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特表2023-552071改善された亜鉛コーティングを有する平鋼製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】改善された亜鉛コーティングを有する平鋼製品
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20231207BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C23C14/14 C
C23C14/24 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528272
(86)(22)【出願日】2021-11-03
(85)【翻訳文提出日】2023-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2021080485
(87)【国際公開番号】W WO2022101068
(87)【国際公開日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】102020214293.9
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ビエンホルツ,ステファン
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA18
4K029BC01
4K029CA01
4K029DB03
4K029DB17
4K029DB20
4K029DB21
4K029EA01
4K029EA02
4K029EA03
4K029EA08
4K029FA04
(57)【要約】
本発明は、鋼基材(15)の少なくとも片面に防食コーティング(17)が設けられた鋼基材(15)を含む平鋼部品(13)に関する。防食コーティング(17)は、鋼基材(15)を周囲雰囲気(21)に接続する連続マイクロチャネル(19)を備える。本発明はまた、そのような平鋼製品を製造する方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼基材(15)の少なくとも片面に亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティング(17)を有する前記鋼基材(15)を含む平鋼製品(13)であって、前記防食コーティング(17)が、前記鋼基材(15)を周囲雰囲気(21)に接続する連続マイクロチャネル(19)を有することを特徴とする、平鋼製品。
【請求項2】
前記マイクロチャネル(19)が、1mm-1超、より具体的には10mm-1超、好ましくは50mm-1超、より具体的には100mm-1超の密度を有することを特徴とする、請求項1に記載の平鋼製品(13)。
【請求項3】
前記マイクロチャネル(19)が、前記鋼基材(15)の表面(19)に対して実質的に垂直に延びることを特徴とする、請求項1から2のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項4】
前記マイクロチャネル(19)が30°を超える半値全幅を有する角度分布を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項5】
前記防食コーティング(17)が1~10μm、好ましくは5~10μmの厚さdを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項6】
前記防食コーティング(17)が水素透過に対する90%以下、好ましくは80%以下のブロッキング効果を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項7】
前記防食コーティング(17)が500秒未満、好ましくは150秒未満の水素透過時間を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項8】
前記防食コーティング(17)が物理蒸着によって塗布されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項9】
前記鋼基材(15)が590MPa超、より詳細には1000MPa超、好ましくは1200MPa超の引張強度を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項10】
前記鋼基材(15)が多相鋼、より具体的には冷間圧延または熱間圧延された多相鋼であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)。
【請求項11】
鋼基材(15)を製造または提供するステップと、
任意選択的に脱油するステップと、
任意選択的に酸洗いするステップと、
亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティングを物理蒸着によって前記鋼基材(15)に塗布するステップと
を含み、
前記防食コーティング(17)が厚さdを有し、前記防食コーティングの塗布時のコーティング速度rに対する前記防食コーティングの厚さdの比が1000秒未満、好ましくは800秒未満である、請求項1から10のいずれか一項に記載の平鋼製品(13)を製造するためのプロセス。
【請求項12】
前記防食コーティングの塗布時の前記鋼基材(15)の温度が50℃超、好ましくは100℃超、より好ましくは150℃超であることを特徴とする、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
亜鉛および不可避不純物から構成される前記防食コーティングが、前記鋼基材(15)をコーティング室内に設けることによって物理蒸着によって前記鋼基材(15)に塗布され、前記コーティング室内の圧力が調整され、コーティング材料としての亜鉛が流入点で前記コーティング室に流入され、前記亜鉛がある温度に調整されることを特徴とする、請求項11から12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
圧力および温度が、前記温度が前記コーティング材料の露点を上回り、前記圧力が1mbar~100mbar、好ましくは10mbar~100mbarになるように調整されることを特徴とする、請求項11から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼基材の少なくとも片面に亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティングを有する鋼基材を含む平鋼製品に関する。
【0002】
本発明はまた、この種の平鋼製品を製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
「平鋼製品」は、本明細書では、長さおよび幅がそれぞれ厚さよりも実質的に大きい圧延製品であると理解される。それらは、特に、鋼帯および鋼板またはブランクを含む。
【0004】
本明細書では、特に明示的な注記がない限り、合金成分の量の数値は常に質量%で示される。
【0005】
平鋼製品の鋼基材の構造における特定の成分の割合は、そうでないことが示されていない限り、面積%で報告される。
【0006】
本明細書における鋼、亜鉛または他の合金の「不可避不純物」とは、製造中に鋼に入るか、または鋼から完全に除去することができないが、その量が鋼またはコーティングの特性に影響を及ぼさない程度に低い、技術的に不可避の鋼元素を指す。
【0007】
自動車およびトラックの耐久型部品、例えば自動車車体のクラッシュ構造およびシャーシは、1.5mmを超える厚さおよび590MPaを超える(高強度鋼)、より具体的には780MPaを超える(超高強度鋼)引張強度を有する亜鉛めっき鋼板を必要とする。本出願の目的のための引張強度は、DIN EN ISO 6892、サンプルタイプ1に従って決定される。
【0008】
そのような鋼の重要性は、電気自動車の影響でますます高まっている。バッテリケーシングの部品は、例えば、衝突の場合にリチウムイオンセルに損傷がないように設計されなければならない。さらに、高強度および超高強度材料は、シート厚さの減少によって、より軽量の部品を設計するのに適している。しかしながら、強度が増加するにつれて、材料中の拡散性水素が少量であっても、水素誘起脆性破壊のリスクが増加する。
【0009】
韓国特許出願公開第20190077200号明細書は、水素透過に影響を及ぼす亜鉛の溶融めっきを記載している。ここでは、水素透過を低減するために、サイズが100nm~1000nmの粒子が層に組み込まれる。この手段により、せいぜい鋼の水素取り込みを低減することが可能である。前処理段階(ストリップ洗浄、アニーリング)で既に取り込まれた水素は、もはやそこから逃げることができない。
【0010】
米国特許第8048285号明細書は、低い水素脆化を示す電解析出ZnNi層を記載している。低い水素脆化は、コーティングが水素に対して透過性であることに起因する。透過性は、電解Zn層へのNiの混合によって実現される。しかしながら、Niは、健康への有害な影響のために、使用されるべきではない。ZnNi被覆部品の溶接は、特に、発癌効果を有することが知られているNi含有溶接ヒュームを発生させる。
【0011】
欧州特許第3020842号明細書は、水素を特に内部酸化物層に閉じ込めることによって水素脆化を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国特許出願公開第20190077200号明細書
【特許文献2】米国特許第8048285号明細書
【特許文献3】欧州特許第3020842号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、水素脆化が低減された、亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティングを有する平鋼製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による目的は、鋼基材の少なくとも片面に亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティングを有する鋼基材を含む平鋼製品によって達成される。この防食コーティングは、鋼基材を周囲雰囲気に接続する連続マイクロチャネルを有する。
【0015】
マイクロチャネルの効果は、例えば亜鉛コーティングの前の前処理の過程で鋼基材内に拡散した拡散性水素が、防食コーティングを通して再び出現することができ、鋼基材内に封入されたままにならないことである。
【0016】
典型的には防食油で酸化から保護されるコーティングされていない平鋼製品をコーティングできるようにするために、前処理が必要である。前処理は、より具体的には、脱油(例えば、電解脱脂剤と組み合わせたアルカリ性脱脂剤)および表面処理工程または活性化工程(例えば、酸洗い)も含む。すべてのそのような工程において、拡散性水素は鋼基材によって取り込まれ得る。一般的な亜鉛コーティングは、この水素の脱気を妨げ、鋼基材中に結合したままにし、水素脆化をもたらす。本発明によるマイクロチャネルは、逆に、取り込まれた水素が脱気することを可能にする。
【0017】
1つの好ましい変形実施形態では、マイクロチャネルの密度は、1mm-1(すなわち、1mm当たり1チャネル)超、10mm-1(すなわち、100μm当たり1チャネル)、好ましくは50mm-1(すなわち、20μm当たり1チャネル)超、より具体的には100mm-1(すなわち、10μm当たり1チャネル)超である。マイクロチャネルの密度は、平鋼製品の垂直な金属研磨断面で決定される。画像認識を使用して、研磨断面の代表的な部分における連続マイクロチャネルの数を決定する。密度は、研磨断面の単位長さ当たり(平鋼製品の延在方向)の個数として求められる。鋼基材中の水素は比較的自由な移動度を有するため、水素の脱気を可能にするには低密度のマイクロチャネルで既に十分である。マイクロチャネルの密度が高くなるにつれて、水素拡散に対する防食コーティングのブロッキング効果が低下する。これは、脱気プロセスを促進するので有利である。
【0018】
1つの具体的な発展形態では、マイクロチャネルは、鋼基材の表面に対して実質的に垂直に延びる。このことは本出願の目的のためにすべてのマイクロチャネルの90%超が、垂直研磨断面においてそれぞれのマイクロチャネルの長さの70%超が鋼基材の表面に対して75°~105°の角度にあるような輪郭を有することを意味する。
【0019】
マイクロチャネルのこの輪郭の利点は、マイクロチャネルが、鋼基材から防食コーティングを通って周囲雰囲気まで比較的直接的に、すなわち短い経路を通って延びることである。これにより、マイクロチャネルを通る水素の迅速な拡散が保証される。
【0020】
1つの具体的な発展形態では、マイクロチャネルは、30°を超える、より具体的には35°を超える、好ましくは40°を超える半値全幅を有する角度分布を有する。マイクロチャネルの角度分布の半値全幅は、画像認識を使用して、研磨断面において隣接する少なくとも100個のマイクロチャネルについて最初に傾斜角を決定することによって決定される。この目的のために、各マイクロチャネルの基材に近い端部の中心点を確認し、それぞれのマイクロチャネルの基材から遠い端部の中心点に結ぶ。基材表面に対するこの接合線の角度は、このマイクロチャネルの傾斜角として指定される。したがって、正確に垂直なマイクロチャネルの場合、傾斜角は90°である。少なくとも100個の隣接するマイクロチャネルの傾斜角の頻度分布から、統計的評価を使用して半値全幅(FWHM)を決定する。30°を超える半値全幅は、マイクロチャネルがすべて互いに平行に延びるのではなく、代わりに実質的に75°~105°の範囲にわたって分布することを意味する。
【0021】
この角度分布にはいくつかの利点がある。第1に、傾斜したマイクロチャネルは、垂直なマイクロチャネルと比較してより長く、そのため、腐食媒体は基材に浸透することができない。したがって、耐食性はより良好である。第2に、様々な傾斜角を有するこの種の構造は、成形中に比較的高い負荷に耐える。形成中、比較すると、平行なマイクロチャネルを有する均一な配置は、コーティングの亀裂をより受けやすい。
【0022】
平鋼製品は、より具体的には、防食コーティングが1~20μmの厚さdを有するように開発される。厚さは5μm以上であることが好ましい。これとは無関係に、厚さは、より具体的には10μm以下である。より好ましくは、厚さは5~10μmである。1μm未満のコーティングは、典型的には、腐食からの十分な保護を提供しない。平鋼製品から製造された典型的な自動車部品では、製品寿命の終わりまでの十分な腐食保護が5μm以上のコーティング厚で達成される。厚さ20μmまでは、防食性が向上する。この厚さを超えると、もはや顕著な改善はない。さらに、過度に厚いコーティング(20μmを超える)は、相応してコーティング時間が長くなり、材料コストが高くなるため、好ましくない。
【0023】
平鋼製品の1つの具体的な発展形態では、防食コーティングは水素透過に対する90%以下、好ましくは80%以下のブロッキング効果Sを有する。
【0024】
水素透過のブロッキング効果は、DIN EN ISO 17081規格を使用して、Devanathan/Stachursky透過セルによって測定される。この構成では、片面が亜鉛でコーティングされたサンプルが2つの半電池の間にクランプされ、一方の電池はH負荷電池として機能し、他方の電池は測定電池として機能する。サンプルのコーティングされていない面をパラジウムでコーティングする。次いで、サンプルを、亜鉛めっき面がH負荷セルに面するように透過セルに設置する。0.2mのNaCl溶液が電解質として働く。試験溶液に、組換え阻害剤として20mg/lのチオ尿素を混合する。H負荷のカソード電流密度10mA/cmおよび試験温度50℃を選択した。この構成で負荷電流IZnを測定する。比較のために、負荷電流Iの同一の測定を、同一の脱亜鉛サンプルを用いて行う。ブロッキング効果は、以下のように定義される。
【0025】
【数1】
【0026】
基準サンプルに対する比の形成のために、ブロッキング効果について測定された値は、サンプルの幾何学的形状(サンプルのサイズおよび厚さ)およびパラジウムコーティングの厚さとは無関係である。
【0027】
より低いブロッキング効果の利点は、基材によって取り込まれた水素が防食コーティングを通って周囲雰囲気に効果的に逃げることができることである。
【0028】
1つの好ましい変形実施形態では、防食コーティングは、500秒未満、好ましくは150秒未満の水素透過時間を有する。水素透過時間は、コーティングされていない製品と比較して亜鉛コーティングされた平鋼製品について、Devanathan/Stachursky透過セルで生成された水素が検出されるまでさらに経過する時間である。
【0029】
平鋼製品の鋼基材は、より具体的には、高強度、好ましくは超高強度鋼である。これは、引張強度が590MPa超、より具体的には780MPa超であることを意味する。特に好ましくは、引張強度は1000MPa超、より具体的には1200MPa超である。基材の引張強度が高いほど、引張強度の上昇は水素脆化、したがって脆性破壊に対する感受性の増加を伴うので、本発明のコーティングはより関連性が高い。
【0030】
鋼基材は、特に多相鋼、より具体的には複合相鋼(CP)または二相鋼(DP)またはマルテンサイト相鋼(MS)で形成される。複合相鋼は、非常に大部分がベイナイトから構成される構造を有する。CP鋼は、高い引張強度を有するが、比較的低い変形能によって、複雑な形状を有する部品の設計を妨げる。二相鋼は、硬質構造成分(例えば、マルテンサイトおよび/またはベイナイト)と軟質構造成分(例えば、フェライト)との組み合わせから構成される構造を有する。DP鋼は、高強度と良好な変形性との組み合わせにより、複雑な部品に適している。
【0031】
1つの好ましい変形実施形態によれば、鋼基材は、以下の分析結果(wt%での数値)を有する多相鋼で構成される。
【0032】
C:0.06~0.25wt%
Si:0.01~2.00wt%
Mn:1.00~3.00wt%
以下の元素の1つまたは複数でもよい:
P:最大0.05wt%
S:最大0.01wt%
Al:最大1.00wt%
Cr:最大1.00wt%
Cu:最大0.20wt%
Mo:最大0.30wt%
N:最大0.01wt%
Ni:最大0.30wt%
Nb:最大0.08wt%
Ti:最大0.25wt%
V:最大0.15wt%
B:最大0.005wt%
Sn:最大0.05wt%
Ca:最大0.01wt%
【0033】
残りは鉄および不可避不純物である。
【0034】
鋼基材は、より具体的には、以下の分析結果(wt%での数値)を有する冷間圧延多相鋼である。
C:0.06~0.25wt%
Si:0.10~2.00wt%
Mn:1.50~3.00wt%
以下の元素の1つまたは複数でもよい:
P:最大0.05wt%
S:最大0.01wt%
Al:最大1.00wt%
Cr:最大1.00wt%
Cu:最大0.20wt%
Mo:最大0.30wt%
N:最大0.01wt%
Ni:最大0.20wt%
Nb:最大0.06wt%
Ti:最大0.20wt%
V:最大0.10wt%
B:最大0.005wt%
Sn:最大0.05wt%
Ca:最大0.01wt%
【0035】
残りは鉄および不可避不純物である。
【0036】
代替的な変形例では、鋼基材は、より具体的には、以下の分析結果(wt%での数値)を有する熱間圧延多相鋼である。
【0037】
C:0.06~0.25wt%
Si:0.01~2.00wt%
Mn:1.00~3.00wt%
以下の元素の1つまたは複数でもよい:
P:最大0.05wt%
S:最大0.005wt%
Al:最大1.00wt%
Cr:最大1.00wt%
Cu:最大0.20wt%
Mo:最大0.30wt%
N:最大0.01wt%
Ni:最大0.25wt%
Nb:最大0.08wt%
Ti:最大0.25wt%
V:最大0.15wt%
B:最大0.005wt%
Sn:最大0.05wt%
Ca:最大0.01wt%
【0038】
残りは鉄および不可避不純物である。
【0039】
1つの好ましい変形実施形態では、防食コーティングは物理蒸着(PVD)によって塗布される。この目的のために、最初に固体または液体形態で存在するコーティング材料は、通常、物理的プロセスによって気化される。これは、例えば、コーティング材料を直接加熱することによって(例えば電気アークを介して)、電子もしくはイオンのビームを照射することによって、またはレーザービームを照射することによって熱的に達成することができる。気化したコーティング材料の蒸気粒子がコーティングされるワークピースに到達することができ、周囲雰囲気中のガス粒子との衝突によってコーティングで失われないように、PVDコーティングのためのプロセスは、低大気圧下のコーティング室内で実行される。
【0040】
このコーティングプロセスは、様々な利点を有する。第1に、そのようなプロセスの既知の特徴は、本質的に、それらが出発基材に水素をほとんど、または全く導入しないことである。第2に、鋼基材を過度に加熱する必要はない。溶融亜鉛めっきの場合、例えば、鋼基材は、必然的に460℃(亜鉛浴温度)を超える温度に加熱される。しかしながら、これらの温度では、基材構造の硬質成分、より具体的にはマルテンサイトが焼鈍され、それによって鋼基材の特性が失われる。これは、特に鋼基材としてのDP鋼の場合に特に関連する。全体として、試験は、適切に高い引張強度を有する上記の鋼基材のすべてを、蒸着によって欠陥なくコーティングすることができることを示している。
【0041】
本発明による目的は、同様に、上述の平鋼製品を製造するためのプロセスによって達成される。このプロセスは、
【0042】
鋼基材を製造または提供するステップと、
任意選択的に、鋼基材を脱油するステップと、
任意選択的に、鋼基材を酸洗いするステップと、
亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティングを物理蒸着によって鋼基材に塗布するステップと
【0043】
を含み、防食コーティングが厚さdを有し、防食コーティングの塗布時のコーティング速度rに対する防食コーティングの厚さdの比は1000秒未満、好ましくは800秒未満である。
【0044】
言い換えれば、
【0045】
【数2】
【0046】
、好ましくは
【0047】
【数3】
【0048】
この比が特に小さい場合、水素透過に対する低いブロッキング効果が得られることが試験により示されている。
【0049】
特定の特に好ましい実施形態では、比
【0050】
【数4】
【0051】
は10秒未満、より具体的には5秒未満、好ましくは2.0秒未満、より具体的には1.5秒未満、非常に好ましくは1.0秒未満である。したがって、短時間で、かなりの厚さ(好ましくは5~10μmの厚さ)を有するが、それにもかかわらず水素透過に対する非常に低いブロッキング効果を有する防食コーティングを塗布することが可能である。したがって、このプロセスは、長い鋼帯の連続コーティングに非常に適している。
【0052】
特に、このプロセスは、防食コーティングの塗布時の鋼基材の温度が50℃を超える、好ましくは100℃を超える、非常に好ましくは150℃を超える、より具体的には200℃を超えるように開発される。このプレコンディショニングは、十分なコーティング接着性を達成するために有利であることが明らかになった。これに関連して、SEP1931によるボール衝撃試験によって、コーティング接着性が十分であるかどうかの判定を行った。ボール衝撃試験中にコーティングの剥がれがあった場合は、コーティング接着性が「不良(不可)」と分類した。剥がれがない場合は、コーティング接着性は「良好(可)」と分類した。
【0053】
1つの好ましい実施形態によれば、亜鉛および不可避不純物から構成される防食コーティングが、コーティング室内に鋼基材を設けることによって物理蒸着によって鋼基材に塗布されることが提供され、コーティング室内の圧力は調整される。ここで、コーティング材料としての亜鉛は、ある温度に調整された状態で、流入点においてコーティング室に流入される。
【0054】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、温度がコーティング材料の露点を上回るように、圧力および温度が調整されることが提供される。コーティング材料の露点を超える温度では、コーティング材料はその気相中に存在する。圧力を適合させると、例えば上昇させると、例では、より高い温度に向かって露点が変位する。温度の対応するその後の調節は、コーティング材料が気体形態で存在することを確実にする。
【0055】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、圧力が1mbar~100mbar、好ましくは10mbar~100mbarに調整されることが提供される。これにより、コーティング室内の粒子の散乱によってコーティングでコーティング材料がほとんど失われないことが保証される。同時に、圧力は、例えば鋼帯のコーティングの場合のように、工業プラントにおける商業的適用の過程で実現することができる範囲内である。
【0056】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、コーティング材料に加えて、不活性ガスをさらなる流入点でコーティング室に流入させ、選択される圧力がコーティング材料の分圧および不活性ガスの分圧から構成される全圧であり、コーティング材料の分圧および不活性ガスの分圧が圧力を調整するために調整されることが提供される。コーティング材料の分圧がスリップ流または連続流に十分でない場合、不活性ガスを介して、スリップ流または連続流が存在する程度まで全圧を増加させることが可能である。さらなる流入点が流入点から除去されることが考えられる。しかしながら、コーティング材料を不活性ガスとの混合物としてコーティング室に流入させることも考えられる。
【0057】
以下の表は、圧力と温度の組み合わせのいくつかの例を示すことを意図している。表の計算された露点は、コーティング材料としての亜鉛に関するものである。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、窒素および/またはアルゴンが不活性ガスとして使用されることが提供される。窒素およびアルゴンは、不活性ガスとして非常に適している。両方のガスは、PVDコーティングに悪影響を及ぼさず、さらに、コーティング室をパージするのに適している。
【0060】
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、コーティング材料の冷却を防止するために、不活性ガスが、より詳細には流入点の前に予熱されることが提供される。
【0061】
本発明は、図面を使用してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】防食コーティングを有する平鋼製品の概略図である。
図2】防食コーティングを有する平鋼製品の研磨断面の画像である。
図3】マイクロチャネルの概略詳細図である。
図4】マイクロチャネルの概略詳細図である。
図5】マイクロチャネルの角度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図1は、平鋼製品13の概略図を示す。平鋼製品13は、鋼基材15と、鋼基材15の片面に防食コーティング17とを備える。防食コーティング17は、亜鉛および不可避不純物から構成される。防食コーティング17は、鋼基材15を周囲雰囲気21に接続する連続マイクロチャネル19を有する。(より明確にするために、示された18個のマイクロチャネルのうち、最も右側に配置されたマイクロチャネルのみに参照符号が付されている。)
【0064】
図2は、平鋼製品13の垂直研磨断面を示す。これは、以下に説明する表1の番号10の例示的な実施形態である。平鋼製品13は、以下に示す分析結果Aを有する冷間圧延多相鋼で構成された鋼基材15を含む。
【0065】
C:0.11wt%
Si:0.43wt%
Mn:2.44wt%
以下の元素の1つまたは複数でもよい:
P:0.01wt%
S:0.002wt%
Al:0.03wt%
Cr:0.62wt%
Cu:0.05wt%
Mo:0.07wt%
N:0.004wt%
Ni:0.05wt%
Nb:0.038wt%
Ti:0.022wt%
V:0.007wt%
B:0.0013wt%
Sn:0.02wt%
Ca:0.002wt%
【0066】
残りは鉄および不可避不純物である。
【0067】
平鋼製品13は、鋼基材15の片面に防食コーティング17をさらに備える。防食コーティング17は、9μmの厚さdを有し、亜鉛および不可避不純物から構成される。防食コーティング17は、鋼基材15を周囲雰囲気21に接続する連続マイクロチャネル19を有する。(より明確にするために、ここでもマイクロチャネルの1つのみに参照符号が付されている。)示されている画像の詳細には、100μmまたは290mm^-1当たり29チャネルの密度に対応する約27個のマイクロチャネルがある。
【0068】
以下の表は、いくつかの例示的な実施形態およびそれらの製造に関連するプロセスパラメータを示す。さらに、すべてのサンプルについて、コーティング接着性をSEP1931ボール衝撃試験によって決定した。なお、ボール衝撃試験中にコーティングの剥がれが発生した場合は、コーティング接着性が「不良(不可)」と分類した。剥がれがない場合は、コーティング接着性は「良好(可)」と分類した。
【0069】
すべての例示的な実施形態において、使用された基材は、1.8mmの厚さを有する鋼ブランクであった。この鋼ブランクは、図2を参照して示される分析結果を有する鋼で構成されていた。
【0070】
例1は、ブロッキング効果Sを決定するために使用された基準サンプルである。サンプル1~10は、蒸着(PVD)によってコーティングされた。例2~8の場合、亜鉛コーティング材料を溶融および蒸発させるために電子ビーム蒸発器を使用した。例示的な実施形態9および10の場合、亜鉛コーティング材料を電気アークによって溶融および蒸発させた。例2~5を室温(すなわち、50℃未満)の基材温度でコーティングした。これらの場合、0.5μm~12μmの異なる厚さを有する防食コーティングが生成された。4つすべての場合において、コーティング接着性は不十分であった。例6~8の場合、基材を200℃の温度にプレコンディショニングした。8nm/sのコーティング速度で、1~8μmのコーティング厚さが生成された。サンプル6および7は、良好なコーティング接着性だけでなく、良好な水素透過性も示す。サンプル9および10の場合、基材を240℃の温度にプレコンディショニングした。それぞれ7000nm/sおよび10000nm/sの著しく高いコーティング速度で、6.5μmおよび9μmのコーティング厚が生成された。サンプル9および10は、良好なコーティング接着性だけでなく、良好な水素透過性も示す。比較として、サンプル11および12を電解亜鉛めっきした。また、サンプル12は、保護ガス雰囲気中において、温度200℃で60分間保持することにより熱後処理した。いずれの場合も、得られたブロッキング効果Sは極めて高いため、導入された水素は基材内に残留する。したがって、これらのサンプルは水素脆化を受けやすい。
【0071】
【表2】
【0072】
図3は、防食コーティング17内のマイクロチャネル19の概略詳細を示す。マイクロチャネル19は、鋼基材15を周囲雰囲気に接続する。マイクロチャネル19は、鋼基材15の表面23に対して実質的に垂直に延びる。示されたマイクロチャネル19の底部3分の1は、鋼基材15の表面23に対して110°の角度で延びる。これは、鋼基材15の表面23と接線27との間の角度25によって示されている。接線27は、マイクロチャネル19の底部3分の1の輪郭に適合する。さらなる輪郭において、マイクロチャネルは右に湾曲し、最初はほぼ垂直に延び、次いで鋼基材15の表面23に対して約70°の角度で延び、その後、漏斗のようにマイクロチャネル19が防食コーティングの表面まで漏斗のように膨張する。漏斗状膨張の領域における輪郭は、同様に鋼基材15の表面23に対してほぼ垂直である。底部3分の1と同様に、それぞれの角度は、接線をフィッティングし、表面23に対する接線の角度を決定することによって決定される。より明確にするために、底部3分の1の輪郭に適合する接線27のみが示されている。
【0073】
図4は、防食コーティング17内のマイクロチャネル19の概略詳細を示す。マイクロチャネル19は、鋼基材15を周囲雰囲気に接続する。マイクロチャネル19は、傾斜角31を有する。傾斜角31は、マイクロチャネル19の基材に近い端部の中心点を確認し、それをマイクロチャネル19の基材から遠い端部の中心点に接続することによって決定される。この接続線19の基材表面23に対する角度は、マイクロチャネル19の傾斜角31と呼ばれる。
【0074】
図5は、傾斜角のヒストグラムの形態のマイクロチャネルの角度分布を示す。それぞれの範囲内で決定された傾斜角の数がプロットされている。選択された段階幅は5°である。合計930個のマイクロチャネルを評価した。半値全幅は42°である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】