(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】腎臓オルガノイド培養及び移植のための脱細胞腎臓組織由来支持体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20231207BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20231207BHJP
【FI】
C12N1/00 F
C12N5/077
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528975
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 KR2021016827
(87)【国際公開番号】W WO2022108315
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】10-2020-0153719
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0157357
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522011562
【氏名又は名称】セルアートジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユ フン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,イ ソン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB23
4B065BC31
4B065BC46
4B065BD01
4B065BD11
4B065BD45
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、脱細胞腎臓組織(Kidney Extracellular Matrix;KEM)を利用した腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix;KEM)を利用した腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体。
【請求項2】
前記腎臓組織由来細胞外基質は、Triton X-100及び水酸化アンモニウムを混合した溶液を利用して製造されたものである、請求項1に記載の支持体。
【請求項3】
前記支持体内の前記腎臓組織由来細胞外基質の濃度は、1mg/ml~10mg/mlである、請求項1に記載の支持体。
【請求項4】
1)分離された腎臓組織を破砕するステップと、
2)前記破砕された腎臓組織にTriton X-100及び水酸化アンモニウムを処理して脱細胞し、脱細胞された腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を製造するステップと
を含む腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体製造方法。
【請求項5】
前記ステップ2)の後、3)前記脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を凍結乾燥して凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質を製造するステップをさらに含む、請求項4に記載の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体製造方法。
【請求項6】
前記ステップ3)の後、4)前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をハイドロゲル形態の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体に形成するステップをさらに含む、請求項5に記載の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体製造方法。
【請求項7】
前記ステップ4)は、前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をペプシン溶液に溶解させて溶液化した後、pHを調整してハイドロゲル化する、請求項6に記載の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体製造方法。
【請求項8】
請求項1の支持体又は請求項4の製造方法により製造された支持体において腎臓オルガノイドを培養する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓オルガノイド培養及び移植のための脱細胞腎臓組織由来支持体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の2次元細胞培養法は、実際の生体内の微小環境を具現するのに限界があるため、培養効率が低く、よって、2D細胞株は体外モデルとして限界がある。このような限界点を改善するための新たな方案として、最近、3次元オルガノイド培養技術が大きな脚光を浴びており、オルガノイドは、新薬スクリーニング、薬物毒性評価、疾患モデリング、細胞治療剤、組織工学など様々な臨床的適用が可能な組織類似体であって、全世界的に急激に成長している技術である。オルガノイドは、3次元構造体内に人体の特定の臓器及び組織を構成する様々な細胞からなっているだけでなく、それらの間の複合的な相互作用を具現できるため、単なる2D細胞株モデルや動物モデルのような既存に主に利用されていた薬物評価モデルと比べて遥かに正確な体外モデルプラットフォームとして適用可能である。
【0003】
全世界的に様々な臓器由来オルガノイドプラットフォームが構築されており、現在までも関連研究が活発に進行中であるが、現在までオルガノイドを培養するために培養支持体として共通してマトリゲル(Matrigel)製品を利用している。しかし、マトリゲルはマウスの肉腫癌組織から抽出した成分であるため、製品の品質を均一に維持することが難しく、高価であり、動物由来の感染菌及びウイルス転移など安全性の面で問題があるので、オルガノイド培養システムとしてのマトリゲルは、解決しなければならない多くの問題点を有している。特に、癌組織由来の素材として特定組織オルガノイドを培養するために必要な最適の組織特異的微小環境を提供してくれない。マトリゲルを代替するための高分子ベースのハイドロゲルの開発研究が一部進行されてきたものの、未だにマトリゲルを代替できるようなレベルの素材は報告されていない。
【0004】
腎臓オルガノイドは、腎臓組織から成体幹細胞を抽出して培養するか、ヒト人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞のような多能性幹細胞から製作することができる。しかし、腎臓オルガノイド培養のために使用されるマトリゲルは、生体内の複合的な腎臓組織特異的微小環境を具現できないため、腎臓オルガノイド分化効率及び機能を向上させる必要がある。従って、より成熟で且つ機能的な腎臓オルガノイドを製作するための新たな培養システムの開発が切実に求められている。
【0005】
末期腎不全、慢性腎炎など難治性腎臓疾患は、適当な治療剤がなく、患者が一生血液透析を続けなればならないか、腎臓移植を受けなければならないため、日常生活が困難になって患者の生活の質が大きく低下し、腎臓移植後も免疫抑制剤の服用及び副作用によって大きく苦痛を受ける深刻な疾患である。よって、腎臓疾患治療薬を開発するための精密な体外モデルとしての腎臓オルガノイドを効率的に培養できるシステムの開発は、保健医療の観点で非常に重要なイシューである。
【0006】
本発明においては、腎臓組織の脱細胞工程を通じて腎臓組織特異的細胞外基質成分により構成されたハイドロゲルマトリックスを製作し、それを腎臓オルガノイド培養に適用した。既存の臓器の脱細胞方法と比べて、本発明においては、脱細胞工程を単純化することで、マトリックスの製作過程が非常に容易なだけでなく、腎臓組織特異的細胞外基質成分及び成長因子が良く保存されて、腎臓オルガノイドの効率的な生長及び分化を誘導できることが確認され、既存のマトリゲルを代替できる培養マトリックスとしての可能性を検証した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ブタ腎臓組織を化学的処理することにより多量の脱細胞組織を得て、それを基にハイドロゲル支持体を製作して腎臓オルガノイド培養に適用するためのものである。
【0008】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、上記したような課題に限定されるものではなく、言及されていない他の課題は、以下の記載から当業者にとって明確に理解できるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix; KEM)を利用した腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体を提供する。
【0010】
本発明の一具体例において、前記腎臓組織由来細胞外基質は、Triton X-100及び水酸化アンモニウムを混合した溶液を利用して製造されたものであっても良い。
【0011】
本発明の一具体例において、前記支持体内の前記腎臓組織由来細胞外基質の濃度は、1mg/ml~10mg/mlであっても良い。
【0012】
本発明の他の一態様は、1)分離された腎臓組織を破砕するステップと、2)前記破砕された腎臓組織にTriton X-100及び水酸化アンモニウムを処理して脱細胞し、脱細胞された腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を製造するステップとを含む腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体製造方法を提供する。
【0013】
本発明の一具体例において、前記ステップ2)の後、3)前記脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を凍結乾燥して凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質を製造するステップをさらに含んでいても良い。
【0014】
本発明の一具体例において、前記ステップ3)の後、4)前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をハイドロゲル形態の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体に形成するステップをさらに含んでいても良い。
【0015】
本発明の一具体例において、前記ステップ4)は、前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をペプシン溶液に溶解させて溶液化した後、pHを調整してハイドロゲル化するものであっても良い。
【0016】
本発明の他の一態様は、前記支持体又は前記製造方法により製造された支持体において腎臓オルガノイドを培養する方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明において開発された脱細胞支持体を利用すれば、腎臓オルガノイドの効率的な培養が可能になるので、様々な問題点を持つ既存のマトリゲルを代替して新薬開発、薬物毒性及び有効性評価、患者にカスタマイズされた薬物の選別など医療産業分野において広範囲に活用可能になることが期待される。これにより、保健社会的に国民の生活の質の向上と共に経済/産業的にも大きな付加価値を創出することが見込まれる。
【0018】
脱細胞腎臓組織由来人工マトリックス支持体は、様々な難治性腎臓疾患(急性/慢性腎炎、腎不全など)を体外で具現し、その機転を明らかにする疾病モデリングの研究及び移植治療プラットフォームの構築など様々な分野で広範囲に利用可能になることが期待される。このような難治性腎臓疾患は、最近有病率が大きく増加しており、多くの研究が必要な状況であるので、関連基礎研究のための研究用素材としても収益創出が可能である。
【0019】
腎臓オルガノイドは、疾患モデルだけでなく、再生医学的な目的の細胞治療剤及び組織再生治療剤として無限な可能性を有する。末期腎不全患者の場合、血液透析により日常的に生活することができないが、本発明において開発された脱細胞腎臓由来支持体を利用した腎臓オルガノイド移植治療を通じて根本的な腎臓疾患の治療が可能になれば、患者の生活の質を大きく向上させることができ、関連費用を大きく節減することができる。
【0020】
本発明において開発された人工支持体は、幹細胞由来腎臓オルガノイドだけでなく、腎臓癌オルガノイド培養にも適用が可能であるので、難治性疾患及び癌患者にカスタマイズされた疾患モデルの構築に寄与し、精密医学プラットフォーム技術としても活用されることができ、最近急増している精密医学市場の規模を考慮すれば、莫大な付加価値の創出が可能になると期待される。
【0021】
総合すると、上述したように、腎臓オルガノイドの培養及び応用のために必須に要求されるマトリゲルと比べて、本発明において開発された人工支持体は、培養システムとしてマトリゲル以上の機能性を有し、より安全で且つコスト面でも非常に有利な長所を有している。よって、このようなマトリゲルの代替効果だけでも莫大な経済的収益の創出が予測される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix;KEM)支持体の製作過程を示すものである。
【
図2】腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEM支持体を分析した結果を示すものである。
【
図3】脱細胞腎臓組織由来ハイドロゲル支持体のKEM濃度に応じた物性を分析した結果を示すものである。
【
図4】腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix、KEM)のタンパク体を分析した結果を示すものである。
【
図5】腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix、KEM)とマトリゲルのタンパク体を比較分析した結果を示すものである。
【
図6】腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体の最適な濃度選定のための分析結果を示すものである。
【
図7】脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体で培養された腎臓オルガノイドの増殖及び分化マーカー発現分析(細胞免疫染色分析)結果を示すものである。
【
図8】脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体で形成された腎臓オルガノイドの成長様相を示すものである。
【
図9】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)で長期培養した腎臓オルガノイドを分析した結果を示すものである。
【
図10】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の長期保管可能性を検証した結果を示すものである。
【
図11】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の長期保管可能性を検証した結果を示すものである。
【
図12】腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の組織特異的効果を確認した結果である。
【
図13】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)で培養された腎臓オルガノイドの機能性を分析した結果を示すものである。
【
図14】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)で培養された腎臓オルガノイドを利用して腎線維症モデルを製作した結果である。
【
図15】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix、KEM)支持体の生体適合性を確認した結果である。
【
図16】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)を利用した腎臓オルガノイドの生体内への移植結果を示すものである。
【
図17】脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)を利用した腎臓オルガノイドの生体内への移植結果を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下では、添付した図面を参照しながら本発明を説明することとする。ところが、本発明は様々な異なる形態に具現されることができ、よって、ここで説明する実施例に限定されるものではない。ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0024】
他に定義されない限り、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質工学、及びDNA序列分析及び当業者の能力範囲内において再組合DNA分野で良く使用される通常の技術によって行われても良い。上記技術は当業者に知られており、多くの標準化された教材及び参考文献に記述されている。
【0025】
本明細書に他に定義されていなければ、使用された全ての技術及び科学用語は、当業界において通常の技術者が通常理解するところと同じ意味を有する。
【0026】
本明細書に含まれる用語を含む様々な科学辞典が良く知られており、当業界において利用可能である。本明細書に説明されたことと類似又は等価の任意の方法及び物質が本願の実行又は試験に使用されており、いくつかの方法及び物質が説明されている。当業者が使用する脈絡により様々に使用され得るため、特定の方法学、プロトコル及び試薬に本発明が限定されるものではない。以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0027】
本発明の一態様は、腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix;KEM)を利用した腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体を提供する。
【0028】
前記「細胞外基質(extracellular matrix)」は、哺乳類及び多細胞生物(multicellular organisms)から発見された組織の脱細胞化を通じて製造された細胞成長用の自然支持体を意味する。前記細胞外基質は、透析又は架橋化によりさらに処理しても良い。
【0029】
前記細胞外基質は、コラーゲン(collagens)、エラスチン(elastins)、ラミニン(laminins)、グリコサミノグリカン(glycosaminoglycans)、プロテオグリカン(proteoglycans)、抗菌剤(antimicrobials)、化学誘引物質(chemoattractants)、サイトカイン(cytokines)、及び成長因子に制限されない、構造型及び非構造型生体分子(biomolecules)の混合物であっても良い。
【0030】
前記細胞外基質は、哺乳動物において様々な形態として約90%のコラーゲンを含んでいても良い。様々な生体組織から由来した細胞外基質は、各々の組織に必要な固有の役割のため全体の構造体及び組成が異なっていても良い。
【0031】
前記「由来(derive)」、「由来した(derived)」は、有用な方法により言及した源泉から得られた成分を意味する。
【0032】
本発明の一具体例において、前記腎臓組織由来細胞外基質は、Triton X-100及び水酸化アンモニウムを混合した溶液を利用して製造されたものであっても良い。
【0033】
本発明の一具体例において、前記支持体内の前記腎臓組織由来細胞外基質の濃度は、1mg/ml~10mg/ml、具体的には1mg/ml~7mg/mlであっても良い。前記腎臓細胞外基質の濃度の例示として、1mg/ml~7mg/ml、1mg/ml~5mg/ml、1mg/ml~3mg/ml、3mg/ml~7mg/ml、3mg/ml~5mg/ml又は5mg/ml~7mg/mlであっても良く、一実施例において、1mg/ml、3mg/ml、5mg/ml又は7mg/mlであっても良い。上記範囲外の濃度で含まれる場合、本発明が目的とする効果が得られない。
【0034】
前記支持体は、脱細胞化することで得られた腎臓組織由来細胞外基質を基に製造した3次元ハイドロゲルを含み、腎臓オルガノイドの培養に効果的に活用されることができる。
【0035】
前記脱細胞化された腎臓組織は、実際の組織特異的細胞外基質成分を含んでいるので、当該組織の物理的、機械的、生化学的環境を提供することができ、腎臓組織細胞への分化及び組織特異的機能性を増進させるのに非常に効率的である。
【0036】
前記「オルガノイド(organoid)」は、組織又は多能性幹細胞から由来した細胞を3D形態で培養し、人工臓器のような形態に製作した超小型生体器官を意味する。
【0037】
前記オルガノイドは、幹細胞から発生し、生体内状態と類似した方式で自己組織化(又は自己パターン化)する臓器特異的細胞を含む3次元組織類似体であり、制限された要素(Ex.growth factor)パターニングによって特定の組織に発達し得る。
【0038】
前記オルガノイドは、細胞の本来の生理学的特性を有し、細胞混合物(限定された細胞類型だけでなく残存幹細胞、近接生理学的ニッチ(physiological niche)を全て含む)の元の状態を模倣する解剖学的構造を有していても良い。前記オルガノイドは、3次元培養方法を通じて細胞と細胞の機能がより良く配列され、機能性を有する器官のような形態と組織特異的機能を有していても良い。
【0039】
本発明の他の一態様は、1)分離された腎臓組織を破砕するステップと、2)前記破砕された腎臓組織にTriton X-100及び水酸化アンモニウムを処理して脱細胞し、脱細胞された腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を製造するステップとを含む腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体製造方法を提供する。
【0040】
前記ステップ1)は、分離された腎臓組織を破砕するステップであって、前記腎臓組織は、公知の動物から分離されたものであっても良く、前記動物の具体的な例示として、ウシ、ブタ、サル、ヒトなどであっても良い。また、本発明においては、前記分離された腎臓組織を破砕してから脱細胞処理するため、脱税胞の効率が高い。分離された腎臓組織を破砕する方法は、公知の方法からなっていても良い。本発明は、前記腎臓組織を破砕して脱細胞工程を経たため、より効率的で且つ高いレベルの細胞除去が可能である。
【0041】
前記ステップ2)は、前記破砕された腎臓組織にTriton X-100及び水酸化アンモニウムを処理して脱細胞し、脱細胞された腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を製造するステップである。本発明は、既存の脱細胞方式とは異なり、Triton X-100及び水酸化アンモニウムのみを処理し、組織損傷を最小化することによって、腎臓組織内の様々なタンパク質がより多く保存されることができる。具体的な例示として、破砕された腎臓組織をTriton X-100及び水酸化アンモニウムと共に撹拌しながら脱細胞工程が行われても良い。
【0042】
本発明の一具体例において、前記ステップ2)の後、3)前記脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を凍結乾燥して凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質を製造するステップをさらに含んでいても良い。
【0043】
前記ステップ3)は、前記脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を凍結乾燥して凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質を製造するステップである。前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質は、滅菌のために、乾燥後に電子ビーム、ガンマ放射線、エチレンオキサイドガス又は超臨界二酸化炭素に露出させても良い。
【0044】
本発明の一具体例において、前記ステップ3)の後、4)前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をハイドロゲル形態の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体に形成するステップをさらに含んでいても良い。
【0045】
前記ステップ4)は、前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をハイドロゲル形態の腎臓オルガノイド培養及び移植用支持体に形成するステップである。前記ステップは、ゲル化(gelation)を通じて行われても良く、具体的には、前記凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質をペプシン溶液に溶解させて溶液化した後、pHを調整してハイドロゲル化するものであっても良い。前記脱細胞腎臓組織由来細胞外基質を架橋させて3次元ハイドロゲル形態の支持体を製作しても良く、ゲル化された支持体は、実験、スクリーニングだけでなくオルガノイド培養と係わる分野において様々に活用されることができる。
【0046】
前記「ハイドロゲル」は、ゾル-ゲル相変異を通じて水を分散媒にする液体が固くなり流動性を失くし、多孔性構造をなす物質であって、3次元網目構造と未結晶構造を有する親水性高分子が水を含有して膨張することにより形成されても良い。
【0047】
前記ゲル化は、凍結乾燥腎臓組織由来細胞外基質を酸性溶液においてペプシン又はトリプシンのようなタンパク質分解酵素で溶液化し、pHを調整、具体的に、10×PBSと1MのNaOHを利用して中性のpHと1×PBSバッファの電解質状態に合わせ、37℃の温度で30分間行われるものであっても良い。
【0048】
本発明の他の一態様は、前記支持体又は前記製造方法によって製造された支持体で腎臓オルガノイドを培養する方法を提供する。
【0049】
既存のマトリゲルベースの培養システムは、動物癌組織由来の抽出物であって、バッチ(BATCH)間の差が大きく、実際の肝の環境を疑似できておらず、腎臓オルガノイドに分化、発達される効率が不十分であるのに対し、前記支持体は、腎臓組織類似環境を造成することができるので、腎臓オルガノイド培養において適合である。
【0050】
前記培養は、適合な条件で細胞を維持及び成長させる過程を意味し、適合な条件とは、例えば、細胞が維持される温度、栄養素可用性、大気中のCO2含量及び細胞密度を意味しても良い。
【0051】
互いに異なる類型の細胞を維持、増殖、拡大及び分化させるための適切な培養条件は当該技術分野において公知になっており、文書化されている。前記オルガノイドの形成に適合な条件は、細胞分化及び多細胞構造の形成を容易にするか、許容する条件であっても良い。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明において開発された脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体は、最小化された化学的処理方式を通じて製作が可能であるため、既存の脱細胞方式で製造された支持体と比べて組織特異的成分の損傷が少なく、製作時間及び費用節減の側面でより効率的であり、大量生産も容易である長所がある。よって、既存の脱細胞マトリックスと比べて商用化の側面でより有利であると見込まれる。
【0053】
本発明において開発された脱細胞腎臓組織由来支持体は、免疫原性を有する細胞が全て除去されているのに対し、実際の腎臓組織に含有された様々な細胞外基質成分及び成長因子は良く保存されていることが確認された。タンパク体分析を通じて腎臓組織に重要な細胞外基質成分及び関連タンパク質を把握した。よって、脱細胞腎臓組織由来マトリックスは、腎臓組織特異的微小環境を提供することで、腎臓オルガノイドの効率的な培養を可能にした。
【0054】
実際に、本発明においては、開発された脱細胞腎臓組織由来ハイドロゲル内で腎臓オルガノイドの形成と分化が成功的に誘導されることが確認された。様々な細胞外基質濃度の脱細胞支持体を製作し、これを腎臓オルガノイド培養に適用して、最も効率的な腎臓オルガノイドの培養が可能な最適の濃度条件を選定した。
【0055】
開発された脱細胞支持体で培養した腎臓オルガノイドと対照群として使用されたマトリゲル支持体で培養した腎臓オルガノイドとを比較分析した際、脱細胞支持体で培養した腎臓オルガノイドの分化がより増進されたことが確認された。このような結果を基に、脱細胞支持体で培養した腎臓オルガノイドの方が、既存の方式で培養した腎臓オルガノイドよりも実際の腎臓組織をより正確で且つ精密に再現できることが確認された。結果的に、脱細胞腎臓組織由来支持体が実際に腎臓オルガノイドの効率的な分化と発達に寄与することが確認されたので、マトリゲルの代替財としての可能性を示している。
【0056】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるだけであり、下記実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0057】
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix;KEM)支持体の製作(図1)
腎臓オルガノイド培養支持体を製作するために、ブタ腎臓組織を脱細胞工程処理することで細胞外基質基盤支持体(Kidney Extracellular Matrix;KEM)を製作した。本発明において使用された脱細胞工程は、既存の方式よりも緩和された条件である1%のTriton X-100と0.1%のammonium hydroxideを混合した溶液のみを使用するという点で既存の脱細胞方法と差別化を図っており、よって、組織損傷を最小化することで、腎臓組織内の様々な細胞外基質及び成長因子タンパク質をより多く保存することができた。また、腎臓組織を細かく切ってから脱細胞化処理を行ったため、組織からより効果的で且つ確実に細胞成分(DNA)を除去できるという長所があった。
【0058】
(A)ブタ腎臓組織を小さい片に切った後、一連の化学的処理を経て組織内の殆どの細胞を除去することで脱細胞化を行った。その後、これを凍結乾燥してパウダー状の脱細胞腎臓組織マトリックス(Lyophilized KEM)を製作した。
【0059】
(B)腎臓組織の細胞外基質を含有するパウダー状の脱細胞腎臓組織マトリックス(Lyophilized KEM)10mgに4mg/mlのペプシン溶液(ブタ胃粘膜由来ペプシンパウダー4mgを0.02MのHCL1mlに溶かした溶液)を処理した後、常温で48時間溶液化した。10×PBSと1MのNaOHを溶液化されたKEMに適当な割合で添加し、均一に交ぜることで細胞培養が可能な中性のpHと1×PBSバッファの電解質状態に合わせた。最後に、インキュベータ内37℃の温度条件において30分間ゲル化(gelation)を誘導した。ガラス容器においてゲル化を誘導して形成されたKEMハイドロゲルが容器を覆しても流れ落ちないことから、温度に応じた架橋反応を通じて固形化したハイドロゲルが製造されたことが確認された。
【0060】
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEM支持体の分析(図2)
ブタの腎臓組織から脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)を製作し、特性を分析した。
【0061】
(A)H&E組織染色分析を通じて、脱細胞過程の後、組織の細胞核が殆ど除去されたのに対し、全般的な構造は良く維持されていることが確認された。また、Masson’s Trichrome染色を通じて、collagenも良く保存されていることが確認され、Alcian blue染色を通じて、GAG成分が良く保存されて維持されていることが確認された。
【0062】
(B)脱細胞過程後も腎臓組織のECMタンパク質が良く保存されているか否かを確認するために、免疫染色を行った。脱細胞工程の後もfibronectinとlamininのような主要ECMタンパク質が良く維持されていることが確認された。
【0063】
(C)走査電子顕微鏡(Scanning electron microscopy、SEM)を利用して脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲルの内部構造を観察した際、コラーゲンナノファイバー特異的な多孔質微細構造により構成されていることが確認された。よって、KEMハイドロゲルが腎臓オルガノイド培養に適した構造的な微小環境を提供することができると思われる。
【0064】
(D)脱細胞前の腎臓組織(Native)と脱細胞後の腎臓組織(Decell)に対してDNA定量とGAG(Glycosaminoglycans)定量分析を実施した。脱細胞前後の結果を比較した際、脱細胞工程の後にDNAが96.8%以上除去されており、効率的に細胞が除去されたことが確認された。また、脱細胞工程の後もGAGは実際の腎臓組織と類似した水準で良く保存されていることが確認され、collagenも良く維持されて存在することが確認された。
【0065】
脱細胞腎臓組織由来ハイドロゲル支持体のKEM濃度に応じた物性の分析(図3)
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(KEM)を利用して4つの濃度のハイドロゲル支持体を製作した後、各濃度に応じた物性の変化を測定した。全ての濃度条件におけるゲルは37℃のインキュベータで30分間の架橋反応を通じて製作された。最も低い濃度である1mg/mlの濃度条件を含む全ての濃度条件においてstorage modulus(G’)値がloss modulus(G”)値よりも一貫して高いことが確認された。これにより、ハイドロゲル内の架橋を通じて安定的な高分子ネットワークが形成されることが確認され、KEM濃度が増加するほど機械的物性(modulus)も大きくなることが確認された。
【0066】
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEM支持体のタンパク体の分析(図4)
脱細胞腎臓組織由来KEM支持体に含有された細胞外基質成分を確認するために、タンパク体分析(Proteomics)を実施した。
【0067】
タンパク体分析を通じて製作された脱細胞腎臓組織由来支持体であるKEMハイドロゲルには、様々な種類のcollagens、glycoproteins、proteoglycansなどの細胞外基質成分が含まれており、その他にも、組織内の細胞から分泌され、主に細胞外基質と結合している状態で存在する、成長因子、凝固因子、サイトカインなどの様々な因子(secreted factors)も共に含有されていることが確認された。
【0068】
KEMハイドロゲルを構成する主な10種類のECMのうち大きな割合を占めるcollagen type VI(COL6)は、腎臓四丘体細胞外基質の主な構成成分であって腎臓組織の形成に重要な役割を果たし、Laminin(LAM)糖タンパク質は、基底膜の主要成分であって腎臓細胞及び組織分化、恒常性及び生存に関与した。また、biglycan(BGN)プロテオグリカンは、腎臓の免疫反応の調節において重要な媒介者の役割を果たす。
【0069】
さらに、KEM支持体には、他の組織と比べて腎臓組織で4倍以上発現が高いタンパク質(Top 10 kidney-elevated protein)が存在することが確認された。
【0070】
よって、KEMハイドロゲル内で観察される実際の腎臓組織に存在するこのような様々なタンパク質が腎臓オルガノイドの形成及び発達を誘導することができると期待される。
【0071】
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEMとマトリゲル支持体とのタンパク体の比較分析(図5)
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEMとマトリゲル支持体のタンパク体を比較分析した。具体的に、
【0072】
(A)脱細胞腎臓組織由来KEM支持体とマトリゲルの構成成分を比較した結果、マトリゲルは、殆どがglycoproteinsのみからなっているのに対し、KEMは、glycoproteinsを含む様々なcollagensとproteoglycansなどにより構成されていることが確認された。
【0073】
(B)遺伝子オントロジー(Gene Ontology)分析を通じて脱細胞腎臓組織由来KEM支持体に含まれた主なTop 10 ECM成分の機能と既存のマトリゲル支持体の主成分の機能とを比較した際、KEM支持体の方に、腎臓が関与する窒素化合物の代謝過程と係わるタンパク質がマトリゲルよりも多く存在することが確認された。
【0074】
(C)マトリゲルとKEMとのタンパク質発現パターンを比較するためにヒートマップ(heatmap)とvolcano plotで分析した結果、2つの支持体に含まれているタンパク質の構成が非常に異なっていることが確認された。また、volcano plot分析を通じて各支持体において有意により多く発現されるタンパク質同士を比較した際も、発現の傾向が確実に異なっていることが確認された。
【0075】
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体における最適濃度の選定(図6)
マウスの腎臓組織からtubular fragmentを抽出した。腎臓オルガノイド培養に最も適した最適濃度のKEMハイドロゲルを選定するために、先ずは様々な濃度条件のKEMハイドロゲルを製作した。抽出したtubular fragmentを各濃度の脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体に均一に交ぜた後、3次元培養を行うことで腎臓オルガノイドの形成を誘導した。培養7日目に継代培養を行い、5日間追加培養して、総培養12日目に各KEM濃度条件で形成された腎臓オルガノイドの形態と形成効率、並びに遺伝子発現を確認した。マトリゲルは対照群として利用された。
【0076】
(A)1mg/mlの濃度条件を除いた残りの濃度条件のKEMハイドロゲルにおいて腎臓オルガノイドが形成され、対照群として利用されたマトリゲルで培養されたオルガノイドと類似するよう球状の形態に形成されることが確認された。1mg/ml濃度のハイドロゲルではオルガノイドが形成されなかった。
【0077】
(B)継代培養時点を基準に0日目と5日目のオルガノイド数をそれぞれ測定した後、これらを割合で表すことで形成効率を測定した。各KEMの濃度別に腎臓オルガノイドの形成効率を比較した際、KEMハイドロゲルにおける形成効率が全般的にマトリゲルに比べて低いが、7mg/ml濃度のKEMハイドロゲルにおいて最も形成効率が高いことが確認された。
【0078】
(C)各濃度別に製作されたKEMハイドロゲルで12日間腎臓オルガノイドを培養した後、分化マーカーに対する遺伝子発現を定量的なqPCR分析を通じて比較分析した。腎臓の特定細胞で発現する遺伝子であるAqp1(proximal tubule cell)は、KEMの濃度が増加するほど低くなる傾向を示すが、全ての濃度のKEMにおいてマトリゲルグループよりも有意に高く、Scl12a1(loop of Henle cell)は、概ねマトリゲルグループと類似した発現水準に見えるものの、7mg/ml濃度のKEMにおいては有意に増加した。また、Aqp2(collecting duct cell)遺伝子は、7mg/ml濃度のKEMにおいてマトリゲルグループと最も類似した水準に発現された。
【0079】
上記のような分析を通じて、1mg/ml濃度のKEMハイドロゲルを除いた全ての濃度においてオルガノイドの培養は可能であるが、総合的に見て7mg/mlのKEM濃度条件における腎臓オルガノイドの分化能が最も優れていることが確認された。
【0080】
脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体で培養された腎臓オルガノイドの増殖及び分化マーカー発現分析(細胞免疫染色分析)(図7)
培養12日目に免疫染色を通じて各種のマーカー発現分析を行った際、腎臓オルガノイド特異的な分化マーカーであるAQP3(collecting duct cell)とCALB1(distal tubule cell)の何れも、対照群のマトリゲルと全て類似した水準に良く発現されることが確認された。
【0081】
また、細胞間密着結合(tight-junction)に関与するマーカーであるZO-1も、全ての濃度のKEMハイドロゲルで培養された腎臓オルガノイドにおいて良く発現されることが確認された。
【0082】
オルガノイドの増殖と係わるマーカーであるKI67も、全ての濃度のKEMハイドロゲルで培養された腎臓オルガノイドにおいて良く発現されることが確認された。
【0083】
脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体で形成された腎臓オルガノイドの成長様相(図8)
培養7日目に継代培養を行った以降からDay1~Day4まで、マトリゲルと脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル(5mg/ml、7mg/ml)でそれぞれ培養した腎臓オルガノイドの成長様相を比較観察した。
【0084】
各濃度のKEMハイドロゲルで全てマトリゲルと類似した様相を示しながらオルガノイドが成長し、4日間良く培養されることが確認された。
【0085】
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)で長期培養したマウス腎臓オルガノイドの分析(図9)
(A)脱細胞KEMハイドロゲルとマトリゲルで腎臓オルガノイドを52日まで長期培養を試みた際、9回の継代培養を行っても2つの支持体の何れにおいてもオルガノイドが類似した球形の形状と大きさを良く維持しながら培養されることが確認された。
【0086】
(B)各々の培養支持体で52日間9回の継代培養を行った腎臓オルガノイドのPax8(renal progenitor cell)とAqp1(proximal tubule cell)とのmRNA発現量を比較した結果、両培養支持体においてPax8は類似した水準に発現され、Aqp1の発現はKEMハイドロゲルにおいてより高く発現されたことが確認された。
【0087】
(C)各々の培養支持体で9回の継代培養を行ったオルガノイドをPAX8(renal progenitor cell)、Villin(proximal tubule cell)、AQP3(collecting duct cell)、CALB1(distal tubule cell)抗体を使用して免疫染色を行った。免疫染色の結果、腎臓の尿細管を構成する4種類の細胞が、52日目までもこれらのマーカーの発現を良く維持しながら培養されることが確認され、cell-cell interactionに関与するcytoskeletonマーカーであるF-actinも良く発現されることが確認された。
【0088】
これにより、KEMハイドロゲルにおいて腎臓オルガノイドが2ヶ月以上と持続的な長期培養が可能であることを立証し、常用化されているオルガノイド培養マトリックスであるマトリゲルと比べて腎臓の様々な細胞タイプのマーカーが類似あるいはそれ以上の水準に発現されることが確認された。
【0089】
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の長期保管可能性の検証(図10、図11)
先ず、脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の長期冷蔵保管可能性を検証した(
図10)。
【0090】
(A)脱細胞腎臓組織由来KEM溶液(濃度7mg/ml)を4℃で最大1ヶ月間冷蔵保管し、これを腎臓オルガノイド培養に利用することにより、KEMハイドロゲルの長期保管可否と安定性の有無を確認した。
【0091】
(B)培養直前に新たに製作したKEM溶液で製作したハイドロゲルと(Day0)、1週間(Day7)及び1ヶ月(Day31)間冷蔵保管したKEM溶液で製作したハイドロゲル支持体の何れにおいても、マトリゲルと類似した水準に腎臓オルガノイドの形成と培養が上手く行われることが確認された(培養12日目、継代培養1回行ったオルガノイドイメージ)。継代培養直後と4日間追加培養した後のオルガノイドの数をそれぞれ測定し、それを割合で表すことによってオルガノイド形成効率を測定した。
【0092】
(C)定量的なqPCR分析を行った際、KEMハイドロゲルグループにおいて、stemnessと関連したPax8遺伝子はマトリゲルグループと類似した水準に発現された。腎臓特異的マーカーであるAqp1(proximal tubule cell)は、マトリゲルグループよりもKEMハイドロゲルグループにおいて全般的にmRNA発現量が高く観察された(培養12日目、継代培養1回行ったオルガノイドをサンプルにして分析を進行)。
【0093】
(D)オルガノイド免疫染色の分析結果、腎臓特異的マーカーであるAQP3(collecting duct cell)、CALB1(distal tubule cell)とPAX8(renal progenitor cell)がKEMハイドロゲル条件においてもマトリゲルと類似した水準に良く発現されることが確認された。
【0094】
本実験を通じて、脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル溶液を液状に冷蔵保管しても最小1ヶ月まで活性及び機能への影響なしに長期保管が可能であることが確認された。これは、製品の開発において重要なKEMハイドロゲルの長期保管可能性を立証する結果である。
【0095】
そして、脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の長期冷凍保管可能性を検証した(
図11)。
【0096】
(A)脱細胞腎臓組織由来KEM溶液(濃度7mg/ml)を-80℃で最大3ヶ月間冷凍保管し、これを再び溶かして腎臓オルガノイド培養に利用することにより、KEMの長期保管可否と安定性の有無を確認した。
【0097】
(B)培養直前に新たに製作したKEM溶液で製作したハイドロゲルと(Day0)、1週間(Day7)及び3ヶ月(Day90)間冷凍保管したKEM溶液で製作したハイドロゲル培養支持体の何れにおいても、マトリゲルと類似した水準に腎臓オルガノイドの形成と培養が上手く行われることが確認された(培養12日目、継代培養1回行ったオルガノイドイメージ)。
【0098】
(C)定量的なqPCR分析を実施した際、KEMハイドロゲルグループにおいて、stemnessと関連したPax8遺伝子はマトリゲルグループと類似した水準に発現された。また、腎臓特異的マーカーであるAqp1(proximal tubule cell)は、マトリゲルグループよりもKEMハイドロゲルグループにおいてmRNA発現量が高いことが確認された(培養12日目、継代培養1回行ったオルガノイドをサンプルにして分析を進行)。
【0099】
(D)免疫染色の分析結果、腎臓特異的マーカーであるAQP3(collecting duct cell)がKEMハイドロゲル条件においてもマトリゲルと類似した水準に良く発現されることが確認された。
【0100】
本実験を通じて、脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル溶液を冷凍条件(-80℃)で氷らせて保管しても最小3ヶ月まで活性及び機能への影響なしに安定的に長期保管が可能であることを確認したのである。
【0101】
腎臓オルガノイド培養のための脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)の組織特異的効果の確認(図12)
脱細胞腎臓組織由来KEM支持体に含有された腎臓特異的な細胞外基質成分が腎臓オルガノイドの形成と発達に及ぼす組織特異的な効果を立証するために、他の臓器由来脱細胞支持体でも腎臓オルガノイドを培養した後、比較分析を行った。
【0102】
(A)腎臓(KEM)、腸(IEM)、筋肉(MEM)、皮膚(SkEM)、心臓(HEM)由来脱細胞ハイドロゲル支持体に腎臓オルガノイドを培養した結果、7日目に皮膚と心臓由来脱細胞支持体では腎臓オルガノイドが上手く形成されていないことが確認された。また、継代培養を1回行い、4日間追加培養した場合は(計11日培養)、脱細胞腎臓組織由来支持体を除いた残りの脱細胞組織支持体の何れにおいてもオルガノイドの大きさが小さく形成されたことが観察され、心臓由来支持体では7日目と同様にオルガノイドが形成されていないことが確認された。
【0103】
(B)腎臓オルガノイド形成効率の定量分析結果、腎臓由来の脱細胞KEM支持体で形成効率が最も高く、他の臓器由来の脱細胞支持体では形成効率が有意に減少することを確認することができた。継代培養直後及び追加培養4日後にオルガノイドの数をそれぞれ測定した後、それを割合で表すことによって形成効率を測定した。
【0104】
(C)各臓器由来脱細胞ハイドロゲル支持体で11日間培養された腎臓オルガノイドのマーカータンパク質発現量を比較するために、細胞増殖と係わるKI67抗体とcollecting duct cellと関連したAQP3抗体を使用して免疫染色を行った。KEMハイドロゲル支持体で培養された腎臓オルガノイドの場合、最も明らかなマーカー発現を示し、残りの他の組織由来支持体で培養されたオルガノイドにおいては、何れも相対的に微細な発現のみが観察されるか、構造が上手く形成されていないことを確認することができる。
【0105】
本実験を通じて、腎臓組織由来KEMハイドロゲルの腎臓オルガノイドの形成と発達に及ぼす組織特異的効果が分かる。
【0106】
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)で培養された腎臓オルガノイドの機能性の分析(図13)
脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲルで培養した腎臓オルガノイドが生体内の腎臓の機能性を良く具現できるか否かを確認するための分析を行った。腎臓オルガノイドを構成する多くの細胞タイプの1つである近位尿細管細胞に存在するP-glycoprotein(P-gp) xenobiotics efflux pumpの機能性を確認するために、P-gp抑制剤であるverapamilを処理した後、calcein AMに露出させて細胞内にcalcein AMの蓄積程度を蛍光で確認した。
【0107】
(A)Verapamilを処理していない条件では、P-gpがcalceinを細胞外に排出させ、蛍光信号がオルガノイド内に殆ど蓄積されていないことが確認された(No treatmentグループ)。Verapamil薬物の処理濃度が高くなるほどcalceinが細胞内部に蓄積され、相対的にオルガノイド内で蛍光がより高く発現されることが確認された。
【0108】
(B)Verapamil薬物を処理していない条件と100μMのverapamilを処理した条件とで腎臓オルガノイド内のcalcein蛍光強度を定量した結果、verapamilを処理した条件において有意に蛍光強度が増加したことが確認された。
【0109】
これにより、KEMハイドロゲルで培養した腎臓オルガノイドが外部物質を排出するefflux pump機能性を保有していることが分かる。
【0110】
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)で培養されたマウス腎臓オルガノイドを利用した腎線維症モデルの製作(図14)
KEMハイドロゲルで培養された腎臓オルガノイドを利用して腎線維症疾患モデルを製作した。そのために、マウス腎臓オルガノイドにTGF-b薬物を処理して腎線維化を誘発した。腎臓オルガノイド培養9日目に(7日目に継代培養1回行った後、2日間追加的に培養)各濃度別に3日間処理し、12日目に分析を行い、TGF-βを処理していない腎臓オルガノイド(NT、No treatment)を対照群として比較した。
【0111】
(A)腎線維症モデルを製作するためにTGF-βを濃度別に処理した結果、TGF-βを処理していない腎臓オルガノイドは良く成長したが、TGF-βを処理した腎臓オルガノイドでは形態変異が起こり、良く成長していないことが確認された。
【0112】
(B)腎線維症関連マーカーであるActa2とCol1a1に対するqPCR分析を行った結果、処理するTGF-βの濃度が高くなるほど線維化マーカーmRNAの発現が比例して増加することが確認された。
【0113】
(C)腎線維化関連マーカーであるVimentin、COL1(collagen type 1)、α-SMA(alpha smooth muscle actin)の発現を免疫染色を通じて確認した。7mg/mlのKEMで培養した腎臓オルガノイドにTGF-βを処理した際、KEMハイドロゲルが収縮しながら線維化が誘発されたオルガノイドがひと固まりに合わせられる現象が確認された。免疫染色の結果、TGF-βを処理した腎臓オルガノイドにおいて全ての線維症マーカーの発現が増加することが確認され、マトリゲルとKEM支持体での腎臓オルガノイドが全て類似した線維化マーカー発現様相を示すことが確認された。
【0114】
本実験を通じて、KEMハイドロゲル支持体で培養された腎臓オルガノイドを基に腎線維症疾患モデルの製作可能性を確認することができる。
【0115】
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質(Kidney Extracellular Matrix、KEM)支持体の生体適合性の確認(図15)
脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体が腎臓オルガノイド移植用素材として適しているか否かを確認するために、脱細胞腎臓組織由来5mg/mlのKEM支持体をマウスの皮下組織に移植した後、組織学分析を行った。移植されたKEMハイドロゲル支持体内への炎症細胞の浸潤程度を確認するためにH&E染色を行い、免疫反応により発生した肥満細胞(mast cell)の有無を確認するためにToluidine blue染色を行った。分析の結果、KEMハイドロゲルを移植した部位で炎症関連細胞が発見されていないことから、KEMハイドロゲルの移植時に生体内で免疫反応や炎症反応は殆ど誘発されないことが確認された。
【0116】
脱細胞腎臓組織由来細胞外基質支持体(Kidney Extracellular Matrix、KEM)を利用した腎臓オルガノイドの生体内への移植結果(図16、図17)
脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲルをオルガノイド移植素材として活用可能であるか否かを確認するために、マウスの腎臓の腎被膜(kidney capsule)にKEMハイドロゲルを利用して腎臓オルガノイドを移植した。移植した細胞の生着及び存在有無を確認するために、DiI蛍光dyeで標識された腎臓オルガノイドを使用しており、腎臓組織内への移植効率を上げるためのハイドロゲルの粘度を合わせるために、KEMハイドロゲルを1:20(v/v)(KEM:培養液組成)の割合で混合して生体内に移植した。
【0117】
生体内に移植した腎臓オルガノイドの生着程度を観察するために、移植後4日目に腎臓組織を収得し、組織学分析を行った。その結果、
図16から分かるように、腎被膜の内側で蛍光信号の存在が確認されており、よって、移植されたオルガノイドが組織に良く生着されていることが確認された。
【0118】
脱細胞腎臓組織由来KEMハイドロゲル支持体が腎臓オルガノイド移植用素材として活用可能であるか否かを確認するために、動物実験と組織学分析を行った。急性腎障害(acute kidney injury、AKI)モデルを誘発するために、10mg/kgのcisplatin薬物をマウスの腹腔内に1回注入し、翌日、移植効率及び生着を増進させるために、25μlの7mg/mlのKEMハイドロゲルを利用して600~700個の腎臓オルガノイドをマウスの腎臓capsuleに移植した。移植14日目に各グループのマウスの腎臓組織を収得し、H&E染色と免疫染色の分析を行った。
【0119】
そして、腎臓損傷動物モデルにおける腎臓オルガノイドの生体内への移植可能性を確認した(
図17)。
【0120】
(A)H&E染色結果、オルガノイドが移植されていない損傷した腎臓組織では、急性腎障害の代表的な様相である急性尿細管壊死(acute tubular necrosis、ATN)と充血(hyperemic kidney)部位が広範囲に観察された。それに対し、KEM支持体を利用して腎臓オルガノイドを移植した場合は、損傷した腎臓組織の皮質部位に腎臓オルガノイドが良く生着しており、治療を受けなかった対照群の腎臓組織よりも相対的に損傷部位が大幅に小さくなったことが確認された。また、急性腎障害の症状の一つである四丘体構造の収縮程度を確認するために四丘体面積定量分析を実施した結果、腎臓オルガノイドを移植した腎臓組織の場合、移植されていない組織よりも少なく損傷した四丘体構造を維持していることが確認された。
【0121】
(B)各条件において急性腎障害の主要症状の一つである近位尿細管の細胞死程度を確認するために、近位尿細管マーカーであるVillinに対する免疫染色を行った。その結果、オルガノイドが移植されていない損傷した腎臓組織よりもオルガノイドを移植した腎臓組織における近位尿細管の割合が有意に高いことが確認され、よって、移植されたオルガノイドが損傷部位に生着して近位尿細管が再生されたことが確認された。
【0122】
本実験を通じて、KEMハイドロゲル支持体が腎臓疾患モデルを治療するためのオルガノイド移植用素材として活用されることができ、損傷した組織内へのオルガノイドの生着効率を上げると同時に腎臓構造回復を誘導できることを立証した。
【0123】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に容易に変形可能であるということを理解できるはずである。それゆえ、上記した実施例は全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
他に定義されない限り、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質工学、DNA序列分析及び当業者の能力範囲内において再組合DNA分野で良く使用される通常の技術によって行われても良い。上記技術は当業者に知られており、多くの標準化された教材及び参考文献に記述されている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
既存のマトリゲルベースの培養システムは、動物癌組織由来の抽出物であって、バッチ(BATCH)間の差が大きく、実際の腎臓の環境を疑似できておらず、腎臓オルガノイドに分化、発達される効率が不十分であるのに対し、前記支持体は、腎臓組織類似環境を造成することができるので、腎臓オルガノイド培養において適合である。
【国際調査報告】