の代表的な第2実施形態では、上記の表面処理方法によって金属粉末を不動態化し、平均粒子径が0.1~100μmであってもよい表面不動態化金属粉末を得る表面不動態化金属粉末が提供される。
【0047】
不動態化された金属層は、一般には、金属と不動態化液とが化学反応を行って生成された塩であり、例えばFeとPO4
3-からFePO4が生成され、FeとSO4
2-からFeSO4が生成され、また、希土類と酸根イオンから生成される対応する希土類金属塩もある。生成された金属塩は金属粉末の表面に付着し、化学性質が安定であるので、金属粉末を酸化から保護することができる。
【0048】
好ましい一実施例では、表面不動態化金属粉末は、空気中で、300℃で30min加熱されると、重量増加率が0.1%~6%であり、金属粉末は、Fe、FeSi、FeSiAl、FeNi、FeNiMo、LaFeSi、NdFeB、NdFeN、CeFeB、CeFeN及びSmFeNのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されるものではなく、好ましくは、表面不動態化金属粉末の平均粒子径は1~10μmである。金属粉末の平均粒子径は、具体的には、0.1μm、0.2μm、0.3μm、0.5μm、0.8μm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μmであってもよい。好ましくは、不動態化皮膜の厚さは、3~30nmであり、より好ましくは、金属粉末の平均粒子径が0.1μm以上、10μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは3~6nmであってもよく、金属粉末の平均粒子径が10μm以上、60μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは6~15nmであってもよく、金属粉末の平均粒子径が60μm以上、100μm未満である場合、不動態化皮膜の厚さは15~30nmであってもよい。
【0049】
上記表面不動態化金属粉末を空気中で、300℃で30min加熱して、その酸化防止能力を測定した結果、重量増加率が0.1%~6%未満であれば、該不動態化金属粉末の酸化防止能力が要求を満たすことが示される。表面不動態化金属粉末の平均粒子径は0.1~100μmである。後続の使用を容易にするために、表面不動態化金属粉末は好ましくは1~10μmである。不動態化皮膜の厚さは3~30nmとすべきであり、不動態化層が薄すぎると、製品の酸化防止能力が不十分であり、不動態化層が厚すぎると、金属粉末自体の特性が必要以上に低下し、使用の要求が満たされにくい。
【0050】
平均粒子径が100μmよりも大きい場合、粒子径が大きいので、必要な不動態化層や不動態化時間が長いので、本方法を用いて不動態化処理をするか又は従来技術を用いて不動態化処理をするかにかかわらず、大きな差別がない。平均粒子径が0.1μm未満の金属粉末の場合、従来の技術で製造されたものが深刻に酸化されているので、不動態化する価値がなく、また、一部の金属粉末では、平均粒子径は0.1μm以下にすることができない。
【0051】
本願の代表的な第3実施形態では、上記表面不動態化金属粉末を用いて、酸化防止磁性材料を製造する酸化防止磁性材料が提供される。
【0052】
金属粉末を不動態化しないままで製造された磁性材料では、粉末を磁石にする過程と磁石を使用する過程では、いずれも不可避的に酸化の問題に直面し、粉末や磁石の酸化は磁石の特性に深刻な影響を与え、磁石の特性を低下させ、深刻な場合は、磁石が効力を失うことを引き起こす。上記表面不動態化金属粉末を用いて製造された酸化防止磁性材料は、酸化に起因する磁石の特性低下の問題を克服できる。
【0053】
好ましい一実施例では、酸化防止磁性材料は、金属粉末で製造される同規格の非酸化防止磁性材料に比べて、残留磁気低下率が10%未満であり、好ましくは、同規格の非酸化防止磁性材料に比べて、保磁力低下率が10%未満である。
【0054】
保磁力は粉末粒子径による影響を非常に大きく受け、一般には、同種の材料では、粉末粒子径が小さいほど、保磁力が大きく、ただし、所定の程度まで小さくなると、超細粉末が深刻に酸化されるので、保磁力はむしろ低下する。
【0055】
以下、特定の実施例を参照して本願の有益な効果をさらに詳細に説明する。なお、以下の実施例及び比較例では、磁気特性の検出装置はNIM-2000永久磁石材料磁気特性検出システムであり、測定方法は汎用の標準方法である。
透磁率検出装置はよく使用されているE4991A又はWK600Bであり、インダクタンス値が測定されると、サイズによって透磁率が算出される。等温磁気エントロピー変化の検出装置はVSM(振動試料型磁力計)又はPPMS(物理特性測定システム)であり、各温度での磁化曲線M-Hが測定されてから、下記Maxwell関係式により計算が行われる。
【0056】
実施例1
1. 無機溶剤を水、有機溶剤をエタノール、無機溶剤と有機溶剤との質量比を1:4とした不動態化液を調製した。溶質は、0.15mol/LのZn2+、0.2mol/LのZr2+、0.1mol/LのK+、0.2mol/LのCl-、0.2mol/LのPO4
3-を含み、リン酸でpHは3に調整された。添加剤はチタン酸エステルであり、チタン酸エステルの添加量は粉末の全質量(即ち不動態化金属粉末を含む質量)の0.5%であった。
【0057】
2. 平均粒子径60μmのネオジム・鉄・ホウ素粉末100kgを準備し、漏斗を介して供給口からろ過網とろ過布によって固液分離が可能な容器に加えた。
【0058】
3. 空気ポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を200L/minとして、30min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0059】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.12MPaの窒素ガスを導入して、通気時間20minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0060】
5. 処理済みの粉末を取り出して、90℃、0.005MPaで5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥ネオジム・鉄・ホウ素粉末を得た。
【0061】
6. 不動態化層を表面に有するネオジム・鉄・ホウ素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は2.1%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は3.5%であった。
【0062】
7. ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0063】
実施例2
実施例1と比較すると、ステップ3の処理時間を10minに調整した以外、残りは実施例1と同様であった。不動態化層を表面に有するネオジム・鉄・ホウ素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は2.7%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は3.5%であった。
【0064】
ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0065】
実施例3
1. 溶質として、0.10mol/LのZn2+、0.1mol/LのZr2+、0.2mol/LのPO4
3-、0.1mol/LのK+、0.1mol/LのCl-を含むもの、無機溶剤として溶媒の全質量に対して70%の水、有機溶剤として溶媒の全質量に対して30%の無水エタノールとした不動態化液を調製し、CH3COOHを加えてpH値を4に調整し、粉末の全質量に対して0.2%のシランカップリング剤を加えた。
【0066】
2. 平均粒子径10μmのサマリウム鉄窒素粉末10kgを準備し、ろ過網及びろ過布によって固液分離が可能な容器に加えた。
【0067】
3. 空気ポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を300L/minとして、8min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0068】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.12MPaの窒素ガスを導入して、通気時間20minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0069】
5. 処理済みの粉末を取り出して、70℃、0.005MPaで5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥サマリウム鉄窒素粉末を得た。
【0070】
6. 不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は3.6%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は9.5%であった。
【0071】
7. ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0072】
実施例4
本実施例では、ステップ3の処理時間を2minに調整した以外、残りは実施例3と同様であり、不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は4.7%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は9.5%であった。
【0073】
ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0074】
実施例5
1. 溶質として0.10mol/LのZn2+、0.1mol/LのZr2+、0.2mol/LのPO4
3-、0.1mol/LのK+、0.1mol/LのCl-を含むもの、無機溶剤として溶媒の全質量に対して70%の水、有機溶剤として溶媒の全質量に対して30%の無水エタノールとした不動態化液を調製し、CH3COOHを加えてpH値を4に調整し、粉末の全質量に対して0.2%のシランカップリング剤を加えた。
【0075】
2. 平均粒子径5μmのサマリウム鉄窒素粉末10kgを準備し、ろ過網及びろ過布によって固液分離が可能な容器に加えた。
【0076】
3. 空気ポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を300L/minとして、5min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0077】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.15MPaの窒素ガスを導入して、通気時間10minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0078】
5. 処理済みの粉末を取り出して、70℃、0.005MPaで5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥サマリウム鉄窒素粉末を得た。
【0079】
6. 不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は4.6%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は12.9%であった。
【0080】
7. ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0081】
実施例6
1. 溶質として0.10mol/LのZn2+、0.1mol/LのZr2+、0.2mol/LのPO4
3-、0.1mol/LのK+、0.1mol/LのCl-を含むもの、無機溶剤として溶媒の全質量に対して70%の水、有機溶剤として溶媒の全質量に対して30%の無水エタノールとした不動態化液を調製し、CH3COOHを加えてpH値を4に調整し、粉末の全質量に対して0.8%のシランカップリング剤を加えた。
【0082】
2. 平均粒子径1μmのサマリウム鉄窒素粉末10kgを準備し、ろ過網及びろ過布によって固液分離が可能な容器に加えた。
【0083】
3. 空気ポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を300L/minとして、2min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0084】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.3MPaの窒素ガスを導入して、通気時間5minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0085】
5. 処理済みの粉末を取り出して、70℃、0.005MPaで5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥サマリウム鉄窒素粉末を得た。
【0086】
6. 不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は5.2%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は16.1%であった。
【0087】
7. ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0088】
実施例7
1. 無機溶剤を水、有機溶剤をアセトン、無機溶剤と有機溶剤との質量比を1:5とした不動態化液を調製した。溶質は0.15mol/LのZn2+、0.2mol/LのZr2+、0.2mol/LのPO4
3-、0.1mol/LのK+、0.2mol/LのCl-を含み、pHはリン酸で3に調整された。添加剤はリン酸エステルであり、リン酸エステルの添加量は処理対象の金属粉末の質量の0.3%であった。
【0089】
2. 平均粒子径30μmの鉄ケイ素アルミ粉末200kgを準備し、ろ過網及びろ過布によって固液分離が可能な容器に加えた。
【0090】
3. ウォーターポンプ又は空気ポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を200L/minとして、50min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0091】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.11MPaの窒素ガスを導入して、通気時間20minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0092】
5. 処理済みの粉末を取り出して、90℃、0.005MPaで5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥鉄ケイ素アルミ粉末を得た。
【0093】
6. 不動態化層を表面に有する鉄ケイ素アルミ粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は1.5%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は2.6%であった。
【0094】
7. ステップ5で処理された鉄ケイ素アルミ粉末を準備し、標準磁気リングを製造し、50kHz、100mTで測定したところ、透磁率は135、損失は165mW/cm3であり、一方、表面処理を受けていない対照群では、透磁率は140、損失は180mW/cm3であった。
【0095】
実施例8
1. 無機溶剤として溶媒の全質量に対して20%の水とし、有機溶剤として溶媒の全質量に対して80%の無水エタノールとした不動態化液を調製した。溶質は、0.05mol/LのZn2+、0.1mol/LのZr2+、0.2mol/LのPO4
3-、0.05mol/LのK+、0.1mol/LのCl-、0.083mol/LのPO43-を含み、pHはリン酸で4に調整された。
【0096】
2. 平均粒子径50μmのランタン鉄ケイ素粉末100kgを準備し、ろ過網及びろ過布によって固液分離が可能な容器に加えた
【0097】
3. ウォーターポンプ又は空気ポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を200L/minとして、20min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0098】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.11MPaの窒素ガスを導入して、通気時間30minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0099】
5. 処理済みの粉末を取り出して、90℃で5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥ランタン鉄ケイ素粉末を得た。
【0100】
6. 不動態化層を表面に有するランタン鉄ケイ素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は3.3%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は5.1%であった。
【0101】
7. ステップ5で処理された粉末について、0~1T磁界の場合の等温磁気エントロピー変化を測定した結果、約10.6J/kgKであり、一方、表面処理を受けていない磁気粉末では、0~1T磁界の場合の等温磁気エントロピー変化は約11.3J/kgKであり、明らかな低下が認められなかった。
【0102】
等温磁気エントロピー変化の値が高いほど、熱効果が高く、即ち、材料の特性が高かった。未処理の原金属粉末に比べて、上記表面不動態化金属粉末では、等温磁気エントロピー変化はわずか0.7J/kgK低下し、このことから、該表面不動態化金属粉末の磁気特性には明らかな低下がなく、上記不動態化方法によって製造される不動態化層の金属粉末の磁気特性への影響が小さいことが示されている。
【0103】
実施例9
1. 溶質として0.01mol/LのZn2+、0.01mol/LのZr2+、0.01mol/LのK+、0.01mol/LのCl-を含み、残りをPO4
3-とするもの、無機溶剤として溶媒の全質量に対して10%の水とし、有機溶剤として溶媒の全質量に対して30%の無水エタノール及び60%のアセトンとした不動態化液を調製し、CH3COOHを加えてpH値を4に調整し、粉末の全質量に対して0.8%のシランカップリング剤を加えた。
【0104】
2. 平均粒子径約0.1μmのサマリウム鉄窒素粉末20kgを準備し、容器に加えた。
【0105】
3. ウォーターポンプによって供給口から管路を介して不動態化液を粉末を容れた容器に送り、流速を300L/minとして、1min処理し、その後、供給口への不動態化液の供給を停止した。
【0106】
4. 供給口を閉じて、給気口から0.3MPaの窒素ガスを導入して、通気時間3minで、容器内のほとんどの不動態化液を濾過させた。
【0107】
5. 処理済みの粉末を取り出して、60℃、真空度0.005MPaで5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥サマリウム鉄窒素粉末を得た。
【0108】
6. 不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は5.8%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は18.2%であった。
【0109】
7. ステップ5で得られた表面不動態化金属粉末及び未処理の金属粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0110】
実施例10
本実施例では、粉末平均粒子径を100μmとした以外、残りは実施例1と同様であり、不動態化層を表面に有するネオジム・鉄・ホウ素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は1.9%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は2.3%であった。
【0111】
ステップ5で得られた表面不動態化金属粉末及び未処理の金属粉末をそれぞれ15g準備し、粘結剤として3wt%のエポキシ樹脂を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0112】
実施例11
実施例1の方法によって表面不動態化ネオジム・鉄・ホウ素粉末を製造し、製造した粉末を容器から取り出し、異なる位置でランダムにサンプリングし、300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ。測定結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
比較例1
実施例1と比較すると、同じ不動態化液を調製し、浸漬法を用いて、実施例1で処理される前のものと同一のネオジム・鉄・ホウ素磁気粉末を一定量で処理液にて30min浸漬し、その後、磁気吸着法によって磁気粉末を取り出した以外、実施例1と同様に、90℃で5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥ネオジム・鉄・ホウ素粉末を得た。不動態化層を表面に有するネオジム・鉄・ホウ素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は2.0%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は3.5%であった。
【0115】
ステップ5で得られた表面不動態化金属粉末及び未処理の金属粉末をそれぞれ15g準備し、3%の粘結剤を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0116】
比較例2
実施例5と比較すると、同じ不動態化液を調製し、浸漬法を用いて、実施例5で処理される前のものと同一のサマリウム鉄窒素磁気粉末を一定量で処理液にて8min浸漬し、その後、磁気吸着法によって磁気粉末を取り出した以外、実施例5と同様に、70℃で5h真空乾燥させ、不動態化層を表面に有する乾燥サマリウム鉄窒素粉末を得た。不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は4.3%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は12.9%であった。
【0117】
ステップ5で得られた表面不動態化金属粉末及び未処理の金属粉末をそれぞれ15g準備し、3%の粘結剤を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0118】
比較例3
本比較例では、粉末平均粒子径を0.05μmとした以外、残りは実施例9と同様であり、不動態化層を表面に有するサマリウム鉄窒素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は7.5%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は7.8%であった。
【0119】
ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、3%の粘結剤を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0120】
本比較例で使用される粉末は不動態化処理前にも深刻に酸化されているので、不動態化処理には価値がない
【0121】
比較例4
本比較例では、粉末平均粒子径を150μmとした以外、残りは実施例1と同様であり、不動態化層を表面に有するネオジム・鉄・ホウ素粉末を300℃の高温で30min処理し、酸化による重量増加を測定したところ、酸化重量増加率は1.6%であり、一方、表面処理を受けていない対照群は1.7%であった。
【0122】
ステップ5で得られた不動態化皮膜を表面に有する粉末材料及び未処理の粉末をそれぞれ15g準備し、3%の粘結剤を加えて、標準円柱状試料を製造し、磁気特性を測定し、測定結果を表2に示す。
【0123】
本比較例で使用される粉末は平均粒子径が非常に大きく、表面が酸化されにくく、伝統的な方法で不動態化処理可能で、このため、本発明の方法で処理する必要はない。
【0124】
【0125】
実施例1、実施例2及び比較例1、並びに実施例5及び比較例2の比較から分かるように、表面処理時間が長くなり、酸化重量増加率が低下し、このことから、表面不動態化皮膜の厚さが増加した反面、磁気特性の低下は多かったことが明らかになる。本発明の使用方法では、未処理試料に比べて、酸化重量増加率は明らかに低下する。比較例1及び比較例2と比較すると、本発明の使用方法では、酸化防止能力は向上するとともに、特性の低下は少なく、効果は伝統的な浸漬法よりも好ましい。
【0126】
以上の説明から明らかに、本発明の上記の実施例は以下のような技術的効果を奏する。本発明では、固液分離装置を備えた容器で金属粉末を不動態化することによって、金属粉末、特に平均粒子径が小さな金属粉末の不動態化の程度が効果的に制御され、必要以上の不動態化に起因する金属粉末特性の低下が回避され、後で製造される磁性材料の酸化防止能力の向上が確保されつつ、酸化防止磁性材料の磁気特性が確保される。
【0127】
以上は本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、当業者にとって明らかなように、本発明には様々な変更や変化が可能である。本発明の主旨及び原則を逸脱することなく行われる全ての修正、同等置換や改良などは本発明の特許範囲に含まれるものとする。
【国際調査報告】